説明

拡散剤組成物、不純物拡散層の形成方法および太陽電池

【課題】アウトディフュージョンの発生と、含有するホウ素化合物の凝集とを抑制可能な拡散剤組成物、不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供する。
【解決手段】半導体基板への不純物拡散剤層の形成に用いられる拡散剤組成物は、ホウ酸エステル(A)と、下記一般式(1)で表される多価アルコール(B)と、アルコキシシラン化合物(C)と、を含有する。


[一般式(1)中、kは0〜3の整数。mは1以上の整数。RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1〜5のアルキル基、または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基。RおよびRが複数の場合は複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なってもよい。またkが2以上である場合、複数のRおよびRは必ず一つ以上の水酸基または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基を含む。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散剤組成物、不純物拡散層の形成方法および太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、ダイオード、IC等の製造にはホウ素が拡散したP型領域を有するシリコン半導体デバイスが使用されている。従来、シリコン基板にホウ素を拡散する方法として、主に熱分解法、対向NB法、ドーパントホスト法、塗布法等が用いられてきた。これらの中でも塗布法が高価な装置を必要とせず、均一な拡散が可能であり、量産性に優れているところから好適に採用されている。特にホウ素を含有する塗布液をスピンコーター等にて塗布する方法が好ましい。
【0003】
従来、スピンコート法等の拡散剤塗布法に用いられるボロン含有拡散剤組成物であるポリボロンフィルム(PBF)が種々提案されている(特許文献1〜6参照)。
【0004】
ところが近年、半導体製造関連分野、とりわけ太陽電池製造分野においては、低コスト化、高スループット化、環境負荷の低減が求められている。具体的には、例えばシリコン系太陽電池を製造する場合、拡散用塗布液の使用量をより少なくすること、また、より少ない工程数で同一シリコン基板内に部分的に拡散キャリア、拡散濃度の異なる領域を形成すること、すなわち部分拡散することが求められている。この場合、従来のスピンコート法では、基板あたりの塗布液の使用量が多く、高コストとなるとともに廃液量も多い。また部分拡散にあたって予めシリコン基板に拡散保護膜等を形成しておく必要が生じるため、工程数も多くなる。このような背景から、近年、インクジェット印刷法やスクリーン印刷法などによりシリコン基板に部分的に塗布液を印刷して、部分拡散を行う方法の開発がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−181010号公報
【特許文献2】特開平4−53127号公報
【特許文献3】特開平9−181009号公報
【特許文献4】特許第3519847号公報
【特許文献5】特開昭57−73931号公報
【特許文献6】特開2010−62223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、従来のPBFを用いたホウ素拡散では、シリコン基板上にPBF溶液を塗布した後、ホウ素を拡散させる前に、ホウ素のバインダーである水酸基含有高分子化合物を分解燃焼させていた。したがって、ホウ素の拡散時には、ホウ素化合物(B)が単独で被膜を形成する状態となり、シリコン基板上のホウ素被膜からホウ素が被膜外部へ飛散しやすかった。そのため、このようなPBFを用いて部分拡散を実施した場合は、隣接する基板やPBFの未塗布領域にホウ素が拡散するアウトディフュージョンが起こりやすく、部分拡散が困難であった。
【0007】
また、従来のPBFに含有されるポリビニルアルコール等のバインダーを用いずに、ホウ素化合物(B、ホウ酸など)を有機溶剤に溶解させたホウ素拡散剤組成物は、被膜形成した場合にホウ素化合物が凝集・析出しやすい傾向にあった。しかしながら、拡散剤組成物には、形成される不純物拡散剤層の抵抗値のばらつきやジャンクションの乱れを抑制するために、含有するホウ素化合物の凝集が起こりにくく、高濃度かつ均一なホウ素拡散が可能であることが求められる。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、アウトディフュージョンの発生と、含有するホウ素化合物の凝集とを抑制可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は拡散剤組成物である。この拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散剤層の形成に用いられる拡散剤組成物であって、ホウ酸エステル(A)と、下記一般式(1)で表される多価アルコール(B)と、アルコキシシラン化合物(C)と、を含有することを特徴とする。
【化1】

