説明

押出ダイス

【課題】押出ダイスのウエルドチャンバ内における押出材料の流速差を減少させることで、中空又は半中空形状の押出材の寸法安定性を向上させること。
【解決手段】押出ダイス1Aは、その軸心部50から半径外方向に延びた複数のブリッジ53を有する。押出ダイス1Aの外周側ベアリング部32の内側に、押出材の中空部又はトング部を成形するプラグ部7が配置されている。プラグ部7の外周部に内周側ベアリング部71が設けられている。軸心部50からプラグ部7に向かって突出する突出部6がウエルドチャンバ25内に配置されている。突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aに、該外周面における各メタルホール53の下流側部分6bよりも内周側ベアリング部71に対して半径方向内側に凹んだ凹み部7が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空又は半中空形状の押出材を押出加工により製造する際に用いられる押出ダイス、及び押出材の製造方法に関する。
【0002】
なお本明細書及び特許請求の範囲において、上流及び下流とは、それぞれ押出方向に対し上流及び下流を意味している。また、中空形状の押出材を「中空形材」、半中空形状の押出材を「半中空形材」という。
【背景技術】
【0003】
押出材として例えば中空形材を押出加工により製造する際に用いられる押出ダイスは、特開2008−36662号公報(特許文献1)等に開示されているように、中空形材の外周面を成形する外周側ベアリング部と、その上流側に配置されたウエルドチャンバと、その上流側にダイス軸に沿って配置された軸心部と、その周囲に配置された複数のメタルホールと、軸心部から半径外方向に延びるとともに周方向に隣り合う各メタルホール間に配置された複数のブリッジなどを有している。
【0004】
外周側ベアリング部の内側には中空形材の中空部を成形するプラグ部が配置されるとともに、該プラグ部の外周部には中空形材の内周面を成形する内周側ベアリング部が形成されている。そして、外周側ベアリング部と内周側ベアリング部との間に、中空形材を成形する成形孔が形成されている。軸心部には、ウエルドチャンバ内に配置されるとともに軸心部からプラグ部に向かって突出する突出部が設けられている。プラグ部はこの突出部の下流側端部に一体に形成されており、これにより、プラグ部が突出部を介して軸心部に支持されている。
【0005】
この押出ダイスを用いた押出加工では、各メタルホールから導入された押出材料がウエルドチャンバ内で合流及び溶着(圧着)されて成形孔を通過する。これにより、所定の断面形状の中空形材が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−36662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種の押出ダイスでは、ウエルドチャンバ内で突出部の周囲を成形孔に向かって流れる押出材料の流速は、各ブリッジの存在によって突出部の周方向において異なっている。その結果、この流速差によって中空形材の寸法安定性が低下するという難点があった。
【0008】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、ウエルドチャンバ内における押出材料の流速差を減少させることで中空又は半中空形状の押出材の寸法安定性を向上させうる押出ダイス、及び該押出ダイスを用いた押出材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1] 中空又は半中空形状の押出材の外周面を成形する外周側ベアリング部と、
前記外周側ベアリング部の上流側に配置されたウエルドチャンバと、
前記ウエルドチャンバの上流側に配置された軸心部と、
上流側から前記ウエルドチャンバにかけて押出方向に沿って貫通し且つ前記軸心部の周囲にその周方向に所定間隔をおいて配置された複数のメタルホールと、
前記軸心部から半径外方向に延びるとともに周方向に隣り合う前記各メタルホール間に配置された複数のブリッジと、
前記外周側ベアリング部の内側に配置されるとともに押出材の中空部又はトング部を成形するプラグ部と、
前記プラグ部の外周部に設けられるととともに押出材の内周面を成形する内周側ベアリング部と、
前記ウエルドチャンバ内に配置されるとともに前記軸心部から前記プラグ部に向かって突出する突出部と、を有し、
前記外周側ベアリング部と前記内周側ベアリング部との間に、押出材を成形する成形孔が形成され、
前記各メタルホールから導入された押出材料が前記ウエルドチャンバ内で合流及び溶着されて前記成形孔を通過するようにした押出ダイスであって、
