説明

抵抗溶接方法および抵抗溶接装置

【課題】極性効果の発生を防ぎ、溶接時間を短縮し、信頼性低下を防ぎ、溶接品質の向上を図る。
【解決手段】スイッチング回路を介して溶接トランスの一次側に正負電圧に交互に変化する一次電圧を印加し、トランスの二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接方法において、1回の溶接に対して、一次電圧の正負及び印加時間によって設定される通電期とその後に続く通電休止期とで溶接相を構成し、複数の溶接相を、通電期および通電休止期ごとにスイッチング回路のスイッチング素子のオン・オフタイミングを個別に設定することによって別々に設定可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スイッチング回路を用いて溶接トランスの一次側に正負電圧に変化する一次電圧を印加し、二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接方法と、この方法の実施に直接使用する抵抗溶接装置とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属同士を加圧しながら熱を加え接合する圧接方法として、抵抗溶接が知られている。この抵抗溶接には、金属同士を重ねて電流を流した時の電気抵抗による発熱を利用する重ね抵抗溶接と、金属同士をつきあわせてこの突き合わせ部分に電流を流し発熱させる突き合わせ抵抗溶接とがある。
【0003】
重ね抵抗溶接には、スポット溶接、シリーズ溶接、シーム溶接などがある。スポット溶接は、重ねた金属を2つの電極間に挟み、金属の厚さ方向に電流を流すものである。シリーズ溶接は平行な一対の電極を重ねた金属の一側面に平行に押圧し、金属の平面方向に電流を流すものである。シーム溶接は、2つの回転電極の間に二枚の金属板を挟み両電極間に断続電流を流し、点溶接が連続した形で溶接するものである。
【0004】
またこれらの溶接に用いる電源としては、商用電源の交流をスイッチング素子(サイリスタなど)を介してトランスに導く交流式、コンデンサに充電した高電圧をトランスの一次側を介して放電させるコンデンサ式、コンデンサの一定充電電圧をスイッチング素子(POWER MOS FETなど)で位相制御して溶接トランスを介することなく電極に導くトランジスタ式、整流回路と平滑コンデンサとで直流変換された電圧をインバータで商用電源周波数より高周波の交流に変換してトランスに導くインバータ式、が知られている。これらの従来技術については下記の特許文献1、2に詳細に説明されているので、ここではその説明は繰り返さない。
【0005】
前記の交流式は、周波数が低く交流低電圧で大電流を流すために電極周辺を含めて被溶接材を加熱することになり、長時間通電により溶接部の「焼け」が発生し易いという問題がある。コンデンサ式は、コンデンサの放電に伴って電極に一時に大電流が流れるため、溶接部に「チリ」が発生するという問題がある。トランジスタ式は、直流出力であるため極性効果(ペルチェ効果による発熱・吸熱効果)の大きい材料(ニッケル電池タブと銅電極の接合など)では吸熱側の電極での温度が低くなり溶接性が悪く、電極の片側減りがおきる。インバータ式は,PWM制御によりインバータ回路をスイッチングするためギザギザのスイッチング痕跡が残る。
【0006】
なお交流式以外は全て二次電流(溶接電流)の極性が正負に変化せず実質的に直流出力であるため前記のペルチェ効果による極性効果が発生するのに対して、交流式ではこのようなことがないという特徴があるが、交流式では通電時間が長く「焼け」が発生するという問題があるのは前記したとおりである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−24377
【特許文献2】特開2000−271760
【0008】
