説明

排気ガス浄化用ハニカムフィルタ

【課題】 局部的な温度変化により発生した熱応力を緩和でき、クラックが発生することがなく、強度、耐久性及び昇温特性に優れる排気ガス浄化用ハニカムフィルタを提供すること。
【解決手段】 多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排気ガス中のパティキュレート等を除去するフィルタとして用いられる排気ガス浄化用ハニカムフィルタ、排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造等において好適に用いることができる接着剤並びに塗布材、及び、排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック等の車両や建設機械等の内燃機関から排出される排気ガス中に含有されるパティキュレートが環境や人体に害を及ぼすことが最近問題となっている。
この排気ガスを多孔質セラミックを通過させ、排気ガス中のパティキュレートを捕集して、排気ガスを浄化することができるセラミックフィルタが種々提案されている。
【0003】
このようなセラミックフィルタは、通常、一方向に多数の貫通孔が並設され、貫通孔同士を隔てる隔壁がフィルタとして機能するようになっている。
即ち、セラミックフィルタに形成された貫通孔は、排気ガスの入り口側又は出口側の端部のいずれかが充填材により目封じされ、一の貫通孔に流入した排気ガスは、必ず貫通孔を隔てる隔壁を通過した後、他の貫通孔から流出するようになっており、排気ガスがこの隔壁を通過する際、パティキュレートが隔壁部分で捕捉され、排気ガスが浄化される。
【0004】
このような排気ガスの浄化作用に伴い、セラミックフィルタの貫通孔を隔てる隔壁部分には、次第にパティキュレートが堆積し、目詰まりを起こして通気を妨げるようになる。このため、上記セラミックフィルタでは、定期的にヒータ等の加熱手段を用いて目詰まりの原因となっているパティキュレートを燃焼除去して再生する必要がある。
【0005】
しかし、この再生処理においては、セラミックフィルタの均一な加熱が難しく、パティキュレートの燃焼に伴う局所的な発熱が発生するため、大きな熱応力が発生する。また、通常の運転時においても、排気ガスの急激な温度変化が与える熱衝撃等によって、セラミックフィルタの内部に不均一な温度分布が生じ、熱応力が発生する。
その結果、上記セラミックフィルタが単一のセラミック部材から構成されている場合、クラックが発生し、パティキュレートの捕集に重大な支障を与えるといった問題点があった。
【0006】
さらに、大型のセラミックフィルタを製造しようとすると、焼成時の焼成収縮が大きくなるため、形状の制御が困難になるという問題点もあった。
そのため、セラミックフィルタを多数の貫通孔が形成された複数の多孔質セラミック部材に分割し、この多孔質セラミック部材が接着剤層を介して結束された構造のハニカムフィルタが開示されている(例えば、特許文献1、及び、特許文献2参照)。
このようなハニカムフィルタは、再生処理時や運転時に、ハニカムフィルタに作用する熱応力を低減させることができるとともに、多孔質セラミック部材の個数を増減させることで自由にその大きさを調整することができる。
【0007】
【特許文献1】特開平8−28246号公報
【特許文献2】特開2001−190916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このような構造からなる従来のハニカムフィルタにおいて、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率と、上記接着剤層の熱膨張率とは同等であることが好ましいと考えられていた。
何故ならば、上記ハニカムフィルタは、現実的に、例えば、10〜800℃といった広い温度範囲において使用されるものであり、多孔質セラミック部材の熱膨張率と、接着剤層の熱膨張率とが異なるものであると、これらの熱膨張率の相違に起因して多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生してしまうと考えられていたからである。
【0009】
しかしながら、このように多孔質セラミック部材の熱膨張率と、接着剤層の熱膨張率とを全く同等なものにすると、単一なセラミック部材からなるものと変わらなくなるため、パティキュレートの蓄積量の不均一や、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、さらに、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、ハニカムフィルタにパティキュレートの局部的な燃焼、即ち、局部的な温度変化が生じた場合、この局部的な温度変化が生じた部分と、それ以外の部分との間に大きな熱応力が発生し、多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生することがあった。
【0010】
また、近年、排気ガスの熱によりハニカムフィルタ内部の温度を迅速に上昇させるために、ハニカムフィルタの熱容量を低減させることが検討されている。このような低熱容量のハニカムフィルタに排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒を担持させた場合、高温の排気ガス等によりハニカムフィルタの温度を迅速に触媒活性温度にまで上昇させることができるため、上記ハニカムフィルタを触媒担持体としても好適に使用することができる。
また、ハニカムフィルタに多量の触媒を担持させて運転しても、エンジンからハニカムフィルタに至るまでの部分の圧力(背圧)が高くなりすぎないように、ハニカムフィルタの気孔率を高くすることも検討されている。
【0011】
ところが、このような低熱容量及び高気孔率のハニカムフィルタは、その密度が低く、強度に乏しいものであったため、製造工程において破損しやすく歩留りが低くなるという問題があった。また、製造工程において破損することなく得られたものも、パティキュレートの蓄積量の不均一、触媒担持量の不均一、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因した局部的な温度変化が生じたときに、この局部的な温度変化を生じた部分と、それ以外の部分との間に大きな熱応力が発生し、多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生してしまうという問題があった。
【0012】
また、ハニカムフィルタの製造においては、内燃機関の排気通路にハニカムフィルタを設置した際に、外周部から排気ガスが漏れ出すことがないように、ハニカムフィルタの外周面の形状を切断等により円柱状等に整えた後、外周部に塗布材により塗布材層を形成して切断等により露出した貫通孔を充填する表面処理が通常行われる。
従来、このような表面処理に用いられる塗布材としては、特開2000−102709号公報に、少なくとも無機繊維、無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子を含むものが開示されている。
【0013】
しかし、低熱容量及び高気孔率のハニカムフィルタを製造するためには、低熱容量であり、優れた断熱性を有し、かつ、発生した熱応力を緩和してハニカムフィルタを補強することができる塗布材層が求められており、従来の塗布材では、これらの特性を充分に満たすことができる塗布材層を形成することができなかった。
また、断面形状が、角形状だけでなく、円形、だ円形といった、多種多様な外形をもつハニカムフィルタに関して、切断等による形状加工後に塗布材層を形成することにより、外形寸法精度がかなり低下してしまうことがわかった。
【0014】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、ハニカムフィルタに局部的な温度変化が生じることで発生した熱応力を緩和させることができ、クラックが発生することがなく、強度、耐久性及び昇温特性に優れる排気ガス浄化用ハニカムフィルタ、低熱容量で、かつ、発生した熱応力を緩和させることができる接着剤、低熱容量で、断熱性に優れ、かつ、発生した熱応力を緩和させることができる塗布材、及び、外形寸法精度を向上させ、製造工程における破損を低減することができる排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有することを特徴とするものである。
【0016】
第二の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記塗布材層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有することを特徴とするものである。
【0017】
第三の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有し、
上記塗布材層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有することを特徴とするものである。
【0018】
第四の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とするものである。
本発明の接着剤は、独立気孔形成可能な材料を含有することを特徴とするものである。
【0019】
第五の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層は、本発明の接着剤を用いてなることを特徴とするものである。
【0020】
第六の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とするものである。
本発明の塗布剤は、独立気孔形成可能な材料を含有することを特徴とするものである。
【0021】
第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記塗布材層は、本発明の塗布材を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
第八の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、上記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とするものである。
【0023】
第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層は、本発明の接着剤を用いて形成されており、
上記塗布材層は、本発明の塗布材を用いて形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されたセラミック積層体に切削加工を施すことにより作製されたセラミックブロックの外周部分に充填層が形成されてなり、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法であって、
上記多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されたセラミック積層体の端面に、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線を重ねた際、該輪郭線と交わる上記多孔質セラミック部材の貫通孔に塗布材を充填する塗布材充填工程と、上記塗布材が充填された上記セラミック積層体に切削加工を施すことによりセラミックブロックを作製するセラミックブロック作製工程とを含むことを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
第一の本発明は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有することを特徴とする排気ガス浄化用ハニカムフィルタである。
【0026】
第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ(以下、単に第一の本発明のハニカムフィルタともいう)では、接着剤層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの関係式|α−α|/αの下限が0.01を超え、上限が1.0未満である。但し、上記関係式の値は300〜900℃において数点測定した場合、それぞれで満たされることが望ましいが、これらの平均値が上記関係式を満たすものであってもよい。
【0027】
上記関係式|α−α|/αが0.01以下であると、接着剤層の熱膨張率と多孔質セラミック部材の熱膨張率とが殆ど同じとなり、パティキュレートの蓄積量の不均一、触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、及び、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、ハニカムフィルタに局部的な燃焼が起こった場合に生じる局部的な熱応力を緩和させることができず、多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生し、ハニカムフィルタの強度が低下するとともに、排気ガス漏出の原因となる。一方、上記関係式|α−α|/αが1.0以上であると、ハニカムフィルタの通常の使用において、排気ガスの温度差に伴う接着剤層の熱膨張と、多孔質セラミック部材の熱膨張との差が大きくなりすぎ、やはり多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生し、ハニカムフィルタの強度が低下するとともに、排気ガス漏出の原因となる。
なお、上記関係式|α−α|/αの下限は0.02を超え、上限は0.5未満であることが望ましい。多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生することをより確実に防止することができるからである。
【0028】
上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとしては特に限定されず、使用するセラミック材料等により適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、熱膨張率が小さすぎ、セラミック材料の選定が困難となることがあり、一方、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、第一の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、多孔質セラミック部材が大きく膨張、収縮することとなり、容易に多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生することがある。
【0029】
上記接着剤層の熱膨張率αとしては特に限定されず、上述した多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの間で、上記0.01<|α−α|/α<1.0が成り立つように適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記接着剤層の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、材料の選定が困難となることがある。一方、上記接着剤層の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、第一の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、接着剤層が大きく膨張、収縮することとなり、多孔質セラミック部材や接着剤層に容易にクラックが発生することがある。
なお、上記関係式において、接着剤層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの差α−αを示す分子部分が絶対値となっているのは、使用する接着剤層や多孔質セラミック部材材質、及び、温度によっては、多孔質セラミック部材の熱膨張率αの方が、接着剤層の熱膨張率αよりも大きくなることがあるからである。
【0030】
次に、第一の本発明のハニカムフィルタを構成する各部材について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、第一の本発明のハニカムフィルタの一例を模式的に示した斜視図であり、図2(a)は、第一の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材の一例を模式的に示した斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【0031】
図1に示したように、第一の本発明のハニカムフィルタ10は、多孔質セラミック部材20が接着剤層14を介して複数個結束されてセラミックブロック15を構成し、このセラミックブロック15の周囲に塗布材層13が形成されている。また、この多孔質セラミック部材20は、図2に示したように、長手方向に多数の貫通孔21が並設され、貫通孔21同士を隔てる隔壁23がフィルタとして機能するようになっている。
即ち、多孔質セラミック部材20に形成された貫通孔21は、図2(b)に示したように、排気ガスの入り口側又は出口側の端部のいずれかが充填材22により目封じされ、一の貫通孔21に流入した排気ガスは、必ず貫通孔21を隔てる隔壁23を通過した後、他の貫通孔21から流出されるようになっている。
【0032】
また、塗布材層13は、ハニカムフィルタ10を内燃機関の排気通路に設置した際、セラミックブロック15の外周部から排気ガスが漏れ出すことを防止する目的で設けられているものである。
このような構成のハニカムフィルタ10が内燃機関の排気通路に設置され、内燃機関より排出された排気ガス中のパティキュレートは、このハニカムフィルタ10を通過する際に隔壁23により捕捉され、排気ガスが浄化される。
このようなハニカムフィルタ10は、極めて耐熱性に優れ、再生処理等も容易であるため、種々の大型車両やディーゼルエンジン搭載車両等に使用されている。
【0033】
多孔質セラミック部材20の材料としては特に限定されず、例えば、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化チタン等の窒化物セラミック、炭化珪素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物セラミック、アルミナ、ジルコニア、コージュライト、ムライト等の酸化物セラミック等を挙げることができるが、これらのなかでは、耐熱性が大きく、機械的特性に優れ、かつ、熱伝導率も大きい炭化珪素が望ましい。なお、上述したセラミックに金属珪素を配合した珪素含有セラミック、珪素や珪酸塩化合物で結合されたセラミックも用いることができる。
【0034】
また、多孔質セラミック部材20の気孔率は特に限定されないが、40〜80%程度であることが望ましい。気孔率が40%未満であると、ハニカムフィルタ10がすぐに目詰まりを起こすことがあり、一方、気孔率が80%を超えると、多孔質セラミック部材20の強度が低下して容易に破壊されることがある。
なお、上記気孔率は、例えば、水銀圧入法、アルキメデス法及び走査型電子顕微鏡(SEM)による測定等、従来公知の方法により測定することができる。
【0035】
また、多孔質セラミック部材20の平均気孔径は5〜100μmであることが望ましい。平均気孔径が5μm未満であると、パティキュレートが容易に目詰まりを起こすことがある。一方、平均気孔径が100μmを超えると、パティキュレートが気孔を通り抜けてしまい、該パティキュレートを捕集することができず、フィルタとして機能することができないことがある。
【0036】
このような多孔質セラミック部材20を製造する際に使用するセラミックの粒径としては特に限定されないが、後の焼成工程で収縮が少ないものが望ましく、例えば、0.3〜50μm程度の平均粒径を有する粉末100重量部と、0.1〜1.0μm程度の平均粒径を有する粉末5〜65重量部とを組み合わせたものが望ましい。上記粒径のセラミック粉末を上記配合で混合することで、多孔質セラミック部材20を製造することができるからである。
【0037】
接着剤層14を構成する材料としては特に限定されず、例えば、無機バインダー、有機バインダー、無機繊維及び無機粒子からなるもの等を挙げることができる。
上記無機バインダーとしては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機バインダーのなかでは、シリカゾルが望ましい。
【0038】
上記有機バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記有機バインダーのなかでは、カルボキシメチルセルロースが望ましい。
【0039】
上記無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等のセラミックファイバー等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機繊維のなかでは、シリカ−アルミナファイバーが望ましい。
【0040】
上記無機粒子としては、例えば、炭化物、窒化物等を挙げることができ、具体的には、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素等からなる無機粉末又はウィスカー等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機粒子のなかでは、熱伝導性に優れる炭化珪素が望ましい。
【0041】
また、接着剤層14には発泡材が含まれていてもよい。接着剤層14の気孔率を変化させることができるため、接着剤層14の熱膨張率αを調整することができるからである。
上記発泡材としては使用時の加熱により分解されるものであれば特に限定されず、例えば、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アミル、酢酸ブチル及びジアゾアミノベンゼン等発泡材として公知のものを挙げることができる。
さらに、接着剤層14には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等が含まれていてもよい。接着剤層14の気孔率を制御することができ、接着剤層14の熱膨張率αを調整することができるからである。
【0042】
上記熱可塑性樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン等を挙げることができ、上記熱硬化性樹脂としては特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等を挙げることができる。
これらの樹脂の形状としては特に限定されず、例えば、球形、楕円球形、立方体状、不定形塊状、柱状及び板状等任意の形状を挙げることができる。
また、上記樹脂が球形である場合、その平均粒径は30〜300μmであることが望ましい。
【0043】
上記バルーンとは、所謂、バブルや中空球を含む概念であり、上記有機物バルーンとしては特に限定されず、例えば、アクリルバルーン、ポリエステルバルーン等を挙げることができ、上記無機物バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)及びムライトバルーン等を挙げることができる。
これらバルーンの形状、及び、平均粒径等は、上述した樹脂と同様であることが望ましい。
【0044】
ここで、上記発泡材や、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂や、有機物バルーンが接着剤層14に含まれていることで、接着剤層14の熱膨張率αを調整することができるのは、以下の通りであると考えられる。即ち、上述した材料は、第一の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では接着剤層中に略均一な状態で分散しているが、上記ハニカムフィルタを実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失し、接着剤層に気孔が形成される。このとき、接着剤層に形成される気孔の気孔率や気孔径等を調整することで、接着剤層の熱膨張率αの値を調整することができると考えられる。その結果、接着剤層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの関係式|α−α|/αを上述した範囲内とすることができる。但し、無機バルーンが含まれている場合、接着剤層に残留することで気孔率等を調整することができる。
【0045】
なお、上述したような接着剤層14は、第一の本発明のハニカムフィルタを実際に使用する前の状態、即ち、接着剤層が排気ガス等により一度も加熱されていない状態を規定したものであり、第一の本発明のハニカムフィルタを使用し、接着剤層14が排気ガス等により高温に加熱されると、上述した有機バインダー、発泡材、樹脂及び有機バルーン等の有機成分は分解されて焼失する。
【0046】
図1に示したハニカムフィルタ10では、セラミックブロック15の形状は円柱状であるが、第一の本発明のハニカムフィルタにおいては、セラミックブロックの形状は円柱状に限定されることはなく、例えば、楕円柱状や角柱状等任意の形状のものを挙げることができる。
また、セラミックブロック15の外周に形成された塗布材層13としては特に限定されず、例えば、上述した接着剤層14と同様の材料を挙げることができる。
【0047】
また、第一の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第一の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0048】
上記触媒が担持された第一の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第一の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0049】
上述した通り、第一の本発明のハニカムフィルタは、接着剤層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有する。即ち、第一の本発明のハニカムフィルタを構成する接着剤層の熱膨張率と、多孔質セラミック部材の熱膨張率とは同一ではなく、僅かに異なったものである。そのため、第一の本発明のハニカムフィルタは、パティキュレートの蓄積量の不均一や、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、さらに、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、局部的な燃焼、即ち、局部的な温度変化が生じた場合であっても、上記局部的な温度変化が生じた部分と、それ以外の部分との間で生じた熱応力を好適に緩和させることができ、多孔質セラミック部材や接着剤層にクラックが発生することがない。
従って、第一の本発明のハニカムフィルタは、強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0050】
