説明

振幅サーボパターン、磁気記録媒体およびその製造方法、その製造方法において用いられる磁気転写用パターンドマスター担体、ならびに磁気記録再生装置

【課題】 再生振幅方式のサーボ制御をノイズが小さく精度よく行うことができる振幅サーボパターンを提供する。
【解決手段】 トラック幅方向rに隣接して配置されたバーストビット列11,12によるサーボバースト信号を有する振幅サーボパターン10において、トラック幅方向rに隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向xの位相が相互にαずれて異なっている。この位相は90〜180゜異なっているのが好ましい。該振幅サーボパターンは磁気記録媒体の磁気記録層に磁気転写により記録するのが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振幅サーボパターン、磁気記録媒体およびその製造方法に関し、特に、振幅再生方式のサーボ信号を有する振幅サーボパターンと、この振幅サーボパターンに対応する磁化ビットパターンが記録された磁気記録媒体およびその製造方法に関するものである。
【0002】
また、本発明は、磁気記録媒体の製造方法において用いられる磁気転写用パターンドマスター担体に関するものである。
【0003】
さらに、本発明は、振幅再生方式のサーボ信号に対応する磁化ビットパターンが記録された磁気記録媒体を格納してなる磁気記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0004】
磁気記録媒体においては一般に、情報量の増加に伴い、多くの情報を記録する大容量で、安価で、かつ、好ましくは短時間で必要な箇所が読み出せる、いわゆる高速アクセスが可能な媒体が望まれており、各種の高密度磁気記録媒体が知られている。これらの高密度磁気記録媒体は情報記録領域が狭トラックで構成されており、狭いトラック幅を正確に磁気ヘッドにより走査させて高いS/Nで信号を再生するためには、いわゆるトラッキングサーボ技術が大きな役割を担っている。このトラッキングサーボを行うために、従来よりセクターサーボ方式が広く採用されている。
【0005】
セクターサーボ方式とは、磁気ディスク媒体等の磁気記録媒体のデータ面に、一定角度で規則正しく配置されたサーボフィールドに、トラック位置決めのためのサーボ信号や、そのトラックのアドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を記録しておき、磁気ヘッドがこのサーボフィールドを走査してサーボ情報を読み取り自らの位置を確認および修正する方式である。
【0006】
トラック位置決めのためのサーボ信号には、サーボ信号の再生振幅情報を用いる方式が一般的に採用されている。一般的なサーボパターンは、サーボ信号がA、B、CおよびDバーストからなり、AバーストおよびBバーストを構成するAバーストビット列およびBバーストビット列の各ビットがトラック中心線より1/2トラック幅ずつずらせて記録されるものである。再生磁気ヘッドがサーボフィールドを通過する際に、A、Bバーストビット列からの再生信号振幅が同じになるように位置決めサーボがかかる。
【0007】
サーボ情報は、磁気記録媒体の製造時にプリフォーマットとして予め磁気記録媒体に記録する必要があり、現在は専用のサーボ記録装置を用いてプリフォーマットが行われている。現在用いられているサーボ記録装置は、例えばトラックピッチの75%程度のヘッド幅を有する磁気ヘッドを備え、磁気ヘッドをディスクに近接させた状態でディスクを回転させつつ、1/2トラック毎にディスク外周から内周に移動させつつサーボ信号を記録する。そのため、1枚のディスクのプリフォーマット記録に長時間を要し、生産効率の点で問題がある。
【0008】
一方、このプリフォーマットを正確にかつ効率よく行う方法として、マスター担体に形成されたサーボ情報を担持するパターンを磁気記録媒体へ磁気転写により転写する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0009】
この磁気転写は、磁気ディスク媒体等の磁気記録媒体(スレーブ媒体)に転写すべき情報に応じた凹凸パターンからなる転写パターンを有するパターンドマスター担体を用い、このマスター担体と磁気記録媒体を密着させた状態で、転写用磁界を印加することにより、マスター担体の凹凸パターンが担持する情報(例えばサーボ信号)に対応する磁気パターンを磁気記録媒体に磁気的に転写するもので、マスター担体と磁気記録媒体との相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、正確なプリフォーマット記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間であるという利点を有している。
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開平10−269566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述のような振幅サーボパターンは、前記特許文献1,2に図示されているように、略1トラック分の間隔をもって異なるトラックにトラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を含むものであり、このバーストビット列は隣り合うものが同位相に形成され、また、異なるトラックに配置されたバーストビット列の間には略1トラック分の無信号領域が存在するものであるが、特に磁気転写によって当該サーボパターンが記録された場合には、上記無信号領域にノイズの原因となる磁化が行われる問題がある。
【0011】
