説明

抵抗溶接鋼板

【課題】材料強度が980MPa級を超える高張力鋼板でありながら、接合部の接合強度を確保することが出来る抵抗溶接鋼板を提供すること。
【解決手段】母材強度が、980MPaを超える鋼板を抵抗溶接してなる抵抗溶接鋼板において、接合部の溶融凝固部と熱影響部が、焼き戻しマルテンサイトか、あるいは、焼き戻しベイナイトを主相とした組織である抵抗溶接鋼板である。抵抗溶接した接合部の溶融凝固部の硬さが、母材の硬さより、+Hv50〜+150の範囲とする。母材が、重量%で、C:0.15〜0.38%、Mn:0.10〜0.50%、Cr:0.5〜43.0%を含有し、残部を鉄および不可避不純物からなり、さらにMo:0.01〜2.0%を含有する。母材が、下記(1)式および(2)式を満足する。
Mn+Cr = 0.15〜54.0(単位:重量%)・・・・・式(1)、Mn/(Mn+Cr)<0.50(単位:重量%)・・・・・式(2)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の軽量化を目的に使用される高張力鋼板によって構成される部材の接合手段として使用される抵抗溶接性が良好な80MPa級以上の高張力鋼板の抵抗溶接に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用鋼板としては、自動車の軽量化を目的に高張力化が進んでいる。自動車部品の高張力化の弊害としてスポット溶接などの抵抗溶接を行った際、急熱、急冷により溶融凝固部の靭性が失われ、接合強度が低いもしくは安定的ではないといった問題があった。そこで添加元素とくにはC(重量%)を押さえることにより、溶融凝固部の靭性劣化を防ぐことで接合強度を確保している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−211934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、添加元素とくにC量を押さえることは、鋼板の高張力化を抑制するものであり、自動車用高張力鋼板としては、引張り強さが980MPa級程度で留まっているといった問題がある。また、熱間プレスによる高強度化があり、この場合、0.2%(重量)程度のCを含有し、加熱と型による冷却により焼き入れされ材料強度は1500MPa程度になるが、スポット溶接に関わる上記課題等により、接合の相手材を制約することにより強度的な信頼性を確保している。このようにC(重量%)を抑制することは材料の高張力化を難しくしていること、また、仮にC(重量%)をある程度高めた場合は板組が制約されるなどの課題がある。
【0004】
本発明の目的は、材料強度が980MPa級を超える高張力鋼板でありながら、接合部の接合強度を確保することが出来る抵抗溶接鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが検討した結果、溶融凝固部および熱影響部を焼き戻しマルテンサイトあるいは焼き戻しベイナイト組織とすることでC量を0.38(重量%)まで添加しても接合強度はほとんど低下しないことを見出した。また、溶融凝固部の硬さを母材の硬さより、Hv+50〜+150の範囲とすることで、溶融凝固部の強度と靱性の双方を確保でき、良好な接合強度が得られることを確認した。また、材料としてはMn添加を抑制しCrを添加することで溶接強度が確保できることを確認した。
【0006】
上記した本発明の目的を達成するために、本発明者らが検討した結果、以下に示す条件を満足することが有効であることを知見した。
【0007】
即ち、
(a)母材強度が、980MPaを超える鋼板の抵抗溶接鋼板において、接合部の溶融凝固部と熱影響部が、焼き戻しマルテンサイトか、あるいは、焼き戻しベイナイトを主相とした組織であることを特徴とする抵抗溶接鋼板。
【0008】
(b)前記の抵抗溶接鋼板において、抵抗溶接した接合部の溶融凝固部の硬さが、母材の硬さより、Hv:+50〜+150の範囲とすることを特徴とする抵抗溶接鋼板。
【0009】
(c)上記第1項の抵抗溶接鋼板において、母材が、重量%で、C:0.15〜0.38%、Mn:0.10〜0.50%、Cr:0.5〜3.0%を含有し、残部を鉄および不可避不純物からなり、さらにMo:0.01〜2.0%を含有することを特徴とした1180MPa級以上の抵抗溶接用高張力鋼板である抵抗溶接。
【0010】
