説明

排ガスおよび飛灰を処理するための複合処理剤、および、処理方法

【課題】 排ガスおよび飛灰を処理するための、新規複合処理剤と、排ガスおよび飛灰を処理するための新規処理方法とを提供すること。
【解決手段】 消石灰と、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とを含有する複合処理剤を使用することにより、飛灰の水混練処理物中の重金属を安定化することができ、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの全ての溶出を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般廃棄物の焼却によって生じる排ガスおよび飛灰を処理するための複合処理剤ならびに処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の焼却処理に伴って生じる排ガスには、塩化水素(HCl)や硫黄酸化物(SO)などの酸性ガスが多量に含まれている。このため、排ガスによる大気汚染を防止する目的から、廃棄物焼却処理施設においては、焼却炉から排出された排ガスを中和する中和処理が行われる。中和処理のための中和剤のうち固体状のものとしては、消石灰すなわち水酸化カルシウム(Ca(OH))の粉末が最も広く用いられている。中和剤は、排ガスに対してその中に吹き込むなどの方法により添加することで、酸性ガスの中和反応を生じ、その結果、塩化水素や硫黄酸化物などを無害化する処理、すなわち脱塩や脱硫などの処理が行われる。
【0003】
また、廃棄物の焼却によって排ガスと共に生じる飛灰には、重金属、なかでも鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、六価クロム(Cr(VI))などの有害重金属が多量に含有されており毒性が高い。このため、飛灰による直接汚染や二次被害を防ぐ目的から、飛灰は特別管理廃棄物に指定され、飛灰を廃棄する際には薬剤処理や溶融処理などの中間処理を行うことが義務づけられている。さらに、中間処理物を管理型埋立処理施設に埋め立てる場合には、その中間処理物が埋立溶出基準に適合していなければならないと定められている。
【0004】
薬剤処理によって飛灰からの重金属の溶出を抑える場合、飛灰に含まれる重金属を化学的に不溶化する処理や吸着処理、すなわち重金属の安定化処理が行われる。この安定化処理方法としては、従来、上記の中和処理をした後の排ガスに含まれる飛灰を集じん装置で集じんし、飛灰が常温になった後、混練設備においてこの飛灰に重金属安定化処理剤を添加し、加水しながら混練する、という方法が開発されてきた。
【0005】
重金属安定化剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸系やピペラジン系等のキレート剤が広く用いられているほか、シリカやケイ酸アルミニウムなどの吸着剤や、ケイ酸ナトリウムなどの水ガラス類、などが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
これら焼却後の廃棄物に対する中和および安定化という2種類の処理に関し、排ガスの中和処理のための中和剤と重金属の安定化処理剤とを配合することにより、両方の処理を一剤で行うことができるという、複合型の処理剤も開発されてきた。焼却により発生した高温の排ガスと飛灰に対してこのような複合型処理剤を供給し、飛灰と処理剤の混合物を集じんし、加水混練することにより飛灰処理を行う(例えば特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−99234号公報
【特許文献2】特開2000−42360号公報
【特許文献3】特開2003−311122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焼却施設において焼却後の飛灰が存在する環境は、通常160℃を超える高温、かつ30〜50%の多湿環境である。また、飛灰そのものもアルカリ性になっている。従って、焼却処理直後の排ガスおよび飛灰に対して供給する複合処理剤は、このような環境下で処理しても安定して効果を発揮できなければならない。
【0009】
そのため、現在までのところ、上記埋立溶出基準を満たす程度に、飛灰処理物からの鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、六価クロム(Cr(VI))の全ての溶出量を合理的に抑えることのできる複合型処理剤は開発されていない。
【0010】
