排ガス浄化用触媒
【課題】セリアを用いて酸素吸放出能を向上させると共に、H2Sの生成を抑制する。
【解決手段】50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含むセリア−ジルコニア複合酸化物を含みPt及びPdの少なくとも一方を担持した下触媒層と、少なくともジルコニアを含み少なくともRhを担持した上触媒層とからなり、担体基材1リットルあたりにおける全CeO2量を15〜30gとした。
CeO2が少ないためH2Sの生成が抑制され、CeO2が少なくても高い酸素吸放出能が発現される。
【解決手段】50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含むセリア−ジルコニア複合酸化物を含みPt及びPdの少なくとも一方を担持した下触媒層と、少なくともジルコニアを含み少なくともRhを担持した上触媒層とからなり、担体基材1リットルあたりにおける全CeO2量を15〜30gとした。
CeO2が少ないためH2Sの生成が抑制され、CeO2が少なくても高い酸素吸放出能が発現される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元触媒として有用な排ガス浄化用触媒に関し、詳しくは硫化水素の排出を大きく抑制できる排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス中のHC、CO及びNOxを浄化する触媒として、三元触媒が広く用いられている。この三元触媒は、アルミナ、セリア、ジルコニア、セリア−ジルコニアなどの多孔質酸化物担体にPt、Rhなどの白金族貴金属を担持してなるものであり、HC及びCOを酸化して浄化するとともに、NOxを還元して浄化する。これらの反応は、酸化成分と還元成分がほぼ当量で存在する雰囲気下で最も効率よく進行するので、三元触媒を搭載した自動車においては、理論空燃比(ストイキ)近傍(A/F=14.6±0.2程度)で燃焼されるように空燃比の制御が行われている。
【0003】
ところが三元触媒においては、排ガス雰囲気が還元側に振れた際に、排ガス中の硫黄酸化物が還元されてH2Sとなって排出されるという不具合があった。例えばアルミナは三元触媒に必須の成分となっているが、アルミナを用いた三元触媒を搭載した自動車では、リッチ雰囲気において触媒温度が 350℃以上の高温の場合にH2Sが生成するという問題があった。H2Sが生成する機構は、以下のように説明される。
【0004】
排ガス中のSO2は、リーン雰囲気において触媒によって酸化されてSO3又はSO4となる。SO3又はSO4はアルミナの塩基点に吸着され、吸着されたSO3又はSO4はアルミナ上に徐々に濃縮される。そしてリッチ雰囲気においてSO3又はSO4が還元され、H2Sが生成すると考えられる。H2Sは微量でも人の嗅覚に知覚されて不快感を与えるので、その排出を抑制する必要がある。
【0005】
また近年の三元触媒では、空燃比の変動を抑制するために、セリア、セリア−ジルコニア複合酸化物などが担体の一成分として用いられている。セリアは酸素吸放出能を有し、リーン雰囲気で酸素を吸収しリッチ雰囲気で酸素を放出するので、排ガス雰囲気を安定してストイキ近傍に維持することができる。しかしながらセリアは塩基性度がアルミナより高いために、アルミナより硫黄酸化物が吸着しやすく、H2Sの排出抑制には逆効果となっている。すなわちセリアなどを用いた酸素吸放出能の向上と、H2Sの生成抑制とは、排反事象の関係にある。
【0006】
そこで三元触媒の成分として、NiあるいはCuの酸化物をさらに用いることが考えられる。NiあるいはCuの酸化物は、酸化雰囲気でSO2をSO3あるいはSO4とし、還元雰囲気では例えば Ni3S2などの硫化物として硫黄成分を貯蔵するので、H2Sの生成を抑制することができる。
【0007】
例えば特公平08−015554号公報には、ニッケル−バリウム複合酸化物、アルミナ、セリアからなる担体に貴金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が記載されている。この担体は、リーン雰囲気ではアルミナ及びセリアが硫黄酸化物を硫酸塩として捕捉し、リッチ雰囲気ではH2Sをニッケル−バリウム複合酸化物が捕捉する。したがってH2Sの排出を抑制することができる。
【0008】
また特表2000−515419号公報あるいは特許第02598817号には、NiO、Fe2O3などを混合した担体とすることで、H2Sの生成を抑制することが記載されている。また特開平07−194978号公報には、Ni及びCaを担持させた担体とすることで、H2Sの生成を抑制することが記載されている。
【0009】
しかしながら、NiあるいはCuは環境負荷物質であるため、自動車の排ガス浄化用触媒用には使用が制限されつつあるという現状がある。また三元触媒にバリウムなどを添加すると、本来の浄化性能を悪化させてしまう場合がある。
【0010】
さらに特開昭63−236541号公報には、アルミナ、セリアに加えて、Ti、Nb、V、Ta及びMnから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含む担体に貴金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が記載され、H2Sの生成を抑制できることが記載されている。
【0011】
また、最も近い背景技術として以下の公知公報がある。特開2007−090254号公報には、上触媒層にRh担持ジルコニア粒子を有してPtを有さず、下触媒層にはPt担持セリア粒子を有し、全セリア含有量が49g/Lの二層コート触媒の実施例の開示がある。
【0012】
また特開2004−298813号公報には、上触媒層として、低熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物又は多孔質アルミナにRhを担持し、セリアとジルコニアの重量比が3:7近傍の熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物を50〜70重量%含有する二層コート排ガス浄化用触媒の開示がある。同公報には、下触媒層として、Pt担持アルミナと、酸素貯蔵性セリア−ジルコニア複合酸化物を有すること、および、セリアとジルコニアの重量比が1:1近傍の酸素貯蔵性セリア−ジルコニア複合酸化物を50〜70重量%含有することが記載されている。
【0013】
さらに特開2007−111650号公報には、排ガスの浄化効率を低下させることなく排気臭の発生を抑制することのできる排ガス浄化用触媒装置の開示がある。これは、上流側と下流側に二個配置した排ガス浄化用触媒装置において、下流側における酸素吸蔵成分量を上流側の酸素吸蔵成分量の約1〜0.5の範囲にすることを特徴とする触媒装置であり、実施例における下流側三元触媒のセリア含有量として30g/Lと20g/Lとが例示されている。
【0014】
しかしながら特開2007−090254号公報に記載の触媒はセリア含有量が多く、安定化剤を含まないため、新品触媒の状態では高い酸素貯蔵能が得られるものの、H2Sの生成が多いことが予測された。またジルコニアや添加剤を含まないため、セリアの粒成長が大きく、耐久試験後の酸素貯蔵能の低下率が大きいことが予測された。
【0015】
また特開2004−298813号公報や特開2007−111650号公報に開示された触媒も、安定化剤を含まず、種類や量の明示が無い。そのため、セリアを含む複合酸化物の粒成長が大きく、酸素貯蔵能の低下率が大きいことが予測された。
【特許文献1】特表2000−515419号公報
【特許文献2】特許第02598817号公報
【特許文献3】特開平07−194978号公報
【特許文献4】特開昭63−236541号公報
【特許文献5】特開2007−090254号公報
【特許文献6】特開2004−298813号公報
【特許文献7】特開2007−111650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、環境負荷物質であるNiあるいはCuを用いることなく、セリアを用いて酸素吸放出能を向上させると共に、H2Sの生成を抑制することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明の排ガス浄化用触媒の特徴は、担体基材と、担体基材の表面に形成された下触媒層と、下触媒層の表面に形成された上触媒層と、よりなる多層構造の排ガス浄化用触媒であって、
下触媒層は、50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含有するセリア−ジルコニア複合酸化物を含む下層担体と、下層担体に担持されたPt及びPdの少なくとも一方とからなり、
上触媒層は、少なくともジルコニアを含む酸化物よりなる上層担体と、上層担体に担持された少なくともRhとからなり、
担体基材1リットルあたりにおける全CeO2量が15〜30gであることにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の排ガス浄化用触媒では、酸素吸放出能を得るために必須のセリア−ジルコニア複合酸化物の多くを下触媒層に配置し、セリア−ジルコニア複合酸化物の組成比と添加剤、及び全CeO2のコート量を最適化することにより、耐久試験後においても触媒性能を引き出すために必要な酸素吸放出能を必要十分な量で確保できる。また排ガス中の硫黄成分が触媒に吸着される量を最小限とすることにより、H2Sの生成が抑制される。
【0019】
すなわち本発明の排ガス浄化用触媒によれば、酸素吸放出能の向上と、H2Sの生成の抑制という、背反し両立が難しい二つの課題が両立する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒は、担体基材と、下触媒層と、上触媒層とから構成されている。担体基材としては、ハニカム形状、フォーム形状、あるいはペレット形状のものを用いることができる。その材質は特に制限されず、コージェライト、SiCなどのセラミックス製のもの、あるいは金属製のものなど公知のものを用いることができる。
【0021】
担体基材の表面には、下触媒層が形成されている。この下触媒層は、下層担体と、下層担体に担持されたPt及びPdの少なくとも一方とからなる。下層担体は、50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含有するセリア−ジルコニア複合酸化物を含んでいる。アルミナ、チタニアなど他の多孔質酸化物を混合してもよい。またセリア−ジルコニア−アルミナ複合酸化物などを用いることもできる。
【0022】
下層担体のセリア−ジルコニア複合酸化物には、セリアが50〜70質量%含まれていることが望ましい。セリアの含有量が50質量%未満では酸素吸放出能が不足し三元触媒としての浄化活性が低下する。またセリアの含有量が70質量%を超えるとH2Sの排出量が多くなる。
【0023】
なおセリア−ジルコニア複合酸化物のみから下層担体を構成すると、担体基材への付着強度が低く使用時に剥離する場合がある。この不具合を防止するには、下層担体中にアルミナを混合することが望ましい。しかし下層担体におけるアルミナの混合量は、担体基材1リットルあたり30〜70gの範囲に抑制すべきである。
【0024】
下層担体のセリア−ジルコニア複合酸化物には、5質量%以上のPr2O3が含まれている。Pr2O3が5質量%未満では酸素吸放出能が低下する。しかし10質量%を超えてPr2O3を含有しても効果が飽和し、CeO2の量が相対的に不足して酸素吸放出能が低下する場合がある。
【0025】
また下層担体のセリア−ジルコニア複合酸化物には、La酸化物がさらに含まれていることが望ましい。La酸化物を含むことで比表面積が増大し浄化活性が向上する。La2O3はセリア−ジルコニア複合酸化物中に1〜5質量%の範囲で含まれることが望ましい。La2O3量が1質量%未満では下層担体の耐熱性が十分ではなく、5質量%を超えると効果が飽和しCeO2量が相対的に不足して酸素吸放出能が低下する場合がある。
【0026】
下層担体には、Pt及びPdの少なくとも一方が担持されている。触媒中の全Pt及び全Pd量の80%以上が下層担体に担持されていることが望ましい。またPtは、セリア−ジルコニア複合酸化物にのみ担持されていることが望ましい。セリア又はセリア−ジルコニア複合酸化物は、Ptの担持量が多くなるほど塩基点の量が少なくなる、という特性をもつことが明らかとなっている。したがってセリア−ジルコニア複合酸化物にのみPtを担持すれば、硫黄酸化物が吸着しにくくなりH2Sの排出をさらに抑制することができる。また、セリアの酸素吸放出能も向上する。
【0027】
Pt及びPdの少なくとも一方の担持量は、下触媒層と上触媒層とに含まれる合計量として、担体基材の1リットルあたり0.05〜3gの範囲が望ましい。Pt及びPdの少なくとも一方の担持量がこの範囲より少ないと三元触媒としての浄化活性が低下し、この範囲より多く担持しても効果が飽和する。なおPt及びPdの少なくとも一方の活性を低下させない範囲であれば、下層担体にRhなど他の触媒金属を担持してもよい。
【0028】
下触媒層を形成するには、下層担体粉末を含むスラリーを担体基材にウォッシュコートし、それにPt及びPdの少なくとも一方を担持してもよいし、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末に予めPt及びPdの少なくとも一方を担持した触媒粉末を含むスラリーを担体基材にウォッシュコートしてもよい。なお下触媒層のコート量は、担体基材の1リットルあたり50〜150gとすることができる。コート量がこの範囲より少ないと、使用中にPtなどに粒成長が生じて劣化する場合がある。またコート量がこの範囲より多くなると、排気圧損が増大する。
【0029】
下触媒層の表面には、上触媒層が形成されている。この上触媒層は、上層担体と、上層担体に担持された少なくともRhとからなる。上層担体は少なくともジルコニアを含む酸化物よりなるものであり、ジルコニア単独で構成してもよいし、セリア、アルミナ、チタニアなど他の多孔質酸化物を混合してもよい。またジルコニア−セリア複合酸化物、ジルコニア−セリア−アルミナ複合酸化物などを用いることもできる。
【0030】