[一般式(1)中、kは0〜3の整数である。mは1以上の整数である。RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1〜5のアルキル基、または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基である。RおよびRが複数の場合は複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なってもよい。またkが2以上である場合、複数のRおよびRは必ず一つ以上の水酸基または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基を含む。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基である。]
【0010】
この態様によれば、アウトディフュージョンの発生と、含有するホウ素化合物の凝集とを抑制することができる。
【0011】
本発明の他の態様は不純物拡散層の形成方法である。この不純物拡散層の形成方法は、半導体基板に、上記態様の拡散剤組成物を選択的に塗布して所定パターンの不純物拡散剤層を形成するパターン形成工程と、拡散剤組成物に含まれるホウ酸エステル(A)のホウ素を半導体基板に拡散させる拡散工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
この態様によれば、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。
【0013】
本発明のさらに他の態様は太陽電池である。この太陽電池は、上記態様の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えたことを特徴とする。
【0014】
この態様によれば、より信頼性の高い太陽電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アウトディフュージョンの発生と、含有するホウ素化合物の凝集とを抑制可能な拡散剤組成物、当該拡散剤組成物を用いた不純物拡散層の形成方法、および太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(A)〜図1(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図2】図2(A)〜図2(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【図3】図3(A)および図3(B)は、アウトディフュージョン抑制性の評価試験における熱拡散工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
本実施の形態に係る拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散剤層の形成に用いられる拡散剤組成物であって、特に、選択的な塗布による所定パターンの不純物拡散剤層の形成に好適に用いられる拡散剤組成物である。本実施の形態に係る拡散剤組成物は、ホウ酸エステル(A)と、多価アルコール(B)と、アルコキシシラン化合物(C)と、を含有する。また、拡散剤組成物は、任意成分として有機溶剤(D)を含有する。以下、本実施の形態に係る拡散剤組成物の各成分について詳細に説明する。
【0019】
<ホウ酸エステル(A)>
ホウ酸エステル(A)は、ドーパントとして太陽電池の製造に用いられる化合物である。ホウ酸エステル(A)は、III族(13族)元素の化合物であり、P型の不純物拡散成分であるホウ素を含有する。ホウ酸エステル(A)は、半導体基板内にP型の不純物拡散層(不純物拡散領域)を形成することができる。より具体的には、ホウ酸エステル(A)は、N型の半導体基板内にP型の不純物拡散層を形成することができ、P型の半導体基板内にP型(高濃度P型)の不純物拡散層を形成することができる。
【0020】
ホウ酸エステル(A)の濃度は、半導体基板に形成される不純物拡散層の層厚などに応じて適宜調整される。たとえば、ホウ酸エステル(A)は、拡散剤組成物の全質量に対して0.1質量%以上含まれることが好ましく、1.0質量%以上含まれることがさらに好ましい。また、ホウ酸エステル(A)は、拡散剤組成物の全質量に対して50質量%以下含まれることが好ましい。また、ホウ酸エステル(A)中のホウ素原子が、拡散剤組成物の全質量に対して0.01〜10質量%の範囲で含まれることが好ましく、0.1〜3質量%の範囲で含まれることがより好ましい。
【0021】
本実施の形態では、ホウ酸エステル(A)は、下記一般式(2)で表される構造を有する。
【0022】
B(OR (2)
[一般式(2)中、Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数6〜10のアリール基である。3つのRは同じでも異なってもよい。]
【0023】
がアルキル基の場合には、炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基がより好ましい。アリール基は、例えばフェニル基、ナフチル基等である。なお、アルキル基およびアリール基は、置換基を有していてもよい。
【0024】
ホウ酸エステル(A)の具体例としては、例えばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリフェニル等を挙げることができる。これらのホウ酸エステル(A)の中でも、凝集・析出抑制効果をより発揮しやすいという点から、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルが好ましい。これらのホウ酸エステル(A)は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<多価アルコール(B)>
多価アルコール(B)は、下記一般式(1)で表される。
【0026】
【化2】

