説明

振動センサ

【課題】湿度のほか、自己共振周波数に影響する外部環境の影響を受けにくい振動センサを提供する。
【解決手段】変形自在なアーム21の先端部に錘22を取付けてなる振動子5と、アーム21の変形部21aに配設されその歪みを検出可能な歪検出素子23とを備えてなり、振動子5を振動可能に収納する収納部材4を設け、収納部材4はケース体3に納められると共に、ケース体3内には収納部材4の周囲部にシリコーン材からなる充填材6を充填してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物が振動したときにその振動を検出する振動センサに関し、特に歪検出素子によって先端に錘を有した振動子の歪みを検出することで振動を検出する振動センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から歪検出素子を用いた傾斜センサが知られている。この傾斜センサは、一端に錘を設けたアームを支持し、アームの歪み変形可能な部位に歪検出素子を設けてなり、傾斜を検出する機器に取付けられている。ここで、機器が傾斜すると傾斜センサ全体が機器と一体となって傾斜し、これに伴い歪検出素子によって感知されるアームの歪変形量が変化することにより、機器が傾いたことが検出される。このような傾斜センサとしては、例えば特許文献1に挙げるようなものがある。
【特許文献1】特開2003−302220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この傾斜センサの原理を利用して、機器に加わる衝撃に伴う振動を検出する振動センサとすることもできる。しかし、傾斜センサを単に振動センサとするだけでは、外部環境の影響によって精度よく振動を検出することができない。まず、歪検出素子は抵抗体により構成されるため、外部環境の一つである湿度の変化によってその特性が変化する。
【0004】
また、衝撃に伴う振動を検出する場合、外部からの加振周波数がセンサの応答周波数(物理的に運動する速度)より速いので、センサのアームは自己の最大周波数で加振のエネルギーを受け止めて振動することになる。この周波数は振動する部分の質量・振動長・剛性で決定される自己共振周波数である。
【0005】
錘とアームとからなるセンサの振動子の振動は、センサを納めるケース体及び外部端子を通じて外部質量と接続されており、外部環境により振動に関与する質量・振動長・剛性は変化することになる。このため、これら外部環境の変化によって自己共振周波数が変化し、衝撃を検出するセンサとしての精度を充分に確保することができない。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、外部環境の影響を受けにくい振動センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る振動センサは、変形自在なアームの先端部に錘を取付けてなる振動子と、前記アームの変形部に配設されその歪みを検出可能な歪検出素子とを備えてなる振動センサにおいて、
前記振動子を振動可能に収納する収納部材を設け、該収納部材はケース体に納められると共に、該ケース体内には前記収納部材の周囲部に充填材を充填してなることを特徴として構成されている。
【0008】
また、本発明に係る振動センサは、前記充填材はシリコーン材からなることを特徴として構成されている。
【0009】
さらに、本発明に係る振動センサは、前記ケース体には外部端子が設けられた基板を設け、前記収納部材は前記基板と接続されると共に、前記ケース体内において前記基板と離隔して配置されることを特徴として構成されている。
【0010】
さらにまた、本発明に係る振動センサは、前記振動子のアームはフレキシブル基板により形成され、該フレキシブル基板が前記収納部材から外部に延出されて前記基板と接続されることを特徴として構成されている。
【0011】
そして、本発明に係る振動センサは、前記歪検出素子は前記振動子のアームの変形部と変形不能部にそれぞれ配設され、前記変形部の歪検出素子と前記変形不能部の歪検出素子とで分圧回路を構成してなることを特徴として構成されている。
【0012】
