説明

振動波モータの駆動方法及び駆動装置

【課題】振動波モータの実際の回転速度と目標回転速度の回転速度差に応じて、振動波モータに供給する交流電圧の周波数を適切に制御する振動波モータの駆動方法を提供する。
【解決手段】交流電圧により振動体401に振動を発生させて移動体403を駆動する振動波モータ101を、移動体403の目標回転速度Nobjnを設定し、交流電圧の周波数更新量Δfnに対する移動体403の回転速度の増減量ΔNnの割合Tnを求め、目標回転速度Nobjnと移動体403の実際の回転速度Nnとの回転速度差Nobjn−Nnを求め、回転速度差Nobjn−Nnを割合Tnで除することにより周波数更新量Δfnを求め、周波数更新量Δfnを用いて交流電圧の周波数fnを更新する処理を行うことにより、駆動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械エネルギ変換素子により振動体に進行性振動を形成させ、振動体と振動体に接触させた移動体とを相対移動させる振動波モータの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電気−機械エネルギ変換素子により弾性体に振動を形成させ、この弾性体と接触させた移動体(回転体)を駆動する、所謂、振動波モータは、低速度で大きな駆動力(トルク)が取り出せるアクチュエータとして用いられている。
【0003】
例えば、所謂、進行波型の振動波モータは、弾性体に進行性の振動波を励起し、これに加圧接触した移動体を連続的に駆動する。このような振動波モータでは移動体の滑らかな駆動が可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示された振動波モータでは、振動体が円環形状の弾性体を用いて構成されている。この弾性体の軸方向一方の側には、くし歯状の突起群が形成されており、この突起群の上面には、摩擦材料が接着剤等を用いて固着されている。また、弾性体の軸方向他方の側には、電気−機械エネルギ変換素子として円環状の圧電素子が接着剤等を用いて固着されており、圧電素子にはパターン電極が形成されている。
【0005】
圧電素子に形成されたパターン電極は、振動体の円環部に励起する振動モードの次数に対応して、次数の四倍の数に等分割されており、各電極には、順に90°ずつ時間位相のずれた略サイン波形状の交流電圧が供給される。
【0006】
励起する振動モードの固有振動数付近の周波数で交流電圧を各電極に供給すると、圧電素子の伸縮により弾性体に加わる曲げモーメントによって弾性体が共振する。90°ずつ時間位相のずれた交流電圧に対してそれぞれ励起される振動(モード)は、同形状で、かつ、位相が異なるため、その合成によって進行性振動波(進行波)が形成される。
【0007】
このような進行波型の振動波モータを駆動するための駆動回路について、種々、提案されている(例えば、特許文献2参照)。図7は振動波モータを駆動するための駆動回路の概略構成を示す図であり、特許文献2に開示されている。この駆動回路では、MOSFET22〜29で構成されたスイッチング回路を、不図示のパルス発生回路で発生したパルスでオン・オフ制御することにより、センタータップ付きのトランス30,31に交流電圧を発生させる。これにより、2次側に接続されたA(+)、B(+)、A(−)、B(−)相に対応する端子32〜35に、順に90°ずつ時間位相のずれた交流電圧が供給される。
【0008】
このような駆動回路による振動波モータの速度制御は、入力信号である交流電圧の周波数を制御することによって行われるのが一般的である。図8は、交流電圧の周波数と振動波モータの回転速度の関係を表す特性図である。図8において、横軸は交流電圧の周波数であり、右に行くほど周波数は高くなる。縦軸は振動波モータの回転速度(駆動速度)であり、上に行くほど回転速度は高くなる。
【0009】
振動波モータの駆動は、一般的に次のようにして行われる。すなわち、最初に交流電圧の周波数を振動波モータの共振周波数frよりも十分に高い値に設定して、振動波モータを起動させる。続いて、交流電圧の周波数を徐々に共振周波数frに近づける(周波数を低くする)ことにより振動波モータを加速させ、その後、周波数を徐々に共振周波数から遠ざける(周波数を高くする)ことにより、振動波モータを減速させる。ここで、振動波モータを加速させる際には、交流電圧の周波数が共振周波数frを下回ると、振動波モータの速度が急激に低下するため、この周波数は共振周波数frを下回らない範囲に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−157473号公報
