説明

持続可能な天然ガス田の開発方法

【課題】バイオマス及び有機系廃棄物の不完全燃焼ガスに含まれる一酸化炭素を用いて合成可能な蟻酸塩(若しくは蟻酸)をメタン生成菌の基質として活用する事によりメタンを大量生産する。
【解決手段】1)有機系廃棄物を高温で部分酸化処理して得た一酸化炭素ガスに強塩基を高温高圧で作用させて生じた蟻酸塩(若しくは蟻酸)をメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する。2)1において蟻酸塩等だけでなく部分酸化処理する際に一酸化炭素ガスと同時に発生する水素ガスをメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する。3)1,2において有機系廃棄物由来の蟻酸塩等を用いるのではなく、既存の方法で製造された蟻酸や酢酸を添加する。4)1〜3において用いる水素ガスを、有機系廃棄物の部分酸化処理ガスを用いるのではなく、他方法で製造した水素ガスを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス及び有機系廃棄物の不完全燃焼ガスに含まれる一酸化炭素を用いて合成可能な蟻酸塩(若しくは蟻酸)をメタン生成菌の基質として活用する事によってメタンを大量生産する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
財団法人地球環境産業技術研究機構の湯川英明博士らは蟻酸ソーダ法によってバイオマスの不完全燃焼ガス(一酸化炭素)から合成した蟻酸を、好気的環境下で通性嫌気性水素生産菌(大腸菌等)に与えた後に還元環境下に移行させる方法によって水素の大量生産に成功している(特開2005−87035、特開2004−303601)。しかしながら、アメリカ合衆国イリノイ大学教授、リチャード・マゼル教授らは蟻酸自体が固体高分子型燃料電池の良好な燃料となる事を示しているため(http://www.tekion.com/)、燃料電池発電が目的ならバイオマス蟻酸から水素生産する必要がなくなっている。
一方、メタン生成菌は広範な環境に生育するが、メタン生成によるエネルギー獲得の基質は多様ではなく、自然界では蟻酸、酢酸、水素等に限定されている。従って、従来、ウェットバイオマス(生ごみ等)からのメタン発酵においては、メタン発酵の前に酸発酵させた方が発酵速度が速い事が知られている(http://www.kanto.maff.go.jp/topics/tiikileader/2004/dai6kai.htm)。しかしながら、ウェットバイオマスの酸発酵によって生産可能な蟻酸、酢酸とは別に、外部から別途、木材等のドライバイオマス由来の蟻酸や水素を添加する事によって、メタンの大量生産を可能とする技術に関しては現在考えられていない。
そのためもあり、現在、メタン発酵生産は、生ごみ、活性汚泥、食品廃棄物等のウェットバイオマスのみに原料が限定されており、化石燃料エコノミーから持続社会エコノミーへの移行がスムーズに行われている状況とは言い難い。本発明は以上の背景を鑑みなされたものであり、既に確立されている2つの技術を戦略的に結合させる事によって、世界各地の森林資源を「持続可能な天然ガス田」に転換させる事を可能としたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、バイオマス及び有機系廃棄物の不完全燃焼ガスに含まれる一酸化炭素を用いて合成可能な蟻酸塩(若しくは蟻酸)をメタン生成菌の基質として活用する事によってメタンを大量生産する技術を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、(1)木材等のバイオマスやプラスチック等の有機系廃棄物を高温で部分酸化処理して得た一酸化炭素ガスに水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の強塩基を高温高圧で作用させて生じた蟻酸塩(若しくは蟻酸)をメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する資源循環方法及び装置、(2)1において蟻酸塩(若しくは蟻酸)だけでなくバイオマスや有機系廃棄物を高温で部分酸化処理する際に一酸化炭素ガスと同時に発生する水素ガスをメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する資源循環方法及び装置、(3)1,2においてバイオマスや有機系廃棄物由来の蟻酸塩(若しくは蟻酸)を用いるのではなく、既存の方法で製造された蟻酸や酢酸を添加する方法及び装置、(4)1〜3において用いる水素ガスを、バイオマスやプラスチック等の有機系廃棄物の部分酸化処理ガスを用いるのではなく、他方法で製造した水素ガスを用いる資源循環方法及び装置の計4技術のうちの1つ以上を適用すればよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によって全世界の森林バイオマス資源や可燃性廃棄物等をメタンガスに転換する事が可能となり、持続可能エネルギー社会への移行がスムーズになる効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。