説明

排ガスの処理方法

【課題】
ダスト及び硫黄酸化物を含む排ガスの排出に伴って発生する可視煙を抑制することを目的とする。
【解決手段】
ダスト及び硫黄酸化物(SOx)を含む排ガスを煙突から排出するに際し、前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下及び前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスの処理方法、特に、ダスト及び硫黄酸化物を含む排ガスの排出に伴って発生する可視煙を抑制できる排ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気集塵機やコークス設備を備えた工場から排出される排ガスについては、法令や協定によって定められた規制値、遵守値を満たした汚染成分濃度(ダスト濃度、硫黄酸化物(SOX)濃度、窒素酸化物濃度(NOX)、ダイオキシン濃度など)とする処理を行っている。例えば、大気汚染防止法においては、煤塵濃度が75mg/Nm3以下、硫黄酸化物濃度が260ppm以下、窒素酸化物濃度が窒素酸化物濃度が212 mg/Nm3以下と定められている(大気汚染防止法第3条第1〜3号、第4条第1号)。ダイオキシン類対策特別措置法においては、ダイオキシン濃度が0.3ng−TEQ/Nm3以下と定められている。
【0003】
加えて、上記規制値等を遵守して操業を行った場合であっても、さらなる自主的な環境への配慮や、工場近隣の住民の要望に応える点から、工場から排出される可視煙の発生を抑制することが望まれている。そのため、可視煙の発生に対抗する手段として種々の技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、焼結主排ガスを導くメインダクトに上流側から乾式脱硫剤添加装置、バグ式集塵機、乾式脱硝触媒塔を設けたことを特徴とする焼結主排ガスの煤煙総合処理装置が開示されている。
また、特許文献2では、カラーカメラによって得られた色調情報から色差を求めることにより、煙突から放出される煙の有無及び可視性を表示装置に定量表示することを特徴とする可視煙監視装置が開示されている。
さらに、特許文献3では、排ガスへの添加剤として活性炭粉又は活性コークス粉、消石灰粉及びアンモニアガスを使用し、ろ過式集塵装置と活性炭又は活性コークス吸着装置を一体化した装置が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の煤煙総合処理装置では、煙突から排出された排ガスの、硫黄酸化物(SOX)濃度が高いため、水蒸気を含む排ガスの場合に、排ガス中のSOXが水蒸気と結びついてミスト化し、可視煙が発生するという問題があった。
また、特許文献2の可視煙監視装置では、可視煙の監視を行うのみであり、実際に可視煙の発生を抑制できなかった。
さらに、特許文献3の装置では、煙突から発生する可視煙を抑制する具体的な方法や条件については記載されておらず、十分に可視煙の発生を抑制できるものではなかった。
【0006】
以上の通り、可視煙の発生を抑制するという課題についてはいまだ有効な解決策がなく、新たな技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−337322号公報
【特許文献2】特開平10−232198号公報
【特許文献3】実登3057878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み開発されたものであって、排ガス成分の調整を図ることにより、ダスト及び硫黄酸化物を含む排ガスの排出に伴う可視煙の発生を抑制できる排ガスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、工場の煙突から、ダスト及び硫黄酸化物(SOx)を含む排ガスを排出する際、前記ダスト及び前記硫黄酸化物の濃度を所定値以下に設定することによって、可視煙の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、上記知見に基づき開発されたもので、その要旨構成は以下の通りである。
(1)ダスト及び硫黄酸化物(SOx)を含む排ガスを煙突から排出するに際し、前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下及び前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下として可視煙の発生を抑制することを特徴とする排ガスの処理方法。
【0011】
(2)乾式電気集塵機を備える工場の煙突から前記排ガスを排出するに際し、前記乾式電気集塵機の稼働率を、88%以上として前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下とすることを特徴とする上記(1)に記載の排ガスの処理方法。
【0012】
(3)活性コークス設備を備える工場の煙突から前記排ガスを排出するに際し、前記活性コークス設備の再生塔内にて、滞留する全ての活性コークスの温度を350℃以上となるように加熱保持して前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下とすることを特徴とする上記(1)に記載の排ガスの処理方法。
【0013】
