説明

振動エネルギー吸収材を有する建物

【課題】壁状部材の周囲の空間が振動エネルギー吸収材により狭められることがないようにし、前記空間を有効に利用できるようにすること。
【解決手段】建物は、間隔を置かれた上方の梁及び下方の梁であってそれぞれが、間隔を置かれた2つの梁部材からなる上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁の梁部材の間にあって前記上方の梁に固定され、下端部が前記下方の梁の梁部材の間にある壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が水平力を受けたとき、前記下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材と、該壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギー吸収材を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物には、間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁に固定された壁状部材と、前記下方の梁に固定され、前記壁状部材を受け入れる上方に開放された容器と、該容器に収容され、前記壁状部材に密着する振動エネルギー吸収材とを含むものがある(特許文献1参照)。前記振動エネルギー吸収材は粘性体からなる。
【0003】
前記建物が地震時又は強風時に振動したとき、前記上方の梁が水平力を受けて前記下方の梁に対して変位することにより、前記壁状部材が前記容器に対して移動する。このとき、前記振動エネルギー吸収材の内部に生じる粘性抵抗により、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーが消費される。このようにして前記振動エネルギー吸収材は、前記振動エネルギーを吸収し、前記建物の振動を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−2127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記振動エネルギー吸収材が、前記壁状部材を受け入れる前記容器に収容されているため、前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められ、前記空間を有効に利用することができない。また、前記容器の製作や前記容器の前記下方の梁への固定に多くの手間や費用を要し、前記建物を経済的に構築することができない。
【0006】
本発明の目的は、壁状部材の周囲の空間が振動エネルギー吸収材により狭められることがないようにし、前記空間を有効に利用できるようにすることである。また、本発明の他の目的は、壁状部材を受け入れる容器を用いないことにより、建物を経済的に構築できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、建物が、上下方向に間隔を置かれた上方の梁及び下方の梁であってそれぞれが、間隔を置かれた2つの梁部材からなる上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁の梁部材の間に位置し、下端部が前記下方の梁の梁部材の間に位置する壁状部材と、該壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在する振動エネルギー吸収材とを含む。これにより、前記上方の梁と前記下方の梁との間における前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることがないようにし、前記空間を有効に利用できるようにする。また、従来必要とされた、壁状部材を受け入れる容器を要することがないようにし、前記容器の製作や前記容器の下方の梁への固定をする手間や費用を要することなく建物を経済的に構築できるようにする。
【0008】
本発明に係る建物は、第1水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁であって各梁が、前記第1水平方向と直交する第2水平方向に間隔を置かれた、それぞれが前記柱を連結する2つの梁部材からなる上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁の梁部材の間にあって前記上方の梁に固定され、下端部が前記下方の梁の梁部材の間にある壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記第1水平方向の力を受けたとき、前記下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材と、該壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む。
【0009】
前記振動エネルギー吸収材は弾性体又は粘弾性体からなる。前記建物が地震時又は強風時に振動したとき、前記上方の梁が前記第1水平方向の力を受けて前記下方の梁に対して変位する。これにより、前記壁状部材の前記下端部が前記下方の梁に対して移動する。このとき、前記振動エネルギー吸収材がせん断変形して前記振動エネルギーが消費される。このようにして前記振動エネルギー吸収材は、前記振動エネルギーを吸収し、前記建物の振動を低減させる。
