説明

抽出方法および抽出システム

【課題】
本発明の目的は、短期間、省スペース、安価に微細藻の水分を完全に抽出できる抽出方法を提供することにある。
【解決手段】
微細藻を含む養液を遠心分離により微細藻と養液成分とに分離する分離工程と、分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを加圧下で撹拌混合し、水分が抽出された微細藻と該水分が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物を得る抽出工程と、前記混合物を濾過する濾過工程と、得られた濾物から前記水相溶性溶媒の気化物を揮発させて乾燥した微細藻を得る第一揮発工程とを備えた抽出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻から水分もしくは有価物を抽出する方法およびシステムに関し、より詳細にはジメチルエーテルなどの水相溶性溶媒を用いて効果的に微細藻から水分もしくは有価物を抽出する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策の一つとしてCOを吸収して成長がはやい微細藻の利用が注目されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、高増殖性、耐塩性、SOガス耐性およびNOガス耐性を有したSynechocystis属に属する微細藻類の新規株が開示されている。
【0003】
また、COを吸収するだけでなく、微細藻から燃料や化学物質の原料(以下有価物と呼ぶ)を製造する試みも行われている(例えば特許文献2参照)。特許文献2には、海水の塩分濃度で生育して細胞内に澱粉を蓄積し、暗くかつ嫌気性雰囲気に保つことにより細胞内の澱粉よりエタノールを生産するクラミドモナス属に属する微細藻が開示されている。
【0004】
微細藻から有価物を製造するには、微細藻の選定法や培養法だけでなく、微細藻から効率よく有価物を抽出する方法が必要となる。一般に微細藻から有価物は、低温圧搾法、高温圧搾法、溶媒抽出法などの方法で抽出されている(例えば特許文献3参照)。溶媒抽出法の一例として特許文献3には、ボツリオコッカス属に属する微細藻を水と均一に混ざらない非水相溶性の有機溶媒に浸漬して、炭化水素類を抽出する方法が記載されている。非水相溶性の有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチルエーテルなどが例示されている。
【0005】
しかし、特許文献3に記載の非水相溶性溶媒を用いた抽出方法では、乾燥が不十分な微細藻を使うと、表面に水分が残っているため微細藻表面に効果的に有機溶媒が接触できず、抽出効率が悪くなる。また、溶媒抽出以外の方法でも、微細藻の乾燥が不十分だと、抽出した有価物に水分等の不純物が混ざってしまい、その価値が低下してしまう。よって、有価物の抽出効率を高めるとともに、抽出された有価物の価値を向上させるためには、微細藻を完全に乾燥できる効果的な水分の抽出方法も必要となる。
【0006】
従来は、微細藻を遠心分離や天日干しで乾燥していた。なお、遠心分離は微細藻からの抽出だけでなく、多種の微細藻が混在している中から所要の微細藻を分離する方法としても用いられている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
一方、含水物質全般の脱水方法として、常温常圧下で気体である物質(ジメチルエーテル等)を用いた方法が開発されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5の脱水方法では、液化ジメチルエーテルを含水物質に接触させて、含水物質中の水分を液化ジメチルエーテルに溶解させて脱水する。接触方法としては、含水物質に液化ジメチルエーテルを通過接触させる方法がとられ、中でも一定以上の流量(100L/時間)で通過接触させる向流接触が好ましいとされている。その後、ジメチルエーテルが常温常圧下では気体となる気液相転移現象を利用して、水分が溶解した液化ジメチルエーテルからジメチルエーテルのみを選択的に揮発させて、水分とジメチルエーテルとを分離している。
【0008】
この液化ジメチルエーテルを用いた方法は、含油物質からの脱油方法にも用いることができる(例えば、特許文献6参照)。特許文献6の脱油方法では、含油物質として、油吸収剤、金属、硝子、セラミックス、紙又は土壌が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−56648号公報
【特許文献2】特許第3837589号公報
【特許文献3】特開平07−75558号公報
【特許文献4】特開平09−803号公報
【特許文献5】特開2007−83122号公報
【特許文献6】特開2007−237129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、微細藻から水分を抽出するにあたり、遠心分離だけでは微細藻から一定割合の水分を分離するのが限界であり、微細藻に多量の水分が残ってしまう。
