説明

指ユニット及び把持装置

【課題】形状が複雑なものや破損したり傷付きやすい把持対象物であっても、適切に掴むことが可能な指ユニット及び把持装置を提供する。
【解決手段】把持装置を構成する指ユニットは、ベース部材22の表面に指腹機構部24を設けた構成とされている。指腹機構部24は、把持対象物に対して面接触可能な表層部26と、表層部26に追従して変形可能な中間部材28と、表層部に対して裏面側から押圧可能な支持部材30とを有し、ベース部材22と表層部26との間に中間部材28及び支持部材30が配された構造とされている。指腹機構部24は、把持対象物との接触に伴って表層部26に対して圧力が作用すると、支持部材30を支点として表層部26の姿勢が把持対象物の表面に沿うように変化し、把持対象物側に作用する圧力の局所的上昇が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット等において把持対象物たる物品を把持するために使用される指ユニット及び把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1,2に開示されているようなロボットハンド等が、ロボット等において把持対象物を把持するための把持装置として提供されている。
【0003】
特許文献1に開示されているロボットハンドは、平面上に載置された物体を持ち上げるように把持する把持動作を可能とするものであり、物体を把持するための屈曲動作を行える指本体を備えた構成とされている。このロボットハンドには、指本体の先端部であって腹部側の部分に弾性体を備えた爪部が設けられており、物体と該物体が配置されている床面との間に爪部を挿入できるようになっている。
【0004】
特許文献2に開示されているロボットハンドは、掌方向への把持力を増大させることにより把持対象物を把持する際の圧力を減少させようとするものであり、指部の付け根側となる根本リンクと、根本リンクに接続された先端リンクとを備えた構成とされている。このロボットハンドでは、先端リンクの中間部分よりも根本側の領域に凹状の湾曲部分を設け、把持により作用する圧力が掌方向に向く構成とすることにより、把持対象物の中心方向への圧力を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−36328号公報
【特許文献2】特開2009−214269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来技術のロボットハンドでは、把持対象物を適切に把持することができない。具体的には、特許文献1に開示されているロボットハンドでは、床面と把持対象物との間に爪部を挿入して持ち上げる構成とされているため、爪部の先端部が把持対象物に接触してしまった場合は、爪部との接触部分に過大な圧力が作用し、把持対象物が破損したり傷付いてしまうおそれがある。また、爪部の先端部と把持対象物との接触を回避することができたとしても、把持対象物が爪部の上に搭載された状態となり、把持が不安定になるといった課題がある。
【0007】
また、特許文献2に開示されているロボットハンドでは、先端リンクの根本側に湾曲部分が設けられているため、把持対象物に作用する応力が掌側に向きやすく、その分だけ把持対象物に作用する圧力が幾分緩和されるものと想定される。しかしながら、把持対象物の外面形状が複雑な形状である場合は、必ずしもこのような効果が期待できる訳ではない。
【0008】
そこで、本発明は、形状が複雑なものや破損したり傷付きやすい把持対象物であっても適切に掴むことが可能な指ユニット及び把持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決すべく提供される本発明の指ユニットは、把持対象物を把持可能な把持装置に用いられ、指腹機構部と、この指腹機構部を支持するベース部材とを備える指ユニットであって、前記指腹機構部が、前記把持対象物に対して面接触可能な表層部と、前記表層部に追従して変形可能な中間部材と、前記表層部に対して裏面側から押圧可能な支持部材と、を有し、前記ベース部材と前記表層部との間には、前記中間部材及び前記支持部材が配された構造とされている。そして、前記把持対象物との接触に伴って前記表層部に対して圧力が作用することにより、前記表層部に対して裏面側から押圧する支持部材を支点として前記表層部の姿勢が変化しうる。なお、「表層部に対して裏面側から押圧する」とは、例えば、中間部材を圧縮するようなかたちで、表層部に対して支持部材が裏面側から当接又は押し付ける態様が相当する。
【0010】
上記構成によれば、指腹機構部の表層部に把持対象物が接触して圧力が作用すると、表層部が支持部材を支点として把持対象物に沿うように姿勢変化し、指腹機構部の表層部が把持対象物を包むような状態になる。そのため、指腹機構部の表層部と把持対象物との接触面積が大きくなり、把持対象物側に作用する圧力が局所に集中するのを回避することができる。すなわち、上記構成によれば、表層部が支持部材によって姿勢変化する前に、表層部及び中間部材を把持物体の形状に倣うように形状変化させつつ、把持対象物の表面に作用する圧力の局所的上昇を抑えることが可能である。また、表層部とベース部材との間に設けられた中間部材が、表層部に追従して変形することにより、把持対象物の表面に作用する圧力(面圧)の局所的上昇を抑制しながら、表層部が把持対象物を包み込むように確実に掴むことで、把持対象物に加わる外部からの力(外乱)による姿勢変化を抑制することが可能である。従って、本発明の指ユニットが用いられる把持装置は、形状が複雑なものや破損しやすい把持対象物であっても、人が指によって把持するときのように、把持対象物にいたずらに外傷を与えることなく安定して掴むことが可能である。また、表層部と把持対象物とが接触した際、支持部材によって支持される予定の表層部の支持位置から偏った位置で表層部の面圧が上がりすぎたような場合、表層部が支持部材に支持されると同時に、上記支持位置を中心として上記偏った位置と反対側の表層部が把持対象物に押しつけられるように、表層部を姿勢変化させることが可能となる。これにより、表層部の押しつけられた部分の面圧が上昇するとともに、面圧が上がりすぎていた部分の表層部の面圧が減少し、表層部の把持対象物に与える面圧を均一化することができる。上記事項から、本発明の把持装置は、人間型のロボットハンド等に対して好適に使用することができる。
【0011】
また、上記構成の指ユニットにおいて、前記中間部材が、表層部に作用する圧力を緩和する緩衝手段を備えることが好ましい。これによれば、把持対象物を把持する際に作用する圧力を中間部材において緩和し、反作用により把持対象物側に作用する圧力の局所的上昇を低減することが可能となり、把持対象物をより一層適度な力で把持できる。
【0012】
かかる構成によれば、把持対象物を把持する際に把持対象物の表面に作用する圧力の局所的上昇を抑制し、反作用により把持対象物側に作用する圧力の大きさの分布を均一化し、及び圧力のかかる方向を分散させることが可能になる。
【0013】