上層担体には、ジルコニアが50質量%以上の量で含まれていることが望ましい。ジルコニアの含有量が50質量%未満では、担持されているRhに粒成長が生じて活性が低下するので好ましくない。複合酸化物を用いる場合には、ジルコニアの濃度がセリアの濃度より高い(ジルコニアリッチ)ジルコニア−セリア複合酸化物を用いることが望ましい。この場合、ジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2量は10〜30質量%の範囲とすることが望ましい。CeO2量が10質量%未満では雰囲気変動を緩和する効果が低下し、30質量%を超えるとSOxが吸着し易くなるためH2Sの排出量が多くなる。
【0031】
なおジルコニアあるいはジルコニア−セリア複合酸化物のみから上層担体を構成すると、下触媒層への付着強度が低く使用時に剥離する場合がある。この不具合を防止するには、上層担体中にアルミナを混合することが望ましい。しかし上層担体におけるアルミナの混合量は、担体基材1リットルあたり10〜40gの範囲に抑制すべきである。
【0032】
上層担体には、Nd酸化物及びY酸化物の少なくとも一種がさらに含まれていることが望ましい。これらを含むことでRhの粒成長が抑制されるとともに、酸素吸放出能が向上する。Nd酸化物及びY酸化物の少なくとも一種は、ジルコニア又はジルコニア−セリア複合酸化物中に7〜30質量%の範囲で含有されていることが望ましい。ジルコニア−セリア複合酸化物を用いる場合には、Nd2O3はジルコニア−セリア複合酸化物中に10〜15質量%の範囲で含まれることが望ましい。Nd2O3量が10質量%未満ではRhの粒成長が生じやすく浄化活性の耐久性が低下し、15質量%を超えるとCeO2量が相対的に不足して酸素吸放出能が低下する。
【0033】
またY2O3は、ジルコニア又はジルコニア−セリア複合酸化物中に7〜15質量%の範囲で含まれることが望ましい。Y2O3が7質量%未満ではRhの粒成長が生じ易くなり、15質量%を超えて含有すると上層担体の比表面積が低下するようになる。
【0034】
上層担体には、少なくともRhが担持されている。触媒中の全Rh量の80%以上のRhが上層担体に担持されていることが望ましい。またRhは、ジルコニア又はジルコニア−セリア複合酸化物にのみ担持されていることが望ましい。このようにすることで、Rhの担体中への固溶が防止され、Rhの劣化を抑制することができる。またRhの還元活性が最大に発現され、NOxの浄化性能が向上する。
【0035】
Rhの担持量は、下触媒層と上触媒層とに含まれるRhの合計量として、担体基材の1リットルあたり0.02〜0.5gの範囲が望ましい。Rhの担持量がこの範囲より少ないと三元触媒としての浄化活性が低下し、この範囲より多く担持しても効果が飽和する。なおRhの活性を低下させない範囲であれば、上層担体にPt、Pdなど他の触媒金属を担持してもよい。
【0036】
上触媒層を形成するには、上層担体粉末を含むスラリーを下触媒層をもつ担体基材にウォッシュコートし、それに少なくともRhを担持してもよいし、ジルコニアあるいはジルコニア−セリア複合酸化物の粉末に予めRhを担持した触媒粉末を含むスラリーを下触媒層をもつ担体基材にウォッシュコートしてもよい。なお上触媒層のコート量は、担体基材の1リットルあたり30〜50gとすることができる。コート量がこの範囲より少ないと、使用中にRhに粒成長が生じて劣化する場合がある。またコート量がこの範囲より多くなると、排気圧損が増大する。
【0037】
CeO2の含有量は、下触媒層と上触媒層との合計中に、担体基材1リットルあたり10〜30g、好ましくは15〜30gの範囲とすることが望ましい。CeO2の含有量が10g/L未満であると酸素吸放出能が不十分となり、30g/Lを超えるとSOxの吸着量が増大してH2Sの生成量が増大する。CeO2の含有量を10〜30g/L、好ましくは15〜30g/Lの範囲とすることで、酸素吸放出能による雰囲気変動の抑制効果と、H2S生成の抑制効果とが両立し易くなる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例、比較例及び試験例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
図1に本実施例の排ガス浄化用触媒を模式的に示す。この排ガス浄化用触媒は、ハニカム基材1と、ハニカム基材1のセル隔壁10の表面にコートされた下触媒層2と、下触媒層2の表面にコートされた上触媒層3と、から構成されている。
【0040】
以下、この排ガス浄化用触媒の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0041】
先ず、60質量%のCeO2、7質量%のPr2O3、3質量%のLa2O3を含み、比表面積約50m2/gのセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用意し、ジニトロジアンミン白金溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してPtを3.3質量%担持したPt/CeO2−ZrO2粉末を調製した。
【0042】
このPt/CeO2−ZrO2粉末30質量部と、γ−アルミナ粉末57質量部と、BaSO4粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)3質量部と、蒸留水とを混合して下層用スラリーを調製した。これにコージェライト製ハニカム基材1(直径103mm、全長105mm)を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して下触媒層2を形成した。下触媒層2は、ハニカム基材1の1L当たり100g形成され、Ptはハニカム基材1の1L当たり1g担持されている。
【0043】
次に、12質量%のNd2O3、9質量%のY2O3、20質量%のCeO2を含むジルコニアリッチのジルコニア−セリア複合酸化物粉末を用意し、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末を調製した。
【0044】
このRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、γ−アルミナ粉末25質量部と、バインダとしてのアルミナゾル( Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーを調製した。これに上記した下触媒層2が形成されたハニカム基材1を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して上触媒層3を形成した。上触媒層3は、ハニカム基材1の1L当たり40g形成され、Rhはハニカム基材1の1L当たり0.3g担持されている。
【0045】
得られた触媒において、含まれるCeO2の総量は、ハニカム基材1の1Lあたり19.3gである。
【0046】
(比較例1)
実施例1で得られたPt/CeO2−ZrO2複合酸化物粉末30質量部と、γ−アルミナ粉末82質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)8質量部と、蒸留水とを混合してスラリーを調製した。これに実施例1と同様のハニカム基材1を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成してコート層を形成した。コート層は、ハニカム基材1の1L当たり140g形成された。
【0047】
次に、所定濃度のジニトロジアンミン白金溶液の所定量をコート層に含浸させ、蒸発乾固してPtを担持した。続いて所定濃度の硝酸ロジウム水溶液をコート層に含浸させ、蒸発乾固してRhを担持した。Ptはハニカム基材1の1L当たり1.0g担持され、Rhはハニカム基材1の1L当たり0.3g担持された。
【0048】
<試験例1>
実施例1及び比較例1の触媒をV型8気筒 4.3Lエンジンの排気系にそれぞれ装着し、硫黄を含有するガソリンを用いて、入りガス温度850℃、A/F=15とA/F=14とを1Hzで振動させる条件にて50時間の耐久試験を施した。
【0049】
直列4気筒の 2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が500℃になるまで理論空燃比で燃焼させ、その間に排出されたNOx量を測定した。結果を図2に示す。
【0050】
図2から、実施例1の触媒は比較例1の触媒に比べてNOx排出量が少ないことがわかる。実施例1の触媒では、PtとRhが下触媒層2と上触媒層3とに分離して担持されているため、PtとRhとの合金化が防止され、高いNOx浄化性能を示したと考えられる。
【0051】
直列4気筒の 2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が 500℃になるまで理論空燃比で燃焼させた。その後 A/Fを14.1から15.1へ、次いで15.1から14.1へ数サイクルスイープするように、サブO2センサの反転タイミングで切り替えた。次式に基づいて触媒流入O2量を算出し、触媒から排出された酸素量との差から酸素吸蔵量を測定した。結果を図3に示す。
【0052】
触媒流入O2量=O2質量割合×ΔA/F ×燃料噴射量
図3から、実施例1の触媒は比較例1とほぼ同等の酸素吸放出能を備え、全CeO2量を19.3g/Lとしても酸素吸放出能にはほとんど影響が無いことがわかる。
【0053】
直列4気筒の2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が 500℃になるまで理論空燃比で燃焼させた。その後A/Fを14.1から15.1へ、次いで15.1から14.1へ数サイクルスイープするように、サブO2センサの反転タイミングで切り替え、その時に排出されるH2S量を連続的に測定した。その際のH2Sの最大排出量を図4に示す。
【0054】
図4から、実施例1の触媒は比較例1の触媒に比べてH2S排出量が少なく、H2Sの生成が抑制されていることが明らかである。
【0055】
<試験例2>
セリア−ジルコニア複合酸化物粉末として、CeO2含有量が40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、ハニカム基材1の表面に下触媒層2を形成した。ハニカム基材1及び上触媒層3は実施例1と同一の構成である。したがってCeO2含有量が60質量%のものは、実施例1の触媒と同一組成である。
【0056】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図5に示す。また耐久試験後の各触媒についてBET比表面積を測定し、結果を図6に示す。
【0057】
図5及び図6から、CeO2含有量が多くなるにつれて酸素吸放出能が向上するものの、比表面積が低下することがわかる。したがって両者のバランスの面から、下触媒層2に含まれるセリア−ジルコニア複合酸化物は、CeO2を50〜70質量%の範囲で含むことが望ましい。
【0058】
<試験例3>
Pr2O3の添加量を変化させたセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いた下層用スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2を形成した。ハニカム基材1及び上触媒層3は実施例1と同一の構成である。なおPr2O3の添加量は、セリア−ジルコニア複合酸化物中に0質量%、3質量%、5質量%、6質量%、8質量%、10質量%、12質量%の7水準とした。
【0059】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図7に示す。
【0060】
図7から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物にPr2O3を5質量%以上含むことで、酸素吸放出能が向上することが明らかである。しかしPr2O3の含有量が多くなり過ぎるとコストアップとなるので、Pr2O3の含有量はセリア−ジルコニア複合酸化物中に11質量%以下の範囲が望ましい。
【0061】
<試験例4>
上記した試験例2で調製された各触媒を用い、試験例1と同様の耐久試験を行った後、試験例1と同様にしてNOx排出量、酸素吸蔵量、H2S最大排出量を測定した。結果を、ハニカム基材1の1リットルあたりに含まれる全CeO2量を横軸に取って、図8〜図10に示す。
【0062】
図8〜図10から、ハニカム基材1の1リットルあたりに含まれる全CeO2量が10〜30gの範囲であれば、NOx排出量が少なく、H2Sの最大排出量は50ppm以下となり臭気を軽減できる。また酸素吸蔵量を鑑みると、全CeO2量は15〜30g/Lの範囲とすることが望ましい。
【0063】
<試験例5>
CeO2を40、50、60、70、80質量%の5水準含み、La2O3を3質量%含み、Pr2O5を7質量%含み、残部ZrO2からなる5種類のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用意し、実施例1と同様にPtを3質量%担持したPt/CeO2−ZrO2末をそれぞれ調製した。
【0064】
それぞれのPt/CeO2−ZrO2粉末30質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)3質量部と、蒸留水とを混合して下層用スラリーをそれぞれ調製し、実施例1と同様のハニカム基材1に同様にして下触媒層2をそれぞれ形成した。
【0065】
そしてCeO2が20質量%、Nd2O3が12質量%、Y2O3が9質量%、残部ZrO2からなるジルコニア−セリア複合酸化物粉末に、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを0.3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末を調製した。
【0066】
このRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーを調製し、実施例1と同様にして、それぞれの下触媒層2の表面に上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0067】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にしてH2S排出量を測定した。結果を図11に示す。
【0068】
図11から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物におけるCeO2含有量が多くなるにつれてH2S排出量が増加していることがわかり、CeO2の含有量はH2S排出量が急激に増大する前の70質量%が上限である。またCeO2量が50質量%未満では、図5に示すように、酸素吸放出能が低くなって雰囲気変動を緩和する効果が低下し浄化活性が低下することがわかっている。したがって下触媒層2を構成するセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量は、50〜70質量%とすることが望ましい。
