説明

振動評価装置及び方法

【課題】原子炉内構造物の振動状態を好適に評価できること。
【解決手段】ジェットポンプ13の複数の測定点における振動に関するデータを測定する複数のセンサ(歪ゲージ42、加速度計43、超音波センサ)と、ジェットポンプの数値構造解析モデルを用いて振動解析を実施し、当該ジェットポンプの振動状態を求める振動解析部44と、この振動解析部の振動解析による前記測定点に対応する測定点対応位置での解析結果と前記センサによる測定データとが合致している場合に、ジェットポンプの各位置における振動状態を、前記数値構造解析モデルを用いて推定し評価する評価部45とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動評価装置に係り、特に沸騰水型原子炉におけるジェットポンプなどの原子炉内構造物の振動を評価する振動評価装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉において炉水流量の調整に用いられる再循環系機器の1つであるジェットポンプでは、内部を流れる流体のために流体振動が生じる。この振動を低減するために、インレットミキサー管とライザブラケットの間にウェッジ(楔)を挿入する方法が用いられている。しかし、原子炉運転中に、流体振動によってウェッジに摩耗が発生すると、ジェットポンプ、特にインレットミキサー管の振動が増加することが知られている。現状では、定期検査中に目視検査によりウェッジの摩耗状態を検知し、必要ならウェッジの交換を行っているが、この作業により定期検査期間が延長する恐れがある。また、原子炉運転中にウェッジが交換すべき摩耗状態に達しても、それを判断できる手法がない。
【0003】
一方、定期検査中等にジェットポンプの分解点検を実施し、このジェットポンプを再度据付けた場合、インレットミキサー管とジェットポンプディフューザとの間で偏芯が生じたり、甚だしい場合にはこれらが接触する恐れがあり、これもジェットポンプの振動状態の変化の原因となる。このような振動状態の変化を評価し、原因を究明する技術を開発する必要がある。
【0004】
減肉・摩耗の検知については、次のような技術が知られている。一つは、配管の肉厚を肉厚測定器にて測定した後に、この肉厚測定器のデータ送受信部から肉厚測定データを、データベースを有するコンピュータへ送信するものである(特許文献1参照)。
【0005】
他の一つは、原子炉制御棒組立体の制御棒の表面に光センサから光ビームを投射して、制御棒表面の摩耗量を測定するものである(特許文献2参照)。
【0006】
また、特許文献3及び4には、配管に加速度計を取り付け、この加速度計にて測定した加速度信号により、所定の解析モデル(振動モデル)を用いて、配管に発生する応力を求めるものが知られている。
【特許文献1】特開2001−280600号公報
【特許文献2】特開平10−20066号公報
【特許文献3】特開平4−254734号公報
【特許文献4】特開平9−145530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の技術(肉厚管理システム)では、測定器にデータ送受信部を具備することから、高温、高圧、高放射線にさらされる原子炉内構造物に適用することが困難である。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術(原子炉制御棒組立体の棒摩耗測定方法)は、原子炉内機器への適用例であるが、実用上、定期検査などの原子炉運転停止中でなければ測定が困難であり、原子炉運転中に摩耗量を監視することができない。
【0009】
更に、特許文献3及び4に記載の技術(配管系の応力評価装置、配管系疲労評価装置)は、評価対象物が配管であり、この配管の応力を、解析モデルを用いて解析により求めるものであり、配管の振動状態を解析により求めて評価するものではない。まして、この技術では、原子炉運転中に高温、高圧、高放射線にさらされる領域に設置された原子炉内構造物の振動状態を評価し、その原因となる、例えばジェットポンプのウェッジ摩耗量や、ジェットポンプのインレットミキサー管のジェットポンプディフューザに対する偏芯量または衝突の有無を把握することは困難である。
