説明

排ガス処理触媒および排ガス処理方法

【課題】
高活性であって、排ガス中の窒素酸化物や、ダイオキシン類などの有機ハロゲン化合物をより効率よく分解除去することができる排ガス処理用触媒、およびこの触媒を用いた排ガス処理方法を提供する。
【解決手段】
(1)バナジウム酸化物のほかに、298.15Kにおける標準生成エンタルピー(△H(kJ/mol))が−1300以上−300以下である金属硫酸塩(例えば、硫酸鉄、硫酸亜鉛)を含有させる。(2)この触媒を用いて有害物質を含有する排ガスを処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理触媒、およびこの触媒を用いた排ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の窒素酸化物(NOx)や、ダイオキシン類などの有機ハロゲン化合物を分解除去して排ガスを処理するに好適な触媒として、多くの触媒が提案されている。例えば、特許文献1には、有機ハロゲン化合物の除去触媒として、チタン酸化物とバナジウム酸化物とを含み、特定の細孔径分布を有する触媒が記載されている。特許文献2には、有機ハロゲン化合物の除去触媒として、チタン酸化物などにバナジウム酸化物などを担持した触媒が記載されている。また、特許文献3には、低温で効率よく窒素酸化物を還元分解(脱硝)できる触媒として、硫酸ニッケル、硫酸鉄、硫酸コバルトなどの金属硫酸塩をチタン酸化物などの担体に担持した触媒が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−62292号公報
【特許文献2】特開平11−188236号公報
【特許文献3】特開平10−76142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来の触媒に比べて、高活性であって、排ガス中の窒素酸化物や、ダイオキシン類などの有機ハロゲン化合物をより効率よく分解除去することができる排ガス処理用触媒、およびこの触媒を用いた排ガス処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、バナジウム酸化物を含む排ガス処理用触媒に特定の金属硫酸塩を加えると前記目的が達成できることを知り、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(1)排ガス中の有害物質を分解除去するための触媒であって、バナジウム酸化物と、298.15Kにおける標準生成エンタルピー(△H(kJ/mol))が−1300以上−300以下である金属硫酸塩とを含有することを特徴とする排ガス処理用触媒、および(2)この排ガス処理用触媒を用いて有害物質を含有する排ガスを処理することを特徴とする排ガス処理方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の排ガス処理触媒を用いることにより、排ガス中の有害物質を効率よく分解除去することができる。また、本発明の排ガス処理触媒は、排ガス中に含まれる硫黄酸化物(SOx)に対し優れた耐被毒性を有することから、排ガス処理を長期にわたり安定して実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の「有害物質」とは、各種排ガス中に含まれる、窒素酸化物(NOx)や、塩素化ダイオキシン類、臭素化ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、クロロフェノール、ブロモフェノールなどの有機ハロゲン化合物を意味する。
【0008】
本発明の排ガス処理用触媒は、上記有害物質を効率よく分解除去し得るものであって、必須成分の一つとして、298.15Kにおける標準生成エンタルピー(△H(kJ/mol))が−1300以上−300以下である金属硫酸塩を含有することを特徴とする。上記金属硫酸塩を含む触媒においては、排ガス中に含まれるSOxによる触媒被毒が効果的に抑制される。この理由は明確ではないが、金属硫酸塩はSOx対する親和性が低いことから、この金属硫酸塩を含む触媒においては、その表面へのSOxの吸着が起こりにくくなり、結果として、硫黄酸化物による触媒被毒が抑制されるものと考えられる。そして、上記エンタルピーが高いものほどSOx親和性が低いことから、上記金属硫酸塩のなかでも、上記エンタルピーが−1300以上−300以下、好ましくは−1200以上−500以下、より好ましくは−1000以上−500以下のものが好適に用いられる。上記エンタルピーが−1300より低い金属硫酸塩を用いると触媒表面にSOxが吸着しやすくなってSOxによる触媒被毒が抑制できず、一方、−300より高い金属硫酸塩を用いるとSOx親和性が低すぎるため、金属硫酸塩の添加効果が得られなくなるおそれがある。
【0009】
上記金属硫酸塩の具体例としては、銀、カドミウム、コバルト、銅、鉄、水銀、マグネシウム、ニッケル、鉛、タリウム、亜鉛などの硫酸塩が挙げられる。これらのなかでも、銅、コバルト、鉄、亜鉛およびマンガンの硫酸塩が好適に用いられる。これら金属硫酸塩は単独でも、あるいは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0010】
上記金属硫酸塩の含有量は、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%がより好ましく、0.1〜5質量%がさらに好ましい。
【0011】
