説明

排ガス処理装置および排ガス処理方法

【課題】 電子ビーム照射において性能低下をきたすことなく、排ガスに含まれるダイオキシン類、NOx、SOxを同時に除去することができ、その結果、プロセスの簡素化および省エネルギーを図ることができる排ガス処理装置および排ガス処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明の排ガス処理装置は、排ガスに含まれる煤塵を集塵する第1ろ過式集塵機(3)と、第1ろ過式集塵機(3)で除塵された排ガスに含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、有機ハロゲン化合物を分解するための電子ビームを照射する電子ビーム照射装置(4)と、電子ビーム照射装置(4)によって生じた分解物を捕捉する第2ろ過式集塵機(5)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉、溶融炉等から発生する排ガスを処理する排ガス処理装置および排ガス処理方法に関し、さらに詳細には、電子ビームを用いて排ガスを分解処理する排ガス処理装置および排ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国の一般廃棄物は、その大部分が焼却によって処理されており、焼却に伴い排出される大気汚染物質の抑制・処理は非常に重要な課題になっている。最近では、焼却技術の向上に伴い、焼却における有害物質の発生を以前と比べて大幅に抑制できるようになった。しかし、その発生をゼロにすることは依然として困難である。したがって、環境への負荷をより低減するために、各種の排煙処理装置を組み合わせ、環境条件に合った最適な排煙処理システムを構築することが求められている。
【0003】
このような排煙処理システムの一つとして、2段のろ過式集塵機とその下流の触媒脱硝装置とを備えたものが知られている。図3および図4は、そのシステムのプロセスを示すフローシートである。本システムは、最近導入が進んでいるガス化溶融炉や灰溶融炉付きのプラントにおいて主に採用されるシステムであり、今後の主流となるシステムであると考えられる。
【0004】
本システムは、排ガスの流れ方向の上流側に配置される第1ろ過式集塵機(102)と、第1ろ過式集塵機(102)よりも下流側に配置される第2ろ過式集塵機(103)とを有しており、この第1ろ過式集塵機(102)の上流側には、燃焼処理後の排ガスの温度を減温する減温塔(101)が設けられる。第1ろ過式集塵機(102)では、主として、除塵や固体状のダイオキシン類の除去を行い、この第1ろ過式集塵機(102)にて補集された煤塵およびダイオキシン類は、灰溶融炉や薬剤により処理される。
【0005】
第1ろ過式集塵機(102)の上流には、ダイオキシン類を吸着除去するための活性炭が吹き込まれる。ダイオキシン類は、低温であるほど、蒸気圧は低くなり、固体微粒子状またはミスト状として排ガス中に存在するため、ダイオキシン類を除去する効率を高くするためには、第1ろ過式集塵機(102)は低温であるほど好ましい。しかしながら、低温運転においては、燃焼排ガスに多く含まれる腐食性ガス(HCl、SOx)による露点腐食を考慮する必要があること、下流で脱硝反応を行うため、排ガスの再加熱が必要であること、および、第1ろ過式集塵機(102)を通過する排ガスを減温するために設置される減温塔(101)での減温水量の低減を図る必要があることを考慮して、一般的には、第1ろ過式集塵機(102)は、150〜170℃程度で稼働される。
【0006】
第2ろ過式集塵機(103)は、有害ガスを除去することを目的とし、HCl、SOxを高度に除去する。さらに、第1ろ過式集塵機(102)で除去されなかったガス状のダイオキシン類も除去する。第2ろ過式集塵機(103)の下流側には、触媒脱硝装置(105)が設置され、この触媒脱硝装置(105)にて、NOxや極低濃度のガス状ダイオキシン類を分解除去する。また、第2ろ過式集塵機(103)と触媒脱硝装置(105)との間には、排ガス中のNOxを触媒反応により分解させるために170〜220℃程度の高温に排ガスを再加熱するためのガス再加熱装置(蒸気式ガス再加熱器、熱風装置等)(104)が設けられ、このガス再加熱装置(104)から触媒脱硝装置(105)に至るまでの間には、排ガス中にアンモニアガスを供給するアンモニアガス供給装置(図示省略)が設けられる。また、触媒脱硝装置(105)と排出口となる煙突(107)との間には、排ガスを誘引するための誘引送風機(Induced Draft Fan:IDF)(106)が設けられている。この誘引送風機(106)は、第2ろ過式集塵機(103)とガス再加熱装置(104)との間に配置される場合もある。
