説明

振動型駆動装置

【課題】移動体の方向によらず、移動体の移動の負荷となることなく全ての振動子を移動させるための力の発生源とすることが可能となる振動型駆動装置を提供する。
【解決手段】複数の振動子のうち少なくとも2つの振動子を、楕円運動によって発生する力の方向が異なる位置に配置し、振動子の接触部材を介して接触している移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置であって、
複数の振動子は、楕円運動によって発生する力の方向と平行な回転軸を中心として回転可能に構成された回転手段を備え、
移動体の移動方向と回転軸とのなす角が所定の角度より大きい範囲に位置する振動子を回転手段によって傾いた状態とし、振動子に突き上げモードの振動を励振する一方、該なす角が所定の角度より小さい範囲に位置する振動子の楕円運動により移動体を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の振動子と接触している移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置に関する。特に、カメラや双眼鏡などの光学装置の手ぶれを補正する機構やテーブルへの適用に好適な振動型駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、特許文献1では、つぎのような駆動装置が提案されている。
すなわち、この駆動装置では、弾性体と電気−機械エネルギー変換素子とを組み合わせた複数の振動子と、前記複数の振動子を保持する固定部と、前記複数の振動子と接触して異なる複数の方向に摩擦駆動される移動体とを備える。
そして、これらにより複数の振動子と接触している移動体を異なる複数の方向に移動させることが可能に構成されている。
このような駆動装置について、図18を用いて具体的に説明する。
図18(a)において、振動子101〜103はそれぞれ異なる方向(矢印M11〜M13)に駆動力を発生させて移動体104を移動させる。
これら駆動力が力ベクトルの合成として前記移動体104に作用することにより、図18(b)の矢印Msの方向に前記移動体104が移動する。
図18では矢印Msの方向に移動するように矢印M11〜M13の方向に各振動子に駆動力を発生させている例であるが、移動体の移動方向は各振動子が励振する駆動力による力ベクトルの合成により任意の方向に移動させることが可能である。
また、特許文献2では、複数の振動子を用いて異なる複数の方向に駆動が可能な位置決め装置及び負荷の低減方法が提案されている。
この特許文献2では、振動子を複数用いて移動体を多方向に駆動させる際、つぎのようにして振動子の負荷を低減するようにしている。
移動体を動かすための複数の振動子の少なくとも一つには移動体の表面に平行な力を与え、それ以外の少なくとも一つには移動体の表面に垂直な振動(突上げモードの振動)のみを行うように、これらを同時に制御することで負荷を低減するようにしている。
また、垂直な振動の周期を制御し、平行な力が移動体にかかるときは垂直な振動を行う振動子が移動体から離れるようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−225503号公報
【特許文献2】特表2007−524339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記した従来例である特許文献1のものにおいては、移動体を移動させる方向に力を作用させている振動子に対して、例えば直交する方向に配された移動体に力を作用させていない振動子が移動体と接触していると、移動体の移動に対する負荷となる。
これに対して、特許文献2のものでは、移動体を動かすため移動体の表面に平行な力を与えている振動子以外のものは、移動体の表面に垂直な振動のみを与えることで、移動の負荷の軽減が図られている。
しかしながら、該移動体に与えられる垂直な振動だけでは振動子と移動体との間が完全な非接触状態とすることはできないことから、負荷を全て除去することは困難である。また、移動体の表面に垂直な振動のみを与えるタイミングを制御し、移動体表面に平行な力が加わる時、移動体の表面に垂直な振動を与える振動子が移動体と非接触状態となるようにした特許文献2の実施例の構成でも、常に非接触状態を保つことは困難である。
すなわち、このような構成では移動体と振動子との接触状態が接触面の形状、振動子の振動振幅、移動体の質量、移動体と振動子との接触面の剛性、等に依存すると考えられ、常に非接触状態を保つようにすることは困難である。