そこで、本発明は、多種類の重金属を安定化することができる、排ガスおよび飛灰を処理するための新規複合処理剤、および、新規処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る複合処理剤は、一般廃棄物の焼却によって生じる排ガスおよび飛灰を処理するための複合処理剤であって、消石灰と、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩を含有することを特徴とする。ここで、消石灰は、その比表面積が30〜60m/gであることが好ましい。
【0012】
前記複合処理剤は、消石灰100重量部に対し、水酸化アルミニウムを39〜110重量部、硫酸第一鉄・1水塩を17〜62重量部含むことがより好ましく、消石灰100重量部に対し、水酸化アルミニウムが43〜54重量部、硫酸第一鉄・1水塩が17〜45重量部であることがさらに好ましい。
【0013】
また、本発明に係る排ガスおよび飛灰の処理方法は、排ガスおよび飛灰に消石灰と、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とを添加する工程と、前記消石灰と、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とが添加された飛灰に、水を添加して混練する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
この処理方法において、消石灰の比表面積が30〜60m/gであることが好ましい。
【0015】
また、飛灰158重量部に対し、消石灰100重量部、水酸化アルミニウムを39〜110重量部、硫酸第一鉄・1水塩を17〜62重量部添加することがより好ましく、飛灰158重量部に対し、消石灰100重量部、水酸化アルミニウム43〜54重量部、硫酸第一鉄・1水塩を17〜45重量部添加することがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、排ガスおよび飛灰を処理するための、新規複合処理剤、および、新規処理方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態において、飛灰に複合処理剤を添加し、水混練処理を施した後の、水混練処理物のpHと鉛溶出量との相関を示すグラフ(A)、および、複合処理剤における水酸化アルミニウム含有量と水混練処理物のpHとの相関を示すグラフ(B)である。
【図2】本発明の一実施形態において、飛灰に複合処理剤を添加し、水混練処理を施した後の、複合処理剤における水酸化アルミニウム含有量と鉛溶出量の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されない。
【0019】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0020】
==複合処理剤==
本発明に係る複合処理剤は、消石灰と、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とを含有し、排ガスに添加した時に中和効果、および、飛灰と共に加水混練した時に重金属安定化効果を有する。
【0021】
消石灰は、高比表面積を有することが好ましく、具体的には比表面積が30〜60m/gであることが好ましいが、複合処理剤が、排ガスや飛灰に添加した際に所望の効果を有する範囲で制限されない。
【0022】
また、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウムは、それぞれ結晶質であっても、非晶質であっても制限はなく、また、結晶質と非晶質の両方が混合されていてもよい。ただし、リン酸アルミニウムは、結晶質の場合に固化するため取扱いが困難であるから、非晶質であることが好ましい。
【0023】
消石灰、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、および硫酸第一鉄・1水塩の純度は特に限定されず、安定化の妨げとならなければ、不純物を含んでいても良い。
【0024】
本発明に係る複合処理剤の剤形、ならびに消石灰、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム、および硫酸第一鉄・1水塩の本発明の複合処理剤中での配合の様式は、排ガスに添加したときの中和処理、および、飛灰と共に加水混練したときの安定化処理が効率的に行われるような剤形ならびに配合様式であればよく、特に限定されない。粉末状の消石灰、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム、および硫酸第一鉄・1水塩を使用する場合は、これらを粉末状のまま充分に混合して、そのまま粉末状の剤形とした複合処理剤とすることが、取り扱いの容易さや反応効率の維持などの点で好ましいが、必要に応じて、その他の固体状の剤形、例えば顆粒状やペレット状などにしてもよい。
