説明

指紋照合方法

【課題】 ライン状の指紋センサから得られたデータから二次元の指紋画像を構築することなく、指の移動速度の影響を考慮して、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化し、精度の高い指紋照合方法を提供する。
【解決手段】 ライン状に配置した指紋センサにより移動する指の表面の凹凸を検出して、入力指紋データと登録指紋データを比較する指紋照合方法において、指紋センサから得られた入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換し、変換された入力指紋データと登録指紋データを比較し差分を算出することによって、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人を識別するための指紋照合方法、特に、センサから得られた指紋画像と登録された指紋画像を比較し、本人を識別する指紋照合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来保安上の観点から、建造物の入退室やコンピュータへのアクセス時などには、本人の確認を行う必要がある。
【0003】
このような本人の確認を行う装置の一つとして、指紋照合装置がある。従来の指紋照合装置において指紋画像から指紋照合する方法として、下記特許文献1に開示されている方法がある。これは、指紋画像から周波数スペクトルを特徴量として指紋照合する方法である。
【0004】
図16は、下記特許文献1に開示されている従来の指紋画像から指紋照合する方法を示す図である。
【0005】
図16において、センサ(CCD素子)を用いて得られた二次元の指紋画像160は、識別対象者の特定指の指紋を取り込んだ指紋隆線のモノクロ濃淡画像データであり、グラフ162は、この指紋画像160から、横(x軸)方向の指紋隆線の周波数スペクトルを求めたもの、グラフ161は、この指紋画像160から縦(y軸)方向の指紋隆線の周波数スペクトルを求めたものである。これらのスペクトルを個人の特徴量とし、予め同様の処理を施した指紋登録者の登録済特徴量とのパタン照合を行い、識別対象者が、指紋登録者と同一であるか否かを判定する。
【0006】
また、他の従来の指紋画像から指紋照合する方法として、下記特許文献2に開示されている、ライン状の指紋センサを用いた方法がある。これは、1ライン毎に指紋画像を読取るラインセンサで採取された認証側の指紋画像データを登録側の指紋画像データと照合し、判定結果に基づいて本人を識別する方法である。
【特許文献1】特開平6−60167号公報
【特許文献2】特開2003−271963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来の指紋センサを用いた指紋画像照合方法では、指紋センサから得た入力指紋画像と登録指紋画像の二次元の指紋画像間の相関関係から両者間の一致している確度(確からしさ)を数値化していた。このため、二次元の指紋画像を得る二次元指紋センサが占有する大きな空間を必要とし、また、二次元の指紋画像全体から縦横の各方向に対し、周波数スペクトルを算出するため、演算が複雑となり処理時間が長くかかっていた。
【0008】
この場合、二次元の指紋画像を得るために、ライン状の指紋センサを用いて、二次元の指紋画像を再構成する方法も考えられるが、ライン状の指紋センサから得られる大量の一次元画像情報から二次元の指紋画像を再構成処理し、また、縦横の各方向に対し、周波数スペクトルを算出するため、やはり処理時間が長くなり、また、次のような課題がある。
【0009】
ライン状の指紋センサから得られるデータは、一次元のデータをある時間間隔で逐次検知したもので、n番目の一次元データとn+1番目の一次元データの関係は、ライン状の指紋センサの上を通過する指の移動速度に依存し、この関係は、指紋を入力するたびごとに、変動し、一定値をとらない。このため、得られた一次元データをそのまま並べて二次元データと定義して得られた画像では、センサ上を移動させる指の方向に対し、入力のたびに伸縮する。このため、この二次元画像から隆線の周波数スペクトルを求めても、入力指紋データと登録指紋データでは、センサ上を移動させる指の方向に対し、異なる周波数を持つことから、例え、同一指の指紋を入力しても、周波数スペクトルが一致せず、照合できないということである。
【0010】
また、特許文献2に開示されている指紋照合方法においては、ライン状の指紋センサを用いており、二次元の指紋画像を再構成するものではないが、認証側の指紋画像データを登録側の指紋画像データと照合する際、指の移動速度の影響を考慮したものではなく、最も一致するラインを求める正確性に欠けていた。
【0011】