[一般式(1)中、kは0〜3の整数である。mは1以上の整数である。RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1〜5のアルキル基、または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基である。RおよびRが複数の場合は複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なってもよい。またkが2以上である場合、複数のRおよびRは必ず一つ以上の水酸基または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基を含む。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基である。]
【0027】
多価アルコール(B)の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、マンニトール等を挙げることができる。これらの多価アルコールは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
P型の不純物拡散成分をホウ酸エステル(A)の形で拡散剤組成物に含有させるとともに、特定構造の多価アルコール(B)を拡散剤組成物に含有させることで、拡散剤組成物中で多価アルコール(B)とホウ酸エステル(A)とが効率的に錯体を形成し、これによりホウ酸エステル(A)の加水分解が抑制され、ホウ素化合物の凝集および析出を抑制できると考えられる。また、ホウ素化合物の凝集および析出を抑制できるため、半導体基板等に塗布した拡散剤組成物の被膜からホウ素が被膜外部へ飛散し、隣接する基板や拡散剤組成物の未塗布領域に付着して拡散するアウトディフュージョンの発生を抑制することができる。
【0029】
拡散剤組成物中のホウ酸エステル(A)および多価アルコール(B)の含有比は、ホウ酸エステル(A)の含有量が多価アルコール(B)の含有量の5倍モル以下であることが好ましく、2倍モル以下であることがより好ましい。また、ホウ酸エステル(A)が効果的に錯体を形成できるという点から、多価アルコール(B)の含有量がホウ酸エステル(A)の含有量より多いこと、すなわちホウ酸エステル(A)の含有量が多価アルコール(B)の含有量の1倍モル未満であることがさらに好ましい。
【0030】
<アルコキシシラン化合物(C)>
アルコキシシラン化合物(C)は、下記一般式(3)で表されるアルコキシシランを加水分解して得られる反応生成物を含む。
Si(OR4−n (3)
[一般式(3)中、Rは水素原子または有機基である。Rは有機基である。nは0、1、または2の整数である。Rが複数の場合は複数のRは同じでも異なってもよく、(OR)が複数の場合は複数の(OR)は同じでも異なってもよい。]
【0031】
およびRの有機基としては、例えばアルキル基、アリール基、アリル基、グリジル基等を挙げることができる。これらの中では、アルキル基およびアリール基が好ましい。Rの有機基は、例えば炭素数1〜20の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、反応性の点から炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基がさらに好ましい。Rのうち少なくとも1つはアルキル基またはアリール基であることが好ましい。アリール基は、例えば炭素数6〜20のものが好ましく、例えばフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。Rの有機基は、例えば炭素数1〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、反応性の点から炭素数1〜3のアルキル基がさらに好ましい。アリール基は、例えば炭素数6〜20のものが好ましく、例えばフェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。
【0032】
上記一般式(3)におけるnが0の場合のアルコキシシラン(i)は、例えば下記一般式(4)で表される。
【0033】
Si(OR21(OR22(OR23(OR24 (4)
[一般式(4)中、R21、R22、R23およびR24は、それぞれ独立に上記Rと同じ有機基を表す。a、b、cおよびdは、0≦a≦4、0≦b≦4、0≦c≦4、0≦d≦4であって、かつa+b+c+d=4の条件を満たす整数である。]
【0034】
アルコキシシラン(i)の具体例としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラペンチルオキシシラン、テトラフェニルオキシシラン、トリメトキシモノエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリエトキシモノメトキシシラン、トリメトキシモノプロポキシシラン、モノメトキシトリブトキシシラン、モノメトキシトリペンチルオキシシラン、モノメトキシトリフェニルオキシシラン、ジメトキシジプロポキシシラン、トリプロポキシモノメトキシシラン、トリメトキシモノブトキシシラン、ジメトキシジブトキシシラン、トリエトキシモノプロポキシシラン、ジエトキシジプロポキシシラン、トリブトキシモノプロポキシシラン、ジメトキシモノエトキシモノブトキシシラン、ジエトキシモノメトキシモノブトキシシラン、ジエトキシモノプロポキシモノブトキシシラン、ジプロポキシモノメトキシモノエトキシシラン、ジプロポキシモノメトキシモノブトキシシラン、ジプロポキシモノエトキシモノブトキシシラン、ジブトキシモノメトキシモノエトキシシラン、ジブトキシモノエトキシモノプロポキシシラン、モノメトキシモノエトキシモノプロポキシモノブトキシシラン等のテトラアルコキシシランが挙げられ、中でも反応性の点からテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが好ましい。