したがって、特許文献2のものにおいても、移動体の表面に垂直な振動を与える振動子と移動体との接触によって、移動体の移動の負荷となるという課題を有している。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、複数の振動子と接触している移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置を構成するに当たり、
移動体の方向によらず、移動体の移動の負荷となることなく全ての振動子を移動させるための力の発生源とすることが可能となる振動型駆動装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の振動型駆動装置は、少なくとも電気−機械エネルギー変換素子と接触部材とを有し、
前記接触部材を前記電気−機械エネルギー変換素子の面に平行な方向に変位させる振動を主とする送りモードの振動と、前記接触部材を前記電気−機械エネルギー変換素子の面に垂直な方向に変位させる振動を主とする突き上げモードの振動との合成によって、
前記接触部材に楕円運動が生成可能に構成された振動子を複数備え、
前記複数の振動子のうち少なくとも2つの振動子を、前記楕円運動によって発生する力の方向が異なる位置に配置し、該楕円運動により該振動子の接触部材を介して接触している移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置であって、
前記複数の振動子は、前記楕円運動によって発生する力の方向と平行な回転軸を中心として回転可能に構成された回転手段を備え、
前記移動体の移動方向と前記回転軸とのなす角が所定の角度より大きい範囲に位置する振動子を前記回転手段によって傾いた状態とし、該振動子に突き上げモードの振動を励振する一方、
前記移動体の移動方向と前記回転軸とのなす角が所定の角度より小さい範囲に位置する振動子の楕円運動により前記移動体を移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数の振動子と接触している移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置を構成するに当たり、
移動体の方向によらず、移動体の移動の負荷となることなく全ての振動子を移動させるための力の発生源とすることが可能となる振動型駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1における移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置の振動子の配置とベース部を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における振動型駆動装置の振動子と保持部の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における振動型駆動装置の振動子保持部の回転状態を示す図である。
【図4】本発明の実施例1における振動型駆動装置の移動体の移動方向と振動子の回転との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例2における振動型駆動装置の振動子と保持部の構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における振動型駆動装置の振動子保持部の回転状態を示す図である。
【図7】本発明の実施例3における振動型駆動装置の振動子の配置とベース部を示す図である。
【図8】本発明の実施例3における振動型駆動装置の振動子と保持部の構成を示す図である。
【図9】(a)は本発明の実施例3における振動型駆動装置の振動子保持部の回転状態を示す図であり、(b)は振動子保持部の回転中心の望ましい位置を説明する図である。
【図10】本発明の実施例4における振動型駆動装置の振動子の配置とベース部を示す図である。
【図11】本発明の実施例4における振動型駆動装置の振動子と保持部の構成を示す図である。
【図12】本発明の実施例4における振動型駆動装置の保持部の構成を示す図である。
【図13】本発明の実施例5における振動型駆動装置の振動子と保持部の構成を示す図である。
【図14】本発明の実施例5における振動型駆動装置の振動子保持部の回転を示す図である。
【図15】本発明の実施例6における振動型駆動装置の振動子の配置とベース部を示す図である。