【特許文献2】特開2002−176788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、図8からわかるように、振動波モータに供給する交流電圧の周波数と振動波モータの回転速度とは非線形の関係となっている。また、図8に示す周波数−回転速度特性は、振動波モータの個体差によって変化するだけでなく、振動波モータにかかる負荷変動や振動波モータの温度変化によっても変化する。そのため、ある時点での振動波モータの実際の回転速度とその時点での目標回転速度との差分(以下「回転速度差」という)を求めたとしても、この回転速度差から一義的に設定すべき周波数を決定することは難しい。
【0012】
本発明の目的は、周波数−回転速度特性を予め記憶しておかなくとも、振動波モータの実際の回転速度と目標回転速度との回転速度差に応じて振動波モータに供給する交流電圧の周波数を適切に制御することができる振動波モータの駆動方法を提供することにある。また、本発明の目的は、この振動波モータの駆動方法を実行する駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の振動波モータの駆動方法は、振動体に固着された電気−機械エネルギ変換素子に交流電圧を供給して前記振動体に振動を発生させることにより前記振動体に接触する移動体を駆動する振動波モータの駆動方法であって、前記移動体の目標回転速度を設定する設定ステップと、前記交流電圧の周波数更新量に対する前記移動体の回転速度の増減量の割合を求める割合計算ステップと、前記目標回転速度と前記移動体の実際の回転速度との回転速度差を求める速度差計算ステップと、前記速度差計算ステップで求めた前記回転速度差を、前記割合計算ステップで求めた前記割合で除することにより、前記周波数更新量を求める周波数更新量計算ステップと、前記周波数更新量計算ステップで求めた前記周波数更新量を用いて、前記交流電圧の周波数を更新する周波数更新ステップと、を有することを特徴とする。
【0014】
請求項2記載の振動波モータの駆動方法は、請求項1記載の振動波モータの駆動方法において、前記周波数更新量計算ステップにおいて、前記速度差計算ステップで求めた前記回転速度差に定数を乗することを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の振動波モータの駆動方法は、請求項1記載の振動波モータの駆動方法において、前記周波数更新ステップによって更新された周波数により前記移動体の回転速度が飽和するまで待機する待機ステップと、前記待機ステップにおいて飽和した前記移動体の回転速度を検出する速度検出ステップと、を更に有し、前記周波数更新ステップの前後の各周波数で回転速度が飽和することにより前記回転速度検出ステップで検出された前記振動波モータの前記回転速度の差を、前記割合計算ステップにおいて、前記移動体の回転速度の増減量として用いることを特徴とする。
【0016】
また、上記目的を達成するために、請求項4記載の振動波モータの駆動装置は、振動体に固着された電気−機械エネルギ変換素子に交流電圧を供給して前記振動体に振動を発生させることにより前記振動体に接触する移動体を駆動する振動波モータの駆動装置であって、前記移動体の目標回転速度を設定し、前記交流電圧の周波数更新量に対する前記移動体の回転速度の増減量の割合を求め、前記目標回転速度と前記移動体の実際の回転速度との回転速度差を求め、前記回転速度差を前記割合で除することにより前記周波数更新量を求め、前記周波数更新量を用いて前記交流電圧の周波数を更新する処理を行う駆動制御回路を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の振動波モータの駆動方法及び請求項4記載の振動波モータの駆動装置によれば、振動波モータの実際の回転速度と目標回転速度の回転速度差に応じて、振動波モータに供給する交流電圧の周波数を適切に制御することができる。このとき、振動波モータごとに周波数−回転速度特性を予め記憶しておかなくともよいため、駆動装置の構成を簡単にすることができる。
【0018】
請求項2記載の振動波モータの駆動方法によれば、定数によって正確な周波数更新量を求めることができ、これにより安定した制御を行うことができる。
【0019】
請求項3記載の振動波モータの駆動方法によれば、交流電圧の周波数更新に伴って割合計算ステップで求められる割合も更新されるため、目標回転速度に到達するための正確な周波数更新量を予測することができ、これにより安定した制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明で用いられる振動波モータの概略構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す振動波モータを構成するステータの概略構成を示す斜視図であり、(a)は移動体側から見た図であり、(b)は圧電素子側から見た図である。
【図3】本発明の実施形態に係る振動波モータの駆動装置を示すブロック図である。
