説明

振動制御方法及び振動制御装置

【課題】可変ダンパを振動エネルギの積極的な有効利用に使用する。
【解決手段】振動系は、質量1、ばね2、及び可変ダンパ3を備え、外部からの励振を受ける。可変ダンパ3の減衰比を正弦波で時間変化させることで、振動系にそれ自体の共振振動数以外の周波数で擬似的な共振を生じさせることができる。この擬似共振を利用して高効率の発電や制振を実現できる。外部からの励振の円振動数と減衰比の円振動数を等しく設定することにより、振動系に定常偏差を生じさせることができる。この定常偏差を位置制御に応用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動制御方法及び振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動現象を表現するモデルは、質量、ばね、及びダンパ(減衰器)の3つの要素からなる。従来、振動制御の分野では、ダンパは振動エネルギを吸収して熱として消費させ、それによって振動を低減する目的で利用されている。例えば、外部から入力のない自由振動の場合、ダンパを利用することにより、振動振幅は徐々に小さくなり、やがて振動が止まり質量は原点に復帰する。また、外部からの入力が存在し、共振が問題となる強制振動の場合、ダンパを利用することにより、共振振動数付近における振動振幅を低減できる。さらに、近年、減衰係数が一定のパッシブなダンパ(以下、単に「ダンパ」という。)に加え、粘弾性特性を外部からの磁場や電場で変化させることができる機能性流体、すなわちMR流体(Magnetorheological Fluid)やER流体(Electrorheological Fluid)を利用した減衰係数を制御可能なアクティブな可変ダンパ(可変減衰器)が開発され(特許文献1〜3参照)、この可変ダンパを利用したセミアクティブ制御により振動低減を行う技術が開発されている(特許文献4〜6参照)。また、可変ダンパの利用に関しては、非常に多くの研究成果が報告されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−218180号公報
【特許文献2】特開2002−310227号公報
【特許文献3】特開2005−83541号公報
【特許文献4】特開平6−146653号公報
【特許文献5】特開平10−54157号公報
【特許文献6】特開2002−2529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来知られている技術や研究はいずれも、ダンパや可変ダンパを振動減衰の観点から利用したものであり、振動エネルギの有効利用という観点から利用する技術や研究は知られていない。
【0005】
本発明は、可変ダンパを単なる振動減衰の要素としてではなく、振動エネルギを積極的に有効利用するための要素として使用する方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、質量要素、ばね要素、及び可変減衰要素を備え、かつ外部からの励振を受ける振動系の振動を制御する方法であって、前記可変減衰要素による減衰比を規則的に時間変化させることを特徴とすることを特徴とする振動制御方法を提供する。
【0007】
前記減衰比の時間変化は以下の式で表される正弦波であることが好ましい。
【0008】
【数1】

【0009】
具体的には、前記減衰比の時間変化の円振動数は、前記振動系自体の1次の共振円振動数よりも大きい前記外部からの励振の振動数に対し、以下の関係を満たすように設定することが好ましい。
【0010】
【数2】

【0011】
この場合、擬似共振によって振動系の振幅を増大させることができる。従って、前記振動系が振動発電ダンパである場合には、効率的に振動エネルギを電気エネルギに変換できる。また、前記振動系が動吸振器である場合には、高い制振効果が得られる。
【0012】
あるいは、前記減衰比の時間変化の円振動数は、前記振動系自体の1次の共振円振動数よりも大きい前記外部からの励振の振動数と等しく設定し、かつ前記位相を0及びπ以外の値に設定してもよい。
【0013】
この場合、振動系の質量要素に位相に応じた大きさ及び向きの定常変位を生じさせることができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、質量要素、ばね要素、及び可変減衰要素を備え、かつ多自由度系である主振動系からの励振を受ける付加振動系の振動を制御する振動制御装置であって、少なくとも前記主振動系の振動状態を検出する検出手段と、前記検出手段からの検出信号に基づいて前記可変減衰要素による減衰比を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は前記可変減衰要素の減衰比を以下の式で定義される正弦波で制御可能であることを特徴とする振動制御装置を提供する。
【0015】
【数3】

【0016】
具体的には、前記付加振動系は発電機をさらに備え、前記可変減衰要素による減衰比が初期値の場合の前記付加振動系の共振円振動数が、前記主振動系の1次モードの共振円振動数と一致し、前記制御手段は、前記検出手段からの検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの共振円振動数であれば前記減衰要素の減衰比を前記初期値で維持し、前記検出手段からの検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの共振円振動数よりも大きい他の円振動数であれば、以下の式で定められる円振動数を有する正弦波で前記可変減衰要素の減衰比を時間変化させる。
【0017】
【数4】

【0018】
多自由度系の主振動系である対象物への入力振動がその対象物の1次モードの共振円振動数以外である場合、例えば対象物の2次モード以上の共振円振動数である場合にも、擬似共振を利用することで効率的な発電を行うことができる。
【0019】
代案としては、前記付加振動系は発電機をさらに備え、前記可変減衰要素による減衰比が初期値の場合の前記付加振動系の共振円振動数が前記主振動系の1次モードの共振円振動数と一致し、前記制御手段は、前記検出手段からの検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの共振円振動数であれば前記減衰要素の減衰比を前記初期値で維持し、前記検出手段からの信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードに加えて2次以上のモードの共振円振動数を含んでいれば、前記可変減衰要素の減衰比を時間変化させ、減衰要素の減衰比の円振動数を以下の式で定義される最適値に設定し、
【0020】
【数5】

【0021】
かつ前記減衰比の位相を以下の式に基づいて設定する。
【0022】
【数6】

【0023】
擬似共振を利用することにより主振動系の1次モードと2次以上のモードの両方を同時に発電機による振動エネルギの電気エネルギへの変換に使用し、効率的な発電を行うことができる。
【0024】
別の代案としては、前記可変減衰要素による減衰比が初期値の場合の前記付加振動系の固有円振動数が前記主振動系の1次モードの固有振動数と一致し、前記制御手段は、前記検出手段からの検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの固有円振動数であれば前記減衰要素の減衰比を前記初期値で維持し、前記検出手段からの信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が2次以上のモードの固有円振動数を含んでいれば、前記可変減衰要素の減衰比を時間変化させ、減衰要素の減衰比の円振動数を以下の式で定義される最適値に設定し、
【0025】
【数7】

【0026】
かつ前記減衰比の正弦波の直流成分を以下の式に基づいて設定する。
【0027】
【数8】

【0028】
擬似共振を利用することにより主振動系の2次モード以上の固有円振動数を利用して擬似共振を誘起し、誘起した擬似共振を利用して、固有振動数を予め主振動系の1次モードの固有振動数と一致させておいた付加質量系の固有振動数での振動振幅を増加させることができ、高い制振性能を実現できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、質量要素、ばね要素、及び可変減衰要素を備え、かつ外部からの励振を受ける振動系に対して、可変減衰要素による減衰比を例えば正弦波等で規則的に時間変化させることにより、振動系に擬似共振や定常偏差を生じさせることができる。この擬似共振は、振動発電ダンパに応用すれば高いエネルギ変換効率が得られ、セミアクティブ動吸振器に応用すれば高い制振効果が得られる。また、定常偏差は位置制御装置に応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(基礎理論)
まず、本発明の基礎理論について説明する。以下、理解を容易にするために、図1に示す1自由度系であって基礎励振を受けるモデルを例に説明する。図1おいて、質量1(質量m)は、並列に配置されたばね2(剛性k)と可変ダンパ3(減衰係数c(t)、tは時間を示す。)によって、変位入力を受ける基礎4に支持されている。また、xは質量1の絶対変位を示し、zは基礎4の絶対変位を示す。絶対変位x,yの正負の向きは同一の向き(図1において上向き)に設定している。
【0031】
一般的に、可変減衰の応用目的は振動エネルギを消散することや、可能な限り速く振動振幅を引き下げることである。これに対して、本発明者は、この一般的な可変減衰の利用とはまったく反対に、振動振幅の増加に可変減衰を利用することを着想した。
【0032】
この着想に基づく種々の研究及び考察の結果、本発明者は、第1に、例えば図1に示すような基礎励振を受ける振動系において可変ダンパ3の可変減衰を用いることで、基礎励振が振動系の固有振動数以外の周波数である場合に擬似的な共振を誘起し、それによって固有振動数以外の周波数で振幅倍率を高めることができることを新たに見出した。
【0033】
具体的には、本発明者は以下の新たな知見を見出した。可変ダンパ3の可変の減衰係数c(t)、つまり可変減衰の係数は、正弦波のように変化させることが可能である。すなわち、その周波数を自由に選択できる係数励振である。可変減衰によって発生する減衰力は、減衰係数c(t)と基礎4と質量3間の相対速度の積に等しい。基礎励振からの入力正弦波に周波数制御が可能な可変減衰の正弦波を乗じることによって、入力周波数以外の別の周波数を有する新しい振動が起こる。それゆえに、適当な周波数で減衰係数c(t)を変化させることで、振動系の固有振動数と同じ振動数を有する新しい振動が生成できる。結果として、共振とよく似た現象(擬似共振)により、振動振幅が増加する。可変減衰の人工的な係数励振によって、固有周波数以上のどこにおいても擬似共振を起こすことが可能となる。これに加え、本発明者は、擬似共振の位相は係数励振に与える位相によって変化することを見出した。
【0034】
第2に、本発明者は、前述の擬似共振による振動振幅の増加に加え、基礎励振と係数励振の振動数を一致させることで振動系の質量1に定常変位を生成することが可能であり、その偏差量は係数励振に与える位相によって変化することを新たに見出した。
【0035】
なお、本発明の適用対象は図1に示すモデルに限定されない。例えば、基礎励振は力入力、速度入力、又は加速度入力であってもよい。また、対象となる振動系は1自由度系に限定されず、多自由度系であってもよい。さらに、減衰係数の変化は、定常的な振動である限り正弦波状に限定されず、矩形波等であってもよい。さらにまた、質量を支持するばね、可変ダンパ等の配置は並列・直列配置に限定されず、その複合配置でもよく、ばね、は可変ダンパ等の要素の数も特に限定されない。
【0036】
以下、本発明の基礎理論の詳細、シミュレーヨン、及びシミュレーション結果の評価について説明する。
【0037】
(基礎理論の詳細)
図1のモデルの運動方程式は以下の式(1)となる。
【0038】
【数9】

