説明

抗腫瘍剤

【課題】有効成分としてスチルベン誘導体および白金配位化合物を含む抗腫瘍剤を提供する。
【解決手段】この2種の有効成分を組み合わせて使用することにより相乗作用的に抗腫瘍活性の改善を示し、安全性に優れた抗腫瘍剤としての使用が期待される。
特に、抗腫瘍活性を有するスチルベン誘導体に上記白金配位化合物を組み合わせて使用したときに、抗腫瘍活性を更に高め、特に悪性腫瘍の治療においてより優れた有効性を持つ抗腫瘍剤として好適である。
更に、これ等有効成分の医薬品として或いは治療等のための使用および使用方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗腫瘍剤、詳しくはスチルベン誘導体およびシスプラチン等白金配位化合物を含む抗腫瘍剤、例えば癌の化学療法剤、およびそのために使用するスチルベン誘導体または白金配位化合物を含有する抗腫瘍剤、およびこれら有効成分の腫瘍の治療、改善のための使用等に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍、特に悪性固形腫瘍に対する治療、抑制、予防剤等の薬剤として、現在種々の化学療法剤が用いられている。しかし、何れの薬剤においても、腫瘍の縮小効果は認められるものの耐性化・再発等により、患者の腫瘍による苦痛を解放するには至っておらず、今後更に優れた抗腫瘍剤の開発が求められているのが現状である。
【0003】
シススチルベンを基本骨格とするスチルベン誘導体は強い有糸分裂阻害活性を示し、かつ強い細胞毒性を持つことが知らされているが、化合物が水に難溶性である等の理由により、医薬品として実用化されるまでに到っていない。
【0004】
近年、チューブリン重合阻害活性を持つスチルベン誘導体、特に水溶性を向上させたコンブレタスタチン-A4リン酸化プロドラッグ(米国特許第56122号参照。)および本出願人によるスチルベン誘導体等(特開平7−228558号および特開平8−301831号公報照。)が提案されており、これらスチルベン誘導体の臨床での有効性が大いに期待されている。
【0005】
一方、このスチルベン誘導体の抗腫瘍活性および安全性の面から改良を加えて有効性を更に高めることが期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた抗腫瘍剤の開発、詳しくはスチルベン誘導体の有効性を高める薬剤の開発、特に悪性腫瘍の治療においてより抗腫瘍活性と安全性の両方から優れた有効性を持つ抗腫瘍剤の開発、提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スチルベン誘導体が、シスプラチン等の白金配位化合物と一緒に投与されると、治療的相乗効果を示し、これによって該白金配位化合物の腫瘍増殖阻害活性を有効に増大させるが、その効果は、他の化学療法剤とシスプラチン等の白金配位化合物による効果より優れているため、患者に対して有効性のより高い化学療法剤であることが判明した。すなわち、スチルベン誘導体と化学療法剤として使用可能な白金配位化合物、特に固形癌治療に用いられている化学療法剤であるシスプラチンとを組み合わせて使用することにより、安全性と共に抗腫瘍効果が相乗的に示され、上記課題の要求を満たすことを見出し本発明を完成するに到った。
【0008】
以下、本発明の経緯について、更に詳細に説明する。
【0009】
本発明者等は、肺癌等種々の固形癌治療に使用されている化学療法剤であるシスプラチンを含む組成に関して、マウスに移植した腫瘍に対する有効性の増大をもって、より有効性の高い癌化学療法剤組成を見出すために、臨床での有効性をより期待できるための指標として、マウス腫瘍に対して完全治癒効果を持つことおよび増強的な体重減少作用をもたないことを基準として研究を試みた結果、好ましくはインビトロでチューブリン重合阻害活性を持つ、スチルベン誘導体および白金配位化合物を組み合わせることにより、相乗作用的に腫瘍完全治癒効果を有し、かつ増強的な体重減少を有さないことを見出したものである。
【0010】
