説明

押出成形品の製造方法及び製造装置

【課題】押出成形品を冷却水で冷却する際に、押出成形品の表面に円形跡が生じることを防止できるようにする。
【解決手段】押出成形品11を冷却する冷却水として、溶存する気体を減少させる脱気処理を施した冷却水(以下「脱気冷却水」という)を用いる。脱気処理を施した脱気冷却水は、脱気処理前の冷却水に比べて溶存する気体(空気)の量が極めて少ないため、脱気冷却水が押出成形品11に接触して加熱された際に、気泡がほとんど発生しないか又は発生する気泡のサイズが小さくなる。これにより、押出成形品11の表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくすることができて、押出成形品11の表面全体をほぼ同じ冷却速度で冷却することが可能となり、押出成形品11の表面に視認できるような大きさの円形跡が生じることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマー材料を押出成形して押出成形品を製造する押出成形品の製造方法及び製造装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に装着される長尺なモール材等の押出成形品は、押出成形機で熱可塑性樹脂等の熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品を押出成形し、その長尺な押出成形品を冷却水槽等の冷却機で冷却して固化させた後に所定の長さ寸法に切断することで、所定形状の押出成形品を製造するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−354079号公報(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、気体を除去する格別の処理が行われていない自然状態の水道水、井戸水、湧き水、湖水、河川水等には、気体(空気)が溶存しているが、溶存可能な気体の飽和量は一定気圧のもとでは水温に反比例し、水温が低いときよりも高いときの方が気体の飽和量が低下する。
【0004】
このため、加熱状態で押出成形された押出成形品を冷却水で冷却する際に、押出成形品に接触した冷却水は、押出成形品との接触部分やその近傍において水温が急激に上昇して気体の飽和量が低下する。その結果、冷却水に溶存しきれなくなった気体が泡となって発生して、押出成形品の表面に気泡が付着することがある。
【0005】
このように、押出成形品を冷却水で冷却する際に、押出成形品の表面に気泡が付着すると、冷却固化した押出成形品の表面に、直径が0.1mm〜0.3mm程度で、深さが数μmから数百μmの凹んだ円形の跡(気泡の跡)が生じることがある。この原因は、押出成形品の表面のうちの気泡が付着した部分では、その周辺の気泡が付着していない部分(つまり冷却水と直接接触している部分)よりも冷却速度が遅くなるからと考えられる。このような円形跡の直径が0.25mm(気泡の径で概ね1mm)を越えると、肉眼で視認可能となるため、押出成形品が装飾機能を求められる部分に使用される場合には、装飾性を損なうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、押出成形品を冷却水で冷却する際に押出成形品の表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくすることができて、押出成形品の表面に円形跡が生じることを防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、所定の熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品を押出成形する押出成形工程と、この押出成形工程で押出成形された押出成形品を冷却水に接触させて冷却すると共に固化させる冷却工程とを含む押出成形品の製造方法であって、冷却工程において、冷却水として、溶存する気体を減少させる脱気処理を施した冷却水(以下「脱気冷却水」という)を用いるようにしたものである。
【0008】
脱気処理を施した脱気冷却水は、脱気処理前の冷却水に比べて溶存する気体(空気)の量が極めて少ないため、冷却工程で脱気冷却水を用いるようにすれば、脱気冷却水が押出成形品に接触して加熱された際に、気泡がほとんど発生しないか又は発生する気泡のサイズが小さくなる。これにより、押出成形品の表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくすることができて、押出成形品の表面全体をほぼ同じ冷却速度で冷却することが可能となり、押出成形品の表面に視認できるような大きさの円形跡が生じることを防止することができる。
