説明

抜き型用の弾性部材の製造方法および加工装置

【課題】 加工性に優れ、廃液等の問題がないレーザー加工により、煤の発生なく抜き型用の弾性部材を加工することが可能な弾性部材の製造方法およびこの加工装置を提供する。
【解決手段】 弾性部材加工装置1は、おもにレーザー発振装置3と、レーザーを弾性体素材15に照射するユニットである加工ヘッド5、ノズル7等から構成される。加工ヘッド5は内部に反射板9が設けられる。反射板9はレーザー光を集光レンズ11方向に反射させる部位である。加工ヘッド5内には、反射板9からのレーザー光を絞る集光レンズ11が設けられる。集光レンズ11は、所定の集光距離で焦点を絞ることが可能である。集光レンズ11の下方には、外部よりエアを導入可能なエア供給口が設けられる。エアは、コンプレッサにより供給される。コンプレッサの能力は、エア圧力が0.7MPa以上、流量210L/分以上を発生可能であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梱包用の紙材や段ボール材の抜き型に用いられる弾性部材の製造方法およびこの加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙材などを打ち抜き加工する際には、抜き型が用いられる。図6は、従来使用されている抜き型31の模式図である。抜き型31には、刃37および弾性部材39が設けられる。
【0003】
図6(a)に示すように、厚紙や段ボールなどのワーク35は、受け部33上に配置されており、ワーク35の切断個所には刃37が設けられる。刃37の周囲にはさらに弾性部材39が設けられる。通常時、弾性部材39の厚みは、刃37の抜き型31表面からの突出代よりも厚い。このため、通常時は、刃37が弾性部材39に埋没している。
【0004】
次に、図6(b)に示すように、抜き型31をワーク35側に下降させる(図中矢印P方向)。抜き型31の下降に伴い、弾性部材39がワーク35に押し付けられて変形する。弾性部材39がつぶれるため、弾性部材39から刃37が突出し、ワーク35が切断される。
【0005】
次に、抜き型31を上方に上昇させ(図中矢印Q方向)、刃37をワーク35から抜き取る。この際、弾性部材39は元の形状に戻ろうとする。したがって、弾性部材39によってワーク35は下方に押し戻される。したがって、刃37がワーク35より抜き取られる。下降されたワーク35は後工程に移動する。弾性部材39を用いることで、ワーク35から刃37が確実に抜き取られる。このため、ワーク35が刃37に突き刺さった状態で持ち上げられることによる後工程へのワーク35の移動が妨げられることがない。
【0006】
このような弾性部材39は、抜き型31毎に製造され、抜き型31に貼り付けられる。ところで、弾性部材39はゴム等の樹脂製であるため、素材より必要形状の弾性部材39を切断加工する際には、ウォータージェットなどが利用されている。弾性部材39をカッティングマシン等により機械的に切断すると、コーナー部の切断等が困難であり、精度が悪くなるためである。
【0007】
また、樹脂をレーザー加工すると、切断面に煤が発生する。このため、図6に示す工程において、ワーク35に煤が落下し、ワーク35の表面を汚す。ワーク35への煤の落下は、その後の印刷工程等にも悪影響を及ぼすため、煤が付着した弾性部材を使用することはできない。このため、弾性部材39は、切断精度や品質の問題から、ウォータージェットによる切断が一般的である。
【0008】
しかし、近年、環境問題が注目されており、ウォータージェットによる切断により発生する廃液処理等が問題となっている。また、ウォータージェットは装置自体が非常に高価である。さらに、ウォータージェットによれば、弾性部材を煤が発生することなく切断可能ではあるが、すべり止め等の特殊な表面加工を施した弾性部材を加工するためには、あらかじめ表面に凹凸加工が施された特殊な素材を使用する必要がある。このような特殊な素材はコストが高く、特殊な用途にのみに利用され、一般的に多くは使用されてこなかった。これは、ウォータージェットにより、弾性部材の表面に細かな凹凸加工を施すことが困難であったためである。
【0009】
