説明

抗TNFα抗体

TNFαを結合し、その活性を中和する抗体を提供する。場合によって、抗体は、a)配列番号:1のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、b)配列番号:2のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒト腫瘍壊死因子-α(TNFα)は、3つの17kDaのタンパク質サブユニットからなるホモ三量体である(Eck M. J. et al., JBC, 267: 2119-2122, 1992; Smith R. A. et al., JBC, 262: 6951-6954, 1987)。TNFαは、マクロファージ及び単球から分泌される炎症性サイトカインであって、ネクローシス及びアポトーシスといったいくつかの細胞性反応におけるシグナル伝達物質として機能する(Beyaert R. et al., FEBS Lett., 340: 9-16, 1994)。TNFαによって、軟骨及び骨の分解(Saklatvala, Nature, 322: 547-549, 1986)、血管内皮細胞における凝固促進活性の誘導(Pober J S et al., J. Immunol., 136; 1680-1687, 1986)や、好中球及びリンパ球の付着の増加(Pober et al., J. Immunol. 138: 3319-3324, 1987)といった、組織破壊に至る炎症誘発性作用が生じる。
【0002】
様々な疾患の病理は、局所的又は全身的に過剰量のTNFαが原因である。例えば、TNFαの細胞からの異常に高い産生及び放出は、関節リウマチ、全身炎症性症候群、糖尿病及び多発性硬化症の疾患惹起及び進行に関与するという強い所見がある。これらの状態のいずれにおいても、惹起し維持している病態生理学的作用は直接、組織損傷の部位にあるか又はその部位に隣接する様々な種類の細胞からの大量のTNFαの合成及び即時局所放出の結果である。局所的にTNFαが放出された後に、大きく上昇したTNFα濃度に応答して細胞から局所的に放出される走化性サイトカインのカスケードによって組織損傷の部位に引き付けられるマクロファージに侵入することにより、TNFαの更なる合成と放出が起こる。
当分野では、TNFαを結合して中和する新規な抗体が常に求められている。
【発明の概要】
【0003】
TNFα中和抗体を提供する。ある実施態様では、抗体は、配列番号:1のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:2のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。抗体は、例えば、モノクローナル、一価性、二価性又は単鎖の抗体であってよい。また、TNFα活性を阻害するための対象抗体の使用方法、対象抗体を使用した治療方法及びこれを具備するキットも提供する。対象抗体は、様々な研究及び医学的な用途における利用法を見出す。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】対象抗体の重鎖(VH、配列番号.1)及び軽鎖(VK、配列番号.2)のアミノ酸配列を示す。FR領域に印を付け、CDRを囲んで印を付す。これらの配列の下に、活性な抗体となることが予測される候補アミノ酸置換を示す。
【図2A】異なる処置を施したマウスのRAスコアを示すグラフ。
【図2B】これらの動物の足首による代表的な切片を示す。関節リウマチ(RA)を有するヒトTNFaトランスジェニックマウスを、Humira又はHZD RabMAbにて処置し、RAスコアを非処置群(A)と比較した。正常マウスをコントロールとして用いた。処置終了時に、足関節の組織病理研究を行った(B)。HZD RabMAbによる処置によりRAスコアは正常マウスのものに向かって減少し、足関節もまた正常マウスと同じくらいに健康であった。
【図3】異なる処置を受けたマウスの体重を示すグラフである。時間とともにいくらか増えたものの、同じ時点での非処置群と処置群(Humira及びHZD RabMAb)との間で体重の有意な差は観察されなかった(C)。
【図4】HZD-M RabMAbのアミノ酸配列(配列番号:9及び10)を示す。重鎖及び軽鎖のリーダー配列に下線を付し、可変ドメインを太字で示し、定常領域を下線と太字で示す。HZD RabMAbの可変ドメインは、配列番号:1及び2のアミノ酸配列を含有する。
【図5】HZD-N-Nterm RabMAbのアミノ酸配列(配列番号:11及び12)を示す。重鎖及び軽鎖のリーダー配列に下線を付し、可変ドメインを太字で示し、定常領域を下線と太字で示す。HZD RabMAbの可変ドメインは、N末端のアミノ酸変化を除いて、配列番号:1及び2のアミノ酸配列と同一である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
定義
本発明についてさらに記載する前に、本発明が、記載された特定の態様には限定されず、これらは当然ながら変わりうることが理解されるべきである。また、本明細書で用いる専門用語は特定の態様のみを説明することが目的であり、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲のみによって限定されるので、限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0006】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解しているものと同じ意味を持つ。本発明の実施又は試験に本明細書に記載したものと同様又は同等の方法及び材料を用いることができるが、好ましい方法及び材料は以下に説明するものである。本明細書で言及するすべての刊行物は、その刊行物の引用と関係のある方法及び/又は材料の開示及び記載のために出典明記によって本明細書中に援用される。
【0007】
本明細書及び添付された特許請求の範囲において用いる場合、単数形の「1つの(a)」「1つの(and)」及び「その(the)」は、その文脈で明らかに別の指示がなされない限り、複数のものに関する言及も含むことに留意されたい。したがって、例えば、「1つの抗体」に対する言及は複数の該抗体を含み、「1つのフレームワーク領域」に対する言及は1つ又は複数のフレームワーク領域及び当業者に公知のその等価物に関する言及を含み、その他も同様である。
【0008】
本明細書で論じている刊行物は単に、本出願の出願日前の開示内容を提供する目的のみで提供される。本明細書中のいかなる記載も、本発明は先行発明に基づいて前記刊行物に先行しているという権利を与えられていないということを認めていると解されるものではない。さらに、提供される刊行物の日付は実際の刊行日とは異なる可能性があり、それらは個別に確認する必要があるであろう。
【0009】
「抗体」及び「免疫グロブリン」なる用語は、本明細書において互換的に用いられる。これらの用語は当業者には十分に理解されており、抗原を特異的に結合する一又は複数のポリペプチドからなるタンパク質を指す。抗体の1つの形態は、抗体の基本的な構造単位を構成する。この形態は四量体であり、それぞれの対が1つの軽鎖と1つの重鎖を有する、抗体鎖の2つの同一な対からなる。それぞれの対において、軽鎖及び重鎖の可変領域は協働して抗原への結合を担い、定常領域は抗体のエフェクター機能を担う。
【0010】
一般に認められている免疫グロブリンポリペプチドには、κ及びλ軽鎖、ならびにα、γ(IgG、IgG、IgG、IgG)、δ、ε及びμ重鎖、又は他の種における等価物が含まれる。(約25kDa又は約214アミノ酸の)完全長免疫グロブリン「軽鎖」は、約110アミノ酸の可変領域をNH末端に含み、κ又はλ定常領域をCOOH-末端に含む。(約50kDa又は約446アミノ酸の)完全長免疫グロブリン「重鎖」も同様に、(約116アミノ酸の)可変領域、及び前記の重鎖定常領域のうち1つ、例えば(約330アミノ酸の)γを含む。
【0011】
「抗体」及び「免疫グロブリン」なる用語には、任意のアイソタイプの抗体又は免疫グロブリン、抗原に対する特異的結合性を保っているFab、Fv、scFv及びFd断片を非限定的に含む抗体の断片、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、抗体及び非抗体タンパク質の抗原結合部分を含む融合タンパク質、及び翻訳後修飾を有する抗体が含まれる。抗体を、例えば、放射性同位体、検出可能な産物を生成する酵素、蛍光性タンパク質などにより、検出可能なように標識してもよい。抗体をさらに、特異的結合対のメンバー、例えばビオチン(ビオチン−アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の部分とコンジュゲートさせてもよい。また、抗体をポリスチレン製プレート又はビーズなどを非限定的に含む固体支持体と結合させてもよい。また、この用語に含まれるものには、Fab'、Fv、F(ab')、及び又は抗原に対する特異的結合を保っているその他の抗体断片、及びモノクローナル抗体がある。
【0012】
抗体は、例えば、Fv、Fab及び(Fab')、並びに二機能性(すなわち、二重特異的)ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchia et al., Eur. J. Immunol. 17, 105 (1987))を含む種々の他の形態として、及び一本鎖(例えば、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85、5879-5883 (1988)及びBird et al., Science, 242, 423-426 (1988)、これらは出典明記により本明細書に援用される)として存在してもよい(全般的には、Hood et al., "Immunology", Benjamin, N.Y., 2nd ed. (1984)及びHunkapiller and Hood, Nature, 323, 15-16 (1986)を参照のこと)。