本発明の目的は、ライン状の指紋センサから得られたデータから二次元の指紋画像を構築することなく、指の移動速度の影響を考慮して、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化し、精度の高い指紋照合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、本発明の指紋照合方法は、ライン状に配置した指紋センサにより移動する指の表面の凹凸を検出して、入力指紋データと登録指紋データを比較する指紋照合方法において、指紋センサから得られた入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換し、変換された入力指紋データと登録指紋データを比較し差分を算出することによって、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の指紋照合装置は、入力指紋データと登録指紋データを比較する指紋照合装置であって、移動する指の表面の凹凸を検出するライン状に配置した指紋センサと、指紋センサから得られた入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換し、変換された入力指紋データと登録指紋データを比較し差分を算出する演算制御部とを有し、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、以下に記載するような効果を奏する。
【0015】
第一の効果は、指紋本来の二次元画像データを構築することなく、ライン状の指紋センサのデータを時系列順に比較しているので、指の移動速度の影響がなく、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化できることである。
【0016】
第二の効果は、指紋本来の二次元画像データを構築する必要がないので、必要なメモリ容量を小さくでき、省電力化、小型化、低価格化が図れることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
まず、本発明の指紋照合方法について実施形態の概要を述べる。
【0019】
図1〜5,9,10において、ライン状指紋センサ上に対象者の指を置いてセンサの長手方向(x軸方向)と直角方向(y軸方向)に移動させる。x軸方向の入力指紋データの基準線を、例えばy軸方向の50%の位置に定め、登録指紋データのy軸成分におけるy=1〜256のどの部分に最も近いデータであるかを検索する。そのときのx軸方向とy軸方向の位置の相対差を求める。これが、基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定処理である。
【0020】
次に、指の移動速度は、毎回一定ではなく一回の移動途中でも変化している。入力指紋データの時系列を登録指紋データの時系列に変換しなければならない。これが、変換関数を求めるということである。具体的には、指の表面の凹凸を検出するセンサをライン状に配置したライン状指紋センサ6の任意の凹凸検出センサ9の1点(x軸上の基準位置)から得られるデータに注目し、その任意の1点における、時系列方向の登録指紋データ図10と、その任意の1点に対応する指紋入力時のデータ図9が同一であると仮定して、入力指紋データの時系列、および凹凸の変化を、登録指紋データと一致する変換関数Trを求める。次に、ライン状指紋センサ6の凹凸検出センサ9の他の部分1点から得られる入力指紋データを、その変換関数Trで変換したものと、対応する登録指紋データとの差分の絶対値を求める。
【0021】
同様に、ライン状指紋センサ6の凹凸検出センサ9の他の部分についても、入力指紋データを前述の変換関数Trで変換したものと、対応する登録指紋データとの差分の絶対値を求めることによって、登録指紋データと、入力指紋データの一致している確度とをこの差分の絶対値として、数値化することができる。
【0022】
以下、構成、動作について詳細に説明する。
【0023】
[構成]
図1は、本発明の指紋照合方法に使用する装置の実施形態を示すブロック図、図2は、ライン状指紋センサの構成図である。
【0024】
図1において、CPU1は、情報バス8を介して入出力制御装置2、メモリ3、不揮発性メモリ4、センサ制御装置5と接続され、メモリ3、または不揮発性メモリ4に格納されたプログラムを読み出し、その内容に従って情報処理を行う。CPU1、入出力制御装置2、メモリ3、不揮発性メモリ4、センサ制御装置5は、演算制御部を構成する。CPU1は、不揮発性メモリ4から情報の読み出しを行う。CPU1は、メモリ3または入出力制御装置2に対して、情報の読み出し、書き込みを行う。入出力制御装置2は、外部バス7と接続され、CPU1は、入出力制御装置2と外部バス7を介して、外部機器と情報の授受を行う。ライン状指紋センサ6は、センサ制御装置5に接続され、ライン状指紋センサ7が検出した指紋の凹凸情報は、センサ制御装置5を介してCPU1に読み出される。
