説明

排ガス浄化用触媒

【課題】触媒貴金属の浄化特性を十分に発揮でき、触媒の低温浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】排ガスが流通するガス流路を形成する基材1と、基材1上に形成された触媒層10とからなる。触媒層10は、基材1の表面に形成された下触媒層2と、下触媒層2の表面であってガス流れ方向の上流側を被覆する前段上触媒層3と、下触媒層2の表面であって前段上触媒層3よりもガス流れ方向の下流側を被覆する後段上触媒層4とから構成されている。下触媒層2は、PdおよびPtの少なくとも1種を担持している。前段上触媒層3は、Pdを担持している。後段上触媒層4は、Rhを担持している。前段上触媒層3のPd担持密度は,4.5〜12質量%である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関し、特に排ガス流路の上流側と下流側とで異種触媒貴金属を担持した排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンから排出された排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒では、基材表面に触媒層が形成されている。触媒層は、Pt、Pd、Rhなどの触媒貴金属と、触媒貴金属を担持する担体とを有する。触媒貴金属や担体は、各成分によって性能が異なる。このため、各成分の性質を効果的に発揮できるように、触媒の各部位での温度、排ガス成分などに勾配があることを考慮して、基材の上流側と下流側とに別個の成分を配置したゾーンコート触媒や、基材の内層と外層とで別個の成分を配置した触媒が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、上流部内層の担体をセリアリッチのセリア・ジルコニア複合酸化物とし、上流部外層及び下流部の担体をジルコニアリッチのジルコニア・セリア複合酸化物にすることが開示されている。上流部内層側のセリアリッチ複合酸化物が排ガス成分を吸着し、その吸着された排ガス成分を触媒層中に含まれる貴金属が分解する。これにより、排ガスの浄化性能を高め、特に着火性を高める。
【0004】
また、特許文献2には、内層がセリアと第1パラジウム触媒成分とを含み、外層がアルミナと第2パラジウム触媒成分を含む触媒が開示されている。内層では、セリアと第1パラジウム触媒成分とが密に接触していることでこのセリアが高温(例えば500℃以上)で示す酸化還元特性が助長される。外層の第2パラジウム触媒成分は初期加熱中および500℃以下の運転温度でも充分な触媒活性を示す。このように、内層と外層で担体の種類を換えることにより触媒の運転温度ウインドウを広げて、パラジウムの性能を改良する。
【0005】
また、特許文献3には、上流側にRhを含み、下流側にRhとRh以外の触媒貴金属とを含みRh以外の触媒貴金属をRhよりも多く担持させている。これにより、高温となりやすい上流側では、Rhは他の貴金属との合金化を抑制できる。また、下流側では、Rh以外の触媒貴金属による浄化作用を発揮させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−38072号公報(段落番号「0010」)
【特許文献2】特表平09−500570号公報(請求項85)
【特許文献3】特開2006−326428号公報(段落番号「0009」〜「0011」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3の排ガス浄化用触媒は、いずれも、触媒貴金属の浄化特性を十分に考慮して基材上の各部位に触媒層を配置したものではない。触媒貴金属には、Rh、Pt、Pdがある。Pt及びPdは主としてCO及びHCの酸化浄化に寄与し、Rhは主としてNOxの還元浄化に寄与する。触媒貴金属の浄化特性を十分に発揮させる構成が望まれている。
【0008】
また、近年ハイブリッド車のように、エンジンの停止と運転を頻繁に繰り返す車両が多くなってきた。このため、触媒の低温浄化性能の向上が望まれている。そのためには、触媒貴金属の担持量を増やすことが考えられるが、コストアップにつながる。
【0009】
また、触媒の暖機性能は、上流部の触媒貴金属の活性と触媒の暖まりやすさ即ち熱容量によって影響を受ける。上流側と下流側とで異種成分の触媒層を配置したゾーンコート触媒では、上流側の触媒貴金属の活性は上流側の前段触媒層の長さ及びコート量に依存すると考えられる。触媒の暖まりやすさは、前段触媒層のコート量や成分に大きく依存すると考えられる。したがって、暖機性を高めるための触媒層の最適な長さ及びコート量が存在すると考えられる。
【0010】
また、下流側の後段触媒層においては、より下流側に位置するほど硫黄などの被毒や雰囲気劣化の影響を受けやすい。後段触媒層は、上流側に配置されるほど、触媒貴金属の利用効率が向上する。このため、後段触媒層には、最適なバランスを有する長さが存在すると考えられる。よって、ゾーンコート触媒の性能を最大限に引き出すための最適な上流側及び下流側の触媒層の長さとコート量の設定が重要である。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、触媒貴金属の浄化特性を十分に発揮でき、触媒の低温浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の排ガス浄化用触媒は、排ガスが流通するガス流路を形成する基材と、該基材上に形成された触媒層とからなり、該触媒層は、該基材の表面に形成された下触媒層と、該下触媒層の表面であって前記排ガスのガス流れ方向の上流側を被覆する前段上触媒層と、該下触媒層の表面であって前記前段上触媒層よりも前記ガス流れ方向の下流側を被覆する後段上触媒層とから構成されている排ガス浄化用触媒であって、前記下触媒層は、PdおよびPtの少なくとも1種を担持し、前記後段上触媒層は、Rhを担持し、前記前段上触媒層は、Pdを担持しており、前記前段上触媒層のPd担持密度は、4.5〜12質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の排ガス浄化用触媒は、PdおよびPtの少なくとも1種を担持した下触媒層と、Pdを含む前段上触媒層と、Rhを含む後段上触媒層とをもつ。前段上触媒層では、Pdにより主として排ガス中のHCの酸化浄化が行われる。HC(炭化水素)は、分子構造が比較的大きく、上流側触媒層の内部に拡散しにくい。
【0014】
また、HCは、COやNOxに比べて分子量が多く、分解されにくい。このため、HCの浄化反応には、COやNOxの浄化反応に比べて、高い活性化エネルギーが必要であり、HCの反応環境は高い温度であることがよい。そこで、本発明では、HCが拡散しやすい上側(表面側)であって、しかも高温となりやすい上流側の前段上触媒層に、HCを浄化し得るPdを担持している。従って、Pdは、HCとの接触機会が多くなり、また高温下において高効率でHCを浄化することができる。
【0015】
さらに、本発明においては、前段上触媒層に担持されるPdの担持密度を4.5〜12質量%としている。ここで、前段上触媒層に担持されるPdの担持密度とは、前記前段上触媒層の全体質量を100質量%としたときのPdの担持密度をいう。Pdの担持密度が4.5質量%未満の場合には、触媒の絶対量が少なすぎて,Pdにより浄化されるHC量が低下するおそれがある。Pdの担持密度が12質量%を超える場合にも、PdによるHC浄化量が低下するおそれがある。これは、Pdの担持密度が多すぎて、Pd単位質量当たりに接触する排ガス成分量が少なくなり、Pdの浄化性能を十分に発揮させることができなくなったためであると考えられる。
【0016】
このように、前段上触媒層に担持されるPdの担持密度を4.5〜12質量%と従来よりも高くすることにより、従来よりも触媒の低温活性が高くなり、また排ガス浄化用触媒全体のコストアップも抑えられる。
【0017】
そして、下流側の後段上触媒層では、Rhにより主として排ガス中のNOxの還元浄化が行われる。Rhは、排ガス中の前段上触媒層で酸化浄化されなかった残存HCから、水素改質反応によって水素を発生させる。この水素の還元力によって、排ガス中のNOxが還元浄化される。
【0018】