このような問題を踏まえ、煤の発生がなく、ウォータージェットに替わる、より効率的な加工方法が望まれている(レーザー加工については、例えば特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−141070号公報
【特許文献2】特開2006−7280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1、特許文献2に記載のレーザー加工は、切断時に発生する煤については考慮されていない。そもそも、レーザーによって樹脂を煤の発生なく切断することは、従来、不可能とされてきたものであり、本発明のように、抜き型用の弾性部材としては、煤が問題となることから、レーザーにより加工された例はこれまでに報告がない。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、加工性に優れ、廃液等の問題がないレーザー加工により、煤の発生なく抜き型用の弾性部材を加工することが可能な弾性部材の製造方法およびこの加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、レーザー発振装置によりレーザー光を発振し、集光レンズにより前記レーザー光の焦点を絞り、前記レーザー光をノズルを介して弾性体に照射しつつ、前記レーザー光の照射方向に向けて前記ノズルを通じてエアを噴射することにより、前記弾性体を所定形状に切断する抜き型用の弾性部材の製造方法であって、前記エアの圧力が0.7MPa以上であり、かつ、前記ノズルからの前記エアの流量が210L/分以上であることを特徴とする抜き型用の弾性部材の製造方法である。
【0014】
前記集光レンズの焦点距離が1.5インチ〜2.5インチであり、前記レーザー光の前記弾性体への照射ビーム径が、0.10mm〜0.14mmであることが望ましい。
【0015】
エアの噴射部の上方に整流板が設けられ、前記整流板の下面には、外周に向かうにつれて上方に傾斜するテーパ部が形成されることが望ましい。
【0016】
前記レーザー光および前記エアによって、前記弾性体を切断するとともに、前記弾性体の表面に凹凸加工を施してもよい。
【0017】
前記レーザー発振装置の出力が、18W〜28.5Wであることが望ましい。また、前記弾性体はスポンジゴムであってもよい。
【0018】
第1の発明によれば、エア圧およびエア流量を、従来使用される条件よりも極めて大きく増加させ、適切な条件とすることで、樹脂製の弾性部材を煤が発生することがなく加工することができる。また、廃液処理等の問題もない。
【0019】
また、集光レンズの焦点距離および照射ビーム径を従来のレーザー加工条件よりも小さくすることで、弾性部材の切断面の形状を適切に維持して弾性部材の加工を行うことができる。
【0020】
また、ノズルからのエアーを整流するため、噴射したエアや塵が機器等に付着したり、加工空間に乱流を起こすことがなく、上方または下方に設けられたエア吸引部にスムーズにエア等を流すことができる。
【0021】
また、レーザーによって、切断のみならず弾性部材の表面加工が可能であるため、特殊な素材を使用しなくとも、表面にスリップ防止の凹凸形状を有する弾性部材を得ることができる。このため、一つの素材から任意の表面性状を有する弾性部材を一の製造工程で製造することができる。
【0022】
また、レーザー発振装置の出力を適正とすることで、より確実に煤の発生を抑え、安定した製造を行うことができる。
【0023】
また、弾性部材がスポンジゴムであれば、従来より使用されている弾性部材と同材質のものをレーザー加工によって製造でき、かつ、煤が弾性部材に付着することがない。
【0024】
第2の発明は、抜き型用の弾性部材の加工装置であって、レーザー光を発するレーザー発振装置と、前記レーザー光を集光する集光レンズが内部に取り付けられるヘッドと、前記ヘッドの先端に設けられ、内部にエアを供給可能なノズルと、前記エアの圧力が0.7MPa以上であり、かつ、前記エアの流量が210L/分以上となるコンプレッサと、エアの噴射部の上方に設けられ下面にテーパ部を有する整流板と、を具備し、前記ノズルの先端から前記レーザー光の照射方向に向けて前記エアを噴射することが可能であることを特徴とする抜き型用の弾性部材の加工装置である。
