説明

抗菌紙

【課題】本発明は、抗菌効果が高く、また、抗菌効果の持続性に優れ、さらに加えて、変色の少ない抗菌紙を提供することである。
【解決手段】グルコン酸クロルヘキシジンを0.005g/m2以上含有すること、更に望ましくはグルコン酸クロルヘキシジンを0.005〜0.03g/m2含有することを特徴とする抗菌紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌効果が高く、また、抗菌効果の持続性に優れ、且つ、変色の少ない抗菌紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗菌効果を有する紙製品は、医療や介護の現場、また一般家庭においてもニーズが高い。紙に抗菌性能を付与する際、抗菌繊維の練り込みなども手段の一つであるが、操業性やコストを考慮すると、抗菌剤を外添するという方法が最も簡易である。
【0003】
抗菌剤の種類は、無機系抗菌剤と有機系抗菌剤の2種類に大別される。一般に紙用途の場合、直接肌や粘膜に触れる可能性があるので、抗菌剤の選択では安全性が最も重要視される。
【0004】
食品用途などに使われ、比較的安全性の高い有機系抗菌剤として、安息香酸類(例えば、特許文献1参照)やプロピオン酸類(例えば、特許文献2参照)、デヒドロ酢酸類(例えば、特許文献3参照)などがあるが、これらの抗菌剤は経時や温度など環境の変化によって抗菌成分が揮発してしまい、抗菌効果が安定しないという問題がある。また、使用する有機系抗菌剤によっては、高温の環境下で変色が見られるものが多い。
【0005】
一方、無機系の抗菌剤としては、銀、亜鉛、銅などの化合物が多く使われている(例えば、特許文献4参照)。無機系の抗菌剤は安全性や効果の持続性が高いが、製造時における排水中への金属イオンの流出も懸念される。また、イオン特有の色が製品に着色することもある。
【0006】
以上のように、抗菌性能の持続性、着色性、また製造時の環境負荷の点で、従来の技術では満足できるものが存在しなかった。
【特許文献1】特開平11−299432号公報
【特許文献2】特開平5−32512号公報
【特許文献3】特開2005−068095号公報
【特許文献4】特開2005−133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高い抗菌効果を持ち、抗菌効果の持続性に優れた抗菌紙に関するものである。さらに、加えて変色の少ない抗菌紙に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明の抗菌紙を発明するに至った。本発明は、0.005g/m2以上のグルコン酸クロルヘキシジンを含有していることを特徴とする抗菌紙である。
【0009】
グルコン酸クロルヘキシジンを0.005〜0.03g/m2含有すると好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高い抗菌効果を持ち、その抗菌効果を保持することが可能である、グルコン酸クロルヘキシジンを0.005g/m2以上含有する抗菌紙、さらに、高温条件下における変色が少ない、グルコン酸クロルヘキシジンを0.005〜0.03g/m2含有した変色の少ない抗菌紙を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の目的は、抗菌効果と抗菌効果の持続性に優れた変色の少ない抗菌紙を提供するものである。そして、本発明者が鋭意検討した結果、グルコン酸クロルヘキシジンを含有させ、さらにその含有量を調節することで、抗菌効果と抗菌効果の持続性に優れ、さらに加えて、変色の少ない抗菌紙が提供可能であることを見出した。
【0012】
安全性、抗菌効果が高く、抗菌効果の持続性に優れた抗菌剤として、銀、銅、亜鉛等の化合物を中心とした無機抗菌剤が一般的に知られている。例えば、無機系抗菌剤として、銀、銅、亜鉛等の金属を無機物に担持したものがあるが、紙に付与する際はバインダーが必要となり、ティッシュやワイパーなどに適用する場合は紙の風合いを損ねる可能性がある。また、金属イオンの水溶液を塗布・含浸させる方法もあるが、金属イオンによる紙支持体の着色が懸念される。さらに、これら金属を含む化合物の使用は、製造の際、排水中に金属イオンが流出する可能性があり、環境負荷の面で好ましくない。
【0013】
