排ガス浄化用触媒及びその製造方法
【課題】 窒素酸化物を十分に還元する能力を持つ排ガス浄化用触媒を提供すること。
【解決手段】 金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【解決手段】 金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒、排ガス浄化用触媒の製造方法、並びにその排ガス浄化用触媒を用いた排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の排ガスに含まれる有害な窒素酸化物を浄化するためには、窒素酸化物吸蔵還元型触媒が利用されてきた。このような窒素酸化物吸蔵還元型触媒としては、Pt,Pd等の触媒活性を有する貴金属粒子と、主にバリウム等のアルカリ土類金属もしくはアルカリ金属とを、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスのペレット状もしくはハニカム状成型体やセラミックスをコーティングした金属ハニカムといった多孔質担体上に担持せしめたものが知られている。
【0003】
しかしながら、このような窒素酸化物吸蔵還元型触媒においては、触媒に吸蔵した窒素酸化物を十分に還元できないという問題が生じていた。
【0004】
上記のような問題を解決するために、例えば、特開平11−156193号公報(特許文献1)には、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であり、前記金属粒子が、平均粒子径が30nm以下の第一の金属粒子上に第一の金属粒子とは異なる1種以上の金属からなる第二の金属層を被覆率45%以上となるように積層していることを特徴とした触媒が記載されている。
【0005】
また、特開2002−1119号公報(特許文献2)や特開2004−267961号公報(特許文献3)には、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であり、前記金属粒子がバイメタリックコロイドを用いて担持されたものであることを特徴とした触媒が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のような触媒であっても、触媒に吸蔵した窒素酸化物を必ずしも十分に還元する能力を有するものではなく、未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−156193号公報
【特許文献2】特開2002−1119号公報
【特許文献3】特開2004−267961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、自動車等の排ガスに含まれる窒素酸化物を十分に還元する能力を持つ排ガス浄化用触媒、及びその製造方法、並びにそれを用いた排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物に担持された金属粒子は窒素酸化物の酸化を促進する第一の金属と窒素酸化物の分解を促進する第二の金属に分類できることを見出すとともに、これらの金属を金属酸化物からなる担体に担持せしめる際に、第一の金属と第二の金属が均一に固溶された構造を有する金属粒子として配置せしめることによって、窒素酸化物を十分に還元する触媒活性を発揮することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とするものである。
【0011】
上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記第一の金属がPtであり、且つ、前記第二の金属がPdであることが特に好ましい。
【0012】
また、上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属が前記担体に更に担持されていることがより好ましい。
【0013】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、
Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属とのうちいずれか一方の金属からなる粒子を金属酸化物からなる担体に担持せしめる工程と、
前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程と、
前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
上記本発明の製造方法によれば、前記固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、前記固溶体からなる金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする排ガス浄化用触媒を得ることが可能となる。
【0015】
また、上記本発明の製造方法においては、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属を担持せしめる工程が更に含まれることがより好ましい。
【0016】
本発明の排ガス浄化方法は、酸素過剰雰囲気下において、前記本発明の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触せしめて前記排ガス中の窒素酸化物を浄化することを特徴とする方法である。
【0017】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒においては前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることが必要であるが、かかる標準偏差は、触媒上の金属粒子の一次粒子から測定対象とする一次粒子を任意に15個抽出し、TEM−EDX分析によってそれらの一次粒子における金属組成比を測定し、得られた金属組成比の分布の標準偏差を算出することによって得られたものである。
【0018】
ここで測定点(測定対象とする一次粒子の数)を15個とした理由は、観察視野を変えて、且つ、測定点を15個より増やして金属組成比の標準偏差を算出した場合であっても、得られた標準偏差と測定点を15個として得られた標準偏差との間に有意な差が無かったため、測定点を15個として得られた標準偏差であれば十分に再現性が得られると判断したためである。
【0019】
また、本発明において採用するTEM−EDX分析においては、測定装置として、従来公知の透過型電子顕微鏡(TEM)に、従来公知のエネルギー分散型X線分光器(EDX分析装置)を装備したTEM−EDX装置を用いることができる。
【0020】
このようなTEM−EDX分析においては、先ず、TEM−EDX装置を用いて、前記排ガス浄化用触媒上の測定対象とする金属粒子に対して、ビーム径が1〜2nmの測定点内のエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルから、第一の金属元素に由来するピークの面積と、第二の金属元素に由来するピークの面積とを求め、第一の金属元素に由来するピーク面積と第二の金属元素のピーク面積との和に対する第一の金属元素のピークの面積の比(ピーク面積比(%))を求める。このようにして得られたピーク面積比が、測定対象とした金属粒子における一次粒子の金属組成比に相当する。
【0021】
なお、このようなピーク面積比は、下記式:
[ピーク面積比(%)]={[第一の金属元素のピーク面積]/([第一の金属元素のピーク面積]+[第二の金属元素のピーク面積])}×100
に基づいて計算することにより算出できる。また、ここに言う「ピーク」とは、前記スペクトルのベースラインからピークトップまでの高さの強度差が1cts以上のものを言う。また、このようなピークとしては、例えば、金属元素がPtである場合にはエネルギーが2.048keVの位置(PtMα線)に現れ、金属元素がPdである場合には2.838keVの位置(PdLα線)に現れる。
【0022】
次に、このようにして得られたピーク面積比の分布の標準偏差を求める。すなわち、任意の15点以上の測定点においてTEM−EDX分析を行って、各測定点における上記ピーク面積比を求め、得られたピーク面積比に基づいて、ピーク面積比の分布の標準偏差(%)を算出することにより求めることができる。
【0023】
本発明の排ガス浄化用触媒においては、このようなピーク面積比の分布の標準偏差(金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差)が10%以下である。このような標準偏差が10%を超えている排ガス浄化用触媒においては、第一の金属と第二の金属が十分に均一に固溶したものとはなっておらず、吸蔵した窒素酸化物の還元能力が十分なものとはならない。
【0024】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であることが必要であるが、かかる平均一次粒子径は従来公知のCO化学吸着法により求めることができる。このような金属粒子の平均一次粒子径が1.5nmを超えている排ガス浄化用触媒においては、窒素酸化物の吸蔵や還元が十分に促進されなくなる。
【0025】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒によって、十分に優れた窒素酸化物の還元性能が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒においては、窒素酸化物の酸化を促進する第一の金属と窒素酸化物の分解を促進する第二の金属とが、小さい一次粒子からなる金属粒子内で均一に固溶しているため、窒素酸化物の酸化と還元を同一の金属粒子上で効率良く且つ確実に進行せしめることが可能となり、結果として十分に高い窒素酸化物浄化活性が得られると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、自動車等の排ガスに含まれる窒素酸化物を十分に還元する能力を持つ排ガス浄化用触媒、及びその製造方法、並びにそれを用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図7】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の金属粒子の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルを示すグラフである。
【図8】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の金属粒子の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルを示すグラフである。