【0025】
第2の発明によれば、煤が付着することなく、樹脂製の弾性部材をレーザーによって加工することができる。また、一つの装置によって弾性部材の切断と表面加工の両方を行うことが可能である。また、ノズルからのエアを整流するため、噴射したエアや塵が機器等に付着したり、加工空間に乱流を起こすことがない。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、加工性に優れ、廃液等の問題がないレーザー加工により、煤の発生なく抜き型用の弾性部材を加工することが可能な弾性部材の製造方法およびこの加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】弾性部材加工装置1の構成を示す模式図。
【図2】集光レンズ11を保持するレンズホルダ17a、17bを示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のF−F線断面図。
【図3】整流板24aを示す図。
【図4】弾性部材23を示す図。
【図5】弾性素材15の切断面を示す図で、(a)は切断面がまっすぐに切断された状態を示す図、(b)は切断面がタイコ状に切断された状態を示す図、(c)は切断面が逆タイコ状に切断された状態を示す図、(d)は切断面に煤29が付着した状態を示す図。
【図6】抜き型31に弾性部材39が設けられ、抜き型31によってワーク35を切断する工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態について説明する。前述の通り、通常のレーザー加工により弾性部材を製造すると、煤の発生が避けられない。また、ウォータージェットでは廃液の問題等があり、機械的なカッティングマシン等では、加工精度やコーナー部の加工等に問題が生じる。このため、煤が発生せず、廃液等が発生せず、加工精度や加工能率等に優れる加工方法を見出す必要がある。
【0029】
本発明者らは、鋭意努力し、上記の課題を達成すべく、製造方法および製造条件等を様々な観点から検討を重ねた結果、以下についての知見を得た。すなわち、レーザー加工による方法であっても、従来のエア圧およびエア量を大幅に増大させることで、煤の発生が抑えられることを見出した。
【0030】
すなわち、従来のレーザー加工では、レーザー光により対象物を切断し、これに付随して冷却用のエア等が使用されてきたが、レーザー光により樹脂等を切断すると、切断部周囲に炭化層が形成され、その結果、煤が発生する。これに対し、微細なレーザー光によりわずかな切れ込みを対象物に入れつつ、大量のエアを対象物へ噴射することで、レーザー光による切り込みがエアにより広げられつつ切断が進行するため、煤の発生が抑えられることを見出した。
【0031】
以下、本発明の実施の形態にかかる弾性部材加工装置1について詳細を説明する。図1は、本発明にかかる弾性部材加工装置1を示す模式図である。
【0032】
弾性部材加工装置1は、主にレーザー発振装置3と、レーザー光を弾性体素材15に照射するユニットである加工ヘッド5、ノズル7等から構成される。レーザー発振装置3はレーザー光の発振装置であり、例えば炭酸ガスレーザー発振器が使用できる。
【0033】
なお、レーザー発振器の能力が強すぎると、レーザー光の照射径を絞ることが困難となり、煤が発生しやすくなる。したがって、レーザー発振器の容量としては、30W以下であることが望ましく、特に望ましい加工出力範囲は18〜28.5Wである。レーザー光が強すぎると樹脂に切り込みを入れる際に炭化層が厚くなるため煤の発生のおそれがあり、弱すぎると、表面に切り込みを入れることができなくなるためである。
【0034】
加工ヘッド5は内部に反射板9が設けられる。反射板9はレーザー光を集光レンズ11方向に反射させる部位である。加工ヘッド5内には、反射板9からのレーザー光を絞る集光レンズ11が設けられる。集光レンズ11は、所定の集光距離で焦点を絞ることが可能である。すなわち、反射レンズ9より反射したレーザー光は、集光レンズ11に入射し、集光レンズ11の焦点距離分だけ下方の位置で最も焦点が絞られる。なお、この焦点距離におけるレーザー光の照射径をビーム径(またはビームモード)と称する。
【0035】