排ガス成分の中のCOは、分子構造が比較的小さく、拡散速度が比較的速い。このため、COは、前段上触媒層及び後段上触媒層よりも内部に配置されている下触媒層に素早く拡散することができる。ゆえに、下触媒層に担持されているPt又はPdは、主としてCO及び残存HCを酸化浄化することができる。
【0019】
以上のように、本発明では、触媒貴金属を触媒貴金属の特性に最適な部位に配置して、触媒貴金属の浄化特性を高効率で発揮させている。しかも、Pdを従来よりも高い密度で担持させることで、低温での触媒活性を高めている。したがって、エンジン始動直後やハイブリッド車のエンジン間欠停止後などの冷間時でも、高い排ガス浄化性能を発揮することができる。
【0020】
前記下触媒層の長さに対する前記前段上触媒層の長さの比率は、20〜40%であることが好ましい。この場合には、前段上触媒層の触媒活性を十分に発揮させることができ、また下流側に後段上触媒層を設けるスペースが確保される。ゆえに、後段上触媒層のRhによるNOx浄化性能を十分に発揮させつつ、前段上触媒層のHC浄化性能を高くすることができる。
【0021】
前記下触媒層の長さに対する前記後段上触媒層の長さの比率は、70〜85%であることが好ましい。この場合には、後段上触媒層に担持されているRhによるNOx浄化性能が効果的に発揮する。
【0022】
前記下触媒層には、酸素吸放出材が含まれており、前記基材1リットル当たりの前記下触媒層のコート量は、105〜155gであることが好ましい。
【0023】
酸素吸放出材は、酸化雰囲気で酸素を貯蔵し、還元雰囲気で酸素を放出する酸素吸放出(OSC)性能をもつ。酸素濃度が低くなりやすい下触媒層に酸素吸放出材を含めることにより、下触媒層の浄化反応環境を安定に保持できる。酸素吸放出材が、上記の含有量であることにより、下触媒層を適度な酸素濃度に保持でき、Pd又はPtによる排ガス浄化性能を効果的に発揮することができる。
【0024】
また、基材1リットル当たりの下触媒層のコート量は、105〜155gであるため、充分なOSC性能を維持しつつ、ガス流路の開口面積を十分に確保して圧力損失を抑えることができる。
【0025】
前記前段上触媒層は、Pdを担持したAlと、Pdを担持しない酸素吸放出材とからなることが好ましい。この場合には、Pdを担持する担体がAlからなり、Pdを担持する担体には、酸素吸放出材が含まれていない。このため、前段上触媒層による排ガス中のHCの低温浄化性能が高くなる。また、前段上触媒層には、酸素吸放出材が含まれているため、排ガス浄化触媒の上流側の雰囲気変動が緩和され、後段上触媒層の触媒の劣化が抑制される。
【0026】
前記前段上触媒層の前記酸素吸放出材は、前記酸素吸放出材全体を100質量%としたとき、30〜60質量%のCeOを含むことが好ましい。この場合には、酸素吸放出材の酸素吸放出能を効果的に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の排ガス浄化用触媒によれば、触媒貴金属の種類に応じて各種触媒貴金属を基材上の適切な部位に配置させ、且つ前段上触媒層の触媒貴金属の担持密度を従来よりも高い所定の範囲にしているため、触媒貴金属の浄化特性を十分に発揮でき、触媒の低温浄化性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1の排ガス浄化用触媒の断面図である。
【図2】実施例1の基材の斜視図である。
【図3】比較例1の排ガス浄化用触媒の断面図である。
【図4】前段上触媒層のPd担持密度とHC浄化量との関係を示す線図である。
【図5】前段上触媒層のPd担持密度と圧力損失との関係を示す線図である。
【図6】検討1における排ガス浄化用触媒の断面図である。
【図7】検討1における、前段上触媒層のコート量とHC50%浄化時間との関係を示す線図である。
【図8】検討2における、後段上触媒層の長さとHC50%浄化温度との関係を示す線図である。
【図9】検討2における、後段上触媒層の長さとNOx排出量との関係を示す線図である。
【図10】検討3における、後段上触媒層のコート量とNOx排出量との関係を示す線図である。
【図11】検討4における、下触媒層のコート量とOSC性能との関係を示す線図である。
【図12】検討4における、下触媒層のコート量と圧力損失との関係を示す線図である。
【図13】検討5における、下触媒層のコート量とHC−50%浄化温度との関係を示す線図である。
【図14】検討5における、下触媒層のコート量とOSC性能との関係を示す線図である。
【図15】検討6で用いられた排ガス浄化用触媒の断面図である。
【図16】検討6における、前段上触媒層に用いた担体中のCeO濃度とHC50%浄化時間との関係を示す線図である。
【図17】検討7における、前段上触媒層の中に酸素吸放出材がある場合とない場合の耐久時間とOSC能との関係を示す線図である。
【図18】検討7における、触媒の各部位の担体粒子の粒子径を示す線図である。
【図19】検討8における、前段上触媒層中の酸素吸放出材100質量%に対するCeOの含有量と酸素排出時間との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の排ガス浄化用触媒は、基材と、基材の表面に形成された下触媒層と、下触媒層の表面であって上流側に形成された前段上触媒層と、下触媒層の表面であって下流側に形成された後段上触媒層とを有する。
【0030】
基材は、ガス流路を有する構造をもち、例えば、ハニカム形状、フォーム形状、プレート形状などの形状を有するものを用いる。基材の材質は、特に限定されず、コージェライト、SiCなどのセラミックス製のもの、あるいは金属製のものなど、公知のものを用いることができる。
【0031】
下触媒層は、触媒貴金属と、触媒貴金属を担持する担体とからなる。下触媒層の触媒貴金属は、Pt及びPdの少なくとも1種を含む。下触媒層の触媒貴金属は、Ptのみからなる場合、Pdのみからなる場合、Pt及びPdからなる場合のいずれでもよい。触媒貴金属は、Pt及びPdのほかに、PtやPdの性能を妨げないように、Rhなどの他の触媒貴金属を含んでいても良い。
【0032】
本明細書において「基材1リットル当たり」とは、「基材の純体積に、基材の内部に形成されている空隙の容積も含めた全体の嵩容積1リットル当たり」を意味する。基材の内部がセルに区画されている場合には、基材の純体積に、セルの容積も含めた全体の嵩容積1リットルを意味する。基材1リットル当たりの各成分の質量は、g/Lとして表記する場合がある。
【0033】
下触媒層の担体は、酸素吸放出材を含むことがよい。酸素吸放出材は、CeO(セリア)を含むことが好ましい。この場合には、酸素濃度が低くなりやすい下触媒層での酸素濃度をある程度の高さに保つことができ、触媒貴金属による排ガス浄化性能が向上する。
【0034】
下触媒層中の酸素吸放出材の含有量は、下触媒層全体を100質量%としたときに、50〜90質量%であることが好ましい。この場合には、下触媒層中の酸素濃度を安定に維持することができる。
【0035】
下触媒層の中のCeOの含有量は、基材1リットル当たり、21〜30gであることが好ましい。21g未満の場合には、下触媒層中の酸素濃度を安定に維持することができないおそれがある。30gを超える場合には、下触媒層のNOx浄化性能が低下するおそれがある。
【0036】
下触媒層の担体は、CeOとZrOとが固溶したCeO−ZrO複合酸化物を含んでいることが好ましい。CeOの粒成長が抑制され、耐久後のOSC性能の低下を抑制することができる。
【0037】
下触媒層のコート量は、基材1リットル当たり、105〜155gであることが好ましく、更には、基材1リットル当たり、150〜155gであることが望ましい。「コート量」とは、「基材表面にコートされる下触媒層の質量を、基材1リットルにコートされる下触媒層の質量に換算した質量」をいう。基材1リットルとは,「基材の純体積に、基材の内部に形成されている空隙の容積も含めた全体の嵩容積1リットル当たり」を意味する。下触媒層のコート量が105g未満の場合には、下触媒層が薄すぎて、PdやPtの触媒活性が低下するおそれがある。155gを超える場合には、圧力損失が大きくなるおそれがある。
【0038】
下触媒層の厚みは、10〜30μmであることが好ましい。この場合には、下触媒層の触媒活性が高く、また圧力損失も抑制できる。
【0039】
