抗C反応性タンパク質モノクローナル抗体産生細胞ライン、その作製方法、およびそれにより産生されたモノクローナル抗体
【課題】 C反応性タンパク質(CRP)の検出に有用な抗CRPモノクローナル抗体であって、EDTA塩による構造変化の無いCRPの構造を認識し、血清アミロイドPに対する交差性を有しない抗CRPモノクローナル抗体を効率よく提供すること。
【解決手段】 CRPの構造変化を起こさない部分、かつ血清アミロイドPと比較して立体構造の異なる部分におけるCRPのアミノ酸配列をもとに作製したペプチドをもとに調製したペプチド抗原、およびCRPを免疫原として使用し、哺乳動物に免疫した後、得られた脾臓細胞をもとに抗体産生細胞の作製を行う。
【解決手段】 CRPの構造変化を起こさない部分、かつ血清アミロイドPと比較して立体構造の異なる部分におけるCRPのアミノ酸配列をもとに作製したペプチドをもとに調製したペプチド抗原、およびCRPを免疫原として使用し、哺乳動物に免疫した後、得られた脾臓細胞をもとに抗体産生細胞の作製を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C反応性タンパク質に対するモノクローナル抗体を産生する細胞ライン、その作製方法、およびそれにより産生されたモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
C反応性タンパク質(CRP)は、代表的な急性相反応物質であり、炎症性疾患、体内組織の壊死などがある時に著しく増加する血清タンパク質である。CRPは、例えば、細菌またはウイルスでの感染症;慢性関節リュウマチなどの膠原病;悪性腫瘍;心筋梗塞;肝炎、肝硬変などの消化器疾患;大きな外傷のような広範囲の組織崩壊性疾患が存在する場合に高い値を示す。
【0003】
そのため、CRPについての検査は、疾病特異性はないものの、被検体における組織崩壊性疾患の存在を検出するために非常に有用である。例えば、CRPに対する抗体を用いて、体調不良者の事前検査(CRPが陽性の場合は疾患を特定するためのさらなる検査を行う)、CRP量の定量による病態スクリーニング、治療効果の確認、予後の判定等を行うことが出来る。
【0004】
しかしながら、CRPに対する抗体には、CRPとアミノ酸配列および立体構造の類似した補体C1q、血清アミロイドP等と交差反応を起こすものもある。このような交差反応が生じると、CRPの検査における測定精度の低下を導く。したがって、従来、CRPを免疫学的手法により特異的に検出する測定精度を上げるために、血中に存在する補体C1q、血清アミロイドPに対して交差反応性を有しない抗体の作製方法の開発が行われてきた(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、CRPは、カルシウム依存的に(Ca2+イオンのCRPへの結合/離脱に依存して)、立体構造が変化することが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0006】
他方、交差反応性を有しない等の精密な性能を要求されるモノクローナル抗体試薬の開発には、実験動物の免疫から、細胞融合、スクリーニング、クローニング等の過程を経て抗体の確立に至るまでに、通常1年半から2年程度の長期間を要するが、この抗体開発期間の短縮が望まれている。
【特許文献1】特開2001−00181号公報
【非特許文献1】アネット K.シュライブ(Annette K. Shrive)他8名,「ヒトC反応性タンパク質の3次元構造」(Three dimensional structure of human C−reactive protein),ネイチャーストラクチュラルバイオロジー(Nature Structural Biology)第3巻(volume 3),第4号(number 4),1996年4月、p.346−354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法で得られた抗体は、補体C1qや血清アミロイドPに対して交差反応性を示さないが、その中にはCRPがCa2+イオンの離脱によって構造変化を起こした場合に、CRPを認識することができないものも含まれている。採血管で採取した血液中でCRP測定を行う場合に、採血管中で血液の抗凝固剤としてEDTA塩を使用することも多く、そのような場合、EDTA塩のCa2+イオンキレート作用によるCa2+イオンの離脱で構造変化を起こしたCRPをその抗体が認識できないとすると、測定精度の点で不利である。
【0008】
そこで、本発明は、Ca2+の結合したCRPのみならず、Ca2+離脱によって立体構造の変化したCRPも同様に認識して特異的に結合し得、かつ同じペントラキシンファミリーに属して立体構造が非常に似通った血清アミロイドPと交差反応を起こさない抗CRPモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを作製する方法、その抗体産生細胞ライン、およびそれによって産生された抗体を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、交差反応性を有さないモノクローナル抗体の開発において、抗原分子中の特定配列のペプチド断片が実際の抗原分子中での特異構造をミミックする構造をとらないような場合でも、より少ない労力で所望のモノクローナル抗体を開発することを可能にするモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、CRPのアミノ酸配列中のCa2+離脱によっても構造変化を起こさない部分であって、かつ血清アミロイドPとは立体構造の異なる部分のペプチド断片と、CRPとの混合物を免疫原として用いて哺乳動物を免疫することによって、Ca2+の結合したCRPのみならず、Ca2+の離脱によって構造変化したCRPに対しても特異的に結合し得、かつ血清アミロイドPとの交差反応を示さない抗CRPモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、抗C反応性タンパク質(CRP)モノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法であって、CRPのモノマー中の、カルシウムイオンの離脱により実質的に立体構造変化を起こさず、かつ血清アミロイドPのモノマーと比較して実質的に立体構造の異なる部分に含まれるアミノ酸配列に基づいて作製された1種または複数種のペプチド抗原およびCRPを免疫原として用いて免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞ラインとを細胞融合して、融合細胞を得る工程;およびCRPに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを該融合細胞の中からクローニングする工程であって、該融合細胞から産生される抗体を、CRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、工程を包含する、抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法を提供する。
【0012】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0013】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記1種または複数種のペプチド抗原は、上記ペプチドの全てを含む。
【0014】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0015】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記クローニングする工程において、カルシウムイオンの離脱したCRPおよびカルシウムイオンの結合したCRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む。
【0016】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記クローニングする工程において、さらに血清アミロイドPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む。
【0017】
本発明は、別の局面において、抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインを提供し、この細胞ラインは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法によって作製されている。
【0018】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインである。
【0019】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの別の好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインである。
【0020】
本発明は、さらに別の局面において、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体を提供する。
【0021】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体の好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0022】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体の別の好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0023】
本発明は、さらに別の局面において、検体中のCRPを検出するための方法を提供する。この方法は、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナルと、CRPを含む検体とを混合する工程、および上記混合物中での上記抗体とCRPとの反応を光学的、電気的、または物理的な方法によって検出する工程を包含することを特徴とする。好ましくは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体は、抗体受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体または受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0024】
本発明はさらに別の局面において、上記CRP検出方法に使用するためのCRP検出キットを提供し、このキットは、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体を含む。好ましくは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体または受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0025】
本発明はさらに別の局面において、検体中のCRPを検出するためのキットを提供する。このCRP検出用キットは、移動相としての第1の抗体と、固相としての第2の抗体とを担持した支持体を含み、第1の抗体は、該支持体に移動可能に担持され、第2の抗体は該支持体に結合されており、第1の抗体および第2の抗体は、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体であり、第1の抗体は標識されていることを特徴とする。好ましくは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体または受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0026】
本明細書中で、「免疫(する)」とは、実験動物に抗原を注射して、実験動物の体内で免疫反応を起こし、その抗原に対応する抗体を産生させることをいうものとする。
【0027】
本明細書中で、「免疫原」という用語は、当該分野で認識されている通常の意味で使用される。また、本明細書中で、「抗原」という用語は、「免疫原」と同義で使用される。
【0028】
本明細書中で、「特定配列」とは、目的の抗原分子と、立体構造が類似する他の抗原分子とを比較した場合に、類似する他の抗原分子とは異なる立体構造(本明細書中で、「特異構造」と呼ぶこともある)をとる目的の抗原分子中の部分に対応するアミノ酸配列のことをいうものとする。
【0029】
本発明の方法は、交差反応性を有さない抗CRPモノクローナル抗体を作製するために免疫応答を動物中で惹起するにおいて、特定配列に対応するCRPペプチド断片とCRP分子全体とを組み合わせて免疫する。このような本発明の構成は、新規であり、かつ意外なものである。
【発明の効果】
【0030】
上記構成により、本発明は、EDTA塩によるCa2+キレート作用によるCRP立体構造変化の影響を受けずにCRPを認識し、かつCRPと立体構造が非常に似通った血清アミロイドPに交差反応を起こさない抗CRPモノクローナル抗体を提供することができる。
【0031】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン、およびその作製方法、ならびにモノクローナル抗体によれば、血中のCRP測定において、血液の抗凝固剤EDTAによる測定誤差を実質的になくす事が可能で、かつ交差反応が問題となる血清アミロイドPとの誤反応も発生させない、抗C反応性タンパク質モノクローナル抗体を提供することができる。
【0032】
加えて、本発明により、交差反応性を有さない等の性能を要求される抗体を作製する場合において、抗原の特定配列のペプチドが特異構造を完全にミミックしない場合であっても、スクリーニングを容易にすることができ、結果として、抗体開発期間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
本発明においては、特に指示のない限り、当該分野で既知である、タンパク質の分離および分析法、ならびに免疫学的手法が採用され得る。これらの手法は、市販の酵素、キット、抗体、標識物質などを使用して行い得る。
【0035】
(本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製に用いるCRPペプチドの作製)
図1は、非特許文献1に開示されている、血液の抗凝固剤EDTAによる脱Ca2+イオン作用によりCa2+がCRPから離脱してCRPが構造変化を起こした状態と、構造変化を起こす前の状態とを、CRPのモノマーにおいて比較した図である。薄いグレーのワイヤーフレームモデルがCa2+イオンが結合した状態のCRPモノマーを示し、濃いグレーのワイヤーフレームモデルがCa2+イオンがEDTAのキレート作用により離脱した状態のCRPモノマーを示す。
【0036】
抗CRP抗体が、EDTAのCa2+キレート作用に影響されずにCRPを認識し得るには、Ca2+の離脱前後でCRPの分子構造が実質的に変化していない部分、つまり濃/淡グレーのワイヤーの重なった部分を認識する必要がある。
【0037】
図2は、非特許文献1に開示されている、CRPおよび血清アミロイドPの立体構造を、それぞれのモノマーどうしで比較した図である。CRPと血清アミロイドPは、共にペントラキシンファミリーに属し、アミノ酸の一次配列で51%の相同性を有する。比較的濃いグレーのワイヤーフレームモデルがCa2+イオンが結合した状態のCRPを示し、比較的薄いグレーのワイヤーフレームモデルが血清アミロイドPを示す。
【0038】
抗CRP抗体が、血清アミロイドPとの交差反応性を有しないためには、血清アミロイドPと比較して分子構造が実質的に異なるCRPの部分、つまり濃/淡グレーのワイヤーの重ならない部分を認識する必要がある。
【0039】
