説明

振動波駆動装置

【課題】磨耗した摩擦部材だけを容易に交換することを可能とした振動波駆動装置を提供する。
【解決手段】振動波モータは、弾性体1、圧電素子2、摩擦部材3を備える。弾性体1及び圧電素子2からなる振動体は、圧電素子2により振動が励起される。移動体は、弾性体1に対して接触加圧力で押圧され弾性体1に励起された振動により弾性体1に対して相対的に移動される。摩擦部材3は、弾性体1と移動体との間に設けられ弾性体1の面と移動体の面に当接する接触面を有する。摩擦部材3は、その接触面が弾性体1と移動体の何れの接触面とも固着されていないと共に、弾性体1の接触面と一体的な挙動を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気−機械エネルギ変換素子を駆動源として弾性体に駆動振動を形成する振動体と該振動を外部出力として取り出す移動体とを有する振動波駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、振動波駆動装置は、駆動振動が形成される振動体と該振動体に加圧接触する移動体とを備え、振動体と移動体とを駆動振動により相対的に移動させるようにしたものである。振動波駆動装置の一種であるリング型振動型モータの基本構成を図9を用いて簡単に説明する。
【0003】
図9は、従来例に係るリング型振動波モータの構成を示す断面図である。リング型振動波モータを構成する弾性体101の一方の端面(図中の左側面)には、分極処理された2群の圧電素子を配置した構造の圧電素子102が同心円状に接着されている。弾性体101及び圧電素子102により振動体が構成されている。圧電素子102における弾性体101との接着面とは反対側の面には、圧電素子102に印加する駆動信号を入力するためのフレキシブル基板104が固着されている。
【0004】
弾性体101における圧電素子102との接着面とは反対側の面には、駆動効率を上げることを目的とした複数の溝が径方向に沿って形成されると共に周方向に規則的に(等間隔で)配置されている。複数の溝は櫛歯を形成している。弾性体101の各櫛歯の端面には、樹脂、金属、セラミックス等により構成される摩擦部材103が設けられている。弾性体101の内周部は、薄肉の円盤状に形成されており、円盤状部の内周側の弾性体固定部は、ベース105に接着あるいはネジにより固定されている。摩擦部材103の表面には、移動体106が接触している。
【0005】
ディスクフランジ109は、シャフト110に嵌合されている。板ばね108の内周部は、ディスクフランジ109により固定されており、板ばね108の外周部は、防振ゴム107を介して移動体106に当接している。これにより、移動体106は、板ばね108の付勢力により摩擦部材103を介して弾性体101に加圧接触される。また、シャフト110は、ベース105に取り付けられた軸受111、112により回転自在に支持されており、更に止め輪113により軸方向の移動が規制されることで板ばね108からの加圧反力を受けている。スペーサ114は、軸受111に予圧を与えてシャフト110の振れ回り量を低減している。
【0006】
上記構成において、圧電素子102に位相の異なる2つの高周波電圧を印加すると、弾性体101に周方向の進行性振動が励起される。これにより、弾性体101に圧接している移動体106が、弾性体101及び圧電素子102からなる振動体と移動体106との接触面同士の摩擦力により回転駆動される。
【0007】
他方、近年の振動波モータのコンシューマ機器への展開(搭載)に伴って、振動波モータの高耐久化が要望されている。振動波モータは、長時間の駆動により振動体が発生するトルクを移動体に伝達する摩擦部材の磨耗の進行によりモータ性能が劣化する。
【0008】
性能が劣化した振動波モータは、摩擦部材を交換するだけで初期性能を回復することが可能であることが多い。そのため、摩擦部材を容易に交換することができるならば、安価なメンテナンスにより振動波モータを初期状態に再生することが可能である。これを踏まえると、仮に振動波モータの耐久性が製品の寿命に対して不足していたとしても、継続的にメンテナンスすることを前提に振動波モータを高耐久製品へ搭載することが可能となる。