上記現象を図5により説明する。図示のサーボバースト信号は、磁気転写におけるパターンドマスター担体上に形成されたパターンの部分拡大図であり、磁性体による凹凸転写パターンで形成され、磁気記録媒体と密着された状態で磁界が印加されてその凹凸転写パターンに相当する磁化パターンを転写記録するものである。このサーボバースト信号におけるバーストビット列の複数のバーストビットエレメント(図5では2つのバーストビットエレメントのみ表示)はその各エレメントのトラック方向の長さと同じ間隔を空けてトラック方向Xに順次並んで配置された第1トラック上のバーストビットエレメント51a,51aを有しており、その略1トラック分の間隔(以下、ここを便宜上中間トラックと言う。)を空けて異なる第2トラック上に、トラック幅方向rに隣接して同位相でバーストビットエレメント52a,52aが配置されている。そして、磁気転写のための外部磁界が印加されると、各バーストビットエレメント51a,51a,52a,52aはその両端部が図5に示すようにそれぞれ+極と−極に磁化される。
【0012】
そのため、中間トラック上には第1トラック上のバーストビットエレメント51a,51aから噴出した円弧状矢印51pで示す磁界と第2トラック上のバーストビットエレメント52a,52aから噴出した円弧状矢印52pで示す磁場とが同位相で生じるため、図5の両矢印Wで示す中間トラックの幅方向の位置に対する磁界強度巾は図6の破線5で示す強度となり、これが磁気記録媒体にそのまま転写されてしまうことになる。ここで上記「磁界強度巾」とは、トラック幅方向に隣接する2つのバースト信号の間の中間トラックの幅(例えば図5の両矢印Wで示される幅)の上の特定位置でのトラック方向における磁界強度の変化の大きさを意味する。従って、磁気記録媒体に記録された第1トラック上のバーストビット列と第2トラック上に記録されたバーストビット列の間の中間トラック上を磁気ヘッドが走査すると、図6の破線5で示す磁界を感知してしまい、これがノイズとなって磁気ヘッドの正確なトラッキング性能を低下させる原因となっていた。
【0013】
特に、現在、磁気ディスク媒体のさらなる大容量化を目指し、トラック幅の狭小化が図られ、例えばトラックピッチ200nm程度以下のものが実現化されようとしている。このトラックピッチの狭小化に伴い各バーストビット列からの再生振幅が小さくなるために、上記ノイズの影響により位置決め精度が低下する虞もある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑み、再生振幅方式のサーボ制御を精度よく行うことができる振幅サーボパターン、それが記録された磁気記録媒体およびその製造方法、この磁気記録媒体を用いる磁気記録再生装置を提供することを目的とするものである。
【0015】
また、本発明は、磁気記録媒体の製造方法に用いられる磁気転写用パターンドマスター担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の振幅サーボパターンは、トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有する振幅サーボパターンにおいて、前記トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっていることを特徴とするものである。
【0017】
また、前記トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号は、互いの位相が90゜〜180゜異なっているものが好適である。
【0018】
前記バーストビット列の各ビットのトラック方向の長さに対するトラック幅方向の長さの比が2以下であることが望ましい。
【0019】
前記サーボバースト信号は、そのトラック幅方向端部が丸みを帯びているものが好適である。
【0020】
本発明の磁気記録媒体は、本発明の振幅サーボパターンが磁気記録層に磁気転写により記録されたことを特徴とするものである。
【0021】
本発明のプリフォーマットされた磁気記録媒体の作製方法は、トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビットエレメント列によるサーボバースト信号を有し、該トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっている振幅サーボ転写パターンを表面に有する磁気転写用パターンドマスター担体の該表面と、磁気記録媒体の磁気記録面とを密着させ、該密着させた磁気転写用パターンドマスター担体と磁気記録媒体に磁界を印加して、前記振幅サーボ転写パターンを前記磁気記録媒体の記録面に磁気転写することを特徴とするものである。
【0022】
このようにして磁気転写された磁気記録媒体上のバーストビットはマスター担体上のバーストビットエレメントに1:1で対応するものであり、同様に、磁気記録媒体上のバーストビット列はマスター担体上のエレメント列に対応するものである。
【0023】
本発明の磁気転写用パターンドマスター担体は、トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有し、該トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっている振幅サーボ転写パターンを表面に有することを特徴とするものである。
【0024】
磁気記録媒体に記録される振幅サーボパターンにおけるバーストビットエレメント列を構成するバーストビットは単数でも複数でもよいが、複数の場合は、各記録領域のトラック幅方向記録長が等しく、また、トラック幅方向における端部位置が一致しているものである。同様に磁気転写用パターンドマスター担体の表面に形成されているエレメント列を構成するバーストビットエレメントは単数でも複数もよいが、複数の場合は、各ビットエレメントの上面のトラック幅方向の長さが等しく、またトラック幅方向における端部位置が一致しているものである。