前記突出部の外周面における前記各ブリッジの下流側部分に、該外周面における前記各メタルホールの下流側部分よりも前記内周側ベアリング部に対して半径方向内側に凹んだ凹み部が形成されていることを特徴とする押出ダイス。
【0011】
[2] 前記凹み部の底面形状が凹円弧面状である前項1記載の押出ダイス。
【0012】
[3] 前項1又は2記載の押出ダイスを用いて中空又は半中空形状の押出材を押出加工により製造することを特徴とする押出材の製造方法。
【0013】
さらに本発明は、以下の構成を採用しても良い。
【0014】
[4] 押出材は、半中空形状のものであり、
押出ダイスは、ダイス本体と、前記ダイス本体の上流側に配置されるホールプレートとに分割されており、
前記突出部と前記プラグ部とは互いに別体に形成されており、
前記ダイス本体は、押出材のトング開口部を成形するトング開口部成形部と前記プラグ部と前記内周側ベアリング部と前記外周側ベアリング部と前記成形孔とを有するとともに、前記プラグ部が前記トング開口部成形部を介して前記ダイス本体の外周部に一体に形成されており、
前記ホールプレートは、前記軸心部と前記突出部と前記メタルホールと前記ブリッジとを有するとともに、前記突出部が軸心部に一体に形成されている前項1又は2記載の押出ダイス。
【0015】
[5] 前記突出部は、前記プラグ部に対し非固定状態となっている前項4記載の押出ダイス。
【0016】
[6] 前記突出部の下流側端面は、前記プラグ部の上流側端面よりも面積が小さく設定されている前項4又は5記載の押出ダイス。
【0017】
[7] 上流側から押出方向に沿って見た正面視状態において、前記突出部の下流側端面の輪郭線が、前記内周側ベアリング部の輪郭線よりも半径方向内側に配置されている前項4〜6のいずれかに記載の押出ダイス。
【0018】
[8] 前記突出部が前記プラグ部に対し離間した状態に配置されている前項4〜7のいずれかに記載の押出ダイス。
【0019】
[9] 前項4〜8のいずれかに記載の押出ダイスを用いて半中空形状の押出材を押出加工により製造することを特徴とする押出材の製造方法。
【0020】
[10] 押出材は、中空形状のものであり、
前記突出部の下流側端部に前記突出部が一体に形成されている前項1又は2記載の押出ダイス。
【発明の効果】
【0021】
本発明は以下の効果を奏する。
【0022】
前項[1]の押出ダイスによれば、突出部の外周面における各ブリッジの下流側部分に、該外周面における各メタルホールの下流側部分よりも内周側ベアリング部に対して半径方向内側に凹んだ凹み部が局部的に形成されている。これにより、ウエルドチャンバ内で突出部の周囲を押出材料が成形孔に向かって流れる際に、突出部の周方向における押出材料の流速差が減少する。その結果、押出材の寸法安定性を向上させることができる。
【0023】
前項[2]の押出ダイスでは、ウエルドチャンバ内で突出部の周囲を押出材料が成形孔に向かって流れる際に、突出部の周方向における押出材料の流速差が大幅に減少する。その結果、押出材の寸法安定性を大幅に向上させることができる。
【0024】
前項[3]の押出材の製造方法によれば、中空又は半中空形状の押出材の寸法安定性を向上させることができる。
【0025】
前項[4]の押出ダイスでは、製品形状を決定する内周側及び外周側ベアリング部がダイス本体側に集約されているので、互いに組み合わされる雌型(ポートプレート)及び雄型(ホールプレート)から構成されるポートホールダイス等のホローダイスに比べて、内周側及び外周側ベアリング部間の位置調節等、ベアリング部の寸法精度や形状の管理を精度良く簡単に行うことができ、高品質の半中空形状の押出材を簡単かつ確実に製造することができる。
【0026】
前項[5]の押出ダイスでは、押出荷重によって押出ダイスに撓みが発生して、突出部が変位したとしても、その変位による悪影響がプラグ部に及ぶようなことがない。そのため、押出ダイスの耐久性を向上させることができる。
【0027】
前項[6]及び[7]の押出ダイスでは、所望するメタルフローを形成することができ、安定した押出加工を行えて、高品質の半中空形材をより確実に製造することができる。
【0028】
前項[8]の押出ダイスでは、突出部がプラグ部に対し離間した状態に配置されているので、押出荷重によって押出ダイスに撓みが発生して、突出部が下流側に押し出されたとしても、突出部がプラグ部に圧接するのを有効に防止できる。このため、プラグ部に多大な荷重が加わることがなく、トング開口部成形部の破損を確実に防止でき、これにより押出ダイスの耐久性を更に向上させることができる。
【0029】
