説明

押出し成形用樹脂組成物及び押出し成形品

【課題】 液晶ポリマーの特性である低気体透過性を損なうことなく、耐ドローダウン性や成形品の均肉性を付与して簡易にブロー成形または押出成形し、中空の成形体を得る。
【解決手段】 6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸残基1〜15モル%、4-ヒドロキシ安息香酸残基40〜70モル%、芳香族ジオール残基5〜28.5モル%、4-アミノフェノール残基1〜20モル%、及び芳香族ジカルボン酸残基6〜29.5モル%からなり、融点が270〜370℃であり、該融点より20℃高い温度T1でのせん断速度1000/秒における溶融粘度が20〜60Pa・sである全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)99〜70重量%と、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)1〜30重量%とを溶融混練してなり、上記温度T1でのせん断速度1000/秒における溶融粘度が60〜4000Pa・s、引取り速度14.8m/分における溶融張力が20mN以上である押出し成形用樹脂組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂及びエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物であって、特定の溶融粘度及び溶融張力を有する押出し成形用樹脂組成物及びその押出し成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステル樹脂は、優れた流動性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有するため、高機能エンジニアリングプラスチックとして広く利用されているが、その大部分は射出成形に使用されている。
最近、液晶性ポリエステル樹脂の用途も一層高度化、特殊化する傾向にあり、これをブロー成形法等により効率良く経済的に成形して液晶性ポリエステルの優れた物性を保持した押出し成形品を得ることが期待されている。
例えば、高温雰囲気下で使用される配管、容器類等では、耐熱性の他に高度の機械的物性等も要求されるため、従来は金属製のものが用いられてきたが、軽量化、防錆化、加工コスト低減等のため、これらを上記の液晶性ポリエステル樹脂の押出し成形により得ることが望まれている。しかしながら、液晶性ポリエステル樹脂は、流動性、物性等に優れる反面、例えばブロー成形法を適用する上で最も重要とされる特性、即ち溶融張力が低いため、ドローダウンが激しく、ブロー成形法により所望の形状の成形品を得ることは至難である。この改良法として、固有粘度の高い高重合度ポリエステル樹脂を用いる方法、分岐を有するポリエステルを用いる方法、更に各種フィラーを添加する方法等が考えられているが、いずれも改良効果は少なく、これらの加工法に対する材料として不充分である。
【0003】
例えば、特開平6−306261号公報には、パリソンのドローダウン防止を目的として、液晶樹脂の溶融張力を向上させるため、(A)特定の構成単位からなる液晶性芳香族ポリエステル100重量部、(B)スチレン40〜97重量%、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル60〜3重量%、他のビニル系モノマー0〜50重量%よりなるスチレン系共重合体0.2〜10重量部、及び(C)繊維状、粉粒状、板状充填剤の1種以上0〜100重量部を配合し溶融混練してなるブロー成形用又は押出成形用液晶性ポリエステル樹脂組成物が開示されている(特許文献1参照)。
しかし、この様な他樹脂成分を溶融張力改善のため導入すると、相対的に性能が劣る他、樹脂の耐熱性、機械強度、気体透過性が、液晶樹脂組成物に反映されるため、要求性能の厳しい成形品へは使用できない。
【0004】
特開平8−311311号公報には、(A)特定の構造単位からなる3種の芳香族ポリエステルから選択され、異方性を示し始める温度(液晶開始温度)より40℃高い温度で剪断速度1000/秒の条件下で測定した溶融粘度が10〜15,000ポイズである異方性溶融相を形成する芳香族ポリエステル100重量部に対して、(B)α−オレフィン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとからなる共重合体0.1〜60重量部を含む芳香族ポリエステル組成物が開示されている(特許文献2参照)。
特開平8−301983号公報には、(A)液晶ポリエステル56.0〜99.0重量%、および(B)(a)エチレン単位が50.0〜99.9重量%、(b)不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位または不飽和グリシジルエーテル単位が0.1〜30.0重量%、(c)エチレン系不飽和エステル単位が0〜49.9重量%からなるエポキシ基含有エチレン共重合体44.0〜1.0重量%からなる液晶ポリエステル樹脂組成物からなる中空成形体容器が開示されている(特許文献3参照)。