次に、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例について図1及び図2を参照しながら説明する。
第一の本発明のハニカムフィルタを製造するには、まず、セラミックブロック15となるセラミック積層体を作製する。
このセラミック積層体は、多数の貫通孔21が隔壁23を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材20が、接着剤層14を介して複数個結束された角柱構造である。
【0051】
多孔質セラミック部材20を製造するには、まず、上述したようなセラミック粉末にバインダー及び分散媒液を加えて混合組成物を調製する。
上記バインダーとしては特に限定されず、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
上記バインダーの配合量は、通常、セラミック粉末100重量部に対して、1〜10重量部程度が望ましい。
【0052】
上記分散媒液としては特に限定されず、例えば、ベンゼン等の有機溶媒;メタノール等のアルコール、水等を挙げることができる。
上記分散媒液は、混合組成物の粘度が一定範囲内となるように、適量配合される。
これらセラミック粉末、バインダー及び分散媒液は、アトライター等で混合した後、ニーダー等で充分に混練し、押し出し成形法等により、図2に示した多孔質セラミック部材と略同形状の柱状の生成形体を作製する。
【0053】
上記生成形体を、マイクロ波乾燥機等を用いて乾燥させた後、所定の貫通孔に封口材を充填する封口処理を施し、再度、マイクロ波乾燥機等で乾燥処理を施す。
上記封口材としては特に限定されず、例えば、上記混合組成物と同様のものを挙げることができる。
【0054】
次に、上記封口処理を経た生成形体を、酸素含有雰囲気下、400〜650℃程度に加熱することで脱脂し、バインダー等を分解、消失させ、略セラミック粉末のみを残留させる。
そして、上記脱脂処理を施した後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、1400〜2200℃程度に加熱することで焼成し、セラミック粉末を焼結させて多孔質セラミック部材20を製造する。
なお、このようにして製造した多孔質セラミック部材20の熱膨張率αは、使用したセラミック材料により決定される。
【0055】
次に、図3に示したように、このセラミック積層体を作製する。
即ち、まず、多孔質セラミック部材20が斜めに傾斜した状態で積み上げることができるように、断面V字形状に構成された台40の上に、多孔質セラミック部材20を傾斜した状態で載置した後、上側を向いた2つの側面20a、20bに、接着剤層14となる接着剤ペーストを均一な厚さで塗布して接着剤ペースト層を形成し、この接着剤ペースト層の上に、順次他の多孔質セラミック部材20を積層する工程を繰り返し、所定の大きさの角柱状のセラミック積層体を作製する。この際、セラミック積層体の4隅にあたる多孔質セラミック部材20には、四角柱形状の多孔質セラミック部材を2つに切断して作製した三角柱状の多孔質セラミック部材20cと、三角柱状の多孔質セラミック部材20cと同じ形状の樹脂部材41とを易剥離性の両面テープ等で貼り合わせてなるものを使用し、多孔質セラミック部材20の積層が完了した後に、セラミック積層体の4隅を構成する樹脂部材41を全て取り除くことによって、セラミック積層体を断面多角柱状にする。これにより、セラミック積層体の外周部を切削加工した後に廃棄される多孔質セラミック部材からなる廃棄物の量を減らすことができる。
【0056】
上記図3に示した方法以外であっても、断面多角柱状のセラミック積層体を作製する方法としては、作製するハニカムフィルタの形状に合わせて、例えば、4隅の多孔質セラミック部材を省略する方法、三角柱状の多孔質セラミック部材を組み合わせる方法等を用いることができる。また、もちろん四角柱状のセラミック積層体を作製してもよい。
そして、このセラミック積層体を50〜100℃、1時間程度の条件で加熱して上記接着剤ペースト層を乾燥、固化させて接着剤層14とし、その後、例えば、ダイヤモンドカッター等を用いて、その外周部を図1に示したような形状に切削することで、セラミックブロック15を作製することができる。
【0057】
接着剤層14を構成する材料としては特に限定されず、例えば、上述したような無機バインダー、有機バインダー、無機繊維及び無機粒子を含む接着剤ペーストを使用することができる。
また、上記接着剤ペースト中には、少量の水分や溶剤等を含んでいてもよいが、このような水分や溶剤等は、通常、接着剤ペーストを塗布した後の加熱等により殆ど飛散する。
ここで、接着剤層14の熱膨張率αと、上述した多孔質セラミック部材20の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を満たすように、接着剤層14の熱膨張率αを調整する必要がある。
接着剤層14の熱膨張率αを調整するには、材料配合、気孔率や原料を変えることが必要であり、その方法としては特に限定されず、例えば、上記接着剤ペーストに、上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂、及び、有機物バルーンを添加する方法や、調製する接着剤ペーストの攪拌時間を変える方法等を挙げることができる。
【0058】
また、上記無機バインダーの含有量の下限は、固形分で、1重量%が望ましく、5重量%がさらに望ましい。一方、上記無機バインダーの含有量の上限は、固形分で、30重量%が望ましく、15重量%がより望ましく、9重量%がさらに望ましい。上記無機バインダーの含有量が1重量%未満では、接着強度の低下を招くことがあり、一方、30重量%を超えると、熱伝導率の低下を招くことがある。
【0059】
上記有機バインダーの含有量の下限は、固形分で、0.1重量%が望ましく、0.2重量%がより望ましく、0.4重量%がさらに望ましい。一方、上記有機バインダーの含有量の上限は、固形分で、5.0重量%が望ましく、1.0重量%がより望ましく、0.6重量%がさらに望ましい。上記有機バインダーの含有量が0.1重量%未満では、接着剤層14のマイグレーションを抑制するのが難しくなることがあり、一方、5.0重量%を超えると、接着剤層14が高温にさらされた場合に、有機バインダーが焼失し、接着強度が低下することがある。
【0060】
上記無機繊維の含有量の下限は、固形分で、10重量%が望ましく、20重量%がより望ましい。一方、上記無機繊維の含有量の上限は、固形分で、70重量%が望ましく、40重量%がより望ましく、30重量%がさらに望ましい。上記無機繊維の含有量が10重量%未満では、弾性及び強度が低下することがあり、一方、70重量%を超えると、熱伝導性の低下を招くとともに、弾性体としての効果が低下することがある。
【0061】
上記無機粒子の含有量の下限は、固形分で、3重量%が望ましく、10重量%がより望ましく、20重量%がさらに望ましい。一方、上記無機粒子の含有量の上限は、固形分で、80重量%が望ましく、60重量%がより望ましく、40重量%がさらに望ましい。上記無機粒子の含有量が3重量%未満では、熱伝導率の低下を招くことがあり、一方、80重量%を超えると、接着剤層14が高温にさらされた場合に、接着強度の低下を招くことがある。
【0062】
また、上記無機繊維のショット含有量の下限は、1重量%が望ましく、上限は、10重量%が望ましく、5重量%がより望ましく、3重量%がさらに望ましい。また、その繊維長の下限は、1μmが望ましく、上限は、100mmが望ましく、1000μmがより望ましく、500μmがさらに望ましい。
ショット含有量を1重量%未満とするのは製造上困難であり、ショット含有量が10重量%を超えると、多孔質セラミック部材20の壁面を傷つけてしまうことがある。また、繊維長が1μm未満では、弾性を有するハニカムフィルタ10を形成することが難しく、100mmを超えると、毛玉のような形態をとりやすくなるため、無機粒子の分散が悪くなるとともに、接着剤層14の厚みを薄くできない。
【0063】
上記無機粉末の粒径の下限は、0.01μmが望ましく、0.1μmがより望ましい。一方、上記無機粒子の粒径の上限は、100μmが望ましく、15μmがより望ましく、10μmがさらに望ましい。無機粒子の粒径が0.01μm未満では、コストが高くなることがあり、一方、無機粒子の粒径が100μmを超えると、充填率が悪くなり接着力及び熱伝導性の低下を招くことがある。
この接着剤ペースト中には、接着剤ペーストを柔軟にし、流動性を付与して塗布しやすくするため、上記した無機繊維、無機バインダー、有機バインダー及び無機粒子のほかに、およそ総重量の35〜65重量%程度の水分や他のアセトン、アルコール等の溶剤等が含まれていてもよく、この接着剤ペーストの粘度は、15〜25Pa・s(1万〜2万cps(cP))が望ましい。
【0064】
次に、このようにして作製したセラミックブロック15の周囲に塗布材層13の層を形成する塗布材形成工程を行う。
この塗布材形成工程においては、まず、セラミックブロック15をその長手方向で軸支して回転させる。
セラミックブロック15の回転速度は特に限定されないが、2〜10min−1であることが望ましい。
【0065】
続いて、回転しているセラミックブロック15の外周部に塗布材ペーストを付着させる。上記塗布材ペーストとしては特に限定されず、上述した接着剤ペーストと同様のものを挙げることができる。
【0066】
次に、このようにして形成した塗布材ペースト層を120℃程度の温度で乾燥させることにより、水分を蒸発させて塗布材層13とし、図1に示したように、セラミックブロック15の外周部に塗布材層13が形成された第一の本発明のハニカムフィルタ10の製造を終了する。
【0067】
次に、第二の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第二の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記塗布材層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有することを特徴とする。
【0068】
第二の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ(以下、単に第二の本発明のハニカムフィルタともいう)では、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの関係式|α−α|/αの下限が0.01を超え、上限が1.0未満である。但し、上記関係式の値は300〜900℃において数点測定した場合、それぞれで満たされることが望ましいが、これらの平均値が上記関係式を満たすものであってもよい。
【0069】
上記関係式|α−α|/αが0.01以下であると、塗布材層の熱膨張率と多孔質セラミック部材の熱膨張率とが殆ど同じとなり、パティキュレートの蓄積量の不均一、触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、及び、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、ハニカムフィルタに局部的な燃焼が起こった場合に生じる局部的な熱応力を緩和させることができず、多孔質セラミック部材や塗布材層にクラックが発生し、ハニカムフィルタの強度が低下するとともに、排気ガス漏出の原因となる。一方、上記関係式|α−α|/αが1.0以上であると、ハニカムフィルタの通常の使用において、排気ガスの温度差に伴う塗布材層の熱膨張と、多孔質セラミック部材の熱膨張との差が大きくなりすぎ、やはり多孔質セラミック部材や塗布材層にクラックが発生し、ハニカムフィルタの強度が低下するとともに、排気ガス漏出の原因となる。
なお、上記関係式|α−α|/αの下限は0.02を超え、上限は0.5未満であることが望ましい。多孔質セラミック部材や塗布材層にクラックが発生することをより確実に防止することができるからである。
【0070】
上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとしては特に限定されず、使用するセラミック材料等により適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、熱膨張率が小さすぎ、セラミック材料の選定が困難となることがあり、一方、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、
【0071】
第二の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、多孔質セラミック部材が大きく膨張、収縮することとなり、容易に多孔質セラミック部材や塗布材層にクラックが発生することがある。
上記塗布材層の熱膨張率αとしては特に限定されず、上述した多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの間で、上記0.01<|α−α|/α<1.0が成り立つように適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記塗布材層の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、材料の選定が困難となることがある。一方、上記塗布材層の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、第二の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、塗布材層が大きく膨張、収縮することとなり、多孔質セラミック部材や塗布材層に容易にクラックが発生することがある。
【0072】
なお、上記関係式において、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの差α−αを示す分子部分が絶対値となっているのは、使用する塗布材層や多孔質セラミック部材材質、及び、温度によっては、多孔質セラミック部材の熱膨張率αの方が、塗布材層の熱膨張率αよりも大きくなることがあるからである。
【0073】
第二の本発明のハニカムフィルタにおいて、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有するよう調整する方法としては特に限定されず、例えば、多孔質セラミック部材及び塗布材の材料を選択する方法や、塗布材層の気孔率を調整する方法等を挙げることができるが、これらのなかでは、塗布材層の気孔率を調整する方法が望ましい。第二の本発明のハニカムフィルタの全体の熱容量を低下させ、高温の排気ガスにより第二の本発明のハニカムフィルタの温度を迅速に上昇させることができるからである。
【0074】
上記塗布材層の気孔率を調整する方法としては特に限定されず、例えば、塗布材層中に第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明した、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機物や有機物等のバルーンを含有させる方法等が挙げられる。
第二の本発明のハニカムフィルタでは、塗布材に上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等を含有させることにより、塗布材層の熱膨張率αを調整することができる。
これは、上述した材料は、第二の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では塗布材層中に均一な状態で分散しているが、実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失して塗布材層に気孔が形成され、塗布材層の密度が低下するからであると考えられる。
【0075】
なお、塗布材層の気孔率を上げるほかに、上述したように、塗布材を構成する無機バインダー、有機バインダー、無機繊維、無機粒子を選定する際、熱膨張率の高いものや低いものを選ぶことにより、塗布材層の熱膨張率αを調整することができる。
上述した以外の第二の本発明のハニカムフィルタの構成要素については、第一の本発明のハニカムフィルタと同様のものを使用することができるので、ここではその説明を省略する。
【0076】
また、第二の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第二の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0077】
上記触媒が担持された第二の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第二の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0078】
上述した通り、第二の本発明のハニカムフィルタは、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有する。即ち、第二の本発明のハニカムフィルタを構成する塗布材層の熱膨張率と、多孔質セラミック部材の熱膨張率とは同一ではなく、僅かに異なったものである。そのため、第二の本発明のハニカムフィルタは、パティキュレートの蓄積量の不均一や、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、さらに、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、局部的な燃焼、即ち、局部的な温度変化が生じた場合であっても、上記局部的な温度変化が生じた部分と、それ以外の部分との間で生じた熱応力を好適に緩和させることができ、多孔質セラミック部材や塗布材層にクラックが発生することがない。
従って、第二の本発明のハニカムフィルタは、強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0079】
第二の本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例について説明する。
第二の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法において、接着剤ペーストを調製する工程で、接着剤層の熱膨張率αと、上述した多孔質セラミック部材20の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を満たすように、接着剤ペーストの組成を調整する代りに、塗布材ペーストを調製する工程で、塗布材層の熱膨張率αと、上述した多孔質セラミック部材20の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を満たすように、塗布材ペーストの組成を調整する以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0080】
塗布材層の熱膨張率αを調整するには、材料配合、気孔率や原料を変えることが必要であり、その方法としては特に限定されず、例えば、塗布材ペーストに、上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂、及び、有機物バルーンを添加する方法や、調製する塗布材ペーストの攪拌時間を変える方法等を挙げることができる。
【0081】
次に、第三の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第三の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有し、
上記塗布材層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有することを特徴とする。
【0082】
第三の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ(以下、単に第三の本発明のハニカムフィルタともいう)では、接着剤層の熱膨張率αと多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの関係式|α−α|/α、及び、塗布材層の熱膨張率αと多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの関係式|α−α|/αの下限が0.01を超え、上限が1.0未満である。但し、上記各関係式の値は300〜900℃において数点測定した場合、それぞれで満たされることが望ましいが、これらの平均値が上記各関係式を満たすものであってもよい。
【0083】
上記関係式|α−α|/α、及び/又は、関係式|α−α|/αが0.01以下であると、接着剤層及び/又は塗布材層の熱膨張率と多孔質セラミック部材の熱膨張率とが殆ど同じとなり、パティキュレートの蓄積量の不均一、触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、及び、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、ハニカムフィルタに局部的な燃焼が起こった場合に生じる局部的な熱応力を緩和させることができず、多孔質セラミック部材や、接着剤層及び/又は塗布材層にクラックが発生し、ハニカムフィルタの強度が低下するとともに、排気ガス漏出の原因となることがある。一方、上記関係式|α−α|/α、及び/又は、関係式|α−α|/αが1.0以上であると、ハニカムフィルタの通常の使用において、排気ガスの温度差に伴う接着剤層及び/又は塗布材層の熱膨張と、多孔質セラミック部材の熱膨張との差が大きくなりすぎ、やはり多孔質セラミック部材や、接着剤層及び/又は塗布材層にクラックが発生し、ハニカムフィルタの強度が低下するとともに、排気ガス漏出の原因となることがある。
なお、上記関係式|α−α|/α、及び、関係式|α−α|/αの下限は0.02を超え、上限は0.5未満であることが望ましい。多孔質セラミック部材や、接着剤層及び/又は塗布材層にクラックが発生することをより確実に防止することができるからである。
【0084】
上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとしては特に限定されず、使用するセラミック材料等により適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、熱膨張率が小さすぎ、セラミック材料の選定が困難となることがあり、一方、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、第三の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、多孔質セラミック部材が大きく膨張、収縮することとなり、容易に多孔質セラミック部材や、接着剤層及び/又は塗布材層にクラックが発生することがある。
【0085】
上記接着剤層の熱膨張率αとしては特に限定されず、上述した多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの間で、上記0.01<|α−α|/α<1.0が成り立つように適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記接着剤層の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、材料の選定が困難となることがある。一方、上記接着剤層の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、第三の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、接着剤層が大きく膨張、収縮することとなり、多孔質セラミック部材や接着剤層に容易にクラックが発生することがある。
【0086】
上記接着剤層の気孔率を調整する方法としては特に限定されず、例えば、接着剤層中に第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明した、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機物や有機物等のバルーンを含有させる方法等が挙げられる。
第三の本発明のハニカムフィルタでは、接着剤に上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等を含有させることにより、接着剤層の熱膨張率αを調整することができる。
これは、上述した材料は、第三の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では接着剤層中に均一な状態で分散しているが、実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失して接着剤層に気孔が形成され、接着剤層の密度が低下するからであると考えられる。
【0087】
なお、接着剤層の気孔率を上げるほかに、上述したように、接着剤を構成する無機バインダー、有機バインダー、無機繊維、無機粒子を選定する際、熱膨張率の高いものや低いものを選ぶことにより、接着剤層の熱膨張率αを調整することができる。
上記塗布材層の熱膨張率αとしては特に限定されず、上述した多孔質セラミック部材の熱膨張率αとの間で、上記0.01<|α−α|/α<1.0が成り立つように適宜決定されるが、0.1×10−6〜10.0×10−6(1/K)程度であることが望ましい。上記塗布材層の熱膨張率αが0.1×10−6(1/K)未満であると、材料の選定が困難となることがある。一方、上記塗布材層の熱膨張率αが10.0×10−6(1/K)を超えると、第三の本発明のハニカムフィルタの通常の使用において、塗布材層が大きく膨張、収縮することとなり、多孔質セラミック部材や塗布材層に容易にクラックが発生することがある。
【0088】
第三の本発明のハニカムフィルタにおいて、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有するよう調整する方法としては特に限定されず、例えば、多孔質セラミック部材及び塗布材の材料を選択する方法や、塗布材層の気孔率を調整する方法等を挙げることができるが、これらのなかでは、塗布材層の気孔率を調整する方法が望ましい。第三の本発明のハニカムフィルタの全体の熱容量を低下させ、高温の排気ガスにより第三の本発明のハニカムフィルタの温度を迅速に上昇させることができるからである。
【0089】
上記塗布材層の気孔率を調整する方法としては特に限定されず、例えば、塗布材層中に第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明した、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機物や有機物等のバルーンを含有させる方法等が挙げられる。
第三の本発明のハニカムフィルタでは、塗布材に上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等を含有させることにより、塗布材層の熱膨張率αを調整することができる。
