説明

排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置

【課題】使用初期並びに再生中および再生直後においても粒子状物質の捕集性能に優れた排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられ、排ガス中の粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルターであって、非窒化ケイ素質のメインフィルターと、窒化ケイ素質のサブフィルターとが直列に配置されており、窒化ケイ素質のサブフィルターは、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対して、排ガスの流れる方向に沿って下流側に配置されている排ガス浄化フィルターおよびこれを含む排ガス浄化装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置に関するものであり、特に使用初期並びに再生中および再生直後においても粒子状物質の捕集性能に優れた排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に備えられ、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM(Particulate Matter)、以下、本明細書においてPMと称することがある。)を捕集するための排ガス浄化フィルターとして、多孔性のセラミック材料を用いた排ガス浄化フィルターが広く用いられている。
【0003】
特に、ディーゼル車両の排ガス中に含まれる粒子状物質については、窒素酸化物(NOx)とともに、その排出規制が日米欧において段階的に強化されている。かかる規制に適合させるため、粒子状物質を捕集するためのディーゼルパーティキュレートフィルター(DPF(Diesel Particulate Filter)、以下、本明細書において、DPFと称することがある。)の開発が盛んに進められてきている。現在、DPFとしては、主に、ハニカム構造を有するウォールフロータイプのものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
DPFに用いられる多孔性のセラミック材料の中でも、炭化ケイ素は、耐熱性に優れ、高い熱伝導性を有する点で優れ、実用化が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−138875号公報(2007年6月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多孔性のセラミック材料として炭化ケイ素を用いる排ガス浄化フィルターでは、使用初期に、ある程度の割合の粒子状物質が捕集されずに排ガス浄化フィルターを通過するという問題がある。また、粒子状物質を捕集した排ガス浄化フィルターは、粒子状物質の堆積により閉塞してしまうので、加熱等により堆積物を酸化させて、再生を行うが、再生中および再生直後にも粒子状物質が捕集されずに通過するという問題があることがわかってきた。
【0007】
ディーゼル排ガスについては2009年に導入されたポスト新長期規制で、粒子状物質の濃度はさらに大幅に引き下げられて、使用初期並びに再生中および再生直後においても優れた捕集性能を有する排ガス浄化フィルターの開発が早急に望まれる。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用初期並びに再生中および再生直後においても粒子状物質の捕集性能に優れた排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る排ガス浄化フィルターは、上記課題を解決するために、内燃機関の排気通路に設けられ、排ガス中の粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルターであって、炭化ケイ素に代表される非窒化ケイ素質のメインフィルターと、窒化ケイ素質のサブフィルターとが直列に配置されており、窒化ケイ素質のサブフィルターは、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対して、排ガスの流れる方向に沿って下流側に配置されていることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、使用初期並びに再生中および再生直後においても粒子状物質の捕集性能が優れるという効果を奏する。
【0011】
本発明に係る排ガス浄化フィルターでは、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターは、炭化ケイ素、コージエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、または焼結金属を主成分とするフィルター、または、炭化ケイ素、コージエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、または焼結金属を主成分とする1種類以上のフィルターを複数個直列に配置したものであることが好ましい。
【0012】
上記構成により、再生時の燃焼状態をコントロールする条件設定を変更する必要がないというさらなる効果を奏する。
【0013】
本発明に係る排ガス浄化フィルターでは、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは、2つの端面間を連通する複数のセルを形成するように配置された多孔性のセル壁を備え、各セルはいずれかの端面において目封じされており、排気ガスをセル壁の細孔を通過させて隣接セルに流し、排気ガスに含まれる粒子状物質をセル壁で捕集するようになっているハニカム構造を有することが好ましい。
