説明

抗酸化作用が増強された廃糖蜜

【課題】 風味が改善され、且つ廃糖蜜や糖蜜そのものに比して、より抗酸化活性が強化された乳酸菌発酵処理物やその製造方法や、乳酸菌発酵処理物を含む機能性食品又は食品素材を提供すること。
【解決手段】 サトウキビ等の製糖工場において、砂糖を製造する過程で副生する廃糖蜜にほぼ等量加水した物を、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて40℃で72時間培養し、抗酸化活性高含有の発酵処理廃糖蜜を製造する。また、この発酵処理廃糖蜜「廃糖蜜」に限定したを食品に添加することにより、抗酸化活性が強化された機能性食品を得る。上記乳酸菌としては、ラクトバシルス・プランタルム、ストレプトコッカス・サーモフィルスを好適に例示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サトウキビ等より砂糖を製造した後の副産物として得られる廃糖蜜に乳酸菌等を接種・培養する、抗酸化活性物質高含有の発酵処理廃糖蜜の製造方法、及び該処理物を含む機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
廃糖蜜は、サトウキビを原料とする製糖工業において、最終白下(シロシタ)から分離された、経済的見地からもはや砂糖の回収を施さない暗黒色、粘稠な糖蜜であり、廃糖蜜には各種の栄養成分が含有されているので、微生物の培養培地ないし発酵生産用培地として、エタノール発酵、アミノ酸発酵、クエン酸発酵、ブタノール発酵、酵母の培養など発酵工業においても広く利用されている。この廃糖蜜の組成は、蔗糖分が約30%、還元糖分であるブドウ糖と果糖が5〜8%、灰分が約17%、水分で23%〜27%である。
【0003】
なお、糖蜜は、白下(シロシタ)を遠心分離して分蜜糖結晶をとった際に分離される母液(精製糖蜜)であり、一般に淡黄色の透明な粘稠の溶液で、蔗糖分が20〜30%、還元糖分が30〜50%、水分20〜30%であり、糖蜜は、一般的にはジャム等の食品原料やエタノール発酵原料として使用されている。
【0004】
一方、乳酸菌自体、或いは乳酸発酵して得られる発酵処理物が健康食品又は種々の病気に対しての感染を防御する作用を有する薬剤として従来より多数知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
従来、廃糖蜜を乳酸発酵して有用な生成物を製造する方法として、か粒活性炭固定化Lactobacillus casei subsp.rhamnosusを用いたバイオリアクタにおける廃糖蜜からの連続的乳酸発酵であって、菌体固定か粒活性炭マトリックスの三段階反応区分から成るバイオリアクタを通過した廃糖蜜中のグルコースは42℃、pH4.0での発酵プロセスにて100%が乳酸に変換され、発酵後の乳酸精製は従来法を用い、食品及び非食品の両者に利用できること及び乳酸を除いたグルコースフリーのフルクトース高含有糖蜜は類似の技術でマンニトールのような他の生産物への生物変換が可能であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、バイオリアクタを用いてLactobacillus delbrukiiによる乳酸へのビート糖蜜発酵を行い、乳酸の最大収量及び最大容量生産能の獲得のために、発酵温度、pH、接種濃度及び初期ショ糖濃度を変数としてCentral Composite Design(1)を用いて最適化条件を検討し、乳酸生産の最大収量87.8%及び乳酸生合成の最大濃度2.7g/l・hを得たことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。さらに、糖蜜を基質とし、Lactobacillus delbreckiiを用いて発酵させると、乳酸生産収率はわずか46%であったが、酵母エキス、重リン酸二アンモニウム、硫酸マグネシウムを培地に追加すると収率70%に増大したこと、酵素活性44i.u/mgのインベルターゼを用いて基質中のスクロースを単糖に転化した後発酵を行った場合は収率83%に達したことが知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、廃糖蜜を用いて、乳酸菌発酵させ、抗酸化活性物質高含有の発酵処理物を得ることは知られていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−221071号公報
【特許文献2】特開平11−18714号公報
【特許文献3】特開2002−238498号公報
【非特許文献1】「Ann N Y Acad Sci」 VOl.864;p259-262 1998年12月13日)
【非特許文献2】「Acta Biotechnol」 VOL.14,NO.13;p.251-260、1994年
【非特許文献3】「Biotechnol Lett」VOL.8,NO.3;p.157−160、1986年3月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、抗酸化作用を有する物質が、生体内等において血圧降下、活性酸素消去、過酸化物生成抑制、コレステロール上昇抑制及び脂肪代謝促進等の様々な好ましい効果を発現することが明らかになってきており、そのような作用を有する物質を医薬として、また食品に添加するなどして摂取することが好ましいことが知られている。また、生活習慣病の一つとして多く発生する高血圧を、有効に制御するニーズが近年特に大きくなっている。そして、これらの効果を安全に得ることができ、且つ安価に製造することができる医薬及び機能性食品が求められている。
【0009】