【0010】
前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在するため、前記上方の梁と前記下方の梁との間において前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはない。このため、振動エネルギー吸収材が、壁状部材を受け入れる容器に収容されている従来の場合のように前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはなく、前記空間を有効に利用することができる。
【0011】
また、前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在するため、振動エネルギー吸収材が、壁状部材を受け入れる容器に収容されている従来の場合のように前記容器を要することはない。このため、前記容器の製作や前記容器の下方の梁への固定をする手間や費用を要することなく前記建物を経済的に構築することができる。
【0012】
前記壁状部材は、開口部を有するものとすることができる。前記開口部は窓として利用される。前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在するため、前記上方の梁と前記下方の梁との間において前記開口部が存在する範囲を、前記振動エネルギー吸収材の制約を受けることなく、上下方向に広げることができる。これにより、前記開口部を経て多くの光を前記建物の内部に採り入れることができ、前記建物の採光を良くすることができる。
【0013】
前記壁状部材の前記下端部は少なくとも1つの取付け手段により前記下方の梁に該下方の梁の長さ方向に移動可能に取り付けられている。前記取付け手段は、前記壁状部材に隣接して配置される垂直部分及び前記下方の梁の上に配置される水平部分からなるほぼL字形の断面を有するL形部材と、該L形部材の前記垂直部分に設けられた第1貫通穴と、前記L形部材の前記水平部分に設けられた第2貫通穴と、前記第1貫通穴に挿入され、前記壁状部材に固定される第1アンカーボルトと、前記第2貫通穴に挿入され、前記下方の梁に固定される第2アンカーボルトと、前記第1アンカーボルトに螺合される第1ナットと、前記第2アンカーボルトに螺合される第2ナットとからなり、前記第1貫通穴及び前記第2貫通穴のいずれか一方は、前記L形部材の前記断面に垂直な方向に伸びる長穴である。
【0014】
前記第1貫通穴及び前記第2貫通穴のいずれか一方が前記長穴であるため、前記壁状部材の前記下端部は前記下方の梁に対して該下方の梁の長さ方向に移動可能である。このため、地震時又は強風時に前記上方の梁が前記第1水平方向の力を受けたときに前記壁状部材の前記下端部が前記下方の梁に対して移動することが妨げられることはない。
【0015】
前記取付け手段により前記壁状部材の前記下端部を前記下方の梁に取り付けるとき、前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁とにより前記振動エネルギー吸収材に圧縮力が加えられるようにする。前記取付け手段は、前記壁状部材の前記下端部が前記下方の梁に対して前記第2水平方向に移動するのを妨げ、前記振動エネルギー吸収材に前記圧縮力が加えられた状態を維持する。このため、地震時又は強風時に前記上方の梁が前記第1水平方向の力を受けて前記壁状部材の前記下端部が前記下方の梁に対して移動したときに、前記下端部が前記振動エネルギー吸収材に対して滑動する又は前記振動エネルギー吸収材が前記下方の梁に対して滑動することなく、前記振動エネルギー吸収材に確実にせん断変形を生じさせることができる。これにより、前記振動エネルギーを効果的に吸収できるようにすることができる。
【0016】
本発明に係る建物は、第1水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた少なくとも3つの梁であって各梁が、前記第1水平方向と直交する第2水平方向に間隔を置かれた、それぞれが前記柱を連結する2つの梁部材からなる少なくとも3つの梁と、互いに隣接する3つの梁のうち最上方の梁と中間の梁との間に配置され、上端部が前記最上方の梁の梁部材の間にあって前記最上方の梁に固定され、下端部が前記中間の梁の梁部材の間にある第1壁状部材であって地震時又は強風時に前記最上方の梁が前記第1水平方向の力を受けたとき、前記下端部が前記中間の梁に対して移動する第1壁状部材と、互いに隣接する3つの梁のうち前記中間の梁と最下方の梁との間に配置され、上端部が前記中間の梁の梁部材の間にあって前記中間の梁に固定され、下端部が前記最下方の梁の梁部材の間にある第2壁状部材であって地震時又は強風時に前記中間の梁が前記第1水平方向の力を受けたとき、前記下端部が前記最下方の梁に対して移動する第2壁状部材とを含み、前記第1壁状部材及び前記第2壁状部材のそれぞれは、前記上端部に設けられた、上方に開放された切欠き部分と、前記下端部に設けられた、該下端部から下方へ伸びる伸長部分とを有し、前記第1壁状部材の前記伸長部分は前記第2壁状部材の前記切欠き部分に受け入れられており、前記第1壁状部材の前記下端部及び前記伸長部分と前記中間の梁の一方の梁部材との間及び前記第1壁状部材の前記下端部及び前記伸長部分と前記中間の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材が介在する。