【0014】
上記構成により、圧力損失を低くできるというさらなる効果を奏する。
【0015】
本発明に係る排ガス浄化フィルターでは、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターの容積に対する、前記窒化ケイ素質のサブフィルターの容積の割合は5%以上80%以下であることが好ましい。
【0016】
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターの容積に対する、前記窒化ケイ素質のサブフィルターの容積の割合が5%以上であることにより、非窒化ケイ素質のメインフィルターで捕集されずに通過した粒子状物質を、窒化ケイ素質のサブフィルターでより好適に捕集することができる。また、前記割合が80%以下であることにより、サブフィルターの配置による使用中の圧力損失の上昇を好適に防ぐことができる。それゆえ、エンジンの出力及び燃費の低下を回避することができるというさらなる効果を奏する。
【0017】
本発明に係る排ガス浄化装置は、上記課題を解決するために、本発明に係る排ガス浄化フィルターと、排気通路におけるその上流側に設けられた酸化触媒とを含むことを特徴としている。
【0018】
上記構成により、PM中の可溶性有機成分、HC(炭化水素)およびCOを除去することができる。
【0019】
本発明に係る排ガス浄化装置では、さらに、排気通路において、必要に応じて前記排ガス浄化フィルターの下流側にNOx還元システムを配置することができる。
【0020】
上記構成により、PM中のNOxを除去することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る排ガス浄化フィルターは、以上のように、非窒化ケイ素質のメインフィルターと、窒化ケイ素質のサブフィルターとが直列に配置されており、窒化ケイ素質のサブフィルターは、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対して、排ガスの流れる方向に沿って下流側に配置されている構成を備えているので、使用初期に加え再生中および再生直後においても粒子状物質の捕集性能が優れるという効果を奏する。
【0022】
本発明に係る排ガス浄化装置は、以上のように、本発明に係る排ガス浄化フィルターと、排気通路におけるその上流側に設けられた酸化触媒とを含む構成を備えているので、使用初期に加え再生中および再生直後においても粒子状物質の捕集性能が優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る排ガス浄化フィルターの一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る排ガス浄化フィルターの一例を示す概略図である。
【図3】炭化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルターおよび窒化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルターにおいて、使用初期の、排ガス浄化フィルター出口におけるスモーク濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図4】炭化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルターおよび窒化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルターにおける、排ガス浄化フィルターによる圧力損失を測定した結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造の一例を示す模式図であり、(a)は本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造の一例を示す斜視図であり、(b)は本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造の一例の断面を模式的に示す図である。
【図6】ハニカム構造のセルにPMのケーキ層が形成される様子を模式的に示す図である。
【図7】窒化ケイ素と炭化ケイ素のSEM像を示す図であり、(a)は窒化ケイ素のSEM像を示す図であり、(b)は炭化ケイ素のSEM像を示す図である。
【図8】SiN(1)、SiN(2)およびSiN(3)ならびに炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターにおける、気孔率と全細孔表面積との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0025】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターを用いる場合と比べて、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターを用いた場合、使用初期の、排ガス浄化フィルター出口におけるスモーク濃度が顕著に低減されることを見出した。
【0026】
図3は、炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターおよび窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターにおいて、使用初期の、排ガス浄化フィルター出口におけるスモーク濃度を測定した結果を示すグラフである。なお、このスモーク濃度の測定および後述する圧力損失の測定に用いた排ガス浄化フィルターと測定方法については後述する参考例に示す。図3に示されるように、炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターを用いた場合には、スモーク濃度が最大で18.5%となっており、排ガス浄化フィルターを用いなかった場合のスモーク濃度が20%であることから、大部分の粒子状物質が通過する時期があることが判る。これに対して、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターを用いた場合(図中、SiN(1)、SiN(2)およびSiN(3)と表示)は、スモーク濃度の最大値が、それぞれ4.5%、7.2%および4.1%であり顕著に漏れが低減されている。