【0039】
ここで代表長さをL、代表時間をTとし、質量1の絶対変位xと基礎4の絶対変位(入力の変位)z、及び時間tを次式のように変数変換する。式中でアスタリスクは無次元化されていることを示す。
【0040】
【数10】

【0041】
代表時間をT=(m/k)1/2とすることで、式(1)の運動方程式は次式のように無次元化される。
【0042】
【数11】

【0043】
ここでζは以下の式で表される減衰比である。
【0044】
【数12】

【0045】
式(1)中のパラメータは質量m、減衰係数c、剛性kの3個であるが、無次元化した式(3)ではパラメータは減衰比ζのみとなる。また、代表時間Tは無次元化した際の固有振動数が1となるように設定しており、無次元化により単位「1」を基準に振動の解析が可能となる。
【0046】
可変ダンパ3の減衰係数c(t)を可変にすることで減衰比ζ(t)は任意の値をとることが可能となる。
【0047】
本発明では、従来の可変ダンパの利用法とは異なり、擬似的な共振を起こすことを目的として可変ダンパ3の減衰係数を変化させる。以下では、減衰係数c(t)の変化のさせ方と、それによって期待できる効果について説明する。基礎4に調和変位を与えたときの図1に示す振動モデルの振る舞いについて考える。
【0048】
また、減衰比ζ(t)を無次元円振動数ωζの正弦波として与える。この場合、減衰比ζ(t)は次式のように表すことができる。
【0049】
【数13】

【0050】
ここでαは振動振幅、βは位相を、ζconsは変動しない直流成分を表す。各パラメータはζ(t)>0となるように設定することができる(広く知られているように、初期変位を与える自由振動では、ζ=0では非減衰で、0<ζ<1で振動の減衰があり、ζ≧1では振動することなく減衰する運動となる。また、力励振モデルの強制振動の周波数応答ではζ>0.707で最大値がなくなる。)。
【0051】
可変ダンパ3によって発生する減衰力fdampは式(3)より以下の式(3)''で表される。
【0052】
【数14】

【0053】
基礎4に対する変位入力(変位励振)の無次元円振動数をωとすると(z*(t*)=cos ωt*)、基礎4と質量3間の無次元化した相対変位x*(t*)-z*(t*)は次式で表される。なお、以下では簡略化のため、必要な場合を除き、円振動数、時間、変位、振幅等について無次元化されていることは特に言及しない。
【0054】
【数15】

基礎4と質量1間の相対速度は、次式で表される。
【0055】
【数16】

【0056】
一方、前述の式(4)に示す可変の減衰比ζ(t)について、0≦ζ(t)となるように、パラメータをα=1/2、β=0、ζcons=1/2と設定する(ζ(t)=1/2・cosωζ+1/2)。
【0057】
この場合、式(3)''の減衰力fdampは、以下の式(5)で表される。
【0058】
【数17】

【0059】
この式(5)から明らかなように、減衰力fdampは、減衰比ζ(t)の円振動数ωζを有する正弦波と、基礎励振の円振動数ωを有する正弦波の積として考えることか゛できる(右辺第2式)。また、減衰力fdampはそれぞれ円振動数ω、ωζ+ω、ωζ−ωを有する3つの異なる正弦波の和として与えられ、かつ基礎4に対する変位入力の円振動数ωに比例して大きくなる(右辺第4式)。
【0060】
例として、図2に示す円振動数ω=1を持つ正弦波(sin t)と、円振動数ωζ=5を持つ正弦波(1/2(1+sin 5t))を掛け合わせると、図3に示す波形の振動が得られる。新たに生成された図3に示した振動の周波数分析(フーリエ変換)を行うと、図4が得られ、式(5)の右辺第4式と同様にω=1、ωζ−ω=4、及びωζ+ω=6に振動数成分を有する振動波形であることが分かる。つまり、振動系の共振円振動数である「1」以外に、ωζ−ωとωζ+ωに対応する円振動数「4」と「6」で減衰力が生成できる。
【0061】
以上より、基礎4から受ける正弦波の入力振動に対して制御可能な可変ダンパ3の減衰比(減衰係数c(t))を正弦波の振動として作用させ、適当な振動数で減衰比を変動させることで、得られる減衰力fdampの振動数成分に任意の振動数を含ませることが可能であることが分かる。また、これを利用することによって、可変ダンパ3によって発生する減衰力の振動数成分に本来振動系が有している共振振動数成分を含ませれば(図2を参照した例では|ωζ−ω|=1としている。)、減衰の係数励振によって共振に似た現象(擬似共振)が発生することが分かる。
【0062】
次に、図5に示すように掛け合わせる2つの正弦波の円振動数をω=ωζ=5とした場合は図6が得られる。また、ω=ωζの場合、式(5)より減衰力fdampは以下の式(5)'で表される。
【0063】
【数18】

【0064】
図6より、新たに生成された振動の角振動数成分はω=5及びωζ+ω=10となり、ωζ−ω=0の振動しない直流成分(式(5)'の右辺第3式第3項の(ω/2)cos0=ω/2)の影響で減衰力fdampの平均値が大きくオフセットすることがわかる。また、ω=ωζ=5の条件下で減衰比ζの振動をcos(ωζt+π)とし、位相を180°遅らせた場合、減衰力fdampは図6の縦軸を上下逆にしたものとなる。これらの減衰力は入力の振動に同期して一方向のみに作用することから、十分時間が経つと出力に定常的な偏差が得られることになる。
【0065】
以上より、基礎4から受ける正弦波の入力振動に対して制御可能な減衰比(可変ダンパ3の減衰係数c(t))を正弦波の振動として作用させ、かつ基礎4に対する入力と同じ振動数で減衰比を変動させる場合は、式(5)の右辺第3式第3項が直流成分として作用することから、減衰力の平均値が原点からオフセットして現れ、結果として定常偏差が得られることが分かる。また、定常偏差の向きと大きさは式(5)'の右辺第2式第3項より減衰比の振動の位相により設定が可能であることが分かる。
【0066】
(シミュレーションとその結果の評価)
本発明者は、前述の手法によって擬似共振及び定常偏差が生成されることを数値解析によるシミュレーションで確認した。数値解析のソフトウェアとして、MathWorks社の「Matlab」を使用した。式(3)の運動方程式に基づいて、「Matlab」において提供されている機能である「Simulink」上に図7に示すモデルを作成して数値解析を行った。図7において、符号11は基礎4への変位入力、符号12は可変ダンパ3の減衰係数c(t)を変化させることで振動させた減衰比ζ(t)、符号13は出力である質量1の絶対変位xである。また、符号14は微分器(dz/dt)、符号15はゲイン(この例では「2」)、符号16,17は積算器、符号18は加算器、符号19,20は積分器である。なお、本モデルは線形モデルであることから数値解析用ソルバーにはルンゲクッタ法のOde45を用い、ステップ幅は0.01刻みとした.また、シミュレーション開始から応答が十分に定常的になるまで計算を行った.ここでは入力である基礎励振の無次元円振動数をω、可変ダンパの係数励振の無次元円振動数をωζとし、両者の差の絶対値をλ=|ω−ωζ|とする。
【0067】
はじめに例として基礎励振の無次元円振動数をω=5とし、可変ダンパ3の係数励振の無次元円振動数をωζ=6、また振動振幅α=0.25、位相β=0、直流成分ζcons=0.25(式(4)参照)とした場合の数値計算による時刻暦応答について示す。図8は入力である基礎励振(図7の符号11)を、図9には可変ダンパ4の減衰比(図7の符号12)を、また図10には可変ダンパ3において実際に発生する減衰力を示しており、図11には出力である質量1の絶対変位を示している。これらの図より、ω=5で変位入力を受ける振動系が、ωζ=6の可変ダンパ3の係数励振によってωζ−ω=1の振動数成分を有する減衰力の影響で、本来振動系が有している共振円振動数ω=1が励起され、それぞれの振動数は異なるが、出力振幅の最大値が入力振幅のそれよりも大きくなっていることが分かる。つまり、前述の擬似共振が誘起されていることが確認できる。
【0068】
次に、基礎励振の円振動数をω=5とし、可変な減衰比の円振動数ωζを5から6まで変動させた場合の出力の応答を図12に示す。この図12において、係数励振の振幅はα=0.25、位相はβ=0、直流成分はζcons=0.25である。図12より、ω=5に対して可変ダンパ3の無次元円振動数ωζをこの範囲で変化させると、減衰力fdampに0から1までの円振動数成分が含まれることになり(式(5)の右辺第3式参照)、この円振動数に対応した振動が出力として発生することがわかる。また、基礎励振の円振動数ω=5に対して、可変ダンパ3の係数励振の円振動数がωζ=5となって両者が完全に一致した場合、減衰力fdampには図5及び図6で示したように直流成分が存在することから一方向のみに作用する力が働き、十分時間が経つと定常的な偏差が得られることがわかる。
【0069】
図13に基礎励振の円振動数をω=5、減衰比に与えた円振動数をωζ=5とし、減衰比の振動の位相βを変化させた場合の定常偏差を示す。この図13より定常偏差は可変ダンパ3に与える係数励振の振動の位相βに依存してその大きさや正負の向きが変化することが分かる。可変ダンパ3によって発生する力は速度に比例するので、基礎4に対する変位入力に対して係数励振の振動の位相が90度ずれた場合(β=π/2,3π/2)に、図5に示すような状態が得られて最大の定常偏差が発生する。
【0070】
減衰比に与える振動の位相βを変化させることで、定常偏差のみならず、可変減衰によって誘起される振動の出力である質量1の変位振動の位相を任意に変化させることができる。図14にω=5でωζ=6の場合に位相βを0から3π/2まで変化させた場合の質量1の変位振動の波形を示す。この図14から減衰比に与える振動の位相βに応じて、質量1の変位振動の位相が変化することがわかる。
【0071】
次に、図12で得られた基礎励振の円振動数ω=5の場合の可変ダンパ3の各円振動数ωζに対する変位振幅を評価する。係数励振の各円振動数ωζを横軸に、出力変位の無次元振幅の絶対最大値を縦軸にとると図15A,15Bが得られる。図15A,15Bにおいて、係数励振の振幅はα=0.25、位相はβ=π/2、直流成分ζcons=0.25である。これらの図15A,15Bより、固定された基礎励振の円振動数ω=5に対して、係数励振の振動数ωζを変化させた場合、振動数差の絶対値λ=|ω−ωζ|が振動系の共振円振動数ω=1付近となる場合に振幅が増加し、図15A,15Bの2箇所(後に詳述する符号max|xpeak_1|,max|xpeak_2|)で最大値を有する疑似共振を誘起することが可能であることがわかる。また、その二つの最大値の間に局所最小値(後に詳述するmax|xsame|)が存在し、これは基礎励振の円振動数ωと可変ダンパ3の減衰比ζ(t)の円振動数ωζが等しい場合、すなわちλ=0で定常偏差が発生している状態である。このλ=0の状況で発生する減衰力は図13に示すように係数励振の位相βが入力振動に対して0及びπ付近である場合を除いて直流成分が存在し、平均値が0ではないことから、定常的に静的な力が質点1に作用している。この静的な力によって質点1に定常変位が生じる。また、図13を参照すれば明らかなように、係数励振の位相βにより静的な大きさや力の向き(定常変位の大きさや向き)を調節できる。具体的には、係数励振の位相βを180°(π)増減することで静的な力の向き(定常変位の向き)を反転させることができる。
【0072】
図13からもわかるように、このλ=0の場合は入力円振動数成分を除いて振動的な応答とは言えない。よって、このλ=0の場合の応答を基準として、擬似共振の振幅の最大値を評価する。図15A,15Bの局所最小値で得られる値、すなわち基礎励振と係数励振の円振動数ω,ωζが一致し、かつ両者の位相がπ/2ずれたときに得られる定常応答の絶対値の最大値をmax|xsame|とする。また、図15A,Bで得られる2つの最大値を左から順番にmax|xpeak_i|,i=1,2とし、擬似共振の振幅倍率を以下の式(6)で定義する。
【0073】
【数19】