これは、上述した材料は、第三の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では塗布材層中に均一な状態で分散しているが、実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失して塗布材層に気孔が形成され、塗布材層の密度が低下するからであると考えられる。
【0090】
なお、塗布材層の気孔率を上げるほかに、上述したように、塗布材を構成する無機バインダー、有機バインダー、無機繊維、無機粒子を選定する際、熱膨張率の高いものや低いものを選ぶことにより、塗布材層の熱膨張率αを調整することができる。
上述した以外の第三の本発明のハニカムフィルタの構成要素については、第一の本発明のハニカムフィルタと同様のものを使用することができるので、ここではその説明を省略する。
【0091】
また、第三の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第三の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
上記触媒が担持された第三の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第三の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0092】
上述した通り、第三の本発明のハニカムフィルタは、接着剤層の熱膨張率αと多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有し、塗布材層の熱膨張率αと多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有する。即ち、第三の本発明のハニカムフィルタを構成する接着剤層及び塗布材層の熱膨張率と、多孔質セラミック部材の熱膨張率とは同一ではなく、僅かに異なったものである。そのため、第三の本発明のハニカムフィルタは、パティキュレートの蓄積量の不均一や、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合の触媒量の不均一、さらに、ヒータや排気ガス等による加熱の不均一等に起因して、局部的な燃焼、即ち、局部的な温度変化が生じた場合であっても、上記局部的な温度変化が生じた部分と、それ以外の部分との間で生じた熱応力を好適に緩和させることができ、多孔質セラミック部材や、接着剤層及び塗布材層にクラックが発生することがない。
従って、第三の本発明のハニカムフィルタは、強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0093】
第三の本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例について説明する。
第三の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法の塗布材ペーストを調製する工程において、塗布材層の熱膨張率αと、上述した多孔質セラミック部材20の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を満たすように、塗布材ペーストの組成を調整する以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様の方法で製造することができる。
塗布材層の熱膨張率αを調整するには、材料配合、気孔率や原料を変えることが必要であり、その方法としては特に限定されず、例えば、塗布材ペーストに、上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂、及び、有機物バルーンを添加する方法や、調製する塗布材ペーストの攪拌時間を変える方法等を挙げることができる。
【0094】
次に、第四の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第四の本発明は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカム構造体であって、
上記接着剤層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする排気ガス浄化用ハニカムフィルタである。
【0095】
第四の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ(以下、単に第四の本発明のハニカムフィルタともいう)では、接着剤層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低い。即ち、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合が100%未満である。両者の関係に関し、300〜900℃において数点測定した場合、それぞれで接着剤層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことが望ましいが、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の平均値が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の平均値よりも低くてもよい。
【0096】
上記のように規定したのは、第四の本発明のハニカムフィルタでは、接着剤層の熱容量を低下させることにより、ハニカムフィルタ全体としての熱容量を低下させるためである。ハニカムフィルタ全体の熱容量を低下させるには、多孔質セラミック部材の熱容量または接着剤層の熱容量等を下げる必要がある。ここで、多孔質セラミック部材の熱容量を低下させるには、比熱の低いセラミック材料にするか、密度の低い多孔質体にする必要がある。しかし、比熱は、一般に、材料固有の数値を示すため、材料を変えない限り変更することができず、また、低い密度の多孔質体とするには、多孔質セラミックの気孔率をより高くしたり、ハニカムの開口率(フィルタの単位断面積当たりの開口部(壁のない空間)の面積割合)を高くしたりする必要があるので、多孔質セラミック部材の熱容量を低下させると、多孔質セラミック部材の機械的な強度が低下する等の問題を生じることとなる。
【0097】
また、ハニカムフィルタにおいて、接着剤層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも高いと、捕集されたパティキュレートの再生や、触媒の活性温度を高くさせるために、多孔質セラミック部材を昇温させようとしても、接着剤層の昇温に多くの熱量が必要となるため、多孔質セラミック部材が昇温しにくくなり、ハニカムフィルタ全体としての昇温特性が劣ることになる。その結果、例えば、ハニカムフィルタに触媒を担持させて触媒担持体として機能させた場合、ハニカムフィルタを、当該触媒が排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度にまで迅速に昇温させることができないため、上記排気ガス中のCO、HC及びNOx等の浄化能力に劣るものとなる。
【0098】
なお、第四の本発明のハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合は、90%以下であることが望ましい。第四の本発明のハニカムフィルタをより昇温特性に優れたものとすることができるからである。
【0099】
第四の本発明のハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合は、20%以上であることが望ましい。20%未満であると、接着剤層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなりすぎ、排出される高温の排気ガスにより上記接着剤層の温度が急激に上昇して第四の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材との間に大きな熱応力が生じるため、上記接着剤層と多孔質セラミック部材との間にクラックが発生することがある。
さらに、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合は、25%以上であることがより望ましい。
【0100】
第四の本発明のハニカムフィルタに用いられる多孔質セラミック部材の単位体積(1m)当たりの熱容量としては特に限定されず、使用するセラミック材料等により適宜決定されるが、600〜3000(kJ/(K・m))程度であることが望ましい。熱容量を600(kJ/(K・m))未満とするには、多孔質セラミック部材の気孔率を非常に高くする必要があるが、このような多孔質セラミック部材は、その密度が非常に低くなるため、強度が低下して容易に破壊されることがある。また、フィルタとして使用したときに、熱への応答性が良くなるために、容易に昇温されやすい反面、冷めやすくなるために、結果的にフィルタを高温状態で保ちにくくなるため、昇温しにくくなる。一方、熱容量が3000(kJ/(K・m))を超えるものであると、熱容量を高く設定するために第四の本発明のハニカムフィルタの気孔率を低く設定しなければならず、背圧が高くなってエンジン等の性能に影響を与えてしまう。また、フィルタとして使用したときに、熱容量が高いため、昇温させるのに、より多くの熱エネルギーが必要となるため、昇温特性に劣ることになる。
【0101】
上記接着剤層の単位体積(1m)当たりの熱容量としては特に限定されず、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも小さくなるように適宜調整されるが、400〜2300(kJ/(K・m))程度であることが望ましい。400(kJ/(K・m))未満であると、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量との差が大きくなり、排出される高温の排気ガスにより上記接着剤層の温度が急激に上昇して第四の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材との間に大きな熱応力が生じるため、上記接着剤層と多孔質セラミック部材との間にクラックが発生することがある。一方、2300(kJ/(K・m))を超えると、第四の本発明のハニカムフィルタの熱容量が大きくなり、フィルタとして使用したときに、接着剤層の熱容量が大きいため、接着剤層を昇温させるのに多くの熱エネルギーが必要となり、第四の本発明のハニカムフィルタ全体の昇温特性が劣ることになるからである。また、材料の選定が困難となることがある。
【0102】
第四の本発明のハニカムフィルタにおいて、接着剤層の単位体積当たりの熱容量を、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くする方法としては特に限定されず、例えば、多孔質セラミック部材及び接着剤の材料を選択する方法や、接着剤層の気孔率を増加させる方法等を挙げることができるが、これらのなかでは、接着剤層の気孔率を増加させる方法が望ましい。第四の本発明のハニカムフィルタの全体の熱容量が低下し、排出される高温の排気ガスにより第四の本発明のハニカムフィルタの温度を迅速に上昇させることができるからである。
【0103】
上記接着剤層の気孔率を増加させる方法としては特に限定されず、例えば、接着剤層中に第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明した、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機物や有機物等のバルーンを含有させる方法等が挙げられる。
第四の本発明のハニカムフィルタでは、接着剤に上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等を含有させることにより、接着剤層の単位体積当たりの熱容量を調整することができる。
これは、上述した材料は、第四の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では接着剤層中に均一な状態で分散しているが、実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失して接着剤層に気孔が形成され、接着剤層の密度が低下するからであると考えられる。
【0104】
なお、接着剤の気孔率を上げるほかに、上述したように、接着剤を構成する無機バインダー、有機バインダー、無機繊維、無機粒子を選定する際、熱容量の低いものを選ぶことにより、接着剤の熱容量をより低下させることができる。
上述した以外の第四の本発明のハニカムフィルタの構成要素については、第一の本発明のハニカム構造体と同様のものを使用することができるので、ここではその説明を省略する。
【0105】
また、第四の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第四の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0106】
上記触媒が担持された第四の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第四の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0107】
上述した通り、第四の本発明のハニカムフィルタは、接着剤層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低い。そのため、第四の本発明のハニカムフィルタは、昇温特性に優れたものとなり、当該ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合、第四の本発明のハニカムフィルタを上記触媒が排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度にまで迅速に昇温させることができる。従って、第四の本発明のハニカムフィルタは、触媒担持体として好適に使用することができる。
【0108】
第四の本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例について説明する。
第四の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法の接着剤層14となる接着剤ペーストを調製する工程において、形成する接着剤層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなるように接着剤ペーストの組成を調整する以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0109】
次に、本発明の接着剤について説明する。
本発明の接着剤は、独立気孔形成可能な材料を含有することを特徴とする。
上記独立気孔形成可能な材料としては特に限定されず、例えば、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機バルーン及び有機バルーン等を挙げることができるが、これらの材料のなかでは、発泡材、無機バルーン及び有機バルーンからなる群から選択される少なくとも1の材料であることが望ましい。
【0110】
上記発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機バルーン及び有機バルーン等(以下、発泡材等ともいう)の含有量の上限は、80重量%が望ましく、60重量%がより望ましい。一方、上記発泡材等の含有量の下限は、0.01重量%が望ましく、1.0重量%がより望ましい。上記発泡材等の含有量が0.01重量%未満では、本発明の接着剤を用いてなる接着剤層の気孔率を余り高くすることができず、該接着剤層の熱容量が高くなるとともに、弾性が低下することがあり、一方、80重量%を超えると、本発明の接着剤を用いてなる接着剤層の気孔率が高くなりすぎ、強度が低下してクラックが発生することがある。
【0111】
なお、上記発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機バルーン及び有機バルーンの種類、形状等は、第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明したものと同様のものが挙げられるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0112】
本発明の接着剤は、独立気孔が形成され、これに起因して下記のような種々の効果を奏する。従って、本発明の接着剤の用途は、このような効果(特性)が有利に働く用途であれば特に限定されず、建材用、土木用の接着剤等の用途や、金属製品、セラミック製品等を製造する際の接着剤としての用途が挙げられる。
【0113】
これらのなかでは、多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されたハニカムフィルタにおける上記接着剤層の原料として用いられることが望ましい。上記接着剤層の熱膨張率を制御することができるため、上記ハニカムフィルタに生じる熱応力を緩和することができるからである。また、上記ハニカムフィルタ全体の気孔率を高くすることができるため熱容量を低くすることができ、上記ハニカムフィルタに大量の触媒を担持させることで触媒担持体として機能させた場合であっても、背圧の上昇を防ぐことができるからである。
【0114】
上述した通り、本発明の接着剤は、独立気孔形成可能な材料を含有している。そのため、本発明の接着剤を用いてなる接着剤層に形成される気孔の気孔率等を制御することができるため、該接着剤層の熱膨張率を制御することができるとともに、単位体積当たりの熱容量を低くし、優れた弾性を維持することができる。
従って、本発明の接着剤を用いてなる接着剤層を介して、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された多孔質セラミック部材を複数個結束し、排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造すると、上記多孔質セラミック部材と上記接着剤層との間に生じる熱応力や上記接着剤層に加わる外力を緩和することができるため、上記多孔質セラミック部材と接着剤層との間にクラックが発生することがなく、強度及び耐久性に優れたものとなる。また、上記接着剤層に形成された気孔により、当該接着剤層の密度が低下し、それにより、単位体積当たりの熱容量が低下するため、上記排気ガス浄化用ハニカムフィルタの昇温特性が優れたものとなる。
【0115】
このような本発明の接着剤を用いて製造された排気ガス浄化用ハニカムフィルタも本発明の1つであり、この第五の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、上述したような特有の優れた効果を奏する。
【0116】
また、第五の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第五の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0117】
上記触媒が担持された第五の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第五の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0118】
次に、第六の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第六の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする。
【0119】
第六の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ(以下、単に第六の本発明のハニカムフィルタともいう)では、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低い。即ち、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合が100%未満である。両者の関係に関し、300〜900℃において数点測定した場合、それぞれで塗布材層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことが望ましいが、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の平均値が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の平均値よりも低くてもよい。
【0120】
上記のように規定したのは、第六の本発明のハニカムフィルタでは、塗布材層の熱容量を低下させることにより、ハニカムフィルタ全体としての熱容量を低下させるためである。ハニカムフィルタ全体の熱容量を低下させるには、多孔質セラミック部材の熱容量または塗布材層の熱容量等を下げる必要がある。ここで、多孔質セラミック部材の熱容量を低下させるには、比熱の低いセラミック材料にするか、密度の低い多孔質体にする必要がある。しかし、比熱は、一般に、材料固有の数値を示すため、材料を変えない限り変更することができず、また、低い密度の多孔質体とするには、多孔質セラミックの気孔率をより高くしたり、ハニカムの開口率(フィルタの単位断面積当たりの開口部(壁のない空間)の面積割合)を高くしたりする必要があるので、多孔質セラミック部材の熱容量を低下させると、多孔質セラミック部材の機械的な強度が低下する等の問題を生じることとなる。
【0121】
また、ハニカムフィルタにおいて、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも高いと、捕集されたパティキュレートの再生や、触媒の活性温度を高くさせるために、多孔質セラミック部材を昇温させようとしても、塗布材層の昇温に多くの熱量が必要となるため、多孔質セラミック部材が昇温しにくくなり、ハニカムフィルタ全体としての昇温特性が劣ることになる。その結果、例えば、ハニカムフィルタに触媒を担持させて触媒担持体として機能させた場合、ハニカムフィルタを、当該触媒が排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度にまで迅速に昇温させることができないため、上記排気ガス中のCO、HC及びNOx等の浄化能力に劣るものとなる。
【0122】
なお、第六の本発明のハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合は、90%以下であることが望ましい。第六の本発明のハニカムフィルタをより昇温特性に優れたものとすることができるからである。
【0123】
第六の本発明のハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合は、20%以上であることが望ましい。20%未満であると、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなりすぎ、排出される高温の排気ガスにより上記塗布材層の温度が急激に上昇して第六の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材との間に大きな熱応力が生じるため、上記塗布材層と多孔質セラミック部材との間にクラックが発生することがある。
【0124】
さらに、第六の本発明のハニカムフィルタの単位体積当たりの熱容量に対する、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合は、25%以上であることがより望ましい。
第六の本発明のハニカムフィルタに用いられる多孔質セラミック部材の単位体積(1m)当たりの熱容量としては特に限定されず、使用するセラミック材料等により適宜決定されるが、600〜3000(kJ/(K・m))程度であることが望ましい。熱容量を600(kJ/(K・m))未満とするには、多孔質セラミック部材の気孔率を非常に高くする必要があるが、このような多孔質セラミック部材は、その密度が非常に低くなるため、強度が低下して容易に破壊されることがある。また、フィルタとして使用したときに、熱への応答性が良くなるために、容易に昇温されやすい反面、冷めやすくなるために、結果的にフィルタを高温状態で保ちにくくなるため、昇温しにくくなる。一方、熱容量が3000(kJ/(K・m))を超えるものであると、熱容量を高く設定するために第六の本発明のハニカムフィルタの気孔率を低く設定しなければならず、背圧が高くなってエンジン等の性能に影響を与えてしまう。また、フィルタとして使用したときに、熱容量が高いため、昇温させるのに、より多くの熱エネルギーが必要となるため、昇温特性に劣ることになる。
【0125】
上記塗布材層の単位体積(1m)当たりの熱容量としては特に限定されず、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも小さくなるように適宜調整されるが、400〜2300(kJ/(K・m))程度であることが望ましい。400(kJ/(K・m))未満であると、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量との差が大きくなり、排出される高温の排気ガスにより上記塗布材層の温度が急激に上昇して第六の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材との間に大きな熱応力が生じるため、上記塗布材層と多孔質セラミック部材との間にクラックが発生することがある。一方、2300(kJ/(K・m))を超えると、第六の本発明のハニカムフィルタの熱容量が大きくなり、フィルタとして使用したときに、塗布材層の熱容量が大きいため、塗布材層を昇温させるのに多くの熱エネルギーが必要となり、第六の本発明のハニカムフィルタ全体の昇温特性が劣ることになるからである。また、材料の選定が困難となることがある。
【0126】
第六の本発明のハニカムフィルタにおいて、塗布材層の単位体積当たりの熱容量を、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くする方法としては特に限定されず、例えば、多孔質セラミック部材及び塗布材の材料を選択する方法や、塗布材層の気孔率を増加させる方法等を挙げることができるが、これらのなかでは、塗布材層の気孔率を増加させる方法が望ましい。第六の本発明のハニカムフィルタの全体の熱容量が低下し、排出される高温の排気ガスにより第六の本発明のハニカムフィルタの温度を迅速に上昇させることができるからである。
上記塗布材層の気孔率を増加させる方法としては特に限定されず、例えば、塗布材層中に第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明した、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機物や有機物等のバルーンを含有させる方法等が挙げられる。
【0127】
第六の本発明のハニカムフィルタでは、塗布材に上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等を含有させることにより、塗布材層の単位体積当たりの熱容量を調整することができる。