特許文献1は、インバータ部から商用交流電圧よりも高い周波数の交流を溶接トランスの一次側に供給し、このトランスの二次側に発生する低圧交流電圧を溶接電極に導くことにより溶接電流を大きくし、前記交流式の問題(周波数が低く、通電時間が長い。)を解消しようとするものである。特許文献2は、溶接トランスを用いることなく、インバータ回路を増幅動作とスイッチング動作を行うトランジスタを対とする二対の増幅スイッチング回路として作動させることにより、通電時間を長くし溶接エネルギーを大きくすると共に、4個のパワートランジスタを増幅動作とスイッチング動作を行う対として2対に分けて増幅スイッチング回路を構成することとして、溶接電流を交流とし極性効果の影響を受けなくするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のものではインバータ部で周波数を高くするので、例えばベース周波数を2kHzとしてPWM制御を行うとすると通電時間が0.25ms(2kHzの1/2周期)より短い時間となるから、溶接トランスの一次側に急速な立ち上がりで電流を流せず、しかも通電時間も断続するので短時間で大電流を流すことができないという問題がある。
【0010】
特許文献2のものでは、溶接トランスを用いないから溶接電流となる大電流を制御するためにはトランジスタを大量に並列接続する必要があり、例えば、本発明が実現しようとしている最大電流8000Aの溶接電流を制御するような場合には定格50Aの「POWER MOS FET」を用いることにすると160本並列接続しなければならない。しかもブリッジを組めばその4倍の640本必要となり、コスト高になるばかりでなく、信頼性が低下するという問題がある。
【0011】
この発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、溶接電流の極性を切り替えることにより極性効果の発生を防ぎ、溶接トランスの一次電流の早い立ち上がりと電流立ち上がり後の電流を所定時間継続して流すことにより溶接時間を短縮し、溶接電流を少なくして必要なスイッチング素子数を少なくして信頼性の低下を防止することを可能にし、溶接品質の向上を図ることができる抵抗溶接方法を提供することを第1の目的とする。またこの方法の実施に直接使用する抵抗溶接装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明によれば第1の目的は、スイッチング回路を介して溶接トランスの一次側に正負電圧に交互に変化する一次電圧を印加し、前記トランスの二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接方法において、1回の溶接に対して、前記一次電圧の正負及び印加時間によって設定される通電期とその後に続く一次電圧を零にした通電休止期とで構成される複数の溶接相を、前記通電期および通電休止期ごとに前記スイッチング回路のスイッチング素子のオン・オフタイミングを個別に設定することによって別々に設定可能とし、連続する前記溶接相における前記通電期を、前記通電休止期を挟んで、交互に正負に変化させることを特徴とする抵抗溶接方法、によって達成される。すなわち交流式の極性効果を抑制できるという長所と、直流式の溶接エネルギーを大きくして通電時間を短くできるという長所と併せ持つようにしたものである。
【0013】
第2の目的は、スイッチング回路を介して溶接トランスの一次側に正負電圧に交互に変化する一次電圧を印加し、前記トランスの二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接装置において、1回の溶接に対して、前記一次電圧の正負及び印加時間によって設定される通電期とその後に続く一次電圧を零にした通電休止期とで構成される複数の溶接相における通電期と通電休止期とを、通電期および通電休止期ごとに前記インバータ回路のスイッチング素子のオン・オフタイミングを個別に設定することによって別々に設定する溶接条件設定部と;前記溶接条件設定部で設定されたタイミングで前記スイッチング素子をオン・オフ制御する溶接タイミング信号生成部と;とを備えることを特徴とする抵抗溶接装置
、により達成される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された第1の発明によれば、スイッチング回路を介して溶接トランスの一次側に正負電圧に交互に変化する一次電圧を印加し、前記トランスの二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接方法において、1回の溶接に対して、前記一次電圧の正負及び印加時間によって設定される通電期とその後に続く一次電圧を零にした通電休止期とで構成される複数の溶接相を、前記通電期および通電休止期ごとに前記スイッチング回路のスイッチング素子のオン・オフタイミングを個別に設定することによって別々に設定可能とし、連続する前記溶接相における前記通電期を、前記通電休止期を挟んで、交互に正負に変化させるようにしたから、交流式と同様にペルチェ効果による極性効果が発生しない。