一方、製糖工業より副生される廃糖蜜については、発酵原料として用いられるか、飼料として加工されているのが殆どであり、飲食品として利用するには、種々の難点があった。本発明の課題は、風味が改善され、且つ廃糖蜜そのものに比して、より抗酸化活性が強化された乳酸菌発酵処理物やその製造方法や、乳酸菌発酵処理物を含む機能性食品又は食品素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々の植物やその処理物、或いは食品製造の副産物を基質とし、種々の乳酸菌を用いて発酵し、その発酵処理物に新たな有用な医薬効果があるか否かを検討・研究を続けており、さらに健康食品、機能性食品として利用できる点についても鋭意研究したところ、サトウキビ等の製糖工場において、砂糖を製造する過程で副生する廃糖蜜を乳酸発酵し、その発酵処理物に抗酸化作用があることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、廃糖蜜を、必要に応じて加水した後、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて発酵させることを特徴とする抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項1)や、 廃糖蜜100重量部に対して、水50〜200重量部を添加した後、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて発酵させることを特徴とする請求項1記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項2)や、乳酸菌が、ストレプトコッカス属(Storeptococcus)、ラクトバシリス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)又はテトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)のいずれかに属することを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項3)や、ストレプトコッカス属に属する菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus)であることを特徴とする請求項3記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項4)や、ラクトバシリルス属に属する菌が、ラクトバシルス・プランタリム(L. plantarum)、ラクトバシルス・デルブリッキ(L. delbruckii)、ラクトバシルス・ペントサス(L. pentosus)又はラクトバシルス・カセイ(L. casei)のいずれかに属することを特徴とする請求項3記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項5)や、テトラジェノコッカス属に属する菌が、テトラジェノ・ハロフィルス(T. halophius)であることを特徴とする請求項3記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項6)や、酵母が、カンジダ属(Candida)又はサッカロマイセス属(Saccharomyces)に属することを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項7)や、カンジダ属に属する菌が、カンジダ・ビルサチルス(C. vrsatilis)であることを特徴とする請求項7記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項8)や、サッカロマイセス属に属する菌が、サッカロマイセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)であることを特徴とする請求項7記載の発酵処理(請求項9)枯草菌が、バシルス・ズブチルス(B. subtilis)であることを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項10)や、ラクトバシルス・プランタルム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、バシルス・ズブチルスの混合菌を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法(請求項11)に関する。
【0012】
また本発明は、請求項1〜11のいずれか記載の製造方法により得られる抗酸化作用が増強された廃糖蜜(請求項12)や、DPPH法により測定した抗酸化活性(DPPHラジカル残存率)が、発酵前より15%以上強化されたことを特徴とする請求項12記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜(請求項13)に関する。
【0013】
さらに本発明は、請求項12又は請求項13記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜を含有することを特徴とする抗酸化作用を有する機能性食品又は食品素材(請求項14)や、請求項12又は請求項13記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜を含有し、生体内において活性酸素消去、過酸化物生成抑制のために用いられる旨の表示を付した機能性食品又は食品素材(請求項15)や、 飲料であることを特徴とする請求項14又は15記載の機能性食品又は食品素剤(請求項16)に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、廃糖蜜を乳酸発酵することにより、未発酵の廃糖蜜に比して、抗酸化作用が増強され、かつ、風味が向上した、抗酸化改善剤、及びこの作用を有する機能性食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法としては、サトウキビ等の製糖工場で排出される廃糖蜜を、必要に応じて加水した後、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて発酵させる方法であれば特に制限されるものではないが、廃糖蜜100重量部に対して、必要に応じて水20〜300重量部、好ましくは50〜200重量部、より好ましくは80〜120重量部を添加して、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて発酵させる方法を挙げることができる。なお、廃糖蜜を培地成分など発酵原料の一部として用いる場合は、本発明に含まれない。