また、上記構成の指ユニットにおいて、前記支持部材が前記表層部に沿う方向に移動可能であり、前記表層部の表面に対して作用する圧力の分布に応じて、前記支持部材の位置を移動させることができるものであることが好ましい。これによれば、表層部における圧力のバランス及び把持対象物の姿勢をスムーズかつ的確に変化させることによって、把持対象物を表層部の表面に沿わせることが可能となる。従って、上述した構成によれば、表層部と把持対象物とを確実に面接触させ、把持対象物に作用する圧力の局所的上昇を更に緩和することが可能となる。
【0014】
また、上記構成の指ユニットにおいて、前記支持部材が、粘性又は/及び弾性を有するものであることが好ましい。支持部材として弾性を有するものを採用することにより、把持対象物を把持するために把持力を増大させていったときに、急峻な面圧上昇が発生するのを防止することが可能となる。また、支持部材として粘性を有するものを採用することにより、把持対象物の振動、及び把持対象物に作用する面圧の振動的変化を抑制できる。従って、上述した構成によれば、把持対象物を破損等させることなく、把持することが可能となる。
【0015】
また、上記構成の指ユニットにおいては、前記表層部が、同一方向に向けて筋状に延びる凹凸を複数、表面に備えており、前記凹凸が指ユニットの長手方向に向けて延びるように設けられていることが好ましい。これによれば、表層部の表面に形成された凸部において把持対象物が面接触すると共に、凹部において把持対象物の角部(エッジ)を収納できる。また、表層部を構成する各凹凸は、凸部を有する表層部材の小片が複数その表面に並べられた構造で、凹部は個々の小片の隙間によって構成されていてもよい。その際、各小片同士が膜、ワイヤ又は紐状のもの等によって連結されていることが望ましい。これによれば、膜、ワイヤ又は紐状のもの等によって連結された各小片が、把持対象物と接触した表層部の動き(形状変化)に連動して微少移動し、把持対象物を包み込むことが可能となる。さらに、各小片は、連結されながらも互いに拘束されることなく自由となっている。これにより、把持対象物をより一層包み込むことが可能となる。
【0016】
また、上記構成の指ユニットにおいて、前記表層部が、弾性又は粘弾性を有するものであることが好ましい。これによれば、把持により把持対象物に作用する衝撃をより一層緩和することが可能となり、把持対象物の破損等を防止することができる。なお、表層部は、把持する際に作用する圧力により塑性変形しないことが好ましい。
【0017】
また、上記構成の指ユニットにおいて、当該指ユニットの長手方向に沿って複数の指腹機構部が設けられていることが好ましい。これによれば、表面形状が複雑な把持対象物であっても、厚みを持つ把持対象物であっても、把持対象物をより一層丁寧に包むように掴むことが可能となる。また、指ユニットの先端部に設けられた指腹機構部における支持部材を、指ユニットの先端側に設ける又は先端側へ移動させることによって、より一層しっかりと包んだ状態で把持することが可能となる。
【0018】
さらに、上記のいずれかに記載の指ユニットを複数備え、これら複数の指ユニットによって前記把持対象物を把持可能な把持装置であって、前記複数の指ユニットが、相互に近接離反する方向に移動可能に構成されているとともに、当該複数の指ユニットの間に形成される空間に配された把持対象物を、相互に近接する方向に移動することによって把持可能とされていることが好ましい。すなわち、本発明の把持装置は、相互に近接離反する方向に移動可能な指ユニットを複数備えており、各指ユニットの間に形成される空間に配された把持対象物を把持可能な把持装置であって、前記指ユニットが、前記把持対象物に対して接触する指腹機構部と、前記指腹機構部を支持するベース部材とを有し、前記指腹機構部が、前記把持対象物に対して面接触可能な表層部と、前記表層部に追従して変形可能な中間部材と、前記表層部に対して裏面側から押圧可能な支持部材と、を有し、前記ベース部材と前記表層部との間に前記中間部材及び前記支持部材が配された構造とされている。そして、前記把持対象物との接触に伴って前記表層部に対して圧力が作用することにより、前記表層部に対して裏面側から押圧する支持部材を支点として前記表層部の姿勢が変化しうる。なお、「表層部に対して裏面側から押圧する」とは、例えば、中間部材を圧縮するようなかたちで、表層部に対して支持部材が裏面側から当接又は押し付ける態様が相当する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上述したような原理により、把持対象物を、人が指によって把持するが如く包むように掴むことが可能となるので、形状が複雑なものや破損したり傷付いたりしやすい把持対象物であっても、適切に掴むことが可能な指ユニット及び把持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る把持装置を概念的に示した平面図である。
【図2】(a)は図1に示す把持装置において採用されている指ユニットを示す斜視図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】指腹機構部の構造を示す断面図である。
【図4】(a),(b)はそれぞれ、把持対象物を把持することにより指腹機構部に圧力が作用した状態を示す断面図である。
【図5】図4に示す指腹機構部を備えた指ユニットによって把持対象物を把持した状態を示す断面図である。
【図6】(a)は指腹機構部の第一変形例を示す断面図、(b)は把持対象物を把持することにより(a)に示す指腹機構部に圧力が作用した状態を示す断面図、(c)は移動させた支持部材によって把持対象物を把持することにより(a)に示す指腹機構部に圧力が作用した状態を示す断面図である。
【図7】(a)〜(d)はそれぞれ第二変形例から第五変形例に係る指腹機構部の構造を示す断面図である。
【図8】(a)は図3に示す指腹機構部において採用されている表層部の拡大図であり、(b)〜(h)はそれぞれ(a)の変形例を示す拡大図である。
【図9】(a)〜(d)はそれぞれ第六変形例から第九変形例に係る指腹機構部を示す断面図である。
【図10】(a)〜(c)はそれぞれ第十変形例から第十二変形例に係る指腹機構部を示す断面図である。
【図11】(a)は第十三変形例に係る指腹機構部を備えた指ユニットを示す断面図であり、(b)は(a)の指ユニットを採用した把持装置を示す平面図である。
【図12】(a)は第十四変形例に係る指腹機構部を備えた指ユニットを示す断面図であり、(b)は第十五変形例に係る指腹機構部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る指ユニット及びこの指ユニットが複数用いられた把持装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1に示すように、把持装置100は、制御装置12と、これにより動作制御される複数(本実施形態では4基)の指ユニット20(20a,20b,20c,20d)とを備えており、各指ユニット20a,20b,20c,20dの間に形成される空間内に配された把持対象物Wを把持することができる。指ユニット20a,20b,20c,20dは、各指ユニット20の間に形成される空間に対して図1紙面の上下左右方向にそれぞれ配置されている。また、指ユニット20a,20b,20c,20dのそれぞれは、図示しないアクチュエータを作動させることによりレール16に沿ってX方向あるいはY方向に向けて直線的に移動し、各指ユニット20a,20b,20c,20dの間に形成される空間の中心に対して近接離反することができるようになっている。