【図9】300℃の温度条件下における実施例1及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の窒素酸化物浄化率を示すグラフである。
【図10】350℃の温度条件下における実施例1〜5及び比較例2で得られた排ガス浄化用触媒の窒素酸化物浄化率を示すグラフである。
【図11】実施例1〜5及び比較例3で得られた排ガス浄化用触媒における金属粒子の平均一次粒子径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0029】
先ず、本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする。
【0030】
本発明において用いる第一の金属は、窒素酸化物の酸化を促進する金属であって、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種であり、中でも、得られる触媒における窒素酸化物の酸化促進能力がより向上する傾向にあるという観点から、Ptであることがより好ましい。なお、このような第一の金属は、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
また、本発明において用いる第二の金属は、窒素酸化物の還元を促進する金属であって、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種であり、中でも、得られる触媒における窒素酸化物の還元促進能力がより向上する傾向にあるという観点から、Pdであることがより好ましい。なお、このような第二の金属は、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明の触媒においては、前記第一の金属と前記第二の金属とが、それらの固溶体からなる金属粒子として担体に担持されている必要がある。このような金属粒子の構造である固溶体とは、複数の元素(前記第一の金属と前記第二の金属)が互いに溶け合って固相をなしているものをいう。このような固溶体を構成する前記第一の金属と前記第二の金属との組成比としては、特に制限されないが、前記第一の金属と前記第二の金属との合計原子数に対して前記第二の金属の原子の割合が10〜90原子%であることが好ましい。前記第二の金属の濃度が前記下限未満では、得られる触媒による窒素酸化物の還元が十分に促進されなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる触媒による窒素酸化物の酸化が十分に促進されなくなる傾向にある。
【0033】
さらに、本発明の触媒においては前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であることが必要であり、0.3〜1.3nmであることがより好ましい。前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nmを超えると、得られる触媒による窒素酸化物の吸蔵もしくは還元が十分に促進されなくなる。
【0034】
さらに、本発明の触媒においては前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることが必要であり、8%以下であることがより好ましい。前記金属組成比の標準偏差が10%を超えると、得られる触媒による窒素酸化物の酸化もしくは還元が十分に促進されなくなる。
【0035】
本発明の排ガス浄化用触媒は、前述の金属粒子が金属酸化物からなる担体に担持されてなるものである。本発明の排ガス浄化用触媒において、担体に担持される金属粒子の量は特に制限されないが、前記担体100質量部に対して金属粒子の量が0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましい。前記金属粒子の担持量が前記下限未満では、前記金属粒子により得られる触媒活性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コストが高騰すると共に前記金属粒子の粒成長が起こりやすくなる傾向にある。
【0036】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属が前記担体に更に担持されていることが好ましい。このような第三の金属は高い塩基性を有しているため、その酸化物を形成させた際に十分に高い窒素酸化物吸蔵能が発揮されるようになるという観点から前記第三の金属を用いることが好ましく、中でもBaを用いることがより好ましい。なお、このような第三の金属は、一種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本発明の排ガス浄化用触媒において、担体に担持される第三の金属の量は特に制限されないが、担体の容積に対して0.05mol/L以上であることが好ましく、0.1mol/L〜2.0mol/Lであることがより好ましい。第三の金属の担持量が前記下限未満では、得られる触媒による窒素酸化物吸蔵量が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記金属粒子の触媒活性が低下する傾向にある。
【0038】
本発明において採用する金属酸化物からなる担体としては特に制限されず、アルミナ、ジルコニア、チタニア等が好ましい。さらに、本発明にかかる担体の形状としては特に制限されないが、比表面積が向上し、より高い触媒活性が得られることから、粉体状であることが好ましい。このような担体が粉体状のものである場合においては、前記担体の粒度(二次粒子径)は特に制限されず、1〜100μmであることが好ましい。担体の粒子径が前記下限未満では、担体の微細化にコストがかかると共に、その扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、後述するような基材に本発明の排ガス浄化用触媒のコート層を安定に形成させることが困難となる傾向にある。
【0039】
また、このような担体の比表面積は、20m2/g以上であることが好ましく、50〜300m2/gであることが更に好ましい。担体の比表面積が前記下限未満では、十分な触媒活性を発揮させるために妥当な量の酸化還元能を有する前記金属粒子を担持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱劣化による比表面積低下が大きくなる傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0040】
以上、本発明の排ガス浄化用触媒について説明したが、次に、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、
(1)Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属とのうちいずれか一方の金属からなる粒子を金属酸化物からなる担体に担持せしめる工程(第一の工程)と、
(2)前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程(第二の工程)と、
(3)前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程(第三の工程)と、
を含むことを特徴とする。
【0042】
第一の工程は、前記担体に前記第一の金属もしくは前記第二の金属からなる粒子を担持させることができればよく、具体的な方法は特に制限されない。このような工程として好適な方法としては、例えば、前記第一の金属もしくは前記第二の金属がイオン状に溶解している溶液(例えば、ジニトロジアンミン白金錯体溶液や硝酸パラジウム溶液)に、前記担体を浸して撹拌することによって前記金属を担体に選択吸着せしめる方法が挙げられる。このような溶液を作製する際には、前記第一の金属もしくは前記第二の金属の塩(硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩等)、錯体(ジニトロジアンミン錯体等)、水酸化物等の金属化合物が好適に使用される。また、前記溶液を作製するときに用いる溶媒としては、前記第一の金属もしくは前記第二の金属がイオン状に溶解すればよく、特に制限されないが、前記担体との親和性の高さから水であることが好ましい。さらに、前記溶液における前記金属の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.005〜0.5質量%であることがより好ましい。前記濃度が1質量%を超えると、前記担体に前記第一の金属もしくは前記第二の金属が均一に担持されにくくなる傾向にある。また、第一の工程における処理時間は特に制限されないが、一般的には0.5〜3時間程度が好適に採用される。
【0043】
このような第一の工程によって、前記第一の金属もしくは前記第二の金属が、平均一次粒子径が1.5nm以下(より好ましくは0.3〜1.3nm)の金属粒子として前記担体に均一に担持されることとなる。そして、前記金属粒子を担持した担体を、必要に応じて80〜150℃で2〜48時間程度の乾燥処理を施した後に、以下の第二の工程に供する。
【0044】
第二の工程は、前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程である。第二の工程では、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気であることが必要であり、1〜6容量%の雰囲気であることがより好ましい。水素濃度が0.5容量%未満では、金属粒子に十分に水素を固溶させることができない。一方、水素濃度が6容量%を超えると、水素の爆発限界濃度を超えるため危険となる傾向にあり、また、それを超えた濃度にしても得られる効果の更なる向上は期待されない傾向にある。また、第二の工程における処理温度は50℃以上であることが必要であり、100℃〜500℃であることがより好ましい。処理温度が50℃未満では、金属粒子に十分に水素を固溶させることができない。一方、処理温度が500℃を超えると、金属粒子がシンタリングして金属粒子の平均一次粒子径が大きくなる傾向にある。さらに、第二の工程における処理時間としては、処理温度によって異なるものであるため特に制限されないが、一般的には1〜5時間程度が好適に採用される。また、第二の工程において用いられる水素以外のバランスガスは、不活性ガスであることが好ましく、窒素やヘリウムであることがより好ましい。
【0045】
このような第二の工程によって前記金属粒子に固溶される水素の量は特に制限されないが、以下の第三の工程において十分な量の金属を還元することができる量の水素が前記金属粒子に均一に固溶されることが好ましい。そして、前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ、以下の第三の工程に供する。
【0046】