【0016】
本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法において、廃糖蜜を発酵処理するために使用される微生物としては、乳酸菌、酵母、枯草菌を挙げることができ、これらを単独又は2種以上を適宜組み合わせて使用することもできるが、これらのうち乳酸菌を用いることが必要であり、乳酸菌単独、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は、乳酸菌と酵母と枯草菌の組み合わせとして使用することができる。
【0017】
本発明の発酵処理廃糖蜜の製造方法に用いられる乳酸菌としては、ストレプトコッカス属(Storeptococcus)、ラクトバシルス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)又はテトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)のいずれかに属する菌が好ましく、特にラクトバシルス属が好ましい。上記ストレプトコッカス属に属する菌としては、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus)であることが好ましく、ストレプトコッカス・サーモフィルスIFO13957菌株を具体的に例示することができる。また、ラクトバシルス属に属する菌としては、ラクトバシルス・プランタルム(L. plantrum)、ラクトバシルス・デルブリッキ(L. delbruckii)、ラクトバシルス・ペントサス(L. pentosus)又はラクトバシルス・カセイ(L. casei)のいずれかに属する菌であることが好ましく、これらの菌のうち、特にラクトバシルス・プランタルムが好ましい。かかるラクトバシルス・プランタルムとしてIFO14712菌株やIFO14713菌株を、ラクトバシルス・デルブリッキとしてIFO13953菌株を、ラクトバシルス・ペントサスとしてIFO12011菌株を、ラクトバシルス・カセイとしてIFO15883菌株を、それぞれ具体的に例示することができる。また、テトラジェノコッカス属に属する菌としては、テトラジェノ・ハロフィルス(T. halophius)であることが好ましく、テトラジェノ・ハロフィルスIFO12172菌株を具体的に例示することができる。これら乳酸菌は、廃糖蜜1gあたり、通常10〜10個、特に10〜10個用いることが好ましい。
【0018】
また、本発明の発酵処理廃糖蜜の製造方法において用いられる酵母は、主として香りの改善のために添加され、かかる酵母としては、カンジダ属(Candida)又はサッカロマイセス属(Saccharomyces)に属する菌が好ましい。かかるカンジダ属に属する菌として、カンジダ・ビルサチルス(Candida vrsatilis)であることが好ましく、カンジダ・ビルサチルスとしてIFO10038菌株を具体的に例示することができる。サッカロマイセス属に属する菌として、サッカロマイセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)であることが好ましく、サッカロマイセス・セレビシアエとしてIFO0555菌株を具体的に例示することができる。これら酵母菌は、廃糖蜜1gあたり、通常10〜10個、特に10〜10個用いることが好ましい。
【0019】
更に、本発明の発酵処理廃糖蜜の製造方法において用いられる枯草菌としては、バシルス・ズブチルス(B. subtilis)IFO3013菌株を具体的に例示することができる。これら枯草菌は、廃糖蜜1gあたり、通常10〜10個、特に10〜10個用いることが好ましい。
【0020】
本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法において、特に好ましく用いられる微生物群としては、乳酸菌及び枯草菌を含む微生物群が好ましく、これら微生物群の中でも、ラクトバシルス・プランタルム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、及びバシルス・ズブチルスの混合菌であることが好ましく、これらは廃糖蜜に対し、菌数として同数を使用することが好ましい。このような菌数の組合せにおいて菌を使用することにより、発酵時間の短縮を図り、ひいては雑菌の繁殖を抑制することができる。
【0021】
本発明の発酵処理物は抗酸化活性 が優れたものであり、抗酸化活性の強度はβカロテン法、DPPH法、ロダン鉄法等により測定することができる。ここで、βカロテン法とは、容易に酸化されることにより黄色が退色して透明になるβカロテンを利用した測定法であって、βカロテンとリノール酸及び被検体の混合液を自然酸化させ、一定時間における吸光度の減少が酸化されたβカロテンの量に相当することから、吸光度の変化を測定しβカロテンの酸化率を求める方法である。このβカロテンの酸化率は、その値が小さいものほど、即ち、βカロテンの酸化量が少ないものほど被検体の酸化反応が高速に進行したことを示し、その値が小さいと被検体の抗酸化活性が高いことを表す。また、DPPH法とは、1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)を利用したラジカル消去能の測定による方法であり、DPPHラジカルが捕捉されると黒紫色が退色するDPPHを使用し、被検体を加えた液にDPPHを添加するとDPPHラジカルが捕捉され、吸光度の減少はDPPHラジカルを捕捉した抗酸化活性に相当することから、吸光度の変化を測定しDPPHラジカル残存率を求める方法である。このラジカル残存率は、その値が小さいものほど、即ち、DPPHラジカルの消費量が大きいものほど被検体によるラジカル捕捉反応が高速に進行したことを示し、被検体の抗酸化活性が高いことを表す。なお、ロダン鉄法とは、リノール酸の自動酸化の度合いを分光光度計(500nm)で測定する方法である。
【0022】
