説明

抗腫瘍性組成物

【課題】
安価な食用担子菌が有する抗腫瘍活性を損なわずに、しかも効率の良い方法で抽出・濃縮して得られ、経口で効果を有する新規な抗腫瘍性組成物、及び該組成物を含有する食品を提供すること。
【解決手段】
ブナシメジ子実体を熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去して得られる抗腫瘍性組成物、当該組成物からさらに陰イオン交換樹脂に吸着させた後、溶出して得られる組成物、これらの組成物の製造方法、ならびにこれらの組成物を含有する食品又は飲料に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブナシメジ子実体を熱水処理し、不溶物を除去した後、さらに分子量10万以下画分を除いて得られる組成物、又は当該組成物を陰イオン交換樹脂に吸着させた後溶出させて得られる抗腫瘍性組成物、及び該抗腫瘍性組成物を含む食品又は飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シイタケ、マイタケ、エノキタケ等の種々の食用担子菌が抗腫瘍性を有することは広く知られており、これらの子実体又は菌糸体よりこれまでに様々な抗腫瘍性組成物が調製されてきた。また、食用担子菌の一つであるブナシメジが抗腫瘍性を有することも明らかにされてきており、例えば蛋白質含量3〜20%、糖含量20〜50%を有する子実体熱水抽出物、及びその精製多糖体が(例えば、特許文献1)、さらには水又は親水性溶媒に懸濁後、加熱処理により得られる分子量6,000〜60,000の生理活性物質EEM−Sが抗腫瘍活性を有することが明らかにされている(例えば、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特許第3129751号
【特許文献2】国際公開第01/51070号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種食用担子菌の子実体が抗腫瘍性を有することは明らかとなっているが、効果を得るためには一定量を日常的に食すことが必要である。しかしながら、食用担子菌といえども味に癖があり、料理に工夫をしても日常的に一定量食すことは難しい。
一方、ある種の担子菌から得られる抗腫瘍性、免疫賦活活性等を有する有効成分を配合した健康食品が広く市場に流通しているが、原料の担子菌が希少のため、生産される健康食品も非常に高価なものとならざるを得ない。
本発明の課題は安価な食用担子菌が有する抗腫瘍活性を損なわずに、しかも効率の良い方法で抽出・濃縮して得られ、経口で効果を有する新規な抗腫瘍性組成物、及び該組成物を含有する食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、ブナシメジの子実体から、従来知られている抗腫瘍活性成分とは異なる、経口で効果を有する新規な抗腫瘍性組成物を見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、ブナシメジ子実体を熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去して得られる抗腫瘍性組成物に関する。本発明の第1の発明において、当該組成物としては、糖含量が45〜60%、脂質含量が20〜45%、タンパク質含量が1〜15%である抗腫瘍性組成物が例示される。
【0006】
本発明の第2の発明は、ブナシメジ子実体を熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去して得られる組成物を、さらに陰イオン交換樹脂に吸着させた後、溶出させて得られる抗腫瘍性組成物に関する。本発明の第2の発明において、当該組成物としては、糖含量が50〜60%、脂質含量が20〜40%、タンパク質含量が5〜20%である抗腫瘍性組成物が例示される。
【0007】
本発明の第3の発明は、本発明の第1又は第2の発明の組成物を含有する食品又は飲料に関する。
【0008】
本発明の第4の発明は、ブナシメジ子実体を2〜4時間熱水処理後、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去することを特徴とする抗腫瘍性組成物の製造方法に関する。本発明の第4の発明において、抗腫瘍性組成物としては糖含量が45〜60%、脂質含量が20〜45%、タンパク質含量が1〜15%である組成物が例示される。