図3(a)は、Ca2+の結合したCRP(タイプI)と血清アミロイドPとの間で、そして図3(b)は、Ca2+の結合したCRPとCa2+の結合していないCRP(タイプII)との間で、それぞれ、対応するアミノ酸がどの程度離れているかを示すグラフである。グラフの横軸はCRPおよび血清アミロイドPのアミノ酸番号、縦軸は対応するアミノ酸がどの程度離れているかを表す。
【0040】
Ca2+離脱に起因するCRPの立体構造変化に影響されない抗体は、分子構造の実質的に変化していない部分、つまり図3(b)のグラフの値の低い部分(アミノ酸同士の距離の離れていない部分)を認識する性能が必要である。また、血清アミロイドPとの交差反応性を有しない抗体は、分子構造の実質的に異なる部分、つまり図3(a)のグラフの値の高い部分(アミノ酸同士の距離のできるだけ離れている部分)を認識する性能が必要である。これらの条件を満たす部分は、図3(a)および図3(b)に影を付して示すように5カ所存在する。ここで、分子構造が「実質的に」変化していない部分とは、Ca2+の結合/離脱により立体構造が変化したCRP間で立体構造を比較したときに、対応するアミノ酸位置間の距離が約1Å未満であるアミノ酸位置を含むCRPの部分のことをいうものとする(図3(b)を参照)。また、分子構造が「実質的に」異なる部分とは、血清アミロイドPとCRPとの間で立体構造を比較したときに、対応するアミノ酸位置間の距離が約1Å以上であるアミノ酸位置を含むCRPの部分のことをいうものとする(図3(a)を参照)。
【0041】
図4は、CRPのアミノ酸配列(配列番号1)を表す図である。図4中、図3(a)および図3(b)より導き出した5カ所のアミノ酸配列、アミノ酸番号25から28のPLTK(配列番号2)、アミノ酸番号57から60のKRQD(配列番号3)、アミノ酸番号114から121のKPRVRKSL(配列番号4)、アミノ酸番号177から180のGGPF(配列番号5)、およびアミノ酸番号204から206のLWP(配列番号6)に影を付した。これらのアミノ酸配列に対応するペプチドを、本発明の目的のために、Fmoc法やtBoc法のような常法により合成する。
【0042】
(免疫のストラテジー)
本発明の抗CRPモノクローナル抗体に要求される性能は、(1)血清アミロイドPに対して交差反応性を有さず、かつ(2)Ca2+の結合/離脱によるCRPの構造変化の前後で、CRPへの反応性が変わらないことである。
【0043】
上記5種のアミノ酸配列で表されるCRPペプチドの立体構造がCRP分子中の実際の立体構造をミミックしているとすれば、これらのペプチドを免疫原として抗体産生細胞を得ることにより、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗体の作製が可能となるはずである。
【0044】
しかしながら、実際には、本発明者らの実験により、CRPの上記5種のペプチドを免疫原として使用して、所望の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインは得られなかった。
【0045】
これは、上記ペプチドが特異構造をミミックしないからであろうと推測された。このような場合、従来は、抗原分子(ここでは、CRP)をそのまま免疫原として用いて動物を免疫して免疫反応を生じさせた後、その動物から採取した脾臓細胞と骨髄腫由来の細胞ラインとの融合細胞から交差反応を起こさない抗体を産生する抗体産生細胞ラインを、スクリーニングのステップを詳細に行うことにより得るという方法を採っていた。しかしながら、このような方法は、労力がかかる上に、目的の抗体を取得できない可能性も高い。
【0046】
通常、スクリーニングのステップおいて特異性の強い抗体を産生する細胞ラインを選別するが、本発明者らは、免疫の段階で目的とする抗体産生細胞の存在率を可能な限り高くしておけば、スクリーニングで目的の抗体産生細胞ラインを得る確率を高めることができると考えた。
【0047】
そこで、本発明者らは、CRPのみを免疫するのではなく、CRPと上記5種のCRPペプチドとを組み合わせて免疫原として使用することを試みた。それにより、予想外にも、スクリーニングのステップにおいて、単にCRPのみを使用して免疫する場合よりも、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗体を産生する細胞ラインをより確実に選別することができた。
【0048】
したがって、本発明の抗CRP抗体産生細胞ライン作製方法の1つの実施形態では、上記5種のペプチドとCRPとの混合物を免疫原として使用して免疫を行う。しかしながら、常に5種のペプチド断片の全てをCRPと混合する必要はなく、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗体を産生する細胞ラインをスクリーニングで選別する確率を高める限り、5種のうちの少なくとも1種、より好ましくは少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種、さらにより好ましくは少なくとも4種のペプチド断片と、CRPとを混合して免疫原として使用してもよいことは、本明細書の記載に基づいて当業者には理解し得るはずである。複数のペプチドを混合するときの組合せは、特に限定されることなく、最適なものを当業者は選択し得る。
【0049】
上記5種のペプチドの長さは、上記の長さに限定されるわけではなく、1つ以上のアミノ酸をさらに付加したもの、または1つ以上のアミノ酸を欠失したものであっても、CRPと組み合わせて免疫に使用した場合に、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗CRP抗体を産生する細胞ラインを得る確率を高める限り、本発明の方法において同様に使用され得ることは、当業者には理解され得る。また、上記5種のペプチドのいずれかにおいて、1つ以上のアミノ酸が置換されたものであっても、CRPと組み合わせて免疫に使用した場合に、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗CRP抗体を産生する細胞ラインを得る確率を高める限り、本発明の方法において同様に使用され得ることもまた、当業者に理解され得る。このようなペプチドの改変は、ペプチド合成等の分野での常法により行い得る。
【0050】
以下、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法を、作製手順に沿って説明する。
【0051】
(免疫)
まず、上記ペプチド抗原とCRPとの組合せを免疫原として、哺乳動物に免疫を行うことにより、動物体内で抗体産生細胞を調製する。
【0052】
本発明に用い得る「哺乳動物」の例として、マウス、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギが挙げられる。哺乳動物は、好ましくはマウスおよびラットであり、より好ましくはマウスである。マウスの例として、A/J系統、BALB/C系統、DBA/2系統、C57BL/6系統、C3H/He系統、SJL系統、NZB系統、CBA/JNCrj系統のマウスが挙げられる。BALB/C系統のマウスは、免疫後に血清中に高い抗体力価を示すので、CRPとの親和性が極めて高いモノクローナル抗体を得ることが可能である。血中抗体力価が、特異的なハイブリドーマの出来易さと関係していることは公知である。また、細胞ラインの確立後の腹水による抗体大量作製においては、BALB/C系統マウスが一般によく使用される。以上により、BALB/C系統のマウスは、CRPの免疫に好ましい例である。実験動物の齢は、特に限定されないが、代表的には約4週齢〜約12週齢であり、好ましくは約6〜約10週齢、より好ましくは約7週齢のマウスまたはラットである。
【0053】
免疫に用いられるCRPは、人工のヒトCRP、天然のヒトCRP、またはそれらのモノマーサブユニットであり得る。好ましくは、天然のヒトCRPが用いられる。CRPは、ヒトの血清から精製してもよいし、市販のものを使用しても良い。一方、免疫に用いられるCRPペプチドは、常法により合成され得るが、合成されたものに限定されない。CRPペプチドは、免疫に使用する際には、動物体内での免疫反応を確実に起こさせるために、CGG(Chicken Gamma Globulin)のようなハプテンをSPDP(N−succinimidyl 3−(2−pyridyldithio)propionate)のような官能基導入剤を介して上記ペプチドに結合させて使用することが好ましい。なお、用いられ得るハプテンおよびその結合方法は、上記のものに限定されず、当業者が適宜最適なものを選択し得る。
【0054】
免疫の前に、ペプチド抗原とCRPは、免疫応答を増強させるためにアジュバントと混合され得る。アジュバントの例としては、油中水型乳剤(例えば、不完全フロイントアジュバント)、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバント、粉末ベントナイト、およびタピオカアジュバントの他に、BCG、Propionibacterium acnes、pertussisなどの菌体、細胞壁およびトレハロースダイコート(TDM)などの菌体成分;グラム陰性菌の内毒素であるリポ多糖体(LPS)およびリピドA画分;β−グルカン(多糖体);ムラミジルペプチド(MDP);ベスタチン;レバミゾールなどの合成化合物;胸腺ホルモン、胸腺ホルモン液性因子およびタフトシンなどの生体成分由来のタンパク質またはペプチド性物質;ならびにそれらの混合物(例えば、完全フロイントアジュバント)などが挙げられる。これらのアジュバントは、投与経路、投与量、投与時期などに依存して免疫応答の増強または抑制に効果を示す。さらにアジュバントの種類によって、抗原に対する血中抗体産生、細胞性免疫の誘導、免疫グロブリンのクラスなどに差が認められる。それゆえ、目的とする免疫応答に応じて、アジュバントを適切に選択することが好ましい。選択されたアジュバントの取り扱い、例えばCRPとの混合方法などは当該分野で公知である。
【0055】
哺乳動物の免疫は、当該分野で公知の方法に従って行われる。例えば、抗原は哺乳動物の皮下、皮内、静脈、または腹腔内に注射され得る。免疫応答は、免疫される哺乳動物の種類および系統によって異なるので、免疫スケジュールは、使用される動物に合わせて適切に変更され得る。抗原投与は、最初の免疫の後に、何回か繰り返される。追加免疫は、例えば最初の免疫から4週間後、6週間後、および半年後に行われ得る。
【0056】
(抗体産生の確認)
免疫後、哺乳動物から採血し、得られた血清のCRP結合活性の存在についてアッセイすることにより、哺乳動物の体内でCRPに対する抗体が産生されていること、および免疫末期にはIgMからIgGへのクラススイッチが起こっていることを確認する。適切なアッセイ方法の例として、酵素免疫測定法(ELISA法)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光抗体法が挙げられる。抗CRPモノクローナル抗体産生細胞を得るためには、抗血清の時点で高い抗体価を示している必要がある。
【0057】
(ブースト)
CRP結合性抗体の産生を確認した後、脾臓を肥大させるために、ブースト(免疫原の追加注射)を行い得る。ブーストで投与される抗原の量は、最初に免疫される抗原量の約4〜5倍の量が望ましいが、これに限定されない。
【0058】
ブーストは、代表的には抗原と不完全フロイントアジュバントとのエマルジョンを用いて行われる。ただし、最終免疫(細胞融合数日前の免疫原の追加注射)で投与されるペプチド抗原とCRPとしては、アジュバントを加えず純粋品を用いることが望ましい。
【0059】
(細胞融合)
最終免疫後、免疫した哺乳動物から脾臓細胞を摘出し、骨髄腫由来の細胞ラインと細胞融合する。
【0060】
融合細胞の増殖能力は、細胞融合時に用いられる骨髄腫由来の細胞ラインの種類に依存するので、細胞融合には、増殖能力の優れた細胞ラインを用いることが好ましい。また、骨髄腫由来の細胞ラインは、融合する脾臓細胞の由来する哺乳動物と適合性があることが好ましい。骨髄腫由来の細胞ラインは、新たに調製しても良いし、市販のものを使用しても良い。マウスの骨髄腫由来の細胞ラインとしては、P3X63−Ag8.653、Sp2/O−Ag14、FO・1、S194/5.XX0.BU.1、P3/NS1/1−Ag4−1などが挙げられる。抗体の断片を産生せず、かつ融合細胞の増殖能力が優れたものとなるため、P3X63−Ag8.653の使用が好ましい。ラット骨髄腫由来の細胞ラインとしては、210.RCY3.Ag.1.2.3、YB2/0などが挙げられる。
【0061】
細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行われる。細胞融合法の例として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。細胞毒性も比較的少なく、融合操作も容易で再現性が高いため、ポリエチレングリコール法が好ましい。
【0062】
得られた融合細胞は、当該分野で公知の条件に従って増殖させ得る。産生される抗体の結合能に基づいて、所望の融合細胞を選択し得る。
【0063】
(細胞選別およびクローニング)
融合細胞から産生される抗体の結合能は、当該分野で公知の方法に基づいてアッセイされ得る。本発明においては、血液の抗凝固剤によるCa2+キレート作用により構造変化を起こさないCRPの部位を認識して結合能を有すると共に、血清アミロイドPと結合能を有さない抗体を産生する融合細胞を得るために、CRP、キレート作用により構造変化を起こしたCRP、血清アミロイドPの3種類に対する結合能に基づく選別を利用して、目的の細胞ラインをクローニングする。従って、本明細書中で「CRPに対して特異的なモノクローナル抗体」とは、CRPのCa2+イオン離脱による立体構造の変化に拘わらずCRPを認識してそれに結合し得ると共に、血清アミロイドPに結合能を有さない抗体をいうものとする。
【0064】
「結合能を有する」とは、インヒビションELISA法での測定においてインヒビションがかかることをいう。「インヒビションがかかる」とは、固相に固定されたCRPに結合する抗体の量が、競合物質(インヒビター)の存在下で、インヒビターの非存在下と比較して減少することをいう。「インヒビションがかからない」とは、固相に固定されたCRPに結合する抗体の量が、インヒビターの存在下および非存在下で実質的に同等であることをいう。「インヒビションの半値」とは、インヒビターの非存在下での吸光度(抗体結合量を反映する)の半分の吸光度が測定されるインヒビターの濃度をいう。
【0065】
抗体の結合能は、抗体産生の確認に関して上述したのと同様に、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法などの方法を用いてアッセイされる。簡便に感度よく抗体を検出し得ることから、ELISA法が好ましい。
【0066】
融合細胞のクローニングには、当該分野で公知の方法が用いられ得る。クローニングの方法の例としては、限界希釈法、軟寒天法などが挙げられる。操作も容易で数多くの実績があり、再現性が高いため、限界希釈法が好ましい。
【0067】
細胞融合により得られた多くの融合細胞の中から、効率よく有用な細胞を選択するために、細胞選別は、クローニングの初期の段階から行うことが好ましい。
【0068】
このようにして、望ましい結合能を有する抗体を産生する融合細胞ラインが最終的に選別される。
【0069】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞ラインは、液体窒素中で半永久的に保存され得る。
【0070】
(抗体の精製)
上記のようにして選別されたモノクローナル抗体産生細胞ラインを大量培養することにより、CRPに対して特異的なモノクローナル抗体を大量に産生し得る。モノクローナル抗体産生細胞ラインの大量培養方法として、インビボおよびインビトロでの培養が挙げられる。インビボでの大量培養の例としては、哺乳動物の腹腔内に融合細胞を注射して増殖させ、腹水中に抗体を産生させる方法が挙げられる。インビトロでの培養では、融合細胞が培地中で培養され、抗体が培地中に産生される。