DPPH法による本発明の発酵処理物の抗酸化活性の測定は、発酵処理物の熱水希釈液にDPPH等を添加して30秒後における吸光度を測定し、DPPH添加前における吸光度との差を求め、発酵処理物の抽出液無添加のコントロールにおける吸光度の差を100として換算した吸光度の減少率、かかる減少率から、ラジカル残存率を求めることができる。このようにして得られた本発明の発酵処理物のDPPHラジカル残存率は、図1に示すように、DPPH法による測定において、本発明の発酵処理物は、発酵により抗酸化活性は上昇し、アスコルビン酸に匹敵する優れた抗酸化活性を示す。したがって、本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜としては、DPPH法により測定した抗酸化活性(DPPHラジカル残存率)が、発酵前より15%以上強化されたものが好ましい。
【0023】
本発明の発酵処理物の製造方法においては、サトウキビ等から糖を製造する製糖工業から排出される廃糖蜜に、前記のように加水して発酵を行うことが好ましい。乳酸菌等による発酵は、温度20〜50℃、中でも40℃前後で行なわれることが好ましく、発酵時間は、使用する微生物の菌種や、初発菌数、発酵温度・pH、攪拌の有無等の発酵条件により異なるが、発酵の進行状況や発酵産物の嗜好等により適宜選択することができ、例えば、pH4〜5、初発菌数106以上であれば、約72時間とすることが好ましい。発酵処理時、必要に応じてエアレーションや脱酸素処理を行なうことができ、通気攪拌培養や液体静置培養により発酵させることができるが、液体静置培養で行う方がより好ましい。
【0024】
一般に、乳酸菌等による発酵処理において、発酵補助成分や資化剤として炭素源や窒素源を添加することが行われているが、本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法における発酵工程では、発酵補助成分や資化剤としてのブドウ糖、蔗糖等の炭水化物や米糠、ふすま等の蛋白質は不必要であり、したがって、本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法は、(必要に応じて加水した)廃糖蜜それ自体を発酵させる点に特徴を有し、発酵補助成分や資化剤として廃糖蜜を使用する従来技術とは明らかに区別される。
【0025】
発酵終了後、乾燥機により水分値が10重量%以下となるように乾燥させることもできる。乾燥方法としては、加熱乾燥や凍結乾燥によることができ、加熱乾燥の場合は、品温が100℃以下で行われることが、生理活性成分の失活を防止することができるため好ましい。乾燥後、必要に応じて加熱等公知の方法により滅菌処理を行ない、食品素材や、エキスの原料として使用される抗酸化作用が増強された発酵処理物が得られる。
【0026】
本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜は、それ自体濃縮液、タブレット、顆粒、カプセル等として抗酸化剤、健康食品、食品素材としては用いることができる他、スポーツドリンク、栄養ドリンク、茶、コーヒー、清涼飲料水、ジュース等のドリンク類に添加して飲料とすることが好ましく、また、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム、ゼリー等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリーム、プディング等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮等の各種総菜に配合して抗酸化作用が増強された機能性食品として使用することができる。
【0027】
また、本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜を抗酸化活性組成物としての医薬品に用いることができ、その場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができ、これらは通常経口的に投与することができる。すなわち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
[発酵処理物の製造]
サトウキビを用いて糖を生産する際に産出された廃糖蜜100gを入れた容器に水100mlを添加し、混合した(サンプル液1)。該混合物を収容した容器に、ラクトバシルス・プランタリム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、バシルス・ズブチルスの各々の菌を培養後、菌数1:1:1の割合で混合し、廃糖蜜の重量に対し、10重量%を添加・混合し、容器を密閉し(嫌気条件)、40℃で、72時間、静置培養により発酵を行った(サンプル液2)。発酵前のpHは5.21であり、発酵後のpHは5.00であった。
【実施例2】
【0030】
[DPPH法による抗酸化活性の測定]
実施例1で得られた発酵廃糖蜜(サンプル液2)と発酵前の廃糖蜜(サンプル液1)をそれぞれ1gとり、80℃の熱水で50mlに定溶し、その液を原液とした。また、ポジティブコントロールとしてのアスコルビン酸は、濃度1mg/mlに濃度調整した溶液を測定対象の原液とした。これらの原液を、次のDPPH法に従い、測定した。0.05Mトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)(WAKO(株)社製)0.95mLと、0.1mMDPPH−エタノール溶液(WAKO(株)社製)1.0mLと、100%エタノール1.0mLとを混合し、撹拌した。このようにして得た試薬に先の原液0.05mlを添加した。試薬添加前と、添加30秒後の吸光度(517nm)を測定した。コントロールとして蒸留水を用い、コントロールの試薬添加前後の吸光度の差を100としたときの、サンプルの試薬添加前後の吸光度の差の値をDPPHラジカル消費率(%)として求め、このラジカル消費率(%)を1から引いた値をDPPHラジカル残存率(%)とした。結果を図1に示す。図1からわかるように、発酵廃糖蜜(サンプル液2)は、DPPH法により測定した抗酸化活性(DPPHラジカル残存率)が、発酵前の廃糖蜜(サンプル液1)と比べて15%以上強化されていた。