(d)前記請求項において、母材が、下記(1)式および(2)式を満足することを特徴とした1180MPa級以上の抵抗溶接用高張力鋼板である抵抗溶接。
Mn+Cr=0.15〜4.0(単位:重量%)・・・・・式(1)
Mn/(Mn+Cr)<0.50(単位:重量%)・・・・・式(2)
【発明の効果】
【0011】
本発明において、抵抗溶接用高張力鋼板は980MPa級以上の高張力でありながら、抵抗溶接部強度が低下することが無く、これまでには無い優れた効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の組織や硬さ、及び材料の組成の限定の理由について述べる。
抵抗溶接した接合部の溶融凝固部および熱影響部は接合強度を決定づける部位であるが、この部位の組織を焼き戻しマルテンサイト、あるいは焼き戻しベイナイトを主相とする組織とすることで靱性と強度を両立でき、C量を多く含有する鋼板でも良好な接合部強度を得ることができる。
【0013】
更に接合部の溶融凝固部の硬さが母材の硬さより、Hv:+50〜+150とすることで強度と靱性を両立させることができ、高C量を含有する鋼板であっても良好な接合部強度を得ることが出来る。
また、材料の組成を調整することにより高強度でありながら良好な溶接強度を得ることができるが、組成を限定する理由を以下に述べる。
【0014】
C:Cは強度増加に最も有効な成分であるが、本発明の強度を満足するために0.15%未満では満足出来ず、一方、0.38%を超えると靭性劣化を招くことから、0.15〜0.38wt%と定めた。
【0015】
Mn:Mnは最も重要な元素であり、オーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化に有効であるとともに、焼入れ性ならびに焼戻軟化抵抗の向上に有効な元素であるが、0.1%未満では所望の効果が得られず、一方、0.5%を越えると抵抗溶接した接合部の靭性劣化を起す場合があるため、0.1〜0.5%と定めた。
【0016】
Cr:Crは焼入れ性向上に有効な元素であるとともにセメンタイト中に固溶して焼戻しによる軟化を遅滞させる作用が強い元素である。従って、少なくとも0.5%以上含有させる必要がある。好ましくは1%以上を含有させるが、過剰に添加するとその効果が飽和するとともに靭性が低下してしまうため、上限を3.0%と定めた。
【0017】
Si:Siは脱酸および強度増加に有効な元素である。従って、脱酸材として添加したもので鋼中に残るものも含め、含有量を0.2%以上とする。ただし、過剰な添加は靭性劣化を起す場合があるため、上限を2.5wt%と定めた。
【0018】
Ni:Niはオーステナイト化温度を低下させオーステナイトの微細化に有効であるとともに、耐食性の向上に有効な元素である。0.1%未満では所望の効果が得られず、一方、3.0%を越えると効果が飽和する。とくに高価な元素であるため、0.1〜3.0%と定めた。
【0019】
Cu:Cuは強化に有効であるとともに、微細析出することで水素脆性の向上に寄与する。しかし、過剰な添加は加工性の劣化を招くことから、0.01〜3.0%と定めた。
【0020】
Al:Alは脱酸に有効な元素である。しかし、過剰な添加は介在物を作ることで加工性の劣化を招くことから、0.001〜0.1%と定めた。
【0021】
P:Pは粒界強度を低下させるため、極力取り除きたい元素であり、上限を0.01%と定めた。
【0022】
S:Sは粒界強度を低下させるため、極力取り除きたい元素であり、上限を0.01%と定めた。
【実施例】
【0023】
表1に実施例および比較例の成分および機械的性質を記載する。表1記載の各鋼板からJIS Z 3136およびJIS Z 3137に準拠した引張りせん断試験片および十字引張り試験片を切削加工により作製し、その溶接接合面を脱脂後、加圧力4950〜6450kN、通電時間19〜23cyc、電流値10〜14kAの条件でスポット溶接を行った。試験片番号28〜30は、前記スポット溶接後にナゲット外周上にコイルが配置された高周波加熱処理装置によって、焼き戻し加熱処理を行った。
【0024】
鋼板の機械的特性は、JIS Z 2201 5号試験片により引張り試験を行い。母材および溶融部、熱影響部の組織観察は、断面を研磨後、ナイタール溶液によりエッチングし、光学顕微鏡100〜1000倍およびSEM観察1000〜5000倍を行った。