【0013】
免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖の可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれる3つの高頻度可変領域によって分断された「フレームワーク」領域(FR)からなる。フレームワーク領域及びCDRの範囲は正確に定められている("Sequences of Proteins of Immunological Interest", E. Kabat et al., U.S. Department of Health and Human Services, (1991)を参照)。本明細書中で論じるすべての抗体のアミノ酸配列の番号付けはKabatシステムに従う。異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、単一種内では比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成要素である軽鎖及び重鎖が組み合わされたフレームワーク領域は、CDRを配置させて整列させる働きをする。CDRは主として、抗原のエピトープへの結合を担う。
【0014】
キメラ抗体とは、その軽鎖及び重鎖の遺伝子が、異なる種に属する抗体可変領域遺伝子及び定常領域遺伝子から、典型的には遺伝子操作によって構築された抗体のことである。例えば、ウサギモノクローナル抗体由来の遺伝子の可変セグメントを、ヒトの定常セグメント、例えばγ1及びγ3などと連結してよい。治療用キメラ抗体の一例は、ウサギ抗体由来の可変ドメイン又は抗原結合ドメインと、ヒト抗体由来の定常ドメイン又はエフェクタードメインとから構成されるハイブリッドタンパク質であるが(例えば、ATCC寄託物受託番号CRL9688の細胞によって作製された抗Tacキメラ抗体)、他の哺乳動物種を用いてもよい。
【0015】
本明細書で用いる場合、「ヒト化抗体」又は「ヒト化免疫グロブリン」なる用語は、対応する位置にあるヒト抗体由来のアミノ酸によって置換された(例えばフレームワーク領域、定常領域又はCDRの)一又は複数のアミノ酸を含む、非ヒト(例えば、マウス又はウサギ)抗体のことを指す。一般に、ヒト化抗体は、同じ抗体の非ヒト型と比べてヒト宿主における免疫応答が低い。
【0016】
本方法によって設計及び作製されたヒト化抗体が、抗原結合にもその他の抗体機能にも実質的に影響を及ぼさない他の保存的アミノ酸置換を有しうることは理解されるであろう。保存的置換は以下の群からのものなどの組み合わせを指す:gly、ala;val、ile、leu;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;及びphe、tyr。同じ群に存在しないアミノ酸は「実質的に異なる」アミノ酸である。
【0017】
「特異的結合」なる用語は、種々の分析物の均質な混合物中に存在する1つの特定の分析物と選好的に結合する、抗体の能力のことを指す。ある実施態様において、特異的な結合相互作用は、試料中の望ましい分析物と望ましくない分析物とを識別すると考えられ、いくつかの態様においては、約10〜100倍を上回る、又はそれ以上である(例えば、約1000倍又は10000倍を上回る)。
【0018】
ある実施態様では、捕捉試薬と分析物との間の親和性は、それらが捕捉物質/分析物複合体として特異的に結合する場合には、K(解離定数)が10−6M未満である、10−7M未満である、10−8M未満である、10−9M未満である、10−9M未満である、10−11M未満である、又は約10−12M未満もしくはそれ未満であることによって特徴づけられる。
【0019】
抗体の重鎖又は軽鎖の「可変領域」とは、鎖のN末端の成熟ドメインのことである。すべてのドメイン、CDR及び残基の番号は、配列アラインメント及び構造の知識に基づいて割り当てられる。フレームワーク及びCDR残基の同定及び番号付けは、Chothia及びその他(Chothia Structural determinants in the sequences of immunogloblin variable domain. J Mol Biol 1998;278:457-79)によって記載されている通りである。
【0020】
VHは抗体重鎖の可変ドメインである。VLは抗体軽鎖の可変ドメインであり、これはκ(K)又はλアイソタイプのものでありうる。K−1抗体はκ-1アイソタイプを有し、一方、K−2抗体はκ-2アイソタイプを有し、VLは可変λ軽鎖である。抗体の可変ドメインは重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。
【0021】
本明細書で用いる場合、「決定すること」、「測定すること」及び「評価すること」及び「アッセイすること」という用語は互換的に用いられ、これには量的及び質的な決定の両方が含まれる。
【0022】
本明細書において互換的に用いられる「ポリペプチド」及び「タンパク質」なる用語は、任意の長さのアミノ酸の多量体形態を指し、これにはコード化されているアミノ酸及びコード化されていないアミノ酸、化学的又は生化学的に修飾又は誘導体化されたアミノ酸、ならびに修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含みうる。この用語には、異種アミノ酸配列との融合タンパク質、N末端メチオニン残基を有する又は有しない異種及び同種リーダー配列を有する融合物;免疫学的なタグ付加がなされたタンパク質;検出可能な融合パートナーとの融合タンパク質、例えば、融合パートナーとして蛍光性タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどを含む融合タンパク質;などを非限定的に含む、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドは任意のサイズであってよく、「ペプチド」という用語は、長さが8〜50残基(例えば、8〜20残基)であるポリペプチドのことを指す。
【0023】
本明細書で用いる場合、「単離された」なる用語は、単離された抗体の文脈において用いられる場合、精製の前にその抗体に付随している他の成分を少なくとも60%含まない、少なくとも75%含まない、少なくとも90%含まない、少なくとも95%含まない、少なくとも98%含まない、さらには少なくとも99%含まない、対象の抗体のことを指す。
【0024】
「治療」、「治療すること」などの用語は、本明細書において、哺乳動物、例えば、特にヒト又はマウスにおける、任意の疾患又は病状の任意の治療のことを指すために用いられ、これには以下のものが含まれる:a)疾患、病状、又は疾患ないし病状の症状が、その疾患に対する素因があってもよいがまだそれを有するとは診断されていない被検体において起こるのを予防すること;b)疾患、病状、又は疾患ないし病状の症状を抑制すること、例えば、患者におけるその進行を停止させること、及び/又はその発症もしくは症状発現を遅延させること;ならびに/又はc)疾患、病状、又は疾患ないし病状の症状を緩和すること、例えば、病状又は疾患及び/又はその症状の退行を引き起こすこと。
【0025】
「被検体」、「宿主」、「患者」及び「個体」という用語は、本明細書において、診断又は治療法が望まれる任意の哺乳動物被検体、特にヒトを指すために互換的に用いられる。他の被検体には、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどが含まれうる。
【0026】
「対応するアミノ酸」とは、2つ又はそれ以上のアミノ酸配列のアラインメントを行った場合に、同一な位置にある(すなわち、それらが互いに真向かいにある)アミノ酸残基のことである。抗体配列のアラインメント及び番号付けのための方法は、前記のChothia、前記のKabat及びその他において、さらに詳細に示されている。当技術分野で公知であるように(例えば、Kabat 1991 Sequences of Proteins of Immunological Interest, DHHS, Washington, DCを参照のこと)、アラインメントを実施するために、一方又は両方の抗体のアミノ酸に対して、時には、(特にL3及びH3 CDRにおいて)1、2又は3のギャップ及び/又は最大で1、2、3もしくは4の残基、又は最大およそ15残基の挿入を加えてもよい。
【0027】
「天然」の抗体とは、例えばファージディスプレイによって作製された非天然的に対合した抗体やヒト化抗体とは異なり、抗体の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が多細胞生物の免疫系によって天然に選択されている抗体のことである。よって、対象の親抗体は通常、任意のウイルス(例えば、バクテリオファージM13)由来の配列を含まない。脾臓、リンパ節及び骨髄は、天然の抗体を産生する組織の例である。
【0028】
「置換可能な位置」とは、抗体の結合活性を著しく低下させることなく、異なるアミノ酸によって置換されうる抗体の特定の位置である。置換可能な位置を同定するための方法、及びそれらをいかにして置換するかについては以下で非常に詳細に述べる。置換可能な位置を「変異寛容位置(variation tolerant position)」と呼ぶこともできる。
【0029】
「親」抗体とは、アミノ酸置換の標的となる抗体のことである。ある態様においては、改変抗体を作製するために、アミノ酸が「ドナー」抗体によって親抗体に「供与」される。