第三の工程は、前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程である。前記担体を水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持する方法としては、水素濃度が0.5容量%を超える他の雰囲気に前記担体が曝されることが無ければよく、特に制限されない。このような方法としては、前記担体を水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気にある容器に封入して移動させ、前記担体をその容器から以下の溶液中に直接浸漬せしめる方法が好適に採用される。
【0047】
第三の工程においては、前記第一の金属と前記第二の金属とのうち、前記第一の工程において用いられなかった方の金属(他方の金属)がイオン状に溶解している溶液(例えば、ジニトロジアンミン白金錯体溶液や硝酸パラジウム溶液)が用いられる。このような溶液を作製する際には、前記他方の金属の塩(硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩等)、錯体(ジニトロジアンミン錯体等)、水酸化物等の金属化合物が好適に使用される。また、前記溶液を作製するときに用いる溶媒としては、前記他方の金属がイオン状に溶解すればよく、特に制限されないが、前記担体との親和性の高さから水であることが好ましい。さらに、前記溶液における前記他方の金属の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.005〜0.5質量%であることがより好ましい。前記濃度が1質量%を超えると、前記金属粒子上に前記他方の金属が均一に析出されにくくなる傾向にある。また、第三の工程における処理時間は特に制限されないが、一般的には0.5〜3時間程度が好適に採用される。
【0048】
このような第三の工程の中で起こっている現象は必ずしも明らかではないが、第二の工程によって前記金属粒子に固溶した水素が溶液中で還元剤として働き、前記金属粒子上でイオン状に溶解している他方の金属を還元し、前記金属粒子上に析出させることができると本発明者らは推察する。そして、第三の工程によって前記担体に担持されている金属粒子を前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体とした後、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、必要に応じて80〜150℃で2〜48時間程度の乾燥処理を施し、さらに必要に応じて大気中で200〜500℃で1〜5時間程度の熱処理を施して排ガス浄化用触媒として用いられる。
【0049】
上述の本発明の製造方法によって、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、前記固溶体からなる金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする本発明の排ガス浄化用触媒を得ることが可能となる。すなわち、前記第一の金属と前記第二の金属が均一に固溶した状態で保持されている本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記第一の金属と前記第二の金属が十分に均一に混合された状態となっているため、十分に高い窒素酸化物還元性能が発揮され、これを窒素酸化物に接触させることによって十分な量の窒素酸化物を効率よく吸蔵還元させることが可能となる。
【0050】
また、上記本発明の製造方法においては、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属を担持せしめる工程(第四の工程)が更に含まれることがより好ましい。
【0051】
前記第四の工程は、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に前記第三の金属を担持させることができればよく、具体的な方法は特に制限されない。このような工程として好適な方法としては、例えば、前記第三の金属がイオン状に溶解している溶液に前記担体を浸し、蒸発乾固を行う方法が挙げられる。このような溶液を作製する際には、前記第三の金属の塩(酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩等)、水酸化物等の金属化合物が好適に使用される。また、前記溶液を作製するときに用いる溶媒としては、前記第三の金属がイオン状に溶解すればよく、特に制限されないが、前記担体との親和性の高さから水であることが好ましい。さらに、前記溶液における前記金属の濃度は、0.001〜2mol/Lであることがより好ましい。そして、第四の工程によって前記第三の金属が担持された担体に、必要に応じて大気中で200〜500℃で1〜5時間程度の熱処理を施して排ガス浄化用触媒として用いられる。
【0052】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒の形態は特に制限されず、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等の形態とすることができる。ここで用いられる基材も特に制限されず、得られる触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、DPF基材、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等がより好適に採用される。また、このような基材の材料も特に制限されないが、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。さらに、このような基材を用いる場合における触媒の製造方法は特に制限されず、例えば、モノリス状基材に担体を担持せしめて担体の粉末からなるコート層を形成した後、前記コート層に前記金属粒子を担持せしめ、その後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法や、あらかじめ前記金属粒子を担持せしめた担体を用い、これをモノリス状基材に担持せしめてコート層を形成した後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法等を採用することができる。
【0053】
以上、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明したが、以下、本発明の排ガス浄化方法について説明する。
【0054】
本発明の排ガス浄化方法は、酸素過剰雰囲気下において、前記本発明の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触せしめて前記排ガス中の窒素酸化物を浄化することを特徴とする方法である。
【0055】
本発明にいう「酸素過剰雰囲気」とは、酸素、窒素酸化物等の酸化性ガスが、H2,CO,HC等の還元性ガスに対して量論的に過剰である雰囲気をいう。本発明においては、このような酸素過剰雰囲気中において窒素酸化物を含有する排ガスを上記本発明の排ガス浄化用触媒に接触せしめる。このように、本発明の排ガス浄化方法においては、本発明の排ガス浄化用触媒を用いるため、窒素酸化物を十分に浄化することが可能である。そのため、本発明の排ガス浄化方法は、例えば、自動車の内燃機関等から排出される排ガスを浄化するための方法に採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
先ず、0.038gのPd(NO3)2を100gの水に溶解した水溶液(Pd濃度:0.0175質量%)にアルミナ粉末(平均二次粒子径:8μm、比表面積:200m2/g)を10g添加し、1時間撹拌した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行い、パラジウム粒子が担持されたアルミナ粉末(Pd/Al2O3粉末)を得た(第一の工程)。
【0058】
次に、Pd/Al2O3粉末を、水素濃度が5容量%の雰囲気(バランスガスは窒素)中に配置し、400℃3時間の水素化処理を施し、パラジウム粒子に水素が固溶したアルミナ粉末(粉末A)を得た(第二の工程)。
【0059】
続いて、粉末Aを、水素濃度が5容量%の雰囲気に維持された容器中から、大気中に晒すことなく直接、0.070gのPt(NO2)2(NH3)2を100gの水に溶解した水溶液(Pt濃度:0.0425質量%)中に投入し、1時間撹拌した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行い、さらに大気中で300℃3時間の熱処理を施し、パラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子が担持された(粉末B)を得た(第三の工程)。
【0060】
さらに、粉末Bを、(CH3COO)2Ba、CH3COOK及びCH3COOLiを含む水溶液(Ba濃度:0.1mol/L、K濃度:0.1mol/L、Li濃度:0.2mol/L)に浸した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行って蒸発乾固せしめ、さらに大気中で300℃3時間の熱処理を施して排ガス浄化用触媒を得た(第四の工程)。
【0061】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.60質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれアルミナ粉末100質量部に対して0.1mol/100g,0.1mol/100g,0.2mol/100gであった。
【0062】
(比較例1)
先ず、0.038gのPd(NO3)2と0.068gのPt(NO2)2(NH3)3とを100gの水に溶解した水溶液(Pd濃度:0.0175質量%、Pt濃度:0.0425質量%)にアルミナ粉末(平均二次粒子径:8μm、比表面積:200m2/g)を10g添加し、1時間撹拌した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行い、パラジウムと白金とが共含浸により担持されたアルミナ粉末を得た。次に、得られた粉末に対して、実施例1における第二の工程と第三の工程は施さずに、第四の工程を施して排ガス浄化用触媒を得た。
【0063】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との合計担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0064】
(比較例2)
