説明

捺染糊組成物及び捺染物の製造方法

【課題】捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤を使用し、且つ、ミネラルターペンを含まないで十分な捺染品位を有する捺染物を得ることのできる捺染糊組成物を提供する。
【解決手段】3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にある糊剤と、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にある糊剤とを少なくとも2種類を配合することにより、捺染粘性指数(PVI)を0.6〜0.7の範囲以内にした捺染糊組成物でもって繊維材料を捺染する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染糊組成物及び当該捺染糊組成物を使用した捺染物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維材料の捺染に使用される捺染糊組成物には、染料、糊剤、その他の染色助剤が配合されている。ここで、糊剤は、捺染糊組成物の増粘成分として作用し、従来からデンプン又はその誘導体、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、天然ガム類、アクリル系合成糊剤、エマルション糊剤(石油を原料とするミネラルターペンを乳化剤により水に分散したO/Wエマルション)等が使用されている。
【0003】
また、捺染糊組成物には、粘度安定性、繊維材料への転写性と浸透性、洗浄の際の脱糊性、並びに、捺染柄の均染性、鮮明性、尖鋭性及び染色濃度等の性能が要求される。
【0004】
従って、上記各性能を満足させるためには、単一の糊剤だけでは不十分であり、複数の糊剤を配合して使用するのが一般的である。中でも、アルギン酸ナトリウム等の天然糊剤とエマルション糊剤とを併用した、所謂ハーフエマルション糊剤が多く使用されている。
【0005】
しかし、近年の重油の高騰に加え、地球温暖化に影響する揮発性有機化合物(VOC)対策の観点から、エマルション糊剤中に含まれる上記ミネラルターペンの使用を避ける捺染糊組成物が要求されるようになってきた。
【0006】
そこで、上記各性能を満足させ、且つ、ハーフエマルション糊剤でない捺染糊組成物の提案がなされている。例えば、下記特許文献1には、特定の置換度を有し、且つ、粘度と捺染粘性指数(PVI)の関係が特定の値を示すCMCが捺染用糊剤として提案されている。
【特許文献1】特開平5−140876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の捺染用糊剤は、セルロース質原料にアルカリの存在下、エーテル化剤を作用させてCMCを製造するに当たり、エーテル化剤とアルカリを特定の割合で添加することにより製造される特別のCMCである。
【0008】
従って、上記捺染用糊剤を得るには、特定の製法を必要とし、従来から市場に流通する一般のアルギン酸ナトリウムや通常のCMC等の汎用糊剤を活用するものではない。従って、糊剤の安定供給とコスト面で問題を有する。
【0009】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、捺染糊組成物として上記各性能を満足するものであって、捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤を使用し、且つ、ミネラルターペンを含まない捺染糊組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、繊維材料の捺染において、近年の重油の高騰に加え、地球温暖化に影響する揮発性有機化合物(VOC)対策の観点から、石油を原料とするミネラルターペンを使用することなく十分な捺染品位を有する捺染物を得ることのできる捺染物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤の中から、捺染粘性指数(PVI)が極端に異なる2種類以上の糊剤を配合し、且つ、配合後の捺染粘性指数(PVI)が特定の値の範囲以内にあることにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明に係る捺染糊組成物は、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にある糊剤と、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にある糊剤とを含有する捺染糊組成物であって、少なくとも上記2種類の糊剤を配合することにより捺染粘性指数(PVI)が0.6〜0.7の範囲以内にあることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、捺染糊組成物として要求される粘度安定性、繊維材料への転写性と浸透性、洗浄の際の脱糊性、並びに、捺染柄の均染性、鮮明性、尖鋭性及び染色濃度等の性能が良好であって、捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤を使用し、且つ、ミネラルターペンを含まない捺染糊組成物を提供することができる。