ここで、集光レンズ11の焦点距離は、1.5〜2.5インチであることが望ましい。集光レンズ11の焦点距離が短くなりすぎると、切断部がタイコ状となる。また、焦点距離を長くしすぎると切断部が逆タイコ状となるためである。切断部の形状については後述する。
【0036】
集光レンズ11の下方には、外部よりエアを導入可能なエア供給口がノズル方向に向けて斜めに設けられる。エアは、コンプレッサにより供給される。コンプレッサの能力は、エア圧力が0.7MPa以上、ノズルからの流量210L/分以上を発生可能であることが望ましく、さらに好ましくは、エア圧力0.75MPa以上、エア流量250L/分以上であることが望ましい。コンプレッサとしては、たとえば、2.2kWクラス以上のコンプレッサを用いればよい。なお、エアに代えて不活性ガス等を用いることもできる。
【0037】
加工ヘッド5の下方は筒状のノズル7が接続される。ノズル7の先端には孔が設けられる。ノズル7は、加工対象物の加工部位にレーザー光およびエアを噴射する部位である。なお、加工ヘッド5およびノズル7は図示を省略したモータ等により加工対象である弾性体素材15上をX、Y、Z方向にそれぞれ移動可能である。ノズル7の外周には、整流板24aが設けられる。整流板24aについては後述する。
【0038】
次に、弾性部材加工装置1の動作について説明する。まず、レーザー発振装置3は反射板9に対してレーザー光を発振する(図中矢印A方向)。反射板9に照射されたレーザー光は、反射板9で反射し、加工ヘッド5内の集光レンズ11に照射される(図中矢印B方向)。集光レンズ11で集光されたレーザー光は、ノズル7内を通過して、ノズル7の先端より下方の弾性体素材15に照射される(図中矢印C方向)。
【0039】
一方、エアは、エア供給口13より加工ヘッド5内に導入される(図中矢印D方向)。エアは、ノズル7の孔を通してレーザー光とともに下方に噴射される(図中矢印E方向)。ノズル7の下方は、隙間をあけて加工対象である弾性体素材15が配置されている。したがって、弾性体素材15の加工対象部位にレーザー光およびエアが照射・噴射される。
【0040】
ここで、集光レンズ11から加工対象である弾性体素材15表面までの距離Lは、前述の集光レンズ11に応じた焦点距離となる。たとえば、焦点距離が2インチの集光レンズ11を用いれば、Lは2インチとなる。焦点距離を変更する場合には、集光レンズとともにノズル7を交換する。すなわち、ノズル7の長さMは、集光レンズ11の焦点距離に応じて設定される。
【0041】
なお、ノズル7の先端から弾性体素材15までの距離は、0.5〜0.7mm程度が望ましい。ノズル7の先端と弾性体素材15との接触を防止するとともに、供給されるエアを効率良く弾性体素材15に噴射するためである。また、ノズル先端の孔径は、例えば3.5〜4.5mm程度である。ノズル先端の孔径が小さすぎると、流量損失が大きくなり、エア圧は増大するが煤の発生を抑制することができない。例えばノズル先端径を1mmとすると、エア圧は1.0MPaを確保できるが、エア流量が4.2mm径のノズルに対して、1/3以下になるため、エア流量が不足する。また、ノズル先端の孔径を大きくしすぎると(例えば4.5mm以上)エアが弾性体素材の切断部に集中されず、エアによる切断効率が悪くなるためである。
【0042】
次に、集光レンズ11の取り付け方法について説明する。図2は、集光レンズ11とこれを保持するレンズホルダ17a、17bを示す図であり、図2(a)は平面図、図2(b)は図2(a)のF−F線断面図である。
【0043】
集光レンズ11は、加工ヘッド5内に設けられたレンズホルダ17a、17bによって保持される。レンズホルダ17aは中央に孔が設けられた矩形の板状部材である。板状部材の孔に対して、一対の爪23が形成される。爪23は、レンズホルダ17aの孔の両側方より孔側に突出しており、突出された部分の先端が、略垂直に折曲げられている。レンズホルダ17bは、中央に集光レンズ11と略同一の径の孔を有し、下方に集光レンズ11の脱落を防止する保持部23bを有する。保持部23bはレンズホルダ17bの孔側に突出した部位である。
【0044】
