説明

捲回型電池の製造方法および製造装置

【課題】扁平プレスによって屈曲しても、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生を防止できる捲回型電池の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】捲回型電池の製造方法は、正極板10,負極板20およびセパレータ30を積層して捲回する捲回工程(ステップS32)と、捲回工程によって形成される捲回体を扁平状に扁平プレスする扁平プレス工程(ステップS34)と、正極板10および負極板20のうちで一方または双方の電極板に対して軟化剤を含ませる軟化剤含蓄工程(ステップS30)とを有する。扁平プレスを行って屈曲させても、軟化剤を含んだ電極板は容易に曲げられるので、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも正極板,負極板,セパレータを備える捲回型電池を製造する製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、金属箔の内周側と外周側とで電極合剤のバインダ濃度を異ならせ、内周側のバインダ濃度が外周側のバインダ濃度より高くした非水電解液二次電池に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また、電極の集電体の内側に塗布された電極合剤の塗布厚みが集電体の外側に塗布された電極合剤の塗布厚みより薄くした非水二次電池に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献2を参照)。
【0004】
さらに、正極集電体の最内周の端部には、いずれの面にも正極活物質が塗布されていない正極活物質非塗布部を設け、正極活物質非塗布部に隣接して捲き芯部の一周分が電極活物質の片面塗布部を有する捲回型電池に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献3を参照)。
【0005】
そして、正極の電極合剤と心材との界面が、正極に曲げ応力を加えたときに剥離が起こる最弱部であって、捲回時に内側になる電極合剤層と心材との界面の剥離強度が外側の界面の剥離強度より小さくした非水電解液二次電池に関する技術の一例が開示されている(例えば特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3428184号公報
【特許文献2】特許第3489286号公報
【特許文献3】特許第3503935号公報
【特許文献4】特開2008−091054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術を適用して内周側と外周側とで電極合剤のバインダ濃度を異ならせたり、特許文献2の技術を適用して内側と外側とで電極合剤の塗布厚みを異ならせても、扁平プレスによって屈曲される部位が所定の曲率半径よりも小さくなると、電極合剤や集電体等に不具合(例えば割れ,ヒビ等)が発生するという問題がある。
【0008】
また、特許文献3の技術を適用して、捲き芯部の一周分(最内周)について正極集電体に不具合が発生するのを防止できたとしても、二周目以降の外周側では扁平プレスによって正極集電体に不具合が発生するという問題がある。片面にのみ正極活物質を塗布する工程が必要になるので、正極活物質が塗布されていない部分の長さを管理するとともに、膜厚を均一にしなければならず、歩留まりが低下するという問題もある。
【0009】
さらに、特許文献4の技術を適用して内側と外側とで剥離強度を異ならせても、扁平プレスによって屈曲される部位が所定の曲率半径よりも小さくなると、剥離が発生する可能性がある。剥離が発生すると、電極どうしが接触して蓄電力が低下したり、集電体に不具合が発生したりするという問題がある。
【0010】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、扁平プレスによって屈曲しても、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生を防止できる捲回型電池の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、それぞれが帯状の集電体上に電極活物質層を形成した正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に介在させる絶縁性のセパレータとを備える捲回型電池を製造する捲回型電池の製造方法において、前記正極板,前記負極板および前記セパレータを積層して捲回する捲回工程と、前記捲回工程によって形成される捲回体を扁平状に扁平プレスする扁平プレス工程と、前記捲回工程以前に行われ、前記正極板および前記負極板のうちで一方または双方の電極板に対し、軟化剤を含ませる軟化剤含蓄工程とを有することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、軟化剤含蓄工程によって電極板に軟化剤を含ませると、当該軟化剤が含蓄された電極板は柔らかくなる。そのため、扁平プレス工程で扁平プレスを行って屈曲させても、電極板を容易に曲げることができる。したがって、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生を防止することができる。
【0013】