本発明の排ガス処理用触媒においては、BET比表面積が40m/g、好ましくは50m/g、より好ましくは60m/gを下回らないものが好適に用いられる。BET比表面積が40m/g未満では、バナジウムが凝集しやすくなり、排ガス処理性能が低下する。水銀圧入法により測定される細孔容積は0.2〜0.8cm/g、好ましくは0.25〜0.7cm/g、より好ましくは0.25〜0.6cm/gである。
【0012】
本発明の排ガス処理用触媒は、上記金属硫酸塩とバナジウム酸化物とを、この種の触媒に一般に用いられている無機物質に添加して得られる。上記無機物質の代表例としては、チタン系酸化物を挙げることができる。このチタン系酸化物としては、チタン酸化物(TiO)のほかに、チタン(Ti)と、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)から選ばれる少なくとも1種の元素との複合酸化物を用いることができる。なかでも、チタンと、アルミニウム、ケイ素、クロム、ジルコニウム、モリブデンおよびタングステンから選ばれる1種または2種の元素との二元または三元系複合酸化物が好適に用いられる。これらチタン系酸化物は混合して使用することもできる。具体例としては、TiO、Ti−Si複合酸化物、Ti−Mo複合酸化物、Ti−Si−Mo複合酸化物、Ti−Si−W複合酸化物、Ti−W複合酸化物、Ti−Zr−Mo複合酸化物、TiO+Ti−W複合酸化物、Ti−Si複合酸化物+Ti−Si−W複合酸化物などを挙げることができる。なお、「複合酸化物」とは、X線回折パターンにおいて、酸化チタン以外の物質に帰属される明らかな固有のピークを示さず、酸化チタンについてはアナターゼ型酸化チタンに帰属される固有のピークを示さないか、もしくは示してもアナターゼ型酸化チタンの回折ピークよりもブロードな回折ピークを示すものをいう。
【0013】
上記チタン系複合酸化物の調製方法については、特に制限はなく、一般によく知られている方法、例えば、沈澱法(共沈法)、沈着法、加水分解法、ゾル−ゲル法、混練法などにしたがって調製することができる。
【0014】
本発明の排ガス処理用触媒は、例えば、次の方法により得られる。
(A)チタン系酸化物の粉末と上記金属硫酸塩の粉末との混合物にバナジウム源としてのバナジウム化合物を含む水溶液を有機または無機の成形助剤とともに加え、混練した後、ハニカム状などの形状に成形する。次に、この成形品を300〜700℃、好ましくは350〜650℃の温度で焼成する。
(B)チタン系酸化物の粉体を予め球状、円柱状、ペレット状、ハニカム状などの形状に成形して成形品とし、この成形品を焼成した後、バナジウム源としてのバナジウム化合物および上記金属硫酸塩を含む水溶液に含浸、乾燥させ、次いで300〜700℃、好ましくは350〜650℃で焼成する。
(C)チタン系酸化物の粉末と上記金属硫酸塩およびバナジウム酸化物粉体とを直接混合し、これを上記(A)と同様の方法により成形、焼成する。
【0015】
上記バナジウム化合物ついては、上記焼成処理により、バナジウム酸化物を形成し得るものであれば、いずれでもよく、例えば、バナジウム酸化物(V、VO、Vなど)や、バナジウムの水酸化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物などを用いることができる。
【0016】
本発明の排ガス処理触媒における、バナジウムの含有量は、酸化物(V換算)として、通常、0.1〜25質量%であり、好ましくは1〜15質量%である。
【0017】
本発明に用いるチタン源としては、無機および有機のいずれの化合物も使用可能であり、四塩化チタン、硫酸チタニル、メタチタン酸、テトライソプロピルチタネートなどを用いることができる。ケイ素源としては、コロイド状シリカ、水ガラス、四塩化ケイ素、ケイ酸エチルなどから適宜選択して使用することができる。Al、Cr、Zr、Mo、Wの原料としては、無機および有機のいずれの化合物も使用可能であり、酸化物、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物、硝酸線、酢酸塩などから適宜選択して使用することができる。
【0018】
本発明の排ガス処理触媒に占めるチタンの含有量は、特に限定されないが、例えば、触媒の全質量に対して、酸化物(TiO)換算質量比で、15〜99.8%であることが好ましく、30〜99質量%であることがより好ましい。Al、Cr、Zr、Mo、Wの含有量は、各元素の酸化物換算質量比で、0.5〜30質量%であることが好ましくは、1〜25質量%であることが更に好ましい。なお、Mo、W、Crなどはチタン系複合酸化物の形態、もしくはそれ以外の形態で含まれていても、またはチタン系複合酸化物の形態とそれ以外の形態とで同時に含まれていてもよいが、チタン系複合酸化物の形態で含まれるのが好ましい。
【0019】
本発明の排ガス処理触媒の形状については特に制限はなく、ハニカム状、板状、網状、円柱状、円筒状、球状など所望の形状に成形して使用することができる。また、アルミナ、シリカ、コージェライト、ムライト、SiC、チタニア、ステンレス鋼などからなるはハニカム状、板状、網状、円柱状、円筒状など所望の形状の担体に担持して使用してもよい。
【0020】
本発明の排ガス処理触媒は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の還元分解除去(脱硝)に用いることができる。例えば、ボイラ、焼却炉、ガスタービン、ディーゼルエンジンおよび各種工業プロセスから排出される排ガス中の窒素酸化物の除去に好適に用いられる。本発明の触媒を用いて脱硝を行うには、本発明の触媒をアンモニアや尿素などの還元剤の存在下、排ガスと接触させ、排ガス中の窒素酸化物を還元除去する。この際の条件については、特に制限がなく、この種の反応に一般的に用いられている条件で実施することができる。具体的には、排ガスの種類、性状、要求される窒素酸化物の分解率などを考慮して適宜決定すればよい。