【0069】
<試験例6>
CeO2を65質量%含み、La2O3を3質量%含み、Pr2O3を3、5、7、8、10、12.5質量%で6水準含み、残部ZrO2からなる6種類のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Pt/CeO2−ZrO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのPt/CeO2−ZrO2粉末を用い、ハニカム基材1の表面に下触媒層2をそれぞれ形成した後、実施例1と同様にして上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0070】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図12に示す。
【0071】
図12から、下触媒層2におけるPr2O3含有量が多くなるにつれて酸素吸蔵量が増加し、Pr2O3含有量が10質量%で酸素吸蔵量はほぼ飽和している。またPr2O3含有量が5質量%未満では、酸素吸蔵量が急激に低下していることもわかる。したがって下触媒層2を構成するセリア−ジルコニア複合酸化物中のPr2O3量は、5〜10質量%とすることが望ましい。
【0072】
<試験例7>
ジルコニア−セリア複合酸化物粉末として、ZrO2含有量が25質量%、37.5質量%、50質量%、75質量%、87.5質量%のジルコニア−セリア複合酸化物粉末をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2の表面に上触媒層3を形成した。ハニカム基材1及び下触媒層2は実施例1と同一の構成である。したがってZrO2含有量が75質量%のものは、実施例1の触媒と同一組成である。
【0073】
得られた各触媒を評価装置にそれぞれ配置し、表1に示すモデルガスを、リッチガス1分間及びリーンガス4分間の条件で交互に繰り返し流しながら、1000℃で5時間保持するリッチ・リーン耐久試験を行った。流量は20L/分である。
【0074】
【表1】
この耐久試験後の各触媒について、CO吸着法によりRhの粒径を測定した。結果を平均粒径値で図13に示す。図13から、上触媒層3にZrO2含有量が50質量%以上のジルコニア−セリア複合酸化物を用いることで、Rhの粒成長が効果的に抑制できることが明らかである。
【0075】
<試験例8>
Y2O3の含有量を変化させたジルコニア−セリア複合酸化物粉末を用いた上層用スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2の表面に上触媒層3を形成した。ハニカム基材1及び下触媒層2は実施例1と同一の構成である。なおY2O3粉末の添加量は、上触媒層3中のジルコニア−セリア複合酸化物粉末に対して0質量%、5質量%、7質量%、10質量%、15質量%、25質量%の6水準とした。
【0076】
得られた各触媒のうち5点について試験例1と同様の耐久試験を行い、試験例7と同様にしてRhの平均粒径を測定した。結果を図14に示す。また耐久試験後の各触媒について、試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図15に示す。
【0077】
図14及び図15から、上触媒層3にY2O3を含むことでRhの粒成長が抑制されるとともに、酸素吸蔵量も向上することがわかる。そしてY2O3の含有量を、上触媒層3のジルコニア−セリア複合酸化物中に7〜15質量%、さらに好ましくは7〜10質量%の範囲とすれば、酸素吸蔵量が特に向上することもわかる。
【0078】
<試験例9>
Nd2O3の含有量を変化させたジルコニア−セリア複合酸化物粉末を用いた上層用スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2の表面に上触媒層3を形成した。ハニカム基材1及び下触媒層2は実施例1と同一の構成である。なおNd2O3の添加量は、ジルコニア−セリア複合酸化物に対して0質量%、5質量%、12質量%、20質量%の4水準とした。
【0079】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、試験例7と同様にしてRhの平均粒径を測定した。結果を図16に示す。また耐久試験後の各触媒について、試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図17に示す。
【0080】
図16及び図17から、上触媒層3にNd2O3を含むことでRhの粒成長が抑制されるとともに、酸素吸蔵量も向上することがわかる。そしてNd2O3の含有量を、上触媒層3中のジルコニア−セリア複合酸化物中に10〜15質量%の範囲とすれば、酸素吸蔵量が特に向上することもわかる。
【0081】
<試験例10>
実施例1と同様にして、Pt/CeO2−ZrO2粉末を調製した。このPt/CeO2−ZrO2粉末を用い、ハニカム基材1の表面に下触媒層2を形成した。
【0082】
CeO2を20質量%含み、Nd2O3を5、12、20質量%で3水準で含み、Y2O3を9質量%含み、残部ZrO2からなるジルコニア−セリア複合酸化物粉末に、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーをそれぞれ調製し、下触媒層2の表面に上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0083】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。また直列4気筒の 2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が 500℃になるまで理論空燃比で燃焼させ、その間のHC浄化率を測定してHC50%浄化温度(T50)を測定した。結果を図18に示す。
【0084】
図18から、上触媒層3のジルコニア−セリア複合酸化物においてNd2O3含有量が多くなるにつれてHC浄化温度が低下するが、酸素吸蔵量にはNd2O3含有量のピーク値があるのでNd2O3の含有量はジルコニア−セリア複合酸化物中に両特性がバランスする10〜15質量%とすることが望ましい。
【0085】
<試験例11>
CeO2を5、10、20、25、30質量%で5水準で含み、Nd2O3を12質量%含み、Y2O3を9質量%含み、残部ZrO2からなるジルコニア−セリア複合酸化物粉末に、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを0.3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーをそれぞれ調製し、試験例10と同様に形成された下触媒層2の表面に上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0086】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にしてH2S排出量を測定した。結果を図19に示す。
【0087】
図19から、上触媒層3におけるジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2含有量が多くなるにつれてH2S排出量が増加していることがわかり、CeO2の含有量はH2S排出量が急激に増大する前の30質量%が上限である。またCeO2量が10質量%未満では、酸素吸放出能が低くなって雰囲気変動を緩和する効果が低下し浄化活性が低下することがわかっている。したがって上触媒層3を構成するジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2量は、10〜30質量%とすることが望ましい。
【0088】
<試験例12>
セリア−ジルコニア複合酸化物粉末に含まれるLa2O3の添加量を変化させたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2を形成した。ハニカム基材1及び上触媒層3は実施例1と同一の構成である。なおLa2O3の添加量は、下触媒層2に含まれるセリア−ジルコニア複合酸化物中に0質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、6質量%の6水準とした。
【0089】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒についてBET比表面積を測定した。結果を図20に示す。
【0090】
図20から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物中にLa2O3を含むことで、耐久試験時における比表面積の低下が抑制されることが明らかである。しかしLa2O3の含有量が多くなり過ぎると、図21に示すようにH2S排出量が増加する不具合が生じることがわかっているので、La2O3の含有量は下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物中に5質量%以下の範囲が望ましい。
【0091】
<試験例13>
CeO2を60質量%含み、La2O3を0、1、2、3、4、6質量%で6水準含み、Pr2O3を7質量%含み、残部ZrO2からなる6種類のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Pt/CeO2−ZrO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのPt/CeO2−ZrO2粉末を用い、ハニカム基材1の表面に下触媒層2をそれぞれ形成した後、試験例5と同様にして上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0092】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にしてH2S排出量を測定した。結果を図21に示す。
【0093】
図21から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物におけるLa2O3含有量が多くなるにつれてH2S排出量が増加していることがわかり、H2S排出量はLa2O3の含有量が4質量%でほぼ飽和している。なお図20のようにLa2O3量が1質量%未満では、耐熱性が急激に低下することがわかっている。したがって下触媒層2を構成するセリア−ジルコニア複合酸化物中のLa2O3量は、1〜5質量%とすることが望ましい。
【0094】
<試験例14>
実施例1の触媒において、全Al2O3量を40〜120g/Lの範囲で40、60、80、100、110、120g/Lの6水準として調製した。得られた各触媒について、試験例1と同様の試験を行いH2S最大排出量を測定した。図22に示すように、触媒中のAl2O3量の増加に伴い、H2S排出量も増加する。全Al2O3量が60g/L以下では、触媒コート層の保持が困難になって剥離が発生するため、全Al2O3量を60〜100g/Lの範囲とすることで、H2S排出抑制と触媒の構造安定性を両立できる。
【0095】
<試験例15>
触媒に含まれるCeO2とZrO2の総量を20〜60g/Lの範囲で、20、25、50、60g/Lとして調製したこと以外は、実施例1と同様にして得られた触媒を用いて、試験例1と同様にしてH2S最大排出量と酸素吸蔵量を測定した。図23に示すように、触媒中のCeO2とZrO2の総量の増加に伴い、酸素吸蔵量は増加するが、一方でH2S量も増加する傾向がある。CeO2とZrO2の総量を25〜50g/Lにすることで、酸素吸蔵量の確保とH2S排出量の抑制を両立できる。
【0096】
<試験例16>
実施例1において各材料比を固定し、総コート量を80〜180g/Lの範囲で、80、100、140、150、160、180g/Lとして調製した。得られた各触媒について試験例1と同様にしてH2S最大排出量を測定し、試験例11と同様にしてHC50%浄化温度を求めた。図24に示すように、総コート量の増加により貴金属の分散度及び排ガスの接触頻度向上によってHC浄化性能は向上するが、一方でH2S排出量は増加する傾向にある。総コート量を100〜150g/Lにすることで、触媒活性とH2S排出抑制を両立できる。
【0097】
<試験例17>
実施例1で用いたセリア−ジルコニア複合酸化物の予備焼成条件を変化させることにより比表面積を変化させ、触媒の総表面積を5000〜11000m2/Lの範囲で、5000、6000、9500、10000、11000m2/Lとして調製した。得られた各触媒について、試験例1と同様にしてH2S最大排出量を測定した。図25に示すように、総表面積の増加によりH2S排出量は増加する傾向がある。しかし総表面積が6000m2/L未満では貴金属の分散性が低下し触媒活性が得られないことから、触媒の総表面積は6000〜10000m2/Lの範囲が好ましい。
【0098】
<試験例18>
上触媒層3に含まれるアルミナ量をハニカム基材1の1リットルあたり45gとしたこと以外は実施例1と同様にして、アルミナ量が多い触媒(比較例2)を調製した。なお実施例1の触媒では、アルミナは上触媒層3にハニカム基材1の1リットルあたり25g含まれている。
【0099】
このアルミナ量が多い比較例2の触媒について、試験例1と同様の耐久試験を行い、試験例1と同様にしてH2Sの最大排出量を測定した。結果を実施例1の触媒の結果と共に図26に示す。
【0100】
図26より、アルミナ量が多くなるとH2Sの排出量が多くなることがわかる。図27には、アルミナ及びセリア−ジルコニア複合酸化物におけるH2Sの脱離挙動を示している。セリア−ジルコニア複合酸化物に吸着した硫黄成分は 600℃以下で大部分が脱離するのに対し、アルミナに吸着した硫黄成分は600℃以上の高温域でも脱離量が多い。したがってアルミナ量が多くなると、高温域までH2S排出量が多くなると考えられる。このことから、含まれるアルミナ量はできるだけ少なくすることが望ましく、触媒全体としてハニカム基材1リットルあたり60〜100gの範囲とすることが望ましい。
【0101】
<試験例19>