【0009】
また、請求項2のように、冷却工程において、押出成形品の横断面形状を整形するサイジング機を用いて押出成形品を下流方向へ移動させながら押出成形品の横断面形状を整形すると共に押出成形品を脱気冷却水に接触させて冷却するようにしても良い。このようにすれば、押出成形品の表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくしながら、押出成形品の横断面形状の整形と冷却を同時に行うことができる。
【0010】
更に、請求項3のように、冷却工程において、サイジング機の整形面と押出成形品の表面との間の隙間に脱気冷却水を流入させるようにしても良い。このようにすれば、押出成形品の横断面形状の整形と冷却を効率良く行うことができる。
【0011】
この場合、請求項4のように、サイジング機の整形面と押出成形品の表面との間の隙間寸法を0.05mm以上1.5mm以下に設定すると良い。このようにすれば、押出成形品の整形精度を確保しながら、サイジング機の整形面と押出成形品の表面との間の隙間に脱気冷却水を確実に流入させることができる。
【0012】
また、請求項5のように、冷却工程において、脱気冷却水を50℃以下の温度で供給して押出成形品の表面に接触させ、押出成形品の表面に接触して加熱された脱気冷却水を排出するようにしても良い。このようにすれば、押出成形品の表面付近に加熱された脱気冷却水が滞ることがなく、常に新たに供給されてくる50℃以下の脱気冷却水で押出成形品を冷却することができ、押出成形品を効果的に冷却することができる。
【0013】
この場合、請求項6のように、脱気冷却水を30℃以下の温度で供給するようにしても良い。このようにすれば、押出成形品をより効果的に冷却することができる。
【0014】
また、押出成形品の製造装置は、請求項7のように、所定の熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品を押出成形する押出成形機と、押出成形機により押出成形された押出成形品を冷却水に接触させて冷却すると共に固化させる冷却機とを備えた押出成形品の製造装置であって、所定の冷却水に溶存する気体を減少させる脱気処理を施す脱気処理機と、この脱気処理機により脱気処理を施した冷却水(以下「脱気冷却水」という)を冷却機に供給する脱気冷却水供給機とを設けるようにすると良い。このようにすれば、脱気冷却水を用いて押出成形品を冷却することが可能となり、押出成形品の表面に視認できるような大きさの円形跡が生じることを防止できる。
【0015】
更に、請求項8のように、冷却機には、押出成形品の横断面形状を整形する整形面が形成された通過孔を有するサイジング機を設け、該サイジング機の通過孔内に脱気冷却水を供給するようにすると良い。このようにすれば、脱気冷却水によって押出成形品を冷却しながら、押出成形品の横断面形状を整形することができる。
【0016】
また、請求項9のように、脱気処理機は、脱気処理として、所定の冷却水にかかる気圧を大気圧よりも低下させて溶存する気体を減少させる処理を行うようにしても良い。或は、請求項10のように、脱気処理機は、脱気処理として、所定の冷却水を加熱して溶存する気体を減少させた後に冷却する処理を行うようにしても良い。いずれの場合も、市販の脱気処理機を採用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体化した一実施例を説明する。
図1に示すように、車両に装着される長尺なモール材等の押出成形品11は、押出成形機14で所定の熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品連続体11Aを押出成形し、その押出成形品連続体11Aを冷却機15の冷却水で冷却して固化させた後に切断機40で所定の長さ寸法に切断することで、所定の長さ寸法の押出成形品11を製造する。
【0018】
この押出成形品11は、車両に装着された場合に、外部に露出して装飾性を要求される装飾部12(図2参照)と、この装飾部12の裏面側に突出して車両の被取付部に取り付けられる脚部13(図2参照)とが一体的に形成されている。この押出成形品11を押出成形する熱可塑性ポリマー材料は、結晶性の熱可塑性ポリマー材料が用いられる。具体的には、ポリプロピレンやポリエチレン樹脂等のオレフィン系熱可塑性樹脂又はポリアミド樹脂を主体とする樹脂材料や、オレフィン系熱可塑性エラストマーを主体とする材料が用いられる。
【0019】