集光レンズ11は、爪23aおよび保持部23bにより上下方向より保持される。レンズホルダ17a、17bには雌ねじ加工が施されており、上下の板状部材はボルト19およびワッシャ21により固定される。すなわち、集光レンズ11は、レンズホルダ17a、17bの孔部に収められ、上下それぞれの爪23aおよび保持部23bによって保持され、レンズホルダ17a、17bによりボルト19等で挟みこまれて固定される。
【0045】
なお、大きな圧力のエアが加工ヘッド5内に供給されるため、ボルト19の緩み止めとして、ボルト19とレンズホルダ17a、17bの雌ねじ部との螺合部には、緩み止め剤が塗布されることが望ましい。また、集光レンズ11の取付部の周囲にはウレタンゴム等でシールがなされており、エア供給口13(図1)から流入したエアが、集光レンズ11の上方にリークすることがない。
【0046】
次に、ノズル7先端近傍の構造について説明する。図3(a)は、ノズル7に整流板24aを設けた状態を示す図である。ノズル7先端のエア噴射部の上方には、整流板24aが設けられる。整流板24aは、ノズル7上にフランジ状に設けられる板状部材である。整流板24aは、外周に行くにつれて厚みが薄くなっており、整流板24a下面には、上方に向かって傾斜するテーパ部26が形成される。
【0047】
本発明の加工方法では、極めて大きな容量のエアを吹き付ける。このため、噴射されたエアが弾性体素材15と衝突し、上方に巻きあげられる。本発明の整流板24aを用いれば、弾性体素材15と衝突して上方に舞い上げられたエアが、スムーズに周囲に逃がされる(図中矢印G方向)。このため、加工部で発生した塵が、機器等に侵入し、集光レンズ等を汚染することがなく、また、加工空間に塵が舞うことがない。なお、機器上方および弾性体素材下方には、ブロアと接続されたエア吸引部が設けられ、噴射されたエアおよび塵等は、エア吸引部より吸引される。整流板24aによれば、エアの流れが整流されるため、この吸引の効果も高まる。
【0048】
これに対し、図3(b)に示す用意、整流板24aを用いなければ、弾性体素材15と衝突し、上方に巻きあげられたエアや塵が機器へ浸入・付着等する(図中矢印H方向)ため望ましくない。
【0049】
また、テーパ部を設けないフラットな整流板24bでは、大容量のエアが整流板24bと衝突すると、下方へエアが舞い戻り(図中矢印J方向)、加工空間に乱流を発生させ、周囲の埃を舞い上げるため望ましくない。なお、整流板24aとしては、例えば、外径30〜40mm程度とし、外周厚みを1mm、ノズル7との接触部厚みを5mm程度とすればよい。
【0050】
次に、弾性部材加工装置1により加工された弾性部材30について説明する。図4は、弾性部材30を示す図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は斜視図である。弾性部材30は、弾性体素材15から弾性部材加工装置1により加工される。弾性部材30の側面が切断面25となる。また、弾性部材30の上表面である部材表面27には必要に応じて凹凸加工が施される。凹凸加工は、抜き型に用いられた際に、ワークとのスリップを防止するためのものである。なお、凹凸としては深さ10〜20μm程度で良い。
【0051】
弾性部材加工装置1によれば、弾性体素材15の切断と部材表面27の表面加工を、同一の装置で、かつ同一工程で行うことができる。すなわち、切断面25は加工ヘッド等の送り速度(加工速度)を落とすことで、弾性部材15を切断するとともに、部材表面27は送り速度を速めることで表面のみの加工を施すことができる。いずれの加工の際にも煤の発生はない。
【0052】
なお、弾性体素材15としては、例えばスチレンブタジエンゴムなどのスポンジゴムが使用できる。レーザーによって毒性のガスが発生する塩素系等でなければ、いずれの材質でも良い。
【0053】
次に、弾性体素材15の切断面25について詳細を説明する。図5は、切断面25の形態を示す図である。
【0054】
図5(a)に示すように、最も望ましい切断面25は、弾性体素材15の表面に対して略垂直な切断面であり、切断面15の表面に煤等が発生していない形態である。本発明にかかる弾性部材製造装置1によれば、図5(a)に示すような切断面25を得ることができる。
【0055】
