説明

振動波モータ

【課題】振動波モータの駆動に伴って発生する不要な振動を抑制すると共に、制御性能の向上を図ることが可能となる振動波モータを提供する。
【解決手段】電気−機械エネルギー変換素子に電圧を印加することにより振動する振動体と、
振動体と加圧接触し、振動体により摩擦駆動される移動体と、
振動体と移動体とを加圧接触させる加圧部材と、
を有する振動波モータであって、
移動体と加圧部材との間に設けられ、振動波モータの駆動中に発生する不要な振動を抑制するための振動減衰部材と、
移動体と加圧部材との間に設けられ、移動体の駆動力を加圧部材に伝達するための駆動力伝達部材と、
を備え、
駆動伝達部材は、振動減衰部材の摩擦力を利用せずに、移動体と加圧部材とを一体的に駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体に移動体を加圧接触させ摩擦駆動するいわゆる振動波モータに関し、特に、その移動体の駆動力を出力軸に伝達するに際し制御性能の向上を図るようにした振動波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器、FA機器分野において、駆動機構の位置決めや速度制御などの高精度化が求められている。
一般的に、DCモータやステッピングモータ等の回転出力をギア、ベルトなどの減速機構を用いて減速し、高分解能、高トルクな駆動が行われている。
しかし、ギアによる減速機構を用いると、歯形誤差やピッチ誤差などで伝達精度が悪化し、精度を上げるにはギア等級をあげる、あるいは精密研削を施すなど、高価になる原因となる。
さらに、バックラッシュによる非線形性から制御性が悪化するため、ノンバックラッシュ歯車を用いるなどの対策が必要になる。
また、ベルトによる減速機構を用いた場合、プーリの偏心、真円度などによる伝達精度の低下、またベルトの伸縮、曲げ振動による伝達剛性の低下から、制御性能も低下しているのが現状である。
【0003】
これに対し、駆動機構を低速度で高トルクなモータによって直接被駆動部材を駆動するダイレクト駆動の構成にすることにより、減速機構による精度の低下や、バックラッシュ、剛性の低下を防ぐことができ、高精度な駆動が可能となる。振動波モータは低速度から安定してトルクがでるため、上記ダイレクト駆動に適したモータである。
振動波モータは、例えば、弾性部材からなる振動体の片面に、電気−機械エネルギー変換素子(圧電素子、磁歪素子など)を接合し、該変換素子に交流電圧を印加して上記振動体に進行性振動波を発生させる。そして、振動体に加圧接触している移動体を摩擦駆動するように構成されている。
また、これに高分解能な角度検出手段を組み合わせることにより、高精度、高剛性、高分解能な駆動が可能となる。
【0004】
この種の振動波モータの従来例を図6に示す(例えば、特許文献1参照)。
図6において、ハウジング41に固定された振動体42は円環状をしており、弾性体42bの上部には複数の突起42cが全周にわたって設けられている。
圧電セラミックス42aは、弾性体42bの底面に接着剤にて接着され、モータ駆動時に不図示の駆動回路により位相差を有する2つの交流電圧が印加され、進行性振動波を発生させる。
移動体43は、弾性部材で形成された円環状の本体部43a、支持部43b、及び振動体42の突起42cに摩擦接触する摩擦面を有する接触部43cから構成されている。
支持部43b及び接触部43cは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体42に対して安定した接触が可能となっている。
移動体43の上面には制振部材44、ゴム板45を介して加圧ばね46が取付けられている。
制振部材44は、制振ゴム44aと円環状のばね受け部材44bから構成されている。これにより、移動体43に発生する不要な振動を防止し、騒音の発生や効率の低下を抑えている。
【0005】
移動体43と制振部材44は、移動体43と制振ゴム44a、および制振ゴム44aとばね受け部材44b間の摩擦力により一体的に回転する。
さらに、制振部材44とゴム板45、およびゴム板45と加圧ばね46間の摩擦力により、移動体43、制振部材44および加圧ばね46は一体的に回転している。
また、制振ゴム44aおよびゴム板45によって、移動体43、ばね受け部材44b、加圧ばね46が均一に密着され、加圧ばね46の加圧力が回転方向にムラなく移動体43に付与されている。
加圧ばね46の内周部は出力軸48に焼嵌めされたディスク47に取付けられており、移動体43の駆動力を出力軸48に伝達している。