ところで、気体を除去する格別の処理が行われていない自然状態の水道水、井戸水、湧き水、湖水、河川水等(以下「自然水」という)には、気体(空気)が溶存しているが、溶存可能な気体の飽和量は一定気圧のもとでは水温に反比例し、水温が低いときよりも高いときの方が気体の飽和量が低下する。
【0020】
このため、押出成形品の冷却水として自然水を用いると、加熱状態で押出成形された押出成形品を冷却水で冷却する際に、押出成形品に接触した冷却水は、押出成形品との接触部分やその近傍において水温が急激に上昇して気体の飽和量が低下する。その結果、冷却水に溶存しきれなくなった気体が泡となって発生して、押出成形品の表面に気泡が付着することがある。このように、押出成形品を冷却水で冷却する際に、押出成形品の表面に気泡が付着すると、冷却固化した押出成形品の表面に、直径が0.1mm〜0.3mm程度で、深さが数μmから数百μmの凹んだ円形の跡(気泡の跡)が生じることがある。
【0021】
本発明者らは、押出成形品の冷却水として自然水を用いた場合に、押出成形品の表面に付着した気泡によって円形跡が生じる現象を詳細に観察して調査したところ、次のような事実を発見した。
【0022】
(1) 加熱して軟化(溶融状態を含む)させた熱可塑性ポリマー材料から所定横断面形状の長尺な押出成形品を押出成形し、その長尺な押出成形品を冷却水(自然水)に接触させて冷却する際に、押出成形品の表面に気泡が付着したままの状態で冷却水中を下流側に移動しながら冷却されている部分に円形跡が発生していること。気泡は、押出成形品の重力方向で上側の表面で発生して、そのままの位置に付着するものと、下側の表面で発生して、押出成形品が下流側へ移動している途中で押出成形品の幅方向に移動して上側の表面に付着するものとがある。
【0023】
(2) 円形跡の発生は、押出成形品を押出成形する熱可塑性ポリマー材料の材質によって程度に相違があること。具体的には、熱可塑性ポリマー材料という同じ範疇に入るポリマー材料であっても、結晶性の熱可塑性ポリマー材料(典型的には、ポリプロピレンやポリエチレン樹脂を代表例とするオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリアミド樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー)の方が、非結晶性の熱可塑性ポリマー材料(典型的には、ABS樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂等の熱可塑性樹脂)よりも円形跡(特に凹みを伴う円形跡)が顕著に発生すること。
【0024】
尚、押出成形直後の押出成形品の横断面形状を整形する整形面が形成された通過孔を有するサイジング機を用いて、このサイジング機の通過孔内(サイジング機の整形面と押出成形品の表面との間の隙間)に冷却水(自然水)を供給して押出成形品を冷却しながら、押出成形品の横断面形状を整形する場合の方が、サイジング機を通過させずに押出成形品を冷却水槽の冷却水(自然水)中に浸漬させて冷却する場合よりも気泡が発生し易い。
【0025】
本発明者らは、上記(1),(2) から次のような推定をした。
押出成形品を冷却水に接触させて冷却する際に、加熱して軟化した状態から気泡が付着したままの状態で所定時間(通常の押出成形では数十秒から数分)冷却される部分は、気泡が断熱材の役割を果たして冷却水に直接接触していないので、その周辺の気泡が付着していない部分(冷却水と直接接触している部分)よりも冷却速度が遅くなる。このため、押出成形品の表面のうちの気泡が付着した部分(冷却水に直接接触していない部分)は徐冷されるが、その周辺の気泡が付着していない部分(冷却水に直接接触している部分)は急冷されることになる。
【0026】
また、結晶性の熱可塑性ポリマー材料は、加熱して軟化した非結晶の状態から急冷されるよりも徐冷されるほうが結晶化度が高くなり、結晶化度が高い部分は結晶化度が低い部分よりも密度が高く且つ体積が小さくなることが学術的に知られている。
【0027】
以上のことから、押出成形品の表面のうちの気泡が付着した部分(徐冷される部分)では、その周辺の気泡が付着していない部分(急冷される部分)と比較して結晶化度が高くなって急冷される部分よりも大きな体積収縮が生じるため、局部的な凹みが発生し、この凹みが円形跡として視認されると推定した。
【0028】
尚、押出成形直後の押出成形品をサイジング機で整形する場合に気泡が発生し易くなる原因は、サイジング機の整形面と押出成形品の表面との間の隙間は、通常で1.5mm以下と小さいため、その隙間に存在する冷却水の量が少なく、その隙間部分で冷却水の温度が短時間で高温に達して気体が溶存できる飽和量が低下するからであると推定する。
【0029】