一方、有機系の抗菌剤は容易に水に溶け、水溶液も無色もしくは淡色のものが多く、無機系の抗菌剤よりも紙への加工が容易である。例えば、比較的安全性の高い有機系抗菌剤として、安息香酸類、プロピオン酸類、デヒドロ酢酸類などがある。しかし、これらは無機系抗菌剤よりも抗菌効果が低く、また、経時や高温条件など環境の変化によって抗菌成分が揮発したり変色するものが多い。
【0014】
そこで、本発明のグルコン酸クロルヘキシジンは、抗菌剤として用いることが有効であり、皮膚に刺激が少なく、臭いもほとんどなく、容易に水に溶け、取り扱いも容易である利点もある。
【0015】
次いで、本発明のグルコン酸クロルヘキシジンを紙に付与する条件について検討した結果、一定の基準以上の抗菌性能を有する為には、抗菌剤を紙に0.005g/m2以上含有させることが必要である。従来の他の有機系菌抗菌剤を用いた抗菌紙では、90℃、24時間というような高温下においては、抗菌効果が小さくなる傾向にあるが、本発明においては高温下も高い抗菌効果を維持しており、90℃、5日間の処理でもその効果は変化しない。また、本発明では90℃、24時間処理すると、未処理のものよりさらに抗菌効果が向上する傾向を示す。したがって、より高い抗菌効果を求める場合、本発明品を90℃、24時間処理を行うことが望ましい。
【0016】
また、有機系抗菌剤は高温条件下に置くと変色することがあり、本発明においても、高温条件下で薄橙色に変色することがある。そこで、本発明では、紙に付与したグルコン酸クロルヘキシジンの量と、高温条件下(90℃、24時間)における変色の有無、およびその程度に関して検討を行った結果、グルコン酸クロルヘキシジンを紙に0.005〜0.03g/m2含有させることで、明瞭な抗菌効果を示し、且つ、変色が少ない抗菌紙の提供が可能となった。
【0017】
他の有機系抗菌剤は、経時によって抗菌効果が失われていく為、一定の抗菌効果を保持するには、劣化分を補うべく抗菌剤を過剰に紙に付与する必要がある。一方、本発明で抗菌剤として用いているグルコン酸クロルヘキシジンは、上記にも述べたように優れた抗菌効果と抗菌効果の持続性を持つため、ごく少量でも一定の抗菌効果が得られ、紙への過剰な付与を必要としない。このため本発明の抗菌紙は、変色が少なく、且つ、高い抗菌効果を得ることが可能となる。
【0018】
グルコン酸クロルヘキシジンは、水溶液を含浸、スプレー塗工、グラビア塗工などの方法で支持体に付与することが望ましいが、これに限定されるものではない。また、支持体に関しては、ティッシュやワイパーをはじめ、板紙、塗工紙などの紙にも応用が可能である。
【0019】
また、抗菌効果の強さは、グルコン酸クロルヘキシジンの含有量を変化させることでコントロールが可能である。本発明の抗菌紙を使用する環境、また用途によって、抗菌効果の調節を行うことができる。
【実施例】
【0020】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【0021】
実施例1
濾紙を縦2cm、横2cmに切断し、固形分含有量が0.005g/m2となるよう、1質量%グルコン酸クロルヘキシジン水溶液に含浸させ、乾燥させた。
【0022】
実施例2
グルコン酸クロルヘキシジンの含有量を0.01g/m2とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0023】
実施例3
グルコン酸クロルヘキシジンの含有量を0.03g/m2とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0024】
実施例4
グルコン酸クロルヘキシジンの含有量を0.1g/m2とした以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0025】
実施例5
坪量64g/m2の上質紙を縦2cm、横2cmに切断し、固形分塗布量が0.005g/m2となるよう、1質量%グルコン酸クロルヘキシジン水溶液をスプレー塗布し、乾燥させた。
【0026】
実施例6
グルコン酸クロルヘキシジンの塗布量を0.01g/m2とした以外は、実施例5と同様の処理を行った。
【0027】
実施例7
グルコン酸クロルヘキシジンの塗布量を0.03g/m2とした以外は、実施例5と同様の処理を行った。
【0028】
実施例8
グルコン酸クロルヘキシジンの塗布量を0.1g/m2とした以外は、実施例5と同様の処理を行った。
【0029】
(比較例1)
グルコン酸クロルヘキシジンの代わりにプロピオン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0030】
(比較例2)
