説明

押出加工装置及び押出材の製造方法

【課題】機械的強度、耐食性、光輝性などの様々な特性が各部位で異なる押出材を製造することができる押出加工装置を提供する。
【解決手段】押出加工装置60Aは、押出ダイス61のベアリング面63の押出方向Eの長さが、ベアリング面63の周方向において異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出材を製造する押出加工装置及び押出材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オートバイ等の2輪車のリム材としては、外観において十分な光輝性を得るために、リム材の内周側の表面に再結晶組織層を厚く形成することが従来より行われている。而して、従来では、2輪車のリム材は例えば押出材からなるものであり、リム材の内周面の表面に略均一な厚さの再結晶組織層が形成されていた(特許文献1参照)。このような均一な再結晶組織層が形成されていることで、リム材の内周側の表面の全てが十分が光輝性を有するものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−190150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記2輪車のリム材に対しては、各領域毎に仕上げバフ研磨等の後加工の内容(加工度等)が異なることが多く、このために、加工度の高い一部領域において再結晶組織層が多く削られてしまって、十分な光輝性が得られない領域(部位)が生じるという問題があった。
【0005】
また、リム材を始めとする様々な製品の中には、機械的強度、耐食性、導電性、熱伝導性、光反射特性等の特性が各部位で異なっていた方が望ましいものがある。しかしながら、従来の押出加工装置では、そのような製品に用いられる押出材を製造することができなかった。
【0006】
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、機械的強度、耐食性、導電性、熱電導性、光反射率などの様々な特性が各部位で異なる押出材を製造することができる押出加工装置及び押出材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の手段を提供する。
【0008】
[1] 押出材を製造する押出加工装置であって、
押出ダイスのベアリング面の押出方向の長さが、ベアリング面の周方向において異なっていることを特徴とする押出加工装置。
【0009】
[2] 押出材は、表面に再結晶組織層が他の部位よりも厚く形成されることを要求される厚肉層要求部を備えており、
ベアリング面における押出材の厚肉層要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項1記載の押出加工装置。
【0010】
[3] 押出材は、他の部位よりも低い機械的強度を要求される低強度要求部を厚肉層要求部として備えており、
ベアリング面における押出材の低強度要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項2記載の押出加工装置。
【0011】
[4] 押出材は、他の部位よりも低い耐食性を要求される低耐食性要求部を厚肉層要求部として備えおり、
ベアリング面における押出材の低耐食性要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項2又は3記載の押出加工装置。
【0012】
[5] 押出材は、2輪車のリム材に用いられるものであり、
押出材におけるリム材のスポーク取付部に対応する部位及びリム材のスポーク取付部に対して幅方向の両側にある側方領域部に対応する部位を、それぞれ押出材のスポーク取付部及び側方領域部とするとき、
押出材は、側方領域部の少なくとも一部の内周面を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材の側方領域部の少なくとも一部の内周面に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材のスポーク取付部の内周面に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項2記載の押出加工装置。
【0013】
[6] 押出材は、被保持体をかしめ保持する保持部材に用いられるものであり、
押出材における保持部材のかしめ部に対応する部位及び保持部材の非かしめ部に対応する部位を、それぞれ押出材のかしめ部及び非かしめ部とするとき、
押出材は、かしめ部を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材のかしめ部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の非かしめ部に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項2記載の押出加工装置。
【0014】
[7] 押出材を押出加工装置により製造する押出材の製造方法であって、
押出加工装置の押出ダイスのベアリング面の押出方向の長さが、ベアリング面の周方向において異なっていることを特徴とする押出材の製造方法。
【0015】
[8] 押出材は、表面に再結晶組織層が他の部位よりも厚く形成されることを要求される厚肉層要求部を備えており、