【図4】振動波モータの目標回転速度の変化を時系列で示したグラフである。
【図5】図3の駆動装置による振動波モータの速度制御処理を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す処理における、振動波モータの周波数指令信号の更新量に対する回転速度の増減量の割合を示す模式図である。
【図7】振動波モータを駆動するための駆動回路の概略構成を示す図である。
【図8】交流電圧の周波数と振動波モータの回転速度の関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る振動波モータの駆動方法及び駆動装置による駆動制御が適用される振動波モータの概略構成を示す断面図である。
【0023】
振動波モータ101は、振動体(弾性体)401と、圧電素子402と、移動体(回転体)403と、加圧バネ404と、シャフト405と、ベアリング406,407を備えている。
【0024】
振動体401は、金属製であり、例えば、焼結等の方法により製造される。圧電素子402は、振動体401に振動を励起する電気−機械エネルギ変換素子であり、振動体401の一方の面に接着剤等により固着されている。以下、振動体401と圧電素子402とが固着されてなるものを「ステータ」と呼ぶ。
【0025】
図2はステータの構成を示す斜視図であり、(a)は移動体側から見た図であり、(b)は圧電素子側から見た図である。図2(a)に示されるように、振動体401の移動体403側は櫛歯状となっており、その上面部には、移動体403との摩擦に対する耐摩耗性に優れた摩擦材501が、例えば接着剤等により固着されている。この摩擦材501により、ステータの減摩を抑制して、振動波モータ101の寿命を延ばすことができる。
【0026】
圧電素子402は、図2(b)に示すように、母体となる圧電セラミックス等からなるリング状の圧電部材の表面に、複数(例えば、36)の領域に分割された電極が形成された構造を有している。これらの電極は、例えば、蒸着法等により形成することができる。圧電素子402を構成する圧電部材は、接着等により振動体401に固着される前に、全ての領域で厚さ方向に同一極性で分極処理が施されている。図2(b)において、各電極に対して記した“A+”,“B+”,“A−”,“B−”は、振動波モータ101の駆動時に供給する交流電圧(駆動電圧)の種類を示しており、A+,B+,A−,B−のそれぞれに、外部から交流電圧が供給される。
【0027】
移動体403は、円環状の金属製部材であり、加圧バネ404によって振動体401に所定の力で押し付けられ、摩擦材501と接触している。圧電素子402に4相の交流電圧(90°ずつ時間位相がずれた交流電圧)を供給すると、振動体401に進行性の振動波が発生し、これによって振動体401に押し付けられた移動体403が摩擦力によって回転運動を行う。
【0028】
シャフト405は、移動体403の回転運動の出力軸であり、2つのベアリング406,407によって回転可能に支持されると共に、加圧バネ404を介して移動体403と接続されている。したがって、移動体403が回転運動を行うと、シャフト405も回転運動を行う。シャフト405には、被駆動体(図示せず)が取り付けられる。
【0029】
振動波モータ101はまた、コードホイール408と、エンコーダ素子409とを備えている。コードホイール408は、シャフト405の回転速度又は回転位置を検出するために用いられる部材であり、シャフト405に固定され、シャフト405と共に回転する。コードホイール408においてエンコーダ素子409と対面する面には、周方向に所定のパターンで反射面(図示せず)と非反射面(図示せず)とが交互に形成されている。
【0030】
エンコーダ素子409は、発光部と受光部とを備えており、コードホイール408に設けられたパターンに光線を照射して、その反射光を受光する。また、エンコーダ素子409はさらに、反射光に応じたパルス信号に変換して出力するIC(集積回路)を備えている。コードホイール408の回転速度とパターンに応じて、反射光の受光間隔と受光時間が変化し、これにしたがうパルス信号が得られるので、このパルス信号からシャフト405の回転速度及び回転位置を検出することができる。なお、反射光をパルス信号に変換する機能は、エンコーダ素子409自体に設けなければならないものではなく、後述するパルス計数回路105(図4参照)に持たせてもよい。
【0031】
振動波モータ101はさらに、モータカバー410と、筐体411と、コネクタ412とを備えている。筐体411は、ステータやシャフト405等を支持する役割を果たし、モータカバー410は、振動波モータ101の各種構成部材を保護する役割を果たす。
【0032】