【0011】
天日干しでは、微細藻表面の水分をある程度除去できるが、そのためには広大な面積を要するとともに、微細藻に含まれる成分によっては紫外線照射により品質が劣化する恐れがある。また、微細藻は細胞表面だけでなく細胞内にも多量の水分を有しており、例え天日干しであっても細胞内の水分を完全に抽出するのは容易ではなく、多くの時間を要してしまう。
【0012】
さらに、特許文献5や特許文献6に記載の溶媒を用いた脱水、脱油方法は、石炭や木材など一定流量の溶媒が安定して通過できるような固形物質であれば十分に水分や油分を抽出できるが、微細藻のような微細で水中浮遊するような物質には適用できない。
【0013】
以上の課題を踏まえ、本発明の第一の目的は、短期間、省スペース、安価に微細藻から水分を完全に抽出できる抽出方法および抽出システムを提供することにある。また、本発明の第二の目的は、同様に微細藻から有価物を完全に抽出できる抽出方法および抽出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係わる抽出方法は、微細藻を含む養液を遠心分離により微細藻と養液成分とに分離する分離工程と、分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを加圧下で撹拌混合し、水分が抽出された微細藻と該水分が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物を得る抽出工程と、前記混合物を濾過する濾過工程と、得られた濾物から前記水相溶性溶媒を揮発して乾燥した微細藻を得る第一揮発工程とを備えたことを特徴とする。
【0015】
微細藻と水相溶性溶媒とを撹拌混合することで、微細藻の細胞表面の水分だけでなく、細胞内の水分も浸透圧効果により十分に抽出できる。また、常温常圧下で気体である水相溶性溶媒を用いることで、濾過後の濾物から同溶媒を容易に分離でき、短時間に乾燥した微細藻を得ることができる。
【0016】
ここで、前記濾過工程で得られた濾液から前記水相溶性溶媒を揮発する第二揮発工程と、前記第一揮発工程および前記第二揮発工程で揮発させた前記水相溶性溶媒の気化物を回収する回収工程と、回収された前記水相溶性溶媒の気化物を圧縮して前記水相溶性溶媒の液化物を得る圧縮工程とをさらに備え、前記抽出工程では、前記圧縮工程で得られた前記水相溶性溶媒の液化物を再利用してもよい。
【0017】
水相溶性溶媒の気化物を回収して、抽出工程で再利用することで、廃棄物を減らして環境負荷を低減できると共に、溶媒量を減らして安価に水分を抽出することができる。
【0018】
ここで、微細藻は、前記水相溶性溶媒に溶解する有価物を含んでおり、前記混合物は、水分及び前記有価物が抽出された微細藻と、該水分及び前記有価物が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物であり、前記第二揮発工程で濾液から前記水相溶性溶媒を揮発した後に残った残液から前記有価物を分離する有価物分離工程をさらに備えてもよい。
【0019】
濾過工程で得られた濾液から有価物を抽出することで、別途有価物の抽出工程を設ける必要がなくなり、安価に有価物を抽出することができる。また、有価物は、アルコール成分もしくは油成分であることが好ましい。これらは付加価値が高く多様な用途に用いることができるためである。
【0020】
ここで、前記養液は、微細藻の培養液であり、前記分離工程で分離された前記培養液を微細藻の培養に再利用してもよい。
【0021】
分離工程で分離された培養液を回収して、微細藻の培養に再利用することで、廃棄物を減らして環境負荷を低減できる。
【0022】
ここで、前記水相溶性溶媒は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドから選択される1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0023】
ここに列挙したジメチルエーテル等の物質は入手が容易であり、比較的安価でもあることから、安価に微細藻から水分もしくは有価物を抽出することができる。
【0024】
ここで、前記濾過工程では、前記抽出工程で混合された前記混合液のうち上層を取り出して濾過してもよい。
【0025】
水相溶性溶媒として列挙したジメチルエーテル等の物質は液密度が水よりも小さい。このため、これらの液化物の中では、比重差により含水率の高い微細藻は最初沈降し、細胞内の水分が浸透圧効果で抽出されるに従って浮遊することになる。よって、混合液の上層を移送することで、細胞内の水分が十分に抽出された微細藻のみを選択的に取り出すことができ、抽出効率を向上することができる。
【0026】