【0071】
大量培養により得られた腹水または培養上清から、当該分野で公知の方法を用いて、本発明のモノクローナル抗体を精製し得る。精製のためには、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法などが適宜組み合わせて用いられる。本発明の抗体は、通常、約90%の純度、好ましくは約95%の純度、より好ましくは約98%以上の純度となるように精製される。
【0072】
(抗体の評価)
精製されたモノクローナル抗体の結合能をインヒビションELISAのような方法でCa2+離脱したCRPへの結合能および血清アミロイドPに対する結合能を評価することにより、得られた抗体が、所望の性能を有するか否かを確認し得る。
【0073】
(検体中のCRPの検出方法)
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生される抗CRPモノクローナル抗体を使用して、検体中のCRPを検出するための方法が提供される。本発明のCRP検出方法では、CRPを含む検体と本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生されたモノクローナル抗体とを混合して免疫反応させ、その反応を光学的、電気的、または物理的な方法によって検出する。光学的な方法の例としては、吸光度測定、蛍光測定等が挙げられる。電気的な方法の例としては、抗体電極を用いた測定、SPR(surface plasmon resonance)等が挙げられる。また、物理的な方法の例としては、分子量測定等が挙げられる。
【0074】
(CRP検出のためのモノクローナル抗体キット)
本発明に従って、CRPを検出するためのキットが提供される。一実施形態において、本発明のCRP検出用キットは、本発明の抗CRPモノクローナル抗体を含み、例えば、上記の検体中のCRPの検出方法において使用され得る。
【0075】
別の実施形態としては、本発明のCRP検出用キットは、例えば、抗原抗体結合反応に基づいて水性試料中の抗原を検出する免疫クロマトグラフィーのために提供され得る。このようなCRP検出用キットは、クロマトグラフィーのための支持体を含み、支持体は、固相として支持体に結合された抗体と、移動相として支持体に移動可能に担持された抗体とを含む。
【0076】
図11は、本発明のCRP検出キットの一実施形態に係る、イムノクロマト法に基づくCRP検出キットに含まれる支持体としてのテストストリップを示す模式図である。示されるように、CRP検出キットのテストストリップ(支持体)は、サンプル滴下部、移動相、および固相を備え、固相として支持体に結合された抗体と、移動相として支持体に移動可能に担持された抗体とを含む。
【0077】
支持体は、ニトロセルロースメンブレンなどの材質で形成され得るがこれに限定されず、固相化抗体を保持する性質と、サンプルが毛管現象できれいに流れていくような性質とを有する限り、他の材質(例えば、ろ紙、不織布、セラミックスなど)でできていてもよい。
【0078】
固相に結合された抗体としては、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法によって産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。より好ましくは、受託番号FERM BP−10039号または受託番号FERM BP−10040号の細胞ラインにより産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。
【0079】
移動相の抗体としては、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法によって産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。より好ましくは、受託番号FERM BP−10039号または受託番号FERM BP−10040号の細胞ラインにより産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。移動相としての抗体は、任意の標識により標識されている。標識の例としては、酵素標識、色素標識、磁性標識、放射性標識、色の付いた粒子(金コロイド、ラテックスなど)による標識などが挙げられる。抗体は、当該分野で公知の方法により標識される。移動相抗体としてはまた、CRPに高い結合能を有する限り、他の抗体を使用してもよい。他の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。他の抗体は、モノクローナル抗体であることが移動相の抗体として使用するために特に好ましい。
【0080】
使用時には、CRPを含むサンプル溶液をサンプル滴下部に滴下する。滴下されたサンプルが支持体中を浸透して移動相に達すると、サンプル中のCRPは移動相の抗体と結合する。次いで、サンプルは固相まで浸透し、移動相の抗体と結合した状態のCRPは固相に固定された抗体と結合すると、呈色する。
【0081】
本発明のキットは、当該分野で公知の方法により適切に作製され得る。なお、本発明のキットは、上記の形態に限定されず、免疫比濁、蛍光免疫、SPR等の形態でもよい。
【0082】
以下、実施例を用いて本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
(ペプチド抗原の調製)
図4に示す5種のペプチド断片を、それぞれ常法に従って合成した。合成した5種類のペプチドを同量混合し、SPDP(同仁製)用いて、ハプテンとしてのCGG(Chicken Gamma Globulin)と重合させ、ペプチド抗原を調製した。
【0084】
(免疫)
本実施例においては、本発明者らの研究所で実績があること、およびモノクローナル抗体産生細胞ライン確立後の腹水による抗体大量培養においてはBALB/C系統マウスが最もよく使用されることを考慮に入れ、BALB/C系統マウスを免疫に使用した。
【0085】
ペプチド抗原0.2mgと、CRP(Research Diagnostics, INC.製 Code No : RDI−SCP100−0)0.2mgを混合し、生理食塩濃度リン酸緩衝液(PBS)0.2mlを用いて2mg/mLに調製した。このCRPのPBS溶液に、同体積の完全アジュバント(ADJUVANT COMPLETE FREUND, DIFCO LABORATORIES 社製)を添加し、ホモジナイザで回転数1000rpmにて充分に乳化することにより、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを得た。
【0086】
生後約7週間の雌のマウス(BALB/C)2匹に、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを100μlずつ腹腔内に注射した。以降1週間おきに計4回、PBSを用いて2mg/mLに調製してこれと同体積の不完全フロイントアジュバントをホモジナイザで乳化したエマルジョンを、前回と同じ腹腔に100μlずつ注射した。
【0087】
(抗体産生の確認)
2回目の注射の1週間後と4回目の注射の1週間後にそれぞれ採血して血清を分離し、得られた血清を用いて酵素免疫測定法(ELISA法)を用いてCRPに対するバインディングおよびインヒビションにより抗体産生の確認と性能の評価を行った。0.1mg/mL BSA−PBS−Az(0.04重量%ナトリウムアジドPBS溶液にウシ血清アルブミン(BSA)を0.1mg/mlの濃度で溶解したもの)で調製した5μg/mL CRPを100μl/ウェルずつ分注し、室温で一晩コートしたマイクロプレートを固相として使用した。第二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。ウェル中での発色により、抗体サンプル中にCRPに結合する抗体が存在することが確認される。
【0088】
その結果、2匹のマウス全てにおいて抗CRP抗体の産生が認められ、さらに、インヒビションの半値が10-9M以下である事が確認出来た。
【0089】
(細胞融合)
免疫した2匹のマウスの中から、1−#2−4を選び、PBSを用いて調製したCRPおよびCRPペプチド抗原を含む免疫原を200μg注射した。
【0090】
最終免疫後3日を経過したマウスの脾臓細胞を摘出した。平均分子量1、500のポリエチレングリコールを用いて、常法により、脾臓細胞とマウス骨髄腫由来細胞ライン(P3X63−Ag8.653)とを融合させ、融合細胞を得た。
【0091】
融合細胞を、15重量%のウシ胎児血清(以下、FCS)を含むイシコフ培地で調製したヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地に浮遊させた後、それぞれ96ウェルプレート3枚に播いた(200μl/ウェル)。この際、フィーダー細胞(培養開始時に成長因子を供給する細胞)は同じマウス個体の脾臓細胞を用いた。CO2インキュベータ(CO2濃度:5体積%、温度:37℃、湿度:95%)内で培養を開始した。以下の培養では、他に示さない限り、これと同じ条件で培養を行った。
【0092】
(細胞選別およびクローニング)
8日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングを評価した。その際、固相として0.1mg/ml BSA−PBS−Azで5μg/mlの濃度に調製したCRPを、100μl/ウェルずつ使用した。抗体液として、細胞培養上清を使用した。第二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。CRPに対して高い結合能を示す融合細胞を含む培養液を12枚の24ウェルプレートに継代し、各ウェルに1mlの15重量%のFCSを含むヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地を加えた。
【0093】
同様に11、13、および17日目に培養上清を採取し、ELISAにてCRPに対するバインディング、インヒビションの評価を行った。インヒビションの評価の際には、固相として0.1mg/ml BSA−PBS−Azで5μg/mlの濃度に調製したCRPを、100μl/ウェルずつ使用し、インヒビターとしてCRPを使用した。抗体液として細胞培養上清を使用した。第二抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。細胞培養上清中に、CRPに結合する抗体が存在すると、インヒビターとして添加された可溶性CRPと結合してインヒビションがかかる(固相CRPへの結合が阻害される)ので、ウェル中の発色は確認されない。11日目にはCRPに高い結合能を有し、インヒビションがかかった38ウェルを選択してHAT培地で6ウェルプレートに継代、13日目には38から27ウェルを選択、17日目には27から4ウェルを選択してHT培地で中フラスコに継代した。
【0094】
選択した上記4種の(H1−2IV7、H1−2IV26、H1−2IV29、H1−2IV34)ハイブリドーマを、限界希釈法により1個/ウェルの条件でクローニングした。抗体の性能をELISAによるCRPに対するバインディングとインヒビションで順次評価しながらウェルを選択し、最終的に最も性能、細胞の状態等の良いクローンを1株選択した。
【0095】
この細胞株は、CRPに対して結合能を示し、CRPが構造変化しても結合能が変化せず、血清アミロイドPに対して交差反応を起こさない抗体を産生する細胞株であり、細胞ライン名:H1−2IV26−33と命名し、生命研に平成16年6月7日に国内寄託した(受託番号FERM BP−10039号)。
【0096】
H1−2IV26−33株の産生する抗体を、H1−2IV26−33抗体と称する。
【0097】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞ラインは、遠心分離して上清を取り除き、1×107細胞/mLの濃度でFCS:ジメチルスルフォキシド=9:1(体積比)の溶液1mLに浮遊させ、−80℃で予備凍結した後、液体窒素中に移して長期保存状態にした。
【0098】
(抗体の精製)
H1−2IV26−33を、15重量%FCSを含むイシコフ培地で大量培養し、その上清を遠心分離した。また、雌のBALB/Cマウスの腹腔内に注射して増殖させ、腹水を蓄積させ腹水を採取した。腹水をプロテインA結合ゲル(プロテインAセファロース4FF、ファルマシア製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにかけ、以下の条件でH1−2IV26−33抗体を精製した。
【0099】
プロテインA結合ゲルを充填したカラムを、結合緩衝液(1.5M グリシン・3M NaCl、pH8.9)で平衡化した。培養上清あるいは腹水を、結合緩衝液で約3倍に希釈した後、平衡化したカラムにアプライした。カラムからの溶出液を280nmでモニターしながら、不純物の溶出が終了するまで、カラムを結合緩衝液で洗浄した。洗浄後、溶出緩衝液(100mMクエン酸、pH4)をカラムにアプライ(線流速:約20cm/h)し、IgG含有溶出液を回収した。回収したIgG含有溶出液について、吸光光度計で280nmの吸光度を測定し、測定された吸光度を吸光係数で換算することにより、抗体の濃度を決定した。
【0100】
(抗体の評価)
上記のアフィニティーにより精製したH1−2IV26−33抗体について、CRPおよびEDTA塩で処理して構造変化したCRPを使用して、ならびにCRPの希釈系列および血清アミロイドPの希釈系列をインヒビターとして用いて、ELISAまたはインヒビションELISAで抗体性能の評価を行った。図5〜図7にその結果を示す。
【0101】
図5は、ELISA法による、H1−2IV26−33抗体のCRPに対する反応性を表したグラフである。シンボル(●)で表されるグラフは、Ca2+イオンを内包した通常の構造を保ったCRPのH1−2IV26−33抗体への反応性を示し、シンボル(▲)で表されるグラフは、EDTA塩のCa2+イオンキレート作用によりCa2+が離脱して構造変化を起こしたCRPのH1−2IV26−33抗体への反応性を示す。示されるように、H1−2IV26−33抗体は、Ca2+イオンの離脱に伴うCRPの構造変化に拘わらず、CRPを認識し、それに対して結合し得ることがわかる。
【0102】
図6は、CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフである。グラフから明らかなように、H1−2IV26−33抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしてのCRPの存在によって阻害され、インヒビションの半値は約8×10-11Mであり、最高性能として約1×10-11MのCRPを検出できる可能性が示された。
【0103】
図7は、血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体のCRPへの反応性を示すグラフである。グラフから明らかなように、H1−2IV26−33抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしての血清アミロイドPの存在によっては阻害されなかった。このことは、H1−2IV26−33抗体が血清アミロイドPには結合能を有さないことを示す。
【0104】
したがって、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞作製方法によって、CRPのCa2+イオンの結合/離脱による構造変化の影響を受けず、かつ血清アミロイドPに対して交差反応を示さない抗体を産生する細胞ラインが確実に作製し得ることが示された。
【実施例2】
【0105】
本実施例においては、本発明者らの研究所で実績があること、およびモノクローナル抗体産生細胞ライン確立後の腹水による抗体大量培養においてはBALB/C系統マウスが最もよく使用されることを考慮に入れ、BALB/C系統マウスを免疫に使用した。
【0106】
(免疫)
