説明

抗連鎖球菌物質の確認方法、及び連鎖球菌感染症治療のためのその使用

抗連鎖球菌物質を確認する方法であって、(a)第1の成分として、分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体を提供すること、(b)第2の成分として、分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体を提供すること、(b)第3の成分として、分離されたβインテグリン又はその機能性変異体を提供すること、(d)成分を試験物質と、試験物質の存在なしに成分が相互作用できる条件下で接触させること、及び(e)試験物質が、成分間の相互作用を阻害するか否かを確認することを含み、それによって試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かを決定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗連鎖球菌物質の確認方法に関する。本発明は、また、このような物質の連鎖球菌感染症の治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)は、最も一般的で重要なヒトの病原細菌の1つである。この細菌は、咽頭炎(連鎖球菌咽頭炎)、及び膿痂疹のような比較的軽度の感染症だけではなく、リウマチ熱、溶連菌感染後糸球体腎炎、壊疽性筋膜炎、敗血症、連鎖球菌毒素性ショック症候群(STSS)のような重篤な臨床症状も引き起こす。1980年代後期以来、世界中で、生命にかかわる全身性ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)感染症の数が増加していると報告されており、かなりの注目及び関心を集めている。
【0003】
ストレプトコッカスパイオゲンスは、αヘリックスコイルドコイルの表面タンパク質であるMタンパク質を、かなりの量発現する。Mタンパク質は、ストレプトコッカスパイオゲンスの臨床上の発病決定因子であり、この細菌がヒトの血液中で生存するのを助長する。Mタンパク質は、この細菌の細胞壁と関係があることに加えて、この細菌が分泌するシステインプロテイナーゼの作用により表面からも放出される。
【0004】
多形核好中球(PMN)は、細菌感染に対する第一線の防御の部分である。この細胞が血流中から炎症部位に動員するには、この細胞が炎症メディエータを認識し、血管内皮の接着分子と相互作用し、最終的に侵入した細菌をPMNが食作用する炎症部位まで内皮のバリアを通過して遊走することが必要である。生理学的条件のもとでは、非活性のPMNが血流中を循環している。しかし、一旦化学走化性シグナルにより活性化されると、PMNは接着性となり、感染部位に向かって内皮上を転がり始めて感染部位で内皮に強く付着して感染した組織中に滲出し始める。このような接着のプロセスには、PMN及び内皮の両者の上で、インテグリンを含む多くの様々な接着分子を連続的に上下調節する必要がある。活性化したPMNは、また、細胞内の貯蔵場所からヘパリン結合タンパク質(HBP)を放出する。HBPは、血管の漏出を誘発する炎症メディエータである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体とPMNのβインテグリンとの相互作用でPMNの活性化、及びヘパリン結合タンパク質(HBP)の放出が起こり、それにより炎症反応が起こることを示している。この相互作用により、抗連鎖球菌物質を確認する新規の標的が呈示され、この抗連鎖球菌物質を用いて連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体とβインテグリンとの間の相互作用を阻止することができるため、PMSの活性化を妨げ、そうでなければ起こったかもしれない炎症反応を阻止する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、このようにして抗連鎖球菌物質の確認方法が提供され、この方法は:
(a)第1の成分として、分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体を提供すること、
(b)第2の成分として、分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体を提供すること、
(c)第3の成分として、分離されたβインテグリン又はその機能性変異体を提供すること、
(d)前記成分を試験物質と、試験物質の存在なしに該成分が相互作用できる条件下で接触させること、及び
(e)試験物質が、成分間の相互作用を阻害するか否かを確認することを含み、
これらによって、試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かを決定する。
【0007】
本発明は、また、抗連鎖球菌物質を確認する方法であって、
(a)第1の成分として、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体を提供すること、
(b)第2の成分として、フィブリノーゲン又はその機能性変異体を提供すること、
(c)第3の成分として、1つ又は複数の多形核好中球(PMN)を提供すること、
(d)前記成分を試験物質と、試験物質の存在なしに該成分が相互作用できる条件下で接触させること、及び
(e)PMNの活性化のあらゆる阻害をモニターすること
を含み、
これらによって、試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かを決定する方法と、
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、フィブリノーゲン及びその機能性変異体、並びにβインテグリン又はその機能性変異体、の間の相互作用を阻害できる試験物質を確認する使用に適したテストキットであって、
(a)分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、
(b)分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び
(c)分離されたβインテグリン又はその機能性変異体
を含むテストキットと、
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、フィブリノーゲン又はその機能性変異体、及びPMN、の間の相互作用を阻害することのできる試験物質を確認する使用に適したテストキットであって、
(a)連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、
(b)フィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び
(c)1つ又は複数のPMN
を含むテストキットと、
本発明の方法により確認される抗連鎖球菌物質と、
ヒト又は動物の身体の治療による処置の方法に用いる、本発明の方法により確認される抗連鎖球菌物質と、
連鎖球菌感染症の治療用薬物の製造における、インテグリン拮抗物質の使用と、
連鎖球菌感染症の治療用薬物の製造における、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリンの間の相互作用の阻害物質の使用と、
連鎖球菌感染症の治療用薬物の製造における、本発明の方法により確認された物質の使用と、
連鎖球菌感染症に罹患する個体の治療方法であって、治療上有効な量の本発明の方法により確認された物質を前記個体に投与することを含む治療方法と、
連鎖球菌感染症に罹患する個体の治療方法であって、治療上有効な量のインテグリン拮抗物質を前記個体に投与することを含む治療方法と、
連鎖球菌感染症に罹患する個体の治療方法であって、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間の相互作用の阻害物質の治療上有効な量を前記個体に投与することを含む治療方法と、
本発明の方法により確認された、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間の相互作用の阻害物質、並びに薬学的に許容された基剤又は希釈剤を含む薬剤組成物と、
薬剤組成物を提供する方法であって、
(a)本発明の方法により、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間の相互作用を阻害する物質を確認すること、及び
(b)このようにして確認された阻害物質を、薬学的に許容された基剤又は希釈剤と共に処方すること
を含む方法と、
連鎖球菌感染症に罹患する個体を治療する方法であって、
(c)本発明の方法により、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリンの間の相互作用を阻害する物質を確認すること、及び
(d)このようにして確認された阻害物質を、前記個体に治療上有効な量で投与することを含む方法と
をも提供する。
【0008】
配列表の簡単な説明
配列番号1は、ストレプトコッカスパイオゲンス(Streptococcus pyogenes)(全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)受入れ番号NP_269973)のM1タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号2は、フィブリノーゲンのNH−末端領域由来のペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、フィブリノーゲンのNH−末端領域由来の第2のペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、実施例で用いたRT−PCRのプライマーである。
配列番号5は、ヒトフィブリノーゲンα鎖アイソフォームαプレプロタンパク質(NCBI受入れ番号NP_068657)のアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、ヒトフィブリノーゲンβ鎖前駆物質(NCBI受入れ番号P02675)のアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、ヒトフィブリノーゲンγ鎖アイソフォームγ−B前駆物質(NCBI受入れ番号NP_068656)のアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、ヒトインテグリンα鎖前駆物質(NCBI受入れ番号NP_000623)のアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、ヒトインテグリンαサブユニット(α鎖)前駆物質(NCBI受入れ番号AAA51620)のアミノ酸配列を示す。
配列番号10は、ヒトβインテグリン鎖前駆物質(NCBI受入れ番号NP_000202)のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、抗連鎖球菌物質の確認方法を提供する。本発明の適する方法は、本質的に:
(i)分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、(ii)分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び(iii)分離されたβインテグリン又はその機能性変異体を、試験物質の存在なしに成分が相互作用できるであろう条件下、試験物質と接触させること、並びに
試験物質が、成分間の相互作用を阻害できるか否かを決定すること
からなる。
【0010】
したがって、試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かを、容易に決定することができる。
【0011】
分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体は、第1の成分として提供される。連鎖球菌のMタンパク質及びM様タンパク質は、よく知られている。80を超える様々な連鎖球菌のMタンパク質が存在する。本発明のMタンパク質は、例えば、M1、M3、M11、M12、又はM28であることができる。好ましくは、Mタンパク質はM1又はM3である。典型的には、Mタンパク質がストレプトコッカスパイオゲンス由来である。Mタンパク質が、ストレプトコッカスパイオゲンスのM1タンパク質であるのが好ましい。ストレプトコッカスパイオゲンスのM1タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号1に述べる。
【0012】
連鎖球菌のMタンパク質の機能性変異体は、フィブリノーゲンと複合体を形成する能力を維持している。このような複合体は、βインテグリンと結合することができる。機能性変異体は、連鎖球菌のMタンパク質のフラグメントであることができる。連鎖球菌のMタンパク質の機能性変異体は、フィブリノーゲンに特異的に結合するのが典型的である。Mタンパク質のフィブリノーゲンへの結合は、Akessonらが記載した(Akessonら、1994年、Biochem.J.,300巻、877〜866頁)ように分析することができる。連鎖球菌のMタンパク質の機能性変異体とフィブリノーゲンとの相互作用の結合定数は、1×10−6Mから1×10−12Mであるのが典型的である。例えば、結合定数は、1×10−7Mから1×10−11M、又は1×10−8Mから1×10−10Mであることができる。
【0013】
典型的には、このような機能性変異体のフィブリノーゲンに対する結合親和力は、天然型Mタンパク質の結合親和力と実質的に同じである。或いは、フィブリノーゲンに対する結合親和力は、天然型連鎖球菌のMタンパク質の結合親和力を超えるか、又はそれより小さくてよい。例えば、機能性変異体のフィブリノーゲンに対する結合親和力は、天然型連鎖球菌のMタンパク質の、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、又は少なくとも70%であることができる。或いは、機能性変異体のフィブリノーゲンに対する結合親和力は、天然型の連鎖球菌のMタンパク質の、少なくとも105%、少なくとも110%、少なくとも120%、又は少なくとも130%であることができる。例えば、連鎖球菌のMタンパク質の機能性変異体の、フィブリノーゲンに対する結合親和力は、天然型の、95%から105%、90%から110%、85%から120%、80%から130%、75%から140%、又は70%から150%であることができる。いずれの場合も、連鎖球菌のMタンパク質の機能性変異体と、フィブリノーゲンとの間の相互作用の結合定数は、1×10−6Mから1×10−12Mであるのが典型的である。例えば、結合定数は、1×10−7Mから1×10−11M、又は1×10−8Mから1×10−10Mであることができる。
【0014】