【0025】
本発明の磁気記録再生装置は、磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドに対向して配置されるプリフォーマットされた磁気記録媒体と、前記磁気ヘッドを駆動させる手段と、前記磁気記録媒体を駆動させる手段と、前記磁気ヘッドとの間で信号を授受して処理する記録再生信号処理手段と、を備えた磁気記録再生装置であって、前記磁気記録媒体のプリフォーマットがトラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有する振幅サーボパターンを含み、前記トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が互いに異なっていることを特徴とするものである。
【0026】
なお、上記「プリフォーマットされた磁気記録媒体」は、磁気記録再生装置の磁気ヘッドに対して読み書き可能な位置に配置され得るものであり、磁気記録再生時以外において磁気記録媒体は前記位置に固定された状態であっても、着脱可能な状態であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の振幅サーボパターンは、トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有し、該トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっていることにより、転写用磁界等が作用した際のトラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号の間の無信号部位への磁界の噴き出しが少なく、バースト信号の検出に基づく精度の良いトラッキングが行える。
【0028】
さらに、本発明の磁気記録媒体は、記録されたサーボパターンにおけるトラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なって記録されていることにより、そのトラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号の間の無信号部位へのノイズ信号の磁化記録に伴うヘッド走査時のノイズ感知を少なくすることができるため、位置サーボの精度低下を抑制することができる。
【0029】
また、特に200nm以下のような狭トラック幅を有するものである場合には、従来バーストビットからの再生出力の低下、S/Nの低下が問題となっていたが、再生出力が低下してもノイズ比を小さくすることができ、振幅再生サーボの再生信号の振幅に基づく位置サーボを容易に制御することができる。
【0030】
本発明の磁気記録媒体の作製方法は、磁気転写用パターンドマスター担体を用いて磁気転写によりトラック幅方向に隣り合うバーストビットの位相が異なる振幅サーボパターンの記録を行うものであるため、振幅再生サーボの信号読み取りへのノイズの影響を低減した良好なビット記録を行うことができる。
【0031】
本発明の磁気転写用パターンドマスター担体は、トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっている振幅サーボ転写パターンを表面に有するので、これを用いれば、本発明の磁気記録媒体を容易に作製することができる。
【0032】
なお、振幅サーボパターンにおけるトラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号の互いの位相が90゜〜180゜異なっているものがノイズ感知の低減が良好であり、特に位相が180゜異なっているものとすれば、ノイズ感知を最小限とすることができる。
【0033】
また、ディスクに記録されるバーストビットのトラック方向の長さが内周部と外周部とで異なる場合に、そのトラック方向の長さの大きい外周部において隣接するバーストビット列間でのノイズが大きくなる傾向にあるが、バーストビット列の各ビットのトラック方向の長さに対するトラック幅方向の長さの比が2以下になるような領域において、前述のように互いの位相を異ならせることによるノイズ低減効果を顕著に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【0035】
図1は本発明の振幅サーボパターンの実施の形態を示す拡大図であり、図1にはそのパターンの一部を示している。また、この図は、理想的に本発明の振幅サーボパターンが記録された本発明の磁気記録媒体の記録再生層のサーボ信号の磁化パターンの一部を示す拡大図でもある。
【0036】
振幅サーボパターン10は磁気記録媒体の記録再生層に記録されるものであり、磁気記録媒体は、高密度フレキシブルディスク、ハードディスク等の円盤状の磁気記録媒体であり、支持体の片面もしくは両面に磁性層からなる記録再生層を設けた構成である。なお、特に、高密度化達成のためには、薄層塗布磁性層あるいは金属薄膜磁性層等を記録再生層としたものが好適である。支持体はフレキシブルなものでもハードなものでもよい。
【0037】
磁気記録媒体の記録再生層には同心円状もしくはらせん状にトラックTnが形成されており、そのトラックTnに磁化パターンによって本実施形態のサーボ信号を担持する振幅サーボパターン10が記録される。振幅サーボパターン10すなわちサーボ信号は、磁気ディスク記録媒体の場合、中心部から等間隔で略放射状に延びる細幅の領域に形成されるサーボフィールド内に記録される信号であり、再生時にヘッドのトラッキングサーボに用いられる信号である。この磁化パターンで記録された振幅サーボパターン10は、必要に応じて磁気現像等の手段で可視化し確認することができる。
【0038】