コネクタ412は、後述する駆動回路を接続するためのものである。コネクタ412を介して、圧電素子402への交流電圧の供給、エンコーダ素子409への給電及びエンコーダ素子409からの出力信号(パルス信号)の取り出しが行われる。
【0033】
このような構造を有する振動波モータ101の周波数−回転速度特性は、後に説明する図6に示される通りであり、先に背景技術として説明した図8に示される特性と同様の特性を示す。
【0034】
次に、振動波モータ101の駆動方法(制御方法)について説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る駆動装置の概略構成を示す図である。この駆動装置は、駆動制御回路106と、振動波モータ101を駆動する交流電圧を生成する駆動電圧発生回路104と、振動波モータ101のエンコーダ素子409から出力されたパルス信号をカウントするパルス計数回路105と、を備えている。
【0035】
駆動制御回路106は、振動波モータ101の駆動信号(入力信号)である交流電圧の周波数指令信号を駆動電圧発生回路104へと出力する。駆動電圧発生回路104は、この周波数指令信号に応じた周波数の交流電圧を生成し、振動波モータ101の圧電素子402に供給する。
【0036】
振動波モータ101が備えるエンコーダ素子409は、前述の通り、振動波モータ101の回転駆動(シャフト405及び移動体403の回転)に対応したパルス信号を発生させる。このパルス信号はパルス計数回路105に入力され、其所で振動波モータ101の回転速度情報に変換され、駆動制御回路106へと送られる。駆動制御回路106は、受信した回転速度情報を積分することによって、振動波モータ101の回転量(駆動量)を求める。
【0037】
なお、振動波モータ101のシャフト405には被駆動体110が取り付けられており、被駆動体110の位置は位置センサ111(例えば、レーザ式測距センサ)により測定され、その位置情報はリアルタイムに駆動制御回路106に入力される。位置センサ111は被駆動体110と一体となっていてもよい。すなわち、被駆動体110が、自身の位置を検出する機能を有し、その位置情報を駆動制御回路106に送信するものであってもよい。駆動制御回路106には、被駆動体110を移動させる目標位置の情報が、図示しない入力装置を通して入力される。
【0038】
振動波モータ101の回転量と被駆動体110の移動量との間には、一次の相関関係がある。換言すれば、被駆動体110を所定位置に移動させるために必要な移動量が決定されると、そのために必要とされる振動波モータ101の回転量が定まる。このような被駆動体110の位置とシャフト405の回転量の換算情報は、駆動制御回路106に記憶されている。
【0039】
図4は、振動波モータを必要な回転量となるまで駆動する際の、目標回転速度の変化を時系列で示したグラフである。駆動制御回路106に被駆動体110の目標位置が入力されると、駆動制御回路106は、位置センサ111からの位置情報を用いて、被駆動体110の目標位置と現在位置との差分を求める。この差分と上述の換算情報とから、振動波モータ101の必要な回転量が求められ、この回転量に応じて、振動波モータ101の目標回転速度が時系列で設定される。図4には、一般的な、加速、定速、減速からなる速度パターンが示されている。駆動制御回路106は、この目標回転速度が実現されるように、交流電圧の周波数を変化(増減)させて、振動波モータ101の回転速度を制御する。
【0040】
図4に示される鎖線は、駆動制御回路106が目標回転速度を更新するタイミングを示しており、駆動制御回路106は、一定の周期で目標回転速度を読み込み、これを更新する。すなわち、駆動制御回路106は、離散的ではあるが、図4に示されるグラフに沿うように、振動波モータ101の目標回転速度を時間経過と共に順次更新する。
【0041】
図5は、振動波モータの速度制御処理の一例を示すフローチャートである。駆動制御回路106は、被駆動体110の目標位置について指令を受けると、図4に示した目標回転速度のプロファイルを作成した後、図5に示したフローチャートに沿った制御によって振動波モータ101を駆動する。駆動制御回路106は、この制御を行うためのハードウェアとソフトウェアを備えている。
【0042】
先ず、駆動制御回路106は、制御に用いる各変数(fn、Nn、Nn-1、Tn)に対して初期値を設定する[ステップS201]。
【0043】
“fn”は振動波モータ101を駆動する交流電圧の周波数指令信号であり、その初期値を“fini”とする。ここで、周波数指令信号fnが示す周波数を“fn”とする。したがって、振動波モータ101を駆動する交流電圧の周波数更新量は、周波数指令信号fnの更新量Δfnで表される。周波数指令信号fnの初期値finiは、振動波モータ101の共振周波数fr(図6参照)よりも十分に高い所定値に設定される。
【0044】