【0017】
前記第1壁状部材の前記伸長部分が前記第2壁状部材の前記切欠き部分に受け入れられているため、前記第1壁状部材の下方に前記第2壁状部材があるにもかかわらず、前記振動エネルギー吸収材を存在させる範囲を前記第1壁状部材の前記下端部の下方へ広げることができる。前記振動エネルギー吸収材が、前記第1壁状部材の前記下端部と前記梁部材との間のみならず、前記伸長部分と前記梁部材との間にも介在するため、前記振動エネルギー吸収材が存在する範囲は比較的広く、前記振動エネルギーをより効果的に吸収することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在するため、前記上方の梁と前記下方の梁との間において前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはない。このため、振動エネルギー吸収材が、壁状部材を受け入れる容器に収容されている従来の場合のように前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはなく、前記空間を有効に利用することができる。
【0019】
また、前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在するため、振動エネルギー吸収材が、壁状部材を受け入れる容器に収容されている従来の場合のように前記容器を要することはない。このため、前記容器の製作や前記容器の下方の梁への固定をする手間や費用を要することなく前記建物を経済的に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施例に係る建物の正面図。
【図2】図1の線2における建物の縦断面図。
【図3】本発明の第2実施例に係る建物の縦断面図。
【図4】図3の線4における取付け手段の平面図。
【図5】本発明の第3実施例に係る建物の正面図。
【図6】図5の線6における建物の縦断面図。
【図7】本発明の第4実施例に係る建物の正面図。
【図8】図7の線8における建物の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1、2に示すように、建物10が構築されており、該建物は、第1水平方向(図1における左右方向)に間隔を置かれた一対の柱12と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁14及び下方の梁16と、上方の梁14と下方の梁16との間に配置された壁状部材18とを含む。
【0022】
上方の梁14及び下方の梁16のそれぞれは、前記第1水平方向と直交する第2水平方向(図1における奥行き方向)に間隔を置かれた2つの梁部材20a、20bからなり、各梁部材は柱12を連結している。図2に示したように、一方の梁部材20aに床スラブ22が接続されている。一方の梁部材20aに床スラブ22が接続されている図2に示した例に代え、各梁部材20a、20bに床スラブ22が接続されていてもよい。柱12、上方の梁14及び下方の梁16のそれぞれは鉄筋コンクリートからなる。
【0023】
壁状部材18は、上端部24と、下端部26とを有する。壁状部材18は、その厚さ方向が前記第2水平方向と一致している。壁状部材18の上端部24は、上方の梁14の梁部材20a、20bの間に位置し、上方の梁14に固定されている。壁状部材18の下端部26は、下方の梁16の梁部材20a、20bの間に位置し、地震時又は強風時に上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けたとき、下方の梁16に対して移動する。壁状部材18は、図1に示した例では、プレキャストコンクリートからなるが、これに代え、金属製でもよい。
【0024】
壁状部材18の上端部24は、前記第1水平方向に間隔を置かれた複数の棒状部材28により上方の梁14に固定されている。各棒状部材28は、壁状部材18の上端部24を壁状部材18の前記厚さ方向に貫き、上方の梁14に固定されている。図2に示したように、上方の梁14の梁部材20a、20b及び壁状部材18の上端部24のそれぞれに、棒状部材28を受け入れる貫通穴30が設けられている。各棒状部材28は、上方の梁14の梁部材20a、20bに設けられた貫通穴30と壁状部材18の上端部24に設けられた貫通穴30とに挿入されたボルト32と、該ボルトに螺合されたナット34とからなる。
【0025】
建物10は、壁状部材18の下端部26と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間に介在する振動エネルギー吸収材36を有する(図2)。振動エネルギー吸収材36は、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する。
【0026】