振幅サーボパターン10が記録される磁気記録媒体のトラックTnは、図1に示すように、データトラックDとガードバンドGがトラック幅方向rに順次隣接して形成されている。なお、データトラックDの幅WdとガードバンドGの幅Wgを合わせた幅Wtがいわゆるトラックピッチに相当する。ここで、このトラックピッチWtを好ましくは200nm程度以下とする。図中には参考のために模式的に再生ヘッド15を示す。再生ヘッド15はデータトラックを通るようにサーボにより位置決めがされる。再生ヘッド15のトラック幅方向長は一般にデータトラック幅Wdよりも短い。図中矢印xはトラック方向を示し、矢印rはトラック幅方向を示すものである。なお、矢印rは磁気ディスク媒体の径方向と一致するものである。
【0039】
振幅サーボパターン10は、トラック方向xに順にA,B,CおよびDバーストからなる再生振幅サーボによる位置制御のためのトラッキングサーボ信号で構成されるが、図1には4トラックTn+1〜Tn+4の一部に記録されているAバーストおよびBバーストを形成するAバーストビット列11およびBバーストビット列12の部分のみ示し、各バーストビット列11,12は各々複数の矩形状のバーストビット111a,112a,121b,122b,123bの列状配置で構成される。なお、磁気記録媒体の磁化パターンにおいては、斜線で示す部分がバーストビット記録領域であり、この斜線部分と無地の部分とは互いに逆向きに磁化されている。また、この一つの斜線部のトラック方向の長さとその次の斜線部までの無地の部分のトラック方向の長さの比は1:1とされる。そして、これら一つの斜線部または一つの無地の部分が1ビットに相当し、従って、360°の位相の中に2ビット含まれることになる。
【0040】
このサーボパターン10におけるAバーストビット列11およびBバーストビット列12の記録領域は、データトラックDの幅方向の略中央より隣接するデータトラックDの幅方向の略中央に跨って配置され、Aバーストビット列11とBバーストビット列12がトラック幅方向rに交互に記録される。また、不図示のCバーストおよびDバーストを形成するCバーストビット列およびDバーストビット列は、前記AおよびBバーストビット列11,12と同様のバーストビットで構成され、その記録領域は一方が奇数トラックに他方が偶数トラックに、それぞれデータトラックDの幅中央を中心として略1トラックピッチWtの長さに記録される。
【0041】
上記振幅サーボパターン10における各バーストビット列を構成する複数のバーストビット(例えば、トラックTn+1とトラックTn+2とに跨るA1バーストビット列を構成する複数(図1では5つ)のバーストビット111a,111a,…)は、互いに、各記録領域のトラック幅方向rの記録長が等しく、かつ、トラック幅方向rにおける端部位置が一致している。
【0042】
図1において、ヘッド15を第2のトラックTn+2に位置決めするために、A1バーストビット列およびB2バーストビット列が用いられ、A1バーストビット列は第1のトラックTn+1および第2のトラックTn+2に跨っており、B2バーストビット列は第2のトラックTn+2および第3のトラックTn+3に跨っている。上記第1のトラックTn+1および第2のトラックTn+2に跨って記録されているA1バーストビット列は、第1のトラックTn+1上にヘッド15を位置決めするためにも用いられるものであり、一方、第2のトラックTn+2および第3のトラックTn+3に跨って記録されているB2バーストビット列は、第3のトラックTn+3上にヘッド15を位置決めする際にも用いられるものである。
【0043】
そして、第2のトラックTn+2を走行するヘッド15には、A1バーストビット列とB2バーストビット列からの再生振幅が同等となるように位置サーボがかかり第2のトラックTn+2に位置決めされる。
【0044】
上記の振幅サーボパターン10において、第1のトラックTn+1および第2のトラックTn+2に跨って記録されているA1バーストビット列と、第3のトラックTn+3および第4のトラックTn+4に跨って記録されているA2バーストビット列とは、略1トラックピッチ幅Wtの間隔(無信号領域)をもって、トラック幅方向rに隣り合って記録されるものであるが、両者は互いのトラック方向x(磁気ディスク回転方向)の位相が異なるように、図示の場合には1つのバーストビットのx方向幅に相当する位相αがずれるように配置されている。B1〜B3のBバーストビット列においても同様に、1トラックピッチ幅Wtに相当する間隔を持って隣り合うB1バーストビット列とB2バーストビット列の間、およびB2バーストビット列とB3バーストビット列の間で、各バーストビットの位相がそれぞれα分だけずれて配置されている。
【0045】
このように、A,B,CおよびDの各バーストビット列の各々において、トラック幅方向rに隣り合うバーストビット列(例えば、Aバーストビット列におけるA1バーストビット列とA2バーストビット列)の間での相互の位相を異ならせた振幅サーボパターン10によると、前記図5に対応させて描いた図4に示すように、このサーボパターン10に対応して形成した後述のパターンドマスター担体3(図2参照)のバーストビットエレメント311a,311aとバース卜ビットエレメント312a,312aの配置に対して磁気転写のための磁界が印加されると、各バーストビットエレメントが磁化されて、各エレメントのトラック方向xの両端部がそれぞれ十極と−極に磁化されることになるが、トラック幅方向rに隣接するバーストビットエレメント311a,311aとバーストビットエレメント312a,312aの間では位相が異なるため、バーストビットエレメント311a,311aから噴出す円弧状矢印311pで示す磁界と、バーストビットエレメント312a,312aから噴出す円弧状矢印312pの磁界とが打ち消しあい、両矢印Wで示される幅方向の位置に対する磁界強度巾は図6の実線4で示す強度となり、これが磁気記録媒体に転写されることになる。従って、磁気記録媒体に記録された上記バーストビットエレメント311a,311aに対応する磁気記録媒体上のバーストビット列と上記バーストビットエレメント312a,312aに対応する磁気記録媒体上のバーストビット列との中間を磁気ヘッドが走査すると、図6の実線4で示すように磁界が感知されないので、従来のような図5のバーストビットビットの配置の場合のようなノイズを検出することがなくなり、磁気ヘッドの正確なトラッキングが可能となる。