【0009】
また、振動波モータを構成する摩擦部材以外の部品のリサイクル化を図ることで、廃棄部品を削減する等の環境対策としての効果も得ることができる。特に、鉛成分を含有する電気−機械エネルギ変換素子である圧電素子を再利用することができる。
【0010】
このように、性能が劣化した振動波モータを摩擦部材の交換によって再生する技術が、将来的にコスト低下や環境問題に応える技術として重要度を増してくると予測されている。従って、摩擦部材を簡単に交換可能な振動波モータの構造が重要になってきている。
【0011】
従来、振動波モータの構成部品である摩擦部材を簡易的な手法により交換可能とする技術として図10及び図11に示すものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
図10は、リング型振動波モータの振動体の構成を示す断面図である。弾性体201は、振動体を構成し、振動の振幅を拡大するための櫛歯部201aを備える。圧電素子202は、リング形状の電気−機械エネルギ変換素子である。摩擦部材203は、弾性体201の櫛歯部201aに接着剤あるいは嵌合により固着されており、はみ出し部203aを備える。
【0013】
図11は、取り外し冶具を用いて摩擦部材を振動体から取り外す様子を示す図である。摩擦部材203を振動体から取り外すとき、摩擦部材203のはみ出し部203aのはみ出し量は、摩擦部材203を弾性体201の櫛歯部201aに対する固着力に打ち勝って取り外し冶具215、216により保持するのに十分な量となっている。
【特許文献1】特開2000−156987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、従来の振動波モータにおいて、摩擦部材203を振動体を構成する弾性体201の櫛歯部201aに接着剤あるいは嵌合により固着する方式は固着力が強固である。そのため、振動体からの摩擦部材203の取り付け・取り外しのどちらの場合でもしっかりとした冶具立てが必要である。
【0015】
また、摩擦部材203を櫛歯部201aに接着剤で固着する方式では接着剤のカスが残り、摩擦部材203を櫛歯部201aに嵌合する方式では嵌合凹部に切断された摩擦部材が残るといったことが剥離工程で発生する。そのため、市販される製品の内部に搭載された振動波モータを製品外部からメンテナンスすることができず、修理に手間とコストを要する。従って、振動波モータにおいて摩擦部材をより簡単に交換可能とする構造が要望されている。
【0016】
本発明の目的は、磨耗した摩擦部材だけを容易に交換することを可能とした振動波駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の目的を達成するために、本発明は、電気−機械エネルギ変換素子により振動が励起される振動体と、前記振動体に対して接触加圧力で押圧され前記振動体に励起された振動により前記振動体に対して相対的に移動される移動体と、前記振動体と前記移動体との間に設けられ前記振動体の面と前記移動体の面に当接する接触面を有する摩擦部材とを備え、前記摩擦部材は、前記摩擦部材の接触面が前記振動体と前記移動体の何れの接触面とも固着されていないと共に、前記振動体または前記移動体の何れか一方の接触面と一体的な挙動を示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、摩擦部材は、その接触面が振動体と移動体の何れの接触面とも固着されていないと共に、振動体または移動体の何れか一方の接触面と一体的な挙動を示す。
【0019】
従って、磨耗した摩擦部材だけを容易に交換して振動波駆動装置を再生することが可能となるため、従来のように振動波駆動装置全体あるいは摩擦部材が固着された振動体全体を交換することが不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動波駆動装置としての振動波モータの構成を示す図であり、(a)は、弾性体1を示す斜視図、(b)は、摩擦部材3を示す斜視図である。図2は、弾性体1と摩擦部材3を位置決めして重ね合わせた状態を示す斜視図である。