連鎖球菌のMタンパク質の機能性変異体は、配列番号1のストレプトコッカスパイオゲンスの天然型M1タンパク質のような、Mタンパク質のポリペプチドの配列と同様の配列のポリペプチドであることができる。したがって、これらの配列の全部の長さにわたって計算すると、機能性変異体は、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%、連鎖球菌のMタンパク質の配列と一致する配列を有するのが一般的である。UWGCGパッケージは、BESTFITプログラムを提供し、このプログラムを用いて(例えばそのデフォルト設定で使用して)同一性を計算することができる(Devereuxら、1984年、Nucleic Acids Research、12巻、387〜395頁)。例えば、Altschul S.F.、1993年、J Mol Evol、36巻、290〜300頁、Altschul S.F.ら、1990年、J Mol Biol、215巻、403〜10頁に記載されたように、PILEUP及びBLASTアルゴリズムを代わりに使用して、同一性を計算し、又は配列を決定することも可能である。したがって、UWGCGパッケージを用いてBESTFITプログラムをデフォルト設定で用いて、同一性を計算することができる。或いは、PILEUP又はBLASTアルゴリズムを用いて、配列の同一性を計算することも可能である。BLASTは、デフォルト設定で用いることができる。
【0015】
BLAST分析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Centre for Biotechnology Information)(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)により公的に入手できる。このアルゴリズムは、まず、データベース配列に同じ長さの言葉を並べた時に、ある正の値の境界スコア(threshold score)Tに一致するか又は条件を満足する問い合わせ配列(query sequence)において、長さWの短い言葉を同定することにより、ハイスコア配列ペア(HSP)を同定することを必要とする。Tは、文字列スコア境界値(neighbourhood word score threshold)(Altschulら、前出)と呼ばれる。これらの最初の文字列のヒットは、それを含むHSPを見つける検索を開始するためのシードとして作用する。ワードヒット(word hits)は、各配列に沿って、累積アラインメントスコア(cumulative alignment score)が増大できる限り両方向に広がる。両方向でワードヒットの伸長が止まるのは、その最高達成値(maximum achieved value)に由来する値Xにより累積配列スコアが低下する時、1つ又は複数の負の値の残余アラインメント(residue alignment)の蓄積により累積スコアがゼロ又はそれ未満になる時、又はどちらかの配列の末端に達した時である。BLASTアルゴリズムのパラメータであるW、T、及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTプログラムでは、デフォルトとして、文字列の長さ11(W)を、BLOSUM62スコアマトリックス(scoring matrix)(Henikoff及びHenikoff、1992年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA89巻、10915〜10919頁を参照)ではアラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、及び両鎖の比較を用いる。
【0016】
このBLASTアルゴリズムは、2配列間の相似性の統計的分析を行う。例えば、Karlin及びAltschul、1993年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90巻、5873〜5787頁を参照されたい。BLASTアルゴリズムが提供する相似性の指標の1つとして、最小合計確率(smallest sum probability)(P(N))があり、これは2つのポリヌクレオチド又はアミノ酸の配列間に一致(match)が偶然起こる確率の指標となる。例えば、第1の配列を第2の配列に対して比較して、最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは0.001未満である場合に、ある配列が別の配列と同じであると考えられる。
【0017】
機能性変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を有するストレプトコッカスパイオゲンスM1タンパク質のような連鎖球菌のMタンパク質の修飾型であることができる。修飾型の配列は、天然型Mタンパク質のアミノ酸配列とは異なる。天然型Mタンパク質の修飾型には、例えば、アミノ酸の置換、欠失、又は付加があることがある。例えば、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10個、又は少なくとも20個の、最高100個又は50個又は30個までの、アミノ酸の置換又は欠失があることがある。例えば、1から100個、2から50個、3から30個、又は5から15個までのアミノ酸の置換又は欠失があることがある。置換がある場合、例えば次の表によるように、置換は保存的置換であるのが典型的である。第2コラムで同じ区画にあるアミノ酸、好ましくは、第3コラムの同じ行のアミノ酸は、相互に置換することができる。欠失は、連鎖球菌のMタンパク質の配列の一端又は両端のアミノ酸の欠失であるのが好ましい。或いは、フィブリノーゲンとの相互作用に関係のない領域の欠失である。例えば、欠失はストレプトコッカスパイオゲンスM1タンパク質のS−C3フラグメント中であることができる。
【0018】
【表1】

【0019】
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体は、さらなる異種ポリペプチド配列と融合して融合ポリペプチドを生成することができる。したがって、さらなるアミノ酸残基を、例えば、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体の、片側末端又は両側末端に設けることができる。さらなる配列は、あらゆる知られた機能を遂行することができる。典型的には、キャリヤーポリペプチドを提供する目的で加えることができ、キャリヤーポリペプチドにより、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体を、例えばラベル、固体マトリックス、又は担体に固定することができる。したがって、本発明で使用する第1の成分は、異種の配列を含む融合ポリペプチドの形態であることができる。実際、融合ポリペプチドを用いると多くの場合で実際上便利であることがある。これは、融合ポリペプチドは、リコンビナント細胞系、例えばリコンビナント細菌又は昆虫細胞系で、容易且つ安価に生成できるからである。融合ポリペプチドは、天然型連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体よりも高レベルで発現することがある。典型的には、これは、エンコードするRNAの翻訳が増加するか、又は分解が減少するためである。さらに、融合ポリペプチドは、確認及び分離が容易であることがある。融合ポリペプチドは、上記に述べたポリペプチド配列、及びキャリヤー又はリンカー配列を含むのが典型的である。キャリヤー又はリンカー配列は、典型的にはヒト以外、好ましくは哺乳類以外の起源、例えばバクテリア起源に由来する。これは、構造Mタンパク質又はその機能性変異体の標的である、融合ポリペプチド及びフィブリノーゲンの異種配列間の非特異的相互作用の発生を最小にするためである。
【0020】
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体は、その分離を助けるために、例えば、ヒスチジン残基、T7タグ、又はグルタチオンS−トランスフェラーゼを付加して修飾することができる。或いは、異種の配列は、例えば、細胞からの連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体の分泌を促進することができるか、又は、細胞膜のような特定の細胞内の場所を発現の標的にすることができる。アミノ酸キャリヤーは、長さ1から400個のアミノ酸、又はより典型的には長さ5から200残基であることができる。Mタンパク質又はその機能性変異体は、キャリヤーポリペプチドと直接、又は介在するリンカー配列を介して結合することができる。結合に用いられる典型的なアミノ酸残基は、チロシン、システイン、リジン、グルタミン酸、又はアスパラギン酸である。
【0021】
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体は、例えば翻訳後修飾のように、化学的に修飾することができる。例えば、修飾されたアミノ酸残基を含むことができるか、又はグリコシル化することができる。これらは、アミド及びポリペプチドの結合体を含む様々な形態のポリペプチド誘導体であることができる。
【0022】
化学的に修飾された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体はまた、機能性側基の反応により化学的に誘導された残基を1つ又は複数有するものを含む。このように誘導された側基は、誘導されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、及びホルミル基を構成するものを含む。遊離のカルボキシル基を誘導して、塩、メチル及びエチルエステル、若しくはその他のタイプのエステル、又はヒドラジドを構成することができる。遊離のヒドロキシル基を誘導してO−アシル又はO−アルキル誘導体を構成することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素を誘導して、N−im−ベンジルヒスチジンを構成することができる。
【0023】
また、化学的に修飾された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体として、20個の標準アミノ酸の、1つ又は複数の天然アミノ酸誘導体を含むものも、含まれる。例えば、4−ヒドロキシプロリンがプロリンに置換することがあり、ホモセリンがセリンに置換することがある。
【0024】
連鎖球菌のMタンパク質若しくはその機能性変異体、及び/又は第1の成分の部分として用いられる他のポリペプチドは、検出用ラベルを有することができる。好適なラベルには、125I、32P、若しくは35Sのような同位体ラベル、蛍光ラベル、酵素ラベル、又はビオチンのようなその他のタンパク質ラベルが含まれる。
【0025】
第2の成分は、分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体を含む。フィブリノーゲンは、酵素トロンビンの作用により血液中の不溶性フィブリンから変換される可溶性の血漿タンパク質である。フィブリノーゲンは血餅の形成の一因となる。フィブリノーゲンは、6個のペプチド鎖から構成される。これらのペプチド鎖は、2個の同一のサブユニット中に配置され、各々のサブユニットは1個のAα、1個のBβ、及び1個のγ鎖がジスルフィド結合で結合したものから成る。連鎖球菌のMタンパク質はフィブリノーゲンに結合し(Kantor、1965年、J.Exp.Med.、121巻、849〜859頁)、その親和力は高い(Akessonら、1994年、Biochem.J.、300巻、877〜886頁、及びBergeら、1997年、J.Biol.Chem、272巻、20774〜20781頁)。フィブリノーゲンもまた、βインテグリンを介してPMNに結合する(Altieri、1999年、Thromb.Haemost.、82巻、781〜786頁)。βインテグリンに対する結合部位Mac1は、フィブリノーゲンのAα鎖のN末端部位にあると同定されている。さらに、γ鎖のC末端終末部に見出される、独特の配列であるKQAGDVは、インテグリンの結合に不可欠である。
【0026】
フィブリノーゲンの機能性変異体は、連鎖球菌のMタンパク質に結合して、複合体を形成する能力を維持している。このような複合体は、その後、βインテグリンに結合することができる。フィブリノーゲンの機能性変異体は、連鎖球菌のMタンパク質に対し実質的に特異的な結合を示すのが典型的である。フィブリノーゲンの機能性変異体と連鎖球菌のMタンパク質との間の相互作用に対する結合定数は、1×10−6Mから1×10−12Mであるのが典型的である。例えば、結合定数は、1×10−7Mから1×10−11M、又は1×10−8Mから1×10−10Mであることができる。
【0027】
典型的には、フィブリノーゲンの機能性変異体の連鎖球菌のMタンパク質に対する結合親和力は、天然型フィブリノーゲンの結合親和力と実質的に同じである。或いは、連鎖球菌のMタンパク質に対する結合親和力は、天然型フィブリノーゲンの結合親和力を超えることもあり、それより小さいこともある。例えば、フィブリノーゲンの機能性変異体の連鎖球菌のMタンパク質に対する結合親和力は、天然型フィブリノーゲンの結合親和力の少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、又は少なくとも70%であることができる。或いは、機能性変異体の連鎖球菌のMタンパク質に対する結合親和力は、天然型フィブリノーゲンの結合親和力の少なくとも105%、少なくとも110%、少なくとも120%、又は少なくとも130%であることができる。例えば、機能性変異体の連鎖球菌のMタンパク質に対する結合親和力は、天然型フィブリノーゲンの結合親和力の95%から105%、90%から110%、85%から120%、80%から130%、75%から140%、又は70%から150%であることができる。いずれの場合も、フィブリノーゲンの機能性変異体と連鎖球菌のMタンパク質との間の相互作用に対する結合定数は1×10−6Mから1×10−12Mであるのが典型的である。例えば、結合定数は、1×10−7Mから1×10−11M、又は1×10−8Mから1×10−10Mであることができる。
【0028】
フィブリノーゲンの機能性変異体は、フィブリノーゲンの天然Aα鎖の配列と同じ配列を有するAα鎖、例えば配列番号5に示したヒトAα鎖を含むことができる。フィブリノーゲンの機能性変異体は、天然Bβ鎖の配列と同様の配列を有するBβ鎖、例えば配列番号6に示したヒトBβ鎖を含むことができる。フィブリノーゲンの機能性変異体は、天然γ鎖の配列と同様であるγ鎖、例えば配列番号7に示したヒトγ鎖を含むことができる。したがって、Aα、Bβ、又はγ鎖の配列は、フィブリノーゲンの天然型Aα、Bβ、又はγ鎖、例えば配列番号5から7に示したヒトAα、Bβ、又はγ鎖に対し、これら配列のすべての長さにわたって計算して、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列が同一である。一方、鎖は依然として集合して機能性分子になることができなければならない。上記に述べた方法を用いて、配列の同一性を計算することができる。UWGCGパッケージのBESTFITプログラムを、デフォルト設定で用いることができる。或いは、PILEUP又はBLASTアルゴリズムをデフォルト設定で用いることができる。
