説明

排ガス処理システム、排ガス処理方法

【課題】排ガス処理システム、排ガス処理方法を提供する。
【解決手段】船舶用のディーゼルエンジン24の排ガス32が流通する煙道26内に配置された酸化物半導体を真性体領域の状態まで加熱して前記排ガス32に接触させ、前記排ガス32中に含まれる未燃物質を燃焼させる排ガス処理システム10であって、前記酸化物半導体が配置された位置より前記排ガス32の上流側には、前記煙道26に空気34を送り込む空気供給手段が設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用のディーゼルエンジンの排ガス処理システム、排ガス処理方法に関し、効率的な排ガス処理を可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶航行用の主エンジンや発電用エンジンに用いられているディーゼルエンジンは、排ガス中に100〜500mg/mの未燃粒子(すす)が含まれており、大気汚染の要因の一つであることから、世界的な規制の網を掛ける方向に検討が進められている。このような未燃粒子を除去するものとして、従来技術においては、特許文献1、特許文献2に記載されているように、セラミックフィルターを用いて未燃粒子を補集して除去し、除去物を燃焼する方法が用いられてきた。しかし、フィルタ方式は濾過速度を大きくすると圧力損失が大きくなるので処理装置を大型にする必要があった。この問題を解決するため、特許文献3、特許文献4においては、未燃粒子を触媒粒子に接触させて未燃粒子を分解させることにより、圧力損失の問題を解消している。特に特許文献4は触媒粒子となる酸化粒半導体に発生させた正孔キャリアーにより未燃粒子を分解するものであり、効率的な排ガス処理が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−6418号公報
【特許文献2】特開平10−274028号公報
【特許文献3】特開2010−125371号公報
【特許文献4】特許4517146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献4の未燃粒子の分解方法を船舶用のディーゼルエンジンの排ガスに適用すると、未燃粒子を十分に分解できないといった問題があった。
そこで、本発明は上記問題点に着目し、未燃粒子の分解を効率的に行うことが可能な排ガス処理システム、排ガス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的の達成のため、本発明に係る排ガス処理システムは、第1には、船舶用のディーゼルエンジンの排ガスが流通する煙道内に配置された酸化物半導体を真性体領域の状態まで加熱して前記排ガスに接触させ、前記排ガス中に含まれる未燃物質を燃焼させる排ガス処理システムであって、前記酸化物半導体が配置された位置より前記排ガスの上流側には、前記煙道に空気を送り込む空気供給手段が設けられたことを特徴とする。
【0006】
酸化物半導体による酸化反応においては酸素を必要とするが、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の酸素は10パーセント程度であるので、酸素が枯渇し、触媒反応を十分に行なうことができない。
【0007】
しかし、上記構成により、酸化物半導体には空気中に含まれる酸素が供給されるので、熱励起により生成される電子を酸素に供給することができ、一方熱励起により生成される正孔が電子と再結合することを抑制して未燃物質に供給することができる。これにより未燃粒子の酸化、すなわち燃焼を効率的に行うことができる。
【0008】
第2には、前記煙道には、前記煙道を前記煙道の断面方向に区画して複数の流通路を形成する担持体が取り付けられ、前記酸化物半導体は前記流通路の内壁に塗布されたことを特徴とする。
上記構成により、酸化物半導体と排ガスとの接触面積が増加するので、未燃粒子の燃焼を効率的に行うことができる。
【0009】
第3には、前記酸化物半導体は加熱手段により加熱されるとともに、前記加熱手段は、前記酸化物半導体の温度を測定し、前記酸化物半導体が真性体領域の状態を維持するように加熱の出力を調整可能であることを特徴とする。
上記構成により、排ガスの処理開始時においても酸化物半導体が真性体領域の状態となり未燃物質を効率的に燃焼できるとともに、排ガスが酸化物半導体を真性体領域の状態とする温度以上であれば、加熱手段の出力を停止することができる。また煙道に導入される空気の量に応じて排ガスの温度が変動するが、この排ガスの温度に応じて酸化物半導体を真性体領域の状態にするための出力を調整するため、電力消費を削減して効率的に未燃物質の燃焼を行なうことができる。