なお、「集電体」は導電性の材料(物質を含む。以下同じである。)で帯状(長尺シート状)に形成されるが、板厚は任意である。「セパレータ」は正極板と負極板とが接触するのを防止する部材であって、例えば絶縁性の板材や固体電解質などを含む。「電極活物質層」は合剤層とも呼び、正極活物質層と負極活物質層とでは材料が異なる。正極活物質層は、例えばリチウムイオンなどの軽金属イオンを吸蔵・離脱することが可能な金属硫化物、金属酸化物または高分子化合物などの材料で構成される。負極活物質層は、例えばリチウム(Li)やナトリウム(Na)などの軽金属、これらの軽金属を含む合金または軽金属を吸蔵・離脱することが可能な材料などで構成される。「短辺方向」は、集電体の長辺方向と交差する幅方向であって、かつ、面に沿う方向を意味する。「軟化剤」は、電極板(特に電極活物質層)を軟化させる材料(物質)であれば任意である。例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、イソプロパノール、水などが該当する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記軟化剤を滴下する滴下法、前記軟化剤を吹き付ける吹付法、軟化剤を塗布する塗布法、軟化剤を注入する注入法のうちでいずれかの方法で行うことを特徴とする。この構成によれば、軟化剤をより確実に電極板(特に電極活物質層)に含ませることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記電極板のうちで前記扁平プレス工程の扁平プレスによって得られる扁平体(すなわち扁平状の電極体)の屈曲部となる部位に対し、前記軟化剤を含ませることを特徴とする。電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合は、扁平プレスで屈曲させる曲率半径が小さくなる部位で発生し易い。この構成によれば、扁平体の屈曲部を含む部位に対して軟化剤を含ませるので、電極板を容易に曲げられるようになり、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。また、軟化剤を含ませる部位が限定されるので、必要な軟化剤が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平プレス工程で扁平プレスを行う際に前記軟化剤が全部乾燥しない時期に前記軟化剤を含ませることを特徴とする。この構成によれば、扁平プレスを行う際に軟化剤が全部乾燥していなければ、電極板(特に電極活物質層)の柔軟性が確保される。よって、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記軟化剤の含蓄量に対して、前記扁平プレス工程で扁平プレスを行う際に所定割合以上が残存する時期に前記軟化剤を含ませることを特徴とする。この構成によれば、扁平プレスを行う際に所定割合以上の軟化剤が残存すれば、電極板(特に電極活物質層)の柔軟性が確保される。よって、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。「所定割合」は電極板(特に電極活物質層)および軟化剤の各材料によって異なるので、用いる材料に適切な数値(例えば0.5%など)を設定する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体における所定の曲率半径以下となる部位に対応する前記電極板に対して前記軟化剤を含ませることを特徴とする。所定の曲率半径以下となる部位では、何ら措置を施さなければ電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合が発生する可能性がある。この構成によれば、所定の曲率半径以下となる部位に対応する電極板に対して軟化剤を含ませるので、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体における所定周回までの部位に対応する前記電極板に対して前記軟化剤を含ませることを特徴とする。所定周回(「捲数」とも呼ぶ。以下同じである。)までの部位では曲率半径が小さいため、何ら措置を施さなければ電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合が発生する可能性がある。この構成によれば、所定周回までの部位に対応する電極板に対して軟化剤を含ませるので、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。「所定周回」は集電体および電極活物質層の各厚さによって異なるが、例えば1〜3[回]である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体の内周側から外周側に向かうにつれて、前記軟化剤の含蓄量を変化させることを特徴とする。捲きつけてゆく電極板は内周側から外周側に向かって、屈曲する部位の曲率半径が大きくなるので、何ら措置を施さなくても不具合が発生する割合は低下する。この構成によれば、扁平体の屈曲部を含む部位に対して含ませる軟化剤の含蓄量を変化させる(通常は少なくする)ので、軟化剤の必要量が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0021】
請求項9に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体の周回数に基づいて、前記軟化剤の含蓄量を変化させることを特徴とする。この構成によれば、1周回目よりも2周回目に含ませる軟化剤の含蓄量を変化させ(通常は減らし)、2周回目よりも3周回目に含ませる軟化剤の含蓄量を変化させるなどのように周回数に応じて軟化剤の含蓄量を変化させる。よって軟化剤の必要量が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0022】
請求項10に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体の曲率半径に基づいて、前記軟化剤の含蓄量を変化させることを特徴とする。この構成によれば、例えば曲率半径が大きくなるにつれて軟化剤の含蓄量を少なくする。こうすれば軟化剤の必要量が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0023】
