説明

拍動管の力学特性検出装置及び拍動管の力学特性を検出するためのプログラム

【課題】血管のような拍動管の力学特性検出において、管壁の形状因子を含まず拍動管自体の特性を評価できるようにする。
【解決手段】拍動管の力学特性検出装置としては、拍動管における拍動流の圧力P(t)を検出する圧力検出手段と拍動管の管径(r)を検出する管径検出手段と、拍動管について圧力P(t)とr(t)の関係を表す粘弾性モデルによる式から最小二乗法を用いた回帰分析により粘性B、剛性Eを求め、さらにB,Eと拍動管壁の慣性Mとから管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,Eを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拍動管の力学特性検出装置及び拍動管の力学特性を検出するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化症疾患は血管壁の肥大化、石灰化により発症すると考えられ、特に血管壁の肥大化による動脈硬化は脳梗塞、心筋梗塞、大動脈瘤などの要因になる。動脈硬化性疾患の発症を予防するためには、検査により動脈硬化をできるだけ早期に発見し、治療する必要がある。
【0003】
動脈硬化は動脈の硬さに関連しているとされることから、動脈硬化の検査指標として動脈硬化度が用いられている。動脈硬化度は圧力と歪みから算出され、血管壁の厚み、組織の硬さを含んだ指標であり、動脈硬化度(スティフネスパラメータ)、剛性等が用いられる。血管壁が肥大化した(血管壁の厚みが増大した)場合には、組織の硬さが一定であっても血管壁の剛性が増大する。血管壁が石灰化した場合には、血管壁の厚みが一定であっても、血管壁組織が硬くなり、剛性が増大する。
【0004】
動脈硬化の血管への影響としては動脈硬化度だけでなく粘性も変化することが考えられる。動脈の粘性特性は血管壁における平滑筋の特性を反映したものであり、粘性は圧力と歪み速度から求められる。また、血管壁の肥大化による動脈硬化の初期症状として、血管壁内膜における平滑筋の増殖があると考えられる。
【0005】
動脈硬化度を検査することについて、下記の文献に記載されるようなものがある。特許文献1には、脳波伝播速度と血圧とに基づいて算出したCAVIから新たな動脈硬化指数としてPWVori等を導出し動脈硬化度を評価することについて記載されている。
【0006】
特許文献2には、プロトコフ音の消失する圧力値が動脈硬化の程度依存することを利用した動脈硬化度を推定することについて記載されている。また、特許文献3には、心電計による心電図と、光電脈波計によるプレチスモグラムと、血圧値とに基づいて、血管壁を粘弾性モデル化した場合の粘性、剛性、慣性の相対値の経時的変化を求める血管壁モニタリングについて記載されている。
【特許文献1】特開2007−14684号公報
【特許文献2】特開2007−244605号公報
【特許文献3】特開2006−129958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動脈硬化の早期発見を実現するためにはホームヘルスケアが重要になる。現状では脈波伝播速度を用いた動脈硬化度の測定を専門施設で行うことがなされているが、これはそのための専門技術者が行うことになり、また、測定に際しては全身を拘束する必要があり、ホームヘルスケアとしては、より簡易で局所の動脈についての測定から動脈硬化を推定できるようにすることが望まれる。
【0008】
また、動脈硬化の血管への影響は動脈硬化だけでなく粘性も変化することが考えられるため、粘弾性特性を検出することが望まれる。さらに、従来用いられている動脈硬化度、剛性というようなパラメータは血管壁の厚さ、径という形状因子を含んだものであり、それらのみでは血管壁自体の特性を評価する上では十分でなかった。
【0009】
特許文献3に示されるような血管壁モニタリング装置では、機械的インピーダンスモデルにより算出した慣性、粘性、剛性は血管壁の厚みの影響を含んでいる。この場合に血管壁の厚み、血管径を測定してそれらの影響を除去することが望ましいが、光電法を用いた場合には血管壁の厚みを測定するのは困難である。このように、特許文献3のような血管壁モニタリングで血管壁の厚みの影響の除去、血管の力学特性を正確に算出する上では難点があった。
【0010】
このように、従来の動脈硬化度の検出においては、血管壁の厚み、径という形状因子が含まれたものとしての検出を行っており、血管壁自体の特性を評価する上で十分なものではなかったので、血管壁の形状因子を含まない形で血管壁自体の特性を検出し、対処療法についての情報がより詳細に得られるようにすることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述したような課題を解決すべくなしたものであり、本発明による拍動管の力学特性検出装置は、拍動管における拍動流の圧力を検出する圧力検出手段と、拍動管の管径を検出する管径検出手段と、該圧力検出手段により検出された拍動流の圧力P(t)と該管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)とについて演算処理を行う演算処理部とを備えてなり、前記演算処理部においては、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式に前記圧力検出手段により検出された圧力P(t)と前記管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたM,B,Eに対し管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたものである。
【0012】
また、本発明による拍動管の力学特性検出装置は、拍動管における拍動流の圧力を検出する圧力検出手段と、拍動管の管径を検出する管径検出手段と、該圧力検出手段により検出された拍動流の圧力P(t)と該管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)とについて演算処理を行う演算処理部とを備えてなり、前記演算処理部においては、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式を
【数3】

