説明

排気ガス浄化用触媒及び正方晶系複合酸化物の製造方法

中和共沈−乾燥−焼成によって得られる一般式A2BO4(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物と、該正方晶系複合酸化物中に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とを併用することによる排気ガス浄化用触媒、並びにその正方晶系複合酸化物の製造方法である。この排気ガス浄化用触媒は低温活性が高く、且つ耐熱性に優れ、安定した排ガス浄化性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は排気ガス浄化用触媒及び正方晶系複合酸化物の製造方法に関し、より詳しくは、低温活性が高く、耐熱性に優れ、安定した排ガス浄化性能を得ることができる触媒、例えば、自動車等の内燃機関から排出される排気ガスに含まれる有害成分を浄化する触媒及び正方晶系複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
自動車等の内燃機関から排出される排気ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)等の有害成分が含まれている。それで、従来から、これら有害成分を浄化して無害化する三元触媒が用いられている。
このような三元触媒として、例えば、特開平7−80311号公報には、担体基材上に設けられ、少なくともアルミナを含みZrOを添加又は表層に担持した第1層と、該第1層よに設けられたペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む第2層とを備え、該第1層と第2層の少なくともいずれかに貴金属が担持されている排気ガス浄化用触媒が開示されている。
このようなペロブスカイト型複合酸化物は、約900℃以上の高温域で使用すると他の金属成分と反応して触媒活性が著しく低下するという問題があり、特に、理論空燃比を基準に酸素濃度が不十分な還元雰囲気(リッチ雰囲気)下においてはペロブスカイト構造が壊れることも問題視されている。
現在のところ、低温活性が高く、且つ耐熱性を有する三元触媒は開発されていない。更には、最近では、超低排出ガス基準等の導入に伴って、より高い排ガス浄化性能を有する三元触媒が益々要求されている。
本発明は、上記のような事情に鑑み、低温活性が高く、且つ耐熱性に優れ、安定した排ガス浄化性能を得ることができる触媒及び正方晶系複合酸化物の製造方法を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本発明者等は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、中和共沈−乾燥−焼成法によって得られる特定の一般式ABOで示される正方晶系複合酸化物と貴金属成分とを用いることにより上記目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
即ち、本発明の排気ガス浄化用触媒は、中和共沈−乾燥−焼成によって得られる一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物と、該正方晶系複合酸化物中に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなるものである。
また、本発明の排気ガス浄化用触媒は、セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている上記の排気ガス浄化用触媒の層とからなるものであっても、あるいは、セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層と、該正方晶系複合酸化物の層又は該排気ガス浄化用触媒の層の上に担持されている貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層とからなるものであっても、あるいは、セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層と、該正方晶系複合酸化物の層又は該排気ガス浄化用触媒の層の上に担持されている2層以上の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層とからなり、各々の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層の貴金属成分の種類が異なっているものであってもよい。
本発明の排気ガス浄化用触媒においては、正方晶系複合酸化物がCaMnOであることが好ましく、貴金属成分がロジウム、パラジウム又は白金であることが好ましく、耐火性無機酸化物がAl、SiO、ZrO、CeO、CeO−ZrO複合酸化物又はCeO−ZrO−Al複合酸化物であることが好ましい。
また、本発明の排気ガス浄化用触媒においては、中和共沈−乾燥−焼成によって得られる一般式ABOで示される正方晶系複合酸化物が、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成することによって得られたものであることが好ましい。
本発明の一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物の製造方法は、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成することを特徴とする。