【0010】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、原子炉内構造物の振動状態を好適に評価できる振動評価装置及び方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、評価対象物の劣化等不具合状態を好適に評価できる振動評価装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る振動評価装置は、原子炉内構造物の複数の測定点における振動に関するデータを測定する複数のセンサと、前記原子炉内構造物の数値構造解析モデルを用いて振動解析を実施し、当該原子炉内構造物の振動状態を求める振動解析部と、この振動解析部の振動解析による前記測定点に対応する位置での解析結果と前記センサによる測定データとが合致している場合に、前記原子炉内構造物の各位置における振動状態を、前記数値構造解析モデルを用いて推定し評価する評価部と、を有することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る振動評価方法は、原子炉内構造物の複数の測定点における振動に関するデータを複数のセンサにより測定する測定ステップと、前記原子炉内構造物の数値構造解析モデルを用いて振動解析を実施し、当該原子炉内構造物の振動状態を求める振動解析ステップと、この振動解析ステップの振動解析による前記測定点に対応する位置での解析結果と前記センサによる測定データとが合致している場合に、前記原子炉内構造物の各位置における振動状態を、前記数値構造解析モデルを用いて推定し評価する評価ステップと、を有することを特徴とするものである。
【0014】
更に,本発明に係る振動評価装置は、評価対象物の測定点における振動に関するデータを測定するセンサと、前記評価対象物の数値構造解析モデルを用い、当該評価対象物の劣化等不具合状態を変化させて振動解析を実施し、当該評価対象物の劣化等不具合状態毎に振動状態を求める振動解析部と、前記評価対象物の劣化等不具合状態と振動状態とを関連付けた関連データを備え、前記センサにて測定された測定データにより前記評価対象物の振動状態が変化したと判断したときに、前記関連データを用いて前記評価対象物の劣化等不具合状態を推定して評価する評価部と、を有することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係る振動評価方法は、評価対象物の測定点における振動に関するデータをセンサにより測定する測定ステップと、前記評価対象物の数値構造解析モデルを用い、当該評価対象物の劣化等不具合状態を変化させて振動解析を実施し、当該評価対象物の劣化等不具合状態毎に振動状態を求める振動解析ステップと、前記測定ステップにて測定した測定データにより前記評価対象物の振動状態が変化したと判断したときに、前記評価対象物の劣化等不具合状態と振動状態とを関連付けた関連データを用いて、当該評価対象物の劣化等不具合状態を推定して評価する評価ステップと、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る振動評価装置及び方法によれば、原子炉内構造物の数値構造解析モデルを用いて原子炉内構造物の振動状態を好適に評価できる。
【0017】
また、本発明に係る振動評価装置及び方法によれば、評価対象物の数値構造解析モデルを用いて求められた、評価対象物の劣化等不具合状態と振動状態との関連データを用いて、評価対象物の振動状態の変化から当該評価対象物の劣化等不具合状態を好適に評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
[A]第1の実施の形態(図1〜図8)
図1は、本発明に係る振動評価装置の第1の実施の形態が適用された沸騰水型原子炉を示す縦断面図である。図2は、図1のジェットポンプを示す正面図である。図5は、図1及び図2のジェットポンプと共に、振動評価装置の構成を示す構成図である。
【0020】
図5に示す振動評価装置10は、例えば図1に示す沸騰水型原子炉11に適用されたものであり、原子炉圧力容器12内に設置された評価対象物としての原子炉内構造物であるジェットポンプ13や蒸気乾燥器21等(本実施の形態ではジェットポンプ13)の振動状態を、数値構造解析モデル41(図6)を用いて評価するものである。
【0021】
ここで、沸騰水型原子炉11は、図1に示すように、原子炉圧力容器12内に炉心14を収容し、この炉心14を構成する多数の燃料集合体(不図示)は、シュラウド15に囲まれると共に、炉心支持板16及び上部格子板17によって支持されて構成されている。シュラウド15の上部はシュラウドヘッド18により閉塞され、このシュラウドヘッド18にスタンドパイプ19を経て気水分離器20が設置される。原子炉圧力容器12内には、気水分離器20の上方に蒸気乾燥器21が配置される。
【0022】