請求項11に記載の発明は、前記軟化剤含蓄工程は、前記電極活物質層を構成するバインダのSP値との差が所定値範囲内となるSP値を有する前記軟化剤を用いて、前記電極板に含ませることを特徴とする。この構成によれば、軟化剤のSP(Solubility Parameter;溶解パラメーター)値はバインダのSP値との差が所定値範囲内(例えば±10以内)となる。SP値の差が小さいほど溶解度が大きくなることが経験的に知られているので、軟化剤が電極活物質層のバインダと溶解し易くなり、含蓄させ易い。したがって、軟化剤を含蓄させることが容易になるので、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0024】
請求項12に記載の発明は、それぞれが帯状の集電体上に電極活物質層を形成した正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に介在させる絶縁性のセパレータとを備える捲回型電池を製造する捲回型電池の製造装置において、前記正極板,前記負極板および前記セパレータを積層して捲回する捲回手段と、前記捲回手段によって形成される捲回体を扁平状に扁平プレスする扁平プレス手段と、前記捲回手段以前に行われ、前記正極板および前記負極板のうちで一方または双方の電極板に対し、軟化剤を含ませる軟化剤含蓄手段とを有することを特徴とする。この構成によれば、請求項1に記載の発明と同様に、扁平プレス工程で扁平プレスを行って屈曲させても、電極板を容易に曲げることができる。したがって、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電極板の構成例を模式的に示す側面図である。
【図2】捲回型電池の第1製造方法を示すチャート図である。
【図3】軟化剤を含ませる部位を模式的に示す側面図である。
【図4】軟化剤を含ませる部位を模式的に示す側面図である。
【図5】捲回工程の一例を示す側面図である。
【図6】扁平プレス工程の一例を示す側面図である。
【図7】捲回型電池の第2製造方法を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、各図は本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。「材料」には物質を含む。単に「電極板」と言う場合には、正極板および負極板のうちで一方または双方を意味する。
【0027】
まず、捲回型電池の基礎となる電極板の構成例について、図1を参照しながら説明する。電極板の構成例を模式的に図1に示す。図1(A)には捲回前の状態を側面図で示し、図1(B)には扁平プレス後の状態を側面図で示し、図1(C)には平面図で示す。
【0028】
捲回型電池の構成要素である電極体(後述する扁平体)は、帯状の電極板を捲回して渦巻き状にし、さらに扁平状にプレスすることで得られる。図1は、見易くするために屈曲部を中心とする一部分を示す。本形態にかかる捲回型電池の正極板と負極板とは、正負が異なるに過ぎない。よって正極板を代表して説明し、負極板については正極板と異なる内容を説明する。
【0029】
図1(A)に示す正極板10は、帯状をなす正極集電体12の面上に正極活物質層11,13が形成される。正極集電体12は、導電性の材料(例えば金属や導電性プラスチック等)で帯状に形成される。厚さは製造する捲回型電池の仕様(例えば蓄電容量や外形寸法等)に合わせて設定され、例えば5〜300[μm]程度である。負極板については、正極板10と同じ厚さにしてもよく、異なる厚さにしてもよい。形状についても同様であり、例えば平板状,箔状,網状などが該当する。正極活物質層11は捲回後の外周面側に形成され、正極活物質層13は捲回後の内周面側に形成される。
【0030】
正極活物質層11,13は、例えばリチウムイオンなどの軽金属イオンを吸蔵・離脱することが可能な金属硫化物、金属酸化物または高分子化合物などの材料で構成される。なお図示しないが、負極板を構成する負極集電体の面上に形成される負極活物質層は、例えばリチウムやナトリウムなどの軽金属、これらの軽金属を含む合金または軽金属を吸蔵・離脱することが可能な材料などで構成される。
【0031】
扁平プレス後の屈曲部Bに対応する部位の正極板10には、扁平プレスの際に曲げ易くするため、軟化剤を含ませる。具体的には、正極活物質層11,13に軟化剤を含ませる。負極板20についても同様である。軟化剤を含ませる部位は、図1(A)に斜線ハッチで示すように、扁平プレスによって得られる扁平体200の屈曲部B(図1(B)を参照)を含む部位である。なお、外周面側の正極活物質層13は、内周面側の正極活物質層11よりも曲率半径が大きくなる。そのため、正極活物質層13に含ませる軟化剤の含蓄量は、正極活物質層11よりも少なくしてよい。
【0032】
軟化剤は、正極活物質層11,13を軟化させる材料であれば任意である。すなわち、正極活物質層11,13の材料との関係で軟化剤が定まる。例えば、正極活物質層11,13のバインダ10aとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いる場合には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や、エタノールなどが該当する(後述する表1,2を参照)。他の材料を用いる場合には、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、イソプロパノール、水などが該当する。
【0033】
上述のように軟化剤を含ませた正極板10および負極板20の相互間に絶縁性のセパレータ30を介在させて捲回し(図5を参照)、さらに扁平プレスすると(図6を参照)、図1(B)に示すような扁平体200が形成される。軟化剤によって電極板(特に電極活物質層)は軟らかくなっているので、扁平プレスを行っても電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合が発生することはない。
【0034】
帯状の正極板10を平面的に見ると、図1(C)に示すような構造になる。電極板は、後述するスリット工程(図2に示すステップS16,S26)において、板幅を示す電極幅Waで切断される。他に、板長(長辺方向の長さ)や板厚等で切断される場合もある。正極板10には、図2(A)の図面上側に示すように正極活物質層11が形成されずに正極集電体12が露出する部位、すなわち正極集電体12のみの部位がある。当該正極集電体12のみの部位は、後述する扁平プレス工程(図2に示すステップS34)を行った後、正極集電体12どうしを電気的に接続して正極とするために用いる。負極板20の負極集電体22についても同様である。なお、形成幅Wcは正極集電体12の面上に正極活物質層11を形成する幅(幅方向の長さ)である。