【0030】
「関連抗体」とは、類似の配列を有し、共通のB細胞祖先を有する細胞によって産生される抗体である。前記のB細胞祖先は、再配列された軽鎖VJC領域及び再配列された重鎖VDJC領域を有するゲノムを含み、親和性成熟をまだ受けていない抗体を産生する。脾臓組織中に存在する「ナイーブ」又は「バージン」B細胞は、例示的な共通B細胞祖先である。関連抗体は抗原の同じエピトープと結合し、典型的には、配列、特にL3及びH3 CDRが非常に類似している。関連抗体のH3及びL3 CDRは長さが同一であり、ほぼ同一な配列を有する(すなわち0、1又は2の残基が異なる)。関連抗体は、ナイーブB細胞祖先において産生される抗体である共通の抗体祖先によって関連づけられる。「関連抗体」なる用語は、B細胞によって産生される共通の抗体祖先を有しない一群の抗体を記載することを意図してはいない。
【0031】
本明細書中で用いる「TNFα」又はその非省略形である「腫瘍壊死因子-α」なる用語は、17kDの分泌型と26kDの膜結合型として存在するヒトサイトカインを指すことを意図し、その生物学的な活性型は非共有結合的に結合した17kDの分子の三量体からなる。TNFαの構造は、例えばPennica et al. (Nature 1984 312:724-729)、Davis et al. (Biochemistry 1987 26:1322-1326)、及びJones et al. (Nature 1989 338:225-228)に更に記載されている。TNFαなる用語は、標準的な組換え発現方法によって調製することも、市場で購入する(R & D Systems, Catalog No. 210-TA, Minneapolis, Minn.)こともできる組換えTNFα分子、並びにTNFα分子を含む融合タンパク質を包含することを意図する。本明細書において用いられうる例示的なTNFαのアミノ酸配列はNCBIのジェンバンクデータベースにおいて提供され、ヒトTNFαや様々な疾患及び状態におけるその役割についての記載はすべてManデータベース中のNCBIのオンラインMendelian Inheritanceに提供されている。
【0032】
「TNFα中和抗体」、「TNFα活性を中和する抗体」又はこれらのいずれかの文法上の等価表現は、TNFαへの結合によりTNFαの生物学的活性が阻害される抗体を指す。このTNFαの生物学的活性の阻害は、TNFα誘導性の細胞障害作用(インビトロ又はインビボ)、TNFα誘導性の細胞活性化又はTNFαレセプターへのTNFα結合といった一又は複数のTNFα生物活性の指標を測定することによって評価されうる。TNFαの生物学的活性は、当分野で公知である一又は複数の様々な標準的なインビトロ又はインビボのアッセイによって評価されうる。
【0033】
好ましい実施態様の詳細な説明
TNFα中和抗体を提供する。ある実施態様では、抗体は、配列番号:1のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:2のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含んでよい。抗体は、例えば、モノクローナル、一価性、二価性又は単鎖の抗体であってよい。また、TNFα活性を阻害するための対象抗体の使用方法、対象抗体を使用した治療方法及びこれを具備するキットも提供する。対象抗体は、様々な研究及び医学的な用途における利用法を見出す。
【0034】
ある実施態様では、モノクローナル抗体は、配列番号:1のCDR1(RYGIN;配列番号:3)、CDR2(AIGETGRAYYASWAKS;配列番号:4)、及びCDR3(GELFNNGWGAFNI;配列番号:5))領域を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:2のCDR1(QASESIYSSLA;配列番号:6)、CDR2(SASTLAS;配列番号:7)、及びCDR3(QQGFGTS NVENP;配列番号:8)領域を含む軽鎖可変ドメインとを含む可変ドメイン、又はCDR領域内の最大6アミノ酸の置換(すなわち、1、2、3、4、5又は5の置換)を除き可変ドメインに同一である(すなわち、6のCDR領域は合計で最大6のアミノ酸置換を含みうる)可変ドメインの変異形を含んでよく、このとき該モノクローナル抗体はTNFα活性を中和する。
【0035】
他の実施態様では、抗体は、a)最大およそ6アミノ酸の置換、例えば1、2、3、4、5又は6の置換について配列番号:1とアミノ酸配列が異なる重鎖可変ドメインと、b)最大およそ6アミノ酸の置換、例えば1、2、3、4、5又は6の置換について配列番号:2とアミノ酸配列が異なる軽鎖可変ドメインとを含んでよい。例示的なアミノ酸置換を以下に示す。対象の抗体はこれら置換のいずれか一又はこれら置換を組み合わせて有してよい。
【0036】
表1 重鎖可変ドメイン内の例示的なアミノ酸置換

【0037】
表2 軽鎖可変ドメイン内の例示的なアミノ酸置換

【0038】
また、これらの例示的なアミノ酸置換は図1にも示す。これらすべての置換を有する抗体はTNFα活性を中和することが示されたので、これらいずれかの置換を有する抗体はTNFα活性をきっと中和するであろう。これらの位置にアミノ酸を含有するTNFα中和抗体は、本明細書中に出典明記によって援用される米国公開特許20060216293において開示される。ある実施態様では、対象の抗体は、米国公開特許20060216293において開示される抗体のヒト化型であってもよい。
【0039】
アミノ酸置換は、フレームワーク領域及びCDRの両方にあってもよいし、単にフレームワーク領域又はCDRのいずれのみにあってもよい。ゆえに、ある実施態様では、重鎖可変ドメインのフレームワーク領域は、合計して最大およそ6アミノ酸の置換、例えば1、2、3、4、5又は6の置換によって配列番号.1のアミノ酸配列と異なっていてよく、軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域は、合計して最大およそ6アミノ酸の置換、例えば1、2、3、4、5又は6の置換によって配列番号.2のアミノ酸配列と異なっていてもよい。
【0040】
いくつかの抗体において、アミノ酸置換のすべてがCDRにあってよい。したがって、重鎖可変ドメインのCDRは、合計して最大およそ6アミノ酸の置換、例えば1、2、3、4、5又は6の置換によって配列番号.1のアミノ酸配列と異なっていてよく、軽鎖可変ドメインのCDRは、合計して最大およそ6アミノ酸の置換、例えば1、2、3、4、5又は6の置換によって配列番号.2のアミノ酸配列と異なっていてもよい。
【0041】
具体的な実施態様では、抗体は、a)配列番号.1のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、b)配列番号.2のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインとを含んでいてよい。
【0042】
具体的な実施態様では、抗体は、a)配列番号.1にアミノ酸配列が少なくともおよそ95%同一である重鎖可変ドメインと、b)配列番号.2にアミノ酸配列が少なくともおよそ95%同一である軽鎖可変ドメインとを含んでいてよい。ゆえに、対象の抗体は、a)配列番号.1にアミノ酸配列が少なくともおよそ95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である重鎖可変ドメインと、b)配列番号.2にアミノ酸配列が少なくともおよそ95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一である軽鎖可変ドメインとを含んでいてよい。
【0043】
上記のアミノ酸置換に加えて、対象の抗体は、重鎖及び軽鎖のいずれかの端に更なるアミノ酸を有してよい。例えば、対象の抗体は、重鎖及び/又は軽鎖のC又はNの末端にそれぞれ少なくとも1、2、3、4、5又は6以上含有してよい。場合によって、対象の抗体は、重鎖及び軽鎖のいずれかの端の1、2、3、4、5又は6のアミノ酸が、本明細書において記述される例示的な抗体より短くてもよい。
【0044】
対象の抗体はヒト化されてよい。通常は、ヒト化抗体は、親の抗体のフレームワーク領域のアミノ酸を置換することによって作製し、親の抗体よりもヒトにおいて免疫原性が低くてもよい抗体を提供する。抗体は、例えば、CDR移植(欧州特許239400;PCT公報WO91/09967;米国特許第5225539号;同第5530101号;及び同第5585089号)、ベニヤリング又はリサーフェシング(欧州特許592106;欧州特許519596;Padlan, Molecular Immunology 28(4/5): 489-498 (1991);Studnicka et al., Protein Engineering 7(6): 805-814 (1994);Roguska. et al., PNAS 91 : 969-973 (1994))、及び、鎖シャッフリング(米国特許第5565332号)を含む当分野で公知の様々な技術を用いてヒト化されうる。ある実施態様では、CDRとフレームワークの残基の相互作用をモデリングし、抗原結合及び配列比較に重要なフレームワーク残基を識別し、特定の位置の異常なフレームワーク残基を同定することによって、フレームワーク置換が同定される(例として米国特許第5585089号;Riechmann et al., Nature 332:323 (1988))。抗体は、2004年11月8日に出願の「抗体の操作方法」と題する、米国特許出願10/984473に詳細に記載される方法に従ってヒト化され得、この出願は出典明記によってその全体が援用される。通常は、このヒト化方法は、同じ抗原に結合する抗体の配列を比較し、その位置のアミノ酸を類似のヒト抗体の同じ位置に存在する異なるアミノ酸に置換することによって抗体の置換可能な位置を識別することを伴う。これらの方法では、親抗体のアミノ酸配列を他の関連する抗体のアミノ酸配列と比較し(すなわち整列配置し)、変異容認位置を同定する。通常、親抗体の可変ドメインのアミノ酸配列をヒト抗体配列のデータベースと比較し、親抗体のアミノ酸配列に類似するアミノ酸配列を有するヒト抗体を選択する。親抗体及びヒト抗体のアミノ酸配列を比較し(例えば整列配置し)、親抗体の一又は複数の変異容認位置のアミノ酸を、ヒト抗体に対応して配置するアミノ酸によって置換する。