これは、上述した材料は、第六の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では塗布材層中に均一な状態で分散しているが、実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失して塗布材層に気孔が形成され、塗布材層の密度が低下するからであると考えられる。
なお、塗布材の気孔率を上げるほかに、上述したように、塗布材を構成する無機バインダー、有機バインダー、無機繊維、無機粒子を選定する際、熱容量の低いものを選ぶことにより、塗布材の熱容量をより低下させることができる。
【0128】
上述した以外の第六の本発明のハニカムフィルタの構成要素については、第一の本発明のハニカム構造体と同様のものを使用することができるので、ここではその説明を省略する。
また、第六の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第六の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
【0129】
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0130】
上記触媒が担持された第六の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第六の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0131】
上述した通り、第六の本発明のハニカムフィルタは、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低い。そのため、第六の本発明のハニカムフィルタは、昇温特性に優れたものとなり、当該ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合、第六の本発明のハニカムフィルタを上記触媒が排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度にまで迅速に昇温させることができる。従って、第六の本発明のハニカムフィルタは、触媒担持体として好適に使用することができる。
【0132】
第六の本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例について説明する。
第六の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法の塗布材層13となる塗布材ペーストを調製する工程において、形成する塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなるように塗布材ペーストの組成を調整する以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0133】
次に、本発明の塗布材について説明する。
本発明の塗布材は、独立気孔形成可能な材料を含有することを特徴とする。
上記独立気孔形成可能な材料としては特に限定されず、例えば、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機バルーン及び有機バルーン等を挙げることができる。なかでも、発泡材、無機バルーン及び有機バルーンからなる群から選択される少なくとも1の材料であることが望ましい。
なお、上記発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機バルーン及び有機バルーンの種類、形状等としては、第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において用いることができるものと同様のものが挙げられるので、ここでは詳しい説明を省略する。
【0134】
上記独立気孔形成可能な材料の含有量の上限は、80重量%が望ましく、60重量%がより望ましい。一方、上記独立気孔形成可能な材料の含有量の下限は、0.01重量%が望ましく、1.0重量%がより望ましい。上記独立気孔形成可能な材料の含有量が0.01重量%未満では、本発明の塗布材を用いてなる塗布材層の気孔率を充分に高くすることができず、該塗布材層の単位体積当たりの熱容量が高くなり、断熱性が低下するとともに、弾性が低下して充分に応力を緩和することができないことがあり、一方、80重量%を超えると、本発明の塗布材を用いてなる塗布材層の気孔率が高くなりすぎ、強度が低下してクラックが発生することがある。
【0135】
本発明の塗布材の用途としては、独立気孔が形成されていることが有利に働く用途であれば特に限定されず、多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成されてなる排気ガス浄化用ハニカムフィルタにおける塗布材層の原料、多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束された排気ガス浄化用ハニカムフィルタにおける接着剤層の原料、建材用、土木用等の塗布材等を挙げることができる。なかでも、多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成されてなる排気ガス浄化用ハニカムフィルタにおける塗布材層の原料として好適に用いられる。
【0136】
本発明の塗布材は、独立気孔形成可能な材料を含有するものであることから、本発明の塗布材からなる塗布材層中には、独立気孔が形成される。独立気孔を含有させることにより、本発明の塗布材からなる塗布材層は、単位体積当たりの熱容量を低下させ、断熱性を向上し、かつ、弾性に優れるので応力を緩和することができる。
【0137】
次に、第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、上記塗布材層は、本発明の塗布材を用いて形成されていることを特徴とする。
【0138】
第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタと同様に、図1に示したような、多孔質セラミック部材20が接着剤層14を介して複数個結束されてセラミックブロック15を構成し、このセラミックブロック15の周囲に塗布材層13が形成された構造のハニカムフィルタ10であってもよいし、1個の多孔質セラミック部材からなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成された構造のハニカムフィルタであってもよい。
なお、上記セラミックブロックの形状としては特に限定されず、例えば、円柱状、楕円柱状、角柱状等の任意の形状を挙げることができる。
【0139】
第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材、接着剤層等の各部材としては、塗布材層が本発明の塗布材を用いて形成される以外は、第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタと同様のものを用いることができるので、ここではその説明を省略する。
【0140】
なお、第七の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第七の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0141】
上記触媒が担持された第七の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第七の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0142】
第七の本発明のハニカムフィルタの製造方法について説明する。
第七の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法における塗布材形成工程において、塗布材ペーストとして本発明の塗布材を用いること以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様にして製造することができる。
第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、本発明の塗布材により塗布材層が形成されていることから、優れた昇温特性を有する。これは、上記塗布材層の内部に形成された独立気孔により、塗布材層の密度が低下して単位体積当たりの熱容量が低下しているとともに、塗布材層の断熱性が向上しているためである。
【0143】
また、第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、本発明の塗布材により塗布材層が形成されていることから、強度及び耐久性に優れている。これは、上記塗布材層の内部に形成された独立気孔により、塗布材層の弾性が向上するため、塗布材層におけるクラックの発生を防止するとともに、セラミックブロックに対する熱応力を緩和してセラミックブロックにおけるクラックの発生を防止することができ、更に、第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタに加えられる外力を効果的に緩和することができるためである。
なお、第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、強度及び耐久性に優れていることから、気孔率を高くすることができ、気孔率を高くした場合には、単位体積当たりの熱容量が下がるので昇温特性をより向上させることができ、背圧を上昇させることなく大量の触媒を担持させ触媒担持体として機能させることも可能となる。
【0144】
次に、第八の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第八の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
上記接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、上記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が上記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする。
【0145】
第八の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ(以下、単に第八の本発明のハニカムフィルタともいう)では、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低い。即ち、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合がともに100%未満である。これらの関係に関し、300〜900℃において数点測定した場合、それぞれで接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことが望ましいが、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の平均値、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の平均値が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の平均値よりもそれぞれ低くてもよい。
【0146】
上記のように規定したのは、第八の本発明のハニカムフィルタでは、接着剤層及び塗布材層の熱容量を低下させることにより、多孔質セラミック部材の熱容量を低下させることなく、ハニカムフィルタ全体としての熱容量を低下させるためであり、これにより、多孔質セラミック部材の機械的な強度が低下させることなく、ハニカムフィルタ全体としての昇温特性を向上させることができる。
その結果、例えば、ハニカムフィルタに触媒を担持させて触媒担持体として機能させた場合、ハニカムフィルタを、当該触媒が排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度にまで迅速に昇温させることができ、上記排気ガス中のCO、HC及びNOx等の浄化能力に優れたものとなる。
【0147】
なお、第八の本発明のハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合は、それぞれ90%以下であることが望ましい。第八の本発明のハニカムフィルタを特に昇温特性に優れたものとすることができるからである。
【0148】
第八の本発明のハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合は、それぞれ20%以上であることが望ましい。20%未満であると、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び/又は、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなりすぎ、排出される高温の排気ガスにより接着剤層及び/又は塗布材層の温度が急激に上昇して第八の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材との間に大きな熱応力が生じるため、接着剤層及び/又は塗布材層と多孔質セラミック部材との間にクラックが発生することがある。
【0149】
さらに、第八の本発明のハニカムフィルタの単位体積当たりの熱容量に対する、接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量の割合は、それぞれ25%以上であることがより望ましい。
【0150】
第八の本発明のハニカムフィルタに用いられる多孔質セラミック部材の単位体積(1m)当たりの熱容量としては特に限定されず、使用するセラミック材料等により適宜決定されるが、600〜3000(kJ/(K・m))程度であることが望ましい。熱容量を600(kJ/(K・m))未満とするには、多孔質セラミック部材の気孔率を非常に高くする必要があるが、このような多孔質セラミック部材は、その密度が非常に低くなるため、強度が低下して容易に破壊されることがある。また、フィルタとして使用したときに、熱への応答性が良くなるために、容易に昇温されやすい反面、冷めやすくなるために、結果的にフィルタを高温状態で保ちにくくなるため、昇温しにくくなる。一方、熱容量が3000(kJ/(K・m))を超えるものであると、熱容量を高く設定するために第八の本発明のハニカムフィルタの気孔率を低く設定しなければならず、背圧が高くなってエンジン等の性能に影響を与えてしまう。また、フィルタとして使用したときに、熱容量が高いため、昇温させるのに、より多くの熱エネルギーが必要となるため、昇温特性に劣ることになる。
【0151】
上記接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量としては特に限定されず、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも小さくなるように適宜調整されるが、400〜2300(kJ/(K・m))程度であることが望ましい。400(kJ/(K・m))未満であると、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量との差が大きくなり、排出される高温の排気ガスにより接着剤層及び/又は塗布材層の温度が急激に上昇して第八の本発明のハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材との間に大きな熱応力が生じるため、接着剤層及び/又は塗布材層と多孔質セラミック部材との間にクラックが発生することがある。一方、2300(kJ/(K・m))を超えると、第八の本発明のハニカムフィルタの熱容量が大きくなり、フィルタとして使用したときに、接着剤層及び/又は塗布材層の熱容量が大きいため、接着剤層及び/又は塗布材層を昇温させるのに多くの熱エネルギーが必要となり、第八の本発明のハニカムフィルタ全体の昇温特性が劣ることになるからである。また、材料の選定が困難となることがある。
【0152】
第八の本発明のハニカムフィルタにおいて、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量を、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くする方法としては特に限定されず、例えば、多孔質セラミック部材、接着剤及び塗布材の材料を選択する方法や、接着剤層及び塗布材層の気孔率を増加させる方法等を挙げることができるが、これらのなかでは、接着剤層及び塗布材層の気孔率を増加させる方法が望ましい。第八の本発明のハニカムフィルタの全体の熱容量が低下し、排出される高温の排気ガスにより第八の本発明のハニカムフィルタの温度を迅速に上昇させることができるからである。
【0153】
上記接着剤層及び塗布材層の気孔率を増加させる方法としては特に限定されず、例えば、接着剤層中及び塗布材層中に第一の本発明のハニカムフィルタの接着剤層において説明した、発泡材、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の樹脂、無機物や有機物等のバルーンを含有させる方法等が挙げられる。
【0154】
第八の本発明のハニカムフィルタでは、接着剤及び塗布材に上述した発泡材や、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂や、無機物や有機物等のバルーン等を含有させることにより、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量を調整することができる。
これは、上述した材料は、第八の本発明のハニカムフィルタを製造した段階では接着剤層中及び塗布材層中に均一な状態で分散しているが、実際に使用することで高温に加熱されると、上記発泡材等の有機分は分解されて焼失して接着剤層及び塗布材層に気孔が形成され、接着剤層及び塗布材層の密度が低下するからであると考えられる。
なお、接着剤及び塗布材の気孔率を上げるほかに、上述したように、接着剤及び塗布材を構成する無機バインダー、有機バインダー、無機繊維、無機粒子を選定する際、熱容量の低いものを選ぶことにより、接着剤及び塗布材の熱容量をより低下させることができる。
【0155】
上述した以外の第八の本発明のハニカムフィルタの構成要素については、第一の本発明のハニカム構造体と同様のものを使用することができるので、ここではその説明を省略する。
【0156】
また、第八の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第八の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0157】
上記触媒が担持された第八の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第八の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0158】
上述した通り、第八の本発明のハニカムフィルタは、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低い。そのため、第八の本発明のハニカムフィルタは、昇温特性に優れたものとなり、当該ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合、第八の本発明のハニカムフィルタを上記触媒が排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度にまで迅速に昇温させることができる。従って、第八の本発明のハニカムフィルタは、触媒担持体として好適に使用することができる。
【0159】
第八の本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例について説明する。
第八の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法において、接着剤層14となる接着剤ペーストを調製する工程で、形成する接着剤層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなるように接着剤ペーストの組成を調整すること、及び、塗布材層13となる塗布材ペーストを調製する工程で、形成する塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなるように塗布材ペーストの組成を調整すること以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0160】
次に、第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタについて説明する。
第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、上記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、上記接着剤層は、本発明の接着剤を用いて形成されており、上記塗布材層は、本発明の塗布材を用いて形成されていることを特徴とする。
【0161】
第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、図1に示したような、多孔質セラミック部材20が接着剤層14を介して複数個結束されてセラミックブロック15を構成し、このセラミックブロック15の周囲に塗布材層13が形成された構造のハニカムフィルタ10である。
なお、上記セラミックブロックの形状としては特に限定されず、例えば、円柱状、楕円柱状、角柱状等の任意の形状を挙げることができる。
【0162】
第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材、接着剤層等の各部材としては、接着剤層が本発明の接着剤を用いて形成され、塗布材層が本発明の塗布材を用いて形成される以外は、第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタと同様のものを用いることができるので、ここではその説明を省略する。
【0163】
なお、第九の本発明のハニカムフィルタには、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒が担持されていてもよい。
このような触媒が担持されていることで、第九の本発明のハニカムフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタとして機能するとともに、排気ガスに含有される上記CO、HC及びNOx等を浄化するための触媒担持体として機能することができる。
上記触媒としては、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる触媒であれば特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属等を挙げることができる。また、貴金属に加えて、アルカリ金属(元素周期表1族)、アルカリ土類金属(元素周期表2族)、希土類元素(元素周期表3族)、遷移金属元素が加わることもある。
【0164】
上記触媒が担持された第九の本発明のハニカムフィルタは、従来公知の触媒付DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と同様のガス浄化装置として機能するものである。従って、ここでは、第九の本発明のハニカムフィルタが触媒担持体としても機能する場合の詳しい説明を省略する。
【0165】
第九の本発明のハニカムフィルタの製造方法について説明する。
第九の本発明のハニカムフィルタは、上述した第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法において、セラミック積層体作製工程で、接着剤ペーストとして本発明の接着剤を用いること、及び、塗布材形成工程で、塗布材ペーストとして本発明の塗布材を用いること以外は、第一の本発明のハニカムフィルタの製造方法と同様にして製造することができる。
【0166】
第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、本発明の接着剤により接着剤層が形成されており、本発明の塗布材により塗布材層が形成されていることから、特に優れた昇温特性を有する。これは、上記接着剤層及び塗布材層の内部に形成された独立気孔により、接着剤層及び塗布材層の密度が低下して単位体積当たりの熱容量が低下しているとともに、塗布材層の断熱性が向上しているためである。
【0167】
また、第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、本発明の接着剤により接着剤層が形成されており、本発明の塗布材により塗布材層が形成されていることから、強度及び耐久性に優れている。これは、上記接着剤層及び塗布材層の内部に形成された独立気孔により、接着剤層及び塗布材層の弾性が向上するため、接着剤層及び塗布材層におけるクラックの発生を防止するとともに、セラミックブロックに対する熱応力を緩和してセラミックブロックにおけるクラックの発生を防止することができ、更に、第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタに加えられる外力を効果的に緩和することができるためである。
【0168】
なお、第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、強度及び耐久性に優れていることから、気孔率を高くすることができ、気孔率を高くした場合には、単位体積当たりの熱容量が下がるので昇温特性をより向上させることができ、背圧を上昇させることなく大量の触媒を担持させ触媒担持体として機能させることも可能となる。
【0169】
次に、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法について説明を行うことにする。
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法は、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されたセラミック積層体に切削加工を施すことにより作製されたセラミックブロックの外周部分に充填層が形成されてなり、上記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法であって、上記多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されたセラミック積層体の端面に、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線を重ねた際、該輪郭線と交わる上記多孔質セラミック部材の貫通孔に塗布材を充填する塗布材充填工程と、上記塗布材が充填された上記セラミック積層体に切削加工を施すことによりセラミックブロックを作製するセラミックブロック作製工程とを含むことを特徴とする。