【0010】
一方、本発明に係る排ガス処理方法は、第1には、船舶用のディーゼルエンジンの排ガスが流通する煙道内に配置された酸化物半導体を真性体領域の状態まで加熱して前記排ガスに接触させ、前記排ガス中に含まれる未燃物質を燃焼させる排ガス処理方法であって、前記煙道の前記酸化物半導体が配置された位置より前記排ガスの上流側から空気を導入して前記排ガスに空気を混合させることを特徴とする排ガス処理方法。
上述の理由により、未燃物質の燃焼を効率的に行うことができる。
【0011】
第2には、前記酸化物半導体を加熱手段により加熱するとともに、前記加熱手段は、前記酸化物半導体の温度を測定し、前記酸化物半導体が真性体領域の状態を維持するように加熱の出力を調整することを特徴とする。
上述の理由により、電力消費を削減して効率的に未燃物質の燃焼を行なうことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る排ガス処理システム、排ガス処理方法によれば、排ガスに対する圧力損失を抑制し、排ガス中の未燃物質の燃焼効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る排ガス処理システムの概要図であり、図1(a)は船舶を含めた全体図、図1(b)は排ガス処理システムの系統図である。
【図2】本実施形態の排ガス処理システムの詳細図である。
【図3】酸化物半導体の電気伝導度の温度依存性を示す図である。
【図4】本実施形態の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0015】
図1に本実施形態に係る排ガス処理システムの概要図を示し、図1(a)は船舶を含めた全体図、図1(b)は排ガス処理システムの系統図である。また図2は本実施形態の排ガス処理システムの詳細図を示す。本実施形態の排ガス処理システムが適用される船舶22において、ディーゼルエンジン24、誘引ファン28、煙突30が煙道26により接続されている。そしてディーゼルエンジン24と誘引ファン28との間の煙道26に排ガス処理システム10が介装される。
【0016】
そして排ガス処理システム10は、図2に示すように、酸化物半導体が塗布された担持体12と、担持体12の周囲に取り付けられた加熱手段となる電気ヒータ16、及び電気ヒータ16に接続された加熱装置18を有する。
【0017】
担持体12は、煙道26を煙道26の断面方向に区画して複数の流通路14を形成するものである。各流通路14の流路は煙道26の流路と平行であり、流通路14の開口部はそれぞれ煙道26の流路に対向している。よって各流通路14には排ガス32が流通する。そして各流通路14の内壁全面に酸化物半導体が塗布されている。これにより酸化物半導体と排ガス32との接触面積が増加するので、後述の未燃物質の燃焼(酸化)を効率的に行うことができる。
【0018】
また担持体12の周囲(4面)には電気ヒータ16が取り付けられている。電気ヒータ16は、例えば図2に示すように一本のヒータ線16aを同一平面が形成されるように折り曲げ、不燃性の布16bで覆ってシート状に形成したものが用いられる。ここで煙道26が金属のように熱伝導性が高い場合は、電気ヒータ16を煙道の担持体12を取り付けた位置を覆うように取り付けることができる。また煙道26の熱伝導性が低い場合は、担持体12の周囲を覆うように電気ヒータ16を巻きつけ、電気ヒータ16を巻きつけた担持体12を煙道26に挿入して煙道26の所定位置に取り付けるようにしてもよい。そして電気ヒータ16は加熱装置18に電気的に接続され、加熱装置18から出力された電力により、担持体12及び酸化物半導体を昇温することができる。
【0019】
また煙道26内には、酸化物半導体の温度を測定する温度計(不図示)が取り付けられている。そして温度計(不図示)は加熱装置18に電気的に接続されている。よって加熱装置18は、後述のように酸化物半導体の温度に基づいて、出力する電力量を調整することができる。
【0020】
図3に酸化物半導体の電気伝導度の温度依存性を示す。図3においては、本実施形態で用いる酸化物半導体(不純物半導体)の電気伝導度(電子と正孔の数)の対数を温度の逆数に対してプロットしたものである。温度が低い領域は不純物領域と呼ばれ、ここではドナーやアクセプターのイオン化に基づくキャリアーが電気信号を支配する。通常のトランジスターや半導体レーザー等はこの領域を利用している。さらに温度を上げるとドナーとアクセプターは完全にイオン化し、出払い領域と呼ばれる電気伝導度が一定の領域に入る。この温度領域を超えると、電子は荷電子体から伝導体に熱的に励起され、キャリアー(電子と正孔)の数はフェルミ・ディラック分布則で示されるように温度とともに指数関数的に増加する真性体領域となる。この真性体の温度領域で生成するキャリアーを未燃物質の分解・燃焼(酸化)に利用するのが本実施形態の特徴である。なお、キャリアーの数は酸化物半導体の状態密度とフェルミ・ディラック統計分布との積によって決まる量である。