振動エネルギー吸収材36は弾性体又は粘弾性体からなる。例えば、振動エネルギー吸収材36は、天然ゴムやイソプレンゴムにカーボンブラックやシリカを配合することにより製造されたいわゆる高減衰ゴムからなるものとすることができる。また、振動エネルギー吸収材36は、アクリル高分子を含む粘弾性体からなるものとすることができる。振動エネルギー吸収材36は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けて壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して移動したときにせん断変形して前記振動エネルギーを吸収する。振動エネルギー吸収材36は壁状部材18の下端部26及び下方の梁16の一方の梁部材20aの少なくとも一方に固定されている。
【0027】
振動エネルギー吸収材36が壁状部材18の下端部26のみに固定されている場合、振動エネルギー吸収材36は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けて壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して移動したときに下方の梁16の一方の梁部材20aから摩擦抵抗を受けて前記振動エネルギーを吸収するものでもよい。また、振動エネルギー吸収材36が下方の梁16の一方の梁部材20aのみに固定されている場合、振動エネルギー吸収材36は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けて壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して移動したときに壁状部材18の下端部26から摩擦抵抗を受けて前記振動エネルギーを吸収するものでもよい。
【0028】
建物10は、壁状部材18の下端部26と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間に介在する振動エネルギー吸収材36を有する図2に示した例に代え、壁状部材18の下端部26と下方の梁16の他方の梁部材20bとの間に介在する振動エネルギー吸収材(図示せず)を有するものとすることができる。また、建物10は、壁状部材18の下端部26と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間及び壁状部材18の下端部26と下方の梁16の他方の梁部材20bとの間の双方に介在する振動エネルギー吸収材(図示せず)を有するものとすることができる。
【0029】
建物10が地震時又は強風時に振動したとき、上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けて下方の梁16に対して変位する。これにより、壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して動く。このとき、振動エネルギー吸収材36がせん断変形することにより、前記振動エネルギーが消費される。このようにして振動エネルギー吸収材36は、前記振動エネルギーを吸収し、建物10の振動を低減させる。
【0030】
振動エネルギー吸収材36が壁状部材18の下端部26と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間に介在するため、上方の梁14と下方の梁16との間における壁状部材18の周囲の空間が振動エネルギー吸収材36により狭められることはない。このため、壁状部材を受け入れる上方に開放された容器が下方の梁に固定され、前記容器に振動エネルギー吸収材が収容されている従来の場合のように前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはなく、壁状部材18の周囲の空間を有効に利用することができる。
【0031】
また、振動エネルギー吸収材36が壁状部材18の下端部26と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間に介在するため、壁状部材を受け入れる上方に開放された容器が下方の梁に固定され、前記容器に振動エネルギー吸収材が収容されている従来の場合のように前記容器を要することはない。このため、前記容器の製作や前記容器の前記下方の梁への固定をする手間や費用を要することはなく、建物10を経済的に構築することができる。
【0032】
壁状部材18は、図1に示したように、開口部38を有する。開口部38は窓として利用される。振動エネルギー吸収材36が壁状部材18の下端部26と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間に介在するため、上方の梁14と下方の梁16との間において開口部38が存在する範囲を、振動エネルギー吸収材36の制約を受けることなく、上下方向に広げることができる。これにより、開口部38を経て多くの光を建物10の内部に採り入れることができ、建物10の採光を良くすることができる。なお、壁状部材18は、開口部38を有する図1に示した例に代え、開口部38を有しないものでもよい。
【0033】