【0074】
また、2つの最大値max|xpeak_i|が得られる円振動数をωpeak_i,i=1,2とし、基礎励振の円振動数ωとの差の絶対値を擬似共振の共振円振動数として以下の式(7)で定義する。
【0075】
【数20】

【0076】
図15A,15Bにおける可変ダンパ3の係数励振条件である直流成分ζcons=0.25で振動振幅α=0.25の場合に得られるGmax_iとλn_iの平均値は、Gmax=2.01、λn=0.94となる。
【0077】
次に、可変ダンパ3の係数励振の直流成分ζcons=0.25は一定で、振動振幅のパラメータであるαを0.25,0.1,0.05と変化させた場合の応答(質量1の変位振動の最大振幅)を図16に示す。この図より、ζconsは0.25で一定の場合における各振動振幅αに対して得られる擬似共振の振幅倍率Gmax_iと共振円振動数λn_iの平均値Gmax,λは、以下に示す表1のようになる。
【0078】
【表1】

【0079】
この表1より、可変ダンパ3の係数励起の直流成分ζconsが一定な場合、振動振幅αが小さくなると振幅倍率Gmaxが小さくなり、逆に振動振幅αが大きくなると振幅倍率Gmaxも大きくなることから、振幅倍率を上昇させるためには振動振幅αを可能な限り大きく変動させる必要があることが分かる。また、擬似共振の共振円振動数λn、すなわち定常応答の最大値max|xpeak_i|が得られる無次元円振動数ωpeak_iと基礎励振の円振動数ωとの差については、振動振幅αが変化しても大きな変化はないことがわかる。
【0080】
前述のように、振動振幅αが大きい程、振幅倍率Gmaxも大きくなる。一方、式(4)より減衰比ζ(t)が負とならないという条件(ζ(t)≧0)を満たすためには、ζcons≧αを満たす必要がある。従って、振幅倍率Gmaxは振動振幅αと直流成分ζconsが等しい場合に、振幅倍率Gmaxが最大となる。振幅倍率Gmaxが最大となるように係数励起の直流成分ζconsと振動振幅αを同時に0.1から1.0まで変化させた場合の応答(最大振幅倍率)について図17に示す。ζcons=α=0.1の場合はピークが鋭く、ζconsとαの数値を大きくしていくと変位振幅絶対値max|xpeak_i|,i=1,2は徐々に大きくなるが、局所最小値であるmax|xsame|の値も同時に大きくなっていく。また、ζcons=α=0.7となる場合は、両者の振幅の差がほとんどなくなることがわかる。式(6)で定義した疑似共振の振幅倍率の平均値Gmaxと式(7)で定義した固有円振動数の平均値λnを調べると以下に示す表2を得る。また、α=1.0の場合は局所最小値max|Xsame|が存在しないため、表2から割愛している。
【0081】
【表2】

【0082】
図17より直流成分ζconsが大きいほど変位振幅は大きくなるが、表2より直流成分ζconsが小さいほど式(6)の疑似共振の振幅倍率Gmaxが高くなることがわかる。
【0083】
疑似共振は可変ダンパ3によって発生する減衰力が加振力として働くことで振幅の増加がなされる。このとき振動系を加振する力は直接質量1に作用していることから、図1のモデルは基礎励振を受けるモデルであるにもかかわらず、疑似共振のモデルは力励振を受ける振動系(ばね・質量・ダンパ系)であると考えられる。この一般的な力励振モデルにおける共振円振動数と共振点における振幅倍率は、振動系の時不変な減衰比をζとすると以下の式(8),(9)で表されることが知られている。
【0084】
【数21】

【0085】
この一般的なモデルと可変ダンパ3の係数励振によって発生する疑似共振の特性とを比較するため、減衰比の振動振幅の平均値である直流成分ζcons(=0.1,0.25,0.3,0.5,0.7)を式(8),(9)に代入すると、以下の表3が得られる。
【0086】
【表3】

【0087】
表3と式(6),(7)で定義した擬似共振の振幅倍率Gmax_iと共振円振動数λn_iの平均値Gmaxの値を示す表2を比較すると、各要素が非常によく一致していることが分かる。つまり、本発明の手法により擬似的な共振を発生させる場合、式(6),(7)のGmax_iとλn_iを用いることで得られる出力応答の結果があらかじめ推定できる。また、式(8),(9)に係数励振の直流成分ζconsを代入することで、擬似共振の共振振動数λや振幅倍率Gmaxをあらかじめ推定できる。
【0088】
後述する第1実施形態に関して詳述するように、減衰比の時間変化の円振動数は以下の式を満たすように設定することが好ましい。
【0089】
【数22】

【0090】
最後に可変ダンパ3の減衰比の係数励振の円振動数をωζ=5、振動振幅をα=0.25、位相をβ=0、直流成分をζcons=0.25とし、外部からの入力である基礎励振の変位振幅を一定にし、無次元円振動数ωを変化させた場合に得られる出力の変位振幅最大値を図にすると図18が得られる。この図18より、可変ダンパ3による係数励振の場合、図19に示した減衰比が一定である受動型の振動モデルの振動伝達率(一般的なばね・質量・ダンパ系の強制振動の伝達率)と同様に共振振動数において変位振幅がピークを持つ以外に、2箇所で極大値が得られることがわかる。具体的には、図18において、ω=1に振動系が持つ共振点が表れ、ω=4,6に可変ダンパ3によって新たに生成された擬似的な共振点が表れている。
【0091】
以上のように、基礎から受ける正弦波の入力振動に対して制御可能な可変ダンパの減衰比を正弦波の振動として作用させ、可変ダンパによって発生する減衰力の振動数成分に本来振動系が有している固有振動数成分を含ませる(図2を参照した例では|ωζ−ω|=1としている。)ことで、固有振動数以外の周波数で擬似共振を発生させ、それによって振動振幅を増加させることができる。擬似共振の位相は減衰力の係数励振の位相により調節できる。また、基礎から受ける正弦波の入力振動に対して制御可能な可変ダンパの減衰比を正弦波の振動として作用させ、かつ2つの正弦波の円振動数を一致させることで、定常偏差を生じさせることができ、定常偏差の大きさと向きは減衰力の位相により調節できる。以下、擬似共振や定常偏差を種々の振動制御装置に適用した実施形態について説明する。
【0092】
(第1実施形態)
図20に示す本発明の第1実施形態にかかる振動発電ダンパ11は、多自由度系の主振動系である対象物への入力振動がその対象物の1次の共振円振動数ω以外である場合、例えば対象物の2次以上の共振円振動数ω,ω・・・である場合にも、擬似共振を利用することで効率的な発電を行うことができる。
【0093】
図20を参照すると、本実施形態では振動発電ダンパ11を設置する対象物は4層構造の建築物12であり、基礎としての地面13上に建てられている。この建築物12を4自由度の振動系として把握すると、1階から4階12a〜12dはそれぞれ、質量がm1〜m4、剛性がk1〜k4、固定の減衰係数がc1〜c4、絶対変位がx1〜x4である。図21にこの4層構造の建築物12自体が持つ周波数特性を模式的に示す(図21における周波数及びゲインの値はあくまで例示である。)。建築物12は、1次から4次での共振周波数f1〜f4を有する。1次から4次の共振周波数とそれに対応する共振円振動数ω〜ωの関係は、N次の共振周波数をfとすると、以下の式(10)で表される。
【0094】
【数23】