【0021】
なお、本発明の触媒を用いて脱硝を行う場合の排ガスの空間速度は、通常、100〜100000Hr−1(STP)であり、好ましくは200〜50000Hr−1(STP)である。100Hr−1未満では、処理装置が大きくなりすぎるため非効率となり、一方100000Hr−1を超えると分解効率が低下する。また、その際の温度は、通常、100〜500℃であり、好ましくは150〜400℃、より好ましくは200℃を超え300℃以下である。
【0022】
また、本発明の排ガス処理触媒は、排ガス中の有機ハロゲン化合物の酸化分解除去に用いることができる。ここで、「有機ハロゲン化合物」とは、排ガス中に含まれる環境上好ましくない有害物質を意味し、その代表例としては、塩素化ダイオキシン類、臭素化ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニール(PCB)、クロロフェノール、ブロモフェノールなどを挙げることができる。したがって、本発明の「有害物質」とは、上記のような、窒素酸化物や有機ハロゲン化合物を意味する。本発明の触媒を用いて有機ハロゲン化合物の処理を行うには、本発明の触媒を排ガスと接触させ、排ガス中の有機ハロゲン化合物を分解除去する。この際の条件については、特に制限がなく、この種の反応に一般的に用いられている条件で実施することができる。具体的には、排ガスの種類、性状、要求される有機ハロゲン化合物の分解率などを考慮して適宜決定すればよい。アンモニアや尿素などの還元剤を添加することにより同時に脱硝を行うこともできる。
【0023】
なお、本発明の触媒を用いて有機ハロゲン化合物の処理を行う場合の排ガスの空間速度は、通常、100〜100000Hr−1(STP)であり、好ましくは200〜50000Hr−1(STP)である。100Hr−1未満では、処理装置が大きくなりすぎるため非効率となり、一方100000Hr−1を超えると分解効率が低下する。また、その際の温度は、通常、100〜500℃であり、好ましくは50〜400℃、より好ましくは200℃を超え300℃以下である。
【実施例】
【0024】
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
<Ti−W複合酸化物の調製>
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(日本無機化学工業(株)製、WOとして50wt%含有)3.6kgと工業用アンモニア水(25wt%NH含有)140kgと水130リットルとの混合溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液(テイカ社製、TiOとして70g/リットル、HSOとして287g/リットル含有)260リットルを、攪拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた後、適量のアンモニア水を加えてpHを5に調整した。この共沈スラリーを約20時間静置し、次いで水で十分洗浄した後、ろ過し、100℃で1時間乾燥させた。さらに、空気雰囲気下、550℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、分級機で分級して平均粒子径20μmの粉体を得た。このようにして調製したTi−W複合酸化物の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物(TiO:WO(質量比))=91:9であった。得られた粉体のX線回折図を図1に示す。WOの明らかな固有ピークは認められず、2θ=25.3°にブロードな回折ピークが得られていることから、上記粉体はチタンとタングステンとの複合酸化物(Ti−W複合酸化物)であることが確認された。
<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>
8リットルの水にメタバナジン酸アンモニウム1.54kgとシュウ酸1.85kg、さらにモノエタノールアミン0.4kgを混合し、溶解させ、均一溶液を調製した。先に調製したTi−W複合酸化物粉体18.2kgと、硫酸亜鉛7水和物(ZnSO・7HO)1.1kgをニーダーに投入後、有機バインダー(合計1.5kg)などの成形助材とともにバナジウム含有溶液を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで十分混練りし、ハニカム状に押し出し成形した。得られた成形物を60℃で乾燥後、500℃で5時間焼成して目的の触媒(1)を得た。この触媒(1)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸亜鉛(TiO:WO:V:ZnSO(質量比))=83:8:6:3であった。
<活性評価試験>
触媒(1)の脱硝およびクロロフェノール(CP)分解性能を下記方法により評価した。
(脱硝反応条件)
供給ガス組成:NOx:300ppm、SO:200ppm、NH:300ppm、O:4%、HO:8%、N:バランス
ガス温度:220℃
空間速度:17000Hr−1
なお、脱硝率は下記の式に従って求めた。
脱硝率(%)={(反応器入口NOx濃度)−(反応器出口NOx濃度)}÷(反応器入口NOx濃度)×100
得られた脱硝率を表1に示す。
(クロロフェノール分解反応条件)