【0022】
図1、図2において、振動波モータは、弾性体1、電気量(電圧)と機械量(振動)の相互変換を行う電気−機械エネルギ変換素子としての圧電素子2、摩擦部材3を備えている。振動波モータにおいては、弾性体1及び圧電素子2により振動体が構成されており、圧電素子2を駆動源として弾性体1に振動を励起し、該振動に伴う接触加圧力により移動体(図3参照)を押圧する。なお、図1、図2では、振動波モータを構成する他の部品(移動体、シャフト、軸受、ベース、フランジ、板ばね等)の図示は省略している。
【0023】
弾性体1は、可撓性を有するリング形状の金属材料(例えばステンレスあるいはリン青銅)から形成されており、櫛歯部1aを有する振動部1bと、円盤状部1cと、弾性体固定部1dを備えている。弾性体1の最外周部を構成する厚いリング部は、振動部1bとして構成されている。弾性体1の振動部1bの一方の端面には、駆動効率を上げることを目的とした複数の溝が形成されている。複数の溝は、弾性体1の径方向に沿って形成されると共に弾性体1の周方向に規則的に(等間隔で)配置されている。複数の溝により櫛歯部1aを構成している。
【0024】
弾性体1の振動部1bの内周側は、薄肉の円盤状部1cとして構成されている。更に、弾性体1の円盤状部1cの内周側は、中央に貫通孔を有する弾性体固定部1dとして構成されている。弾性体1の弾性体固定部1dは、ベース(不図示)に対して接着あるいはネジによる締結あるいは嵌合等により固定される。また、弾性体1の弾性体固定部1dは、後述する摩擦部材3の取付け部3cに固定される。
【0025】
摩擦部材3は、金属材料から形成されており、リング形状に形成された取付け部3cと、取付け部3cから外周側へ放射状に延出された複数の腕部3dと、複数の腕部3dからそれぞれ延出された複数の摩擦部3bを備えている。摩擦部材3の取付け部3cからは、可撓性を有する複数の腕部3dが周方向にスリットを介して放射状に延出され一体に設けられている。摩擦部材3の複数の腕部3dの先端には、複数の摩擦部3bがそれぞれ一体に設けられている。
【0026】
摩擦部材3の摩擦部3bは、対向する二つの接触面(図1(b)の表側の面と裏側の面)を有する。摩擦部材3の摩擦部3bの二つの接触面は、それぞれ弾性体1の接触面及び移動体の接触面と接触部を構成し、それぞれ弾性体1の接触面及び移動体の接触面と当接する。なお、本実施の形態では、接触加圧力が伝達付加される方向に当接する2つの部品双方の面を接触面と表現し、当接する2つの部品双方の接触面からなる領域を接触部と表現する。
【0027】
摩擦部材3を形成する金属材料はプレス加工で成型する。まず、プレス加工により薄肉平板から放射状に打ち抜き、打ち抜いた摩擦部材3となる板金を折り曲げ加工した後、折り曲げた板金すなわち摩擦部材3の摩擦部3bの少なくとも一方の接触面を、研磨加工により研磨する。研磨加工は、摩擦部材3を弾性体1に取り付ける前の時点で行う。
【0028】
摩擦部材3の摩擦部3bのもう一方の接触面は、摩擦部3bの厚みムラを抑制するなどといった理由で必要であるならば、折り曲げ加工前や加工後に研磨することも可能であるが、ここでは圧延された板金の表面をそのまま使用している。摩擦部材3の摩擦部3bにおける研磨した側の接触面は、滑りを伴って弾性体1の振動部から駆動力が伝達される移動体(不図示)との接触面として使用される。
【0029】
摩擦部材3と弾性体1とは、摩擦部材3の周方向にスリットを介して各々分離されている複数の摩擦部3bの先端により形成される円と、弾性体1の複数の櫛歯部1aの先端により形成される円とが同心円状になるように位置決めされ重ね合わせられる。弾性体1の弾性体固定部1dには、摩擦部材3の取付け部3cがネジによる締結あるいは止め輪による拘束などの容易な固定手段により固定される。これにより、摩擦部材3の容易な交換を可能としている。
【0030】
なお、摩擦部材3の取付け部3cは、弾性体1の弾性体固定部1dへの固定に限定されるものではなく、弾性体1自体が設置されるベース(不図示)に固定してもよい。ただし、摩擦部材3の取付け部3cは、弾性体1の振動特性に影響を与える振動部への固定は避けている。即ち、摩擦部材3の取付け部3cは、弾性体1の振動部における摩擦部材3との接触面以外の箇所に固定される。