【0027】
また、再生中および再生直後においても、炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターでは一部の粒子状物質が通過するのに対し、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターではかかる粒子状物質の漏れが殆ど無いことが確認された。
【0028】
粒子状物質の通過は、炭化ケイ素の細孔径を小さくすることによっても防止できると考えられるが、細孔径を小さくすれば排ガス浄化フィルターによる圧力損失が大きくなり、内燃機関の燃費が悪化する。図4は、図3で用いた炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターおよび窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターを用いた場合の圧力損失を示すグラフである。図4に示すように、炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターに対して、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターの圧力損失は80〜100%である。したがって、粒子状物質の通過を防ぐために、炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターの細孔径をより小さくすると、圧力損失が大きくなってしまうことが判る。
【0029】
同等以下の圧力損失で、使用初期並びに再生中および再生直後に、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターでは粒子状物質の漏れが顕著に低減される理由としては、図7の(a)に示されるように窒化ケイ素に特有の六方晶系の柱状結晶が成長することによるものであると考えられる。なお、図7中、(a)は窒化ケイ素のSEM像を示す図であり、(b)は炭化ケイ素のSEM像を示す図である。
【0030】
さらに、窒化ケイ素は、炭化ケイ素と比べて熱容量が小さい。そのため、より少ない熱量での加熱により、粒子状物質の堆積物を酸化させて、再生を行うことが可能であるという利点もある。
【0031】
このことから、窒化ケイ素は、従来の炭化ケイ素に代わることができる有望な排ガス浄化フィルターの材料であるといえる。
【0032】
しかしながら、窒化ケイ素は炭化ケイ素と、熱容量および熱伝導率等の熱特性が大きく異なる。かかる熱容量および熱伝導率等の熱特性の差は、DPFの燃焼性能、つまり再生性能に大きく影響する。DPFでは、再生時の燃焼状態はディーゼルエンジンの制御によりコントロールされているが、この再生時の燃焼状態をコントロールする条件設定が非常に重要である。このため従来から用いられている材料に対して一度設定された条件を、材料を代えるために変更するには、相応の手間がかかることとなり、材料を変更する上での障害となっている。
【0033】
そこで、本発明者らは、再生時の燃焼状態をコントロールする条件設定を変更せずに、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターの優れたPM捕集性能を利用することができないかと考えた。その結果、従来の燃焼状態の条件設定を変更する必要がない排ガス浄化フィルターを用いつつ、窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターにより従来の排ガス浄化フィルターの問題点を解決することに思い至った。すなわち、従来用いられている炭化ケイ素を主成分とするフィルターと、窒化ケイ素を主成分とするフィルターとを組み合わせ、窒化ケイ素を主成分とするフィルターが、排ガスの流れる方向に沿って、炭化ケイ素を主成分とするフィルターの下流側になるように直列に配置することで、窒化ケイ素を主成分とするフィルターによって、炭化ケイ素を主成分とするフィルターで捕集されなかったPMを捕集し、使用初期および再生時にPMが漏れることがないとともに再生時の燃焼状態をコントロールする条件設定を変更する必要もない排ガス浄化フィルターを提供することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0034】
また、窒化ケイ素を主成分として含むフィルター、すなわち、窒化ケイ素質のフィルターは、使用初期に加え再生中および再生直後における粒子状物質の捕集性能が顕著に優れることから、上流側に配置されるフィルターが、炭化ケイ素質以外の、非窒化ケイ素質である場合にも同様の効果が得られると考えられる。
【0035】
すなわち、本発明に係る排ガス浄化フィルターは、内燃機関の排気通路に設けられ、非窒化ケイ素質のメインフィルターと、窒化ケイ素質のサブフィルターとが直列に配置されており、窒化ケイ素質のサブフィルターは、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対して、排ガスの流れる方向に沿って下流側に配置されているものである。
【0036】
以下本発明について、(I)排ガス浄化フィルター、(II)排ガス浄化装置の順に説明する。
【0037】
(I)排ガス浄化フィルター