(4)前記再生塔での加熱保持は、再生温度を350℃以上の状態で、10日間以上保持することを特徴とする上記(3)に記載の排ガスの処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダスト及び硫黄酸化物を含む排ガスの排出に伴う可視煙の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】焼結機、乾式電気集塵機及び活性コークス設備を備える工場における排ガスの流れを説明するための模式図である。
【図2】実施例3における各設備についての、活性コークス設備の再生温度と、再生塔出口のSOX濃度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、焼結機、乾式電気集塵機及び活性コークス設備を備える工場を模式的に示した図である。
【0017】
本発明による排ガスの処理方法は、ダスト及び硫黄酸化物(SOx)を含む排ガスを煙突から排出するに際し、前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下及び前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下とすることで可視煙の発生を抑制することを特徴とする。
【0018】
ここで、排ガス中に含まれる成分のうち、可視煙発生の主要因となるものが、ダスト及び硫黄酸化物(SOx)であることを新規に見出した。すなわち、前記ダストは太陽光が当たることでミー散乱が引き起こされ、前記硫黄酸化物は水蒸気と結びついてSOXミスト化し、可視煙となり、特に、これらの量が閾値を超えると可視煙の発生が顕著となる。
そのため、本発明では上記構成を採用することによって、可視煙発生の主要因であるダスト及び硫黄酸化物の濃度を低減する結果、可視煙の発生の抑制が可能となる。
【0019】
ここで、本発明でいうところの可視煙とは、目で確認できる白色煙のことであり、その中でもダスト及び硫黄酸化物(SOx)を主成分(0.006%以上)とし、水蒸気を除いたものをいう。なお、本発明での可視煙には、炭化された固体粒子などを多く含む黒色煙は除かれる。
【0020】
また、本発明による排ガスの処理方法は、図1に示すように、焼結機10を備える工場設備に用いられることが有効である。前記焼結機10から排出される排ガス60aには、前記ダスト及び前記硫黄酸化物が多く含まれていることから、本発明による可視煙抑制効果がより発揮されるためである。
【0021】
前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下とする方法については、確実に前記ダスト濃度を低減できる方法を採用すればよく、特に限定はされない。
例えば、図1に示すように、乾式電気集塵機20を備える工場の煙突40から前記排ガス50を排出する際には、前記ダスト濃度を20mg/Nm3以下に低減することを目的として、前記乾式電気集塵機の稼働率を88%以上とすることが好ましい。稼働率が88%未満の場合、前記排ガス50aから十分に前記ダストを除去することができず、ダスト濃度が20mg/Nm3を超えるおそれがあるからである。
【0022】
ここで、前記乾式電気集塵機20の稼働率については、乾式電気集塵機20が全て正常稼動しているときの稼働率を100%としたときの、稼動状態(%)のことをいう。例えば、図1に示すように、前記乾式電気集塵機20が複数の区切られた部屋(室21)から構成される場合には、稼動率88%以上とは、全室数に対する集塵が行えなくなっている状態(荷電不能状態)の室数、つまりトリップ室数の割合が12%以下となることである。
【0023】
また、図1に示すように、前記工場は、さらに活性コークス設備30を備える場合が多い。活性コークス設備30は、送られてきた排ガス50c中の硫黄酸化物(SOX)等を吸着するための吸着塔31、及び、吸着後の活性コークスの再生を行うための再生塔32を有する。
【0024】
また、前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下とする方法については、確実に前記硫黄酸化物濃度を低減できる方法を採用すればよく、特に限定はされない。
例えば、図1に示すように、前記活性コークス設備30を備える工場の煙突40から前記排ガス50を排出する際には、前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下に低減することを目的として、前記活性コークス設備30の再生塔32内で、滞留する全ての活性コークス32aの温度が350℃以上となるように加熱保持することが好ましい。滞留する全ての活性コークス32aの温度が350℃以上とならない場合、活性コークスのSOX吸着能力が完全に回復せず、吸着塔31で前記排ガス50c中の硫黄酸化物を十分に除去することができず、硫黄酸化物の濃度が10ppmを超えるおそれがあるからである。再生塔32内の前記一部の活性コークスが350℃以上であっても、前記排ガス50c中の硫黄酸化物を十分に除去することができない。
【0025】
さらに、前記再生塔での加熱保持は、再生温度を350℃以上の状態で、10日間以上保持することがより好適である。吸着塔31及び再生塔32内を滞留する全ての活性コークス32aを、350℃以上で再生するためであり、10日未満の場合、全ての活性コークスを再生できないおそれがある。
【0026】