図3、4に示す例では、壁状部材18の下端部26は少なくとも1つの取付け手段40により下方の梁16に該下方の梁の長さ方向に移動可能に取り付けられている。壁状部材18の下端部26は、前記第1水平方向に間隔を置かれた複数の取付け手段40により下方の梁16に取り付けられていてもよいし、1つの取付け手段40により下方の梁16に取り付けられていてもよい。
【0034】
取付け手段40は、壁状部材18に隣接して配置される垂直部分42及び下方の梁16の上に配置される水平部分44からなるほぼL字形の断面を有するL形部材46と、該L形部材の垂直部分42に設けられた第1貫通穴48と、L形部材46の水平部分44に設けられた第2貫通穴50と、第1貫通穴48に挿入され、壁状部材18に固定される第1アンカーボルト52と、第2貫通穴50に挿入され、下方の梁16に固定される第2アンカーボルト54と、第1アンカーボルト52に螺合される第1ナット56と、第2アンカーボルト54に螺合される第2ナット58とからなる。L形部材46は、例えば、山形鋼からなる。
【0035】
第1貫通穴48及び第2貫通穴50のいずれか一方は、L形部材46の前記断面に垂直な方向に伸びる長穴である。取付け手段40は、図4に示した例では、第1貫通穴48が円形であり、第2貫通穴50が前記長穴であるが、これに代え、第1貫通穴48が前記長穴であり、第2貫通穴50が円形であってもよい。第1貫通穴48及び第2貫通穴50のいずれか一方が前記長穴であるため、壁状部材18の下端部26は下方の梁16に対して該下方の梁の長さ方向に移動可能である。このため、地震時又は強風時に上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けたときに壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して移動することが妨げられることはない。
【0036】
第1アンカーボルト52が固定される第1アンカーボルト用穴(図示せず)及び第2アンカーボルト54が固定される第2アンカーボルト用穴(図示せず)がそれぞれ壁状部材18及び下方の梁16に設けられている。取付け手段40により壁状部材18の下端部26を下方の梁16に取り付けるとき、まず、L形部材46を、垂直部分42が壁状部材18に隣接し、かつ水平部分44が下方の梁16の上に位置するように、下方の梁16の上に配置する。このとき、第1貫通穴48及び第2貫通穴50がそれぞれ前記第1アンカーボルト用穴及び前記第2アンカーボルト用穴と整列するようにする。次に、第1アンカーボルト52を第1貫通穴48及び前記第1アンカーボルト用穴に挿入し、該第1アンカーボルト用穴に固定する。また、第2アンカーボルト54を第2貫通穴50及び前記第2アンカーボルト用穴に挿入し、該第2アンカーボルト用穴に固定する。その後、第1ナット56及び第2ナット58をそれぞれ第1アンカーボルト52及び第2アンカーボルト54に螺合する。
【0037】
取付け手段40により壁状部材18の下端部26を下方の梁16に取り付けるとき、壁状部材18の下端部26と下方の梁16とにより振動エネルギー吸収材36に圧縮力が加えられるようにする。取付け手段40は、壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して前記第2水平方向に移動するのを阻止し、振動エネルギー吸収材36に前記圧縮力が加えられた状態を維持する。このため、地震時又は強風時に上方の梁14が前記第1水平方向の力を受けて壁状部材18の下端部26が下方の梁16に対して移動したときに、壁状部材18の下端部26が振動エネルギー吸収材36に対して滑動する又は振動エネルギー吸収材36が下方の梁16に対して滑動することなく、振動エネルギー吸収材36に確実にせん断変形を生じさせることができる。これにより、前記振動エネルギーを効果的に吸収できるようにすることができる。
【0038】
図5、6に示す例では、壁状部材18の上端部24及び下端部26のそれぞれが平坦である図1に示した例に代え、壁状部材18a、18bの上端部24に、上方に開放された切欠き部分60が設けられ、壁状部材18の下端部26に、該下端部から下方へ伸びる伸長部分62が設けられている。
【0039】
建物10は、柱12の間に上下方向に間隔を置いて設けられた少なくとも3つの梁64a、64b、64cと、互いに隣接する3つの梁64a、64b、64cのうちの最上方の梁64aと中間の梁64bとの間に配置された第1壁状部材18aと、中間の梁64bと最下方の梁64cとの間に配置された第2壁状部材18bとを含む。最上方の梁64a、中間の梁64b及び最下方の梁64cのそれぞれは、前記第2水平方向に間隔を置かれた、それぞれが柱12を連結する2つの梁部材20a、20bからなる。
【0040】
第1壁状部材18aは、その上端部24が最上方の梁64aの梁部材20a、20bの間にあって最上方の梁64aに固定されており、その下端部26が中間の梁64bの梁部材20a、20bの間にある。第1壁状部材18aの下端部26は、地震時又は強風時に最上方の梁64aが前記第1水平方向の力を受けたとき、中間の梁64bに対して移動する。また、第2壁状部材18bは、その上端部24が中間の梁64bの梁部材20a、20bの間にあって中間の梁64bに固定されており、その下端部26が下方の梁16の梁部材20a、20bの間にある。第2壁状部材18bの下端部26は、地震時又は強風時に中間の梁64bが前記第1水平方向の力を受けたとき、最下方の梁64cに対して移動する。