【0029】
機能性変異体は、例えば、フィブリノーゲンのAα、及び/又はBβ、及び/又はγ鎖におけるアミノ酸の置換、欠失、又は付加を有することができるフィブリノーゲンの修飾型であることができる。このような置換、欠失、又は付加は、例えば、配列番号5から7に示したヒトAα、Bβ又はγ鎖の配列に対してなされることができる。鎖のあらゆる組合せを、又はすべての鎖を修飾することができる。一方、どんな置換、欠失、又は付加があっても、フィブリノーゲンのAα、Bβ又はγ鎖が集まって機能性分子となることが依然としてできなければならない。それぞれの鎖において、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも20個、又は少なくとも50個の、例えば、各々の鎖につき最高70個又は50個又は30個までの、アミノ酸の置換又は欠失があることがある。例えば、1から70個、2から50個、3から30個、又は5から20個までのアミノ酸の置換又は欠失があることがある。置換がある場合は、上記に述べたように、置換は保存的置換であるのが典型的である。欠失は、例えば配列番号5から7に示したもののような、フィブリノーゲンのAα、Bβ又はγ鎖の配列の片側末端又は両側末端のアミノ酸の欠失であるのが好ましい。或いは、連鎖球菌のMタンパク質との相互作用に関係のない領域の欠失である。
【0030】
フィブリノーゲン又はその機能性変異体のポリペプチド鎖はいずれも、ポリペプチド鎖が集合して機能性分子となることが依然としてできる限り、さらなる異種のポリペプチド配列と融合して、融合ポリペプチドを生成することができる。このような融合ポリペプチドは、キャリヤーポリペプチドであることができるか、又はリンカー配列を含むことができる。このようなポリペプチドは、上記に述べてある。
【0031】
フィブリノーゲン又はその機能性変異体のポリペプチド鎖は、上記に述べたように化学的に修飾することができる。或いは、フィブリノーゲン又はその機能性変異体のポリペプチド鎖は、検出用ラベルを有することができる。好適なラベルは、上記に述べてある。
【0032】
第3の成分は、分離されたβインテグリン又はその機能性変異体である。インテグリンは、β鎖とα鎖とから構成されるヘテロ二量体細胞表面接着受容体の大系統群である。各サブユニットは、大きな細胞外領域、1個の膜内外領域、及び短い細胞質領域から成る。多くのα及びβサブユニットが確認されており、これらは限られた方法で関わることができる。通常、αサブユニットは、特定のβサブユニットと関わるにすぎないが、βサブユニットはさらに手当たり次第に関わりを持つ。βインテグリンは、PMNにより発現される最も豊富なインテグリンである。4個の異なるα鎖(α、α、α、及びα)がβ鎖と関わることができる。この中では、CD11b/CD18としても知られるαβ、及びCD11c/CD18としても知られるαβは、PMNで発現する主要なインテグリンである。これらはフィブリノーゲンのレセプターである。
【0033】
βインテグリンの機能性変異体は、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体に結合する能力を維持している。βインテグリンの機能性変異体は、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体と特異的に結合するのが典型的である。βインテグリンの機能性変異体と連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体との間の相互作用の結合定数は、1×10−6Mから1×10−12Mであるのが典型的である。例えば、結合定数は、1×10−7Mから1×10−11M、又は1×10−8Mから1×10−10Mであることができる。
【0034】
典型的には、βインテグリンの機能性変異体の、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体に対する結合親和力は、天然型βインテグリンの結合親和力と実質的に同じである。或いは、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体に対する結合親和力は、天然型βインテグリンの結合親和力を超えることもあり、それより小さいこともある。例えば、βインテグリンの機能性変異体の、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体に対する結合親和力は、天然型βインテグリンの結合親和力の少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、又は少なくとも70%であることができる。或いは、機能性変異体に対する結合定数は、天然型βインテグリンの少なくとも110%、少なくとも120%、又は少なくとも130%であることができる。例えば、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体に対する機能性変異体の結合親和力は、天然型βインテグリンの結合親和力の70%から160%、75%から150%、80%から140%、85%から130%、90%から120%、又は95%から110%であることができる。いずれの場合も、βインテグリンの機能性変異体と連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体との間の相互作用に対する結合定数は1×10−6Mから1×10−12Mであるのが典型的である。例えば、結合定数は、1×10−7Mから1×10−11M、又は1×10−8Mから1×10−10Mであることができる。
【0035】
βインテグリンの機能性変異体は、βインテグリンの天然α鎖又は天然β鎖のいずれかの配列と同様の配列を有するα及び/又はβ鎖を含むことができる。例えば、α鎖は、配列番号8に示したヒトα鎖の配列、又は配列番号9に示したヒトα鎖の配列と同様の配列を有することができる。β鎖は、配列番号10に示したヒトβ鎖の配列と同様の配列を有することができる。したがって、α及び/又はβ鎖は、天然型α又はβ鎖の配列、例えば配列番号8から10に示したものと、これら配列のすべての長さにわたって計算して、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一の配列を有することができる。再び、上記に述べたパッケージを用いて、配列の同一性を計算することができる。UWGCGパッケージのBESTFITプログラムを、デフォルト設定で用いることができる。或いは、PILEUP又はBLASTアルゴリズムをデフォルト設定で用いることができる。
【0036】
βインテグリンの機能性変異体は、例えばα又はβ鎖の一方又は両方にアミノ酸が置換、欠失、又は付加した、βインテグリンの修飾型であることができる。例えば、α、α、又はβ鎖は、例えば配列番号8から10に示したヒトα、α、及びβ鎖の配列のような天然α、α、又はβ鎖の配列に対する、置換、欠失、又は付加を含むことができる。α及びβ鎖の一方又は両方で、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも30個、少なくとも50個、又は少なくとも100個、例えば、最高200個、100個、50個、又は30個までのアミノ酸の置換又は欠失があることがある。例えば、1から200個、2から150個、3から100個、5個から50個、又は10から30個までのアミノ酸の置換又は欠失があることがある。上記に述べたように、あらゆる置換は保存的置換であるのが典型的である。欠失は、好ましくは、配列番号8から10に示した配列のいずれかのような、α又はβ鎖の配列の片側末端又は両側末端のアミノ酸の欠失である。或いは、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体との相互作用に関与しない領域の欠失である。
【0037】
βインテグリン又はその機能性変異体のα又はβ鎖は、異種のポリペプチド配列と融合して融合ポリペプチドを生成することができる。これにより、上記に述べたようにキャリヤーポリペプチドを生成することができる。或いは、βインテグリン又はその機能性変異体のα又はβ鎖は、例えば、その分離を助けるために、アミノ酸残基の付加などにより修飾されることができる。これはキャリヤーポリペプチドと直接、又はリンカー配列を通じて結合することができる。βインテグリン又はその機能性変異体のα又はβ鎖は、上記に述べたように化学的に修飾することができるか、検出用ラベルを有することができる。好適なラベルは、上記に述べてある。
【0038】
本発明の方法は、あらゆる好適なプロトコールに従って実行することができる。この方法が、例えば、プラスチック製のマイクロタイタープレートのシングルウェルのような個別の反応器中で行うことができるよう調節され、したがって高処理能力スクリーニングに適合できるのが、好ましい。したがって、アッセイがin vitroアッセイであるのが好ましい。
【0039】
第1の成分の一部として用いられる、連鎖球菌のMタンパク質若しくはその機能性変異体、及び/又はその他のポリペプチドは、リコンビナントDNA法を用いて発現することができる。例えば、好適なポリペプチドは、例えば、細菌又は昆虫の細胞系で発現することができる(例えば、Mungerら、1998年、Molecular Biology of the Cell、9巻、2627〜2638頁)。典型的には、リコンビナント連鎖球菌のMタンパク質は、大腸菌(E.coli)における発現で生成することができる。Mタンパク質が、ストレプトコッカスパイオゲンスM1タンパク質であるのが好ましい。リコンビナントポリペプチドは、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体をエンコードしたポリヌクレオチドを提供することにより生成される。このようなポリヌクレオチドには、例えばプロモーター配列のような、好適なコントロール部位が提供され、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体の発現のために発現ベクター及び同様のものに提供される。好適なポリペプチドは、あらゆる適する細菌から、生化学的に分離することができる。
【0040】
或いは、Mタンパク質は、内因性にMタンパク質を発現する連鎖球菌の細胞から、又はリコンビナント法の使用により得ることができる。例えば、ストレプトコッカスパイオゲンス由来のMタンパク質は、ストレプトコッカスパイオゲンスの細胞をプロテアーゼで処理して生成することができる。Mタンパク質は、M1タンパク質であるのが好ましい。プロテアーゼは、ストレプトコッカスパイオゲンス内因性、例えば、ストレプトコッカスパイオゲンスシステインプロテイナーゼSpeBであることができる。或いは、プロテアーゼはPMNから誘導することができる。PMNプロテアーゼはPMNを溶解して生成するのが典型的である。プロテアーゼもまた、リコンビナントで生成することができる。Mタンパク質は、或いは、細胞膜貫通部を欠く、先端のない型のMタンパク質の発現により得ることができる(Collin and Olsen、2000年、Mol.Microbiol.、36巻、1306〜1318頁)。このようなタンパク質は、ストレプトコッカスパイオゲンス又は大腸菌で発現でき、タンパク質分解の切断を必要とせずに細菌により分泌される。
【0041】
或いは、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体は、化学的に合成することができる。メリフィールド(Merrifield)の固相合成法のような合成技術は、純粋であり、抗原特異性があり、不要な副産物がなく、産生が容易であるとの理由から好ましいことがある。固相ペプチド合成法に適した技術は、当業者にはよく知られている(例えば、Merrifieldら、1969年、Adv.Enzymol、32巻、221〜96頁、及びFieldsら、1990年、Int.J.Peptide Protein Res、35巻、161〜214頁を参照されたい)。一般に、固相合成法は、伸長していくペプチド鎖に1つ又は複数のアミノ酸残基、又は好適に保護されたアミノ酸残基を連続的に付加することを含む。
【0042】
フィブリノーゲン又はその機能性変異体は、上記に述べたように細菌又は昆虫の細胞系での発現のようなリコンビナント法により生成することができる。或いは、フィブリノーゲン又はその機能性変異体は、化学的に合成することができる。フィブリノーゲンは、ヒトの血液、好ましくはヒト血漿から分離することができる。
【0043】
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体は、フィブリノーゲン又はその機能性変異体と共同して提供することができる。即ち、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体と、フィブリノーゲン又はその機能性変異体との複合体を本発明で用いることができる。このような複合体は、βインテグリンと結合することができる。或いは、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体と、フィブリノーゲン又はその機能性変異体とを、個々に提供することができる。
【0044】
βインテグリン又はその機能性変異体は、上記に述べたようにリコンビナント法又は化学的合成で生成することができる。βインテグリンは、PMN溶解物から分離することができる。
【0045】
上記に述べた方法で用いられる、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリンは、実質的に分離された形態で提供される、即ち、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン、又はこれらのあらゆる機能性変異体は、上記に述べたように生成し、その後分離することができる。これらは、一般に、製剤中の乾燥量の、少なくとも80重量%、例えば、少なくとも90重量%、95重量%、又は99重量%を含むことができる。
【0046】
本発明で用いる連鎖球菌のMタンパク質、及び/又はフィブリノーゲン、及び/又はβインテグリンは、非天然型の形態で存在することができる。連鎖球菌のMタンパク質、及び/又はフィブリノーゲン、及び/又はβインテグリンは、実質的に精製された形態であることができる。
【0047】
本発明の代替方法は、実質的に、
(i)連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、(ii)フィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び(iii)1つ又は複数の多形核好中球(PMN)を、試験物質の存在なしに成分が相互作用できる条件下で試験物質と接触させること、及び