また、本発明の一般式A1−x(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表し、Cは貴金属を表し、xは0.01〜0.5である)で示される正方晶系複合酸化物の製造方法は、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成し、その後、該焼成物を塩基性貴金属塩水溶液中に浸漬し、所定量の貴金属を担持させた後、300〜600℃で焼成することを特徴とする。
本発明の排気ガス浄化用触媒及び正方晶系複合酸化物の製造方法は低温活性が高く、耐熱性に優れているので、安定した排ガス浄化性能を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明で用いる正方晶系複合酸化物及び混合−焼成法で得られる正方晶系複合酸化物についての粉末試料1g当たりの酸素吸蔵量と温度との相関関係を示すグラフである。また、第2図は本発明で用いる正方晶系複合酸化物及び従来技術の複合酸化物についての粉末試料1g当たりの酸素吸蔵量と温度との相関関係を示すグララである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明の実施形態を具体的に説明する。
本発明の排気ガス浄化用触媒は、中和共沈−乾燥−焼成によって得られる一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物と、該正方晶系複合酸化物中に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなるものである。
上記の「中和共沈−乾燥−焼成によって得られる」とは、例えば、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成することによって得られることを意味している。
本発明の排気ガス浄化用触媒は中和共沈−乾燥−焼成によって得られる上記の正方晶系複合酸化物を用いることを必須の構成要件としており、後記の実施例、比較例のデータの比較から明らかなように、混合−乾燥−焼成によって得られる正方晶系複合酸化物を用いた場合に比較して顕著な効果の差異がある。
上記の一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物として、例えば、CaMnO、SrMnO、SrFeO、BaSnO、SrVO等を挙げることができ、触媒活性の面では、特にCaMnOが好ましい。
上記の正方晶系複合酸化物は、ペロブスカイト系複合酸化物が立方晶系であるのに対して、KNiF型構造、即ち、正方晶系の構造を有しており、その格子内に数多くの空間が存在しているので、化学量論組成以上の酸素を取り込むことができ、且つその酸素の出入りが比較的自由であるので、非常に高い酸素貯蔵能力を発揮し、その酸素貯蔵能力は、例えば、ペロブスカイト構造及びOSC材(CeOとZrOとの複合酸化物)よりも著しく高い。
本発明の排気ガス浄化用触媒においては、このような正方晶系複合酸化物を用いているので、排ガス雰囲気の変化、すなわち、理論空燃比を基準に酸素濃度が不十分な還元雰囲気(リッチ雰囲気)から酸素濃度が過剰な酸化雰囲気(リーン雰囲気)までの広い範囲での酸素濃度の変化に応じて、酸素の出入りが比較的容易となっている。
これは、一般式ABOの構成元素のうち、特に、Bサイトイオンの価数変化が起こり易くなっているためと、構造内に大きな空間を有していることが考えられる。このように、酸素の出入りが容易であることにより、浄化対象物質との反応サイトとなるウィンドウが広がって高活性化が実現されることとなり、触媒活性が高められて、排ガス浄化性能が向上する。
また、正方晶系複合酸化物は耐熱性にも優れていることから、排気ガス浄化用触媒を高温域において使用しても、非常に高い酸素貯蔵能力を発揮して触媒活性を高め、排ガス浄化性能を向上することができる。
本発明の排気ガス浄化用触媒は、上記の正方晶系複合酸化物と、該正方晶系複合酸化物中に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなるものである。このような排気ガス浄化用触媒は上記の正方晶系複合酸化物を塩基性貴金属塩水溶液中に浸漬し、所定量の貴金属を担持させた後、300〜600℃で焼成することにより得ることができる。しかし、本発明の排気ガス浄化用触媒においては貴金属成分が固溶体化しているか又は担持されているかは問題ではない。何れの場合にも、またその混合状態でも排気ガス浄化用触媒として同様に有効である。
貴金属成分が正方晶系複合酸化物中に固溶体化している状態とは、正方晶系複合酸化物のBサイトの元素の一部が、触媒として作用する貴金属成分、例えばパラジウム成分で置換された状態であり、このような固溶体として、例えば、CaMn1−xPd、SrFe1−xPd、SrMn1−xPd等を挙げることができる。このように正方晶系複合酸化物の構造内にPd等の貴金属成分を均一な分散状態で固溶させることで、触媒活性として作用するウィンドウを広げることができ、安定した排ガス浄化性能を確保できる。