出力軸48は、一対の転がり軸受49a、49bによって回転自在に支持されており、転がり軸受49aの内輪は、移動体43を振動体42に適切な力で加圧接触させるための加圧ばね46の変位量分だけ予圧がかけられている。
これにより、転がり軸受49aの径方向のガタが排除され、出力軸48の径方向の振れを抑えることができる。
以上のような振動波モータによって直接被駆動部材を駆動するダイレクト駆動の構成にすることにより、減速機構による精度の低下や、バックラッシュ、剛性の低下を防ぐことができ、高精度な駆動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−253272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記図6に示す従来例のような振動波モータにおいては、つぎのような課題を有している。
すなわち、移動体43の駆動力は、制振ゴム44a、ゴム板45の摩擦力を利用して出力軸48に伝達される。制振ゴム44aおよびゴム板45はねじり剛性が低いため、移動体43と出力軸48の間のねじり剛性が低下し、振動波モータの制御性能が低下するという課題が生じる。
これらに対処するため、制振部材44とゴム板45を設けずに、移動体43を加圧ばね46で直接加圧する構成にすると、移動体43に不要振動が発生しやすくなり、効率の低下や鳴きと呼ばれる騒音の発生、および摩耗の原因となる。
また、移動体43の加圧ばね46が設けられている面の平面度の影響により、移動体43に付与される加圧力に回転方向のムラが生じ、移動体43の接触部43cに偏摩耗が発生し、振動波モータの性能が低下する。
以上のように、従来の振動波モータでは、駆動中に発生する不要振動を抑えるため制振部材やゴム板を設けた構成にすると振動波モータの制御性能が低下する。反対に、制振部材やゴム板を設けずに制御性能を高める構成にすると、不要振動が発生しやすくなるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、振動波モータの駆動に伴って発生する不要な振動を抑制すると共に、制御性能の向上を図ることが可能となる振動波モータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電気−機械エネルギー変換素子と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子に電圧を印加することにより振動する振動体と、
前記振動体と加圧接触し、前記振動体により摩擦駆動される移動体と、
前記振動体と前記移動体とを前記加圧接触させる加圧部材と、
を有する振動波モータであって、
前記移動体と前記加圧部材との間に設けられ、前記振動波モータの駆動中に発生する不要な振動を抑制するための振動減衰部材と、
前記移動体と前記加圧部材との間に設けられ、前記移動体の駆動力を前記加圧部材に伝達するための駆動力伝達部材と、
を備え、
前記駆動力伝達部材は、前記振動減衰部材の摩擦力を利用せずに、前記移動体と前記加圧部材とを一体的に駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、振動波モータの駆動に伴って発生する不要な振動を抑制すると共に、制御性能の向上を図ることが可能となる振動波モータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1における振動波モータの構成例を説明する図であり、(a)は振動波モータの構成を説明する断面図。(b)はその振動波モータの上面図。
【図2】本発明の実施例1における振動波モータの構成例を説明する図であり、(a)は図1(a)に示す振動波モータの一部を拡大した分解断面図。(b)は振動波モータの変形例に係る振動波モータの一部を拡大した分解断面図。
【図3】本発明の実施例2における振動波モータの構成例を説明する図であり、(a)は振動波モータの一部を拡大した断面図。(b)はその振動波モータの一部を拡大した分解断面図。
【図4】本発明の実施例3における振動波モータの構成例を説明する図であり、(a)は振動波モータの一部を拡大した断面図。(b)はその振動波モータの一部を拡大した分解断面図。
【図5】本発明の実施例4における振動波モータの構成例を説明する図であり、(a)は振動波モータの一部を拡大した断面図。図5(b)はその振動波モータの一部を拡大した分解断面図。
【図6】従来例における振動波モータの構成を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0013】
[実施例1]
実施例1として、本発明を適用した振動波モータの構成例を、図1、2を用いて説明する。