PMNの活性化のあらゆる阻害をモニターすること
からなる。
【0048】
そこで、試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かが、速やかに決定できる。
【0049】
第1の成分である連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、及び第2の成分であるフィブリノーゲン又はその機能性変異体は、上記に述べたあらゆる方法で提供することができる。PMNは、ヒト血液中に備えられていることがある。連鎖球菌のMタンパク質及びフィブリノーゲンは、PMNの表面上でβインテグリンを介してPMNに結合する。
【0050】
本発明の典型的な方法では、分離された連鎖球菌のMタンパク質、分離されたフィブリノーゲン、及び分離されたβインテグリンを混合する。その後、試験物質の存在なしに成分が相互作用できる条件下で、試験物質を混合物に添加する。分離された連鎖球菌のMタンパク質、分離されたフィブリノーゲン、及び分離されたβインテグリンを、試験物質存在なしに混合し、試験物質のないところで成分が相互作用をするかどうかを決定し、例えば、試験物質のないところで成分が凝集物を形成するか否かを決定することにより、好適な条件を確認することができる。こうした凝集物は、電子顕微鏡で検出することができる。或いは、放射性同位元素でラベルしたタンパク質を用いて、反応混合物をスパイクし、凝集物中の放射能量を用いて凝集物形成を定量することができる。
【0051】
本発明の代替方法では、連鎖球菌のMタンパク質と血漿との混合物でPMNを再構成する(フィブリノーゲンを提供するために)。その後、試験物質の存在なしに成分が相互反応できる条件下で、試験物質を混合物に添加する。試験物質の存在なしにPMNを連鎖球菌のMタンパク質と血漿との混合物で再構成して、且つ、成分が凝集物を形成するか否か、又は試験物質の存在なしにPMNが活性化するか否かを決定して、好適な条件を確認することができる。PMNの活性化は、HBPの放出をモニターすることにより決定するのが典型的である。
【0052】
細胞接着アッセイを、代わりに行うことができる。典型的な細胞接着アッセイでは、分離されたMタンパク質及び分離されたフィブリノーゲンから形成された、連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体が、好適な器、特にプラスチック製のマイクロタイタープレートのウェルの壁面上にコーティングしてある。1つの好適なアッセイ形式では、例えば、化学的に、又はリコンビナントで生成され、その後分離された第3の成分であるβインテグリンを、試験物質と一緒にアッセイ用の器に添加するだけである。βインテグリンがMタンパク質−フィブリノーゲン複合体に結合した後、例えば放射線ラベル又は蛍光ラベルのようなラベルを有するβインテグリンを使用することができる。
【0053】
或いは、別の好適なアッセイ形式では、PMN細胞を器に添加し、試験物質の存在下で連鎖球菌のMタンパク質−フィブリノーゲン複合体を相互作用させる。この複合体は、連鎖球菌のMタンパク質をフィブリノーゲンと混合するだけで構成することができる。その後、Mタンパク質−フィブリノーゲン複合体に結合する細胞数を決定する。これは、例えば、細胞を染色し、その後分光光度法を行って実施することができる。場合により、染料を溶出させ、溶出した試料を分光測定することがある。
【0054】
本発明の代替のアッセイでは、Mタンパク質−フィブリノーゲン複合体は、好適な器の壁面にコーティングされ、その後、器にPMN細胞を添加して、試験物質の存在下でMタンパク質−フィブリノーゲン複合体と相互作用させる。PMNの活性化をモニターすることで、Mタンパク質−フィブリノーゲン複合体とPMNとの結合阻害を検出する。典型的には、これはヘパリン結合タンパク質(HBP)の放出をモニターして検出することができる。本発明の好ましい方法は、上記に述べたアッセイにおけるように、PMNの表面上でMタンパク質−フィブリノーゲン複合体がβインテグリンに結合するのを試験物質が阻害するか否かを試験するために、ストレプトコッカスパイオゲンス、フィブリノーゲン、及びPMNを試験物質に提供することを含む。
【0055】
本発明の好適な方法は、適する緩衝液の存在下で行うことができる。
【0056】
好適な対照実験を行うことができる。例えば、Mタンパク質−フィブリノーゲン複合体と分離されたβインテグリン又はPMNとの間の相互作用をモニターするために、試験物質の存在なしにアッセイを行うことができる。
【0057】
上記の方法で試験することができる好適な試験物質には、コンビナトリアルライブラリ、規定された化学物質、ペプチド及びペプチド類似体、オリゴヌクレオチド、並びに天然物ライブラリ、例えばディスプレイ(ファージ提示法ライブラリなど)及び抗体生成物が含まれる。例えば、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体、一本鎖抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、並びにヒト化抗体を用いることができる。抗体は、完全な免疫グロブリン分子、又はそのフラグメント、例えばFab、F(ab’)、又はFvフラグメントであることができる。好適なペプチドは、GPRP配列のペプチドを含む。好適な抗体は、ストレプトコッカスパイオゲンスM1タンパク質のB反復に対する抗体、モノクローナル抗体IB4、及びCD11cに対する抗体を含む。
【0058】
好適な試験物質は、また、インテグリン拮抗物質、典型的にはβインテグリン拮抗物質を含む。好適なインテグリン拮抗物質は、抗インテグリン抗体、ペプチド類似体、及び非ペプチド類似体を含む。抗インテグリン抗体は、上記に述べた抗体のあらゆるタイプであることができる。拮抗物質は、拮抗物質が存在する場合にはレセプターに結合して生物学的作用を表す作用物質の作用を、拮抗物質の存在なしでは、阻害するか否かを試験することにより確認することができる。
【0059】
典型的には有機分子、好ましくは分子量50から2500ダルトンの小型有機分子を審査する。候補となる製品は、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体、又はそれらの組合せを含む生体分子であることができる。候補となる物質は、合成又は天然化合物のライブラリを含む多方面の供給源から得られる。知られた薬物に、目的のある、又は任意の化学的修飾、例えば、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等を行い、構造類似体を生成することができる。
【0060】
最初の審査では、試験物質は、例えば1反応当たり10個の物質を用いることができ、阻害を示したバッチの物質は個々に試験した。試験物質は、1nMから1000μMの濃度、好ましくは1μMから100μMの濃度、より好ましくは1μMから10μMの濃度で用いることができる。
【0061】
連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間の相互作用の阻害物質は、上記に述べた方法における相互作用において測定可能な減少を引き起こした阻害物質である。相互作用の阻害物質は、その阻害物質の存在なしでの相互作用の程度に比較すると、減少又は実質的にない程度の相互作用を引き起こす物質である。好ましい阻害物質は、1μgml−1、10μgml−1、100μgml−1、500μgml−1、1mgml−1、10mgml−1、100mgml−1の阻害物質の濃度で、相互作用を、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%阻害する物質である。阻害のパーセント値は、試験物質の存在下、及び存在なしでのアッセイを比較したとき、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間のあらゆる相互作用でパーセント値が減少したことを表す。上記に述べた阻害パーセント値及び阻害物質の濃度のあらゆる組合せを用いて、本発明の阻害物質を規定することができ、この場合、濃度が低くなるほど阻害が大きくなるのが好ましい。本発明の方法で活性を示す試験物質は、動物疾病モデルのようなin vivo法で試験することができる。即ち候補となる阻害物質は、連鎖球菌によりマウスに引き起こされる炎症、及び/又は肺の病変を緩和する能力を試験することができる。したがって、本発明の方法で確認された試験物質が、抗連鎖球菌物質として効果的であるか否かを決定することができる。
【0062】
本発明の阻害物質は、実質的に精製された形態であることができる。これらは、実質的に分離された形態であることができ、この場合、概ね、製剤中の乾燥量の少なくとも80重量%、例えば、少なくとも90重量%、95重量%、97重量%、又は99重量%を含む。生成物には、実質的に他の細胞構成成分がないのが典型的である。本発明の方法では、生成物は、このように実質的に分離されたか、精製されたか、又は遊離の形態で使用することができる。
【0063】
本発明は、また、テストキットを提供する。好適なキットは、分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び分離されたβインテグリン又はその機能性変異体から実質的に成る。本発明の代替のキットは、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、フィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び1つ又は複数のPMNから実質的に成る。テストキットは、また、試験物質が成分間の相互作用をかく乱するか否かを決定する手段も含む。そのような手段は、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン又はPMNが、本技術分野で知られたあらゆる方法で相互作用をするか否かを決定するのに必要な試薬及び溶液であることができる。本発明のテストキットは、1つ又は複数の緩衝液もまた含むことができる。本発明のキットは、場合により包装して提供され、好ましくはキットの使用説明書を含む。
【0064】
本発明の阻害物質を、ヒト又は動物の身体の治療による処置方法に使用することができる。特に、本発明の阻害物質を連鎖球菌感染症の治療、好ましくはストレプトコッカスパイオゲンスによる感染症の治療に用いることができる。連鎖球菌感染症に罹患している患者の病状を改善するために阻害物質を用いることができる。このような阻害物質を、ヒト又は動物の処置に用いてもよい。このような阻害物質を、予防的処置に、例えば連鎖球菌感染症に、より罹患しやすい免疫抑制された患者に用いることができる。或いは、このような物質を、連鎖球菌感染症であることが実証された患者の症状を軽減するために用いることができる。阻害物質の治療上有効な量を、それを必要とする宿主に与えることができる。
【0065】
阻害物質は、様々な剤形で投与することができる。即ち、例えば、錠剤、トローチ剤、薬用ドロップ剤、水性又は油性懸濁剤、分散可能な粉末剤又は顆粒剤として、経口投与することができる。これらはまた、皮下に、静脈に、筋肉内に、胸骨内に、経皮的に、又は点適法など、非経口的に投与することができる。これらはまた、坐剤として投与することもできる。医師が、特定の患者ごとに必要な投与経路を決定することができる。
【0066】
連鎖球菌感染症の予防又は処置に用いるための阻害物質の処方は、薬理学的使用を意図するか、獣医学的使用を意図するかなどといった、その物質の性質のような要因による。阻害物質は、同時使用、単独使用、又は連続使用に処方することができる。
【0067】
阻害物質は、本発明において、薬学的に許容された基剤又は希釈剤と共に、投与するために処方するのが典型的である。薬学的に許容された基剤又は希釈剤は、例えば等張液であることができる。例えば、経口用固体剤形は、有効成分と共に、ラクトース、デキストロース、ショ糖、セルロース、コーンスターチ、又はバレイショデンプンのような希釈剤、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはカルシウム、及び/又はポリエチレングリコールのような滑沢剤、デンプン、アラビアガム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルピロリドンのような結合剤、デンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、又はナトリウムスターチグリコレートのような崩壊剤、飽和剤、色素、甘味剤、レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸のような湿潤剤、並びに、一般的に薬剤処方に使用される非毒性で薬学的に不活性の物質を含むことができる。このような薬物製剤は、例えば、混合、顆粒化、錠剤化、糖衣コーティング、又はフィルムコーティングのプロセスのような知られた方法で製造される。
【0068】
経口投与のための液体分散系は、シロップ剤、乳剤、又は懸濁剤であることができる。シロップ剤は、例えば、ショ糖、若しくはショ糖入りグリセリン、及び/又はマンニトール、及び/又はソルビトールを基剤として含むことができる。
【0069】
懸濁剤及び乳剤は、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを基剤として含むことができる。筋肉注射用の懸濁剤又は水溶液は、有効成分と共に薬学的に許容された基剤、例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール、例えばプロピレングリコール、及び所望により適量の塩酸リドカインを含むことができる。
【0070】
静脈投与又は注入用の溶液は、基剤として、例えば、滅菌水を含むことができるか、又は好ましくは、滅菌等張生理食塩水の形態であることができる。
【0071】
治療上有効な量の阻害物質を、それを必要とする個体に投与する。阻害物質の投与量は、様々なパラメータに応じ、特に、用いる物質、治療する患者の年齢、体重及び病状、投与経路、並びに必要とする治療計画に応じて決定することができる。繰り返すと、医師は、あらゆる特定な患者に必要な投与経路及び投与量を決定することができる。典型的な1日投与量は、特定の物質の活性、治療を行う対象者の年齢、体重、及び病状、変性のタイプ及び重症度、並びに投与頻度及び経路により、体重1kg当たり約0.1から50mgである。1日投与量のレベルが、5mgから2gであるのが好ましい。
【0072】
以下に実施例を挙げて、本発明を説明する。
【実施例】
【0073】
材料と方法