【0009】
本発明の第5の発明は、ブナシメジ子実体を2〜4時間熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物を除去する工程、分子量10万以下画分を除去する工程、陰イオン交換樹脂に吸着させた後、溶出させる工程を包含することを特徴とする抗腫瘍性組成物の製造方法に関する。本発明の第5の発明において、抗腫瘍性組成物としては、糖含量が50〜60%、脂質含量が20〜40%、タンパク質含量が5〜20%の組成物が例示される。
【0010】
本発明の第1、第2、第4、第5の発明において、ブナシメジとしては、Lyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)、又はLyophyllum ulmarium K−0259(FERM P−12981)が例示される。また、本発明の第1、第2の発明において、処理温度は、90〜100℃、処理時間が2〜4時間の熱水処理が例示される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により安価な食用担子菌が有する抗腫瘍活性を損なわずに、経口で効果を有する抗腫瘍性組成物、及び該物質を含有する食品又は飲料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ブナシメジは自然界においては秋期に種々の広葉樹の枯れ木に叢生あるいは離生しており、他のきのこと比較して形や歯切れのよい肉質のため、極めて美味なきのことして採食されてきた。また、近年ではオガクズに米糠やその他の栄養源を配合した培養基を用いて、ビン又は箱で栽培を行う菌床人工栽培法が確立され、季節に関係なく一年を通じて安定してきのこを収穫できるようになっている。
【0013】
本発明に使用されるブナシメジは天然のものでも人工栽培品でもよいが、好適にはLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)、又はLyophyllum ulmarium K−0259(FERM P−12981)が例示される。これらの菌株は、商品名「やまびこほんしめじ」もしくは「スーパーやまびこしめじ」として大量に市場に流通している。
【0014】
子実体は生のものでも加熱乾燥、天日乾燥、凍結乾燥等で乾燥された子実体乾燥物でもよい。また子実体は株のままでも粉砕した後に熱水処理を行ってもよい。熱水処理に用いる水としては、蒸留水、精製水、イオン交換水、水道水等を使用することができる。子実体として生鮮子実体を使用する場合は生鮮子実体1重量に対して1〜10倍量、好適には1〜5倍量の水を使用でき、また子実体乾燥物を使用する場合は乾燥物1重量に対して5〜50倍量、好適には10〜25倍量の水を使用することができる。処理の条件には特に限定はないが、処理温度は80〜100℃、好ましくは90〜100℃で、処理時間は1〜5時間、好ましくは得られる組成物の抗腫瘍活性の発現の強さの観点から、2〜4時間の範囲で処理を行うのがよい。
【0015】
上記で得られた熱水抽出物からの不溶物の除去は通常の方法で行えばよく、例えばろ過又は遠心分離により不溶物を除去することができる。また、得られた可溶物からの分子量10万以下画分の除去には限外ろ過膜、ホロファイバー、分子ふるい、クロマトグラフィー等を使用することができ、例えば排除分子量10万のホロファイバーを用いて限外ろ過することにより本発明の第1の発明である抗腫瘍性組成物を得ることができる。すなわち、本発明の第1の発明の組成物は、抗腫瘍活性を有する分子量10万以上の新規な組成物である。なお、本発明における分子量とは使用したホロファイバーの排除分子量により決めた分子量であり、実際の分子量を示すものではない。例えば分子量が1000以下の物質でも高分子に吸着した状態の場合、上記の限外ろ過により分子量10万以上の画分に入ってくることがある。
【0016】
上記抗腫瘍性組成物はさらに陰イオン交換樹脂を用いて精製することができる。陰イオン交換樹脂としてはDEAE−セルロース、TEAE−セルロース、ECTEOLA−セルロース、PAB−セルロース等を用いることができ、好ましくはDEAE−セルロファイン(チッソ株式会社製)を用いることができる。上記抗腫瘍性組成物を適切な開始緩衝液、例えば水、リン酸緩衝液等で平衡化した陰イオン交換樹脂を充填したカラムにかけ、前記緩衝液で非吸着画分を洗い出した後、緩衝液の塩濃度を上げて、好ましくは400mM以上のNaCl濃度で溶出させることにより、本発明の第2の発明である抗腫瘍性組成物を得ることができる。