【0041】
第1壁状部材18a及び第2壁状部材18bのそれぞれは、厚さ方向が前記第2水平方向と一致しており、上端部24及び下端部26のそれぞれが、前記第1方向において相対する一対の端部分66、68を有する。第1壁状部材18aの上端部24は、各端部分66が棒状部材28により最上方の梁64aに固定されており、第2壁状部材18bの上端部24は、各端部分66が棒状部材28により中間の梁64bに固定されている。
【0042】
第1壁状部材18a及び第2壁状部材18bのそれぞれは、上端部24に設けられた、上方に開放された切欠き部分60と、下端部26に設けられた、該下端部から下方へ伸びる伸長部分62とを有する。切欠き部分60は、上端部24の一方の端部分66から内方へ隔てられた一方の側部分70と、上端部24の他方の端部分66から内方へ隔てられた他方の側部分70と、一方の側部分70と他方の側部分70との間の底部分72とにより規定されている。伸長部分62は、下端部26の一方の端部分68から内方へ隔てられた一方の側部分74と、下端部26の他方の端部分68から内方へ隔てられた他方の側部分74と、一方の側部分74と他方の側部分74との間の下端部分76とにより規定されている。第1壁状部材18aの下端部26の各側部分74は第2壁状部材18bの上端部24の側部分70から間隔を置かれており、該間隔は、第1壁状部材18aの下端部26が地震時又は強風時に中間の梁64bに対して移動できる距離に相当する。
【0043】
第1壁状部材18aの伸長部分62は第2壁状部材18bの切欠き部分60に受け入れられており、第1壁状部材18aの下端部26及び伸長部分62と中間の梁64bの一方の梁部材20aとの間に振動エネルギー吸収材36が介在する(図6)。第1壁状部材18aの伸長部分62が第2壁状部材18bの切欠き部分60に受け入れられているため、第1壁状部材18aの下方に第2壁状部材18bが存在するにもかかわらず、振動エネルギー吸収材36を存在させる範囲を第1壁状部材18aの下端部26の下方へ広げることができる。振動エネルギー吸収材36が、第1壁状部材18aの下端部26と中間の梁64bの一方の梁部材20aとの間のみならず、伸長部分62と中間の梁64bの一方の梁部材20aとの間にも介在するため、振動エネルギー吸収材36が存在する範囲は比較的広く、前記振動エネルギーをより効果的に吸収することができる。
【0044】
振動エネルギー吸収材36は、第1壁状部材18aの下端部26及び伸長部分62と中間の梁64bの一方の梁部材20aとの間に介在する図6に示した例に代え、第1壁状部材18aの下端部26及び伸長部分62と下方の梁16の他方の梁部材20bとの間に介在してもよいし、第1壁状部材18aの下端部26及び伸長部分62と下方の梁16の一方の梁部材20aとの間及び第1壁状部材18aの下端部26及び伸長部分62と下方の梁16の他方の梁部材20bとの間の双方に介在してもよい。
【0045】
図7、8に示す例では、第1壁状部材18a及び第2壁状部材18bのそれぞれは、上端部24に設けられた切欠き部分60と、下端部26に設けられた伸長部分62とを有する図5に示した例に代え、上端部24に設けられた、該上端部から上方へ伸びる上方伸長部分78と、下端部26に設けられた、該下端部から下方へ伸びる下方伸長部分80とを有する。
【0046】
第1壁状部材18a及び第2壁状部材18bのそれぞれは、上端部24及び上方伸長部分78の厚さと下端部26及び下方伸長部分80とが中間部82の厚さより薄く、第1壁状部材18aの厚さ方向において第1壁状部材18aの下端部26及び下方伸長部分80の中心は第1壁状部材18aの中間部82の中心から中間の梁64bの一方の梁部材20aの側へ隔てられており、第2壁状部材18bの厚さ方向において第2壁状部材18bの上端部24及び上方伸長部分78の中心は第2壁状部材18bの中間部82の中心から中間の梁64bの他方の梁部材20bの側へ隔てられている。第2壁状部材18bの上端部24及び上方伸長部分78は第1壁状部材18aの下端部26及び下方伸長部分80に前記第2水平方向に隣接している。
【0047】
第1壁状部材18aの下端部26及び下方伸長部分80と中間の梁64bの一方の梁部材20aとの間に振動エネルギー吸収材36が介在する。また、第1壁状部材18aの下端部26及び下方伸長部分80と第2壁状部材18bの上端部24及び上方伸長部分78との間に他の振動エネルギー吸収材84が介在する。他の振動エネルギー吸収材84は弾性体又は粘弾性体からなる。
【0048】
地震時又は強風時に最上方の梁64aが前記第1水平方向の力を受けたとき、
第1壁状部材18aの下端部26及び下方伸長部分80が中間の梁64bと第2壁状部材18bの上端部24及び上方伸長部分78とに対して移動する。このとき、振動エネルギー吸収材36及び他の振動エネルギー吸収材84のそれぞれがせん断変形して前記振動エネルギーが吸収される。振動エネルギー吸収材36に加えて他の振動エネルギー吸収材84も前記振動エネルギーを吸収するため、建物10の振動を効果的に低減させることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 建物