【0035】
上記一般式(3)におけるnが1の場合のアルコキシシラン(ii)は、例えば下記一般式(5)で表される。
【0036】
31Si(OR32(OR33(OR34 (5)
[一般式(5)中、R31は、上記Rと同じ水素原子または有機基を表す。R32、R33およびR34は、それぞれ独立に上記Rと同じ有機基を表す。e、f、およびgは、0≦e≦3、0≦f≦3、0≦g≦3であって、かつe+f+g=3の条件を満たす整数である。]
【0037】
アルコキシシラン(ii)の具体例としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリペンチルオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリペンチルオキシシラン、エチルトリフェニルオキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリペンチルオキシシラン、プロピルトリフェニルオキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリプロポキシシラン、ブチルトリペンチルオキシシラン、ブチルトリフェニルオキシシラン、メチルモノメトキシジエトキシシラン、エチルモノメトキシジエトキシシラン、プロピルモノメトキシジエトキシシラン、ブチルモノメトキシジエトキシシラン、メチルモノメトキシジプロポキシシラン、メチルモノメトキシジペンチルオキシシラン、メチルモノメトキシジフェニルオキシシラン、エチルモノメトキシジプロポキシシラン、エチルモノメトキシジペンチルオキシシラン、エチルモノメトキシジフェニルオキシシラン、プロピルモノメトキシジプロポキシシラン、プロピルモノメトキシジペンチルオキシシラン、プロピルモノメトキシジフェニルオキシシラン、ブチルモノメトキシジプロポキシシラン、ブチルモノメトキシジペンチルオキシシラン、ブチルモノメトキシジフェニルオキシシラン、メチルメトキシエトキシプロポキシシラン、プロピルメトキシエトキシプロポキシシラン、ブチルメトキシエトキシプロポキシシラン、メチルモノメトキシモノエトキシモノブトキシシラン、エチルモノメトキシモノエトキシモノブトキシシラン、プロピルモノメトキシモノエトキシモノブトキシシラン、ブチルモノメトキシモノエトキシモノブトキシシラン等が挙げられ、中でも反応性の点からメチルトリアルコキシシラン、特にメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが好ましい。
【0038】
上記一般式(3)におけるnが2の場合のアルコキシシラン(iii)は、例えば下記一般式(6)で表される。
【0039】
4142Si(OR43(OR44 (6)
[一般式(6)中、R41およびR42は、上記Rと同じ水素原子または有機基を表す。R43およびR44は、それぞれ独立に上記Rと同じ有機基を表す。hおよびiは、0≦h≦2、0≦i≦2であって、かつh+i=2の条件を満たす整数である。]
【0040】
アルコキシシラン(iii)の具体例としては、例えばメチルジメトキシシラン、メチルメトキシエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、メチルメトキシプロポキシシラン、メチルメトキシペンチルオキシシラン、メチルメトキシフェニルオキシシラン、エチルジプロポキシシラン、エチルメトキシプロポキシシラン、エチルジペンチルオキシシラン、エチルジフェニルオキシシラン、プロピルジメトキシシラン、プロピルメトキシエトキシシラン、プロピルエトキシプロポキシシラン、プロピルジエトキシシラン、プロピルジペンチルオキシシラン、プロピルジフェニルオキシシラン、ブチルジメトキシシラン、ブチルメトキシエトキシシラン、ブチルジエトキシシラン、ブチルエトキシプロポキシシシラン、ブチルジプロポキシシラン、ブチルメチルジペンチルオキシシラン、ブチルメチルジフェニルオキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジペンチルオキシシラン、ジメチルジフェニルオキシシラン、ジメチルエトキシプロポキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルメトキシプロポキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルエトキシプロポキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジペンチルオキシシラン、ジプロピルジフェニルオキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジブチルジプロポキシシラン、ジブチルメトキシペンチルオキシシラン、ジブチルメトキシフェニルオキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルエチルジプロポキシシラン、メチルエチルジペンチルオキシシラン、メチルエチルジフェニルオキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、メチルブチルジメトキシシラン、メチルブチルジエトキシシラン、メチルブチルジプロポキシシラン、メチルエチルエトキシプロポキシシラン、エチルプロピルジメトキシシラン、エチルプロピルメトキシエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルメトキシエトキシシラン、プロピルブチルジメトキシシラン、プロピルブチルジエトキシシラン、ジブチルメトキシエトキシシラン、ジブチルメトキシプロポキシシラン、ジブチルエトキシプロポキシシラン等が挙げられ、中でもメチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシランが好ましい。