【0046】
上記位相のズレ量αは、バーストビットエレメントのトラック方向xの端部位置つまり発生する磁界極性がずれるように設定するものであり、図示の場合には、極性が全く異なるように位相が180゜(すなわち、1ビット長)だけずらせる最適条件に設定しているが、それより小さなずれ量に設定しても十分な効果がある。具体的には、90゜〜180゜の範囲のずれで有効である。
【0047】
なお、上記振幅サーボパターン10における図示していないCバーストビット列およびDバーストビット列においても同様に、前記AおよびBバーストビット列11,12の位相ずれに応じて、1トラックピッチ幅Wtに相当する間隔を持って隣り合うCおよびDバーストビット列の位相をずらして極性が異なる位置に、例えば前述のα分だけずれてそれぞれ配置してもよい。
【0048】
また、図1に示したバーストビット列の各ビット(エレメント)は矩形状であるが、後述の図2(b)に示すビットエレメント形状のように、トラック幅方向端部(角部)がいずれも丸みを帯びている形状の方が、前述の磁界の噴出しが少ないので好ましい。また、トラック幅方向rに対して傾斜した平行四辺形などに形成してもよい。
【0049】
さらに、図2(b)に示すビットエレメント形状のように、Aバーストビット列およびBバーストビット列のそれぞれの記録領域のトラック幅方向rの長さをトラックピッチWtよりも長くし、トラック方向xで見たときに両バーストビット列の記録領域がデータトラックDの幅方向中心部位でトラック幅方向rにオーバーラップするように形成してもよい。
【0050】
この場合には、バーストビットをトラックピッチWtと略同一長さに記録した場合に比べて、各バーストビットエレメントがいずれもデータトラックDの幅方向中心を越えた領域に記録されているため、再生信号の振幅を大きくすることができる。
【0051】
また、バーストビット列の各ビット(エレメント)のトラック方向xの長さに対するトラック幅方向rの長さの比(アスペクト比)が2以下である。これは、振幅サーボパターンの場合、図2(a)に示すサーボフィールド4は内周と外周とで、サーボのバースト信号のトラック方向の長さが相違し、外周で長く、内周で短くなることから、上記アスペクト比は内周より外周の方が2以下に小さくなる。このアスペクト比が小さいバーストビットエレメントから噴出する磁界(図4の3l1p,312p)が大きい円弧となり、その分だけノイズが大きくなる。従って、このようなアスペクト比が2以下となるような小さな値のエレメントが形成される領域で、位相をずらすことによるノイズ低減効果が大きく発揮され、再生信号の検出によりサーボ機能を確保できる。
【0052】
上述した本発明サーボパターンを記録した磁気記録媒体を用いる磁気記録再生装置は、磁気ヘッドと、この磁気ヘッドに対向して配置されるプリフォーマットされた磁気記録媒体と、磁気ヘッドを駆動させる手段と、磁気記録媒体を駆動させる手段と、磁気ヘッドとの間で信号を授受して処理する記録再生信号処理手段とを備えてなる。そして、磁気記録媒体のプリフォーマットがトラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有する振幅サーボパターンを含み、トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が互いに異なっていることで、ノイズが少ない再生信号の振幅を大きくすることができるので、精度の高い位置サーボを実現することができる。
【0053】
上記のような振幅サーボパターン10の磁気記録媒体への記録は、そのバーストビット形状の任意性等より磁気転写によって行うのが望ましい。
【0054】
次に、上記振幅サーボパターン10を磁気転写によって磁気記録媒体に記録する磁気記録媒体の作製方法を、図2および図3に基づいて説明する。その作製方法の概略は、前述のような異なるトラックに隣接配置されたサーボバースト信号の位相が相互に異なっている振幅サーボ転写パターン30を表面に有する磁気転写用パターンドマスター担体3の該表面と、磁気記録媒体2の磁気記録層2aとを密着させ、該密着させた磁気転写用パターンドマスター担体3と磁気記録媒体2に磁界を印加して、前記振幅サーボ転写パターン30に対応した磁化パターンを磁気記録媒体2の記録層2aに磁気転写してなるものである。
【0055】
この磁気転写に用いる磁気転写用パターンドマスター担体3を図2に示す。図2の(a)はマスター担体上面図、(b)は同図(a)の一部の拡大図、(c)は同図(b)のIII−III断面図である。
【0056】
図2(a)に示すように、パターンドマスター担体3はディスク状であり、その中心部から等間隔で略放射状に延びる細幅の領域にサーボフィールド4が形成されている。該マスター担体3のサーボフィールド4には、記録する振幅サーボパターンすなわちサーボ信号に対応する凹凸パターンによる図2(b)のようなサーボ転写パターン30が形成されている。
【0057】
図2(b)は、パターンドマスター担体3表面のサーボフィールド内の図1と同等のAバーストビット列およびBバーストビット列に対応するAエレメント列31およびBエレメント列32の部分拡大図である。磁気記録媒体上のトラックと同等のトラックを有し、該トラックに沿って凹凸パターンが形成されている。図1に対応するトラックおよびデータトラックDおよびガードバンドGおよびそれぞれの幅は同一の符号で示している。
【0058】