前段上触媒層は、触媒貴金属としてのPdと、担体とからなる。Pdは、主として排ガス中のHCを浄化する。
【0040】
Pdの担持密度は、4.5〜12質量%である。「Pdの担持密度」とは、前段上触媒層のコート質量に対するPdの担持質量の比率」をいう。下触媒層の表面には、前段上触媒層と後段上触媒層とが並存している。このため、Pdを含む前段上触媒層の長さは、下触媒層の長さよりも短い。ゆえに、Pdの反応し得る部分の容積が従来よりも狭い。狭い反応スペースで高い効率でHCを浄化するため、本発明では従来よりもPdの担持密度を高くしている。
【0041】
さらに、Pdの担持密度は、6〜10質量%であることが好ましい。この場合には、さらに、PdによるHCの浄化性能が高くなり、またコストアップを抑えることができる。
【0042】
下触媒層の長さに対する前段上触媒層の長さの比率は、20〜40%であることが好ましく、更には30〜35%であることが望ましい。この場合には、前段上触媒層よりも下流側に後段上触媒層を設けるスペースが確保される。ゆえに、後段上触媒層のRhによるNOx浄化性能を十分に発揮させつつ、前段上触媒層のHC浄化性能を高くすることができる。ここで、「長さ」とは、基材のガス流れ方向の長さをいう。基材がハニカム構造をもつ場合には、基材の長手方向の長さをいう。下触媒層の長さに対する前段上触媒層の長さの比率が20%未満の場合には、Pdの絶対量が少なくなり、HC浄化性能が低下するおそれがある。40%を超える場合には、後段上触媒層を形成するスペースが狭すぎて、Rhの担持量が低下しRhによる排ガス浄化性能が低下するおそれがある。下触媒層の長さに対する前段上触媒層の長さの比率が30〜35%である場合には、後段上触媒層のRhによるNOx浄化性能を更に十分に発揮させつつ、前段上触媒層のHC浄化性能を更に高くすることができる。
【0043】
前段上触媒層のコート量は、基材1リットル当たり、30〜50gで有ることがよく、更には40〜50gであることが好ましい。40g未満の場合には、前段上触媒層のコートの作業性が悪化するおそれがある。一方、前段上触媒層のコート量が、基材1リットル当たり、50gを超える場合には、前段上触媒層の熱容量が大きくなりすぎて早期の昇温が困難となり、低温域におけるHCの浄化が困難となる。
【0044】
前段上触媒層の厚みは、10〜30μmであることが好ましい。この場合には、HC浄化に十分なPd絶対量を確保できるとともに、前段上触媒層の熱容量が低くなり、エンジン冷間時に素早く前段上触媒層の温度が上昇する。
【0045】
前段上触媒層に含まれるPdの担体は、Alと酸素吸放出材とを含んでいても良い。望ましくは、Pdの担体は、Alを含み、酸素吸放出材を含んでいないことがよい。この場合には、冷間時のHC浄化性能が更に高くなる。
【0046】
前段上触媒層は、Pdを担持しているAlと、Pdを担持していない酸素吸放出材とからなるとからなることがよい。Pdの担体は、Alからなり、酸素吸放出材を含まないとよい。酸素吸放出材がPdの担体の構成成分に含まれている場合には、Pdの担体としての酸素吸放出材から放出された酸素が、排ガス中のHCよりも、排ガス中のCOと反応し易いため、低温時のPdによるHCの燃焼を促進しにくくすると考えられている。
【0047】
Pdを担持していない酸素吸放出材は、Pdの担体として働いていない。Pdを担持していない酸素吸放出材が前段上触媒層中に存在することにより、排ガス浄化用触媒の雰囲気の変動を緩和する。このため、下流側の後段上触媒層のRhが、安定した環境で排ガス成分を浄化できる。ゆえに、Rhの触媒性能が向上する。Pdを担持していない酸素吸放出材は、前段上触媒層の低温時のHC浄化性能に影響を与えない。
【0048】
前段上触媒層中の酸素吸放出材の含有量は、基材1リットル当たり、5g〜18gであることが好ましく、更には10〜14gであることが望ましい。この場合には、酸素吸放出材による酸素吸放出性能が効果的に発揮され、高温での酸化還元の雰囲気変動が抑えられ、後段上触媒層中のRhの劣化を効果的に抑えられる。
【0049】
ここでいう酸素吸放出材は、酸素過剰雰囲気の場合に酸素を吸収し、酸素不足雰囲気の場合に酸素を放出する性能をもつ成分をいう。酸素吸放出材としては、例えば、CeO、CeO−ZrOなどがあげられる。これらの酸素吸放出材は、希土類元素の酸化物で安定化されているとよい。希土類元素としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。この中、La、Ir、Ndを含んでいると良い。
【0050】
前段上触媒層の酸素吸放出材は、酸素吸放出材を100質量%としたときに、30〜60質量%のCeOを含んでいると良い。
【0051】
後段上触媒層は、触媒貴金属Rhと、Rhを担持する担体とからなる。
【0052】
後段上触媒層には、Rhの性能を損なわない程度に、Pdなどの他の触媒貴金属が含まれていても良い。後段上触媒層には、Ptが含まれていないことがよい。RhとPtとの合金化による触媒活性の低下を抑えるためである。
【0053】
後段上触媒層の厚みは、10〜30μmであることが好ましい。この場合には、後段上触媒層中のRhによるNOx浄化性能がよく、また下触媒層へのガス拡散性がよいため下触媒層の中のPtやPdによる浄化性能も高くすることができる。
【0054】
下触媒層の長さに対する後段上触媒層の長さの比率は、70〜85%であることが好ましく、更には下限は70%、更には71%、上限は81%、更には80%が好ましく、望ましくは70〜80%であることが望ましい。この場合には、後段上触媒層よりも上流側に前段上触媒層を形成するに十分なスペースを確保しつつ、後段上触媒層でNOx浄化に十分なRh量を担持することができる。
【0055】
後段上触媒層の中のRh担持密度は、0.1〜0.4質量%であることが好ましい。0.1質量%未満の場合には、RhによるNOx浄化性能が低下するおそれがある。0.4質量%を超える場合には、それに見合う浄化性能は期待できず,コストアップになる。
【0056】
後段上触媒層のコート量は,基材1リットル当たり、50〜200gであることが好ましく、更には66〜90gであることが望ましい。この場合には、圧力損失を抑えつつ、Rh絶対量の増加によりRhによるNOx浄化性能が高くなる。
【0057】
後段上触媒層の下流端部は、下触媒層の下流端部の真上に配置されている。また、前段上触媒層の上流端部は、下触媒層の上流端部の真上に配置されている。後段上触媒層の上流側部分は、前段上触媒層の下流側部分と離間していてもよい。また、後段上触媒層の上流側部分は、前段上触媒層の下流側部分と重なっていてもよい。この場合、後段上触媒層の上流側部分は、前段上触媒層の下流側部分の表面を被覆させるとよく、逆に前段上触媒層の下流側部分で被覆されてもよい。
【0058】
基材表面に下触媒層を形成するに当たっては、担体粉末を含むスラリーを基材の表面にウォッシュコートし、それにPd又は/及びPtからなる触媒貴金属を担持してもよいし、担体粉末に予め触媒貴金属を担持した触媒粉末をスラリーとなし、これを基材表面にウォッシュコートしてもよい。
【0059】
下触媒層の表面に前段上触媒層を形成するに当たっては、担体粉末を含むスラリーを下触媒層の表面の上流側部分にウォッシュコートし、それにPdを担持してもよいし、担体粉末に予めPdを担持した触媒粉末をスラリーとなし、これを下触媒層の表面の上流側部分にウォッシュコートしてもよい。
【0060】
下触媒層の表面に後段上触媒層を形成するに当たっては、担体粉末を含むスラリーを下触媒層の表面の下流側部分にウォッシュコートし、それにPdを担持してもよいし、担体粉末に予めPdを担持した触媒粉末をスラリーとなし、これを下触媒層の表面の下流側部分にウォッシュコートしてもよい。
【0061】
本発明の排ガス浄化用触媒は、例えば、三元触媒として用いられる。三元触媒は、車両の排ガス中のHC、COおよびNOxを同時に酸化又は還元して浄化する触媒である。
【実施例】
【0062】
本発明について、実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。
【0063】
(実施例1)
本例の排ガス浄化用触媒は、図1に示すように、基材1と、基材1上に形成された触媒層10とからなる。触媒層10は、基材1の表面に形成された下触媒層2と、下触媒層2の表面の上流側部分に形成された前段上触媒層3と、下触媒層2の表面の下流側部分に形成された後段上触媒層4とから構成されている。