【0045】
先に論じた変異容認位置置換方法は、任意の公知のヒト化方法に容易に組み込まれ、容易に用いられて、親抗体のCDR領域について変更されているCDR領域を含むヒト化抗体が製造される。したがって、親抗体のCDRの変更されたバージョンを含むヒト化TNFα中和抗体が提供される。
【0046】
TNFα活性を中和する抗体
ある実施態様では、対象の抗体は、TNFαを結合して、その活性を中和するために使用されてよい。TNFα中和抗体は、TNFαの少なくとも一の活性を、およそ20%〜100%、例えば少なくともおよそ10%、少なくともおよそ20%、少なくともおよそ30%、少なくともおよそ40%、少なくともおよそ50%、少なくともおよそ60%、通常最大およそ70%、最大およそ80%、最大およそ90%以上阻害する。これらいずれかのアッセイでは、対象の抗体は、1×10−7M以下(例えば、1×10−7M以下、1×10−8M以下、1×10−9M以下、通常1×10−12M又は1×10−13Mまで)のIC50でTNFα活性を阻害する。マウスが用いられるアッセイでは、対象の抗体は、一般的に1μg/マウス未満(例えば10ng/マウス〜1μg/マウス)のED50を有する。
【0047】
TNFα活性は、適切な細胞、例えばL929細胞を用いたTNFαが誘導する細胞障害作用についてのアッセイ(インビトロ又はインビボ);適切な細胞、例えばU−937細胞を用いたTNFαのそのレセプターへの結合についてのアッセイ;ヒトの臍静脈内皮(HEVEC)細胞上の内皮細胞白血球接着分子1(ELAM−1)発現の阻害についてのアッセイ;又は、D−ガラクトサミン感作マウスを用いたインビボアッセイを含むがこれらに限定しない様々な方法で分析されうる。このようなアッセイは、目的を達するために、出典明記によって本明細書中に援用される米国特許第6090382号に詳細に記載されている。
【0048】
対象の抗体の特定の実施態様は、以下の一般的な特徴を有する:
a) TNFαへの高い親和性(例えば10−8以下のK);
b) TNFαとのゆっくりとした解離速度(例えば10−3−1以下のKoff);及び、
c) TNFα中和活性。
【0049】
結合親和性、解離速度及び他の抗体結合動態の測定方法は、当分野で周知であり、抗体がTNFαに対して高い親和性と遅い解離速度を有するか否かを決定するために用いられうる。多くの方法及び、当分野で周知のように、抗体の結合動態は、ELISA方法によって、又は、例えば、ファルマシア(現在のファイザー)が市販しているBIACORETMバイオセンサーを使用した表面プラスモン共鳴を測定することによって測定されてよい。表面プラスモン共鳴を使用した抗体に対する抗原の結合の測定方法は、当分野で周知であり(Methods of Dev. Biol. 2003 112:141-51及びJ. MoI. Recognit. 1999 12:310-5を参照)、本明細書において使用するために容易に改変される。
【0050】
例えば、抗体は、完全長天然抗体又はその任意のキメラであってよい。キメラ抗体の製造方法は当分野で公知である。例えば、出典明記によって全体が本明細書中に援用される、Morrison et al (Science 1985 229:1202);Oi et al (BioTechniques 1986 4:214);Gillies et al. (J. Immunol. Methods 1989 125:191-202)及び米国特許第5807715号、同第4816567号及び同第4816397号を参照のこと。ある実施態様では、対象の抗体は、モノクローナル、一価性、二価性、又は単鎖の抗体であってよい。
【0051】
TNFα活性を阻害するための抗体の使用方法
対象の抗体は、TNFα活性の阻害方法に使用されてよい。対象の抗体は、後述する様々なプロトコールにおいて使用されてよい。
これらの方法において使用されうるプロトコールは、非常に多く、無細胞アッセイ、例えばTNFαレセプターに対する結合アッセイ;細胞の表現型、例えば、遺伝子発現又は細胞障害性が測定される細胞性アッセイ;及び、特定の動物(ある実施態様では、TNFα関連の状態のための動物モデルであってよい)を用いるインビボアッセイが含まれるがこれらに限定されない。
上記のものを含むこのようなアッセイは当分野で周知であり、20040151722、20050037008、20040185047、20040138427、20030187231、20040002589、20030199679、6090382及びBalazovich (Blood 1996 88: 690-696)を含む様々な刊行物において記述されている。
【0052】
抗体の製造方法
多くの実施態様においては、対象の抗体をコードする核酸を宿主細胞に直接導入し、コードされる抗体の発現を誘導するために十分な条件下で細胞をインキュベートする。
【0053】
発現カセットの発現のために適した任意の細胞を宿主細胞として用いることができる。例えば、酵母、昆虫、植物などの細胞。多くの実施態様においては、通常は抗体を産生しない哺乳動物宿主細胞系が用いられ、その例には以下のものがある:サル腎細胞(COS細胞)、SV40によって形質転換されたサル腎臓CVI細胞(COS−7、ATCC CRL 165 1);ヒト胎児腎細胞(HEK−293、Graham et al. J. Gen Virol. 36: 59 (1977));仔ハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO、Urlaub and Chasm, Proc. Natl. Acad. Sci.(USA)77: 4216, (1980);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, Biol. Reprod. 23: 243-251 (1980));サル腎細胞(CVI ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(Wl38、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL 51);TRI細胞(Mather et al., Annals N. Y. Acad. Sci 383: 44-68 (1982));NIH/3T3細胞(ATCC CRL1658);及びマウスL細胞(ATCC CCL−1)。そのほかの細胞株も当業者には明らかになると考えられる。非常にさまざまな細胞株が、American Type Culture Collection、10801 University Boulevard, Manassas, Va. 20110-2209から入手可能である。
【0054】
核酸を細胞に導入する方法は当技術分野で周知である。適した方法には、電気穿孔、微粒子銃技術、リン酸カルシウム沈降、直接微量注入などが含まれる。方法の選択は一般に、形質転換される細胞の種類、及び形質転換が起こる環境(すなわち、インビトロ、エクスビボ又はインビボ)に依存する。これらの方法についての一般的な考察は、Ausubel, et al, Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., Wiley & Sons, 1995に記載されている。いくつかの態様においては、リポフェクタミン及びカルシウムを介した遺伝子導入技術が用いられる。
【0055】
対象の核酸が細胞に導入された後に、典型的には細胞を、抗体の発現を可能にするために約1〜24時間の期間にわたり、37℃でインキュベートするが、これは時には選択下で行われる。多くの実施態様では、抗体は典型的には、細胞が増殖している培地の上清中に分泌される。
【0056】
哺乳動物宿主細胞では、対象の抗体を発現させるために、さまざまなウイルスベースの発現系を利用することができる。アデノウイルスを発現ベクターとして用いる場合には、対象の抗体コード配列をアデノウイルスの転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーター及び3つの部分からなるリーダー配列と連結させてよい。続いて、このキメラ遺伝子をインビトロ又はインビボ組換えによってアデノウイルスゲノムに挿入してよい。ウイルスゲノムの非必須領域(例えば、領域E1又はE3)に挿入することにより、生存可能であって、感染宿主において抗体分子を発現させることが可能な組換えウイルスを生じさせると考えられる(例えば、Logan & Shenk, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 355-359 (1984)を参照)。発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含めることによって高めることができる(Bittner et al., Methods in Enzymol. 153: 51-544 (1987)を参照)。
【0057】