【0007】
また、他の排煙処理システムとしては、1段のろ過式集塵機と、湿式洗煙装置と、触媒脱硝装置とを備えたものが知られている。図5および図6は、そのようなシステムのプロセスを示すフローシートである。本システムは、大都市の一般廃棄物焼却施設で主に適用されるものであり、HCl、SOxの規制値が厳しく、工場排水が下水道放流可能な施設において採用されることが多い。
【0008】
本システムは、排ガスの流れ方向の上流側に配置されるろ過式集塵機(202)を有しており、このろ過式集塵機(202)の上流側には、燃焼処理後の排ガスの温度を減温する減温塔(201)が設けられる。ろ過式集塵機(202)では、主として、煤塵の除去を行い、このろ過式集塵機(202)にて捕集された煤塵は、溶融炉や薬剤により処理される。ろ過式集塵機(202)の下流側には、湿式洗煙装置(204)が配置され、この湿式洗煙装置(204)において、排ガス中のHCl、SOxを高効率に除去する。また、ろ過式集塵装置(202)と湿式洗煙装置(204)との間には、排ガスを誘引するための誘引送風機(Induced Draft Fan:IDF)(203)が設けられている。また、湿式洗煙装置(204)の下流側には、触媒脱硝装置(206)が配置され、この触媒脱硝装置(206)では、NOxやガス状のダイオキシン類が分解除去される。また、湿式洗煙装置(204)と触媒脱硝装置(206)との間には、排ガス中のNOxを触媒反応により分解させるために170〜220℃程度の高温に排ガスを再加熱するためのガス再加熱装置(蒸気式ガス再加熱器、熱風装置等)(205)が設けられ、このガス再加熱装置(205)から触媒脱硝装置(206)に至るまでの間の経路に排ガス中にアンモニアガスを供給するアンモニアガス供給装置(図示せず)が設けられる。触媒脱硝装置(206)にて脱硝された排ガスは、煙突(207)を介して外部に排出される。
【0009】
さらに別の排ガス処理技術として、電子ビームを照射することにより有害物質を分解除去する技術の開発が進められてきた(特許文献1〜11、非特許文献1参照)。
【0010】
このような電子ビームを用いた排ガス処理方法としては、燃焼性ガスの脱硫・脱硝が知られている。この方法では、電子ビームの照射により、排ガス中のNOxおよびSOxを同時に硝酸および硫酸に酸化する。発生した硝酸および硫酸は、アンモニアを添加することにより、このアンモニアと反応させて硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムとし、粉末肥料としてそれらを回収することができる。この方法では、触媒による脱硝と消石灰による脱硫のプロセスを用いる従来技術と異なり、排水処理が不要であり、システムを簡単にできるため、経済的に有利であることが期待された。
【0011】
この電子ビームを用いた脱硫・脱硝は、処理規模12,000mN/hのパイロット試験が実施され、SOxおよびNOxをそれぞれ250〜2,000ppmvおよび150〜240ppmv程度を含む排ガスに対して、電子ビームの線量および照射温度を制御することにより、脱硫率94%および脱硝率80%以上をそれぞれ達成している(特許文献2、3、4,8、9参照)。また、本方法は、建設・処理コストの評価により経済性にも優れていることが示された。これらの知見をもとに、中国、ポーランド、ブルガリアのように、主に火力発電に依存している外国の実規模施設において、本技術が活用されている。
【0012】
また、近年、塗装や洗浄などの工程で発生する揮発性有機化合物(VOC)も環境汚染物質としてその処理方法について対策が求められている。VOCの中には、発ガン性を持つ物質やオゾン層の破壊につながる物質も存在する。排ガス中に含まれる低濃度のVOCを処理する従来方法には、直接燃焼法や活性炭吸着法があるが、直接燃焼法は、エネルギー消費量が大きく、また、VOCの燃焼に伴うダイオキシン類発生の可能性もあるとの報告がある。このような環境汚染物質を処理する方法が求められる状況下、空気に含まれる芳香族、脂肪族化合物やトリクロロエチレンをはじめとする塩素を含有するエチレン化合物などに対して、電子ビーム照射による分解除去技術の開発が進められている(特許文献12、13参照)。
【0013】