のように変換した(2)に前記圧力検出手段により検出された圧力P(t)と前記管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたα,β,γから
【数4】

によりM,B,Eを求め、さらに管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたものとしてもよい。
【0013】
前記算出された拍動管の特性の評価指標を表示する表示手段を備えているものとしてもよい。
【0014】
本発明による拍動管の力学特性を検出するためのプログラムは、圧力検出手段により検出された拍動管における拍動流の圧力と、管径検出手段により検出された拍動管の管径とについて演算処理を行うことにより拍動管の力学特性を検出することをコンピュータ上で行うためのプログラムであって、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式に圧力P(t)と拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたM,B,Eに対し管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたものである。
【0015】
また、本発明による拍動管の力学特性を検出するためのプログラムは、圧力検出手段により検出された拍動管における拍動流の圧力と、管径検出手段により検出された拍動管の管径とについて演算処理を行うことにより拍動管の力学特性を検出することをコンピュータ上で行うためのプログラムであって、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式を
【数3】

のように変換した(2)に前記圧力検出手段により検出された圧力P(t)と前記管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたα,β,γから
【数4】

によりM,B,Eを求め、さらに管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたものとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、拍動管についての粘弾性モデルを表す式から管壁の厚みに依存しない指標としてのB,Eを求めることにより、管壁自体の特性を評価することが可能になる。血管の特性検出に適用した場合においては、血管組織の硬さを推定することができ、指標としてのB,Eと従来用いられている動脈硬化度とを組み合わせて用いることにより、動脈硬化が石灰化等の組織自体の硬さの変化か厚みの変化によるものか等についての識別が可能になり、対処療法についての情報がより詳細に得られる。また、データの演算処理において、粘弾性モデルを表す式を変換して用いることにより、拍動管の慣性の大きさによる誤差を小さくして、精度の高い演算処理がなされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は拍動管の力学特性を検出する装置に関わり、拍動管を生体における動脈血管として動脈硬化の状況等の特性を検出するのに適用されるものである。最初に血管についての特性検出装置の形態と検出されたデータの処理について説明し、また、拍動管を擬似血管とした場合の力学的特性検出について説明する。
【0018】
(A)血管の特性検出装置
図1は、動脈について光電脈波及び圧力脈波を測定する場合の装置の形態を概略的に示すものである。図1における検出装置は、検出部1と、制御部2と、演算・表示部3とを備えている。検出部1は血管の圧力脈波を測定するトノメトリ式の圧力センサ4と、発光素子LED5a及び受光素子PD5bを有する光電脈波計5とを備えている。制御部2は血管(AR)へのカフ圧付与手段6を含み、検出部1における圧力センサ2と光電脈波計5への電源供給、動作制御を行う。演算・表示部3は検出部1の圧力センサ4及び光電脈波計5により得られた検出信号によるデータについての演算処理を行い、また処理結果を表示するものである。
【0019】
このような検出装置を用いて動脈硬化度を測定する際に、カフ圧付加手段により動脈に対しカフ圧を加えつつ、圧力脈波と光電脈波とを測定し、測定データの演算処理を行い、動脈硬化を表す指標を求める。
【0020】
(B)検出データの演算処理
血管の力学特性を検出する上で、血管壁について図2に示す粘弾性モデルを用いて考える。この粘弾性モデルにおいて、断面で示される血管は管内の流体の圧力変動とともに半径rが変化する。血管は粘弾性モデルにおける弾性係数E、粘性係数Bをもつ力学系として動作し、半径が時間的にr(t)として変化すると考えられる。
【0021】
図2の粘弾性モデルにおいて、M:拍動管壁の慣性、B:粘性、E:剛性、P(t):圧力、r(t):血管半径とし(tは時間を表す)、基準時における圧力をP、基準時の半径をrとし、dP(t)=P(t)−P,ξ(t)={r(t)−r}/rとすると、粘弾性モデルの力学特性は、
【数1】