前項[9]の押出材の製造方法によれば、半中空形状の押出材の寸法安定性を向上させることができる。
【0030】
前項[10]の押出ダイスによれば、中空形状の押出材の寸法安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る押出ダイスを具備した押出加工装置を、中空形状の押出材としての中空形材を製造している途中の状態で示す断面図である。
【図2】図2は、同押出ダイスの断面図である。
【図3】図3は、同押出ダイスを、ダイス本体とホールプレートとに分離して示す斜視図である。
【図4】図4は、同ホールプレートの突出部の拡大斜視図である。
【図5】図5は、同ホールプレートを下流側から見た背面図である。
【図6】図6は、同押出加工装置を用いて製造される中空形材の断面図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る押出ダイスを具備した押出加工装置を、半中空形状の押出材としての半中空形材を製造している途中の状態で示す断面図である。
【図8】図8は、同押出ダイスの断面図である。
【図9】図9は、同押出ダイスの突出部及びプラグ部周辺を拡大した断面図である。
【図10】図10は、同押出ダイスを、ダイス本体とホールプレートとに分解して示す一部切欠き斜視図である。
【図11】図11は、同押出ダイスを上流側から見た正面図である。
【図12】図12は、同押出ダイスのダイス本体を上流側から見た正面図である。
【図13】図13は、同押出加工装置を用いて製造される半中空形材の断面図である。
【図14】図14は、上記第1実施形態の押出ダイスの一変形形態を示す、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0033】
図1〜6は、本発明の第1実施形態を説明する図である。図1において、10は、第1実施形態に係る押出ダイス1Aを具備した押出加工装置である。この押出加工装置10は、直接押出加工方式のものであり、押出ダイス1Aを始め、その他に、コンテナ11、ステム12等を具備している。
【0034】
この押出加工装置10により製造される押出材8は、図6に示すように、中空形状のものである。以下では、第1実施形態の押出材8を「中空形材81」という。
【0035】
中空形材81は、断面多角環状のものであり、詳述すると断面四角環状のものであり、即ち四角パイプ材である。中空形材81は、その内側に設けられ、かつ長さ方向(押出方向E)に延びる中空部82を有している。81a及び81bはそれぞれ中空形材81の内周面及び外周面である。
【0036】
この中空形材81の材質は、金属であり、詳述するとアルミニウム(その合金を含む。以下同じ)である。
【0037】
第1実施形態の押出ダイス1Aは、図2及び3に示すように、ホローダイスであり、詳述すると、雄型と雌型が互いに組み合わされて構成されるポートホールダイスであり、押出方向Eに対し下流側に配置される雌型としてのダイス本体2と、上流側に配置される雄型としてのホールプレート5とに分割されている。ダイス本体2及びホールプレート5は、例えば、SKD61、SKD11等のダイス鋼、又はセラミック製である。
【0038】
押出ダイス1Aのダイス本体2は、外周側ベアリング部32、ウエルドチャンバ25などを有している。
【0039】
外周側ベアリング部32は、中空形材81の外周面81bを成形する部位であり、その断面形状は中空形材81の外周面81bの断面形状と同形である。
【0040】
ウエルドチャンバ25は、ダイス本体2の上流側端面(正面)の中央部が凹状に形成されることにより、外周側ベアリング部32の上流側に配置されている。
【0041】
また、ダイス本体2の上流側端面(正面)における外周縁部には、上流側に突出する嵌合凸縁部29が周方向に連続して形成されている。
【0042】
押出ダイス1Aのホールプレート5は、軸心部50、複数のメタルホール55、複数のブリッジ53、プラグ部7などを有している。
【0043】
軸心部50は、ウエルドチャンバ25の上流側における押出ダイス1Aの中心部に押出ダイス1Aのダイス軸Nに沿って配置されている。
【0044】
各メタルホール55は、ホールプレート5(押出ダイス1A)の上流側からウエルドチャンバ25にかけて押出方向Eに沿って貫通し且つ軸心部50の周囲にその周方向に等間隔に配置されている。メタルホール55の数は4つである。メタルホール55の断面形状(正面視形状)は略1/4円形状である。
【0045】
各ブリッジ53は、軸心部50から半径外方向に延びるとともに、周方向に互いに隣り合う各メタルホール55、55間に配置されており、さらに、ホールプレート5(押出ダイス1A)の円環状の外周部5aに一体に連結されている。ブリッジ53の数は、メタルホール55の数と同じく4つである。