本実施例の振動波モータは、電気−機械エネルギー変換素子と、該電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子に電圧を印加することにより振動する振動体とを備える。
また、振動体と加圧接触し、前記振動体により摩擦駆動される移動体と、該振動体と該移動体とを加圧接触させる加圧部材とを備える。
そして、該移動体と該加圧部材との間に設けられた駆動力伝達部材によって、上記移動体の駆動力を加圧部材を介して出力軸に伝達するように構成されている。具体的には、図1(a)及び図1(b)に示すように、本実施例の振動波モータは、円環状に形成されており、振動体2、移動体3を備えている。
圧電素子2aは、電気量を機械量に変換する電気−機械エネルギー変換素子であり、弾性体2bと結合され、振動体2を形成している。圧電素子2aに駆動電圧を印加し、公知の技術により、振動体2に進行性の振動波を生じさせる。
弾性体2bは、金属製の弾性部材であり、基部2c、突起部2d、及び基部2cから延出し、弾性体2bをハウジング1に固定するためのフランジ部2eから構成されている。突起部2dは、基部2cの外径側に沿って配置されている。突起部2dの移動体3側の面が移動体との接触面となっている。
移動体3は、弾性部材で形成された円環状の本体部3a、支持部3b、及び振動体2の突起2dに摩擦接触する摩擦面を有する接触部3cから構成されている。支持部3b及び接触部3cは、ばね性を有する厚みで形成されており、振動体2に対して安定した接触が可能となっている。
移動体3の振動体2と接触する面とは反対側の面である移動体3の上面3dには、制振ゴム4を介して加圧部材5が取り付けられている。
加圧部材5は、ばね受け部材5a、加圧ばねゴム5b、加圧ばね5c、ディスク5dから構成されている。
加圧ばね5cの内周部は出力軸8に焼嵌めされたディスク5dに取付けられており、移動体3の駆動力を出力軸8に伝達している。
【0014】
制振ゴム4は円環状であり、振動減衰性能が高いブチルゴムやシリコーンゴム等で形成されている。制振ゴム4とばね受け部材5aにより、移動体3の不要な振動の発生を抑え、振動波モータの騒音や出力の低下を防止している。
加圧ばねゴム5bはブチルゴムやクロロプレンゴム等で形成されている。加圧ばねゴム5bの弾性変形により、ばね受け部材5aの加圧ばねゴム5bが設けられている面の平面度の影響を緩和している。そのため、加圧ばね5cからの加圧力が移動体3に回転方向のムラなく均一に付与され、振動体2と移動体3の安定した接触が保たれている。
ばね受け部材5aには回転伝達部材(駆動伝達部材)6が一体的に形成されている。
出力軸8は、ハウジング1に固定された外輪と、出力軸8の外周に嵌合した内輪とを有する一対の転がり軸受9a、9bによって回転自在に支持される。
転がり軸受9aの内輪は、移動体3を振動体2に適切な力で加圧接触させるための加圧ばね5cの変位量分だけ予圧がかけられている。
これにより、転がり軸受9aの径方向のガタが排除され、出力軸8の径方向の振れを抑えることができる。
【0015】
図2(a)に図1(a)の振動波モータの一部を拡大した分解断面を示す。
図2(a)に示すように、回転伝達部材6は、第1の回転伝達部(第1の駆動伝達部)6aと第2の回転伝達部(第2の駆動伝達部)6bから構成されている。第1の回転伝達部6aは円筒状で、ばね受け部材5aから移動体3が設けられている方向に鉛直に延出されている。第2の回転伝達部6bは円筒状で、ばね受け部材5aから加圧ばね5cが設けられている方向に鉛直に延出されている。
移動体3には第1の係合部7aが円筒状に形成されており、制振ゴム4には第1の回転伝達部6aよりも大きな径で形成された第1の逃げ穴4aが設けられている。
第1の回転伝達部6aは、移動体3の第1の係合部7aに振動波モータの回転方向および径方向に係合するとともに、鉛直方向には位置の調整が可能となっている。
そのため、移動体3に付与する加圧力を変化させ、移動体3に対するばね受け部材5aの鉛直方向の相対的な位置が変化しても、第1の回転伝達部6aは移動体3の第1の係合部7aとの回転方向の係合を保つことができる。
【0016】
第1の回転伝達部6aは、振動波モータの回転方向(駆動方向)にガタを有して第1の係合部7aと係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転(駆動)に伴って発生する回転方向(駆動方向)の力がすべて制振ゴム4に作用した場合の、制振ゴム4の回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体3とばね受け部材5aは制振ゴム4の摩擦力を利用せずに、第1の回転伝達部6aによって一体的に回転する。