また、本発明に係る振動センサは、前記収納部材は上収納部材と下収納部材とから構成され、前記振動子のアームの変形不能部は前記上収納部材と下収納部材によってゴム材を介して挟持固定されることを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る振動センサによれば、振動子を振動可能に収納する収納部材を設け、収納部材はケース体に納められると共に、ケース体内には収納部材の周囲部に充填材を充填してなることにより、収納部材内に納められる歪検出素子に対する湿度変化の影響を少なくすることができ、また全体の質量を大きくすることができるため、センサ自体の自己共振周波数を外部環境によって変化しにくいようにすることができる。
【0014】
また、本発明に係る振動センサによれば、充填材はシリコーン材からなることにより、シリコーン材は防湿効果が高いために、より湿度の影響を抑えることができる。また、充分な重量を得ることもできる。
【0015】
さらに、本発明に係る振動センサによれば、ケース体には外部端子が設けられた基板を設け、収納部材は基板と接続されると共に、ケース体内において基板と離隔して配置されることにより、外部端子を半田付けする際の熱が収納部材に対して直接伝達しないので、熱によるセンサに対する影響を少なくすることができる。
【0016】
さらにまた、本発明に係る振動センサによれば、振動子のアームはフレキシブル基板により形成され、フレキシブル基板が収納部材から外部に延出されて基板と接続されることにより、振動子を容易に形成することができ、また錘の重量が小さくてもアームが充分に変形することができるので、錘も樹脂材を用いて容易に形成することができる。
【0017】
そして、本発明に係る振動センサによれば、歪検出素子は振動子のアームの変形部と変形不能部にそれぞれ配設され、変形部の歪検出素子と変形不能部の歪検出素子とで分圧回路を構成してなることにより、温度や湿度の変化による特性変化を抑制することができ、精度を高めることができる。
【0018】
また、本発明に係る振動センサによれば、収納部材は上収納部材と下収納部材とから構成され、振動子のアームの変形不能部は上収納部材と下収納部材によってゴム材を介して挟持固定されることにより、歪検出素子が形成された面の摩耗を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には、本実施形態における振動センサの分解斜視図を示している。この図に示すように、本実施形態における振動センサは、ピン状の外部端子2を6本底面に備えた基板1に対し、フレキシブル基板20を介して所定間隔離隔した位置にセンサの主要部を内蔵した収納部材4を配置し、基板1の上方からケース体3を取付けて収納部材4を覆うように収容して構成される。
【0020】
ケース体3は、下部に係合脚3aが形成されており、これが基板1の係合孔1aに係合することによって、ケース体3が基板1に対して固定される。また、収納部材4は上収納部材10と下収納部材11を係合することによって一体化しており、上収納部材10と下収納部材11の隙間からフレキシブル基板20を引き出している。さらに、フレキシブル基板20の基板1側端部は、基板1上に設けられる接続部1bに対して接続される。
【0021】
フレキシブル基板20はポリイミドからなりフィルム状に形成されている。このため、図1に示すように収納部材4の外部に延出された中間位置で屈曲させることができる。これによって基板1と収納部材4を離隔した状態で配置することができるので、外部端子2を外部の回路基板に半田付けする際に発生する熱が、収納部材4に直接伝達することを防止して、半田付け時の熱によるセンサの精度に対する影響を少なくすることができる。なお、フレキシブル基板20はポリイミドに限らずPPSフィルムやPETフィルムを用いることもできる。
【0022】
次に、収納部材4に納められたセンサの主要部分について説明する。図2には、収納部材4内部の分解斜視図を示している。この図では、上収納部材10と下収納部材11を分離した状態を示している。下収納部材11には内側面に係合部14が形成され、上収納部材10には側面に被係合部15が形成されて、係合部14と被係合部15が係合することによって上収納部材10と下収納部材11が一体化される。
【0023】
下収納部材11内には、フレキシブル基板20の一端部が変形自在となるように納められており、アーム21を構成している。また、アーム21の先端部には錘22が取付けられて、アーム21と錘22によって振動子5を構成している。アーム21の変形部21aには、その歪みを検出可能な歪検出素子23が設けられており、振動子5の振動を検出することができる。歪検出素子23は、フレキシブル基板20上においてカーボンからなる抵抗体を印刷形成してなるものである。振動センサが取付けられる機器が衝撃によって振動した際には、振動子5が収納部材4内において振動し、それを歪検出素子23によって検出することで、機器の振動を検出することができる。