【0035】
図1(C)に斜線ハッチで示すように、軟化剤を含ませる部位は扁平プレスによって得られる扁平体200の屈曲部Bを含む部位であって、正極活物質層11(反対面の正極活物質層13)がある部位である。なお、集電体を軟化させる材料が軟化剤に含まれている場合には、露出する部位の正極集電体12にも含ませるのが望ましい。
【0036】
次に、正極板10,負極板20,セパレータ30などを積層して捲回型電池を製造する工程について、チャート図で示す図2を参照しながら説明する。図2に示す製造方法は、正極板10を形成する第1工程と、負極板20を形成する第2工程と、形成された正極板10および負極板20とともにセパレータ30を積層して捲回および扁平プレスを行う第3工程とに大きく分けられる。以下では第1工程から第3工程の順番に説明するが、第1工程と第2工程は順不同で行ってよい。
【0037】
(第1工程)正極板10の形成工程
まず、正極集電体12上に形成する正極活物質層11,13の混練物を作製する混練工程を行う〔ステップS10〕。混練物は、バインダ10a、正極活物質10b、導電材10c、溶媒10dなどを混ぜ合わせて液状またはペースト状にした物である。
【0038】
バインダ10aは、任意の結着剤を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、ポリフッ化ビニリデンの変性体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリレート単位を有するゴム粒子結着剤などが該当する。なお、反応性官能基を導入したアクリレートモノマーや、アクリレートオリゴマーなどを混入してもよい。
【0039】
正極活物質10bは、例えばリチウムイオンなどの軽金属イオンを吸蔵・離脱することが可能な物質で構成される。具体的には、金属硫化物、金属酸化物または高分子化合物などが該当する。金属硫化物や金属酸化物には、例えば硫化チタン(TiS2)、硫化モリブデン(MoS2)、セレン化ニオブ(NbSe2)または酸化バナジウム(V25)などのリチウムを含有しないものが挙げられる。金属酸化物には、上記したリチウムを含有しない物質のほか、LixMOyなどで表されるリチウム複合酸化物が挙げられる。なお、Mαは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)などの遷移金属である。MβやMγは、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、Al、Mn、Co、Ni、Tiのうちで一以上の金属元素、あるいはリン(P)やホウ素(B)などの非金属元素である。組成式の添字について、xは0.05≦x≦2.0、yは2≦y≦4の範囲内でそれぞれ設定するのが望ましい。
【0040】
正極活物質10bは、特に高電圧・高エネルギー密度の確保およびサイクル特性を向上させるため、リチウム・コバルト複合酸化物やリチウム・ニッケル酸化物などのリチウム複合酸化物を用いるのが望ましい。上述した金属硫化物や金属酸化物などのうちで二種以上組み合わせて用いてもよい。正極活物質10bに用いる材料は、電池の種類や用途等に応じて任意に選択可能である。
【0041】
導電材10cは、例えばカーボンブラックなどのような導電性の材料を用いる。カーボンブラックは、BET法による比表面積が30[m2/g]以上の高比表面積のものを用いるのが望ましい。
【0042】
溶媒10dは、混練に適したものを用いる。例えば、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの単独溶媒や、これらの溶媒のうちで二種以上を選択して混合させた混合溶媒などが該当する。
【0043】
ステップS10で作製した混練物を正極集電体12上に正極活物質層11,13として形成する塗工・乾燥工程を行う〔ステップS12〕。具体的には、混練物を正極集電体12上に塗工した後、所定温度下で乾燥させて固形化する。塗工は、例えば塗装,塗りつけ,吹きつけ等が該当する。正極活物質層11,13は、乾燥後に所定厚さ(例えば100〜300[μm])となるように塗工量を調整する。正極集電体12の厚さは、例えば10〜20[μm]程度である。こうして帯状の正極板10が形成される。
【0044】
その後、プレス機(例えばローラ等)によって正極板10をプレスするプレス工程〔ステップS14〕と、スリット加工機によって正極板10を所定形状(板長,板厚,板幅等)に切断するスリット工程〔ステップS16〕とを順不同で行う。こうして、捲回可能な正極板10が形成される。
【0045】
(第2工程)負極板20の形成工程
負極集電体22に形成する負極活物質層21,23の混練物を作製する混練工程を行う〔ステップS20〕。混練物は、バインダ20a、負極活物質20b、分散材20c、溶媒20dなどを混練した物である。
【0046】
バインダ20aは、バインダ10aと同様に任意の結着剤を用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、その変性体などが該当する。なお、リチウムイオン受入れ性を向上させるため、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子(SBR)およびその変性体に対し、カルボキシメチルセルロース(CMC)をはじめとするセルロース系樹脂等を併用したり、少量添加したりするのが望ましい。
【0047】