【0017】
本発明の食品又は飲料は担子菌子実体の抗腫瘍作用を有する食品又は飲料であり、本発明の食品又は飲料を摂取、喫食することにより生体の恒常性が維持されることにおいて特に有用である。
【0018】
本発明の食品又は飲料は、特に限定するものではないが、例えば、穀物加工品(例、小麦粉加工品、デンプン類加工品、プレミックス加工品、麺類、マカロニ類、パン類、あん類、そば類、麩、ビーフン、はるさめ、包装餅等)、油脂加工品(例、可塑性油脂、てんぷら油、サラダ油、マヨネーズ類、ドレッシング等)、大豆加工品(例、豆腐類、味噌、納豆等)、食肉加工品(例、ハム、ベーコン、プレスハム、ソーセージ等)、水産製品(例、冷凍すりみ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、すじ、魚肉ハム、ソーセージ、かつお節、魚卵加工品、水産缶詰、つくだ煮等)、乳製品(例、原料乳、クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、練乳、粉乳、アイスクリーム等)、野菜・果実加工品(例、ペースト類、ジャム類、漬物類、果実飲料、野菜飲料、ミックス飲料等)、菓子類(例、チョコレート、ビスケット類、菓子パン類、ケーキ、餅菓子、米菓類等)、アルコール類(例、日本酒、中国酒、ワイン、ウイスキー、焼酎、ウオッカ、ブランデー、ジン、ラム酒、ビール、清涼アルコール飲料、果実酒、リキュール等)、嗜好飲料(例、緑茶、紅茶、ウーロン茶、コーヒー、清涼飲料、乳酸飲料等)、調味料(例、しょうゆ、ソース、酢、みりん等)、缶詰・瓶詰・袋詰食品(例、牛飯、釜飯、赤飯、カレー、その他の各種調理済食品等)、半乾燥または濃縮食品(例、レバーペースト、その他のスプレッド、そば・うどんの汁、濃縮スープ類等)、乾燥食品(例、即席麺類、即席カレー、インスタントコーヒー、粉末ジュース、粉末スープ、即席味噌汁、調理済食品、調理済飲料、調理済スープ等)、冷凍食品(例、すき焼き、茶碗蒸し、うなぎかば焼き、ハンバーグステーキ、シュウマイ、餃子、各種スティック、フルーツカクテル等)、固形食品、液体食品(例、スープ等)、香辛料類等の農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品等が挙げられる。
【0019】
本発明の抗腫瘍性組成物はそのまま食品素材としてもよく、他の食品素材、例えば増粘剤、甘味料、有機酸、栄養剤、香料、着色料等を組み合わせて食品素材、飲料素材としても良い。
【0020】
本発明の抗腫瘍性組成物を1g/マウス/日で経口投与しても毒性は認められない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例をもって詳細に説明するが本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1 熱水可溶画分と不溶画分の調製
器内温を60℃に設定した熱風乾燥器を用いて、ブナシメジLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)の生鮮子実体を乾燥後、粉砕することにより子実体粉末を得た。該子実体粉末500gに10Lの純水を加えて95℃、3時間熱水処理を行った。熱水抽出物を室温まで冷却させた後、遠心分離(6500G、30分、室温)を行い、熱水可溶画分と熱水不溶画分を得た。得られた熱水可溶画分はエバポレーターにて濃縮後、熱水不溶画分はそのまま凍結乾燥を行うことにより、熱水可溶画分凍結乾燥物210g、熱水不溶画分凍結乾燥物247gを得た。これらの凍結乾燥物は下記実施例に用いる前に粉砕機を用いて粉末状にした。
【0023】
実施例2 熱水可溶画分と不溶画分の腫瘍増殖抑制作用