の形で表される。(1)式の形から最小二乗法を用いた回帰分析によりM,B,Eを算出することができるが、この場合Mの大きさの関係により、誤差が大きくなり易い。そこで、本発明においては、(1)式を次のように変換してM,B,E求めるようにする。
【0022】
(1)式において、1階微分、2階微分をそれぞれ
【数2】

で置き換えると、(1)式は
【数3】

のようになる。ここで、
【数4】

である。
【0023】
次に、(2)式について、最小二乗法を用いた回帰分析によりM,B,Eを求める。このように求められたB,Eは形状因子を含むものであるが、これから
【数5】

によりB,Eを求める。B,Eは血管についての形状因子を除去したものと言える。
【0024】
図1の血管についての特性検出装置では、圧力脈波として圧力P(t)が得られ、また光電脈波としては血管の半径r(t)に対応する電圧値V(t)が得られる。得られた圧力P(t)から式(1)におけるdP(t)が求められ、また、得られた電圧値V(t)から
r(t)=k(x,y){V(t)−V},
=k(x,y)・V ……………(5)
としてr(t),rが求められ(Vは基準時における電圧値)、これから(1)式における歪みξ(t)={r(t)−r}/rが求められる。ただし、(5)式におけるk(x,y)及びk(x,y)は、それぞれx(血管の深さ)、y(LEDとPDとの間隔)に応じた補正係数である。
【0025】
前述の演算処理のアルゴリズムでは、(1)式による粘弾性モデルを(2)式のように変換し、パラメータα,β,γを求めた上でパラメータM,B,Eを求めるようにしたので、Mの大きさの関係による誤差が小さくすることができ、演算処理の精度が高められる。また、パラメータM,B,Eからさらに(5)式によりパラメータB,Eを求めるようにしており、このパラメータは血管の形状因子を除いた特性を示すものとして、動脈硬化についての評価を行う上でより詳細な情報が得られるものである。また、演算処理により求められたB,E等の結果を表示部に表示することにより、動脈硬化の状況について詳細に判別することができる。
【0026】
(C)擬似血管を用いた拍動管の力学特性検出装置
本発明においては、直接生体の動脈に対し動脈硬化度についての測定を行う代わりに、ラテックスによる擬似血管を拍動管として用いた被検査体と、この被検査体を動脈血管と同様の状況になるように動作させた時の拍動管の状況を検出する特性検出装置を構成し、これを用いて(B)で示した血管の特性検出における演算処理のアルゴリズムの妥当性を検証する。この場合の疑似血管としてのラテックスによる拍動管は医療機器を作製する上で力学特性に関し血管と同様に扱えるものとして利用されているものである。
【0027】
図3(a)は拍動管の力学特性検出装置におけるテストセクションの部分を示しており、図3(b)は拍動管の力学特性検出装置の構成を概略的に示し、図3(c)は拍動管に流体を給送する循環回路の構成を示している。
【0028】
図3(a)に示すテストセクションTにおいては、槽11内にゼラチン12が満たされており、このゼラチン12内に渡される所定長さの擬似血管としてのラテックス管13の両端が槽11の縁壁に取り付けられた流路管14a,14bにそれぞれ接続され保持されており、流路管14a,14bは循環回路の一部となるように接続されていて、作動流体としての水が拍動管を介して一方の流路管から他方の流路管へ流れるようにしてある。
【0029】
流路管14a,14bの外径は4mm程度、内径が3.5mm程度の金属管であり、ラテックス管13としては力学特性検出の際に厚み等のパラメータを変えたものを複数本用意しておき、交換して流路管14a,14b間に装着できるようにする。
【0030】
用いるラテックス樹脂の例として、レジテックス(株)のNR−Latex(製品名)があり、そのヤング率は約0.486MPaである。ちなみに、血管のヤング率は0.019〜0.306Paである。ゼラチンの例としては、和光純薬工業(株)のゼラチン(製品元コード:077−3155)を用いることができ、水:ゼラチン=1:20の比率でゼラチン水溶液を作製し、冷却、凝固させた後、常温(約20°C)の条件下で用いる。
【0031】
図3(b)に示す拍動管の力学特性検出装置においては、図3(a)のテストセクションTにおいて流路管14a,14b間に接続されたラテックス管13内への作動流体の入口側に圧力計P1が配され、出口側に圧力計P2が配設されており、それぞれラテックス管13の入口側、出口側の流体圧力を検出する。
【0032】
また、ラテックス管13の径を計測するための手段としてレーザ変位計が配設されている。レーザ変位計はレーザ光をラテックス管13に照射するレーザ光源とラテックス管13からの反射光を受光する受光手段とを備えたヘッド部Lと、ヘッド部LをテストセクションTに対しX、Y、Z方向に相対的に変位させるためのアクチュエータとを備えており、レーザ光源はパルス状レーザ光をラテックス管13に向け照射し、受光部で受光された光の時間差からラテックス管13の位置を算出する。制御部15ではアクチュエータの動作によりヘッド部LをテストセクションTに対し相対的にX,Y,Z方向に移変位させ、ヘッド部における発光、受光の動作、受光光による位置データの送出を行う。