本発明に係る排ガス浄化フィルターは、内燃機関の排気通路に設けられ、排ガス中の粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルターとして用いられるものである。ここで、粒子状物質とは、PM(Particulate Matter)とも称され、内燃機関の排気ガスに含まれる粒子をいう。
【0038】
図1に、本発明に係る排ガス浄化フィルター1を模式的に示す。本発明に係る排ガス浄化フィルター1は、非窒化ケイ素質のメインフィルター2と、窒化ケイ素質のサブフィルター3とが直列に配置されており、窒化ケイ素質のサブフィルターは、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対して、排ガスの流れる方向に沿って下流側に配置されている。
【0039】
排ガスは、排ガス浄化フィルター1に、図1において矢印で示す方向から流入し、非窒化ケイ素質のメインフィルター2を通過する。排ガスがメインフィルター2を通過するとき、メインフィルター2により排ガス中のPMが捕集される。しかし、上述したように、排ガス浄化フィルター1の使用初期並びに再生中および再生直後には一部のPMがメインフィルター2を通過する。メインフィルター2を通過した排ガスは、続いて窒化ケイ素質のサブフィルター3を通過する。このとき、メインフィルター2を通過したPMは、サブフィルター3により捕集される。
【0040】
<窒化ケイ素質のサブフィルター>
ここで、窒化ケイ素質のサブフィルターとは、窒化ケイ素を主成分とするサブフィルターをいう。また、窒化ケイ素のケイ素と窒素の一部をそれぞれアルミニウムと酸素で置換したサイアロンも窒化ケイ素質に含まれる。
【0041】
なお、本明細書において、「主成分とする」とは、50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含むことを意味する。
【0042】
本発明で用いられる窒化ケイ素質のサブフィルターは、窒化ケイ素を主成分とするフィルターであればよいが、気孔率が50〜70%であることが好ましく、55〜65%であることがより好ましい。気孔率が50%以上であることにより圧力損失が大きくなりすぎないためフィルターとして好適である。また、気孔率が70%以下であることにより十分な強度を維持できるため好ましい。なお、本明細書において、気孔率とはアルキメデス法によって測定された数値である。
【0043】
また、本発明で用いられる窒化ケイ素質のサブフィルターの全細孔表面積は、0.2〜0.8m/gであることが好ましく、0.3〜0.7m/gであることがより好ましい。なお、本明細書において、全細孔表面積とは水銀圧入法によるポロシメーターで測定された値をいう。
【0044】
なお、図8に、図3、4に示す測定の対象であるSiN(1)、SiN(2)およびSiN(3)ならびに炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターにおける、気孔率と全細孔表面積との関係を示す。図8に示されるように、気孔率と全細孔表面積には相関があり、適正な気孔率にフィルターを制御することで、本用途に適した全細孔表面積を得ることができる。
【0045】
<非窒化ケイ素質のメインフィルター>
本発明で用いられる非窒化ケイ素質のメインフィルターは、非窒化ケイ素質の材料を主成分とするフィルターであれば特に限定されるものではない。ここで、非窒化ケイ素質の材料とは、窒化ケイ素質以外の多孔性材料であればよいが、多孔性のセラミック材料であることが好ましく、窒化ケイ素質以外の現行のDPF用材料であることがより好ましい。
【0046】
より具体的には、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターは、炭化ケイ素、コージエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、または焼結金属を主成分とするフィルターであることがさらに好ましい。前記非窒化ケイ素質のメインフィルターが上記材料である場合、現行のDPF用材料であることから、DPFとして用いる場合、再生時の燃焼状態をコントロールする条件設定を変更する必要がないため好ましい。
【0047】
また、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターは、単一のフィルターに限定されるものではなく、炭化ケイ素、コージエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、または焼結金属を主成分とする1種類以上のフィルターを複数個直列に配置したものであってもよい。
【0048】
本発明で用いられる非窒化ケイ素質のメインフィルターの最適仕様は、選ばれた材質によって大きく異なるが、ここでは個々の材質が持つ適正値を変えることなく使用することが出来る。
【0049】
<ハニカム構造>
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは、ハニカム構造を有するウォールフロータイプのフィルターであることが好ましい。
【0050】
図5に、本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造の一例を示す。(a)は本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造の一例を示す斜視図であり、(b)は本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造の一例の断面を模式的に示す図である。
【0051】
図5に示すように、本発明に係る排ガス浄化フィルターで用いられるハニカム構造は、2つの端面間を連通する複数のセル11を形成するように配置された多孔性のセル壁12を備え、各セルはいずれかの端面において目封じされており、排気ガスをセル壁12の細孔を通過させて隣接セル11に流し、排気ガスに含まれる粒子状物質をセル壁12で捕集するようになっている。