なお、現在チューブリン重合阻害活性を主作用とする治療薬には、ビンクリスチン(Vincristine)、ビンデシン(Vindesine)、ビンブラスチン(Vinblastine)等があり、臨床においてもその効果の増強を期待してシスプラチン等を含む多剤併用療法として固形癌の治療に使用されている。しかし、今回使用したマウスの腫瘍に対してはビンデシンとシスプラチンの同時投与においては、有効性の基準である腫瘍完全治癒効果は認められず、本発明の上記抗腫瘍剤の持つ有効性、すなわち腫瘍完全治癒作用は本発明の抗腫瘍剤固有の作用であると考えられる。
【0011】
また、その安全性(毒性)面においても、特に下記構造式(3)で示される化合物とシスプラチンを含む組成においては、ビンデシンとシスプラチンを含む組成に認められるような体重減少の増悪は認められなかった。

【0012】
以上の結果より本発明の組成が、動物、特にヒト(患者)に対してシスプラチンおよび他の化学療法剤単独を含む組成よりも有効性が極めて高く、患者等を腫瘍の苦しみから解放する可能性のある抗腫瘍剤(特に、癌化学療法剤)であることが明らかにされた。上記本発明は、かかる発見に基づき完成するに到ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、その組み合わせにおいてスチルベン誘導体とシスプラチン等白金配位化合物2種の有効成分を同時に、または別個に含む新規な抗腫瘍剤、例えば癌化学療法剤として期待される。
【0014】
本発明は、スチルベン誘導体および白金配位化合物を含むことを特徴とする抗腫瘍剤である。
【0015】
スチルベン誘導体および白金配位化合物が、それぞれの成分を別個に含む2種の製剤として組み合わされた形態にあるものも本発明に含まれる。更に、本発明の抗腫瘍剤として使用するための当該スチルベン誘導体を含有する製剤や、当該白金配位化合物を含有する製剤も、抗腫瘍剤(または抗腫瘍補助剤)として本発明に含まれる。
【0016】
本発明の抗腫瘍剤の対象となる腫瘍は、動物、特にヒトに発生するあらゆる腫瘍が含まれるが、好ましくはヒトの腫瘍細胞の増殖を阻害するのに使用することができる。本発明の抗腫瘍剤は、その治療、抑制、予防等を目的とする薬剤である。
【0017】
本発明の抗腫瘍剤の投与形態は特に制限されないが、白金配位化合物については非経口的に投与されるのが一般的であり、スチルベン誘導体については当面非経口的投与が検討されている。両者別々の投与形態を有する両者組み合わせであっても本発明の抗腫瘍剤に含まれる。
【0018】
本発明に使用するスチルベン誘導体としては、シススチルベンを基本骨格とする化合物でインビトロでチューブリン重合阻害活性および/または抗腫瘍活性を示す化合物が好ましく、抗腫瘍活性としては、特に腫瘍細胞増殖阻害活性を示すものが好ましい。公知化合物は勿論今後見出される化合物も、当該スチルベン誘導体に含まれるものであれば本発明のスチルベン誘導体に含まれる。更に、当該スチルベン誘導体には、動物体内でスチルベン誘導体に変換される誘導体も含まれる。体内で使用されたときに当該目的とする抗腫瘍活性を示す限り、各種塩、エステル、水和物等溶媒和物等の誘導体でも医薬的に許容される誘導体であれば本発明のスチルベン誘導体として使用可能である。
【0019】
シススチルベンを基本骨格とする代表的なスチルベン誘導体には、好ましくは下記一般式(1)および(2)で示される化合物が含まれる。この化合物は、各種の塩、水和物や溶媒和物の形態にあるもの、特に医薬的に許容される形態にあるものを含む。



【0020】
上記式中、R1、R2およびR3はそれぞれ独立していて低級アルコキシ基を、R4、R5およびR6はそれぞれ独立していて、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、ニトロ基、水酸基、低級アルコキシ基、燐酸エステル(水酸基との間で燐酸エステル化されて形成される置換基:-OPO3H2、以下同様。)、燐酸アミド(アミノ基との間で燐酸アミド化されて形成される置換基:-NHPO3H2、以下同様。)、アミノ低級アルコキシ基、低級アルキルアミノ低級アルコキシ基、ジ低級アルキルアミノ低級アルコキシ基、メルカプト基、低級アルキルチオ基、アミノ基、低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、低級アルキル基、アミノ低級アルキル基、トリフルオロメチル基、低級アルカノイル基、低級アルカノイルアミノ基およびアミノ酸アシルアミノ基の何れかの置換基を、Xは水素原子またはニトリル基を、Hetは複素環を、それぞれ表す。