【図16】本発明の実施例6における振動型駆動装置の移動体の移動方向と振動子の回転との関係を説明する図である。
【図17】図14(a)は本発明における振動子の基本構成を説明する図であり、図14(b)は本発明における二つの曲げ振動モードによる異なる定在波振動の合成により楕円運動を発生させる原理について説明する図である。
【図18】特許文献1における移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置の駆動原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0010】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置の構成例について、図1、図2を用いて説明する。
なお、図2(a)は本実施例における振動子とその保持部を示す斜視図、図2(b)は本実施例における振動子とその保持部を側面から見た図である。
図1において、振動子1−a、1−b、1−c、1−dは本実施例において複数備えられた振動子である。また、6は前記振動子1を固定する振動子支持部、2は前記振動子支持部6を支持するベース部である。
図2において、振動子1は弾性板3、電気−機械エネルギー変換素子4、突起部5とからなる。前記振動子1は振動子保持部6に固定され、前記振動子保持部6はシャフト7を介して前記シャフト7を軸として回転可能な状態で前記ベース部2に支持されている。
ここで、振動子の駆動基本構成を簡単に説明する。図17(a)は本実施例に搭載の物と同等の振動子の基本構成を示した図である。
本実施例では突起部が一つであるが駆動原理は同等であり、図17(a)のように複数の突起を配置しても良く、また接触部材を構成するものであればこのような突起部に限られるものではない。
なお、これらの駆動方法については、例えば特開2004−320846号公報などに詳細に記載されている。
【0011】
ここで、二つの曲げ振動モードによる異なる定在波振動の合成により楕円運動を生成可能とする原理について説明する。
図17(b−1)、(b−2)は振動子の異なる定在波振動による二つの曲げ振動モードを表した図である。
図17(b−1)における振動モードは、二つの曲げ振動モードのうち一方の曲げ振動モード(送りモードとする)を表している。
この送りモードは、矩形の振動子106の長辺方向(矢印X方向)における二次の屈曲運動であり、短辺方向(矢印Y方向)と平行な3本の節を有している。
ここで、突起部108は送りモードの振動で節となる位置の近傍に配置されており、送りモードの振動により矢印X方向(=電気−機械エネルギー変換素子が弾性体に接合された面と平行な方向)で往復運動を行う。
また、図17(b−2)に示す振動モードは二つの曲げ振動モードの内他方の曲げ振動モード(突上げモードと呼ぶ)を表している。
この突上げモードは、矩形の振動子106の短辺方向(矢印Y方向)における一次の屈曲振動であり、長辺方向(矢印X方向)と平行な2本の節を有している。ここで、送りモードにおける節と突上げモードにおける節は、XY平面内において略直交するようになっている。
また、突起部108は突上げモードの振動で腹となる位置の近傍に配置されており、突上げモードの振動により矢印Z方向(=電気−機械エネルギー変換素子が弾性体に接合された面と垂直な方向)に往復運動を行う。
上述した送りモードと突上げモードの振動を所定の位相差で発生させることにより、突起部108の先端にこれらの異なる定在波振動の合成により楕円運動を発生させる。そして、図17(b−1)の矢印X方向(=電気−機械エネルギー変換素子が接合された面と平行な方向)の駆動力を与えている。
【0012】
図3(a)において、移動体14が矢印Aの方向に動くとき、前記振動子1と前記振動子保持部6は前記突起部5と前記移動体14との接触面に生じる摩擦力により前記シャフト7を軸に回転し傾いた状態となる。そして、振動子が傾いた状態で前記振動子1に前述の突上げモードの振動(矢印Bの方向)を発生させる。
このとき、図3(b)に示すように前記突起部5に矢印Bの方向に駆動力が励振される。そして、さらに励振された駆動力は前記移動体14の表面に垂直な方向(矢印Cの方向)の力ベクトルと、前記移動体14の表面と平行な方向(矢印Dの方向)の力ベクトルと、に分解される。
これらの力ベクトルのうち、前記移動体14の表面に垂直な方向の力ベクトルは駆動力としては寄与せず前記移動体14の表面と平行な方向の力ベクトルが駆動力として前記移動体14を矢印A方向に駆動する力として前記移動体14に作用する。