【0052】
より具体的には、セル11は、断面の形状が略正方形であり、ハニカム構造の軸方向、すなわち排ガスが流れる方向に沿って規則的に形成されている。そして、セル11は、多孔性の材料からなるセル壁12によって仕切られることによって形成されている。各セルは、上流側の端面または下流側の端面のいずれかの端面において目封じされており、隣り合うセル同士は異なる端面で目封じされている。すなわち、各端面において、目封じされているセルは、図5の(a)に示すように市松模様を形成する。
【0053】
上記ハニカム構造では、排ガスは上流側の端面において目封じされていないセル11から流入し、多孔性のセル壁12の細孔を通過して、隣接セル11から流出する。このとき、排気ガスに含まれる粒子状物質がセル壁12で捕集される。
【0054】
本発明で用いられるハニカム構造のフィルターにおいて、フィルターの軸方向、すなわちハニカム構造の軸方向に垂直な断面の断面形状は特に限定されるものではなく、図5に示す円形に限らず、楕円形、正方形、長方形、多角形であってもかまわない。ハニカム構造の断面の大きさはエンジンの排気量によってその最適値が決定される。
【0055】
また、本発明で用いられるハニカム構造において、セル11の断面形状は、略正方形であることが好ましいが、必ずしもこれに限定されるものではなく、他の形状であってもよい。また、セル壁厚も特に限定されるものではないが、例えば、0.2〜0.4mmである。また、単位面積中のセル数も特に限定されるものではないが、例えば、200〜300cpsiである。
【0056】
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは、ともに上述したハニカム構造を有することが好ましいが、ハニカム構造の構成は必ずしもこれに限定されるものではなく、セルの断面形状、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面形状、セル壁の厚さ、単位面積中のセル数、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面積、フィルターの軸方向の長さ等は、フィルターの用途、設置場所等に応じて適宜選択すればよい。
【0057】
なお、従来の排ガス浄化フィルターにおいて、使用初期、再生中または再生直後に、PMが通過してしまうのは以下の理由によるものであると考えられる。
【0058】
すなわち、排ガス浄化フィルターに用いられる一般的なハニカム構造では、図6に示すように、多孔性のセル壁の表面および細孔に、PMが徐々に堆積してケーキ層を形成する。このとき、図6の左図に示すように、排ガス浄化フィルターの使用初期には、PMは多孔性のセル壁の表面および細孔に捕捉され始めるが、この段階では、PMの捕集効率は悪く、PMは一部フィルターを通過すると考えられる。
【0059】
PMがセル壁の表面および細孔に捕捉され、セル壁の表面および細孔への堆積がさらに進むと、図6の右図に示すように、セル壁の表面にPMが堆積してなるケーキ層を形成する。かかるケーキ層の層厚が増大するにつれて、排ガス浄化フィルターの圧力損失は上昇し、PMの捕集効率は高くなる。
【0060】
上記のような理由から、ケーキ層が形成される前の使用初期には、PMは一部フィルターを通過すると考えられる。
【0061】
また、ケーキ層の層厚がさらに増大すると、排ガスの流路であるセルが閉塞してしまうので、セルが閉塞する前に、加熱等により堆積物を酸化させて、排ガス浄化フィルターを再生する。再生中および再生直後は、ケーキ層が除去されつつあるかまたは除去されているため、排ガス浄化フィルターの使用初期と同様にPMの捕集効率は悪く、PMは一部フィルターを通過する。
【0062】
上記のような理由から、再生中または再生直後のケーキ層が形成される前には、PMは一部フィルターを通過すると考えられる。
【0063】
これに対して、窒化ケイ素質のサブフィルターでは、窒化ケイ素質のセル壁によるPMの捕集性能が優れるために、使用初期並びに再生中および再生直後におけるPMの通過が顕著に少ないと考えられる。
【0064】
<排ガス浄化フィルターの構成>
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは、ハニカム構造を有するウォールフロータイプのフィルターであることが好ましいが、メインフィルターのハニカム構造と、サブフィルターのハニカム構造とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0065】
すなわち、メインフィルターのハニカム構造と、サブフィルターのハニカム構造において、セルの断面形状、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面形状、セル壁の厚さ、単位面積中のセル数、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面積、フィルターの軸方向の長さ等は、同じであっても異なっていてもよい。
【0066】
本発明に係る排ガス浄化フィルターは、図1に示すように、内燃機関の排気通路に、非窒化ケイ素質のメインフィルター2と、窒化ケイ素質のサブフィルター3とが直列に配置されていれば、メインフィルター2とサブフィルター3との間、すなわち、メインフィルター2の下流側の端面と、サブフィルター3の上流側の端面との間の間隔は特に限定されるものではない。
【0067】
また、図2に非窒化ケイ素質のメインフィルター2が1種類以上のフィルターを複数個直列に配置したものである場合の一例を示す。かかる場合もメインフィルター2を構成する複数のフィルター相互間の間隔、およびメインフィルター2を構成する最も下流のフィルターとサブフィルター3の間の間隔は特に限定されるものではない。