【0046】
プラグ部7は、中空形材81の中空部82を成形する部位であり、図2に示すように、ダイス本体2の外周側ベアリング部32の内側に配置される。プラグ部7の外周部における外周側ベアリング部32との対向部分には、その全周に亘って、中空形材81の内周面81aを成形する内周側ベアリング部71が形成されている。そして、内周側ベアリング部71と外周側ベアリング部32との間に、中空形材81を成形する成形孔3が形成されている。この成形孔3はウエルドチャンバ25と連通しており、その断面形状は中空形材81の断面形状と同形であり、即ち四角環状である。
【0047】
各ブリッジ53は、詳述すると、ホールプレート5(押出ダイス1A)を下流側から押出方向Eに対向して見た背面視において、軸心部50の外周部における成形孔3の各角部に対応する部分から半径外方向に延びている(図5参照)。
【0048】
軸心部50には、該軸心部50からプラグ部7に向かってダイス軸N(押出方向E)に沿って突出する突出部6が一体に形成されている。突出部6は、ウエルドチャンバ25内に配置されている。そして、本第1実施形態では、この突出部6の下流側端部(即ち突出部6の先端部)にプラグ部7が一体に形成され、これによりマンドレルが構成されている。したがって、プラグ部7は、突出部6を介して軸心部50に支持されている。
【0049】
また、ホールプレート5の下流側端面(背面)における外周縁部には、ダイス本体2の嵌合凸縁部29に対応して、嵌合凹段部59が周方向に連続して形成されている。
【0050】
そして、ホールプレート5の嵌合凹段部59内に、ダイス本体2の嵌合凸縁部29が嵌合されるようにして、ダイス本体2とホールプレート5とが組み合わされて、本第1実施形態の押出ダイス1Aが製作される。
【0051】
図1に示すように、この押出ダイス1Aでは、各メタルホール55から導入された押出材料9はウエルドチャンバ25内で合流及び溶着(圧着)されて成形孔3を通過する。これにより、成形孔3の断面形状に対応した断面形状の中空形材81が製造される。
【0052】
而して、図3〜5に示すように、この押出ダイス1Aでは、突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aに、該外周面における各メタルホール55の下流側部分6bよりも内周側ベアリング部71に対して半径方向内側に凹んだ凹み部4が形成されている。
【0053】
この凹み部4は、次のように形成されたものである。すなわち、突出部6の断面形状を、プラグ部7の内周側ベアリング部71の位置での断面形状に対し相似形状に形成したのち、突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aを切削加工等により局部的に除去することにより、凹み部4が形成されている。したがって、突出部6の断面形状は、プラグ部7の内周側ベアリング部71の位置での断面形状(略四角形状)に対する相似形状を突出部6の基準断面形状とするとともに、突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aが外周面側から内側に局部的に除去された断面形状となっている。各凹み部4の幅寸法Hは、ブリッジ43の厚さ寸法Bに対し例えば40〜100%に設定される(図4参照)。
【0054】
凹み部4の底面形状は凹円弧面状である。凹み部4は突出部6の軸心部50側の端からプラグ部7側の端までの領域に亘って形成されている。
【0055】
図1に示すように、押出ダイス1Aは、押出加工装置10のコンテナ11の下流側にダイスホルダー(図示せず)を介して保持されている。
【0056】
本第1実施形態の押出加工装置10を用いた押出加工は、周知の押出加工方法と同様に行われる。すなわち、押出加工装置10のコンテナ11内に装填された押出材料9としてのアルミニウムビレットをステム12でダミーブロック13を介して押出方向Eへ押す。すると、押出材料9が各ブリッジ53によって各メタルホール55に分流されて各メタルホール55から導入される。そして、押出材料9がウエルドチャンバ25内で合流及び溶着(圧着)されて成形孔3を通過する。これにより、押出材料9が成形加工されて成形孔3の断面形状に対応した図6に示す断面形状の中空形材81が製造される。
【0057】
本第1実施形態の押出ダイス1Aによれば、突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aに、該外周面における各メタルホール55の下流側部分6bよりも内周側ベアリング部71に対して半径方向内側に凹んだ凹み部4が局部的に形成されている。これにより、ウエルドチャンバ25内で突出部6の周囲を押出材料9が成形孔3に向かって流れる際に、突出部6の周方向における押出材料9の流速差が減少する。その結果、中空形材81の寸法安定性を向上させることができる。