【0023】
図2に示すように、指ユニット20は、長手状のものであり、ベース部材22と指腹機構部24とを有する。ベース部材22は、指ユニット20の芯材として機能するものであり、樹脂、金属、木材等のように、把持対象物Wを把持する際の反力によって永久変形を生じない素材によって形成される。また、ベース部材22は、例えば円筒体のような筒体によって構成されているが、柱状体であってもよい。
【0024】
指腹機構部24は、ベース部材22の外周側に配された機構であり、把持対象物Wに対して面接触する部分である。また、指腹機構部24は、指ユニット20の長手方向に複数(本実施形態では3つ)、並べた状態で配置されており、それぞれ独立的に作動可能とされている。具体的には、指ユニット20は、人の指において指先から第一関節に至る部分に相当する領域、第一関節から第二関節に至る部分に相当する領域、第二関節から第三関節に至る部分に相当する領域のそれぞれに対応するかたちで指腹機構部24が設けられている。
【0025】
また、指腹機構部24は、図2(b)及び図3に示すように、表層部26、中間部材28、支持部材30、及び圧力センサ32を有している。なお、図3においては、指腹機構部24のうち、便宜上、図1に示した指ユニット20a,20b,20c,20dの間に形成される空間側部分のみの断面を示しており、その他の図示は省略している。
【0026】
表層部26は、指腹機構部24において最も表面側に設けられており、図1に示した指ユニット20a,20b,20c,20dの間に形成される空間に配置された把持対象物Wを把持する際に、把持対象物Wに対して面接触する層である。また、表層部26は、中間部材28に比べて薄く柔軟性を有する筋状の表層部材26a(課題を解決するための手段に記載の「小片」に相当)が、略同一方向(本実施形態では図1におけるZ方向)に複数並ぶことによって構成されている(すなわち、表層部26は、複数の表層部材26aの集合体である)。この表層部材26aは、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等の可撓性を有する素材によって形成することができるが、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム素材(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等のゴム素材の他、竹、木材、又は、ピアノ線若しくはバネ部材等の金属によって形成してもよい。
【0027】
また、表層部26は、図2や図8(a)等に示すように、中間部材28の表面に円柱状の表層部材26aが略同一方向に複数並べて配置されることにより、凹凸34(図3、図4等、一部の図面においては図示せず省略)が複数形成されている。この凹凸34は、凸部34a及び凹部34bによって構成されており、指ユニット20の略全周を包囲するように形成されている(すなわち、指ユニット20の略全周を包囲するように上述の表層部材26aが配置されている)。また、図2に示すように、凸部34a及び凹部34bは、それぞれ指ユニット20の長手方向に向けて筋状に延びるように設けられている。また、図8(a)において、凸部34aは、円状の断面形状部分(より詳しくは、円状の断面形状部分のうち凸部として機能しうる上半円部分)が相当し、凹部34bは、指ユニット20の周方向に並んだ凸部34a,34a間に形成された谷状の部分が相当する。
【0028】
このように表層部26の表面26bに凹凸34が形成されることで、把持対象物Wを把持する際に、凸部34aにおいて把持対象物Wが線接触すると共に、凹部34bにおいて把持対象物Wの角部(エッジ)を収納できる。これにより、形状が複雑な把持対象物Wであっても包むように掴むことができるだけでなく、柔らかくて傷付きやすい又は形状が崩れやすい把持対象物Wであっても、当該把持対象物Wを破損等させることなく、包むように掴むことが可能となる。なお、本実施形態では、表層部26を露出させた構成を例示するが、表層部26の外側に更に別のカバーを装着させることも可能である。
【0029】
中間部材28は、ベース部材22と表層部26との間に設けられた層である。図4に示すように、中間部材28は、把持対象物Wの把持に伴って表層部26に圧力が作用した際に、表層部26に追従して変形可能とされている。具体的には、中間部材28は、弾性及び/又は粘弾性を有する素材によって形成されており、例えば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム素材(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等のゴム素材、これらのゴム素材に高減衰性を発揮する添加剤を加えて生成された高減衰性ゴム組成物、ポリウレタン等の素材によって形成することができる。このような構成とすることにより、把持対象物Wを把持する際に表層部26に作用した圧力を中間部材28において緩和し、把持対象物W側に作用する圧力の局所的上昇を防止することが可能となる。
【0030】
支持部材30は、主として表層部26に作用する圧力分布を制御する機能を有する部材である。支持部材30の位置を変化させることにより、表層部26に作用する圧力の分布状態を変化させることができる。支持部材30は、樹脂等の、粘性又は/及び弾性を有するものであることが好ましく、さらには、想定される外力が加わっても塑性変形し難い部材によって構成されることが好ましい。本実施形態における支持部材30は、図3及び図4に示すように、ベース部材22と接している表面を基端部30aとし、先端部30bが中間部材28側に向けて突出するように設けられた突状の部材(本実施形態では、ベース部材22の周囲にリング状に設けられた部材)である。支持部材30の高さ(基端部30aから先端部30bまでの長さ)は、上述した中間部材28の厚みよりも小さくなるように構成されている。そのため、図3に示すように、表層部26に対して指腹機構部24の厚み方向(圧縮方向)への圧力が作用していない状態においては、支持部材30の先端部30bは表層部26の裏面26c側と接触していない。また、図5に示すように、指先に位置する指腹機構部24における支持部材30は、ベース部材22の先端(指先)付近に設けられている。
【0031】
ここで、支持部材30の高さに依存して、表層部26の姿勢の可動角度が決定される。また、中間部材28の高さから支持部材30の高さを差し引いた部分は、中間部材28にバネ的作用及びダンパ的作用(バネ・ダンパ作用)を発揮させ、把持対象物Wの形状に倣うように形状変化させるため、及び把持対象物Wの位置姿勢を回復させるための可動しろとして用いられる。支持部材30の高さは、これらの点を考慮した上で最適な高さに調整されている。
【0032】
これに対し、図4に示すように、表層部26に対して前述した圧力が作用している状態になると、中間部材28が圧縮変形し、支持部材30の先端部30bが表層部26に対して裏面26c側から当接可能な状態となる(表層部26の裏面26cとの間に中間部材28を介する場合には、支持部材30と表層部26の裏面26cとが当接することなく、中間部材28を押圧する状態となる)。そのため、把持対象物Wとの接触により表層部26の表面26bに圧力が作用すると、支持部材30を支点として表層部26の姿勢(傾きや湾曲状態)を変化させることが可能となる。