【0021】
上記低級アルキルおよび低級アルコキシにおける炭素数は、それぞれ1〜5である。また、低級アルカノイルにおける炭素数は2〜6である。
【0022】
アミノ酸アシルアミノ基におけるアミノ酸アシル基は、アミノ酸から誘導されるアシル基であって、アミノ酸としてはα−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸が挙げられる。好ましいアミノ酸としてはグリシン、アラニン、ロイシン、セリン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、スレオニン、バリン、イソロイシン、オルニチン、グルタミン、アスパラギン、チロシン、フェニルアラニン、システイン、メチオニン、アルギニン、β−アラニン、トリプトファン、プロリン、ヒスチジン等が挙げられる。特に、スレオニンまたはセリンが薬効、安全性の面から好ましい。これらアミノ酸は、L−体、D−体およびDL−体の何れでもよいが、L−体の方が好ましい。
【0023】
複素環としては、例えばテトラゾール環、チアゾール環等を挙げることができる。また、複素環がチアゾール環の場合、置換基を有していてもよく、その場合の置換基としては低級アルキル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、ヒドラジノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)、低級アルコキシ基が挙げられる。なお、低級アルキルおよび低級アルコキシにおける炭素数は1〜5である。
【0024】
上記の如く本発明のスチルベン誘導体は、構造的にシススチルベン骨格を有する化合物でチューブリン重合阻害活性および/または抗腫瘍活性を示す化合物である。スチルベン誘導体の具体例としては、例えば、コンブレタスタチン−A4が挙げられが、特に限定されず、先行文献、例えば特許公報等に開示されている腫瘍増殖阻害性スチルベン誘導体が挙げられる(米国特許第4,996,237号、第5,561,122号および第5,430,062号特許、日本特開平7−228558号、特開平8−301831号公報、および平成8年9月6日に本出願人により出願された日本特願平8−236603号明細書等参照。)。これ等の先行文献に記載のスチルベン誘導体は上記定義に含まれる限り全て本発明のスチルベン誘導体として使用可能であり、当該先行文献の内容も本件明細書の記載内容の一部として組み込まれる。
【0025】
前記スチルベン誘導体は、前記文献に開示されている方法を含む慣用技術によって製造することができる。今後、開発されるスチルベン誘導体も、前記の通り製造、使用可能である。
【0026】
本発明のスチルベン誘導体には、前記した通り当該活性を動物体内で示す限り、塩、エステル、その他の誘導体の形態にあるものや、体内でスチルベン誘導体に変換可能な誘導体も含まれる。
【0027】
本発明に使用するスチルベン誘導体としては、下記一般式(1)で示される化合物がより好ましい。

【0028】
上記式中、R1、R2、R3およびR5はメトキシ基を、R4はアミノ基およびアミノ酸アシルアミノ基の何れかの置換基を、R6およびXは水素原子を、それぞれ表す。
【0029】
上記一般式(1)で示される化合物の中でも、下記の構造式(3)で示される化合物が特に好ましい(以下、化合物(3)ともいう。)。化合物(3)の名称は(Z)−1−(3−アミノ−4−メトキシフェニル)−2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)−エテン−L−セリンアミドであり、水溶性である。当該化合物(3)は、塩の形態であってもよく、その塩の形態としては、塩酸塩、酢酸塩およびメタンスルホン酸塩等が挙げられる。

【0030】
上記化合物(3)(その医薬的に許容される塩、水和物および溶媒和物を含む)の製造および当該化合物(3)および不活性な医薬的に許容される担体または希釈剤を含有する経口および非経口医薬組成物の製造は、特開平8−301831号公報に広範囲に開示されているので、製造する場合参考となる。