【0064】
図2に示すように、基材1は、コーディエライト製ハニカム構造をもつモノリス基材である。基材1は、直径103mmの円形断面であり、長さは105mmであって、全体容量は875ccである。基材1の内部は、隔壁11によって多数のセルに区画されている。各セルには、排ガスが流通可能なガス通路10が形成されている。図1に示すように、セルを区画する隔壁11の表面には下触媒層2が形成され、下触媒層2の表面の上流側及び下流側には、前段上触媒層3及び後段上触媒層4が形成されている。
【0065】
下触媒層2は、PdとAlと酸素吸放出材とからなる。下触媒層2のコート量は、111g/Lである。下触媒層2の中のPdの担持量は1.0g/Lであり、Alのコート量は25g/Lであり、酸素吸放出材は、CeOであり、このコート量は85g/Lである。Pdは、AlとCeOに担持されている。
【0066】
前段上触媒層3は、PdとAlと酸素吸放出材とからなる。前段上触媒層3の中のPdの担持量は1.73g/Lであり、前段上触媒層3の中のPdの担持密度は5.8質量%である。前段上触媒層3のコート量は30gであり、基材1リットル当たりのコート量に換算すると、34.3g/Lとなる。前段上触媒層3の中のAlのコート量は、基材1リットル当たり18.6g/Lであり、酸素吸放出材はCeOであり、酸素吸放出材のコート量は5.0g/Lである。酸素吸放出材のコート量に対するAlのコート量の比率は2.5である。Pdは、AlとCeOに担持されている。
【0067】
後段上触媒層4は、RhとAlと酸素吸放出材とからなる。後段上触媒層3の中のRhの担持量は0.2g/Lであり、Alのコート量は75.2g/Lであり、酸素吸放出材は、CeOであり、酸素吸放出材のコート量は30.1g/Lである。酸素吸放出材のコート量に対するAlのコート量の比率は3.7である。Rhは、AlとCeOに担持されている。
【0068】
下触媒層2の長さは、105mmであり、基材1の長さと同じである。前段上触媒層3は、下触媒層2の上流端部から下流側に向かって31.5mmの位置まで形成されている。後段上触媒層4は、下触媒層2の下流端部から上流側に向かって84mmの位置まで形成されている。すなわち、前段上触媒層3の長さは、31.5mmであり、後段上触媒層4の長さは84mmである。
【0069】
下触媒層2の厚みは、20μmであり、前段上触媒層3及び後段上触媒層4の厚みは20μmである。
【0070】
本例の排ガス浄化用触媒を製造するに当たっては、Al粉末とCeO粉末とからなる担体粉末を、硝酸パラジウム水溶液に浸漬し、焼成して、担体にパラジウムを担持させた。パラジウムを担持させた担体に、Alバインダーを混合してスラリーを作製し、基材1表面にウォッシュコートした。コートされたスラリーを乾燥、焼成して、下触媒層2を形成した。
【0071】
次に、Al粉末とCeO粉末とからなる担体粉末を、硝酸パラジウム水溶液に浸漬し、焼成して、担体にパラジウムを担持させた。パラジウムを担持させた担体に、Alバインダーを混合してスラリーを作製し、下触媒層2表面の上流側部分にウォッシュコートした。コートされたスラリーを乾燥、焼成して、前段上触媒層3を形成した。
【0072】
次に、Al粉末とCeO粉末とからなる担体粉末を、硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、担体にロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体に、Alバインダーを混合してスラリーを作製し、下触媒層2表面の下流側部分にウォッシュコートした。コートされたスラリーを乾燥、焼成して、後段上触媒層4を形成した。
【0073】
(実施例2)
本例の排ガス浄化用触媒においては、前段上触媒層の中のPdの担持密度は8.8質量%であり、前段上触媒層のコート量は20g(22.9g/L)であり、前段上触媒層の長さは21mmである。即ち、本例は、前段上触媒層中のPdの担持量を実施例1の場合と同量とし、前段上触媒層のコート量を実施例1の場合よりも減らすことで、前段上触媒層の中のPd担持密度を増加させるとともに、前段上触媒層の長さを短くしている。その他は、実施例1と同様である。
【0074】
(比較例1)
本比較例の排ガス浄化用触媒においては、前段上触媒層の中のPdの担持密度は1.8質量%であり、前段上触媒層のコート量は100g(114g/L)であり、前段上触媒層の長さは105mmである。即ち、本例は、前段上触媒層中のPdの担持量を実施例1の場合と同量とし、前段上触媒層のコート量を実施例1の場合よりも増加させることで、前段上触媒層の中のPd担持密度を実施例1の場合よりも減少させているとともに、前段上触媒層の長さを下触媒層と同じとしている。本例においては、図3に示すように、前段上触媒層3が、下触媒層2の表面全体を被覆しており、後段上触媒層は形成していない。その他は、実施例1と同様である。
【0075】
(比較例2、3,4)
比較例2の排ガス浄化用触媒においては、前段上触媒層の中のPdの担持密度は3.5質量%であり、前段上触媒層のコート量は50g(57.1g/L)であり、前段上触媒層の長さは52.5mmである。
【0076】
比較例3の排ガス浄化用触媒においては、前段上触媒層の中のPdの担持密度は4.4質量%であり、前段上触媒層のコート量は40g(45.7g/L)であり、前段上触媒層の長さは42mmである。
【0077】
即ち、比較例2,3では、前段上触媒層中のPdの担持量を実施例1の場合と同量とし、前段上触媒層のコート量を実施例1の場合よりも増加させることで、前段上触媒層の中のPd担持密度を減少させているとともに、前段上触媒層の長さを実施例1の場合よりも長くしている。
【0078】
比較例4の排ガス浄化用触媒においては、前段上触媒層の中のPdの担持密度は17.5質量%であり、前段上触媒層のコート量は10g(11.4g/L)であり、前段上触媒層の長さは10.5mmである。
【0079】
即ち、比較例4では、前段上触媒層中のPdの担持量を実施例1の場合と同量とし、前段上触媒層のコート量を実施例1の場合よりも減少させることで、前段上触媒層の中のPd担持密度を増加させているとともに、前段上触媒層の長さを実施例1の場合よりも短くしている。
【0080】
比較例2,3,4のその他の構成は、実施例1と同様である。
【0081】
<浄化量の測定>
上記実施例1,2及び比較例1〜4の触媒について排ガス浄化量を測定した。
【0082】
まず、各触媒を、V8エンジンが排出する排ガス流通下に晒し、床温:1000℃×50時間の耐久試験を実施した。耐久試験を実施した各触媒を、直列4気筒の2.4Lエンジンを搭載した車両の床下にそれぞれ搭載し、理論空燃比で燃焼制御し、排ガスを入ガス温度450℃で流通させた。出ガスの中のHC濃度を検出した。検出した出ガス中のHC濃度と入ガス中のHC濃度とを対照させて、1秒間あたりのHCの浄化量をもとめた。その結果を表1及び図4に示した。図4のX軸は、Pdの担持密度を示し、Y軸は浄化量を示す。図4中、実施例は「E」、比較例は「C」で表記した。次の図5も同様である。
【0083】
<触媒の圧力損失の測定>
上記実施例1,2及び比較例1〜4の触媒についてガス圧力損失を測定した。触媒の上流側からガス流量5m/minのガスを触媒に流入させた。触媒下流端直後で出ガスのガス圧力を測定した。入ガスの圧力と出ガスの圧力との差をもとめ、これを圧力損失として表1及び図5に示した。図5のX軸は、Pdの担持密度を示し、Y軸は圧力損失を示す。
【0084】
【表1】

【0085】
<評価>
上記測定結果より、実施例1,2の触媒の浄化量は、比較例1〜4の触媒に比べて浄化量が高かった。比較例1では、前段上触媒層の中のPd担持密度が小さく、HC浄化性能が低かった。前段上触媒層のPd担持密度が高くなるほど、HC浄化性能が高くなった。
【0086】
前段上触媒層のPd担持密度が4.5〜12質量%の場合には、HC浄化量が良好であった。前段上触媒層のPd担持密度が5.8〜8.8質量%のときにHC浄化量が最大になり、それ以上のPd担持密度になると、HC浄化量は次第に低下した。そして、また、前段上触媒層のPd担持密度が12質量%を超える場合(比較例4)には、前段上触媒層のPd担持密度が1.8質量%である場合(比較例1)よりもHC浄化量が低下した。比較例4では、Pdの担持密度が多すぎて、Pd単位質量当たりに接触する排ガス成分量が少なくなり、Pdの浄化性能を十分に発揮させることができなくなったためであると考えられる。