実施例1と同様に調製したペプチド抗原0.2mgと、CRP(Research Diagnostics, INC.製 Code No : RDI−SCP100−0)0.2mgを混合し、生理食塩濃度リン酸緩衝液(PBS)0.2mlを用いて2mg/mLに調製した。このCRPのPBS溶液に、同体積の完全アジュバント(ADJUVANT COMPLETE FREUND, DIFCO LABORATORIES 社製)を添加し、ホモジナイザで回転数1000rpmにて充分に乳化することにより、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを得た。
【0107】
生後約7週間の雌のマウス(BALB/C)2匹(2−#4−3および2−#1−3)に、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを100μlずつ皮下に注射した。
【0108】
以降2週間おきに計4回、PBSを用いて2mg/mLに調製してこれと同体積の不完全フロイントアジュバントをホモジナイザで乳化したエマルジョンを、前回と同じ皮下に100μlずつ注射した。
【0109】
(抗体産生の確認)
2回目の注射の1週間後と4回目の注射の1週間後にそれぞれ採血して血清を分離し、得られた血清を用いて酵素免疫測定法(ELISA法)を用いたバインディングおよびインヒビションにより抗体産生の確認と性能の評価を行った。固相として0.1mg/mL BSA−PBS−Azで調製した5μg/mL CRPを、100μl/ウェルずつ分注し、室温で一晩コートしたマイクロプレートを使用した。第二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。ウェル中での発色により、抗体サンプル中にCRPに結合する抗体が存在することが確認される。
【0110】
その結果、2匹のマウス全てにおいて抗CRP抗体の産生が認められ、さらに、インヒビションの半値が10-9M以下である事が確認出来た。
【0111】
(細胞融合)
免疫したマウスの中から、2−#4−3を選び、PBSを用いて調製したCRPおよびCRPペプチド抗原を含む免疫原を500μg注射した。
【0112】
最終免疫後3日を経過したマウスの脾臓細胞を摘出した。平均分子量1、500のポリエチレングリコールを用いて、常法により、脾臓細胞とマウス骨髄腫由来細胞ライン(P3X63−Ag8.653)とを融合させ、融合細胞を得た。
【0113】
融合細胞を、15重量%のウシ胎児血清(以下、FCS)を含むイシコフ培地で調製したヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地に浮遊させた後、それぞれ96ウェルプレート3枚にまいた(200μl/ウェル)。この際、フィーダー細胞(培養開始時に成長因子を供給する細胞)は同じマウス個体の脾臓細胞を用いた。CO2インキュベータ(CO2濃度:5体積%、温度:37℃、湿度:95%)内で培養を開始した。以下の培養では、他に示さない限り、これと同じ条件で培養を行った。
【0114】
(細胞選別およびクローニング)
11日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングを評価した。52ウェルを選択してHAT培地で24ウェルプレートに継代した。
【0115】
16日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングを評価した。18ウェルを選択してHT培地で6ウェルプレートに継代した。
【0116】
20日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングとインヒビションを評価した。5ウェルを選択してHT培地で中フラスコに継代した。
【0117】
選択した上記5種の(H2−4III36、H2−4III38、H2−4III44、H2−4III46、H2−4III52)ハイブリドーマを、限界希釈法により2個/ウェルの条件でクローニングした。抗体の性能をELISAによるCRPに対するバインディングとインヒビションで順次評価しながらウェルを選択し、最終的に最も性能、細胞の状態等の良いクローンを1株選択した。
【0118】
この細胞株は、CRPに対して結合能を示し、CRPが構造変化しても結合能が変化せず、血清アミロイドPに対して交差反応を起こさない抗体を産生する細胞株であり、細胞ライン名:H2−4III38−14と命名し、生命研に平成16年6月7日に国内寄託した(受託番号FERM BP−10040号)。
【0119】
H2−4III38−14株の産生する抗体を、H2−4III38−14抗体と称する。
【0120】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞ラインは、遠心分離して上清を取り除き、1×107細胞/mLの濃度でFCS:ジメチルスルフォキシド=9:1(体積比)の溶液1mLに浮遊させ、−80℃で予備凍結した後、液体窒素中に移して長期保存状態にした。
【0121】
(抗体の精製)
H2−4III38−14を、15重量%FCSを含むイシコフ培地で大量培養し、その上清を遠心分離した。また、雌のBALB/Cマウスの腹腔内に注射して増殖させ、腹水を蓄積させ腹水を採取した。腹水をプロテインA結合ゲル(プロテインAセファロース4FF、ファルマシア製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにかけ、以下の条件でH2−4III38−14抗体を精製した。
【0122】
プロテインA結合ゲルを充填したカラムを、結合緩衝液(1.5M グリシン・3M NaCl、pH8.9)で平衡化した。培養上清あるいは腹水を、結合緩衝液で約3倍に希釈した後、平衡化したカラムにアプライした。カラムからの溶出液を280nmでモニターしながら、不純物の溶出が終了するまで、カラムを結合緩衝液で洗浄した。洗浄後、溶出緩衝液(100mMクエン酸、pH4)をカラムにアプライ(線流速:約20cm/h)し、IgG含有溶出液を回収した。回収したIgG含有溶出液について、吸光光度計で280nmの吸光度を測定し、測定された吸光度を吸光係数で換算することにより、抗体の濃度を決定した。
【0123】
(抗体の評価)
上記のアフィニティーにより精製したH2−4III38−14抗体について、CRPおよびEDTA塩で処理して構造変化したCRPを使用して、ならびにCRPの希釈系列および血清アミロイドPの希釈系列をインヒビターとして用いて、ELISAまたはインヒビションELISAで抗体性能の評価を行った。図8〜図10にその結果を示す。
【0124】
図8は、ELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPに対する抗体の反応性を表したグラフである。シンボル(●)で表されるグラフは、Ca2+イオンを内包した通常の構造を保ったCRPのH2−4III38−14抗体への反応性を示し、シンボル(▲)で表されるグラフは、EDTA塩のCa2+イオンキレート作用によりCa2+が離脱して構造変化を起こしたCRPのH2−4III38−14抗体への反応性を示す。グラフより、H2−4III38−14抗体は、Ca2+イオンの離脱に伴うCRPの構造変化に拘わらず、CRPを認識し、それに対して結合し得ることがわかる。
【0125】
図9は、CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフである。グラフから明らかなように、H2−4III38−14抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしてのCRPの存在によって阻害され、インヒビションの半値は約1×10-10Mであり、最高性能として約1×10-11MのCRPを検出できる可能性が示された。
【0126】
図10は、血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPへの反応性を示すグラフである。グラフから明らかなように、H2−4III38−14抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしての血清アミロイドPの存在によっては阻害されなかった。このことは、H2−4III38−14抗体が血清アミロイドPには結合能を有さないことを示す。
【0127】
したがって、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法によって、CRPのCa2+イオンの結合/離脱による構造変化の影響を受けず、かつ血清アミロイドPに対して交差反応を示さない抗体を産生する細胞ラインが確実に作製し得ることが示された。
【0128】
以上、実施例にて具体的に示したように、本発明の方法により、CRPのCa2+の結合/離脱による構造変化に拘わらずCRPを認識し、かつ血清アミロイドPと交差反応を示さない抗体を産生する抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインを難なく得ることができる。これは、特異配列のペプチドとCRPとを組み合わせることで、ペプチドが完全にCRP分子中での実際の立体構造を完全にミミックする構造を取らなくても、緩く似た構造をとれば、CRP分子中の対応する部分との相乗作用によって、実際の特異構造に近い構造に対する免疫反応が増強され、免疫された動物の脾臓細胞中での目的とする抗体産生細胞の存在率が上昇するからであろうと推測される。
【0129】
本発明のように、抗原の特定配列のペプチドと、抗原の分子全体とを組み合わせて免疫原として用いることで免疫された動物の脾臓細胞中での特定配列に対して特異的な抗体を産生する抗体産生細胞の生存率を上昇させる方法は、抗CRP抗体に関してのみならず、交差反応性の問題を有する他のタンパク質(またはポリペプチド)に対する抗体の作製においても同様に適用し得ることは、当業者に理解され得る。
【0130】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、前述の説明はあらゆる点において本発明の例示にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の抗C反応性タンパク質モノクローナルは、医療の分野において検査項目として重要視されているCRPの免疫測定に用いる事が可能である。本発明の抗体は、検査課程の血液処理に対応し、さらに血清アミロイドPとの交差性も有しないため、医療診断等の分野において非常に有用である。
【0132】
また、人に対応する検査だけでなく、交差反応性によっては、犬や猫などのペット、牛や豚、羊などの家畜などのCRP測定にも応用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】非特許文献1に開示されている、血液の抗凝固剤EDTAによる脱Ca2+イオン作用によりCa2+がCRPから離脱してCRPが構造変化を起こした状態と構造変化を起こす前の状態とを、CRPのモノマーにおいて比較した図
【図2】非特許文献1に開示されている、CRPおよび血清アミロイドPの立体構造を、それぞれのモノマーどうしで比較した図
【図3a】Ca2+の結合したCRPと血清アミロイドPとの間で、対応するアミノ酸同士の間の距離を示すグラフ
【図3b】Ca2+の結合したCRPとCa2+の結合していないCRPとの間で、対応するアミノ酸同士の間の距離を示すグラフ
【図4】CRPのアミノ酸配列を表す図
【図5】ELISA法による、CRPの構造変化の前後におけるH1−2IV26−33抗体のCRPに対する反応性を表したグラフ
【図6】CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフ
【図7】血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体のCRPへの反応性を示すグラフ
【図8】ELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPに対する抗体の反応性を表したグラフ
【図9】CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフ
【図10】血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPへの反応性を示すグラフ
【図11】本発明のCRP検出キットの一実施形態を示す模式図
【技術分野】
【0001】
本発明は、C反応性タンパク質に対するモノクローナル抗体を産生する細胞ライン、その作製方法、およびそれにより産生されたモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
C反応性タンパク質(CRP)は、代表的な急性相反応物質であり、炎症性疾患、体内組織の壊死などがある時に著しく増加する血清タンパク質である。CRPは、例えば、細菌またはウイルスでの感染症;慢性関節リュウマチなどの膠原病;悪性腫瘍;心筋梗塞;肝炎、肝硬変などの消化器疾患;大きな外傷のような広範囲の組織崩壊性疾患が存在する場合に高い値を示す。
【0003】
そのため、CRPについての検査は、疾病特異性はないものの、被検体における組織崩壊性疾患の存在を検出するために非常に有用である。例えば、CRPに対する抗体を用いて、体調不良者の事前検査(CRPが陽性の場合は疾患を特定するためのさらなる検査を行う)、CRP量の定量による病態スクリーニング、治療効果の確認、予後の判定等を行うことが出来る。
【0004】
しかしながら、CRPに対する抗体には、CRPとアミノ酸配列および立体構造の類似した補体C1q、血清アミロイドP等と交差反応を起こすものもある。このような交差反応が生じると、CRPの検査における測定精度の低下を導く。したがって、従来、CRPを免疫学的手法により特異的に検出する測定精度を上げるために、血中に存在する補体C1q、血清アミロイドPに対して交差反応性を有しない抗体の作製方法の開発が行われてきた(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、CRPは、カルシウム依存的に(Ca2+イオンのCRPへの結合/離脱に依存して)、立体構造が変化することが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0006】
他方、交差反応性を有しない等の精密な性能を要求されるモノクローナル抗体試薬の開発には、実験動物の免疫から、細胞融合、スクリーニング、クローニング等の過程を経て抗体の確立に至るまでに、通常1年半から2年程度の長期間を要するが、この抗体開発期間の短縮が望まれている。
【特許文献1】特開2001−00181号公報
【非特許文献1】アネット K.シュライブ(Annette K. Shrive)他8名,「ヒトC反応性タンパク質の3次元構造」(Three dimensional structure of human C−reactive protein),ネイチャーストラクチュラルバイオロジー(Nature Structural Biology)第3巻(volume 3),第4号(number 4),1996年4月、p.346−354
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法で得られた抗体は、補体C1qや血清アミロイドPに対して交差反応性を示さないが、その中にはCRPがCa2+イオンの離脱によって構造変化を起こした場合に、CRPを認識することができないものも含まれている。採血管で採取した血液中でCRP測定を行う場合に、採血管中で血液の抗凝固剤としてEDTA塩を使用することも多く、そのような場合、EDTA塩のCa2+イオンキレート作用によるCa2+イオンの離脱で構造変化を起こしたCRPをその抗体が認識できないとすると、測定精度の点で不利である。
【0008】