クロロフェノール:40ppm、SO:200ppm、O:4%、HO:8%、N:バランス
ガス温度:210℃
空間速度:6000Hr−1
なお、クロロフェノール分解率は下記の式に従って求めた。
クロロフェノール分解率(%)={(反応器入口クロロフェノール濃度)−(反応器出口クロロフェノール濃度)}÷(反応器入口クロロフェノール濃度)×100
得られたクロロフェノール分解率を表2に示す。
(実施例2)
実施例1において、硫酸亜鉛7水和物1.1kgの代わりに硫酸銅5水和物(CuSO・5HO)0.9kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒(2)を得た。この触媒(2)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸銅(TiO:WO:V:CuSO(質量比))=83:8:6:3であった。触媒(2)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例3)
実施例1において、硫酸亜鉛7水和物1.1kgの代わりに硫酸コバルト7水和物(CoSO・7HO)1.1kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒(3)を得た。この触媒(3)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸コバルト(TiO:WO:V:CoSO(質量比))=83:8:6:3であった。触媒(3)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例4)
実施例1において、硫酸亜鉛7水和物1.1kgの代わりに硫酸鉄7水和物(FeSO・7HO)1.1kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒(4)を得た。この触媒(4)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸鉄(TiO:WO:V:FeSO(質量比))=83:8:6:3であった。触媒(4)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例5)
実施例1において、硫酸亜鉛7水和物1.1kgの代わりに硫酸マンガン5水和物(MnSO・5HO)1.0kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒(5)を得た。この触媒(5)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸マンガン(TiO:WO:V:MnSO(質量比))=83:8:6:3であった。触媒(5)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例6)
<Ti−Si−Mo複合酸化物の調製>
パラモリブデン酸アンモニウム2.2kgと、シリカゾル(スノーテックス−30、日産化学社製、SiO換算30wt%含有)6.0kgと、工業用アンモニア水(25wt%NH含有)126kgと、水138リットルとの混合溶液に、硫酸チタニルの硫酸溶液234リットルを、攪拌しながら徐々に滴下し、沈殿を生成させた後、適量のアンモニア水を加えてpHを5に調整した。この共沈スラリーを約20時間静置し、水で十分洗浄した後、ろ過し、100℃で1時間乾燥させた。さらに、空気雰囲気下、550℃で5時間焼成し、さらにハンマーミルを用いて粉砕し、分級機で分級して平均粒子径20μmの粉体を得た。このようにして調製したTi−Si−Mo複合酸化物の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:モリブデン酸化物(TiO:SiO:MoO(質量比))=82:9:9であった。得られた粉体のX線回折分析を行った結果、SiOおよびMoOの明らかな固有ピークは認められず、2θ=25.3°にブロードな回折ピークが得られていることから、上記粉体はチタンとケイ素とモリブデンとの複合酸化物(Ti−Si−Mo複合酸化物)であることが確認された。
<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>
実施例1の<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>の工程において、Ti−W複合酸化物粉体18.2kgの代わりにTi−Si−Mo複合酸化物粉体18.2kgを使用したこと以外は実施例1と同様にして、触媒(6)を得た。この触媒(6)の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:モリブデン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸亜鉛(TiO:SiO:MoO:V:ZnSO(質量比))=76:7:8:6:3であった。触媒(6)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例7)
<Ti−Si−W複合酸化物の調製>
実施例6の<Ti−Si−Mo複合酸化物の調製>において、パラモリブデン酸アンモニウム2.2kgの代わりにメタタングステン酸アンモニウム水溶液(WOとして50wt%含有)3.6kgを使用したこと以外は同様にして、Ti−Si−W複合酸化物を得た。このように調製したTi−Si−W複合酸化物の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:タングステン酸化物(TiO:SiO:WO(質量比))=82:9:9であった。得られた粉体のX線回折分析を行った結果、SiOおよびWOの明らかな固有ピークは認められず、2θ=25.3°にブロードな回折ピークが得られていることから、上記粉体はチタンとケイ素とタングステンとの複合酸化物(Ti−Si−W複合酸化物)であることが確認された。