試薬。好中球分離培地(Neutrophil Isolation Medium)(NIM)はCardinal Associates社(ニューメキシコ州、サンタフェ)より購入した。Glutamax I(登録商標)入りRPMI 1640培地、アール塩(Earle’s salts)及びL−グルタミン酸入り最小必須培地(Minimum Essential Medium(MEM))、ウシ胎児血清、及びペニシリン(5000単位/ml)/ストレプトマイシン(5000μg/ml)溶液は、Life Technologies(スウェーデン、Taby)より購入した。イオノマイシン及びホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニン(fMLP)は、Calbiochem(カリフォルニア州、ラホーヤ)より入手した。N,N’−(1,2−エタンジイルビス(オキシ−2,1−フェニレン))ビス(N−(カルボキシメチル))(BAPTA)、及びProLong(登録商標)Antifade Kitは、Molecular Probes(オレゴン州、ユージーン)より入手した。4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)は、Merck(ニュージャージー州、ホワイトハウスステーション)より入手した。連鎖球菌のシステインプロテイナーゼ(SpeB)酵素前駆体は、AP1細菌の培地より、硫酸アンモニウム沈殿(80%w/v)により、その後S−セファロース分画により精製した(Bergeら、1997年、J.Biol.Chem.、272巻、20774〜20781頁)、リコンビナントM1タンパク質、A−S及びS−C3フラグメント、及びタンパク質Hは、先に記載したように、大腸菌における発現により得、精製した(Akessonら、1994年、Biochem.J.、300巻、877〜886頁、及びBergeら、1997年、J.Biol.Chem.、272巻、20774〜20781頁)。リコンビナントヒトHBPは、Sf9昆虫細胞におけるバキュロウィルス発現系(カリフォルニア州、カールズバッド、Invitrogen Corp)を用いて生成し、記載通りに精製した(Laemmli、1970年、Nature、227巻、680〜685頁)。リポタイコ酸(LTA)、ヒアルロン酸(HA)、及びウシ血清アルブミン(BSA)は、Sigma Chemical社(ミズーリ州、セントルイス)より入手した。マウスmAB 2F23C3、及びリコンビナントHBPに対するウサギ抗血清(409A)は、先に記載したように調製及び精製し(Lindmarkら、J.Leukoc.Biol.、66巻、634〜643頁)、ペルオキシダーゼ結合体ヤギ抗ウサギIgGは、Bio−Rad Laboratories(カリフォルニア州、リッチモンド)より入手した。ペプチドH−2935(Gly−Pro−Arg−Pro)、及びH−2940(Gly−His−Arg−Pro)は、Bachem Feinchemikalien AG(スイス、Bubendorf)より購入した。フルニアソン/フェンタニル、及びミダゾラムは、ベルギー、Beers、Janssen Pharmaceutica、及びスイス、バーゼル、Hoffman−LaRocheより入手した。
【0074】
細胞の培養、好中球の分離、及び細胞の刺激。健康志願者の新鮮ヘパリン化血液より、一段階密度勾配培地であるNIMを用いて、製造元より提供された指示に従い、ヒトPMNを分離した。血球計算機でPMNを計数し、MEM培地中10細胞/mlに再懸濁し、使用するまで室温でこの培地中で回転を続けた。分離したPMNに対する実験はすべてNa培地中で行い、PMN分離後1時間以内に開始した。前述した通り(Gautamら、2000年、J.Exp.Med.、191巻、1829〜1839頁)、CD11b/CD18とクロスリンクしている抗体を通じてPMNを活性化することにより、好中球のプロテイナーゼの放出を誘導した。
【0075】
細菌株。本研究で用いたストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)AP1株は、チェコスロバキア共和国、プラハにある、世界保健機構連鎖球菌照会・研究コラボレーティングセンター、衛生疫学研究所(World Health Organization Collaborating Centre for references and Research on Streptococci, Institute of Hygiene and Epidemiology)から得た40/58株である。この株の、タンパク質結合特性について記載されている(Akessonら、1990年、J.Immunol.、27巻、523〜531頁、Akessonら、1994年、Biochem J.、300巻、877〜886頁、及びGomiら、1990年、J.immunol.、v.144巻、4046〜4052頁)。MC25株はAP1の変異株であり、表面に関連するM1タンパク質を欠いているが、先に記載した通り生成された(Collin及びOlsen、2000年、Mol.Microbiol.、36巻、1306〜1318頁)。
【0076】
ストレプトコッカスパイオゲンスの酵素処理。ストレプトコッカスパイオゲンス(AP1株)を、トッドヘヴィットブロス(Todd−Hewitt broth)(ミシガン州、デトロイト、Difco社製)で37℃16時間増殖後、3000xgで20分間遠心分離して回収した。細菌をPBSで2回洗浄し、PBSに再懸濁して2×10細胞/mlとした。PMNの分泌生成物を様々な量で細菌懸濁液に添加し、続けて37℃で2時間インキュベートした。細菌を3000xgで20分間遠心沈降させ、得られたペレット及び上清を保存した。SDS還元型サンプルバッファーを添加して、消化を終了させた。
【0077】
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ウェスタンブロッティング、及びイムノプリンティング。タンパク質は、1%(w/v)SDS存在下、12.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した(Laemmli、1970年、Nature、227巻、680〜685頁)。分子量マーカーは、Sigma Chemical社(ミズーリ州、セントルイス)より入手した。溶解したタンパク質は、銀染色法で可視化した。タンパク質もまた、ニトロセルロース膜上で100mAで30分間移動させた(Khyse−Andersen、1984年、J.Biochem.Biophys.Methods、10巻、203〜209頁)。5%(w/v)乾燥ミルク粉末及び0.05%(w/v)トゥイーン(Tween)20を含む、pH7.4のPBSで膜をブロックした。移動したタンパク質のイムノプリンティングは、Towbinら(Towbinら、1979年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、76巻、4350〜4354頁)に従って行った。M1タンパク質に対するポリクローナル抗体は、ブロッキングバッファーで1:50000に希釈して用いた。結合した抗体は、ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG二次抗体(1:3000希釈)を用いて検出し、続けて化学発光検出法で検出した。或いは、膜をブロックし、フィブリノーゲン(2μg/ml)でインキュベート後、抗フィブリノーゲン抗体(1:1000)及びペルオキシダーゼ結合抗ウサギ免疫グロブリン二次抗体(1:3000希釈)で免疫検出した。
【0078】
HBP放出。ヒト血液100μlをPBSで希釈して最終体積を1.0mlとし、様々なPMN活性化成分と共に37℃で30分間インキュベートした。細胞を遠心分離し(300xgで15分間)、上清をサンドウィッチELISAで分析した。血液中のHBPの総量を定量するために、細胞を0.02%(v/v)トライトン(Triton)X−100で溶解し、上記に述べたようにペレットにした。
【0079】
HBPの測定。好中球滲出物中のHBP濃度を、サンドウィッチELISA(Tapperら、2002年、Blood、99巻、1785〜1793頁)で測定した。ELISAは、特異性が高く、エラスターゼ、カテプシンG、又はプロテイナーゼ3と交差反応性を示さないことがわかっている。
【0080】
沈降反応アッセイ。放射性同位体でラベルしたM1タンパク質(125I−M1タンパク質)10000cpmを、放射性同位体非ラベルの様々な量のM1タンパク質の10%血漿又は0.3mg/mlフィブリノーゲンを含むPBS溶液と共に30分間インキュベートした。遠心分離後、ペレットをPBSに再懸濁し、γ線を計測して沈殿したMタンパク質を検出した。
【0081】
走査型電子顕微鏡。ミリポアフィルター(Millipore filter)(ミルフォード、Waters corporation)に、静かにプローブを適用した。その後、下に湿ったろ紙を置いたフィルターの上にサンプルを吸引した。このフィルターを、pH7.2の2%(v/v)グルタールアルデヒド、0.1Mカコジル酸ナトリウム、0.1Mショ糖中で4℃で1時間固定し、pH7.2の0.15Mカコジル酸で洗浄した。フィルターを、pH7.2の1%(w/v)四酸化オスミウム、0.15Mカコジル酸ナトリウムで4℃で1時間、後固定し、洗浄後、カコジル酸緩衝液中に貯蔵した。固定したろ紙サンプルを、エタノールを段階的に増加して脱水し(1ステップ当たり10分)、乾燥し、アルミニウムホルダー上に載せ、パラジウム/金で被覆し、Jeol JSM−350走査型電子顕微鏡で観察した。
【0082】
薄切片及び透過型電子顕微鏡。サンプルを室温で1時間、その後pH7.4、2.5%グルタールアルデヒドの0.15Mカコジル酸ナトリウム溶液(カコジル酸緩衝液)で4℃で一夜固定した。その後、カコジル酸緩衝液で洗浄し、室温で1時間、1%四酸化オスミウムカコジル酸緩衝液溶液で後固定し、連続段階濃度のエタノールで脱水した後、中間溶媒としてアセトンを用いてEpon812に包埋した。試料を、LKBウルトラミクロトーム上、ダイアモンドナイフで50nm厚の超薄切片に切断した。超薄切片を、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。Jeol JEM1230電子顕微鏡を80kVの加速電圧で作動し、試料を観察した。画像は、Gatan Multiscan 791 CCDカメラで記録した。
【0083】
血液凝固測定。凝固計(ドイツ、Lemgo、Amelung製)で、トロンビン凝固時間(TCT)を測定した。クエン酸処理したヒト血漿サンプル200μlを、ペプチドH−2395又はH−2940(5mg/ml)4μlと共に、37℃で15分間インキュベートした。TCT試薬(ミズーリ州、セントルイス、Sigma Chemical社製)100μlを添加して、凝固を開始させた。
【0084】
マウス骨髄細胞及び白血球の調製及び刺激。3から5匹のマウスから骨髄細胞及び全血を採集し、各サンプルを調製した。骨髄細胞は、マウスの大腿骨から回収し、プールして、カルシウムを加えないPBSに懸濁した。心臓穿刺により全血を採集し、10mM EDTAで凝固阻止した(Gautamら、2001年、Nat.Med.、7巻、1123〜1127頁)。デキストラン沈降法(Dextran sedimentation)を用いて、血液中の白血球を分離した。血液及び骨髄由来の細胞は、ビュルケル計算板を用いて計数した。白血球は、PBSで2回洗浄し、再懸濁して1×10細胞/mlとした。顆粒タンパク質の放出を刺激するために、白血球(約10細胞/ml)を、サイトカラシンB(10μM)と共に室温で5分間プレインキュベートした後、さらに37℃で30分間、100nMfMLPと共にインキュベートした。遠心分離(2000xg、10分)後、さらなる分析のために上清を採集した。或いは、pH7.4の1%沸騰SDSの10mMトリス塩酸溶液を添加して、白血球を溶解させた。溶液はさらなる5分間沸騰させ、その後短時間超音波処理しSDS−PAGEで分析後、ウェスタンブロッティング及びイムノプリンティングを行った。機能上の試験には、細胞を10分間水中でインキュベートして溶解させ、その後遠心分離のステップを続けた(500xg、10分間)。
【0085】
RNA調製。ネズミ科動物の大腿骨から回収した骨髄細胞からRNAを調製した。細胞を400gで遠心分離して、ペレットにした。その後、トリゾール試薬(Trizol reagent)(Gibco Life Technologies)を用いて全RNAを調製し、A260/280比(通常>1.8)より純粋さを評価した。
【0086】
RT−PCR。GeneAmp/PerkinElmer RNA PCRキットを用い、製造元のプロトコールに従って、RT−PCRを行った。手短に説明すると、全RNA(500ng)の水溶液を加熱(65℃、10分)し、氷冷し、1U/μl RNase阻害物質、及び2.5%脱イオンホルムアミドで逆転写した(ヒトHBPの遺伝子配列(NM 001700)由来のGG GTT GTT GAG AA3’、42°20分)。変性(99℃、5分)後、サンプルをPCRバッファー(1.5mM MgCl、0.2mM dNTP、1μMプライマー、2.5%脱イオンホルムアミド、及び0.05 1U/μl Taqポリメラーゼ)中、PerkinElmer/GeneAmp PCRシステム2400を用いて、アニーリング50から60℃、エクステンション72℃で、20〜35サイクル増幅した。産物を、アガロースゲル(1%ゲル)電気泳動により分析した。
【0087】
動物。C57BL/6株、オス成年マウス(約30g)を用いた。マウスを、等量のフルアニソン/フェンタニル(Hypnorm10、0.2mg/ml)、及びミダゾラム(Dormicum、5mg/ml)を滅菌水で1:1希釈したもの(投与量:マウス当たり0.2mlを筋注)で麻酔した。2%イソフルラン吸入剤を、麻酔に補充した。動物実験はすべて、地域の倫理委員会の承認を受けた。マウスに、M1タンパク質150μg/mlを含む溶液を、100μl静脈注射した。或いは、M1タンパク質150μg/ml及びGly−Pro−Arg−Pro又はGly−His−Arg−Proを4mg/mlを含む溶液100μlを静脈注射した。対照として、基剤のみを同じ経路で適用した。注射30分後にマウスを屠殺し、肺を摘出した。或いは、細菌溶液100μl(Gly−Pro−Arg−Pro又はGly−His−Arg−Pro 400μgの存在あり、又はなしで、AP1細菌2×10/ml)を、空気0.9mlと共に、マウスの背面部に注入した。30分後、マウスにPBS又はGly−Pro−Arg−Pro若しくはGly−His−Arg−Proをそれぞれ2mg/mlを含む溶液100μlを静脈注射した。注射6時間後、マウスを屠殺し肺を摘出した。
【0088】
組織化学。マウスを屠殺し、速やかに外科手術で肺を摘出し、4%ホルマリン緩衝液(pH7.4、Kebo)で4℃で24時間固定した。組織を脱水し、パラフィン(Histolab ProductsAB)中に包埋し、4μmの切片に切断し、封入した。パラフィン除去後、組織をマイヤーのヘマトキシリン(Histolab ProductsAB)及びエオシン(Surgipath Medical Industories,Inc)で染色した。
【0089】