このような電子ビーム照射による分解は、代表的なVOCであるベンゼン、ホルムアルデヒド、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどをppmオーダーで含む空気に対して、4〜13kGyの吸収線量の電子ビームを照射することにより、60〜100%のVOCを分解できることが明らかになっている。
【0014】
このような電子ビームによるダイオキシン類の分解性能に関して、一般廃棄物焼却施設の電気集塵器後流の煙道から排ガスの一部を試験装置に導き、電子ビームを照射した後、煙道に戻すという経路を作り、電子ビーム照射装置を出た後のダイオキシン類の濃度を測定することにより実験を行った。
【0015】
使用した加速器は、300kV、40mAの定格であり、1000mN/hの排ガスを処理できる性能を有する。電子ビームの透過能力は照射の対象となる物質の密度に依存するため、空気をベースとするガスに対しては0.3MeVのエネルギーで50cm程度の飛程が期待できる。電子ビーム照射装置の反応部の寸法は、ビームの飛程および流量から、幅45cm、長さ120cm、深さ30cmとした。
【0016】
上記実験の結果を図7に示す。図7に示す通り、ダイオキシン類の初期濃度が0.5〜1.8ng−TEQ/mNの低濃度の排煙に対しても、分解率は、8kGyの線量では80%、15kGy以上の線量では90%以上であることが分かった。また、分解生成物の環境ホルモン様活性も測定したところ、電子ビームの照射前と比較して、低減されている。
【特許文献1】特許第3228647号
【特許文献2】特許第3361200号
【特許文献3】特許第3488524号
【特許文献4】特公平7−12413号公報
【特許文献5】特開2000−202419号公報
【特許文献6】特開平11−123315号公報
【特許文献7】特開平11−239716号公報
【特許文献8】特開平8−164323号公報
【特許文献9】特開平8−164324号公報
【特許文献10】特開平8−117547号公報
【特許文献11】特開平8−164323号公報
【特許文献12】特許第3219775号
【特許文献13】特開平11−239716号公報
【非特許文献1】「総合報告 電子ビームを用いた排煙排水処理技術とその実例」小嶋拓治,応用物理、第72巻、第4号、405−414(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来から開発が進められてきた排ガス処理装置においては、上記したように排ガス中に含まれる各成分をそれぞれ別々の処理装置によって除去している。
【0018】
すなわち、図3〜図6に示される排ガス処理装置では、第1ろ過式集塵機(102)またはろ過式集塵機(202)にて、煤塵および固体状のダイオキシンを除き、第2ろ過式集塵機(103)または湿式洗煙塔(204)にて、気体状のHCl、SOx、ダイオキシン類を除き、触媒脱硝装置(105)または(206)にて、NOxを除いている。このように、図3〜6に示す排ガス処理装置では、排ガス中の各有毒成分を除去するために、多数の除去装置を経る必要があり、経路が長く、各装置を駆動および維持するための経費もより高くなるという問題がある。
【0019】
特に、脱硝のために触媒脱硝装置(105)または(206)、アンモニア供給装置(図示せず)、再加熱装置(104)または(205)を設けることが必要であり、これら装置のための設置場所、駆動および維持負担が大きい。また、第1ろ過式集塵機(102)またはろ過式集塵機(202)の上流に設けられた減温塔(101)または(201)により、220℃以上の高温の燃焼後の排ガスを一旦、160〜170℃まで減温し、下流側の触媒脱硝装置(105)または(206)前で、再加熱装置(104)または(205)により220℃程度の高温に再加熱しており、無駄なエネルギー損失を強いられている。したがって、脱硝に要する脱硝装置、アンモニア供給装置、再加熱装置を省略することができれば、省エネルギー等の観点から望ましい。
【0020】
また、上記装置では、ダイオキシン類を除去するために、第1ろ過式集塵機(102)上流で、活性炭を吹き込む必要があるが、160〜170℃程度の温度では、ダイオキシン除去が不十分であり、排ガス中のダイオキシン類の濃度が高くなるおそれがあり、また、排ガス中の飛灰が発熱する等の問題がある。
【0021】
また、上記の電子ビームを用いた排ガス処理方法においては、排ガス中の煤塵などにより電子ビームの有毒物質の除去能力の低下が不可避であった。このような問題を解消するために、特許文献12では、煤塵、二酸化硫黄、一酸化窒素の除去を行った後に、電子ビームを照射して塩化芳香族化合物を分解する方法が提案されている。しかし、この方法では、煤塵、二酸化硫黄、一酸化窒素を除去するために、それぞれ、別々の装置を備える必要があるので、多数の除去装置を経る必要があり、経路が長く、各装置を駆動および維持するための経費もより高くなるという、図3〜6に示した排ガス処理装置と同様の問題を有することになる。