【0033】
支持部材30は、把持対象物Wを把持する際、表層部26に対して分布的に加わる力に対してモーメント的にバランスをとる際の支点として機能させるために設けられている。表層部26を水平姿勢とした状態でモーメント的にバランスをとることが望ましい場合には、表層部26の略中央部を支持できる位置に支持部材30が配置される。また、表層部26の姿勢(傾きや湾曲状態)を傾斜あるいは湾曲させた状態でモーメント的にバランスをとることが望ましい場合には、図4(a)に示したように、圧力の作用方向(図4(a)中の矢印参照)と支持部材30の突出方向とが相対することなくずれた位置となるように、支持部材30を移動又は配置する。
【0034】
また、図4(b)に示したように、支持部材30を指腹機構24の中心に対して指先側に配置し、図4(b)中の矢印方向に圧力が作用した場合は、表層部26の姿勢は指ユニット20の根本側(指先と反対側)がベース部材22に近づくように傾いて、把持対象物Wに対する接触位置が支持部材30より指ユニット20の根本側(指先と反対側)となるため、把持対象物Wの脱落を抑制することが可能となる。このように、支持部材30を指先側に配置することで、表層部26の根本側がベース部材22に近づくように傾きやすくなり、把持対象物Wに作用する圧力の方向が指ユニット20の根本方向に向かいやすくなるため、より一層、指ユニット20の指先方向への把持対象物Wの移動を抑制することができる。
【0035】
従って、支持部材30は、表層部26に沿って(例えば指ユニット20の長手方向(図3及び図4における左右方向)に沿って)移動可能に構成されていることが好ましい。このように、把持対象物Wとの接触により表層部26の表面26bに作用する圧力の位置及び圧力の分布に応じて支持部材30が適切な位置まで移動できるように構成することで、表層部26を、把持対象物Wに沿う状態に姿勢変化させることが可能となる。これにより、把持対象物Wを把持する場合に、当該把持対象物Wに対して表層部26を面接触(表層部26としてみれば面接触であるが、上述した表層部材26a単体でみると線接触である)させることが可能となり、把持に伴って把持対象物Wに作用する圧力の分布、及び圧力の方向を機構的に制御することが可能になる。
【0036】
また、中間部材28は、オープンセル構造のスポンジのような柔らかいものによって構成されることが好ましい。中間部材28は、把持対象物Wの形状に表層部26の形状を倣わせる機能、及び把持対象物Wが目標姿勢、もしくは安定していた把持位置姿勢から外乱等によってずれたときに、目標姿勢もしくは安定していた把持位置姿勢に復元させる力及び復元モーメントを発生させる機能を発揮する。
【0037】
図3に示すように、圧力センサ32は、ベース部材22に沿って指ユニット20の長手方向に所定の間隔毎に設けられている。圧力センサ32は、圧力を検出可能な位置であればいずれの位置に配置されても良いが、表層部26の表面26bが把持対象物Wに傷を付けたり永久変形させたりしないような面圧の範囲で把持しているのかを判断可能とする出力特性が得られるように配置されることが好ましい。本実施形態では、表層部26の中立点を境として左右に分布するように配置されており、これにより表層部26の姿勢もしくは把持対象物Wに加わっている力の方向を推定することができる。なお、図4では、説明の便宜のため、圧力センサ32を省略している。
【0038】
次に、把持装置100の動作について説明する。図1に示すように、把持装置100は、図1紙面の上下に配置された指ユニット20a,20bと、図1紙面の左右に配された指ユニット20c,20dとを有し、制御装置12から発信される指令に基づいて各指ユニット20が動作する。把持装置100は、指ユニット20a〜20dの間に形成される空間に把持対象物Wが配置された際に、制御装置12からの指令により指ユニット20a,20bがY方向、指ユニット20c,20dがX方向に移動し、指ユニット20a〜20dの間に形成される空間の中心側に集まる。これにより、把持対象物Wの表面に各指ユニット20a〜20dの表層部26が接触した状態になる。
【0039】
支持部材30が例えば図示しないアクチュエータから動力を受けることにより表層部26に沿って移動できる場合、各指ユニット20a〜20dが把持対象物Wに接触すると、指腹機構部24に作用している圧力の大きさ及び分布が圧力センサ32によって検知される。この検知結果に基づき、制御装置12は、支持部材30を移動させて表層部26における圧力のバランスを変化させる。すなわち、支持部材30は、表層部26を把持対象物Wに沿う状態に姿勢変化させるための支点として適切な位置(圧力と支持部材30が相対しないよう互いにずれた位置)まで移動する。これにより、図5に示すように、指ユニット20a〜20dに設けられた指腹機構部24の表層部26が、それぞれ、把持対象物Wの外面に沿うように傾き、湾曲した状態になる。なお、支持部材30は、必ずしも動力を受けることによって移動できるものに限られず、指腹機構部24に作用した圧力によって移動できるものであってもよい。
【0040】
図5の状態を例に挙げて更に詳細に説明すると、指ユニット20の指先側から2番目及び3番目の指腹機構部24では、支持部材30が略中央に存在し、モーメントバランス点(支持点)が略中央近傍に設定された状態となっている。また、指先側から1番目の指腹機構部24は、支持部材30が指先側に偏った位置に存在し、モーメントバランス点(支持点)が略中央よりも指先側に偏るように設定された状態となっている。これにより、図5に示した指先側から1番目の指腹機構部24においては、支持部材30におけるモーメントバランス点(支持点)の左側の分布圧力の総和が右側の分布圧力の総和よりも大きくなり、指ユニット20の根本側に向けて力を発生させることができる。また、これにより把持対象物Wが指先方向に移動することを抑制することができる。
【0041】
また、指ユニット20a〜20dに設けられた指腹機構部24の表層部26が、それぞれ、把持対象物Wの外面に沿うように傾き、湾曲した状態になると(図5参照)、中間部材28は、表層部26の傾きや湾曲などの形状変化に追従するように変形する。これにより、把持に伴って把持対象物Wに作用する圧力Rの局所的上昇が緩和され、把持対象物Wを包むように掴まれた状態になる。なお、図5においては、指腹機構部24のうち、図1に示した指ユニット20a〜20dの間に形成される空間側部分のみの断面を示し、その他の図示は省略している。
【0042】
一方、指ユニット20a〜20dの間に形成される空間内において把持されている把持対象物Wを放す場合、制御装置12は、指ユニット20a〜20dを上記空間から離れる方向に移動させる。これにより、各指腹機構部24に作用していた圧力が解除され、中間部材28が図3に示すような元の状態に戻る。また、これに追従して、表層部26がベース部材22に対して略平行な状態に戻る。
【0043】