組換え抗体の長期的な高収量産生のためには、安定的な発現を用いるとよい。例えば、抗体分子を安定的に発現する細胞株を人工的に操作してよい。ウイルス複製起点を含む発現ベクターを用いるのではなく、宿主細胞を免疫グロブリン発現カセット及び選択マーカーによって形質転換させることができる。外来性DNAの導入の後に、操作された細胞を濃縮した培地中で1〜2日間増殖させ、その後に選択培地に交換する。組換えプラスミド中の選択マーカーは選択に対する耐性を付与し、細胞が染色体中にプラスミドを安定的に組み込み、増殖して巣を形成することを可能にし、その後そのプラスミドはクローニングされ細胞株に広まる。このような操作された細胞株は、抗体分子と直接的又は間接的に相互作用する化合物のスクリーニング及び評価において特に有用である。
【0058】
ひとたび本発明の抗体分子が産生されれば、それを、免疫グロブリン分子の精製のための当分野で公知の任意の方法によって、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特にプロテインAの後の特異的抗原に対するアフィニティー、及びサイジングカラムクロマトグラフィー)、遠心分離、溶解性の違い、又はタンパク質の精製のための任意の他の標準的な手法によって精製することができる。多くの実施態様では、抗体は細胞から培養培地中に分泌され、培養培地から採取される。
【0059】
抗体コンジュゲート
ある実施態様では、対象の抗体は薬剤にコンジュゲートされてよい。抗体へのコンジュゲートにより抗体の望ましい機能及び/又は特性が実質的に低減しない限り、薬剤はいずれでもよい。例えば、いくつかの実施態様では、免疫コンジュゲートは、細胞障害性剤である薬剤を含む。いくつかの実施態様では、前記細胞障害性薬剤は、放射性同位体、化学療法剤及び毒素からなる群から選択される。いくつかの実施態様では、前記毒素は、ドキソルビシン、メトトレキセート、メイタンシン、リシン、ジフテリアトキシン及びトリコテシン(trichothene)からなる群から選択される。細胞障害性剤又は細胞増殖抑制剤、すなわち癌治療において腫瘍細胞を殺す又は阻害する薬剤の局所的な運搬のための抗体−薬剤コンジュゲートの使用により(Syrigos and Epenetos (1999) Anticancer Research 19:605-614;Niculescu-Duvaz and Springer (1997) Adv. Drg Del. Rev. 26: 151-172;米国特許第4975278号)、理論的には、腫瘍への薬剤分子の目的運搬とそこでの細胞内蓄積が促される。このときこのコンジュゲートしていない薬剤が全身投与されると除去しようとする腫瘍細胞だけでなく正常細胞にも許容できないほどのレベルの毒性が生じるものである(Baldwin et al., (1986) Lancet pp. (Mar. 15, 1986): 603-05;Monoclonal Antibodies 84: Biological And Clinical Applications, A. Pinchera et al. (ed.s), pp. 475-506のThorpe, (1985) "Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review,")。腫瘍を選択的に破壊するために、抗体は高い放射性原子を含んでいてよい。様々な放射性同位体は、放射性物質コンジュゲート抗体の製造に利用できる。例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体などがある。コンジュゲートが検出に使用される場合、それはシンチグラフィー研究用の放射性原子、例えばtc99m又はI123、又は核磁気共鳴(NMR)撮像法(磁気共鳴撮像法、mriとしても知られる)用のスピン標識、例えばヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含有し得る。
【0060】
放射-又は他の標識が、多くの公知の方法によってコンジュゲートに組み込まれてよい。例えば、ペプチドは生物合成されるか、又は水素の代わりにフッ素-19を含む適切なアミノ酸前駆体を使用する化学的なアミノ酸合成により合成される。標識、例えばtc99m又はI123、Re186、Re188及びIn111は、ペプチドのシステイン残基を介して結合可能である。イットリウム-90はリジン残基を介して結合可能である。IODOGEN方法(Fraker et al (1978) Biochem. Biophys. Res. Commun. 80: 49-57)は、ヨウ素-123の導入に使用することができる。他の方法の詳細は、「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」(Chatal, CRC Press 1989)に記載されている。
【0061】
抗体と細胞障害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン 2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta et al., Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは細胞中の細胞障害剤の放出を容易にするための「切断可能リンカー」であってよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ過敏性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカーが使用され得る(Chari et al., Cancer Research, 52:127-131(1992);米国特許第5208020号)。
【0062】
いくつかの実施態様では、免疫コンジュゲートは、検出可能なマーカーである薬剤を含む。いくつかの実施態様では、前記検出マーカーは、放射性同位体、リガンド-レセプター対のメンバー、酵素−基質対のメンバー及び蛍光共鳴エネルギー転移対のメンバーからなる群から選択される。
【0063】
製剤と投薬
本発明の抗体は、医学的に許容範囲内である任意の方法で投与されてよい。これには、静脈内、血管内、動脈内、皮下、筋肉内、腫瘍内、腹膜内、脳室内、硬膜内又は他の経路といった非経口経路による注射、並びに、経口、経鼻、眼、直腸、又は、局所的なものが含まれる。また、貯蔵物質注射又は浸食性移植物質のような手段による徐放性投与も本発明に特に包含される。局在化した腫瘍に栄養を与えている血管や腎動脈といった、一又は複数の動脈へのカテーテルによる運搬のような手段による局所運搬も特に考慮される。
【0064】
対象の抗体は、薬学的に許容可能な担体であってよい。「薬学的に許容可能な担体」なる用語は一又は複数の有機又は無機の成分であり、天然又は合成のものを意味し、抗体が組み合わさるとその適用を促すものである。薬学的に許容可能であることが知られている他の水溶性及び非水溶性の等張無菌液及び無菌の懸濁液が当業者に知られているが、好適な担体には無菌の生理食塩水が含まれる。「有効量」は、罹患したか、変形性か又は障害した状態の進行を改善するか又は遅延させることが可能である量を指す。有効量は、個体を基本に決定され得、ある程度、治療される症状や求められる結果が考慮されるであろう。有効量は、このような因子を使用し、慣例的な試験だけを使用して当業者によって測定されうる。
【0065】
一実施態様では、対象の抗体は、静脈内か、筋肉内か又は皮下注射によって患者に投与される。抗体は、およそ0.1mg/kg〜およそ100mg/kg、およそ1mg/kg〜75mg/kg、又はおよそ10mg/kg〜50mg/kgの用量範囲内で投与されてよい。抗体は、例えば、ボーラス注射によってか又は緩徐注入によって投与されてよい。30分〜2時間にわたる緩徐注入が使われてよい。
【0066】
有効性
対象の抗体は、TNFαが媒介する障害を治療するために有用である。一実施態様では、本発明は、TNFα関連の状態のための被検体の治療方法を提供する。方法は一般に、対象の抗体を、TNFα関連の障害の少なくとも一の症状を治療するために有効な量で、TNFα関連の障害を有する被検体に投与することを伴う。
【0067】
「TNFαが媒介する障害」なる用語は、例えばTNFα自体の過剰な産生又は放出により、又は病理的な作用を生じさせる他の薬剤の産生又は放出をTNFαが誘導することにより、TNFαが直接働く任意の障害又は疾患の状態を指す。よって、対象の方法は、閉塞性の細気管支炎、間質性肺疾患、線維形成性肺疾患(例えば特発性肺線維症(IPF)、公知の病因の肺線維症、嚢胞性線維症、成人呼吸困難症候群(ARDS)、肺疾患の腫瘍間質、全身性硬化症、ヘルマンスキー・プドラック症候群(HPS)、石炭労働者の塵肺(CWP)、石綿症、サルコイドーシス、珪肺症、黒色肺疾患、慢性肺高血圧、エイズ関連の肺高血圧など)、ヒトの腎症(例えばネフローゼ症候群、アルポート症候群、HIV関連のネフロパシー、多発性嚢胞腎症、ファブリー病、糖尿病性ネフロパシーなど)、腎糸球体腎炎、全身性エリテマトーデスと関係する腎炎、線維形成性血管系疾患、動脈の硬化症、アテローム性動脈硬化、静脈瘤、冠状動脈梗塞、大脳梗塞、筋骨格系線維症、術後接着、皮膚ケロイド形成、進行性全身性硬化症、原発性硬化性胆管炎(PSC)、腎臓線維症、強皮症(局所及び全身)、糖尿病の網膜症、緑内障、ペーロニ病、陰茎線維症、膀胱鏡を用いた試験後のアテローム狭窄症、術後の内側累積、骨髄線維症、特発性後腹膜線維症、微生物感染に対する線維症(例えばウイルス、細菌、真菌、寄生虫など)、炎症性腸疾患に対する線維症(クローン病及び顕微鏡的大腸炎における狭窄形成を含む)、化学物質又は環境傷害によって誘導される線維症(例えば癌化学療法、農薬、放射線(例えば癌放射線療法)など)、腹膜の線維症、肝臓線維症、心筋線維症、肺線維症、グレーブズ眼障害、薬剤誘導の麦角中毒、心臓血管系疾患、良性又は悪性の癌に対する線維症(靭帯腫瘍を含む)、アルツハイマー病、瘢痕、強皮症、リー・フラウメニ症候群の神経膠芽腫、散発性神経膠芽腫、骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、骨髄形成異常症候群、骨髄増殖性症候群、良性又は悪性の婦人科系癌に対する線維症(例えば卵巣癌、リンチ症候群など)、カポシ肉腫、ハンセン氏病、炎症性腸疾患(クローン病及び顕微鏡的大腸炎の狭窄形成を含む)、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、2型糖尿病、関節リウマチ、喘息、慢性気管支炎、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、慢性閉塞性肺疾患、移植片拒絶反応、移植片対宿主病、敗血症などを含む任意の線維形成性障害の治療に有用である。