【0068】
本発明に係る排ガス浄化フィルターでは、非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは直列に配置されていればよいが、非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは、例えば、図1、2に示すように、これらを覆うケーシング内に、配置されている。
【0069】
本発明に係る排ガス浄化フィルターにおいて、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターと前記窒化ケイ素質のサブフィルターとの容積比は、サブフィルター3により、メインフィルター2で捕集されずに通過したPMを捕集することができれば特に限定されるものではない。
【0070】
したがって、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターの容積に対する、前記窒化ケイ素質のサブフィルターの容積の割合は、5%以上であることが好ましい。また、当該割合の上限も特に限定されるものではないが、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対してサブフィルターは補助的に用いるものであり、100%以下であってもよく、また使用初期段階における圧力損失の上昇を防ぐ観点からは80%以下であることが好ましい。
【0071】
例えば、開発過程での実験データによれば、メインフィルターの代表例である炭化ケイ素の場合、使用初期の段階で20mg/mのPM漏れが確認されており、これはDPF前で測定されるPM濃度(40mg/m)の50%である。この初期漏れが最長10分継続されると仮定し、またメインフィルターのPM堆積を除去する再生までの時間を最短で100分と仮定すると、サブフィルターはメインフィルターの5%の容積があれば、その堆積容量が十分である。他方、使用初期の段階での窒化ケイ素製フィルターの圧力損失は概ね炭化ケイ素の80%であり、初期段階でのサブフィルターによる圧力損失の上昇を極力避けるためには、サブフィルターはメインフィルターの80%以下の容量であることが好ましい。メインフィルターとサブフィルターの圧損差は使用中に拡大していくため、80%は使用初期段階の圧損差を回避するための容量である。
【0072】
また、前記非窒化ケイ素質のメインフィルターの容積に対する、前記窒化ケイ素質のサブフィルターの容積の割合は、例えば、20〜25%程度であってもよい。
【0073】
なお、ここで、メインフィルターおよびサブフィルターの容積とは、多孔性のフィルター材料の細孔部分を含めた容積をいう。フィルターがハニカム構造を有するときは、フィルターの容積は、セル壁の合計容積をいう。セル壁の合計容積は、ハニカム構造を有するフィルター全体の容積からセルの容積を引いて得られる値をいう。ハニカム構造を有するフィルター全体の容積は、フィルターの軸方向に垂直な断面の断面積とフィルターの軸方向の長さとの積として算出される。また、セルの容積は、ハニカム構造を有するフィルターに含まれる全てのセルの断面積の合計とフィルターの軸方向の長さとの積として算出される。
【0074】
前記割合が5%以上であることにより、メインフィルター2で捕集されずに通過したPMを好適に捕集することができる。また、前記割合が80%以下であることにより、サブフィルターを取り付けることによる使用初期の圧力損失の上昇を防ぐことができる。
【0075】
本発明にかかる排ガス浄化フィルターは内燃機関、特にディーゼルエンジンに好適に用いることができる。しかしながら、本発明にかかる排ガス浄化フィルターの用途は、必ずしもこれに限定されるものではなく、工場の煤煙等、その他の気体中の粒子状物質にも適用することができる。
【0076】
(II)排ガス浄化装置
本発明に係る排ガス浄化フィルターは、内燃機関の排気通路に設けられ、上記構成により、使用初期並びに再生中および再生直後においても優れた粒子状物質の捕集性能を有する。したがって、かかる排ガス浄化フィルターを含む排ガス浄化装置も本発明に含まれる。
【0077】
本発明に係る排ガス浄化装置は、本発明に係る排ガス浄化フィルターと、排気通路におけるその上流側に設けられた酸化触媒とを含んでいる。かかる酸化触媒は、PM中の可溶性有機成分、HC(炭化水素)およびCOを除去するために設けられる。かかる酸化触媒としては、特に限定されるものではないが、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)として用いられている酸化触媒であればどのようなものであってもよい。
【0078】
また、本発明に係る排ガス浄化装置は、必要に応じて、排気通路において、本発明に係る排ガス浄化フィルターの下流側に設けられたNOx還元システムを含んでいてもよい。NOx還元システムは、排ガス中のNOxを還元するシステムであれば特に限定されるものではなく、例えば、ディーゼルエンジンのNOx還元システムとして用いられているNOx選択還元システム(SCR(Selective Catalytic Reduction for NO))、NOx吸蔵システム(NSR(NOStorage Reduction))等であればどのようなものであってもよい。
【0079】
〔参考例〕
炭化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターおよび窒化ケイ素を主成分とする排ガス浄化フィルターについて、使用初期の排ガス浄化フィルター出口におけるスモーク濃度の測定および圧力損失の測定を行った。
【0080】
〔窒化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルター〕