炉心14にて発生した蒸気は、気水分離器20にて水分が分離され、蒸気乾燥器21にて乾燥されて上部ドーム22に至り、主蒸気ノズル23から主蒸気系を経てタービン系へ至る。(共に図示せず)。タービン系で仕事した蒸気は復水となり、給水管24を経て原子炉圧力容器12内へ冷却材32として供給される。この冷却材(炉水)32は、原子炉再循環系25の再循環ポンプ26により昇圧され、原子炉圧力容器12とシュラウド15との間の環状部に複数本配置されたジェットポンプ13によって、炉心14の下方の下部プレナム27へ導かれる。
【0023】
複数のジェットポンプ13は、原子炉圧力容器12とシュラウド15との間の環状部に設置されたポンプデッキ28上に、炉心14の周方向に沿って均等に配置される。また、各ジェットポンプ13は、図2に示すように、再循環ポンプ26にて昇圧された冷却材32をライザ管29へ導き、更にエルボ管30を経てノズル部31へ導くことにより、このノズル部31で周囲の冷却材32を取り込み、これらの冷却材32をインレットミキサー管33内で混合した後、ジェットポンプディフューザ34から炉心14の下方へ吐出する。
【0024】
インレットミキサー管33は、図4に示すように、最下端がジェットポンプディフューザ34に隙間部40Aを有して嵌合されており、この嵌合部分がスリップジョイント40と称される。インレットミキサー管33は、図3にも示すように、ライザ管29に設置されたライザブラケット35を用い、ウェッジ(楔)36及びセットスクリュー36Aを介して支持される。これにより、インレットミキサー管33とジェットポンプディフューザ34のそれぞれの中心軸O1、O2が一致して配置される。従って、インレットミキサー管33は、スリップジョイント40の隙間部40Aを流れる冷却材32の流れαによる振動によっても、ジェットポンプディフュ−ザ34に衝突しないように調整される。
【0025】
ところが、スリップジョイント40の隙間部40Aを流れる流体の振動によって、ライザブラケット35とウェッジ36との間や、ライザブラケット35とセットスクリュー36Aとの間で摺動摩耗が発生し、これらの間に隙間が生ずる可能性がある。この隙間が一旦発生すると、スリップジョイント40の隙間部40Aを流れる冷却材32の流れαの変動が増加するため、ライザブラケット35とウェッジ36との間や、ライザブラケット35とセットスクリュー36Aとの間で摺動摩耗が更に増大し、最終的には、インレットミキサー管33がジェットポンプディフューザ34に衝突する可能性がある。また、スリップジョイント40の隙間部40Aの変動は、ジェットポンプ13の性能にも影響を与える。従って、摩耗が進行して劣化したウェッジ36やセットスクリュー36A、特にウェッジ36は交換されて、インレットミキサー管33の中心軸O1とジェットポンプディフューザ34の中心軸O2とを一致させ、スリップジョイント40の隙間部40Aを常に適切に保持する必要がある。
【0026】
尚、原子炉圧力容器12は、図1に示すように、圧力容器本体37の上部開口と下部開口が容器蓋38、下鏡部39によりそれぞれ閉塞されて構成される。圧力容器本体37は、シュラウド15との間に、ジェットポンプ13が配置される前記環状部を形成する。
【0027】
さて、上述のように構成された沸騰水型原子炉11を具備する原子力プラントにおいては、通常の運転状態においても、沸騰水型原子炉11の原子炉圧力容器12内における冷却材32の流れの作用によってジェットポンプ13に微小な振動が生じている。ウェッジ36等は、こうした振動を抑える機能を果たすが、この振動によりウェッジ36等が摩耗すれば上述の振動抑制機能は低下し、ジェットポンプ13(特にインレットミキサー管33)の振動が増大してしまう。
【0028】
本実施の形態の振動評価装置10は、上述のようなジェットポンプ13の振動状態を評価するものであり、図5に示すように、センサとしての歪ゲージ42または加速度計43と、前記数値構造解析モデル41を用いて振動解析を実施する振動解析部44と、ジェットポンプ13の振動状態を推定し評価する評価部45とを有して構成される。
【0029】
歪ゲージ42または加速度計43は、ジェットポンプ13の複数の測定点に設置されて、当該測定点の振動に関するデータを測定する。この振動に関するデータは、歪ゲージ42の場合には歪測定値、加速度計43の場合には加速度測定値である。これらの歪ゲージ42または加速度計43は、圧力バウンダリを介してケーブル46が原子炉圧力容器12(図1)外へ敷設され、評価部45に接続される。
【0030】