さらに、本発明に係わる抽出システムは、微細藻を含む養液を微細藻と養液成分とに分離する遠心分離器と、分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを加圧下で撹拌混合し、水分が抽出された微細藻と該水分が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物を得る抽出槽と、前記混合物を濾過し、得られた濾物から前記水相溶性溶媒を揮発して乾燥した微細藻を得る濾過器とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係わる抽出方法および抽出システムによれば、短期間、省スペース、安価に微細藻から水分を完全に抽出することができる。同様に、本発明に係わる抽出方法および抽出システムによれば、微細藻から有価物も完全に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一の実施形態に係わる抽出システムの構成図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係わる抽出システムの構成図である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係わる抽出システムのうち溶媒循環プロセスの詳細構成図である。
【図4】本発明の第三の実施形態に係わる抽出方法を表すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0030】
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明の第一の実施形態に係わる抽出システムの構成図である。本実施形態に係わる抽出システム10は、微細藻を含む養液を微細藻と養液成分とに分離する遠心分離器11と、分離された微細藻と水相溶性溶媒の液化物とを撹拌混合する抽出槽12と、混合物を濾過して濾物から水相溶性溶媒を揮発させて乾燥した微細藻を得る濾過器13とから主に構成される。以降、各構成要素について詳細に説明する。
【0031】
遠心分離器11では、微細藻を含む養液を微細藻と養液成分とに分離する。遠心分離では、微細藻を含む養液を高速回転する容器に入れて、その比重差により微細藻と養液成分とに分離する。回転速度は養液成分を効果的に分離できる範囲から適宜設定すればよい。一般的には500〜10000rpmであり、このうち、1000〜5000rpmがより好ましい。なお、通常は遠心分離を行っても微細藻の細胞内の水分(重量比80〜90%の含有率)は分離(脱水)できない。
【0032】
ここで、微細藻とはミクロサイズの淡水もしくは海水に生息している小さな植物のことであり、一般に微細藻類とも呼ばれる。このうち、特に本実施形態では、有価物を製造できる微細藻を対象とする。このような微細藻には、ボトリオコッカス、クロレラ、ドナリエラ、クラミドモナスが例示できるが、これらに限定されず有価物を製造できる微細藻を広く含むものとする。
【0033】
また、養液とは微細藻が生息している環境にある液体のことである。微細藻が淡水や海水で生息していれば、淡水や海水が養液に該当する。微細藻が培養液中に培養されていれば、培養液が養液に該当する。
【0034】
抽出槽12では、分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを、加圧下で撹拌混合する。微細藻と水相溶性溶媒とが接触することで、微細藻に含まれている水分が水相溶性溶媒に溶解し、微細藻から効果的に水分が抽出される。その結果、水分が抽出された微細藻と、この水分が溶解した水相溶性溶媒の液化物との混合物が得られる。
【0035】
ここで微細藻と水相溶性溶媒とを撹拌混合するのは、微細藻の細胞表面の水分だけでなく、細胞内の水分も浸透圧効果により十分に抽出するためである。なお、撹拌速度が高すぎると微細藻の細胞壁が破れて微細藻として回収できなくなってしまうので、撹拌速度は比較的低めに設定するのが好ましい。
【0036】
本実施形態では抽出溶媒として、常温常圧下で気体である水相溶性溶媒を用いることを特徴とする。ここで常温とは外気温に近い温度を表し、一般には−10〜50℃の範囲を意味し、常圧とは1気圧前後の範囲を意味する。
【0037】
このような水相溶性溶媒としては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドなどが例示できる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。ここに列挙した物質は入手が容易であり、比較的安価でもあることから、安価に微細藻を乾燥することができる。
【0038】
例示した中でも、ジメチルエーテル単独や、ジメチルエーテルと他の物質との混合物を用いるのが好ましい。ジメチルエーテルは、化学的に安定しており、毒性が低い。また、沸点が低く(1気圧において−24.8℃)、常温で気体であるが、飽和蒸気圧も低く(25℃で0.62MPa)、加圧すると容易に液化する特徴を有する。
【0039】
微細藻と混合する水相溶性溶媒の量は、微細藻に含まれる水分量を全て溶解できる理論量以上に設定するのが好ましい。微細藻に含まれる水分を完全に抽出できるようにするためである。ジメチルエーテルの液化物は水の飽和溶解度が20℃で6.7wt%であり、この条件下では水1gを全て溶解できる理論量は14.9gとなる。実際には、この理論量の2〜10倍の水相溶性溶媒を用いるのが好ましい。