加圧ばね5cには第2の係合部7bが長穴形状に形成されており、加圧ばねゴム5bには第2の回転伝達部6bよりも大きな径で形成された第2の逃げ穴5eが設けられている。
第2の回転伝達部6bは、加圧ばね5cの第2の係合部7bに回転方向に係合するとともに、鉛直方向には位置の調整が可能となっている。
また、加圧ばね5cの第2の係合部7bは長穴形状に形成されているため、径方向にも移動可能となっており、加圧付与時に加圧ばね5cが変形しても、第2の係合部7bが第2の回転伝達部6bと回転方向の係合を保つことができる。
また、第2の回転伝達部6bは、振動波モータの回転方向にガタを有して第2の係合部7bと係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて加圧ばねゴム5bに作用した場合の、加圧ばねゴム5bの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、ばね受け部材5aと加圧ばね5cは加圧ばねゴム5bの摩擦力を利用せずに、第2の回転伝達部6bによって一体的に回転する。
【0017】
以上のように、2つの回転伝達部6a及び6bは、回転方向にガタを有して2つの係合部7a及び7bとそれぞれ係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて制振ゴム4及び加圧ばねゴム5bに作用した場合の、それぞれの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体3の駆動力は、振動減衰部材を構成する制振ゴム4及び加圧ばねゴム5bの摩擦力を利用せずに、駆動力伝達部材を構成する2つの回転伝達部材6a、6bによって出力軸8に伝達される。
これにより、制振ゴム4とばね受け部材5aによって振動波モータが駆動中に発生する不要な振動を抑制するとともに、従来構造では課題となっていた移動体3と出力軸8の間のねじり剛性の低下を回避し、振動波モータの制御性能を向上させることができる。
【0018】
また、従来構造では、制振ゴム4は移動体3の駆動力を伝達するため、摩擦力が高く、ある程度硬度が高いゴムを使用する必要があった。
これに対し、本実施例では、制振ゴム4は駆動力を伝達する機能が必要ないため、振動波モータに発生する不要振動に合わせて、低い硬度のゴムや摩擦力が低いゴムなど最適な振動減衰材料を選択することができ、従来よりも不要振動を抑制することが可能となる。
さらに、従来構造では、熱伝導率の低い制振ゴム4及び加圧ばねゴム5bによって、移動体3の熱が出力軸8に伝わりにくくなっていた。
これに対し、本実施例では、2つの回転伝達部6a、6bをゴムより熱伝達率の高い金属で構成することにより、移動体3の熱が出力軸8まで伝わりやすくなり、振動波モータの発熱を従来よりも抑えることができるようになる。
【0019】
なお、本実施例において、回転伝達部6a及び6bは、ばね受け部材5aに形成され、移動体3および加圧ばね5cに係合部が設けられている。
しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、移動体3及び加圧ばね5cにそれぞれ回転伝達部6a及び6bを設け、ばね受け部材5aに2つの係合部を設けてもよい。
また、図2(b)に示すように、移動体3に回転伝達部6aを設け、加圧ばね5cに係合部7bを設けることで、移動体3と加圧ばね5cを一体的に回転するようにしてもよい。
これにより、ばね受け部材5aと加圧ばねゴム5bが無くなり、振動波モータを軽量化でき、部品点数の削減によるコスト低下や、組立時間の短縮を図ることができる。
【0020】
[実施例2]
実施例2として、実施例1とは異なる形態の振動波モータの構成例について、図3を用いて説明する。
本実施例は、実施例1に対して、移動体や制振ゴム、加圧部材を図3(a)、(b)に示す構造とした点において相違する。
本実施例のその他の要素(振動体、出力軸等)は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、説明を省略する。
なお、本実施例の図3(a)、(b)に示す構成は、図2(a)、図2(b)に対応している。図3(a)は、本実施例における振動波モータの一部を拡大した断面図である。図3(b)は、図3(a)の振動波モータの分解断面図である。図3(a)、(b)において、回転伝達部材(駆動力伝達部材)16は、第1の回転伝達部(第1の駆動力伝達部)16aと第2の回転伝達部材(第2の駆動力伝達部)16bから構成されている。