【0033】
圧力計P1,P2で測定された圧力のデータ、レーザ変位計Lで測定されたラテックス管径のデータは演算処理部20に伝送され、演算処理がなされる。21は演算処理結果の表示手段である。
【0034】
図3(c)はテストセクションTにおけるラテックス管13内に拍動流となるように作動流体を流すための循環回路を示しており、この循環回路において、作動流体としての水を貯留する水槽Vと圧力調整用の水槽Aとが備えられ、空気拍動型ポンプHによりテストセクションTにおけるラテックス管13を通る周回流路を水が拍動流をなして流れるように制御される。循環回路において、拍動周波数は1Hz程度で生体における拍動と同程度とし、最大/最低圧力は9.5/3.0kPa、平均流量は0.2L/min程度で上腕の流量と同程度とする。
【0035】
テストセクションTを通る周回流路を短絡する流路中に開閉弁R1が設けられ、テストセクションTを通る周回流路を短絡する流路中に開閉弁R2が設けられており、それぞれ流量を調整する。テストセクションTを通る周回回路を短絡する流路はテストセクションTにおいて流量調節をし易くすることを意図したものであり、両方の開閉弁R1,R2を用いて流量を調節する。また、周回回路中に水槽Aからの流量を計測する流量計G1と、テストセクションTを通る流量を計測する流量計G2とが設けられており、流量計G1,G2による流量データに応じて制御部Cは開閉弁R1,R2の調節により流量の制御を行う。
【0036】
空気拍動型ポンプHには開閉弁が備えられており、水の吸入時には水槽V側が開いて水槽A側が閉じ、水の吐出し時には水槽V側が閉じて水槽A側が開くようにしてあり、この動作によって流路中に拍動流が生じる。また、水槽Aの水位によって圧力が調節される。
【0037】
このように、ポンプHの動作により循環回路において拍動流が生じ、開閉弁R1、R2の制御により流量が調節され、テストセクションTにおける擬似血管としてのラテックス管13は血管を模擬した動作状態にされる。制御部Cはこのような拍動流の発生のための空気拍動型ポンプHの動作制御と、流量調節のための開閉弁R1,R2の制御を行う。
【0038】
このような拍動管の力学特性検出装置において、テストセクションTにおける擬似血管としてのラテックス管を継続的に拍動流が流れるようにした状態で、ラテックス管の入口側と出口側の圧力計P1,P2により圧力を測定し、また、レーザ変位計Lにより管径の測定を行い、圧力計P1,P2で得られた圧力の平均値を粘弾性モデルによる(1)式での圧力P(t)とし、また、得られた管径のデータをr(t)として演算処理部20で(2)において説明したのと同様に演算処理する。
【0039】
ラテックスの擬似血管としては、おなじ材質で異なる管厚のものを用意しておき、ある管厚の擬似血管について圧力、管径の検出を行い、演算処理によりパラメータM,B,Eを求める。さらに、このような圧力、管径の検出を異なる管厚の擬似血管について行う。
【0040】
図4(a),(b),(c)は、それぞれこのように求められたM,B,Eと管厚h(mm)との関係を示すものであり、(a)のM−hと(c)のE−hの関係では、物性値をもとに計算で求めた理論値を合わせて示してある。(a)のM−hの関係では検出データの解析によるものは決定係数R=0.92で線形性を有して増加し、(b)のB−hの関係ではR=0.64で線形性を有して増加し、また、(c)のE−hの関係ではR=0.92で線形性を有して増加している。
【0041】
図5(a),(b)はそれぞれ検出データの演算により求められたB,Eから(4)式により算出したB,Eとhとの関係を示すものである。ここでは、(1)式からの演算により求めたB,Eから算出したB,Eについての結果を示している。(a)のB−hの関係では決定係数R=0.00であり、Bは管壁の厚みに対して無相関であることがわかる。また、(b)のE−hの関係では決定係数R=0.43であり、Eは管壁の厚みの影響を受けないことがわかる。
【0042】
以上のように、ラテックスの擬似血管を用いた力学特性検出装置で検出されたデータについて演算処理を行って得られたパラメータとして、B,Eは管壁の厚みに依存し、線形性をもつ変化をするのに対し、B,Eは管壁の厚みに依存することはなく、管の材質自体による特性の評価を行うことができるものである。
【0043】