【0095】
4層構造物、すなわち建築物12に対する付加振動系である振動発電ダンパ11は、4階12d上に配置されている。振動発電ダンパ11は、付加質量15(質量m、絶対変位x)、ばね16(剛性k)、可変ダンパ17(可変の減衰係数c(t))、及び発電機18を備える。付加質量15は水平方向に移動可能であり、並列配置されたばね16、可変ダンパ17、及び発電機18により建築物12の4階12dに連結されている。可変ダンパ17は少なくとも任意の波形の正弦波で振動係数c(t)を変化させることができるものであればよく、例えばMRダンパやERダンパを使用できる。発電機18は付加振動系の振動により発電が可能である限り、その形式は特に限定されない。また、振動発電ダンパ11は建築物12(この例では4階12d)に取り付けられたセンサ21を備える。センサ21は、変位、速度、及び加速度のうち少なくともいずれか1つを検出できるものであればよい。さらに、振動発電ダンパ11は、状態量推定器23、制御器24、及び可変ダンパ駆動装置25を備える。
【0096】
付加質量系、すなわち振動発電ダンパ11の共振円振動数は、建築物12の1次の共振円振動数ωに一致させている。具体的には、付加質量15の質量m、ばね16の剛性k、及び可変ダンパ17の減衰係数c(t)の初期値を、振動発電ダンパ11の共振円振動数が建築物12の1次の共振円振動数ωと一致するように設定している。ここで、可変ダンパ17の減衰係数c(t)の初期値とは、可変ダンパ17が何らの電気エネルギ等の供給を受けない状態でも減衰力を生じる場合にはその状態での減衰係数となり、可変ダンパ17が電気エネルギ等の供給を受ける場合にのみ減衰力を生じる場合には任意の一定値に設定される。
【0097】
次に、本実施形態の振動発電ダンパ11の動作を説明する。振動発電ダンパ11は以下のステップ1〜5の動作を連続的又は定期的に繰り返す。
【0098】
ステップ1:センサ21が建築物12の変位、速度、及び加速度の少なくともいずれか1つの検出信号を状態量推定器23に出力する。
【0099】
ステップ2:状態量推定器23は、センサ21から入力された検出信号に基づいて、建築物12の振動の状態量を推定し、推定結果を制御器24に出力する。
【0100】
ステップ3:制御器24は、状態量推定器23から入力された状態量をFFT等の手法で周波数解析し、建築物12の主振動成分を検出する。
【0101】
ステップ4:検出された建築物12の主振動成分が1次の共振円振動数ωである場合には、制御器24は、可変ダンパ駆動装置25に対して可変ダンパ17の減衰係数c(t)を初期値に維持するように指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。この場合、主振動系である建築物12の1次の共振円振動数ωに対して付加振動系である振動発電ダンパ11が共振し、振動エネルギを発電機18で電気エネルギに変換する。
【0102】
ステップ5:検出された建築物12の主振動成分が1次の共振円振動数ω以外である場合には、制御器24はその主成分に応じた可変ダンパ17の係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相β(式(4)参照)を設定し、可変ダンパ駆動装置25に対して設定した円振動数ωζ等で可変ダンパ17を係数励振させるように指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。
【0103】
次に、ステップ5における係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βの設定について詳細に説明する。以下、理解を容易にするため建築物12の主振動成分が2次の共振円振動数ωである場合を例に説明する。ただし、当該主振動成分が他の次数の共振円振動数やそれ以外の円振動数である場合にも、同様の手法で円振動数ωζ、振動振幅α、及び位相βが設定される。
【0104】
式(6)〜(10)及び表2,3に関して説明したように、擬似共振の共振円振動数λは、力加振モデルの共振円振動数λfを算出するための式(8)に直流成分ζconsを代入した値で推定できる。ないしは、擬似共振の共振円振動数λは式(8)に直流成分ζconsを代入した値とほぼ一致している。そこで、式(8)に直流成分ζconsを代入して以下の式(11)に示す擬似共振の共振円振動数の推定値(推定共振円振動数)λn_estを算出する。
【0105】
【数24】

【0106】
直流成分ζconsに最適値はなく、任意の値を与えることができる。
【0107】
式(7)を参照すれば明らかなように、係数励振の円振動数の最適値ωζ_optは擬似共振の推定共振円振動数λn_estと主振動系の主成分である円振動数ωを用いて以下の式(12)により算出できる。
【0108】
【数25】

【0109】
一般に、主振動系である建築物12の振動の主成分が1次の固有円振動数ω以外の円振動数ωmainである場合、係数励振の円振動数の最適値ωζ_optは以下の式(12)’で表される。
【0110】
【数26】

【0111】
図22に示す一般的な共振曲線(減衰比は時不変)を参照すると、共振曲線の最大値をxmaxとし、そのときの共振円振動数ωnの両側に(1/21/2)xmax=0.707xmaxとなる点をとり、この2点間の幅をδωとすると、Q値(quality factor)に関して以下の式(13)の関係が成立することが知られている。
【0112】
【数27】

【0113】
すなわち、式(13)より、擬似共振の場合はQ=1/2ζconsn/δλとなる。直流成分ζconsが決まれば、共振円振動数λnもλn=(1−2ζ2cons1/2として決まるため、δλが前記式(13)により決まる。ここでΔλ=δλ/2とすると、共振曲線の最大値の約70%の性能を確保するためには、λn±Δλの変動範囲に収まればよい。係数励振の最適値はωζ_optimal=ω±λ±Δλ=ωζ_opt±Δλ=ωζ_opt±λζcons=ωζ_opt±Δωとなる。
【0114】
以上の関係を参照することにより、擬似共振の振幅倍率Gmaxの約70%(0.707倍)以上(最大で100%)の振幅倍率を期待するには、係数励振の振動数ωζは、式(12)で求めた最適値ωζ_optに対して以下の式(14)で示す範囲に設定すればよい。
【0115】
【数28】

【0116】
表2に関して説明したように、係数励振の振動振幅αが大きいほど擬似共振の振幅倍率Gmaxは大きくなる一方、ζcons≧αを満たす必要があるので、振動振幅αはζconsと同一の値に設定することが好ましい。しかし、振動発電ダンパ11の構成上機械的な減衰を0とすることは困難であるので、ζcons>αを満たす範囲内で振動振幅αを可能な限り大きな値に設定する。
【0117】
位相βは任意の値に決定できる。
【0118】
主振動系(建築物12)の振動が1次モードの共振円振動数ω以外の円振動数を主成分とする場合に、以上のような設定した円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βで可変ダンパ17を係数励振すれば、主振動系の当該1次モード以外の円振動数を利用して可変ダンパ17が発生する減衰力fdapmの振動成分に1次モードの共振円振動数ω付近の周波数成分を含ませることができ、振動発電ダンパ11を共振円振動数ω付近で擬似共振させることができる。その結果、発電機18によって振動エネルギを効率的に電気エネルギに変換できる。
【0119】
(第2実施形態)
図23に示す本発明の第2実施形態にかかる振動発電ダンパ11は、擬似共振を利用することにより主振動系である建築物12の振動の1次モード(固有円振動数ω)と2次以上のモード(固有円振動数ω,ω,ω)の両方を同時に発電機18による振動エネルギの電気エネルギへの変換に使用し、効率的な発電を行うことができる。
【0120】
図23を参照すると、本実施形態の発電ダンパ11は付加質量15に取り付けられたセンサ22を備える点を除いて第1実施形態のものと同様の構成を有する。センサ22はセンサ21と同様に変位、速度、及び加速度のうち少なくともいずれか1つを検出できるものであればよい。また、建築物12も第1実施形態と同様の4層構造である。さらに、振動発電ダンパ11の共振円振動数は、建築物12の1次の共振円振動数ωに一致させている点も第1実施形態と同様である。
【0121】
次に、本実施形態の振動発電ダンパ11の動作を説明する。振動発電ダンパ11は以下のステップ1〜5の動作を連続的又は定期的に繰り返す。
【0122】
ステップ1:センサ21が建築物12の変位、速度、及び加速度の少なくともいずれか1つの検出信号を状態量推定器23に出力する。
【0123】
ステップ2:状態量推定器23は、センサ21から入力された検出信号に基づいて、建築物12の振動の状態量を推定し、推定結果を制御器24に出力する。
【0124】
ステップ3:制御器24は、状態量推定器23から入力された状態量をFFT等の手法で周波数解析し、建築物12の主振動成分を検出する。
【0125】
ステップ4:検出された建築物12の主振動成分が1次モードの共振円振動数ωである場合、制御器24は、可変ダンパ駆動装置25に対して可変ダンパ17の減衰係数ca(t)を初期値に維持するように指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。この場合、主振動系である建築物12の1次の固有円振動数ωに対して付加振動系である振動発電ダンパ11が共振し、振動エネルギを発電機18で電気エネルギに変換する。
【0126】
ステップ5:検出された建築物12の主振動成分が1次モードの共振円振動数ω以外に主成分を含む場合、制御器24はその1次モード以外の主成分に応じた可変ダンパ17の係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相β(式(4)参照)を設定し、可変ダンパ駆動装置25に対して設定した円振動数ωζ等で可変ダンパ17を係数励振させるように指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。
【0127】
次に、ステップ5における係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βの設定について詳細に説明する。以下、理解を容易にするため建築物12の主振動成分として1次モードの共振円振動数ωに加え、2次モードの共振円振動数ωが含まれる場合を例に説明する。ただし、当該1次モード以外の他の主振動成分が2次モード以外の共振円振動数やそれ以外の円振動数である場合にも、同様の手法で円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βが設定される。
【0128】
まず、センサ22が付加質量15の変位、速度、及び加速度の少なくともいずれか1つの検出信号を状態量推定器23に出力し、状態量推定器23はセンサ22から入力された検出信号に基づいて付加質量15の設置点における建築物12に対する相対変位を推定し、推定結果を制御器24に出力する。
【0129】
次に、制御器24が以下の処理を実行する。
【0130】
1)入力された状態量推定器23の推定結果に基づいて、付加質量15の共振円振動数ωでの振動の状態を測定する。
【0131】
2)センサ21からの検出信号に基づいて状態量測定器23が推定した建築物12の振動の状態量を使用して、建築物12の2次モードの共振円振動数ωでの振動の状態を測定する。
【0132】
3)付加質量15の円振動数ωの振幅が0のときの時間を基準に、すなわち付加質量15の振動数成分である円振動数ω1の振動の位相が0の時間を基準に、建築物12の振動の位相β’を算出する。
【0133】
4)前述の式(11),(12)に基づいて可変ダンパ17の係数励振の円振動数の最適値ωζ_optを算出する。付加質量15の振幅が増加するように擬似共振を作用させるためには擬似共振の円振動数を1次モードの共振円振動数ωと同じ振動数にする必要があるので、この値が最適値となる。可変ダンパ17の係数励振の円振動数が最適値ωζ_optに対してずれると、付加振動系(振動発電ダンパ11)の応答にうなり振動が生じ、発電機18でのエネルギ変換効率が低下する。なお、一般に主振動系である建築物12の振動が1次の共振円振動数ω以外に含む主成分が円振動数ωmainである場合、係数励振の円振動数の最適値ωζ_optは前述の式(12)’で表される。
【0134】
5)可変ダンパ17の係数励振の位相βは、付加質量15の円振動数ωでの振動振幅が増加するように、前述の建築物12の共振振動数ωでの振動の位相β’を使用して以下の式(15)から算出する。
【0135】
【数29】