【0170】
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法は、セラミック積層体30を研削してセラミックブロック15を作製する前に、研削後に露出することとなる貫通孔21を予め塗布材により充填しておくこと以外は、通常の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法と同様であり、上記塗布材充填工程及び上記セラミックブロック作製工程以外の他の工程については、上述した第一の本発明のハニカムフィルタを製造する方法と同様にして行うことができる。
【0171】
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法について図1及び図2を参照しながら説明する。
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、まず、セラミックブロック15となるセラミック積層体を作製する。
このセラミック積層体は、多数の貫通孔21が隔壁23を隔てて長手方向に並設された角柱形状の多孔質セラミック部材20が、接着剤層14を介して複数個結束された角柱構造である。
【0172】
多孔質セラミック部材20を製造するには、まず、上述したようなセラミック粉末にバインダー及び分散媒液を加えて混合組成物を調製する。
これらセラミック粉末、バインダー及び分散媒液は、アトライター等で混合した後、ニーダー等で充分に混練し、押し出し成形法等により、図2に示した多孔質セラミック部材と略同形状の柱状の生成形体を作製する。
上記生成形体を、マイクロ波乾燥機等を用いて乾燥させた後、所定の貫通孔に封口材を充填する封口処理を施し、再度、マイクロ波乾燥機等で乾燥処理を施す。
【0173】
次に、上記封口処理を経た生成形体を、酸素含有雰囲気下、400〜650℃程度に加熱することで脱脂し、バインダー等を分解、消失させ、略セラミック粉末のみを残留させる。
そして、上記脱脂処理を施した後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、1400〜2200℃程度に加熱することで焼成し、セラミック粉末を焼結させて多孔質セラミック部材20を製造する。
【0174】
次に、図3に示したように、このセラミック積層体を作製する。
即ち、まず、多孔質セラミック部材20が斜めに傾斜した状態で積み上げることができるように、断面V字形状に構成された台40の上に、多孔質セラミック部材20を傾斜した状態で載置した後、上側を向いた2つの側面20a、20bに、接着剤層14となる接着剤ペーストを均一な厚さで塗布して接着剤ペースト層を形成し、この接着剤ペースト層の上に、順次他の多孔質セラミック部材20を積層する工程を繰り返し、所定の大きさの角柱状のセラミック積層体を作製する。この際、セラミック積層体の4隅にあたる多孔質セラミック部材20には、四角柱形状の多孔質セラミック部材を2つに切断して作製した三角柱状の多孔質セラミック部材20cと、三角柱状の多孔質セラミック部材20cと同じ形状の樹脂部材41とを易剥離性の両面テープ等で貼り合わせてなるものを使用し、多孔質セラミック部材20の積層が完了した後に、セラミック積層体の4隅を構成する樹脂部材41を全て取り除くことによって、セラミック積層体を断面多角柱状にする。これにより、セラミック積層体の外周部を切削加工した後に廃棄される多孔質セラミック部材からなる廃棄物の量を減らすことができる。
【0175】
上記図3に示した方法以外であっても、断面多角柱状のセラミック積層体を作製する方法としては、作製するハニカムフィルタの形状に合わせて、例えば、4隅の多孔質セラミック部材を省略する方法、三角柱状の多孔質セラミック部材を組み合わせる方法等を用いることができる。また、もちろん四角柱状のセラミック積層体を作製してもよい。
そして、このセラミック積層体を50〜100℃、1時間程度の条件で加熱して上記接着剤ペースト層を乾燥、固化させて接着剤層14とする。
【0176】
続いて、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、多孔質セラミック部材20が接着剤層14を介して複数個結束されたセラミック積層体30の端面に、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線を重ねた際、該輪郭線と交わる多孔質セラミック部材20の貫通孔21に塗布材を充填する塗布材充填工程を行う。
【0177】
図4(a)は、セラミック積層体の端面に、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線(点線で図示)を重ねて表示した斜視図であり、図4(b)は、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線(点線で図示)と交わる多孔質セラミック部材の貫通孔に塗布材を充填した状態を模式的に示す斜視図である。図5(a)は、塗布材充填工程において使用する塗布材充填装置の一例を模式的に示した断面図であり、図5(b)は、塗布材充填装置に設置されるマスクの一例を表す正面図である。図6は、塗布材充填工程において使用する塗布材充填装置の別の一例を模式的に示した断面図である。
【0178】
上記塗布材充填工程は、図4に示したように、セラミック積層体30を研削してセラミックブロック15を作製する前に、研削後に露出することとなる貫通孔21を予め塗布材により充填しておくものである。なお、作業上、研削後に露出することとなる貫通孔のみに塗布材を充填することが困難である場合には、後述のセラミックブロック作製工程において研削される部分の貫通孔や、研削後に露出することとなる貫通孔近傍の貫通孔にも塗布材を充填してもよい。
上記塗布材としては特に限定されず、例えば、本発明の塗布材等を挙げることができる。
【0179】
セラミック積層体30における所定の貫通孔21に塗布材を充填する方法としては特に限定されず、塗布材に一定の圧力を加える方法でもよく、塗布材を一定の圧力で吸引する方法でもよく、塗布材に一定の圧力を加えつつ一定の圧力で吸引する方法でもよい。具体的には、例えば、図5に示した塗布材充填装置100を用いる方法、図6に示した塗布材充填装置200を用いる方法等を挙げることができる。図5に示した塗布材充填装置100を用いる方法では、減圧容器130内を減圧することで塗布材吐出槽110中から塗布材120を吐出させ、塗布材120の充填をより速やか、かつ、確実なものとするため、塗布材吐出槽110内部にも一定の圧力を加える。また、図6に示した塗布材充填装置200を用いる方法では、その周囲を気密状態にしたセラミック積層体30の内部を減圧吸引装置220により吸引することで塗布材吐出槽210中から塗布材120を吐出させ、塗布材120の充填をより速やか、かつ、確実なものとするため、塗布材吐出槽210内部にも一定の圧力を加える。
【0180】
なお、塗布材に一定の圧力を加える方法においても、貫通孔21内の気体に妨げられることなく塗布材を貫通孔21の深部まで充填することができる。これは、セラミック積層体30が多孔質であることから、貫通孔21内の気体は、吸引しなくても貫通孔21内に充填される塗布材により押し出されるからである。
【0181】
図5に示したように、塗布材充填装置100は、減圧容器130中に、マスク111が取り付けられた二組の密閉式の塗布材吐出槽110が設置されたものであり、二組の塗布材吐出槽110は、マスク111が取り付けられた面同士が向かい合うように配設されている。なお、密閉式の塗布材吐出槽110は、塗布材の充填開始時まで密閉され、塗布材の充填時にはマスク111が取り付けられた面が開放される。また、マスク111には、作製予定のセラミックブロックの端面に沿った円環状の開口部111aが設けられており、円環状の開口部111aは、マスクと当接することとなるセラミック積層体30の端面30aにおける接着剤層14に対応する位置で、接着剤層14の幅よりも細い架橋部111bにより複数に区切られている。これは、円環状の開口部111aの内側と外側とでマスク111を一体化するためである。
【0182】
このような塗布材充填装置100を用いてセラミック積層体30における所定の貫通孔21に塗布材を充填するには、まず、セラミック積層体30の端面30aと、塗布材吐出槽110に取り付けられたマスク111とが当接するようにセラミック積層体30を塗布材吐出槽110の間に固定する。このようにセラミック積層体30の両側に塗布材吐出槽110を設置することにより、充填材22によりその一端が封止されている貫通孔21にも塗布材を充填することができる。
このとき、マスク111の開口部111aとセラミック積層体30の塗布材を充填しようとする所定の貫通孔21とは、ちょうど対向する位置関係となっている。
【0183】
続いて、減圧容器130内を減圧した状態で、塗布材吐出槽110のマスク111が取り付けられた面を開放し、例えば、モノポンプ等のポンプを用いて塗布材吐出槽110内部に一定の圧力を加え、塗布材120をマスク111の開口部111aより吐出させ、セラミック積層体30の所定の貫通孔21に塗布材を充填する。
【0184】
図6に示したように、塗布材充填装置200は、マスク211が取り付けられた密閉式の塗布材吐出槽210と、マスク221が取り付けられた減圧吸引装置220とが、マスクが取り付けられた面同士を向かい合うようにして配設されたものである。また、マスク211には、マスク111と同様のものが用いられ、マスク221には、マスク111と同様の構造を有し、マスク111よりもやや大きめの円環状の開口部が設けられたものが用いられる。
【0185】
このような塗布材充填装置200を用いてセラミック積層体30における所定の貫通孔21に塗布材を充填するには、まず、セラミック積層体30の貫通孔21の設けられていない側面を通気性のない素材からなる密封シートにより、密封状態にする。続いて、セラミック積層体30の一方の端面30aに、塗布材吐出槽210に取り付けられたマスク211を、セラミック積層体30の他方の端面30bに、減圧吸引装置220に取り付けられたマスク221をそれぞれ当接させ、セラミック積層体30を塗布材吐出槽210と減圧吸引装置220との間に固定する。
【0186】
このとき、塗布材吐出槽210に取り付けられたマスク211の開口部は、セラミック積層体30の塗布材を充填しようとする所定の貫通孔21、及び、減圧吸引装置220に取り付けられたマスク221の開口部と対向する位置関係とされる。
【0187】
続いて、減圧吸引装置220によりセラミック積層体30の内部を吸引しながら、塗布材吐出槽210に、例えば、モノポンプ等のポンプを用いて一定の圧力を加えて、塗布材120をマスク211の開口部より吐出させることにより、セラミック積層体30の所定の貫通孔21に塗布材を充填することができる。なお、セラミック積層体30の一方の端面から塗布材を注入した後、更にセラミック積層体30の他方の端面から塗布材を注入する。
【0188】
また、上記塗布材充填装置としては、上述したような塗布材充填装置100、200に限定されず、例えば、その内部に攪拌片が配設された開放式の充填材吐出槽を備え、上記攪拌片を上下方向に移動させることにより、上記充填材吐出槽に満たされた塗布材を流動させ、上記塗布材の充填を行う方式のものであってもよい。
上記塗布材充填工程後には、塗布材が充填されたセラミック積層体30を50〜150℃、1時間程度の条件で加熱して塗布材を硬化させる。
【0189】
続いて、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、塗布材充填工程において上記塗布材が充填されたセラミック積層体30に切削加工を施すことによりセラミックブロックを作製するセラミックブロック作製工程を行う。
上記切削加工の方法としては特に限定されず、例えば、ダイヤモンドカッター等により切削する方法等を挙げることができる。
【0190】
図7(a)は、塗布材充填工程において塗布材が充填されたセラミック積層体に切削加工を施して作製されたセラミックブロックを模式的に示す斜視図であり、図7(b)は、塗布材充填工程において塗布材が充填されたセラミック積層体に切削加工を施して作製されたセラミックブロックにおいて外周部分を構成している多孔質セラミック部材を模式的に示す斜視図である。
【0191】
なお、通常の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、外周面に貫通孔21が露出しないように、セラミック積層体30を研削してセラミックブロック15を作製した後に、上記セラミックブロック15の外周面に塗布材層を形成するが、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、図7に示したように、セラミックブロックの外周部分に充填層24を形成することから、塗布材層を形成しなくてよい。ただし、セラミックブロックの強度、耐久性及び断熱性をより向上させたい場合には、塗布材層を形成してもよい。
【0192】
また、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、排気ガス浄化用ハニカムフィルタを構成する多孔質セラミック部材20、接着剤層14等の各部材の原料に、通常の排気ガス浄化用ハニカムフィルタにおいて用いられているものと同様のものを用いることができ、上述した第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタにおいて用いられるものと同様のものを用いることができるので、ここではその説明を省略する。
【0193】
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法では、セラミック積層体を研削してセラミックブロックを作製する前に、研削後に露出することとなる貫通孔を予め塗布材により充填するので、セラミック積層体に切削加工を施してセラミックブロックを作製する際に欠け等の不良が発生するのを抑制することができ、塗布材層を形成する工程を省略することができる。このため、特に低熱容量及び高気孔率にした排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造する際に好適に用いることができる。
【0194】
また、研削加工後のセラミックブロックに塗布材を塗布して塗布材層を形成する工程を省略することで、従来、排気ガス浄化用ハニカムフィルタにおいて生じていた塗布材層の厚みバラツキによる外形寸法精度の低下を起こりにくくすることができる。
なお、本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法により、第一、第二、第三、第四、第五、第六、第七、第八又は第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造してもよい。
【実施例】
【0195】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0196】
(実施例1)
(1)平均粒径5μmのα型炭化珪素粉末60重量%と、平均粒径0.5μmのβ型炭化珪素粉末40重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を5重量部、水を10重量部加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが33mm×33mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mmの炭化珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
【0197】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー17.6重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子61.0重量%、シリカゾル9.1重量%、カルボキシメチルセルロース2.3重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム10重量%からなる混合物100重量部に、水20重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いて上記多孔質セラミック部材を、図3を用いて説明した方法により多数結束させ、続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、図1に示したような直径が165mmで円柱形状のセラミックブロックを作製した。
次に、無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)23.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.2重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%及び水39重量%を混合、混練して塗布材ペーストを調製した。
次に、上記塗布材ペーストを用いて、上記セラミックブロックの外周部に厚さ1.0mmの塗布材ペースト層を形成した。そして、この塗布材ペースト層を120℃で乾燥して、図1に示したような円柱形状のハニカムフィルタを製造した。
【0198】
(実施例2)
(1)実施例の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0199】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー15.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子54.2重量%、シリカゾル8.1重量%、カルボキシメチルセルロース2.0重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム20重量%からなる混合物100重量部に、水25重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0200】
(実施例3)
(1)実施例の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0201】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー13.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子47.4重量%、シリカゾル7.1重量%、カルボキシメチルセルロース1.8重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム30重量%からなる混合物100重量部に、水35重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0202】
(実施例4)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0203】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー6.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子30.8重量%、シリカゾル20.6重量%、カルボキシメチルセルロース1.7重量%、及び、フライアッシュバルーン40.2重量%からなる混合物100重量部に、水40重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0204】
(実施例5)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0205】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー6.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子30.8重量%、シリカゾル20.6重量%、カルボキシメチルセルロース1.7重量%、及び、アルミナバルーン40.2重量%からなる混合物100重量部に、水40重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0206】
(実施例6)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0207】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー13.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子47.4重量%、シリカゾル7.1重量%、カルボキシメチルセルロース1.8重量%、及び、球状アクリル樹脂(平均粒径10μm)30重量%からなる混合物100重量部に、水35重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0208】
(実施例7)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0209】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー13.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子47.4重量%、シリカゾル7.1重量%、カルボキシメチルセルロース1.8重量%、及び、アクリルからなる有機物バルーン(平均粒径10μm)を30重量%からなる混合物100重量部に、水35重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0210】
(実施例8)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0211】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー6.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子30.8重量%、シリカゾル20.6重量%、カルボキシメチルセルロース1.7重量%、炭酸水素アンモニウム10重量%、及び、アルミナバルーン30.2重量%からなる混合物100重量部に、水40重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0212】
(実施例9)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0213】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー6.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子30.8重量%、シリカゾル20.6重量%、カルボキシメチルセルロース1.7重量%、炭酸水素アンモニウム20重量%、及び、アルミナバルーン20.2重量%からなる混合物100重量部に、水40重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0214】
(比較例1)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0215】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー37重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子49.7重量%、シリカゾル12.3重量%、及び、カルボキシメチルセルロース1.0重量%からなる混合物100重量部に、水43重量部を加えた接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0216】
(比較例2)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0217】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー15.1重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子17.5重量%、シリカゾル61.5重量%、及び、カルボキシメチルセルロース5.9重量%からなる混合物100重量部に、水34重量部を加えた接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0218】
(参考例1)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0219】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー13.7重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子27.4重量%、シリカゾル7.1重量%、カルボキシメチルセルロース1.8重量%、及び、炭酸水素アンモニウム50重量%からなる混合物100重量部に、水35重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0220】
(参考例2)
(1)実施例1の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0221】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー27重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子39.7重量%、シリカゾル12.3重量%、カルボキシメチルセルロース1.0重量%、炭酸水素アンモニウム20重量%からなる混合物100重量部に、水50重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0222】
このようにして製造した多孔質セラミック部材の熱膨張率αと、実施例1〜9、比較例1〜2及び参考例1〜2に係るハニカムフィルタの接着剤層の熱膨張率αを300℃、400℃、600℃、750℃、900℃において測定し(表1)、これらの値から|α−α|/αの値を計算した(表2)。
【0223】
また、実施例1〜9、比較例1〜2及び参考例1〜2に係るハニカムフィルタを中空円形状の台の上に載置して、外周部付近の多孔質セラミック部材でハニカムフィルタを支持し、中央部付近の一つの多孔質セラミック部材を押し抜くように下方に力を加え、ハニカムフィルタが破壊される力を測定する押し抜き試験を行った。
【0224】
また、実施例1〜9、比較例1〜2及び参考例1〜2に係るハニカムフィルタを、エンジンの排気通路に設置してパティキュレートの捕集試験を100回繰り返した後にも同様の押し抜き試験を行い、パティキュレートの捕集試験の後で押し抜き強度がどれだけ低下したかを計算した。
その結果を下記表3に示す。
【0225】
【表1】