これらの疾患について以降に更に詳細に記述する。
【0068】
CNS障害。 TNFαが中枢神経系(CNS)の細胞に影響を及ぼす所見が文献に報告されている。TNFαのCNS産生、脳損傷におけるTNFαの併発、脳損傷における多形核白血球(PMN)の役割、脳損傷における接着分子の役割、及び脳損傷の予防のための治療的方策を目的としたTNFα能についての所見が文献に概説されている。例として、Babak Arvin et al. (1995) Ann. N. Y. Acad. Sciences 765: 62-71を参照。
【0069】
実験上の髄膜炎における抗TNFα抗体による脳浮腫の予防は、血液脳関門の破壊へのTNFαの関与に強く裏付けられる。また、TNFαは、好中球の組織への浸潤を引き起こし、その後局所領域における二次メディエーターを誘導しうる。例として"Cytokines and CNS," Edit: R. M. Ransohoff and E. N. Beneviste, CRC Press, Page 193, 1996を参照。
【0070】
ラットの閉頭部外傷(CHI)により挫傷を負った脳半球でのTNFαの産生が促され、TNFαレベルの減少又はその活性の阻害により有意に脳損傷が低減することが示された。Shohami et al. (1996) J. Cerebral Blood Flow Metab., 16:378-384。
【0071】
多発性硬化症。 CNS内の多発性硬化症(MS)プラークに末梢血液単核細胞が浸潤する。患者において、MS再発の間、血液単核細胞によってリンホトキシンではなく、TNFαが過剰生産される。Glabinski et al. (1995) Neurol Scand. 91:276-279。TNFαは、インビトロで乏突起神経膠細胞の細胞死を引き起こす能力を有する。Robbins et al. (1987) J. Immunol., 139:2593。TNFα活性のこの態様は、多発性硬化症(MS)といった疾患において観察されるミエリン損傷及び/又は髄鞘脱落プロセスに直接関与しうる。TNFαは、MSにおけるCNSの髄鞘脱落に中心的役割を果たすことを示された。TNFαの血清中濃度は活動中のMS患者において上昇しており、TNFα産生性のマクロファージ、ミクログリア及び星状細胞が活動中の病変部位に存在する。インビトロ実験では、TNFαは乏突起神経膠細胞損傷を直接媒介し、ミエリン形成を抑制し、星状細胞を刺激する。そしてこれがMSにおけるCNS瘢痕化プラークの原因となる(Owens and Sriram, Neurological Clinics, 13:51, 1995)。
【0072】
TNFαの血清中濃度は活動中のMS患者において上昇している(M. Chofflon et al., Eur. Cytokine Net., 3:523, 1991;Sharief, M. K. and Hentgen, N. E. Jour. Med., 325:467, 1991)。TNFα産生性のマクロファージ/ミクログリア及び星状細胞は、活動中の病変部位に存在する(K. Selmaj al., Jour. Clin. Invest., 87:949,1991)。インビトロ実験では、TNFαは乏突起神経膠細胞損傷を直接媒介し、ミエリン形成を抑制し(K. Selmaj et al., J. Immunol., 147:1522, 1990);T. Tsumamoto et al., Acta Neurol. Scand., 91:71, 1995)、星状細胞を刺激する。そしてこれが瘢痕化プラークの原因となる(K. Selmaj et al., J. Immunol., 144:129, 1990)。
【0073】
MS悪化発作に先行してTNFαの発現が増加することが示された。("Cytokines and the CNS," Edit: R. M. Ransohoff and E. N. Beneviste, CRC Press, 1996, p.232)。マウス、ラット及びヒトの脱髄性疾患のインビボ研究は、TNFαがCNS内で起こる炎症反応に関与することを示す。TNFα陽性星状細胞及びマクロファージは、MS患者の脳、特にプラーク領域で同定され( F. M. Hofman et al., J. Exp. Med., 170:607, 1991、及びSelmaj et al., J. Clin. Invest., 87:949, 1991)、TNFα及びTNF-βがMSプラーク領域に存在すること、そして、TNFαが星状細胞内に局在するのに対して、TNFαはミクログリア及びT細胞と関係していることが決定された。TNFαの血清及び脳脊髄液レベルの増加は、MS患者において実証され(Sharief, M. K., M. Phil, and R. Hentges, N. Engl. J. Med., 325:467, 1991)、TNFαの脳脊髄液レベル、血液脳関門の破壊と、活動中MS患者の循環ICAM−1の高いレベルとの間に強い相関がある。
【0074】
アルツハイマー病。 高齢期の最も一般的な認知症性疾患であるアルツハイマー病(AD)は、高齢者の主な障害及び死の原因である。この疾患は脳、特に海馬、扁桃体、視床及び新皮質の異常の出現を特徴とする。これらの領域における病変は、ニューロンの機能不全/死及び標的物質の求心路遮断と関係している。ADの主要な病理学的特徴は、細胞外実質及び大脳脈管のアミロイド-βタンパク質(Aβ)の堆積及び神経原線維濃縮体である。
【0075】
TNFαは一般に、抗体アッセイ及びバイオアッセイによるとAD患者の血清において上昇していた。ある研究では、AD症例のほぼ半分がTNFαを上昇させていたが、コントロールはいずれもこの上昇を示さなかった。血液脳関門は通常、サイトカインが通過できない。しかしながら、血液脳関門がADにおいて完全でないことを示唆する所見がある。
【0076】
呼吸器疾患。 TNFαはブレオマイシン及びシリカによって誘導される肺線維形成において役割を有することが示された(Piguet et al., Jour. Exper. Med., 170:655-663, 1989及びNature, 344:245-247, 1990; Everson and Chandler, Amer. Jour. Path., 140:503-512, 1992;Phan and Kunkel, Exp. Lung Res. 18: 29-43, 1992;また、Warren et al., Jour. Clin. Invest., 84:1873-1882, 1989;Denis et al., Amer. Jour. Cell MoI. Biol., 5:477-483, 1991)。TNFαは、二次伝達物質サイトカインの区分された放出を制御することによってその炎症誘発性効果を調整することが報告されている。調べにより、慢性インビボTNFαにさらされたヌードマウスは肺炎症及び線維症を発達させることが示された(ARRD 145: A307, 1992)。
【0077】
喘息。 TNFαのレベルがアレルギー性喘息患者の気管支肺胞洗浄(BAL)液において増加することが報告された。Cirelli, et al. (1995) Amer. Jour. Resp. Critical Care Med., 151:345A;Redington et al., (1995) Amer. Jour. Respir. Crit. Care Med., 151: 702A。これらの所見から、喘息におけるTNFαの組織レベルの増加と、この状態の病理に寄与しうることが示唆される。
【0078】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)。 TNFαが病態生理において役割を果たす他の病的状態は慢性閉塞性肺疾患である。線維形成反応によって生じる進行性呼吸不全の疾患である、珪肺症では、TNFαに対する抗体は、マウスにおいてシリカが誘導する肺線維形成を完全に妨げた(Piguet et al., Nature, 344:245-247, 1990)。(血清及び単離したマクロファージにおいて)高いレベルのTNFα産生が、シリカ及びアスベストが誘導する線維形成の動物モデルにおいて示された(Bissonnette et al., Inflammation, 13:329-339, 1989)。
【0079】
成人呼吸窮迫症候群(ARDS)。 ARDS患者の肺吸引液において12000pg/mlを上回る過剰量のTNFα濃度が検出された(Millar et al., Lancet, 2(8665): 712-714, 1989)。組み換えTNFαの全身注入によりARDSに典型的に見られる変化が生じることが示された(Ferrai-Baliviera et al., Arch. Surg., 124:1400-1405, 1989)。