【0025】
図2を参照すると、ライン状指紋センサ6は、一辺が0.05mmの凹凸検出センサ9をx軸方向に256個、y軸方向に1個並べた構成になっており、各凹凸検出センサ9は、センサ面から垂直方向に0.5mm以内に物体が存在するとき、その物体までの垂直方向の距離を10階調の数値として1秒間に800回出力する。凹凸検出センサ9は、その物体までの垂直方向の距離が、近いほど、その出力値は10に近づき、離れるほどその出力値は0に近づく。
【0026】
次に図3は、ライン状指紋センサと指との関係を示す図、図4は、入力指紋データの採取を説明するための図である。
【0027】
図3において、ライン状指紋センサ6の上に指を置き、y軸方向に移動させると、ライン状指紋センサ6は、指が上を移動する時に、図4に示す二次元で表現した指紋のx軸方向の一部分12に対する、垂直方向の距離を1秒間に800回出力する。
【0028】
ライン状指紋センサ6のx軸方向に左からxs番目の凹凸検出センサ9に注目すると、この凹凸検出センサ9の出力するデータは、図4に示す二次元で表現した指紋のy軸方向の一部分11に対する、垂直方向の距離を出力する。
【0029】
このようにしてライン状指紋センサ6から入力された指紋データは、センサ制御装置5、CPU1を介して、メモリ3上にV(x,y)として展開される。xは、ライン状指紋センサ6の凹凸検出センサ9のx軸方向左からの順番を表し、x=1〜256である。yは、指がライン状指紋センサ6の上を通過した時間に依存して決まる数値であり、本実施形態では、照合のために指紋入力した場合の指の移動速度を0.64mm/秒と仮定して説明する。この場合、y=1〜512となる。
【0030】
登録時の指紋データは、メモリ3にE(x,y)として展開されている。x=1〜256、登録時の指の移動速度を1.28mm/秒とすると、y=1〜256となる。
【0031】
[動作]
次に指紋照合方法の動作を図5,6-1〜6-3,8-1,8-2,13に示すフローチャートを使用して説明する。
【0032】
図5は、本発明の指紋照合方法の基本的な処理を示すフローチャート、図6-1〜6-3は、基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定処理51の詳細な処理を示すフローチャート、図8-1,8-2は、変換関数Trを求める処理52の詳細な処理を示すフローチャート、図13は、入力指紋データと登録指紋データの差分の算出処理53の詳細な処理を示すフローチャートである。
【0033】
(相関位置)
図6-1のフローチャートを参照すると、処理601で入力指紋データV(x,y)のx軸、y軸方向のデータの個数を表す最大値256,512をそれぞれ、xv_max、yv_maxに代入する。次に、処理602で登録指紋データE(x,y)のx軸、y軸方向のデータの個数を表す最大値256,256をそれぞれ、xe_max、ye_maxに代入する。
【0034】
続いて、処理603で、入力指紋データのy軸方向の全データから50%の位置を、入力指紋データのy軸方向の基準ysと置く。本実施形態の場合、y軸方向には、512ラインのデータがあるので、256ライン目が、y軸方向の基準となり、ys=256となる(図4参照)。処理604、処理605で、このysライン目のデータを基準線の入力指紋データVsx(x)として、入力指紋データV(x,y)から抽出する。処理606で、Vsx(x)のx=1〜256のデータ群の最大値、最小値をそれぞれVsx_max、Vsx_minとして求める。次に、処理607で、登録指紋データE(x,y)について、yを変数としてx=1〜256のデータ群の最大値、最小値をそれぞれ、E_max(y)、E_min(y)として求める。
【0035】
処理608以降では、基準線の入力指紋データVsx(x)が、登録指紋データE(x,y)のy軸成分y=1〜256のどの部分に最も近いデータであるかを検索する。本実施形態では、検索の範囲を、登録指紋データE(x,y)のy軸成分の個数の35%〜65%(89〜166)とし、処理608で、範囲の始点を示すR_minに、y軸成分の個数の35%目を、範囲の終点を示すR_maxに、y軸成分の個数の65%目を代入し、y軸成分の変数rにR_minを代入する。
【0036】
図7は、基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定処理51の処理における入力指紋データと登録指紋データのx軸方向の位置関係を表す図である。
【0037】