特開平9−12744号公報には、(A)液晶ポリエステルおよび(B)熱可塑性樹脂を含有し、液晶ポリエステルが連続相で熱可塑性樹脂が分散相であり、4℃/分の昇温速度で加熱された樹脂を荷重100Kgf/cm2のもとで内径1mm長さ10mmのノズルから押し出すときに溶融粘度が48000ポイズを示す温度(単位:℃)として定義される流動開始温度において、せん断速度100/秒または1000/秒のせん断速度で測定した溶融粘度(粘度1)と、該流動開始温度より20℃高い温度において、同じせん断速度で測定した溶融粘度(粘度2)との比(粘度2/粘度1)の値が0.1〜0.7であり、該流動開始温度(FT1)と液晶ポリエステル(A)の流動開始温度(FT2)とが、FT1>FT2−10を満足する液晶ポリエステル樹脂組成物を、インフレーション成形して得られる液晶ポリエステル樹脂組成物フィルムが開示されている。
しかし、上記3件の技術は、芳香族ポリエステル液晶樹脂に関するものであり、全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂に関しては、記載も示唆もしていない。
【0005】
【特許文献1】特開平6−306261号公報(請求項1〜5)
【特許文献2】特開平8−311311号公報(請求項、段落[0001]、[0024]、[0048])
【特許文献3】特開平8−301983号公報(請求項1〜7)
【特許文献4】特開平9−12744号公報(請求項1〜18)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液晶ポリマーの特性である低気体透過性を損なうことなく、耐ドローダウン性や成形品の均肉性を付与して簡易にブロー成形または押出成形し、中空の成形体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定構造の全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)と、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)とを配合し、両者を溶融混練して、特定の溶融粘度と溶融張力を示す樹脂組成物を用いることにより、上記問題を解決できることを見いだし、本発明完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の第1は、下記(I)〜(V)の繰り返し重合単位:
(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基1〜15モル%、
(II)4−ヒドロキシ安息香酸残基40〜70モル%、
(III)芳香族ジオール残基5〜28.5モル%、
(IV)4−アミノフェノール残基1〜20モル%、及び
(V)芳香族ジカルボン酸残基6〜29.5モル%
(ここで芳香族ジオール残基及び芳香族ジカルボン酸残基は少なくとも一つの芳香族環を含む二価の基である。)
からなり、融点が270〜370℃であり、該融点より20℃高い温度(温度T1という)でのせん断速度1000/秒における溶融粘度が20〜60Pa・sである全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)99〜70重量%と、
エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)1〜30重量%
とを配合(両者の合計は100重量%である。)し、両者を溶融混練してなる樹脂組成物であり、上記温度T1でのせん断速度1000/秒における該樹脂組成物の溶融粘度が60〜4000Pa・s、引取り速度14.8m/分における溶融張力が20mN以上である押出し成形用樹脂組成物を提供する。
本発明の第2は、(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基6〜15モル%、 (II)4−ヒドロキシ安息香酸残基40〜70モル%、
(III)芳香族ジオール残基5〜28.5モル%、
(IV)4−アミノフェノール残基1〜20モル%、及び
(V)芳香族ジカルボン酸残基6〜29.5モル%
からなる本発明の第1記載の押出し成形用樹脂組成物を提供する。
本発明の第3は、引取り速度14.8m/分における溶融張力に対する、2倍の引取り速度(29.6m/分)における溶融張力の増加比率(溶融張力増加率という)が、1.05倍以上である本発明の第1または2記載の押出し成形用樹脂組成物を提供する。
本発明の第4は、押出し成形が、ブロー成形、インフレーション成形、チューブ成形または異形押出し成形である本発明の第1〜3のいずれか1項に記載の押出し成形用樹脂組成物を提供する。
本発明の第5は、本発明の第1〜4のいずれか1項に記載の成形用樹脂組成物を押出し成形してなる押出し成形品を提供する。
本発明の第6は、成形品が、中空成形体である本発明の第5記載の押出し成形品を提供する。
本発明の第7は、中空成形体が、ブロー成形容器、インフレーションフィルム、ライナー、チューブ、パイプである本発明の第6記載の押出し成形品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、液晶ポリマーの特性である低気体透過性を損なうことなく、耐ドローダウン性や成形品の均肉性を付与して簡易にブロー成形または押出成形し、中空の成形体を得ることが可能となり、中空の成形体は優れた機械的強度、寸法安定性及び低気体透過性を有し、容器、パイプ中空部品等に好適であり、特にガスタンク用ライナーや自動車用燃料タンクに用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)
本発明に係る全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂は、下記(I)〜(V)の繰り返し重合単位からなる全芳香族ポリエステルアミド樹脂である。