負極活物質20bは、軽金属、当該軽金属を含む合金、当該合金や軽金属自体を吸蔵・離脱することが可能な材料などで構成される。軽金属は、例えばリチウム(Li)やナトリウム(Na)などが該当する。軽金属を吸蔵・離脱することが可能な材料は、例えば炭素材料、珪素(Si)、珪素化合物、金属酸化物または高分子化合物などが該当する。炭素材料は、例えば熱分解炭素類、コークス類、黒鉛類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維または活性炭などが該当する。コークス類には、例えばピッチコークス,ニードルコークス,石油コークスなどを含む。ガラス状炭素類には、難黒鉛化炭素材料などを含む。有機高分子化合物焼成体は、不活性ガス気流中または真空中において高分子化合物(例えばフェノール樹脂やフラン樹脂など)を高温(例えば約500℃以上)で焼成して炭素化された物質である。珪素化合物は、例えばCaSi2やCoSi2などが該当する。金属酸化物は、例えば酸化スズ(SnO2)などが該当する。高分子化合物は、例えばポリアセチレンやポリピロールなどが該当する。負極活物質20bとして用いる材料は、電池の種類や用途等に応じて任意に選択可能である。
【0048】
分散材20cは任意であり、例えばN−メチル−2−ピロリドン等を用いる。溶媒20dは、溶媒10dと同様に混練に適したものを用いる。溶媒10dと同じ材料でもよく、異なる材料でもよい。
【0049】
絶縁性のセパレータ30は、高分子材料(特に多孔質のもの)などから形成できる。セパレータ30の厚さは、例えば10〜30[μm]の範囲である。高分子材料は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテンなどが該当する。さらには、これらの高分子材料から形成した不織布や、延伸多孔質化したフィルムなどを用いてもよい。
【0050】
ステップS12と同様にして、ステップS20で作製した混練物を負極集電体20e上に負極活物質層21,23として形成する塗工・乾燥工程を行う〔ステップS22〕。具体的には、混練物を負極集電体20e上に塗工した後、所定温度下で乾燥させて固形化する。負極活物質層21,23は、乾燥後に所定厚さ(例えば100〜200[μm])となるように塗工量を調整する。負極集電体20eの厚さは、例えば10〜20[μm]程度である。こうして帯状の負極板20が形成される。
【0051】
その後、ステップS12と同様にして負極板20をプレスするプレス工程〔ステップS24〕と、ステップS16と同様にして負極板20を所定形状(板長,板厚,板幅等)に切断するスリット工程〔ステップS26〕とを順不同で行う。こうして、捲回可能な負極板20が形成される。
【0052】
(第3工程)捲回および扁平プレス
正極板10および負極板20が形成された後に行われた後、扁平体200の屈曲部Bに対応する正極板10および負極板20のうちで一方または双方に対して軟化剤を含ませる軟化剤含蓄工程を行う〔ステップS30〕。
【0053】
図5には、滴下機(軟化剤含蓄手段42)から軟化剤42aを滴下し、電極板(特に電極活物質層)に含ませる例を示す。その他、噴射機による軟化剤42aの吹き付け、塗布機による軟化剤42aの塗布、注入機による軟化剤42aの注入などで行ってもよい。滴下機,噴射機,塗布機,注入機などは、いずれも軟化剤含蓄手段42に相当する。軟化剤を含ませる他の方法を適用してもよい。例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が該当する。
【0054】
軟化剤42aを含ませる時期は、早過ぎると軟化剤42aが乾燥してしまい、逆に遅すぎると電極板を十分に軟化させられない。そのため、後述するステップS36の扁平プレス工程において扁平プレスを行う際に軟化剤42aが全部乾燥しないことや、軟化剤42aの含蓄量に対して扁平プレスを行う際に所定割合以上が残存することなどの条件を満たす時期に行うのが望ましい。所定割合は、電極板や軟化剤42aに用いる材料に応じて適切な数値(例えば0.5%など)を設定する。
【0055】
軟化剤を含ませる部位の設定例について、図3,図4を参照しながら説明する。軟化剤を含ませる部位は、後述する扁平プレス工程によって形成される扁平体200の屈曲部Bとなる部位(図3,図4を参照)の範囲内に設定するのが望ましい。軟化剤を含ませる量(含蓄量)が多くなるにつれて、後述する浸透時間(表1,2を参照)を長く確保する必要がある。そのため、電極板を確実に軟化でき、かつ、浸透時間が短くなるように、含蓄量を試験等で適正化するのが望ましい。
【0056】
図3には、所定周回や曲率半径に基づいて軟化剤の含蓄量を変化させる例を示す。設定する範囲の一例を斜線ハッチで示す。図3(A)には、扁平体200における所定周回までであって、かつ、屈曲部Bに対応する電極板の部位A1を示す。図3(B)には、扁平体200における所定の曲率半径Rx(例えば0〜600[μm])以下であって、かつ、屈曲部Bに対応する電極板の部位A2を示す。
【0057】
所定周回は、集電体および電極活物質層の各厚さによって異なるが、例えば1〜3[回]である。この場合、周回数に応じて軟化剤42aの含蓄量を変化させるのが望ましい。例えば、1周回目よりも2周回目に含ませる軟化剤42aの含蓄量を減らし、2周回目よりも3周回目に含ませる軟化剤42aの含蓄量を減らすなどである。
【0058】
図4には、曲率半径に基づいて軟化剤の含蓄量を変化させる例を示す。図4(A)では、設定しようとする周回(斜線ハッチで示す位置)の正極板10に対して、扁平体200の屈曲部Bにかかる曲率半径に基づいて変化させる。曲率と曲率半径とは逆数の関係にあるので、曲率が大きくなれば曲率半径は小さくなり、曲率が小さくなれば曲率半径は大きくなる。そこで、軟化剤を含ませる位置の曲率に基づいて含蓄量を設定する。例えば、屈曲部Bの中心点Prから電極板の位置までの半径R1,R2,R3,…(すなわち曲率半径)を求め、さらに曲率半径の比率に応じて含蓄量を設定する。式で表すと、例えば「Da:Db:Dc=1/R1:1/R2:1/R3」である。
【0059】
図4(B)には、屈曲部Bの中心点Prから放射状に伸ばした仮想線L1,L2,L3,…と正極板10とが交差する位置の正極板10に対し、軟化剤を含ませる例を示す。すなわち、仮想線L1と正極板10とが交差する位置P1a,P1b,P1c,…や、仮想線L2と正極板10とが交差する位置P2a,P2b,P2c,…、仮想線L3と正極板10とが交差する位置P3a,P3b,P3c,…などに対応して、上述したように曲率半径の比率に応じて含蓄量を設定する。この場合の含蓄量は、必ずしも厳密である必要はなく、階段状に変化させてもよい。