図7を参照すると、x軸方向の位置検索は、約±20%の範囲とし、入力指紋データ基準ラインVsx(x)のx=51〜206のデータを用いて、登録指紋データE(x,y)のx軸方向の始点を1〜100までずらして、最も差分の小さい位置を検索する。すなわち左右50画素分を切り落とし、中央部の156画素を抜き出して、登録指紋データと比較し、x軸方向の位置決めを行う。
【0038】
この処理フローを図6-1、処理609から以下に説明する。
【0039】
基準線の入力指紋データVsx(p)と、登録指紋データE(p,r)を比較するに当たって、処理609では、処理606、処理607で求めた基準線の入力指紋データVsx(p)と、登録指紋データE(p,r)の最大値と最小値の差分の比であるMを次式(1)から求める。
【0040】
M=(E_max(r)−E_min(r))/(Vsx_max−Vsx_min)…………(1)
処理610、処理611で、入力時と、登録時のセンサ感度や指の表面の乾燥状態などの相違によるデータ値ずれを調整するために、この比率Mと登録指紋データの比較しようとしているrライン目のデータ群の最小値E_min(r)を用いて基準線の入力指紋データVsx(p)を補正したW(p)を式(2)から求める。
【0041】
W(p)=(Vsx(p)−Vsx_min)×M+E_min…………(2)
図6-2において、処理612で、登録指紋データE(x,y)のx軸方向の変数tに初期値0を代入する。処理613でx軸方向の変数p、sにそれぞれ初期値1、50を、変数D(次式(3))に初期値0を代入する。
【0042】
D=D+ABS(E(p+r,r)−W(s+p))…………(3)
ABS(E(p+r,r)−W(s+p))は、差分E(p+r,r)−W(s+p)の絶対値である。
【0043】
処理614で、基準線の入力指紋データ補正値W(s+p)と登録指紋データE(p+t,r)の差分の絶対値をp=1〜156まで累計し、変数Dに代入する。処理618、処理619、処理620で、差分の絶対値の累積値Dが最も小さくなる時のDとその時の変数tの値をそれぞれD0、T0に代入する。上記の処理614〜処理621を変数t=0〜99まで繰り返す。
【0044】
すなわち、図7を参照すると、登録指紋データのp+t画素目から156画素分の範囲で、1画素t毎に入力指紋データとの差分を計算し、その差分の絶対値の累計Dを求める。p+t=1〜101:1画素ずらして同様に差分の絶対値の累計値Dを求める。1ラインについて、100通りのD値が得られ、このp+tの範囲でDが最も小さくなるtをT0とする。
【0045】
図6−3において、処理622、処理623、処理624で、上記処理609〜処理626を変数r=R_min〜R_maxまで繰り返したときの、差分の絶対値の累積値D0が最も小さくなる時のD0とその時の変数T0の値、rの値をそれぞれD_min、T、Rに代入する。以上のように、図6-1〜6-3に示す基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定処理51の処理の結果得られたTとRの値から、基準線の入力指紋データVsx(x)に対する登録指紋データの相関位置は、以下の式(4),(5)の通りとなる。
【0046】
x軸方向の相対差:Td=T−50…………(4)
y軸方向の相対差:Rd=R−ys…………(5)
従って、入力指紋データV(x,ys)に相対する登録指紋データは、E(x+T−50,R)と表される。
【0047】
(変換関数)
次に、図8-1,8-2のフローチャートを参照して、変換関数Trを求める処理52を詳細に説明する。
【0048】
処理801で、入力指紋データのx軸成分の50%の位置としてxsvを求め、y軸成分の変数yに初期値1を代入する。処理802、処理803で、入力指紋データV(x,y)のx=xsvの場合のデータをx座標基準の入力指紋データVsy(y)として抽出する。
【0049】
図9は、得られたx座標基準の入力指紋データVsy(y)を、横軸にy、縦軸にVsy(y)としてグラフに表したものである。
【0050】
入力指紋データのx軸の基準位置xsvに相当する登録指紋データのx軸の位置xseは、式(4)から、式(6)の通り得られ、処理802でxseに代入し、y軸成分の変数yに初期値1を代入する。
【0051】
xse=xsv+T−50…………(6)
処理805、処理806で、登録指紋データE(x,y)のx=xseの場合のデータをx座標基準の登録指紋データEsy(y)として抽出する。
【0052】
図10は、得られたx座標基準の登録指紋データEsy(y)を、横軸にy、縦軸にEsy(y)としてグラフに表したものである。
【0053】
図9の入力指紋データVsy(y)と、図10の登録指紋データEsy(y)は、同一指のデータである。この2つのグラフのy軸成分(横軸)は、ライン状指紋センサ6の上を通過する指の速度に依存することから、入力するたび毎に異なり、登録指紋データと入力指紋データで、y軸成分が一致することは稀である。