【0136】
この式(15)は建築物12の共振振動数ωによる付加質量15の擬似共振の位相を、建築物12の共振振動数ωに対する付加質量15の共振に合わせることを意味している。この式(15)により算出した位相β、すなわち位相βが最適値の場合の擬似共振が付加振動系の円振動数ωでの振動振幅の増加に寄与する効率を100%とすると、70%以上の性能を得るためには係数励振の位相βを最適値の±π/4以内に収める必要がある。
【0137】
6)直流成分ζconsに最適値はなく、任意の値に設定できる。
【0138】
7)振動振幅αはζcons>αを満たす範囲内で振動振幅αを可能な限り大きな値に設定する。
【0139】
主振動系(建築物12)の振動に1次モードと2次モード以上の振動が含まれる場合に以上のように設定した円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βで可変ダンパ17を係数励振すれば、主振動系の2次モード以上の振動を利用して可変ダンパ17が発生する減衰力fdapmの振動成分に1次モードの共振円振動数ωの周波数成分を含ませることができ、付加振動系(振動発電ダンパ11)を共振円振動数ωで擬似共振させることができる。この共振円振動数ωでの擬似共振により付加振動系の1次モードの固有円振動数ωでの付加振動系の振幅を増大させることができる。その結果、発電機18によって振動エネルギを効率的に電気エネルギに変換できる。
【0140】
第2実施形態のその他の構成及び作用は第1実施形態と同様であるので、同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0141】
なお、第1及び第2実施形態は建築物に設置された振動発電ダンパを例に説明したが、これらの実施形態の原理は無線センサーネットワークの電源、歩行振動を利用したウェアラブル情報機器の電源、自動車のサスペンションに組み込む回生装置等の各種の構造物や装置の発電装置にも応用できる。
【0142】
(第3実施形態)
図24に示す本発明の第3実施形態にかかるセミアクティブ動吸振器(以下、単に動吸振器という。)31は、擬似共振を利用することにより主振動系である建築物12の2次モード以上の固有円振動数ω,ω・・・を利用して擬似共振を誘起し、誘起した擬似共振を利用して、固有振動数を予め主振動系の1次モードの固有振動数ωと一致させておいて付加質量系(動吸振器31)の固有振動数ωでの振動振幅を増加させることで高い制振性能を実現している。
【0143】
図24を参照すると、本実施形態の動吸振器31は発電機18(図23参照)を除いて第2実施形態の振動発電ダンパ11と同様の構造である。また、建築物12も第1及び第2実施形態と同様の4層構造である。さらに、動吸振器31の固有円振動数ωTMDは、建築物12の1次の固有円振動数ωとωTMD/ω=1/1+μの関係にする。
【0144】
次に、本実施形態の振動発電ダンパ11の動作を説明する。振動発電ダンパ11は以下のステップ1〜5の動作を連続的又は定期的に繰り返す。
【0145】
ステップ1:センサ21が建築物12の変位、速度、及び加速度の少なくともいずれか1つの検出信号を状態量推定器23に出力する。
【0146】
ステップ2:状態量推定器23は、センサ21から入力された検出信号に基づいて、建築物12の振動の状態量を推定し、推定結果を制御器24に出力する。
【0147】
ステップ3:制御器24は、状態量推定器23から入力された状態量をFFT等の手法で周波数解析し、建築物12の主振動成分を検出する。
【0148】
ステップ4:検出された建築物12の主振動成分が1次モードの固有円振動数ωである場合、制御器24は、可変ダンパ駆動装置25に対して可変ダンパ17の減衰係数c(t)を初期値に維持するように指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。この場合、主振動系である建築物12の1次の固有円振動数ωに対して付加振動系15が共振し可変ダンパ17が振動エネルギを消散させる。
【0149】
ステップ5:検出された建築物12の主振動成分が1次モードの固有円振動数ω以外に主成分を含む場合、制御器24はその1次モード以外の主成分に応じた可変ダンパ17の係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相β(式(4)参照)を設定し、可変ダンパ駆動装置25に対して設定した円振動数ωζ等で可変ダンパ17を係数励振させるように指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。
【0150】
次に、ステップ5における係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βの設定について詳細に説明する。以下、理解を容易にするため建築物12の主振動成分として1次モードの固有円振動数ωに加え、2次モードの固有円振動数ωが含まれる場合を例に説明する。ただし、当該1次モード以外の他の主振動成分が2次モード以外の固有円振動数やそれ以外の円振動数である場合にも、同様の手法で円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βが設定される。
【0151】
まず、センサ22が付加質量15の変位、速度、及び加速度の少なくともいずれか1つの検出信号を状態量推定器23に出力し、状態量推定器23はセンサ22から入力された検出信号に基づいて付加質量15の設置点における建築物12に対する相対変位を推定し、推定結果を制御器24に出力する。
【0152】
次に、制御器24が以下の処理を実行する。
【0153】
1)入力された状態量推定器23の推定結果に基づいて、付加質量15の固有円振動数ωでの振動の状態を測定する。
【0154】
2)センサ21からの検出信号に基づいて状態量測定器23が推定した建築物12の振動の状態量を使用して、建築物12の2次モードの固有円振動数ωでの振動の状態を測定する。
【0155】
3)付加質量15の円振動数ωの振幅が0のときの時間を基準に、すなわち付加質量15の振動数成分である円振動数ωの振動の位相が0の時間を基準に、建築物12の振動の位相β’を算出する。
【0156】
4)前述の式(11),(12)に基づいて可変ダンパ17の係数励振の円振動数の最適値ωζ_optを算出する。付加質量15の振幅が増加するように擬似共振を作用させるためには擬似共振の円振動数を1次モードの固有円振動数ωと同じ振動数にする必要があるので、この値が最適値となる。可変ダンパ17の係数励振の円振動数が最適値ωζ_optに対してずれると、付加振動系(振動発電ダンパ11)の応答にうなり振動が生じ、可変ダンパ17における振動エネルギの消散の効率が低下する。なお、一般に主振動系である建築物12の振動が1次の固有円振動数ω以外に含む主成分が円振動数ωmainである場合、係数励振の円振動数の最適値ωζ_optは前述の式(12)’で表される。
【0157】
5)可変ダンパ17の係数励振の位相βは、付加質量15の円振動数ωでの振動振幅が増加するように、建築物12の共振振動数ωでの振動の位相β’を使用して前述の式(15)から算出する。
【0158】
6)直流成分ζconsは以下のように設定する。動吸振器の固有振動数の一般的な設計手法として定点理論が知られている。この定点理論によれば、構造物の1次モードの固有円振動数をω、動吸振器の固有円振動数をωTMD、動吸振器と1自由度系へ低次元化した構造物の質量比をμとすると、構造物の1次モードの振動に動吸振器を共振させる最適な条件は以下の式(16)で表される。
【0159】
【数30】