【0060】
図2に戻って、正極板10,負極板20,セパレータ30などを積層して渦巻き状に捲回する捲回工程を行い〔ステップS34〕、当該捲回工程によって形成される捲回体100を扁平状にプレスする扁平プレス工程を行う〔ステップS36〕。扁平プレス後は、図1(B)に示すような扁平体200が形成される。
【0061】
ステップS34では、図5に示すように、正極板10,負極板20,セパレータ30などを積層して、捲回手段40に捲回する。捲回手段40は、例えば円柱状や円筒状のローラ等が該当し、所定方向(例えば矢印D1方向)に回転して捲き取る。
【0062】
ステップS36では、図6に示すように平面台44(平面の作業台)上に固定した捲回体100に対して、扁平プレス手段46を矢印D2方向に移動させて扁平プレスする。扁平プレス手段46は、平面状のプレス面46aを有するプレス機などが該当する。
【0063】
捲回体100を扁平プレスして扁平体200を得る際に不具合(具体的には電極の破断)が発生するか否かについて、軟化剤42aの割合やSP値差などの試験条件を変えて試験した。まず、試験条件を以下に示す。
【0064】
(試験条件)
正極板10は、正極活物質10bにリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を用い、導電材10cにデンカブラックを用い、バインダ10aにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。混合比率をLiFePO4:デンカブラック:PVDF=90:5:5としてスラリーを作製し、作製したスラリーを塗布、乾燥、プレス、スリットすることで正極板10を作製した。この作製形状は、電極幅Wa=40[mm]、形成幅Wc=34[mm]、板長=1.4[m]、全板厚=205[μm]、正極集電体12の厚さ=15[μm]、密度=1.9[g/cm3]である。
【0065】
負極板20は、負極活物質20bにメソカーボンマイクロビーズ(大阪ガスケミカル株式会社製「MCMB−25−28」、平均粒子径25[μm])を用い、分散材20cにカルボキシメチルセルロース(CMC)を用い、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。混合比率を負極活物質:CMC:SBR=94:3:3としてスラリーを作製し、作製したスラリーを塗布、乾燥、プレス、スリットすることで負極板20を作製した。この作製形状は、電極幅Wa=42[mm]、形成幅Wc=37[mm]、板長=1.5[m]、全板厚=150[μm]、負極集電体22の厚さ=10[μm]、密度=1.34[g/cm3]である。
【0066】
図5に示すように軟化剤含蓄手段42から軟化剤42aを正極板10および負極板20に滴下した。滴下して軟化剤を含ませる範囲は、扁平プレスによって屈曲される部位を中心として5[mm]の範囲である。軟化剤42aの材料は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エタノール、水を設定した。電極板に軟化剤42aと滴下してから扁平プレスを行うまでの浸透時間は、1分間、5分間、10分間を設定した。
【0067】
軟化剤42aを含ませた後、正極板10,負極板20,セパレータ30などを積層して、図5に示すように捲回手段40に捲回し、図6に示すように扁平プレス手段46で扁平プレスを行った。なお、セパレータ30はポリエチレンで作製し、電極幅Wa=43[mm]、板厚=20[μm]とした。試験結果を下記の表1と表2とに分けて示す。すなわち、表1には試験番号が「1」〜「10」を示し、表2には試験番号が「11」〜「19」を示す。不具合の欄には、電極破断が発生すれば「有」を示し、発生しなければ「無」を示す。結果の欄には、電極破断が全く発生しなければ「○」を示し、最内周にのみ電極破断が発生すれば「△」を示し、2周回以降にも電極破断が発生すれば「×」を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
上記の結果表から明らかなように、軟化剤42aと電極活物質層のバインダ10a,20aとにかかるSP値差が小さくなるほど電極破断が発生しにくくなる。特に所定値範囲内(±10以内)で電極破断が発生しにくい。また、浸透時間が長くなるにつれて、電極破断が発生しにくくなる。
【0071】
上述した実施の形態によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1,12に対応し、正極板10,負極板20およびセパレータ30を積層して捲回する捲回手段40(捲回工程)と、捲回手段40によって形成される捲回体100を扁平状に扁平プレスする扁平プレス手段46(扁平プレス工程)と、正極板10および負極板20のうちで一方または双方の電極板に対して軟化剤42aを含ませる軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)とを有する構成とした(図2を参照)。この構成によれば、扁平プレスを行って屈曲させても、軟化剤42aを含んだ電極板は容易に曲げられるので、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生を防止することができる。
【0072】
請求項2に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、軟化剤42aを滴下する滴下法、軟化剤42aを吹き付ける吹付法、軟化剤42aを塗布する塗布法、軟化剤42aを注入する注入法のうちでいずれかの方法で行う構成とした(図2のステップS30を参照)。この構成によれば、軟化剤42aをより確実に電極板(特に電極活物質層)に含ませることができる。
【0073】