ICRマウス(日本エスエルシー社)は、5週齢の雌を購入し6週齢で使用した。Sarcoma−180(以下S−180)腫瘍細胞は、ICRマウスの腹腔に移植して腹水をつくり、7日毎に別のマウスに移植して継代した。継代して7日目の腹水を採取し、リン酸緩衝液で遠心洗浄後、同緩衝液に懸濁して細胞数を計測後、1×10個/mLとなるように調整した。この0.1mLをICRマウスの右側腹部皮下に移植し、7日後に形成された固形腫瘍の大きさを測定した。腫瘍の大きさの平均が各群で均等になるように、また1群10匹となるようにマウスを4群に群分けした。そのうちの2群に対してそれぞれ、実施例1で調製した2種の凍結乾燥粉末を、別の1群には実施例1で調製した子実体粉末を通常の粉末飼料CE−2に混ぜてマウスに与えた。投与量は子実体粉末に換算して、粉末試料CE−2に対して重量比で10%混ぜて与えた場合と同等になるようにした。コントロール群にはCE−2のみを与えた。腫瘍の大きさは、S−180移植後5週目に測定した。また、腫瘍の大きさは長径と短径を測定し、以下の計算式にしたがって体積を算出して比較した。その結果を表1に示す。
腫瘍体積(mm)=(長径)×(短径)/2
腫瘍増殖抑制活性は、以下の計算式にしたがって算出した。
腫瘍増殖抑制活性(%)={(コントロール群の腫瘍体積−各サンプル投与群の腫瘍体積)/コントロール群の腫瘍体積}×100
【0024】
【表1】

【0025】
以上のようにブナシメジの子実体粉末を熱水処理した場合、可溶画分にS−180腫瘍の増殖を抑制する作用が認められた。また、その抑制作用はもとの子実体粉末よりも強いものであった。
【0026】
実施例3 熱水処理時間の検討
熱水処理時間を1、2、3又は5時間に変更した以外は実施例1と同様の方法で調製することにより、4種の熱水可溶画分の凍結乾燥粉末を得た。250gの子実体粉末よりそれぞれの熱水可溶画分の凍結乾燥粉末を約110g得た。
実施例2と同じ条件で、S−180腫瘍をICRマウスに移植し、7日目に腫瘍の大きさの平均が各群間で均等になるように群分けして用いた。上記各画分の凍結乾燥粉末を通常の粉末飼料CE−2に混ぜてマウスに与えた。投与量は子実体粉末に換算して、粉末試料CE−2に対して重量比で10%混ぜて与えた場合と同等になるように用いた。コントロール群にはCE−2のみを与えた。腫瘍の大きさは、S−180移植後5週目に測定した。また、腫瘍の大きさと腫瘍増殖抑制活性は、実施例2と同様に算出した。その結果を表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
ブナシメジの熱水可溶画分のうち、処理時間が2時間と3時間のものにおいてS−180固形腫瘍に対する強い増殖抑制作用がみられた。
【0029】
実施例4 子実体粉末由来の分子量10万超画分の調製
器内温を60℃に設定した熱風乾燥器を用いて、ブナシメジLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)の生鮮子実体を乾燥後、粉砕することにより子実体粉末を得た。該子実体粉末500gに10Lの純水を加えて95℃、3時間熱水処理を行った。熱水抽出物を室温まで冷却させた後、遠心分離(6500G、30分、室温)を行い、熱水可溶画分を得た。熱水可溶画分は排除分子量10万のホローファイバー(アミコン社製)を装着した限外ろ過器により濃縮後、凍結乾燥し、粉砕器により粉砕することにより、分子量10万超画分の凍結乾燥粉末約20gを得た。
【0030】
実施例5 子実体粉末由来の分子量10万超画分の腫瘍増殖抑制作用
実施例2と同じ条件で、S−180腫瘍をICRマウスに移植し、7日目に腫瘍の大きさの平均が各群間で均等になるように2群に群分けして用いた。そのうちの1群に、実施例4で調製した凍結乾燥粉末を通常の粉末飼料CE−2に混ぜてマウスに与えた。投与量は子実体粉末に換算して、粉末試料CE−2に対して重量比で10%混ぜて与えた場合と同等になるようにした。コントロール群にはCE−2のみを与えた。腫瘍の大きさは、S−180移植後5週目に測定した。また、腫瘍の大きさと腫瘍増殖抑制活性は、実施例2と同様に算出した。その結果を表3に示した。
【0031】
【表3】

【0032】
表3に示すように、ブナシメジ熱水抽出物から得られた分子量10万超画分においてS−180固形腫瘍の増殖を抑制する作用がみられた。
【0033】
実施例6 生鮮子実体由来の分子量10万超画分の調製
ブナシメジLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)の生鮮子実体2.3kgをホモジナイズしてペースト状にし、純水を加えて全量を4.6Lとしたのち、95℃、3時間熱水処理を行った。熱水抽出物を室温まで冷却させた後、遠心分離(6500G、30分、室温)を行い、熱水可溶画分3Lを得た。熱水不溶画分には再度純水を加えて全量を3Lとしたのち、95℃、30分熱水処理し、熱水抽出物を室温まで冷却させた後、遠心分離(6500G、30分、室温)を行うことにより熱水可溶画分1.6Lを得た。両熱水可溶画分を混合したのち、排除分子量10万のホローファイバー(アミコン社製)を装着した限外ろ過器により濃縮後、凍結乾燥し、粉砕器により粉砕することにより、分子量10万超画分の凍結乾燥粉末約2.4gを得た。またブナシメジLyophyllum ulmarium K−0259(FERM P−12981)の生鮮子実体2.5kgから上記と同様の操作を行い、分子量10万超画分の凍結乾燥粉末約1.8gを得た。
【0034】
実施例7 生鮮子実体由来の分子量10万超画分の腫瘍増殖抑制作用
実施例2と同じ条件で、S−180腫瘍をICRマウスに移植し、7日目に腫瘍の大きさの平均が各群間で均等になるように3群に群分けして用いた。そのうちの2群にそれぞれ、実施例6で調製した2種の凍結乾燥粉末を通常の粉末飼料CE−2に混ぜてマウスに与えた。投与量は子実体粉末に換算して、粉末試料CE−2に対して重量比で10%混ぜて与えた場合と同等になるように用いた。コントロール群にはCE−2のみを与えた。腫瘍の大きさは、S−180移植後5週目に測定した。また、腫瘍の大きさと腫瘍抑制活性は、実施例2と同様に算出した。その結果を表4に示した。
【0035】
【表4】

【0036】
表4に示すように、ブナシメジの生鮮子実体を熱水処理して得られた分子量10万超画分投与群においてS−180固形腫瘍増殖の抑制がみられた。
【0037】
実施例8 イオン交換樹脂分画物の調製
器内温を60℃に設定した熱風乾燥器を用いて、ブナシメジLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)の生鮮子実体を乾燥後、粉砕することにより子実体粉末を得た。該子実体粉末500gに10Lの純水を加えて95℃、3時間熱水処理を行った。熱水抽出物を室温まで冷却させた後、遠心分離(6500G、30分、室温)を行い、熱水可溶画分8.7L(pH6.2)を得た。該熱水可溶画分を排除分子量10万のホローファイバー(アミコン社製)を装着した限外ろ過器により濃縮することにより、分子量10万超画分2L(pH6.4)を得た。該分子量10万超画分に600mlのエタノールを加え、かく拌し、不溶物を遠心分離(15000G、30分、室温)により取り除いた後、8×40cmのカラムに10mMのNaClを含む10mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)で平衡化したDEAE−セルロファインA−800(チッソ株式会社製)を充填したクロマトグラフィーにかけ、同平衡化バッファーで洗浄した。次に、同平衡化バッファーのNaCl濃度を400mM又は1000mMとしたリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)で溶出し、それぞれを分取した。得られた400mM NaCl溶出画分及び1000mM NaCl溶出画分は、排除分子量1万のホローファイバー(アミコン社製)を装着した限外ろ過器により濃縮後、凍結乾燥し、粉砕器により粉砕することにより、400mM NaCl溶出画分の凍結乾燥粉末を3.9g、1000mM NaCl溶出画分の凍結乾燥粉末を0.9g得た。
【0038】
実施例9 イオン交換樹脂分画物の腫瘍増殖抑制作用
実施例2と同じ条件で、S−180腫瘍をICRマウスに移植し、7日目に腫瘍の大きさの平均が各群間で均等になるように3群に群分けした。そのうちの2群にそれぞれ、実施例8で調製した2種の凍結乾燥粉末を通常の粉末飼料CE−2に混ぜてマウスに与えた。投与量は子実体粉末に換算して、粉末試料CE−2に対して重量比で10%混ぜて与えた場合と同等になるようにした。コントロール群にはCE−2のみを与えた。腫瘍の大きさは、S−180移植後5週目に測定した。また、腫瘍の大きさと腫瘍増殖抑制活性は、実施例2と同様に算出した。その結果を表5に示す。
【0039】
【表5】

【0040】
その結果、表5に示すように400mM NaCl溶出画分に腫瘍増殖抑制活性が認められた。
【0041】
実施例10 各画分の組成