更に、非結晶性の熱可塑性ポリマー材料(典型的には、ABS樹脂、ポリ塩化ビニール樹脂等の熱可塑性樹脂)の場合においても同様の円形跡が生じることがある。この円形跡は、結晶性の熱可塑性ポリマー材料の場合ほど凹みが顕著ではないが、冷却速度の差による徐冷部分と急冷部分とで表面の色や艶に差が生じて円形跡として視認されるものと推定する。
【0030】
このような円形跡は、直径が0.25mmを越えると、肉眼で視認可能となるため、押出成形品が装飾機能を求められる部分に使用される場合には、装飾性を損なうという問題がある。
【0031】
この対策として、本実施例では、後述する冷却機15の上流部に配置した真空サイジング機16と一次冷却機17では、押出成形品連続体11Aを冷却する冷却水として、溶存する気体(空気)を減少させる脱気処理を施した冷却水(以下「脱気冷却水」という)を用いるようにしている。
【0032】
脱気処理を施した脱気冷却水は、脱気処理前の冷却水(例えば自然水)に比べて溶存する気体(空気)の量が極めて少ないため、冷却工程で脱気冷却水を用いるようにすれば、脱気冷却水が押出成形品連続体11Aに接触して加熱された際に、気泡がほとんど発生しないか又は発生する気泡のサイズが小さくなる。これにより、押出成形品連続体11Aの表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくするようにしている。
【0033】
以下、図1乃至図5を用いて押出成形品11の製造装置及び製造方法を説明する。
図1に示すように、まず、押出成形機14で、熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品連続体11Aを押出成形する押出成形工程を実行する。
【0034】
この後、押出成形機14から送り出される押出成形品連続体11Aを冷却機15に供給する。この冷却機15で、押出成形品連続体11Aを冷却水に接触させて冷却すると共に固化させる冷却工程を実行する。この冷却機15には、真空サイジング機16と一次冷却機17と二次冷却機18が上流側から下流側に向かって順番に配置されている。また、冷却機15の近傍には、所定の冷却水(新たに供給される自然水、又は真空サイジング機16や一次冷却機17で使用した脱気冷却水)に脱気処理を施す脱気処理機42と、この脱気処理機42により脱気処理を施した脱気冷却水を真空サイジング機16と一次冷却機17に供給する脱気冷却水供給機19が配置されている。
【0035】
冷却機15は、まず、真空サイジング機16で、押出成形品連続体11Aの冷却と整形を同時に行う。尚、押出成形機14から送り出される押出成形品連続体11Aの温度は、使用する成形材料によって差異はあるが、一般的な熱可塑性ポリマー材料の場合には、150〜250℃に加熱されて押し出される。典型的な例としてオレフィン系熱可塑性エラストマーの場合には、概ね180〜220℃に加熱されて押し出される。
【0036】
図2乃至図5に示すように、真空サイジング機16には、上側サイジング型20と下側サイジング型21が設けられている。下側サイジング型21には、上側サイジング型20に向けて突出する位置決めピン22(図4参照)が複数箇所に設けられ、上側サイジング型20には、各位置決めピン22に対応する位置にそれぞれ位置決め孔23(図4参照)が設けられている。尚、上側サイジング型20に位置決めピン22を設けて、下側サイジング型21に位置決め孔23を設けるようにしても良い。位置決めピン22を位置決め孔23に挿入するように上側サイジング型20と下側サイジング型21を嵌め合わせることで上側サイジング型20と下側サイジング型21が一体化され、これらの上側サイジング型20と下側サイジング型21の合わせ面に、押出成形品連続体11Aが通過する通過孔24が形成されている。
【0037】
図3乃至図5に示すように、この通過孔24の内周面に、押出成形品連続体11Aの横断面形状を整形するための整形面25が形成されている。尚、図3乃至図5では下側サイジング型21側の通過孔24や整形面25等の図示を省略している。通過孔24の横断面形状(整形面25の形状)は、押出成形品連続体11Aの横断面形状を相似的に拡大した形状に形成され、整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間寸法が0.05mm以上1.5mm以下になるように設定されている。尚、図3乃至図5では前記隙間を誇張して拡大図示している。これにより、押出成形品連続体11Aの整形精度を確保しながら、整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に脱気冷却水を確実に流入させることができる。押出成形品連続体11Aの横断面形状に対する通過孔24の横断面形状(整形面25の形状)の拡大割合は、押出成形品11に要求される横断面形状の寸法精度や横断面形状の大きさによって決定される。