【0080】
肺サルコイドーシス。 肺サルコイドーシス患者からの肺胞マクロファージは、正常なドナーからのマクロファージと比較して自発的に大量のTNFαを放出することがわかった(Baughman et al., Jour. Lab. Clin. Med., 115:36-42, 1990)。また、その後の再灌流の後に起こる病態生理学的応答といった他の急性疾患状態にもTNFαは関係していた。それは、再灌流障害に伴い、血流の喪失後の組織損傷の主要な原因である。(Vedder et al., Proc. Nat. Acad. ScL, 87:2643-2646, 1990)。
【0081】
敗血症。 TNF-αの過剰産生は、エンドトキシンが誘導する敗血症ショックの発症に関係していた(Carswell et al., Proc. Nat. Acad. ScL, 2:3666-3670, 1975を参照)。エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞壁のリポポリ糖類成分であって、TNFα及び他の生物学的に活性なサイトカイン分子の合成と分泌促進を誘導するマクロファージ活性化因子である。TNF-αは、敗血症、敗血症ショック及び多臓器不全の中心的なメディエーターと考えられる。これら宿主反応は、TNFαの産生が増加したことによる、TNF-αの血中レベルの増加と関係している。(F. Stuber et al., Jour. Inflam., 46:42-50, 1996)。
【0082】
肝臓障害。 代謝及び宿主防衛機構において中心的役割を果たすので、肝臓は、敗血症の間の多臓器不全の発症の原因となる主要な臓器であると考えられる。早期の敗血症の亢進期における肝細胞の機能低下は、肝灌流の減少によるものであると考えられず、TNFαなどの循環サイトカインレベルの亢進と関係している。さらに、心臓血液拍出量又は肝灌流を減少させない用量の組み換えTNF-αの投与により、肝細胞の機能不全が生じる。(P. Wang et al., Amer. Jour. Physiol., 270:5, 1996)。
【0083】
転写休止下での肝アポトーシスの誘導、肝アポトーシスの誘導における55kDaレセプターの活性化、TNFが誘導する肝アポトーシスにおけるグリコシル化工程、T細胞作動性サイトカイン放出による肝損傷誘導、及び転写が休止されていない場合のTa細胞依存性のTNFが媒介する肝損傷において、TNFαの役割が報告された。(A. Wendel et al., Cell. Biol. MoI. Basis Liver Transp., Int., Ringberg Conf. Hepatic Transp., 2nd, 1995, Pages 105-111.)。
【0084】
糖尿病。 TNF-αは、肥満と関係するインスリン耐性の状態において中心的役割を果たす。TNF-αがインスリンシグナル伝達に干渉するある重要なメカニズムは、インスリンレセプター(IR)のチロシンキナーゼ活性化の阻害因子として機能しうる、インスリンレセプター基質-1(IRS−1)のセリンリン酸化によるものであることが既に示された。データは、TNF-αがp55TNFRの刺激によるシグナル伝達及びスフィンゴミエリナーゼ活性を阻害し、これによりIRS−1の阻害型が産生されることを強く示唆している(Peraldi et al., J. Biol. Chem. 271:13018-13022, 1996)。
【0085】
クローン病。 TNF-αレベルはクローン病において上昇している。ある研究では、TNF-α濃度が、正常な子ども、下痢をもつ乳児及び活動期及び不活動期の炎症性腸疾患を有する子どもの便試料において測定された。下痢コントロールと比較して、便中のTNF-α濃度は、活動中のクローン病を有する子どもにおいて有意に増加していた。不活動期のクローン病患者では、手術又はステロイド治療のいずれかの結果として、便中TNF-αの濃度は、コントロールのレベルに落ちた(C. P. Braegger et al., Lancet, 339:89-91, 1992)。
【0086】
子癇前症。 子癇前症は内皮疾患であり、TNF-αは、酸化物質と抗酸化物質との間のバランスの変更、プロスタグランジン産生のパターンの変更、及び様々な細胞表面成分の発現への作用を含む、様々な手段によって内皮細胞に根本的な影響を及ぼす。患者では、TNF-αmRNA発現がコントロール群と比較して子癇前症患者において有意に上昇するという結果が示される。これらの所見は、子癇の発達におけるTNF-αの主要な役割と矛盾していない(G. Chen et al., Clin. Exp. Immunol. 104:154-159, 1996)。
【0087】
皮膚熱傷。 火傷した領域及び遠隔領域のヒラメ筋のタンパク質異化速度とTNFα含量は、ラットが37%のTBSA全層火傷を負った後の第1週目に劇的に検出された。骨格筋のTNF-α含量は、遠隔領域よりも火傷領域においてはるかに多かった。また、TNFαの増加は、骨格筋のタンパク質異化速度に有意に相関していた(Li et al., Jour. Med. Coll., PLA 10:262-267, 1995; CA. 125: 938, 1245:8156a, 1996)。
【0088】
骨吸収。 TNF-αは関節炎を含む骨吸収疾患において増加している。その疾患では、活性化されると、白血球が骨再吸収活性を起こすことが決定された。データから、TNF-αがこの活性を亢進することが示唆される(Bertolini et al., Nature, 319:516-518, 1986, and Johnson et al., Endocrinology, 124:1424-1427, 1989)。TNF-αは骨吸収を刺激し、骨芽細胞機能の阻害と同時に発生する破骨細胞の形成と活性化の刺激によりインビトロ及びインビボでの骨形成を阻害する。TNF-αは、関節炎を含む多くの骨吸収疾患に関与しうる。
【0089】
関節リウマチ。 ヒトの関節リウマチ組織でのサイトカインmRNA及びタンパク質の分析により、TNF-αなどの多くの炎症誘発性サイトカインが、治療を問わずすべての患者に多く存在することが明らかとなった。自然にIL1を産生するリウマチ様関節細胞培養物において、TNF-αはIL1の主要な優性調節因子であった。その後、TNF-αが中和されると、他の炎症誘発性サイトカインも抑制されたことから、炎症誘発性サイトカインがその頂点でTNF-αとのネットワークに関連していたという構想が導かれた。これにより、TNF-αが関節リウマチにおいて非常に重要であるという考えが導かれた。これは、コラーゲン誘導性の関節炎の動物モデルにおいて成功裏に試験され、これらの研究により、長期の関節リウマチ患者における抗TNF-α療法の臨床試験の正当性が得られた。キメラ抗TNF-α抗体を用いたいくつかの臨床試験は著しい臨床利点を示し、これにより、TNF-αが関節リウマチにおいて非常に重要であるという構想が確認された。また、再治療臨床研究は繰り返す再発に有用であることを示し、疾患がTNF-αに依存性であることが示唆された(M. Feldmann, Annual Rev. Immunol., 14:397-440, 1996.)。
【0090】
血管障害。 TNF-αは、内皮細胞の性質を変え、組織因子凝血原活性の増加や抗凝血物質プロテインC経路の抑制の産生、並びにトロンボモジュリンの発現の下方制御といった様々な凝血原活性を有する(Sherry et al., Jour. Cell. Biol., 107:1269-1277, 1988)。TNF-αは、早期(外傷又は損傷現象の初期の間)に産生されると共に、限定するものではないが心筋梗塞、脳卒中及び循環系ショックなどのいくつかの重要な疾患の組織損傷に対する応答のメディエーターとなる活性を有する。内皮細胞上の細胞間接着分子(ICAM)又は内皮性白血球接着分子といった接着分子のTNFαによる発現誘導も重要である(Munro et al., Am. Jour. Path., 135:121-132, 1989)。
【0091】
心臓疾患。 現在のところ心不全の最も有力な原因物質はノルアドレナリン、アンギオテンシン、バソプレッシン、エンドセリン及び腫瘍壊死因子(TNF-α)であるという所見が示されている(N.E. J. Med., 323:236-241, 1990)。慢性炎症性疾患、感染、癌及び他の疾患においてカヘキシーを起こすTNF-αの濃度が、重度の心不全を有する患者、特に心臓カヘキシーなどの疾患のより重篤な徴候を有する患者において、上昇していることが報告された。
【0092】
移植片対宿主病。 移植片対宿主反応において、血清TNF-αレベルの増加は、急性同種間骨髄移植後の主な合併症と関係していた(Holler et al., Blood, 75:1011-1016, 1990)。
【0093】
対象の抗体は、抗体が無い場合のコントロールと比較して、動物モデルの疾患又は状態の症状を、少なくともおよそ10%、少なくともおよそ20%、少なくともおよそ25%、少なくともおよそ30%、少なくともおよそ35%、少なくともおよそ40%、少なくともおよそ45%、少なくともおよそ50%、少なくともおよそ55%、少なくともおよそ60%、少なくともおよそ65%、少なくともおよそ70%、少なくともおよそ80%、少なくともおよそ90%又はそれ以上調節する、すなわち、低減又は増加させる。通常は、対象の抗体は、対象の動物を、疾患又は状態に罹患していない同等動物と同程度にするであろう。本発明の方法及び組成物を使用して識別された治療的価値を有するモノクローナル抗体は、「治療的」抗体と称する。
【0094】
キット