振動解析部44は、図6に示すジェットポンプ13の数値構造解析モデル41を用いて振動解析を実施し、当該ジェットポンプ13における通常時(標準値)の振動状態である振動パラメータを求める。この振動パラメータは、歪、加速度、応力、振動変位などの振動状態を表す値である。ここで、歪ゲージ42または加速度計43が設置される測定点は、振動解析部44が実施したジェットポンプ13の標準時の振動解析の解析結果に基づいて、ジェットポンプ13の振動状態を把握するために適切な位置として決定される。尚、図6の数値構造解析モデル41において、破線が静止状態、実線が振動状態をそれぞれ示す。
【0031】
評価部45は、まず、歪ゲージ42または加速度計43による各測定点での測定データ(歪ゲージ42の場合に歪測定値、加速度計43の場合に加速度測定値)を周波数解析して、周波数スペクトルA(図7(A)参照;この図7(A)において測定データは歪値である)を求める。次に、評価部45は、数値構造解析モデル41の解析結果として得られた、歪ゲージ42または加速度計43の各測定点に対応する測定点対応位置47での振動パラメータ(歪ゲージ42の場合に歪値、加速度計43の場合に加速度値)を周波数解析して、周波数スペクトルB(図7(B)参照;この図7(B)において振動パラメータは歪値である)を求める。そして、評価部45は、両周波数スペクトルAとBにおいて特徴的な箇所、例えばピーク位置が合致しているか否かを判断し、合致している場合には、振動解析部44において用いた数値構造解析モデル41が、実際のジェットポンプ13の振動状態を精度良く反映していると評価する。
【0032】
評価部45は、実際のジェットポンプ13を精度良く反映した数値構造解析モデル41を用いて、測定点対応位置47、及び測定点対応位置47以外のジェットポンプ13の各位置での振動パラメータ(歪、加速度、応力、振動変位など)を推定し評価する。更に、評価部45は、これら推定した振動パラメータの推定値が、許容値としての構造健全性クライテリアを超えたときに、警告を出力する。
【0033】
上述のように構成された振動評価装置10の作用を、以下に図5、図8を用いて説明する。
【0034】
まず、振動解析部44が、ジェットポンプ13の数値構造解析モデル41を用いて振動解析を実施し、通常時(標準値)のジェットポンプ13の振動状態を求める(S1)。
【0035】
次に、この数値解析部44の解析結果に基づき、実際のジェットポンプ13における歪ゲージ42または加速度計43の測定点を決定し、歪ゲージ42または加速度計43により各測定点での振動状態(歪ゲージ42の場合に歪測定値、加速度計43の場合に加速度測定値)を測定する(S2)。
【0036】
次に、評価部45は、歪ゲージ42または加速度計43の測定データの周波数スペクトルAと、数値構造解析モデル41による測定点対応位置47での振動パラメータ(歪値または加速度値)の周波数スペクトルBとの特徴的な箇所が合致しているか否かを判断し(S3)、合致している場合に、当該数値構造解析モデル41を用いてジェットポンプ13の各位置における振動パラメータ(歪、加速度、応力、振動変位など)を推定する(S4)。
【0037】
ステップS3において周波数パラメータAとBとの特徴的箇所が合致していない場合には、振動解析部44が数値構造解析モデル41を修正して振動解析を実施して振動パラメータ(歪値または加速度値)を新たに求め、評価部45は、この新たに求めた振動パラメータ及び修正した数値構造解析モデル41を用いて、ステップS3及びS4を実行する。
【0038】
評価部45は、数値構造解析モデル41を用いて推定した振動パラメータ(歪、加速度、応力、振動変位など)の推定値が構造健全性クライテリアを超えたか否かを判断し(S5)、超えた場合に警告を出力する(S6)。
【0039】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
【0040】
(1)実際のジェットポンプ13を精度良く反映した数値構造解析モデル41を用いて、ジェットポンプ13の測定点、及びこの測定点以外の各位置での振動パラメータ(歪、加速度、応力、振動変位など)を推定し、ジェットポンプ13の振動状態を評価することから、この振動状態の評価を、沸騰水型原子炉11の運転中においても好適に実施することができる。その結果、沸騰水型原子炉11の運転中に、ジェットポンプ13のウェッジ36の摩耗量や、ジェットポンプ13におけるインレットミキサー管33のジェットポンプディフューザ34に対する偏芯量や衝突の有無を把握することができる。
【0041】
(2)数値構造解析モデル41を用いて推定したジェットポンプ13の測定点対応位置47を含む各位置での振動パラメータ(歪、加速度、応力、振動変位など)の推定値が、構造健全性クライテリアを超えたときに警告を出力することから、推定値の程度に応じて、沸騰水型原子炉11の次回定期検査でのジェットポンプ13の補修や交換、または沸騰水型原子炉11の即時運転停止によるジェットポンプ13の交換等、ジェットポンプ13に対し適切な保守を実施できる。