そこで、本発明は、Ca2+の結合したCRPのみならず、Ca2+離脱によって立体構造の変化したCRPも同様に認識して特異的に結合し得、かつ同じペントラキシンファミリーに属して立体構造が非常に似通った血清アミロイドPと交差反応を起こさない抗CRPモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを作製する方法、その抗体産生細胞ライン、およびそれによって産生された抗体を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、交差反応性を有さないモノクローナル抗体の開発において、抗原分子中の特定配列のペプチド断片が実際の抗原分子中での特異構造をミミックする構造をとらないような場合でも、より少ない労力で所望のモノクローナル抗体を開発することを可能にするモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、CRPのアミノ酸配列中のCa2+離脱によっても構造変化を起こさない部分であって、かつ血清アミロイドPとは立体構造の異なる部分のペプチド断片と、CRPとの混合物を免疫原として用いて哺乳動物を免疫することによって、Ca2+の結合したCRPのみならず、Ca2+の離脱によって構造変化したCRPに対しても特異的に結合し得、かつ血清アミロイドPとの交差反応を示さない抗CRPモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、抗C反応性タンパク質(CRP)モノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法であって、CRPのモノマー中の、カルシウムイオンの離脱により実質的に立体構造変化を起こさず、かつ血清アミロイドPのモノマーと比較して実質的に立体構造の異なる部分に含まれるアミノ酸配列に基づいて作製された1種または複数種のペプチド抗原およびCRPを免疫原として用いて免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞ラインとを細胞融合して、融合細胞を得る工程;およびCRPに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを該融合細胞の中からクローニングする工程であって、該融合細胞から産生される抗体を、CRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、工程を包含する、抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法を提供する。
【0012】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0013】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記1種または複数種のペプチド抗原は、上記ペプチドの全てを含む。
【0014】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む。
【0015】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記クローニングする工程において、カルシウムイオンの離脱したCRPおよびカルシウムイオンの結合したCRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む。
【0016】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法の好ましい実施形態では、上記クローニングする工程において、さらに血清アミロイドPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む。
【0017】
本発明は、別の局面において、抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインを提供し、この細胞ラインは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法によって作製されている。
【0018】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインである。
【0019】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの別の好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインである。
【0020】
本発明は、さらに別の局面において、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体を提供する。
【0021】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体の好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0022】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体の別の好ましい実施形態は、受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0023】
本発明は、さらに別の局面において、検体中のCRPを検出するための方法を提供する。この方法は、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナルと、CRPを含む検体とを混合する工程、および上記混合物中での上記抗体とCRPとの反応を光学的、電気的、または物理的な方法によって検出する工程を包含することを特徴とする。好ましくは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体は、抗体受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体または受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0024】
本発明はさらに別の局面において、上記CRP検出方法に使用するためのCRP検出キットを提供し、このキットは、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体を含む。好ましくは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体または受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0025】
本発明はさらに別の局面において、検体中のCRPを検出するためのキットを提供する。このCRP検出用キットは、移動相としての第1の抗体と、固相としての第2の抗体とを担持した支持体を含み、第1の抗体は、該支持体に移動可能に担持され、第2の抗体は該支持体に結合されており、第1の抗体および第2の抗体は、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体であり、第1の抗体は標識されていることを特徴とする。好ましくは、上記本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体または受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された抗CRPモノクローナル抗体である。
【0026】
本明細書中で、「免疫(する)」とは、実験動物に抗原を注射して、実験動物の体内で免疫反応を起こし、その抗原に対応する抗体を産生させることをいうものとする。
【0027】
本明細書中で、「免疫原」という用語は、当該分野で認識されている通常の意味で使用される。また、本明細書中で、「抗原」という用語は、「免疫原」と同義で使用される。
【0028】
本明細書中で、「特定配列」とは、目的の抗原分子と、立体構造が類似する他の抗原分子とを比較した場合に、類似する他の抗原分子とは異なる立体構造(本明細書中で、「特異構造」と呼ぶこともある)をとる目的の抗原分子中の部分に対応するアミノ酸配列のことをいうものとする。
【0029】
本発明の方法は、交差反応性を有さない抗CRPモノクローナル抗体を作製するために免疫応答を動物中で惹起するにおいて、特定配列に対応するCRPペプチド断片とCRP分子全体とを組み合わせて免疫する。このような本発明の構成は、新規であり、かつ意外なものである。
【発明の効果】
【0030】
上記構成により、本発明は、EDTA塩によるCa2+キレート作用によるCRP立体構造変化の影響を受けずにCRPを認識し、かつCRPと立体構造が非常に似通った血清アミロイドPに交差反応を起こさない抗CRPモノクローナル抗体を提供することができる。
【0031】
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン、およびその作製方法、ならびにモノクローナル抗体によれば、血中のCRP測定において、血液の抗凝固剤EDTAによる測定誤差を実質的になくす事が可能で、かつ交差反応が問題となる血清アミロイドPとの誤反応も発生させない、抗C反応性タンパク質モノクローナル抗体を提供することができる。
【0032】
加えて、本発明により、交差反応性を有さない等の性能を要求される抗体を作製する場合において、抗原の特定配列のペプチドが特異構造を完全にミミックしない場合であっても、スクリーニングを容易にすることができ、結果として、抗体開発期間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
本発明においては、特に指示のない限り、当該分野で既知である、タンパク質の分離および分析法、ならびに免疫学的手法が採用され得る。これらの手法は、市販の酵素、キット、抗体、標識物質などを使用して行い得る。
【0035】
(本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製に用いるCRPペプチドの作製)
図1は、非特許文献1に開示されている、血液の抗凝固剤EDTAによる脱Ca2+イオン作用によりCa2+がCRPから離脱してCRPが構造変化を起こした状態と、構造変化を起こす前の状態とを、CRPのモノマーにおいて比較した図である。薄いグレーのワイヤーフレームモデルがCa2+イオンが結合した状態のCRPモノマーを示し、濃いグレーのワイヤーフレームモデルがCa2+イオンがEDTAのキレート作用により離脱した状態のCRPモノマーを示す。
【0036】
抗CRP抗体が、EDTAのCa2+キレート作用に影響されずにCRPを認識し得るには、Ca2+の離脱前後でCRPの分子構造が実質的に変化していない部分、つまり濃/淡グレーのワイヤーの重なった部分を認識する必要がある。
【0037】
図2は、非特許文献1に開示されている、CRPおよび血清アミロイドPの立体構造を、それぞれのモノマーどうしで比較した図である。CRPと血清アミロイドPは、共にペントラキシンファミリーに属し、アミノ酸の一次配列で51%の相同性を有する。比較的濃いグレーのワイヤーフレームモデルがCa2+イオンが結合した状態のCRPを示し、比較的薄いグレーのワイヤーフレームモデルが血清アミロイドPを示す。
【0038】
抗CRP抗体が、血清アミロイドPとの交差反応性を有しないためには、血清アミロイドPと比較して分子構造が実質的に異なるCRPの部分、つまり濃/淡グレーのワイヤーの重ならない部分を認識する必要がある。
【0039】
図3(a)は、Ca2+の結合したCRP(タイプI)と血清アミロイドPとの間で、そして図3(b)は、Ca2+の結合したCRPとCa2+の結合していないCRP(タイプII)との間で、それぞれ、対応するアミノ酸がどの程度離れているかを示すグラフである。グラフの横軸はCRPおよび血清アミロイドPのアミノ酸番号、縦軸は対応するアミノ酸がどの程度離れているかを表す。
【0040】
Ca2+離脱に起因するCRPの立体構造変化に影響されない抗体は、分子構造の実質的に変化していない部分、つまり図3(b)のグラフの値の低い部分(アミノ酸同士の距離の離れていない部分)を認識する性能が必要である。また、血清アミロイドPとの交差反応性を有しない抗体は、分子構造の実質的に異なる部分、つまり図3(a)のグラフの値の高い部分(アミノ酸同士の距離のできるだけ離れている部分)を認識する性能が必要である。これらの条件を満たす部分は、図3(a)および図3(b)に影を付して示すように5カ所存在する。ここで、分子構造が「実質的に」変化していない部分とは、Ca2+の結合/離脱により立体構造が変化したCRP間で立体構造を比較したときに、対応するアミノ酸位置間の距離が約1Å未満であるアミノ酸位置を含むCRPの部分のことをいうものとする(図3(b)を参照)。また、分子構造が「実質的に」異なる部分とは、血清アミロイドPとCRPとの間で立体構造を比較したときに、対応するアミノ酸位置間の距離が約1Å以上であるアミノ酸位置を含むCRPの部分のことをいうものとする(図3(a)を参照)。
【0041】
図4は、CRPのアミノ酸配列(配列番号1)を表す図である。図4中、図3(a)および図3(b)より導き出した5カ所のアミノ酸配列、アミノ酸番号25から28のPLTK(配列番号2)、アミノ酸番号57から60のKRQD(配列番号3)、アミノ酸番号114から121のKPRVRKSL(配列番号4)、アミノ酸番号177から180のGGPF(配列番号5)、およびアミノ酸番号204から206のLWP(配列番号6)に影を付した。これらのアミノ酸配列に対応するペプチドを、本発明の目的のために、Fmoc法やtBoc法のような常法により合成する。
【0042】
(免疫のストラテジー)
本発明の抗CRPモノクローナル抗体に要求される性能は、(1)血清アミロイドPに対して交差反応性を有さず、かつ(2)Ca2+の結合/離脱によるCRPの構造変化の前後で、CRPへの反応性が変わらないことである。
【0043】
上記5種のアミノ酸配列で表されるCRPペプチドの立体構造がCRP分子中の実際の立体構造をミミックしているとすれば、これらのペプチドを免疫原として抗体産生細胞を得ることにより、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗体の作製が可能となるはずである。
【0044】
しかしながら、実際には、本発明者らの実験により、CRPの上記5種のペプチドを免疫原として使用して、所望の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインは得られなかった。
【0045】
これは、上記ペプチドが特異構造をミミックしないからであろうと推測された。このような場合、従来は、抗原分子(ここでは、CRP)をそのまま免疫原として用いて動物を免疫して免疫反応を生じさせた後、その動物から採取した脾臓細胞と骨髄腫由来の細胞ラインとの融合細胞から交差反応を起こさない抗体を産生する抗体産生細胞ラインを、スクリーニングのステップを詳細に行うことにより得るという方法を採っていた。しかしながら、このような方法は、労力がかかる上に、目的の抗体を取得できない可能性も高い。
【0046】
通常、スクリーニングのステップおいて特異性の強い抗体を産生する細胞ラインを選別するが、本発明者らは、免疫の段階で目的とする抗体産生細胞の存在率を可能な限り高くしておけば、スクリーニングで目的の抗体産生細胞ラインを得る確率を高めることができると考えた。
【0047】
そこで、本発明者らは、CRPのみを免疫するのではなく、CRPと上記5種のCRPペプチドとを組み合わせて免疫原として使用することを試みた。それにより、予想外にも、スクリーニングのステップにおいて、単にCRPのみを使用して免疫する場合よりも、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗体を産生する細胞ラインをより確実に選別することができた。
【0048】
