説明

拡散接合品及びその製造方法

【課題】 エッチングによりパターンが形成された多数枚のシート状部材が、正しい順序・表裏・角度で積層されているかを簡単かつ正確に確認できるよう工夫した拡散接合品及びその製造方法を提供する
【解決手段】 本発明の拡散接合品1は、エッチングによりパターン11が形成された複数のシート状部材10を積層して拡散接合したものである。シート状部材10の外縁部には、シート状部材の積層方向における順序・表裏・角度を示す切り欠き12が設けられている。このような構成により、積層シートの側面に切り欠きが存在するので、積層後に切り欠き12の位置を観察し、切り欠きの位置が正しいかどうかを検査することにより、積層後にシート状部材の積層順序・表裏・角度が正しいかどうかを判定できる。また、切り欠き12は、パターン11を形成するためのエッチング工程(ハーフエッチング)で形成されたものであるので、切り欠きを形成するための別工程が不要となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数枚のシート状の部材を積層して拡散接合する拡散接合品及びその製造方法に関する。特には、エッチングによりパターンが形成された多数枚のシート状部材が、正しい順序・表裏・角度で積層されているかを簡単かつ正確に判断できるよう工夫した拡散接合品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチングによりパターンを形成した多数枚のシート状部材を積層して拡散接合することにより、様々な精密部品を作製することができる。パターンの形状や配置によっては、内部に流路や中空部を設けたり、微細な孔や凹部を精度よく作製できる。このような拡散接合品としては、熱交換器関連部品や、インクジェット用ノズル、燃料電池関連部品などが挙げられる。
【0003】
このような拡散接合品においては、その多くが外形寸法が等しいシート状部材を多数枚積層するため、シート状部材が正しい順序・表裏・角度で積層されないおそれがある。なお、積層したときにシート状部材が水平方向にずれているような場合は、外形で判断でき、接合前に正しく積層し直すことができる。また、最表面のシート状部材と最裏面のシート状部材に関しては、目視で判断できる。しかし、特に、内部に流路や中空部が設けられた製品においては、最表面と最裏面の間のシート状部材の位置を外観から判断できないので、積層後に拡散接合した製品を切断して確認したり、X線検査や非破壊検査などで検査していた。しかし、このような検査方法は手間やコストがかかる。さらに、切断する場合は、その他のものについての信頼性が得られない。また、拡散接合後に不良が発見された場合は、その製品は廃棄せざるを得ず、材料費や拡散接合に要したコストが無駄になってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、エッチングによりパターンが形成された多数枚のシート状部材が、正しい順序・表裏・角度で積層されているかを簡単かつ正確に確認できるよう工夫した拡散接合品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の拡散接合品の製造方法は、 複数のシート状素材にエッチングによりパターンを形成し、パターン形成後の複数のシート状部材を積層して拡散接合する拡散接合品の製造方法であって、 エッチング工程において、前記シート状部材の外縁部に、該シート状部材の積層方向における順序・表裏・角度を示す切り欠きを設けておき、 該切り欠きの位置を検査することによって、前記シート状部材の積層順序・表裏・角度が正しいかどうかを確認することを特徴とする。
【0006】
ここで、「シート状部材」とは、狭義では、積層・接合後に製品となる部分を意味する。ただし、広義では製品となる部分の外側の積層後に切り捨てられるフレームの部分も含む意味である。検査用の切り欠きは、シート状部材又はフレーム、あるいはその両者に設けることができる。
【0007】
本発明によれば、積層シートの側面に切り欠きが存在するので、積層後に切り欠きの位置を観察できる。切り欠きの位置は、シート状部材の積層方向における順序(位置)・表裏・角度を示しているので、切り欠きの位置が正しいかどうかを検査することにより、積層後にシート状部材の積層順序・表裏・角度が正しいかどうかを判定できる。この切り欠きは、シート状部材にパターンを形成するためのエッチング時に同時に形成するので、フォトマスクに切り欠き部のパターンを設けておくだけですみ、切り欠きを形成するための別工程が不要となる。なお、シート状部材の外縁部はパターンに干渉しない部分であり、積層後にこの切り欠きを処理する必要はない。
【0008】