【0160】
かつ、直流成分ζconsは以下の式(17)に基づいて設定する。
【0161】
【数31】

【0162】
7)振動振幅αはζcons>αを満たす範囲内で振動振幅αを可能な限り大きな値に設定する。
【0163】
主振動系(建築物12)の振動に1次モードと2次モード以上の振動が含まれる場合に以上に設定した円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βで可変ダンパ17を係数励振すれば、主振動系の2次モード以上の振動を利用して可変ダンパ17が発生する減衰力fdampの振動成分に付加振動系の固有円振動数ωの周波数成分を含まれることができ、付加振動系(振動発電ダンパ11)を固有円振動数ωで擬似共振させることができる。この円振動数ωTMDでの擬似共振により付加振動系の1次モードの円振動数ωTMDでの付加振動系の振幅を増大させることができる。その結果、可変ダンパ17で高効率で主振動系の1次モードの振動エネルギを消散させることができる。また、主振動系の高次モードの振動を利用して付加振動系を擬似共振させているので、高次モードのエネルギが付加振動系に移動し、高次モードの振動の低減も同時に行うことができる。以上の理由により、効果的に主振動系の振動を低減できる。
【0164】
(第4実施形態)
図25に示す本発明の第4実施形態にかかる位相変換装置41は、同じ振動入力を利用して、同じ振動特性を有する構造物や機械を、位相をずらして振動させることができる。
【0165】
図25を参照すると、同じ振動特性を有する構造物である建築物12A,12Bが基礎としての地面13に建てられている。これらの建築物12A,12Bはパッシブ型のダンパ42によって互いに連結されている。位相変換装置41は、それぞれ建築物12A,12Bを地面13に連結する可変ダンパ17A,17B、これらの可変ダンパ17A,17Bの可変ダンパ駆動装置25A,25B、及び制御器24を備える。
【0166】
前述の式(5)より位相差βを伴う係数励振によって可変ダンパ17A,17Bが発生する減衰力fdampは以下の式(18)で表される。
【0167】
【数32】

【0168】
この式18から明らかなように、位相差βを伴う係数励振による減衰力fdampには位相差βの影響が直接現れており、この減衰力fdampに起因して発生する擬似共振やその他の振動にも同様の位相差が現れる。従って、可変ダンパ17A,17Bに対して個々の可変ダンパ駆動装置25A,25Bが、位相βのみが異なり、それ以外のパラメータ、すなわち円振動数ωζ、直流成分ζcons、及び振動振幅αを同一に設定した減衰比の係数励振(式(4)参照)を行えば、基礎(地面13)からの入力振動に対して2つの建築物12A,12Bを、位相差をつけて振動させることができる。具体的には、指令値として位相差θを制御器24に入力すると、制御器24は一方の可変ダンパ駆動装置25Aに可変ダンパ17Aを振幅α、円振動数ωζ、ζcons、及び位相β=0で係数励振するように指令し、他方の可変ダンパ駆動装置25Bに可変ダンパ17Bを振幅α、円振動数ωζ、ζcons、及び位相β=θで係数励振するように指令する。可変ダンパ駆動装置25A,25Bは指令に従って可変ダンパ17A,17Bを駆動する。
【0169】
特に、可変ダンパ駆動装置25A,25Bの係数励振の位相差θをπ(180°)に設定すれば、2つの建築物の擬似共振を含む種々の振動の位相差が逆位相となるので、建築物12A,12Bを連結するパッシブ型のダンパ42によって高効率で建築物12A,12Bの振動エネルギを消散させることができる。例えば、図25に示すように一方の可変ダンパ17Aの係数励振の位相を0に設定し、他方の可変ダンパ17Bの係数励振の位相をπに設定すればよい。
【0170】
なお、目的の振動数ωにおける建築物12A,12Bの振動に位相差をつける場合、個々の可変ダンパ17A,17Bの係数励振の円振動数ωζは基礎としての地面13からの入力振動の円振動数ωを用いて次式により設定すればよい。この場合、地面13からの入力振動の円振動数ωをセンサによって計測する必要がある。
【0171】
【数33】

【0172】
(第5実施形態)
式(5)及び図13に関して説明したように、基礎励振と係数励振の円振動数が同一の場合(ω=ωζ)、可変ダンパの発生する減衰力fdampに直流成分が存在するために原点からのオフセットが生じ(図6)、定常偏差を誘起できる。言い換えれば、入力振動数と減衰比の係数励振の振動数を等しく設定し、係数励振の位相を変化させることで定常偏差を生じさせることができる。図26は、この定常偏差を利用した位置制御装置51を示す。
【0173】
図26を参照すると、位置制御の対象である図において水平方向に移動可能な質量52(質量m、絶対変位x)は、並列配置された剛性kの弾性構造(ばね)53と可変ダンパ17によって基礎13に連結されている。位置制御装置51は、それぞれ基礎13と質量52に取り付けられたセンサ54,55を備える。これらのセンサ54,55は変位、速度、及び加速度のうち少なくともいずれか1つを検出できるものであればよい。また、位置制御装置51は、状態量推定器23、制御器24、及び可変ダンパ駆動装置25を備える。
【0174】
次に、本実施形態の位置制御装置51の動作を説明する。位置制御装置51は以下のステップ1〜7を実行する。
【0175】
ステップ1:質量52の絶対変位の目標値xa_tagが制御器24に入力される。
【0176】
ステップ2:センサ54が建築物12の変位、速度、及び加速度の少なくともいずれか1つの検出信号を状態量推定器23に出力する。
【0177】
ステップ3:状態量推定器23は、センサ54から入力された検出信号に基づいて、建築物12の振動の状態量を推定し、推定結果を制御器24に出力する。
【0178】
ステップ4:制御器24は、状態量推定器23から入力された状態量から基礎13から
質量52、弾性構造53、及び可変ダンパ17からなる振動系への入力振動(基礎励振)の円振動数ωを求める。
【0179】
ステップ5:制御器24が可変ダンパ17の係数励振の円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βを設定する。具体的には、円振動数ωζはステップ4で求めた入力振動の円振動数ωと同じ値に設定する。直流成分ζconsは任意の値に設定できる。振動振幅αは、ζcons>αを満たす範囲内で可能な限り大きな値に設定する。式(5)の右辺第2式第3項より明らかなように、減衰力fdampのうちの直流成分(ω/2)cosβに比例して質量52の定常偏差が生じる。すなわち、質量52の定常偏差xa_steadと減衰力fdampの直流成分は以下の式(19)に示す関係がある。
【0180】
【数34】

【0181】
この式(19)の関係を利用して質量m、剛性k等を加味して位相βを決定する。
【0182】
ステップ6:制御器24はステップ5で設定した円振動数ωζ、直流成分ζcons、振動振幅α、及び位相βで可変ダンパ17を係数励振させるよう可変ダンパ駆動装置25に指令する。可変ダンパ駆動装置25は指令に従って可変ダンパ17を駆動する。可変ダンパ17の係数励振により質量52に定常偏差が発生する。
【0183】
ステップ7:制御器24はセンサ54,55からの入力に基づいて現在の質量52の位置(絶対変位xを)を検出し、検出した現在位置xと目標値xa_tagを比較する。そして、現在位置xと目標値xa_tagの誤差に基づいて新たな目標値xa_tagを設定し、ステップ2に戻る。以後、ステップ2〜7が繰り返される。
【0184】
以上のように、本実施形態の位置制御装置51は、基礎13からの入力振動がある質量52、弾性構造53、及び可変ダンパ17を備える振動系において、可変ダンパ17の減衰比の係数励振により質量52の位置を制御できる。
【0185】
本発明における擬似共振と定常偏差は、実施形態として示したものに限定されず、種々の振動制御方法及び振動制御装置に応用できる。この応用には、圧電素子と可変抵抗やインダクタンスを利用したスマート構造への応用、第5実施形態以外の種々の振動系における位置決め制御への応用、アームの位置決め制御への応用、マイクロアクチュエータへの応用等がある。
【0186】
(理論的な解析)
前述の「シミュレーションとその結果の評価」の欄では、可変減衰機構の係数励振の作用によって固有振動数と異なる振動数域で,振動振幅を減少させるのではなく増加させ,擬似的共振を発生させることが可能であることを数値計算によって示した。以下、減衰係数励振による擬似的共振の誘起現象について理論的な解析を行う。具体的には、減衰係数励振を伴う振動系について、複素数表示を利用して周波数応答を解析する。
【0187】
(可変減衰比によって発生する振動成分)
前述の「基礎理論の詳細」の欄で示した式(3)の運動方程式を再度示す。
【0188】
【数35】

【0189】
この式(3)を整理すると、以下の式(3)'''が得られる。
【0190】
【数36】

【0191】
この式(3)'''の運動方程式において、以下の基礎入力z(t)が作用する問題を考える。
【0192】
【数37】

【0193】
また、以下に再度示す式(4)の可変減衰比が作用しているとする。
【0194】
【数38】

【0195】
ここで簡単化のために振幅をα=ζconsとし、式(4)を複素数表示すると、以下の式(20)のようになる。
【0196】
【数39】

【0197】
このとき式(3)'''の運動方程式の右辺第1項である可変減衰比と基礎入力の速度項の積は、以下の式(21)で表される。
【0198】
【数40】

【0199】
ここで、ω=ω−ωζ、ω=ω+ωζである。この式(21)は基礎入力が減衰比との作用で発生する振動成分であり、この成分を基にして振動系が定常振動を起こすことになる。
【0200】
(定常応答解の仮定と運動方程式への代入)
前述の「シミュレーションとその結果の評価」の欄で示したように新たに振動成分ω,ωが定常解に含まれることになるため、もとの入力振動成分ωを含めて以下の3つの式(22)〜(24)を式(3)'''の運動方程式における定常応答の解と仮定する。
【0201】
【数41】