【0024】
アーム21の根元部分は、ゴム材16を介して上収納部材10と下収納部材11によって挟持固定され、変形不能部21bとされている。変形不能部21bには第2の歪検出素子25が設けられ、歪検出素子23と直列に接続されて分圧回路を構成するようにしている。第2の歪検出素子25が設けられる変形不能部21bについて、ゴム材16を介して収納部材4により挟持固定するようにしたので、印刷形成された部分が摩耗することを防止することができる。
【0025】
上収納部材10には3つの孔部13が形成され、下収納部材11には孔部13に対応して突起部12が形成されている。また、フレキシブル基板20にもそれらと対応した位置に固定孔20aが形成されていて、突起部12は孔部13に対して固定孔20aを介して挿入され固定される。これによってフレキシブル基板20の収納部材4内における位置決めをなしている。
【0026】
図3には、フレキシブル基板20及び錘22の平面図を示している。この図に示すように、フレキシブル基板20の一端部には、アーム21が形成されると共に、その先端部には錘22を取付けるための錘固定部21cが形成される。錘22は、上部材22aと下部材22bの二部材からなり、下部材22bには2つの突起部22cが、上部材22aには2つの孔部22dが形成されている。錘固定部21cに形成される固定孔21dを介して下部材22bの突起部22cが上部材22aの孔部22dに挿入されることで、錘固定部21cを上部材22aと下部材22bで挟持し一体化することができる。
【0027】
また、アーム21はフィルム状の部材からなるフレキシブル基板20の一部として構成されているため、これを振動時の動加速度に応じて変形させる錘22の質量は小さくてもよく、錘22は成形の容易な樹脂材によって形成されている。
【0028】
アーム21の変形部21aには歪検出素子23が設けられ、またアーム21の変形不能部21bには、第2の歪検出素子25が設けられる。また、これらはフレキシブル基板20の長手方向に沿って設けられる配線部26によって接続され、分圧回路を形成している。配線部26はフレキシブル基板20に対してエッチングによって形成される。
【0029】
図4には、ケース体3内に収納部材4を納めた状態における底面方向からの斜視図を示している。この図に示すように、ケース体3には収納部材4の周囲部を覆うようにシリコーン材からなる充填材6が充填される。歪検出素子23は、外部環境の一つである湿度の変化に対して、その特性が大きく変化するが、シリコーン材には防湿の作用があるので、充填材6をケース体3に充填することによって収納部材4内の湿度変化をほとんどなくすことでき、湿度変化があってもセンサの精度を充分に確保することができる。
【0030】
また、充填材6をケース体3に充填することによってセンサ全体の質量を大きくすることができる。振動子5の振動は、前述のようにケース体3及び外部端子2を通じて外部質量と接続されているために、外部環境により振動に関与する質量・振動長・剛性は変化する。すなわち、振動子5と外部質量との間で連成振動を生じる連成系を構成している。充填材6を充填し振動子5を支持する部材の質量を増すことで、連成系における目的振動子以外の振動物の自己共振周波数を十分に低くし、伝播振動を支持部分で大きく減衰させることができて、外部環境による特性の変化を少なくすることができる。
【0031】
次に、振動センサの回路構成について説明する。図5には振動センサの回路図を示している。前述のようにこの振動センサには外部端子2が6本(P1〜P6)設けられており、それぞれが回路内において接続されている。センサ部分には、歪検出素子23と第2の歪検出素子25が直列に接続されている。
【0032】
前述のように歪検出素子23はアーム21の変形部21aに、第2の歪検出素子25はアーム21の変形不能部21bに、それぞれ配置されており、出力電圧は歪検出素子23と第2の歪検出素子25の間から取り出す。歪検出素子23と第2の歪検出素子25は、同時に印刷形成されて、ほとんど同じ特性を有するため、温度や湿度の変化に対しても同じ変動率を示す。このため、中点の電圧を取り出すことによって温度や湿度の影響を少なくすることができる。
【0033】