【0031】
弾性体1と摩擦部材3の双方の接触面からなる接触部は、双方の接触面同士で固着されていない。摩擦部材3を弾性体1から取り外す場合は、摩擦部材3の取付け部3cの固定手段(ネジや止め輪など)を解放することで、摩擦部材3を容易に取り外しすることが可能である。また、摩擦部材3と移動体の双方の接触面からなる接触部は、双方の接触面同士で固着されていない。なお、ここでの固着とは、接着剤や半田等による強固な結合、焼き嵌めや圧入等の嵌合など、着脱が困難な固定手段による固着を指す。
【0032】
弾性体1の弾性体固定部1dに摩擦部材3の取付け部3cを固定する際に、摩擦部材3の摩擦部3bは、ばね性を有する腕部3dの弾性変形で発生する加圧力により弾性体1の櫛歯部1aの端面に押し付けられる。また、摩擦部材3における複数の摩擦部3bの間に周方向に所定間隔で形成されている複数のスリットと、複数の腕部3dの間に周方向に所定間隔で形成されている複数のスリットは、弾性体1の溝と同じピッチで設けられている。
【0033】
弾性体1と摩擦部材3を組み立てる際は、図2に示すように摩擦部材3の摩擦部3bの先端と弾性体1の櫛歯部1aの先端の周方向位置が一致するように、摩擦部材3を弾性体1に位置決めして重ね合わせる。なお、摩擦部材3の腕部3dがばね性を持たない場合、摩擦部材3の摩擦部3bを弾性体1の櫛歯部1aの端面に押し付ける別の方法としては、次の方法が考えられる。
【0034】
摩擦部材3と弾性体1を磁性体により形成し、磁化された摩擦部材3と弾性体1のうち何れか一方の接触面にもう一方の接触面が引きつけられるようにしてもよい。あるいは、摩擦部材3と弾性体1の何れか一方を磁化し、何れか一方の接触面にもう一方の接触面が引きつけられるようにしてもよい。
【0035】
次に、上記構成を有する本実施の形態の振動波モータにおける摩擦部材3と弾性体1及び移動体の挙動を図3及び図4に基づき説明する。
【0036】
図3は、振動波モータにおける弾性体1の振動部と移動体の振動部の上下から摩擦部材3に対し加圧力を付加する状態を示す模式図である。図4は、弾性体1に対する正弦波状の曲げ変形の発生により弾性体1の振動部に楕円運動が生成される状態を示す模式図である。
【0037】
図3において、Aは弾性体1の振動部、Bは移動体の振動部を示す。振動波モータにおいて、弾性体1の振動部Aの下方から矢印Y1方向に、移動体の振動部Bの上方から矢印Y2方向に、板ばね(不図示)による接触加圧力をそれぞれ付加する。これにより、弾性体1と移動体の双方の接触面の間に介在している摩擦部材3が挟持される。
【0038】
また、摩擦部材3を弾性体1に押圧する矢印Y3方向の加圧力は、摩擦部材3の腕部3d(図1参照、図3では不図示)により発生される加圧力によるものである。従って、振動波モータを組み立てた状態において摩擦部材3と弾性体1の間には、板ばね(ばね部材)による接触加圧力と摩擦部材3の腕部3dによる加圧力の両方が付加されている。
【0039】
なお、図3における移動体の振動部Bとは、振動波モータの駆動中における弾性体1と移動体との接触を安定化させるためのばね構造を有し、このばね構造が振動体の駆動振動に応答して同一周波数で振動しているものとする。
【0040】
圧電素子2へ駆動部(不図示)から入力された駆動信号により、弾性体1に対して駆動に必要な正弦波状の曲げ変形が発生すると、弾性体1の振動部Aは図4に示すような楕円運動Cを生成する。摩擦部材3の摩擦部3bは、腕部3dの加圧力により常に弾性体1の接触面に押圧されると共に、発生する摩擦力により周方向の変位にも追従する。これにより、弾性体1の振動部Aの楕円運動(楕円軌道)Cに倣って、摩擦部材3も同一の周波数で楕円運動Dを生成する。なお、図4における水平な矢印で示す方向は移動体の移動方向である。
【0041】
また、弾性体1の振動部Aの駆動振動により、周方向に沿って等間隔で配置された複数の櫛歯部1aにおいて隣接する櫛歯部1aの間には相対的な変位が発生する。本実施の形態では、摩擦部材3が放射形状であり周方向に分離されると共にそれぞれの摩擦部3bが周方向に可撓性を有する。従って、弾性体1の隣接する櫛歯部1aの間の相対的な変位に対しては、櫛歯部1aの先端(端面)の挙動を忠実に移動体に対して伝達することができる。