“Nn”と“Nn-1”は振動波モータ101の回転速度であり、これらの初期値を“0(ゼロ)”に設定する。“Tn”は、後に詳細に説明するように、周波数指令信号fnの更新量Δfnに対する移動体403の回転速度の増減量ΔNnの割合(=ΔNn/Δfn、以下「補正項T」と記す)であり、その初期値を“Tini”とする。
【0045】
ステップS201の後、駆動制御回路106は、周波数指令信号fnの更新量Δfnを、下式(1)、
Δfn=(Nobjn−Nn)・k/Tn ・・・(1)
により求める[ステップS202(周波数更新量計算ステップ)]。
【0046】
式(1)において、“Nobjn”は、振動波モータ101の目標回転速度であり、振動波モータ101の駆動制御が開始されると、図4に示すグラフに沿って時間の経過と共に周期的に更新される[設定ステップ]。“Nobjn−Nn”は、目標回転速度と実際の回転速度との回転速度差を示す。kは比例ゲインであり、定数である。
【0047】
式(1)では、回転速度と交流電圧の駆動周波数が比例していると仮定することで、目標回転速度と実際の回転速度との回転速度差の一次関数“(Nobjn−Nn)・k”により、周波数指令信号fnの仮の更新量を求めている。ここで、図8に示すように、振動波モータ101の回転速度によって、回転速度差に対する駆動周波数の増減量の傾きは変化するため、この仮の更新量と、実際に必要とされる更新量との間には差が生じる。その差を修正するため、仮の更新量を、近隣の回転速度にて得られた補正項“Tn”で除することで、仮の更新量を増減させて実際に必要とされる更新量に近づけている。振動波モータ101の駆動開始直後は、ステップS201において初期値が設定された変数を用いて、周波数指令信号fnの更新量Δfnを求める。
【0048】
ステップS202の後、駆動制御回路106は、既に設定されている周波数指令信号fnの値から、ステップS202で求めた更新量Δfnを差し引くことにより、周波数指令信号fnを更新する[ステップS203(周波数更新ステップ)]。
【0049】
振動波モータ101の回転速度を上げる場合には、周波数指令信号fnが示す周波数(fn)は低くなり、回転速度を下げる場合には、周波数指令信号fnが示す周波数(fn)は高くなる。駆動電圧発生回路104は、周波数指令信号fnが更新されると、振動波モータ101への入力信号である交流電圧の周波数を、更新された周波数指令信号fnが示す周波数(fn)に到達するように掃引する。
【0050】
ステップS203に続いて、駆動制御回路106は、振動波モータ101の回転速度が飽和するまで待機する[ステップS204(待機ステップ)]。ここで「振動波モータ101の回転速度が飽和する」とは、「振動波モータ101を駆動する交流電圧の周波数が、周波数指令信号fnが示す周波数まで掃引され、振動波モータ101の回転速度が安定すること」を指す。
【0051】
駆動制御回路106は、パルス計数回路105から振動波モータ101の回転速度情報を受け取っている。そこで、駆動制御回路106は、振動波モータ101の回転速度が飽和すると(ステップS204で“YES”)、その回転速度を振動波モータ101の実際の回転速度Nnとする[ステップS205(速度検出ステップ)]。
【0052】
ステップS205の後、駆動制御回路106は、被駆動体110が目標位置に到達したかを判定する[ステップS206]。被駆動体110が目標位置に到達していれば(ステップS206で“YES”)、フローチャートの処理を終える(エンド)。
【0053】
一方、被駆動体110が目標位置に到達していなければ(ステップS206で“NO”)、駆動制御回路106は、回転速度の増減量ΔNn(=Nn−Nn-1)を求める[ステップS207]。ここで、回転速度Nn-1は、回転速度Nnの検出以前の直近のステップS205に検出された振動波モータ101の回転速度である。
【0054】
さらに駆動制御回路106は、ステップS202で求めた周波数指令信号fnの更新量Δfnに対するステップS207で求めた回転速度の増減量ΔNnの割合(ΔNn/Δfn)を求める[ステップS208(割合計算ステップ)]。
【0055】
このステップS208で求めた割合が補正項Tnであり、再びステップS202に戻った際に、周波数指令信号fnの更新量Δfnを求める際に用いられる。ここで、補正項Tnについて図6を参照して説明する。
【0056】
図6は振動波モータの周波数指令信号の更新量に対する回転速度の増減量の割合を示す模式図である。ステップS202で求められる周波数指令信号fnの更新量Δfnは、図6に示される周波数−回転速度特性における微小周波数区間(fn-1〜fn)の幅に相当する。なお、“fn-1”は回転速度Nn-1のときの周波数である。回転速度の増減量ΔNnは、微小周波数区間(fn-1〜fn)における回転速度の変化量であるから、補正項Tnは、微小周波数区間における回転速度の、線形演算により求められる傾きを意味する。