【0202】
以上の3つの定常振動が発生した場合、式(3)'''の運動方程式の左辺第2項において、減衰比の係数励振によって次の3つの関係が得られる。
【0203】
はじめに式(22)より得られる項は、以下の式(25)となる。
【0204】
【数42】

【0205】
次に、式(23)により発生する項は、以下の式(26)となる。
【0206】
【数43】

【0207】
ここでω=ω−2ωζである。
【0208】
さらに、式(24)により発生する項は、以下の式(27)となる。
【0209】
【数44】

【0210】
ここでω=ω+2ωζである。
【0211】
このように式(26)と式(27)において、正弦波同士の積により新たに振動成分ω,ωの定常振動応答が得られる。これら振動成分と係数励振の積によってさらに新たな振動数成分が発生する。具体的にはnを整数としてω−nωζ,ω+nωζ(nは2以上の整数)で表現される振動成分が随時現れる。しかし、簡単のためにω,ωの項で打ち切り高次の項を無視して解析する。
【0212】
以上のようにして減衰比の係数励振によって発生する振動成分が求まった。係数励振の問題は線形系であることから重ね合わせが成り立つため振動成分毎に運動方程式に代入し、得られた式を整理する。式(3)'''の運動方程式において前述の振動成分のうち振動成分ωに関する項のみを考慮すると以下の式(28)を得る。
【0213】
【数45】

【0214】
また同様に、運動方程式(3)'''において振動成分ωに関する項のみを考慮すると以下の式(29)を得る。
【0215】
【数46】

【0216】
さらに、振動成分ωに関する項のみを考慮すると以下の式(30)を得る。
【0217】
【数47】

【0218】
以上の式を整理し、各振動成分毎の周波数応答を導出する。
【0219】
(ZからXまでの周波数応答)
式(29)よりX成分を取り出し,式(28)に代入して整理すると入力Zから出力Xまでの応答として以下の式(31)を得る。
【0220】
【数48】

【0221】
ここでW=1−ω+2iωζcons,W=1−ω+2iωζconsである。式(31)は振動数ωで基礎励振を受ける1自由度系の応答に係数励振によって発生する振動成分ωとωの影響がそれぞれ付加された形となっている。係数励振の影響は分母分子に同じ形で現れているため打ち消しあうことでそれほど顕著な影響はないといえる.そのため振動系の無次元固有振動数1において極大値を持つ通常の周波数応答とほぼ同じとなっている.この式によって描かれる周波数応答は入力と出力の振動数が一致しているため,一般的な周波数応答と同じ読み方ができる。
【0222】
(ZからXまでの周波数応答)
次に式(31)を式(16)に代入し整理すると入力Zから出力Xまでの応答として次式を得る。
【0223】
【数49】

【0224】
通常の共振は低減衰の場合には1−ω=1となる場合に発生する。式(32)には1−ωと1−ωの項が存在するため、ω=1と同じく|ω|=1と|ω|=1の場合についても考慮する必要がある。式(32)の分母分子をWで割ると以下の式(33)を得る。
【0225】
【数50】

【0226】
ここで数値計算の場合と同じく係数励振振動数がωζ>>1の場合について考える。このときω=1と|ω|=|ω−ωζ|=1の条件は得られるが、ωについては固有振動数をとる状況は存在しない。ここで始めに入力振動数がω=1の場合について考える。この場合、分子は減衰比の直流成分が存在するため小さな値となる。また分母の第1項はWに含まれるωζの影響で絶対値が大きくなる。分母の第2項のオーダーはωζにζconsを掛けたものであることから小さく、係数励振振動数ωζが大きな場合、WとWは同じような値となるため、分母の第3項のオーダーは第2項のそれと変わらないことから第1項の影響が支配的となる。結果として分母全体は分子と比較して大きな値を取ることになる。このことからこの入力振動数に対して振幅が大きくなることはない。
【0227】
次に|ω|=|ω−ωζ|=1となる入力振動数について考える。このときωとωζは近い値を取ることになる。式(33)において分子はωの成分が含まれている。これに対して分母は、Wには振動成分が含まれず2iζconsとなること、ζconsもW/Wも1より小さな値であり、第1項から第3項までのωが最大で2乗のオーダーとなる。これらのことから分母に対して分子のオーダーが大きく、周波数応答が大きくなることが分かる。すなわち数値解析において減衰係数励振によって固有振動数以外の振動数で共振のピークが現れたが、この入出力関係によって誘起される共振が表現できる。
【0228】
式(32)はこれ以外に次に挙げる二つの特徴がある。一つは分子にe−iβが存在していることである。βは減衰比の係数励振として与えた位相である。すなわち係数励振で設定した位相の影響を受けて応答の位相が全周波数帯域に渡って一様に変化することを意味している。もう一つは入力の振動数ωに対して出力の振動数はω=ω−ωζとなっていることである。これは横軸を入力振動数として一般的な周波数応答と同じ描き方をした場合、出力振動数は係数励振の振動数分だけずれた振動数の応答となっており、図示した場合にはその見方に注意を要する。
【0229】
(ZからXまでの周波数応答)
最後に式(31)を式(30)に代入し整理すると入力Zから出力Xまでの応答として以下の式(34)を得る。
【0230】
【数51】