【0042】
ただし、摩擦部材を金属材料ではなく樹脂性材料のように剛性の低い材料から形成した場合は、周方向の歪に十分対応可能であるから、リング形状の摩擦部材を用いても不都合はない。また、摩擦部材をリング形状の金属材料から形成した場合、摩擦部材における弾性体1の溝部に重ね合わせる部分を摩擦部材の他の部分よりも薄く形成して低剛性部に構成してもよい。また、摩擦部材における弾性体1の溝部に重ね合わせる部分をプレス加工で溝部の深さ方向に突出する断面V字状(ばね構造)に構成してもよい。これにより、周方向に可撓性を持たせることができ、同様の効果が得られる。
【0043】
本実施の形態では、以上の構造より、振動波モータを構成する摩擦部材3は弾性体1と一体的に楕円運動D(図4参照)を発生する。即ち、摩擦部材3は弾性体1の接触面と一体的な挙動を示す。
【0044】
本実施の形態の振動波モータは、磨耗した摩擦部材3を容易に交換可能とすることで、摩擦部材3以外の部品の再利用を可能とすることを目的としたものである。そのため、再利用する弾性体1及び移動体の接触面と比較して、簡単に交換可能な摩擦部材3の接触面の磨耗量が多くなる組み合せであることが好ましい。具体的には、摩擦部材3の接触面の硬度が、該接触面に相対する弾性体1の接触面あるいは移動体の接触面の硬度よりも低いことが望ましい。
【0045】
従って、弾性体及び移動体の接触面が例えばセラミックスやステンレス窒化面である場合、摩擦部材3の接触面をステンレスやアルミ等を組み合せたものとしてもよい。もう一つ例を挙げると、弾性体と移動体の接触面がステンレスやアルミ等である場合、摩擦部材3の接触面を樹脂材料としてもよい。
【0046】
また、摩擦部材3の摩擦部3bを樹脂材料により形成する場合は、腕部3dにおいて十分なばね性が得られない。そこで、図5に示すように、摩擦部材3の取付け部3cから一体的に成型される金属材料からなる摩擦部3bの表面及び裏面に樹脂材料15を固着することで、摩擦部材3の接触面を形成すればよい。
【0047】
更に、本実施の形態の摩擦部材3の形状から得られる特徴について説明する。摩擦部材は、弾性体の複数の櫛歯部の接触面に相対する面が水平面にならない場合でも使用することが可能である。例えば図6に示すように球体駆動用の弾性体11の櫛歯部11aの接触面が水平面ではなく球体を支持するために傾斜面となっている場合、従来、弾性体11に固着された摩擦部材13の接触面を研磨することは困難であった。
【0048】
しかし、本実施形態であれば、摩擦部材13単体で研磨加工を済ませ、摩擦部材13を弾性体11に取り付ける段階で摩擦部材13の摩擦部13bが弾性体11の櫛歯部11aの接触面の形状に倣い、傾斜した接触面を形成することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によれば、摩擦部材3は、該摩擦部材3の接触面が弾性体1と移動体の何れの接触面とも固着されていないと共に、弾性体1の接触面と一体的な挙動を示す。従って、磨耗した摩擦部材だけを容易に交換して振動波モータを再生することが可能となるため、従来のように振動波モータ全体あるいは摩擦部材が固着された振動体全体を交換することが不要となる。
【0050】
これにより、摩擦部材の簡易的な交換作業を伴うことを前提とした場合でもコストのかさむメンテナンスは不用となるため、今後ますます高耐久製品への振動波モータの搭載が容易になる。また、摩擦部材以外の部品のリサイクル化により廃棄部品を削減する等の環境対策としての効果も得ることが可能となる。特に、鉛成分を含有する電気−機械エネルギ変換素子である圧電素子を再利用することが可能となる。
【0051】
〔第2の実施の形態〕
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る振動波駆動装置としての振動波モータの摩擦部材の構成を示す斜視図である。
【0052】