CO2-TPD法により、触媒の塩基点量の指標であるCO2脱離量を定量した。試料には直径30mm、長さ50mm、容積35ccのハニカム触媒を用い、触媒評価装置に接地し、試験ガス流量5L/分で測定した。先ずリーンガス(4Vol%O2+96Vol%N2)とリッチガス(4Vol%H2+96Vol%N2)を60秒毎に切替ながら流通させ、初期温度90℃から、昇温速度40℃/分で810℃になるまで昇温した。そして、入りガス温度が810℃になった後、入りガス温度を810℃に保持し、前記リーンガスと前記リッチガスとをそれぞれ10秒と20秒毎に切替ながら10分間流通させる。その後、90℃のN2ガスを30分間流通させた(前処理)。
【0102】
次に、入りガス温度90℃にて、0.5Vol%CO2+99.5Vol%N2からなるガスを10分間流通させ、試料にCO2を吸着させた(CO2吸着処理)。そしてCO2が吸着した試料に対して、90℃のN2ガスを15分間流通させ、その後N2ガスを40℃/分で810℃まで昇温しながら流通させ、CO2を脱離させた(CO2脱離処理)。
【0103】
そして、このCO2脱離処理において、昇温開始から810℃になるまでの間の出ガス中のCO2の量を測定した。CO2濃度の測定には、堀場製作所製のエンジン排ガス分析装置「MEXA-4300FT」を用いた。そして、触媒試料から脱離したCO2の量を触媒1Lあたりの量に換算して、触媒の塩基点量を算出した。
【0104】
上記測定条件において、CO2脱離処理試験時のバックグラウンドが20〜30ppmあるため、系統誤差を含むことが予測される。そのため、塩基点量の算出において、CO2脱離処理の昇温開始時とCO2脱離処理終了時のCO2濃度のバックグラウンドを直線で結び、バックグラウンド以上の濃度において観測された脱離ピーク面積を積分してCO2脱離量を算出する方法を用いた。このCO2脱離量(mmol/L-cat)を触媒の塩基点量とした。
【0105】
上記の方法を用いて実施例1の触媒、および、下記の市販触媒2種類の塩基点量を測定した。実施例1の触媒は、酸素吸蔵能に優れH2S生成量も低い触媒である。市販触媒1は、酸素吸蔵能は優れるがH2Sの生成量が多い触媒であり、市販触媒2は、酸素吸蔵能は不十分であるがH2Sの生成量は少ない触媒である。
【0106】
この3つの触媒から、上記した試料形状に切り出し、それぞれの塩基点量を測定した。その結果、実施例1,市販触媒1、市販触媒2の塩基点量はそれぞれ、5.3、6.4、3.6mmol/L-catとなり、塩基点量を4〜6mmol/L-catの間にすることで、必要な酸素吸蔵能とH2Sの生成量低減の両立が図れると推察した。
【0107】
<試験例20>
実施例1の触媒において、下触媒層中にBaSO4粉末を0〜20g/Lの範囲で、0、5、10、15、20g/L添加し下触媒層を形成した。得られた各触媒について試験例1と同様にしてH2S最大排出量を測定した。また触媒入りガス温度が500℃になるまで理論空燃比で燃焼させる際にHC浄化率を測定し、HC50%浄化温度を求めた。図28に示すように、BaSO4量の増加に伴い、BaSO4量が5〜15g/L以内の範囲においてHC50%浄化温度が低温化し、H2S排出量も低く抑えられるため、BaSO4量は15g/L以内の範囲で添加することが望ましい。
【0108】
<試験例21>
特許文献5の実施例4に記載の触媒を調製し、比較例3の触媒とした。すなわち、Pt担持セリア粒子とPt担持活性アルミナ粒子とを質量比で1:1の比率で混合し、アルミナゾルと水を加えてスラリーを調製し、195g/Lの下触媒層を形成した。その後、特許文献5に記載の方法でRh担持ジルコニア粒子を調製し、Rh担持ジルコニア粒子とセリア粒子とを質量比で10:1の比率で混合し、アルミナゾルと水を加えてスラリーを調製し、75g/Lの上触媒層を形成した。
【0109】
比較例3の触媒は、セリア量が上触媒層に7.5g/L、下触媒層に97.5g/Lと多いことから、新品触媒の状態では高い酸素貯蔵能が得られるものの、図29に示すようにH2Sの生成が多いという問題点がある。また本願の試験例1と同様に耐久試験後の酸素貯蔵能を測定したところ、ジルコニアを含まないためセリア粒子の粒成長が大きく、図30に示すように酸素吸蔵量の低下率が大きかった。
【0110】
<試験例22>
特許文献6の実施例1に記載の触媒を調製し、比較例4の触媒とした。すなわち、Pt担持アルミナと、セリアとジルコニアの質量比が1:1のセリア−ジルコニア複合酸化物と、ベーマイトとを6:3:1の質量比で混合したスラリーを用い、下触媒層を形成した。次いで、セリアとジルコニアの質量比が3:7のRh担持低熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物と、活性アルミナと、ベーマイトとを6:3:1の質量比で混合したスラリーを用い、上触媒層を形成した。特許文献6の実施例1にはコート量の開示が無いので、セリア量が本願のセリア量の上限である30g/Lとなるようにし、下触媒層と上触媒層の質量比を2:1とした。
【0111】
比較例4の触媒について、本願の試験例1と同様に耐久試験後の酸素貯蔵能を測定したところ、添加剤を含まないためセリア−ジルコニア複合酸化物の粒成長が大きく、図31に示すように必要な酸素貯蔵能が得られなかった。
【0112】
<試験例23>
特許文献7の実施例2に記載された下流側三元触媒を調製し、比較例5の触媒とした。すなわち、硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムが溶解した混合水溶液を乾燥して調製されたセリア−ジルコニア複合酸化物(質量比1:1)40g/Lとθ−アルミナ90g/Lとからなる下触媒層にPtを担持し、Rh担持θ−アルミナから上触媒層を形成した。貴金属の担持量などは、本願実施例1と同様とした。
【0113】
比較例5の触媒について、本願の試験例1と同様に耐久試験後の酸素貯蔵能を測定したところ、セリア−ジルコニア複合酸化物の複合化が不十分であること、及びセリア−ジルコニア複合酸化物が添加剤を含まないため、図31に示すようにセリア−ジルコニア複合酸化物の粒成長が大きく、必要な酸素貯蔵能が得られなかった。
【0114】
以上より、特許文献5に記載の触媒では十分にH2Sの発生を抑制できず、特許文献6及び特許文献7に記載の触媒では必要な酸素貯蔵量が得られない。本発明は、触媒中に含まれる各種酸化物を検討した結果、全セリア量が10〜30g/Lと少なくても必要十分な酸素吸蔵能を有する触媒とすることができ、H2S生成量を抑制できる触媒を実現するに至ったものである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の排ガス浄化用触媒は、主に三元触媒として用いることができる。またエンジン直下のいわゆるスタートアップ触媒として用いることもできる。さらに、スタートアップ触媒と床下触媒との二つ以上の触媒を組み合わせたシステム、あるいは二つ以上の触媒を直列に列設したタンデム型触媒システムにおいて、下流側触媒として用いることにより、セリアのもつ酸素吸放出能を向上させるとともに、H2Sの生成を抑制でき、上流側触媒で浄化できなかった変動雰囲気下のNOxなどを厳しい耐久試験後においても十分浄化することができるシステムを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施例に係る排ガス浄化用触媒を要部拡大断面図と共に示す説明図である。
【図2】NOx排出量を示す棒グラフである。
【図3】酸素吸蔵量を示す棒グラフである。
【図4】H2S最大排出量を示す棒グラフである。
【図5】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図6】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量と比表面積との関係を示すグラフである。
【図7】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のPr2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図8】全CeO2量とNOx排出量との関係を示すグラフである。
【図9】全CeO2量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図10】全CeO2量とH2S 最大排出量との関係を示すグラフである。
【図11】下触媒層のセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図12】下触媒層のセリア−ジルコニア複合酸化物中のPr2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図13】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のZrO2量とRh粒径との関係を示すグラフである。
【図14】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のY2O3量とRh粒径との関係を示すグラフである。
【図15】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のY2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図16】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のNd2O3 量とRh粒径との関係を示すグラフである。
【図17】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のNd2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図18】上触媒層のジルコニア−セリア複合酸化物中のNd2O3量とHC50%浄化温度及び酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図19】上触媒層のジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2量とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図20】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のLa2O3量と比表面積との関係を示すグラフである。
【図21】下触媒層のセリア−ジルコニア複合酸化物中のLa2O3量とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図22】触媒中のアルミナ量とH2S最大排出量との関係を示すグラフである。
【図23】全セリアと全ジルコニアの総量に対するH2S最大排出量と酸素吸蔵量の関係を示すグラフである。
【図24】総コート量とHC50%浄化温度及びH2S最大排出量との関係を示すグラフである。
【図25】総表面積とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図26】H2S最大排出量を示す棒グラフである。
【図27】入りガス温度とH2S脱離量との関係を示すグラフである。
【図28】BaSO4の担持量とH2S最大排出量及びHC50%浄化温度との関係を示すグラフである。
【図29】最大H2S排出量を示す棒グラフである。
【図30】酸素吸蔵量を示す棒グラフである。
【図31】酸素吸蔵量を示す棒グラフである。
【符号の説明】
【0117】
1:ハニカム基材 2:下触媒層 3:上触媒層
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元触媒として有用な排ガス浄化用触媒に関し、詳しくは硫化水素の排出を大きく抑制できる排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス中のHC、CO及びNOxを浄化する触媒として、三元触媒が広く用いられている。この三元触媒は、アルミナ、セリア、ジルコニア、セリア−ジルコニアなどの多孔質酸化物担体にPt、Rhなどの白金族貴金属を担持してなるものであり、HC及びCOを酸化して浄化するとともに、NOxを還元して浄化する。これらの反応は、酸化成分と還元成分がほぼ当量で存在する雰囲気下で最も効率よく進行するので、三元触媒を搭載した自動車においては、理論空燃比(ストイキ)近傍(A/F=14.6±0.2程度)で燃焼されるように空燃比の制御が行われている。
【0003】
ところが三元触媒においては、排ガス雰囲気が還元側に振れた際に、排ガス中の硫黄酸化物が還元されてH2Sとなって排出されるという不具合があった。例えばアルミナは三元触媒に必須の成分となっているが、アルミナを用いた三元触媒を搭載した自動車では、リッチ雰囲気において触媒温度が 350℃以上の高温の場合にH2Sが生成するという問題があった。H2Sが生成する機構は、以下のように説明される。
【0004】
排ガス中のSO2は、リーン雰囲気において触媒によって酸化されてSO3又はSO4となる。SO3又はSO4はアルミナの塩基点に吸着され、吸着されたSO3又はSO4はアルミナ上に徐々に濃縮される。そしてリッチ雰囲気においてSO3又はSO4が還元され、H2Sが生成すると考えられる。H2Sは微量でも人の嗅覚に知覚されて不快感を与えるので、その排出を抑制する必要がある。
【0005】
また近年の三元触媒では、空燃比の変動を抑制するために、セリア、セリア−ジルコニア複合酸化物などが担体の一成分として用いられている。セリアは酸素吸放出能を有し、リーン雰囲気で酸素を吸収しリッチ雰囲気で酸素を放出するので、排ガス雰囲気を安定してストイキ近傍に維持することができる。しかしながらセリアは塩基性度がアルミナより高いために、アルミナより硫黄酸化物が吸着しやすく、H2Sの排出抑制には逆効果となっている。すなわちセリアなどを用いた酸素吸放出能の向上と、H2Sの生成抑制とは、排反事象の関係にある。
【0006】
そこで三元触媒の成分として、NiあるいはCuの酸化物をさらに用いることが考えられる。NiあるいはCuの酸化物は、酸化雰囲気でSO2をSO3あるいはSO4とし、還元雰囲気では例えば Ni3S2などの硫化物として硫黄成分を貯蔵するので、H2Sの生成を抑制することができる。
【0007】
例えば特公平08−015554号公報には、ニッケル−バリウム複合酸化物、アルミナ、セリアからなる担体に貴金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が記載されている。この担体は、リーン雰囲気ではアルミナ及びセリアが硫黄酸化物を硫酸塩として捕捉し、リッチ雰囲気ではH2Sをニッケル−バリウム複合酸化物が捕捉する。したがってH2Sの排出を抑制することができる。