以上のように、前記振動子1が回転し傾いた状態で前記振動子1に突上げ振動を励振すると図3(b)の矢印Aの方向に前記移動体14に駆動力を与えることができる。
【0013】
このとき、前記突起部5と前記移動体14との接触状態を安定させるため前記突起部5の先端を円弧形状とし、その曲率半径が前記シャフト7の中心から前記突起部5の先端までの距離以下であることが望ましい。
このようにすることで前記振動子1が回転した時に前記突起部5と前記移動体14との接触部が前記移動体14の接触面よりも振動子側に変位するため、前記子振動子1が回転した時に前記突起部5が前記移動体14に沈み込んで負荷となってしまうことが無くなる。
さらに、曲率半径を前記シャフト7の中心から前記突起部5の先端までの距離に等しくすると、前記振動子1が回転したときに前記突起部5と前記移動体14との接触面と、前記シャフト7の中心との間の距離が変わらない。そのため、一定の接触状態を維持でき、安定した駆動力が得られる。
【0014】
また、前記シャフト7と移動体の移動方向とが直交するときだけ回転するようにすると、図1の全ての振動子1−a〜1−dが回転せずに突起部に楕円運動を励振する状態が存在する。
その状態では、従来例のように突上げ振動のみで負荷低減を狙う時と同様に少なくとも一つの振動子が負荷となる。
そこで、図4(a)において後述する方法で移動体(非図示)が前記ベース部2の中心から見て移動体の移動方向と振動子1−b、1−dの回転軸との成す角度が45°以上となる範囲(斜線部)を移動体が移動するときに、つぎのような駆動方法を採る。
すなわち、振動子1−bと振動子1−dを回転させて前記振動子1−bと1−dとの夫々の突起部に突上げ振動を励振させる一方、振動子1−aと振動子1−cを回転させずに夫々の突起部に楕円運動を励振させる。
この状態においては、前記移動体が前記斜線部の方向に移動するときに回転した前記振動子1−bと前記振動子1−dが前記移動体に駆動力として作用するため前記振動子1−bと1−dが移動の負荷とならない。
斜線部でない方向に移動するときは前記振動子1−a、1−cを回転させて夫々の突起部に突上げ振動を励振させ、前記振動子1−b、1−dを回転させずに夫々の突起部に楕円運動を励振させる。
【0015】
ここで、45°以上が望ましい理由について述べる。
図4(b)は移動体の移動方向と振動子の回転軸とのなす角度と、各振動子が移動体に与える駆動力との関係を示している。
縦軸は、振動子が移動体に最も大きな力を与えられる時を1としてプロットしている。
曲線L1は移動体に与えられる振動子突起部の楕円運動による駆動力(以下、P1とする)、曲線L2は移動体に与えられる前述の回転した振動子突起部の突上げ振動による駆動力(以下、P2とする)を示している。
曲線L3はL2と同様に移動体に与えられる回転した振動子突起部の突上げ振動による駆動力(以下、P3とする)で、P3<P2の時の違いを示している。
図4(b)のように、P1は移動体の移動方向と振動子回転軸とのなす角度が0°のとき最大となり、P2は移動体の移動方向と振動子回転軸とのなす角度が90°のときが最大となっている。
これらの力が釣り合うのは移動体の移動方向と振動子回転軸とのなす角度が45°のときであり、このときは45°のときに振動子を傾けて駆動方法を切り替えると振動子の駆動力を最大限生かすことができる。
なお、実際の振動子の突上げ振動による駆動力は楕円運動による駆動力以下である。そのため、曲線L1と曲線L3との交点のように移動体の移動方向と振動子回転軸とのなす角度が45°以上のところで楕円運動による駆動力と突上げ振動による駆動力とを切り替えるのが最適である。
【0016】
以上のことから、移動体の移動方向と振動子回転軸とのなす角度が45°以上のとき振動子を回転させることが望ましい。
【0017】
図4の斜線部の範囲で振動子を傾ける方法として、前記シャフト7とベース部2との間に粘性などを設けることで、所定の摩擦力以上の力で振動子が回転するようにして傾くか否かを設定することができる。
また、前記シャフト7とベース部2との間に粘性を持たせることで傾き量を調整することができる。
また、前記シャフト7と前記ベース部2との接続部に他のアクチュエータを配置して他のアクチュエータの駆動力で傾くようにしてもよい。
【0018】
[実施例2]
実施例2として、実施例1と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について図5を用いて説明する。