【0087】
また、前段上触媒層のPd担持密度が増加するほど前段上触媒層の長さが短くなっている。前段上触媒層のPd担持密度が4.5〜12質量%であって、触媒全体の長さに対する前段上触媒層の長さの比率が20〜40%、更には30〜35%である場合のように、前段上触媒層の長さを比較的短くし、この前段上触媒層に4.5〜12質量%という高い密度でPdを担持させることで、前段上触媒層での触媒活性が向上することがわかる。
【0088】
触媒の圧力損失については、実施例1,2及び比較例1〜4のいずれも、ほぼ同等の結果が得られた。これは、実施例1,2及び比較例2〜4の触媒では、前段上触媒のコート量は一定としたため、基材表面を被覆する触媒層の厚みがほぼ同じとなった。このため、各触媒のガス流路の開口断面積がほぼ一定となり、触媒の圧力損失がほぼ同等となったものである。
【0089】
<検討1:前段上触媒層の長さとHC50%浄化時間>
前段上触媒層のコート量を変化させたときの、触媒のHC50%浄化時間を測定した。
【0090】
触媒は以下の方法により製造した。まず、下触媒層用のスラリー(A)を調製した。出発原料として硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ランタン、硝酸イットリウムを純水に溶解し、0.3Mの前駆体溶液を得た。次に、純水で薄めたアンモニア水に前駆体溶液を滴下し、ホモジナイザーで攪拌し、遠心分離機で水分を除去して沈殿物のみを回収した。これらの沈殿物を、乾燥、仮焼成した後、700℃で焼成することにより結晶化させた。その後、ブレンダーで粉砕して粉末とした。これにより、粉末状のZrO−CeO−La−Y複合酸化物を得た。CeO−ZrO−La−Y複合酸化物の組成比は、CeO:60質量%、ZrO:30質量%、La:3質量%、Y:7質量%である。
【0091】
0.5g/LのPdと、86g/LのZrO−CeO−La−Y複合酸化物と、40g/LのLa添加Al、10g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して下触媒層用のスラリー(A)を調製した。
【0092】
次に、前段上触媒層用のスラリー(B)を調製した。出発原料として硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ランタン、硝酸プラセオジウムを用いたこと以外は、下触媒層用のスラリーに混合されている複合酸化物と同様に、CeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物を調製した。1.0g/LのPdを、14〜50g/LのLa添加Alと、5〜15g/LのCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して前段上触媒層用のスラリー(B)を調製した。CeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物の組成比は、CeO:60質量%、ZrO:30質量%、La:3質量%、Pr11:7質量%である。
【0093】
次に、後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。出発原料として硝酸アルミニウム、硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ランタンを純水に溶解し、0.3Mの前駆体溶液を得た。次に、純水で薄めたアンモニア水に前駆体溶液を滴下し、ホモジナイザーで攪拌し、遠心分離機で水分を除去して沈殿物のみを回収した。これらの沈殿物を、乾燥、仮焼成した後、700℃で焼成することにより結晶化させた。その後、ブレンダーで粉砕して粉末とした。この粉末は、La添加CeO−ZrOからなる第1粒子とLa添加Alからなる第2粒子が一次粒子レベルで混合された複合酸化物粉末である。
【0094】
硝酸ネオジウムを水溶化し、前記複合酸化物粉末を混合、攪拌させた。攪拌後乾燥させ、900℃で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdが偏析されて、粉末状の担体が得られた。
【0095】
この担体を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、担体に、0.15g/Lのロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体46g/Lに、17g/LのLa添加Alと、3g/LのAlバインダーとを混合して後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。
【0096】
上記の3種類のスラリー(A)、(B)、(C)を基材にコートした。基材は、実施例1の基材と同様に、コーディエライト製のハニカム構造を有し、直径103mm、長さ105mmの円筒体である。図6に示すように、基材1の表面の全面に下触媒層用のスラリー(A)をコートし、乾燥、焼成して下触媒層2を形成した。次に、下触媒層2の表面の前段部分に、前段上触媒層用のスラリー(B)をコートし、乾燥、焼成して、前段上触媒層3を形成した。前段上触媒層3の長さは、40mmであり、下触媒層2の長さに対して38%の長さである。次に、下触媒層2の表面の後段部分に後段上触媒層用のスラリー(C)をコートし、乾燥、焼成した。後段上触媒層4の長さは85mmであり、下触媒層2の長さに対して81%の長さである。前段上触媒層3の下流部分3aは、後段上触媒層4の表面の上流部分4aにより被覆されている。
【0097】
以上より製造された触媒を、V型8気筒エンジンの排出する排ガス流通下に晒し、床温:1000℃×50時間の耐久試験を実施した。
【0098】
耐久試験実施後で室温まで温度を低下させた各触媒に対し、入りガス温度400℃のストイキ雰囲気の排ガスを流通させ、HC浄化率を連続的に測定した。そしてHC浄化率が50%に到達できる時間(THC50%浄化時間)を算出し、図7に示した。
【0099】
図7より知られるように、前段上触媒層のコート量が少ないほど、HC50%浄化時間が短くなった。これは、前段上触媒層の厚みが薄くなるため、前段上触媒層の熱容量が小さく、排ガスによる廃熱によって素早く暖まるからであると考えられる。
【0100】
また、前段上触媒層のコート量が40〜50g/Lの場合には、HC50%浄化時間はほぼ変化しなかった。前段上触媒層のコート量が50g/Lを超えると、HC50%浄化時間はさらに長くなった。
【0101】
一方、前段上触媒層のコート量が40g/L未満の場合には、製造工程で前段上触媒層を形成しにくかった。そのため、触媒性能と製造条件との双方を満たすためには、前段上触媒層のコート量は35〜44g/個であることがよいことがわかった。このコート量は基材1リットル当たり40〜50gに相当する。
【0102】
本検討1においては、前段上触媒層中のPd担持密度が1.4〜3.6質量%であるが、4.5〜14質量%の場合にも、前段上触媒層のコート量が40〜50g/Lでよいといえる。なぜならば、前段上触媒層のPd担持密度にかかわらず、前段上触媒層のコート量が少ないほど、HC50%浄化時間が短くなり、またコートが困難になるからである。
【0103】
<検討2:後段上触媒層の長さと触媒性能>
後段上触媒層の長さを変化させて、触媒のHC50%浄化温度及びNOx排出量を測定した。
【0104】
下触媒層用のスラリー(A)は、0.5g/LのPdを、86g/LのZrO−CeO−La−Y複合酸化物(酸素吸放出材)と、30g/LのLa添加Al、10g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。ZrO−CeO−La−Y複合酸化物の組成比は、検討1と同様である。
【0105】
前段上触媒層用のスラリー(B)は、1.0g/LのPdを、25g/LのLa添加Alと、11g/Lの下触媒層と同様のCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0106】