【0040】
また、抽出槽12内は、水相溶性溶媒の飽和蒸気圧以上となるように加圧する。加圧することで水相溶性溶媒が安定して液化状態を維持でき、さらに、浸透圧効果も高まり微細藻からの水分の抽出も促進される。ただし、抽出槽12内の圧力は過度に高くするのは避け、水相溶性溶媒の飽和蒸気圧を若干上回る程度に設定するのが好ましい。過度に圧力が高すぎると、容器を耐圧仕様にするコストがかかる共に微細藻の細胞壁が破壊される可能性があるためである。
【0041】
濾過器13では、抽出槽12で混合された混合物を濾過し、得られた濾物から水相溶性溶媒の気化物を揮発させる。その結果、乾燥した微細藻を得ることができる。
【0042】
濾過器13内の圧力は、水相溶性溶媒が完全に揮発できるように飽和蒸気圧以下となるまで減圧する。本実施形態では飽和蒸気圧が低い水相溶性溶媒を用いているので、濾過器13内を少し減圧するだけで濾物から同溶媒を容易に分離でき、短時間で乾燥した微細藻を得ることができる。この際、濾過器13内の圧力は、常圧まで減圧するのが好ましい。常圧の方が乾燥した微細藻を濾過器13から取り出しやすいためである。
【0043】
濾過器13にはフィルターが取り付けられており、このフィルターで混合物を濾過する。フィルターの素材、細かさは、濾過対象である微細藻の大きさから適宜設定すればよい。例えば、孔径数十μmのメンブレンフィルターを用いることができる。
【0044】
以上説明の通り、第一の実施形態に係わる抽出システムによれば、短期間、省スペース、安価に微細藻から水分を完全に抽出することができる。
【0045】
〔第二の実施形態〕
図2は、第二の実施形態に係わる抽出システムの構成図である。第二の実施形態に係わる抽出システム10は、図1に示す第1の実施形態に加えて、培養液を回収して再利用する培養液循環プロセス20と、水相溶性溶媒を回収して再利用する溶媒循環プロセス30とを備えている。なお、図2以降では、気化物(気体)の循環系統は点線で表し、液化物(液体)および固化物(固体)の循環系統は実線で表している。
【0046】
培養液循環プロセス20は、微細藻を培養する培養槽21と前述した遠心分離器11とから主に構成される。なお、第二の実施形態では、培養液を用いて微細藻を培養槽21で培養する形態を対象として説明する。
【0047】
培養槽21から微細藻を含む培養液が遠心分離器11に送られ、遠心分離器11で微細藻と培養液とに分離する。分離された培養液は培養槽21に戻されて再利用される。培養液を回収して微細藻の培養に再利用することで、廃棄物を減らして環境負荷を低減できる。
【0048】
溶媒循環プロセス30については、図3を用いて説明する。図3は、第二の実施形態に係わる抽出システムのうち溶媒循環プロセスの詳細構成図である。本プロセスは、前述した抽出槽12と濾過器13に加えて、濾液から水相溶性溶媒の気化物を揮発させる揮発槽31と、濾過器13および揮発槽31から揮発した水相溶性溶媒の気化物を回収する回収槽32と、回収された水相溶性溶媒の気化物を圧縮して水相溶性溶媒の液化物を得る圧縮機33とから主に構成される。
【0049】
圧縮機33で得られた水相溶性溶媒の液化物は抽出槽12で再利用される。水相溶性溶媒の気化物を回収して抽出槽12で再利用することで、廃棄物を減らして環境負荷を低減できると共に、溶媒量を減らして微細藻からの抽出コストも削減することができる。
【0050】
溶媒循環プロセス30での処理の流れは次の通りである。まず、遠心分離器11で分離した微細藻を抽出槽12へ移送する。移送完了後、抽出槽内を加圧ポンプ(図示しない)で加圧し、加圧完了後に第一開閉弁41を開けて圧縮機33で得られた水相溶性溶媒の液化物を注入する。
【0051】
注入完了後、第一開閉弁41を閉じて、抽出槽内で混合物を撹拌混合し、第二開閉弁42を開けて撹拌混合された混合物を濾過器13に移送して濾過する。この際、混合物の撹拌混合後に、この混合液の上層を濾過器13へ移送して濾過するのが好ましい。
【0052】
水相溶性溶媒として例示したジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドは液密度が水よりも小さい。このため、水相溶性溶媒の液化物の中では、比重差により含水率の高い微細藻は最初沈降し、細胞内の水分が浸透圧効果で抽出されるに従って浮遊することになる。よって、混合液の上層を濾過器13へ移送することで、細胞内の水分が十分に抽出された微細藻のみを選択的に取り出すことができ、抽出効率を向上することができる。
【0053】
なお、上層とは、含水率の高い微細藻が沈降する下層を除いた層のことを指し、具体的には、抽出槽内で静置された混合物の上半分より選択される任意の層のことを指す。
【0054】
混合液の濾過器13への移送完了後、第二開閉弁42を閉じると共に第三開閉弁43を開けて、濾液を揮発槽31に移送する。その後、第三開閉弁43を閉じると共に第四開閉弁44と第五開閉弁45を開けて、濾過器13および揮発槽31の内部を減圧して水相溶性溶媒の気化物を揮発させる。揮発した水相溶性溶媒の気化物を回収槽32で回収し、回収完了後に第四開閉弁44と第五開閉弁45を閉じる。回収された水相溶性溶媒の気化物は圧縮機33で圧縮されて液化物となり、再度抽出槽12で利用される。