一方、図5(b)は切断面25がタイコ状となったものである。これは、主にレーザー光の焦点距離が短すぎる際に生じる形態である。同様に、図5(c)は切断面25が逆タイコ状の形態を示す図である。逆タイコ状の切断面は、レーザー光の焦点距離が長すぎると生じやすい。なお、製品に応じて、切断面の形状に特に規制がなければ、図5(b)、図5(c)のものも使用可能である。
【0056】
図5(d)は、切断面25に煤が発生した状態を示す図である。切断面25に煤が発生すると、当該部材は、もはや抜き型等に用いることができない。本願発明の弾性部材加工装置1によれば、このような煤の発生を抑えることができる。
【実施例】
【0057】
各種条件のもとで弾性部材を加工し、その際の煤の発生等について調査した。使用したレーザー発振器は30Wの容量のものを用い、加工出力を28.5W以下で調整した。また、加工対象の弾性体素材は、スチレンーブタジエンスポンジゴムを用いた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
集光レンズの焦点距離は1.0〜4.0インチのものを用いた。ノズル長は、ノズル先端と加工対象物までの隙間が0.5〜0.7mmとなるように焦点距離に応じて長さを調整した。エア圧およびノズルからのエア流量は、従来30Wクラスのレーザー発振器に標準的に使用される0.3MPa、30L/分のもの(試験No.11)と、0.6MPa〜1.0MPa、160L/分〜320L/分について評価した。ビームモードとは、加工対象物に照射されるビーム径であり、0.10mm〜0.15mmの範囲で評価した。コンプレッサは2.2kwのものを用い、コンプレッサと加工機との間には、レギュレータを介してホースで接続した。ホースは、レギュレータから2m程度であり、外径6mm、内径4mmのものを用いた。なお、エア圧は、レギュレータにより各圧力に調整した。また、エア流量は、各種条件におけるノズル先端からのエア流量である。
【0060】
切断形状とは、切断面の形状が、完全にタイコ状または逆タイコ状となった物をXとして、わずかにタイコ状または逆タイコ状であるものを△、略垂直な切断面のものを○とした。煤の発生は、目視で煤の発生が明らかに確認されたものを×とし、わずかに見られたが使用可能な程度のものを△、煤が見られなかったものを○として評価した。
【0061】
表1から分かるように、従来のエア圧、エア流量である試験No.11は、完全に煤が発生した。また、エア圧を約倍にして、エア流量を5倍超とした試験No.6においても煤が発生した。
【0062】
一方、従来条件よりもエア圧およびエア流量を増大させた試験No.6に対して、エア圧およびエア流量のみを更に増加させた試験No.7は、煤の発生がかなり抑えられ、さらにエア圧およびエア流量を増加させた試験No.8〜10では煤の発生が見られなかった。すなわち、エア圧で0.7MPa以上、エア流量で210L/分以上で煤の発生が抑えられ、エア圧0.75MPa以上、エア流量230L/分以上であれば、略確実に煤の発生が抑えられた。
【0063】
試験No.4、No.5では、エア圧が0.8MPa、エア流量が250L/分であるにも拘らず、煤の発生がわずかにみられた。これは、集光レンズの焦点距離を伸ばしたことで、ビームモードが大きくなったためである。ビームモード(照射ビーム径)が大きくなると、切断面の炭化層の厚みが厚くなり、煤が発生しやすくなる。
【0064】
なお、結果を省略するが、50W以上の容量のレーザー発振装置を用い、加工出力を同様に28.5W以下に絞った場合では、エア圧等を増加させても煤の発生がみられた。容量の大きなレーザー発振器によるレーザー光は、集光レンズによってもビーム径を絞りきることができず、ビーム径が大きく(0.15mm以上)なるためである。したがって、煤の発生を抑えるためには、ビーム径を0.14mm以下とすることが望ましく、さらに望ましくは0.13mm以下である。このためには、レーザー発振器の容量自体を小さくすることが望ましく、例えば30W以下の容量のレーザー発振器を用い、焦点距離を適正化すれば、この条件を満たすことができる。
【0065】
同様に、切断形状の結果についてみると、集光レンズの焦点距離が1インチの試験No.1では、切断形状がタイコ状となった。焦点距離が1.5インチの試験No.2では、タイコ形状はほぼ解消され、焦点距離が2インチの試験No.3ではほぼ垂直な切断面が得られた。