【0042】
[B]第2の実施の形態(図9〜図11)
図9は、(A)が本発明に係る振動評価装置の第2の実施の形態を、ジェットポンプと共に示す構成図であり、(B)が、ジェットポンプに装着された反射体を超音波センサと共に示す側面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0043】
本実施の形態の振動評価装置50が前記第1の実施の形態の振動評価装置10と異なる点は、センサが超音波センサ51である点である。
【0044】
この超音波センサ51は、ジェットポンプ13の測定点に対応して原子炉圧力容器12(図1)の外壁面に複数設置される。また、ジェットポンプ13の各測定点には、超音波センサ51からの超音波を反射する平面形状の反射面52Aを備えた反射体52が設置されている。この反射面52Aは、ジェットポンプ13の測定点自体を平面形状に加工して形成してもよい。超音波センサ51にて送信され、反射体52の反射面52Aにて反射され、当該超音波センサ51にて受信された超音波の伝播時間から、当該超音波の伝播速度を用いて、ジェットポンプ13の各測定点における振動変位が、振動に関するデータとして測定される。
【0045】
振動解析部44は、前記実施の形態と同様に、ジェットポンプ13の数値構造解析モデル41(図10)を用いて振動解析を実施し、ジェットポンプ13の通常時(標準値)の振動状態である振動パラメータ(振動変位)を求める。この振動解析部44による振動解析結果に基づいて、超音波センサ51によるジェットポンプ13の各測定点が決定される。図10中の符号53は、ジェットポンプ13の各測定点に対応する数値構造解析モデル41の測定点対応位置である。尚、図10に示す数値構造解析モデル41においても、破線が静止状態を、実線が振動状態をそれぞれ示す。
【0046】
評価部45は、超音波センサ51により各測定点で測定された振動変位データを周波数解析して周波数スペクトルC(図11(A)参照)を求め、また、数値構造解析モデル41の解析結果として得られた、測定点対応位置53での振動パラメータ(即ち振動変位)を周波数解析して周波数スペクトルD(図11(B)参照)を求める。評価部45は、これらの周波数スペクトルCとDとの特徴的な箇所が一致しているか否かを判断し、一致している場合に、測定点対応位置53、及びこれらの測定点対応位置53以外の位置での振動パラメータ(振動変位、加速度、歪、応力など)を推定して評価する。更に、評価部45は、推定した振動パラメータが構造健全性クライテリアを超えたときに警報を出力する。
【0047】
従って、本実施の形態はセンサが、原子炉圧力容器12外に設置された超音波センサ51であり、原子炉圧力容器12内にケーブル46(図5)を敷設する必要がない効果を有するほか、前記第1の実施の形態と同様な効果を奏する。
【0048】
[C]第3の実施の形態(図12〜図15)
図12は、本発明に係る振動評価装置の第3の実施の形態を、ジェットポンプと共に示す構成図である。この第3の実施の形態において、前記第1及び第2の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0049】
本実施の形態の振動評価装置60は、前記第1及び第2の実施の形態の振動評価装置10及び50と異なり、評価対象物の振動に関する測定データに変化があったときに、その測定データの変化に基づき当該評価対象物に生じた劣化等の不具合状態を推定し評価するものであり、超音波センサ51等のセンサ、振動解析部61及び評価部62を有して構成される。
【0050】
ここで、評価対象物は、沸騰水型原子炉のジェットポンプ13や蒸気乾燥器21等の原子炉内構造物、容器またはタンク内の機器や配管などであるが、本実施の形態ではジェットポンプ13を一例としている。また、劣化等不具合状態は、例えばジェットポンプ13におけるウェッジ36の劣化による摩耗状態や、ジェットポンプ13におけるインレットミキサー管33とジェットポンプディフューザ34との偏芯または衝突状態である。
【0051】
超音波センサ51は、第2の実施の形態と同様に、ジェットポンプ13の各測定点における振動変位を、振動に関するデータとして測定する。このセンサは、上記超音波センサ51のほか、振動に関するデータとして歪値を測定する歪ゲージ42、振動に関するデータとして加速度値を測定する加速度計43等であってもよい。
【0052】