【0055】
また、揮発槽31に残った水分等は第六開閉弁46を開けて排水処理される。
【0056】
〔第三の実施形態〕
第三の実施形態では、微細藻が水相溶性溶媒に溶解する有価物を含んでいる場合を対象とする。このような有価物には、燃料や化学物質の原料となり得る物質を広く含むが、特にアルコール成分または油成分が好ましい。アルコール成分または油成分は付加価値が高く多様な用途に用いることができるためである。アルコール成分としては、メタノール、エタノールの他、低級アルコール、高級アルコールを広く例示できる。
【0057】
油成分としては、油脂や炭化水素類が例示でき、これらは常温で液体、固体を問わず、また、揮発性、不揮発性を問わない。油脂としては、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドが例示でき、その構成脂肪酸としてはC12〜C28の脂肪酸からなる群から選択される脂肪酸(ミリストリル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸等)を例示できる。炭化水素類としては、主にC16〜C33のアルカジエンやアルカトリエン、またはテルペン類として、トリテルペン類(スクアレン)やテトラテルペン類(リコパジエン)、ボツリオコッセン(Botryococcenes)等が例示できる。
【0058】
有価物が水相溶性溶媒に溶解できるため、抽出槽12で混合された混合物には、水分及び前記有価物が抽出された微細藻と、該水分及び有価物が溶解した水相溶性溶媒の液化物とが含まれている。
【0059】
揮発槽31では、濾過器13で得られた濾液から水相溶性溶媒を揮発して、残った残液から有価物を分離することで有価物を抽出する。濾液から有価物を抽出することで、別途有価物の抽出プロセスを設ける必要がなくなり、安価に微細藻から有価物を抽出することができる。
【0060】
残液から有価物を抽出する方法には、公知の抽出法を用いることができる。残液を静置して比重差により水分と有価物とを分離してもよく、特許文献3に記載されているように非水相溶性の有機溶媒を用いて選択的に有価物を分離してもよい。
【0061】
または、水分の抽出に用いた水相溶性溶媒の特性を生かして、残液から有価物を抽出することもできる。そのプロセスは次の通りである。まず、残液から、水相溶性溶媒を一部揮発させた後で静置し、水相溶性溶媒の液化物相と水相の二液相を形成させる。水相溶性溶媒に対して有価物の溶解量に制限はないが、水分の飽和溶解量には限界があるため、水相溶性溶媒の量が少なくなると溶解できなくなった水分が析出して水相が形成される。水相の水を排水すると、有価物のみが溶解した水相溶性溶媒の液化物相が残る。ここから水相溶性溶媒を揮発させると、純度の高い有価物を簡易に抽出することができる。この水相溶性溶媒を用いた有価物の分離方法は、特に有価物が水溶性である場合に好適に用いることができる。
【0062】
次に、第三の実施形態における微細藻から水分や有価物を抽出する抽出方法について図4を用いて説明する。図4は、第三の実施形態に係わる抽出方法を表すフロー図である。
【0063】
まず、微細藻を含む養液を遠心分離により微細藻と養液成分とに分離する(分離工程S1)。分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを、加圧下で撹拌混合する(抽出工程S2)。混合された微細藻と水相溶性溶媒の液化物との混合物を濾過する(濾過工程S3)。濾物と濾液との選別を行い(S4)、濾物から水相溶性溶媒を揮発させる(第一揮発工程S5)。揮発した気化物と残留した固体物とを選別し(S6)、固体物から乾燥した微細藻を得る。ここまでは第一の実施形態と共通である。
【0064】
第二および第三の実施形態では、濾液からも水相溶性溶媒を揮発させ(第二揮発工程S7)、気化物と残液とを選別する(S8)。次に、選別工程S6およびS8で選別された水相溶性溶媒の気化物を回収する(回収工程S9)。回収された水相溶性溶媒の気化物を圧縮して水相溶性溶媒の液化物を得て(圧縮行程S10)、得られた水相溶性溶媒の液化物を抽出工程S2で再利用する。
【0065】
また、選別工程S8で選別された残液から有価物を分離して(有価物分離工程S11)、微細藻から抽出された有価物を得る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の抽出方法および抽出システムは、微細藻を用いた有価物の製造プロセスにおいて、微細藻から有価物を抽出する工程や、その前段で微細藻を乾燥する工程に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…抽出システム、11…遠心分離器、12…抽出槽、13…濾過器、
20…培養液循環プロセス、21…培養槽、
30…溶媒循環プロセス、31…揮発槽、32…回収槽、33…圧縮機、