後段上触媒層用のスラリー(C)を調製するにあたっては、La添加CeO−ZrOからなる第1粒子とLa添加Alからなる第2粒子が一次粒子レベルで混合された複合酸化物を、水溶化した硝酸ネオジウムに混合、攪拌させた。攪拌後乾燥させ、900℃で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdが偏析されて、粉末状の担体が得られた。この担体を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、57g/Lの担体に、0.15g/Lのロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体に、17g/LのLa添加Alと、3g/LのAlバインダーとを混合して後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。
【0107】
上記の3種類のスラリー(A)、(B)、(C)を、検討1と同様に基材にコートした。下触媒層用のスラリー(A)のコート長さは105mmであり、基材表面の全面にコートした。前段上触媒層用のスラリー(B)のコート長さは、35mmであり、下触媒層の長さに対して33%の長さである。後段上触媒層用のスラリー(C)のコート長さは65〜95mmであり、下触媒層のコート長さに対して62〜91%の長さである。以上により製造された触媒の後段上触媒層のコート量は、担体のコート量を増減させることで、60〜115g/Lの間で変化させてある。
【0108】
以上より製造された触媒に、検討1と同様に耐久試験を実施した。耐久試験後の各触媒について、HC50%浄化温度(HCの浄化率が50%に達したときの温度)を測定し、結果を図8に示した。また、耐久試験後の各触媒のNOx排出量を測定した。
【0109】
図8より、後段上触媒層のコート長さが短いほど、HC50%浄化温度が低くなることがわかる。
【0110】
NOx排出量を測定するにあたっては、耐久試験後の各触媒を、エンジンが排出する排気系に装着した。入ガス温度550℃の定常還元雰囲気下で排ガスを各触媒に流通させ、出ガスのNOx排出量を検出した。各触媒のNOx排出量は、図9に示した。
【0111】
図9より、後段上触媒層のコート長さが長くなるほど、NOx排出量が少なくなることがわかる。
【0112】
以上の結果より、後段上触媒層のコート長さがちょうど中央付近、即ち70〜85%、更には71〜81%程度の場合に、HC50%浄化温度が低く,且つNOx排出量も少なくなることがわかる。
【0113】
<検討3:後段上触媒層のコート量>
後段上触媒層のコート量を変えた場合の、排ガス浄化用触媒のNOx排出量を測定した。
【0114】
下触媒層用のスラリー(A)は、0.5g/LのPdを、86g/LのZrO−CeO−La−Y複合酸化物と、40g/LのLa添加Al、10g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0115】
前段上触媒層用のスラリー(B)は、1.0g/LのPdを、25g/LのLa添加Alと、11g/LのCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0116】
後段上触媒層用のスラリー(C)を調製するにあたっては、La添加CeO−ZrOからなる第1粒子とLa添加Alからなる第2粒子が一次粒子レベルで混合された複合酸化物を、水溶化した硝酸ネオジウムに混合、攪拌させた。攪拌後乾燥させ、900℃で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdが偏析されて、粉末状の担体が得られた。この担体を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、46〜80g/Lの担体に、0.15g/Lのロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体に、6〜29g/LのLa添加Alと、3g/LのAlバインダーとを混合して後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。
【0117】
上記の3種類のスラリー(A)、(B)、(C)を、検討1と同様に基材にコートした。下触媒層用のスラリー(A)のコート長さは105mmであり、基材表面の全面にコートした。前段上触媒層用のスラリー(B)のコート長さは、40mmであり、下触媒層の長さに対して38%の長さである。後段上触媒層用のスラリー(C)のコート量は85mmであり、下触媒層のコート長さに対して81%の長さである。以上により製造された触媒の後段上触媒層のコート量は、担体のコート量を増減させることで、60〜115g/Lの間で変化させている。
【0118】
以上より製造された触媒に、検討1と同様に耐久試験を実施した。耐久試験後の各触媒について、検討2と同様に、NOx排出量を測定した。その結果を、図10に示した。
【0119】
図10より知られるように、後段上触媒層のコート量を少なくするほど、NOx排出量が減少した。一方、後段上触媒層のコート量が60g/L未満の場合には、製造工程で後段上触媒層を形成しにくかった。そのため、触媒性能と製造条件との双方を満たすためには、後段上触媒層のコート量は57.8〜78.8g/個がよいことがわかる。これは、基材1リットル当たり66〜90gに相当する。
【0120】
<検討4:下触媒層のコート量>
下触媒層のコート量を変化させた各触媒について、OSC性能及び圧力損失を測定した。
【0121】
下触媒層用のスラリー(A)は、0.5g/LのPdを、69〜120g/Lの検討1と同様のZrO−CeO−La−Y複合酸化物(酸素吸放出材)と、29〜40g/LのLa添加Alと、10g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0122】
前段上触媒層用のスラリー(B)は、1.0g/LのPdを、25g/LのLa添加Alと、11g/Lの下触媒層と同様のCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0123】
後段上触媒層用のスラリー(C)を調製するにあたっては、La添加CeO−ZrOからなる第1粒子とLa添加Alからなる第2粒子が一次粒子レベルで混合された複合酸化物を、水溶化した硝酸ネオジウムに混合、攪拌させた。攪拌後乾燥させ、900℃で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdが偏析されて、粉末状の担体が得られた。この担体を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、57g/Lの担体に、0.15g/Lのロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体に、29g/LのLa添加Alと、3g/LのAlバインダーとを混合して後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。
【0124】
上記の3種類のスラリー(A)、(B)、(C)を、検討1と同様に基材にコートした。下触媒層用のスラリー(A)のコート長さは105mmであり、基材表面の全面にコートした。前段上触媒層用のスラリー(B)のコート長さは、40mmであり、下触媒層の長さに対して38%の長さである。後段上触媒層用のスラリー(C)のコート量は85mmであり、下触媒層のコート長さに対して81%の長さである。以上により製造された触媒の下触媒層のコート量は、担体のコート量を増減させることで、97〜171g/Lの間で変化させている。
【0125】
製造された各触媒について、検討1と同様の耐久試験を実施し、OSC性能及び圧力損失を測定した。OSC性能は、耐久試験後の各触媒を 2.4Lエンジンの排気系にそれぞれ配置した。触媒床温450℃にて、空燃比( A/F)が14.1〜15.1の間における出ガス中の酸素濃度を連続的に測定した。空燃比が高い時から低い時の間に放出する酸素量を、酸素吸蔵量として、図11に示した。圧力損失は、前記実施例1などの触媒の圧力損失の測定と同様に測定し、その結果を図12に示した。
【0126】