【0058】
特に、凹み部4の底面形状が凹円弧面状であることにより、ウエルドチャンバ25内で突出部6の周囲を押出材料9が成形孔3に向かって流れる際に、突出部6の周方向における押出材料9の流速差が大幅に減少する。その結果、中空形材81の寸法安定性を大幅に向上させることができる。
【0059】
なお、上記第1実施形態では、中空形材81の断面形状は四角環状であるが、本発明では、中空形材81の断面形状はこれに限定されるものではなく、様々に変更可能である。例えば、中空形材81の断面形状が円環状であり、即ち中空形材81が丸パイプ材であっても良いし、その他の断面形状であっても良い。
【0060】
図7〜13は、本発明の第2実施形態を説明する図である。これらの図には、上記第1実施形態と同じ要素に同じ符号が付されている。本第2実施形態について、上記第1実施形態との相異点を中心に以下に説明する。
【0061】
本第2実施形態の押出ダイス1Bを具備する押出加工装置10により製造される押出材8は、図13に示すように、半中空形状のものである。以下では、第2実施形態の押出材8を「半中空形材85」という。
【0062】
半中空形材85は、リップ溝型(リップチャンネル状)の形状を有しており、トング比が高い略C字状の断面形状に形成されている。
【0063】
この半中空形材85は、その内側に設けられ、かつ長さ方向(押出方向E)に延びるトング部86(ボイド部)と、周壁に設けられ、かつ長さ方向に延びるスリット状のトング開口部87とを有し、トング開口部87を介してトング部86が外部に開放されている。85a及び85bはそれぞれ半中空形材85の内周面及び外周面である。
【0064】
本第2実施形態の押出ダイス1Bは、図8〜10に示すように、上記第1実施形態の押出ダイス1Aと同様に、ダイス本体2とホールプレート5とに分割されている。しかるに、本第2実施形態では、突出部6とプラグ部7とは互いに別体に形成されている。そのため、ホールプレート5は内周側及び外周側ベアリング部のいずれも備えておらず、雄型として機能するものではないが、便宜上、ダイス本体2を雌型、ホールプレート5を雄型と称する場合もある。
【0065】
この押出ダイス1Bでは、突出部6は、ウエルドチャンバ25内に配置されるとともに、軸心部50に一体に形成されて該軸心部50に支持されている。プラグ部7は、半中空形材85のトング部86を成形する部位であり、図10に示すように、半中空形材85のトング開口部87を成形するトング開口部成形部23を介してダイス本体2の円環状の外周部21に一体に形成されている。これにより、プラグ部7は、トング開口部成形部23を介してダイス本体2の外周部21に片持ち状に支持されている。
【0066】
したがって、ダイス本体2は、トング開口部成形部23、プラグ部7、内周側ベアリング部71、外周側ベアリング部32、成形孔3、ウエルドチャンバ25などを有している。ホールプレート5は、軸心部50、突出部6、複数のメタルホール55、複数のブリッジ53などを有している。
【0067】
なお、この押出ダイス1Bでは、成形孔3を構成する内周側ベアリング部71と外周側ベアリング部32などの全てのベアリング部がダイス本体2に形成されており、そのため、この押出ダイス1Aは、ホローダイスではなくソリッドダイスとして捉えることもできる。
【0068】
プラグ部7の上流側端面(正面)は、ダイス軸N(押出方向E)に対し直交する平坦面に形成されている。このプラグ部7の上流側端面形状(正面形状)は、半中空形材85のトング部86の断面形状に対応した形状、即ち略四角形状に形成されている。
【0069】
ここで、突出部6は、半中空形材85の製品形状を決定するベアリング部(内周側ベアリング部71)を有するものではないので、雄型のダミー成形部として捉えることができる。
【0070】
なお、突出部6は、押出加工時において、主として、押出材料9の流れ(メタルフロー)を制御して、プラグ部7に加わる押出荷重(圧力)を調整するものであり、流動制御部や圧力制御部と称するようにしても良い。
【0071】
突出部6の下流側端面(背面)は、ダイス軸N(押出方向E)に対し直交する平坦面に形成されている。さらに、上記第1実施形態と同様に、突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aに、該外周面における各メタルホール55の下流側部分6bよりも内周側ベアリング部71に対して半径方向内側に凹んだ凹み部4が形成されている。凹み部4の底面形状は凹円弧面状であり、凹み部4が突出部6の軸心部50側の端からプラグ部7側の端(即ち突出部6の下流側端面)までの領域に亘って形成されている。凹み部4の形成方法は上記第1実施形態と同じである。