図2中斜線で示す部分は、その形状は図1とは異なる実施形態を示しているが、A1バーストビット列を構成するバーストビットエレメント111aと同じくA2バース卜ビット列を構成するバーストビットエレメント112aにそれぞれ対応するバーストビットエレメント311aと312a、およびB1バーストビット列のバーストビットエレメント121bとB2バーストビット列のバーストビットエレメント122bにそれぞれ対応するバーストビットエレメント321bと322bの上面である。A1バーストビット列は第1のトラックTn+1と第2のトラックTn+2に跨って形成されており、B2バーストビット列は第2のトラックTn+2と第3のトラックTn+3に跨って形成されている。A1バーストビット列の5つのバーストビットエレメント311a(同じくB2バーストビット列の5つのバーストビットエレメント322b等)の上面のトラック幅方向rの長さはいずれもトラックピッチWtより長く、第2のトラックTn+2のトラック幅方向中央部でエレメント311aの下端部とエレメント322bの上端部がトラック幅方向にオーバーラップするように形成されている。また、この端部は丸みを帯びている。
【0059】
さらに、振幅サーボ転写パターン30において、第1のトラックTn+1および第2のトラックTn+2に跨って記録されているA1バーストビット列と、第3のトラックTn+3および第4のトラックTn+4に跨って記録されているA2バーストビット列とは、略1トラックピッチ幅Wtの間隔をもって、トラック幅方向rに隣り合って記録されるものであるが、両者は互いのトラック方向xの位相が異なるように、図示の場合には1つのバーストビットエレメントの幅に相当する位相αだけずれるように配置されている。B1〜B2のバーストビット列においても同様に、略1トラックピッチ幅Wtに相当する間隔を持って隣り合うエレメント321bとエレメント322bの間で位相がそれぞれα分だけずれて配置されている。
【0060】
図2(c)に一部断面図を示すように、パターンドマスター担体3は、表面に凹凸パターンを有する基板41と、該基板41上に形成された磁性層42とを備えてなるものである。本実施形態においては磁性層42の凸部322bがBバーストビット列の各エレメント(Aバーストビットエレメント311aも同様)を構成している。
【0061】
基板41はNi、シリコン、石英板、ガラス、アルミニウム、セラミックス、合成樹脂等からなるものを用いることができるが、Niからなるもの、もしくはNiを主成分とする合金からなるものが特に好ましい。
【0062】
磁性層42の磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)を用いることができ、特に好ましいのはFeCo、FeCoNiである。特にFe70Co30が好ましい。なお、基板41上に配される磁性層42としては、軟磁性もしくは半硬質磁性等の保磁力の小さい磁性層を用いることにより、より良好な転写を行うことができる。さらに、磁性層は、基板の飽和磁化よりも高い飽和磁化値を有するものであることが好ましい。
【0063】
表面に凹凸パターンを有する基板41の作製は、スタンパー法、フォトリソグラフィー法等を用いて行うことができる。パターンドマスター担体3の作製例は、まず、信号パターンに応じた凹凸パターン(凹凸パターンの凹部と凸部が反転したものを含む)を表面に有する第1の原盤を作製し、この第1の原盤を用いて電鋳により上記凹凸パターンを表面に有する金属板を作製する方法により得ることができる。
【0064】
表面に凹凸パターンを有する第1の原盤は、フォトリソグラフィー法等を用いて製造することができる。以下、シリコンウエハーを用いて原盤を作製する方法を説明するが、シリコンウエハーの代わりに、石英板またはガラス板を使用することもできる。
【0065】
まず、表面が平滑なディスク状のシリコンウエハー上にポジ型電子線レジスト層をスピンコート等で設ける。これを回転させながら上記の信号パターンに対応して変調した電子ビームでレジスト層に照射を与え、レジスト層全面を上記信号パターン状に照射する。例えば、この信号パターンが磁気ディスクに使用されるサーボ信号の場合には、一定の間隔をおいて同心円状に形成される多数(例えば、数万)のトラックの各トラック上に、一定間隔で複数(例えば、200)設けられるセクターの各セクターの一部に、円周方向に延びるサーボ信号に相当するパターンの照射を与える。このようにして、レジスト全面にパターンの照射を与えた後、レジストを現像処理して電子ビームで照射された部分のレジストをシリコンウエハー上から除去し、凸部がレジストで構成され、照射部のレジストが除去されてシリコンウエハー表面が露出した部分が凹部を構成する凹凸形状をその表面に有するシリコンウエハー、すなわち第1の原盤が得られる。
【0066】
このようにして作製された第1の原盤を用いて、電鋳が行われる。すなわち、上記第1の原盤の凹凸表面上に、必要により、ニッケルまたは銀などの金属をスパッタリング、蒸着または無電解メッキして、薄い導電性膜を形成してから、Niを前記凸部の高さよりも十分に厚くなるように電気メッキする。その後、電気メッキされたNiと第1の原盤とを剥離することにより、表面に前記サーボ信号に相当する、前記電子ビームで照射された部分が凸部を構成する凹凸のパターンを有するNi板(以下、第1の鋳型という)が得られる。このようにして得られた第1の鋳型をそのままで、または更にその凹凸表面に軟磁性層および保護層をこの順に設けたものを、パターンドマスター担体として使用する。
【0067】
また、前記第1の鋳型を第2の原盤として更に電鋳を行って表面に凹凸を有するNi板(以下、第2の鋳型という)を作製し、これをそのままで、または更にその凹凸表面上に軟磁性層および保護層をこの順に設けた上で、パターンドマスター担体として使用することもできる。この場合、第1の原盤を作製する際に、(1)電子線レジストとしてネガ型のものを使用し、かつサーボ信号に相当する信号パターン状に電子線を照射するか、または(2)電子線レジストとしてポジ型のものを使用し、かつサーボ信号に相当する信号パターンの反転パターン状に電子線を照射することが好ましい。この態様においては、第2の原盤から複数のパターンドマスター担体を作製することができる利点がある。