上述したように、本実施形態の把持装置100では、把持対象物Wを把持する際に各指ユニット20の指腹機構部24の表層部26に圧力が作用すると、支持部材30を支点として表層部26が把持対象物Wに沿うように姿勢変化する。これにより、表層部26と把持対象物Wとが面接触した状態になり、把持対象物Wとの接触面積が大きくなって、把持対象物W側に作用する圧力が局所集中するのを回避することができる。従って、把持装置100によれば、形状が複雑な把持対象物Wであっても包むように掴むことができるだけでなく、柔らかくて傷付きやすい又は形状が崩れやすい把持対象物Wであっても、当該把持対象物Wを破損等させることなく、包むように掴むことが可能となる。
【0044】
また、上述した指腹機構部24は、中間部材28が弾性及び/又は粘弾性を有する素材によって形成されており、表層部26に追従して変形し、把持対象物W側に作用する圧力の局所的上昇を抑制することができる。これにより、人が指によって把持する場合と同様に包むように掴む、すなわち、把持対象物Wに傷を付けたり永久変形させたりしないような面圧の範囲で把持することが可能となる。
【0045】
本実施形態の把持装置100では、例えば図2に示すように、人の指の如く指ユニット20の長手方向に複数の指腹機構部24が設けられている。そのため、表面形状が複雑な把持対象物Wであっても、把持対象物Wをより一層丁寧に包むように掴む、すなわち、把持対象物Wに傷を付けたり永久変形させたりしないような面圧の範囲で把持することが可能となる。
【0046】
なお、本発明は、上記の好ましい実施形態に記載されているが、本発明はそれだけに制限されない。例えば、以下の変形例として説明するように、本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が可能である。
【0047】
≪指腹機構部の第一変形例≫
本実施形態では、中間部材28を、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム素材、高減衰性ゴム組成物等の粘弾性又は弾性を有する素材により形成されたオープンセル構造のスポンジのような柔らかいものによって構成した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図6に示す指腹機構部241のようなものとすることが可能である。以下、指腹機構部241について説明する。なお、表層部261、支持部材301、ベース部材221の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、支持部材30、ベース部材22と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0048】
指腹機構部241は、上述した指腹機構部24と略同一の構成を有するが、中間部材28の代わりに、表層部261とベース部221との間の空間281に緩衝手段40を有する点で相違する。緩衝手段40は、線形若しくは非線形の特性を有するバネ42とダンパ44との組み合わせからなり、指腹機構部1の長手方向一端側と他端側との両方に配置されており、表層部261の姿勢が把持対象物Wの外形に沿う姿勢又は形状に変化可能となるように支持している。このような構成とした場合についても、上記した指ユニット20のように粘弾性又は弾性を有する素材によって中間部材28を形成した場合と同様に、表層部261に追従して中間部材281の空間形状を変化させ、表層部261に作用した圧力の分布状態を穏やかにすることが可能となる。また、このように中間部材281として機能する緩衝手段40をバネ42及びダンパ44によって構成した場合は、支持部材30を作動させるためのスペースを十分確保しつつ、装置構成の簡略化を図ることが可能となる。また、本変形例のような構成とすることにより、中間部材28としてスポンジ状のものを採用した場合に比べて耐久性を向上させることが可能となる。
【0049】
更に、指腹機構部241は、指腹機構部24と同様に支持部材301が表層部261に沿う方向に自由に移動可能とされており、表層部261の表面に対して作用する圧力の位置や分布に応じて支持部材301が移動することにより表層部261における圧力のバランスを変化させることが可能とされている。そのため、指腹機構部241は、把持対象物Wの表面に沿うように表層部261の姿勢を的確かつスムーズに変化させることが可能となる。従って、指腹機構部241を用いれば、表層部26と把持対象物Wとを確実に面接触させ、把持対象物Wに作用する圧力の局所的上昇を更に緩和することが可能となる。
【0050】
≪指腹機構部の第二変形例≫
上述した指腹機構部24は、支持部材30を樹脂又は金属などによって構成したものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、支持部材30に代えて粘性及び/又は弾性を有するもの等を採用し、緩衝手段としての機能、並進自由度を向上させる機能、バネ要素及びダンパ要素としての機能等を備えたものとすることも可能である。具体的には、図7(a)に示す指腹機構部242のようなものとすることが可能である。以下、指腹機構部242について、詳細に説明する。なお、表層部262、ベース部材222、緩衝手段402、この緩衝手段402を構成するバネ422,ダンパ442の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、ベース部材22、緩衝手段40、緩衝手段40を構成するバネ42、ダンパ44と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0051】
支持部材302は、オープンセル型の粘弾性素材、気体、液体又はゲル状の物質等を、可撓性を有する袋又は膜で包んだものであり、上述した支持部材30と同様に表層部262とベース部222との間の空間282に配されている。このような支持部材302を採用することにより、上記した支持部材30を用いた場合と同様の効果に加え、把持対象物Wを把持することにより表層部262側から作用する圧力を支持部材302において受け止め、かかる圧力を緩和することが可能となり、把持対象物Wをより一層柔らかく掴む、すなわち把持対象物Wに傷を付けたり永久変形させたりしないように把持することが可能となる。
【0052】
≪指腹機構部の第三変形例≫
上述した第二変形例と同様の知見から、支持部材を、上述した第二変形例の支持部材302に代えて、図7(b)に示す指腹機構部243における支持部材303のような構成とすることができる。以下、この支持部材303を有する第三変形例の指腹機構部243について説明する。なお、表層部263、ベース部材223、緩衝手段403、緩衝手段403を構成するバネ423,ダンパ443の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、ベース部材22、緩衝手段40、緩衝手段40を構成するバネ42、ダンパ44と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0053】
指腹機構部243は、基端部303a側の部位と先端部303b側の部位とを別部材によって構成し、両者の間にバネとダンパとを内蔵させたものである。この場合、図7(b)に示すように、先端部303bが常時表層部263の裏面側に当接した状態となる。このような構成とした場合であっても、上記した支持部材301を用いた場合と同様に、圧力の一部を、表層部263とベース部223との間の空間283に配置された支持部材303において受け止め、かかる圧力を緩和することが可能となり、把持対象物Wを包むように掴むことが可能となる。