【0041】
アルコキシシラン化合物(C)は、例えば上記アルコキシシラン(i)〜(iii)の中から選ばれる1種または2種以上を、酸触媒、水、有機溶剤の存在下で加水分解する方法で調製することができる。
【0042】
上記のように、アルコキシシランの加水分解反応には水を使用するが、本実施形態に係る拡散剤組成物では、組成物全体を基準とする水の含有量は1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、実質的に水を含まないことがさらに好ましい。これによれば、拡散剤組成物の保存安定性をより高めることができる。
【0043】
酸触媒は有機酸、無機酸のいずれも使用することができる。無機酸としては、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等を使用することができ、中でも、リン酸、硝酸が好適である。有機酸としては、ギ酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、氷酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、n−酪酸等のカルボン酸、および硫黄含有酸残基を有する有機酸を使用することができる。硫黄含有酸残基を有する有機酸としては、有機スルホン酸などが挙げられ、それらのエステル化物としては有機硫酸エステル、有機亜硫酸エステル等が挙げられる。これらの中で、特に有機スルホン酸、たとえば、下記一般式(7)で表される化合物が好ましい。
【0044】
13−X (7)
[一般式(7)中、R13は、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Xはスルホン酸基である。]
【0045】
上記一般式(7)において、R13としての炭化水素基は、炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。この炭化水素基は、飽和のものでも不飽和のものでもよいし、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよい。R13の炭化水素基が環状の場合、たとえばフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基が好ましく、中でもフェニル基が好ましい。この芳香族炭化水素基における芳香環には、置換基として炭素数1〜20の炭化水素基が1個または複数個結合していてもよい。当該芳香環上の置換基としての炭化水素基は、飽和のものでも不飽和のものでもよいし、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれであってもよい。また、R13としての炭化水素基は、1個または複数個の置換基を有していてもよく、この置換基としては、たとえばフッ素原子等のハロゲン原子、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、シアノ基等が挙げられる。
【0046】
上記酸触媒は、水の存在下でアルコキシシランを加水分解する際の触媒として作用するが、使用する酸触媒の量は、加水分解反応の反応系中の濃度が1〜1000ppm、特に5〜800ppmの範囲になるように調製することが好ましい。水の添加量は、これによってシロキサンポリマーの加水分解率が変わるので、得ようとする加水分解率に応じて決められる。
【0047】
加水分解反応の反応系における有機溶剤は、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノールのような一価アルコール、メチル−3−メトキシプロピオネート、エチル−3−エトキシプロピオネートのようなアルキルカルボン酸エステル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのモノエーテル類あるいはこれらのモノアセテート類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトンのようなケトン類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルのような多価アルコールの水酸基をすべてアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
このような反応系でアルコキシシランを加水分解反応させることにより、アルコキシシラン化合物(C)が得られる。当該加水分解反応は、通常1〜100時間程度行うが、反応時間を短縮させるには、80℃を超えない温度範囲で加熱することが好ましい。
【0049】
反応終了後、合成されたアルコキシシラン化合物(C)と、反応に用いた有機溶剤を含む反応溶液が得られる。アルコキシシラン化合物(C)は、従来公知の方法により有機溶媒と分離し、乾燥した固体状態で、または必要なら溶媒を置換した溶液状態で、上記の方法により得ることができる。
【0050】
<有機溶剤(D)>
本実施の形態に係る拡散剤組成物は、任意成分として有機溶剤(D)を含有する。有機溶剤(D)は、多価アルコール(B)以外の有機溶剤である。有機溶剤(D)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール等の多価アルコール、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのモノエーテル系グリコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテル系エステル類が挙げられる。