ラテックスの擬似血管を拍動管として用いた特性検出装置では、検出で得られたデータから(B)での粘弾性モデルについての(1)式をもとにパラメータB,Eを算出しており、この手順は(A)の血管についての特性検出装置での検出により得られたデータについても同様になし得るものである。血管についての特性検出装置としては、トノメトリ式圧力計により圧力脈波が検出され、これをP(t)とし、LED−PDを用いた光電センサにより光電脈波が検出され、その電圧値V(t)から(5)式によりr(t)が求められる。
【0044】
前述した拍動管の力学特性検出装置は拍動管について圧力脈波、光電脈波を検出し、拍動管の管径、拍動流の圧力を求め、そのデータについて演算処理を行って拍動管の特性検出を行うものであり、検出により得られたデータの演算処理を行うための演算回路からなる演算処理部20(図3(b),(c))を備えたものとして説明したが、演算処理に関してはそのための演算プログラムを搭載した汎用のコンピュータを用いて行うこともできる。
【0045】
このように汎用コンピュータに搭載するプログラムは、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として(1)式で表し、圧力P(t)と拍動管の半径r(t)を(1)式に適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたM,B,Eに対し管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,Eを(4)式から算出する演算を行うものであり、M,B,Eを求めるに際し、(1)式を変換した(2)式からα,β,γを求め、このα,β,γから(3)式によりようにしたM,B,Eを求めるのが好ましい。このように、本発明は拍動管の力学特性検出装置であるとともに、拍動管の力学特性を検出するためのプログラムとしても具体化されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による拍動管の力学特性検出装置により動脈についての特性検出装置を行う場合を概略的に示す図である。
【図2】拍動管についての粘弾性モデルを示す図である。
【図3】本発明による擬似血管を用いた拍動管の力学特性検出装置の構成を示す図であり、(a)は拍動管の力学特性検出装置におけるテストセクションの部分を示し、(b)は拍動管の力学特性検出装置の構成を概略的に示し、(c)は拍動管に流体を供給する循環回路を示す図である。
【図4】本発明による擬似血管を用いた拍動管の力学特性検出装置で求められた形状因子に依存するパラメータと管壁厚みとの関係を示す図であり、(a)は慣性Mと管壁の厚さhとの関係、(b)は粘性Bと管壁の厚さhとの関係、(c)は剛性Eと管壁の厚さhとの関係を示す図である。
【図5】本発明による擬似血管を用いた拍動管の力学特性検出装置で求められた形状因子に依存しないパラメータと管壁厚みとの関係を示す図であり、(a)は評価指標Bと管壁の厚さhとの関係、(b)は評価指標Eと管壁の厚さhとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 検出部
2 制御部
3 表示部
4 圧力センサ
5a 発光素子
5b 受光素子
6 カフ圧付与手段
11 槽
12 ゼラチン
13 ラテックス管
14a,14b 流路管
20 演算処理部
21 表示手段
T テストセクション
L ヘッド部
P1,P2 圧力計
R1,R2 開閉弁
G1,G2 流量計
V,A 水槽
H 空気拍動型ポンプ
C 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拍動管における拍動流の圧力を検出する圧力検出手段と、拍動管の管径を検出する管径検出手段と、該圧力検出手段により検出された拍動流の圧力P(t)と該管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)とについて演算処理を行う演算処理部とを備えてなり、前記演算処理部においては、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式に前記圧力検出手段により検出された圧力P(t)と前記管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたM,B,Eに対し管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたことを特徴とする拍動管の力学特性検出装置。
【請求項2】
拍動管における拍動流の圧力を検出する圧力検出手段と、拍動管の管径を検出する管径検出手段と、該圧力検出手段により検出された拍動流の圧力P(t)と該管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)とについて演算処理を行う演算処理部とを備えてなり、前記演算処理部においては、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式を
【数3】