【0054】
このため、入力指紋データのy軸成分(横軸)を登録指紋データのy軸成分に変換する必要がある。その方法として、各グラフの山と谷の位置が、一致していると仮定して、変換関数を求める。処理51で求めた基準線の入力指紋データのy軸成分であるysの位置と、それに相当する登録指紋データの相関位置Rを基準とし、y軸成分の同一位置と置く。次に、この基準点に対し、プラス方向、およびマイナス方向の山、谷に順番に番号を付与し、入力指紋データVsy(y)と登録指紋データEsy(y)のそれぞれの山、谷が一致しているとみなして、y軸成分の変換関数を求める。ただし、この時、山と谷の識別は行わない。
【0055】
より詳細な方法を、図8-1,8-2を参照して説明する。処理807で、x座標基準の入力指紋データVsy(y)をyで微分し、V′sy(y)を求め、処理808で、V′sy(y)=0となる、y値を全て求める。処理809で、ysより大きいy値を小さい順に正の整数を1から付与し、Ysv(Q)に格納する(Q=1,2,3…)。この時、式(7)の関係が成り立つ場合は、その時のYsv(n+1)を破棄し、ノイズ成分で発生するグラフの山、谷を無視する。
【0056】
〔Vsy(Ysv(n))−Vsy(Ysv(n+1))〕の絶対値<1…………(7)
nは自然数
ysより小さいy値を大きい順に負の整数を−1から付与し、Ysv(Q)に格納する(Q=−1,−2,−3…)。この時、式(8)の関係が成り立つ場合は、その時のYsv(n−1)を破棄し、ノイズ成分で発生するグラフの山、谷を無視する。
【0057】
〔Vsy(Ysv(n))−Vsy(Ysv(n−1))〕の絶対値<1…………(8)
nは0を除く負の整数
Ysv(0)にys、Qv_maxにQの最大値、Qv_minにQの最小値を代入する。
【0058】
処理810で、x座標基準の登録指紋データEsy(y)をyで微分し、E′sy(y)を求め、処理811で、E′sy(y)=0となる、y値を全て求める。処理812で、Rより大きいy値を小さい順に正の整数を1から付与し、Yse(Q)に格納する(Q=1,2,3…)。この時、式(9)の関係が成り立つ場合は、その時のYse(n+1)を破棄し、ノイズ成分で発生するグラフの山、谷を無視する。
【0059】
〔Esy(Yse(n))−Esy(Yse(n+1))〕の絶対値<1…………(9)
nは自然数
Rより小さいy値を大きい順に負の整数を−1から付与し、Yse(Q)に格納する(Q=−1,−2,−3…)。この時、式(10)の関係が成り立つ場合は、その時のYse(n−1)を破棄し、ノイズ成分で発生するグラフの山、谷を無視する。
【0060】
〔Esy(Yse(n))−Esy(Yse(n−1))〕の絶対値<1…………(10)
nは0を除く負の整数
Yse(0)にR、Qe_maxにQの最大値、Qe_minにQの最小値を代入する。
【0061】
処理813〜処理815で、Qv_maxとQe_maxを比較して大きい方を、Q_maxに代入する。処理816〜処理818で、Qv_minとQe_minを比較して小さい方を、Q_minに代入する。処理819で、Q=Q_min〜Q_maxの範囲で、Ysv(Q)=F(Yse(Q))になる、関数F(q)を求める。Qは、Q_min〜Q_maxの範囲の整数のデータしか存在しないため、必要に応じて2点間を直線近似して関数F(q)を求める。
【0062】
図11は、図9と図10のデータから求めた関数F(q)を示す図、図12は、x座標基準の入力指紋データVsy(y)のy軸成分をF(q)変換した結果を示す図である。
【0063】
図12において、F(q)変換の結果、このグラフの横軸は、登録指紋データの横軸のy軸成分と等価になる。
【0064】
処理820で、x座標基準の入力指紋データVsy(y)のy=F(Q_min)〜F(Q_max)のデータ群の中の最大値をVsy_max、最小値をVsy_minに代入する。処理821で、登録指紋データEsy(y)のy=F(Q_min)〜F(Q_max)のデータ群の中の最大値をEsy_max、最小値をEsy_minに代入する。
【0065】
処理822では、処理820、処理821で求めたx座標基準の入力指紋データVsy(y)と、登録指紋データEsy(y)の最大値と最小値の差分の比M0を式(11)から求める。
【0066】
M0=(Esy_max−Esy_min)/(Vsy_max−Ysy_min)…………(11)
入力時と、登録時のセンサ感度や指の表面の乾燥状態などの相違によるデータ値ずれを調整するために、この比率M0と登録指紋データEsy(y)の最小値Esy_minを用いて入力指紋データV(x,y)を補正する変換関数Tr(q)は、式(12)で表される。