<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>
実施例1の<バナジウム酸化物および硫酸亜鉛の添加>の工程において、Ti−W複合酸化物粉体18.2kgの代わりにTi−Si−W複合酸化物粉体18.2kgを使用したこと以外は実施例1と同様にして、触媒(7)を得た。この触媒(7)の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸亜鉛(TiO:SiO:WO:V:ZnSO(質量比))=76:7:8:6:3であった。触媒(7)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例8)
<Ti−Si複合酸化物の調製>
実施例1の<Ti−W複合酸化物の調製>において、メタタングステン酸アンモニウム水溶液3.6kgの代わりに、シリカゾル(スノーテックス−30)6.0kgを使用したこと以外は実施例1と同様にして、Ti−Si複合酸化物を得た。このように調製したTi−Si複合酸化物の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物(TiO:SiO(質量比))=91:9であった。得られた粉体のX線回折分析を行った結果、SiOの明らかな固有ピークは認められず、2θ=25.3°にブロードな回折ピークが得られていることから、上記粉体はチタンとケイ素との複合酸化物(Ti−Si複合酸化物)であることが確認された。
<バナジウム酸化物、モリブデン酸化物および硫酸亜鉛の添加>
8リットルの水にメタバナジン酸アンモニウム1.54kg、パラモリブデン酸アンモニウム2.0kg、シュウ酸1.85kg、さらにモノエタノールアミン0.4kgを混合し、溶解させ、均一溶液を調製した。先に調製したTi−Si複合酸化物粉体16.6kgと、硫酸亜鉛7水和物(ZnSO・7HO)1.1kgをニーダーに投入後、有機バインダー(合計1.5kg)などの成形助材とともにバナジウム含有溶液を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで十分混練りし、ハニカム状に押し出し成形した。得られた成形物を60℃で乾燥後、500℃で5時間焼成して目的の触媒(8)を得た。この触媒(8)の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:モリブデン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸亜鉛(TiO:SiO:MoO:V:ZnSO(質量比))=76:7:8:6:3であった。触媒(8)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例9)
<Ti−Zr複合酸化物の調製>
実施例1の<Ti−W複合酸化物の調製>において、メタタングステン酸アンモニウム水溶液3.6kgの代わりに、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl・8HO)4.7kgを使用したこと以外は実施例1と同様にして、Ti−Zr複合酸化物を得た。このように調製したTi−Zr複合酸化物の組成は、チタン酸化物:ジルコニウム酸化物(TiO:ZrO(質量比))=91:9であった。得られた粉体のX線回折分析を行った結果、ZrOの明らかな固有ピークは認められず、2θ=25.3°にブロードな回折ピークが得られていることから、上記粉体はチタンとジルコニウムとの複合酸化物(Ti−Zr複合酸化物)であることが確認された。
<バナジウム酸化物、タングステン酸化物および硫酸亜鉛の添加>
実施例8の<バナジウム酸化物、モリブデン酸化物および硫酸亜鉛の添加>の工程において、パラモリブデン酸アンモニウム2.0kgの代わりにパラタングステン酸アンモニウム1.8kgを使用したこと以外は実施例1と同様にして、触媒(9)を得た。この触媒(9)の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸亜鉛(TiO:SiO:WO:V:ZnSO(質量比))=76:7:8:6:3であった。触媒(9)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(実施例10)
実施例8において、Ti−Si複合酸化物の代わりに市販の酸化チタン粉体(DT−51(商品名)、ミレニアム社製)を使用した以外は実施例8と同様にして、触媒(10)を得た。この触媒(10)の組成は、チタン酸化物:モリブデン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸亜鉛(TiO:MoO:V:ZnSO(質量比)=83:8:6:3であった。触媒(10)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(比較例1)