【0015】
また各溶接相の通電期の印加時間は個別に所定時間継続することで、電流の立ち上がりを急峻にして電流立ち上がり後の電流を所定時間継続して流すことにより溶接エネルギーを確保することができる。また、溶接トランスの一次側の電流をスイッチングしているので、この電流は少ないからスイッチング素子数を減らし、信頼性の低下を防止でき、被溶接部の特性に応じて溶接相の時間設定を適切にすることにより溶接品質の向上を図ることができる。
【0016】
請求項6に記載された第2の発明によれば、この方法の実施に使用する抵抗溶接装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例を示す抵抗溶接装置の外観図
【図2】同じく実施例の構成を示すブロック図
【図3】同じく回路構成を示す図
【図4】溶接トランスの一次側電圧の通電パターンの設定例を示す波形図
【図5】操作部の実施例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
一回の溶接に対して一次電圧を正又は負電圧にする通電期(ウェルド期、weld time)を正負同回数とすることができ、この場合は正負電圧による溶接回数が揃うことになり、ペルチェ効果による不都合(極性効果)を抑制するのに適する(請求項2)。この場合正電圧にする回数と負電圧にする回数を2回づつにすることができる(請求項3)。溶接相の数は、4以下でも4以上でも良いが、2であってもよいし、3であっても良い。
【0019】
最初の溶接相における通電期の二次側電圧と二次側電流を用いて溶接物間の抵抗値を求め、被溶接部材の溶接の可否を判定することができる(請求項4)。例えば、被溶接部の汚れや異物の存在による接触不良があったりするとこの抵抗値が大きくなるので、この抵抗値を所定の設定値と比較することにより溶接を行って良いか、溶接を中止して警報を出すか、等の判定ができる。
【0020】
最後の溶接相の二次側電圧と電流を用いて溶接物間の放電回路の抵抗値を求めれば、溶接状態の良否を判定することができる(請求項5)。良好な溶接が行われていれば、この抵抗値が十分小さくなるので、これを設定値と比較することによって溶接の良否が判定できる。なお二次側の電流値をその通電時間で積分し(電流と通電時間の総面積を求める)、この積分値が所定値を超えた時に通電を自動停止させ、溶接部に過大な溶接エネルギーが加わるのを防止するようにしても良い。
【0021】
請求項6の抵抗溶接装置に用いるスイッチング回路(インバータ回路)は、ブリッジ接続されたスイッチング素子として複数のIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)を用いるのが良い(請求項7)。溶接条件設定部は、互いに接続されたコンピュータを含む制御部と、操作部と、表示部とを備え、各溶接相における通電期の一次電圧の正負および印加時間を前記操作部と表示部とを用いて入力し、この入力情報を前記制御部が内蔵する記憶部にメモリし、溶接タイミング信号生成部はこの入力情報に基づいてスイッチング素子をオン・オフ制御するように構成することができる(請求項8)。
【0022】
また、溶接トランスの二次側電圧と二次側電流とに基づいて、最初の溶接相における通電期から被溶接部材の溶接の可否を、また最後の溶接相における通電期から溶接結果の良否をそれぞれ判定するためのモニタ情報を溶接条件設定部に送出するための溶接情報モニタ部を設けておいてもよい(請求項9)。
【0023】
溶接トランスの一次側には複数の中間タップを設け、スイッチング回路に接続される中間タップを切替可能にすれば、トランスの二次側出力電圧を変えることができる(請求項10)
【実施例1】
【0024】
図1において符号10は接合ヘッド装置、12は溶接電源、14は溶接トランスであり、本発明の抵抗溶接装置は、これらの組合せによって構成される。接合ヘッド装置10は、2種の金属を重ねた被接合材に一対の電極16、16を上方から押圧し、両電極間で被接合材と平行に溶接電流を流すことによって溶接するシリーズ式のものである。ここに被接合材は、例えば図2、3に示すような電池の銅製の電極Aに、ニッケル製の電池タブBを重ねたものである。