第二の工程における水素化処理の後に粉末Aが配置された容器内に窒素パージを行ったため、第三の工程において粉末Aが窒素雰囲気に曝露された後に前記水溶液中に投入されるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0065】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0066】
<排ガス浄化用触媒(実施例1及び比較例1〜2)の性能試験1>
[TEM−EDX分析]
実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒について、前述の方法により、TEM−EDX分析を行った。なお、このようなTEM−EDX分析には、日本電子製の商品名「JEM−2010FEF」を測定装置として用いた。
【0067】
このような測定の結果として、実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1〜3に示し、比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図4〜6に示す。なお、図1〜6上の001〜015で示す×印は、EDX分析の際の測定点である。また、実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型蛍光X線スペクトルを図7に示し、比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型蛍光X線スペクトルを図8に示す。
【0068】
このような測定結果に基づいて、実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒における金属粒子の一次粒子毎の金属組成比(PtとPdの組成比)の標準偏差を、前述の方法により求めた。得られた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)においては、担持された酸化物複合体の表面上の測定点におけるTEM−EDXから求められる第一の金属(Pt)のピーク面積と第二の金属(Pd)のピーク面積との和に対する第一の金属のピーク面積の比([第一の金属のピーク面積]/[第一の金属のピーク面積と第二の金属のピーク面積の和])の分布の標準偏差は10%以下であることが確認された。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、PtとPdとが十分に均一に固溶された金属粒子が金属酸化物担体上に担持されていることが確認された。これに対して、比較のための排ガス浄化用触媒(比較例1及び比較例2)においては、前記標準偏差が10%を超えた値となっており、PtとPdが均一に固溶されていないことが確認された。
【0071】
[窒素酸化物浄化試験1]
実施例1及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒1.0gを試験容器内に配置し、300℃の温度条件下において表2に示す組成のリッチガス及びリーンガスをリーン/リッチ=40秒/5秒の間隔で変動させながら流通させ、定常状態における窒素酸化物浄化率を測定した。窒素酸化物浄化率は、各触媒において、それぞれの触媒に接触する前後のガス中に含有される窒素酸化物の濃度を測定し、その窒素酸化物濃度の値に基づいて求めた。得られた結果を図9に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
図9に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)は、優れた窒素酸化物浄化率を示した。これに対して、本発明にかかる排ガス浄化用触媒を用いなかった場合(比較例1)においては、窒素酸化物浄化率が低いものとなっていた。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、得られる金属粒子においてPtとPdとが十分に均一に固溶された状態で金属酸化物担体に担持されているため、高い窒素酸化物浄化性能を発揮できるということが確認できた。
【0074】
(実施例2)
第二の工程における水素濃度を1容量%にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0075】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0076】
(実施例3)
第二の工程における水素化処理の温度を100℃にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0077】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0078】
(実施例4)
第二の工程における水素化処理の温度を200℃にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0079】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0080】
(実施例5)
第二の工程における水素化処理の温度を300℃にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0081】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0082】
<排ガス浄化用触媒(実施例1〜5及び比較例2)の性能試験2>
実施例1〜5及び比較例2で得られた排ガス浄化用触媒を用いて350℃で試験を行ったこと以外は前述の窒素酸化物浄化試験1と同様の方法を採用して窒素酸化物浄化率を測定した。得られた結果を図10に示す。
【0083】
図10に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1〜5)は、優れた窒素酸化物浄化率を示した。これに対して、本発明にかかる排ガス浄化用触媒を用いなかった場合(比較例2)においては、窒素酸化物浄化率が低いものとなっていた。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、得られる金属粒子においてPtとPdとが十分に均一に固溶された状態で金属酸化物担体に担持されているため、高い窒素酸化物浄化性能を発揮できるということが確認できた。
【0084】
(比較例3)
先ず、0.06gのPtPdコアシェル−PVPコロイド(粒径:約2nm)が100gの水に分散されている分散液(Pd濃度:0.0175質量%、Pt濃度:0.0425質量%)にアルミナ粉末(平均二次粒子径:8μm、比表面積:200m2/g)を10g添加した後、粉末を取り出して大気中で110℃5時間の乾燥を行って蒸発乾固せしめ、パラジウムと白金とが担持されたアルミナ粉末を得た。次に、得られた粉末に対して、実施例1における第二の工程と第三の工程は施さずに、第四の工程を施して排ガス浄化用触媒を得た。
【0085】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との合計担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0086】
<排ガス浄化用触媒(実施例1〜5及び比較例3)の平均一次粒子径測定>
実施例1〜5及び比較例3で得られた排ガス浄化用触媒における金属粒子の平均一次粒子径をCO化学吸着法によって求めた。得られた結果を図11に示す。
【0087】
図11に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1〜5)に担持された金属粒子の平均一次粒子径は1.5nmと十分に小さかった。これに対して、本発明にかかる排ガス浄化用触媒を用いなかった場合(比較例3)においては、金属一次粒子径が1.5nmより大きいことが確認された。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、PtとPdとの固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が十分に小さいということが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明によれば、第一の金属と第二の金属が均一に固溶した状態で金属酸化物担体に担持されており、自動車等の排ガスに含まれる窒素酸化物を十分に還元する能力を有する排ガス浄化用触媒、及びその製造方法、ならびにそれを用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒、排ガス浄化用触媒の製造方法、並びにその排ガス浄化用触媒を用いた排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の排ガスに含まれる有害な窒素酸化物を浄化するためには、窒素酸化物吸蔵還元型触媒が利用されてきた。このような窒素酸化物吸蔵還元型触媒としては、Pt,Pd等の触媒活性を有する貴金属粒子と、主にバリウム等のアルカリ土類金属もしくはアルカリ金属とを、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスのペレット状もしくはハニカム状成型体やセラミックスをコーティングした金属ハニカムといった多孔質担体上に担持せしめたものが知られている。
【0003】
しかしながら、このような窒素酸化物吸蔵還元型触媒においては、触媒に吸蔵した窒素酸化物を十分に還元できないという問題が生じていた。
【0004】
上記のような問題を解決するために、例えば、特開平11−156193号公報(特許文献1)には、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であり、前記金属粒子が、平均粒子径が30nm以下の第一の金属粒子上に第一の金属粒子とは異なる1種以上の金属からなる第二の金属層を被覆率45%以上となるように積層していることを特徴とした触媒が記載されている。
【0005】
また、特開2002−1119号公報(特許文献2)や特開2004−267961号公報(特許文献3)には、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であり、前記金属粒子がバイメタリックコロイドを用いて担持されたものであることを特徴とした触媒が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のような触媒であっても、触媒に吸蔵した窒素酸化物を必ずしも十分に還元する能力を有するものではなく、未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−156193号公報
【特許文献2】特開2002−1119号公報