【0066】
一方、焦点距離が2.5インチの試験No.4では、やや逆タイコ状の切断面となり、焦点距離が3インチの試験No.5では、完全な逆タイコ状断面となった。以上により、焦点距離は、1.5〜2.5インチが望ましく、特に2インチ前後の焦点距離が最も切断形状に優れた。
【0067】
なお、結果を省略するが、30Wのレーザー発振器を用い、焦点距離2インチ(ビーム径0.13mm)、エア圧を0.8〜0.9MPa、エア流量を250〜280L/分の条件で、各種材料の切断を行ったところ、いずれの切断面にも煤は見られなかった。
【0068】
たとえば、硬度20〜硬度40、厚み7〜12mmのスチレンーブタジエンスポンジゴムは、硬度および厚み等に応じて加工出力を21〜28.5Wの範囲で調整し、適切な加工速度を選定すれば煤の発生がなく加工が可能であった。また、硬度35〜70、厚み7mmの独立発泡構造のポリウレタンスポンジゴム(商品名バルコラン)に対しても、加工出力18〜21Wにより煤の発生がなく加工が可能であった。なお、上述の硬度は、JIS K6253に準じたものである。
【0069】
以上説明したように、本発明によれば、廃液処理等の心配がなく、加工精度および加工効率に優れた弾性部材の加工方法を提供することができる。
【0070】
特に、エア圧およびエア流量を従来の冷却等に用いられていた方法に対して、数倍に増加させたため、煤の発生がない。ここで、従来、コンプレッサの容量はできるだけ小さいものが使用されていた。これは、必要以上の大きさのコンプレッサの使用は、ランニングコストの増加や装置の巨大化を招き、また騒音の増加や機器の強度不足、弾性体素材等のずれなどの恐れがあるためである。従来レーザー加工に使用されるエアは、加工部位の冷却や細かなごみを飛ばす程度で良く、30W程度のレーザー加工機では、標準的に0.3MPa、30L/分程度であった。
【0071】
本発明では、エア圧およびエア量を、加工部の冷却等のみではなく、直接切断に寄与できる程度に増大させたため、レーザーによる切り込みとエアー(およびレーザー)による切断の効果で、煤の発生を極限まで抑えることが可能である。このため、従来よりもエア圧で2倍以上、エア流量で7倍以上という極めて大容量のエアの供給が必要となる。
【0072】
また、レーザー発振器の容量を30W以下としたため、焦点距離にもよるが、ビームモードを0.14mm以下とすることができる。30Wを超えるレーザー発振器では、通常の集光レンズの使用ではビーム径が0.15mm以上となるためである。これに対し、30W以下のレーザー発振器を用いた場合、集光レンズの焦点距離を2.5インチ以下とすることで、ビーム径を0.14mm以下と小さくすることができる。ビーム径をより小さくすることで、炭化層の生成厚さを抑えることができる。したがって、煤の発生がより抑えられる。
【0073】
また、このような大容量のエアに対しても、下面にテーパ部26を有する整流板24aが設けられるため、エアの流れが整流され、加工空間での塵等の舞い上げや、塵等の機器への付着等が抑えられ、効率良く噴射エアを吸引することができる。
【0074】
すなわち、本発明は、従来全く検討もされていなかった、30W以下の小容量のレーザー発振器と、エア圧0.7MPa以上、エア流量210L/分以上という極めて大容量のエア供給とを組み合わせ、種々の条件を満たすことで、抜き型用の弾性部材の加工を、煤を発生させることなくレーザー加工機を用いて可能としたものである。本発明におけるエア条件は、従来の単なる冷却等のエアブローではなく、レーザーによる微細な切り込みを押し広げながら切断を進行させるために必須の構成である。すなわち、本発明における切断は、単なるレーザー加工のように、素材の局部を深さ方向に完全に溶融させながら切断するものとは切断の進行原理が全く異なるものである。
【0075】
本発明は、従来のレーザー加工機の加工条件を適宜設定したものではなく、発明者が20年以上に及ぶ試行錯誤の結果得られた知見に基づいたものである。先にも述べたが、レーザー加工の分野においては、ゴムをレーザー加工機で加工すると煤が出ることが常識化しており、ゴムをレーザー加工しようとすることは常識に反するものであった。発明者は、この常識に対して疑いを持ち、20年もの間試行錯誤を重ねた結果、レーザー加工機により煤を発生することなくゴムを切断することに成功した。