図11より知られるように、下触媒層のコート量が増加するほど、触媒のOSC性能が向上した。これは、下触媒層の長さを一定とし、下触媒層のコート量を変化させたため、下触媒層の厚みが変化した。下触媒層の厚みが増加するほど、ZrO−CeO−La−Y複合酸化物の絶対量が増え、そのため、吸放出し得る酸素量、即ちOSC性能が増えたものである。
【0127】
図12より知られるように、下触媒層のコート量が増加するほど、圧力損失が増加した。これは、下触媒層のコート量が増加するのに伴って、下触媒層の厚みが増え、そのため、ガス流路の開口断面積が減少したためである。
【0128】
OSC性能と圧力損失の結果から、下触媒層のコート量が、実施した量の中の中間付近、即ち105〜155g/L付近、更には150〜155g/Lである場合に、下触媒層のOSC性能がよく、且つ圧力損失も低くできるといえる。
【0129】
<検討5:下触媒層のコート量>
下触媒層のコート量を変化させた各触媒について、HC−50%浄化温度及び圧力損失を測定した。
【0130】
下触媒層用のスラリー(A)は、1.5g/LのPdを、60〜100g/LのZrO−CeO−La−Y複合酸化物(酸素吸放出材)と、24〜40g/LのLa添加Alと、6〜10g/LのBaSOと、3〜5g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0131】
前段上触媒層用のスラリー(B)は、6.0g/LのPdを、77g/LのLa添加Alと、35g/LのCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、20g/LのBaSOと、10g/LのAlバインダーとを混合して調製した。
【0132】
後段上触媒層用のスラリー(C)を調製するにあたっては、La添加Alからなる第1粒子とZrO−CeO−Laからなる第2粒子が一次粒子レベルで混合された複合酸化物を、水溶化した硝酸ネオジウムに混合、攪拌させた。攪拌後乾燥させ、900℃で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdを濃化してなる粉末状の担体が得られた。この担体を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、55g/Lの担体に、0.3g/Lのロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体に、35g/LのLa添加Alと、4g/LのAlバインダーとを混合して後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。
【0133】
上記の3種類のスラリー(A)、(B)、(C)を、検討1と同様に基材にコートした。基材の容量は、875ccである。下触媒層用のスラリー(A)は、基材表面の全面にコートした。前段上触媒層用のスラリー(B)のコート長さは、基材全長に対して35%とした。後段上触媒層用のスラリー(C)のコート長さは、基材の全長に対して80%とした。以上により製造された触媒の下触媒層のコート量は、担体のコート量を増減させることで、80〜160g/Lの間の範囲内で変化させている。
【0134】
製造された各触媒について、V8エンジン(3UZ−FE)排ガス下で、床温:1000℃×50時間の耐久試験を実施した。耐久試験後に、HC−50%浄化温度及びOSC性能を測定した。HC−50%浄化温度は、検討2と同様に測定し、その結果を図13に示した。OSC性能は、上記検討4と同様に測定し、その結果を図14に示した。
【0135】
図13より知られるように、下触媒層のコート量が105〜155g/Lの場合に、HC−50%浄化温度が低く、優れた低温浄化性能を発揮した。90g/L以下の場合には、HC−50%浄化温度が高くなり低温浄化性能が悪化した。図14より知られるように、下触媒層のコート量が減少するほど、OSC性能が低下する傾向があった。下触媒層のコート量が105〜155g/Lの場合には、OSC性能に問題がないことを別途車両評価で確認した。
【0136】
これらの結果から、下触媒層のコート量が、105g/L以上であれば、下触媒層の低温浄化特性及びOSC性能が優れることがわかる。上記検討4の結果とあわせると、下触媒層のコート量が155g/L以下であれば、圧力損失を低くすることができるため、下触媒層のコート量は、105〜155g/Lであることがよいといえる。
【0137】
<検討6:前段上触媒層の担体の組成>
前段上触媒層の触媒貴金属Pdを担持する担体の組成を変えて、排ガス浄化用触媒を作製した。
【0138】
前段上触媒層用のスラリー(B)には、表2に示す組成からなる担体が含まれている。表2には、試料No.1〜5の担体の組成が示されている。各担体毎に、担体25g/Lに対して1.0g/LのPdを担持させ、更に、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して前段上触媒層用のスラリー(B)を調製した。
【0139】
後段上触媒層用のスラリー(C)を調製するにあたっては、La添加CeO−ZrOからなる第1粒子とLa添加Alからなる第2粒子とが一次粒子レベルで混合された複合酸化物を、水溶化した硝酸ネオジウムに混合、攪拌、乾燥させ、900℃で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdが偏析されて、粉末状の複合酸化物担体が得られた。この複合酸化物担体を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、46g/Lの複合酸化物担体に、0.15g/Lのロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた担体に、17g/LのLa添加Alと、3g/LのAlバインダーとを混合して後段上触媒層用のスラリー(C)を調製した。
【0140】
【表2】

【0141】
上記の2種類のスラリー(B)、(C)を、基材にコートした。基材は、容量875cc、全長105mmのモノリス基材である。前段上触媒層用のスラリー(B)のコート長さは、37mmであり、基材全長に対して35%の長さである。後段上触媒層用のスラリー(C)のコート長さは85mmであり、基材全長に対して81%の長さである。スラリー(B)を先に基材にウォッシュコートし、乾燥、焼成して前段上触媒層を形成した。その後に、スラリー(C)をウォッシュコートし、乾燥、焼成して後段上触媒層を形成した。図15に示すように、作製された排ガス浄化用触媒は、基材1の上の上流側には前段上触媒層3が形成され、基材1の上の下流側には後段上触媒層4が形成された。前段上触媒層3の下流側部分は、後段上触媒層4の上流側部分により被覆されている。
【0142】
以上より製造された触媒を、V型8気筒エンジンの排出する排ガス流通下に晒し、床温1000℃×25時間の耐久試験を実施した。
【0143】
耐久試験後の各触媒について、検討1と同様に、HC50%浄化時間を測定し、結果を図16に示した。図16は、前段上触媒層に用いた担体中のCeO濃度とHC50%浄化時間との関係を示している。図16より、CeO濃度が低いほど、HC50%浄化時間が短くなることがわかる。特に、CeO濃度が20質量%以下の場合には、HC50%浄化時間が著しく短くなった。つまり、冷間始動時のHC浄化性能を良くするには、前段上触媒層の担体は、CeO濃度が低いことがよく、望ましくはCeOがないことがよいといえる。これは、CeOが放出する酸素は、排ガス中のHCよりもCOの酸化反応に多く使われ、PdによるHCの燃焼効率を低くするからであると考えられる。また、試料No.5の担体は、CeOを含まず、塩基性元素で安定化したAlからなるため、1000℃以上の高温下でも高い表面積をもち、触媒貴金属Pdの触媒性能を十分に発揮させることができると考えられる。
【0144】
<検討7:前段上触媒層の中の酸素吸放出材の有無の検討>
前段上触媒層の中に酸素吸放出材が含まれている場合と含まれていない場合との排ガス浄化用触媒の性能を評価した。
【0145】