【0054】
≪指腹機構部の第四変形例≫
上記実施形態では、中間部材28及び支持部材30を別々の部材で構成した例を示したが、上述したように中間部材28及び支持部材30の双方とも粘弾性又は弾性を有する性質を備えたものとする場合は、中間部材28及び支持部材30の双方の機能を兼ね備えた単一の部材(以下、「中間・支持部材464」とも称す)によって置換することも可能である。具体的には、図7(c)に示す指腹機構部244のような構成とすることが可能である。以下、指腹機構部244の構成、機能、効果について詳細に説明する。なお、指腹機構部244が有する表層部264及びベース部材224は、それぞれ、上述した表層部26及びベース部材22と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0055】
指腹機構部244において採用されている中間・支持部材464は、粘弾性を有するグミ状の物質、又は、流体や気体を包んだエアスプリング状のものである。表層部264とベース部材224との間の空間284に中間・支持部材464を設ける場合は、上記実施形態における中間部材28のように表層部26の裏面全体に亘って設けることも可能であるが、図7(c)に示すように、表層部264とベース部材224との間の空間284において指腹機構部244の長手方向(図7(c)紙面の左右方向)に所定の間隔毎に設けてもよい。なお、図7(c)に示す指腹機構部244では、並列配置された中間・支持部材464に亘って表層部264が繋がった構成を例示したが、各中間・支持部材464同士の中間点において表層部264が切断されていても良い。
【0056】
≪指腹機構部の第五変形例≫
上記第四実施例の指腹機構部244では、中間・支持部材464を長手方向に所定の間隔毎に設けた構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、図7(d)の指腹機構部245のような構成とすることも可能である。なお、指腹機構部245が有する表層部265、ベース部材225は、順に、上述した第四実施例の表層部264、ベース部材224と同様の構成、機能、及び効果を有するものであるため、詳細な説明については省略する。
【0057】
指腹機構部245において採用されている中間・支持部材465は、上述した中間・支持部材464よりも幅(指腹機構部245の長手方向(図7(d)紙面の左右方向)の長さ)が大きく、表層部265とベース部材225との間の空間285に略隙間無く並べて配置されている。このような構成とした場合についても、上記第四実施例の場合と同様に、各中間・支持部材465において把持対象物W側から作用する圧力を吸収し、圧力の局所的上昇を緩和することが可能となる。なお、図7(d)に示す指腹機構部245では、並列配置された中間・支持部材465に亘って表層部265が繋がった構成を例示したが、各中間・支持部材465同士の中間点において表層部265が切断されていても良い。
【0058】
≪指腹機構部の第六変形例≫
上記実施形態の指腹機構部24が有する表層部26及び第一変形例〜第五変形例に係る指腹機構部241〜245の表層部261〜265は、いずれも一体的に形成されたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の領域に分かれていても良い。以下、このような構成を有する指腹機構部246について説明する。なお、中間部材286、支持部材306、ベース部材226の構成、機能及び効果については、上述した中間部材28、支持部材30、ベース部材22と順に同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0059】
図9(a)に示すように、指腹機構部246が備える表層部266は、指腹機構部246の長手方向(図9(a)の左右方向)に複数の領域(図示状態では5領域)に分割されており、それぞれ独立的に変形可能とされている。そのため、把持対象物Wを把持して表層部266に圧力が作用した場合に、指腹機構部が分割されていない場合と比べて、表層部266が把持対象物Wの表面に沿うように姿勢変化しやすい。
【0060】
≪指腹機構部の第七変形例≫
上記第六変形例の表層部266と同様に、表層部が複数の領域に分かれている場合は、指腹機構部を、図9(b)に示す指腹機構部247のような構成とすることが可能である。この指腹機構部247は、上述した第二変形例の支持部材302と同様の構成及び機能を備えた支持部材307を、表層部267の各領域の下方(すなわち、中間部材287の内部)に有している。中間部材287は、上述した中間部材28と同様に粘弾性又は弾性を有する素材によって構成されている。ベース部材227は、上述したベース部材22と同様のものである。このような構成とすることにより、表層部267の各領域に作用した圧力を、これに対応して設けられた各支持部材307において受け止めることが可能となる。図9(b)に示すように支持部材307の両脇に等間隔で圧力センサ327を配置することにより、両圧力センサ327の出力から表層部267の位置姿勢の推定が可能となる。なお、圧力センサ327の配置は、必ずしも等間隔である必要はなく、圧力センサ327の間隔が既知であれば表層部267の位置姿勢を推定することが可能である。
【0061】
≪指腹機構部の第八変形例≫
第八変形例に係る指腹機構部248は、図9(c)に示すように、上記第六変形例及び第七変形例の表層部266,267と同様に複数の領域に分割された表層部268を有している。指腹機構部248の中間・支持部材468、ベース部材228の構成及び効果は、順に、上述した第四変形例に係る指腹機構部244の中間・支持部材464、ベース部材224と同様である。なお、中間・支持部材468は、表層部268とベース部材228との間の空間288に配置されている。このような構成とすることにより、表層部268の傾斜を柔軟に変化させることが可能となり、比較的小さな凸凹がある把持対象物Wを把持する際に特に有効である。
【0062】
≪指腹機構部の第九変形例≫
図9(d)に示すように、第九変形例に係る指腹機構部249は、上記第六変形例〜第八変形例の表層部266〜268と同様に複数の領域に分割された表層部269を備えている。指腹機構部249の中間・支持部材469、ベース部材229の構成及び効果は、それぞれ、上述した第五変形例に係る中間・支持部材465、ベース部材225と同様である。なお、中間・支持部材469は、表層部269とベース部材229との間の空間289に配置されている。このような構成とすることによっても、上述した指腹機構部24及び指腹機構部241〜248と同様に、人が指で掴むが如く把持対象物Wを包むように掴むこと、言い換えれば把持対象物Wに傷を付けたり永久変形させたりしないような面圧の範囲で把持することが可能となる。また、このような構成とすることにより、把持対象物Wの表面の形状に表層部269を均一に変形させることが可能となるため、比較的穏やかな凹凸を有する把持対象物Wを把持する際に特に有効である。
【0063】
≪指腹機構部の第十変形例≫