【0051】
本実施の形態に係る拡散剤組成物は、その他の成分として一般的な界面活性剤や消泡剤等を含有してもよい。例えば、界面活性剤を含むことによって、塗布性、平坦化性、展開性を向上させることができ、塗布後に形成される拡散剤組成物層の塗りムラの発生を減少させることができる。このような界面活性剤として、従来公知のものを用いることができるが、シリコーン系の界面活性剤が好ましい。また、界面活性剤は、拡散剤組成物全体に対し、500〜3000質量ppm、特に600〜2500質量ppmの範囲で含まれることが好ましい。さらに2000質量ppm以下であると、拡散処理後の拡散剤組成物層の剥離性に優れるため、より好ましい。界面活性剤は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0052】
拡散剤組成物中に含まれる金属不純物(上述したホウ酸エステル(A)、多価アルコール(B)およびアルコキシシラン化合物(C)に含まれる金属成分以外)の濃度は、500ppb以下であることが好ましい。これにより、金属不純物の含有によって生じる光起電力効果の効率の低下を抑えることができる。
【0053】
<拡散剤組成物の調製方法>
本実施の形態に係る拡散剤組成物は、上述した各成分を従来公知の方法により、任意の順番で、均一な溶液となるよう混合することにより調製することができる。
【0054】
<不純物拡散層の形成方法および太陽電池の製造方法>
図1(A)〜図2(D)を参照して、N型の半導体基板にP型の不純物拡散層を形成する方法と、これにより不純物拡散層が形成された半導体基板を備える太陽電池の製造方法について説明する。図1(A)〜図1(D)、および図2(A)〜図2(D)は、実施の形態に係る不純物拡散層の形成方法を含む太陽電池の製造方法を説明するための工程断面図である。
【0055】
まず、図1(A)に示すように、シリコン基板などのN型の半導体基板1を用意する。そして、図1(B)に示すように、周知のウェットエッチング法を用いて、半導体基板1の一方の主表面に、微細な凹凸構造を有するテクスチャ部1aを形成する。このテクスチャ部1aによって、半導体基板1表面の光の反射が防止される。
【0056】
続いて、図1(C)に示すように、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、上述の拡散剤組成物2を選択的に塗布する。例えば、拡散剤組成物2は、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、ロールコート印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、オフセット印刷法等により半導体基板1の表面に選択的に塗布される。このようにして所定パターンの不純物拡散剤層を形成した後、オーブンなどの周知の手段を用いて、塗布した拡散剤組成物2を乾燥させる。
【0057】
次に、図1(D)に示すように、拡散剤組成物2が塗布された半導体基板1を拡散炉内に載置して焼成する。焼成の後、拡散炉内で拡散剤組成物2に含まれるホウ酸エステル(A)のホウ素を半導体基板1の表面から半導体基板1内に拡散させる。なお、拡散炉に代えて、慣用のレーザーの照射により半導体基板1を加熱してもよい。このようにして、ホウ酸エステル(A)のホウ素が半導体基板1内に拡散してP型不純物拡散層3が形成される。
【0058】
次に、図2(A)に示すように、周知のエッチング法により、拡散剤組成物2を除去する。そして、図2(B)に示すように、周知の化学気相成長法(CVD法)、例えばプラズマCVD法を用いて、半導体基板1のテクスチャ部1a側の主表面に、シリコン窒化膜(SiN膜)からなるパッシベーション膜4を形成する。このパッシベーション膜4は、反射防止膜としても機能する。
【0059】
次に、図2(C)に示すように、例えば銀(Ag)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1のパッシベーション膜4側の主表面に表面電極5をパターニングする。表面電極5は、太陽電池の効率が高まるようにパターン形成される。また、例えばアルミニウム(Al)ペーストをスクリーン印刷することにより、半導体基板1の他方の主表面に裏面電極6を形成する。
【0060】
次に、図2(D)に示すように、裏面電極6が形成された半導体基板1を電気炉内に載置して焼成した後、裏面電極6を形成しているアルミニウムを半導体基板1内に拡散させる。これにより、裏面電極6側の電気抵抗を低減することができる。以上の工程により、本実施の形態に係る太陽電池10を製造することができる。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、ホウ酸エステル(A)と、多価アルコール(B)とを含有する。これにより、ホウ酸エステル(A)の凝集および析出を抑制することができ、アウトディフュージョンの発生を抑制することができる。そのため、基板上に選択的に拡散剤組成物を塗布し、不純物拡散成分を部分拡散させる拡散方法に好適に採用することができる。
【0062】
また、従来のPBFでは、一般に樹脂やホウ素化合物の有機溶剤溶解性が低いため、その溶剤組成は水と、水に混和する高極性溶剤とによって構成されていた。そのため、PBF溶液をインクジェット印刷法やスクリーン印刷法を用いて基板に塗布しようとした場合、PBF溶液の接触によりインクジェットヘッドやスクリーンメッシュから金属成分が溶出するおそれがあった。金属成分が溶出すると、印刷装置が劣化するだけでなく、溶出した金属の汚染拡散により太陽電池の特性が劣化してしまう。これに対し、本実施の形態に係る拡散剤組成物は、アルコキシシラン化合物(C)を含有し、実質的に水を含まない組成を有する。そのため、インクジェットヘッドやスクリーンメッシュからの金属成分の溶出を回避することができる。