【0025】
本発明に係る消石灰、水酸化アルミニウム、硫酸第一鉄・1水塩を含有する複合処理剤における、配合重量比は、排ガスに添加したときの中和処理、および、飛灰と共に加水混練した時の安定化処理が可能な範囲で制限されないが、消石灰の配合に対し、より少ない水酸化アルミニウム、および、より少ない硫酸第一鉄・1水塩を用いて高い効率を得ることを考慮すると、消石灰100重量部に対し、前記水酸化アルミニウムの配合の下限は、33重量部以上であることが好ましく、35重量部以上であることがより好ましく、39重量部以上であることがさらに好ましく、43重量部以上であることが最も好ましい。また、消石灰100重量部に対する前記水酸化アルミニウムの配合の上限は、150重量部以下であることが好ましく、110重量部以下であることがより好ましく、54重量部以下であることがさらに好ましく、45重量部以下であることが最も好ましい。さらに、消石灰100重量部に対し、硫酸第一鉄・1水塩の配合の下限は、6重量部以上であることが好ましく、10重量部以上であることがより好ましく、12重量部以上であることがさらに好ましく、17重量部以上であることが最も好ましい。また、消石灰100重量部に対する前記硫酸第一鉄・1水塩の配合の上限は、62重量部であることが好ましく、45重量部であることがより好ましく、25重量部であることがさらに好ましい。水酸化アルミニウムおよび硫酸第一鉄・1水塩量が増えるに従って、処理費が高額化し、同時に、廃棄物の量も増大するため、所望の効果が得られる範囲内でその配合を抑えることが好ましい。
【0026】
==複合処理剤の適用対象となる廃棄物==
本発明の複合処理剤は、一般廃棄物の処理を目的とする。ここで、「一般廃棄物」とは、廃棄物の処理および清掃に関する法律に定められる、産業廃棄物以外の廃棄物のことをいう。例えば、市町村などの地方公共団体において廃棄された一般廃棄物は、基本的にそれぞれの地方公共団体の処理施設において処理される。このため、一般廃棄物を焼却によって処理する場合、処理されるべき廃棄物や、処理に用いられる焼却処理施設の設備構成は、処理を行う市町村ごとにそれぞれ異なることとなる。
【0027】
しかしながら、一般廃棄物のうち可燃性のごみの成分及びその割合は、全国的にも、また年度が異なってもほぼ同程度であるため(例えば、「廃棄物処理技術」、福本勤著、共立出版株式会社、22頁、ならびに、第16回廃棄物学会研究発表会講演論文集(2005)、酒井護ら、31頁、等を参照)、一般廃棄物を同一の方法で焼却処理した場合に生じる飛灰などの成分及びその割合も、ほぼ同程度になると考えることができる。そして、実施例に後述するように、複数の地方公共団体で排出された異なる一般廃棄物を、異なる設備構成を有するそれぞれの焼却処理施設で焼却した場合においても、本発明の複合処理剤および処理方法を用いると、有効に排ガスおよび飛灰の処理ができることが確かめられている。
【0028】
従って、本発明の複合処理剤および処理方法は、広く一般廃棄物の焼却処理をする際に排出される排ガスおよび飛灰などの処理に有効である。
【0029】
==複合処理剤の使用方法、および、排ガスおよび飛灰の処理方法==
本発明は、廃棄物の焼却により生じる排ガスおよび飛灰を処理するため以下のような処理方法を提供する。
【0030】
(1)まず、廃棄物の焼却によって生じた排ガスの流れの中に、上記複合処理剤を添加することにより、排ガス中に含まれる酸性ガスの中和処理を行う。
【0031】
本発明の複合処理剤に含まれる消石灰は、排ガスに添加されると、排ガスに含まれる酸性ガス、例えば塩化水素や硫黄酸化物と接触することにより、これら酸性ガスの中和反応を生じさせるので、その結果、排ガスを無害化することができる。
【0032】
ここで、用いる複合処理剤の量は、排ガスに添加したときの中和処理、および、飛灰と共に加水混練した時の安定化処理が可能な範囲で制限されず、当業者がその量を適宜調節することができるが、一般廃棄物の焼却により生じる飛灰158重量部に対し、上記複合処理剤中の消石灰が100重量部以上であることが好ましい。ただし、処理費の節約、および廃棄物量の最小化のためには、所望の効果が得られる範囲で処理剤量の使用量を抑えることが好ましい。
【0033】
酸性ガスの中和処理のための中和剤として消石灰を使用することは、他の中和剤、例えば炭酸塩や重炭酸塩に比べて消石灰が比較的安価であることや、国内の廃棄物焼却処理施設の多くが消石灰の吹き込みによる中和処理を前提として設計されていることなどから、本発明の実施に好適である。