【0014】
一方、本発明に係る捺染物の製造方法は、上記捺染糊組成物を繊維材料に印捺する工程と、当該捺染糊組成物中の染料を繊維材料に固着する工程と、当該染料の固着後に繊維材料を洗浄する工程とを含む。
【0015】
上記構成によれば、繊維材料の捺染において、近年の重油の高騰に加え、地球温暖化に影響する揮発性有機化合物(VOC)対策の観点から、石油を原料とするミネラルターペンを使用することなく十分な捺染品位を有する捺染物を得ることのできる捺染物の製造方法を提供することができる。
【0016】
ここで、繊維材料の捺染には、フラットスクリーン、ロータリースクリーン等のスクリーン捺染機やローラー捺染機を使用することが一般的である。
【0017】
本発明において、繊維材料とは、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、テンセル等の再生セルロース繊維、羊毛、絹等の天然タンパク質繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維の単一使用又は複合使用からなる織物、編物又は不織布等をいう。
【0018】
また、捺染糊組成物には、増粘成分としての糊剤の他に、繊維材料の着色を目的として染料が含有される。この染料には、上記各繊維材料に対応したものが使用され、例えば、セルロース系繊維には、直接染料、反応染料、建染め染料等が使用される。タンパク質繊維には、酸性染料、塩基性染料等が使用される。また、半合成繊維や合成繊維には、分散染料等が使用される。
【0019】
更に、捺染糊組成物には、上記染料の繊維材料への固着を促進するために、各種助剤が含有されることがある。これらの助剤には、例えば、反応触媒としてのアルカリ、ヒドロトロープ剤、抗還元剤、金属イオン封鎖剤、消泡剤及び保存剤等がある。
【0020】
本発明において、糊剤とは、上述のように、捺染糊組成物の増粘成分であって、例えば、デンプン又はその誘導体、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、天然ガム類、アクリル系合成糊剤、エマルション糊剤等の多種類の天然糊剤や合成糊剤がある。また、本発明においては、捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤の中から適宜選定される。
【0021】
これらの糊剤の中で、本発明においては、捺染粘性指数(PVI)が特定の値を示すものを使用する。即ち、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にある糊剤と、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にある糊剤である。
【0022】
更に、本発明においては、少なくとも上記各PVIを示す糊剤を配合することにより、捺染糊組成物の捺染粘性指数(PVI)を0.6〜0.7の範囲以内にするものである。この捺染粘性指数(PVI)を0.6〜0.7の範囲以内にすることにより、上述の各性能を満足することができる。
【0023】
ここで、捺染粘性指数(PVI)とは、捺染糊組成物の流動特性を数値化し、特にその擬塑性流動を比較するために使用される。具体的には、ブルックフィールドB型粘度計を使用し、異なるずり速度における各粘度の比で表す。例えば、上記粘度計において、4号ロータを使用して、回転数6rpmのときの粘度(η6)とその10倍の回転数60rpmのときの粘度(η60)の比から、ずり速度に関する捺染粘性指数(PVI)は、次の式(1)で表される。
【0024】
PVI=η60/η6 ・・・ (1)
従って、PVIが大きく1.0に近いほど曳糸性が強くニュートン流動に近づき、逆に、PVIが小さく0.1に近いほど構造粘性が強く塑性流動に近づく。
【0025】
一般の糊剤では、例えば、アルギン酸ナトリウムや天然ガム類は、PVIが大きく、また、デンプン又はその誘導体、エマルション糊剤やアクリル系合成糊剤は、PVAが小さい。
【0026】
本発明者らは、少なくとも上記各PVIを示す汎用の糊剤を配合することにより、個々の糊剤の良好な性能を複合的に活用することにより、本発明の目的を達成できることを見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を各実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本第1実施形態は、綿織物の捺染に使用される反応染料を含有する捺染糊組成物に関するものである。
【0028】
本第1実施形態に係る捺染糊組成物は、糊剤、反応染料及び染色助剤を含む。当該染色助剤としては、反応触媒としてのアルカリ、ヒドロトロープ剤、抗還元剤及び金属イオン封鎖剤等が含まれる。
【0029】