【0021】
本実施形態で用いられる酸化物半導体としては、TiO、ZnO、Cr、Y、ZrO、WO、MoO、TaO、CuO、CuO、V、NiO、Co、Feが好適である。
このような酸化物半導体において真性体状態にまで熱励起を行なうと、キャリアーとして電子と正孔を大量に形成することになるが、酸素は電気陰性度が高いため電子を容易に引き付ける。
【0022】
一方、ディーゼルエンジンから排出される排ガス32にはベンゼン、トルエンのほか、炭素、高分子炭化水素、硫黄酸化物等の粒子(PM:Particle Matter)やタール等の未燃物質が含まれている。
【0023】
したがって、酸化物半導体で生成された電子は煙道26中の酸素によって取り払われ、残りの正孔は酸化物半導体に接触した排ガス32中の未燃物質に供給される。そして正孔が供給された未燃物質は燃焼(酸化)されて最終的にはCOやHOに変換され、煙突30から排出される。
【0024】
ところで、上述の酸化工程においては、酸素が必要であるが、船舶用のディーゼルエンジン24から排出される排ガス32の酸素濃度は10%程度である。よって酸化物半導体で必要とする酸素が十分に供給されないという問題がある。そこで本実施形態では、煙道26の担持体12(酸化物半導体)の取り付け位置から排ガス32の上流側に空気34(酸素)を導入する空気供給手段(コンプレッサー20)が取り付けられている。煙道26内は排ガス32により陽圧となっているので、空気34はコンプレッサー20において加圧された状態で煙道26に導入される。このとき導入される空気34の流量は、酸化物半導体において必要とされる酸素の量に応じて適宜決められる。よって酸化物半導体には排ガス32と空気34との混合ガスが接触することになる。
【0025】
また、酸化物半導体が排ガス32中の未燃物質を燃焼(酸化)させるためには、上述のように酸化物半導体が真性体領域の温度を維持するように温度管理を行なう必要がある。ここで排ガス32の温度が酸化物半導体の真性体領域の温度以上であれば、電気ヒータ16による加熱は不要であるが、排ガス32により酸化物半導体が加熱されるまでは酸化作用が促進されないので、予め酸化物半導体を上述の温度にまで加熱する必要がある。また排ガス32には空気34が混合されるので、排ガス32と空気34との混合ガスが上述の温度以下であれば、常時電気ヒータ16による加熱が必要となる。
【0026】
そこで加熱装置18は、以上のことを踏まえて酸化物半導体が真性体領域の状態となるように温度調整を行う必要がある。まず、ディーゼルエンジン24を駆動させる前、すなわち排ガス32を煙道26に流通させる前に電気ヒータ16に電力を出力し、酸化物半導体が真性体領域の温度以上になるように加熱する。次にコンプレッサー20、誘引ファン28を駆動させるとともにディーゼルエンジン24を駆動し、排ガス32と空気34との混合ガスを酸化物半導体に接触させる。このとき、混合ガスの温度が酸化物半導体の真性体領域の温度以上であれば、電気ヒータ16への電力を停止しても混合ガス中の未燃物質の燃焼(酸化)を行なうことができる。一方、前記温度以下である場合、加熱装置18は、一定の電力を電気ヒータ16に出力して酸化物半導体を真性体領域の状態の温度に維持するとともに、例えば混合ガスが吹き付けられる酸化物半導体の単位時間当たりの温度変化に基づいて出力を増減することにより、一定の温度を維持する制御を行なうことができる。このように必要以上の温度に上昇させることなく酸化物半導体を真性体領域の状態に維持することができるので電力消費を抑制することができる。
【0027】
本実施形態において担持体12が形成する流通路14の相当内径は2mm程度が好適である。一方、担持体12の排ガス32の流路方向の長さは、煙道26の長さや未燃物質の流通路の内壁へ接触する確率を計算したり、酸化物半導体が塗布された担持体12をさまざまな長さで設計して、担持体12を通過した排ガスの状態を調査する等により適宜設計される。このとき排ガス32中の未燃物質は煙道26の流路に沿って直進するのではなく、対流しながら煙道26を移動することになる。よって、担持体12の排ガス32の流路方向の長さが一定の長さを確保できれば殆どの未燃物質は担持体12に塗布された酸化物半導体に接触することになる。また酸化物半導体として例えばTiOを用いた場合は、酸化物半導体の温度を400℃程度にすると真性体領域の状態となるので好適である。
【0028】