【0034】
複合処理剤を排ガスに添加するための方法は、複合処理剤が排ガス中の酸性ガスと接触して、酸性ガスの中和反応が効率的に行われるような任意の方法であればよく、例えば焼却炉から排出される排ガスが通過する煙道の中で、排ガスの流れの中に複合処理剤を吹き込んで分散させるようにしてもよい。また、本発明の複合処理剤の添加は、必要であれば、排ガスへの他の薬剤の添加、例えばダイオキシンの吸着処理のための活性炭等の添加と、同時に行っても良いし、あるいは、別々に行ってもよい。
【0035】
なお、複合処理剤を排ガスに添加する際、消石灰、水酸化アルミニウムおよび硫酸第一鉄・1水塩をはじめとする、複合処理剤の組成化合物の各々の必要量を、個別に排ガスに添加してもよく、この場合の各化合物の排ガスへの添加は、複合処理剤を排ガスに添加する方法と同様に行うことができるが、添加の簡便さから、予め各組成化合物を含有する複合処理剤として剤形化されていることが好ましい。
【0036】
(2)次に、排ガスに含まれる飛灰を、添加された複合処理剤と共に集じんする。
【0037】
上記の複合処理剤の排ガスへの添加の工程の後に、この集じんの工程を行うことにより、添加された複合処理剤が飛灰と共に排ガス中から捕集される。集じんのための方法は、飛灰を複合処理剤と共に効率的に捕集することのできる方法であればよく、例えば、バッグフィルター式、電機集じん式、マルチサイクロン式等の、一般的な集じん方式の集じん機を用いて集じんすることができる。
【0038】
(3)さらに、飛灰と共に集じんされた複合処理剤とに水を添加して混練することにより、重金属の安定化処理を行う。
【0039】
本発明の複合処理剤は、重金属の安定化のために、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウム、および、硫酸第一鉄・1水塩を含有する。水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウム、および、硫酸第一鉄・1水塩が、飛灰と共に混練されることにより、飛灰中の重金属と接触し、その結果、重金属の安定化反応がおきる。このようにして、飛灰から重金属が溶出することを防ぐことができる。
【0040】
重金属安定化処理のために、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウム、および、硫酸第一鉄・1水塩を使用することは、キレート剤を用いて重金属安定化処理を行う場合に比べて安価に行うことができ、また有害ガスの発生のおそれもないため、好ましい。さらに、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウムおよび硫酸第一鉄・1水塩は、消石灰に対して少ないアルミニウム添加量かつ少ない鉄添加率で効率的に安定化処理を行うことができる点で非常に優れている。
【0041】
重金属とは、金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令が規定する物質のうち、例えば、鉛、カドミウム、ヒ素、セレン、水銀、および、六価クロムなどがあげられるが、これに限定されず、特に焼却場の灰類や土壌汚染で注目される金属が好ましい。例えば、飛灰には、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムに代表される重金属が含まれている。
【0042】
なお、加水混練のための方法は、粉体に液体を加えて混合する一般的な方法で行えばよく、例えば、手動による攪拌の他、混練用ミルや、振動式または二軸式ミキサーといった、一般的な混練装置を用いて混練することができる。また添加する水の量は、重金属の安定化処理が効率的に行えるように適宜調節する。飛灰重量に対し、約40%程度の重量比の水を添加混合して混練処理する方法が一般的であるが、焼却処理施設によっては15〜50%程度の重量比となるよう適宜調節してもよく、例えばプレス成形型、ミキサータイプ、および振動式の各方式の混練装置を使用する場合は、それぞれ約15〜20%程度、約20〜45%程度、および約35〜40%程度の重量比であってもよい。
【0043】