振動解析部61は、ジェットポンプ13の数値構造解析モデル41(図10)を用い、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態を変化させて、当該劣化等不具合状態毎に振動解析を実施し、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態毎に振動状態を求める。例えば、図13に示すように、ウェッジ36の摩耗量の小、中、大、インレットミキサー管33(IM)偏芯量の小、中、大等毎に数値構造解析モデル41を用いて振動解析を実施し、ウェッジ36の摩耗量やインレットミキサー管33の偏芯量の程度(上、中、大)毎に振動変位を求め、これらの振動変位を周波数解析して、振動状態を表す周波数スペクトルa、b、c、d、e、f…を求める。
【0053】
評価部62は、振動解析部61にて上述のように求めた、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態と振動状態とを、図13に示すように相互に関連づけて関連データとして記憶して備える。
【0054】
そして、評価部62は、超音波センサ51にて測定されたジェットポンプ13の測定点における測定データ(振動変位)を周波数解析して周波数スペクトルF(図14(B)参照)を求める。この周波数スペクトルFが、正常状態のジェットポンプ13における当該測定点の測定データ(振動変位)の周波数スペクトルE(図14(A)参照)に対して、例えばそのピーク位置Pが変化した場合に、評価部62はジェットポンプ13の振動状態が変化したと判断する。
【0055】
このとき評価部62は、図13に示す関連データの周波数スペクトルa、b、c、d、e、f…と、超音波センサ51にて測定された振動変位の周波数スペクトルFとを比較して、この周波数スペクトルFに特徴点が合致する周波数スペクトルa、b、c、d、e、f…を選択し、その選択した周波数スペクトルに関連付けられた劣化等不具合状態を、現時点におけるジェットポンプ13の劣化等不具合状態であると推定して評価する。
【0056】
この劣化等不具合状態の推定は、沸騰水型原子炉11の通常運転時におけるジェットポンプ13のウェッジ36における摩耗量の推定のほか、定期検査時にジェットポンプ13を分解点検し、その後にジェットポンプ13を再据え付けしたとき、分解点検の前と再据付け後に測定した両測定データの周波数スペクトルを比較することで実施する、ジェットポンプ13におけるインレットミキサー管33のジェットポンプディフューザ34に対する偏芯量または衝突の有無の推定と、地震発生時の前後において測定した両測定データの周波数スペクトルを比較することで実施する、ジェットポンプ13におけるインレットミキサー管33のジェットポンプディフューザ34に対する偏芯量または衝突の有無の推定などが含まれる。
【0057】
評価部62は、更に、推定した劣化等不具合状態(ウェッジ36の摩耗量、インレットミキサー管33のジェットポンプディフューザ34に対する偏芯量または衝突の有無など)が、許容値としてのクライテリアを超えたときに警告を出力する。
【0058】
ここで、評価部62は、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態と振動状態との関連データの記憶と、測定データの周波数スペクトルFの変化の有無の判断と、この周波数スペクトルFに対応する劣化等不具合状態の推定と、警告の出力判定とを、ニューラルネットワークを用いて実施してもよい。このニューラルネットワークとは、人の脳神経系をモデルにした情報処理システムであり、人の脳の基本機能である認識や記憶、判断などの処理をコンピュータ上で実現するものである。
【0059】
次に、上述のように構成された振動評価装置60の作用を、図15を用いて説明する。
【0060】
振動解析部61がジェットポンプ13の数値構造解析モデル41を用いて、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態を変化させて、当該劣化等不具合状態毎に振動解析を実施し、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態毎に振動状態(振動変位の周波数スペクトル)を求める(S11)。
【0061】
評価部62は、このジェットポンプ13の劣化等不具合状態と振動状態とを関連付けた、例えば図13に示す関連データを記憶する(S12)。
【0062】
超音波センサ51は、沸騰水型原子炉11の運転中にジェットポンプ13の振動変位を測定して評価部62へ送信する。(S13)。
【0063】