【0067】
Tr(q)=M0×(V(x,F(q))−Vsy_min)+Esy_min…………(12)
(差分の算出)
図13は、入力指紋データと登録指紋データの差分の算出処理53を示すフローチャートである。
【0068】
図13において、処理901で、差分を求めるx軸方向の間隔Xdに初期値10、xに初期値51、yに初期値Yse(Qmin)、差分の評価値であるスコア(Score)に初期値0、スコア計算に用いたライン状指紋センサ6の凹凸検出センサ9の個数XLに初期値0を代入する。処理902で、式(10)を用いて変換した入力指紋データと登録指紋データの差分の絶対値をスコアとして累計する。処理903で、処理902をy=Yes(Q_min)〜Yes(Q_max)まで変数yを、1ずつ加算して繰り返し実行する。
【0069】
次に処理904、処理905で、処理902、処理903をx=51〜206の範囲で、xをXdずつ加算して繰り返し実行し、XLを1ずつ加算する。最後に、処理906でスコアをXLで割って、凹凸検出センサ9の1個分の平均値を求め、スコアに代入する。このスコア値の性格は、以下の通りとなる。
【0070】
大きい:入力指紋データは登録指紋データと異なる。
【0071】
小さい:入力指紋データは登録指紋データに似ている。
【0072】
このスコア値に対して、ある基準値(閾値)を設定し、この基準値に対するスコア値の大小関係から、入力指紋データと登録指紋データの関係を、一致、不一致と判定することができる。
【0073】
[他の実施形態]
本発明の他の実施形態として、その基本的構成は上記の通りであるが、入力指紋データのy軸の基準線として2本、またはそれ以上の複数の基準線を用いる方法がある。
【0074】
図14は、このような他の実施形態を説明するための図である。
【0075】
図14を参照すると、入力指紋データのy軸成分の異なるys1−141とys2−142の2つの基準線を用いる。基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定の仕方は、主の実施形態と同様である。2つの基準線に対してそれぞれ相対差Td,Rdが求められる。入力指紋データとそれに対する登録指紋データのx軸方向の基準点の位置を、基準線ys1、ys2に対して求めた2組の相対差を基に、それぞれxs1−143、xs2−144として定める。この2つの基準点間を通る直線145上のx座標基準の入力指紋データVsy(y)として抽出する。このようにして求めたx座標基準の入力指紋データVsy(y)を用いることによって、ライン状指紋センサ6に対しての指の動く方向がx軸方向のベクトル成分を持っている場合であっても、より正確に登録指紋データと、入力指紋データの一致している確度とを、数値化することができる指紋照合方法である。
【0076】
本発明の他のもう一つの実施形態として、複数列のライン状指紋センサを有する例である。
【0077】
図15は、このような他のもう一つの実施形態を示す図である。
【0078】
図15において、ライン状指紋センサ151は、y軸方向に複数列の凹凸検出センサ9を有している。入力指紋データと登録指紋データの差分の算出処理53において、ライン状指紋センサ6に比べて増加しているy軸方向の凹凸センサ9のデータ群についても、同様に入力指紋データと登録指紋データの差分を算出する。これらの差分算出結果を用いることにより、より精度の高い登録指紋データと、入力指紋データの一致している確度とを、数値化することができる指紋照合方法である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の指紋照合方法に使用する装置の実施形態を示すブロック図
【図2】ライン状指紋センサの構成図
【図3】ライン状指紋センサと指との関係を示す図
【図4】入力指紋データの採取を説明するための図
【図5】本発明の指紋照合方法の基本的な処理を示すフローチャート
【図6−1】基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定処理51の詳細な処理を示すフローチャート
【図6−2】図6-1の後続のフローチャート
【図6−3】図6-2の後続のフローチャート
【図7】基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置の確定処理51の処理における入力指紋データと登録指紋データのx軸方向の位置関係を表す図
【図8−1】変換関数Trを求める処理52の詳細な処理を示すフローチャート
【図8−2】図8-1の後続のフローチャート
【図9】x座標基準の入力指紋データVsy(y)を、横軸にy、縦軸にVsy(y)として表したグラフ