したがって、本発明の抗CRP抗体産生細胞ライン作製方法の1つの実施形態では、上記5種のペプチドとCRPとの混合物を免疫原として使用して免疫を行う。しかしながら、常に5種のペプチド断片の全てをCRPと混合する必要はなく、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗体を産生する細胞ラインをスクリーニングで選別する確率を高める限り、5種のうちの少なくとも1種、より好ましくは少なくとも2種、より好ましくは少なくとも3種、さらにより好ましくは少なくとも4種のペプチド断片と、CRPとを混合して免疫原として使用してもよいことは、本明細書の記載に基づいて当業者には理解し得るはずである。複数のペプチドを混合するときの組合せは、特に限定されることなく、最適なものを当業者は選択し得る。
【0049】
上記5種のペプチドの長さは、上記の長さに限定されるわけではなく、1つ以上のアミノ酸をさらに付加したもの、または1つ以上のアミノ酸を欠失したものであっても、CRPと組み合わせて免疫に使用した場合に、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗CRP抗体を産生する細胞ラインを得る確率を高める限り、本発明の方法において同様に使用され得ることは、当業者には理解され得る。また、上記5種のペプチドのいずれかにおいて、1つ以上のアミノ酸が置換されたものであっても、CRPと組み合わせて免疫に使用した場合に、血清アミロイドPとの交差性がなく、かつCa2+の離脱によるCRP構造変化に影響されない抗CRP抗体を産生する細胞ラインを得る確率を高める限り、本発明の方法において同様に使用され得ることもまた、当業者に理解され得る。このようなペプチドの改変は、ペプチド合成等の分野での常法により行い得る。
【0050】
以下、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法を、作製手順に沿って説明する。
【0051】
(免疫)
まず、上記ペプチド抗原とCRPとの組合せを免疫原として、哺乳動物に免疫を行うことにより、動物体内で抗体産生細胞を調製する。
【0052】
本発明に用い得る「哺乳動物」の例として、マウス、ラット、ウシ、ウサギ、ヤギが挙げられる。哺乳動物は、好ましくはマウスおよびラットであり、より好ましくはマウスである。マウスの例として、A/J系統、BALB/C系統、DBA/2系統、C57BL/6系統、C3H/He系統、SJL系統、NZB系統、CBA/JNCrj系統のマウスが挙げられる。BALB/C系統のマウスは、免疫後に血清中に高い抗体力価を示すので、CRPとの親和性が極めて高いモノクローナル抗体を得ることが可能である。血中抗体力価が、特異的なハイブリドーマの出来易さと関係していることは公知である。また、細胞ラインの確立後の腹水による抗体大量作製においては、BALB/C系統マウスが一般によく使用される。以上により、BALB/C系統のマウスは、CRPの免疫に好ましい例である。実験動物の齢は、特に限定されないが、代表的には約4週齢〜約12週齢であり、好ましくは約6〜約10週齢、より好ましくは約7週齢のマウスまたはラットである。
【0053】
免疫に用いられるCRPは、人工のヒトCRP、天然のヒトCRP、またはそれらのモノマーサブユニットであり得る。好ましくは、天然のヒトCRPが用いられる。CRPは、ヒトの血清から精製してもよいし、市販のものを使用しても良い。一方、免疫に用いられるCRPペプチドは、常法により合成され得るが、合成されたものに限定されない。CRPペプチドは、免疫に使用する際には、動物体内での免疫反応を確実に起こさせるために、CGG(Chicken Gamma Globulin)のようなハプテンをSPDP(N−succinimidyl 3−(2−pyridyldithio)propionate)のような官能基導入剤を介して上記ペプチドに結合させて使用することが好ましい。なお、用いられ得るハプテンおよびその結合方法は、上記のものに限定されず、当業者が適宜最適なものを選択し得る。
【0054】
免疫の前に、ペプチド抗原とCRPは、免疫応答を増強させるためにアジュバントと混合され得る。アジュバントの例としては、油中水型乳剤(例えば、不完全フロイントアジュバント)、水中油中水型乳剤、水中油型乳剤、リポソーム、水酸化アルミニウムゲル、シリカアジュバント、粉末ベントナイト、およびタピオカアジュバントの他に、BCG、Propionibacterium acnes、pertussisなどの菌体、細胞壁およびトレハロースダイコート(TDM)などの菌体成分;グラム陰性菌の内毒素であるリポ多糖体(LPS)およびリピドA画分;β−グルカン(多糖体);ムラミジルペプチド(MDP);ベスタチン;レバミゾールなどの合成化合物;胸腺ホルモン、胸腺ホルモン液性因子およびタフトシンなどの生体成分由来のタンパク質またはペプチド性物質;ならびにそれらの混合物(例えば、完全フロイントアジュバント)などが挙げられる。これらのアジュバントは、投与経路、投与量、投与時期などに依存して免疫応答の増強または抑制に効果を示す。さらにアジュバントの種類によって、抗原に対する血中抗体産生、細胞性免疫の誘導、免疫グロブリンのクラスなどに差が認められる。それゆえ、目的とする免疫応答に応じて、アジュバントを適切に選択することが好ましい。選択されたアジュバントの取り扱い、例えばCRPとの混合方法などは当該分野で公知である。
【0055】
哺乳動物の免疫は、当該分野で公知の方法に従って行われる。例えば、抗原は哺乳動物の皮下、皮内、静脈、または腹腔内に注射され得る。免疫応答は、免疫される哺乳動物の種類および系統によって異なるので、免疫スケジュールは、使用される動物に合わせて適切に変更され得る。抗原投与は、最初の免疫の後に、何回か繰り返される。追加免疫は、例えば最初の免疫から4週間後、6週間後、および半年後に行われ得る。
【0056】
(抗体産生の確認)
免疫後、哺乳動物から採血し、得られた血清のCRP結合活性の存在についてアッセイすることにより、哺乳動物の体内でCRPに対する抗体が産生されていること、および免疫末期にはIgMからIgGへのクラススイッチが起こっていることを確認する。適切なアッセイ方法の例として、酵素免疫測定法(ELISA法)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光抗体法が挙げられる。抗CRPモノクローナル抗体産生細胞を得るためには、抗血清の時点で高い抗体価を示している必要がある。
【0057】
(ブースト)
CRP結合性抗体の産生を確認した後、脾臓を肥大させるために、ブースト(免疫原の追加注射)を行い得る。ブーストで投与される抗原の量は、最初に免疫される抗原量の約4〜5倍の量が望ましいが、これに限定されない。
【0058】
ブーストは、代表的には抗原と不完全フロイントアジュバントとのエマルジョンを用いて行われる。ただし、最終免疫(細胞融合数日前の免疫原の追加注射)で投与されるペプチド抗原とCRPとしては、アジュバントを加えず純粋品を用いることが望ましい。
【0059】
(細胞融合)
最終免疫後、免疫した哺乳動物から脾臓細胞を摘出し、骨髄腫由来の細胞ラインと細胞融合する。
【0060】
融合細胞の増殖能力は、細胞融合時に用いられる骨髄腫由来の細胞ラインの種類に依存するので、細胞融合には、増殖能力の優れた細胞ラインを用いることが好ましい。また、骨髄腫由来の細胞ラインは、融合する脾臓細胞の由来する哺乳動物と適合性があることが好ましい。骨髄腫由来の細胞ラインは、新たに調製しても良いし、市販のものを使用しても良い。マウスの骨髄腫由来の細胞ラインとしては、P3X63−Ag8.653、Sp2/O−Ag14、FO・1、S194/5.XX0.BU.1、P3/NS1/1−Ag4−1などが挙げられる。抗体の断片を産生せず、かつ融合細胞の増殖能力が優れたものとなるため、P3X63−Ag8.653の使用が好ましい。ラット骨髄腫由来の細胞ラインとしては、210.RCY3.Ag.1.2.3、YB2/0などが挙げられる。
【0061】
細胞融合は、当該分野で公知の方法に従って行われる。細胞融合法の例として、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いた方法、電流を利用する方法などが挙げられる。細胞毒性も比較的少なく、融合操作も容易で再現性が高いため、ポリエチレングリコール法が好ましい。
【0062】
得られた融合細胞は、当該分野で公知の条件に従って増殖させ得る。産生される抗体の結合能に基づいて、所望の融合細胞を選択し得る。
【0063】
(細胞選別およびクローニング)
融合細胞から産生される抗体の結合能は、当該分野で公知の方法に基づいてアッセイされ得る。本発明においては、血液の抗凝固剤によるCa2+キレート作用により構造変化を起こさないCRPの部位を認識して結合能を有すると共に、血清アミロイドPと結合能を有さない抗体を産生する融合細胞を得るために、CRP、キレート作用により構造変化を起こしたCRP、血清アミロイドPの3種類に対する結合能に基づく選別を利用して、目的の細胞ラインをクローニングする。従って、本明細書中で「CRPに対して特異的なモノクローナル抗体」とは、CRPのCa2+イオン離脱による立体構造の変化に拘わらずCRPを認識してそれに結合し得ると共に、血清アミロイドPに結合能を有さない抗体をいうものとする。
【0064】
「結合能を有する」とは、インヒビションELISA法での測定においてインヒビションがかかることをいう。「インヒビションがかかる」とは、固相に固定されたCRPに結合する抗体の量が、競合物質(インヒビター)の存在下で、インヒビターの非存在下と比較して減少することをいう。「インヒビションがかからない」とは、固相に固定されたCRPに結合する抗体の量が、インヒビターの存在下および非存在下で実質的に同等であることをいう。「インヒビションの半値」とは、インヒビターの非存在下での吸光度(抗体結合量を反映する)の半分の吸光度が測定されるインヒビターの濃度をいう。
【0065】
抗体の結合能は、抗体産生の確認に関して上述したのと同様に、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法などの方法を用いてアッセイされる。簡便に感度よく抗体を検出し得ることから、ELISA法が好ましい。
【0066】
融合細胞のクローニングには、当該分野で公知の方法が用いられ得る。クローニングの方法の例としては、限界希釈法、軟寒天法などが挙げられる。操作も容易で数多くの実績があり、再現性が高いため、限界希釈法が好ましい。
【0067】
細胞融合により得られた多くの融合細胞の中から、効率よく有用な細胞を選択するために、細胞選別は、クローニングの初期の段階から行うことが好ましい。
【0068】
このようにして、望ましい結合能を有する抗体を産生する融合細胞ラインが最終的に選別される。
【0069】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞ラインは、液体窒素中で半永久的に保存され得る。
【0070】
(抗体の精製)
上記のようにして選別されたモノクローナル抗体産生細胞ラインを大量培養することにより、CRPに対して特異的なモノクローナル抗体を大量に産生し得る。モノクローナル抗体産生細胞ラインの大量培養方法として、インビボおよびインビトロでの培養が挙げられる。インビボでの大量培養の例としては、哺乳動物の腹腔内に融合細胞を注射して増殖させ、腹水中に抗体を産生させる方法が挙げられる。インビトロでの培養では、融合細胞が培地中で培養され、抗体が培地中に産生される。
【0071】
大量培養により得られた腹水または培養上清から、当該分野で公知の方法を用いて、本発明のモノクローナル抗体を精製し得る。精製のためには、例えば、DEAE陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法などが適宜組み合わせて用いられる。本発明の抗体は、通常、約90%の純度、好ましくは約95%の純度、より好ましくは約98%以上の純度となるように精製される。
【0072】
(抗体の評価)
精製されたモノクローナル抗体の結合能をインヒビションELISAのような方法でCa2+離脱したCRPへの結合能および血清アミロイドPに対する結合能を評価することにより、得られた抗体が、所望の性能を有するか否かを確認し得る。
【0073】
(検体中のCRPの検出方法)
本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生される抗CRPモノクローナル抗体を使用して、検体中のCRPを検出するための方法が提供される。本発明のCRP検出方法では、CRPを含む検体と本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生されたモノクローナル抗体とを混合して免疫反応させ、その反応を光学的、電気的、または物理的な方法によって検出する。光学的な方法の例としては、吸光度測定、蛍光測定等が挙げられる。電気的な方法の例としては、抗体電極を用いた測定、SPR(surface plasmon resonance)等が挙げられる。また、物理的な方法の例としては、分子量測定等が挙げられる。
【0074】
(CRP検出のためのモノクローナル抗体キット)
本発明に従って、CRPを検出するためのキットが提供される。一実施形態において、本発明のCRP検出用キットは、本発明の抗CRPモノクローナル抗体を含み、例えば、上記の検体中のCRPの検出方法において使用され得る。
【0075】
別の実施形態としては、本発明のCRP検出用キットは、例えば、抗原抗体結合反応に基づいて水性試料中の抗原を検出する免疫クロマトグラフィーのために提供され得る。このようなCRP検出用キットは、クロマトグラフィーのための支持体を含み、支持体は、固相として支持体に結合された抗体と、移動相として支持体に移動可能に担持された抗体とを含む。
【0076】
図11は、本発明のCRP検出キットの一実施形態に係る、イムノクロマト法に基づくCRP検出キットに含まれる支持体としてのテストストリップを示す模式図である。示されるように、CRP検出キットのテストストリップ(支持体)は、サンプル滴下部、移動相、および固相を備え、固相として支持体に結合された抗体と、移動相として支持体に移動可能に担持された抗体とを含む。
【0077】
支持体は、ニトロセルロースメンブレンなどの材質で形成され得るがこれに限定されず、固相化抗体を保持する性質と、サンプルが毛管現象できれいに流れていくような性質とを有する限り、他の材質(例えば、ろ紙、不織布、セラミックスなど)でできていてもよい。
【0078】
固相に結合された抗体としては、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法によって産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。より好ましくは、受託番号FERM BP−10039号または受託番号FERM BP−10040号の細胞ラインにより産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。
【0079】
移動相の抗体としては、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法によって産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。より好ましくは、受託番号FERM BP−10039号または受託番号FERM BP−10040号の細胞ラインにより産生されるモノクローナル抗体が使用され得る。移動相としての抗体は、任意の標識により標識されている。標識の例としては、酵素標識、色素標識、磁性標識、放射性標識、色の付いた粒子(金コロイド、ラテックスなど)による標識などが挙げられる。抗体は、当該分野で公知の方法により標識される。移動相抗体としてはまた、CRPに高い結合能を有する限り、他の抗体を使用してもよい。他の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。他の抗体は、モノクローナル抗体であることが移動相の抗体として使用するために特に好ましい。
【0080】
使用時には、CRPを含むサンプル溶液をサンプル滴下部に滴下する。滴下されたサンプルが支持体中を浸透して移動相に達すると、サンプル中のCRPは移動相の抗体と結合する。次いで、サンプルは固相まで浸透し、移動相の抗体と結合した状態のCRPは固相に固定された抗体と結合すると、呈色する。