【0025】
接合ヘッド装置10は、基台部18と、その上面に固定された水平なワーク保持台20と、このワーク保持台20の後部から上方へ起立する支柱部22とを備え、これらは一体化されている。この支柱部22には駆動ユニット24が上下にスライド自在に保持されている。駆動ユニット24の前面には、コイルばねを内蔵する一対のシリンダ26、26が保持されている。これらのシリンダ26、26からは、下方にロッド28、28がそれぞれ突出している。これらのロッド28、28はシリンダ26、26内のコイルばねにより下向きに付勢され、この突出部に電極保持部30、30が固定されている。これらの電極保持部30、30に前記電極16,16が固定されている。
【0026】
前記駆動ユニット24は、内蔵するサーボモータによってその高さが可変であり、従ってこれと一体にシリンダ26、26、電極保持部30、30、電極16、16が上下動する。シリンダ26、26のコイルばねは、電極16、16を被接合材(ワーク)に当接させて押圧すると圧縮され、この押圧力がコイルばねの圧縮量によって検出される。コイルばねの圧縮量はセンサで検出される。そしてこの押圧力が一定値になると、すなわちコイルばねの圧縮量が設定値になると、駆動ユニット24は下降を停止し、この状態で両電極16、16間に溶接電流を流して溶接を行う。溶接電流の通電が終わると所定時間(ホールド時間)この状態を保持した後、駆動ユニット24を上昇させて一回の溶接動作が完了する。
【0027】
溶接電源12の主回路は、図2、3に示すように、所定交流電圧(例えば400あるいは200ボルト)の三相交流を整流する整流回路32と、この整流回路32の整流出力を充放電することで整流出力を平滑化する平滑コンデンサ34と、IGBTをブリッジ接続したスイッチング回路(インバータ回路)からなるパルス発生回路36と、で構成される。パルス発生回路36のスイッチング素子であるIGBTは、溶接タイミング信号生成部38が所定のタイミングで生成するゲート信号によってオン・オフ制御される。溶接タイミング信号生成部38は溶接条件設定部40から送られる信号によって制御される。
【0028】
溶接条件設定部40はバスで接続されたコンピュータ(CPU)からなる制御部42、操作部44、表示部46を備え、表示部46の表示を確認しながら操作部44からIGBTのオン・オフタイミング等を設定し、このタイミングを制御部42が本来備える記憶部(図示せず)にメモリする。すなわち、WELD TIME(通電期、例えば図4(A)のa〜d)とCOOL TIME(通電休止期、例えば図4(A)のe〜h)とからなる溶接相ごとに通電期の正負と通電時間、そして通電休止期の通電休止時間を設定する。操作部44と表示部46は、溶接電源12の前面に設けた操作キー群と表示パネルで構成される。なお図1には、溶接電源12の前面に電源スイッチ48が示されている。
【0029】
溶接トランス14は一次側の巻き線に4つの中間タップ50を備える(図3)。前記パルス発生回路36の交流出力電圧が、中間タップ50のいずれかを介してトランス14の一次側(一次コイル)に導かれる。トランス14の二次側(二次コイル)は前記電極16、16に接続されている。この二次側に流れる電流は溶接電流である。
【0030】
二次側の電流はCT(カレントトランス)やホール素子などのセンサ52で検出され、電極16、16間電圧(溶接電圧)と共に溶接情報モニタ部54に入力される。この溶接情報モニタ部52は、前記溶接電源12に設けられ(図2、3)、溶接電流、溶接電圧を示す信号をデジタル信号に変換して、バスを介して溶接条件設定部40に供給する。溶接トランス14の筐体前面には、前記中間タップ50の切替を行うための切替スイッチ56が設けられている。
【0031】
通電期a〜dの正負の極性とオン・オフタイミングの設定と、通電休止期e〜gのタイミングの設定は、図2の操作部44と表示部46を用いて次のように行う。まず操作部44の「パラメータ」キー58を押して、これらの設定モードにする。すると表示部46に設定可能な溶接相(WELD PHASE)と、この溶接相ごとの通電期の「極性」、「通電時間」および通電休止期の「通電休止時間」の設定窓に初期値が表示され、同時に設定可能な位置にカーソルが表示される。
【0032】