本発明の排気ガス浄化用触媒は、上記のように正方晶系複合酸化物と貴金属成分とからなるものであってもよいが、一般的には、セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている上記の排気ガス浄化用触媒の層とからなるものであるか、あるいは、セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層と、該正方晶系複合酸化物の層又は該排気ガス浄化用触媒の層の上に担持されている貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層とからなるものであるか、あるいは、セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層と、該正方晶系複合酸化物の層又は該排気ガス浄化用触媒の層の上に担持されている2層以上の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層とからなり、各々の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層の貴金属成分の種類が異なっているものである。
上記のような排気ガス浄化用触媒においては、セラミックスまたは金属材料からなる担体の形状は、特に限定されるものではないが、一般的にはハニカム、板、ペレット等の形状であり、好ましくはハニカム形状である。また、このような担体の材質としては、例えば、アルミナ(Al)、ムライト(3Al−2SiO)、コージライト(2MgO−2Al−5SiO)等のセラミックスや、ステンレス等の金属材料が挙げられる。なお、コージライト材料は熱膨張係数が1.0×10−6/℃と極めて低いので特に有効である。
セラミックスまたは金属材料からなる担体に担持された上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層は、上記の正方晶系複合酸化物又は上記の排気ガス浄化用触媒を含有するスラリーを用いて担体上にウオッシュコートし、乾燥し、焼成することによって形成される。また、上記の排気ガス浄化用触媒の層は、担体上に上記の正方晶系複合酸化物の層を形成した後、塩基性貴金属塩水溶液中に浸漬し、所定量の貴金属を担持させた後、300〜600℃で焼成することによっても形成することができる。
上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層の上に担持された貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層、例えば、白金成分担持多孔質アルミナの層は、貴金属成分を多孔質耐火性無機酸化物に担持させた後、この貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物を含有するスラリーを用いて、上記の正方晶系複合酸化物の層又は上記の排気ガス浄化用触媒の層の上にウオッシュコートし、乾燥し、焼成することによって形成される。また、貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層は、多孔質耐火性無機酸化物の層を形成させた後、塩基性貴金属塩水溶液中に浸漬し、所定量の貴金属を担持させた後、300〜600℃で焼成することによっても形成することができる。貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層を2層以上とする場合は上記と同様にして形成することができるが、この場合には各々の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層の貴金属成分は異なるものとする。
本発明の排気ガス浄化用触媒においては、正方晶系複合酸化物がCaMnOであることが好ましく、貴金属成分がロジウム、パラジウム又は白金であることが好ましく、また耐火性無機酸化物がAl、SiO、ZrO、CeO、CeO−ZrO複合酸化物又はCeO−ZrO−Al複合酸化物であることが好ましい。
本発明の排気ガス浄化用触媒は自動車等の内燃機関の始動直後の低温域から連続動作時の高温域までの広範囲において使用されても、優れた耐熱性を得ることができ、且つ低温活性が高く、安定した排ガス浄化性能を得ることができる。
本発明の一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物の製造方法は、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成することからなる。
本発明の上記の製造方法においては、上記の硝酸塩を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和する場合に、硝酸塩を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液に添加しても、逆に炭酸アンモニウム水溶液を硝酸塩を含有する水溶液に添加してもよい。
また、本発明の一般式A1−x(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表し、Cは貴金属を表し、xは0.01〜0.5である)で示される正方晶系複合酸化物の製造方法は、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成し、その後、該焼成物を塩基性貴金属塩、例えば、テトラアンミンパラジウムジクロライド、テトラアンミンパラジウム水酸塩、テトラアンミン白金水酸塩、ヘキサアンミンロジウム水酸塩等の水溶液中に浸漬し、所定量の貴金属を担持させた後、300〜600℃で焼成することからなる。