図7において、振動波モータの摩擦部材23は、リング形状の金属材料から形成されており、薄肉円盤状に形成された取付け部23cと、取付け部23cの外周側に鍔状に形成された摩擦部23bを備えている。摩擦部材23の摩擦部23bは、対向する二つの接触面(図7の表側の面と裏側の面)を有する。摩擦部材23の摩擦部23bの二つの接触面は、それぞれ弾性体1の接触面及び移動体の接触面と接触部を構成し、それぞれ弾性体の接触面及び移動体の接触面と当接する。本実施の形態では、摩擦部材23は移動体の接触面と一体的な挙動を示す。
【0053】
摩擦部材23を形成する金属材料はプレス加工で成型する。まず、プレス加工により薄肉平板から摩擦部材23となる板金を打ち抜いた後、打ち抜いた板金すなわち摩擦部材23の摩擦部23bの少なくとも一方の接触面を、研磨加工により研磨する。研磨加工は、摩擦部材23を弾性体に取り付ける前の時点で行う。
【0054】
摩擦部材23の摩擦部23bのもう一方の接触面は、摩擦部23bの厚みムラを抑制するなどといった理由で必要であるならば、打ち抜き加工後に研磨することも可能であるが、ここでは圧延された板金の表面をそのまま使用している。摩擦部材23の摩擦部23bにおける研磨した側の接触面は、滑りを伴って駆動力を伝達する弾性体1(図1(a)参照)との接触面として使用される。
【0055】
摩擦部材23と弾性体1とは、鍔状の摩擦部23bの外周円と、弾性体1の複数の櫛歯部1aの先端により形成される円とが同心円状になるように位置決めされ重ね合わせられる。摩擦部材23は、振動部ではない回転部品(例えばシャフト等)に回転自在な状態で設置する。ただし、弾性体1の振動特性に影響を与える振動部への固定は避けている。なお、摩擦部材23の接触面と移動体の接触面からなる接触部は、接触面同士で固着されていないため、振動波モータから摩擦部材23を容易に取り外すことが可能である。
【0056】
次に、上記構成を有する本実施の形態の振動波モータにおける摩擦部材23と弾性体1及び移動体の挙動を図8に基づき説明する。
【0057】
図8は、振動波モータにおける弾性体の振動部と移動体の振動部により摩擦部材23に対し上下から加圧力を付加する状態を示す模式図である。
【0058】
図8において、Aは弾性体1の振動部、Bは移動体の振動部を示す。振動波モータにおいて、弾性体1の振動部Aの下方から矢印Y1方向に、移動体の振動部Bの上方から矢印Y2方向に、板ばね(不図示)による接触加圧力をそれぞれ付加する。これにより、弾性体1と移動体の双方の接触面の間に介在している摩擦部材23が挟持される。
【0059】
圧電素子2へ駆動部(不図示)から入力された駆動信号により、弾性体1に対して駆動に必要な正弦波状の曲げ変形が発生すると、弾性体1の振動部A及び移動体の振動部Bと摩擦部材23とは次の状態となる。圧電素子2による曲げ振動振幅と移動体が有するばね性と接触加圧力の関係により決まる安定した接触状態となる。安定した接触状態において、摩擦部材23と弾性体1(振動体)の接触部では、適度な沈み込み量を維持しながら一方向の駆動力が移動体に伝達される。
【0060】
しかし、摩擦部材23は弾性体1と移動体のどちらにも固着されていないため、振動波モータの駆動条件によっては摩擦部材23が移動体と一体的な挙動を示さないことがある。このような場合は、移動体の加速時/減速時の動きが不安定になり易く制御応答性が低下する。従って、摩擦部材23と移動体が常に一体的な挙動を示すように、摩擦部材23を挟む両接触部(摩擦部材23と弾性体1の接触部、摩擦部材23と移動体の接触部)のうち移動体との接触部が発生する摩擦力を積極的に大きくすることが必要である。以下、その5つの手法について説明する。
【0061】
第1の手法では、摩擦部材23を挟む両接触部の摩擦係数に差を設ける。摩擦部材23は、プレス加工で打ち抜いたステンレスと、ビク型等でシートから抜いた樹脂材料を接着した2層構造リングである。摩擦部材23の二つの接触面のうち、ステンレスは移動体側の接触面を構成し、樹脂材料は振動体(弾性体及び圧電素子)側の接触面を構成する。振動体及び移動体の接触面の材料が共にステンレスである場合、摩擦部材23と移動体の接触部の摩擦係数は約0.6、摩擦部材23と振動体の接触部の摩擦係数は約0.2と大きな差を設けることができる。これにより、摩擦部材23における移動体側の摩擦部に発生する摩擦力が十分に大きくなり、摩擦部材23は常に移動体と一体的な挙動を示す。