ベアリング面における押出材の厚肉層要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項7記載の押出材の製造方法。
【0016】
[9] 押出材は、2輪車のリム材に用いられるものであり、
押出材におけるリム材のスポーク取付部に対応する部位及びリム材のスポーク取付部に対して幅方向の両側にある側方領域部に対応する部位を、それぞれ押出材のスポーク取付部及び側方領域部とするとき、
押出材は、側方領域部の少なくとも一部の内周面を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材の側方領域部の少なくとも一部の内周面に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材のスポーク取付部の内周面に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項8記載の押出材の製造方法。
【0017】
[10] 押出材は、被保持体をかしめ保持する保持部材に用いられるものであり、
押出材における保持部材のかしめ部に対応する部位及び保持部材の非かしめ部に対応する部位を、それぞれ押出材のかしめ部及び非かしめ部とするとき、
押出材は、かしめ部を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材のかしめ部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の非かしめ部に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている前項8記載の押出材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明は以下の効果を奏する。
【0019】
[1]の発明では、押出ダイスのベアリング面の押出方向の長さが、ベアリング面の周方向において異なっている。したがって、押出材の表面に形成される再結晶組織層の厚さを厚くしたい領域には、ベアリング面における当該領域に対応する部分の押出方向の長さを長く設定し、一方、再結晶組織層の厚さを薄くしたい領域には、ベアリング面における当該領域に対応する部分の押出方向の長さを短く設定することにより、押出材の表面の各領域毎に厚さの異なる再結晶組織層を形成することができる。これにより、機械的強度等の機械的特性、耐食性、導電性、熱伝導性、光反射特性などの様々な特性が各部位(領域)で異なる押出材を製造することができる。
【0020】
[2]の発明では、ベアリング面における押出材の厚肉層要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されているので、押出材の厚肉層要求部の表面に再結晶組織層を押出材の他の部位よりも厚く形成することができる。
【0021】
[3]の発明では、ベアリング面における押出材の低強度要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている。そのため、押出材の低強度要求部の表面には再結晶組織層が厚く形成され、一方、押出材の他の部位の表面には再結晶組織層が薄く形成される。これにより、押出材の低強度要求部の機械的強度を押出材の他の部位よりも低くすることができる。
【0022】
[4]の発明では、ベアリング面における押出材の低耐食性要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている。そのため、押出材の低耐食性要求部の表面には再結晶組織層が厚く形成され、一方、押出材の他の部位の表面には再結晶組織層が薄く形成される。これにより、押出材の低耐食性要求部の耐食性を押出材の他の部位よりも低くすることができる。
【0023】
[5]の発明では、ベアリング面における押出材の側方領域部の少なくとも一部の内周面に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材のスポーク取付部の内周面に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている。そのため、押出材の側方領域部の少なくとも一部の内周面の表面には再結晶組織層が厚く形成され、一方、押出材のスポーク取付部の内周面の表面には再結晶組織層が薄く形成される。したがって、この押出材により製造されるリム材について、該リム材の側方領域部の少なくとも一部の内周面に仕上げバフ研磨等の後加工を施しても、この内周面には再結晶組織層が厚く形成されているので、十分な光輝性を得ることができる。
【0024】
[6]の発明では、ベアリング面における押出材のかしめ部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の非かしめ部に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている。そのため、押出材のかしめ部の表面には再結晶組織層が厚く形成され、一方、押出材の非かしめ部の表面には再結晶組織層が薄く形成される。これにより、押出材のかしめ部の耐力を局部的に低くすることができる。したがって、この押出材により製造される保持部材について、該保持部材のかしめ部を比較的弱い力で変形させることができ、これによりかしめ作業を容易に行うことができる。
【0025】