免疫蛍光及び共焦点顕微鏡。M1T1ストレプトコッカスパイオゲンス株により引き起こされた壊疽性筋膜炎の患者に由来する炎症の中心部(筋膜)又は炎症の徴候のない離れた部位(筋肉)から採集し(カナダ、トロント、Mount Sinai病院、Donald E Low教授より好意的に提供された)瞬時凍結した組織のバイオプシーを凍結切片にし、先に述べた通りに固定した(Norrby−Teglundら、2001年)。組織切片は、最初、20%ウシ胎児血清のPBS−サポニン溶液(ミズーリ州、セントルイス、Sigma社製)で30分間ブロックした後、アビジン及びビオチンでそれぞれ15分間ずつブロックし(カナダ、Burlingame、Vector Laboratories製)、最後にPBS−サポニン含有0.1%BSA−c(オランダ、Wageningen、Aurion製)で30分間インキュベートした。抗体及び蛍光色素は、すべて、PBS−サポニン−BSA−cで希釈した。抗M1ポリクローナルウサギ抗血清(1:10000に希釈)と共に一夜インキュベートした後、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG(1:500に希釈、カリフォルニア州、バーリンゲーム、Vector Laboratories)で30分間インキュベートし、続いて1:600に希釈したストレプトアビジン結合AlexaFluor488(米国、オレゴン州、Eugene、Molecular Probes社製)を添加して、M1タンパク質の染色を達成した。Zenon Alexa fluor532IgGラベリングキット(Molecular Probes社製)で3mg/ml(Dakocytomation)の濃度に希釈した精製ウサギ抗フィブリノーゲン抗体を直接ラベルし、組織切片を90分間インキュベートして、フィブリノーゲンの二重染色を得た。封入剤として、dapiを補充したベクタシールド(Vectashield)(Vector Lab.)を用いた。ランスフィールドA群多糖体に対するポリクローナルサギ抗血清を用いて、ストレプトコッカスパイオゲンスを検出し(Norrby−Teglundら、2001年)、M1染色の特異性を裏付けるための陽性対照とした。染色パターンの特異性を確実にするために、単染色もまた行った。LeicaDMIRE2 倒立顕微鏡付きLeica共焦点スキャナーTCS2 AOBSを用いて評価を行った。
【0090】
結果
好中球のプロテイナーゼが、ストレプトコッカスパイオゲンスの表面からM1タンパク質を放出する
ヒト好中球プロテイナーゼと共に以下の処理をした連鎖球菌の表面からM1タンパク質が放出するか否かを試験するために、抗体とクロスリンクしたCD11b/CD18により刺激を受けたPMN(2×10細胞/ml)に由来する分泌産生物(滲出物)の連続希釈(100μl、10μl、又は1μl)と共に、AP1細菌(2×10細菌/ml)を37℃で2時間インキュベートした。抗体とのクロスリンクによるβインテグリンの活性化は、接着依存レセプターの進入機序とよく似ており、好中球エラスターゼ、カテプシンG、及びプロテイナーゼ3の放出を誘導し(Gautamら、2000年、J.Exp.Med.、191巻、1829〜1839頁)、これは我々が間接ELISAの実験を設定して確認した(データは示していない)。好中球の滲出物をAP1細菌とインキュベートすると、細菌の細胞壁由来の連鎖球菌タンパク質をいくつか可溶化する結果となった。これは、細菌を遠心分離し、上清をSDS−PAGEで分離すると観察された(データは示していない)。M1タンパク質に対するポリクローナル抗血清を用いた、ウェスタンブロット法では、可溶化したタンパク質の中にM1タンパク質の存在が分析された。SDS−PAGE後、可溶化したタンパク質をニトロセルロース上に移し、M1タンパク質の抗体でプローブした。結合した抗体は、ペルオキシダーゼと結合したウサギ免疫グロブリンの二次抗体で検出し、その後化学発光検出法で検出した。未処理の細菌から得た上清を、対照として使用した。
【0091】
放出された好中球の成分が存在しないところでは、M1タンパク質は細菌の上清中にほんの少量しか見出されなかったが、細菌と共にインキュベートする好中球分泌生成物の体積が増加すると、様々な分子量のM1タンパク質フラグメントが、より大量に検出された。精製されたM1に比較して、M1タンパク質フラグメントのサイズが最も大型であることから、これがM1タンパク質の細胞外部分の、すべてではないにしても、殆どを包含することが示唆される。好中球分泌生成物の濃度が上昇すると共に、M1タンパク質はさらに分解した。
【0092】
産生されたM1タンパク質フラグメントが依然としてフィブリノーゲンと結合できるか否かを試験するために、可溶化した連鎖球菌タンパク質(精製M1タンパク質10ng、好中球分泌生成物100μlで放出されたAP1表面タンパク質、及び精製タンパク質H10ng)を、最も多容量の好中球滲出物で処理した後、SDS−PAGEを行った。その後、これをニトロセルロース上に移し、フィブリノーゲン(2μg/ml)でプローブした。先に述べたように、フィブリノーゲンに対する特異的抗体、及び抗ウサギ免疫グロブリンに対するペルオキシダーゼ結合抗体で、結合フィブリノーゲンを免疫検出した。大腸菌の産生する可溶性M1タンパク質は、フィブリノーゲンに高い親和性で結合する一方で、密接な関係のあるタンパク質Hはフィブリノーゲンとの相互作用は示さなかった(Akessonら、1994年、Biochem.J、300巻、877〜886頁、及びBergeら、1997年、J.BIol.Chem.、272巻、20774〜20781頁)。これは我々の結果で実証され、我々の結果はまた、分泌された好中球の成分と処理することでフィブリノーゲン結合フラグメントがAP1細菌から2つ放出されたことをも示している。これらフラグメントの分子量は、先に見られたM1タンパク質フラグメントと良く相関していた。好中球滲出物とインキュベートする前後のAP1細菌(100μlPMN滲出物/10細菌)の薄切片を透過型電子顕微鏡で分析したところ、これらの生成物がAP1細菌の繊維性の表面タンパク質を取り除くのに効果的なことが明らかとなった。これらの毛髪様構造はMタンパク質を表し、この結果は、好中球滲出物が、細菌の表面からフィブリノーゲン結合M1タンパク質フラグメントを放出することを示している。
【0093】
M1タンパク質は、ヒト血液中でPMNからヘパリン結合タンパク質(HBP)の放出を誘発する
炎症メディエータのHBPは、HBPを生成すると報告された唯一の血液細胞であるPMNから放出され(Edens and Parkos、2003年、Curr.Opin.Haematol.10巻、25〜30頁)、ストレプトコッカスパイオゲンスは炎症の強力な誘発因子であることが知られている。M1タンパク質のフラグメントが、好中球プロテイナーゼにより可溶化されることが観察され、これは、これらのフラグメント及び/又はストレプトコッカスパイオゲンスの他の成分が、PMNからHBPを放出することにより炎症反応を増強する可能性があるか否かという問題を提起した。そこで、連鎖球菌の可溶性成分を、ヒト全血に添加した。図1Aは、血液にM1タンパク質を最終濃度1μg/mlで添加すると、PMN中に貯えられたHBPの約63%が動員されたことを示す。興味深いことに、濃度がより低くてもより高くても、HBPの放出の効率は低下する結果となった。M1タンパク質の他に、ホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニン(fMLP)、及びリポタイコ酸(LTA)がHBPの分泌を引き起こした。しかし、M1タンパク質が誘導する放出とは対照に、これらの作用は用量依存性であった。連鎖球菌の莢膜の部分であるヒアルロン酸(HA)、分泌された連鎖球菌タンパク質SpeB、及びタンパク質SICは、HBPの放出を誘導しなかった。タンパク質Hは、AP1細菌のIgG結合表面タンパク質であり(Akessonら、1990年、Mol.Immunol.、27巻、523〜531頁)、M1タンパク質とは構造的に密接に相関するが、フィブリノーゲンとは結合しない(Akessonら、1994年、Biochem.J.、300巻、877〜886頁)。タンパク質Hを血液に添加した後に、ほんの微量のHBPが分泌された。
【0094】
PMNからのHBP分泌を引き起こすM1タンパク質の領域を突き止めるために、M1タンパク質(図1B、上)由来のA−S及びS−C3フラグメント(Akessonら、1994年、Biochem.J.、300巻、877〜886頁)を試験した。図1Bは、A−Sフラグメントを共に処理するとHBPを動員したが、S−C3フラグメントには作用がなかったことを示している。この結果は、HBPの放出にはM1タンパク質のNH末端部が必要であることを実証している。以前の研究では、A−SフラグメントのBドメインのフィブリノーゲン結合部位、S−C3のC反復のアルブミン結合部位、及び両方のフラグメントに存在するS領域のIgG Fc結合活性が確認されている(Akessonら、1994年、Biochem.J.、300巻、877〜886頁)。M1タンパク質、及びその2つのフラグメントは、大腸菌が産生するリコンビナントタンパク質である。一方、COOH末端細胞壁定着モチーフを欠く不完全なM1タンパク質を発現する、MC25と呼ばれるAP1変異株の同質遺伝子型株で示されるように、ストレプトコッカスパイオゲンスが生成するM1タンパク質もまたHBPを放出する。この細菌株には、表面結合性のM1タンパク質がないが、M1タンパク質フラグメントを産生し増殖培地中に分泌する(Collin and Olsen、2000年、Mol.Microbiol.、36巻、1306〜1308頁)。図1Cは、MC25細菌の一夜培養物の上清がHBPの放出を引き起こしたが、AP1細菌の培養液上清、又は増殖培地のみにはこの作用がなかったことを示す。この結果は、大腸菌又はストレプトコッカスパイオゲンスが産生する可溶性のM1タンパク質は、ヒト血液中でHBPの放出を誘導することを実証している。
【0095】
ヒト血液中におけるPMNからのHBP放出は、シグナル形質導入メディエータ及び細胞外の2価金属イオンにより調節される
PMNは、細胞が溶解する際、又は精巧なシグナル形質導入機構を伴う調節された分泌メカニズムにより顆粒の内容物を放出する(Borregaard and Cowland、1997年、Blood、89巻、3503〜3521頁)。M1タンパク質がヒト血液中でHBPの動員を誘導するメカニズムを調べるために、シグナル形質導入阻害物質のHBP放出に対する影響を分析した。理論上では、fMLPがM1タンパク質製剤を汚染するとPMNの活性化を起こす可能性があり、試験を行った最初の物質はtboc−MLP(fMLP拮抗物質)及び百日咳毒素(fMLPレセプターが属する、Giタンパク質結合七回膜貫通型受容体の拮抗物質)であった。図2及び表1で示すように、2つの成分はどちらもHBPの放出を阻害せず、これは、fMLPがM1タンパク質調製物中に存在せず、M1タンパク質はfMLPレセプター作用物質として作用しないことを意味している。使用すべき次のシグナル形質導入阻害物質は、ゲニステイン(チロシンキナーゼ阻害物質(O’Dellら、1991年、Nature、353巻、558〜560頁))、及びワートマニン(ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ阻害物質(Cardenasら、1998年、Trends Biotechnol.、16巻、427〜433頁))であった。これらの阻害物質は、βインテグリンが引き起こすPMNシグナリングのダウンストリーム効果を阻害し(Axelssonら、2000年、Exp.Cell.Res.、256巻、257〜263頁)、両者ともHBPの放出を殆ど完全に遮断した。細胞内及び細胞外カルシウムの効果を研究するために、細胞をBAPTA(細胞内カルシウムと錯体を作る)及びEGTA(細胞外カルシウムと錯体を作る)でインキュベートした。ゲニステイン及びワートマニンと同様に、この処理を行うとHBPの動員を阻害した。BATPAの存在なしにEGTAを使用しても、HBPの放出を遮断した。これらの結果は、M1タンパク質のPMNへの結合は2価の金属イオンに依存することを示唆している。主にGタンパク質結合レセプター及び成長ホルモンレセプターのシグナル形質導入経路に関わる他の阻害物質、例えばAG1478(EGFレセプターチロシンキナーゼの選択的阻害物質(Osherov and Levitzki、1994年、Eur.J.Biochem.、225巻、1047〜1053頁))、GF109203(プロテインキナーゼC阻害物質(Toullecら、1991年、J.BIol.Chem.、266巻、15771〜15781頁))、H−89(cAMP−依存プロテインキナーゼ(PKA)の阻害物質(Fujiharaら、1993年、J.Biol.Chem.、268巻、14898〜14905頁)、PD98059(MAPK経路の阻害物質(Dudleyら、1995年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92巻、7686〜7689頁))、及びU−73122(ホスホリパーゼC阻害物質(Smallridgeら、1992年、Endocrinology、131巻、1883〜1888頁)は、HBPの分泌を妨害しなかった。総合すると、この結果が示すのは、M1タンパク質が誘導するHBPの放出は、連鎖球菌のタンパク質が好中球の表面に位置するレセプター様構造に結合することに依存するということである。データはまた、細胞外の2価の金属イオンに結合が依存することも実証している。
【0096】
M1タンパク質が、血漿中でフィブリノーゲンを沈殿させる
血液中でHBPの放出を媒介する好中球のレセプターを確認するために、125I−M1タンパク質の精製PMNに対する結合を試験した。しかし、PMNに対する意味のある結合は検出されず、相互作用には補助因子、おそらく血漿タンパク質を必要とすることが示唆された。我々が最初に観察したものの1つは、M1タンパク質を(1μg/mlの濃度で)血漿(1/10に希釈)に添加すると、肉眼で見える沈殿を引き起こすが、M1タンパク質のその他の濃度では、血漿サンプル中に沈殿を形成しなかった(図3A)。明らかに、1/10に希釈した血液中のM1タンパク質の濃度1μg/mlの時に、PMNからHBPの最大の放出が記録され(図3B)、これはM1の沈殿とHBPの放出に相関があることを示唆している。Mタンパク質がヒト血漿中に沈殿を形成するという発見は、1965年にすでに報告されており、Mタンパク質とフィブリノーゲンとの相互作用の結果であることが見出されている(Kantor、1965年、J.Exp.Med.、121巻、849〜859頁)。したがって、溶液中における、精製M1タンパク質とフィブリノーゲンとの相互作用も研究され、この場合も、M1タンパク質及びフィブリノーゲンは血漿中と同じ濃度で沈殿を形成した(図3C)。対照に、フィブリノーゲンを除いた血漿にM1タンパク質を添加した場合に、沈殿を生じなかった(データは示していない)。セリンプロテイナーゼ阻害物質が存在してもM1タンパク質が誘導する沈殿には影響がなかったことから、フィブリノーゲンをトロンビン様に切断しても、沈殿を起こさなかったことが指摘された(データは示していない)。沈殿を走査型電子顕微鏡で観察すると、無定形の凝集が表れ、個々のタンパク質の成分を識別できなかった。対照に、トロンビンが誘導した血漿の凝固では、以前に記載されたものと同様のフィブリン原繊維の網状組織が示された(Herwaldら、1998年、Nat.Med.、4巻、298〜302頁、及びPerssonら、2000年、J.Exp.Med.、192巻、1415〜1424頁)。超薄切片を透過型電子顕微鏡で高分解能で分析すると、不規則なマイクロ原繊維のM1タンパク質/血漿沈殿、及び高度に組織化した交差縞のトロンビン誘導フィブリン原繊維が示された。この結果は、M1タンパク質を狭い濃度範囲でヒト血漿に添加すると、血漿沈殿を引き起こす可能性を示している。形成された沈殿は、トロンビンが誘導する生理学的な凝固とは形態学的に異なる。
