説明

抗菌性アクリル繊維の染色方法

【課題】抗菌性とともに染色性及び耐色性を有する抗菌性アクリル繊維を開発する。
【解決手段】アクリル繊維を、ピリチオン亜鉛錯体を含む分散液に浸漬し、105℃ないし130℃の温度の当該分散液中で加熱処理し、前記加熱処理温度より、低い温度で染色することを特徴とする抗菌性アクリル繊維の染色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れた染色性を有する抗菌性アクリル繊維の染色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル繊維に抗菌機能を付与することが行われている。一般的に抗菌機能を付与する方法としては、抗菌剤をアクリル繊維の製造時に導入するか、または、繊維を製造した後の後加工において付与する方法によって行われている。例えば、特許文献1、2には、ピリチオン亜鉛含有分散液に、アクリル織布を100℃以下で浸漬処理することによって抗菌性が付与されたアクリル繊維の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法は、処理温度が低いために、染色工程(酸性100℃沸水中)での耐久性が得られず、それを回避するためには、抗菌処理を染色と同時かもしくは染色後に行う必要があり、多くのカラーストックを必要とする問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2001−123375号公報
【特許文献2】特開2001−288017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、抗菌性のみでなく、染色した場合、染色工程における耐久性に優れた抗菌性アクリル繊維の染色方法を開発することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の要旨は、アクリル繊維を、ピリチオン亜鉛錯体を含む分散液に浸漬し、105℃ないし130℃の温度の当該分散液中で加熱処理し、前記加熱処理温度より、低い温度で染色することを特徴とする抗菌性アクリル繊維の染色方法にある。
【発明の効果】
【0006】
アクリル繊維をピリチオン亜鉛錯体を含む分散液に浸漬して105℃以上130℃以下の温度で加熱処理することによって、ピリチオン亜鉛錯体がアクリル繊維中に分散して染色性及び耐色性に優れた抗菌性アクリル繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、アクリル繊維を、ピリチオン亜鉛錯体を含む分散液に浸漬し、105℃ないし130℃の温度で、当該分散液中で加熱処理し、前記加熱処理温度より、低い温度で染色することにより抗菌性アクリル繊維を製造するものである。
105℃ないし130℃の温度で加熱処理することにより、ピリチオン亜鉛錯体の溶解性が増し、繊維中に均一に拡散される。
105℃未満の温度の分散液で加熱(抗菌)処理したアクリル繊維を染色した場合、アクリル繊維にピリチオン亜鉛錯体(抗菌剤)が十分な強さで付着されず、他方、付着した当該錯体は染色液中に溶出し易いために、充分な染色を行うことができない。また、130℃を超える温度でアクリル繊維を加熱処理するとアクリル繊維が黄変するため好ましくない。
【0008】
本発明の抗菌性アクリル繊維において、アクリロニトリル単位を主要な構成成分とするアクリル系重合体は、通常のアクリル繊維の製造に用いられるアクリロニトリル系重合体でよく特に限定されないが、そのモノマーの構成は、少なくとも50質量%のアクリロニトリル単位を含有していることが重要である。これによりアクリル繊維本来の特性が発現する。
【0009】
アクリロニトリルと共重合するモノマーとしては、通常アクリル系重合体を構成するモノマーであればよく特に限定されない。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、
【0010】
さらにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
また、アクリロニトリル系重合体にp−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸またはこれらのアルカリ塩を共重合することは、染色性の改良のために好ましい。
【0011】
本発明で用いられるピリチオン亜鉛錯体は、2−ピリジルチオール−1−オキシドあるいはジ(2−ピリジルチオール−1−オキシド)等のピリチオン系化合物の亜鉛錯体である。
【0012】
さらに、上記ピリチオン亜鉛錯体の平均粒子径は、0.5μm以下であることが好ましい。平均粒子径が0.5μmを超える場合は、アクリル繊維への吸尽性が悪く、染色での脱落が多くなるので好ましくない。
なお、粒子の分散性を上げるためにグリセリンや、多糖類を主成分とする分散剤を併用してもよい。
【0013】
また、ピリチオン亜鉛錯体の使用量は、所望する抗菌性の能力に応じて広い範囲から選択することができる。その使用量が少ないと、必要な抗菌性が得られず、また多すぎると繊維として物性面で劣ることになり、紡績工程など製品加工工程の通過性が悪化する原因となるため、繊維全体量中に0.1〜5.0質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜1.0質量%である。
また、本発明の抗菌性アクリル繊維の断面形状、単繊維繊度には特に制限はない。
【0014】
本発明のアクリル繊維の製造方法は、まずアクリロニトリル系重合体を有機溶剤に溶解して紡糸原液を調製する。この紡糸原液の調製に使用する溶剤は、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトンなどの有機溶剤を用いることができ、特に限定されるものではなく、一般にアクリル繊維の紡糸工程において使用される有機溶剤の使用が可能である。