[7]〜[10]の発明では、それぞれ上記[1]、[2]、[5]及び[6]の発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る押出加工装置によりリム材用押出材を製造している途中の状態の横断面図である。
【図2】図2は、同押出材を製造している途中の状態を示す、図1中のX1−X1線に対応する縦断面図である。
【図3】図3は、同押出材を製造している途中の状態を示す、図1中のX2−X2線に対応する縦断面図である。
【図4】図4は、同押出材により製造されるリム材の横断面図である。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態に係る押出加工装置により保持部材用押出材を製造している途中の状態の横断面図である。
【図6】図6は、同押出材からなる保持部材により被保持体をかしめ保持する前の状態の横断面図である。
【図7】図7は、同保持部材により被保持体をかしめ保持した状態の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
【0028】
図1〜4は、本発明の第1実施形態に係る押出加工装置及び押出材の製造方法を説明する図である。図2及び3において、60Aは、本第1実施形態に係る押出加工装置である。
【0029】
この押出加工装置60Aにより製造される押出材30Aは、オートバイや自転車等の2輪車のリム材1に用いられるものである。
【0030】
このリム材1は、図4に示すように金属製の環状帯状体(略短筒状体)であり、詳述するとアルミニウム(その合金を含む。以下同じ)製の押出材30Aからなる。さらに、このリム材1は、図1に示す横断面形状の押出材30Aを環状に曲成し、その両端をフラッシュバット溶接により接合一体化することにより、製造されたものである。
【0031】
図4に示すように、リム材1は、その幅方向の中央領域に他の領域よりも径方向内方に向けて突出したスポーク取付部2と、該スポーク取付部2の幅方向の両側から延設された一対の側方領域部7、8とを備えている。各側方領域部7、8は、テーパー部3、4と、該テーパー部3、4の先端から略径方向外方に向けて延設されたフランジ部5、6とを備えている。
【0032】
スポーク取付部2は、横断面形状が略平板状である。このスポーク取付部2の内周面11には、スポークを取り付けるためのスポーク取付孔21が絞り加工等によって形成されている。なお、スポーク取付部2の内周面11とは、スポークが取り付けられる側の面である。
【0033】
各テーパー部3、4は、スポーク取付部2の幅方向の各側縁に連接して形成された傾斜部である。即ち、各テーパー部3、4は、スポーク取付部2の幅方向の各側縁から幅方向外方に向けて径方向外方に傾斜するように延設されている。各テーパー部3、4は、横断面形状が略平板状に形成されている。
【0034】
各フランジ部5、6は、各テーパー部3、4の先端に連接して形成されたものである。即ち、各フランジ部5、6は、各テーパー部3、4の先端から略径方向外方に向けて延設されたものである。フランジ部5、6は、横断面形状が略平板状に形成されている。
【0035】
リム材1の内周面11の表面にはその全周に亘って再結晶組織層13が形成されている。即ち、リム材1の内部は繊維状組織で形成されており、この繊維状組織層14の内周面11に全周に亘って再結晶組織層13が形成されている。この再結晶組織層13は、厚さ分布を有するように形成されている。すなわち、側方領域部7、8のテーパー部3、4の内周面11の再結晶組織層13の厚さTは、スポーク取付部2の内周面11の再結晶組織層13の厚さSよりも大きい(即ち、T>S)。さらに、テーパー部3、4の内周面11の再結晶組織層13の厚さTは、フランジ部5、6の内周面11の再結晶組織層13の厚さUよりも大きい(即ちT>U)。また、フランジ部5、6の内周面11の再結晶組織層13の厚さUは、スポーク取付部2の内周面11の再結晶組織層13の厚さSと略等しい(即ち、U≒S)。このように側方領域部7、8の内周面11のうちの、仕上げバフ研磨の際にバフが他の部位よりも強く押し当てられる強バフ研磨予定部位(研磨量が多い部位)であるテーパー部3、4の内周面11の再結晶組織層13の厚さTが、スポーク取付部2の内周面11の再結晶組織層13の厚さSよりも大きいものとなされているから、このテーパー部3、4を含めて内周面11の全体に後加工で仕上げバフ研磨を施しても、テーパー部3、4の内周面11に所望厚さの再結晶組織層13を確保することができ、このような再結晶組織層13の存在によってリム材11の表面外観として十分な光輝性を得ることができる。
【0036】
また、リム材1の外周面12の表面にもその全体に亘って再結晶組織層13が薄く形成されている。この再結晶組織層13の厚さVは、リム材1の外周面12の全体に亘って略均一であり、且つリム材1の内周面11に形成された再結晶組織層13の厚さよりも小さい。したがって、テーパー部3、4の内周面11の再結晶組織層13の厚さTと、スポーク取付部2の内周面11の再結晶組織層13の厚さSと、リム材1の外周面12の再結晶組織層13の厚さVとは、T>S>Vの関係になっている。各層の厚さについて具体的に例示すると、テーパー部3、4の内周面11の再結晶組織層13の厚さTは100〜250μmの範囲に設定され、スポーク取付部2の内周面11の再結晶組織層13の厚さSは80〜180μmの範囲に設定され、リム材1の外周面12の再結晶組織層13の厚さVは30〜100μmの範囲に設定されている。