【0022】
また、電子ビームを用いた排ガス処理方法については、上記のように、NOxおよびSOxを除去する方法、VOCを分解除去する方法が、別々になされているのみであり、NOx、SOx、およびダイオキシン類を一挙に同一装置にて分解除去する方法は、未だ、実現されていない。
【0023】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電子ビーム照射において性能低下をきたすことなく、排ガスに含まれるダイオキシン類、NOx、SOxを同時に除去することができ、その結果、プロセスの簡素化および省エネルギーを図ることができる排ガス処理装置および排ガス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、従来から問題となっていた排ガス中の煤塵の問題を解消するために、煤塵を除去するためのろ過式集塵機の下流側に電子ビーム照射装置を配置し、また、電子ビームによるダイオキシン類の分解実験の成果を応用して、本発明を完成した。
【0025】
すなわち、本発明の排ガス処理装置は、排ガスに含まれる煤塵を集塵する集塵手段と、該集塵手段で除塵された排ガスに含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、有機ハロゲン化合物を分解するための電子ビームを照射する電子ビーム照射手段と、該電子ビーム照射手段によって生じた分解物を捕捉する捕捉手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0026】
上記本発明の排ガス処理装置において、前記捕捉手段は、前記電子ビーム照射手段の下流に配置された第2集塵手段であり、前記集塵手段から該第2集塵手段に至るまでのガス流路途中に消石灰を供給する消石灰供給手段をさらに備え、該第2集塵手段は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素と消石灰との反応物である、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムを集塵することが好ましい。
【0027】
あるいは、上記本発明の排ガス処理装置において、前記捕捉手段は、前記電子ビーム照射手段の下流に配置された湿式洗煙塔であり、前記集塵手段から該湿式洗煙塔に至るまでのガス流路途中にアンモニアを供給するアンモニア供給手段をさらに備え、該湿式洗煙塔は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素とアンモニアとの反応物である、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムを吸収除去することが好ましい。
【0028】
また、本発明の排ガス処理方法は、排ガスに含まれる煤塵を集塵する集塵工程と、集塵工程で除塵された排ガスに電子ビームを照射して、排ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、有機ハロゲン化合物を分解する電子ビーム照射工程と、該電子ビーム照射工程にて生じた分解物を捕捉する捕捉工程とを包含することを特徴とするものである。
【0029】
上記本発明の排ガス処理方法において、前記集塵工程後から前記捕捉工程に至るまでの間に消石灰を供給する消石灰供給工程をさらに含み、前記捕捉工程は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素と消石灰との反応物である、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムを集塵する工程であることが好ましい。
【0030】