窒化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルターとして円筒形のハニカム構造を有する排ガス浄化フィルターであるSiN(1)、SiN(2)およびSiN(3)を用いた。ハニカム構造の断面の直径は140mm、長さは150mm、セル数は250cpsi、セル壁厚は0.3mmであった。
【0081】
SiN(1)、SiN(2)およびSiN(3)の気孔率、全細孔表面積を下表1に示す。
【表1】

【0082】
〔炭化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルター〕
炭化ケイ素を主成分として用いた排ガス浄化フィルターとしては、標準的な炭化ケイ素ハニカムフィルターを用いた。
【0083】
炭化ケイ素ハニカムフィルターは、断面の直径が140mm、長さ150mmの円筒形のハニカム構造であった。ハニカム構造のセル数は300cpsi、セル壁厚は0.3mmであった。
【0084】
ハニカム構造の気孔率は48%、全細孔表面積は0.06m/gであった。
【0085】
〔使用初期の、排ガス浄化フィルター出口におけるスモーク濃度の測定〕
得られた排ガス浄化フィルターを、ベンチ試験に供した。運転条件は、1680rpm、100%負荷であった。
【0086】
排気通路の出口より3分ごとに排気ガスを採取し、排気ガス中に含まれる粒子状物質を、オパシメータを用いて測定した。
【0087】
結果を図3に示す。図3中、縦軸はスモーク濃度(図中「Smoke Density」と表示。単位:%)を、横軸は時間(図中、「Time」と表示。単位:秒)を示す。
【0088】
〔圧力損失の測定〕
また、得られた排ガス浄化フィルターによる圧力損失を測定した。圧力損失は、排ガス浄化フィルター前後の圧力を実測し、その圧力差(差圧)から算出した。
【0089】
結果を図4に示す。図4中、縦軸は圧力損失(図中「Pressure Loss」と表示。単位:kPa)を、横軸は時間(図中、「Time」と表示。単位:秒)を示す。
【0090】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置を用いれば、乗用車、バス、トラック等の車両や、建設機械等の内燃機関から排出されるPMを、使用初期並びに再生中および再生直後においても高い捕集性能で捕集することができる。
【0092】
それゆえ、本発明は、排ガス浄化フィルターおよび排ガス浄化装置を製造する産業分野のみならず、乗用車、バス、トラック等の車両の製造分野や、建設機械等の製造分野においても、利用することができ、しかも非常に有用である。
【符号の説明】
【0093】
1 排ガス浄化フィルター
2 メインフィルター
3 サブフィルター
10 ハニカム構造を有するフィルター
11 セル
12 セル壁
13 目封じ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、排ガス中の粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルターであって、
非窒化ケイ素質のメインフィルターと、窒化ケイ素質のサブフィルターとが直列に配置されており、
窒化ケイ素質のサブフィルターは、非窒化ケイ素質のメインフィルターに対して、排ガスの流れる方向に沿って下流側に配置されていることを特徴とする排ガス浄化フィルター。
【請求項2】
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターは、炭化ケイ素、コージエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、または焼結金属を主成分とするフィルター、または、炭化ケイ素、コージエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、または焼結金属を主成分とする1種類以上のフィルターを複数個直列に配置したものであることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化フィルター。
【請求項3】
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターおよび窒化ケイ素質のサブフィルターは、2つの端面間を連通する複数のセルを形成するように配置された多孔性のセル壁を備え、各セルはいずれかの端面において目封じされており、排気ガスをセル壁の細孔を通過させて隣接セルに流し、排気ガスに含まれる粒子状物質をセル壁で捕集するようになっているハニカム構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス浄化フィルター。
【請求項4】
前記非窒化ケイ素質のメインフィルターの容積に対する、前記窒化ケイ素質のサブフィルターの容積の割合は5%以上80%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルターと、排気通路におけるその上流側に設けられた酸化触媒とを含むことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項6】
さらに、排気通路において、前記排ガス浄化フィルターの下流側に設けられたNOx還元システムを含むことを特徴とする請求項5に記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−214428(P2011−214428A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80587(P2010−80587)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】