【0076】
用途発明では、すでに物質自体は公知であっても、新たな用途が見つかれば特許される。本発明も、それと同様である。すなわち、レーザー加工機自体は公知のものであるが、レーザー加工の諸条件を20年以上にわたり試行錯誤を重ねた結果、煤を発生することなく、ゴムを切断することができたものである。
【0077】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0078】
1………弾性部材加工装置
3………レーザー発振装置
5………加工ヘッド
7………ノズル
9………反射板
11………集光レンズ
13………エア供給口
15………弾性体素材
17a、17b………レンズホルダ
19………ボルト
21………ワッシャ
23a………爪
23b………保持部
24a、24b………整流板
25………切断面
26………テーパ部
27………部材表面
29………煤
30………弾性部材
31………抜き型
33………受け型
35………ワーク
37………刃
39………弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発振装置によりレーザー光を発振し、
集光レンズにより前記レーザー光の焦点を絞り、
前記レーザー光をノズルを介して樹脂製の弾性体に照射しつつ、前記レーザー光の照射方向に向けて前記ノズルを通じてエアを噴射することにより、前記弾性体を所定形状に切断する抜き型用の弾性部材の製造方法であって、
前記エアの圧力が0.7MPa以上であり、かつ、前記ノズルからの前記エアの流量が210L/分以上であることを特徴とする抜き型用の弾性部材の製造方法。
【請求項2】
前記集光レンズの焦点距離が1.5インチ〜2.5インチであり、
前記レーザー光の前記弾性体への照射ビーム径が、0.10mm〜0.14mmであることを特徴とする請求項1記載の抜き型用の弾性部材の製造方法。
【請求項3】
エアの噴射部の上方に整流板が設けられ、前記整流板の下面には、外周に向かうにつれて上方に傾斜するテーパ部が形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の抜き型用の弾性部材の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光および前記エアによって、前記弾性体を切断するとともに、前記弾性体の表面に凹凸加工を施すことを特徴とする請求項1から請求項3いずれかに記載の抜き型用の弾性部材の製造方法。
【請求項5】
前記レーザー発振装置の出力が、18W〜28.5Wであることを特徴とするに請求項1から請求項4のいずれかに記載の抜き型用の弾性部材の製造方法。
【請求項6】
前記弾性体はスポンジゴムであることを特徴とする請求項1から請求項5に記載の抜き型用の弾性部材の製造方法。
【請求項7】
抜き型用の弾性部材の加工装置であって、
レーザー光を発するレーザー発振装置と、
前記レーザー光を集光する集光レンズが内部に取り付けられるヘッドと、
前記ヘッドの先端に設けられ、内部にエアを供給可能なノズルと、
前記エアの圧力が0.7MPa以上であり、かつ、前記エアの流量が210L/分以上となるコンプレッサと、
エアの噴射部の上方に設けられ下面にテーパ部を有する整流板と、
を具備し、
前記ノズルの先端から前記レーザー光の照射方向に向けて前記エアを噴射することが可能であることを特徴とする抜き型用の弾性部材の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−279978(P2010−279978A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136109(P2009−136109)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(509159481)アッツ・ジャパン株式会社 (1)
【出願人】(500454404)コムネット株式会社 (3)
【Fターム(参考)】