また、対象の発明によって、上記のような対象の方法を実施するためのキットが提供される。対象のキットは、対象の抗体、それをコードする核酸、又はそれを含む細胞のうち一又は複数を少なくとも具備する。対象の抗体はヒト化されていてもよい。キットのその他の任意の構成要素には、抗体を投与するため又はTNFα活性アッセイを実施するためのバッファなどが含まれる。また、キットの核酸は、抗体核酸とのライゲーションを容易にするための制限酵素部位、マルチクローニング部位、プライマー部位などを含んでもよい。キットの種々の構成要素は別々の容器内に存在してもよく、又は適合性のある特定の構成要素を必要に応じて単一の容器内にあらかじめ合わせておいてもよい。
【0095】
上述した構成要素に加えて、対象のキットは典型的には、対象の方法を実施するためにキットの構成要素を用いるための説明書をさらに具備する。対象の方法を実施するための説明書は一般に、適した記録媒体上に記録される。例えば、説明書が紙又は合成樹脂などの基体上に印刷されていてもよい。よって、説明書は、添付文書として、キット又はその構成要素の容器(すなわち、パッケージ又はサブパッケージに添付される)のラベル中などに存在してもよい。別の実施態様では、説明書が、適したコンピュータ可読式保存媒体、例えば、CD−ROM、ディスケットなどに存在する電子保存データファイルとして存在する。さらに他の実施態様では、実際の説明書がキット中に存在せず、遠隔的な供給源から、例えばインターネットを介して説明書を得るための手段が提供される。この実施態様の一例は、説明書を閲覧すること、及び/又は説明書をダウンロードすることが可能なウェブアドレスを含むキットである。説明書の場合と同様に、説明書を入手するためのこの手段は、適した基体上に記録される。
【0096】
また、本発明によって、先に考察したプログラム及び説明書を含むコンピュータ可読式媒体を少なくとも具備するキットが提供される。説明書はインストール又はセットアップの指示を含んでもよい。説明書が、上記のような選択肢又は選択肢の組み合わせとともに本発明を用いるための指示を含んでもよい。ある実施態様では、説明書は両方のタイプの情報を含む。
【0097】
ソフトウエア及び説明書をキットとして提供することは、数多くの目的に役立つ。その組み合わせは、親抗体又はそのヌクレオチド配列よりも宿主において免疫原性が低い抗体を産生するための手段としてパッケージ化し、購入することもできる。
【0098】
説明書は一般に、適した記録媒体上に記録される。例えば、説明書が紙又は合成樹脂などの基体上に印刷されていてもよい。よって、説明書は、添付文書として、キット又はその構成要素の容器(すなわち、パッケージ又はサブパッケージに添付される)のラベル中などに存在してもよい。別の実施態様では、説明書は、プログラムが供給されるものと同じ媒体を含む、適したコンピュータ可読式保存媒体、例えば、CD−ROM、ディスケットなどに存在する電子保存データファイルとして存在する。
【実施例】
【0099】
7〜8週齢の雄のヒトTNFαトランスジェニックマウス(関節リウマチ、RAを有する)はタコニックから購入し、6〜7週齢の雄の正常マウスは中国医科大学動物センターから入手した。トランスジェニックマウスを3つのグループに分け、3つの群のマウスをそれぞれ、無処置(5匹のマウス)、アボット研究室のHumira(7匹のマウス)又はHZD RabMAb(7匹のマウス)にて処置した。HZD-M RAbMAbは、HEK293-6E細胞中で配列番号:9及び10(図4)をコードするcDNAを一時的に発現させることによって製造し、プロテインAカラムにて精製した。
【0100】
マウスに、6週間、週に3回(月曜日、水曜日及び金曜日)、Humira(1mg/kg)、HZD-M RabMAb(1mg/kg)又はPBS(無処理及び正常群)を腹膜内に注射した。処置前の1週間から処置完了後1週間、毎週、体重と関節炎スコアを記録した。既に記載したように、関節炎は、半定量的な関節炎スコアを用いて盲検様式で足首関節において評価した。
【0101】
結果は図2A、2B及び3に示す。スコアは0〜3である。0=関節炎なし(正常外観及び握力);1=軽度の関節炎(関節腫脹);2=中程度の関節炎(重度関節腫脹及び指変形、握力なし);そして、3=重度関節炎(屈曲及び重度の運動障害に検出される強直)。
すべてのマウスは処置完了の1週間後に屠殺し、足首関節を組織学のために取り除いた。足首関節は、10%の緩衝ホルマリンにて終夜固定し、30%蟻酸にて4日間脱灰し、パラフィン包埋した。切片はヘマトキシリン‐エオジンにて染色し、組織病理スコアは以下の通りにスコア化システムを用いた盲検様式で顕微鏡によって評価した(Douni et al Attenuation of inflammatory polyarthritis in TNF transenic mice by Diacerein comparative analysis with dexamethasone methotrexate and anti-TNF protocol 2004 Arthritis Res Ther 6 (1) R65-R72;Wooley P. H. (1988) Collagen-induced arthritis in the mouse. Methods Enzymol. 162 361-373)。0=検出可能な病変なし;1=滑膜の過形成及び多形核白血球浸潤の存在;2=パンヌス及び線維組織形成及び局所性軟骨下骨浸食;3=関節軟骨破壊及び骨浸食;そして、4=多大な関節(caticular)軟骨破壊及び骨浸食;そして、4=多大な関節軟骨破壊及び骨浸食。
【0102】
他のTNF-α-中和抗体であるHZD−M−Ntermを構築した。この抗体は、ヒトのリーダー配列を用いて製造し、N末端のアミノ酸への変化を除き、配列番号:1及び2の可変ドメインを含んでいた。HZD−M−Nterm抗体の重鎖可変ドメインは、HZD-Mに見られる「QQ」ではなく、N末端にアミノ酸配列「QVQ」を含有する。HZD−M−Nterm抗体の軽鎖可変ドメインは、HZD-Mに見られる「AYQ」ではなく、N末端にアミノ酸配列「DIQ」を含有する。場合によって、抗体は、HZD−M−Ntermの可変ドメインと同一である可変ドメインを有してもよい。
【0103】
対象の発明が重要な新規なTNF-α中和抗体を提供することは、上記説明から明白である。したがって、本発明は技術に対する有意な貢献を表す。
【0104】
本発明を、その具体的な実施態様を参照しながら説明してきたが、当業者には、本発明の真の精神及び範囲を逸脱することなく、さまざまな変更を加えうること、及び等価物を代わりに用いうることが理解されるものと考えられる。さらに、特定の状況、材料、物質組成、工程、工程の一又は複数の段階を本発明の目的、精神及び範囲に適合させるために、多くの変更を加えることも可能である。このような変更はすべて本明細書に添付される請求の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号:1のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、
b)配列番号:2のアミノ酸配列に少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン
とを含んでなり、TNFαを結合する抗体。
【請求項2】
前記抗体が一価抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体が二価抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体が単鎖抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体が一本の抗原結合アームとFc領域を含んでなる、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体がヒト化されている、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
抗体が薬剤とコンジュゲートしている、請求項1に記載の抗体。
【請求項9】
前記重鎖可変ドメインが図1に示すCDR領域と同一であるCDR領域を含み、前記軽鎖可変ドメインが図1に示すCDR領域と同一であるCDR領域を含んでいる、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体が、最大4つのアミノ酸置換を除き、図1に示す抗体のCDRと同一であるCDRを含んでなる、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
TNFのそのレセプターへの結合の遮断方法であって、被検体に請求項1に記載の抗体を投与することを含み、このとき該抗体が該被検体においてTNFに結合し、該レセプターのTNFへの結合を遮断する方法。
【請求項12】
前記被検体がヒトである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の抗体と薬学的に許容可能な担体とを含有してなる薬学的組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−519836(P2011−519836A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506403(P2011−506403)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/041302
【国際公開番号】WO2009/132037
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(506043158)エピトミクス インコーポレーティッド (5)
【Fターム(参考)】