以上のような本発明の複合処理剤を使用した安定化処理を行うことにより、実施例に示すように、重金属安定化処理をした後の飛灰からの鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの溶出量は、昭和48年環境庁告示13号に定められる試験方法による、水混練処理物の溶出試験によって測定した場合に、金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令が規定する埋め立て溶出基準値(鉛0.3 mg/L以下、水銀0.005mg/L以下、カドミウム0.3mg/L以下、六価クロム1.5mg/L以下)に抑えることができる。従って、本発明の複合処理剤を用いて処理された飛灰は、そのまま適法に埋立て処理をすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0045】
[実施例1] 水酸化アルミニウム含有量と鉛およびカドミウムの溶出量の抑制
まず、比表面積が43m/gである消石灰(菱光石灰工業株式会社製)、水酸化アルミニウム(A剤)(非晶質水酸化アルミニウム72%、晶質水酸化アルミニウム7%、付着水15%、不純物その他6%含有)、および、硫酸第一鉄・1水塩(B剤)(純度90%以上)を2:1に混合したC剤を調製し、このC剤を表1に示す重量比で消石灰と混合して複合処理剤を調製した。これらの複合処理剤を、一般廃棄物焼却施設において焼却処理に伴い排出された排ガスおよび飛灰に対して、表1に示す1時間当たりの供給量で煙道中へ吹き込み、排ガス中の酸性ガスの中和処理を行った。続いて、集じんを行い、複合処理剤の混在した飛灰に対して、40〜50%の重量比で水を添加して混練し、飛灰中の重金属の安定化処理を行った。なお、以下に記載する処理は、1時間あたり22.5kgの飛灰に対し行った。
【表1】

【0046】
集じん後、水混練処理前の飛灰における全クロム、総水銀、カドミウム、鉛を酸分解フレーム原子吸光法で測定し、六価クロムを精製水抽出ジフェニルカルバジド吸光光度法で測定した。表2に示すように、飛灰には、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムが含まれていた。
【表2】

(ND:検出不可)
【0047】
飛灰の水混練処理物の鉛(Pb)およびカドミウム(Cd)の溶出試験結果を表3に示す。RUN3-1、RUN3-2で鉛(Pb)が埋立溶出基準を超過した。一方、全ての試験において、カドミウム(Cd)の埋立基準は満たされた。
【表3】

【0048】
表1と表3に示すデータから、図1A、Bを作製した。図1Aに示すように、水混練処理物のpHと、水混練処理物からの鉛の溶出量には相関があり、pHが11よりも低い場合に、埋立溶出基準である0.3mg/lを満たした。そして、図1Bに示すように、水混練処理物のpHが11の時、消石灰と水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの含有量は約28重量%であった。
【0049】
従って、図2にも示すように、飛灰処理に使用する複合処理剤において、消石灰と水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの含有量が28重量%より高ければ、埋立溶出基準を満たすのに十分な、水混練処理物の鉛溶出抑制効果が得られる。これは、消石灰100重量部に対し、水酸化アルミニウム39重量部以上、という換算になる。安全率を考慮し、消石灰と水酸化アルミニウムの総重量に対する水酸化アルミニウムの含有量を30重量%とした場合、消石灰100重量部に対し、水酸化アルミニウム43重量部以上、という換算になる。
【0050】
[実施例2] 硫酸第一鉄・1水塩の含有量と水銀および六価クロムの溶出量の抑制
本実施例では、上記消石灰に対し、異なる割合でA剤とB剤を含むC剤を調製し、このC剤を消石灰と混合して複合処理剤を調製した。この複合処理剤を用い、実施例1に記載される方法で酸性ガスの中和処理および飛灰中の重金属安定化処理を行った。
【0051】
集じん後、水混練処理前の飛灰と複合処理剤の混合物を湿式分析することにより得られた重金属含有量を表4に示す。飛灰には、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムが含まれていた。
【表4】

【0052】
集じんされた飛灰と複合処理剤の混合物において蛍光X線によって鉄(Fe)含有量を測定した結果、および処理後の水銀(Hg)と六価クロム(Cr(VI))の溶出量を表5に示す。
【表5】

【0053】
Run-9では水銀溶出量が埋立溶出基準付近であった。一方、Run-7、8、10の試験において、水銀の溶出量が埋立溶出基準を十分満たし、これらの試験ではカドミウム、六価クロムの溶出量も埋立溶出基準を満たしていた。
【0054】
従って、飛灰中の鉄含有率が1.7%以上であることが好ましく、すなわち、飛灰に添加するB剤の量が、消石灰14.3kgに対し2.4kg以上であれば、埋立溶出基準を満たすのに十分な、水混練処理物の水銀、カドミウム、六価クロムの溶出抑制効果が得られる。これは、消石灰100重量部に対し、硫酸第一鉄・1水塩17重量部以上という換算になる。