第1の回転伝達部16aは矩形状で、移動体13から径方向に延出されており、移動体13と一体的に形成されている。ばね受け部材15aには第1の係合部17aが略矩形状に形成されている。第1の回転伝達部16aは、ばね受け部材15aの第1の係合部17aに振動波モータの回転方向に係合するとともに、鉛直方向及び径方向には位置の調整が可能となっている。そのため、移動体13に対するばね受け部材15aの鉛直方向の相対的な位置が変化しても、第1の回転伝達部16aはばね受け部材15aの第1の係合部17aとの回転方向の係合を保つことができる。
【0021】
第1の回転伝達部16aは、振動波モータの回転方向(駆動方向)にガタを有して第1の係合部17aと係合するように設けられている。そのガタの量は、振動波モータの回転(駆動)に伴って発生する回転方向(駆動方向)の力がすべて制振ゴム14に作用した場合の、制振ゴム14の回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体13とばね受け部材15aは制振ゴム14の摩擦力を利用せずに、第1の回転伝達部16aによって一体的に回転する。
第2の回転伝達部16bは矩形状で、ばね受け部材15aから加圧ばね15cが設けられている方向に鉛直に延出されている。
加圧ばね15cには第2の係合部17bが矩形状に形成されており、加圧ばねゴム15bには逃げ溝15eが設けられている。第2の回転伝達部16bは、加圧ばね15cの第2の係合部17bに回転方向に係合するとともに、鉛直方向には位置の調整が可能となっている。
また、加圧ばね15cの第2の係合部17bは径方向にも移動可能となっており、加圧付与時に加圧ばね15cが変形しても、第2の係合部17bが第2の回転伝達部16bと回転方向の係合を保つことができる。
また、第2の回転伝達部16bは、振動波モータの回転方向にガタを有して第2の係合部17bと係合するように設けられている。そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて加圧ばねゴム15bに作用した場合の、加圧ばねゴム15bの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、ばね受け部材15aと加圧ばね15cは加圧ばねゴム15bの摩擦力を利用せずに、第2の回転伝達部16bによって一体的に回転する。
【0022】
以上のように、2つの回転伝達部16a及び16bは、回転方向にガタを有して2つの係合部17a及び17bとそれぞれ係合するように設けられている。そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて制振ゴム14及び加圧ばねゴム15bに作用した場合の、それぞれの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体13の駆動力は、振動減衰部材を構成する制振ゴム14及び加圧ばねゴム15bの摩擦力を利用せずに、駆動力伝達部材を構成する2つの回転伝達部16a、16bによって不図示の出力軸に伝達される。
これにより、高いねじり剛性を維持したまま移動体13の駆動力を取り出すことができ、振動波モータの制御性能を向上させることができるようになる。
【0023】
また、第1の回転伝達部16aが制振ゴム14よりも外側に設けられているため、第1の回転伝達部16aと第1の係合部17aとが係合するための逃げ穴を制振ゴム14に設ける必要がない。
そのため、制振ゴム14は回転方向に均一に形成することができ、逃げ穴を設ける場合に比べ、移動体13とばね受け部材15aとの密着性を向上させることができる。これにより、振動波モータの駆動に伴って発生する移動体13の不要な振動を抑え、騒音や出力の低下を防止する効果を向上させることができる。
【0024】
なお、本実施例において、第1の回転伝達部16aは、移動体13の外周部よりも外側に設けられているが、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
例えば、移動体の内周部よりも内側に第1の回転伝達部材を設け、ばね受け部材に設けられている第1の係合部もばね受け部材の内周付近に設けてもよい。
これにより、第1の回転伝達部が制振ゴムよりも内側に設けられているため、上述してきた実施例2の形態と同様に、第1の回転伝達部材と第1の係合部とが係合するための逃げ穴を制振ゴムに設ける必要がなく、移動体とばね受け部材との密着性を向上させることができる。
さらに、内周部に第1の回転伝達部を設けることで、外周部に設ける場合よりも振動波モータを小径化することが可能となる。
【0025】
[実施例3]
実施例3として、上記各実施例と異なる形態の振動波モータの構成例について、図4を用いて説明する。