【0015】
紡糸原液の固形分濃度は、特に制限はないが、固形分濃度が低過ぎると紡糸後の繊維中にボイドが発生しやすく、結果として繊維物性や生産性の低下につながるため、紡糸原液中の固形分濃度は10質量%以上であることが好ましい。
紡糸原液は、例えばスタテッィクミキサーのような混練機を用い、紡糸ラインの途中で混合することが可能である。また、必要に応じて各紡糸原液内に染料、顔料などの着色剤、さらに性能を高めるための抗菌剤、消臭剤などの機能性付与剤などを添加することも可能である。
【0016】
次に、紡糸原液を、凝固液中にノズル口金を通して吐出させることによって凝固させて繊維化する。凝固浴の溶剤濃度、温度には特に制限はないが、溶剤濃度は20〜70質量%、温度は20〜60℃が好ましい。凝固浴濃度を20質量%以上とすることで、紡糸性を一定のレベルに保つころができ、また70質量%未満とすることで、凝固浴中で繊維同士が接着することを抑制することができる。また、凝固浴の温度は20〜60℃とすることで紡糸性と繊維物性を良好に保つことが可能となる。
【0017】
凝固浴を出た糸条は、60℃以上の熱水中で3.5〜8.0倍、好ましくは4.0〜6.0倍で延伸、脱溶媒され、引き続き、油剤付与、乾燥工程を経た後、緩和処理が施される。延伸倍率は、3.5倍以上とすると十分な繊維物性を有するアクリル繊維が得られ、延伸倍率を8.0倍未満にとどめることによって紡糸での安定性が保たれる。また、乾燥、緩和処理は、従来アクリル系繊維の製造に用いられる、熱ロールやネットプロセスによる乾燥とアニール、熱板緩和、スチーム緩和といった緩和方法を単独あるいは組み合わせて行うことができる。また、乾燥工程後に100℃以上の乾熱下で更に延伸することも可能である。さらに、この繊維に後加工処理を実施することにより種々の機能性を向上あるいは付与することも可能である。
【0018】
得られた繊維は、長繊維状態でそのまま用いるか、あるいは短繊維にカットして用いることも可能である。また、糸状で使用するだけではなく、カットしたものを水中に分散させ抄紙して使用したり、ウエッブに高水圧を加えて割繊と交絡を施してシート状として使用したりすることも可能である。
【実施例】
【0019】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、実施例における抗菌性試験は下記の方法により行った。
(殺菌活性値測定方法)
1)JIS L 1902 定量試験(菌液吸収法)により、肺炎桿菌(Klebsiella Pneumoniae ATCC 4352)を使用して行った。
2)洗濯は、JIS L 0217 103号(洗剤はJAFET標準洗剤を使用)に従って行った。
3)生菌数(B)は、混釈平板培養法により測定し、殺菌活性値は次式より求めた。
殺菌活性値=Log(A)−Log(B)
なお、植菌数(A)=2.3×104
【0020】
[実施例1]
アクリル繊維(三菱レイヨン株式会社製、商品名:ボンネルV17 B3.3dtex)を、浴比1:20の水中にアクリル繊維に対しての重量比0.2%のピリチオン亜鉛錯体粒子(アーチケミカルズ社製 製品名:ZINC OMADINE POWDER INDUSTRIAL MICROBIOSTAT 平均径約0.3μm)を含む分散液に浸漬し、密閉された高圧釜中で105℃×30分間加熱処理した。
加熱処理したアクリル繊維をセミ梳毛紡績で3番手の紡績糸とし、カチオン染料を使用し100℃×30分で黒色に染色した後、殺菌活性値を測定した。
【0021】
[実施例2]
ピリチオン亜鉛錯体の粒子を重量比で、0.4%とした以外は、実施例1と同様にして抗菌処理した。得られたアクリル繊維を実施例1と同様にして、殺菌活性値を測定した。
【0022】
[実施例3〜4]
実施例1で得られた抗菌処理したアクリル繊維を抗菌性が付与されていない他の繊維と混綿し、梳毛紡性で2/48の糸を得た。この混綿をカチオン染料及び羊毛用反応染料で染色し、染色された糸について殺菌活性値を測定した。
【0023】
[比較例1]
密閉された高圧釜で、100℃×30分加熱処理を施した以外は、実施例1と同様にして、得られたアクリル繊維について殺菌活性値を測定した。
【0024】
[比較例2]
比較例1で得られたアクリル繊維を他の抗菌性が付与されていない繊維と混綿し、梳毛紡性で2/48の糸を得た。得られた混綿をカチオン染料及び羊毛用反応染料で染色し、染色した糸について殺菌活性値を測定した。
【0025】
[比較例3]
密閉された高圧釜で、140℃×30分加熱処理を施した以外は、実施例1と同様にして、得られたアクリル繊維について殺菌活性値を測定した。殺菌性能は得られたが、アクリル繊維が黄色に着色された。
上記各実施例及び比較例に記載の処理条件及び測定結果等について、まとめて下記表1に示す。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の製造方法により得られる抗菌性アクリル繊維は、抗菌性製品に求められる細菌に対して殺菌効果があるだけでなく、染色性がよく、染色された繊維は、洗濯などによる変色が少なく、従って、抗菌性と耐色性に優れた抗菌性製品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル繊維を、ピリチオン亜鉛錯体を含む分散液に浸漬し、105℃ないし130℃の温度の当該分散液中で加熱処理し、前記加熱処理温度より、低い温度で染色することを特徴とする抗菌性アクリル繊維の染色方法。

【公開番号】特開2009−91688(P2009−91688A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263376(P2007−263376)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】