【0038】
尚、通過孔24の横断面形状(整形面25の形状)は、押出成形品連続体11Aが通過孔24を通過する際の冷却に伴って体積収縮するのに応じて上流側から下流側に向けて徐々に縮小させるようにしても良い。また、押出成形品連続体11Aの横断面形状の一部だけを整形する場合には、通過孔24の内周面の一部に整形面25を形成すれば良い。
【0039】
図2に示すように、真空サイジング機16の上側サイジング型20と下側サイジング型21には、それぞれ真空サイジング機16に脱気冷却水を供給するための供給口26と、真空サイジング機16から脱気冷却水を吸引するための吸引口27が設けられている。
【0040】
図3及び図4に示すように、供給口26に接続された大径の供給流路28には、周方向に複数の小径の吐出孔29が接続されている。これらの複数の吐出孔29は、押出成形品連続体11Aの幅方向に並んで配置されている。また、通過孔24の内周面には、凹溝30が押出成形品連続体11Aの幅方向に延びるように連続して形成され、この凹溝30に吐出孔29が連通している。
【0041】
一方、図3及び図5に示すように、供給流路28の下流側には、吸引口27に接続された吸引室31が設けられ、この吸引室31に、複数の小径の吸引孔32が接続されている。これらの複数の吸引孔32は、押出成形品連続体11Aの幅方向及び長手方向に並んで配置されて通過孔24に連通している。
【0042】
真空サイジング機16の上側サイジング型20と下側サイジング型21には、これらの供給流路28、吐出孔29、凹溝30、吸引孔32、吸引室31等からなる冷却水路が、押出成形品連続体11Aの下流方向への移動経路に沿った複数箇所(2箇所又は3箇所以上)に設けられている。尚、図3乃至図5では下側サイジング型21の冷却水路(供給流路28、吐出孔29、凹溝30、吸引孔32、吸引室31等)の図示を省略している。
【0043】
図1に示すように、真空サイジング機16の吸引口27には、真空ポンプ又は吸引ポンプ(以下「真空ポンプ」という)36が接続され、この真空ポンプ36によって真空サイジング機16内の脱気冷却水が吸引されて脱気処理機42に戻されるようになっている。脱気処理機42は、脱気処理として、所定の冷却水(新たに供給される自然水、又は真空サイジング機16や一次冷却機17で使用した脱気冷却水)にかかる気圧を大気圧よりも低下させて溶存する気体を減少させる処理を行うように構成されている。或は、脱気処理として、所定の冷却水を加熱して溶存する気体を減少させた後に冷却する処理を行うように構成しても良い。いずれの場合も、市販の脱気処理機を採用することができる。尚、脱気処理機42の構成を適宜変更しても良いことは言うまでもない。
【0044】
また、脱気冷却水供給機19には、脱気処理機42から供給される脱気冷却水を貯溜するタンク33と、このタンク33内の脱気冷却水をフィルタ34を介して汲み上げるポンプ35とが設けられている。このポンプ35から吐出される脱気冷却水が真空サイジング機16の供給口26に供給されるようになっている。タンク33内の脱気冷却水の温度は、押出成形品連続体11Aを冷却するのに十分な温度(例えば50℃以下、より好ましくは30℃以下)に管理されている。
【0045】
図3及び図4に示すように、脱気冷却水供給機19から真空サイジング機16の供給口26に供給された脱気冷却水は、供給流路28から吐出孔29を通って凹溝30に吐出され、この凹溝30に沿って流れて押出成形品連続体11Aの幅方向全体に行き渡る。更に、押出成形品連続体11Aの幅方向全体に行き渡った脱気冷却水は、整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に流入して、押出成形品連続体11Aと共に下流側に流れる。これにより、押出成形品連続体11Aを冷却するのに十分な温度(例えば50℃以下、より好ましくは30℃以下)に管理された脱気冷却水を押出成形品連続体11Aの表面に連続して供給する。
【0046】
この後、図3及び図5に示すように、整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に流入して加熱された脱気冷却水は、真空ポンプ36の吸引力により吸引孔32から吸引されて吸引室31に流入し、この吸引室31から吸引口27を通って真空サイジング機16の外部へ排出されて脱気処理機42に戻される。この際、真空ポンプ36の吸引力により押出成形品連続体11Aの表面を整形面35側に吸引することで、押出成形品連続体11Aの表面を確実に整形面25に沿って移動させて、押出成形品連続体11Aの横断面形状を正確に整形する。