【0008】
また特表2000−515419号公報あるいは特許第02598817号には、NiO、Fe2O3などを混合した担体とすることで、H2Sの生成を抑制することが記載されている。また特開平07−194978号公報には、Ni及びCaを担持させた担体とすることで、H2Sの生成を抑制することが記載されている。
【0009】
しかしながら、NiあるいはCuは環境負荷物質であるため、自動車の排ガス浄化用触媒用には使用が制限されつつあるという現状がある。また三元触媒にバリウムなどを添加すると、本来の浄化性能を悪化させてしまう場合がある。
【0010】
さらに特開昭63−236541号公報には、アルミナ、セリアに加えて、Ti、Nb、V、Ta及びMnから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物を含む担体に貴金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が記載され、H2Sの生成を抑制できることが記載されている。
【0011】
また、最も近い背景技術として以下の公知公報がある。特開2007−090254号公報には、上触媒層にRh担持ジルコニア粒子を有してPtを有さず、下触媒層にはPt担持セリア粒子を有し、全セリア含有量が49g/Lの二層コート触媒の実施例の開示がある。
【0012】
また特開2004−298813号公報には、上触媒層として、低熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物又は多孔質アルミナにRhを担持し、セリアとジルコニアの重量比が3:7近傍の熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物を50〜70重量%含有する二層コート排ガス浄化用触媒の開示がある。同公報には、下触媒層として、Pt担持アルミナと、酸素貯蔵性セリア−ジルコニア複合酸化物を有すること、および、セリアとジルコニアの重量比が1:1近傍の酸素貯蔵性セリア−ジルコニア複合酸化物を50〜70重量%含有することが記載されている。
【0013】
さらに特開2007−111650号公報には、排ガスの浄化効率を低下させることなく排気臭の発生を抑制することのできる排ガス浄化用触媒装置の開示がある。これは、上流側と下流側に二個配置した排ガス浄化用触媒装置において、下流側における酸素吸蔵成分量を上流側の酸素吸蔵成分量の約1〜0.5の範囲にすることを特徴とする触媒装置であり、実施例における下流側三元触媒のセリア含有量として30g/Lと20g/Lとが例示されている。
【0014】
しかしながら特開2007−090254号公報に記載の触媒はセリア含有量が多く、安定化剤を含まないため、新品触媒の状態では高い酸素貯蔵能が得られるものの、H2Sの生成が多いことが予測された。またジルコニアや添加剤を含まないため、セリアの粒成長が大きく、耐久試験後の酸素貯蔵能の低下率が大きいことが予測された。
【0015】
また特開2004−298813号公報や特開2007−111650号公報に開示された触媒も、安定化剤を含まず、種類や量の明示が無い。そのため、セリアを含む複合酸化物の粒成長が大きく、酸素貯蔵能の低下率が大きいことが予測された。
【特許文献1】特表2000−515419号公報
【特許文献2】特許第02598817号公報
【特許文献3】特開平07−194978号公報
【特許文献4】特開昭63−236541号公報
【特許文献5】特開2007−090254号公報
【特許文献6】特開2004−298813号公報
【特許文献7】特開2007−111650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、環境負荷物質であるNiあるいはCuを用いることなく、セリアを用いて酸素吸放出能を向上させると共に、H2Sの生成を抑制することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決する本発明の排ガス浄化用触媒の特徴は、担体基材と、担体基材の表面に形成された下触媒層と、下触媒層の表面に形成された上触媒層と、よりなる多層構造の排ガス浄化用触媒であって、
下触媒層は、50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含有するセリア−ジルコニア複合酸化物を含む下層担体と、下層担体に担持されたPt及びPdの少なくとも一方とからなり、
上触媒層は、少なくともジルコニアを含む酸化物よりなる上層担体と、上層担体に担持された少なくともRhとからなり、
担体基材1リットルあたりにおける全CeO2量が15〜30gであることにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の排ガス浄化用触媒では、酸素吸放出能を得るために必須のセリア−ジルコニア複合酸化物の多くを下触媒層に配置し、セリア−ジルコニア複合酸化物の組成比と添加剤、及び全CeO2のコート量を最適化することにより、耐久試験後においても触媒性能を引き出すために必要な酸素吸放出能を必要十分な量で確保できる。また排ガス中の硫黄成分が触媒に吸着される量を最小限とすることにより、H2Sの生成が抑制される。
【0019】
すなわち本発明の排ガス浄化用触媒によれば、酸素吸放出能の向上と、H2Sの生成の抑制という、背反し両立が難しい二つの課題が両立する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の排ガス浄化用触媒は、担体基材と、下触媒層と、上触媒層とから構成されている。担体基材としては、ハニカム形状、フォーム形状、あるいはペレット形状のものを用いることができる。その材質は特に制限されず、コージェライト、SiCなどのセラミックス製のもの、あるいは金属製のものなど公知のものを用いることができる。
【0021】
担体基材の表面には、下触媒層が形成されている。この下触媒層は、下層担体と、下層担体に担持されたPt及びPdの少なくとも一方とからなる。下層担体は、50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含有するセリア−ジルコニア複合酸化物を含んでいる。アルミナ、チタニアなど他の多孔質酸化物を混合してもよい。またセリア−ジルコニア−アルミナ複合酸化物などを用いることもできる。
【0022】
下層担体のセリア−ジルコニア複合酸化物には、セリアが50〜70質量%含まれていることが望ましい。セリアの含有量が50質量%未満では酸素吸放出能が不足し三元触媒としての浄化活性が低下する。またセリアの含有量が70質量%を超えるとH2Sの排出量が多くなる。
【0023】
なおセリア−ジルコニア複合酸化物のみから下層担体を構成すると、担体基材への付着強度が低く使用時に剥離する場合がある。この不具合を防止するには、下層担体中にアルミナを混合することが望ましい。しかし下層担体におけるアルミナの混合量は、担体基材1リットルあたり30〜70gの範囲に抑制すべきである。
【0024】
下層担体のセリア−ジルコニア複合酸化物には、5質量%以上のPr2O3が含まれている。Pr2O3が5質量%未満では酸素吸放出能が低下する。しかし10質量%を超えてPr2O3を含有しても効果が飽和し、CeO2の量が相対的に不足して酸素吸放出能が低下する場合がある。
【0025】
また下層担体のセリア−ジルコニア複合酸化物には、La酸化物がさらに含まれていることが望ましい。La酸化物を含むことで比表面積が増大し浄化活性が向上する。La2O3はセリア−ジルコニア複合酸化物中に1〜5質量%の範囲で含まれることが望ましい。La2O3量が1質量%未満では下層担体の耐熱性が十分ではなく、5質量%を超えると効果が飽和しCeO2量が相対的に不足して酸素吸放出能が低下する場合がある。
【0026】
下層担体には、Pt及びPdの少なくとも一方が担持されている。触媒中の全Pt及び全Pd量の80%以上が下層担体に担持されていることが望ましい。またPtは、セリア−ジルコニア複合酸化物にのみ担持されていることが望ましい。セリア又はセリア−ジルコニア複合酸化物は、Ptの担持量が多くなるほど塩基点の量が少なくなる、という特性をもつことが明らかとなっている。したがってセリア−ジルコニア複合酸化物にのみPtを担持すれば、硫黄酸化物が吸着しにくくなりH2Sの排出をさらに抑制することができる。また、セリアの酸素吸放出能も向上する。
【0027】
Pt及びPdの少なくとも一方の担持量は、下触媒層と上触媒層とに含まれる合計量として、担体基材の1リットルあたり0.05〜3gの範囲が望ましい。Pt及びPdの少なくとも一方の担持量がこの範囲より少ないと三元触媒としての浄化活性が低下し、この範囲より多く担持しても効果が飽和する。なおPt及びPdの少なくとも一方の活性を低下させない範囲であれば、下層担体にRhなど他の触媒金属を担持してもよい。
【0028】
下触媒層を形成するには、下層担体粉末を含むスラリーを担体基材にウォッシュコートし、それにPt及びPdの少なくとも一方を担持してもよいし、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末に予めPt及びPdの少なくとも一方を担持した触媒粉末を含むスラリーを担体基材にウォッシュコートしてもよい。なお下触媒層のコート量は、担体基材の1リットルあたり50〜150gとすることができる。コート量がこの範囲より少ないと、使用中にPtなどに粒成長が生じて劣化する場合がある。またコート量がこの範囲より多くなると、排気圧損が増大する。
【0029】
下触媒層の表面には、上触媒層が形成されている。この上触媒層は、上層担体と、上層担体に担持された少なくともRhとからなる。上層担体は少なくともジルコニアを含む酸化物よりなるものであり、ジルコニア単独で構成してもよいし、セリア、アルミナ、チタニアなど他の多孔質酸化物を混合してもよい。またジルコニア−セリア複合酸化物、ジルコニア−セリア−アルミナ複合酸化物などを用いることもできる。
【0030】
上層担体には、ジルコニアが50質量%以上の量で含まれていることが望ましい。ジルコニアの含有量が50質量%未満では、担持されているRhに粒成長が生じて活性が低下するので好ましくない。複合酸化物を用いる場合には、ジルコニアの濃度がセリアの濃度より高い(ジルコニアリッチ)ジルコニア−セリア複合酸化物を用いることが望ましい。この場合、ジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2量は10〜30質量%の範囲とすることが望ましい。CeO2量が10質量%未満では雰囲気変動を緩和する効果が低下し、30質量%を超えるとSOxが吸着し易くなるためH2Sの排出量が多くなる。
【0031】
なおジルコニアあるいはジルコニア−セリア複合酸化物のみから上層担体を構成すると、下触媒層への付着強度が低く使用時に剥離する場合がある。この不具合を防止するには、上層担体中にアルミナを混合することが望ましい。しかし上層担体におけるアルミナの混合量は、担体基材1リットルあたり10〜40gの範囲に抑制すべきである。
【0032】
上層担体には、Nd酸化物及びY酸化物の少なくとも一種がさらに含まれていることが望ましい。これらを含むことでRhの粒成長が抑制されるとともに、酸素吸放出能が向上する。Nd酸化物及びY酸化物の少なくとも一種は、ジルコニア又はジルコニア−セリア複合酸化物中に7〜30質量%の範囲で含有されていることが望ましい。ジルコニア−セリア複合酸化物を用いる場合には、Nd2O3はジルコニア−セリア複合酸化物中に10〜15質量%の範囲で含まれることが望ましい。Nd2O3量が10質量%未満ではRhの粒成長が生じやすく浄化活性の耐久性が低下し、15質量%を超えるとCeO2量が相対的に不足して酸素吸放出能が低下する。
【0033】
またY2O3は、ジルコニア又はジルコニア−セリア複合酸化物中に7〜15質量%の範囲で含まれることが望ましい。Y2O3が7質量%未満ではRhの粒成長が生じ易くなり、15質量%を超えて含有すると上層担体の比表面積が低下するようになる。
【0034】
上層担体には、少なくともRhが担持されている。触媒中の全Rh量の80%以上のRhが上層担体に担持されていることが望ましい。またRhは、ジルコニア又はジルコニア−セリア複合酸化物にのみ担持されていることが望ましい。このようにすることで、Rhの担体中への固溶が防止され、Rhの劣化を抑制することができる。またRhの還元活性が最大に発現され、NOxの浄化性能が向上する。
【0035】
Rhの担持量は、下触媒層と上触媒層とに含まれるRhの合計量として、担体基材の1リットルあたり0.02〜0.5gの範囲が望ましい。Rhの担持量がこの範囲より少ないと三元触媒としての浄化活性が低下し、この範囲より多く担持しても効果が飽和する。なおRhの活性を低下させない範囲であれば、上層担体にPt、Pdなど他の触媒金属を担持してもよい。
【0036】
上触媒層を形成するには、上層担体粉末を含むスラリーを下触媒層をもつ担体基材にウォッシュコートし、それに少なくともRhを担持してもよいし、ジルコニアあるいはジルコニア−セリア複合酸化物の粉末に予めRhを担持した触媒粉末を含むスラリーを下触媒層をもつ担体基材にウォッシュコートしてもよい。なお上触媒層のコート量は、担体基材の1リットルあたり30〜50gとすることができる。コート量がこの範囲より少ないと、使用中にRhに粒成長が生じて劣化する場合がある。またコート量がこの範囲より多くなると、排気圧損が増大する。
【0037】
CeO2の含有量は、下触媒層と上触媒層との合計中に、担体基材1リットルあたり10〜30g、好ましくは15〜30gの範囲とすることが望ましい。CeO2の含有量が10g/L未満であると酸素吸放出能が不十分となり、30g/Lを超えるとSOxの吸着量が増大してH2Sの生成量が増大する。CeO2の含有量を10〜30g/L、好ましくは15〜30g/Lの範囲とすることで、酸素吸放出能による雰囲気変動の抑制効果と、H2S生成の抑制効果とが両立し易くなる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例、比較例及び試験例により本発明を具体的に説明する。
【0039】
(実施例1)
図1に本実施例の排ガス浄化用触媒を模式的に示す。この排ガス浄化用触媒は、ハニカム基材1と、ハニカム基材1のセル隔壁10の表面にコートされた下触媒層2と、下触媒層2の表面にコートされた上触媒層3と、から構成されている。
【0040】
以下、この排ガス浄化用触媒の製造方法を説明し、構成の詳細な説明に代える。