あるいは、上記本発明の排ガス処理方法において、前記集塵工程後から前記捕捉工程に至るまでの間にアンモニアを供給するアンモニア供給工程をさらに含み、前記捕捉工程は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素とアンモニアとの反応物である、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムを吸収除去する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、電子ビーム照射装置によって、NOx、SOx、およびダイオキシン類を一挙に同一装置にて分解除去するように構成したので、従来の排ガス処理装置と比較して、プロセスの簡素化および省エネルギーを図ることができる。特に、従来法で必要であった脱硝装置、アンモニア供給装置、再加熱装置を設ける必要がなくなり、これらの装置のための設置場所、駆動および維持負担を軽減することができる。とりわけ、再加熱装置により、ろ過式集塵機上流で一旦減温した排ガスを220℃程度まで再加熱するという、エネルギー損失をなくすことができ、省エネルギーの観点からの利点を有する。
【0032】
また、従来ダイオキシン類除去を目的に、第1ろ過式集塵機上流に活性炭を吹き込んでいるため、捕集した飛灰が発熱する等の問題があったが、本発明では、活性炭を吹き込む必要がないため、そのような問題は生じない。
【0033】
また、本発明では、ろ過式集塵機により煤塵を除去した下流側に電子ビーム照射装置を設けているので、排ガス中の煤塵などによる電子ビームの有毒物質の除去能力が低下することがなく、良好に有毒物質を分解除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら、本発明の排ガス処理装置および排ガス処理方法について詳細に説明する。
【0035】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の排ガス処理装置の概略構成を説明するフローシートである。
【0036】
本実施の形態1では、第1および第2の2段のろ過式集塵機(3)および(5)と、この2段のろ過式集塵機(3)および(5)の間に配置された電子線ビーム照射装置(4)とを有している。
【0037】
一般廃棄物を燃焼する燃焼炉またはボイラ(1)から、第1ろ過式集塵機(3)に至るまでの間には、燃焼処理後の排ガスの温度を減温する減温塔(2)が設けられている。また、第2ろ過式集塵機(5)と、排出口となる煙突(7)との間には、排ガスを誘引するための誘引送風機(Induced Draft Fan:IDF)(6)が設けられている。
【0038】
減温塔(2)は、燃焼後の220℃程度の高温の排ガスを、160〜170℃程度まで減温することができるものが用いられ、減温のために、例えば、噴射水を噴射するための2流体噴射ノズルを備えたものが用いられる。
【0039】
第1ろ過式集塵機(3)は、燃焼後の排ガス中に含まれる煤塵を除去するための除塵用ろ過式集塵機である。第1ろ過式集塵機(3)は、煤塵を除去することができれば、特に限定されるものではないが、例えば、SS400等の鋼板製で、酸露点による低温腐食を防止するための保湿資材が外面に施行された本体部と、ガラス繊維二重織布のろ布とを有し、さらに、ダスト搬出装置や温風循環装置などの付属装置が付設されたものが用いられる。この第1ろ過式集塵機(3)の入口煙道には、ろ布の保護等のため、図示しない特殊助剤貯留槽から珪藻土等を含有する特殊助剤が吹き込まれる。
【0040】
燃焼炉(1)で発生する排ガス中の煤塵の一部は、減温塔(2)で捕集され、残りの煤塵は、第1ろ過式集塵機(3)で特殊助剤とともにろ布により捕集・除去される。
【0041】
電子ビーム照射装置(4)は、電子ビーム照射反応部、高圧電源装置、制御盤、および、操作盤から構成される。電子ビームは、電子ビーム発生部内のターミナルで発生し加速器の高電圧により加速した電子を、電子ビーム発生部端部に設けたウィンドウ部からビーム状に照射するものである。加速器は、例えば、300kV、40mAの定格のものが用いられ、この仕様では、1000mN/hの排ガスを処理することができる。電子ビームの透過能力は、照射の対象となる物質の密度に依存するため、空気をベースとするガスに対しては、0.3MeVのエネルギーで50cm程度の飛程が期待できる。
【0042】
電子ビーム照射装置の反応部の寸法は、ビームの飛程および流量から、例えば、幅45cm、長さ120cm、深さ30cmのものが用いられる。
【0043】
電子ビーム照射装置(4)を通過する排ガスに含まれるNOx、SOxは、電子ビーム照射によって、それぞれ、硝酸および硫酸に酸化される。また、排ガスに含まれるダイオキシン類は、電子ビーム照射により分解・無害化される。この分解・無害化は、電子ビームの照射で発生した排ガス中の活性種によりダイオキシン類のエーテル結合の開裂、ベンゼン環の開環、塩素の脱離などによるものであると考えられる。
【0044】