評価部62は、超音波センサ51にて測定されたジェットポンプ13の振動変位の周波数スペクトルFが、正常なジェットポンプ13の振動変位の周波数スペクトルEに対して変化しているか否かを判断する(S14)。
【0064】
評価部62は、周波数スペクトルFが周波数スペクトルEに対して変化していると判断したときに、この周波数スペクトルFを、ステップS12にて記憶した関連データと照合し(S15)、周波数スペクトルFと特徴点が合致する周波数スペクトルa、b、c、d、e、f…を選択して求め、この選択した周波数スペクトルに関連付けられた劣化等不具合状態を、現時点におけるジェットポンプ13の劣化等不具合状態であるとして推定する(S16)。
【0065】
評価部62は、ステップS16にて推定した劣化等不具合状態がクライテリアを超えたときに、警告を出力する(S17)。
【0066】
評価部62は、ステップS14において、超音波センサ51にて測定された振動変位の周波数スペクトルFが変化していないと判断し、または、ステップS17において、劣化等不具合状態がクライテリアを超えていないと判断したときに、ステップS13へ戻る。
【0067】
従って、上述のように構成された振動評価装置60によれば、次の効果(3)及び(4)を奏する。
【0068】
(3)振動解析部61は、ジェットポンプ13の数値構造解析モデル41を用いて、当該ジェットポンプ13の劣化等不具合状態毎にジェットポンプ13の振動変位の周波数スペクトルを求め、評価部62は、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態と振動変位の周波数スペクトルとを関連付けた関連データを記憶し、更に、超音波センサ51にて測定されたジェットポンプ13の振動変位の周波数スペクトルを上記関連データと照合して、現時点におけるジェットポンプ13の劣化等不具合状態(ウェッジ36の摩耗量、インレットミキサー管33のジェットポンプディフューザ34に対する偏芯量、衝突の有無など)を推定する。このため、沸騰水型原子炉11の運転中においても、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態を好適に把握し評価することができる。
【0069】
(4)評価部62は、推定したジェットポンプ13の劣化等不具合状態がクライテリアを超えたときに警告を出力することから、ジェットポンプ13の劣化等不具合状態に対して迅速かつ適切な対処を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る振動評価装置の第1の実施の形態が適用された沸騰水型原子炉を示す縦断面図。
【図2】図1のジェットポンプを示す正面図。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図。
【図4】図2のIV部拡大断面図。
【図5】図1及び図2のジェットポンプと共に、振動評価装置の構成を示す構成図。
【図6】ジェットポンプの数値構造解析モデルの一例を示す説明図。
【図7】(A)は図5のセンサによる測定データの周波数スペクトルを示すグラフ、(B)は図6の数値構造解析モデルを用いた解析結果の周波数スペクトルを示すグラフ。
【図8】図5の振動評価装置における作用を示すフローチャート。
【図9】(A)は本発明に係る振動評価装置の第2の実施の形態を、ジェットポンプと共に示す構成図、(B)はジェットポンプに装着された反射体を超音波センサと共に示す側面図。
【図10】ジェットポンプの数値構造解析モデルの一例を示す説明図。
【図11】(A)は図9の超音波センサによる測定データの周波数スペクトルを示すグラフ、(B)は図10の数値構造解析モデルを用いた解析結果の周波数スペクトルを示すグラフ。
【図12】本発明に係る振動評価装置の第3の実施の形態を、ジェットポンプと共に示す構成図。
【図13】図12の振動解析部で求めた、ジェットポンプの劣化等不具合状態と振動状態とを関連付けた関連データの一例を示す説明図。
【図14】図12の超音波センサによる測定データの周波数スペクトルを示し、(A)は変化前を示すグラフ、(B)は変化後を示すグラフ。
【図15】図12の振動評価装置の作用を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0071】
10 振動評価装置
13 ジェットポンプ(原子炉内構造物、評価対象物)
41 数値構造解析モデル
42 歪ゲージ(センサ)
43 加速度計(センサ)
44 振動解析部
45 評価部
47 測定点対応位置
50 振動評価装置
51 超音波センサ(センサ)
52 反射体
52A 反射面
53 測定点対応位置