【特許文献3】特開2004−267961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、自動車等の排ガスに含まれる窒素酸化物を十分に還元する能力を持つ排ガス浄化用触媒、及びその製造方法、並びにそれを用いた排ガス浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金属酸化物に担持された金属粒子は窒素酸化物の酸化を促進する第一の金属と窒素酸化物の分解を促進する第二の金属に分類できることを見出すとともに、これらの金属を金属酸化物からなる担体に担持せしめる際に、第一の金属と第二の金属が均一に固溶された構造を有する金属粒子として配置せしめることによって、窒素酸化物を十分に還元する触媒活性を発揮することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とするものである。
【0011】
上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記第一の金属がPtであり、且つ、前記第二の金属がPdであることが特に好ましい。
【0012】
また、上記本発明の排ガス浄化用触媒においては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属が前記担体に更に担持されていることがより好ましい。
【0013】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、
Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属とのうちいずれか一方の金属からなる粒子を金属酸化物からなる担体に担持せしめる工程と、
前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程と、
前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
上記本発明の製造方法によれば、前記固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、前記固溶体からなる金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする排ガス浄化用触媒を得ることが可能となる。
【0015】
また、上記本発明の製造方法においては、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属を担持せしめる工程が更に含まれることがより好ましい。
【0016】
本発明の排ガス浄化方法は、酸素過剰雰囲気下において、前記本発明の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触せしめて前記排ガス中の窒素酸化物を浄化することを特徴とする方法である。
【0017】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒においては前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることが必要であるが、かかる標準偏差は、触媒上の金属粒子の一次粒子から測定対象とする一次粒子を任意に15個抽出し、TEM−EDX分析によってそれらの一次粒子における金属組成比を測定し、得られた金属組成比の分布の標準偏差を算出することによって得られたものである。
【0018】
ここで測定点(測定対象とする一次粒子の数)を15個とした理由は、観察視野を変えて、且つ、測定点を15個より増やして金属組成比の標準偏差を算出した場合であっても、得られた標準偏差と測定点を15個として得られた標準偏差との間に有意な差が無かったため、測定点を15個として得られた標準偏差であれば十分に再現性が得られると判断したためである。
【0019】
また、本発明において採用するTEM−EDX分析においては、測定装置として、従来公知の透過型電子顕微鏡(TEM)に、従来公知のエネルギー分散型X線分光器(EDX分析装置)を装備したTEM−EDX装置を用いることができる。
【0020】
このようなTEM−EDX分析においては、先ず、TEM−EDX装置を用いて、前記排ガス浄化用触媒上の測定対象とする金属粒子に対して、ビーム径が1〜2nmの測定点内のエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルから、第一の金属元素に由来するピークの面積と、第二の金属元素に由来するピークの面積とを求め、第一の金属元素に由来するピーク面積と第二の金属元素のピーク面積との和に対する第一の金属元素のピークの面積の比(ピーク面積比(%))を求める。このようにして得られたピーク面積比が、測定対象とした金属粒子における一次粒子の金属組成比に相当する。
【0021】
なお、このようなピーク面積比は、下記式:
[ピーク面積比(%)]={[第一の金属元素のピーク面積]/([第一の金属元素のピーク面積]+[第二の金属元素のピーク面積])}×100
に基づいて計算することにより算出できる。また、ここに言う「ピーク」とは、前記スペクトルのベースラインからピークトップまでの高さの強度差が1cts以上のものを言う。また、このようなピークとしては、例えば、金属元素がPtである場合にはエネルギーが2.048keVの位置(PtMα線)に現れ、金属元素がPdである場合には2.838keVの位置(PdLα線)に現れる。
【0022】
次に、このようにして得られたピーク面積比の分布の標準偏差を求める。すなわち、任意の15点以上の測定点においてTEM−EDX分析を行って、各測定点における上記ピーク面積比を求め、得られたピーク面積比に基づいて、ピーク面積比の分布の標準偏差(%)を算出することにより求めることができる。
【0023】
本発明の排ガス浄化用触媒においては、このようなピーク面積比の分布の標準偏差(金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差)が10%以下である。このような標準偏差が10%を超えている排ガス浄化用触媒においては、第一の金属と第二の金属が十分に均一に固溶したものとはなっておらず、吸蔵した窒素酸化物の還元能力が十分なものとはならない。
【0024】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であることが必要であるが、かかる平均一次粒子径は従来公知のCO化学吸着法により求めることができる。このような金属粒子の平均一次粒子径が1.5nmを超えている排ガス浄化用触媒においては、窒素酸化物の吸蔵や還元が十分に促進されなくなる。
【0025】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒によって、十分に優れた窒素酸化物の還元性能が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒においては、窒素酸化物の酸化を促進する第一の金属と窒素酸化物の分解を促進する第二の金属とが、小さい一次粒子からなる金属粒子内で均一に固溶しているため、窒素酸化物の酸化と還元を同一の金属粒子上で効率良く且つ確実に進行せしめることが可能となり、結果として十分に高い窒素酸化物浄化活性が得られると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、自動車等の排ガスに含まれる窒素酸化物を十分に還元する能力を持つ排ガス浄化用触媒、及びその製造方法、並びにそれを用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図5】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図6】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の特定領域の状態を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図7】実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の金属粒子の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルを示すグラフである。
【図8】比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の金属粒子の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型の蛍光X線スペクトルを示すグラフである。
【図9】300℃の温度条件下における実施例1及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の窒素酸化物浄化率を示すグラフである。
【図10】350℃の温度条件下における実施例1〜5及び比較例2で得られた排ガス浄化用触媒の窒素酸化物浄化率を示すグラフである。
【図11】実施例1〜5及び比較例3で得られた排ガス浄化用触媒における金属粒子の平均一次粒子径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0029】
先ず、本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒は、金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする。
【0030】
本発明において用いる第一の金属は、窒素酸化物の酸化を促進する金属であって、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種であり、中でも、得られる触媒における窒素酸化物の酸化促進能力がより向上する傾向にあるという観点から、Ptであることがより好ましい。なお、このような第一の金属は、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
また、本発明において用いる第二の金属は、窒素酸化物の還元を促進する金属であって、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種であり、中でも、得られる触媒における窒素酸化物の還元促進能力がより向上する傾向にあるという観点から、Pdであることがより好ましい。なお、このような第二の金属は、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明の触媒においては、前記第一の金属と前記第二の金属とが、それらの固溶体からなる金属粒子として担体に担持されている必要がある。このような金属粒子の構造である固溶体とは、複数の元素(前記第一の金属と前記第二の金属)が互いに溶け合って固相をなしているものをいう。このような固溶体を構成する前記第一の金属と前記第二の金属との組成比としては、特に制限されないが、前記第一の金属と前記第二の金属との合計原子数に対して前記第二の金属の原子の割合が10〜90原子%であることが好ましい。前記第二の金属の濃度が前記下限未満では、得られる触媒による窒素酸化物の還元が十分に促進されなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる触媒による窒素酸化物の酸化が十分に促進されなくなる傾向にある。