【0031】
本発明に使用される白金配位化合物は、好ましくはイオンの形態で白金を提供する化合物で、抗腫瘍活性を示し、特に好ましくは腫瘍細胞増殖阻害白金配位化合物である。
【0032】
本発明に使用する白金配位化合物の具体例として、好ましくはシスプラチン、シス-ジアンミンジアコ白金(II)-イオン、クロロ(ジエチレントリアミン)−白金(II)クロリド、ジクロロ(エチレンジアミン)−白金(II)、ジアンミン(1、1−シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)(カルボプラチン)、スピロプラチン、イプロプラチン、ジアンミン(2−エチルマロナト)−白金(II)、エチレンジアミンマロナト白金(II)、アクア(1、2−ジアミノジクロヘキサン)ースルファト白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)マロナト白金(II)、(4−カロキシフタラト)(1、2−ジアミノシクロヘキサン)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)−(イソシトラト)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)シス(ピルパト)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)-オキサラト白金(II)、オルマプラチン(Ormaplatin)、テトラプラチン(Tetraplatin)等が挙げられる。
【0033】
次に、化学療法剤としての白金錯体(本発明の白金配位化合物に含まれる。)について若干説明する。
【0034】
シスプラチンまたはシス-ジクロロジアンミン白金IIは、長年、種々のヒト悪性腫瘍の治療において化学療法剤として成功裏に使用されてきた。より近年は、他のジアミノ-白金錯体も、種々のヒト悪性腫瘍の治療における化学療法剤としての有効性を示した。かかるジアミノ-白金錯体としては、例えば、スピロプラチナム(spiroplatinum)およびカルボプラチナム(carboplatinum)が挙げられる。
【0035】
シスプラチンおよび他のジアミノ-白金錯体は、ヒトにおける化学療法剤として広く使用されているが、それらは、全ての患者において、または腫瘍の全てのタイプに対して、治療学的に有効であるというわけではない。更に、その有効性
の増大を期待して、他の化学療法剤との併用、例えば、肺癌に対しては、Garalla等のシスプラチンとビンデシンの併用(Garalla, R. J. et al., Ann. Intern. Med., 95, 414-420, 1980)、Congeval等のシスプラチンとVP-16の併用(Congeval, E. et al., Cancer, 51, 2751-2756, 1982)等数多く試みられているが、何れも有効率の改善は認められるものの依然患者の腫瘍による苦しみを完全に解放するまでには至っていない。
本発明に使用する白金配位化合物としては、このように化学療法剤として既に知られている化合物が含まれる(Tamura, T. et al., Jpn.J.Clin.Oncol.vol.18(1),27(1988); Fukuda, M. et al., Cancer Chemother. Pharmacol.,vol.26,393(1990)参照。)。
【0036】
シスプラチンおよび他のジアミノ-白金錯体の腫瘍増殖抑制活性の有効性を更に増大させ、患者を腫瘍の苦しみから解放することが必要である。
【0037】
上記本発明に使用する白金配位化合物の中で、特にシスプラチン、カルボプラチンおよびネダプラチンは、効果の点でより好ましい。シスプラチンは、シス-ジクロロジアミン白金(II)を意味するが、この化合物を使用する場合、公知技術に基づき製造することもできるが、商業的に入手可能であり、例えば、シスプ
ラチンは水、無菌生理食塩水または他の好適な賦形剤による構成のための粉末として、ブリストル・マイヤーズ−スクイブ社(Bristol Myers-Squibb Co.)から名称プラチノール(Platinol:登録商標)や日本化薬(株)製「ランダ注」の下に入手可能である。