請求項3に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、電極板のうちで扁平プレスによって得られる扁平体200の屈曲部Bとなる部位に対し、軟化剤42aを含ませる構成とした(図1,図3を参照)。この構成によれば、扁平体200の屈曲部Bを含む部位に対して軟化剤42aを含ませるので、電極板を容易に曲げられるようになり、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。また、軟化剤42aを含ませる部位が限定されるので、必要な軟化剤42aが少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0074】
請求項4に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、扁平プレスを行う際に軟化剤42aが全部乾燥しない時期に軟化剤42aを含ませる構成とした(図2のステップS30を参照)。この構成によれば、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0075】
請求項5に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、軟化剤42aの含蓄量に対して、扁平プレス工程で扁平プレスを行う際に所定割合以上が残存する時期に軟化剤42aを含ませる構成とした(図2のステップS30を参照)。この構成によれば、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0076】
請求項6に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、扁平体200における所定の曲率半径以下となる部位に対応する電極板に対して軟化剤42aを含ませる構成とした(図3(B)を参照)。この構成によれば、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0077】
請求項7に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、扁平体200における所定周回までの部位に対応する電極板に対して軟化剤42aを含ませる構成とした(図3(A)を参照)。この構成によれば、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0078】
請求項8に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、扁平体200の内周側から外周側に向かうにつれて、軟化剤42aの含蓄量を変化させる構成とした(図4を参照)。この構成によれば、軟化剤42aの必要量が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0079】
請求項9に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、扁平体200の周回数に基づいて、軟化剤42aの含蓄量を変化させる構成とした(図2のステップS30,図3(A)を参照)。この構成によれば、よって軟化剤42aの必要量が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0080】
請求項10に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、扁平体200の曲率半径に基づいて、軟化剤42aの含蓄量を変化させる構成とした(図2のステップS30,図3(B)を参照)。この構成によれば、軟化剤42aの必要量が少なくて済み、コストを抑えることができる。
【0081】
請求項11に対応し、軟化剤含蓄手段42(軟化剤含蓄工程)は、電極活物質層を構成するバインダ10a,20aのSP値との差が所定値範囲内となるSP値を有する軟化剤42aを用いて、電極板に含ませる構成とした(図2のステップS30を参照)。この構成によれば、軟化剤42aを含蓄させることが容易になるので、電極活物質層の剥離や集電体の切断等のような不具合の発生をより確実に防止することができる。
【0082】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0083】
上述した実施の形態では、集電体(正極集電体12や負極集電体22)の両面に電極活物質層(正極活物質層11,13や負極活物質層21,23)を形成した電極板を適用した(図1等を参照)。この形態に代えて、集電体の片面にのみ電極活物質層を形成した電極板を適用することもできる。電極活物質層の形成面が相違するに過ぎないので、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0084】
上述した実施の形態では、バインダ10a,正極活物質10b,導電材10c,溶媒10dを混練した混練物を正極集電体12上に正極活物質層11,13として形成する構成とした(図2,図11のステップS12,S22に示す塗工・乾燥工程を参照)。この形態に代えて、バインダ10a,正極活物質10b,導電材10c,溶媒10dを正極集電体12上に並行して(あるいは前後して順番に)塗工することで、正極集電体12上に直接的に正極活物質層11,13として形成する構成としてもよい。負極集電体22上に負極活物質層21,23として形成する場合も同様である。この形態によれば、混練工程が不要になるので、電極板の形成に要する時間を短縮することができる。
【0085】
上述した実施の形態では、正極板10および負極板20についてそれぞれスリット工程(ステップS16,S26)を行った後、軟化剤42aを含ませる軟化剤含蓄工程(ステップS30)を行う構成とした(図2を参照)。この形態に代えて、スリット工程よりも前に軟化剤含蓄工程を行う構成としてもよい。例えば図7に示すように、正極板10の形成ではプレス工程(ステップS14)の後に行う構成としてもよく、負極板20の形成では塗工・乾燥工程(ステップS22)の後に行う構成としてもよい。いずれの構成も、扁平プレスを行う際に軟化剤42aが全部乾燥しないことや、軟化剤42aの含蓄量に対して扁平プレスを行う際に所定割合以上が残存することなどの条件を満たせばよい。また、正極板10および負極板20のうち一方または双方に適用可能である。この構成であっても、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