【0081】
本発明のキットは、当該分野で公知の方法により適切に作製され得る。なお、本発明のキットは、上記の形態に限定されず、免疫比濁、蛍光免疫、SPR等の形態でもよい。
【0082】
以下、実施例を用いて本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
(ペプチド抗原の調製)
図4に示す5種のペプチド断片を、それぞれ常法に従って合成した。合成した5種類のペプチドを同量混合し、SPDP(同仁製)用いて、ハプテンとしてのCGG(Chicken Gamma Globulin)と重合させ、ペプチド抗原を調製した。
【0084】
(免疫)
本実施例においては、本発明者らの研究所で実績があること、およびモノクローナル抗体産生細胞ライン確立後の腹水による抗体大量培養においてはBALB/C系統マウスが最もよく使用されることを考慮に入れ、BALB/C系統マウスを免疫に使用した。
【0085】
ペプチド抗原0.2mgと、CRP(Research Diagnostics, INC.製 Code No : RDI−SCP100−0)0.2mgを混合し、生理食塩濃度リン酸緩衝液(PBS)0.2mlを用いて2mg/mLに調製した。このCRPのPBS溶液に、同体積の完全アジュバント(ADJUVANT COMPLETE FREUND, DIFCO LABORATORIES 社製)を添加し、ホモジナイザで回転数1000rpmにて充分に乳化することにより、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを得た。
【0086】
生後約7週間の雌のマウス(BALB/C)2匹に、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを100μlずつ腹腔内に注射した。以降1週間おきに計4回、PBSを用いて2mg/mLに調製してこれと同体積の不完全フロイントアジュバントをホモジナイザで乳化したエマルジョンを、前回と同じ腹腔に100μlずつ注射した。
【0087】
(抗体産生の確認)
2回目の注射の1週間後と4回目の注射の1週間後にそれぞれ採血して血清を分離し、得られた血清を用いて酵素免疫測定法(ELISA法)を用いてCRPに対するバインディングおよびインヒビションにより抗体産生の確認と性能の評価を行った。0.1mg/mL BSA−PBS−Az(0.04重量%ナトリウムアジドPBS溶液にウシ血清アルブミン(BSA)を0.1mg/mlの濃度で溶解したもの)で調製した5μg/mL CRPを100μl/ウェルずつ分注し、室温で一晩コートしたマイクロプレートを固相として使用した。第二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。ウェル中での発色により、抗体サンプル中にCRPに結合する抗体が存在することが確認される。
【0088】
その結果、2匹のマウス全てにおいて抗CRP抗体の産生が認められ、さらに、インヒビションの半値が10-9M以下である事が確認出来た。
【0089】
(細胞融合)
免疫した2匹のマウスの中から、1−#2−4を選び、PBSを用いて調製したCRPおよびCRPペプチド抗原を含む免疫原を200μg注射した。
【0090】
最終免疫後3日を経過したマウスの脾臓細胞を摘出した。平均分子量1、500のポリエチレングリコールを用いて、常法により、脾臓細胞とマウス骨髄腫由来細胞ライン(P3X63−Ag8.653)とを融合させ、融合細胞を得た。
【0091】
融合細胞を、15重量%のウシ胎児血清(以下、FCS)を含むイシコフ培地で調製したヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地に浮遊させた後、それぞれ96ウェルプレート3枚に播いた(200μl/ウェル)。この際、フィーダー細胞(培養開始時に成長因子を供給する細胞)は同じマウス個体の脾臓細胞を用いた。CO2インキュベータ(CO2濃度:5体積%、温度:37℃、湿度:95%)内で培養を開始した。以下の培養では、他に示さない限り、これと同じ条件で培養を行った。
【0092】
(細胞選別およびクローニング)
8日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングを評価した。その際、固相として0.1mg/ml BSA−PBS−Azで5μg/mlの濃度に調製したCRPを、100μl/ウェルずつ使用した。抗体液として、細胞培養上清を使用した。第二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。CRPに対して高い結合能を示す融合細胞を含む培養液を12枚の24ウェルプレートに継代し、各ウェルに1mlの15重量%のFCSを含むヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地を加えた。
【0093】
同様に11、13、および17日目に培養上清を採取し、ELISAにてCRPに対するバインディング、インヒビションの評価を行った。インヒビションの評価の際には、固相として0.1mg/ml BSA−PBS−Azで5μg/mlの濃度に調製したCRPを、100μl/ウェルずつ使用し、インヒビターとしてCRPを使用した。抗体液として細胞培養上清を使用した。第二抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。細胞培養上清中に、CRPに結合する抗体が存在すると、インヒビターとして添加された可溶性CRPと結合してインヒビションがかかる(固相CRPへの結合が阻害される)ので、ウェル中の発色は確認されない。11日目にはCRPに高い結合能を有し、インヒビションがかかった38ウェルを選択してHAT培地で6ウェルプレートに継代、13日目には38から27ウェルを選択、17日目には27から4ウェルを選択してHT培地で中フラスコに継代した。
【0094】
選択した上記4種の(H1−2IV7、H1−2IV26、H1−2IV29、H1−2IV34)ハイブリドーマを、限界希釈法により1個/ウェルの条件でクローニングした。抗体の性能をELISAによるCRPに対するバインディングとインヒビションで順次評価しながらウェルを選択し、最終的に最も性能、細胞の状態等の良いクローンを1株選択した。
【0095】
この細胞株は、CRPに対して結合能を示し、CRPが構造変化しても結合能が変化せず、血清アミロイドPに対して交差反応を起こさない抗体を産生する細胞株であり、細胞ライン名:H1−2IV26−33と命名し、生命研に平成16年6月7日に国内寄託した(受託番号FERM BP−10039号)。
【0096】
H1−2IV26−33株の産生する抗体を、H1−2IV26−33抗体と称する。
【0097】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞ラインは、遠心分離して上清を取り除き、1×107細胞/mLの濃度でFCS:ジメチルスルフォキシド=9:1(体積比)の溶液1mLに浮遊させ、−80℃で予備凍結した後、液体窒素中に移して長期保存状態にした。
【0098】
(抗体の精製)
H1−2IV26−33を、15重量%FCSを含むイシコフ培地で大量培養し、その上清を遠心分離した。また、雌のBALB/Cマウスの腹腔内に注射して増殖させ、腹水を蓄積させ腹水を採取した。腹水をプロテインA結合ゲル(プロテインAセファロース4FF、ファルマシア製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにかけ、以下の条件でH1−2IV26−33抗体を精製した。
【0099】
プロテインA結合ゲルを充填したカラムを、結合緩衝液(1.5M グリシン・3M NaCl、pH8.9)で平衡化した。培養上清あるいは腹水を、結合緩衝液で約3倍に希釈した後、平衡化したカラムにアプライした。カラムからの溶出液を280nmでモニターしながら、不純物の溶出が終了するまで、カラムを結合緩衝液で洗浄した。洗浄後、溶出緩衝液(100mMクエン酸、pH4)をカラムにアプライ(線流速:約20cm/h)し、IgG含有溶出液を回収した。回収したIgG含有溶出液について、吸光光度計で280nmの吸光度を測定し、測定された吸光度を吸光係数で換算することにより、抗体の濃度を決定した。
【0100】
(抗体の評価)
上記のアフィニティーにより精製したH1−2IV26−33抗体について、CRPおよびEDTA塩で処理して構造変化したCRPを使用して、ならびにCRPの希釈系列および血清アミロイドPの希釈系列をインヒビターとして用いて、ELISAまたはインヒビションELISAで抗体性能の評価を行った。図5〜図7にその結果を示す。
【0101】
図5は、ELISA法による、H1−2IV26−33抗体のCRPに対する反応性を表したグラフである。シンボル(●)で表されるグラフは、Ca2+イオンを内包した通常の構造を保ったCRPのH1−2IV26−33抗体への反応性を示し、シンボル(▲)で表されるグラフは、EDTA塩のCa2+イオンキレート作用によりCa2+が離脱して構造変化を起こしたCRPのH1−2IV26−33抗体への反応性を示す。示されるように、H1−2IV26−33抗体は、Ca2+イオンの離脱に伴うCRPの構造変化に拘わらず、CRPを認識し、それに対して結合し得ることがわかる。
【0102】
図6は、CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフである。グラフから明らかなように、H1−2IV26−33抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしてのCRPの存在によって阻害され、インヒビションの半値は約8×10-11Mであり、最高性能として約1×10-11MのCRPを検出できる可能性が示された。
【0103】
図7は、血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体のCRPへの反応性を示すグラフである。グラフから明らかなように、H1−2IV26−33抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしての血清アミロイドPの存在によっては阻害されなかった。このことは、H1−2IV26−33抗体が血清アミロイドPには結合能を有さないことを示す。
【0104】
したがって、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞作製方法によって、CRPのCa2+イオンの結合/離脱による構造変化の影響を受けず、かつ血清アミロイドPに対して交差反応を示さない抗体を産生する細胞ラインが確実に作製し得ることが示された。
【実施例2】
【0105】
本実施例においては、本発明者らの研究所で実績があること、およびモノクローナル抗体産生細胞ライン確立後の腹水による抗体大量培養においてはBALB/C系統マウスが最もよく使用されることを考慮に入れ、BALB/C系統マウスを免疫に使用した。
【0106】
(免疫)
実施例1と同様に調製したペプチド抗原0.2mgと、CRP(Research Diagnostics, INC.製 Code No : RDI−SCP100−0)0.2mgを混合し、生理食塩濃度リン酸緩衝液(PBS)0.2mlを用いて2mg/mLに調製した。このCRPのPBS溶液に、同体積の完全アジュバント(ADJUVANT COMPLETE FREUND, DIFCO LABORATORIES 社製)を添加し、ホモジナイザで回転数1000rpmにて充分に乳化することにより、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを得た。
【0107】
生後約7週間の雌のマウス(BALB/C)2匹(2−#4−3および2−#1−3)に、免疫原を含むアジュバントエマルジョンを100μlずつ皮下に注射した。
【0108】
以降2週間おきに計4回、PBSを用いて2mg/mLに調製してこれと同体積の不完全フロイントアジュバントをホモジナイザで乳化したエマルジョンを、前回と同じ皮下に100μlずつ注射した。
【0109】
(抗体産生の確認)
2回目の注射の1週間後と4回目の注射の1週間後にそれぞれ採血して血清を分離し、得られた血清を用いて酵素免疫測定法(ELISA法)を用いたバインディングおよびインヒビションにより抗体産生の確認と性能の評価を行った。固相として0.1mg/mL BSA−PBS−Azで調製した5μg/mL CRPを、100μl/ウェルずつ分注し、室温で一晩コートしたマイクロプレートを使用した。第二抗体としてペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を使用した。ウェル中での発色により、抗体サンプル中にCRPに結合する抗体が存在することが確認される。
【0110】
その結果、2匹のマウス全てにおいて抗CRP抗体の産生が認められ、さらに、インヒビションの半値が10-9M以下である事が確認出来た。
【0111】
(細胞融合)
免疫したマウスの中から、2−#4−3を選び、PBSを用いて調製したCRPおよびCRPペプチド抗原を含む免疫原を500μg注射した。
【0112】
最終免疫後3日を経過したマウスの脾臓細胞を摘出した。平均分子量1、500のポリエチレングリコールを用いて、常法により、脾臓細胞とマウス骨髄腫由来細胞ライン(P3X63−Ag8.653)とを融合させ、融合細胞を得た。
【0113】
融合細胞を、15重量%のウシ胎児血清(以下、FCS)を含むイシコフ培地で調製したヒポキサンチン/アミノプテリン/チミジン(HAT)培地に浮遊させた後、それぞれ96ウェルプレート3枚にまいた(200μl/ウェル)。この際、フィーダー細胞(培養開始時に成長因子を供給する細胞)は同じマウス個体の脾臓細胞を用いた。CO2インキュベータ(CO2濃度:5体積%、温度:37℃、湿度:95%)内で培養を開始した。以下の培養では、他に示さない限り、これと同じ条件で培養を行った。
【0114】
(細胞選別およびクローニング)
11日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングを評価した。52ウェルを選択してHAT培地で24ウェルプレートに継代した。
【0115】
16日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングを評価した。18ウェルを選択してHT培地で6ウェルプレートに継代した。
【0116】
20日後、融合細胞の培養上清を100μl採取し、ELISAにてCRPに対するバインディングとインヒビションを評価した。5ウェルを選択してHT培地で中フラスコに継代した。
【0117】
選択した上記5種の(H2−4III36、H2−4III38、H2−4III44、H2−4III46、H2−4III52)ハイブリドーマを、限界希釈法により2個/ウェルの条件でクローニングした。抗体の性能をELISAによるCRPに対するバインディングとインヒビションで順次評価しながらウェルを選択し、最終的に最も性能、細胞の状態等の良いクローンを1株選択した。
【0118】
この細胞株は、CRPに対して結合能を示し、CRPが構造変化しても結合能が変化せず、血清アミロイドPに対して交差反応を起こさない抗体を産生する細胞株であり、細胞ライン名:H2−4III38−14と命名し、生命研に平成16年6月7日に国内寄託した(受託番号FERM BP−10040号)。
【0119】
H2−4III38−14株の産生する抗体を、H2−4III38−14抗体と称する。
【0120】
(細胞の保存)
最終的に選別された細胞ラインは、遠心分離して上清を取り除き、1×107細胞/mLの濃度でFCS:ジメチルスルフォキシド=9:1(体積比)の溶液1mLに浮遊させ、−80℃で予備凍結した後、液体窒素中に移して長期保存状態にした。
【0121】
(抗体の精製)