12 柱
14 上方の梁
16 下方の梁
18 壁状部材
18a 第1壁状部材
18b 第2壁状部材
20a 一方の梁部材
20b 他方の梁部材
24 上端部
26 下端部
36 振動エネルギー吸収材
38 開口部
40 取付け手段
42 垂直部分
44 水平部分
46 L形部材
48 第1貫通穴
50 第2貫通穴
52 第1アンカーボルト
54 第2アンカーボルト
56 第1ナット
58 第2ナット
60 切欠き部分
62 伸長部分
64a 最上方の梁
64b 中間の梁
64c 最下方の梁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、
前記柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁であって各梁が、前記第1水平方向と直交する第2水平方向に間隔を置かれた、それぞれが前記柱を連結する2つの梁部材からなる上方の梁及び下方の梁と、
前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁の梁部材の間にあって前記上方の梁に固定され、下端部が前記下方の梁の梁部材の間にある壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記第1水平方向の力を受けたとき、前記下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材と、
前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の一方の梁部材との間及び前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む、建物。
【請求項2】
前記振動エネルギー吸収材は弾性体又は粘弾性体からなる、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記壁状部材は開口部を有する、請求項1又は2に記載の建物。
【請求項4】
前記壁状部材の前記下端部は少なくとも1つの取付け手段により前記下方の梁に該下方の梁の長さ方向に移動可能に取り付けられている、請求項1ないし3のいずれ1項に記載の建物。
【請求項5】
前記取付け手段は、前記壁状部材に隣接して配置される垂直部分及び前記下方の梁の上に配置される水平部分からなるほぼL字形の断面を有するL形部材と、該L形部材の前記垂直部分に設けられた第1貫通穴と、前記L形部材の前記水平部分に設けられた第2貫通穴と、前記第1貫通穴に挿入され、前記壁状部材に固定される第1アンカーボルトと、前記第2貫通穴に挿入され、前記下方の梁に固定される第2アンカーボルトと、前記第1アンカーボルトに螺合される第1ナットと、前記第2アンカーボルトに螺合される第2ナットとからなり、前記第1貫通穴及び前記第2貫通穴のいずれか一方は、前記L形部材の前記断面に垂直な方向に伸びる長穴である、請求項4に記載の建物。
【請求項6】
第1水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、
前記柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた少なくとも3つの梁であって各梁が、前記第1水平方向と直交する第2水平方向に間隔を置かれた、それぞれが前記柱を連結する2つの梁部材からなる少なくとも3つの梁と、
互いに隣接する3つの梁のうち最上方の梁と中間の梁との間に配置され、上端部が前記最上方の梁の梁部材の間にあって前記最上方の梁に固定され、下端部が前記中間の梁の梁部材の間にある第1壁状部材であって地震時又は強風時に前記最上方の梁が前記第1水平方向の力を受けたとき、前記下端部が前記中間の梁に対して移動する第1壁状部材と、
互いに隣接する3つの梁のうち前記中間の梁と最下方の梁との間に配置され、上端部が前記中間の梁の梁部材の間にあって前記中間の梁に固定され、下端部が前記最下方の梁の梁部材の間にある第2壁状部材であって地震時又は強風時に前記中間の梁が前記第1水平方向の力を受けたとき、前記下端部が前記最下方の梁に対して移動する第2壁状部材とを含み、
前記第1壁状部材及び前記第2壁状部材のそれぞれは、前記上端部に設けられた、上方に開放された切欠き部分と、前記下端部に設けられた、該下端部から下方へ伸びる伸長部分とを有し、前記第1壁状部材の前記伸長部分は前記第2壁状部材の前記切欠き部分に受け入れられており、
前記第1壁状部材の前記下端部及び前記伸長部分と前記中間の梁の一方の梁部材との間及び前記第1壁状部材の前記下端部及び前記伸長部分と前記中間の梁の他方の梁部材との間の少なくとも一方に、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材が介在する、建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−163786(P2010−163786A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6391(P2009−6391)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】