【0041】
先ず、60質量%のCeO2、7質量%のPr2O3、3質量%のLa2O3を含み、比表面積約50m2/gのセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用意し、ジニトロジアンミン白金溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してPtを3.3質量%担持したPt/CeO2−ZrO2粉末を調製した。
【0042】
このPt/CeO2−ZrO2粉末30質量部と、γ−アルミナ粉末57質量部と、BaSO4粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)3質量部と、蒸留水とを混合して下層用スラリーを調製した。これにコージェライト製ハニカム基材1(直径103mm、全長105mm)を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して下触媒層2を形成した。下触媒層2は、ハニカム基材1の1L当たり100g形成され、Ptはハニカム基材1の1L当たり1g担持されている。
【0043】
次に、12質量%のNd2O3、9質量%のY2O3、20質量%のCeO2を含むジルコニアリッチのジルコニア−セリア複合酸化物粉末を用意し、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末を調製した。
【0044】
このRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、γ−アルミナ粉末25質量部と、バインダとしてのアルミナゾル( Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーを調製した。これに上記した下触媒層2が形成されたハニカム基材1を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して上触媒層3を形成した。上触媒層3は、ハニカム基材1の1L当たり40g形成され、Rhはハニカム基材1の1L当たり0.3g担持されている。
【0045】
得られた触媒において、含まれるCeO2の総量は、ハニカム基材1の1Lあたり19.3gである。
【0046】
(比較例1)
実施例1で得られたPt/CeO2−ZrO2複合酸化物粉末30質量部と、γ−アルミナ粉末82質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)8質量部と、蒸留水とを混合してスラリーを調製した。これに実施例1と同様のハニカム基材1を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成してコート層を形成した。コート層は、ハニカム基材1の1L当たり140g形成された。
【0047】
次に、所定濃度のジニトロジアンミン白金溶液の所定量をコート層に含浸させ、蒸発乾固してPtを担持した。続いて所定濃度の硝酸ロジウム水溶液をコート層に含浸させ、蒸発乾固してRhを担持した。Ptはハニカム基材1の1L当たり1.0g担持され、Rhはハニカム基材1の1L当たり0.3g担持された。
【0048】
<試験例1>
実施例1及び比較例1の触媒をV型8気筒 4.3Lエンジンの排気系にそれぞれ装着し、硫黄を含有するガソリンを用いて、入りガス温度850℃、A/F=15とA/F=14とを1Hzで振動させる条件にて50時間の耐久試験を施した。
【0049】
直列4気筒の 2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が500℃になるまで理論空燃比で燃焼させ、その間に排出されたNOx量を測定した。結果を図2に示す。
【0050】
図2から、実施例1の触媒は比較例1の触媒に比べてNOx排出量が少ないことがわかる。実施例1の触媒では、PtとRhが下触媒層2と上触媒層3とに分離して担持されているため、PtとRhとの合金化が防止され、高いNOx浄化性能を示したと考えられる。
【0051】
直列4気筒の 2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が 500℃になるまで理論空燃比で燃焼させた。その後 A/Fを14.1から15.1へ、次いで15.1から14.1へ数サイクルスイープするように、サブO2センサの反転タイミングで切り替えた。次式に基づいて触媒流入O2量を算出し、触媒から排出された酸素量との差から酸素吸蔵量を測定した。結果を図3に示す。
【0052】
触媒流入O2量=O2質量割合×ΔA/F ×燃料噴射量
図3から、実施例1の触媒は比較例1とほぼ同等の酸素吸放出能を備え、全CeO2量を19.3g/Lとしても酸素吸放出能にはほとんど影響が無いことがわかる。
【0053】
直列4気筒の2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が 500℃になるまで理論空燃比で燃焼させた。その後A/Fを14.1から15.1へ、次いで15.1から14.1へ数サイクルスイープするように、サブO2センサの反転タイミングで切り替え、その時に排出されるH2S量を連続的に測定した。その際のH2Sの最大排出量を図4に示す。
【0054】
図4から、実施例1の触媒は比較例1の触媒に比べてH2S排出量が少なく、H2Sの生成が抑制されていることが明らかである。
【0055】
<試験例2>
セリア−ジルコニア複合酸化物粉末として、CeO2含有量が40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、80質量%のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、ハニカム基材1の表面に下触媒層2を形成した。ハニカム基材1及び上触媒層3は実施例1と同一の構成である。したがってCeO2含有量が60質量%のものは、実施例1の触媒と同一組成である。
【0056】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図5に示す。また耐久試験後の各触媒についてBET比表面積を測定し、結果を図6に示す。
【0057】
図5及び図6から、CeO2含有量が多くなるにつれて酸素吸放出能が向上するものの、比表面積が低下することがわかる。したがって両者のバランスの面から、下触媒層2に含まれるセリア−ジルコニア複合酸化物は、CeO2を50〜70質量%の範囲で含むことが望ましい。
【0058】
<試験例3>
Pr2O3の添加量を変化させたセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いた下層用スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2を形成した。ハニカム基材1及び上触媒層3は実施例1と同一の構成である。なおPr2O3の添加量は、セリア−ジルコニア複合酸化物中に0質量%、3質量%、5質量%、6質量%、8質量%、10質量%、12質量%の7水準とした。
【0059】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図7に示す。
【0060】
図7から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物にPr2O3を5質量%以上含むことで、酸素吸放出能が向上することが明らかである。しかしPr2O3の含有量が多くなり過ぎるとコストアップとなるので、Pr2O3の含有量はセリア−ジルコニア複合酸化物中に11質量%以下の範囲が望ましい。
【0061】
<試験例4>
上記した試験例2で調製された各触媒を用い、試験例1と同様の耐久試験を行った後、試験例1と同様にしてNOx排出量、酸素吸蔵量、H2S最大排出量を測定した。結果を、ハニカム基材1の1リットルあたりに含まれる全CeO2量を横軸に取って、図8〜図10に示す。
【0062】
図8〜図10から、ハニカム基材1の1リットルあたりに含まれる全CeO2量が10〜30gの範囲であれば、NOx排出量が少なく、H2Sの最大排出量は50ppm以下となり臭気を軽減できる。また酸素吸蔵量を鑑みると、全CeO2量は15〜30g/Lの範囲とすることが望ましい。
【0063】
<試験例5>
CeO2を40、50、60、70、80質量%の5水準含み、La2O3を3質量%含み、Pr2O5を7質量%含み、残部ZrO2からなる5種類のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用意し、実施例1と同様にPtを3質量%担持したPt/CeO2−ZrO2末をそれぞれ調製した。
【0064】
それぞれのPt/CeO2−ZrO2粉末30質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)3質量部と、蒸留水とを混合して下層用スラリーをそれぞれ調製し、実施例1と同様のハニカム基材1に同様にして下触媒層2をそれぞれ形成した。
【0065】
そしてCeO2が20質量%、Nd2O3が12質量%、Y2O3が9質量%、残部ZrO2からなるジルコニア−セリア複合酸化物粉末に、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを0.3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末を調製した。
【0066】
このRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーを調製し、実施例1と同様にして、それぞれの下触媒層2の表面に上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0067】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にしてH2S排出量を測定した。結果を図11に示す。
【0068】
図11から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物におけるCeO2含有量が多くなるにつれてH2S排出量が増加していることがわかり、CeO2の含有量はH2S排出量が急激に増大する前の70質量%が上限である。またCeO2量が50質量%未満では、図5に示すように、酸素吸放出能が低くなって雰囲気変動を緩和する効果が低下し浄化活性が低下することがわかっている。したがって下触媒層2を構成するセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量は、50〜70質量%とすることが望ましい。
【0069】
<試験例6>
CeO2を65質量%含み、La2O3を3質量%含み、Pr2O3を3、5、7、8、10、12.5質量%で6水準含み、残部ZrO2からなる6種類のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Pt/CeO2−ZrO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのPt/CeO2−ZrO2粉末を用い、ハニカム基材1の表面に下触媒層2をそれぞれ形成した後、実施例1と同様にして上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0070】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図12に示す。
【0071】
図12から、下触媒層2におけるPr2O3含有量が多くなるにつれて酸素吸蔵量が増加し、Pr2O3含有量が10質量%で酸素吸蔵量はほぼ飽和している。またPr2O3含有量が5質量%未満では、酸素吸蔵量が急激に低下していることもわかる。したがって下触媒層2を構成するセリア−ジルコニア複合酸化物中のPr2O3量は、5〜10質量%とすることが望ましい。
【0072】
<試験例7>
ジルコニア−セリア複合酸化物粉末として、ZrO2含有量が25質量%、37.5質量%、50質量%、75質量%、87.5質量%のジルコニア−セリア複合酸化物粉末をそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2の表面に上触媒層3を形成した。ハニカム基材1及び下触媒層2は実施例1と同一の構成である。したがってZrO2含有量が75質量%のものは、実施例1の触媒と同一組成である。
【0073】
得られた各触媒を評価装置にそれぞれ配置し、表1に示すモデルガスを、リッチガス1分間及びリーンガス4分間の条件で交互に繰り返し流しながら、1000℃で5時間保持するリッチ・リーン耐久試験を行った。流量は20L/分である。
【0074】
【表1】
この耐久試験後の各触媒について、CO吸着法によりRhの粒径を測定した。結果を平均粒径値で図13に示す。図13から、上触媒層3にZrO2含有量が50質量%以上のジルコニア−セリア複合酸化物を用いることで、Rhの粒成長が効果的に抑制できることが明らかである。
【0075】
<試験例8>
Y2O3の含有量を変化させたジルコニア−セリア複合酸化物粉末を用いた上層用スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2の表面に上触媒層3を形成した。ハニカム基材1及び下触媒層2は実施例1と同一の構成である。なおY2O3粉末の添加量は、上触媒層3中のジルコニア−セリア複合酸化物粉末に対して0質量%、5質量%、7質量%、10質量%、15質量%、25質量%の6水準とした。
【0076】
得られた各触媒のうち5点について試験例1と同様の耐久試験を行い、試験例7と同様にしてRhの平均粒径を測定した。結果を図14に示す。また耐久試験後の各触媒について、試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図15に示す。
【0077】
図14及び図15から、上触媒層3にY2O3を含むことでRhの粒成長が抑制されるとともに、酸素吸蔵量も向上することがわかる。そしてY2O3の含有量を、上触媒層3のジルコニア−セリア複合酸化物中に7〜15質量%、さらに好ましくは7〜10質量%の範囲とすれば、酸素吸蔵量が特に向上することもわかる。
【0078】
<試験例9>
Nd2O3の含有量を変化させたジルコニア−セリア複合酸化物粉末を用いた上層用スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2の表面に上触媒層3を形成した。ハニカム基材1及び下触媒層2は実施例1と同一の構成である。なおNd2O3の添加量は、ジルコニア−セリア複合酸化物に対して0質量%、5質量%、12質量%、20質量%の4水準とした。