なお、(I)〜(V)の繰り返し重合単位の合計は100モル%であり、樹脂の末端基を除いて、ヒドロキシル残基とアミノ残基の合計とカルボキシル残基の合計は等モルの関係にあり、特に、(III)と(IV)の合計と(V)が等モルの関係にある。
(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基は1〜15モル%、好ましくは6.0〜15モル%である。後述する溶融張力増加率、インフレーション成形時の最大ブローアップ比の観点から、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基が6.0〜15モル%であることが好ましい。
【0011】
(II)4−ヒドロキシ安息香酸残基は40〜70モル%、好ましくは50〜65モル%である。
【0012】
(III)芳香族ジオール残基は5〜28.5モル%、好ましくは5〜25モル%、さらに好ましくは10〜20モル%である。芳香族ジオール残基は、下記化学式(III)で表される。
-O-Ar-O- (III)
(ここで、Arは少なくとも一つの芳香族環を含む二価の基である。)
【0013】
(IV)4−アミノフェノール残基は1〜20モル%、好ましくは2〜15モル%、さらに好ましくは2.5〜10モル%である。
【0014】
(V)芳香族ジカルボン酸残基は6〜29.5モル%、好ましくは8〜25モル%、さらに好ましくは10〜20モル%である。芳香族ジカルボン酸残基は、下記化学式(V)で表される。
-CO-Ar'-CO- (V)
(ここで、Ar'は少なくとも一つの芳香族環を含む二価の基である。)
【0015】
芳香族ジオール残基及び芳香族ジカルボン酸残基は少なくとも一つの芳香族環を含む二価の基であり、二つ以上の芳香族環がメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基、カルボニル基、硫黄原子、スルフォン基、スルフォキシド基、酸素原子、炭素数2〜6のアルキレンジオキシ基等で結合されていてもよい。好ましくは1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、2,6−ナフタレン基および4,4’−ビフェニレン基から選ばれた1種または2種以上である。
芳香族ジオール残基を与えるモノマーとしては、具体的にはハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸残基を与えるモノマーとしては、具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0016】
ヒドロキシ安息香酸残基が主成分のポリエステル骨格中に部分的にアミド結合を導入したポリエステルアミドは、破壊に至る機械強度の大きなブロー成形品を得るために好ましい。アミド結合は多すぎると色相の悪化や熱安定性の低下を招くため、全結合単位の内、アミド結合を20モル%以内の範囲に保つ必要がある。
上記特定の樹脂組成の全芳香族ポリエステルアミドを原料とすることにより、実用的に良好な物性を示すブロー成形品、押出成形品が得られる。
【0017】
上記(I)〜(V)の繰り返し重合単位を、具体的に生成するには、原料化合物として通常のエステル若しくはアミド形成能を有する種々のものが使用される。本発明に係る液晶ポリエステルアミドを形成するために必要な原料化合物は、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ安息香酸、芳香族ジオール、4−アミノフェノール、芳香族ジカルボン酸をそのままの形で用いてもよいし、重縮合反応での必要性に応じて、各々の官能基を各種誘導体で修飾したもの、例えばそれらのエステルやアミド等、具体的には4−(N−アセチルアミノ)フェノール等のアセチル化物を用いてもよい。
【0018】
本発明では、特にアミド結合を与えるために、p−アミノフェノールやp−(N−アセチルアミノ)フェノールを用い得るが、p−N−メチルアミノフェノール、p−フェニレンジアミン、N−メチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−p−フェニレンジアミン、m−アミノフェノール、3−メチル−4−アミノフェノール、2−クロロ−4−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルエーテル、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルメタン、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルエタン、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホン、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノフェニルスルフィド(チオジアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,5−ジアミノトルエン、4,4’−エチレンジアニリン、又は4,4’−ジアミノジフェノキシエタン、並びに3,4’−ジアミノフェニルX、3−アミノ−4’−ヒドロキシフェニルX、3−ヒドロキシ−4’−アミノジフェニルX(但し、Xはスルフィド、スルホン、エーテル及びメタンから構成される群から選ばれる)からも誘導することができる。
【0019】