グルコン酸クロルヘキシジンの代わりにプロピオン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例4と同様の処理を行った。
【0031】
(比較例3)
グルコン酸クロルヘキシジンの代わりにデヒドロ酢酸ナトリウム溶液を用いた以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0032】
(比較例4)
グルコン酸クロルヘキシジンの代わりにデヒドロ酢酸ナトリウム溶液を用いた以外は、実施例4と同様の処理を行った。
【0033】
(抗菌効果の評価)
抗菌効果の評価はハロー試験で行った。Bacto Toryptone1質量%、酵母エキス0.5質量%、塩化ナトリウム1質量%となるよう蒸留水中に溶解させた後、水酸化ナトリウム溶液でpHを7に調整した。これに、液量に対して1.5質量%の粉末寒天を加え、オートクレーブにて120℃、20分滅菌を行った後、クリーンベンチ内でプラスチックシャーレに約20mlずつ分注した。約15分間クリーンベンチ内で放冷して固め、寒天培地として菌の培養に用いた。試験菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus IFO12732)を用い、培養液を菌数が1.0×104個/mlになるよう希釈した。寒天培地上に培養液0.5mlを塗布し、実施例1〜8および比較例1〜4で作成した紙片を上に載せて37℃、24時間培養後、試験片周囲の菌の生育阻止円(ハロー)の大きさをmm単位で測定した。ここでは、ハロー幅が2mm以上あるものについて、抗菌効果ありと判断した。
【0034】
(抗菌効果の持続性評価)
本発明の抗菌紙の抗菌効果の持続性に関して評価を行うため、実施例1〜8および比較例1〜4は90℃、24時間加熱処理を行ったものについても同様の抗菌試験を行い、抗菌効果の変化より評価した。さらに、加熱処理後における変色の有無およびその程度についても評価を行った。○印は変色無し、△印は僅かに変色するが実用上問題なし、×印は明らかな変色があり実用不可能、とした。結果は全て表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から、実施例1〜4は、同量の抗菌剤を付与した比較例よりも大きなハローを形成し、より高い抗菌効果を有していることがわかる。さらに高温で処理しても効果は衰えず、高い抗菌効果と抗菌効果の持続性に優れた抗菌紙を得ることができた。また、グルコン酸クロルヘキシジンの付与方法を変えた実施例5〜8においても高い抗菌効果と、抗菌効果の持続性に優れた抗菌紙を得ることが出来た。
【0037】
また、表1より、グルコン酸クロルヘキシジンの含有量を0.005〜0.03g/m2にすることで、高温条件における変色を防ぐことが出来たことがわかる。
【0038】
実施例1、実施例5、比較例1、比較例3は抗菌剤の含有量は同じであるが、比較例1および比較例3では抗菌効果が得られなかった。したがって、明瞭な抗菌効果を得る為には、グルコン酸クロルヘキシジンを抗菌剤として、0.005g/m2以上紙支持体に含有させることが必要である。また、実施例4、実施例8、比較例2、比較例4も同量の抗菌剤を含有するが、高温処理によって比較例2は変色が起こり、比較例4は抗菌効果が激減する。更に、実施例1〜3と実施例4、及び実施例5〜7と実施例8の比較より、抗菌効果と抗菌効果の持続性に優れ、且つ変色の少ない抗菌紙を得るには、グルコン酸クロルヘキシジンを抗菌剤として、紙支持体に0.005〜0.03g/m2含有させる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、医療や介護の現場、また、食品、医薬品の製造現場、学校、飲食店、研究分野などにおいて使用する、ふき取りワイパーや手拭きなどへの利用の可能性が考えられる。また、カルテや掲示物等、病院内で使用する紙製品としての利用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコン酸クロルヘキシジンを0.005g/m2以上含有する抗菌紙。
【請求項2】
グルコン酸クロルヘキシジンの含有量が0.005〜0.03g/m2である請求項1記載の抗菌紙。

【公開番号】特開2009−242299(P2009−242299A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90965(P2008−90965)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】