本第1実施形態には、糊剤としてアルギン酸ナトリウムを使用する。一般に捺染に使用されるアルギン酸ナトリウムには、高固形分低粘度のものから低固形分高粘度のものがある。本発明においては、これらのいずれを使用してもよい。
【0030】
一般に、アルギン酸ナトリウムは、PVI=0.7〜0.9の範囲以内にあり、反応性染料にも使用できる。このアルギン酸ナトリウムは、繊維材料への浸透性、洗浄の際の脱糊性、捺染柄の均染性がよく、捺染品位の良好な捺染品ができる。一方、このアルギン酸ナトリウムは、天然物であり、単独使用では粘度安定性の不十分な点が顕著に現れ、また染色濃度が十分に得られないという欠点を有する。また、アルギン酸ナトリウムは、曳糸性が強く、捺染時の転写性と捺染柄の尖鋭性に劣ることがある。従って、一般に、アルギン酸ナトリウムの単独での使用は行われない。
【0031】
そこで、本第1実施形態においては、上記アルギン酸ナトリウム単独では不十分な点をアクリル系合成糊剤で補完する。
【0032】
ここで、アクリル系合成糊剤とは、一般にはポリアクリル酸といわれるものであり、カルボン酸のアルカリ増粘により粘性を維持している。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸等のビニル基含有モノマーのホモポリマー又はコポリマー等がある。
【0033】
アクリル系合成糊剤は、一般に、PVIが小さく、捺染柄の鮮明性と尖鋭性がよく、また、合成物であり粘度安定性は良好であるが、逆に繊維材料への浸透性が不十分であり、単独では反応染料に使用しにくい場合が多い。
【0034】
本発明においては、PVI=0.2〜0.3のアクリル系合成糊剤を使用することにより、上記アルギン酸ナトリウムのPVI=0.7〜0.9と併用して、PVI=0.6〜0.7の捺染糊組成物を得ることができる。この場合、アルギン酸ナトリウムとアクリル系合成糊剤の使用量は、求める粘度において適宜調整すればよい。
【0035】
本第1実施形態における反応染料としては、少なくとも1個の反応性基を有するモノアゾ系、ポリアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、ホルマザン系又はジオキサジン系等の染料がある。ここで、セルロースに対する代表的な反応基としては、クロルトリアジン基、クロルピリミジン基、ビニルスルホン基等があるが、これらに限るものではなく、いずれのタイプでもよい。また、ビニルスルホン基とモノクロルトリアジン基を有する二官能染料等もある。
【0036】
本第1実施形態における反応触媒としてのアルカリは、一般に、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムが使用される。例えば、炭酸水素ナトリウムを使用する場合には、捺染糊組成物に対して、0.1〜10重量%、好ましくは、1〜5重量%含有される。
【0037】
本第1実施形態におけるヒドロトロープ剤としては、その代表的なものとして尿素等がある。尿素を使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.1〜30重量%、好ましくは、1〜15重量%含有される。
【0038】
本第1実施形態に使用される抗還元剤としては、芳香族二トロ化合物、好ましくは、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム等がある。メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.1〜4重量%、好ましくは、0.5〜2重量%含有される。
【0039】
本第1実施形態に使用される金属イオン封鎖剤としては、リン酸塩、好ましくは、ヘキサメタリン酸ナトリウム等がある。ヘキサメタリン酸ナトリウムを使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.05〜1重量%、好ましくは、0.1〜0.5重量%含有される。
【0040】
以下、本第1実施形態において、次のような各実施例及び各比較例を作製した。
実施例1:
本実施例1においては、アルギン酸ナトリウムとして、キミテックスα105(株式会社キミカ製)を使用した。この場合、キミテックスα105を3重量%水溶液にしたときには、PVI=0.85であった。
【0041】
一方、アクリル系合成糊剤として、ALCOPRINT RT−BC(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ株式会社製アクリル系合成糊剤のミネラルオイル分散液、有効成分70%)を使用した。この場合、ALCOPRINT RT−BCを見かけで4.3重量%水溶液(有効成分として3重量%に相当、また、中和のため炭酸水素ナトリウム0.5重量%を併用)にしたときには、PVI=0.22であった。
【0042】