上述した指腹機構部24は、図3に示すように、圧力センサ32を支持部材30の基端部30a側の位置に配置しているが、本発明はこれに限定される訳ではなく、例えば図10(a)に示す指腹機構部250のような構成としてもよい。以下、この指腹機構部250について説明する。なお、表層部270、ベース部材230、中間部材290、支持部材500、圧力センサ330の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、ベース部材22、中間部材28、支持部材30、圧力センサ32と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0064】
指腹機構部250は、支持部材500の先端側の位置(図10(a)では、支持部材500の先端部よりも表層部270側の位置)に圧力センサ330が配置されている。かかる位置に圧力センサ330を配置することにより、中間部材290の変形も圧力センサ330の出力に影響を与え、その分だけ感度が向上することになる。また、表層部270から圧力センサ330までの距離が、指腹機構部24の表層部26から圧力センサ32までの距離よりも短くなり、これによる圧力センサ330の検知精度の向上も見込まれる。従って、支持部材500が移動可能である場合には、より一層的確な位置に支持部材500を移動させることが可能となる。また、圧力センサ33から発信される情報を用いた把持制御、又は、支持部材500を用いた指腹機構部250の姿勢制御をより一層精度良く実施可能となる。
【0065】
≪指腹機構部の第十一変形例≫
上述した第一変形例の指腹機構部241が有する緩衝手段40と同様の緩衝手段411を備えた変形例として、図10(b)に示す指腹機構部251のような構成とすることも可能である。以下、指腹機構部251について説明する。なお、表層部271、ベース部材231、支持部材501、圧力センサ331の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、ベース部材22、支持部材30、圧力センサ32と同様であるため、詳細な説明については省略する。ここで、支持部材501、緩衝部材411及び圧力センサ331は、いずれも、表層部271とベース部材231との間の空間291に配置されている。
【0066】
緩衝手段411は、バネ431及びダンパ451を有している。圧力センサ331及び圧力センサ332は、それぞれ、バネ431の基端部(ベース部材231側の端部)及びダンパ451の基端部(ベース部材231側の端部)に設けられている。かかる構成とした場合は、表層部271に作用する圧力が、バネ431及びダンパ451を伝達して直接的に圧力センサ331及び圧力センサ332に各々作用することになり、圧力の検出精度をより一層向上させることが可能となる。
【0067】
≪指腹機構部の第十二変形例≫
上述した実施形態及び変形例において示した圧力センサ32,330,331に代えて、直動ポテンショメータ又は非接触測距センサなどによって構成されたセンサ321を用いることも可能である。以下、直動ポテンショメータによって構成されたセンサ321を適用した指腹機構部252について説明する。なお、指腹機構部252において、表層部272、ベース部材232、支持部材502、緩衝手段412の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、ベース部材22、支持部材30、緩衝手段40と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0068】
図10(c)に示すように、指腹機構部252は、直動ポテンショメータによって構成されたセンサ321を、表層部272とベース部材232との間の空間292であって、各緩衝手段412に対して隣接する位置に設けたものである。かかる構成とした場合についても、バネ432及びダンパ452の特性を事前に把握しておくことにより、圧力センサ32を用いた場合と同様に圧力の大きさ及び分布を的確に把握することができ、支持部材502を適切な位置まで移動させることが可能となる。
【0069】
なお、本変形例の変形例として、上述した指腹機構部244,245,248,249の中間・支持部材464,465,468,469、又は、指腹機構部247の支持部材307のように、一定の位置に留まって表層部264,265,268,269を支持するような構成とした場合は、圧力センサを配置する必要がなく、その分だけ装置構成をシンプルにすることが可能となる。
【0070】
≪指腹機構部の第十三変形例、並びに、指ユニット及び把持装置の変形例≫
上記実施形態に示した指腹機構部24等は、いずれも芯材となるベース部材22等の全周に亘って表層部26を設けた構成とされているが、本発明はこれに限定される訳ではない。例えば、図11(a)に示す指ユニット201に採用されている指腹機構部253のように、ベース部材233の全周を包囲するように中間部材293と支持部材503とが設けられる一方で、ベース部材233の周方向の一部にのみ表層部273が設けられる構成にしてもよい。
【0071】
以下に、図11(a)に示す指ユニット201を備えた把持装置101について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、表層部273、中間部材293、支持部材503、ベース部材233、レール161の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、中間部材28、支持部材30、ベース部材22、レール16と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0072】
把持装置101は、図11(b)に示すように、各指ユニット201はいずれも、表層部273が設けられた部分が把持装置101の中心側に向くように配置されており、レール161に沿って把持装置101の中心に対して近接する方向と離反する方向とに移動可能に構成されている。これにより、把持装置101は、図1に示す把持装置100と同様に把持対象物Wを包むように掴むことが可能となる。
【0073】
≪指腹機構部の第十四変形例及び指ユニットの変形例≫
上述した指ユニット20及び指ユニット201は、いずれも、ベース部材22,233の外周全体を取り巻くように指腹機構部24、253を取り付けた柱状体であったが、図12に示す指ユニット202のような構成としてもよい。以下、指腹機構部254及び指ユニット202について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、表層部274、中間部材294、支持部材504、ベース部材234の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、中間部材28、支持部材30、ベース部材22と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0074】
指腹機構部254は、上述した指腹機構部24等と同様の構成を有する。指腹機構部254によれば、上述した他の実施例のものを採用した場合と同様に、(1)把持対象物Wの形状に倣うように変形する、(2)把持対象物Wの位置姿勢を保持する、(3)把持制御における指部の位置・姿勢の要求精度を緩和する、(4)把持対象物Wの表面に作用する圧力分布を穏やかにする等の効果が得られる。
【0075】