さらにまた、前記コークス設備30における硫黄析出を抑制する点から、前記再生温度は350℃以上360℃以下とすることがさらに好ましい。
【0027】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したに過ぎない。例えば、図1では焼結機10を備える工場の煙突40から排出される排ガス50が示されているが、焼結機10以外の設備から排出される排ガスに対しても本発明による排ガスの処理方法を適用することができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。
【0029】
(実施例1)
図1に示した、焼結機10、乾式電気集塵機20及びコークス設備30を備える工場の煙突40から排出される排ガス50について、表1に示す条件で、前記乾式電気集塵機20及び前記コークス設備の再生塔32の温度を設定し、ダスト濃度(mg/Nm3)及び硫黄酸化物(SOx)濃度(ppm)を、変化させたとき(条件1〜3)の可視煙の発生の有無を、目視にて観察した。観察結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から、本発明に含まれる条件3〜5については、可視煙の発生がないことがわかった。一方、SOx濃度が10ppmを超える条件1、ダスト濃度が20mg/Nm3を超える条件2については、可視煙が確認され、可視煙発生の抑制効果がないことがわかった。
【0032】
(実施例2)
図1に示した、焼結機10、乾式電気集塵機20及びコークス設備30を備える工場において、室数の異なる2種類の乾式電気集塵機20(集塵機1、集塵機2)を使用し、トリップ室数を変化させたとき(表2に示す)の排ガス中に含まれるダスト濃度(mg/Nm3)を、テレメーターを用いて測定した。測定結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から、トリップ室数が11%以下、つまり稼働率が89%の条件については、ダスト濃度を20mg/Nm3以下とすることができることがわかった。一方、トリップ室数が13%以上で、稼働率が87%以下の条件については、ダスト濃度が20mg/Nm3を超えており、本発明の条件を満たさなくなることがわかった。
【0035】
(実施例3)
図1に示した、焼結機10、乾式電気集塵機20及びコークス設備30を備える工場において、2種類のコークス設備30(設備1、設備2)を使用し、再生温度(℃)を変化させたときの再生塔32出口のSOx濃度(ppm)をテレメーターを用いて測定し、再生温度とSO濃度との関係をグラフ化した。グラフを図2に示す。なお、本実施例での「再生温度」とは、前記再生塔32から排出されて前記煙突40へと送られる直前の排ガス温度のことであり、この温度が350℃以上であることは、再生塔32内の全ての活性コークスが350℃以上であることを示す。
【0036】
図2の結果から、設備1及び設備2のいずれについても、再生温度が350℃以上の場合には、SOx濃度が10ppm以下となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、ダスト及び硫黄酸化物を含む排ガスの排出に伴って発生する可視煙を抑制することが可能となり、さらなる自主的な環境への配慮や、工場近隣の住民の要望に応える点において高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0038】
10 焼結機
20 乾式電気集塵機
30 再生コークス設備
31 吸着塔
32 再生塔
40 煙突
50 排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダスト及び硫黄酸化物(SOx)を含む排ガスを煙突から排出するに際し、前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下及び前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下として可視煙の発生を抑制することを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項2】
乾式電気集塵機を備える工場の煙突から前記排ガスを排出するに際し、前記乾式電気集塵機の稼働率を88%以上として、前記ダストの濃度を20mg/Nm3以下とすることを特徴とする請求項1に記載の排ガスの処理方法。
【請求項3】
活性コークス設備を備える工場の煙突から前記排ガスを排出するに際し、前記活性コークス設備の再生塔内にて、滞留する全ての活性コークスの温度を350℃以上となるように加熱保持して、前記硫黄酸化物の濃度を10ppm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記再生塔での加熱保持は、再生温度を350℃以上の状態で、10日間以上保持することを特徴とする請求項3に記載の排ガスの処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−115763(P2012−115763A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267457(P2010−267457)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】