【0057】
ステップS208の後、駆動制御回路106は、回転速度Nn-1の値を回転速度Nnの値に置き換えて更新し[ステップS209]、その後、ステップS202に戻って制御処理を続ける。
【0058】
次に、ステップS202における式(1)の演算について詳細に説明する。
【0059】
図6に示したように、振動波モータ101の周波数−回転速度特性は非線形である。そのため、駆動制御回路106に周波数−回転速度特性を記憶させておいても、目標回転速度Nobjnに到達するために設定すべき周波数指令信号fnを、目標回転速度と実際の回転速度との回転速度差(Nobjn−Nn)から求めることは容易ではない。
【0060】
そこで、駆動制御回路106は、図6の周波数−回転速度特性を記憶しておらず、振動波モータ101の駆動制御中に得られる変数の値を用いて、周波数指令信号fnを更新していく。ステップS202では、ステップS203において周波数指令信号fnを更新するために必要となる更新量Δfnを求める。
【0061】
ステップS202において、駆動制御回路106はまず、必要とされる回転速度の変化量、すなわち、振動波モータ101の目標回転速度Nobjnと実際の回転速度Nnとの回転速度差(=Nobjn−Nn)を、線形演算により求める[速度差計算ステップ]。次いで、駆動制御回路106は、求めた回転速度差Nobjn−Nnに比例ゲインkを掛け、これを補正項Tnで除算することにより、周波数指令信号fnの更新量Δfnを求める。
【0062】
ステップS202で用いる補正項Tn(=ΔNn/Δfn)の値は、実際には図6からわかるように、周波数指令信号fnに応じて徐々に変化する。しかし、隣接する2つの微小周波数区間における各補正項Tnの値は、微小周波数区間の幅が極端に広くない限り、変化は小さい。そこで、ステップS202においては、所定の微小周波数区間に対して求められた補正項Tnを、次の微小周波数区間を求めるために用いる。これにより、周波数指令信号fnの更新量Δfnを適切に求めることができる。
【0063】
また、ステップS202で求められた周波数指令信号fnの更新量Δfnが次の微小周波数区間となるので、この区間における回転速度の増減量ΔNnと周波数指令信号fnの更新量Δfnとから、この区間での補正項Tnの値を適切に求めることができるようになる。
【0064】
なお、比例ゲインkは、振動波モータ101が適切に駆動制御されるように、実験的、経験的に求められた適切な値に設定され、比例ゲインkを用いる必要がない場合もある。また、微小周波数区間の幅が狭いほど、補正項Tnの変化が小さいため、微小周波数区間の幅を狭くすることで、周波数指令信号fnの更新量Δfnの誤差をより小さくすることができる。微小周波数区間の幅を狭くするためには、図4に示した鎖線、つまり、駆動制御回路106が目標回転速度を更新する時間間隔を狭くすればよい。ステップS201にて設定するTnの初期値Tiniは、その周波数−回転速度特性がいかなる状態でも回転速度が発散することのないよう、なるべく大きな値を設定しておくことが望ましい。
【0065】
このように、回転速度の増減量ΔNn、周波数指令信号fnの更新量Δfn及び補正項Tnの更新を繰り返すことで、振動波モータ101の実際の回転速度に応じて、供給する交流電圧の周波数を適切に制御することができるようになる。このとき、駆動制御装置101は、周波数−回転速度特性を予め駆動制御回路106に記憶しておかなくともよいため、回路構成が簡単になる。また、振動波モータ101に掛かる負荷変動や、振動波モータ101自体の温度変化や振動波モータ101が使用される温度環境によって周波数−回転速度特性が変化したとしても、その特性に追従した制御が可能になる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0067】
本発明の目的は、上述した実施の形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体をコンピュータに供給し、コンピュータのCPUが記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される。
【0068】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した各実施の形態の機能を実現することになり、プログラムコード及びそのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0069】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、RAM、NV−RAM、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD(DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW)等の光ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、他のROM等の上記プログラムコードを記憶できるものであればよい。或いは、上記プログラムコードは、インターネット、商用ネットワーク、若しくはローカルエリアネットワーク等に接続される不図示の他のコンピュータやデータベース等からダウンロードすることによりコンピュータに供給されてもよい。