【0063】
また、不純物拡散成分の凝集やアウトディフュージョンの発生を抑制することができる上述の拡散剤組成物を用いて不純物拡散層を形成した場合には、より高精度に不純物拡散層を形成することができる。さらに、この拡散剤組成物を用いることでより精度の高い不純物拡散層の形成が可能となるため、そのような不純物拡散層を含む太陽電池の信頼性を向上させることができる。
【0064】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0066】
<評価試験I.凝集抑制性の評価>
評価試験Iで使用した拡散剤組成物の各成分および含有量を表1に示す。なお、以下の実施例および比較例では、界面活性剤として、シリコーン系界面活性剤(SF8421EG:東レ・ダウコーニング株式会社製)を使用した。また、実施例1〜7,9および比較例1〜5では、有機溶剤(D)として、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(MFDG)を使用し、その含有量は、拡散剤組成物の全質量を100wt%としたときに、各成分の含有量を100wt%から差し引いた残部の量が全て溶剤の含有量となっている。実施例8では、有機溶剤(D)として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)およびMFDGを使用した。PGMEの含有量は、表1に示す通りである。MFDGの含有量は、拡散剤組成物の全質量を100wt%としたときに、PGMEを含む各成分の含有量を100wt%から差し引いた残部の量となっている。
【0067】
【表1】

【0068】
表1中の略語は以下の化合物を示す。
TEB:ホウ酸トリエチル(トリエチルボレート)
TMB:ホウ酸トリメチル(トリメチルボレート)
MPT:3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール
TMP:トリメチロールプロパン
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
1,3−BD:1,3−ブタンジオール
1,4−BD:1,4−ブタンジオール
MFDG:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
PPG:ポリプロピレングリコール
【0069】
また、表1中の構造C−1は、テトラエトキシシラン(Si(OC)を出発原料とした縮合生成物である。また、構造C−2,C−3,C−4は、それぞれ下記一般式(8),(9),(10)で表される縮合生成物である。なお、構造C−4の縮合生成物の分子量は、およそ1000±500である。
【0070】
【化3】

[一般式(8)中、p:qは、40:20〜50:10の範囲である。]
【0071】
【化4】

【0072】
【化5】

[一般式(10)中、sは、2〜5の範囲である。]
【0073】
(不純物拡散剤層の形成)
上述した拡散剤組成物の調製方法にしたがって調製した実施例1〜9および比較例1〜5の拡散剤組成物を、コーター(SS8261NUU:東京応化工業株式会社製)を用いてサンプル基板上に塗布した。次に、サンプルをホットプレート上に載置して、150℃で3分間プリベーク処理を施した。以上の工程により、実施例1〜7および比較例1〜5については厚さ300nm、実施例8,9については厚さ500nmの不純物拡散剤層を得た。
【0074】
(不純物拡散成分の凝集の観察)
各実施例および各比較例の不純物拡散剤層について、顕微鏡観察にてホウ酸エステル(A)の凝集の有無を確認し、凝集抑制性(被膜性)を評価した。凝集が確認されない場合を良好(○)とし、凝集が確認された場合を不適当(×)とした。結果を表1に示す。
【0075】
表1に示すように、上記一般式(1)で表される多価アルコール(B)を含まない比較例1〜5は、凝集抑制性が不適当であった。これに対し、上記一般式(1)で表される多価アルコール(B)を含む実施例1〜9では、凝集抑制性が良好であった。このことから、拡散剤組成物中にホウ酸エステル(A)と上記一般式(1)で表される多価アルコール(B)が含まれる場合に、ホウ酸エステル(A)の凝縮を抑制できることが確認された。
【0076】
<評価試験II.アウトディフュージョン抑制性の評価>
図3を参照しながら、評価試験IIについて説明する。図3(A)および図3(B)は、アウトディフュージョン抑制性の評価試験における熱拡散工程を説明するための模式図である。
【0077】
まず、上述した評価試験Iの実施例1〜3および比較例2に係る拡散剤組成物を用意した。また、比較例6として、従来公知のPBFであるボロン含有不純物拡散剤(PBF 3P−31A:東京応化工業株式会社製)を用意した。
【0078】
(不純物拡散剤層の形成)
実施例1〜3および比較例2,6の拡散剤組成物を、コーター(SS8261NUU:東京応化工業株式会社製)を用いてN型半導体基板に塗布した。次に、サンプル基板をホットプレート上に載置して、実施例1〜3および比較例2は200℃で0.5分間、比較例6は150℃で3分間、プリベーク処理を施した。以上の工程により、実施例1〜3および比較例2は厚さ800nm、比較例6は厚さ400nmの不純物拡散剤層を得た。
【0079】