【0055】
以上の結果は、消石灰、水酸化アルミニウム、硫酸第一鉄・1水塩を含む複合処理剤によって、飛灰の水混練処理物からの鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの全ての溶出量抑制することができることを示している。特に、飛灰158重量部に対し、消石灰100重量部以上、水酸化アルミニウム39重量部以上、硫酸第一鉄・1水塩を17重量部以上添加することにより、より効率よく重金属安定化を行うことができる。
【0056】
本実施例で用いた複合処理剤は、消石灰と硫酸第一鉄・1水塩の両方を含み、通常、160℃以上、湿度30〜50%にもなる高温多湿環境の焼却施設内で、排ガスおよび飛灰に添加される。しかしながら、硫酸第一鉄・1水塩は、アルカリと反応して鉄の水和物と塩を生じたり(例えば、富士チタン工業株式会社により作成された「製品安全データシート」、1997年3月12日作成、2003年5月15日改訂、参照)、高温多湿環境下では塩基性硫酸第二鉄になったりするように、アルカリや高温多湿に対し不安定な化合物である。そのため、アルカリである消石灰と共に硫酸第一鉄・1水塩を複合処理剤に配合し、高温多湿の焼却施設内の排ガスおよび飛灰に添加しても、鉄による重金属安定化の効果が得られないであろうと考えられるにもかかわらず、消石灰と、硫酸第一鉄・1水塩の両方を配合させた薬剤を用いて排ガスおよび飛灰の処理を行った本実施例において、重金属安定化の効果が得られたことは、当業者にとって予測不可能で驚くべき結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般廃棄物の焼却によって生じる排ガスおよび飛灰を処理するための複合処理剤であって、
消石灰と、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とを含有することを特徴とする、複合処理剤。
【請求項2】
前記消石灰が比表面積30〜60m/gであることを特徴とする、請求項1に記載の複合処理剤。
【請求項3】
前記消石灰100重量部に対し、前記水酸化アルミニウムを39〜110重量部含み、前記硫酸第一鉄・1水塩を17〜62重量部含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の複合処理剤。
【請求項4】
前記消石灰100重量部に対し、前記水酸化アルミニウムを43〜54重量部含み、前記硫酸第一鉄・1水塩を17〜45重量部含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の複合処理剤。
【請求項5】
一般廃棄物の焼却によって生じる排ガスおよび飛灰の処理方法であって、
前記排ガスおよび飛灰に、消石灰と、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とを添加する工程と、
前記消石灰と、水酸化アルミニウムあるいはリン酸アルミニウムと、硫酸第一鉄・1水塩とが添加された飛灰に、水を添加して混練する工程とを含むことを特徴とする処理方法。
【請求項6】
前記消石灰の比表面積が30〜60m/g以上であることを特徴とする、請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
前記飛灰158重量に対し、前記消石灰100重量部、前記水酸化アルミニウムを39〜110重量部、前記硫酸第一鉄・1水塩を17〜62重量部添加することを特徴とする、請求項5または6に記載の処理方法。
【請求項8】
前記飛灰158重量に対し、前記消石灰100重量部、水酸化アルミニウム43〜54重量部、硫酸第一鉄・1水塩17〜45重量部を添加することを特徴とする、請求項5〜7に記載の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−140597(P2011−140597A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3081(P2010−3081)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【特許番号】特許第4588798号(P4588798)
【特許公報発行日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(592018227)菱光石灰工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】