「極性」は「+」、「−」に設定することができ、増減キー62を操作することで交互に切り替えて設定する。また「通電時間」、「通電休止時間」は「0.1ms」単位で設定することができ、増減キー62を操作することで増減して所望の値に設定する。また、設定する項目は選択キー60を操作することで選択する。なお「通電時間」は、0.0〜10msの範囲で、「通電休止時間」は1.0〜60msの範囲で設定でき、「通電時間」の総計は60ms以内になるように設定する。全ての設定が終わり溶接動作を開始する時には、「オペレイト」キー64を押せばよい。
【0033】
図4の(A)〜(C)は、通電パターンの設定例を示したものである。この通電パターンは各溶接相の通電期の「通電時間」a〜dと「通電休止時間」e〜hで設定されるもので、パルス発生回路36の出力波形を溶接トランスの一次側のコイルの影響を無視した形で示している。
【0034】
(A)は4つの溶接相をプリ通電の溶接相と、本通電(溶接物を実際に溶かし接合するために電流を流すことを言う。)の溶接相に分けて設定したものである。初めの2つの溶接相はプリ通電を行うもので通電時間は後の2つの溶接相の本通電を行う通電時間より短くなっている。こうするのは、溶接トランス14の出力エネルギーは通電時間が短ければ少なく、長ければ多くなるので、このように通電時間に差異を設けて予備的な溶接を行うのに必要な電力と本溶接を行うのに必要な電力とをそれぞれ適切に設定するためである。
【0035】
この通電パターンによれば、初めのプリ通電a、bで本通電c、dの前に溶接物表面の酸化膜を除去したり、接触面のなじみを良くすることにより安定した本通電を行うことができるようになる。また、プリ通電a、b、本通電c、d共に極性切替を行うことでヒートバランスの取れた安定した溶接が可能になる。
【0036】
(B)は4つの溶接相を順にプリ通電aの溶接相、本通電b、cの2つの溶接相とアフター通電dの溶接相に分けて設定したものである。プリ通電aとアフター通電dの溶接相の通電時間は(A)のプリ通電a、bの溶接相の通電時間より短い時間に設定している。この通電パターンでは、プリ通電aとアフター通電dとでは、前記のような溶接物表面の酸化膜の除去や接触面のなじみの向上と言うことは考慮していないからである。
【0037】
この通電パターンによれば、初めのプリ通電aの溶接相の通電により本通電b、cの可否、最後のアフター通電dの溶接相の通電により本通電b、cによる接合の良否が判定できる。制御部42は、プリ通電aとアフター通電dの溶接相の通電による溶接電流と溶接電圧を溶接情報モニタ部54を介して読み込み、これらから抵抗値を求めることで溶接物間の抵抗値を測定している。
【0038】
なお、プリ通電時aとアフター通電時dとで、それぞれ本通電b、cに移行可能な溶接物間の抵抗値と接合状態を良好と判定できる接合物間の抵抗値とを予め設定しておく。こうしておいて、測定された抵抗値と設定された抵抗値とを比較するようにしている。また、プリ通電aとアフター通電dとで、また本通電b、c同士で極性切替を行うことでヒートバランスの取れた安定した溶接が可能になる。
【0039】
(C)は(A)と同じように、4つの溶接相をプリ通電a、bの溶接相と本通電c、dの溶接相に分けて設定したものである。ここでは本通電の溶接層の通電時間を良好な接合品質が得られる溶接エネルギー以上の溶接エネルギーとなるような長めの通電時間を誤って設定しているものとする。
【0040】
この通電パターンによれば、設定通りであれば過分の溶接エネルギーが溶接物に加わるので接合部が溶けすぎることになるが、自動的に通電を停止することで溶けすぎを防止し、良好な溶接品質を得ることができる。
【0041】
制御部42は、プリ通電a、bと本通電c、dの溶接相の通電による溶接電流を溶接情報モニタ部54を介して読み込み、溶接電流を通電時間で積分して溶接エネルギーを算出することで溶接部に加わる溶接エネルギーを測定している。また、プリ通電(a、b)時と本通電(c、d)時とを通じて良好な溶接品質を確保できる溶接エネルギーを予め設定しておく。こうしておいて、測定された溶接エネルギーと設定された溶接エネルギーとを比較し、測定された溶接エネルギーが設定された溶接エネルギーを超えた時点で通電を停止するようにしているからである。図4の(1)、(2)は、設定された溶接エネルギーとなるタイミングを示している。
【0042】