【0062】
また、第2の手法では、摩擦部材23の何れか一方の接触面の表面粗さを大きく設定する。表面粗さにより同じ材質の組み合せでも摩擦係数を1割〜2割程度大きくすることができる。摩擦部材23における移動体との接触面側は一体的な挙動を示すため界面には微小滑りが発生するだけである。従って、振動波モータの長時間の駆動後も初期の表面粗さに極端な変化が生じることはなく、常にもう一方の接触部の摩擦係数よりも大きくなる設定を維持することが可能である。
【0063】
また、第3の手法では、金属材料からなる摩擦部材23における一方の接触面に、プレス加工により高さ1mm未満の多数の微小突起を成型する。振動体と移動体の接触面は共に樹脂材料の摩擦材であり、摩擦部材23の上記微小突起が配置された接触面を移動体の接触面側に対向させる。移動体の接触面は樹脂材料であるから、微小突起が容易に突き刺さり見かけ上の摩擦係数を大きくすることができる。
【0064】
また、第4の手法では、摩擦部材23と移動体の両方の接触面に異方性のある加工痕を設ける。例えば、平面研削盤等を用いた一方向に加工による傷が残るような加工方法により、摩擦部材23の一方の接触面と移動体の接触面を仕上げる。そして、この2つの接触面の方向が一致するように配置した接触部は、一般的な振動波モータの接触面のような研磨面と比較して見かけ上の摩擦係数を大きくすることができる。
【0065】
また、第5の手法では、摩擦部材23と振動体及び移動体との間の接触部における摺動する径の大きさに差を設ける。接触加圧力と摩擦係数がほぼ一致しているときの接触部での摩擦力の大きさはほぼ同じである。しかし、摩擦部材23と移動体の接触部(両接触面)における摺動する径を、摩擦部材23と振動体の接触部(両接触面)における摺動する径よりも大きく設定することで、トルクで比較するときに移動体側の接触部のグリップ力を大きくすることができる。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態によれば、摩擦部材23は、該摩擦部材23の接触面が弾性体1と移動体の何れの接触面とも固着されていないと共に、移動体の接触面と一体的な挙動を示す。従って、磨耗した摩擦部材だけを容易に交換して振動波モータを再生することが可能となるため、従来のように振動波モータ全体あるいは摩擦部材が固着された振動体全体を交換することが不要となる。
【0067】
これにより、摩擦部材の簡易的な交換作業を伴うことを前提とした場合でもコストのかさむメンテナンスは不用となるため、今後ますます高耐久製品への振動波モータの搭載が容易になる。また、摩擦部材以外の部品のリサイクル化により廃棄部品を削減する等の環境対策としての効果も得ることが可能となる。特に、鉛成分を含有する電気−機械エネルギ変換素子である圧電素子を再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る振動波駆動装置としての振動波モータの構成を示す図であり、(a)は、弾性体を示す斜視図、(b)は、摩擦部材を示す斜視図である。
【図2】弾性体と摩擦部材を位置決めして重ね合わせた状態を示す斜視図である。
【図3】弾性体の振動部と移動体の振動部の上下から摩擦部材に対して加圧力を付加する状態を示す模式図である。
【図4】弾性体に対する正弦波状の曲げ変形の発生により弾性体の振動部に楕円運動が生成される状態を示す模式図である。
【図5】摩擦部材の摩擦部に樹脂材料を固着した状態を示す断面図である。
【図6】摩擦部材の摩擦部が弾性体の櫛歯部の接触面形状に倣い傾斜した接触面を形成した状態を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る振動波駆動装置としての振動波モータの摩擦部材の構成を示す斜視図である。
【図8】弾性体の振動部と移動体の振動部により摩擦部材に対し上下から加圧力を付加する状態を示す模式図である。
【図9】従来例に係るリング型振動波モータの構成を示す断面図である。