のように変換した(2)に前記圧力検出手段により検出された圧力P(t)と前記管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたα,β,γから
【数4】

によりM,B,Eを求め、さらに管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたことを特徴とする拍動管の力学特性検出装置。
【請求項3】
前記算出された拍動管の特性の評価指標を表示する表示手段を備えていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の拍動管の力学特性検出装置。
【請求項4】
圧力検出手段により検出された拍動管における拍動流の圧力と、管径検出手段により検出された拍動管の管径とについて演算処理を行うことにより拍動管の力学特性を検出することをコンピュータ上で行うためのプログラムであって、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式に圧力P(t)と拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたM,B,Eに対し管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたことを特徴とする拍動管の力学特性を検出するためのプログラム。
【請求項5】
圧力検出手段により検出された拍動管における拍動流の圧力と、管径検出手段により検出された拍動管の管径とについて演算処理を行うことにより拍動管の力学特性を検出することをコンピュータ上で行うためのプログラムであって、拍動管について粘弾性モデルにより、拍動管の半径をr(t)、歪みをξ(t)、慣性をM、粘性をB、剛性をE、拍動流の圧力をP(t)として
【数1】

で表し、(1)式を
【数3】

のように変換した(2)に前記圧力検出手段により検出された圧力P(t)と前記管径検出手段により検出された拍動管の半径r(t)を適用し最小二乗法を用いた回帰分析により求められたα,β,γから
【数4】

によりM,B,Eを求め、さらに管壁の厚さに依存しない拍動管の特性の評価指標であるB,E
【数5】

として算出するようにしたことを特徴とする拍動管の力学特性を検出するためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−183551(P2009−183551A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27865(P2008−27865)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】