捺染糊組成物の作製については、上記キミテックスα105を3.2重量%、上記ALCOPRINT RT−BCを見かけで2重量%、反応染料 Remazol Black R−KN(ダイスター株式会社製、染料成分50%水溶液)を15重量%、炭酸水素ナトリウムを2.5重量%、尿素を5重量%、抗還元剤(メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.7重量%、金属イオン封鎖剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)0.2重量%及び残余の水を含む捺染糊組成物1を作製した。
【0043】
作製した捺染糊組成物1の粘度(η60及びη6)、PVI及びこれらの経時安定性を表1に示す。
実施例2:
本実施例2においては、アクリル系合成糊剤として、実施例1のALCOPRINT RT−BCの代わりにスーパープリントSP−200(株式会社キミカ製アクリル系合成糊剤のミネラルオイル分散液、有効成分55%)を使用した。この場合、スーパープリントSP−200を見かけで5.5重量%水溶液(有効成分として3重量%に相当、また、中和のため炭酸水素ナトリウム0.5重量%を併用)にしたときには、PVI=0.23であった。
【0044】
捺染糊組成物の作製については、糊剤としてキミテックスα105を3.2重量%とスーパープリントSP−200を4重量%使用した以外は、上記実施例1と同様に行い、捺染糊組成物2を作製した。
【0045】
作製した捺染糊組成物2の粘度(η60及びη6)、PVI及びこれらの経時安定性を表1に示す。
比較例1:
本比較例1においては、糊剤としてアルギン酸ナトリウムを単独で使用した。アルギン酸ナトリウムとしては、上記各実施例と同様にキミテックスα105を使用した。
【0046】
捺染糊組成物の作製については、糊剤としてキミテックスα105を4.5重量%使用し、アクリル系合成糊剤を使用しない以外は、上記実施例1と同様に行い、捺染糊組成物3を作製した。
【0047】
作製した捺染糊組成物3の粘度(η60及びη6)、PVI及びこれらの経時安定性を表1に示す。
比較例2:
本比較例2においては、糊剤としてアルギン酸ナトリウムとエマルション糊剤を併用して使用した。アルギン酸ナトリウムとしては、上記各実施例と同様にキミテックスα105を使用した。
【0048】
上記エマルション糊剤は、乳化剤ST−50A(日華化学株式会社製)を3重量%使用して、ミネラルターペン62重量%を水35重量%に乳化して作製した。
【0049】
捺染糊組成物の作製については、糊剤としてキミテックスα105を3.2重量%と上記エマルション糊剤を25重量%使用した以外は、上記実施例1と同様に行い、捺染糊組成物4を作製した。
【0050】
作製した捺染糊組成物4の粘度(η60及びη6)、PVI及びこれらの経時安定性を表1に示す。
【0051】
表1において、経時安定性の評価は、良好なものを○、不良なものを×とした。
【0052】
【表1】

表1から明らかなように、本第1実施形態に係る捺染糊組成物1及び2は、粘度(η60及びη6)、PVI及びこれらの経時安定性において、従来から使用されているミネラルターペンを含む捺染糊組成物4と同様に良好な結果を示した。
【0053】
一方、アルギン酸ナトリウムを単独使用した捺染糊組成物3は、PVIが大きく、また、粘度の経時安定性が不良であった。
【0054】
よって、本第1実施形態においては、捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤を使用し、且つ、ミネラルターペンを含まないで十分な捺染品位を有する捺染物を得ることのできる捺染糊組成物を提供することができる。なお、本第1実施形態における捺染糊組成物の粘性以外の性能については、下記の第2実施形態において評価する。
(第2実施形態)
本第2実施形態は、上記第1実施形態で作製された捺染糊組成物1〜4を使用した捺染物の製造方法に関するものである。
【0055】
本第2実施形態においては、繊維材料として、通常の方法で糊抜き・精練・漂白・シルケット加工した綿織物を使用した。
【0056】
次いで、上記第1実施形態で作製した実施例1及び2に係る捺染糊組成物1及び2、並びに、比較例1及び2に係る捺染糊組成物3及び4の各捺染糊組成物を用いて、上記綿織物にフラットスクリーン捺染機により模様を印捺した。このフラットスクリーン捺染機による模様の印捺は、120メッシュのスクリーンを使用して、通常の方法により行った。
【0057】
この印捺時の転写性と浸透性を目視にて評価し、その結果を表2に示した。
【0058】
表2において、上記各性能の評価は、良好なものを○、不十分なものを△、不良なものを×とした。
【0059】
次いで、染料を綿織物に固着させるために、この捺染糊組成物が印捺された綿織物を100℃の飽和水蒸気中で8分間処理した。
【0060】
次いで、未固着の染料、各染色助剤及び糊剤を綿織物から除去するために、この飽和水蒸気中で処理した綿織物を冷水及び温水で洗浄した。
【0061】
この洗浄した綿織物を乾燥して捺染物を得た。この捺染物における捺染柄の均染性、鮮明性及び尖鋭性を目視にて評価し、その結果を表2に示した。
【0062】