【0070】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上記各実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、CPU上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した各実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0071】
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した各実施の形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0072】
上記プログラムコードの形態は、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラムコード、OSに供給されるスクリプトデータ等の形態から成ってもよい。
【符号の説明】
【0073】
101 振動波モータ
104 駆動電圧発生回路
105 パルス計数回路
106 駆動制御回路
110 被駆動体
111 位置センサ
401 振動体(弾性体)
402 圧電素子
403 移動体(回転体)
405 シャフト
408 コードホイール
409 エンコーダ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体に固着された電気−機械エネルギ変換素子に交流電圧を供給して前記振動体に振動を発生させることにより前記振動体に接触する移動体を駆動する振動波モータの駆動方法であって、
前記移動体の目標回転速度を設定する設定ステップと、
前記交流電圧の周波数更新量に対する前記移動体の回転速度の増減量の割合を求める割合計算ステップと、
前記目標回転速度と前記移動体の実際の回転速度との回転速度差を求める速度差計算ステップと、
前記速度差計算ステップで求めた前記回転速度差を、前記割合計算ステップで求めた前記割合で除することにより、前記周波数更新量を求める周波数更新量計算ステップと、
前記周波数更新量計算ステップで求めた前記周波数更新量を用いて、前記交流電圧の周波数を更新する周波数更新ステップと、を有することを特徴とする振動波モータの駆動方法。
【請求項2】
前記周波数更新量計算ステップにおいて、前記速度差計算ステップで求めた前記回転速度差に定数を乗することを特徴とする請求項1記載の振動波モータの駆動方法。
【請求項3】
前記周波数更新ステップによって更新された周波数により前記移動体の回転速度が飽和するまで待機する待機ステップと、
前記待機ステップにおいて飽和した前記移動体の回転速度を検出する速度検出ステップと、を更に有し、
前記周波数更新ステップの前と後の各周波数で回転速度が飽和することにより前記速度検出ステップで検出された前記振動波モータの前記回転速度の差を、前記割合計算ステップにおいて、前記移動体の回転速度の増減量として用いることを特徴とする請求項1記載の振動波モータの駆動方法。
【請求項4】
振動体に固着された電気−機械エネルギ変換素子に交流電圧を供給して前記振動体に振動を発生させることにより前記振動体に接触する移動体を駆動する振動波モータの駆動装置であって、
前記移動体の目標回転速度を設定し、前記交流電圧の周波数更新量に対する前記移動体の回転速度の増減量の割合を求め、前記目標回転速度と前記移動体の実際の回転速度との回転速度差を求め、前記回転速度差を前記割合で除することにより前記周波数更新量を求め、前記周波数更新量を用いて前記交流電圧の周波数を更新する処理を行う駆動制御回路を備えることを特徴とする振動波モータの駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−206857(P2010−206857A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46268(P2009−46268)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(000104630)キヤノンプレシジョン株式会社 (79)
【Fターム(参考)】