【0037】
なお図面では、リム材1の内周面11及び外周面12に再結晶組織層13が形成されていることを分かり易くするため、再結晶組織層13の厚さを誇張して図示している。
【0038】
上記のような押出材30Aの表面における再結晶組織層13の厚さ分布の形成は、本第1実施形態の押出加工装置60Aのように押出ダイスのベアリング面の長さを各領域毎に変化させた構成とすることで可能である。本第1実施形態の押出加工装置60Aの構成を以下に説明する。
【0039】
押出加工装置60Aは、図1〜3に示すように、押出ダイス61、コンテナ65等を備えている。押出ダイス61には、コンテナ65内に装填されたビレット66を押出加工するベアリング孔62(成形孔)が設けられている。ベアリング孔62の横断面形状は、リム材1の横断面形状と同じである。このベアリング孔62内をビレット66が通過することにより、ビレット66が押出加工されてリム材用押出材30Aが製造される。なお、64は、押出ダイズ61のリリーフ孔である。
【0040】
本第1実施形態では、リム材用押出材30Aの材質は、Zn:6.4質量%及びMg:1.4質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるAl−Zn−Mg系合金である。この押出材30Aを製造する押出加工条件としては、ビレット温度が420℃〜500℃、押出速度が2m/min〜15m/minである。
【0041】
押出材30Aは、リム材1のスポーク取付部2に対応する部位と、リム材1の両側方領域部7、8に対応する部位とを備えており、両部位は互いに平行に押出方向Eに延びて形成されている。
【0042】
ここで説明の便宜上、押出材30Aにおけるリム材1のスポーク取付部2に対応する部位及びリム材1の側方領域部7、8に対応する部位を、それぞれ押出材30Aのスポーク取付部2及び側方領域部7、8という。
【0043】
また本第1実施形態では、押出材30Aは、側方領域部7、8のテーパー部3、4の内周面11を、表面に再結晶組織層13が他の部位よりも厚く形成されることを要求される厚肉層要求部31とするものである。
【0044】
押出ダイス61のベアリング面63は、ベアリング孔62の周面からなる。このベアリング面63の押出方向Eの長さは、ベアリング面63の周方向において異なっている。
【0045】
なお以下に記するベアリング面63やその部分の長さとは、ベアリング面63やその部分の押出方向Eの長さを意味する。
【0046】
図2及び3に示すように、ベアリング面63における押出材30Aの側方領域部7、8のテーパー部3、4の内周面11に対応する部分(テーパー部内周面対応部)63tの長さL2は、ベアリング面63における押出材30Aのスポーク取付部2の内周面11に対応する部分(スポーク取付部内周面対応部)63sの長さL1よりも長く設定されている(即ち、L2>L1)。さらに、ベアリング面63における押出材30Aのリム材外周面12に対応する部分(リム材外周面対応部)63vの長さL0は、L2及びL1よりも短く設定されている(即ち、L2>L1>L0)。
【0047】
ベアリング面の各対応部の長さの比L0:L1:L2は、例えば1:1.5〜3:2〜4である。さらに、L0は例えば2〜4mmの範囲に設定され、L1は例えば3〜6mmの範囲に設定され、L2は例えば4〜8mmの範囲に設定される。
【0048】
このようにベアリング面63の長さをベアリング面63の周方向において異ならせることにより、ベアリング面63から作用される加工歪み量がベアリング面63の周方向において変化するので、この加工歪み量に応じて押出材30Aの表面の各領域毎に厚さの異なる再結晶組織層13を形成することができる。すなわち、押出材30Aの側方領域部7、8のテーパー部3、4の内周面11の表面には再結晶組織層13(その厚さT)が厚く形成され、一方、押出材30Aのスポーク取付部2の内周面11の表面には再結晶組織層13(その厚さS)がテーパー部3、4の内周面11の再結晶組織層13の厚さTよりも薄く形成され、更に、押出材30Aのリム材外周面12の表面には再結晶組織層13(その厚さV)がスポーク取付部2の内周面11の再結晶組織層13の厚さSよりも薄く形成される。したがって、この押出材30Aにより製造されるリム材1について、該リム材1の側方領域部7、8のテーパー部3、4の内周面11に仕上げバフ研磨等の後加工を施しても、この内周面11には再結晶組織層13が厚く形成されているので、十分な光輝性を得ることができる。
【0049】
さらに、この押出材30Aは、テーパー部3、4の内周面11の表面に再結晶組織層13が他の部位よりも厚く形成されているので、テーパー部3、4の内周面11における機械的特性(例:耐力、引張強さ)、耐食性(例:耐SCC性)、導電性、熱伝導性及び光反射特性(例:反射率、光沢度、光輝性)のうち少なくとも一つの特性を他の部位(領域)と異ならせることができる。なお、SCC性とは応力腐食割れ性のことである。
【0050】
図5〜7は、本発明の第2実施形態を説明する図である。
【0051】
本第2実施形態では、押出材30Bは、図6及び7に示すように、断面略円形状の棒状の被保持体44をかしめ保持する金属製保持部材(保持具)40に用いられるものであり、すなわちこの保持部材40は押出材30Bからなる。
【0052】