まず、木材等のバイオマスやプラスチック等の有機系廃棄物を高温で部分酸化処理(不完全燃焼)して得たガス(一酸化炭素ガス、水素ガス、二酸化炭素ガス、メタンガス等)を必要に応じて水酸化カルシウム溶液や水に通し二酸化炭素を除去する。次に残りのガスに含まれる一酸化炭素ガスに水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の強塩基を高温高圧(150℃以上、0.6MPa以上)で作用させて生じた蟻酸塩、若しくはそれに硫酸などを作用させて生産した蟻酸をメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する。一酸化炭素ガスと強塩基を作用させて蟻酸塩を合成する方法は蟻酸ソーダ法として知られコークス由来の一酸化炭素ガスを使って従来から使われている。
【0007】
この時、メタン発酵タンクに投入する前に、メタン発酵タンクに同時に通性嫌気性水素生産菌(大腸菌等)を共存させて、蟻酸若しくは蟻酸塩を加え好気的環境下で培養した後に還元環境下に移行させれば通性嫌気性水素生産菌(大腸菌等)によって水素ガスが同時に生産されメタン生成菌のメタン生成にとって有効に働く事が期待できる。
【0008】
また請求項1において蟻酸塩(若しくは蟻酸)だけでなくバイオマスや有機系廃棄物を高温で部分酸化処理する際に一酸化炭素ガスと同時に発生する水素ガスをメタン生成菌の基質としてもよく、その場合、蟻酸(塩)をより有効に活用できる効果が期待できる。
【0009】
更に請求項1,2においてバイオマスや有機系廃棄物由来の蟻酸塩(若しくは蟻酸)を用いるのではなく、コークス由来の一酸化炭素ガスを使った蟻酸ソーダ法や酢酸発酵によって製造された蟻酸や酢酸を添加する方法も有効に働くであろう。また、水素ガスに関してもバイオマスや可燃性廃棄物由来の水素ガスを用いるだけでなく、水電気分解等によって生産可能な水素ガスを用いても良い。ただその場合、持続エネルギー効率的にはマイナスに働く。
【産業上の利用可能性】
【0010】
なお、ここで一酸化炭素ガス生産に用いるバイオマスは森林バイオマスが望ましいが、破壊的な伐採を行うのではなく、毎年光合成で増産できるバイオマスの範囲内のみでの利用に留める事が重要であり、そうすれば世界各地の森林資源が「持続可能な天然メタンガス田」に転換できる事が可能になろう。一般に、熱帯雨林ではヘクタール当たり20トン、温帯林ではヘクタールあたり10トンのバイオマス(乾物)が毎年、太陽エネルギーによって固定されている事が知られており、全世界の森林資源を持続的に有効活用する事によって、現在の世界のエネルギー消費量を全て賄う事が可能となる。特にメタンは液化すれば運搬が容易で、持続可能エネルギー社会にスムーズに移行させる事が容易になる効果が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材等のバイオマスやプラスチック等の有機系廃棄物を高温で部分酸化処理して得た一酸化炭素ガスに水酸化カルシウム、水酸化カリウム等の強塩基を高温高圧で作用させて生じた蟻酸塩(若しくは蟻酸)をメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する資源循環方法及び装置。
【請求項2】
請求項1において蟻酸塩(若しくは蟻酸)だけでなくバイオマスや有機系廃棄物を高温で部分酸化処理する際に一酸化炭素ガスと同時に発生する水素ガスをメタン生成菌の基質として活用しメタンガスを大量生産する資源循環方法及び装置。
【請求項3】
請求項1,2においてバイオマスや有機系廃棄物由来の蟻酸塩(若しくは蟻酸)を用いるのではなく、既存の方法で製造された蟻酸や酢酸を添加する方法及び装置。
【請求項4】
請求項1〜3において用いる水素ガスを、バイオマスやプラスチック等の有機系廃棄物の部分酸化処理ガスを用いるのではなく、他方法で製造した水素ガスを用いる資源循環方法及び装置。

【公開番号】特開2007−75089(P2007−75089A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300898(P2005−300898)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(500412183)
【Fターム(参考)】