上記実施例4、6及び8で得られた各分子量10万超画分及び400mM NaCl溶出画分について、糖含量、ウロン酸含量、脂質含量及び蛋白質含量をそれぞれフェノール硫酸法〔アナリティカル ケミストリー(Analytical Chemistry)、第28巻、第350頁(1956)〕、カルバゾール硫酸法〔アナリティカル バイオケミストリー(Analytical Biochemistry)、第4巻、第330頁(1962)〕、クロロホルム−メタノール混液抽出法〔ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー (Journal of Biological Chemistry) 、第226巻、第497頁(1957)〕、及び蛋白質測定キット(Coomassie Protein Assay Reagent Kit、Pierce社)を用いて測定した。その結果を表6に示す。
【0042】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明により安価な食用担子菌が有する抗腫瘍活性を損なわずに、経口で効果を有する抗腫瘍性組成物、及び該物質を含有する食品又は飲料を得ることができる。よって、本発明は特に医薬や健康食品分野において特に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブナシメジ子実体を熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去して得られる抗腫瘍性組成物。
【請求項2】
糖含量が45〜60%、脂質含量が20〜45%、タンパク質含量が1〜15%である請求項1記載の抗腫瘍性組成物。
【請求項3】
ブナシメジ子実体を熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去して得られる組成物を、さらに陰イオン交換樹脂に吸着させた後、溶出させて得られる抗腫瘍性組成物。
【請求項4】
糖含量が50〜60%、脂質含量が20〜40%、タンパク質含量が5〜20%である請求項3記載の抗腫瘍性組成物。
【請求項5】
ブナシメジがLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)、又はLyophyllum ulmarium K−0259(FERM P−12981)である請求項1〜4いずれか1項に記載の抗腫瘍性組成物。
【請求項6】
処理温度が80〜100℃、処理時間が1〜5時間で熱水処理して得られる請求項1〜5のいずれか1項に記載の抗腫瘍性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍性組成物を含有する食品又は飲料。
【請求項8】
ブナシメジ子実体を2〜4時間熱水処理後、不溶物ならびに分子量10万以下画分を除去することを特徴とする抗腫瘍性組成物の製造方法。
【請求項9】
糖含量が45〜60%、脂質含量が20〜45%、タンパク質含量が1〜15%である請求項8記載の抗腫瘍性組成物の製造方法。
【請求項10】
ブナシメジ子実体を2〜4時間熱水処理して得られる熱水抽出物より、不溶物を除去する工程、分子量10万以下画分を除去する工程、陰イオン交換樹脂に吸着させた後、溶出させる工程を包含することを特徴とする抗腫瘍性組成物の製造方法。
【請求項11】
糖含量が50〜60%、脂質含量が20〜40%、タンパク質含量が5〜20%である請求項10記載の抗腫瘍性組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ブナシメジがLyophyllum ulmarium M−8171(FERM BP−1415)、又はLyophyllum ulmarium K−0259(FERM P−12981)である請求項8〜11いずれか1項に記載の抗腫瘍性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−166903(P2007−166903A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−283381(P2003−283381)
【出願日】平成15年7月31日(2003.7.31)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】