説明

抗菌選択性をもつ化粧料

【課題】皮膚常在菌に有効な化粧料の応用を実現する。皮膚常在菌のなかでも、特にS.エピデルミデス等の有用常在菌に対しては影響を与えず、S。アウレウスのような有害常在菌に対する抗菌性を与えるような化粧料を提案する。
【解決手段】化粧料に防腐目的でピオニン0.002%とプラルミン0.0004%、及びローズマリーエキス2.5%を添加し、混合する。
選択的抗菌活性を与えると共に、水添レシチン等の有用常在菌の育成に有効に働く天然素材の添加を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の皮膚において有毒な皮膚常在細菌とされる、黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusを選択的に死滅、及び静菌させ、毒性が認められないブドウ球菌Staphyloccocus epidermidis に対してその作用を示さない化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料のうち、防腐用途に使用される原料はパラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール、エタノール、メチルクロロイソチアゾリノン、メチルイソチアゾリノン等に代表されるように人の皮膚に対して刺激性を有するものである。また、Staphyloccocus属の2種の菌において選択的に黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusに抗菌性を示すものは少数に限られ、全ての常在菌に対し抗菌作用を示してしまうものが多かった。例えば、特開2004−10505号公報等は、チャノキ及びSOD成分からなる化粧料が示されているが、その効果は、単ににきびの原因菌となるStaphyloccocus aureusに対する抗菌成分を示すに留まり、有用常在菌への効果的育成を行うような記載は無い。
【特許文献1】特開2004−10505号公報
【特許文献2】特開11−322630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明は、ピオニンとローズマリーエキスを混合、含有することで、黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusに対して選択的に抗菌性を示し、表皮ブドウ球菌Staphyloccocus epidermidisを活かすことで、皮膚本来の自然美を得ることが可能な化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記に鑑み本発明は、ピオニンとローズマリーエキスを含有させることにより、皮膚常在細菌において、紫外線防御機能などを有する皮脂膜形成に有効なStaphyloccocus epidermidisに影響を与えることなく、皮膚に有害なStaphyloccocus aureusに対してのみ抗菌性を有する皮膚外用剤を実現するに至ったものである。
更に本発明は、プラルミンを添加することで、その選択的抗菌性を可急的に高めることを可能としたものである。
本発明におけるプラルミン(2−(p−ジメチルアミノスチリル)−3−ペプチル20−4−メチルチアゾリウム塩で、対イオンとしてはヨウ素の他、塩素、オロット酸、ニコチン酸などが挙げられる)は、抗菌、抗カビ作用を示すが、化粧料の原料としても用いられている。
更に本発明はHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)の高い水添レシチンを含むことで、有用常在菌の育成を可能とする。
その他、水添レシチンの他のHLB値の高い界面活性剤を含む物であっても良い。
例えば以下のHLB値(10.5〜12)をもつ界面活性剤が例示される。「」の中はHLB値。モノミリスチン酸ヘキサグリセリル「11」、モノイソステアリン酸デカグリセリル 「12」、トリオレイン酸POE(20)ソルビタン 「11」、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン「10.5」、テトラオレイン酸POE(30)ソルビット「11.5」、POE(20)ヒマシ油 「10.5」、POE(20)硬化ヒマシ油 「10.5」、POE(30)硬化ヒマシ油 「11」、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(10EO) 「11」、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(10EO)「11」、POE(4.2)ラウリルエーテル 「11.5」、POEラノリン 「12」、POE(5)オレイン酸アミド 「11」、POE(20)POP(6)デシルテトラデシルエーテル「11」、POE(7)セチルエーテル「11.5」
尚、HLB値の高い界面活性剤の配合は、0.5〜3.0重量%程度が好ましいが、化粧品の種類、配合成分によっては、これに限るものでもない。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ピオニン及びローズマリーエキスを含む化粧料により、皮膚常在菌Staphyloccocus epidermidisに影響を与えることなく、有害なStaphyloccocus aureusに対して抗菌性を備えた化粧料により皮膚本来の美を形成すると共にSOD活性、紫外線防御能を有する皮脂膜のバランスの良い形成を実現する。
【実施例1】
【0006】