実施例1では回転軸を振動子の突起が設けられている振動子の面側の反対側の面側に設けられているのに対し、本実施例では、回転軸を振動子の突起を設けた面と同じ側に来るように構成されている。
なお、図5(a)は本実施例における振動子とその保持部を示す斜視図、図5(b)は本実施例における振動子とその保持部を側面から見た図である。
図5において、振動子1は弾性板3、電気−機械エネルギー変換素子4、突起部5からなる。前記振動子1は振動子保持部8に固定され、前記保持部8はシャフト9を介して前記ベース部2に接続されている。
複数の振動子の配置は実施例1と同じく図1のように配置されている。
【0019】
図6において、移動体14が矢印Aの方向に動くとき、前記振動子1と前記保持部6は前記突起部5と前記移動体14との接触面に生じる摩擦力によりシャフト9を軸として回転し傾いた状態となる。
さらに振動子が傾いた状態において振動子1に前述の突上げモードの振動を発生させることにより前記突起部5に矢印Bの方向の振動が発生し、この振動がきつつきのように前記移動体14を叩くことにより矢印Aの方向に駆動力を与えることが可能となる。
実施例1と同様に前記突起部5の先端を円弧形状とすることが望ましい。
【0020】
本実施例においても、実施例1と同様に前記シャフト9と前記ベース部との間に粘性を設けるなどして駆動軸と移動体の移動方向との成す鋭角が45°より大きい時振動子が傾くようにするのが望ましい。
また、実施例1と同様振動子を傾けるためのアクチュエータを別途配置しても良い。
実施例1では回転軸を振動子の突起が設けられている振動子の面側の反対側の面側に設けられているため、回転したときの突起部の変位量が大きくなってしまい回転したときの接触状態が変化し易い。
これに対して、本実施例では回転軸を振動子の突起を設けた面と同じ側に来るようにしているため、突起部の変位量を小さくすることができ、また薄型化が可能となる。
【0021】
[実施例3]
実施例3として、上記各実施例と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について図7、図8を用いて説明する。
なお、図8(a)は本実施例における振動子とその保持部を示す斜視図、図8(b)は本実施例における振動子とその保持部を側面から見た図である。
図7において、振動子1−a、1−b、1−c、1−dは本発明における振動子、10は前記振動子を保持する振動子保持ユニット、2は前記振動子保持ユニットを固定するベース部である。
【0022】
図8において、振動子1は弾性板3、電気−機械エネルギー変換素子4、突起部5からなる。前記振動子1は振動子保持ユニット10に固定されている。
前記振動子保持ユニット10は前記振動子1を支持する面と反対側の面が円弧形状となっている振動子固定部11と、前記振動子固定部11を円弧状の面で支持する支持部材12とからなり、前記支持部材12がベース部2に固定されている。
前記振動子固定部11の前記支持部材12との接触面近傍には磁石15が接合され、前記支持部材12の内部にはコイル16、17が固定されている。
移動体の移動方向に応じて前記コイル16またはコイル17のどちらか一方に電流を流すことで磁気力が発生し、前記振動子1及び前記振動子1を固定する振動子固定部11が回転軸13を中心として回転するようになっている。
本実施例では磁石とコイルを利用して振動子を回転させる駆動源としているが、サーボモータ等、他のアクチュエータを用いて振動子を傾けてもよい。
【0023】
図9(a)において、移動体14が矢印Aの方向に動くとき、前記振動子1と前記振動子固定部材11はアクチュエータにより回転し傾いた状態となる。
さらに、振動子が傾いた状態において振動子1に前述の突上げモードの振動を発生させることにより突起部5に矢印Bの方向の振動が発生する。そして、この振動が実施例1と同様に、きつつきのように前記移動体14を叩くことにより矢印Aの方向に駆動力を与えることが可能となる。
本実施例においても、実施例1と同様に駆動軸と移動体の移動方向との成す鋭角が45°より大きい時に振動子が傾くようにするのが望ましく、本実施例では移動方向に応じたコイルに流す電流量の制御で実現可能となる。
【0024】
実施例1、2では回転軸となるシャフト部材を振動子保持部に設けてありシャフト部材の大きさのため、駆動に干渉しない回転軸の位置に限界がある。
これに対して、本実施例では回転軸が前記振動子固定部11の前記振動子1を保持する面と反対側に設けられた円弧の曲率半径で決まる。そのため回転軸の中心の自由度が高く、前記突起部5と前記移動体14との接触面により近いところまで持っていけるため接触状態の安定性をより高められる。