本発明においては、 前記切り欠きが、ハーフエッチングにより形成された、非貫通の凹部であることとすれば、最終製品が円形や正方形などの点対称のものであっても、シート状部材の順序・角度・表裏の向きを判断できる。
【0009】
本発明においては、 積層後に前記切り欠きによって形成される溝に係合するカギを備え、 該カギが前記溝に係合するか否かによって前記シート状部材の積層順序・表裏・角度を検査することがさらに好ましい。
この場合、カギを溝に係合させるという簡単な作業で検査できる。なお、溝を拡大投影させて、所定の形状と比較したり、画像処理などにより比較することもできる。
【0010】
なお、 本発明においては、 前記切り欠きは、前記シート状部材の種類毎に位置及び/又は幅が異なることが好ましい。
この場合、パターンを形成するためのエッチング時に同時に切り欠きを形成することができ、パターンの種類ごとに一つのフォトマスクを使用できる。
【0011】
また、 本発明においては、 前記切り欠きは、積層方向において一定の規則で形成されていることが好ましい。
例えば、切り欠きの位置を積層方向において斜めにしたり、上から順に幅を広くするなど、一定の規則で形成すれば、順序の確認をしやすい。
【0012】
本発明の拡散接合品は、 エッチングによりパターンが形成された複数のシート状部材を積層して拡散接合する拡散接合品であって、 前記シート状部材の外縁部に、該シート状部材の積層方向における順序・表裏・角度を示す切り欠きが設けられており、 該切り欠きが、前記パターンを形成するためのハーフエッチング工程で形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、シート状部材の積層品の側面に切り欠きが存在するので、積層後に切り欠きの位置を観察できる。切り欠きの位置は、シート状部材の積層方向における順序・表裏・角度を示しているので、切り欠きの位置が正しいかどうかを検査することにより、積層後にシート状部材の積層順序・表裏・角度が正しいかどうかを判断できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る拡散接合品を説明する図であり、図1(A)はシート状部材の平面図、図1(B)は拡散接合品の側面図である。
この例では、図1(A)に示すシート状部材10を積層して拡散接合した拡散接合品1(図1(B)参照)を説明する。シート状部材10は同じ外形寸法であり、金属(例えば、SUS、ニッケル合金、銅合金など)で作製され、厚さは、例えば0.05〜1.0mmである。拡散接合品1は、このようなシート状部材10を複数枚(例えば、3〜100枚)積層して拡散接合したものである。
【0015】
シート状部材10は、シート状素材にエッチングによりパターンを設けたものである。図1(A)に示すように、シート状部材10−1と10−2は、同じ種類であり、同じパターン11−1、11−2が形成されている。シート状部材10−3は、シート状部材10−1、10−2とは異なるパターン11−3が形成されている。また、同様に、シート状部材10−nは、上述のシート状部材10−1、10−2、10−3とは異なるパターン11−nが形成されている。この例では、図1(A)の一番上に示すシート状部材10−1を最上、一番下に示すシート状部材10−nを最下として、順に積層するものとする。
【0016】
同じ種類(パターン)のシート状部材10−1、10−2の外縁には、同じ位置に切り欠き12−1、12−2が形成されている。また、別の種類のシート状部材10−3の外縁にも、切り欠き12−3が形成されている。この切り欠き12−3の位置はシート状部材10−1、10−2の位置と異なり、シート状部材10−1、10−2の切り欠き12−1、12−2の位置から、切り欠きの幅の分だけ左方向にずれた位置に形成されている。さらに最裏面のシート状部材10−nの外縁にも、切り欠き12−nが形成されている。この切り欠き12−nの位置は、シート状部材10−3の切り欠き12−3の位置よりもさらに左方向にずれた位置に形成されている。この例では、切り欠き12は全て同じ幅と奥行きの矩形である。なお、シート状部材の種類ごとに切り欠き12の幅が異なっていても良い。
【0017】
切り欠き12は、パターン形成時のハーフエッチング(この例では表面からのハーフエッチング)により形成されている。つまり、パターン11が形成されたフォトマスクに切り欠きのパターン12も設けておけばよい。これにより、パターンの種類ごとに同じフォトマスクを使用することができる。
【0018】