【0038】
本発明に使用する他の白金配位化合物についても、大部分は商業的に入手可能であり、また公知、慣用技術に基づき製造することもできる。更に、当該白金配位化合物に含まれる限り、今後開発されるその製造方法に基づいて製造、取得することもできる。
【0039】
本発明の抗腫瘍剤を使用する場合、例えば有効量の腫瘍増殖阻害量のスチルベン誘導体と白金配位化合物とを組み合わせて、腫瘍の治療、軽減、予防を望む動物、例えば腫瘍細胞増殖に苦しむ動物、特にヒトに投与して、かかるヒトにおける腫瘍細胞増殖を阻害することができる。この際、前記説明の如く、本発明の二つの有効成分を同時に含む製剤の形態でもよく、またそれぞれ本発明の二つの有効成分のうちの一つを含有する製剤2種を抗腫瘍剤に向けて組み合わされた製剤、更には当該有効成分の一つを含有する製剤も、本発明の他の有効成分を含有する製剤と組み合わせて使用する目的を有する場合本発明の発明に含まれる。
【0040】
本発明の一つの好ましい態様は、有効な腫瘍細胞増殖阻害量の化合物(3)お
よびシスプラチンを組み合わせて使用して腫瘍細胞増殖を阻害することである。
【0041】
腫瘍細胞の増殖の阻害については、腫瘍細胞増殖に苦しむヒト等への化合物(3)等スチルベン誘導体およびシスプラチン等の白金配位化合物の有効量の投与を含む治療に対して敏感な腫瘍細胞の増殖の阻害を意味する。好ましい場合、かかる投与は腫瘍増殖を後退させ、測定可能な腫瘍の大きさを減縮させる。最も好ましい場合は、腫瘍を完全に後退させる。
【0042】
本発明の抗腫瘍剤をヒト等への投与する方法としては、前述の通り特に制限はなく、静脈内、皮下および筋肉内投与等非経口および経口投与何れも可能であるが、即効性の面では静脈内、皮下投与、輸液による投与等非経口投与形態が好ましい。本発明の薬剤の投与方法では、スチルベン誘導体は、白金配位化合物と一緒に投与されるか、または両化合物何れかの順序で逐次的に投与されることができる。実際に好ましい投与方法および順序は、使用されるスチルベン誘導体(例えば、化合物(3))の個々の製剤、使用される白金配位化合物(例えば、シスプラチン)の個々の製剤、処置される個々の腫瘍細胞および処置される個々の宿主によって変わる。所定の条件についてのスチルベン誘導体および白金配位化合物の最適な投与方法および順序は、慣用技術を使用して、および本明細書に記載の情報を考慮して、当業者によって適宜選択され得る。
【0043】
有効な腫瘍増殖阻害量のスチルベン誘導体および白金配位化合物は、結果とし
て腫瘍細胞増殖に苦しむヒト等におけるかかる投与に対して敏感な腫瘍細胞の増殖を阻害する治療単位を意味する。実際に好ましい治療単位は、スチルベン誘導体や白金配位化合物の投与形態、使用されるスチルベン誘導体(例えば、化合物(3))や白金配位化合物(例えば、シスプラチン)の個々の製剤、処置される個々の腫瘍細胞や個々の宿主によって変わり得る。所定の条件について最適な治療単位は、慣用の治療決定試験単位を使用して、および本明細書中に記載する情報を考慮して、当業者によって、適宜選択することができる。
【0044】
本発明の抗腫瘍剤を投与する場合、白金配位化合物の投与スケジュールは、治療単位当たり約1〜500mg/体表面積m2程度を標準とすることが好ましい。シスプラチンおよび化合物(3)を使用する場合、両者同時投与、シスプラチンの前投与(化合物(3)の後投与)および前記化合物(3)の前投与(シスプラチンの後投与)並びにこれ等の複数の組み合わせによる投与形式等何れの両者投与形式が可能であるが、シスプラチンの好ましい投与量は、前記化合物(3)での連続1〜5日の治療単位において1日10〜100mg/体表面積m2程度のシスプラチンを同時に投与することが好ましい。白金配位化合物の輸液は、週1〜2回行い、腎毒性、神経毒性または他の副作用が禁忌症を与えない限り、この週単位の治療を数回繰り返すとよい。シスプラチンまたは白金配位化合物の他の化合物の投与と一緒に他に慣用される投与を使用してもよい。
【0045】
本発明の抗腫瘍剤は、前記した通りスチルベン誘導体および白金配位化合物を少なくとも含む製剤であればよく、当該2有効成分の両方を混合して含有してい