本発明に係る全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂は、直接重合法やエステル交換法を用いた重合により得ることができる。重合に際しては、通常、溶媒重合法や溶融重合法、スラリー重合法等が用いられる。これらの重合法では種々の触媒を用いることができ、代表的なものは、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタン珪酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、三フッ化ホウ素の如きルイス酸塩等が挙げられる。触媒の使用量は、モノマー全重量に対して、0.001〜1重量%が好ましい。
【0020】
本発明でいう液晶樹脂とは、溶融時に光学的異方性を示すものである。溶融時に異方性を示す性質は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査方法により確認することが出来る。
液晶樹脂であることによって、極めて低い気体透過性や寸法安定性、耐薬品性等の優れた特性が発現する。
【0021】
上記の全芳香族ポリエステルアミド(A)は、DSCによる融点が270〜370℃、好ましくは290〜320℃であり、該融点より20℃高い温度(温度T1)でのせん断速度1000/秒における溶融粘度が20〜60Pa・sの範囲内にある。
液晶樹脂の融点が270℃未満では、樹脂組成物の機械的物性が低く、単層での強度が要求される分野での使用に限界があり、融点が370℃超の場合は、変性ポリオレフィンと溶融混練する際に高温度での分解等の副反応を抑えることができないため、十分な品質の液晶樹脂を得ることができない。
また、温度T1でのせん断速度1000/秒における溶融粘度が上記範囲外では、変性ポリオレフィンの分散が悪くなり、従ってブロー等の成形時の耐ドローダウン性や均肉性の改善が不十分となり、結果として成形品の機械的強度や低気体透過性にも悪影響を与える。
【0022】
エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)
本発明に係るエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)は、α−オレフィン類とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを主成分とする共重合体である。
【0023】
上記α−オレフィン類としては、エチレン、エチレンと炭素数3以上のα−オレフィンからなる共重合体、およびエチレン、炭素数3以上のα−オレフィンおよび非共役ジエンからなる共重合体等が挙げられるが、エチレンが好ましく用いられる。
炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられ、中でもプロピレンおよびブテン−1が好ましく用いられる。また、非共役ジエンとしては5−メチリデン−2−ノルボーネン、5−エチリデン−2−ノルボーネン、5−ビニル−2−ノルボーネン、5−プロペニル−2−ノルボーネン、5−イソプロペニル−2−ノルボーネン、5−クロチル−2−ノルボ−ネン、5−(2−メチル−2−ブテニル)−2−ノルボーネン、5−(2−エチル−2−ブテニル)−2−ノルボーネン、5−メタクリルノルボーネン、5−メチル−5−ビニルノルボーネン等のノルボーネン化合物、ジクロルペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、4,7,8,9−テトラヒドロインデン、1,5−シクロオクタジエン、1,4−ヘキサジエン、イソプレン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−エチル−1,1,1−トリデカジエン等であり、好ましくは5−メチリデン−2−ノルボーネン、5−エチリデン−2−ノルボーネン、ジクロルペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等が使用できる。
【0024】
上記α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、具体的にはアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル(GMAと略す。)、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられるが、メタクリル酸グリシジルが好適に用いられる。α−オレフィン(例えぱエチレン)とα,β−不飽和酸のグリシジルエステルとは、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合させることによって得ることができる。
【0025】
エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)は、α−オレフィン類99〜50モル%とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル1〜50モル%とからなる共重合のものが適当である。さらに、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)の重合時に、添加量40モル%以下であれば共重合可能である不飽和モノマー、例えばビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル等のアクリル酸および他の(メタ)アクリル酸のエステル類、アクリロニトリル、スチレン等を共重合させてもよい。