【0072】
突出部6の断面形状及び下流側端面形状は、それぞれ、プラグ部7の断面形状及び上流側端面形状に対する相似形状を突出部6の基準断面形状及び基準端面形状とするとともに、突出部6の外周面における各ブリッジの下流側部分6aが外周面側から内側に局部的に除去された断面形状及び端面形状となっている。
【0073】
突出部6の下流側端面(背面)は、図11に示すように、上流側から押出方向Eに沿って見た正面視状態において、プラグ部7の上流側端面(正面)に対し一回り小さく形成されている。具体的には、正面視又は背面視状態において、プラグ部7の上流側端面の面積に対する、突出部6の下流側端面の面積の割合(百分率)、換言すれば、突出部6の下流側端面によりプラグ部7の上流側端面が隠蔽される割合(隠蔽率)は、60〜97%に設定するのが良く、より好ましくは75〜95%に設定するのが良い。すなわち、この突出部6によるプラグ部7の隠蔽率が小さ過ぎる場合には、後述するように、押出加工時におけるプラグ部7への押出荷重を十分に軽減されることができず、押出荷重によりトング開口部成形部23が破損する可能性が高くなり、押出ダイス1Bの耐久性の低下を来すおそれがある。逆に突出部6による隠蔽率が大き過ぎる場合には、後述するように、押出加工時におけるメタルフローを適切に制御することが困難になり、安定した押出加工を行うことが困難になるおそれがある。
【0074】
もっとも本発明においては、プラグ部7の圧力軽減効果のみを重要視する場合には、突出部6による隠蔽率を100%以上に、つまり突出部6の下流側端面形状を、プラグ部7の上流側端面形状よりも大きく形成するようにしても良い。さらに隠蔽率を105%以上にすれば、圧力軽減効果は、より一層高くなる。
【0075】
ここで図12に示すように、本第2実施形態において、プラグ部7とトング開口部成形部23との境界線は、プラグ部7の内周側ベアリング部71の両端部を結ぶ仮想の直線Lによって構成されている。従ってこの仮想の直線Lと、内周側ベアリング部71とによって、プラグ部7の上流側端面の輪郭線(外周形状)が特定されるとともに、この輪郭線によって囲まれる領域がプラグ部7の上流側端面の領域となり、この領域の面積がプラグ部7の上流側端面の面積と等しくなる。
【0076】
さらに、トング長さ(仮想直線Lの長さ)としてのトング開口部成形部23の幅寸法を「W」、プラグ部7の上流側端面の面積を「St」としたとき、トング比Tは、St/Wで求められる。そして本発明では、トング比Tが4以上(T≧4)の高トング比の押出ダイス1Bに好適に採用することができる。
【0077】
また、突出部6の下流側端面の輪郭線は、正面視又は背面視状態において、プラグ部7の上流側端面の輪郭線よりも半径方向内側に配置されている。
【0078】
さらに、突出部6の下流側端面とプラグ部7の上流側端面とは略平行に配置されている。
【0079】
図9に示すように、第2実施形態の押出ダイス1Bでは、ダイス本体2とホールプレート5とが組み合わされた状態において、突出部6の下流側端面と、プラグ部7の上流側端面との間には隙間20が形成されている。この隙間20の幅寸法S2の下限値は、0.1mmに設定するのが望ましく、隙間20の幅寸法S2の上限値は、成形孔3の幅寸法(ベアリング幅)S1と同等に設定するのがより好ましい。つまり0.1mm≦「S2」≦「S1」の関係が成立するように構成するのが良い。
【0080】
ここで、隙間20の幅寸法S2が小さ過ぎる場合には、押出加工時にホールプレート5に加わる押出荷重によって、ホールプレート5が下流側へ撓んだ際に、ホールプレート5の突出部6が、ダイス本体2のプラグ部7に圧接し、プラグ部7に大きな荷重が加わって、その荷重によってトング開口部成形部23が破損する可能性が高くなるおそれがある。逆に幅寸法S2が大き過ぎる場合、つまり幅寸法S2が成形孔3の幅寸法S1を超える場合には、ビレットによって構成される押出材料9が、突出部6およびプラグ部7間の隙間20に浸入し易くなる。この隙間20に押出材料9が浸入して押出材料9をかみ込んでしまうと、押出荷重によってホールプレート5が下流側へ撓んだ際に、突出部6が押出材料9を介してプラグ部7を押圧し、プラグ部7が撓んでトング開口部成形部23が破損する可能性が高くなるおそれがある。
【0081】
また本第2実施形態の押出ダイス1Bにおいては、突出部6とプラグ部7とは、ボルトやねじ等で機械的に連結固定されることはなく、突出部6とプラグ部7とは、非連結状態ないし非固定状態、つまり互いに連係されることのないフリーな状態となっている。