指腹機構部254は、ベース部材234の周方向の一部にのみ取り付けられており、他の部分はベース部材234が露出している。かかる構成とする場合についても、図11(b)に示した把持装置101と同様に、指腹機構部254が設けられた部分が装置中心側に向くように各指ユニット202を配することにより、図1に示す把持装置100と同様の効果が得られる。
【0076】
≪指腹機構部の第十五変形例≫
上記実施形態では、筒体あるいは柱状体によってベース部材22等を構成し、この外周側に指腹機構部24等を設けた構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図12(b)に示す指腹機構部255のような構成としてもよい。以下、指腹機構部255について説明するが、表層部275、中間部材295、支持部材505、ベース部材235の構成、機能及び効果については、順に、上述した表層部26、中間部材28、支持部材30、ベース部材22と同様であるため、詳細な説明については省略する。
【0077】
指腹機構部255は、平板状のものによって構成されたベース部材235の表面に表層部275、中間部材295及び支持部材505を設けたものである。ベース部材235は、表面が平坦な板体によって構成することが可能であるが、図12(b)に示す例においては表面が凹状となるように湾曲した板体によって構成されている。これにより、表面を平坦な形状とする場合に比べて面圧を均一化することが可能となり、より包み込むように把持すること、すなわち把持対象物Wに傷を付けたり永久変形させたりしないような面圧の範囲で把持すること、及び、把持しながら把持面を移動させること、すなわち把持対象物Wを軽くつかんでなでるように動作することが可能な指腹機構部255を提供できる。
【0078】
≪表層部の変形例≫
上記実施形態では、図8(a)に示すように、断面形状が略円形の凸部34aと谷状の凹部34bとによって形成された凹凸34を、表層部26の表面26bに設けた例を示したが、本発明はこれに限定される訳ではなく、表層部が凹凸34を有していないものであってもよい。この場合、凹部において把持対象物Wの角部(エッジ)が吸収されることはないものの、把持対象物Wを包むように掴むことはできる。
【0079】
また、表層部の表面に凹凸が形成されている場合であっても、かかる凹凸の形状が上述の凹凸34と相違していてもよく、図8(b)〜(d)に示す表層部276〜278が有する凹凸341〜343のような形状としてもよい。このような場合についても、上述した表層部26又は凹凸34と同様の作用効果が得られる。
【0080】
具体的には、図8(b)に示す表層部276のように、断面形状が半円状の凸部341aと谷状の凹部341bとからなる凹凸341を有するもの、又は、図8(c),(d)の表層部262,263のように断面形状が矩形状の凸部342a,343aと、凹部342b,343bとからなる凹凸342,343を備えたものであってもよい。
【0081】
図8(b)に示すような凹凸341を設けた場合は、図8(a)のように略円状の断面形状の凸部34aを設けた場合と同様に、半円状の凸部341a,341aの間に形成される谷状の凹部341bに把持対象物Wのエッジを吸収させることが可能となる。また、図8(c),(d)のように断面形状が矩形状の凸部342a,343aを設けた場合は、凸部342a,343aにおける把持対象物Wとの接触面積が大きくなり、把持対象物Wの表面に作用する圧力を小さくすることができる。なお、柔軟性を有する素材により表層部342、343を形成した場合において矩形状の凸部342a,343aを設けた場合は、図8(c),(d)のように把持対象物Wと直接接触する部分を凹状に形成することにより把持対象物Wと面接触することとなり、図8(a)で示した凸部34aに対して線接触することにより作用する圧力を分散させることが可能となり、より一層把持対象物Wの表面に作用する圧力の局所的上昇を抑制することができる。また、凸部342a,343aのように矩形状の凸部を設ける場合は、図8(c)に示すように凸部342a,343aの角を湾曲させることが好ましい。
【符号の説明】
【0082】
100,101 把持装置
20,201,202 指ユニット
22,221〜234 ベース部材
24,241〜255 指腹機構部
26,261〜275 表層部
28,281〜296 中間部材
30,301〜303,306,307,500〜505 支持部材
34,341〜347 凹凸
464,465,468,469 中間・支持部材
W 把持対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持対象物を把持可能な把持装置に用いられ、指腹機構部と、この指腹機構部を支持するベース部材とを備える指ユニットであって、
前記指腹機構部が、
前記把持対象物に対して面接触可能な表層部と、
前記表層部に追従して変形可能な中間部材と、
前記表層部に対して裏面側から押圧可能な支持部材と、を有し、
前記ベース部材と前記表層部との間には、前記中間部材及び前記支持部材が配されており、
前記把持対象物との接触に伴って前記表層部に対して圧力が作用することにより、前記支持部材を支点として前記表層部の姿勢が変化しうるようにした
ことを特徴とする指ユニット。
【請求項2】
前記中間部材が、表層部に作用する圧力を緩和する緩衝手段を有する
請求項1に記載の指ユニット。
【請求項3】
前記緩衝手段が、弾性又は粘弾性を有する素材により構成されている
請求項2に記載のユニット。
【請求項4】
前記支持部材が前記表層部に沿う方向に移動可能であり、
前記表層部の表面に対して作用する圧力の分布に応じて、前記支持部材の位置を移動させうる
請求項1〜3のいずれかに記載の指ユニット。
【請求項5】
前記支持部材が、粘性又は/及び弾性を有するものである
請求項1〜4のいずれかに記載の指ユニット。
【請求項6】
前記表層部が、同一方向に向けて筋状に延びる凹凸を複数、表面に備えており、
前記凹凸が、前記指ユニットの長手方向に向けて延びるように設けられている
請求項1〜5のいずれかに記載の指ユニット。
【請求項7】
前記表層部が、弾性又は粘弾性を有するものである
請求項1〜6のいずれかに記載の指ユニット。
【請求項8】
前記指腹機構部が、前記指ユニットの長手方向に沿って複数設けられている
請求項1〜7のいずれかに記載の指ユニット。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の指ユニットを複数備え、これら複数の指ユニットによって前記把持対象物を把持可能な把持装置であって、
前記複数の指ユニットが、
相互に近接離反する方向に移動可能に構成されているとともに、当該複数の指ユニットの間に形成される空間に配された把持対象物を、相互に近接する方向に移動することによって把持可能とされている
ことを特徴とする把持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−115972(P2012−115972A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270548(P2010−270548)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【出願人】(599133381)
【Fターム(参考)】