本発明の上記の製造方法においては、上記の硝酸塩を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和する場合に、硝酸塩を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液に添加しても、逆に炭酸アンモニウム水溶液を硝酸塩を含有する水溶液に添加してもよい。また、本発明の上記の製造方法においては、300〜600℃で焼成することにより貴金属成分の少なくとも一部が正方晶系複合酸化物中に入り込んで固溶体化する。従って、本発明の上記の製造方法では、全ての貴金属成分が正方晶系複合酸化物中に入り込んで固溶体化している場合も、貴金属成分の一部が正方晶系複合酸化物中に入り込んで固溶体化し、残りが正方晶系複合酸化物に担持されている場合もある。
また、上記の固溶体化する貴金属成分の量を表すxの値については、0.01未満であると貴金属成分による触媒効果が不十分であり、逆に0.5を超えてもコストに見合った効果が達成されない。従って、本発明で製造し、本発明の排気ガス浄化用触媒に用いる一般式A1−xの正方晶系複合酸化物においてはxが0.01〜0.5であることが好ましい。
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を説明する。
比較例1
MnCO粉末とCaCO粉末とを1:2のモル比となるように純水中で攪拌混合し、約120℃で乾燥させた後、約1100℃で焼成してCaMnO粉末を得た。なお、CaMnOの生成確認はXRD測定によって行った。次に、この得られたCaMnOを含有するスラリーを600セル/inch(25.4mm×30mm)のハニカム形状の多孔質アルミナ担体の面上にウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第一触媒層を形成した。次に、この第一触媒層上に、白金成分を多孔質アルミナに担持して得た白金担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第二触媒層を形成した。更に、この第二触媒層の上に、ロジウム成分を多孔質アルミナに担持して得たロジウム担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第三触媒層を形成して排気ガス浄化用触媒を得た。この排気ガス浄化用触媒において、白金成分及びロジウム成分の担持量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たりそれぞれ0.2gとなるようにした。
【実施例1】
硝酸マンガン(II)六水和物と硝酸カルシウム四水和物とを1:2のモル比になるように調製した水溶液を炭酸アンモニウム水溶液中に滴下して前駆体沈殿物を得た。この沈殿物をろ過し、約120℃で乾燥し、約800℃で焼成してCaMnO粉末を得た。なお、CaMnOの生成確認はXRD測定によって行った。次に、この得られたCaMnOを含有するスラリーを600セル/inch(25.4mm×30mm)のハニカム形状の多孔質アルミナ担体の面上にウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第一触媒層を形成した。次に、この第一触媒層上に、白金成分を多孔質アルミナに担持して得た白金担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第二触媒層を形成した。更に、この第二触媒層の上に、ロジウム成分を多孔質アルミナに担持して得たロジウム担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第三触媒層を形成して本発明の排気ガス浄化用触媒を得た。この排気ガス浄化用触媒において、白金成分及びロジウム成分の担持量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たりそれぞれ0.2gとなるようにした。
【実施例2】
硝酸マンガン(II)六水和物と硝酸カルシウム四水和物とを1:2のモル比になるように調製した水溶液を炭酸アンモニウム水溶液中に滴下して前駆体沈殿物を得た。この沈殿物をろ過し、約120℃で乾燥し、約800℃で焼成してCaMnO粉末を得た。なお、CaMnOの生成確認はXRD測定によって行った。次に、この得られたCaMnOをテトラアンミンパラジウムジクロライド水溶液中に浸漬し、所定量のパラジウム成分を担持させた後、300℃で焼成してパラジウムの少なくとも一部が複合酸化物中に固溶体化した複合酸化物を得た。次に、このパラジウムが固溶体化した複合酸化物を含有するスラリーを600セル/inch(25.4mm×30mm)のハニカム形状の多孔質アルミナ担体の面上にウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第一触媒層を形成して本発明の排気ガス浄化用触媒を得た。この排気ガス浄化用触媒において、マンガンの5%がパラジウムで置換されるようにした。即ち、xは0.05であった。また、パラジウムの量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たり1.0gとなるようにした。
【実施例3】
実施例2で製造した排気ガス浄化用触媒の第一触媒層上に、白金成分を多孔質アルミナに担持して得た白金担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、乾燥し、約500℃で焼成して第二触媒層を形成して本発明の排気ガス浄化用触媒を得た。この排気ガス浄化用触媒において、白金成分の担持量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たり0.2gとなるようにし、パラジウムの量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たり1.0gとなるようにした。