図4に本実施形態の変形例を示す。図4に示すように本実施形態の排ガス処理システム10において排ガスの流通経路を複数(図4では2系統)設けることも好適である。すなわち、煙道26に分岐煙道36、分岐煙道38を介装し、分岐煙道36と分岐煙道38との間にそれぞれ担持体12(酸化物半導体)を介装するものである。よって2つの担持体12で排ガス32中の未燃物質を燃焼(酸化)させることができる。また分岐煙道36の一方の流路を形成する煙道にはバルブ40が取り付けられ、他方の流路を形成する沿道にはバルブ42が取り付けられている。また分岐煙道38の他方の流路を形成する煙道にはバルブ44が取り付けられ、他方の流路を形成する煙道にはバルブ46が取り付けられている。したがって、バルブ40、44を閉じ、バルブ42、46を開放すると、他方の流路に介装された担持体12により排ガス32中の未燃物質を燃焼(酸化)させることができる。同様にバルブ42、46を閉じ、バルブ40、44を開放すると、一方の流路に介装された担持体12により排ガス32中の未燃物質を燃焼(酸化)させることができる。
【0029】
よって、排ガス処理システム10は、担持体12に塗布された酸化物半導体の酸化処理能力が低下した場合には、バルブを閉じることにより新たな酸化物半導体が塗布された担持体12に交換することができる。したがってディーゼルエンジン24を停止させることなく、一方の担持体12(酸化物半導体)で排ガス32中の未燃物質を酸化させる一方で他方の担持体12(酸化物半導体)の交換が可能となる。
【0030】
なお、本実施形態は、船舶用のディーゼルエンジンの排ガスに適用することを前提に説明したが、船舶用に限定するものではなく、可燃性の微粒子が排出されるディーゼルエンジンの排ガス全般に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
排ガスに対する圧力損失を抑制し、排ガス中の未燃物質の燃焼効率の低下を抑制可能な排ガス処理システム、排ガス処理方法として利用できる。
【符号の説明】
【0032】
10………排ガス処理システム、12………担持体、14………流通路、16………電気ヒータ、18………加熱装置、20………コンプレッサー、22………船舶、24………ディーゼルエンジン、26………煙道、28………誘引ファン、30………煙突、32………排ガス、34………空気、36………分岐煙道、38………分岐煙道、40………バルブ、42………バルブ、44………バルブ、46………バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶用のディーゼルエンジンの排ガスが流通する煙道内に配置された酸化物半導体を真性体領域の状態まで加熱して前記排ガスに接触させ、前記排ガス中に含まれる未燃物質を燃焼させる排ガス処理システムであって、
前記酸化物半導体が配置された位置より前記排ガスの上流側には、前記煙道に空気を送り込む空気供給手段が設けられたことを特徴とする排ガス処理システム。
【請求項2】
前記煙道には、前記煙道を前記煙道の断面方向に区画して複数の流通路を形成する担持体が取り付けられ、前記酸化物半導体は前記流通路の内壁に塗布されたことを特徴とする請求項1に記載の排ガス処理システム。
【請求項3】
前記酸化物半導体は加熱手段により加熱されるとともに、
前記加熱手段は、
前記酸化物半導体の温度を測定し、前記酸化物半導体が真性体領域の状態を維持するように加熱の出力を調整可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス処理システム。
【請求項4】
船舶用のディーゼルエンジンの排ガスが流通する煙道内に配置された酸化物半導体を真性体領域の状態まで加熱して前記排ガスに接触させ、前記排ガス中に含まれる未燃粒子を燃焼させる排ガス処理方法であって、
前記煙道の前記酸化物半導体が配置された位置より前記排ガスの上流側から空気を導入して前記排ガスに空気を混合させることを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項5】
前記酸化物半導体を加熱手段により加熱するとともに、
前記加熱手段は、前記酸化物半導体の温度を測定し、前記酸化物半導体が真性体領域の状態を維持するように加熱の出力を調整することを特徴とする請求項4に記載の排ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−122361(P2012−122361A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272093(P2010−272093)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】