実施例1
以下の組成例を示す。
成分 重量%
油溶 (%)
スクワラン 20.0
水添レシチン 2.5
ジメチコン 5.0
硬化ナタネ油アルコール 1.0
イソプロピルメチルフェノール 0.08
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマー 0.15
香料 適量
水溶
ピオニン 0.002
ローズマリーエキス 2.5
グリセリン 6.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
ヒアルロン酸Na液 4.0
アルギニン 0.15
精製水 全量を100%とする。
製法:
上記のアルギニンを除く水溶成分と(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマーを除く油溶成分を75〜80℃で加熱溶解し、水溶成分に油溶成分を加え、乳化操作を行う。乳化操作終了時に(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマーを加え、撹拌操作を行いながら分散させる。分散操作終了後、30℃まで冷却操作を行う。30℃まで達したところで、この乳化物の中和操作をアルギニンで行い、適度なpHと粘度に調整する。
【0007】
防腐テストは米国薬局方XIIに準じて行った。
GAM寒天培地にて十分に前培養(37℃、1日間)した細菌類(Staphyroccocus epidermidis, S. aureus, Psudomonas aeruginosa, Escherichia coli)を白金耳にて採取し、滅菌生理食塩水にて菌体を分散させる。この分散液を菌液とする。この菌液は10cells/ml程度になるように調整する。真菌類(Candida albicans, Aspergillus niger)においてはポテトデキストロース寒天培地にて十分に前培養(30℃、1週間)を行い、細菌類と同様に菌液を調整する。
防腐テストを実施する化粧品サンプル(実施例1、組成例)を20g秤量する。この化粧品サンプル20gに菌液を200μl投入する。菌液投入後、よく撹拌し、これを0日目とする。2週間にわたって生菌数測定、静地保存(室温)を行う。
菌液を投入した化粧品サンプル中における生菌数測定には、細菌においてはSCDLP寒天培地、真菌においてはGPLP寒天培地を用いる。菌液を投入した化粧品サンプルを滅菌生理食塩水にて10〜10倍の10倍希釈系列液にする。これら10倍希釈系列液をそれぞれ50μl滴下して寒天培地に塗布、培養を行う。(細菌類:37℃、1日間、真菌類:30℃、4日間)培養後、コロニー数を計測し、生菌数を算出する。
【0008】
実施した化粧品サンプル防腐能力の判定基準は細菌類において、14日目の生菌数が0日目の生菌数に対して0.1%以下に減少していることが条件である。真菌類においては14日目の生菌数が0日目の生菌数と同じであることが条件である。
結果を図1に示す。図1(a)が本発明の一実施例を示すグラフであり、(c)及び(d)は、比較例として、ピオニン0.00001%及び、フェノキシエタノール0.25%を配合してものと、メチルパラベン0.3%及び、フェノキシエタノール0.3%を配合したものである。
MIC(最小生育阻止濃度)測定は以下のように行った。
GAM液体培地にて十分に前培養した(37℃、1日間)した細菌2種(Staphyroccocus epidermidis, S. aureus)を1×10cells/10μlになるように調整する。
0.2%ピオニン溶液(1,3−BG)を作成し、ローズマリーエキスを準備する。これら溶液を96穴マイクロプレート上でGAM液体培地にて希釈し、180μlのピオニン培地溶液2%とローズマリーエキス培地溶液2%を作成した。この2つの培地溶液から90μlの2倍希釈系列を作成し、1×10cells/10μlに調整した菌液を10μlずつ各ウェルに接種する。その後、37℃、1日間培養を行い、菌の生育状況を濁度で判定する。
【0009】
ピオニン0.002%とローズマリーエキス2.5%を配合した化粧料にも黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusに対して、選択的に抗菌活性が認められた。
また、MIC(最小生育阻止濃度)測定において、ピオニン0.00012%とローズマリーエキス0.78%の混合濃度で黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusに対して、選択的に抗菌活性が認められた。
通常、黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureus、ブドウ球菌Staphyloccocus epidermidisはそれぞれ、ピオニン単独において0.001%、0.0005%で発育を阻害し、ローズマリーエキスにおいては1.56%、0.78%で発育を阻害する。この結果より、ピオニン、ローズマリーエキス単独の時より、これら2つを混合することで、選択的に抗菌活性が認められる。
また同時に、水添レシチンを乳化剤とした、比較的HLBが高い乳化系化粧料において、その規定範囲内であることも認められた。
本来、水添レシチンは、大豆を成分とする天然素材であり、肌に潤いを与える等、化粧料成分として好ましいものであるが、腐りやすいため、大量の防腐剤を必要とした。本発明は、そのような防腐剤を、必要とせず、様々な天然素材を有効に用いることができる。
以上のような結果から、パラベン等のような指定表示成分を配合しない化粧料として製造できることを可能にしている。
【実施例2】
【0010】
実施例2
配合例
成分 重量%
油溶 (%)
スクワラン 20.0
水添レシチン 2.5
ジメチコン 5.0
硬化ナタネ油アルコール 1.0
イソプロピルメチルフェノール 0.08
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマー 0.15
香料 適量
水溶
ピオニン 0.002
プラルミン 0.0002
ローズマリーエキス 2.5
グリセリン 6.0
1,3−ブチレングリコール 10.0
ヒアルロン酸Na液 4.0
アルギニン 0.15
精製水 全量を100%とする。

製法:
上記のアルギニンを除く水溶成分と(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマーを除く油溶成分を75〜80℃で加熱溶解し、水溶成分に油溶成分を加え、乳化操作を行う。乳化操作終了時に(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10−30))クロスポリマーを加え、撹拌操作を行いながら分散させる。分散操作終了後、30℃まで冷却操作を行う。30℃まで達したところで、この乳化物の中和操作をアルギニンで行い、適度なpHと粘度に調整する。