酸素吸放出材が含まれている前段上触媒層用のスラリー(B1)は、Al−R(表2の試料No.5と同様の組成比)からなる担体25g/Lに対して1.0g/LのPdを担持させ、更に、11g/LのCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製した。CeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物の組成比は、CeO:60質量%、ZrO:30質量%、La:3質量%、Pr11:7質量%である。
【0146】
酸素吸放出材を含んでいない前段上触媒層用のスラリー(B2)は、CeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)を含んでいないことを除いて、上記スラリー(B1)と同様である。
【0147】
また、下触媒層用のスラリー(A)は実施例1のスラリー(A)と同様であり、後段上触媒層用のスラリー(C)は、検討6のスラリー(C)と同様である。
【0148】
これらのスラリー(A)と、(B1)又は(B2)と、(C)とを、基材にコートした。基材は、検討6と同様に、容量875cc、全長105mmのモノリス基材であり、下触媒層用のスラリー(A)のコート長さは基材の全長であり、前段上触媒層用のスラリー(B1)又は(B2)のコート長さは、37mmであり、後段上触媒層用のスラリー(C)のコート長さは85mmである。スラリー(A)を基材の表面全体にウォッシュコートし、乾燥、焼成して下触媒層を形成した。次に、スラリー(B1)又は(B2)を下触媒層表面の上流側にウォッシュコートし、乾燥、焼成して前段上触媒層を形成した後に、スラリー(C)を下触媒層表面の下流側にウォッシュコートし、乾燥、焼成して後段上触媒層を形成した。図6に示すように、作製された排ガス浄化用触媒は、基材1の表面全体が下触媒層2で被覆され、下触媒層2の上流側には前段上触媒層3が形成され、下触媒層2の下流側には後段上触媒層4が形成された。前段上触媒層3の下流側部分3aは、後段上触媒層4の上流側部分4aにより被覆されている。
【0149】
これらの排ガス浄化用触媒を、V型8気筒エンジンの排出する排ガス流通下に晒し、床温1000℃×50時間、150時間、200時間の耐久試験を実施した。
【0150】
図17は、前段上触媒層の中に酸素吸放出材がある場合とない場合の耐久時間とOSC能との関係を示している。OSC性能は、耐久試験後の各触媒を、2.4Lエンジンの排気系にそれぞれ配置した。触媒床温450℃にて、空燃比(A/F)が14.1〜15.1の間における出ガス中の酸素濃度を連続的に測定した。空燃比が高い時から低い時の間に放出する酸素量を、酸素吸蔵量(OSC能)として、図17に示した。
【0151】
図17に示すように、耐久時間を長くしていくと、前段上触媒層の中に酸素吸放出材がある場合の方が、ない場合よりもOSC能の低下が少なかった。
【0152】
次に、200時間耐久試験を行った後の触媒の各部位毎のRh担体の結晶粒子径を測定した。触媒全体の上流側端部を0mm(基点)として下流側に向かって、0〜35mmの部位、35〜55mmの部位、55〜75mmの部位、75〜105(下流側端部)の部位に区切り、各部位からRh担体の結晶粒子のサンプルを抽出した。各サンプルの結晶粒子径をX線回折法により測定し、図18に示した。図18の横軸は、触媒の各部位の位置を示し、縦軸は、Rh担体の結晶粒子の粒子径を示す。
【0153】
図18に示すように、前段上触媒層の中に酸素吸放出材がある場合には、前段上触媒層の中に酸素吸放出材がない場合に比べて、粒子成長が抑制されている。一般に、酸化物の粒子成長は高温での酸化還元の雰囲気変動により促進されるため、前段上触媒層に酸素吸放出材を添加すると、雰囲気変動が緩和され、後段上触媒層のRh担体の劣化が抑制されたと考えられる。
【0154】
以上の結果から、基材の後段上触媒層のRhの触媒性能を最大限発揮させるためには、前段上触媒層の中に酸素吸放出材を添加することがよいことがわかる。前記検討6での結果とあわせると、前段上触媒層の中のPd担体には酸素吸放出材を含まないことがよいので、前段上触媒層の中に酸素吸放出材を含める場合には、Pd担体としてではなく、Pd担体ではない介在粒子として酸素吸放出材を含めることがよいことがいえる。
【0155】
<検討8;前段上触媒層中の酸素吸放出材の含有量の検討>
図15に示すように、基材1の下流側には後段上触媒層4を形成し、基材1の上流側には前段上触媒層3を形成した。基材1、前段上触媒層3、後段上触媒層4の構成は、検討6の基材、前段上触媒層、後段上触媒層と同様である。ただし、本検討においては、前段上触媒層を、検討7のスラリー(B1)を用いて形成した。検討7のスラリー(B1)は、Al−R(表2の試料No.5と同様の組成比)からなる担体25g/Lに対して1.0g/LのPdを担持させ、更に、11g/LのCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)と、7g/LのBaSOと、3g/LのAlバインダーとを混合して調製したものである。スラリー(B1)の中のCeO−ZrO−La−Pr11複合酸化物(酸素吸放出材)には、Pdが担持されていない。酸素吸放出材中のCeOの濃度は、酸素吸放出材100質量%に対して、0質量%、20質量%、25質量%、30質量%、60質量%に変化させた。
【0156】
作製された触媒について、検討6と同様の条件で、床温:1000℃×25時間の耐久試験を行った。耐久後の各触媒を2.4Lエンジンの排気系にそれぞれ配置した。触媒床温450℃にて、空燃比(A/F)を14.1〜15.1で切り換えた際に放出される酸素の過渡的な排出時間を測定し、図19に示した。
【0157】
図19に示すように、酸素吸放出材中のCeOの含有量が増加するにしたがって、酸素排出時間が長くなる傾向がみられた。特に、CeOの含有量が30〜60質量%に達すると、酸素の排出時間の延びは飽和する傾向が認められた。このことから、前段上触媒層の酸素吸放出材中のCeOの濃度は、酸素吸放出材100質量%に対して、30〜60質量%であることがよいといえる。
【符号の説明】
【0158】
1:基材、2:下触媒層、3:前段上触媒層、4:後段上触媒層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスが流通するガス流路を形成する基材と、該基材上に形成された触媒層とからなり、
該触媒層は、該基材の表面に形成された下触媒層と、該下触媒層の表面であって前記排ガスのガス流れ方向の上流側を被覆する前段上触媒層と、該下触媒層の表面であって前記前段上触媒層よりも前記ガス流れ方向の下流側を被覆する後段上触媒層とから構成されている排ガス浄化用触媒であって、
前記下触媒層は、PdおよびPtの少なくとも1種を担持し、
前記後段上触媒層は、Rhを担持し、
前記前段上触媒層は、Pdを担持しており、
前記前段上触媒層のPd担持密度は、4.5〜12質量%であることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記下触媒層の長さに対する前記前段上触媒層の長さの比率は、20〜40%である請求項1記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記下触媒層の長さに対する前記後段上触媒層の長さの比率は、70〜85%である請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記下触媒層には、酸素吸放出材が含まれており、
前記基材1リットル当たりの前記下触媒層のコート量は、105〜155gである請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記前段上触媒層は、Pdを担持しているAlと、Pdを担持していない酸素吸放出材とからなる請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記前段上触媒層の前記酸素吸放出材は、前記酸素吸放出材全体を100質量%としたとき、30〜60質量%のCeOを含む請求項5記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−20276(P2012−20276A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290452(P2010−290452)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】