てもよいが、当該本発明の2有効成分のそれぞれを単独に含有する製剤の組み合わせでも本発明の抗腫瘍剤に含まれる。本発明の有効成分を含む限り、他の抗腫瘍剤等他の薬剤(第三、第四の医薬成分)を含む製剤も当然本発明に含まれる。更に、本発明の抗腫瘍剤には、上記本発明の製剤の何れ(本発明の有効成分2種を含む製剤および両者併用するための本発明の有効成分の1種を含む製剤)においても医薬的に許容される担体、希釈剤、その他製剤として必要な物質を含有していてもよい。
【0046】
本発明の抗腫瘍剤において使用される適切な医薬的に許容される担体および希釈剤としては、医薬の製剤化の技術分野における当業者に知られている担体等を適宜使用することができる(特開平8−301831号公報、その他前記先行文献参照。)。本発明の抗腫瘍剤は、前記の如く、非経口投与に好適であるが、その場合の製剤としては、医薬的に許容される担体と一緒に当業者に知られている種々の方法で静脈内輸液または注射用に製剤化される。好ましくは、このような医薬製剤は、例えば単位投与形態で2つの有効成分の凍結乾燥混合物の形態であり、慣用技術によって製造され、これは投与時に水または他の好適な輸液で再構成することができる。
【0047】
本発明の抗腫瘍剤のための医薬製剤における2種の有効成分の比率については、多くの因子、例えば、所望の投与量および使用される医薬的に許容される担体に依存しており、広範囲に変わり得る。投与について、本発明の抗腫瘍剤のための医薬製剤中、スチルベン誘導体の含量、組み合わせとして、通常、製剤中に存在する白金配位化合物1に対して、重量でスチルベン誘導体0.01〜1000
程度が好ましく、より好ましくは白金配位化合物1に対して0.1〜100程度である。従って、本発明の2種有効成分を含む製剤を患者に投与する場合、上記比率の範囲になるように投与することができる。
【0048】
一方、段階的に投与する場合は別個の製剤として平均的な比率として上記比率を採用することができる。
【0049】
本発明のための1製剤当たりでは、好ましくは白金配位錯体化合物5〜500mg、シスプラチンとしてより好ましくは10〜50mg程度、およびスチルベン誘導体0.1〜10,000mg、より好ましくは化合物(3)として1〜1,000mg程度を含有することができる。マンニトールおよび/または塩化ナトリウムは、シスプラチン製剤について慣用量に含ませることが好ましい。注射液または輸液薬物配合物の生理的pH値は、製薬技術分野で知られている緩衝化剤の含有によって適宜調製される。
【発明の効果】
【0050】
スチルベン誘導体およびシスプラチン等白金配位化合物を組み合わせまたは混合して含む本発明の抗腫瘍剤は、2種の有効成分の組み合わせに基づく相乗作用により腫瘍、特に固形癌の治療、抑制、予防においてより優れた有効性の高い抗腫瘍剤、特に癌化学療法剤として使用可能である。従って、これら2種の有効成分をこのような腫瘍の治療、改善のために使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(実施例1)抗腫瘍効果および安全性試験1
(製剤の調製)
下記の組成を用いてスチルベン誘導体として、前記化合物(3)を使用し輸液製剤を調製した。
【0053】
化合物(3)(塩酸塩として): 10mg
生理食塩水 : 10ml
【0054】
シスプラチンとして、日本化薬(株)が販売する製剤「ランダ注」(1ml中に0.5mgのシスプラチンを含有)を使用した。
【0055】
(マウスでの有効性[抗腫瘍活性および安全性]試験)
CDF1マウスの背部皮下に10mgのcolon26マウス大腸腫瘍を移植し(day 0)、1週間後、腫瘍を計測し腫瘍体積を算出して群分けを行い(各群n=5)、薬剤投与を開始した。化合物(3)(生理食塩水1ml中に塩酸塩として1mgを含有)およびシスプラチン(「ランダ注」1ml中に0.5mgのシスプラチンを含有)は、day 7.11.15に、それぞれ背部皮下および尾静脈内にボーラス投与した。
【0056】
day 60 で触診により腫瘍が確認できなかった個体を腫瘍完全治癒例とした。結果を表1に示す。
【0057】