【0097】
M1タンパク質沈殿及びフィブリノーゲンがPMNを活性化する
別の一連の実験で、我々は、M1タンパク質/フィブリノーゲン沈殿とPMNとの相互作用を、走査型電子顕微鏡で分析した。結果は、M1タンパク質(1μg/ml)とヒト血漿(10%PBS溶液)とを含む混合物と共に再構成したPMNは凝集を形成し、凝集は、先に見られたM1タンパク質/フィブリノーゲン沈殿同様の無定形のタンパク質層で覆われていることを示していた。M1タンパク質の存在しない血漿中でPMNを再構成した場合、又は血漿の代わりに緩衝液に溶解したM1タンパク質でPMNを処理した場合では、沈殿又は凝集物は見られなかった。対照として、精製したPMNを緩衝液のみでインキュベートしたものを用いた。血漿を用いたさらなる実験により、M1タンパク質の存在下のPMNの凝集は、フィブリノーゲン依存であったことが明らかとなった(データは示していない)。PMNとM1タンパク質/フィブリノーゲン複合体との間の相互作用が沈殿し、細胞を活性化し、結果としてHBPを放出することを、データは示している。そこで我々は、予め形成されたM1タンパク質/フィブリノーゲン沈殿がPMNの活性化に必要であるか否かを分析した。M1タンパク質(最終濃度1μg/ml)を、フィブリノーゲン(0.3mg/ml)又は血漿(1/10に希釈)と共に、30分間インキュベートした。次いで、遠心分離及び洗浄し、得られたペレットをヒト血液(1/10に希釈)に30分間添加し、HBPの放出を測定した。対照として、M1タンパク質の存在なしに、フィブリノーゲン及び血漿を同様に処理した。図4では、フィブリノーゲン溶液又は血漿中に形成されたM1タンパク質が誘導する沈殿はHBPの放出を引き起こしたが、対照では陰性であったことを実証している。この段落に記載したデータを総合すると、M1タンパク質/フィブリノーゲン沈殿はPMNに結合し、その凝集及び活性化を誘導し、結果としてHBPが放出されることが示される。
【0098】
M1タンパク質誘導性HBP放出は、βインテグリン拮抗物質により阻止される
ヒトフィブリノーゲンは、βインテグリンを介してPMNに結合し(Altieri、1999年、Thromb.Haemost.、82巻、781〜786頁)、CD11c/Cd18では、結合部位はフィブリノーゲンのAα鎖のNH末端領域であると位置決めされた。この領域に由来するペプチド(Gly−Pro−Arg−Pro)は、TNFに刺激されたPMNがフィブリノーゲンでコートされた表面に接着するのを阻止するが、Gly−His−Arg−Proなどの同領域由来の他のペプチドにはその作用がないことが示されている(Loikeら、1991年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88巻、1044〜1048頁)。さらに、βインテグリンに対する抗体は、フィブリノーゲンが活性化したPMNに結合するのを阻害し、これらの抗体の中ではインテグリンの通常のβ鎖に対するモノクローナル抗体(IB4)が最も強力であることが実証された(Loikeら、1991年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88巻、1044〜1048頁)。血小板が誘導するPMNの活性化も、また、CD11c/CD18と血小板が発現するフィブリノーゲンのAα鎖との相互作用に依存することが見出された(Ruf and Patscheke、1995年、Br.J.Haematol.、90巻、791〜796頁)。フィブリノーゲンのPMNに対する結合で示されるように、血小板が誘導する活性化もまた、Gly−Pro−Arg−Proペプチドにより、及びCD11cに対する抗体により阻害されたが、Gly−His−Arg−Proペプチドには作用はなかった。これらの報告が指摘するのは、PMNが固定化(例えばカバーガラス上、又は血小板上に)したフィブリノーゲンに結合すると、βインテグリンがPMNの活性化を導くことに関係があることを伴うことである。興味深いことに、Gly−Pro−Arg−Proはフィブリノーゲンがβインテグリンに結合するのを阻害するだけでなく、凝固の形成も防止し(Laudano and Doolittle、1980年、Biochemistry、19巻、1013〜1019頁)、また、図5Aは、Gly−Pro−Arg−Proが通常の血漿でトロンビンが誘導する凝固を完全に阻止したが、Gly−His−Arg−Proは凝固時間に影響を及ぼさなかったことを示している。Gly−Pro−Arg−Proは、フィブリン分子の重合部位に曝されたトロンビンに結合することによりフィブリン繊維の形成を妨げることを強調したい(Spraggonら、1997年、Nature、389巻、455〜462頁)。したがって、Gly−Pro−Arg−Proが凝固の形成に及ぼす作用は、インテグリン依存ではない。M1タンパク質とフィブリノーゲンとの相互作用に及ぼすこの2つのペプチドの影響を、競合的ELISAで試験した。しかし、このアッセイでは、どちらのペプチドにも作用はなかった(データは示していない)。
【0099】
Gly−Pro−Arg−Pro、及びGly−His−Arg−Proペプチド、並びにβインテグリンに対する抗体(IB4)が、M1タンパク質が誘導するHBPの分泌を阻害する能力についても試験を行った。図5Bに示すように、ヒト血液にGly−Pro−Arg−Proを添加すると、用量依存的にM1タンパク質によるHBPの動員を阻止し、また、インテグリンの通常のβ鎖に対するIB4抗体は、放出が弱まった。対照物質であるGly−His−Arg−Pro、及びH−キニノーゲンに対する関連のない抗体は、HBP分泌に影響を及ぼさなかった(図5B)。Gly−Pro−Arg−Proが、M1タンパク質が誘導するPMN凝集に及ぼす作用は、走査型電子顕微鏡分析で確認した。Gly−Pro−Arg−Proは、血漿とM1タンパク質との混合物中における精製PMNの凝集を阻害した。対照に、Gly−His−Arg−Proは、PMNの凝集には作用がなかった。これらの結果は、M1タンパク質−フィブリノーゲン複合体が、βインテグリンのライゲーションによりPMNを活性化し、HBPの放出を引き起こす概念を裏付けている。この機序は、先に記載した接着依存性レセプターの関与を模倣しPMNからのHBPの大量の放出を引き起こす、抗体が媒介するCD11b/Cd18のクロスリンクと同様であると考えられる(Gautamら、2000年、J.Exp.Med.、191巻、1829〜1839頁)。
【0100】
M1タンパク質をマウスに静脈注射し重症の肺の病変を引き起こし、これはβ2インテグリン拮抗薬投与により防止される
今までのところ、HBPが確認されているのはヒト及びブタのみである(Flodgaardら、1991年、EurJ.Biochem、197巻、535〜547頁)。我々は、マウスの実験を行う前に、HBP類似体がマウスにも存在するか否かを調査した。調査の終わりには、マウス由来の骨髄細胞が分離され、RT−PCR分析、及びウェスタンブロット分析により、ネズミ科HBP類似体の存在が実証された。ヒトHBP配列由来のプライマーセットを用いて、骨髄細胞から調製したRNAのRT−PCR増幅を行った。ヒトHBPに対する抗体で免疫染色を行ったヒトHPB、及びネズミ科骨髄溶解物を電気泳動した後、ウェスタンブロット検出を行った。次いで、麻酔したマウスで一連の動物実験を行った。3匹のマウスにM1タンパク質を静脈注射し(1匹当たり15μg)、3匹にはM1タンパク質(1匹当たり15μg)及びGly−Pro−Arg−Proペプチド(1匹当たり400μg)の混合物、3匹にはM1タンパク質(1匹当たり15μg)及びGly−His−Arg−Proペプチド(1匹当たり400μg)の混合物、及び3匹には媒体のみを処置した。投与30分後、M1タンパク質、又はM1タンパク質とGly−His−Arg−Proペプチドとを注射したマウスの呼吸に、他のマウスに比べて明らかな影響があった。動物を屠殺して肺を摘出し、ヘマトキシリン及びエオシンで染色し、光学顕微鏡に供するか、又は走査型電子顕微鏡で分析した。緩衝液のみを注射したマウス由来の典型的な肺のサンプルは、無傷の肺の組織を示していた。一方、M1タンパク質を注射したマウス由来の肺の切片からは、重篤な出血及び組織の破壊が実証された。これらの病変は、M1タンパク質をGly−Pro−Arg−Proと一緒に注射した場合に、継続する炎症反応の徴候である僅かな腫脹が組織に残っていたものの、殆ど完全に防止されていた。対照的に、Gly−His−Arg−Proを適用しても、M1タンパク質が誘導する出血及び組織の破壊を防止することはできなかった。Hタンパク質を対照として注射して肺組織を分析しても、出血は見られず肺胞炎の腫脹も少ない様子だった。より高倍率で肺の病変を分析するために、組織切片を走査型電子顕微鏡で分析した。PBSで処置したマウス由来の肺切片には、いかなる肺損傷の徴候は見られなかった。しかし、M1タンパク質の注射により、先にも見られたように赤血球が重度に漏出しただけでなく、タンパク質の凝集物が析出する結果となった。凝集物の形態は、先に見られたM1タンパク質が誘導する無定形の血漿沈殿に類似していた。M1タンパク質及びGly−Pro−Arg−Proを注射したマウスの肺には、凝集物は含まれなかった。しかし、肺胞が幾分腫脹し、赤血球が軽度に漏出しているのが観察され、炎症反応をほのめかしていた。対照に、Gly−His−Arg−Proで処置しても、M1タンパク質が引き起こす肺の損傷に影響を及ぼさなかった。Hタンパク質を注射しても、重度の出血を引き起こさず、組織がひどく炎症を起こした様子もなかった。
【0101】
肺の障害の程度を定量するために、これら12匹の動物の各々から肺組織切片を無作為に6個選び、電子顕微鏡で分析し、肺の総面積に対するタンパク質凝集物を含む肺の面積を測定した。緩衝液のみ、又はM1タンパク質とGly−Pro−Arg−Proペプチドとを注射した動物の肺組織で、タンパク質凝集物が含まれていたのは、10%未満であった(それぞれ、3±1%、及び6±2%)。対照に、M1タンパク質、又はM1タンパク質とGly−His−Arg−Proペプチドとの混合物で処置した動物の肺の90%に、タンパク質の凝集物が含まれていた(両方の場合とも、90±2%)。これらの動物実験より、M1タンパク質−フィブリノーゲン凝集物は、βインテグリンを介してPMNを活性化し、結果として重度に血管漏出し、肺組織においてタンパク凝集物が析出することが示唆される。この結果は、フィブリノーゲンが誘発するβインテグリンのクロスリンクをGly−Pro−Arg−Proペプチドが防ぐことで、この病態生理学的作用が阻止できることも示している。
【0102】
Gly−Pro−Arg−ProはM1タンパク質発現ストレプトコッカスパイオゲンスに感染したマウスの血管漏出及び肺の損傷を防止する
第2シリーズの動物実験では、M1タンパク質発現ストレプトコッカスパイオゲンスを9匹のマウスに皮下注射して感染させた。材料と方法に記載したように、各グループ3匹のマウスを、それぞれGly−Pro−Arg−Proペプチド、及びGly−His−Arg−Proペプチドで処置したが、3匹のマウスは処置しかった。対照として、3匹のマウスにPBSを皮下注射した。注射6時間後、動物を屠殺し、肺を摘出して、走査型電子顕微鏡で検査した。動物から採取した血液サンプルを分析したところ、連鎖球菌は現れていなかったことが判明し、細菌が感染部位から拡散を開始していなかったことを示していた。これらの動物から取った代表的な肺組織切片の電子顕微鏡写真を得た。細菌の代わりに緩衝液を与えたマウスから回収した肺は、肺損傷の徴候を示していなかった。一方、連鎖球菌に感染したマウスは、広範囲の赤血球浸潤、及びフィブリンの析出に示される重度の肺の病変を被っていた。感染した動物をGly−Pro−Arg−Proで処置すると、肺の障害はかなり少なく見受けられたが、Gly−His−Arg−Proの処置では、肺の損傷を防ぐことはできなかった。連鎖球菌に感染したマウス由来の肺を、M1タンパク質に対する抗体を用いて免疫染色電子顕微鏡でさらに分析した。浸潤された沈殿にM1タンパク質が見られることが、この分析で示された。対照に、非感染の動物由来の肺を検査したところM1タンパク質が染色されたものは観察されなかった。総合すると、感染モデルでは、細菌が拡散し感染した動物の肺に堆積する沈殿を形成するより前に、脱落したM1タンパク質が循環中に見られることが、これらの結果から示唆される。
【0103】
連鎖球菌毒素性ショック症候群、及び壊疽性筋膜炎の患者に、M1タンパク質/フィブリノーゲン沈殿が形成される
STSSは、連鎖球菌感染症から重篤な合併症を成し、高い罹患率、及び高い致死率と関連付けられる(再考には、(Stevens、2003年、Curr Infect Dis Rep、5巻、379〜386頁)を参照されたい)。STSSの臨床上の徴候は、激痛、四肢の紅斑、低血圧、発熱、柔組織の腫脹、及び呼吸器機能不全である(Stevens、2000年、Annu Rev Med、51巻、271〜288頁)。これらの症状のいくつかはM1タンパク質とフィブリノーゲンとの相互作用、及びそれに続くHBPの放出により引き起こされる可能性があるということを我々のin vitro及びin vivoのデータは意味するため、M1タンパク質を発現するM1T1株感染で起こったSTSS壊疽性筋膜炎に罹患する患者から取った組織切片を分析した。組織切片を薄片に切断し、固定し、M1タンパク質及びフィブリノーゲン用に染色し、ヒトフィブリノーゲン及びM1タンパク質に対する抗体を用いて共焦点免疫蛍光顕微鏡法で(材料と方法に記載したとおりに)検査した。顕微鏡写真では、感染の中心(即ち、筋膜)にこの領域で容易に検出されるM1タンパク質と共に大量の連鎖球菌が明らかに見られた。M1タンパク質の中には、細菌に関連することが見出されたものもあるが、大半のタンパク質は連鎖球菌の表面から放出されていた。M1タンパク質は、細菌の負荷がないか、又は大変少ない末端の領域からは生検では検出されないため、非特異性の染色は除外した。重要なことには、感染の局所部位では、脱落したM1タンパク質がフィブリノーゲンと共に強力に共存しており、炎症の経過中に産生され放出されたM1タンパク質の量は、フィブリノーゲンと共に沈殿を形成するのに十分だったことを実証していた。総合すると、これらの結果より、STSS壊疽性筋膜炎に罹患する患者で、細菌の表面からM1タンパク質が放出され、それに続いてM1タンパク質/フィブリノーゲン沈殿を形成することにより、重要な毒性の機序を示す強力な証拠が提供される。