【0011】
実施例2の防腐テストは米国薬局方XIIに準じて行った。
GAM寒天培地にて十分に前培養(37℃、1日間)した細菌類(Staphyroccocus epidermidis, S. aureus, Psudomonas aeruginosa, Escherichia coli)を白金耳にて採取し、滅菌生理食塩水にて菌体を分散させる。この分散液を菌液とする。この菌液は10cells/ml程度になるように調整する。真菌類(Candida albicans, Aspergillus niger)においてはポテトデキストロース寒天培地にて十分に前培養(30℃、1週間)を行い、細菌類と同様に菌液を調整する。
防腐テストを実施する化粧品サンプル(実施例1、組成例)を20g秤量する。この化粧品サンプル20gに菌液を200μl投入する。菌液投入後、よく撹拌し、これを0日目とする。2週間にわたって生菌数測定、静地保存(室温)を行う。
菌液を投入した化粧品サンプル中における生菌数測定には、細菌においてはSCDLP寒天培地、真菌においてはGPLP寒天培地を用いる。菌液を投入した化粧品サンプルを滅菌生理食塩水にて10〜10倍の10倍希釈系列液にする。これら10倍希釈系列液をそれぞれ50μl滴下して寒天培地に塗布、培養を行う。(細菌類:37℃、1日間、真菌類:30℃、4日間)培養後、コロニー数を計測し、生菌数を算出する。
実施した化粧品サンプル防腐能力の判定基準は細菌類において、14日目の生菌数が0日目の生菌数に対して0.1%以下に減少していることが条件である。真菌類においては14日目の生菌数が0日目の生菌数と同じであることが条件である。
結果を図1に示す。図1(b)が本発明の一実施例を示すグラフであり、(c)及び(d)は、比較例として、ピオニン0.00001%及び、フェノキシエタノール0.25%を配合してものと、メチルパラベン0.3%及び、フェノキシエタノール0.3%を配合したものである。
【0012】
実施例2のMIC(最小生育阻止濃度)測定は以下のように行った。
GAM液体培地にて十分に前培養した(37℃、1日間)した細菌2種(Staphyroccocus epidermidis, S. aureus)を1×10cells/10μlになるように調整する。
0.2%ピオニン溶液(1,3−BG)と0.2%プラルミン溶液(1,3−BG)を作成し、ローズマリーエキスを準備する。これら溶液を96穴マイクロプレート上でGAM液体培地にて希釈し、180μlのピオニン培地溶液2%とプラルミン培地溶液2%、及びローズマリーエキス培地溶液2%を作成した。この3つの培地溶液からそれぞれ90μlの2倍希釈系列を作成し、1×106cells/10μlに調整した菌液を10μlずつ各ウェルに接種する。その後、37℃、1日間培養を行い、菌の生育状況を濁度で判定する。
【0013】
化粧料の防腐テストの結果を表1で示す。
【表1】

ピオニン0.002%とプラルミン0.0004%、及びローズマリーエキス2.5%を配合した化粧料にも黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusに対して、選択的に抗菌活性が認められた。
また、ピオニン0.00006%とプラルミン0.000012%、及びローズマリーエキス0.4%の混合濃度で黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureusに対して、選択的に抗菌活性が認められた。通常、黄色ブドウ球菌Staphyloccocus aureus、ブドウ球菌Staphyloccocus epidermidisはそれぞれ、ピオニン単独において0.001%、0.0005%で発育を阻害し、ローズマリーエキスにおいては1.56%、0.78%で発育を阻害する。さらに、ピオニンとローズマリーエキス混合溶液と比較しても抗菌活性が高まった。
【0014】
この結果より、ピオニン、ローズマリーエキス単独の時より、プラルミンを混合することで、選択的に抗菌活性が認められる。
また同時に、水添レシチンを乳化剤とした、比較的HLBが高い乳化系化粧料において、その規定範囲内であることも認められた。
以上のような結果から、パラベン等のような指定表示成分を配合しない化粧料として製造できることを可能にしている。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、有用な皮膚常在菌をより効果的に育成させることで、皮膚が弱い人でも使用ができ、皮膚本来の自然美を実現できる化粧料を初めとして有用な常在菌の育成による肌の改善が可能な皮膚外用剤としての使用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例を説明するための図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚常在細菌における抗菌選択性を具えるべくピオニンとローズマリーエキスを含有することを特徴とする化粧料
【請求項2】
プラルミンを更に含む請求項1に記載の化粧料。
【請求項3】
ピオニンの配合量が0.00006%〜0.002%、ローズマリーエキスの配合量が0.4%〜2.5%である請求項1に記載の化粧料。
【請求項4】
プラルミンの配合量が0.000012%〜0.0004%である請求項2に記載の化粧料。
【請求項5】
Staphyloccocus aureusに抗菌性を有する請求項1に記載の化粧料。
【請求項6】
水添レシチンを0.5〜3.0%含む請求項1、2に記載の化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−8909(P2007−8909A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195547(P2005−195547)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(000126757)株式会社アドバンス (60)
【Fターム(参考)】