このようなシート状部材を積層して拡散接合した製品1においては、図1(B)に示すように、製品1の側面に切り欠き12が現れ、これらの切り欠き12による凹部13(溝、図のハッチングで示す)が形成される。この凹部13の形状を、予め正しい順序・角度・表裏で積層された製品の凹部の形状と比較することにより、切り欠き12の位置が正しいかどうかが判断できる。つまり、凹部13の形状が異なっていれば、切り欠き12の位置が正しくないこととなり、正しい積層順序・角度・表裏でないと判断できる。この例では、切り欠き12の位置が、上から順に左方向にずれるように形成されている。そこで、切り欠き12の位置がこの規則に当てはまらない場合は、積層順序が間違っていると判断できる。また、切り欠き12はハーフエッチングで作製されているので、側面において切り欠き12はシート状部材10の表面側に現れる。そして、側面の凹部13は、切り欠き12が積層方向に交互に並んだものとなる。そこで、例えば、切り欠き12が連続していた場合は、その箇所でシート状部材10の表裏が間違っていると判断できる。
【0019】
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る拡散接合品を示す側面図である。
この例の拡散接合品1´は、図1と同様に、シート部材10A、10B、10Cの種類ごとに同じ位置に、ハーフエッチングにより切り欠き12A、12B、12Cを設けたものである。ただし、この例では、同じ種類のシート状部材が積層方向においてランダムに繰り返して使用されている。この場合は、切り欠き12の位置がシート状部材10の種類ごとに同じであれば、正しい順序で積層されていると判断できる。また、側面において切り欠き12が交互に現れていれば正しい表裏で積層されていると判断できる。
【0020】
図3は、拡散接合品の側面に現れる切り欠きで構成される凹部の形態の他の例を示す側面図である。
この例では、図1、2の例と異なり、切り欠き12がハーフエッチングでなく、貫通エッチングで形成されている。
図3(A)は、種類Aのシート状部材10Aを2枚、種類Bのシート状部材10Bを1枚、種類Cのシート状部材10Cを3枚、種類Dのシート状部材10Dを1枚、種類Eのシート状部材10Eを2枚、種類Fのシート状部材10Fを1枚、上から順に積層したものである。この例では、シート状部材の種類ごとに同じ位置に切り欠きが形成されており、切り欠き12の位置は、種類Aから種類Fに向って、切り欠き12の幅の分だけ右方向にずれている。このため、製品において、凹部13が上から連続して右下がりに形成されていれば正しい積層順序であると判断できる。
【0021】
図3(B)は、種類の異なるシート状部材(種類A〜種類J)10A〜10Jを上から順に積層したものであり、各シート状部材10の切り欠き12A〜12Jは上から(種類Aのシート状部材から)順に幅が広くなっているが、各切り欠き12の左端の位置が同じとなっている。この拡散接合品においても、切り欠きの幅が上から順に広がっており、凹部13の形状が略直角三角形状となっていれば正しい積層順序であると判断できる。
【0022】
なお、これらの例では、図3(A)のように、切り欠き12の位置をシート状部材10の幅方向中央部分を避けて設けたり、図3(B)のように、切り欠き12の幅方向中心をシート状部材10の幅方向中心と異ならせて、切り欠き12の左側のシート状部材の側部の幅と、右側の側部の幅とを明らかに異ならせることが好ましい。これにより、シート状部材10の表裏が正しいかどうかを判断できる。
【0023】
図4は、本発明の第3の実施の形態に係る拡散接合品を説明する図であり、図4(A)はシート状部材の平面図、図4(B)は拡散接合品の側面図である。
一般に、製品となるシート状部材10は、枠状のフレーム15にブリッジ16により支持されている。そして、シート状部材10をフレーム15ごと積層して拡散接合した後、ブリッジ16で接合品からフレーム15を切り離している。そこで、この例は、フレーム15の外縁に、図1と同様に、表面からのハーフエッチングにより切り欠き17を形成したものである。
【0024】
つまり、同じ種類(パターン)のシート状部材10−1、10−2のフレーム15−1、15−2の外縁に、切り欠き17−1、17−2が形成されている。また、別の種類のシート状部材10−3のフレーム15−3の外縁にも、切り欠き17−3が形成されている。最裏面のシート状部材10−nのフレーム15−nの外縁にも、切り欠き17−nが形成されている。これらの切り欠き17の位置は、図1と同様に、上から順に左方向にずれている。
【0025】
このようなシート状部材10を積層して拡散接合した製品においては、図4(B)に示すように、フレーム15の側面に切り欠き17による凹部(溝)18が形成される。この凹部18の形状を、予め正しい順序・表裏・角度で積層された製品の凹部の形状と比較することにより、切り欠きの位置が正しいかどうかが判断できる。つまり、凹部の形状が異なっていれば、切り欠きの位置が正しくないこととなり、正しい積層順序・表裏・角度でないと判断できる。
【0026】