得られたスポット溶接試験片は、各々、JIS Z 3136およびJIS Z 3137に準拠し、引張りせん断試験および十字引張り試験を実施した。断面試験はJIS Z 3139に準拠し、ナゲット径を計測した。
【0025】
抵抗溶接した接合部強度については、母材強度が590MPa級を超えると、TSSは上昇するが、CTSは上昇しない傾向がある。そのため、効果の比較としては下記、式(3)の関係を調べることで比較を行った。判定として、TSSと材料強度の比と、CTSと材料強度の積を併せ比較することで接合部の評価を行った。(表1中;590MPa級以上:○、590MPa級以下:×)
TSS/(材料強度)+CTS×(材料強度)・・・・・・・式(3)
【0026】
抵抗溶接することで、溶融部の周りに、その熱による影響を受け組織的に変化することが知られている。これにより、母材強度が軟化をすることで接合強度を低下させるため、軟化の有無(表1中;軟化無し:○、軟化あり:×)を、溶融凝固部およびその周辺を断面方向に切断し樹脂埋め後、鏡面研磨しJIS Z 2244に準拠し硬さを計測することで確認した。
【0027】
破断形態は、接合強度の安定性に最も起因する要因と言え、JIS Z 3136に記載されるプラグ破断の形態を取る場合が安定的な強度であると言える。(表1中;プラグ破断:○、界面破断:×)
【0028】
【表1】

【0029】
図1に示す本発明範囲における鋼板のスポット溶接後の各性能は、表1に示すように接合強度、また強度に影響がある溶融部周辺の母材強度の軟化有無、接合強度のばらつき要因となる破断形態のすべての性能を満たしており、且つ母材の引張り強度が1180MPa級以上であると言え、高強度と抵抗溶接性の両立を可能としたこれまで無い優れた効果を示している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】鋼板の組成を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材強度が、980MPaを超える鋼板を抵抗溶接してなる抵抗溶接鋼板において、抵抗溶接した接合部の溶融凝固部と熱影響部とが、焼き戻しマルテンサイトか、あるいは、焼き戻しベイナイトを主相とした組織であることを特徴とする抵抗溶接鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗溶接鋼板において、抵抗溶接した接合部の溶融凝固部の硬さが、母材の硬さより、+Hv50〜+150の範囲とすることを特徴とする抵抗溶接鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抵抗溶接鋼板において、母材が、重量%で、C:0.15〜0.38%、Mn:0.10〜0.50%、Cr:0.5〜43.0%を含有し、残部を鉄および不可避不純物からなり、さらにMo:0.01〜2.0%を含有することを特徴とした抵抗溶接鋼板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の抵抗溶接鋼板おいて、母材が、下記(1)式および(2)式を満足することを特徴とした抵抗溶接鋼板。
Mn+Cr = 0.15〜54.0(単位:重量%)・・・・・式(1)
Mn/(Mn+Cr)<0.50(単位:重量%)・・・・・式(2)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の抵抗溶接鋼板おいて、母材が、重量%で、Si:0.1〜1.0、Ni:0.1〜3.0、Cu:0.01〜3.0、Al:0.001〜0.1であり、W:0.01〜1.5、V:0.001〜1.0、Ti:0.001〜1.0、Nb:0.001〜1.0、Ta:0.01〜1.0、B:0.001〜1.0のうちの1種以上を含有し、不純物のP:≦0.01およびS:≦0.01、残部は実質的にFe及び不可避不純物からなることを特徴とした抵抗溶接鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の抵抗溶接鋼板おいて、母材が、亜鉛めっきされていることを特徴とした抵抗溶接鋼板。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1つの項に記載の抵抗溶接鋼板おいて、引張強さが1180MPa級以上であることを特徴とした抵抗溶接鋼板。

【図1】
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