【0047】
このようにして、真空サイジング機16の整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に脱気冷却水を流入させた後に排出する処理を押出成形品連続体11Aの下流方向への移動経路に沿った複数箇所(2箇所又は3箇所以上)で行うことで、押出成形品連続体11Aを効果的に冷却する。
【0048】
整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に流入した脱気冷却水は、押出成形品連続体11Aの表面に接触した部分で加熱されて気体が溶存できる飽和量が下がるが、脱気処理前の冷却水(例えば自然水)に比べて溶存する気体(空気)の量が極めて少ないため、気泡がほとんど発生しないか又は発生する気泡のサイズが小さくなる。
【0049】
もし、押出成形品連続体11Aの表面に小さい気泡が付着したままであったとしても、吐出孔29の下流側に隣接して設けた吸引孔32から脱気冷却水と一緒に気泡を吸引して、気泡を押出成形品連続体11Aの表面から強制的に離脱させることができる。
【0050】
また、吸引孔32付近では、押出成形品連続体11Aの表面に接触して加熱された脱気冷却水の一部が吸引孔32から吸引されて排出されるが、整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に残った脱気冷却水で薄膜が形成され、この薄膜を介して押出成形品連続体11Aの表面を整形面25側に真空吸着させながら整形面25に対して摺動させて押出成形品連続体11Aの横断面形状を整形することで、押出成形品連続体11Aの横断面形状(外形形状)を通過孔24の横断面形状(整形面25の形状)と同一形状に整形する。
【0051】
この真空サイジング機16を通過する押出成形品連続体11Aの表面は、通過孔24の内周面(整形面25)と接触しながら移動するが、脱気冷却水の薄膜を介して移動するので動摩擦係数が小さくなり、接触部分で押出成形品連続体11Aの表面に引っ掛かり等が生じず、引っ掛かり等に起因する擦り傷の発生を防止できる。
【0052】
図1に示すように、真空サイジング機16を通過した押出成形品連続体11Aは、連続して下流の一次冷却機17に供給される。この際、押出成形品連続体11Aの内部は表面に比べて高い温度を保っているが、表面は真空サイジング機16を通過する際の冷却作用によって固化していると共に、押出成形品連続体11Aの外形形状(横断面形状)も整形されて自己保形可能な状態(押出成形品連続体11Aに作用する重力では横断面形状が塑性変形しない状態)になっている。
【0053】
一次冷却機17は、一次冷却水として脱気冷却水を満たした一次冷却水槽で構成され、一次冷却水(脱気冷却水)中に押出成形品連続体11Aを浸漬させて押出成形品連続体11Aを冷却する一次冷却を行う。また、脱気冷却水供給機19から一次冷却機17の下流側に一次冷却水(脱気冷却水)が供給され、一次冷却機17の上流側から一次冷却水が排出されて脱気処理機42に戻されるようになっている。これにより、一次冷却機17内の一次冷却水は、下流側から上流側に向けて(押出成形品連続体11Aの移動方向と反対方向)流れながら排水されるようになっている。
【0054】
この一次冷却の際に、一次冷却水中に浸漬した状態で下流側に移動する押出成形品連続体11Aの表面には気泡がほとんど発生しないが、仮に押出成形品連続体11Aの表面に小さい気泡が発生しても、その気泡は押出成形品連続体11Aの移動方向と反対方向に流れる一次冷却水の抵抗を受けて短時間のうちに押出成形品連続体11Aの表面から容易に離脱する。
【0055】
一次冷却機17を通過した押出成形品連続体11Aは、連続して下流の二次冷却機18に供給される。この二次冷却機18は、二次冷却水として脱気処理を施していない冷却水(例えば自然水)を満たした二次冷却水槽で構成され、二次冷却水中に押出成形品連続体11Aを浸漬させて押出成形品連続体11Aを冷却する二次冷却を行う。この二次冷却で、押出成形品連続体11Aは内部が固化されるまで冷却される。
【0056】
二次冷却機18を通過した押出成形品連続体11Aは、連続して下流の洗浄機37に供給される。この洗浄機37で、押出成形品連続体11Aの表面に向かって洗浄水(例えば自然水を温めた温水)を噴射する洗浄工程を実行して、もし、押出成形品連続体11Aの表面に、例えば塵や埃、油滴といった異物等が付着していても、その異物等を洗い流すことができる。この洗浄工程は、後工程で押出成形品連続体11A(又は押出成形品11)の表面に塗装、別部品の接着、溶着等の化学的処理が行われる場合で、異物等の残存がその化学的処理に対して何らかの悪影響を与える可能性がある場合に実施すると良い。