本実施例は、実施例1に対して、移動体や制振ゴム、加圧部材を図4(a)、(b)に示す構造とした点において相違する。
本実施例のその他の要素(振動体、出力軸等)は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、説明を省略する。
なお、本実施例の図4(a)、(b)に示す構成は、図2(a)、(b)、図3(a)、(b)に対応している。図4(a)は、本実施例における振動波モータの一部を拡大した断面図である。図4(b)は、図4(a)の振動波モータの分解断面図である。
図4(a)、(b)において、回転伝達部材(駆動伝達部材)26は、第1の回転伝達部材26a(第1の駆動力伝達部)と第2の回転伝達部材26b(第2の駆動力伝達部)から構成されており、移動体23、ばね受け部材25a、及び加圧ばね25cとはそれぞれ別部材となっている。
【0026】
第1の回転伝達部26aは回転伝達部26cとねじ部26dから構成されている。第1の回転伝達部26aは、ばね受け部材25aに設けられたねじ取付け部25fと第1の回転伝達部材26aのねじ部26dが螺合し、ばね受け部材25aに締結されている。
移動体23には第1の係合部27aが長穴形状に形成されている。第1の回転伝達部26aの回転伝達部26cは、移動体23の係合部27aに振動波モータの回転方向に係合するとともに、径方向には位置の調整が可能となっている。また、係合部27aは長穴形状に形成されているため、回転伝達部26cは鉛直方向にも位置の調整が可能となっている。そのため、移動体23に付与する加圧力を変化させ、移動体23に対するばね受け部材25aの鉛直方向の相対的な位置が変化しても、回転伝達部26cは移動体23の第1の係合部27aとの回転方向の係合を保つことができる。
【0027】
第1の回転伝達部26aの回転伝達部26cは、振動波モータの回転方向(駆動方向)にガタを有して第1の係合部27aと係合するように設けられている。そのガタの量は、振動波モータの回転(駆動)に伴って発生する回転方向の力がすべて制振ゴム24に作用した場合の、制振ゴム24の回転方向(駆動方向)の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体23とばね受け部材25aは制振ゴム24の摩擦力を利用せずに、第1の回転伝達部26aによって一体的に回転する。
第2の回転伝達部26bは円筒状に形成された金属製のピンであり、ばね受け部材25aに設けられた取付け穴部25gに焼嵌めや圧入等によって固定されている。
加圧ばね25cには第2の係合部27bが長穴形状に形成されており、加圧ばねゴム25bには第2の逃げ穴25eが設けられている。第2の回転伝達部26bは、加圧ばね25cの第2の係合部27bに回転方向に係合するとともに、鉛直方向及び径方向には位置の調整が可能となっている。そのため、加圧付与時に加圧ばね25cが変形しても、第2の係合部27bが第2の回転伝達部26bと回転方向の係合を保つことができる。
また、第2の回転伝達部26bは、振動波モータの回転方向にガタを有して第2の係合部27bと係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて加圧ばねゴム25bに作用した場合の、加圧ばねゴム25bの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、ばね受け部材25aと加圧ばね25cは加圧ばねゴム25bの摩擦力を利用せずに、第2の回転伝達部26bによって一体的に回転する。
【0028】
以上のように、2つの回転伝達部26a及び26bは、回転方向にガタを有して2つの係合部27a及び27bとそれぞれ係合するように設けられている。そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて制振ゴム24及び加圧ばねゴム25bに作用した場合の、それぞれの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体23の駆動力は、駆動力伝達部材を構成する制振ゴム24及び加圧ばねゴム25bの摩擦力を利用せず、駆動力伝達部材を構成する2つの回転伝達部26a及び26bによって不図示の出力軸に伝達される。
これにより、高いねじり剛性を維持したまま移動体23の駆動力を取り出すことができ、振動波モータの制御性能を向上させることができるようになる。
【0029】