【0079】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、試験例7と同様にしてRhの平均粒径を測定した。結果を図16に示す。また耐久試験後の各触媒について、試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。結果を図17に示す。
【0080】
図16及び図17から、上触媒層3にNd2O3を含むことでRhの粒成長が抑制されるとともに、酸素吸蔵量も向上することがわかる。そしてNd2O3の含有量を、上触媒層3中のジルコニア−セリア複合酸化物中に10〜15質量%の範囲とすれば、酸素吸蔵量が特に向上することもわかる。
【0081】
<試験例10>
実施例1と同様にして、Pt/CeO2−ZrO2粉末を調製した。このPt/CeO2−ZrO2粉末を用い、ハニカム基材1の表面に下触媒層2を形成した。
【0082】
CeO2を20質量%含み、Nd2O3を5、12、20質量%で3水準で含み、Y2O3を9質量%含み、残部ZrO2からなるジルコニア−セリア複合酸化物粉末に、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーをそれぞれ調製し、下触媒層2の表面に上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0083】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にして酸素吸蔵量を測定した。また直列4気筒の 2.4Lエンジンの排気系に耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、触媒入りガス温度が 500℃になるまで理論空燃比で燃焼させ、その間のHC浄化率を測定してHC50%浄化温度(T50)を測定した。結果を図18に示す。
【0084】
図18から、上触媒層3のジルコニア−セリア複合酸化物においてNd2O3含有量が多くなるにつれてHC浄化温度が低下するが、酸素吸蔵量にはNd2O3含有量のピーク値があるのでNd2O3の含有量はジルコニア−セリア複合酸化物中に両特性がバランスする10〜15質量%とすることが望ましい。
【0085】
<試験例11>
CeO2を5、10、20、25、30質量%で5水準で含み、Nd2O3を12質量%含み、Y2O3を9質量%含み、残部ZrO2からなるジルコニア−セリア複合酸化物粉末に、硝酸ロジウム水溶液の所定量を含浸した後、蒸発乾固してRhを0.3質量%担持したRh/ZrO2−CeO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのRh/ZrO2−CeO2粉末10質量部と、バインダとしてのアルミナゾル(Al2O3:10質量%)5質量部と、蒸留水とを混合して上層用スラリーをそれぞれ調製し、試験例10と同様に形成された下触媒層2の表面に上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0086】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にしてH2S排出量を測定した。結果を図19に示す。
【0087】
図19から、上触媒層3におけるジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2含有量が多くなるにつれてH2S排出量が増加していることがわかり、CeO2の含有量はH2S排出量が急激に増大する前の30質量%が上限である。またCeO2量が10質量%未満では、酸素吸放出能が低くなって雰囲気変動を緩和する効果が低下し浄化活性が低下することがわかっている。したがって上触媒層3を構成するジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2量は、10〜30質量%とすることが望ましい。
【0088】
<試験例12>
セリア−ジルコニア複合酸化物粉末に含まれるLa2O3の添加量を変化させたこと以外は実施例1と同様にして、下触媒層2を形成した。ハニカム基材1及び上触媒層3は実施例1と同一の構成である。なおLa2O3の添加量は、下触媒層2に含まれるセリア−ジルコニア複合酸化物中に0質量%、1質量%、2質量%、3質量%、4質量%、6質量%の6水準とした。
【0089】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒についてBET比表面積を測定した。結果を図20に示す。
【0090】
図20から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物中にLa2O3を含むことで、耐久試験時における比表面積の低下が抑制されることが明らかである。しかしLa2O3の含有量が多くなり過ぎると、図21に示すようにH2S排出量が増加する不具合が生じることがわかっているので、La2O3の含有量は下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物中に5質量%以下の範囲が望ましい。
【0091】
<試験例13>
CeO2を60質量%含み、La2O3を0、1、2、3、4、6質量%で6水準含み、Pr2O3を7質量%含み、残部ZrO2からなる6種類のセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いたこと以外は実施例1と同様にして、Pt/CeO2−ZrO2粉末をそれぞれ調製した。それぞれのPt/CeO2−ZrO2粉末を用い、ハニカム基材1の表面に下触媒層2をそれぞれ形成した後、試験例5と同様にして上触媒層3をそれぞれ形成した。
【0092】
得られた各触媒について試験例1と同様の耐久試験を行い、耐久試験後の各触媒について試験例1と同様にしてH2S排出量を測定した。結果を図21に示す。
【0093】
図21から、下触媒層2のセリア−ジルコニア複合酸化物におけるLa2O3含有量が多くなるにつれてH2S排出量が増加していることがわかり、H2S排出量はLa2O3の含有量が4質量%でほぼ飽和している。なお図20のようにLa2O3量が1質量%未満では、耐熱性が急激に低下することがわかっている。したがって下触媒層2を構成するセリア−ジルコニア複合酸化物中のLa2O3量は、1〜5質量%とすることが望ましい。
【0094】
<試験例14>
実施例1の触媒において、全Al2O3量を40〜120g/Lの範囲で40、60、80、100、110、120g/Lの6水準として調製した。得られた各触媒について、試験例1と同様の試験を行いH2S最大排出量を測定した。図22に示すように、触媒中のAl2O3量の増加に伴い、H2S排出量も増加する。全Al2O3量が60g/L以下では、触媒コート層の保持が困難になって剥離が発生するため、全Al2O3量を60〜100g/Lの範囲とすることで、H2S排出抑制と触媒の構造安定性を両立できる。
【0095】
<試験例15>
触媒に含まれるCeO2とZrO2の総量を20〜60g/Lの範囲で、20、25、50、60g/Lとして調製したこと以外は、実施例1と同様にして得られた触媒を用いて、試験例1と同様にしてH2S最大排出量と酸素吸蔵量を測定した。図23に示すように、触媒中のCeO2とZrO2の総量の増加に伴い、酸素吸蔵量は増加するが、一方でH2S量も増加する傾向がある。CeO2とZrO2の総量を25〜50g/Lにすることで、酸素吸蔵量の確保とH2S排出量の抑制を両立できる。
【0096】
<試験例16>
実施例1において各材料比を固定し、総コート量を80〜180g/Lの範囲で、80、100、140、150、160、180g/Lとして調製した。得られた各触媒について試験例1と同様にしてH2S最大排出量を測定し、試験例11と同様にしてHC50%浄化温度を求めた。図24に示すように、総コート量の増加により貴金属の分散度及び排ガスの接触頻度向上によってHC浄化性能は向上するが、一方でH2S排出量は増加する傾向にある。総コート量を100〜150g/Lにすることで、触媒活性とH2S排出抑制を両立できる。
【0097】
<試験例17>
実施例1で用いたセリア−ジルコニア複合酸化物の予備焼成条件を変化させることにより比表面積を変化させ、触媒の総表面積を5000〜11000m2/Lの範囲で、5000、6000、9500、10000、11000m2/Lとして調製した。得られた各触媒について、試験例1と同様にしてH2S最大排出量を測定した。図25に示すように、総表面積の増加によりH2S排出量は増加する傾向がある。しかし総表面積が6000m2/L未満では貴金属の分散性が低下し触媒活性が得られないことから、触媒の総表面積は6000〜10000m2/Lの範囲が好ましい。
【0098】
<試験例18>
上触媒層3に含まれるアルミナ量をハニカム基材1の1リットルあたり45gとしたこと以外は実施例1と同様にして、アルミナ量が多い触媒(比較例2)を調製した。なお実施例1の触媒では、アルミナは上触媒層3にハニカム基材1の1リットルあたり25g含まれている。
【0099】
このアルミナ量が多い比較例2の触媒について、試験例1と同様の耐久試験を行い、試験例1と同様にしてH2Sの最大排出量を測定した。結果を実施例1の触媒の結果と共に図26に示す。
【0100】
図26より、アルミナ量が多くなるとH2Sの排出量が多くなることがわかる。図27には、アルミナ及びセリア−ジルコニア複合酸化物におけるH2Sの脱離挙動を示している。セリア−ジルコニア複合酸化物に吸着した硫黄成分は 600℃以下で大部分が脱離するのに対し、アルミナに吸着した硫黄成分は600℃以上の高温域でも脱離量が多い。したがってアルミナ量が多くなると、高温域までH2S排出量が多くなると考えられる。このことから、含まれるアルミナ量はできるだけ少なくすることが望ましく、触媒全体としてハニカム基材1リットルあたり60〜100gの範囲とすることが望ましい。
【0101】
<試験例19>
CO2-TPD法により、触媒の塩基点量の指標であるCO2脱離量を定量した。試料には直径30mm、長さ50mm、容積35ccのハニカム触媒を用い、触媒評価装置に接地し、試験ガス流量5L/分で測定した。先ずリーンガス(4Vol%O2+96Vol%N2)とリッチガス(4Vol%H2+96Vol%N2)を60秒毎に切替ながら流通させ、初期温度90℃から、昇温速度40℃/分で810℃になるまで昇温した。そして、入りガス温度が810℃になった後、入りガス温度を810℃に保持し、前記リーンガスと前記リッチガスとをそれぞれ10秒と20秒毎に切替ながら10分間流通させる。その後、90℃のN2ガスを30分間流通させた(前処理)。
【0102】
次に、入りガス温度90℃にて、0.5Vol%CO2+99.5Vol%N2からなるガスを10分間流通させ、試料にCO2を吸着させた(CO2吸着処理)。そしてCO2が吸着した試料に対して、90℃のN2ガスを15分間流通させ、その後N2ガスを40℃/分で810℃まで昇温しながら流通させ、CO2を脱離させた(CO2脱離処理)。
【0103】
そして、このCO2脱離処理において、昇温開始から810℃になるまでの間の出ガス中のCO2の量を測定した。CO2濃度の測定には、堀場製作所製のエンジン排ガス分析装置「MEXA-4300FT」を用いた。そして、触媒試料から脱離したCO2の量を触媒1Lあたりの量に換算して、触媒の塩基点量を算出した。
【0104】
上記測定条件において、CO2脱離処理試験時のバックグラウンドが20〜30ppmあるため、系統誤差を含むことが予測される。そのため、塩基点量の算出において、CO2脱離処理の昇温開始時とCO2脱離処理終了時のCO2濃度のバックグラウンドを直線で結び、バックグラウンド以上の濃度において観測された脱離ピーク面積を積分してCO2脱離量を算出する方法を用いた。このCO2脱離量(mmol/L-cat)を触媒の塩基点量とした。
【0105】
上記の方法を用いて実施例1の触媒、および、下記の市販触媒2種類の塩基点量を測定した。実施例1の触媒は、酸素吸蔵能に優れH2S生成量も低い触媒である。市販触媒1は、酸素吸蔵能は優れるがH2Sの生成量が多い触媒であり、市販触媒2は、酸素吸蔵能は不十分であるがH2Sの生成量は少ない触媒である。
【0106】
この3つの触媒から、上記した試料形状に切り出し、それぞれの塩基点量を測定した。その結果、実施例1,市販触媒1、市販触媒2の塩基点量はそれぞれ、5.3、6.4、3.6mmol/L-catとなり、塩基点量を4〜6mmol/L-catの間にすることで、必要な酸素吸蔵能とH2Sの生成量低減の両立が図れると推察した。
【0107】
<試験例20>
実施例1の触媒において、下触媒層中にBaSO4粉末を0〜20g/Lの範囲で、0、5、10、15、20g/L添加し下触媒層を形成した。得られた各触媒について試験例1と同様にしてH2S最大排出量を測定した。また触媒入りガス温度が500℃になるまで理論空燃比で燃焼させる際にHC浄化率を測定し、HC50%浄化温度を求めた。図28に示すように、BaSO4量の増加に伴い、BaSO4量が5〜15g/L以内の範囲においてHC50%浄化温度が低温化し、H2S排出量も低く抑えられるため、BaSO4量は15g/L以内の範囲で添加することが望ましい。
【0108】
<試験例21>
特許文献5の実施例4に記載の触媒を調製し、比較例3の触媒とした。すなわち、Pt担持セリア粒子とPt担持活性アルミナ粒子とを質量比で1:1の比率で混合し、アルミナゾルと水を加えてスラリーを調製し、195g/Lの下触媒層を形成した。その後、特許文献5に記載の方法でRh担持ジルコニア粒子を調製し、Rh担持ジルコニア粒子とセリア粒子とを質量比で10:1の比率で混合し、アルミナゾルと水を加えてスラリーを調製し、75g/Lの上触媒層を形成した。
【0109】
比較例3の触媒は、セリア量が上触媒層に7.5g/L、下触媒層に97.5g/Lと多いことから、新品触媒の状態では高い酸素貯蔵能が得られるものの、図29に示すようにH2Sの生成が多いという問題点がある。また本願の試験例1と同様に耐久試験後の酸素貯蔵能を測定したところ、ジルコニアを含まないためセリア粒子の粒成長が大きく、図30に示すように酸素吸蔵量の低下率が大きかった。
【0110】
<試験例22>