H2−4III38−14を、15重量%FCSを含むイシコフ培地で大量培養し、その上清を遠心分離した。また、雌のBALB/Cマウスの腹腔内に注射して増殖させ、腹水を蓄積させ腹水を採取した。腹水をプロテインA結合ゲル(プロテインAセファロース4FF、ファルマシア製)を用いたアフィニティークロマトグラフィーにかけ、以下の条件でH2−4III38−14抗体を精製した。
【0122】
プロテインA結合ゲルを充填したカラムを、結合緩衝液(1.5M グリシン・3M NaCl、pH8.9)で平衡化した。培養上清あるいは腹水を、結合緩衝液で約3倍に希釈した後、平衡化したカラムにアプライした。カラムからの溶出液を280nmでモニターしながら、不純物の溶出が終了するまで、カラムを結合緩衝液で洗浄した。洗浄後、溶出緩衝液(100mMクエン酸、pH4)をカラムにアプライ(線流速:約20cm/h)し、IgG含有溶出液を回収した。回収したIgG含有溶出液について、吸光光度計で280nmの吸光度を測定し、測定された吸光度を吸光係数で換算することにより、抗体の濃度を決定した。
【0123】
(抗体の評価)
上記のアフィニティーにより精製したH2−4III38−14抗体について、CRPおよびEDTA塩で処理して構造変化したCRPを使用して、ならびにCRPの希釈系列および血清アミロイドPの希釈系列をインヒビターとして用いて、ELISAまたはインヒビションELISAで抗体性能の評価を行った。図8〜図10にその結果を示す。
【0124】
図8は、ELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPに対する抗体の反応性を表したグラフである。シンボル(●)で表されるグラフは、Ca2+イオンを内包した通常の構造を保ったCRPのH2−4III38−14抗体への反応性を示し、シンボル(▲)で表されるグラフは、EDTA塩のCa2+イオンキレート作用によりCa2+が離脱して構造変化を起こしたCRPのH2−4III38−14抗体への反応性を示す。グラフより、H2−4III38−14抗体は、Ca2+イオンの離脱に伴うCRPの構造変化に拘わらず、CRPを認識し、それに対して結合し得ることがわかる。
【0125】
図9は、CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフである。グラフから明らかなように、H2−4III38−14抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしてのCRPの存在によって阻害され、インヒビションの半値は約1×10-10Mであり、最高性能として約1×10-11MのCRPを検出できる可能性が示された。
【0126】
図10は、血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPへの反応性を示すグラフである。グラフから明らかなように、H2−4III38−14抗体の固相CRPへの結合は、インヒビターとしての血清アミロイドPの存在によっては阻害されなかった。このことは、H2−4III38−14抗体が血清アミロイドPには結合能を有さないことを示す。
【0127】
したがって、本発明の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法によって、CRPのCa2+イオンの結合/離脱による構造変化の影響を受けず、かつ血清アミロイドPに対して交差反応を示さない抗体を産生する細胞ラインが確実に作製し得ることが示された。
【0128】
以上、実施例にて具体的に示したように、本発明の方法により、CRPのCa2+の結合/離脱による構造変化に拘わらずCRPを認識し、かつ血清アミロイドPと交差反応を示さない抗体を産生する抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインを難なく得ることができる。これは、特異配列のペプチドとCRPとを組み合わせることで、ペプチドが完全にCRP分子中での実際の立体構造を完全にミミックする構造を取らなくても、緩く似た構造をとれば、CRP分子中の対応する部分との相乗作用によって、実際の特異構造に近い構造に対する免疫反応が増強され、免疫された動物の脾臓細胞中での目的とする抗体産生細胞の存在率が上昇するからであろうと推測される。
【0129】
本発明のように、抗原の特定配列のペプチドと、抗原の分子全体とを組み合わせて免疫原として用いることで免疫された動物の脾臓細胞中での特定配列に対して特異的な抗体を産生する抗体産生細胞の生存率を上昇させる方法は、抗CRP抗体に関してのみならず、交差反応性の問題を有する他のタンパク質(またはポリペプチド)に対する抗体の作製においても同様に適用し得ることは、当業者に理解され得る。
【0130】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、前述の説明はあらゆる点において本発明の例示にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の抗C反応性タンパク質モノクローナルは、医療の分野において検査項目として重要視されているCRPの免疫測定に用いる事が可能である。本発明の抗体は、検査課程の血液処理に対応し、さらに血清アミロイドPとの交差性も有しないため、医療診断等の分野において非常に有用である。
【0132】
また、人に対応する検査だけでなく、交差反応性によっては、犬や猫などのペット、牛や豚、羊などの家畜などのCRP測定にも応用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】非特許文献1に開示されている、血液の抗凝固剤EDTAによる脱Ca2+イオン作用によりCa2+がCRPから離脱してCRPが構造変化を起こした状態と構造変化を起こす前の状態とを、CRPのモノマーにおいて比較した図
【図2】非特許文献1に開示されている、CRPおよび血清アミロイドPの立体構造を、それぞれのモノマーどうしで比較した図
【図3a】Ca2+の結合したCRPと血清アミロイドPとの間で、対応するアミノ酸同士の間の距離を示すグラフ
【図3b】Ca2+の結合したCRPとCa2+の結合していないCRPとの間で、対応するアミノ酸同士の間の距離を示すグラフ
【図4】CRPのアミノ酸配列を表す図
【図5】ELISA法による、CRPの構造変化の前後におけるH1−2IV26−33抗体のCRPに対する反応性を表したグラフ
【図6】CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフ
【図7】血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H1−2IV26−33抗体のCRPへの反応性を示すグラフ
【図8】ELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPに対する抗体の反応性を表したグラフ
【図9】CRPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体の固相CRPに対する反応性を表したグラフ
【図10】血清アミロイドPをインヒビターとして使用したインヒビションELISA法による、H2−4III38−14抗体のCRPへの反応性を示すグラフ
【図11】本発明のCRP検出キットの一実施形態を示す模式図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗C反応性タンパク質(CRP)モノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法であって、
CRPのモノマー中の、カルシウムイオンの離脱により実質的に立体構造変化を起こさず、かつ血清アミロイドPのモノマーと比較して実質的に立体構造の異なる部分に含まれるアミノ酸配列に基づいて作製された1種または複数種のペプチド抗原およびCRPを免疫原として用いて免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞ラインとを細胞融合して、融合細胞を得る工程;および
CRPに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを該融合細胞の中からクローニングする工程であって、該融合細胞から産生される抗体を、CRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、工程
を包含する、抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項2】
前記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項3】
前記1種または複数種のペプチド抗原は、前記ペプチドの全てを含む、請求項2に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項4】
前記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項5】
前記クローニングする工程において、カルシウムイオンの離脱したCRPおよびカルシウムイオンの結合したCRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項6】
前記クローニングする工程において、さらに血清アミロイドPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法により作製された抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン。
【請求項8】
受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ライン。
【請求項9】
受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ライン。
【請求項10】
請求項7に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項8に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体。
【請求項12】
請求項9に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体。
【請求項13】
検体中のCRPを検出するための方法であって、
請求項10、請求項11または請求項12に記載のモノクローナル抗体とCRPを含む検体とを混合する工程、および
前記混合物中での前記抗体とCRPとの反応を光学的、電気的、または物理的な方法によって検出する工程を包含する、CRP検出方法。
【請求項14】
請求項13のCRP検出方法に使用するためのCRP検出キットであって、
請求項10、請求項11または請求項12に記載のモノクローナル抗体を含む、
キット。
【請求項15】
検体中のCRPを検出するためのキットであって、
移動相としての第1の抗体と、固相としての第2の抗体とを担持した支持体を含み、
第1の抗体は、該支持体に移動可能に担持され、第2の抗体は該支持体に結合されており、
第1の抗体および第2の抗体は、請求項10、請求項11または請求項12に記載の抗CRPモノクローナル抗体であり、第1の抗体は標識されている、キット。
【請求項1】
抗C反応性タンパク質(CRP)モノクローナル抗体産生細胞ラインの作製方法であって、
CRPのモノマー中の、カルシウムイオンの離脱により実質的に立体構造変化を起こさず、かつ血清アミロイドPのモノマーと比較して実質的に立体構造の異なる部分に含まれるアミノ酸配列に基づいて作製された1種または複数種のペプチド抗原およびCRPを免疫原として用いて免疫した哺乳動物の脾臓細胞と、哺乳動物の骨髄腫由来の細胞ラインとを細胞融合して、融合細胞を得る工程;および
CRPに対して特異的なモノクローナル抗体を産生する細胞ラインを該融合細胞の中からクローニングする工程であって、該融合細胞から産生される抗体を、CRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、工程
を包含する、抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項2】
前記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項3】
前記1種または複数種のペプチド抗原は、前記ペプチドの全てを含む、請求項2に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項4】
前記1種または複数種のペプチド抗原は、PLTK(配列番号2)、KRQD(配列番号3)、KPRVRKSL(配列番号4)、GGPF(配列番号5)、およびLWP(配列番号6)からなる群から選択されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかもしくは全て、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項5】
前記クローニングする工程において、カルシウムイオンの離脱したCRPおよびカルシウムイオンの結合したCRPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項6】
前記クローニングする工程において、さらに血清アミロイドPに対する結合能について免疫測定法により検定することを含む、請求項1に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン作製方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法により作製された抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ライン。
【請求項8】
受託番号FERM BP−10039号のモノクローナル抗体産生細胞ライン。
【請求項9】
受託番号FERM BP−10040号のモノクローナル抗体産生細胞ライン。
【請求項10】
請求項7に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体。
【請求項11】
請求項8に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体。
【請求項12】
請求項9に記載の抗CRPモノクローナル抗体産生細胞ラインにより産生された、抗CRPモノクローナル抗体。
【請求項13】
検体中のCRPを検出するための方法であって、
請求項10、請求項11または請求項12に記載のモノクローナル抗体とCRPを含む検体とを混合する工程、および
前記混合物中での前記抗体とCRPとの反応を光学的、電気的、または物理的な方法によって検出する工程を包含する、CRP検出方法。
【請求項14】
請求項13のCRP検出方法に使用するためのCRP検出キットであって、
請求項10、請求項11または請求項12に記載のモノクローナル抗体を含む、
キット。
【請求項15】
検体中のCRPを検出するためのキットであって、
移動相としての第1の抗体と、固相としての第2の抗体とを担持した支持体を含み、
第1の抗体は、該支持体に移動可能に担持され、第2の抗体は該支持体に結合されており、
第1の抗体および第2の抗体は、請求項10、請求項11または請求項12に記載の抗CRPモノクローナル抗体であり、第1の抗体は標識されている、キット。
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図5】
【図8】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図5】
【図8】
【公開番号】特開2006−115716(P2006−115716A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304942(P2004−304942)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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