この保持部材40は、横断面形状が略コ字状(略U字状)の金属製であり、詳述するとアルミニウム製である。さらに、この保持部材40は、互いに離間して対向状に配置された一対の板状のかしめ部41、41と、両かしめ部41、41の基端部同士を一体に連結した非かしめ部としての基板部42とを備えており、両かしめ部41、41と基板部42とで囲まれた凹部を、被保持体44を収容保持する収容凹部43とするものである。
【0053】
そして、この保持部材40は、図6に示すように被保持体44を収容凹部43内に収容した状態で、図7に示すように両かしめ部41、41を収容凹部43の開口を閉じるようにそれぞれ塑性的に屈曲変形させることにより、被保持体44をかしめ保持するものである。本第2実施形態では、保持部材40の各かしめ部41、41は、保持部材40の基板部42よりも低い耐力を要求される低強度要求部である。
【0054】
保持部材40の表面にはその全体に亘って再結晶組織層13が形成されている。保持部材40の各かしめ部41の表面に形成された再結晶組織層13の厚さFは、保持部材40の他の部位、即ち基板部42(非かしめ部)の表面に形成された再結晶組織層13の厚さGよりも大きい(即ち、F>G)。これにより、保持部材40の各かしめ部41における機械的強度としての耐力が局部的に低くなっている。各層13の厚さについて具体的に例示すると、かしめ部41の再結晶組織層13の厚さFは200〜1000μmの範囲に設定され、基板部42の再結晶組織層13の厚さGは20〜300μmの範囲に設定される。
【0055】
この保持部材40に用いられる押出材30Bは、保持部材40の両かしめ部41、41に対応する部位と、保持部材40の基板部42に対応する部位とを備えており、両部位は互いに平行に押出方向に延びて形成されている。
【0056】
ここで説明の便宜上、押出材30Bにおける保持部材40のかしめ部41に対応する部位及び保持部材40の基板部42に対応する部位を、それぞれ押出材30Bのかしめ部41及び基板部42という。
【0057】
また本第2実施形態では、押出材30Bは、各かしめ部41(即ち低強度要求部)を、表面に再結晶組織層13が他の部位よりも厚く形成されることを要求される厚肉層要求部31とするものである。
【0058】
この押出材30Bは、本発明の第2実施形態の押出加工装置60Bにより製造されたものである。この押出加工装置60Bの押出ダイス61のベアリング孔62の横断面形状は、図5に示すように、保持部材40の横断面形状と同じである。
【0059】
本第2実施形態では、保持部材用押出材30Bの材質は、Mg:1.0質量%及びSi:0.8質量%を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるAl−Mg−Si系合金である。この押出材30Bを製造する押出加工条件としては、ビレット温度が500℃〜550℃、押出速度が10m/min〜20m/minである。
【0060】
押出ダイス61のベアリング面63における押出材30Bの各かしめ部41に対応する部分(かしめ部対応部)63fの長さは、ベアリング面63における押出材30Bの基板部42に対応する部分(基板部対応部)63gの長さよりも長く設定されている。具体的には、ベアリング面63のかしめ部対応部63fの長さと基板部対応部63gの長さとの比は、例えば1.5〜20:1に設定される。
【0061】
本第2実施形態の押出加工装置60Bによれば、押出ダイス61のベアリング面63における押出材30Bのかしめ部41に対応する部分(かしめ部対応部)63fの長さが、ベアリング面63における押出材30Bの基板部42に対応する部分(基板部対応部)63gの長さよりも長く設定されているため、押出材30Bのかしめ部41の表面には再結晶組織層13が厚く形成され、一方、押出材30Bの基板部42の表面には再結晶組織層13がかしめ部41よりも薄く形成される。これにより、押出材30Bのかしめ部41の耐力を押出材30Bの基板部42の耐力よりも局部的に低くすることができる。したがって、この押出材30Bにより製造される保持部材40について、該保持部材40のかしめ部41を比較的弱い力で変形させることができ、これによりかしめ作業を容易に行うことができる。
【0062】
以上で本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものであることに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
【0063】
また本発明では、押出材は、リム材1や保持部材40に用いられるものであることが特に望ましいが、これらに限定されるものではなく、その他に、車両用構造材や産業用機器等に用いられるものであっても良い。
【0064】
また本発明では、押出加工装置により製造された押出材は、その後で、押出材の表面にアルマイト処理などの表面処理を施しても良い。
【0065】
また上記第1及び第2実施形態では、押出材は中実なものであるが、本発明では、その他に、押出方向に延びた中空部を有するもの、即ちパイプ材や中空パネル材等の中空なものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、リム材、保持部材等に用いられる押出材を製造する押出加工装置及び押出材の製造方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:2輪車のリム材
2:スポーク取付部
3:テーパー部
4:テーパー部
7:側方領域部
8:側方領域部
11:内周面
12:外周面
13:再結晶組織層
30A、30B:押出材
31:厚肉層要求部