【0033】
さらに、本発明の触媒においては前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であることが必要であり、0.3〜1.3nmであることがより好ましい。前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nmを超えると、得られる触媒による窒素酸化物の吸蔵もしくは還元が十分に促進されなくなる。
【0034】
さらに、本発明の触媒においては前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることが必要であり、8%以下であることがより好ましい。前記金属組成比の標準偏差が10%を超えると、得られる触媒による窒素酸化物の酸化もしくは還元が十分に促進されなくなる。
【0035】
本発明の排ガス浄化用触媒は、前述の金属粒子が金属酸化物からなる担体に担持されてなるものである。本発明の排ガス浄化用触媒において、担体に担持される金属粒子の量は特に制限されないが、前記担体100質量部に対して金属粒子の量が0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましい。前記金属粒子の担持量が前記下限未満では、前記金属粒子により得られる触媒活性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コストが高騰すると共に前記金属粒子の粒成長が起こりやすくなる傾向にある。
【0036】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属が前記担体に更に担持されていることが好ましい。このような第三の金属は高い塩基性を有しているため、その酸化物を形成させた際に十分に高い窒素酸化物吸蔵能が発揮されるようになるという観点から前記第三の金属を用いることが好ましく、中でもBaを用いることがより好ましい。なお、このような第三の金属は、一種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本発明の排ガス浄化用触媒において、担体に担持される第三の金属の量は特に制限されないが、担体の容積に対して0.05mol/L以上であることが好ましく、0.1mol/L〜2.0mol/Lであることがより好ましい。第三の金属の担持量が前記下限未満では、得られる触媒による窒素酸化物吸蔵量が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記金属粒子の触媒活性が低下する傾向にある。
【0038】
本発明において採用する金属酸化物からなる担体としては特に制限されず、アルミナ、ジルコニア、チタニア等が好ましい。さらに、本発明にかかる担体の形状としては特に制限されないが、比表面積が向上し、より高い触媒活性が得られることから、粉体状であることが好ましい。このような担体が粉体状のものである場合においては、前記担体の粒度(二次粒子径)は特に制限されず、1〜100μmであることが好ましい。担体の粒子径が前記下限未満では、担体の微細化にコストがかかると共に、その扱いが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、後述するような基材に本発明の排ガス浄化用触媒のコート層を安定に形成させることが困難となる傾向にある。
【0039】
また、このような担体の比表面積は、20m2/g以上であることが好ましく、50〜300m2/gであることが更に好ましい。担体の比表面積が前記下限未満では、十分な触媒活性を発揮させるために妥当な量の酸化還元能を有する前記金属粒子を担持することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱劣化による比表面積低下が大きくなる傾向にある。なお、このような比表面積は吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0040】
以上、本発明の排ガス浄化用触媒について説明したが、次に、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。
【0041】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、
(1)Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属とのうちいずれか一方の金属からなる粒子を金属酸化物からなる担体に担持せしめる工程(第一の工程)と、
(2)前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程(第二の工程)と、
(3)前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程(第三の工程)と、
を含むことを特徴とする。
【0042】
第一の工程は、前記担体に前記第一の金属もしくは前記第二の金属からなる粒子を担持させることができればよく、具体的な方法は特に制限されない。このような工程として好適な方法としては、例えば、前記第一の金属もしくは前記第二の金属がイオン状に溶解している溶液(例えば、ジニトロジアンミン白金錯体溶液や硝酸パラジウム溶液)に、前記担体を浸して撹拌することによって前記金属を担体に選択吸着せしめる方法が挙げられる。このような溶液を作製する際には、前記第一の金属もしくは前記第二の金属の塩(硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩等)、錯体(ジニトロジアンミン錯体等)、水酸化物等の金属化合物が好適に使用される。また、前記溶液を作製するときに用いる溶媒としては、前記第一の金属もしくは前記第二の金属がイオン状に溶解すればよく、特に制限されないが、前記担体との親和性の高さから水であることが好ましい。さらに、前記溶液における前記金属の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.005〜0.5質量%であることがより好ましい。前記濃度が1質量%を超えると、前記担体に前記第一の金属もしくは前記第二の金属が均一に担持されにくくなる傾向にある。また、第一の工程における処理時間は特に制限されないが、一般的には0.5〜3時間程度が好適に採用される。
【0043】
このような第一の工程によって、前記第一の金属もしくは前記第二の金属が、平均一次粒子径が1.5nm以下(より好ましくは0.3〜1.3nm)の金属粒子として前記担体に均一に担持されることとなる。そして、前記金属粒子を担持した担体を、必要に応じて80〜150℃で2〜48時間程度の乾燥処理を施した後に、以下の第二の工程に供する。
【0044】
第二の工程は、前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程である。第二の工程では、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気であることが必要であり、1〜6容量%の雰囲気であることがより好ましい。水素濃度が0.5容量%未満では、金属粒子に十分に水素を固溶させることができない。一方、水素濃度が6容量%を超えると、水素の爆発限界濃度を超えるため危険となる傾向にあり、また、それを超えた濃度にしても得られる効果の更なる向上は期待されない傾向にある。また、第二の工程における処理温度は50℃以上であることが必要であり、100℃〜500℃であることがより好ましい。処理温度が50℃未満では、金属粒子に十分に水素を固溶させることができない。一方、処理温度が500℃を超えると、金属粒子がシンタリングして金属粒子の平均一次粒子径が大きくなる傾向にある。さらに、第二の工程における処理時間としては、処理温度によって異なるものであるため特に制限されないが、一般的には1〜5時間程度が好適に採用される。また、第二の工程において用いられる水素以外のバランスガスは、不活性ガスであることが好ましく、窒素やヘリウムであることがより好ましい。
【0045】
このような第二の工程によって前記金属粒子に固溶される水素の量は特に制限されないが、以下の第三の工程において十分な量の金属を還元することができる量の水素が前記金属粒子に均一に固溶されることが好ましい。そして、前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ、以下の第三の工程に供する。
【0046】
第三の工程は、前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程である。前記担体を水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持する方法としては、水素濃度が0.5容量%を超える他の雰囲気に前記担体が曝されることが無ければよく、特に制限されない。このような方法としては、前記担体を水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気にある容器に封入して移動させ、前記担体をその容器から以下の溶液中に直接浸漬せしめる方法が好適に採用される。
【0047】
第三の工程においては、前記第一の金属と前記第二の金属とのうち、前記第一の工程において用いられなかった方の金属(他方の金属)がイオン状に溶解している溶液(例えば、ジニトロジアンミン白金錯体溶液や硝酸パラジウム溶液)が用いられる。このような溶液を作製する際には、前記他方の金属の塩(硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩等)、錯体(ジニトロジアンミン錯体等)、水酸化物等の金属化合物が好適に使用される。また、前記溶液を作製するときに用いる溶媒としては、前記他方の金属がイオン状に溶解すればよく、特に制限されないが、前記担体との親和性の高さから水であることが好ましい。さらに、前記溶液における前記他方の金属の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.005〜0.5質量%であることがより好ましい。前記濃度が1質量%を超えると、前記金属粒子上に前記他方の金属が均一に析出されにくくなる傾向にある。また、第三の工程における処理時間は特に制限されないが、一般的には0.5〜3時間程度が好適に採用される。
【0048】