また、回転にアクチュエータを用いるため確実に所定の角度に変更させることができる。しかし、回転軸の位置決めには注意が必要である。
【0025】
図9(b)は突起部5と移動体14との接触面を回転軸として振動子が回転した図である。
前記突起部5と前記移動体14との接触面を回転軸とすると、前記突起部5の端部が前記移動体14の表面に沈み込んでしまうという問題があり、回転軸が前記接触面よりも移動体側にあるときは更に沈み込みが大きくなる。
以上のように、振動子の回転軸は突起部と移動体との接触面よりも振動子側にあることが望ましい。
【0026】
[実施例4]
実施例4として、上記各実施例と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について図10、図11を用いて説明する。
なお、図11(a)は本実施例における振動子とその保持部を示す斜視図、図11(b)は本実施例における振動子とその保持部を側面から見た図である。
図10において、振動子1−a、1−b、1−c、1−dは本発明における振動子、18は前記振動子を保持する振動子保持部、2はベース部であり、前記振動子保持部18はバネ19を介して前記ベース部2に接続されている。
図11において、振動子1は弾性板3、電気−機械エネルギー変換素子4、突起部5からなる。前記振動子1は前記振動子保持部18に固定されている。
前記振動子保持部18はバネ19を介してベース部2に接続されている。
【0027】
図12において、前記バネ19は前記ベース2に接続される回転用梁部20と、前記振動子保持部18に接続される振動子保持用梁部21とを設けてある。前記回転用梁部20は、前記振動子保持用梁部21よりも幅を狭く、且つ厚みを薄くしてあるため、前記突起部5の楕円運動により発生する力の方向と平行な軸方向を中心とする回転は容易に起こるが、前記力の方向と垂直な軸方向を中心とする回転は起こらない。振動子が回転した状態の駆動方式は他の実施例と同様である。
本実施例においても、実施例1と同様に駆動軸と移動体の移動方向との成す鋭角が45°より大きい時振動子が傾くようにするのが望ましく、バネ剛性の調整で振動子が傾くか否かを設定することが可能となる。
実施例1〜3では回転用の部材としてシャフトやステージなどの厚みがあるものを用いているため大きくなるが、本実施例では回転部に厚みの薄いバネを用いているため薄型・小型化が可能となる。
【0028】
[実施例5]
実施例5として、上記各実施例と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について図13を用いて説明する。
図13は本実施例における振動子と駆動源を側面から見た図である。
図13において、振動子1は弾性体3、電気−機械エネルギー変換素子4、突起部5からなる。
前記振動子1は 磁性体からなる振動子保持部22に保持されている。前記振動子保持部22はシャフト23を介して固定部2に接続されており、前記シャフト23はバネ性を持っており図17(a)に示す中立の状態に復帰するようになっている。
前記振動子保持部22の前記振動子1を保持する面と反対側の面の近傍に電磁石24、25が配置されている。
前記電磁石24か25のどちらかに電流を流すことにより、電磁石に磁力が発生し、図14のように前記振動子保持部22が前記電磁石25に吸引され、前記シャフト23を中心に回転し前記電磁石25に接触した状態で固定される。本実施例では電磁石を用いているが、回転後の振動子を固定部に接触させて維持する形態であれば駆動源は静電力やアクチュエータなどでも良い。また、シャフトの変わりにバネを用いても良い。
駆動時の挙動、移動体の方向と傾きに関しては他の実施例に準ずる。
実施例1〜4では回転後の振動子の姿勢維持が難しいが、本実施例では物理的にストッパーがかかるため、回転後の姿勢維持が容易となる。
【0029】
[実施例6]
実施例6として、上記各実施例と異なる形態の振動型駆動装置の構成例について図15を用いて説明する。
図15において、振動子1−A、1−B、1−Cは本発明における振動子、26は前記振動子を保持する振動子保持部、27は3軸用ベース部である。
前記振動子保持部26は前記振動子1を回転する機構をもっており、その機構は実施例1−5にあげた機構の何れか一つと同一である。
図16において、回転軸と移動体の移動方向との成す鋭角が45°より大きい時、例えばベース部の中心から見た移動体(非図示)の移動方向が実線の描かれたエリアの方向に移動される時は前記振動子1−Aが回転する。