【0226】
【表2】

【0227】
【表3】

【0228】
表2に示した通り、実施例1〜9に係るハニカムフィルタの|α−α|/αの値は、いずれも、0.01〜1.0の範囲内となっているが、比較例1及び参考例1、2に係るハニカムフィルタの|α−α|/αの値は、全体的に1.0よりも大きくなっており、比較例2に係るハニカムフィルタの|α−α|/αの値は、全体的に0.01よりも小さくなっていた。
【0229】
なお、実施例9に係るハニカムフィルタの600℃及び750℃における|α−α|/αの値は1.0以上であるが、その平均は0.98であり、1.0未満になっていた。
また、表3に示した通り、押し抜き試験の結果、実施例1〜9に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験前における押し抜き強度は、いずれも14700N(1500kgf)を超えるものであり、パティキュレートの捕集試験後における押し抜き強度は、いずれも9800N(1000kgf)を超えるものであった。
【0230】
これに対し、比較例1〜2及び参考例1〜2に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験前における押し抜き強度は17345N(1770kgf)〜19411N(1981kgf)、パティキュレートの捕集試験後における押し抜き強度は、5364N(547kgf)〜9265N(945kgf)であり、いずれも、パティキュレートの捕集試験前では、実施例1〜9に係るハニカムフィルタと同等の押し抜き強度を有するものの、パティキュレートの捕集試験後においては、実施例1〜9に係るハニカムフィルタよりも劣る押し抜き強度であった。
【0231】
即ち、表3及び図8に示した通り、実施例1〜9に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験後における相対強度(捕集試験後の強度/捕集試験前の強度×100)はいずれも60%以上であり、強度低下はあまり大きくなかったが、比較例1〜2及び参考例1〜2に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験後における相対強度(捕集試験後の強度/捕集試験前の強度×100)はいずれも60%未満であり、強度低下が大きかった。
【0232】
(実施例10)
(1)平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末70重量%と、平均粒径0.5μmのβ型炭化珪素粉末30重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を15重量部、水を10重量部、アクリル樹脂5重量部を加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが33mm×33mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が50%、平均気孔径が20μmの炭化珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
【0233】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)6.78重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.6重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)20.88重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース1.74重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン40重量%を混合した混合物100重量部に、水40重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いて、上記多孔質セラミック部材を、図3を用いて説明した方法により多数結束させ、続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、図1に示したような直径が165mmで円柱形状のセラミックブロックを作製した。
次に、無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)23.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.2重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%及び水39重量%を混合、混練して塗布材ペーストを調製した。
次に、上記塗布材ペーストを用いて、上記セラミックブロックの外周部に厚さ1.0mmの塗布材ペースト層を形成した。そして、この塗布材ペースト層を120℃で乾燥して、図1に示したような円柱形状のハニカムフィルタを製造した。
【0234】
(実施例11)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0235】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)13.7重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末47.4重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7.1重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース1.8重量%、及び、樹脂としてアクリル樹脂30重量%を混合した混合物100重量部に、水35重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0236】
(実施例12)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0237】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)15.7重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末54.2重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)8.1重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース2重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム20重量%を混合した混合物100重量部に、水25重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0238】
(実施例13)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0239】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)28.98重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)41.02重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン30重量%を混合した混合物100重量部に、水30重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)とを用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0240】
(実施例14)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0241】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)21重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)29.8重量%、及び、樹脂としてアクリル樹脂49.2重量%を混合した混合物100重量部に、水35重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0242】
(実施例15)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0243】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)25重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)35重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム40重量%を混合した混合物100重量部に、水50重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0244】
(実施例16)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0245】
(2)無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)59.2重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末20.8重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン20重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0246】
(実施例17)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0247】
(2)無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)59.2重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末20.8重量%、及び、樹脂としてアクリル樹脂20重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0248】
(実施例18)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0249】
(2)無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)51.8重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末18.2重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム30重量%を混合した混合物100重量部に、水35重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)を用いたほかは、実施例10と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0250】
(比較例3)
(1)平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末70重量%と、平均粒径0.5μmのβ型炭化珪素粉末30重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を15重量部、水を20重量部、アクリル樹脂30重量部を加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが33mm×33mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が60%、平均気孔径が20μmの炭化珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
【0251】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)11.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末51重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)34.8重量%、及び、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース2.9重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0252】
(比較例4)
(1)比較例3の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0253】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)41.4重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)58.6重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0254】
(比較例5)
(1)比較例3の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0255】
(2)無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末26重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)74重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0256】
(参考例3)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0257】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)11.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末51重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)34.8重量%、及び、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース2.9重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0258】
(参考例4)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0259】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)41.4重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)58.6重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0260】
(参考例5)
(1)実施例10の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0261】
(2)無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末26重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)74重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した耐熱性の接着剤ペースト(配合割合を表4に示す)と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0262】
実施例10〜18、比較例3〜5及び参考例3〜5に係るハニカムフィルタについて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量(C)、及び、接着剤層の単位体積当たりの熱容量(C)を300℃、400℃、600℃、750℃、900℃においてそれぞれ測定し(表5)、これらの値から多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合(C/C)×100の値を計算した(表6)。
【0263】
また、実施例10〜18、比較例3〜5及び参考例3〜5に係るハニカムフィルタを、ディーゼルエンジンの排気通路に設置し、フィルタの径方向における中央部分(0mm)と外周部分(中央から60mm外周部分)のそれぞれに、フィルタの長手方向に30mm間隔で9箇所ずつ熱電対を挿入し、温度を測定できるように設定した。そして、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により再生運転し、4分後に、フィルタの径方向における中央部9箇所の平均温度と外周部9箇所の平均温度とを測定し、ハニカムフィルタの温度上昇値を求めた。結果を表6に示す。
なお、ポストインジェクション方式とは、燃料のメインインジェクションにより、シリンダーの膨張ストロークが開始した後、シリンダーが圧縮ストロークに転換する前に、少量の燃料を注入する方法であり、この方式を用いたディーゼルエンジンでは、排気ガスの温度を450℃以上に高めることができる。
【0264】
また、実施例10〜18、比較例3〜5及び参考例3〜5に係るハニカムフィルタが設置されたディーゼルエンジンを、上記ポストインジェクション方式により10サイクル連続で運転させた後、クラックの発生の有無を目視により確認した。さらに、同様にして、100サイクル連続で運転させた後、クラックの発生の有無を目視により確認した。
その結果を表6に示す。
【0265】
【表4】