【図10】x座標基準の入力指紋データEsy(y)を、横軸にy、縦軸にEsy(y)として表したグラフ
【図11】関数F(q)を示す図
【図12】x座標基準の入力指紋データVsy(y)のy軸成分をF(q)変換した結果を示す図
【図13】入力指紋データと登録指紋データの差分の算出処理を示すフローチャート
【図14】他の実施形態を説明するための図
【図15】他のもう一つの実施形態を示す図
【図16】従来技術の指紋照合方法を説明するための図
【符号の説明】
【0080】
1…CPU
2…入出力制御装置
3…メモリ
4…不揮発性メモリ
5…センサ制御装置
6…ライン状指紋センサ
7…外部バス
8…情報バス
9…凹凸検出センサ
11…指紋のy軸方向の一部分
12…指紋のx軸方向の一部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン状に配置した指紋センサにより移動する指の表面の凹凸を検出して、入力指紋データと登録指紋データを比較する指紋照合方法において、指紋センサから得られた入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換し、変換された入力指紋データと登録指紋データを比較し差分を算出することによって、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化することを特徴とする指紋照合方法。
【請求項2】
入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換する際、指紋センサの長手方向をx軸として、x軸と平行に定めた基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置を確定し、更に、x軸上の基準位置におけるx軸と直角のy軸方向の時系列の入力指紋データに対応する登録指紋データの変換関数を求め、前記変換関数により入力指紋データを変換することを特徴とする請求項1に記載の指紋照合方法。
【請求項3】
前記基準線の入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置は、入力指紋データの検出値の大きさを登録指紋データの検出値の大きさに対して調整した後、入力指紋データと登録指紋データの差分の絶対値の最も小さくなる時の登録指紋データの位置を求めることにより確定することを特徴とする請求項2に記載の指紋照合方法。
【請求項4】
前記y軸方向の時系列の入力指紋データに対応する登録指紋データの変換関数は、相関位置の確定時における基準線上の点を基準として、前記y軸方向の時系列の入力指紋データと対応する登録指紋データの前後の山と谷を対応させて求めることを特徴とする請求項2に記載の指紋照合方法。
【請求項5】
変換された入力指紋データと登録指紋データを比較した差分の算出は、入力指紋データの検出値の大きさを登録指紋データの検出値の大きさに対して調整した後に行うことを特徴とする請求項1に記載の指紋照合方法。
【請求項6】
入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換する際、指紋センサの長手方向をx軸として、x軸と平行に定めた複数の基準線について入力指紋データに対する登録指紋データの相関位置を確定し、更に、前記複数の基準線について各相関位置から求めた前記複数の基準線上の基準点を結ぶ直線上の時系列の入力指紋データに対応する登録指紋データの変換関数を求めることを特徴とする請求項1に記載の指紋照合方法。
【請求項7】
前記ライン状に配置した指紋センサは、複数列の凹凸検出センサを有し、各列の凹凸検出センサにおいて変換された入力指紋データと登録指紋データを比較し差分を算出することを特徴とする請求項1に記載の指紋照合方法。
【請求項8】
入力指紋データと登録指紋データを比較する指紋照合装置であって、移動する指の表面の凹凸を検出するライン状に配置した指紋センサと、指紋センサから得られた入力指紋データの時系列の変化を、照合元の登録指紋データ取得時の時系列の変化に変換し、変換された入力指紋データと登録指紋データを比較し差分を算出する演算制御部とを有し、登録指紋データと入力指紋データの一致している確度を数値化することを特徴とする指紋照合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−252003(P2006−252003A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65455(P2005−65455)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(000227205)NECインフロンティア株式会社 (1,047)
【Fターム(参考)】