【実施例3】
【0031】
[食味の検査]
発酵廃糖蜜について、嗜好性の試験を行った。実施例1で得られた発酵廃糖蜜20gを、500mLの湯に溶かし、10人のパネラーが試飲した。未発酵廃糖蜜についても湯で20gを、500mlにとかし同様に試飲を行なった。官能評価は、呈味及び香りの2観点で実施し、未発酵廃糖蜜の場合を3点とし、より優れている場合を5点、優れている場合を4点、劣っている場合を2点、より劣っている場合を1点とした。その結果、発酵廃糖蜜は、呈味については3.8点、風味については4.1点であった。以上の結果から、発酵廃糖蜜の風味が向上され、嗜好性の改善が図れたことが明らかである。
【実施例4】
【0032】
[飲料]
実施例1において製造された乾燥前の発酵廃糖蜜液100mLに上白糖を8.0g添加して、ミキサーにより混合撹拌し、85℃、30秒間の瞬間加熱殺菌した。その後、冷却して、発酵廃糖蜜飲料を得た。この発酵廃糖蜜飲料は、くどくなく、爽やかな味と風味を有するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の抗酸化作用が増強された廃糖蜜のDPPHラジカル残存率(%)の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃糖蜜を、必要に応じて加水した後、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて発酵させることを特徴とする抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項2】
廃糖蜜100重量部に対して、水50〜200重量部を添加した後、乳酸菌、乳酸菌と酵母、乳酸菌と枯草菌、又は乳酸菌と酵母と枯草菌を用いて発酵させることを特徴とする請求項1記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌が、ストレプトコッカス属(Storeptococcus)、ラクトバシリス属(Lactobacillus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)又はテトラジェノコッカス属(Tetragenococcus)のいずれかに属することを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項4】
ストレプトコッカス属に属する菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus)であることを特徴とする請求項3記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項5】
ラクトバシリルス属に属する菌が、ラクトバシルス・プランタリム(L. plantarum)、ラクトバシルス・デルブリッキ(L. delbruckii)、ラクトバシルス・ペントサス(L. pentosus)又はラクトバシルス・カセイ(L. casei)のいずれかに属することを特徴とする請求項3記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項6】
テトラジェノコッカス属に属する菌が、テトラジェノ・ハロフィルス(T. halophius)であることを特徴とする請求項3記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項7】
酵母が、カンジダ属(Candida)又はサッカロマイセス属(Saccharomyces)に属することを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項8】
カンジダ属に属する菌が、カンジダ・ビルサチルス(C. vrsatilis)であることを特徴とする請求項7記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項9】
サッカロマイセス属に属する菌が、サッカロマイセス・セレビシアエ(S. cerevisiae)であることを特徴とする請求項7記載の発酵処理
【請求項10】
枯草菌が、バシルス・ズブチルス(B. subtilis)であることを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項11】
ラクトバシルス・プランタルム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、バシルス・ズブチルスの混合菌を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか記載の製造方法により得られる抗酸化作用が増強された廃糖蜜。
【請求項13】
DPPH法により測定した抗酸化活性(DPPHラジカル残存率)が、発酵前より15%以上強化されたことを特徴とする請求項12記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜。
【請求項14】
請求項12又は請求項13記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜を含有することを特徴とする抗酸化作用を有する機能性食品又は食品素材。
【請求項15】
請求項12又は請求項13記載の抗酸化作用が増強された廃糖蜜を含有し、生体内において活性酸素消去、過酸化物生成抑制のために用いられる旨の表示を付した機能性食品又は食品素材。
【請求項16】
飲料であることを特徴とする請求項14又は15記載の機能性食品又は食品素剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−94800(P2006−94800A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286253(P2004−286253)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(397031784)株式会社琉球バイオリソース開発 (21)
【Fターム(参考)】