【0068】
また、第2の原盤をスタンパーとして使用して、スタンパー法で凹凸の表面を有する樹脂製のディスクを成形し、その凹凸表面上に軟磁性層および保護層をこの順に設けたものをマスター担体とすることも可能である。
【0069】
一方、前記と同様にして、第1の原盤を作製した後、その表面をエッチング処理すると、凸部を形成しているレジストがエッチングレジストとして機能するので、凹部に相当する部分のシリコンウエハーの表面を選択的にエッチングすることができる。このようにエッチング処理してから、凸部を構成するレジストを除去することによって、シリコンウエハー自体の表面に凹凸のパターンを有する第3の原盤が得られる。この第3の原盤を用いて、上記と同様にして電鋳を行うことにより、表面に凹凸を有するNi板(第3の鋳型)を作製することができる。この第3の鋳型をそのままで、または更にその凹凸表面上に軟磁性層および保護層をこの順に設けて、マスター担体とすることもできる。この態様の場合も、第3の原盤から複数のマスター担体を作製することができる。
【0070】
マスター担体3の凸部高さ(凹凸パターンの深さ)は、20〜500nmの範囲が好ましく、より好ましくは40〜100nmである。この凹凸パターンがサンプルサーボ信号である場合は、トラック方向となる円周方向よりも半径方向に長い矩形状の凸部が形成される。
【0071】
基板の凹凸パターン上への軟磁性層の形成は、軟磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、電気メッキ、無電解メッキのようなメッキ法などを用いて行う。軟磁性層の厚み(凸部上面の磁性層の厚み)は、20〜500nmの範囲が好ましく、さらに好ましくは30〜100nmである。
【0072】
また、この凸部表面の磁性層42の上に3〜30nmのカーボンまたはダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の保護層を設けることが好ましく、さらに潤滑剤層を設けても良い。また、軟磁性層と保護層の間に、Si等の密着強化層を設けてもよい。潤滑剤を設けることにより、磁気記録媒体との接触過程で生じるずれを補正する際の、摩擦による傷の発生などを抑制し、耐久性をより向上させることができる。
【0073】
なお、磁気転写用パターンドマスター担体3の構成としては、上記実施形態のマスター担体のものに限らず、基本的にサーボ信号を凹凸パターンとして備えた担体であればよく、凹凸パターンを表面に有する磁性体基板のみからなるもの、凹凸パターンを表面に有する基板と該基板上の少なくとも凸部上面に積層された磁性層とからなるもの、凹凸パターンを表面に有する非磁性基板と該基板の凹部に埋め込まれた磁性層とからなるもの、平板基板上に表面に凹凸パターンを有する磁性層が形成されてなるもの等であってもよい。なお、凹凸パターンを表面に有する非磁性基板と凹部に埋め込まれた磁性層とからなるパターンドマスター担体の場合、上記ビットエレメントは、凹部に埋め込まれた磁性層により構成されるものとなる。
【0074】
次に、上述の磁気転写用パターンドマスター担体3を用いて磁気ディスク記録媒体2に磁化パターンを磁気転写により記録する方法について図3を参照して説明する。
【0075】
図3は、この磁気転写の基本工程を説明するための図であり、図3(a)は磁場を一方向に印加して磁気記録媒体を初期直流磁化する工程、同図(b)はマスター担体と磁気記録媒体とを密着して初期磁化方向と反対方向磁界を印加する工程、同図(c)は磁気転写後の状態をそれぞれ示す図である。
【0076】
まず、図3(a)に示すように、予め磁気記録媒体2に初期磁界Hinをトラック方向の一方の向きに印加して磁気記録層2aの磁化を該一方の向きに初期磁化させる。その後、図3(b)に示すように、この磁気記録媒体2の記録面とマスター担体3の転写パターン面とを密着させ、磁気記録媒体2のトラック方向に前記初期磁界Hinとは逆向きの転写用磁界Hduを印加する。磁気記録媒体2の記録面とマスター担体3の転写パターンの凸部とが密着した箇所において、磁界Hduはマスター担体3の凸部磁性層42に吸い込まれ、この部分に対応する磁気記録媒体2の磁気記録層2aの磁化は反転せず、マスター担体3の凹部に対応する磁気記録層2aの磁化がマスター担体3の凸部からの漏れ磁界により反転する。その結果、図3(c)に示すように、磁気記録媒体2の磁気記録層2aにはマスター担体3の表面の凹凸パターンに応じた磁化パターンが磁気転写記録される。
【0077】
なお、初期磁界および転写用磁界は、磁気記録媒体の磁性層の保磁力、マスター担体および磁気記録媒体の磁性層の比透磁率を勘案して定められた値を採用する必要がある。
【0078】
図2(b)のサーボ転写パターン30のように、端部が丸みを帯びた形状のビットを記録することは従来のサーボトラックライタによる記録手法では困難であったが、本実施形態のように磁気転写を用いることにより容易に達成することができる。なお、図1の振幅サーボ磁化パターン10についても磁気転写を用いればサーボトラックライタで記録する場合と比較して短時間でかつ精度よく記録することができる。
【0079】
なお、マスター担体3を用いて磁気転写によりサーボパターンを磁気記録媒体2に記録する場合、マスター担体3に形成されるバーストビットエレメントの上面形状は図2(b)に示したようにそのトラック幅方向rの端部が丸みを帯びていることが好ましい。スタンパ法等により作製されるマスター担体の性質上、レーザビームもしくは電子ビーム等でこのエレメント形状を描画する場合、端部に丸みを帯びている方が各ビットエレメント毎に端部形状のばらつきのない均一な形状のビットエレメントを容易に形成することができる。また、磁気転写時においても磁気飽和の影響により端部に丸みを帯びたビットエレメントにより転写した場合の方が上面矩形状のビットエレメントから転写する場合と比較して磁気転写適性に優れ、磁気記録媒体上に良好な磁化パターンを形成することができる。