以上の設定例は、いずれも4つの溶接相を有するものであるが、本発明は4つ以上あるいは3つ以下の溶接相を有するものであっても良い。溶接相は2つであってもよく、3つ以上にしてプリ通電、アフタ通電の機能を付加したり、溶接エネルギーを増やすなど、溶接物の特性に合わせて最適な通電パターンを設定すれば、溶接部の変化に対する対応範囲が拡大し多様な溶接が可能になる。
【符号の説明】
【0043】
10 接合ヘッド装置
12 溶接電源
14 溶接トランス
16 電極
32 整流部
34 平滑コンデンサ
36 スイッチング回路(パルス発生回路、インバータ回路)
38 溶接タイミング信号生成部
40 溶接条件設定部
42 制御部
44 操作部
46 表示部
50 中間タップ
54 溶接情報モニタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング回路を介して溶接トランスの一次側に正負電圧に交互に変化する一次電圧を印加し、前記トランスの二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接方法において、
1回の溶接に対して、前記一次電圧の正負及び印加時間によって設定される通電期とその後に続く一次電圧を零にした通電休止期とで構成される複数の溶接相を、前記通電期および通電休止期ごとに前記スイッチング回路のスイッチング素子のオン・オフタイミングを個別に設定することによって別々に設定可能とし、連続する前記溶接相における前記通電期を、前記通電休止期を挟んで、交互に正負に変化させることを特徴とする抵抗溶接方法。
【請求項2】
一回の溶接に対して、一次電圧を正又は負電圧にする通電期が正負同回数である請求項1の抵抗溶接方法。
【請求項3】
一回の溶接に対して、一次電圧を正電圧にする回数と負電圧にする回数が2回ずつである請求項2の抵抗溶接方法。
【請求項4】
最初の溶接相における通電期の二次側電圧と電流を用いて抵抗を求め、被溶接部材の溶接の可否を判定する請求項1の抵抗溶接方法。
【請求項5】
最後の溶接相における通電期の二次側電圧と電流を用いて抵抗を算出し、溶接状態の良否を判定する請求項1の抵抗溶接方法。
【請求項6】
スイッチング回路を介して溶接トランスの一次側に正負電圧に交互に変化する一次電圧を印加し、前記トランスの二次側を一対の溶接電極に接続した抵抗溶接装置において、
1回の溶接に対して、前記一次電圧の正負及び印加時間によって設定される通電期とその後に続く一次電圧を零にした通電休止期とで構成される複数の溶接相における通電期と通電休止期とを、通電期および通電休止期ごとに前記インバータ回路のスイッチング素子のオン・オフタイミングを個別に設定することによって別々に設定する溶接条件設定部と;
前記溶接条件設定部で設定されたタイミングで前記スイッチング素子をオン・オフ制御する溶接タイミング信号生成部と;
とを備えることを特徴とする抵抗溶接装置。
【請求項7】
スイッチング回路は、ブリッジ接続されたスイッチング素子としての複数のIGBTを備える請求項6の抵抗溶接装置。
【請求項8】
溶接条件設定部は、互いに接続されたコンピュータを含む制御部と、操作部と、表示部とを備え、各通電期の一次電圧の正負および印加時間と各通電休止期とを前記操作部と表示部とを用いて入力可能とし、この入力情報が前記制御部にメモリされ、溶接タイミング信号生成部はこの入力情報に基づいてスイッチング素子をオン・オフ制御する請求項6の抵抗溶接装置。
【請求項9】
溶接トランスの二次側電圧と二次側電流とに基づいて、最初の溶接相における通電期から被溶接部材の溶接可否を、最後の溶接相における通電期から溶接の良否をそれぞれ判定するためのモニタ情報を溶接条件設定部に送出する溶接情報モニタ部を備える請求項6の抵抗溶接装置。
【請求項10】
溶接トランスの一次側には中間タップが設けられ、スイッチング回路に接続される中間タップを切り替え可能にした請求項6の抵抗溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−45569(P2012−45569A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189363(P2010−189363)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000227836)日本アビオニクス株式会社 (197)
【Fターム(参考)】