表2において、上記各性能の評価は、良好なものを○、不十分なものを△、不良なものを×とした。
【0063】
更に、上記捺染物における捺染柄の染色濃度について、綿織物の表面濃度を相対的に評価し、その結果を表2に示した。
【0064】
表2において、染色濃度の評価は、濃いものを○、若干薄いものを△、染色濃度が極端に薄いものを×とした。
【0065】
【表2】

表2から明らかなように、本第2実施形態に係る捺染物の製造方法で得られた捺染物は、印捺時の転写性と浸透性、並びに、捺染柄の均染性、鮮明性、尖鋭性及び染色濃度のいずれの性能においても、従来から使用されているミネラルターペンを含む捺染糊組成物4で捺染した捺染物と同様に良好な結果を示した。
【0066】
一方、アルギン酸ナトリウムを単独使用した捺染糊組成物3で捺染した捺染物は、上記各性能のうち、印捺時の転写性、捺染柄の均染性及び尖鋭性が不十分であり、特に、染色濃度が低く不良であった。
【0067】
よって、本第2実施形態においては、近年の重油の高騰に加え、地球温暖化に影響する揮発性有機化合物(VOC)対策の観点から、石油を原料とするミネラルターペンを使用することなく十分な捺染品位を有する捺染物を得ることのできる捺染物の製造方法を提供することができる。
【0068】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)本発明に係る捺染糊組成物に含有される糊剤であって、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にあるものは、上記第1実施形態に使用したアルギン酸ナトリウムに限定されるものではない。当該糊剤は、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にあればよく、例えば、セルロース誘導体であるCMC等であってもよい。CMCの場合は、各種置換度のものが使用できるが、特に反応染料に使用する場合は、通常、置換度が1.3以上、好ましくは、1.8以上のものを使用する。また、上記アルギン酸ナトリウムと上記CMCを配合して使用してもよい。
(2)本発明に係る捺染糊組成物に含有される糊剤であって、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にあるものは、上記第1実施形態に使用したアクリル系合成糊剤に限定されるものではない。当該糊剤は、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にあればよく、例えば、デンプン又はその誘導体等であってもよい。
(3)本発明に係る捺染糊組成物に含有される染料は、上記第1実施形態に使用した反応染料 Remazol Black R−KNに限定されるものではない。当該染料は、捺染される繊維材料に適した染料種及び色相を適宜選定すればよい。また、これらの染料は、同一染料種においては、必要とする色相に合わせるために複数の染料を配合して使用してもよい。
(4)本発明に係る捺染方法は、本実施形態2に使用したフラットスクリーン捺染機に限定されるものではなく、ロータリースクリーン捺染機やローラー捺染機等を使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にある糊剤と、3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にある糊剤とを含有する捺染糊組成物であって、
少なくとも前記2種類の糊剤を配合することにより捺染粘性指数(PVI)が0.6〜0.7の範囲以内にあることを特徴とする捺染糊組成物。
【請求項2】
前記3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.7〜0.9の範囲以内にある糊剤がアルギン酸塩、セルロース誘導体又はこれらの配合からなる糊剤であることを特徴とする請求項1に記載の捺染糊組成物。
【請求項3】
前記3重量%水溶液にしたときの捺染粘性指数(PVI)が0.2〜0.3の範囲以内にある糊剤がアクリル系合成糊剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の捺染糊組成物。
【請求項4】
前記捺染糊組成物が反応染料を含有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の捺染糊組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の捺染糊組成物を繊維材料に印捺する工程と、当該捺染糊組成物中の染料を繊維材料に固着する工程と、当該染料の固着後に繊維材料を洗浄する工程とを含む捺染物の製造方法。

【公開番号】特開2008−81855(P2008−81855A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260387(P2006−260387)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】