この例においては、フレーム15は積層後に製品1から切り離されるため、製品自体に切り欠きによる凹部18は残らない。このため、製品1の側面に凹部があると支障がでるような場合に適している。
【0027】
図5は、本発明の第4の実施の形態に係る拡散接合品を説明するための図である。
この例では、図1と同様に、切り欠き12を設けたシート状部材10を正しい積層順序で作製した拡散接合品1の側面に形成された凹部13に係合するカギ20を予め用意しておく。カギ20は、例えば、プレート21の凹部13と対向する面の、各切り欠き12−1〜3に対向する位置に、同切り欠きと同じ形状の突部22−1〜3を形成したものとすることができる。そして、積層されたシート状部材10の側面にプレート20を当てて、プレート20の突部22−1〜3が、積層されたシート状部材10の側面の切り欠き12−1〜3(凹部13)に係合し、プレート21の面と積層されたシート状部材10の側面とが当接すれば、正しい順序・表裏・角度で積層されていると判断できる。
【0028】
一般に、エッチングは、シート状素材の表面と裏面から行われる。そして、表面側からのシート状素材の厚さ方向中心までのエッチング部と、裏面からのシート状素材の厚さ方向中心までのエッチング部とがつながって貫通部が形成される。この際、両エッチング部の境(シート状素材の厚さ方向中心)に微細な突起(バリ)のようなものが形成される。このため、例えば、積層枚数をカウントするためにエッチング側面を目視で観察する際、この突起がシート状素材(シート状部材)間の境界線に見えて、カウント数を間違えるおそれがある。しかし、ハーフエッチングで切り欠きを形成すれば、上述のように切り欠きが交互に現れるので、このようなカウントミスを少なくできる。さらには、図5に示すようなカギを備えることにより、多数枚の積層品の積層順序・表裏・角度を間違いなく判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る拡散接合品を説明する図であり、図1(A)はシート状部材の平面図、図1(B)は拡散接合品の側面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る拡散接合品を示す側面図である。
【図3】拡散接合品の側面に現れる切り欠きで構成される凹部の形態の他の例を示す側面図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態に係る拡散接合品を説明する図であり、図4(A)はシート状部材の平面図、図4(B)は拡散接合品の側面図である。
【図5】本発明の第4の実施の形態に係る拡散接合品を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
1 拡散接合品 10 シート状部材
11 パターン 12、17 切り欠き
13、18 凹部 15 フレーム
16 ブリッジ 20 カギ
21 プレート 22 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシート状素材にエッチングによりパターンを形成し、パターン形成後の複数のシート状部材を積層して拡散接合する拡散接合品の製造方法であって、
エッチング工程において、前記シート状部材の外縁部に、該シート状部材の積層方向における順序・角度・表裏を示す切り欠きを設けておき、
該切り欠きの位置を検査することによって、前記シート状部材の積層順序・角度・表裏が正しいかどうかを確認することを特徴とする拡散接合品の製造方法。
【請求項2】
前記切り欠きが、ハーフエッチングにより形成された、非貫通の凹部であることを特徴とする請求項1記載の拡散接合品の製造方法。
【請求項3】
積層後に前記切り欠きによって形成される溝に係合するカギを備え、
該カギが前記溝に係合するか否かによって前記シート状部材の積層順序・表裏・角度を検査することを特徴とする請求項1又は2記載の拡散接合品の製造方法。
【請求項4】
エッチングによりパターンが形成された複数のシート状部材を積層して拡散接合する拡散接合品であって、
前記シート状部材の外縁部に、該シート状部材の積層方向における順序・表裏・角度を示す切り欠きが設けられており、
該切り欠きが、前記パターンを形成するためのハーフエッチング工程で形成されたものであることを特徴とする拡散接合品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−713(P2009−713A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163425(P2007−163425)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(592034098)株式会社アロン社 (7)
【Fターム(参考)】