【0082】
本第2実施形態の押出加工装置10を用いた押出加工は、周知の押出加工方法と同様に行われる。
【0083】
本第2実施形態の押出ダイス1Bによれば、突出部6の外周面における各ブリッジ53の下流側部分6aに、該外周面における各メタルホール55の下流側部分よりも内周側ベアリング部71に対して半径方向内側に凹んだ凹み部4が局部的に形成されている。したがって、上記第1実施形態の押出ダイス1Aと同じく、半中空形材85の寸法安定性を向上させることができる。
【0084】
さらに、この押出ダイス1Bによれば、突出部6とプラグ部7とが互いに別体に形成されるとともに、ウエルドチャンバ25内に配置された突出部6が軸心部50からプラグ部7に向かって突出している。そのため、押出加工時に、押出材料9がプラグ部7の外周側を流動し、これにより、押出材料9がプラグ部7の中心部(主要部)に圧接することがなく、プラグ部7に加わる押出荷重が軽減される。このため、その押出荷重によりトング開口部成形部23が破損する可能性を低く抑えることができ、もって押出ダイス1Bの耐久性を向上させることができる。
【0085】
さらに、突出部6をプラグ部7に対し離間させているため、押出荷重によって押出ダイス1Bのホールプレート5に撓みが発生して、突出部6が下流側に押し出されたとしても、突出部6がプラグ部7に圧接するのを有効に防止できる。このため、プラグ部7に多大な荷重が加わることがなく、この点からも、トング開口部成形部23の破損を確実に防止でき、もって押出ダイス1Bの耐久性を一層向上させることができる。
【0086】
その上さらに、突出部6をプラグ部22に対し非固定状態としているため、押出ダイス1Bのホールプレート5の撓みにより突出部6が変位したとしても、突出部6の変位に追従してプラグ部7が変位するようなことがなく、突出部6の変位による悪影響がプラグ部7に及ぶようなことがない。従ってトング開口部成形部23の破損をより確実に防止でき、もって押出ダイス1Bの耐久性をより一層確実に向上させることができる。
【0087】
なお本第2実施形態においては、突出部6およびプラグ部7間の隙間20の幅寸法S2を、成形孔3の幅寸法S1よりも狭く設定しているため、押出材料9は優先して成形孔3を通過するようになり、突出部6およびプラグ部7間の隙間20に押出材料9が浸入するのを確実に防止することができる。このため、押出材料9の隙間20への浸入による不具合、例えば隙間20に押出材料9がかみ込むことによって、ホールプレート5の撓みによる悪影響がプラグ部7に及ぶのを確実に防止でき、もって押出ダイス1Bの耐久性をより一層確実に向上させることができる。
【0088】
また本第2実施形態においては、内周側ベアリング部71や外周側ベアリング部32等、製品形状を決定するベアリング部をダイス本体2側にのみ形成しているため、一般的なホローダイスのように、内周側ベアリング部と外周側ベアリング部とが、雄型(ホールプレート)と雌型(ポートプレート)とに分散して形成されるもの(例:ポートホールダイス)と比較して、寸法精度に優れた半中空形材85を製造することができる。
【0089】
すなわち、ベアリング部が雄型および雌型に分散して形成されていると、ベアリング部の寸法精度や形状の維持・管理、例えば内周側および外周側ベアリング部間の位置関係の調整(ベアリング幅の調整)等が面倒となり、高い寸法精度を維持できず、高品質の半中空形材を製造することが困難になるおそれがある。
【0090】
これに対し、本第2実施形態においては、ベアリング部71、32をダイス本体2側に集約させているため、ベアリング部71、32間の位置調整等の各ベアリング部71、32の寸法精度や形状の維持・管理を精度良く簡単に行うことができ、高い寸法精度を維持できて、高品質の半中空形材85を簡単かつ確実に製造することができる。
【0091】
しかも、上流側から押出方向Eに沿って見た正面視状態において、図11に示すように、突出部6の下流側端面の輪郭線が、プラグ部7の上流側端面の輪郭線よりも半径方向内側に配置されている。そのため、突出部6の外周面近傍を流動する押出材料9は、プラグ部7の外周部に圧接しその外周部にガイドされて、半径方向外側(外径方向)への流れとなって、成形孔3に流入される。その一方、ウエルドチャンバ25の周壁面近傍を流動する押出材料9は、ダイス本体2の外周部21に圧接しその外周部21にガイドされて、径方向内側(内径方向)への流れとなって、成形孔3に流入される。このように押出材料9が、内径方向および外径方向の両側から成形孔3に流入されるという所望の理想的な押出材料9の流れ(メタルフロー)を形成することができ、安定した押出加工をスムーズに行えて、高品質の半中空形材製品を更に一層確実に製造することができる。