40:保持部材
41:かしめ部(低強度要求部)
42:基板部(非かしめ部)
44:被保持体
60A、60B:押出加工装置
61:押出ダイス
63:ベアリング面
E:押出方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出材を製造する押出加工装置であって、
押出ダイスのベアリング面の押出方向の長さが、ベアリング面の周方向において異なっていることを特徴とする押出加工装置。
【請求項2】
押出材は、表面に再結晶組織層が他の部位よりも厚く形成されることを要求される厚肉層要求部を備えており、
ベアリング面における押出材の厚肉層要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項1記載の押出加工装置。
【請求項3】
押出材は、他の部位よりも低い機械的強度を要求される低強度要求部を厚肉層要求部として備えており、
ベアリング面における押出材の低強度要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項2記載の押出加工装置。
【請求項4】
押出材は、他の部位よりも低い耐食性を要求される低耐食性要求部を厚肉層要求部として備えおり、
ベアリング面における押出材の低耐食性要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項2又は3記載の押出加工装置。
【請求項5】
押出材は、2輪車のリム材に用いられるものであり、
押出材におけるリム材のスポーク取付部に対応する部位及びリム材のスポーク取付部に対して幅方向の両側にある側方領域部に対応する部位を、それぞれ押出材のスポーク取付部及び側方領域部とするとき、
押出材は、側方領域部の少なくとも一部の内周面を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材の側方領域部の少なくとも一部の内周面に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材のスポーク取付部の内周面に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項2記載の押出加工装置。
【請求項6】
押出材は、被保持体をかしめ保持する保持部材に用いられるものであり、
押出材における保持部材のかしめ部に対応する部位及び保持部材の非かしめ部に対応する部位を、それぞれ押出材のかしめ部及び非かしめ部とするとき、
押出材は、かしめ部を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材のかしめ部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の非かしめ部に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項2記載の押出加工装置。
【請求項7】
押出材を押出加工装置により製造する押出材の製造方法であって、
押出加工装置の押出ダイスのベアリング面の押出方向の長さが、ベアリング面の周方向において異なっていることを特徴とする押出材の製造方法。
【請求項8】
押出材は、表面に再結晶組織層が他の部位よりも厚く形成されることを要求される厚肉層要求部を備えており、
ベアリング面における押出材の厚肉層要求部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の他の部位に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項7記載の押出材の製造方法。
【請求項9】
押出材は、2輪車のリム材に用いられるものであり、
押出材におけるリム材のスポーク取付部に対応する部位及びリム材のスポーク取付部に対して幅方向の両側にある側方領域部に対応する部位を、それぞれ押出材のスポーク取付部及び側方領域部とするとき、
押出材は、側方領域部の少なくとも一部の内周面を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材の側方領域部の少なくとも一部の内周面に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材のスポーク取付部の内周面に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項8記載の押出材の製造方法。
【請求項10】
押出材は、被保持体をかしめ保持する保持部材に用いられるものであり、
押出材における保持部材のかしめ部に対応する部位及び保持部材の非かしめ部に対応する部位を、それぞれ押出材のかしめ部及び非かしめ部とするとき、
押出材は、かしめ部を厚肉層要求部とするものであり、
ベアリング面における押出材のかしめ部に対応する部分の押出方向の長さが、ベアリング面における押出材の非かしめ部に対応する部分の押出方向の長さよりも長く設定されている請求項8記載の押出材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−179345(P2010−179345A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26091(P2009−26091)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】