【0266】
【表5】

【0267】
【表6】

【0268】
表6に示した通り、実施例10〜18に係るハニカムフィルタの(C/C)×100の値は、いずれも100%未満(90%未満)となっており、接着剤層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなっている。一方、比較例3〜5に係るハニカムフィルタのC/C×100の値は、いずれも100%を超えており、参考例3〜5に係るハニカムフィルタのC/C×100の値は、いずれも90%〜100%であり、接着剤層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に近い値となっている。
さらに、実施例10〜18に係るハニカムフィルタの温度上昇値は、いずれも420℃を超えるものであり、また、ディーゼルエンジンを100サイクル連続で運転させた後も、クラックの発生は確認されなかった。
【0269】
これに対し、比較例3〜5に係るハニカムフィルタの温度上昇値は、400〜405℃であり、いずれも、実施例10〜18に係るハニカムフィルタに比べて、低いものであった。また、比較例3〜5に係るハニカムフィルタ全てにおいて、ディーゼルエンジンを10サイクル連続で運転させた後、多孔質セラミック部材にクラックの発生が確認された。
【0270】
また、参考例3〜5に係るハニカムフィルタの温度上昇値は、390〜400℃であり、いずれも、実施例10〜18に係るハニカムフィルタに比べて、低いものであった。また、参考例3〜5に係るハニカムフィルタ全てにおいて、ディーゼルエンジンを10サイクル連続で運転させた後、クラックの発生は確認されなかったが、ディーゼルエンジンを100サイクル連続で運転させた後には、接着剤層にクラックの発生が確認された。
【0271】
(実施例19)
(1)平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末70重量%と、平均粒径0.5μmのβ型炭化珪素粉末30重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を15重量部、水を10重量部、アクリル樹脂5重量部を加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが35mm×35mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が50%、平均気孔径が20μmの炭化珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
次に、繊維長0.2mmのアルミナファイバー37重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子49.7重量%、シリカゾル12.3重量%、カルボキシメチルセルロース1.0重量%からなる混合物100重量部に、水43重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いて上記多孔質セラミック部材を、図3を用いて説明した方法により16個結束させ、図4(a)に示したような角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0272】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)6.78重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.6重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)20.88重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース1.74重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン40重量%を混合した混合物100重量部に、水40重量部を加えて混練して塗布材を調製した。
次に、上記角柱形状のセラミック積層体をダイヤモンドカッターにより切断することにより、直径が130mmで円柱形状のセラミックブロックを作製した。そして、上記塗布材を用いて、上記セラミックブロックの外周部に厚さ1.0mmの塗布材層を形成した後、120℃で乾燥して、図1に示したような円柱形状の排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0273】
(実施例20)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0274】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)13.7重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末47.4重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7.1重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース1.8重量%、及び、樹脂としてアクリル樹脂30重量%を混合した混合物100重量部に、水35重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0275】
(実施例21)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0276】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)15.7重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末54.2重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)8.1重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース2重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム20重量%を混合した混合物100重量部に、水25重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0277】
(実施例22)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0278】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)28.98重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)41.02重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン30重量%を混合した混合物100重量部に、水30重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0279】
(実施例23)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0280】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)21重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)29.8重量%、及び、樹脂としてアクリル樹脂49.2重量%を混合した混合物100重量部に、水35重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0281】
(実施例24)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0282】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)25重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)35重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム40重量%を混合した混合物100重量部に、水50重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0283】
(実施例25)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0284】
(2)無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)59.2重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末20.8重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン20重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0285】
(実施例26)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0286】
(2)無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)59.2重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末20.8重量%、及び、樹脂としてアクリル樹脂20重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0287】
(実施例27)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0288】
(2)無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)51.8重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末18.2重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム30重量%を混合した混合物100重量部に、水35重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0289】
(実施例28)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0290】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)6.78重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.6重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)20.88重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース1.74重量%、及び、バルーンとしてアルミナバルーン40重量%を混合した混合物100重量部に、水40重量部を加えて混練して塗布材を調製した。
次に、図5に示した塗布材充填装置を用いて、上記セラミック積層体に上記塗布材を注入し、このセラミック積層体を120℃で乾燥した。続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、直径が132mmで円柱形状の図5に示したような排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0291】
(実施例29)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0292】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)23.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末30.2重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)7.0重量%、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース0.5重量%、及び、水39重量%を混合、混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例28と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0293】
(比較例6)
(1)平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末70重量%と、平均粒径0.5μmのβ型炭化珪素粉末30重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を15重量部、水を20重量部、アクリル樹脂30重量部を加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下2200℃、3時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが33mm×33mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が60%、平均気孔径が20μmの炭化珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
【0294】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)11.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末51重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)34.8重量%、及び、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース2.9重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0295】
(比較例7)
(1)比較例6の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0296】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)41.4重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)58.6重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0297】
(比較例8)
(1)比較例6の(1)と同様にして多孔質セラミック部材を製造した。
【0298】
(2)無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末26重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)74重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材と上記(1)で製造した多孔質セラミック部材とを用いたほかは、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを製造した。
【0299】
(参考例6)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0300】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)11.3重量%、無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末51重量%、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)34.8重量%、及び、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロース2.9重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0301】
(参考例7)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0302】
(2)無機繊維としてアルミナシリケートからなるセラミックファイバー(ショット含有率:3%、繊維長:0.1〜100mm)41.4重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)58.6重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0303】
(参考例8)
(1)実施例19の(1)と同様にして角柱形状のセラミック積層体を作製した。
【0304】
(2)無機粒子として平均粒径0.3μmの炭化珪素粉末26重量%、及び、無機バインダーとしてシリカゾル(ゾル中のSiOの含有率:30重量%)74重量%を混合した混合物100重量部に、水20重量部を加えて混練して調製した塗布材を用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0305】
実施例19〜28、比較例6〜8及び参考例6〜8に係るハニカムフィルタについて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量(C)、及び、塗布材又は充填層の単位体積当たりの熱容量(C)を300℃、400℃、600℃、750℃、900℃においてそれぞれ測定し(表8)、これらの値から多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する塗布材層又は充填層の単位体積当たりの熱容量の割合(C/C)×100の値を計算した(表9)。
【0306】
また、実施例19〜28、比較例6〜8及び参考例6〜8に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタを、ディーゼルエンジンの排気通路に設置し、フィルタの径方向における中央部分(0mm)と外周部分(中央から60mm外周部分)のそれぞれに、フィルタの長手方向に30mm間隔で9箇所ずつ熱電対を挿入し、温度を測定できるように設定した。そして、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により再生運転し、4分後に、フィルタの径方向における中央部9箇所の平均温度と外周部9箇所の平均温度とを測定し、排気ガス浄化用ハニカムフィルタの温度上昇値を求めた。結果を表9に示す。
【0307】
また、実施例19〜28、比較例6〜8及び参考例6〜8に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタが設置されたディーゼルエンジンを、上記ポストインジェクション方式により10サイクル連続で運転させた後、クラックの発生を目視により確認した。さらに、同様にして、100サイクル連続で運転させた後、クラックの発生の有無を目視により確認した。結果を表9に示す。
【0308】
【表7】

【0309】
【表8】

【0310】
【表9】

【0311】
表9に示した通り、実施例19〜28に係るハニカムフィルタの(C/C)×100の値は、いずれも100%未満(90%未満)となっており、塗布材層又は充填層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなっている。一方、比較例6〜8に係るハニカムフィルタのC/C×100の値は、いずれも100%を超えており、参考例6〜8に係るハニカムフィルタのC/C×100の値は、いずれも90%〜100%であり、塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に近い値となっている。
【0312】
さらに、表9に示したように、実施例19〜28に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により4分間運転させた後の温度上昇値がいずれも430℃を超えており、昇温特性に優れていた。また、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により100サイクル連続で運転させた後も、クラックの発生は確認されなかった。
【0313】
これに対し、比較例6〜8に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により4分間運転させた後の温度上昇値が400〜405℃であり、いずれも、実施例19〜28に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタに比べて、低いものであった。また、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により10サイクル連続で運転させた後に、比較例6〜8に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタ全てにおいて、多孔質セラミック部材にクラックの発生が確認された。
【0314】
また、参考例6〜8に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により4分間運転させた後の温度上昇値が390〜400℃であり、いずれも、実施例19〜28に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタに比べて、低いものであった。また、参考例6〜8に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタ全てにおいて、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により10サイクル連続で運転させた後、クラックの発生は確認されなかったが、100サイクル連続で運転させた後には、塗布材層にクラックの発生が確認された。
【0315】
また、実施例28、29に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、塗布材層を形成しなかったが、内燃機関の排気通路に設置した際に、外周部から排気ガスが漏れ出すことがなく、排気ガス浄化用ハニカムフィルタとして有効に機能していた。
【0316】
さらに、実施例28、29に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタでは、角柱形状のセラミック積層体の状態からダイヤモンドカッターを用いて切断することにより円柱形状に加工した際に欠け等の不良が発生しなかった。外形寸法も円柱形状から、はみ出ることはなく精度の高いものであった。一方、比較例6に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタでは、円柱形状に加工する際に欠けが発生したものがあった。また、塗布材層の厚みのムラが生じていた。
【0317】
(実施例30)
実施例10の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例19と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0318】
(実施例31)
実施例11の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例20と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0319】
(実施例32)
実施例12の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例21と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0320】
(実施例33)
実施例13の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例22と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0321】
(実施例34)
実施例14の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例23と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0322】
(実施例35)
実施例15の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例24と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0323】
(実施例36)
実施例16の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例25と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0324】
(実施例37)
実施例17の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例26と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0325】
(実施例38)
実施例18の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例27と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0326】
(実施例39)
実施例10の(2)と同様にして調製した耐熱性の接着剤ペーストを用いたこと以外は、実施例28と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0327】
実施例30〜39に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタを、ディーゼルエンジンの排気通路に設置し、フィルタの径方向における中央部分(0mm)と外周部分(中央から60mm外周部分)のそれぞれに、フィルタの長手方向に30mm間隔で9箇所ずつ熱電対を挿入し、温度を測定できるように設定した。そして、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により再生運転し、4分後に、フィルタの径方向における中央部9箇所の平均温度と外周部9箇所の平均温度とを測定し、排気ガス浄化用ハニカムフィルタの温度上昇値を求めた。結果を表10に示す。
【0328】
また、実施例30〜39に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタが設置されたディーゼルエンジンを、上記ポストインジェクション方式により100サイクル連続で運転させた後、クラックの発生を目視により確認した。結果を表10に示す。
【0329】
【表10】

【0330】
表10に示したように、実施例30〜39に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により4分間運転させた後の温度上昇値がいずれも440℃を超えており、昇温特性に優れていた。また、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により100サイクル連続で運転させた後も、クラックの発生は確認されなかった。
【0331】
なお、実施例30〜39に係るハニカムフィルタにおいて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量(C)は、多孔質セラミック部材の組成が同じである実施例19〜28の値(表8)と同じ値であり、接着剤層の単位体積当たりの熱容量(C)は、接着剤層の組成が同じである実施例10〜18の値(表5)と同じ値であり、塗布材又は充填層の単位体積当たりの熱容量(C)は、塗布材又は充填層の組成が同じである実施例19〜28の値(表8)と同じ値である。従って、実施例30〜39に係るハニカムフィルタの(C/C)×100及び(C/C)×100の値は、いずれも100%未満(90%未満)となっており、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層又は充填層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなっている。
【0332】
また、実施例39に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、塗布材層を形成しなかったが、内燃機関の排気通路に設置した際に、外周部から排気ガスが漏れ出すことがなく、排気ガス浄化用ハニカムフィルタとして有効に機能していた。
さらに、実施例39に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタでは、角柱形状のセラミック積層体の状態からダイヤモンドカッターを用いて切断することにより円柱形状に加工した際に欠け等の不良が発生しなかった。外形寸法も円柱形状から、はみ出ることはなく精度の高いものであった。
【0333】
(実施例40)
(1)平均粒径20μmのα型炭化珪素粉末60重量%と、平均粒径1.0μmの珪素粉末40重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を5重量部、水を10重量部加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下1600℃、2時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが33mm×33mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mmの炭化珪素−珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
【0334】
(2)繊維長0.2mmのアルミナファイバー17.6重量%、平均粒径0.6μmの炭化珪素粒子61.0重量%、シリカゾル9.1重量%、カルボキシメチルセルロース2.3重量%、及び、発泡材として炭酸水素アンモニウム10重量%からなる混合物100重量部に、水20重量部を加えた耐熱性の接着剤ペーストを用いて上記多孔質セラミック部材を、図3を用いて説明した方法により多数結束させ、続いて、ダイヤモンドカッターを用いて切断することにより、図1に示したような直径が165mmで円柱形状のセラミックブロックを作製した。
次に、上記接着剤ペーストを上記セラミックブロックの外周部に塗布して、厚さ1.0mmの塗布材ペースト層を形成した。そして、この塗布材ペースト層を120℃で乾燥して、図1に示したような円柱形状の排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0335】
(実施例41)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例2で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0336】
(実施例42)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例3で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0337】
(実施例43)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例4で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0338】
(実施例44)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例5で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0339】
(実施例45)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例6で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0340】
(実施例46)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例7で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0341】
(実施例47)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例8で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0342】
(実施例48)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、実施例9で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0343】
(比較例9)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、比較例1で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0344】
(比較例10)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、比較例2で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0345】
(参考例9)
多孔質セラミック部材を結束させる際、及び、セラミックブロックの外周部に塗布材ペースト層を形成する際に、参考例1で作製した接着剤ペーストを使用したこと以外は、実施例40と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0346】
このようにして製造した炭化珪素−珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材の熱膨張率αと、実施例40〜48、比較例9〜10及び参考例9に係るハニカムフィルタの接着剤層の熱膨張率αを300℃、400℃、600℃、750℃、900℃において測定し(表11)、これらの値から|α−α|/αの値を計算した(表12)。
【0347】
また、実施例40〜48、比較例9〜10及び参考例9に係るハニカムフィルタを中空円形状の台の上に載置して、外周部付近の多孔質セラミック部材でハニカムフィルタを支持し、中央部付近の一つの多孔質セラミック部材を押し抜くように下方に力を加え、ハニカムフィルタが破壊される力を測定する押し抜き試験を行った。
【0348】
また、実施例40〜48、比較例9〜10及び参考例9に係るハニカムフィルタを、エンジンの排気通路に設置してパティキュレートの捕集試験を100回繰り返した後にも同様の押し抜き試験を行い、パティキュレートの捕集試験の後で押し抜き強度がどれだけ低下したかを計算した。
その結果を表13に示す。
【0349】
【表11】