続いて、図3(A)に示すように、拡散剤組成物2が塗布された半導体基板1とは別に、拡散剤組成物2が塗布されていないダミー基板11を用意した。そして、図3(B)に示すように、拡散炉12内に実施例1〜3および比較例2,6の半導体基板1とダミー基板11とを隣接させて載置した。半導体基板1とダミー基板11との間の距離rは、4mmとした。拡散炉12は、光洋サーモシステム製VF−1000を用いた。拡散炉12内で、O中、600℃で30分間焼成した。その後、N中で、実施例1〜3および比較例2は985℃で15分間、比較例6は950℃で30分間、加熱してホウ素を熱拡散させた。
【0080】
(シート抵抗値の測定)
実施例1〜3および比較例2,6について、半導体基板1(塗布基板)のシート抵抗値と、ダミー基板11のシート抵抗値を、シート抵抗測定器(VR−70:国際電気株式会社製)を用いて四探針法により測定した。半導体基板1およびダミー基板11のそれぞれについて、25点のシート抵抗値を測定して平均値を算出した。また、抵抗値比(半導体基板1のシート抵抗値に対するダミー基板11のシート抵抗値の大きさ)を算出した。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示すように、いずれの実施例も比較例2,6に比べて高い抵抗値比を示した。比較例2,6では、半導体基板1に塗布された拡散剤組成物からホウ素が被膜外部へ飛散してダミー基板11に付着し、付着したホウ素がダミー基板11中に拡散した結果、ダミー基板のシート抵抗値が低下して抵抗値比が小さくなったと考えられる。これに対し、実施例1〜3では、ホウ素の被膜外部への飛散、すなわちアウトディフュージョンが抑制されたため、ダミー基板11のシート抵抗値の低下が抑制され、抵抗値比が高い値で維持されたと考えられる。したがって、拡散剤組成物中にホウ酸エステル(A)と上記一般式(1)で表される多価アルコール(B)が含まれる場合に、ホウ素のアウトディフュージョンを抑制できることが理解される。
【符号の説明】
【0083】
1 半導体基板、 1a テクスチャ部、 2 拡散剤組成物、 3 P型不純物拡散層、 4 パッシベーション膜、 5 表面電極、 6 裏面電極、 10 太陽電池、 11 ダミー基板、 12 拡散炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板への不純物拡散剤層の形成に用いられる拡散剤組成物であって、
ホウ酸エステル(A)と、
下記一般式(1)で表される多価アルコール(B)と、
アルコキシシラン化合物(C)と、
を含有することを特徴とする拡散剤組成物。
【化1】

[一般式(1)中、kは0〜3の整数である。mは1以上の整数である。RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1〜5のアルキル基、または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基である。RおよびRが複数の場合は複数のRおよびRはそれぞれ同じでも異なってもよい。またkが2以上である場合、複数のRおよびRは必ず一つ以上の水酸基または炭素原子数1〜5のヒドロキシアルキル基を含む。RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基である。]
【請求項2】
前記ホウ酸エステル(A)は、下記一般式(2)で表される請求項1に記載の拡散剤組成物。
B(OR (2)
[一般式(2)中、Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数6〜10のアリール基である。3つのRは同じでも異なってもよい。]
【請求項3】
前記ホウ酸エステル(A)の含有量は、前記多価アルコール(B)の含有量の5倍モル以下である請求項1または2に記載の拡散剤組成物。
【請求項4】
実質的に水を含まない請求項1乃至3のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項5】
前記アルコキシシラン化合物(C)は、下記一般式(3)で表されるアルコキシシランを加水分解して得られる反応生成物を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
Si(OR4−n (3)
[一般式(3)中、Rは水素原子または有機基である。Rは有機基である。nは0、1、または2の整数である。Rが複数の場合は複数のRは同じでも異なってもよく、(OR)が複数の場合は複数の(OR)は同じでも異なってもよい。]
【請求項6】
前記多価アルコール(B)以外の有機溶剤(D)を含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項7】
選択的な塗布による所定パターンの不純物拡散剤層の形成に用いられる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物。
【請求項8】
半導体基板に、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を選択的に塗布して所定パターンの不純物拡散剤層を形成するパターン形成工程と、
前記拡散剤組成物に含まれるホウ酸エステル(A)のホウ素を前記半導体基板に拡散させる拡散工程と、
を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法。
【請求項9】
請求項8に記載の不純物拡散層の形成方法により不純物拡散層が形成された半導体基板を備えることを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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