このような第三の工程の中で起こっている現象は必ずしも明らかではないが、第二の工程によって前記金属粒子に固溶した水素が溶液中で還元剤として働き、前記金属粒子上でイオン状に溶解している他方の金属を還元し、前記金属粒子上に析出させることができると本発明者らは推察する。そして、第三の工程によって前記担体に担持されている金属粒子を前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体とした後、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、必要に応じて80〜150℃で2〜48時間程度の乾燥処理を施し、さらに必要に応じて大気中で200〜500℃で1〜5時間程度の熱処理を施して排ガス浄化用触媒として用いられる。
【0049】
上述の本発明の製造方法によって、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、前記固溶体からなる金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする本発明の排ガス浄化用触媒を得ることが可能となる。すなわち、前記第一の金属と前記第二の金属が均一に固溶した状態で保持されている本発明の排ガス浄化用触媒においては、前記第一の金属と前記第二の金属が十分に均一に混合された状態となっているため、十分に高い窒素酸化物還元性能が発揮され、これを窒素酸化物に接触させることによって十分な量の窒素酸化物を効率よく吸蔵還元させることが可能となる。
【0050】
また、上記本発明の製造方法においては、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属を担持せしめる工程(第四の工程)が更に含まれることがより好ましい。
【0051】
前記第四の工程は、前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に前記第三の金属を担持させることができればよく、具体的な方法は特に制限されない。このような工程として好適な方法としては、例えば、前記第三の金属がイオン状に溶解している溶液に前記担体を浸し、蒸発乾固を行う方法が挙げられる。このような溶液を作製する際には、前記第三の金属の塩(酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩等)、水酸化物等の金属化合物が好適に使用される。また、前記溶液を作製するときに用いる溶媒としては、前記第三の金属がイオン状に溶解すればよく、特に制限されないが、前記担体との親和性の高さから水であることが好ましい。さらに、前記溶液における前記金属の濃度は、0.001〜2mol/Lであることがより好ましい。そして、第四の工程によって前記第三の金属が担持された担体に、必要に応じて大気中で200〜500℃で1〜5時間程度の熱処理を施して排ガス浄化用触媒として用いられる。
【0052】
なお、本発明の排ガス浄化用触媒の形態は特に制限されず、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等の形態とすることができる。ここで用いられる基材も特に制限されず、得られる触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、DPF基材、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等がより好適に採用される。また、このような基材の材料も特に制限されないが、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。さらに、このような基材を用いる場合における触媒の製造方法は特に制限されず、例えば、モノリス状基材に担体を担持せしめて担体の粉末からなるコート層を形成した後、前記コート層に前記金属粒子を担持せしめ、その後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法や、あらかじめ前記金属粒子を担持せしめた担体を用い、これをモノリス状基材に担持せしめてコート層を形成した後、前記コート層に前記第三の金属を担持せしめる方法等を採用することができる。
【0053】
以上、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明したが、以下、本発明の排ガス浄化方法について説明する。
【0054】
本発明の排ガス浄化方法は、酸素過剰雰囲気下において、前記本発明の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触せしめて前記排ガス中の窒素酸化物を浄化することを特徴とする方法である。
【0055】
本発明にいう「酸素過剰雰囲気」とは、酸素、窒素酸化物等の酸化性ガスが、H2,CO,HC等の還元性ガスに対して量論的に過剰である雰囲気をいう。本発明においては、このような酸素過剰雰囲気中において窒素酸化物を含有する排ガスを上記本発明の排ガス浄化用触媒に接触せしめる。このように、本発明の排ガス浄化方法においては、本発明の排ガス浄化用触媒を用いるため、窒素酸化物を十分に浄化することが可能である。そのため、本発明の排ガス浄化方法は、例えば、自動車の内燃機関等から排出される排ガスを浄化するための方法に採用することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
先ず、0.038gのPd(NO3)2を100gの水に溶解した水溶液(Pd濃度:0.0175質量%)にアルミナ粉末(平均二次粒子径:8μm、比表面積:200m2/g)を10g添加し、1時間撹拌した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行い、パラジウム粒子が担持されたアルミナ粉末(Pd/Al2O3粉末)を得た(第一の工程)。
【0058】
次に、Pd/Al2O3粉末を、水素濃度が5容量%の雰囲気(バランスガスは窒素)中に配置し、400℃3時間の水素化処理を施し、パラジウム粒子に水素が固溶したアルミナ粉末(粉末A)を得た(第二の工程)。
【0059】
続いて、粉末Aを、水素濃度が5容量%の雰囲気に維持された容器中から、大気中に晒すことなく直接、0.070gのPt(NO2)2(NH3)2を100gの水に溶解した水溶液(Pt濃度:0.0425質量%)中に投入し、1時間撹拌した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行い、さらに大気中で300℃3時間の熱処理を施し、パラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子が担持された(粉末B)を得た(第三の工程)。
【0060】
さらに、粉末Bを、(CH3COO)2Ba、CH3COOK及びCH3COOLiを含む水溶液(Ba濃度:0.1mol/L、K濃度:0.1mol/L、Li濃度:0.2mol/L)に浸した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行って蒸発乾固せしめ、さらに大気中で300℃3時間の熱処理を施して排ガス浄化用触媒を得た(第四の工程)。
【0061】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.60質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれアルミナ粉末100質量部に対して0.1mol/100g,0.1mol/100g,0.2mol/100gであった。
【0062】
(比較例1)
先ず、0.038gのPd(NO3)2と0.068gのPt(NO2)2(NH3)3とを100gの水に溶解した水溶液(Pd濃度:0.0175質量%、Pt濃度:0.0425質量%)にアルミナ粉末(平均二次粒子径:8μm、比表面積:200m2/g)を10g添加し、1時間撹拌した後、粉末を取り出して大気中で110℃24時間の乾燥を行い、パラジウムと白金とが共含浸により担持されたアルミナ粉末を得た。次に、得られた粉末に対して、実施例1における第二の工程と第三の工程は施さずに、第四の工程を施して排ガス浄化用触媒を得た。
【0063】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との合計担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0064】
(比較例2)
第二の工程における水素化処理の後に粉末Aが配置された容器内に窒素パージを行ったため、第三の工程において粉末Aが窒素雰囲気に曝露された後に前記水溶液中に投入されるようにしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0065】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0066】
<排ガス浄化用触媒(実施例1及び比較例1〜2)の性能試験1>
[TEM−EDX分析]
実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒について、前述の方法により、TEM−EDX分析を行った。なお、このようなTEM−EDX分析には、日本電子製の商品名「JEM−2010FEF」を測定装置として用いた。
【0067】
このような測定の結果として、実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図1〜3に示し、比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図4〜6に示す。なお、図1〜6上の001〜015で示す×印は、EDX分析の際の測定点である。また、実施例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型蛍光X線スペクトルを図7に示し、比較例1で得られた排ガス浄化用触媒の表面上の測定点001〜005におけるエネルギー分散型蛍光X線スペクトルを図8に示す。
【0068】
このような測定結果に基づいて、実施例1及び比較例1〜2で得られた排ガス浄化用触媒における金属粒子の一次粒子毎の金属組成比(PtとPdの組成比)の標準偏差を、前述の方法により求めた。得られた結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)においては、担持された酸化物複合体の表面上の測定点におけるTEM−EDXから求められる第一の金属(Pt)のピーク面積と第二の金属(Pd)のピーク面積との和に対する第一の金属のピーク面積の比([第一の金属のピーク面積]/[第一の金属のピーク面積と第二の金属のピーク面積の和])の分布の標準偏差は10%以下であることが確認された。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、PtとPdとが十分に均一に固溶された金属粒子が金属酸化物担体上に担持されていることが確認された。これに対して、比較のための排ガス浄化用触媒(比較例1及び比較例2)においては、前記標準偏差が10%を超えた値となっており、PtとPdが均一に固溶されていないことが確認された。