41…第一開閉弁、42…第二開閉弁、43…第三開閉弁、44…第四開閉弁、45…第五開閉弁、46…第六開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻を含む養液を遠心分離により微細藻と養液成分とに分離する分離工程と、
分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを加圧下で撹拌混合し、水分が抽出された微細藻と該水分が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物を得る抽出工程と、
前記混合物を濾過する濾過工程と、
得られた濾物から前記水相溶性溶媒を揮発して乾燥した微細藻を得る第一揮発工程とを備えた抽出方法。
【請求項2】
前記濾過工程で得られた濾液から前記水相溶性溶媒を揮発する第二揮発工程と、
前記第一揮発工程および前記第二揮発工程で揮発させた前記水相溶性溶媒の気化物を回収する回収工程と、
回収された前記水相溶性溶媒の気化物を圧縮して前記水相溶性溶媒の液化物を得る圧縮工程とをさらに備え、
前記抽出工程では、前記圧縮工程で得られた前記水相溶性溶媒の液化物を再利用することを特徴とする請求項1に記載の抽出方法。
【請求項3】
微細藻は、前記水相溶性溶媒に溶解する有価物を含んでおり、
前記混合物は、水分及び前記有価物が抽出された微細藻と、該水分及び前記有価物が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物であり、
前記第二揮発工程で濾液から前記水相溶性溶媒を揮発した後に残った残液から前記有価物を分離する有価物分離工程をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の抽出方法。
【請求項4】
前記有価物は、アルコール成分もしくは油成分であることを特徴とする請求項3に記載の抽出方法。
【請求項5】
前記養液は、微細藻の培養液であり、
前記分離工程で分離された前記培養液を微細藻の培養に再利用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の抽出方法。
【請求項6】
前記水相溶性溶媒は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドから選択される1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の抽出方法。
【請求項7】
前記濾過工程では、前記抽出工程で混合された前記混合液のうち上層を取り出して濾過することを特徴とする請求項6に記載の抽出方法。
【請求項8】
微細藻を含む養液を微細藻と養液成分とに分離する遠心分離器と、
分離された微細藻と常温常圧下で気体である水相溶性溶媒の液化物とを加圧下で撹拌混合し、水分が抽出された微細藻と該水分が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物を得る抽出槽と、
前記混合物を濾過し、得られた濾物から前記水相溶性溶媒を揮発して乾燥した微細藻を得る濾過器とを備えた抽出システム。
【請求項9】
前記濾過器で得られた濾液から前記水相溶性溶媒を揮発する揮発槽と、
前記濾過器および前記揮発槽で揮発させた前記水相溶性溶媒の気化物を回収する回収槽と、
回収された前記水相溶性溶媒の気化物を圧縮して前記水相溶性溶媒の液化物を得る圧縮機とをさらに備え、
前記抽出槽では、前記圧縮機で得られた前記水相溶性溶媒の液化物を再利用することを特徴とする請求項8に記載の抽出システム。
【請求項10】
微細藻は、前記水相溶性溶媒に溶解する有価物を含んでおり、
前記混合物は、水分及び前記有価物が抽出された微細藻と、該水分及び前記有価物が溶解した前記水相溶性溶媒の液化物との混合物であり、
前記揮発槽では、前記濾液から前記水相溶性溶媒を揮発し、残った残液から前記有価物を分離することを特徴とする請求項9に記載の抽出システム。
【請求項11】
前記有価物は、アルコール成分もしくは油成分であることを特徴とする請求項10に記載の抽出システム。
【請求項12】
前記水相溶性溶媒は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドから選択される1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の抽出システム。
【請求項13】
前記濾過器では、前記抽出槽で混合された前記混合液のうち上層を取り出して濾過することを特徴とする請求項12に記載の抽出システム。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−67160(P2011−67160A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222268(P2009−222268)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】