「VP−16」は、臨床においてしばしばシスプラチンとの併用が行われている癌化学療法剤である。「+CDDP」はシスプラチン5mg/kg/dayを投与したものであり、「-CDDP」はシスプラチン投与を全く行わなかったことを意味する。「n.d.」は未実施を表す。なお、シスプラチン、VP-16およびビンデシンの用量は、本実施例における投与スケジュールでは毒性死亡例が認められない最大用量である。
【0058】
以下の数式よりday 21での体重変化率を算出した。その結果を表2に示す。
【0059】
体重変化率(%)=[{day 21の(体重-腫瘍重量)}-{day 7の(体重-腫瘍重量)}]/{day 7の(体重-腫瘍重量)}x 100
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1の結果から明らかなように、本発明の抗腫瘍剤、スチルベン誘導体と白金配位化合物との組み合わせは、それぞれ何れか1成分のみの投与群に比較して、相乗作用的に薬理活性の効果の面で、特に腫瘍完全退縮効果が認められる等、効果の面で著しく改善され、優れていることが分かる。
【0063】
一方、臨床においてシスプラチンとの併用が実施されている薬剤、ビンデシン、VP−16においては白金配位化合物との組み合わせでは腫瘍完全退縮効果は認められなかった。
【0064】
安全性面に関しても表2の結果から明らかなように、ビンデシンまたはVP−16と白金配位化合物との組み合わせに認められるような体重減少の増悪は、本発明の2成分の組み合わせには全く認められなかった。
【0065】
(実施例2)抗腫瘍効果および安全性試験2
(製剤の調製)
下記の組成を用いてスチルベン誘導体として、下記式で示される化合物(4)および化合物(5)を使用し輸液製剤を調製した。

【0066】
化合物(4)(塩酸塩として) 5mg;
ツイーン80 0.5ml;および
生理食塩水 9.5ml。
【0067】
化合物(5)(塩酸塩として) 10mg;
ツイーン80 0.5ml;および
生理食塩水 9.5ml。
【0068】
シスプラチンとして、前記実施例1と同様に日本化薬(株)が販売する製剤「ランダ注」(1ml中に0.5mgのシスプラチンを含有)を、またカルボプラチンとして、ブリストル・マイヤーズスクイブ(株)が販売する製剤「パラプラチン注」(1ml中に10mgのカルボプラチンを含有)を、それぞれ使用した。
【0069】
(マウスでの有効性[抗腫瘍活性および安全性]試験)
CDF1マウスの背部皮下に10mgのcolon26マウス大腸腫瘍を移植し(day 0)、1週間後、腫瘍を計測し腫瘍体積を算出して群分けを行い(各群n=5)、薬剤投与を開始した。
【0070】
化合物(3)、化合物(4)、化合物(5)およびシスプラチン、カルボプラチンは、day7、11、15に、それぞれ尾静脈内にボーラス投与した。
【0071】
day 60 で触診により腫瘍が確認できなかった個体を腫瘍完全治癒例とした。結果を表3および4に示す。
【0072】
「+CBDCA」および「+CDDP」はそれぞれカルボプラチン50mg/kg/dayおよびシスプラチン5mg/kg/dayを投与したものであり、「−CBDCA」および「−CDDP」はカルボプラチンおよびシスプラチン投与を全く行わなかったことを意味する。なお、シスプラチンおよびカルボプラチンの用量は、本実施例における投与スケジュールでは毒性死亡例が認められない最大用量である。
【0073】
前記実施例1で使用したものと同じ数式によりday 21での体重変化率を算出
した。その結果を表5および6に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
上記表3および4の結果から明らかなように、本発明の抗腫瘍剤は、即ちスチルベン誘導体と白金配位化合物とを組み合わせて使用することにより優れた抗腫瘍性を示す。
【0079】
一方、安全性面に関しても、上記表5および6の結果から明らかなように、本発明の2成分の併用により、著しい改善効果が見られる。
【0080】
以上、表1乃至表6の結果から、本発明のスチルベン誘導体と白金配位化合物の組み合わせには、当業者に予測困難な程度に抗腫瘍剤としての有効性が相乗作用的に改善され、実用上極めて優れた抗腫瘍効果が認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチルベン誘導体および白金配位化合物を含み、