【図10】リング型振動波モータの振動体の構成を示す断面図である。
【図11】取り外し冶具を用いて摩擦部材を振動体から取り外す様子を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1、11 弾性体
1a 櫛歯部
1b 振動部
1c 円盤状部
1d 弾性体固定部
2 圧電素子
3、13、23 摩擦部材
3b 摩擦部
3c 取付け部
3d 腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気−機械エネルギ変換素子により振動が励起される振動体と、
前記振動体に対して接触加圧力で押圧され前記振動体に励起された振動により前記振動体に対して相対的に移動される移動体と、
前記振動体と前記移動体との間に設けられ前記振動体の面と前記移動体の面に当接する接触面を有する摩擦部材とを備え、
前記摩擦部材は、前記摩擦部材の接触面が前記振動体と前記移動体の何れの接触面とも固着されていないと共に、前記振動体または前記移動体の何れか一方の接触面と一体的な挙動を示すことを特徴とする振動波駆動装置。
【請求項2】
前記摩擦部材は、前記振動体の接触面以外の箇所に固定される取付け部と、前記取付け部から外周側へ放射状に延出された可撓性を有する複数の腕部と、前記複数の腕部からそれぞれ延出された複数の摩擦部とを有するリング形状であることを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項3】
前記摩擦部材は、前記振動体の接触面以外の箇所に固定される取付け部と、前記取付け部の外周側に沿って設けられた摩擦部とを有するリング形状であることを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項4】
前記摩擦部材における、前記振動体または前記移動体の何れか一方の接触面ではない他方の接触面に対する接触面の硬度は、前記他方の接触面の硬度よりも低いことを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項5】
前記摩擦部材における前記振動体と前記移動体に対する二つの接触面は、異なる材質により形成されていることを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項6】
前記摩擦部材における前記振動体と前記移動体に対する二つの接触面は、表面粗さが異なることを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項7】
前記摩擦部材の前記移動体に対する接触面に微小突起を設け、前記移動体の接触面を前記微小突起が突き刺さることが可能な材料により形成したことを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項8】
前記摩擦部材と前記移動体の両方の接触面に異方性のある加工痕を設けたことを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項9】
前記摩擦部材と前記移動体の両方の接触面における摺動する径の大きさと、前記摩擦部材と前記振動体の両方の接触面における摺動する径の大きさとに差を設けたことを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。
【請求項10】
前記摩擦部材は、前記振動体に対してばね部材による接触加圧力と前記腕部による加圧力により押圧されることを特徴とする請求項2記載の振動波駆動装置。
【請求項11】
前記振動体あるいは前記摩擦部材の何れか一方が磁化されていることを特徴とする請求項1記載の振動波駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−201319(P2009−201319A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42965(P2008−42965)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】