8リットルの水にメタバナジン酸アンモニウム1.54kgとシュウ酸1.85kg、さらにモノエタノールアミン0.4kgを混合し、溶解させ、均一溶液を調製した。実施例1で調製したTi−W複合酸化物粉体18.8kgをニーダーに投入後、有機バインダー(合計1.5kg)などの成形助材とともにバナジウム含有溶液を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで十分混練りし、ハニカム状に押し出し成形した。得られた成形物を60℃で乾燥後、500℃で5時間焼成して目的の触媒(11)を得た。この触媒(11)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物(TiO:SiO:V(質量比))=86:8:6であった。触媒(11)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(比較例2)
8リットルの水にメタバナジン酸アンモニウム1.54kg、パラタングステン酸アンモニウム1.8kg、シュウ酸1.85kg、さらにモノエタノールアミン0.4kgを混合し、溶解させ、均一溶液を調製した。実施例8で調製したTi−Si複合酸化物粉体17.2kgをニーダーに投入後、有機バインダー(合計1.5kg)などの成形助材とともにバナジウム含有溶液を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで十分混練りし、ハニカム状に押し出し成形した。得られた成形物を60℃で乾燥後、500℃で5時間焼成して目的の触媒(12)を得た。この触媒(12)の組成は、チタン酸化物:ケイ素酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物(TiO:SiO:WO:V(質量比))=78:8:8:6であった。触媒(12)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(比較例3)
実施例1において、硫酸亜鉛7水和物1.1kgの代わりに硫酸ナトリウム(NaSO)0.6kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒(13)を得た。この触媒(13)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸ナトリウム(TiO:WO:V:NaSO(質量比))=83:8:6:3であった。触媒(13)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(比較例4)
実施例1において、硫酸亜鉛7水和物1.1kgの代わりに硫酸スズ(Sn(SO)0.6kgを使用した以外は実施例1と同様にして、触媒(14)を得た。この触媒(14)の組成は、チタン酸化物:タングステン酸化物:バナジウム酸化物:硫酸スズ(TiO:WO:V:Sn(SO(質量比))=83:8:6:3であった。触媒(14)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
(比較例5)
8リットルの水に硫酸ニッケル6水和物(NiSO・6HO)3.4kgを溶解させ、均一溶液を調製した。市販の酸化チタン粉体(石原産業製、MC−50)16.6kgをニーダーに投入後、有機バインダー(合計1.5kg)などの成形助材とともに上記硫酸ニッケル水溶液を加え、よく攪拌した。さらに適量の水を加えつつブレンダーでよく混合した後、連続ニーダーで十分混練りし、ハニカム状に押し出し成形した。得られた成形物を60℃で乾燥後、500℃で5時間焼成して目的の触媒(15)を得た。この触媒(15)の組成は、チタン酸化物:硫酸ニッケル(TiO:NiSO(質量比))=90:10であった。触媒(15)の脱硝およびクロロフェノール分解性能を実施例1と同様に測定した。結果をそれぞれ表1および2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
上記表1、2において、ΔH(kJ/mol)とは、使用した各金属硫酸塩の298.15Kにおける標準生成エンタルピーである(化学便覧 基礎編 改訂4版(丸善株式会社発行)参照)。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1で得られたTi−W複合酸化物のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中の有害物質を分解除去するための触媒であって、バナジウム酸化物と、298.15Kにおける標準生成エンタルピー(△H(kJ/mol))が−1300以上−300以下である金属硫酸塩とを含有することを特徴とする排ガス処理用触媒。
【請求項2】
バナジウム酸化物と金属硫酸塩と、さらに、チタン系酸化物とを含有する請求項1記載の排ガス処理用触媒。
【請求項3】
チタン系酸化物が、チタンと、アルミニウム、ケイ素、クロム、ジルコニウム、モリブデンおよびタングステンから選ばれる少なくとも1種との複合酸化物である請求項2記載の排ガス処理用触媒。
【請求項4】
金属硫酸塩が銅、コバルト、鉄、亜鉛およびマンガンから選ばれる少なくとも1種の金属元素の硫酸塩である請求項1ないし3のいずれかに記載の排ガス処理用触媒。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかの排ガス処理用触媒を用いて有害物質を含有する排ガスを処理することを特徴とする排ガス処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−320803(P2006−320803A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144828(P2005−144828)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】