10 正極板(電極板)
10a,20a バインダ(結着剤)
10b 正極活物質(電極活物質)
10c 導電材
10d,20d 溶媒
11,13 正極活物質層(電極活物質層)
12 正極集電体(集電体)
20 負極板(電極板)
20b 負極活物質(電極活物質)
20c 分散材
21,23 負極活物質層(電極活物質層)
22 負極集電体(集電体)
30 セパレータ
40 捲回手段
42 軟化剤含蓄手段
42a 軟化剤
46 扁平プレス手段
100 捲回体
200 扁平体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが帯状の集電体上に電極活物質層を形成した正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に介在させる絶縁性のセパレータとを備える捲回型電池を製造する捲回型電池の製造方法において、
前記正極板,前記負極板および前記セパレータを積層して捲回する捲回工程と、
前記捲回工程によって形成される捲回体を扁平状に扁平プレスする扁平プレス工程と、
前記捲回工程以前に行われ、前記正極板および前記負極板のうちで一方または双方の電極板に対し、軟化剤を含ませる軟化剤含蓄工程と、
を有することを特徴とする捲回型電池の製造方法。
【請求項2】
前記軟化剤含蓄工程は、前記軟化剤を滴下する滴下法、前記軟化剤を吹き付ける吹付法、軟化剤を塗布する塗布法、軟化剤を注入する注入法のうちでいずれかの方法で行うことを特徴とする請求項1に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項3】
前記軟化剤含蓄工程は、前記電極板のうちで前記電極板のうちで前記扁平プレス工程の扁平プレスによって得られる扁平体の屈曲部を含む部位に対し、前記軟化剤を含ませることを特徴とする請求項1または2に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項4】
前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平プレス工程で扁平プレスを行う際に前記軟化剤が全部乾燥しない時期に前記軟化剤を含ませることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項5】
前記軟化剤含蓄工程は、前記軟化剤の含蓄量に対して、前記扁平プレス工程で扁平プレスを行う際に所定割合以上が残存する時期に前記軟化剤を含ませることを特徴とする請求項4に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項6】
前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体における所定の曲率半径以下となる部位に対応する前記電極板に対して前記軟化剤を含ませることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項7】
前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体における所定周回までの部位に対応する前記電極板に対して前記軟化剤を含ませることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項8】
前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体の内周側から外周側に向かうにつれて、前記軟化剤の含蓄量を変化させることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項9】
前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体の周回数に基づいて、前記軟化剤の含蓄量を変化させることを特徴とする請求項8に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項10】
前記軟化剤含蓄工程は、前記扁平体の曲率半径に基づいて、前記軟化剤の含蓄量を変化させることを特徴とする請求項8に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項11】
前記軟化剤含蓄工程は、前記電極活物質層を構成するバインダのSP値との差が所定値範囲内となるSP値を有する前記軟化剤を用いて、前記電極板に含ませることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の捲回型電池の製造方法。
【請求項12】
それぞれが帯状の集電体上に電極活物質層を形成した正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に介在させる絶縁性のセパレータとを備える捲回型電池を製造する捲回型電池の製造装置において、
前記正極板,前記負極板および前記セパレータを積層して捲回する捲回手段と、
前記捲回手段によって形成される捲回体を扁平状に扁平プレスする扁平プレス手段と、
前記捲回手段以前に行われ、前記正極板および前記負極板のうちで一方または双方の電極板に対し、軟化剤を含ませる軟化剤含蓄手段と、
を有することを特徴とする捲回型電池の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−174582(P2012−174582A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37011(P2011−37011)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】