電子ビーム照射装置(4)の通過により発生した硝酸、硫酸、塩化水素は、消石灰供給手段(図示せず)から供給された消石灰と反応することにより、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムとされる。
【0045】
この消石灰の添加は、その添加により生じる、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩酸カルシウムが、これらの化合物を捕捉するために設けられる第2ろ過式集塵機(5)にて捕捉されるように、第1ろ過式集塵機(3)の下流側から該第2ろ過式集塵機(5)の入口前に至るまでの途中で添加されればよく、電子ビーム照射装置(4)への入口前に添加されてもよく、また、電子ビーム照射装置(4)の出口後に添加されてもよい。
【0046】
また、この消石灰の添加とともに、珪藻土等の特殊助剤も添加されてもよい。
【0047】
第2ろ過式集塵機(5)は、硝酸カルシウム等の反応生成物、消石灰、特殊助剤を捕捉できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、SS400等の鋼板製の本体部と、ガラス繊維二重織布とを有するものが使用される。また、電子ビーム照射装置(4)で未反応のSOxも消石灰と反応して、この第2ろ過式集塵機(5)にて捕集・除去される。
【0048】
第2ろ過式集塵機(5)を通過した排ガスは、誘引送風機(IDF)(6)によって、排ガスの排出口である煙突(7)に向けて誘引され、煙突を介して外部に排出される。
【0049】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2の排ガス処理装置の概略構成を説明するフローシートである。
【0050】
本実施の形態2では、ろ過式集塵機(13)と、湿式洗煙装置(16)とを有し、このろ過式集塵機(13)と湿式洗煙装置(16)との間に電子ビーム照射装置(14)を配置する構成となっている。
【0051】
一般廃棄物を燃焼する燃焼炉またはボイラ(11)から、ろ過式集塵機(13)に至るまでの間には、燃焼処理後の高温の排ガスの温度を減温する減温塔(12)が設けられている。また、電子ビーム照射装置(14)と湿式洗煙塔(16)との間には、排ガスを誘引するための誘引送風機(Induced Draft Fan:IDF)(15)が設けられており、湿式洗煙塔(16)を出た排ガスは、煙突(17)を通じて外気に排出されるようになっている。
【0052】
減温塔(12)は、燃焼後の220℃程度の高温の排ガスを、160〜170℃程度まで減温することができるものが用いられ、減温のために、例えば、噴射水を噴射するための2流体噴射ノズルを備えたものが用いられる。
【0053】
ろ過式集塵機(13)は、燃焼後の排ガス中に含まれる煤塵を除去するための除塵用ろ過式集塵機である。ろ過式集塵機(13)は、煤塵を除去することができれば、特に限定されるものではないが、例えば、SS400等の鋼板製で、酸露点による低温腐食を防止するための保湿資材が外面に施行された本体部と、ガラス繊維二重織布のろ布とを有し、さらに、ダスト搬出装置や温風循環装置などの付属装置が付設されたものが用いられる。このろ過式集塵機(13)の入口煙道には、ろ布の保護等のため、図示しない特殊助剤貯蔵槽から珪藻土等を含有する特殊助剤が吹き込まれる。
【0054】
燃焼炉(11)で発生する排ガス中の煤塵の一部は、減温塔(12)で捕集され、残りの煤塵は、ろ過式集塵機(13)で特殊助剤とともにろ布により捕集・除去される。
【0055】
電子ビーム照射装置(14)は、電子ビーム照射反応部、高圧電源装置、制御盤、および、操作盤から構成される。電子ビームは、電子ビーム発生部内のターミナルで発生し加速器の高電圧により加速した電子を、電子ビーム発生部端部に設けたウィンドウ部からビーム状に照射するものである。加速器は、例えば、300kV、40mAの定格のものが用いられ、この仕様では、1000mN/hの排ガスを処理することができる。電子ビームの透過能力は、照射の対象となる物質の密度に依存するため、空気をベースとするガスに対しては、0.3MeVのエネルギーで50cm程度の飛程が期待できる。
【0056】
電子ビーム照射装置の反応部の寸法は、ビームの飛程および流量から、例えば、幅45cm、長さ120cm、深さ30cmのものが用いられる。
【0057】