60 振動評価装置
61 振動解析部
62 評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内構造物の複数の測定点における振動に関するデータを測定する複数のセンサと、
前記原子炉内構造物の数値構造解析モデルを用いて振動解析を実施し、当該原子炉内構造物の振動状態を求める振動解析部と、
この振動解析部の振動解析による前記測定点に対応する位置での解析結果と前記センサによる測定データとが合致している場合に、前記原子炉内構造物の各位置における振動状態を、前記数値構造解析モデルを用いて推定し評価する評価部と、を有することを特徴とする振動評価装置。
【請求項2】
前記評価部は、数値構造解析モデルを用いて推定した原子炉内構造物の振動状態の推定値が許容値を超えたときに、警報を出力するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の振動評価装置。
【請求項3】
前記原子炉内構造物が、沸騰水型原子炉のジェットポンプであることを特徴とする請求項1に記載の振動評価装置。
【請求項4】
評価対象物の測定点における振動に関するデータを測定するセンサと、
前記評価対象物の数値構造解析モデルを用い、当該評価対象物の劣化等不具合状態を変化させて振動解析を実施し、当該評価対象物の劣化等不具合状態毎に振動状態を求める振動解析部と、
前記評価対象物の劣化等不具合状態と振動状態とを関連付けた関連データを備え、前記センサにて測定された測定データにより前記評価対象物の振動状態が変化したと判断したときに、前記関連データを用いて前記評価対象物の劣化等不具合状態を推定して評価する評価部と、を有することを特徴とする振動評価装置。
【請求項5】
前記評価部は、推定した評価対象物の劣化等不具合状態が許容値を超えたときに、警報を出力するよう構成されたことを特徴とする請求項4に記載の振動評価装置。
【請求項6】
前記評価部の機能が、ニューラルネットワークを用いて実施されるよう構成されたことを特徴とする請求項4に記載の振動評価装置。
【請求項7】
前記評価対象物の劣化等不具合状態が、沸騰水型原子炉のジェットポンプにおけるウェッジの摩耗状態であることを特徴とする請求項4に記載の振動評価装置。
【請求項8】
前記評価対象物の劣化等不具合状態が、沸騰水型原子炉のジェットポンプにおけるインレットミキサー管とジェットポンプディフューザとの偏芯または接触状態であることを特徴とする請求項4に記載の振動評価装置。
【請求項9】
前記センサが、原子炉内構造物の測定点に設置された歪ゲージまたは加速度計であり、前記歪ゲージが歪測定値を、前記加速度計が加速度測定値を、それぞれ振動に関するデータとして測定することを特徴とする請求項1または4に記載の振動評価装置。
【請求項10】
前記センサが、原子炉内構造物の測定点に対応して原子炉圧力容器外に設置された超音波センサであり、測定点における振動変位を振動に関するデータとして測定することを特徴とする請求項1または4に記載の振動評価装置。
【請求項11】
前記原子炉内構造物の測定点には、超音波の反射させる平面形状の反射面が設けられたことを特徴とする請求項10に記載の振動評価装置。
【請求項12】
原子炉内構造物の複数の測定点における振動に関するデータを複数のセンサにより測定する測定ステップと、
前記原子炉内構造物の数値構造解析モデルを用いて振動解析を実施し、当該原子炉内構造物の振動状態を求める振動解析ステップと、
この振動解析ステップの振動解析による前記測定点に対応する位置での解析結果と前記センサによる測定データとが合致している場合に、前記原子炉内構造物の各位置における振動状態を、前記数値構造解析モデルを用いて推定し評価する評価ステップと、を有することを特徴とする振動評価方法。
【請求項13】
評価対象物の測定点における振動に関するデータをセンサにより測定する測定ステップと、
前記評価対象物の数値構造解析モデルを用い、当該評価対象物の劣化等不具合状態を変化させて振動解析を実施し、当該評価対象物の劣化等不具合状態毎に振動状態を求める振動解析ステップと、
前記測定ステップにて測定した測定データにより前記評価対象物の振動状態が変化したと判断したときに、前記評価対象物の劣化等不具合状態と振動状態とを関連付けた関連データを用いて、当該評価対象物の劣化等不具合状態を推定して評価する評価ステップと、を有することを特徴とする振動評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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