前記スチルベン誘導体が下記構造式(3)で示される化合物又はその塩、水和物、若しくは溶媒和物であり、
前記白金配位化合物が、抗腫瘍活性を示す化合物である
ことを特徴とする抗腫瘍剤;

但し、更に、医薬的に許容される担体、希釈剤またはその他製剤として必要な物質を含有していてもよい。
【請求項2】
抗腫瘍活性を示す化合物が、シスプラチン、シス−ジアンミンジアコ白金(II)−イオン、クロロ(ジエチレントリアミン)−白金(II)クロリド、ジクロロ(エチレンジアミン)−白金(II)、ジアンミン(1、1−シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)(カルボプラチン)、スピロプラチン、イプロプラチン、ジアンミン(2−エチルマロナト)−白金(II)、エチレンジアミンマロナト白金(II)、アクア(1、2−ジアミノジクロヘキサン)−スルファト白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)マロナト白金(II)、(4−カロキシフタラト)(1、2−ジアミノシクロヘキサン)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)−(イソシトラト)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)シス(ピルパト)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)−オキサラト白金(II)、オルマプラチン(Ormaplatin)、テトラプラチン(Tetraplatin)から選択される請求項1記載の抗腫瘍剤。
【請求項3】
抗腫瘍活性を示す化合物が、シスプラチン、カルボプラチンおよびネダプラチンの何れか1種を含有する請求項1記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
抗腫瘍活性を示す化合物がシスプラチンである請求項1記載の抗腫瘍剤。
【請求項5】
下記構造式(3)で示される化合物又はその塩、水和物、若しくは溶媒和物を含有する薬剤と、シスプラチン、シス−ジアンミンジアコ白金(II)−イオン、クロロ(ジエチレントリアミン)−白金(II)クロリド、ジクロロ(エチレンジアミン)−白金(II)、ジアンミン(1、1−シクロブタンジカルボキシラト)白金(II)(カルボプラチン)、スピロプラチン、イプロプラチン、ジアンミン(2−エチルマロナト)−白金(II)、エチレンジアミンマロナト白金(II)、アクア(1、2−ジアミノジクロヘキサン)−スルファト白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)マロナト白金(II)、(4−カロキシフタラト)(1、2−ジアミノシクロヘキサン)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)−(イソシトラト)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)シス(ピルパト)白金(II)、(1、2−ジアミノシクロヘキサン)−オキサラト白金(II)、オルマプラチン(Ormaplatin)、テトラプラチン(Tetraplatin)から選択される白金配位化合物を含有する薬剤とからなるキットの形態にある請求項1記載の抗腫瘍剤;

但し、更に、医薬的に許容される担体、希釈剤またはその他製剤として必要な物質を含有していてもよい。

【公開番号】特開2010−53156(P2010−53156A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280444(P2009−280444)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願2000−542017(P2000−542017)の分割
【原出願日】平成11年3月29日(1999.3.29)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】