【0057】
洗浄機37を通過した押出成形品連続体11Aは、連続して下流の水滴除去機38に供給される。この水滴除去機38は、押出成形品連続体11Aの表面に全周囲側からエアーを吹き付けるエアーブロー等によって押出成形品連続体11Aの表面に付着した洗浄水を吹き飛ばして除去する。
【0058】
この後、水滴除去機38を通過した押出成形品連続体11Aを引取機39で引き取りながら、切断機40に供給し、この切断機40から所定間隔だけ離れて配置された位置センサ41で押出成形品連続体11Aの先端部を検出する毎に切断機40で押出成形品連続体11Aを切断することで、押出成形品連続体11Aを所定の長さ寸法で切断する。これにより、所定の長さ寸法の押出成形品11の製造が完了する。
【0059】
以上説明した本実施例では、押出成形品連続体11Aを冷却する冷却水として、脱気冷却水を用いるようにしたので、脱気冷却水が押出成形品連続体11Aに接触して加熱された際に、気泡がほとんど発生しないか又は発生する気泡のサイズが小さくなる。これにより、押出成形品連続体11Aの表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくすることができ、押出成形品11を押出成形する熱可塑性ポリマー材料として、結晶性の熱可塑性ポリマー材料を用いても、押出成形品連続体11Aの表面全体をほぼ同じ冷却速度で冷却して結晶化度に差が生じることを防止することが可能となり、押出成形品11の表面(特に装飾部12の表面)に視認できるような大きさの円形跡が生じることを防止することができる。
【0060】
また、本実施例では、押出成形品連続体11Aを下流方向へ移動させながら真空サイジング機16を用いて押出成形品連続体11Aの横断面形状を整形すると共に押出成形品連続体11Aを脱気冷却水に接触させて冷却するようにしたので、押出成形品連続体11Aの表面に気泡が付着することを防止するか又は付着する気泡のサイズを小さくしながら、押出成形品連続体11Aの横断面形状の整形と冷却を同時に行うことができる。
【0061】
更に、本実施例では、真空サイジング機16の整形面25と押出成形品連続体11Aの表面との間の隙間に脱気冷却水を流入させるようにしたので、押出成形品連続体11Aの横断面形状の整形と冷却を効率良く行うことができる。
【0062】
また、本実施例では、脱気冷却水を50℃以下(より好ましくは30℃以下)の温度で供給して押出成形品連続体11Aの表面に接触させると共に、押出成形品連続体11Aの表面に接触して加熱された脱気冷却水を排出するようにしたので、押出成形品連続体11Aの表面付近に加熱された脱気冷却水が滞ることがなく、常に新たに供給されてくる50℃以下(より好ましくは30℃以下)の脱気冷却水で押出成形品連続体11Aを冷却することができ、押出成形品連続体11Aを効果的に冷却することができる。
【0063】
尚、上記実施例では、押出成形品連続体11Aの全体を脱気冷却水に接触させて冷却するようにしたが、押出成形品連続体11Aのうちの使用時に視認される装飾部12のみを脱気冷却水に接触させて冷却するようにしても良い。このようにしても、押出成形品11の装飾部12の表面に視認できるような大きさの円形跡が生じることを防止できる。
【0064】
また、上記実施例では、押出成形品連続体11Aを冷却する際に、真空サイジング機16を用いるようにしたが、これに限定されず、例えば、通常のサイジング機(真空吸引作用の無いサイジング機)を用いるようにしても良い。或は、押出成形品11の横断面形状の寸法許容公差が緩い場合には、真空サイジング機16又は通常のサイジング機を省略して、押出成形機14から押し出された押出成形品連続体11Aを直接に一次冷却機17に供給するようにしても良い。
【0065】
また、上記実施例では、結晶性の熱可塑性ポリマー材料で押出成形する押出成形品11の製造に本発明を適用したが、これに限定されず、非結晶性の熱可塑性ポリマー材料で押出成形する押出成形品の製造に本発明を適用しても良い。
【0066】
その他、本発明は、押出成形品の形状等を適宜変更しても良い。例えば、車両に装着されるルーフモールディングやベルトモールディング等の他のモール材に限定されず、他の車両用装飾材にも適用可能であり、更に、車両用以外の種々の押出形成品の製造に本発明を適用しても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施例における押出成形品の製造装置の概略構成図である。
【図2】真空サイジング機の斜視図である。