同様に、2点鎖線の描かれたエリアに移動体が移動される時は前記振動子1−Bが、1点鎖線の描かれたエリアに移動体が移動される時は前記振動子1−Cが回転する。
二つのエリアが重なる部分では該当する二つの振動子が回転するようになっている。
以上のようにすると、振動子が三つの時でも他の実施例と同様に移動体の移動方向と回転軸との成す角が45°より大きいときに振動子が回転するようにすることが可能となる。
移動体が移動した時の振動子の回転や挙動は実施例1−5の時と同様である。
実施例1−5では振動子が4つあるため消費電力が大きくなってしまうが、本実施例では振動子が三つであるため消費電力を押さえることが可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1:振動子
2:ベース部
3:弾性板
4:電気−機械エネルギー変換素子
5:突起部
6:振動子保持部
7:シャフト
8:振動子保持部
9:シャフト
10:振動子保持ユニット
11:振動子固定部
12:支持部材
13:実施例3の機構の回転軸
14:移動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも電気−機械エネルギー変換素子と接触部材とを有し、
前記接触部材を前記電気−機械エネルギー変換素子の面に平行な方向に変位させる振動を主とする送りモードの振動と、前記接触部材を前記電気−機械エネルギー変換素子の面に垂直な方向に変位させる振動を主とする突き上げモードの振動との合成によって、
前記接触部材に楕円運動が生成可能に構成された振動子を複数備え、
前記複数の振動子のうち少なくとも2つの振動子を、前記楕円運動によって発生する力の方向が異なる位置に配置し、該楕円運動により該振動子の接触部材を介して接触している移動体を異なる複数の方向に移動させる振動型駆動装置であって、
前記複数の振動子は、前記楕円運動によって発生する力の方向と平行な回転軸を中心として回転可能に構成された回転手段を備え、
前記移動体の移動方向と前記回転軸とのなす角が所定の角度より大きい範囲に位置する振動子を前記回転手段によって傾いた状態とし、該振動子に突き上げモードの振動を励振する一方、
前記移動体の移動方向と前記回転軸とのなす角が所定の角度より小さい範囲に位置する振動子の楕円運動により前記移動体を移動させることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
前記移動体の移動方向と前記回転軸とのなす角が、45°より大きい範囲に位置する振動子を前記回転手段によって傾いた状態とし、該振動子に突き上げモードの振動を励振することを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記回転手段は、前記移動体と前記振動子の接触部材との間の摩擦力によって、前記回転軸が回転可能に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記回転手段は、前記回転軸を駆動する駆動手段によって、前記回転軸が回転可能に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記振動子の接触部材は、先端が円弧形状に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記振動子の回転軸は、前記接触部材と前記移動体との接触面よりも振動子側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。
【請求項7】
前記円弧形状の曲率半径は、前記回転軸から前記接触部材までの距離以下の大きさとされていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の振動型駆動装置。
【請求項8】
前記円弧形状の曲率半径は、前記回転軸から前記接触部材までの距離と等しい大きさとされていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の振動型駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−200085(P2011−200085A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67003(P2010−67003)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】