【0350】
【表12】

【0351】
【表13】

【0352】
表12に示した通り、実施例40〜48に係るハニカムフィルタの|α−α|/αの値は、いずれも、0.01〜1.0の範囲内となっているが、比較例9及び参考例9に係るハニカムフィルタの|α−α|/αの値は、全体的に1.0よりも大きくなっており、比較例10に係るハニカムフィルタの|α−α|/αの値は、全体的に0.01よりも小さくなっていた。
【0353】
なお、実施例48に係るハニカムフィルタの650℃における|α−α|/αの値は1.0以上であるが、その平均は0.97であり、1.0未満になっていた。
また、表13に示した通り、押し抜き試験の結果、実施例40〜48に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験前における押し抜き強度は、いずれも15000Nを超えるものであり、パティキュレートの捕集試験後における押し抜き強度は、いずれも8800Nを超えるものであった。
【0354】
これに対し、比較例9〜10及び参考例9に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験前における押し抜き強度は16477〜18440N、パティキュレートの捕集試験後における押し抜き強度は、4828〜8053Nであり、いずれも、パティキュレートの捕集試験前では、実施例40〜48に係るハニカムフィルタと同等の押し抜き強度を有するものの、パティキュレートの捕集試験後においては、実施例40〜48に係るハニカムフィルタよりも劣る押し抜き強度であった。
【0355】
即ち、表13に示した通り、実施例40〜48に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験後における相対強度(捕集試験後の強度/捕集試験前の強度×100)はいずれも59%以上であり、強度低下はあまり大きくなかったが、比較例9〜10及び参考例9に係るハニカムフィルタのパティキュレートの捕集試験後における相対強度(捕集試験後の強度/捕集試験前の強度×100)はいずれも46%未満であり、強度低下が大きかった。
【0356】
また、比較例9〜10及び参考例9に係るハニカムフィルタの塗布材層には、クラックが発生していたが、実施例40〜48に係るハニカムフィルタでは、クラックは発生しなかった。
【0357】
(実施例49)
(1)平均粒径20μmのα型炭化珪素粉末60重量%と、平均粒径1.0μmの珪素粉末40重量%とを湿式混合し、得られた混合物100重量部に対して、有機バインダー(メチルセルロース)を5重量部、水を10重量部加えて混練して混練物を得た。次に、上記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練した後、押し出し成形を行い、生成形体を作製した。
次に、上記生成形体を、マイクロ波乾燥機を用いて乾燥させ、上記生成形体と同様の組成のペーストを所定の貫通孔に充填した後、再び乾燥機を用いて乾燥させた後、400℃で脱脂し、常圧のアルゴン雰囲気下1600℃、2時間で焼成を行うことにより、図2に示したような、その大きさが35mm×35mm×300mmで、貫通孔の数が31個/cm、隔壁の厚さが0.3mm、気孔率が55体積%、平均気孔径が20μmの炭化珪素−珪素焼結体からなる多孔質セラミック部材を製造した。
【0358】
(2)(1)で製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例30と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0359】
(実施例50)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例31と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0360】
(実施例51)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例32と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0361】
(実施例52)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例33と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0362】
(実施例53)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例34と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0363】
(実施例54)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例35と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0364】
(実施例55)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例36と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0365】
(実施例56)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例37と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0366】
(実施例57)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例38と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0367】
(実施例58)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、実施例39と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0368】
(比較例11)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、比較例6と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0369】
(比較例12)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、比較例7と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0370】
(比較例13)
実施例49の(1)と同様にして製造した多孔質セラミック部材を用いたこと以外は、比較例8と同様にして排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造した。
【0371】
実施例49〜58及び比較例11〜13に係るハニカムフィルタについて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量(C)を300℃、400℃、600℃、750℃、900℃においてそれぞれ測定した(表14)。さらに、接着剤層の単位体積当たりの熱容量(C)に、接着剤層の組成が同じである実施例10〜18の値(表5)を用いて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する接着剤層の単位体積当たりの熱容量の割合(C/C)×100の値を計算した(表15)。同様に、塗布材又は充填層の単位体積当たりの熱容量(C)に、塗布剤層の組成が同じである実施例19〜28の値(表8)を用いて、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に対する塗布材層又は充填層の単位体積当たりの熱容量の割合(C/C)×100の値を計算した(表15)。
【0372】
また、実施例49〜58及び比較例11〜13に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタを、ディーゼルエンジンの排気通路に設置し、フィルタの径方向における中央部分(0mm)と外周部分(中央から60mm外周部分)のそれぞれに、フィルタの長手方向に30mm間隔で9箇所ずつ熱電対を挿入し、温度を測定できるように設定した。そして、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により再生運転し、4分後に、フィルタの径方向における中央部9箇所の平均温度と外周部9箇所の平均温度とを測定し、排気ガス浄化用ハニカムフィルタの温度上昇値を求めた。結果を表15に示す。
【0373】
また、実施例49〜58及び比較例11〜13に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタが設置されたディーゼルエンジンを、上記ポストインジェクション方式により100サイクル連続で運転させた後、クラックの発生を目視により確認した。結果を表15に示す。
【0374】
【表14】

【0375】
【表15】

【0376】
表15に示した通り、実施例49〜58に係るハニカムフィルタの(C/C)×100の値、及び、(C/C)×100の値は、いずれも100%未満(90%未満)となっており、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層又は充填層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低くなっている。
【0377】
一方、比較例11〜13に係るハニカムフィルタの(C/C)×100の値、及び、(C/C)×100の値は、いずれも100%を超えており、接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、塗布材層又は充填層の単位体積当たりの熱容量が、多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量に近い値となっている。
さらに、表15に示したように、実施例49〜58に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により4分間運転させた後の温度上昇値がいずれも435℃を超えており、昇温特性に優れていた。また、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により100サイクル連続で運転させた後も、クラックの発生は確認されなかった。
【0378】
これに対し、比較例11〜13に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により4分間運転させた後の温度上昇値が390〜400℃であり、いずれも、実施例49〜58に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタに比べて、低いものであった。また、ディーゼルエンジンをポストインジェクション方式により100サイクル連続で運転させた後に、比較例11〜13に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタ全てにおいて、接着剤層、及び、塗布材層又は充填層にクラックの発生が確認された。
【0379】
また、実施例58に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、塗布材層を形成しなかったが、内燃機関の排気通路に設置した際に、外周部から排気ガスが漏れ出すことがなく、排気ガス浄化用ハニカムフィルタとして有効に機能していた。
さらに、実施例58に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタでは、角柱形状のセラミック積層体の状態からダイヤモンドカッターを用いて切断することにより円柱形状に加工した際に欠け等の不良が発生しなかった。外形寸法も円柱形状から、はみ出ることはなく精度の高いものであった。一方、比較例11に係る排気ガス浄化用ハニカムフィルタでは、円柱形状に加工する際に欠けが発生したものがあった。また、塗布材層の厚みのムラが生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0380】
第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、上述の通りであるので、ハニカムフィルタに局部的な燃焼等に起因する局部的な温度変化が生じた場合であっても、発生する熱応力を緩和させることができ、クラックが発生することがなく、強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0381】
第二の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有するので、局部的な燃焼等に起因する局部的な温度変化が生じた場合であっても、発生する熱応力を緩和させることができ、クラックが発生することがなく、強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0382】
第三の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、接着剤層の熱膨張率αと、上記多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有し、塗布材層の熱膨張率αと、多孔質セラミック部材の熱膨張率αとが、0.01<|α−α|/α<1.0の関係を有するので、局部的な燃焼等に起因する局部的な温度変化が生じた場合であっても、発生する熱応力を緩和させることができ、クラックが発生することがなく、強度及び耐久性に優れたものとなる。
【0383】
また、第四の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、接着剤層が低熱容量であるので、昇温特性に優れ、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合、当該触媒が、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度に迅速に到達することができる。従って、第四の本発明のハニカムフィルタは、触媒担持体として好適に使用することができる。
【0384】
さらに、本発明の接着剤は、上述の通りであるので、本発明の接着剤を用いてなる接着剤層に形成される気孔の気孔率等を制御することができ、該接着剤層の熱膨張率を制御することができるとともに、単位体積当たりの熱容量を低くすることができる。
【0385】
従って、本発明の接着剤を用いてなる接着剤層を介して、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された多孔質セラミック部材を複数個結束し、排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造すると、上記多孔質セラミック部材と上記接着剤層との間に生じる熱応力や上記接着剤層に加わる外力を緩和することができるため、上記多孔質セラミック部材と接着剤層との間にクラックが発生することがなく、強度及び耐久性に優れたものとなる。また、上記接着剤層に形成された気孔により、当該接着剤層の密度が低下し、それにより、単位体積当たりの熱容量が低下するため、上記排気ガス浄化用ハニカムフィルタの昇温特性が優れたものとなる。
【0386】
また、第六の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、塗布材層が低熱容量であるので、昇温特性に優れ、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合、当該触媒が、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度に迅速に到達することができる。従って、第六の本発明のハニカムフィルタは、触媒担持体として好適に使用することができる。
本発明の塗布材は、上述の通りであるので、本発明の塗布材からなる塗布材層に形成される気孔の気孔率等を制御することができ、本発明の塗布材からなる塗布材層は、単位体積当たりの熱容量を低下させ、断熱性を向上し、かつ、弾性に優れるので応力を緩和することができる。
【0387】
第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、本発明の塗布材を用いているので、昇温特性、強度及び耐久性に優れている。このため、第七の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、気孔率を高くすることにより、昇温特性をより向上させることができ、背圧を上昇させることなく大量の触媒を担持させて触媒担持体として機能させることも可能となる。
【0388】
また、第八の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、接着剤層及び塗布材層が低熱容量であるので、昇温特性に優れ、ハニカムフィルタに触媒を担持させた場合、当該触媒が、排気ガス中のCO、HC及びNOx等を浄化することができる温度に迅速に到達することができる。従って、第八の本発明のハニカムフィルタは、触媒担持体として好適に使用することができる。
【0389】
第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、本発明の接着剤及び本発明の塗布材を用いているので、昇温特性、強度及び耐久性に優れている。このため、第九の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタは、気孔率を高くすることにより、昇温特性をより向上させることができ、背圧を上昇させることなく大量の触媒を担持させて触媒担持体として機能させることも可能となる。
【0390】
本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの製造方法は、上述の通りであるので、セラミック積層体に切削加工を施してセラミックブロックを作製する際に欠け等の不良が発生するのを抑制することができ、寸法精度に優れたフィルタを製作することができ、塗布材層を形成する工程を省略することができる。このため、特に低熱容量及び高気孔率にした排気ガス浄化用ハニカムフィルタを製造する際に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0391】
【図1】図1は、第一の本発明の排気ガス浄化用ハニカムフィルタの一例を模式的に示した斜視図である。
【図2】図2(a)は、図1に示した第一の本発明のハニカムフィルタに用いる多孔質セラミック部材を模式的に示した斜視図であり、図2(b)は、そのA−A線縦断面図である。
【図3】図3は、本発明のハニカムフィルタを製造する様子を模式的に示した側面図である。
【図4】図4(a)は、セラミック積層体の端面に、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線(点線で図示)を重ねて表示した斜視図であり、図4(b)は、作製予定のセラミックブロックの端面が描く輪郭線(点線で図示)と交わる多孔質セラミック部材の貫通孔に塗布材を充填した状態を模式的に示す斜視図である。
【図5】図5(a)は、塗布材充填工程において使用する塗布材充填装置の一例を模式的に示した断面図であり、図5(b)は、塗布材充填装置に設置されるマスクの一例を表す正面図である。
【図6】図6は、塗布材充填工程において使用する塗布材充填装置の別の一例を模式的に示した断面図である。
【図7】図7(a)は、塗布材充填工程において塗布材が充填されたセラミック積層体に切削加工を施して作製されたセラミックブロックを模式的に示す斜視図であり、図7(b)は、塗布材充填工程において塗布材が充填されたセラミック積層体に切削加工を施して作製されたセラミックブロックにおいて外周部分を構成している多孔質セラミック部材を模式的に示す斜視図である。
【図8】図8は、実施例1〜9及び比較例1〜4に係るハニカムフィルタのパティキュレート捕集試験前後における押し抜き強度比と、熱膨張率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0392】
10 排気ガス浄化用ハニカムフィルタ
13 塗布材層
14 接着剤層
15 セラミックブロック
20 多孔質セラミック部材
21 貫通孔
22 充填材
23 隔壁
24 充填層
25 塗布材充填後の多孔質セラミック部材
26 切削加工後の外周部多孔質セラミック部材
30 セラミック積層体
100、200 塗布材充填装置
110、210 塗布材吐出槽
111、211、221 マスク
111a 開口部
111b 架橋部
120 塗布材
220 減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束され、前記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
前記接着剤層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記接着剤層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の90%以下である請求項1に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記接着剤層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の20%以上である請求項1又は2に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記接着剤層は、独立気孔形成可能な材料を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記独立気孔形成可能な材料は、発泡材、無機バルーン及び有機バルーンからなる群から選択される少なくとも1の材料からなる請求項4に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項6】
多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材を1個以上含んでなるセラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、前記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
前記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の90%以下である請求項6に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の20%以上である請求項6又は7に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項9】
前記塗布材層は、独立気孔形成可能な材料を含有する請求項6〜8のいずれかに記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項10】
前記独立気孔形成可能な材料は、発泡材、無機バルーン及び有機バルーンからなる群から選択される少なくとも1の材料からなる請求項9に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項11】
多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状の多孔質セラミック部材が接着剤層を介して複数個結束されてセラミックブロックを構成し、前記セラミックブロックの外周面に塗布材層が形成され、前記貫通孔を隔てる隔壁が粒子捕集用フィルタとして機能するように構成された排気ガス浄化用ハニカムフィルタであって、
前記接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、前記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量よりも低いことを特徴とする排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項12】
前記接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、前記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の90%以下である請求項11に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項13】
前記接着剤層の単位体積当たりの熱容量、及び、前記塗布材層の単位体積当たりの熱容量が、前記多孔質セラミック部材の単位体積当たりの熱容量の20%以上である請求項11又は12に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項14】
前記接着剤層は、独立気孔形成可能な材料を含有する接着剤を用いて形成されており、
前記塗布材層は、独立気孔形成可能な材料を含有する塗布材を用いて形成されている請求項11〜13のいずれかに記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項15】
前記接着剤層における独立気孔形成可能な材料は、発泡材、無機バルーン及び有機バルーンからなる群から選択される少なくとも1の材料からなる請求項14に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項16】
前記塗布材層における独立気孔形成可能な材料は、発泡材、無機バルーン及び有機バルーンからなる群から選択される少なくとも1の材料からなる請求項14に記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。
【請求項17】
触媒が担持されている請求項1〜16のいずれかに記載の排気ガス浄化用ハニカムフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−50849(P2009−50849A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235368(P2008−235368)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【分割の表示】特願2003−566371(P2003−566371)の分割
【原出願日】平成15年2月5日(2003.2.5)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】