【0026】
さらに、このエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)は、重合体または共重合体を分岐又は架橋鎖としてグラフト重合させることができる。
分岐又は架橋鎖としてグラフト重合させる重合体又は共重合体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリロニトリル及びスチレンから選ばれた一種又は二種以上を重合又は共重合させたものが挙げられる。成形性の観点から、好ましくは、メタクリル酸重合体、アクリロニトリルとスチレンの共重合体、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルの共重合体等が挙げられ、特に好ましくはメタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルの共重合体である。
【0027】
これらの重合体又は共重合体は、通常知られたラジカル重合によって調製される。又、これらの重合体又は共重合体の分岐又は架橋反応も、ラジカル反応により容易に行うことができる。例えば、これらの重合体又は共重合体に過酸化物等でフリーラジカルを生成させ、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステル共重合体を溶融混練することによって、所望のオレフィン系樹脂(B)を調製することができる。分岐又は架橋鎖は、α−オレフィンとα,β−不飽和酸のグリシジルエステル共重合体100重量部に対し、10〜100重量部を分岐又は架橋することが好ましい。
【0028】
押出し成形用樹脂組成物
本発明の押出し成形用樹脂組成物は、上記全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)99〜70重量%、好ましくは95〜80重量%と、エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%とからなる。
(B)成分の配合量が上記範囲未満では、樹脂組成物の溶融粘度及び溶融張力の増加が不十分であり、上記範囲より多い場合は成形品の均肉性が低下する。
【0029】
本発明の押出し成形用樹脂組成物は、全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)とエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)を溶融混練してなるものであり、上記温度T1でのせん断速度1000/秒における該樹脂組成物の溶融粘度が60〜4000Pa・s、好ましくは80〜1000Pa・sであり、引取り速度14.8m/分における溶融張力が20mN以上、好ましくは50〜200mNである。
溶融粘度と溶融張力が上記範囲未満では、耐ドローダウン性が不足し、上記範囲超では、延伸性や均肉性が低下し、ブロー成形やフィルム成形等の押出し成形用に不適当である。
また、引取り速度14.8m/分における溶融張力に対する、2倍の引取り速度である29.6m/分における溶融張力増加率が、1.05倍以上、好ましくは1.1〜2.0倍である。
溶融張力増加率が上記範囲未満では、ブロー成形やフィルム成形等の押出し成形し難い。
【0030】
本発明の押出し成形用樹脂組成物には、必要に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト等の強化剤、充填剤、核剤、顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤および難燃剤等の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所望の特性を付与することができる。
充填剤および/または強化材の配合量は、樹脂の全重量を基準として1〜50重量%、好ましくは、10〜30重量%である。
代表的な充填剤には、珪酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク、雲母、ポリテトラフルオロエチレン、黒鉛、アルミナ・三水和物、炭酸アルミニウムナトリウム、バリウムフェライト、ウァラストナイト(珪灰石)等がある。
代表的な強化用繊維には、ガラス繊維、グラファイトカーボン繊維、無定形炭素繊維、合成ポリマーの繊維、アルミナ繊維、珪酸アルミニウム繊維、酸化アルミニウム繊維、チタン繊維、マグネシウム繊維、岩綿繊維、スチール繊維、タングステン繊維、又は縦横比が3:1以上の珪灰石繊維等がある。
【0031】
本発明の押出し成形用樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではないが、全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)とエポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)とを溶融混練してなるものであり、例えば押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。
汎用的な押出機を用いた場合、溶融混練温度は270〜380℃、好ましくは280〜360℃であり、好ましい溶融混練時間は2〜5分である。
【0032】