電子ビーム照射装置(14)を通過する排ガスに含まれるNOx、SOxは、電子ビーム照射によって、それぞれ、硝酸および硫酸に酸化される。また、排ガスに含まれるダイオキシン類は、電子ビーム照射により分解・無害化される。この分解・無害化は、電子ビームの照射で発生した排ガス中の活性種によりダイオキシン類のエーテル結合の開裂、ベンゼン環の開環、塩素の脱離などによるものであると考えられる。
【0058】
電子ビーム照射装置(14)の通過により発生した硝酸、硫酸、塩化水素は、アンモニア供給手段(図示せず)から供給されたアンモニアと反応することにより、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムとされる。
【0059】
このアンモニアの添加は、その添加により生じる、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムが、これらの化合物を捕捉するために設けられる湿式洗煙装置(16)にて捕捉されるように、ろ過式集塵機(13)の下流側から湿式洗煙装置(16)の入口前に至るまでのいずれかの部分に添加されればよく、電子ビーム照射装置(14)への入口前に添加されても、また、電子ビーム照射装置(14)の出口後に添加されてもよい。
【0060】
湿式洗煙装置(16)は、電子ビーム照射により生成した硝酸、硫酸、塩化水素とアンモニアとが反応して生成した硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムを水スプレーで吸収除去するために設置される。また、この湿式洗煙装置(16)は、未反応のHCl、NOx、SOxや重金属類を湿式洗浄によって効率よく除去する。HClやSOxなどの酸性ガスの中和剤には苛性ソーダ(NaOH)等が使用される。
【0061】
湿式洗煙装置(16)は、冷却吸収塔(本体)と、排ガス再加熱装置とを備え、さらに、減湿用冷却器、薬品タンク、減湿水槽等を有していてもよい。排ガス再加熱装置は、ガス再加熱器、循環ファン、および混合器から構成される。
【0062】
電子ビーム照射装置(14)を通過した排ガスは、誘引送風機(IDF)(15)によって、湿式洗煙装置(16)に通され、湿式洗煙装置(16)を出た排ガスは、煙突(17)を介して外部に排出される。
【0063】
次に、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
図1に示すような実施の形態1の排ガス処理装置を用いて排ガスの処理を行い、ばいじん、塩化水素、SOx、NOx、ダイオキシン類の各成分の除去効果を測定した。排煙条件を、5,000mN/h、25,000mN/h、50,000mN/hの3条件とし、排ガス処理装置入口と排ガス処理装置出口での排煙濃度を測定した。各濃度算出において、実際の排煙量を入口および出口の各段階での温度で温度換算した排煙量に補正したものを排煙量として用いた。このようにして上記3条件についてそれぞれ排煙効果を測定したところ、各条件について同一の排煙効果が得られた。その結果を、表1に示す。
【表1】

【0065】
(実施例2)
図2に示すような実施の形態2の排ガス処理装置を用いて排ガスの処理を行い、ばいじん、塩化水素、SOx、NOx、ダイオキシン類の各成分の除去効果を測定した。排煙条件を、5,000mN/h、25,000mN/h、50,000mN/hの3条件とし、排ガス処理装置入口と排ガス処理装置出口での排煙濃度を測定した。各濃度算出において、実際の排煙量を入口および出口の各段階での温度で温度換算した排煙量に補正したものを排煙量として用いた。このようにして上記3条件についてそれぞれ排煙効果を測定したところ、各条件について同一の排煙効果が得られた。その結果を、表2に示す。
【表2】

【0066】
表1および2を参照して明らかなように、本発明によると、排ガスに含まれるばいじん、塩化水素、SOx、NOx、ダイオキシン類の低減効果が顕著であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、廃棄物焼却炉、溶融炉等から発生する排ガスを処理する排ガス処理装置および排ガス処理方法に関し、さらに詳細には、電子ビームを用いて廃ガスを分解処理する排ガス処理装置および排ガス処理方法に関するものであり、電子ビーム照射において性能低下をきたすことなく、排ガスに含まれるダイオキシン類、NOx、SOxを同時に除去することができ、その結果、プロセスの簡素化および省エネルギーを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施の形態1の排ガス処理装置の概略構成を説明するフローシートである。
【図2】実施の形態1の排ガス処理装置の概略構成を説明するフローシートである。