また本実施例においても、第1の回転伝達部26aが制振ゴム24よりも外側に設けられているため、第1の回転伝達部26aの回転伝達部26cと第1の係合部27aとが係合するための逃げ穴を制振ゴム24に設ける必要がない。そのため、制振ゴム24は回転方向に均一に形成することができ、逃げ穴を設ける場合に比べ、移動体23とばね受け部材25aとの密着性を向上させることができる。これにより、振動波モータの駆動に伴って発生する移動体23の不要な振動を抑え、騒音や出力の低下を防止する効果を向上させることができる。
さらに、2つの回転伝達部26a及び26bは、移動体23、ばね受け部材25a及び加圧ばね25cとはそれぞれ別部材となっている。そのため、回転伝達部材26が一体的に形成されている場合に比べ、移動体23、ばね受け部材25a及び加圧ばね25cの加工が容易になる。
また、2つの回転伝達部26a及び26bを熱伝導率の高い金属で作製することで、移動体23から発生する熱を効率よく出力軸まで伝えることができるようになる。
【0030】
[実施例4]
実施例4として、上記各実施例と異なる形態の振動波モータの構成例について、図5を用いて説明する。
本実施例は、実施例1に対して、移動体や制振ゴム、加圧部材を図5(a)、(b)に示す構造とした点において相違する。
本実施例のその他の要素(振動体、出力軸等)は、上述した実施例1の対応するものと同一なので、説明を省略する。
なお、本実施例の図5(a)、(b)に示す構成は、図2(a)、(b)、図3(a)、(b)、図4(a)、(b)に対応している。図5(a)は、本実施例における振動波モータの一部を拡大した断面図である。図5(b)は、図5(a)の振動波モータの分解断面図である。
図5(a)、(b)において、回転伝達部材(駆動力伝達部材)36は、第1の回転伝達部36a(第1の駆動力伝達部)、第2の回転伝達部36b(第2の駆動力伝達部)及びねじ部36dから構成されている。そして、移動体33、ばね受け部材35a及び加圧ばね35cとはそれぞれ別部材となっている。
回転伝達部材36は、ばね受け部材35aに設けられたねじ取付け部35fと回転伝達部材36のねじ部36dが螺合し、ばね受け部材35aに締結されている。
移動体33には第1の係合部37aが長穴形状に形成されており、制振ゴム34には逃げ穴34aが設けられている。第1の回転伝達部36aは、移動体33の係合部37aに振動波モータの回転方向に係合するとともに、径方向及び鉛直方向には位置の調整が可能となっている。そのため、移動体33に付与する加圧力を変化させ、移動体33に対するばね受け部材35aの鉛直方向の相対的な位置が変化しても、回転伝達部36aは移動体33の第1の係合部37aとの回転方向の係合を保つことができる。
【0031】
第1の回転伝達部36aは、振動波モータの回転方向(駆動方向)にガタを有して第1の係合部37aと係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転(駆動)に伴って発生する回転方向(駆動方向)の力がすべて制振ゴム34に作用した場合の、制振ゴム34の回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。そのため、移動体33とばね受け部材35aは制振ゴム34の摩擦力を利用せずに、第1の回転伝達部36aによって一体的に回転する。
加圧ばね35cには第2の係合部37bが長穴形状に形成されており、加圧ばねゴム35bには第2の逃げ穴35eが設けられている。第2の回転伝達部36bは、加圧ばね35cの第2の係合部37bに回転方向に係合するとともに、鉛直方向及び径方向には位置の調整が可能となっている。そのため、加圧付与時に加圧ばね35cが変形しても、第2の係合部37bが第2の回転伝達部材36bと回転方向の係合を保つことができる。
また、第2の回転伝達部36bは、振動波モータの回転方向にガタを有して第2の係合部37bと係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて加圧ばねゴム35bに作用した場合の、加圧ばねゴム35bの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。そのため、ばね受け部材35aと加圧ばね35cは加圧ばねゴム35bの摩擦力を利用せずに、第2の回転伝達部36bによって一体的に回転する。
【0032】
以上のように、回転伝達部材36の2つの回転伝達部36a及び36bは、回転方向にガタを有して2つの係合部37a及び37bとそれぞれ係合するように設けられている。
そのガタの量は、振動波モータの回転に伴って発生する回転方向の力がすべて制振ゴム34及び加圧ばねゴム35bに作用した場合の、それぞれの回転方向の変形可能な量より十分小さくなるように設定されている。