本発明の押出し成形用樹脂組成物の成形方法としては、ダイを介して成形品が得られるものであれば特に制限されず、Tダイ法フィルムまたはシート成形、異形押出し成形、共押出し成形、押出しラミネート成形、インフレーションフィルム成形、ブロー成形、延伸フィルム成形、押出し圧縮成形、押出し溶融発泡成形等も含む。好ましくはブロー成形であり、例えば、ダイレクトブロー成形、シートブロー成形、多層シートブロー成形、ホットパリソン法インジェクション延伸ブロー成形等が挙げられる。
【0033】
本発明の押出し成形用樹脂組成物を用いた成形品としては、中空成形体であり、中空成形体は更に加工されてもよく、具体的には、フィルム、シート、板、チューブ、パイプ、ボトル、繊維、ネット、ライナー(樹脂ライニング層のことである)等が挙げられる。好ましくはブロー成形品、チューブ、フィルム、シート等である。
【0034】
(実施例)
以下、実施例をもって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、実施例中の物性測定の方法は以下の通りである。
[融点、ガラス転移温度]
示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製DSC7)にて、20℃/分の昇温条件で測定した。融点Tmは、液晶性であるとDSCで融解ピークによる判定が難しい場合もあるので、顕微鏡でのクロスニコル下での相変化と合わせて、決定するのがよい。
[液晶性]
オリンパス社製偏光顕微鏡を使用し、リンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察した。直交偏光子間に挿入したとき光を透過させ、溶融静止液状態であっても偏光が透過した場合は、光学的に異方性であると判断した。
[溶融粘度]
キャピラリー式レオメーター(東洋精機製キャピログラフ1B:ピストン径10mm)により、温度T1(樹脂の融点+20℃)、剪断速度1000/秒での見掛けの溶融粘度を、ISO 11443に準拠して測定した。測定には、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いた。
[溶融張力]
上記キャピラリー式レオメーターにより、内径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、温度T1(樹脂の融点+20℃)、10mm/分のピストン押出速度の条件でオリフィスから排出した溶融ポリマーを14.8m/分及び29.6m/分の引取り速度で繊維状に引き取った際の繊維にかかる張力(mN)を測定した。
[ブロー成形性(成形品の破れの有無や均肉性)]
ブロー成形機(プラコー社製S−45ND)により、成形機のシリンダー温度およびダイ温度は表1及び表2に示す通りで、ブロー圧7kg/cm2、ダイ外径50mm、内径48mmで、直径120mm、長さ280mmの円筒状の成形品を作製し、目視により、ブロー後の成形品の破れの有無について評価した。次いで、成形品の上下中央部分を輪切りにし、肉厚の最小値と最大値を測定し、その比を均肉性の評価値とした。
[インフレ製膜性(最大ブローアップ比)]
東洋精機製ラボプラストミルに25mmφのダイを取り付け、ブロー成形性評価と同一のダイ温度でインフレーションフィルムを作製した。この際、樹脂吐出量、引取り速度、及びブロワー風量を調節しながら、安定的に製膜できる範囲内で最大限のブローアップ比を求め、フィルム成形性の指標とした。
【0035】
[製造例1](全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂LCP(A1)の合成)
p−ヒドロキシ安息香酸173重量部(56モル%)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸38重量部(9モル%)、p,p’−ジヒドロキシビフェニル52重量部(12.5モル%)、テレフタル酸65重量部(17.5モル%)、4−(N−アセトアミノ)フェノール17重量部(5モル%)、酢酸カリウム0.04重量部、無水酢酸221重量部を各々攪拌機及び留出管を備えた反応機に仕込み、十分に窒素置換した後、常圧下で150℃まで温度を上げ、攪拌を開始した。150℃で30分攪拌し、更に徐々に温度を上昇させ、副生する酢酸を留去した。温度が350℃に達したところで、徐々に反応器中を減圧し、5torrの圧力で1時間攪拌を続け、目標の攪拌トルクに達した時点で、反応器下部の排出孔を開け、窒素圧を使って樹脂をストランド状に取りだした。
排出されたストランドをペレタイザーにより粒子状にした。この全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂の融点は300℃、320℃での溶融粘度は36.8Pa・sであった。
【0036】
[製造例2](全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂LCP(A2)の合成)
p−ヒドロキシ安息香酸188重量部(60モル%)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸21重量部(5モル%)、p,p’−ジヒドロキシビフェニル53重量部(12.5モル%)、テレフタル酸66重量部(17.5モル%)、4−(N−アセトアミノ)フェノール17重量部(5モル%)、酢酸カリウム0.04重量部、無水酢酸221重量部を仕込んだ以外は製造例1と同様に行った。