【図3】従来の排ガス処理装置を説明するフローシートである。
【図4】従来の排ガス処理装置を説明するフローシートである。
【図5】従来の他の排ガス処理装置を説明するフローシートである。
【図6】従来の他の排ガス処理装置を説明するフローシートである。
【図7】非特許文献1より引用したグラフである。
【符号の説明】
【0069】
1 燃焼炉
2 減温塔
3 第1ろ過式集塵機
4 電子ビーム照射装置
5 第2ろ過式集塵機
6 誘引送風機
7 煙突
11 燃焼炉
12 減温塔
13 ろ過式集塵機
14 電子ビーム照射装置
15 誘引送風機
16 湿式洗煙塔
17 煙突
101 減温塔
102 第1ろ過集塵機
103 第2ろ過集塵機
104 ガス再加熱装置
105 触媒脱硝装置
106 誘引送風機
107 煙突
201 減温塔
202 ろ過式集塵機
203 誘引送風機
204 湿式洗煙装置
205 ガス再加熱装置
206 触媒脱硝装置
207 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに含まれる煤塵を集塵する集塵手段と、
該集塵手段で除塵された排ガスに含まれる窒素酸化物、硫黄酸化物、有機ハロゲン化合物を分解するための電子ビームを照射する電子ビーム照射手段と、
該電子ビーム照射手段によって生じた分解物を捕捉する捕捉手段と
を備えたことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
前記捕捉手段は、前記電子ビーム照射手段の下流に配置された第2集塵手段であり、
前記集塵手段から該第2集塵手段に至るまでのガス流路途中に消石灰を供給する消石灰供給手段をさらに備え、
該第2集塵手段は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素と消石灰との反応物である、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムを集塵する、請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項3】
前記捕捉手段は、前記電子ビーム照射手段の下流に配置された湿式洗煙塔であり、
前記集塵手段から該湿式洗煙塔に至るまでのガス流路途中にアンモニアを供給するアンモニア供給手段をさらに備え、
該湿式洗煙塔は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素とアンモニアとの反応物である、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムを吸収除去する、請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項4】
排ガスに含まれる煤塵を集塵する集塵工程と、
集塵工程で除塵された排ガスに電子ビームを照射して、排ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、有機ハロゲン化合物を分解する電子ビーム照射工程と、
該電子ビーム照射工程にて生じた分解物を捕捉する捕捉工程と
を包含することを特徴とする排ガス処理方法。
【請求項5】
前記集塵工程後から前記捕捉工程に至るまでの間に消石灰を供給する消石灰供給工程をさらに含み、
前記捕捉工程は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素と消石灰との反応物である、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウムを集塵する工程である、請求項4に記載の排ガス処理方法。
【請求項6】
前記集塵工程後から前記捕捉工程に至るまでの間にアンモニアを供給するアンモニア供給工程をさらに含み、
前記捕捉工程は、前記分解物である、硝酸、硫酸、塩化水素とアンモニアとの反応物である、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウムを吸収除去する工程である、請求項4に記載の排ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−297261(P2006−297261A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121355(P2005−121355)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】