【0104】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】ヒト血液におけるHBPの放出を示す図である。パネルA:ヒト血液を、M1タンパク質、Hタンパク質、SpeB、SICタンパク質、fMLP、リポタイコ酸(LTA)、又はヒアルロン酸(HA)と、37℃で30分間インキュベートした。細胞をペレットにし、上清のHBP濃度をELISAで測定した。細胞をトライトン(Triton)X−100で溶解して血中のHBPの総量を測定し、刺激を与えずに37℃で30分間インキュベートした後放出されたHBPの量をバックグラウンドとみなした。この図は、3つの実験を独立してそれぞれ2回ずつ行った実験の平均値±標準偏差を表している。パネルB:ヒト血液を、M1タンパク質、M1タンパク質のA−S及びS−C3フラグメント(上部に略図を示した)、又はHタンパク質で37℃で30分間刺激を与えた。細胞をペレットにし、上清のHBP濃度をELISAで測定した。図は、3つの実験を独立してそれぞれ2回ずつ行った実験の平均値±標準偏差を表している。パネルC:AP1及びMC25株の一夜培養物の上清を連続希釈したもの、又は増殖培地のみをヒト血液に添加し、HBPの放出を測定した。
【図2】ヒト血液における、M1タンパク質が誘導するHBPの放出の阻害を示す図である。ヒト血液を、M1タンパク質(1μg/1mM)の存在下、又は存在なしに、tBoc(100μM)、百日咳毒素(1μg/1mM)、ゲニステイン(100μM)、ワートマニン(0.2μM)、BAPTAM/EGTA(10μg/1mM)、EGTA(1mM)、AG1478(2μM)、GF109203(2μM)、H−89(1μM)、PD98059(20μM)、又はU−73122(10μM)と共に37℃で30分間インキュベートした。細胞を遠心分離し、上清のHBPの濃度をELISAで測定した。結果は、阻害物質の存在なしで放出されるHBP(100%)に対する、阻害物質の存在下で放出されるHBPのパーセントで表した。図は、3つの実験を独立してそれぞれ2回ずつ行った実験の平均値±標準偏差を表している。
【図3】M1タンパク質が誘導するHBPの放出が、M1タンパク質が誘導する血漿タンパク質の沈殿と相関があることを示す図である。パネルA:10%ヒト血漿PBS溶液のサンプル(1ml)を、非ラベルのMタンパク質の存在下(0.01μg/ml、0.1μg/ml、0.2μg/ml、1μg/ml、及び10μg/ml)又は存在なしに、125I−M1タンパク質(10cpm/ml、約1ng)と共に、37℃で30分間インキュベートした。サンプルを遠心分離し、ペレットの放射能を測定した。結果は、添加した全放射能のパーセントとして表し、図は、3つの実験を独立してそれぞれ2回ずつ行った実験の平均値±標準偏差を表している。パネルB:ヒト全血をM1タンパク質(0.01μg/ml、0.1μg/ml、0.2μg/ml、1μg/ml、及び10μg/ml)で、37℃で30分間処理した。細胞を遠心分離し、上清のHBPの量を測定した。パネルC:ヒト血漿(10%PBS溶液)又はフィブリノーゲン(300μg/mlPBS溶液)のサンプル1mlを、非ラベルのM1タンパク質の存在下(0.01μg/ml、0.1μg/ml、0.2μg/ml、1μg/ml、若しくは10μg/ml)又は存在なしに125I−M1タンパク質(10cpm/ml、約1ng)と共にインキュベートした。37℃で30分インキュベートした後、サンプルを遠心分離し、ペレットの放射能を測定した。結果は、全放射能のパーセントで表してある。数値は、3つの実験を独立してそれぞれ2回ずつ行った実験の平均値±標準偏差を表している。
【図4】フィブリノーゲン溶液中又は血漿中に形成されたM1タンパク質が誘導する沈殿が、HBPの放出を引き起こすことを示す図である。10%ヒト血漿又はフィブリノーゲン(300μg/ml)のPBS溶液に、M1タンパク質(1μg/ml)を30分間加えた。遠心分離後、得られたペレットを再懸濁してPBSで希釈した10%ヒト血液と共に30分間インキュベートし、続いて、放出されたHBPを測定した。M1タンパク質を添加しない血漿又はフィブリノーゲン溶液を同様に処理し、陰性対照とした。図は、4つの独立して行った実験の平均値±標準偏差を表している。
【図5】フィブリノーゲンに由来するペプチド及びCD18に対する抗体が、M1タンパク質が誘導するHBPの放出を阻害することを示す図である。パネルA:ヒト血漿を、Gly−Pro−Arg−Pro、Gly−His−Arg−Proペプチド(100μg/ml)、又は緩衝液のみと共に、37℃で15分間インキュベートした。トロンビンを添加して凝固を開始させ、凝固時間を測定した。パネルB:ヒト全血(1μg/ml)にM1タンパク質を添加し、次いでGly−Pro−Arg−Pro、Gly−His−Arg−Pro、CD18に対するmABIB4抗体、又はAS88抗体(ヒトH−キニノゲンに対する)を様々な量添加した。37℃で30分インキュベート後、細胞を遠心分離し、上清のHBP量を測定した。データは、M1タンパク質のみが誘導したHBPの放出のパーセントとして表し、棒グラフは、3つの実験をそれぞれ2回ずつ行った平均値±標準偏差を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗連鎖球菌物質を確認する方法であって、
(a)第1の成分として、分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体を提供すること、
(b)第2の成分として、分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体を提供すること、
(c)第3の成分として、分離されたβインテグリン又はその機能性変異体を提供すること、
(d)前記成分を試験物質と、試験物質の存在なしに該成分が相互作用できる条件下で、接触させること、及び
(e)試験物質が、成分間の相互作用を阻害するか否かを確認することを含み、
これらによって、試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かを決定する方法。
【請求項2】
抗連鎖球菌物質を確認する方法であって、
(a)第1の成分として、連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体を提供すること、
(b)第2の成分として、フィブリノーゲン又はその機能性変異体を提供すること、
(c)第3の成分として、1つ又は複数の多形核好中球(PMN)を提供すること、
(d)前記成分を試験物質と、試験物質の存在なしに該成分が相互作用できる条件下で、接触させること、及び
(e)PMNの活性化のあらゆる阻害をモニターすることを含み、
それによって、試験物質が抗連鎖球菌物質であるか否かを決定する方法。
【請求項3】
ステップ(d)が、ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)、フィブリノーゲン、及びPMNを試験物質の存在下で接触させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
PMNの活性化の阻害が、ヘパリン結合タンパク質(HBP)の放出の測定によりモニターされる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の成分が、ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)をプロテアーゼと接触させることにより供給される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プロテアーゼがPMN由来である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プロテアーゼがストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)内因性である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記連鎖球菌のMタンパク質が、ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)のM1タンパク質であるか、フィブリノーゲンと複合体を構成する能力を維持するその同族体であるか、又はフィブリノーゲンと複合体を形成する能力を維持するそれらのいずれかの機能的変異体である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記機能的変異体が、ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)のM1タンパク質のフラグメントであるか、その同族体のフラグメントである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(e)が、試験物質の存在下で前記成分が凝集物を形成するか否かを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、フィブリノーゲン及びその機能性変異体、並びにβインテグリン又はその機能性変異体、の間の相互作用を阻害することのできる試験物質を確認する使用に適したテストキットであって、
(a)分離された連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、
(b)分離されたフィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び
(c)分離されたβインテグリン又はその機能性変異体
を含むテストキット。
【請求項12】
連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、フィブリノーゲン又はその機能性変異体、及びPMN、の間の相互作用を阻害することのできる試験物質を確認する使用に適したテストキットであって、
(a)連鎖球菌のMタンパク質又はその機能性変異体、
(b)フィブリノーゲン又はその機能性変異体、及び
(c)1つ又は複数のPMN
を含むテストキット。
【請求項13】
1つ又は複数の緩衝液をさらに含む、請求項11又は12に記載のテストキット。
【請求項14】
試験物質が、成分間の相互作用をかく乱するか否かを決定する手段をさらに含む、請求項11から13までのいずれか一項に記載のテストキット。
【請求項15】
請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法により同定される、抗連鎖球菌物質。
【請求項16】
ヒト又は動物の身体の治療による処置方法に用いる、請求項15に記載の抗連鎖球菌物質。
【請求項17】
連鎖球菌感染症の治療用薬物の製造における、インテグリン拮抗物質の使用。
【請求項18】
前記拮抗物質が、抗インテグリン抗体、ペプチド類似体、又は非ペプチド類似体である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
連鎖球菌感染症の治療用薬物の製造における、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリンの間の相互作用の阻害物質の使用。
【請求項20】
前記阻害物質がGPRP配列を含むペプチドである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記阻害物質が、ストレプトコッカスパイオゲンス(S.pyogenes)M1タンパク質のB反復に特異的に結合する抗体である、請求項19に記載の使用。
【請求項22】
連鎖球菌感染症の治療用薬物の製造における、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法により確認された物質の使用。
【請求項23】
連鎖球菌感染症に罹患する個体の治療方法であって、請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法により確認された治療上有効な量の物質を前記個体に投与することを含む治療方法。
【請求項24】
連鎖球菌感染症に罹患する個体の治療方法であって、インテグリン拮抗物質の治療上有効な量を前記個体に投与することを含む治療方法。
【請求項25】
連鎖球菌感染症に罹患する個体の治療方法であって、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間の相互作用の阻害物質の治療上有効な量を前記個体に投与することを含む治療方法。
【請求項26】
請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法により同定確認された、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリンの間の相互作用の阻害物質、並びに薬学的に許容された基剤又は希釈剤を含む薬剤組成物。
【請求項27】
薬剤組成物を提供する方法であって、
(a)請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法により、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリン間の相互作用を阻害する物質を確認すること、並びに
(b)このようにして確認された阻害物質を、薬学的に許容された基剤又は希釈剤と共に処方すること
を含む方法。
【請求項28】
連鎖球菌感染症に罹患する個体を処置する方法であって、
(a)請求項1から10までのいずれか一項に記載の方法により、連鎖球菌のMタンパク質、フィブリノーゲン、及びβインテグリンの間の相互作用を阻害する物質を同定すること、並びに
(b)前記個体に、このようにして確認された、治療上有効な量の阻害物質を投与すること
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−535654(P2007−535654A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505286(P2006−505286)
【出願日】平成16年4月23日(2004.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004429
【国際公開番号】WO2004/094468
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505393474)ハンサ メディカル アクチボラゲット (3)
【Fターム(参考)】