得られた全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂の融点は340℃、360℃での溶融粘度は24.0Pa・sであった。
【0037】
[製造例3](比較用全芳香族ポリエステル液晶樹脂LCP(A3)の合成)
p−ヒドロキシ安息香酸345重量部(73モル%)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸175重量部(27モル%)、酢酸カリウム0.02重量部、無水酢酸350重量部を、各々攪拌機及び留出管を備えた反応機に仕込み、十分に窒素置換した後、常圧下で150℃まで温度を上げ、攪拌を開始した。150℃で30分攪拌し、更に徐々に温度を上昇させ、副生する酢酸を留去した。温度が300℃に達したところで、徐々に反応器中を減圧し、5torrの圧力で、1時間攪拌を続け、目標の攪拌トルクに達した時点で、反応器下部の排出孔を開け、窒素圧を使って樹脂をストランド状に取りだした。排出されたストランドをペレタイザーにより粒子状にした。この全芳香族ポリエステル液晶樹脂の融点は280℃、300℃での溶融粘度は50.1Pa・sであった。
【0038】
エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)として、下記のものを使用した。
A4200:日本油脂(株)社製、エチレン−GMA共重合体のポリメチルメタクリレート(PMMA)グラフト重合体。
Bondfast 2C:住友化学(株)社製、エチレン−GMA共重合体、GMAを6wt%含有、MFR3。
Bondfast E:住友化学(株)社製、エチレン−GMA共重合体、GMAを12wt%含有、MFR3。
【0039】
[実施例1〜9]
上記の如く製造した液晶樹脂LCP(A1)または(A2)と、各種変性ポリオレフィン系樹脂(B)を表1に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機(日本製鋼所製Tex30α)を使用し、シリンダー温度(LCP(A1)では320℃、LCP(A2)では360℃)、吐出量30kg/hr、回転数200rpmにて溶融混練を行い、ペレット化し、ブロー成形性およびインフレフィルム成形性を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
[比較例1〜5]
液晶性樹脂LCP(A3)と、各種変性ポリオレフィン系樹脂を表2に示す割合でドライブレンドした後、上記二軸押出機を使用し、シリンダー温度300℃で溶融混練を行った以外は、実施例1と同様の操作を行い、ブロー成形性およびインフレフィルム成形性を評価した。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)〜(V)の繰り返し重合単位:
(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基1〜15モル%、
(II)4−ヒドロキシ安息香酸残基40〜70モル%、
(III)芳香族ジオール残基5〜28.5モル%、
(IV)4−アミノフェノール残基1〜20モル%、及び
(V)芳香族ジカルボン酸残基6〜29.5モル%
(ここで芳香族ジオール残基及び芳香族ジカルボン酸残基は少なくとも一つの芳香族環を含む二価の基である。)
からなり、融点が270〜370℃であり、該融点より20℃高い温度(温度T1という)でのせん断速度1000/秒における溶融粘度が20〜60Pa・sである全芳香族ポリエステルアミド液晶樹脂(A)99〜70重量%と、
エポキシ変性ポリオレフィン系樹脂(B)1〜30重量%
とを配合(両者の合計は100重量%である。)し、両者を溶融混練してなる樹脂組成物であり、上記温度T1でのせん断速度1000/秒における該樹脂組成物の溶融粘度が60〜4000Pa・s、引取り速度14.8m/分における溶融張力が20mN以上である押出し成形用樹脂組成物。
【請求項2】
(I)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸残基6〜15モル%、
(II)4−ヒドロキシ安息香酸残基40〜70モル%、
(III)芳香族ジオール残基5〜28.5モル%、
(IV)4−アミノフェノール残基1〜20モル%、及び
(V)芳香族ジカルボン酸残基6〜29.5モル%
からなる請求項1記載の押出し成形用樹脂組成物。
【請求項3】
引取り速度14.8m/分における溶融張力に対する、2倍の引取り速度(29.6m/分)における溶融張力の増加比率(溶融張力増加率という)が、1.05倍以上である請求項1または2記載の押出し成形用樹脂組成物。
【請求項4】
押出し成形が、ブロー成形、チューブ成形、インフレーションフィルム成形または異形押出し成形である請求項1〜3のいずれか1項に記載の押出し成形用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形用樹脂組成物を押出し成形してなる押出し成形品。
【請求項6】
成形品が、中空成形体である請求項5記載の押出し成形品。
【請求項7】
中空成形体が、ブロー成形容器、インフレーションフィルム、ライナー、チューブ、パイプである請求項6記載の押出し成形品。

【公開番号】特開2006−152227(P2006−152227A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−6457(P2005−6457)
【出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】