特許文献6の実施例1に記載の触媒を調製し、比較例4の触媒とした。すなわち、Pt担持アルミナと、セリアとジルコニアの質量比が1:1のセリア−ジルコニア複合酸化物と、ベーマイトとを6:3:1の質量比で混合したスラリーを用い、下触媒層を形成した。次いで、セリアとジルコニアの質量比が3:7のRh担持低熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物と、活性アルミナと、ベーマイトとを6:3:1の質量比で混合したスラリーを用い、上触媒層を形成した。特許文献6の実施例1にはコート量の開示が無いので、セリア量が本願のセリア量の上限である30g/Lとなるようにし、下触媒層と上触媒層の質量比を2:1とした。
【0111】
比較例4の触媒について、本願の試験例1と同様に耐久試験後の酸素貯蔵能を測定したところ、添加剤を含まないためセリア−ジルコニア複合酸化物の粒成長が大きく、図31に示すように必要な酸素貯蔵能が得られなかった。
【0112】
<試験例23>
特許文献7の実施例2に記載された下流側三元触媒を調製し、比較例5の触媒とした。すなわち、硝酸セリウムと硝酸ジルコニウムが溶解した混合水溶液を乾燥して調製されたセリア−ジルコニア複合酸化物(質量比1:1)40g/Lとθ−アルミナ90g/Lとからなる下触媒層にPtを担持し、Rh担持θ−アルミナから上触媒層を形成した。貴金属の担持量などは、本願実施例1と同様とした。
【0113】
比較例5の触媒について、本願の試験例1と同様に耐久試験後の酸素貯蔵能を測定したところ、セリア−ジルコニア複合酸化物の複合化が不十分であること、及びセリア−ジルコニア複合酸化物が添加剤を含まないため、図31に示すようにセリア−ジルコニア複合酸化物の粒成長が大きく、必要な酸素貯蔵能が得られなかった。
【0114】
以上より、特許文献5に記載の触媒では十分にH2Sの発生を抑制できず、特許文献6及び特許文献7に記載の触媒では必要な酸素貯蔵量が得られない。本発明は、触媒中に含まれる各種酸化物を検討した結果、全セリア量が10〜30g/Lと少なくても必要十分な酸素吸蔵能を有する触媒とすることができ、H2S生成量を抑制できる触媒を実現するに至ったものである。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の排ガス浄化用触媒は、主に三元触媒として用いることができる。またエンジン直下のいわゆるスタートアップ触媒として用いることもできる。さらに、スタートアップ触媒と床下触媒との二つ以上の触媒を組み合わせたシステム、あるいは二つ以上の触媒を直列に列設したタンデム型触媒システムにおいて、下流側触媒として用いることにより、セリアのもつ酸素吸放出能を向上させるとともに、H2Sの生成を抑制でき、上流側触媒で浄化できなかった変動雰囲気下のNOxなどを厳しい耐久試験後においても十分浄化することができるシステムを構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本発明の一実施例に係る排ガス浄化用触媒を要部拡大断面図と共に示す説明図である。
【図2】NOx排出量を示す棒グラフである。
【図3】酸素吸蔵量を示す棒グラフである。
【図4】H2S最大排出量を示す棒グラフである。
【図5】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図6】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量と比表面積との関係を示すグラフである。
【図7】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のPr2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図8】全CeO2量とNOx排出量との関係を示すグラフである。
【図9】全CeO2量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図10】全CeO2量とH2S 最大排出量との関係を示すグラフである。
【図11】下触媒層のセリア−ジルコニア複合酸化物中のCeO2量とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図12】下触媒層のセリア−ジルコニア複合酸化物中のPr2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図13】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のZrO2量とRh粒径との関係を示すグラフである。
【図14】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のY2O3量とRh粒径との関係を示すグラフである。
【図15】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のY2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図16】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のNd2O3 量とRh粒径との関係を示すグラフである。
【図17】上層触媒のジルコニア−セリア複合酸化物中のNd2O3量と酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図18】上触媒層のジルコニア−セリア複合酸化物中のNd2O3量とHC50%浄化温度及び酸素吸蔵量との関係を示すグラフである。
【図19】上触媒層のジルコニア−セリア複合酸化物中のCeO2量とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図20】下層触媒のセリア−ジルコニア複合酸化物中のLa2O3量と比表面積との関係を示すグラフである。
【図21】下触媒層のセリア−ジルコニア複合酸化物中のLa2O3量とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図22】触媒中のアルミナ量とH2S最大排出量との関係を示すグラフである。
【図23】全セリアと全ジルコニアの総量に対するH2S最大排出量と酸素吸蔵量の関係を示すグラフである。
【図24】総コート量とHC50%浄化温度及びH2S最大排出量との関係を示すグラフである。
【図25】総表面積とH2S排出量との関係を示すグラフである。
【図26】H2S最大排出量を示す棒グラフである。
【図27】入りガス温度とH2S脱離量との関係を示すグラフである。
【図28】BaSO4の担持量とH2S最大排出量及びHC50%浄化温度との関係を示すグラフである。
【図29】最大H2S排出量を示す棒グラフである。
【図30】酸素吸蔵量を示す棒グラフである。
【図31】酸素吸蔵量を示す棒グラフである。
【符号の説明】
【0117】
1:ハニカム基材 2:下触媒層 3:上触媒層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体基材と、該担体基材の表面に形成された下触媒層と、該下触媒層の表面に形成された上触媒層と、よりなる多層構造の排ガス浄化用触媒であって、
該下触媒層は、50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含有するセリア−ジルコニア複合酸化物を含む下層担体と、該下層担体に担持されたPt及びPdの少なくとも一方とからなり、
該上触媒層は、少なくともジルコニアを含む酸化物よりなる上層担体と、該上層担体に担持された少なくともRhとからなり、
該担体基材1リットルあたりにおける全CeO2量が15〜30gであることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記上層担体には、ZrO2量が50質量%以上のジルコニア−セリア複合酸化物を含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記ジルコニア−セリア複合酸化物には7〜15質量%のY2O3を含む請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記ジルコニア−セリア複合酸化物には10〜15質量%のNd2O3を含む請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記ジルコニア−セリア複合酸化物は10〜30質量%のCeO2を含む請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記セリア−ジルコニア複合酸化物は1質量%以上のLa2O3を含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
触媒中に含まれる全アルミナ量は前記担体基材1リットルあたり100g以下である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
触媒中に含まれる全セリア及び全ジルコニアの総量は前記担体基材1リットルあたり30〜50gである請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記下触媒層と前記上触媒層との合計形成量は前記担体基材1リットルあたり150g以下である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
総表面積が6000〜10000m2/Lである請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項11】
全Rhの80%以上が前記上触媒層の前記ジルコニア−セリア複合酸化物に担持されている請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項12】
全Ptの80%以上が前記した触媒層の前記セリア−ジルコニア複合酸化物に担持されている請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項13】
前記下層担体及び前記上層担体には、2〜6質量%のLa2O3を含有する活性アルミナを含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項14】
前記担体基材1リットルあたり15g以内のBaSO4を含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項1】
担体基材と、該担体基材の表面に形成された下触媒層と、該下触媒層の表面に形成された上触媒層と、よりなる多層構造の排ガス浄化用触媒であって、
該下触媒層は、50〜70質量%のCeO2と5質量%以上のPr2O3とを含有するセリア−ジルコニア複合酸化物を含む下層担体と、該下層担体に担持されたPt及びPdの少なくとも一方とからなり、
該上触媒層は、少なくともジルコニアを含む酸化物よりなる上層担体と、該上層担体に担持された少なくともRhとからなり、
該担体基材1リットルあたりにおける全CeO2量が15〜30gであることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記上層担体には、ZrO2量が50質量%以上のジルコニア−セリア複合酸化物を含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記ジルコニア−セリア複合酸化物には7〜15質量%のY2O3を含む請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記ジルコニア−セリア複合酸化物には10〜15質量%のNd2O3を含む請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記ジルコニア−セリア複合酸化物は10〜30質量%のCeO2を含む請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記セリア−ジルコニア複合酸化物は1質量%以上のLa2O3を含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
触媒中に含まれる全アルミナ量は前記担体基材1リットルあたり100g以下である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
触媒中に含まれる全セリア及び全ジルコニアの総量は前記担体基材1リットルあたり30〜50gである請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
前記下触媒層と前記上触媒層との合計形成量は前記担体基材1リットルあたり150g以下である請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
総表面積が6000〜10000m2/Lである請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項11】
全Rhの80%以上が前記上触媒層の前記ジルコニア−セリア複合酸化物に担持されている請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項12】
全Ptの80%以上が前記した触媒層の前記セリア−ジルコニア複合酸化物に担持されている請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項13】
前記下層担体及び前記上層担体には、2〜6質量%のLa2O3を含有する活性アルミナを含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項14】
前記担体基材1リットルあたり15g以内のBaSO4を含む請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【図24】
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【図26】
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【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2010−5587(P2010−5587A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170769(P2008−170769)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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