【0080】
ここで、前述のバーストビット列の位相のずれによるノイズ低減効果を確認した結果を示す。まず、基板表面に形成された凹凸深さが100nmの凹凸パターン上に、80nmの厚さにFe70Co30による磁性層を設けて、パターンドマスター担体を作製した。その凹凸転写パターンとしては、隣接するバーストビット列で位相がずれているものと位相が一致しているものを形成し、バーストビット列の間の無信号部位の再生信号を測定した。
【0081】
第1の例は、ビット形状のトラック幅方向の長さが150nmでトラック方向長さが70nm(アスペクト比:2.14)であり、第2の例はビット形状のトラック幅方向の長さが150nmでトラック方向長さが140nm(アスペクト比:1.07)である。
【0082】
そして、位相のずれがないマスター担体で転写した磁気記録媒体を磁気ヘッドでその無信号部位の再生信号を測定した。これに比較して位相を180゜(1ビット)ずらしたマスター担体で転写した磁気記録媒体の同様部位で測定した再生信号は、第1の例では2dB低かったのに対し、第2の例では3dB低かった。これより、アスペクト比が小さな領域でノイズ低減効果が大きい結果が得られ、位相をずらせることが有効であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の振幅サーボパターンの実施の形態を示す一部拡大図
【図2】磁気転写用パターンドマスター担体の上面図、一部拡大上面図および一部断面図
【図3】磁気転写方法の基本工程を示す図
【図4】本発明のパターンドマスター担体上のサーボパターンの磁界印加時の特性を示す説明図
【図5】従来例のパターンドマスター担体上のサーボパターンの磁界印加時の特性を示す説明図
【図6】バーストビット列の位相ずれに対応する発生磁界の強度巾を示す図
【符号の説明】
【0084】
2 磁気記録媒体
2a 磁気記録層
3 磁気転写用パターンドマスター担体
10 振幅サーボパターン
11,31 Aバーストビット列
111a バーストビット/エレメント
12,32 Bバーストビット列
311a バーストビットエレメント
41 マスター担体基板
42 磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有する振幅サーボパターンにおいて、
前記トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっていることを特徴とする振幅サーボパターン。
【請求項2】
前記トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号は、互いの位相が90゜〜180゜異なっていることを特徴とする請求項1記載の振幅サーボパターン。
【請求項3】
前記バーストビット列の各ビットのトラック方向の長さに対するトラック幅方向の長さの比が2以下であることを特徴とする請求項1または2記載の振幅サーボパターン。
【請求項4】
前記サーボバースト信号のトラック幅方向端部が丸みを帯びていることを特徴とする請求項1、2または3記載の振幅サーボパターン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の振幅サーボパターンが磁気記録層に磁気転写により記録されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビットエレメント列によるサーボバースト信号を有し、該トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっている振幅サーボ転写パターンを表面に有する磁気転写用パターンドマスター担体の該表面と、磁気記録媒体の磁気記録面とを密着させ、
該密着させた磁気転写用パターンドマスター担体と磁気記録媒体に磁界を印加して、前記振幅サーボ転写パターンを前記磁気記録媒体の記録面に磁気転写することを特徴とするプリフォーマットされた磁気記録媒体の作製方法。
【請求項7】
トラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有し、該トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が相互に異なっている振幅サーボ転写パターンを表面に有することを特徴とする磁気転写用パターンドマスター担体。
【請求項8】
磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドに対向して配置されるプリフォーマットされた磁気記録媒体と、前記磁気ヘッドを駆動させる手段と、前記磁気記録媒体を駆動させる手段と、前記磁気ヘッドとの間で信号を授受して処理する記録再生信号処理手段と、を備えた磁気記録再生装置であって、
前記磁気記録媒体のプリフォーマットがトラック幅方向に隣接して配置されたバーストビット列によるサーボバースト信号を有する振幅サーボパターンを含み、前記トラック幅方向に隣接配置されたサーボバースト信号のトラック方向の位相が互いに異なっていることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−31896(P2006−31896A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213027(P2004−213027)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】