【0231】
式(34)の分母分子をWで割ると以下の式(35)を得る。
【0232】
【数52】

【0233】
ここで係数励振振動数がωζ>>1の場合について考える。先の場合と同様にω=1と|ω|=|ω−ωζ|=1の場合のみを考える。ω=1について式(33)と同様に分子には減衰比の直流成分があるためその絶対値は小さくなる。分母の第1項はWに含まれるωζの影響で絶対値は大きい。第2・第3項は先と同じように第1項より小さなオーダーとなるためその影響は小さくなる。すなわち総合的に分子より分母の影響が強く、この振動数において振幅は大きくならない。また|ω|=|ω−ωζ|=1となる場合は、式(35)の分母第1項はωの項を含み、分子はωであることからこの振動数についてもその振幅は大きくならないことが分かる。
【0234】
式(35)の影響が強くなるのは次のような状況が考えられる。係数励振の振動数が固有振動数と比べて小さな場合、すなわちωζ<<1となる状況である。このとき固有振動数近辺の入力振動数で振動系で加振するとω、ω、ωが全て1に近い値を持つ。この状況で分子はζconsのオーダーとなり、分母はζconsのオーダーとなる。これによって応答振幅が大きくなる。またこのとき応答の振動数はω=ω+ωζであり、式(31)の応答振動数ωと非常に近くなるが微少な差があるため、両応答がうなりを起こし、非常にゆっくりとした大きな振幅が生じることになる。また式(33)とよく似ているが分子にeiβが存在していることから係数励振で設定した位相の影響を受けて応答の位相が全周波数帯域に渡って一様に変化する。位相の影響は式(33)とは逆となっている。
【0235】
(周波数応答曲線)
次に、数値解析で用いたパラメータを利用して式(31),(32),(34)の解析解より得られる周波数応答曲線を示す。すなわち、基礎励振の無次元振動数をω、またその振幅を1の入力とし、可変ダンパの係数励振の振動数ωζ、振動振幅α、直流成分ζcons及び位相βの各パラメータは以下の表4のように設定した。ここでは係数励振の位相βとして30度ずつ計6種類用意した。
【0236】
(式(31)の応答曲線)
はじめに式(31)より得られる周波数応答曲線を図27A,27Bに示す。図27Aが入出力の振幅比、図27Bがその位相差を表している。これらの図より入力振動数ωと同じ振動数成分である式(31)は、一般的な変位励振を受ける1自由度振動系の共振曲線にほぼ等しいことがわかる。さらに振動数4,6近辺においてゲインと位相両方に若干の変化が見て取れる。また、式(31)からもわかるように、これら応答には減衰の係数励振において与えた位相βによる影響はない。
【0237】
(式(32)の応答曲線)
図28A,28Bに式(32)より得られる周波数応答を示す。この応答は振動数ωの入力に対して振動数ω=ω−ωζを有する応答である。すなわち図28A,28Bにおいて横軸は入力振動数ωであるが、実際の応答はωとなっている。この例では係数励振振動数を5としていることから、応答の振動数は入力振動数が5のところで0となり、この点を基準に横軸の正負両側に応答振動数が増加していることになる。すなわち入力振動数が4および6のところで応答振動数は1となっており、図28Aからもわかるようにこれらの振動数で系の固有振動数と一致していることから振動振幅が増加している。この振幅値は図27Aの振動数ωの応答と比較して、同等の大きさを有していることがわかる。
【0238】
図28Bの位相曲線を見ると係数励振に与える位相βに依存して出力の位相が変化することがわかる。しかしながらゲインに関しては位相βによる影響はない。係数励振の位相βが図28Aの応答に与える影響について考えると、式(3)'''の右辺において可変減衰の影響を受ける入力2ζ(t){dz(t)/dt}の項において振動数ωに関する項は三角関数で表示すると−ωζconssin(ω−β)である。すなわちこの入力項に位相βが含まれており、係数励振によって入力の位相が自在に変更できることを示唆している。また、もとは余弦であった基礎変位zが係数励振の項では速度となり正弦に変わっていることから、図28Bにおいて係数励振の位相がβ=0の場合、振動数が0の位置の位相曲線が90度ずれた位置から始まっている。さらにこの入力は入力振動数ωに比例しているため、図28Aのゲイン曲線の二つの極大値のうち高い振動数側がより大きな値を持つ。また図28Bの位相曲線からその二つの極大値は同じ振動数ωの応答であるが位相は180度ずれていることがわかる。
【0239】
(式(34)の応答曲線)
図29A,29Bにより得られる周波数応答を示す。この応答は、入力の振動数がωであり、それに対して出力の振動数はω=ω+ωζとなっていることに注意する。すなわち図29Aの横軸は一般的な周波数応答曲線と同じ入力振動数となっているが、出力振動数は係数励振振動数分だけ加算された振動数である。式(34)を導出した際に述べたように、固有振動数より大きな振動数で減衰比を振動させた場合、出力となる応答は小さくなる。図29Aと図29Bのゲインを比較するとこのことは明らかである。この場合の応答解析においては振動数ωの影響はほとんどなく無視することができる。
【0240】
(応答の重ね合わせ)
対象とするシステムは線形システムであることから、以上の結果を重ね合わせができる。これによって入力振動数ωに対する応答を得ることができる。ここでは数値計算例と比較するため、ゲインに関する重ね合わせを行い、その結果を図示すると図30を得る。この図において太くて灰色の線は図6に示した数値解析による結果を、細くて黒い実線は解析によって得られた応答を示している。この図から明らかなように両者はほぼ一致している。振動数が9付近において数値解析で現れるピークが解析解には見られない。これは式(26),(27)において切り捨てた項の影響であり、2ωζ−ω=2×5−1=9の関係から数値解析では共振が得られたが、解析ではこの入力による定常応答を無視したことから結果には表れていない。以上のように、3つの応答を重ね合わせることで数値解析によって得られる結果とほぼ一致することが確認できた。つまり、本発明の手法により固有振動数以外で振動振幅の増加等が行い得ることを、数値解析と定常応答解析の両方から妥当であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0241】
【図1】1自由度で基礎励振として変位入力を受ける振動系のモデルを示す模式図。
【図2】減衰力の一部を構成する無次元円振動数が異なる2つの正弦波の波形を示すグラフ。
【図3】図2の2つの正弦波の積の波形を示すグラフ。
【図4】図3の波形の周波数分析の結果を示すグラフ。
【図5】減衰力の一部を構成する無次元円振動数が同一の2つの正弦波の波形を示すグラフ。
【図6】図5の2つの正弦波の積の波形を示すグラフ。
【図7】シミュレーションモデルを示すブロック図。
【図8】図7のシミュレーションモデルに入力される基礎励振の波形(ω=5)を示すグラフ。
【図9】図7のシミュレーションモデルに入力される可変ダンパの係数励振の波形(ωζ=6)を示すグラフ。
【図10】図9の係数励振による可変ダンパの減衰力の振動波形を示すグラフ。
【図11】図9のシミュレーションモデルの出力である質量の絶対変位の振動波形を示すグラフ。
【図12】基礎励振の無次元円振動数を一定(ω=5)とし、係数励振の無次元円振動数を変動(ωζ=5〜6)させた場合の質量の絶対変位の振動波形を示すグラフ。
【図13】基礎励振と係数励振の無次元円振動数が同一である場合(ω=ωζ=5)の、係数励振の異なる位相(β=0,π/2,π,3π/2)に対する質量の絶対変位の振動波形を示すグラフ。
【図14】基礎励振と係数励振の無次元円振動数が異なる場合(ω=5,ωζ=6)の、係数励振の異なる位相(β=0,π/2,π,3π/2)に対する質量の絶対変位の振動波形を示すグラフ。
【図15A】基礎励振の無次元円振動数が一定の場合(ω=5)の、係数励振の円振動数(ωζ=3〜7)と質量の振幅の最大値の関係を示すグラフ。
【図15B】基礎励振の無次元円振動数が一定の場合(ω=5)の、係数励振の円振動数(ωζ=0〜10)と質量の振幅の最大値の関係を示すグラフ。
【図16】種々の係数励振の振動振幅(α=0.05,0.1,0.25)における、係数励振の無次元円振動数と質量の振幅の最大値の関係を示すグラフ。
【図17】係数励起の直流成分と振動振幅を同時に変化させた場合のグラフ。
【図18】係数励振の無次元円振動数が一定の場合(ωζ=5)の、基礎励振の円振動数(ω=0〜10)と質量の振動の最大値の関係を示すグラフ。
【図19】減衰比が時不変の場合の共振曲線を示すグラフ。
【図20】本発明の第1実施形態にかかる振動発電ダンパを示す模式図。
【図21】4自由度係の周波数特性の一例を示すグラフ。
【図22】減衰比が時不変の場合の共振曲線の一部を示すグラフ。
【図23】本発明の第2実施形態にかかる振動発電ダンパを示す模式図。
【図24】本発明の第3実施形態にかかるセミアクティブ動吸振器を示す模式図。
【図25】本発明の第4実施形態にかかる位相変換装置を示す模式図。
【図26】本発明の第5実施形態にかかる位置制御装置を示す模式図。
【図27A】式(31)の周波数応答曲線(ゲイン)を示すグラフ。
【図27B】式(31)の周波数応答曲線(位相差)を示すグラフ。
【図28A】式(32)の周波数応答曲線(ゲイン)を示すグラフ。
【図28B】式(32)の周波数応答曲線(位相差)を示すグラフ。
【図29A】式(34)の周波数応答曲線(ゲイン)を示すグラフ。
【図29B】式(34)の周波数応答曲線(位相差)を示すグラフ。
【図30】式(31),(32),(34)の重ね合わせを行った場合の周期数応答曲線(ゲイン)を示すグラフ。
【符号の説明】
【0242】
1 質量
2 ばね
3 可変ダンパ
4 基礎
11 振動発電ダンパ
12,12A,12B 建築物
13 地面
15 付加質量
16 ばね
17,17A,17B 可変ダンパ
18 発電機
21,22 センサ
23 状態量推定器
24 制御器
25,25A,25B 可変ダンパ駆動装置
31 セミアクティブ動吸振器
41 位相変換装置
42 ダンパ
51 位置制御装置
52 質量
53 弾性構造
54,55 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量要素、ばね要素、及び可変減衰要素を備え、かつ外部からの励振を受ける振動系の振動を制御する方法であって、
前記可変減衰要素による減衰比を規則的に時間変化させることを特徴とする振動制御方法。
【請求項2】
前記減衰比の時間変化は以下の式で表される正弦波であることを特徴とする請求項1に記載の振動制御方法。
【数1】

【請求項3】
前記減衰比の時間変化の円振動数は、前記振動系自体の1次の共振円振動数よりも大きい前記外部からの励振の振動数に対し、以下の関係を満たすように設定していることを特徴とする、請求項2に記載の振動制御方法。
【数2】

【請求項4】
前記振動系は振動発電ダンパであることを特徴とする、請求項3に記載の振動制御方法。
【請求項5】
前記振動系は動吸振器であることを特徴とする、請求項3に記載の振動制御方法。
【請求項6】
前記減衰比の時間変化の円振動数は、前記振動系自体の1次の共振円振動数よりも大きい前記外部からの励振の振動数と等しく設定し、かつ前記位相を0及びπ以外の値に設定していることを特徴とする、請求項2に記載の振動制御方法。
【請求項7】
質量要素、ばね要素、及び可変減衰要素を備え、かつ多自由度系である主振動系からの励振を受ける付加振動系の振動を制御する振動制御装置であって、
少なくとも前記主振動系の振動状態を検出する検出手段と、
前記検出手段からの検出信号に基づいて前記可変減衰要素による減衰比を制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は前記可変減衰要素の減衰比を以下の式で定義される正弦波で制御可能であることを特徴とする振動制御装置。
【数3】

【請求項8】
前記付加振動系は発電機をさらに備え、
前記可変減衰要素による減衰比が初期値の場合の前記付加振動系の共振円振動数が、前記主振動系の1次モードの共振円振動数と一致し、
前記制御手段は、
前記検出手段の検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの共振円振動数であれば前記減衰要素の減衰比を前記初期値で維持し、
前記検出手段の検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの共振円振動数よりも大きい他の円振動数であれば、以下の式で定められる円振動数を有する正弦波で前記可変減衰要素の減衰比を時間変化させることを特徴とする、請求項7に記載の振動制御装置。
【数4】

【請求項9】
前記付加振動系は発電機をさらに備え、
前記可変減衰要素による減衰比が初期値の場合の前記付加振動系の共振円振動数が、前記主振動系の1次モードの共振円振動数と一致し、
前記制御手段は、
前記検出手段の検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの共振円振動数であれば前記減衰要素の減衰比を前記初期値で維持し、
前記検出手段の検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードに加えて2次以上のモードの共振円振動数を含んでいれば、前記可変減衰要素の減衰比を時間変化させ、減衰要素の減衰比の円振動数を以下の式で定義される最適値に設定し、
【数5】

かつ前記減衰比の位相を以下の式に基づいて設定することを特徴とする、請求項7に記載の振動制御装置。
【数6】

【請求項10】
前記可変減衰要素による減衰比が初期値の場合の前記付加振動系の固有円振動数が前記主振動系の1次モードの固有円振動数と一致し、
前記制御手段は、
前記検出手段からの検出信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が前記1次モードの固有円振動数であれば、前記減衰要素の減衰比を前記初期値で維持し、
前記検出手段からの信号に基づいて推定した前記主振動系の主振動成分が2次以上のモードの固有円振動数を含んでいれば、前記可変減衰要素の減衰比を時間変化させ、減衰要素の減衰比の円振動数を以下の式で定義される最適値に設定し、
【数7】

かつ前記減衰比の正弦波の直流成分を以下の式に基づいて設定することを特徴とする、請求項7に記載の振動制御装置。
【数8】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図28A】
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【図28B】
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【図29A】
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【図29B】
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【図30】
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【公開番号】特開2008−261328(P2008−261328A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53489(P2008−53489)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】