そのため、移動体33の駆動力は、振動減衰部材を構成する制振ゴム34及び加圧ばねゴム35bの摩擦力を利用せずに、駆動力伝達部材を構成する回転伝達部材36によって不図示の出力軸に伝達される。
これにより、高いねじり剛性を維持したまま移動体33の駆動力を取り出すことができ、振動波モータの制御性能を向上させることができるようになる。
【0033】
また本実施例においても、回転伝達部材36は、移動体33、ばね受け部材35a及び加圧ばね35cとはそれぞれ別部材となっている。
そのため、回転伝達部材36が一体的に形成されている場合に比べ、移動体33、ばね受け部材35a及び加圧ばね35cの加工が容易になる。
さらに、回転伝達部材36は、1つの部品で2つの回転伝達部を有する構成となっており、2つの回転伝達部材を用いる場合に比べ、部品点数の削減によるコスト低下や、組立時間の短縮を図ることができる。
以上に説明したように、本発明の上記各実施例の構成によれば、移動体の駆動力を回転伝達部材によって出力軸に伝達する。
これにより、制振ゴムとばね受け部材によって不要な振動を抑制するとともに、移動体と出力軸の間のねじり剛性を高め、振動波モータの制御性能を向上させることができるようになる。
【符号の説明】
【0034】
1:ハウジング
2:振動体
2a:圧電素子
2b:振動体を構成する弾性体
2c:弾性体の基部
2d:弾性体の突起部
3:移動体
3a:移動体の円環状の本体部
3b:移動体の支持部
3c:移動体の接触部
3d:移動体の上面
4:制振ゴム
5:加圧部材
5a:ばね受け部材
5b:加圧ばねゴム
5c:加圧ばね
5d:ディスク
6:回転伝達部材
8:出力軸
9a、9b:ころがり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギー変換素子と、
前記電気−機械エネルギー変換素子に固定され、前記電気−機械エネルギー変換素子に電圧を印加することにより振動する振動体と、
前記振動体と加圧接触し、前記振動体により摩擦駆動される移動体と、
前記振動体と前記移動体とを前記加圧接触させる加圧部材と、
を有する振動波モータであって、
前記移動体と前記加圧部材との間に設けられ、前記振動波モータの駆動中に発生する不要な振動を抑制するための振動減衰部材と、
前記移動体と前記加圧部材との間に設けられ、前記移動体の駆動力を前記加圧部材に伝達するための駆動力伝達部材と、
を備え、
前記駆動力伝達部材は、前記振動減衰部材の摩擦力を利用せずに、前記移動体と前記加圧部材とを一体的に駆動することを特徴とする振動波モータ。
【請求項2】
前記駆動力伝達部材は、前記振動波モータの駆動方向にガタを有し、
前記振動波モータのガタの量は、前記振動波モータの駆動に伴って発生する駆動方向の力が全て前記振動減衰部材に作用した際における該振動減衰部材の駆動方向の変形可能な量よりも小さい量に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の振動波モータ。
【請求項3】
前記駆動力伝達部材は、前記移動体及び前記加圧部材とは別部材で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動波モータ。
【請求項4】
前記加圧部材は、
前記振動減衰部材を介して前記移動体との間に設けられるばね受け部材と、
前記ばね受け部材を介して前記移動体を前記振動体に加圧接触させる加圧ばねと、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動波モータ。
【請求項5】
前記加圧ばねは、前記ばね受け部材に弾性部材を介して設けられていることを特徴とする請求項4に記載の振動波モータ。
【請求項6】
前記駆動力伝達部材は、
前記移動体と前記ばね受け部材とを一体的に駆動するための第1の駆動伝達部と、
前記ばね受け部材と前記加圧ばねとを一体的に駆動するための第2の駆動伝達部と、
を備えることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の振動波モータ。
【請求項7】
前記第1の駆動伝達部と前記第2の駆動伝達部とが、前記ばね受け部材に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の振動波モータ。
【請求項8】
前記第1の駆動伝達部は、前記移動体に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の振動波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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