【図3】真空サイジング機の縦方向(上流・下流方向)に沿う断面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う横断面図である。
【図5】図3のB−B線に沿う横断面図である。
【符号の説明】
【0068】
11…押出成形品、12…装飾部、13…脚部、14…押出成形機、15…冷却機、16…真空サイジング機、17…一次冷却機、18…二次冷却機、19…脱気冷却水供給機、24…通過孔、25…整形面、28…供給流路、29…吐出孔、30…凹溝、31…吸引室、32…吸引孔、33…タンク、35…ポンプ、36…真空ポンプ、37…洗浄機、38…水滴除去機、40…切断機、42…脱気処理機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品を押出成形する押出成形工程と、前記押出成形工程で押出成形された押出成形品を冷却水に接触させて冷却すると共に固化させる冷却工程とを含む押出成形品の製造方法であって、
前記冷却工程において、前記冷却水として、溶存する気体を減少させる脱気処理を施した冷却水(以下「脱気冷却水」という)を用いるようにしたことを特徴とする押出成形品の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、前記押出成形品の横断面形状を整形するサイジング機を用いて前記押出成形品を下流方向へ移動させながら前記押出成形品の横断面形状を整形すると共に前記押出成形品を前記脱気冷却水に接触させて冷却することを特徴とする請求項1に記載の押出成形品の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程において、前記サイジング機の整形面と前記押出成形品の表面との間の隙間に前記脱気冷却水を流入させることを特徴とする請求項2に記載の押出成形品の製造方法。
【請求項4】
前記サイジング機の整形面と前記押出成形品の表面との間の隙間寸法が0.05mm以上1.5mm以下に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の押出成形品の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程において、前記脱気冷却水を50℃以下の温度で供給して前記押出成形品の表面に接触させ、前記押出成形品の表面に接触して加熱された前記脱気冷却水を排出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の押出成形品の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程において、前記脱気冷却水を30℃以下の温度で供給することを特徴とする請求項5に記載の押出成形品の製造方法。
【請求項7】
所定の熱可塑性ポリマー材料を加熱して軟化させた状態で所定横断面形状の長尺な押出成形品を押出成形する押出成形機と、前記押出成形機により押出成形された押出成形品を冷却水に接触させて冷却すると共に固化させる冷却機とを備えた押出成形品の製造装置であって、
所定の冷却水に溶存する気体を減少させる脱気処理を施す脱気処理機と、
前記脱気処理機により脱気処理を施した冷却水(以下「脱気冷却水」という)を前記冷却機に供給する脱気冷却水供給機と
を備えていることを特徴とする押出成形品の製造装置。
【請求項8】
前記冷却機には、前記押出成形品の横断面形状を整形する整形面が形成された通過孔を有するサイジング機が設けられ、該サイジング機の通過孔内に前記脱気冷却水が供給されることを特徴とする請求項7に記載の押出成形品の製造装置。
【請求項9】
前記脱気処理機は、前記脱気処理として、所定の冷却水にかかる気圧を大気圧よりも低下させて溶存する気体を減少させる処理を行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の押出成形品の製造装置。
【請求項10】
前記脱気処理機は、前記脱気処理として、所定の冷却水を加熱して溶存する気体を減少させた後に冷却する処理を行うことを特徴とする請求項7又は8に記載の押出成形品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−12614(P2010−12614A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172026(P2008−172026)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000219705)東海興業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】