【0092】
以上で本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものであることに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々に変更可能である。
【0093】
図14には、上記第1実施形態の押出ダイス1Aの凹み部4の形状を変更した一変形形態を示している。この押出ダイス1Aでは、凹み部4の底面形状は、該凹み部4に対応するブリッジ53が軸心部50から延びる方向に対し垂直な平坦状である。
【0094】
また本発明では、上記第1実施形態とその上記変形形態と上記第2実施形態との技術思想を組み合わせて押出ダイスを構成しても良い。
【0095】
また上記実施形態では、ウエルドチャンバ25はダイス本体2に設けられているが、本発明では、その他に、ウエルドチャンバ25はホールプレート5に設けられていても良いし、ダイス本体2とホールプレート5とに跨がって設けられていても良い。すなわち、本発明では、ウエルドチャンバ25は、ダイス本体2とホールプレート5のうち少なくとも一方に設けられていれば良い。
【0096】
また上記実施形態では、押出材8の材質はアルミニウムであるが、本発明では、その他に、アルミニウム以外の金属であっても良い。
【0097】
さらに本発明では、ホールプレート5のメタルホール55やブリッジ53の数は、上記実施形態のものだけに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、中空又は半中空形状の押出材を押出加工により製造する際に用いられる押出ダイス、及び該押出ダイスを用いた押出材の製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0099】
1A、1B:押出ダイス
2:ダイス本体
25:ウエルドチャンバ
3:成形孔
32:外周側ベアリング部
4:凹み部
5:ホールプレート
50:軸心部
53:ブリッジ
55:メタルホール
6:突出部
6a:突出部の外周面における各ブリッジの下流側部分
6b:突出部の外周面における各メタルホールの下流側部分
7:プラグ部
71:内周側ベアリング部
8:押出材
81:中空形材
81a:内周面
81b:外周面
82:中空部
85:半中空形材
85a:内周面
85b:外周面
86:トング部
9:押出材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空又は半中空形状の押出材の外周面を成形する外周側ベアリング部と、
前記外周側ベアリング部の上流側に配置されたウエルドチャンバと、
前記ウエルドチャンバの上流側に配置された軸心部と、
上流側から前記ウエルドチャンバにかけて押出方向に沿って貫通し且つ前記軸心部の周囲にその周方向に所定間隔をおいて配置された複数のメタルホールと、
前記軸心部から半径外方向に延びるとともに周方向に隣り合う前記各メタルホール間に配置された複数のブリッジと、
前記外周側ベアリング部の内側に配置されるとともに押出材の中空部又はトング部を成形するプラグ部と、
前記プラグ部の外周部に設けられるととともに押出材の内周面を成形する内周側ベアリング部と、
前記ウエルドチャンバ内に配置されるとともに前記軸心部から前記プラグ部に向かって突出する突出部と、を有し、
前記外周側ベアリング部と前記内周側ベアリング部との間に、押出材を成形する成形孔が形成され、
前記各メタルホールから導入された押出材料が前記ウエルドチャンバ内で合流及び溶着されて前記成形孔を通過するようにした押出ダイスであって、
前記突出部の外周面における前記各ブリッジの下流側部分に、該外周面における前記各メタルホールの下流側部分よりも前記内周側ベアリング部に対して半径方向内側に凹んだ凹み部が形成されていることを特徴とする押出ダイス。
【請求項2】
前記凹み部の底面形状が凹円弧面状である請求項1記載の押出ダイス。
【請求項3】
請求項1又は2記載の押出ダイスを用いて中空又は半中空形状の押出材を押出加工により製造することを特徴とする押出材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−55919(P2012−55919A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200163(P2010−200163)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】