外部端子2のうちP6の端子は電源に接続され、P1の端子はグランドに接続される。これによってセンサ部分に電圧を印加することができる。また、P2の端子は、センサ部分の出力と接続されていて、出力端子として用いられる。したがって、信号をそのまま取り出す場合には、P1とP6及びP2の端子が用いられ、取り出した信号は外部に設けられるアンプによって増幅される。この場合、P3とP4及びP5の端子は使用されない。
【0034】
この他に、振動センサ内において予め増幅した信号を出力させることもできる。センサ部分からの出力は、オペアンプU1のプラス接続端子に接続されている。オペアンプU1に対しては、負帰還をかけると共に、グランドに接続されるP3の外部端子2との間にコンデンサC1を抵抗R1と直列に接続することによって、直流成分を取り除いた交流成分のみを検出する微分回路として構成している。これによって、振動センサを取付けた機器に対する傾斜を検出することがなく、機器に対する振動のみを検出する振動センサとすることができる。
【0035】
外部端子2のうち、P4の端子は増幅された出力端子として用いられ、またP5の端子はオペアンプU1に対する電源に接続される。したがって、振動センサ内において出力を増幅する場合には、P1とP3の端子がグランドに、P6の端子がセンサ部分の電源に、P5の端子がオペアンプU1の電源に、それぞれ接続され、P4の端子が出力端子として用いられる。この場合、P2の端子は使用されない。
【0036】
本実施形態では、図5のような回路構成とすることで、振動センサに対する供給電流をできるだけ小さくしたい場合や、外部にアンプの余剰がある場合などには、アンプを介することなく出力を取り出すこともできるし、逆に予め増幅された出力が必要な場合には、アンプを介して出力を取り出すこともできる。一方、コストダウンのために振動センサ自体にアンプを設けたくない場合には、図5に示すオペアンプU1及びその周囲の回路構成を設けないようにしてもよい。この場合には、外部端子2のうちP1とP2及びP6の端子のみが使用されるが、端子を多ピン構造とした方が取付けを確実にすることができるので、基板1に対しては常に6本の外部端子2を設けるようにすることが望ましい。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態における振動センサの分解斜視図である。
【図2】収納部材内部の分解斜視図である。
【図3】フレキシブル基板及び錘の平面図である。
【図4】ケース体内に収納部材を納めた状態における底面方向からの斜視図である。
【図5】振動センサの回路図である。
【符号の説明】
【0039】
1 基板
2 外部端子
3 ケース体
4 収納部材
5 振動子
6 充填材
10 上収納部材
11 下収納部材
16 ゴム材
20 フレキシブル基板
21 アーム
21a 変形部
21b 変形不能部
22 錘
23 歪検出素子
28 第2の歪検出素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形自在なアームの先端部に錘を取付けてなる振動子と、前記アームの変形部に配設されその歪みを検出可能な歪検出素子とを備えてなる振動センサにおいて、
前記振動子を振動可能に収納する収納部材を設け、該収納部材はケース体に納められると共に、該ケース体内には前記収納部材の周囲部に充填材を充填してなることを特徴とする振動センサ。
【請求項2】
前記充填材はシリコーン材からなることを特徴とする請求項1記載の振動センサ。
【請求項3】
前記ケース体には外部端子が設けられた基板を設け、前記収納部材は前記基板と接続されると共に、前記ケース体内において前記基板と離隔して配置されることを特徴とする請求項1または2記載の振動センサ。
【請求項4】
前記振動子のアームはフレキシブル基板により形成され、該フレキシブル基板が前記収納部材から外部に延出されて前記基板と接続されることを特徴とする請求項3記載の振動センサ。
【請求項5】
前記歪検出素子は前記振動子のアームの変形部と変形不能部にそれぞれ配設され、前記変形部の歪検出素子と前記変形不能部の歪検出素子とで分圧回路を構成してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の振動センサ。
【請求項6】
前記収納部材は上収納部材と下収納部材とから構成され、前記振動子のアームの変形不能部は前記上収納部材と下収納部材によってゴム材を介して挟持固定されることを特徴とする請求項5記載の振動センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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