【0071】
[窒素酸化物浄化試験1]
実施例1及び比較例1で得られた排ガス浄化用触媒1.0gを試験容器内に配置し、300℃の温度条件下において表2に示す組成のリッチガス及びリーンガスをリーン/リッチ=40秒/5秒の間隔で変動させながら流通させ、定常状態における窒素酸化物浄化率を測定した。窒素酸化物浄化率は、各触媒において、それぞれの触媒に接触する前後のガス中に含有される窒素酸化物の濃度を測定し、その窒素酸化物濃度の値に基づいて求めた。得られた結果を図9に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
図9に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1)は、優れた窒素酸化物浄化率を示した。これに対して、本発明にかかる排ガス浄化用触媒を用いなかった場合(比較例1)においては、窒素酸化物浄化率が低いものとなっていた。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、得られる金属粒子においてPtとPdとが十分に均一に固溶された状態で金属酸化物担体に担持されているため、高い窒素酸化物浄化性能を発揮できるということが確認できた。
【0074】
(実施例2)
第二の工程における水素濃度を1容量%にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0075】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0076】
(実施例3)
第二の工程における水素化処理の温度を100℃にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0077】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0078】
(実施例4)
第二の工程における水素化処理の温度を200℃にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0079】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0080】
(実施例5)
第二の工程における水素化処理の温度を300℃にしたこと以外は実施例1と同様の方法で排ガス浄化用触媒を得た。
【0081】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との固溶体からなる金属粒子の担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0082】
<排ガス浄化用触媒(実施例1〜5及び比較例2)の性能試験2>
実施例1〜5及び比較例2で得られた排ガス浄化用触媒を用いて350℃で試験を行ったこと以外は前述の窒素酸化物浄化試験1と同様の方法を採用して窒素酸化物浄化率を測定した。得られた結果を図10に示す。
【0083】
図10に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1〜5)は、優れた窒素酸化物浄化率を示した。これに対して、本発明にかかる排ガス浄化用触媒を用いなかった場合(比較例2)においては、窒素酸化物浄化率が低いものとなっていた。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、得られる金属粒子においてPtとPdとが十分に均一に固溶された状態で金属酸化物担体に担持されているため、高い窒素酸化物浄化性能を発揮できるということが確認できた。
【0084】
(比較例3)
先ず、0.06gのPtPdコアシェル−PVPコロイド(粒径:約2nm)が100gの水に分散されている分散液(Pd濃度:0.0175質量%、Pt濃度:0.0425質量%)にアルミナ粉末(平均二次粒子径:8μm、比表面積:200m2/g)を10g添加した後、粉末を取り出して大気中で110℃5時間の乾燥を行って蒸発乾固せしめ、パラジウムと白金とが担持されたアルミナ粉末を得た。次に、得られた粉末に対して、実施例1における第二の工程と第三の工程は施さずに、第四の工程を施して排ガス浄化用触媒を得た。
【0085】
なお、得られた触媒におけるパラジウムと白金との合計担持量はアルミナ粉末100質量部に対して0.6質量部であり、パラジウムと白金との組成比は(Pd)3原子%:(Pt)4原子%であった。また、得られた触媒におけるBa,K,Liの担持量はそれぞれ実施例1で得られたものと同様であった。
【0086】
<排ガス浄化用触媒(実施例1〜5及び比較例3)の平均一次粒子径測定>
実施例1〜5及び比較例3で得られた排ガス浄化用触媒における金属粒子の平均一次粒子径をCO化学吸着法によって求めた。得られた結果を図11に示す。
【0087】
図11に示した結果から明らかなように、本発明の排ガス浄化用触媒(実施例1〜5)に担持された金属粒子の平均一次粒子径は1.5nmと十分に小さかった。これに対して、本発明にかかる排ガス浄化用触媒を用いなかった場合(比較例3)においては、金属一次粒子径が1.5nmより大きいことが確認された。このような結果から、本発明の排ガス浄化用触媒においては、PtとPdとの固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が十分に小さいということが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明によれば、第一の金属と第二の金属が均一に固溶した状態で金属酸化物担体に担持されており、自動車等の排ガスに含まれる窒素酸化物を十分に還元する能力を有する排ガス浄化用触媒、及びその製造方法、ならびにそれを用いた排ガス浄化方法を提供することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属が前記担体に更に担持されていることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記第一の金属がPtであり、且つ、前記第二の金属がPdであることを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属とのうちいずれか一方の金属からなる粒子を金属酸化物からなる担体に担持せしめる工程と、
前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程と、
前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、前記固溶体からなる金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属を担持せしめる工程を更に含むことを特徴とする請求項4または5に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項7】
酸素過剰雰囲気下において、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触せしめて前記排ガス中の窒素酸化物を浄化することを特徴とする排ガス浄化方法。
【請求項1】
金属酸化物からなる担体と、前記担体に担持された金属粒子とを備える排ガス浄化用触媒であって、
前記金属粒子が、Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属との固溶体からなり、
前記金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、
前記金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属が前記担体に更に担持されていることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記第一の金属がPtであり、且つ、前記第二の金属がPdであることを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
Pt,Ag,Mn,Fe及びAuからなる群から選択される少なくとも一種の第一の金属と、Pd,Rh,Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種の第二の金属とのうちいずれか一方の金属からなる粒子を金属酸化物からなる担体に担持せしめる工程と、
前記金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中で50℃以上に加熱して前記金属粒子に水素を固溶せしめる工程と、
前記水素が固溶した金属粒子を担持した担体を、水素濃度が0.5容量%以上の雰囲気中に維持しつつ前記第一の金属と前記第二の金属とのうち他方の金属のイオンを含有する溶液中に浸漬せしめ、前記金属粒子に固溶している水素により前記他方の金属を還元せしめることにより、前記第一の金属と前記第二の金属との固溶体からなる金属粒子が前記担体に担持されている排ガス浄化用触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記固溶体からなる金属粒子の平均一次粒子径が1.5nm以下であり、且つ、前記固溶体からなる金属粒子における一次粒子毎の金属組成比の標準偏差が10%以下であることを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記固溶体からなる金属粒子を担持した担体に、Li,Na,K,Rb,Cs,Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一種の第三の金属を担持せしめる工程を更に含むことを特徴とする請求項4または5に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項7】
酸素過剰雰囲気下において、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化用触媒に排ガスを接触せしめて前記排ガス中の窒素酸化物を浄化することを特徴とする排ガス浄化方法。
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−194384(P2010−194384A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38843(P2009−38843)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]