【実施例4】
実施例3で製造した排気ガス浄化用触媒の第二触媒層上に、ロジウム成分を多孔質アルミナに担持して得たロジウム担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、乾燥し、約500℃で焼成して第三触媒層を形成して本発明の排気ガス浄化用触媒を得た。この排気ガス浄化用触媒において、白金成分及びロジウム成分の担持量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たりそれぞれ0.2gとなるようにした。また、パラジウムの量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たり1.0gとなるようにした。
比較例2及び実施例5〜8
第一触媒層の複合酸化物が第1表に示す複合酸化物となるように変更した以外は比較例1、実施例1〜4と同様にして第1表に示す排気ガス浄化用触媒を製造した。
比較例3
アルミナ粉末を含有するスラリーを600セル/inch(25.4mm×30mm)のハニカム形状の多孔質アルミナ担体の面上にウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第一触媒層を形成した。次に、この第一触媒層上に、白金成分を多孔質アルミナに担持して得た白金担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第二触媒層を形成した。更に、この第二触媒層の上に、ロジウム成分を多孔質アルミナに担持して得たロジウム担持アルミナを含有するスラリーをウォッシュコートし、約120℃で乾燥し、約500℃で焼成して第三触媒層を形成して排気ガス浄化用触媒を得た。この排気ガス浄化用触媒において、白金成分及びロジウム成分の担持量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たりそれぞれ0.2gとなるようにした。
比較例4〜6
実施例2〜4で用いたパラジウムが複合酸化物中に固溶体化した複合酸化物の代わりに、パラジウム成分を多孔質アルミナに担持して得たパラジウム担持アルミナを用いて第一触媒層を形成した以外は実施例2〜4と同様にして第1表に示す排気ガス浄化用触媒を製造した。
比較例7
硝酸ランタン六水和物と硝酸鉄(III)九水和物とを1:1のモル比になるように調製した水溶液を炭酸アンモニウム水溶液中に滴下して前駆体沈殿物を得た。この沈殿物をろ過し、約120℃で乾燥し、約700℃で焼成してLaFeO粉末を得た。次に、この得られたLaFeOをテトラアンミンパラジウムジクロライド水溶液中に浸漬し、所定量のパラジウム成分を担持させた後、300℃で焼成してパラジウムが複合酸化物中に固溶体化した複合酸化物を得た。次に、このパラジウムが固溶体化した複合酸化物を含有するスラリーを、アルミナ粉末を含有するスラリーの代わりに用いた以外は比較例3と同様にして第1表に示す排気ガス浄化用触媒を製造した。この排気ガス浄化用触媒において、白金成分及びロジラム成分の担持量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たりそれぞれ0.2gとなるようにした。また、パラジウムの量は排気ガス浄化用触媒の体積1リットル当たり1.0gとなるようにした。
<排気ガス浄化性能試験>
実施例1〜8及び比較例1〜7の排気ガス浄化用触媒の排気ガス浄化性能についての評価試験を行った。
最初に、下記の組成を有する3種のモデルガスを調製した。

実施例1〜8及び比較例1〜7の排気ガス浄化用触媒をそれぞれ2個用意し、各々の1個を2000ccエンジンに装着し、A/Fが13.6〜15.6の範囲内になる条件下で950℃で100時間加熱処理を実施した。
加熱処理を施していない実施例1〜8及び比較例1〜7の排気ガス浄化用触媒(後記の第2表において加熱前と記載する)及び上記の加熱処理を施した実施例1〜8及び比較例1〜7の排気ガス浄化用触媒(後記の第2表において加熱後と記載する)の1種を評価装置に充填し、上記の3種のモデルガスを変動周期1Hzで順番に(即ち、1秒の間に上記の3種のモデルガスを順番に変更して)流通させながら、20℃/分の昇温速度で400℃まで昇温し、CO、HC、NOxの浄化率を連続的に測定した。モデルガスが50%浄化される温度(T50)(℃)及び400℃におけるモデルガスの浄化率(η400)(%)は第2表に示す通りであった。


第2表に示すデータの比較例1と実施例1との比較、比較例2と実施例5との比較から明らかなように、混合−焼成法によって得られた正方晶系複合酸化物を用いた排気ガス浄化用触媒よりも中和共沈−焼成法によって得られた正方晶系複合酸化物を用いた排気ガス浄化用触媒の方が優れている。また、実施例1〜4と比較例3〜6との比較、実施例5〜8と比較例3〜6との比較から明らかなように、第一触媒層に中和共沈−焼成法によって得られた正方晶系複合酸化物を用いた排気ガス浄化用触媒は第一触媒層にアルミナを用いた排気ガス浄化用触媒よりも優れている。
<酸素吸蔵性能試験>
実施例2に記載の方法で製造した(中和共沈−焼成法)パラジウムが固溶体化した複合酸化物の粉末(図1中には本発明例と記載)、及び比較例1に記載の方法で製造したCaMnO粉末を実施例2に記載の方法で処理して得た(混合−焼成法)パラジウムが固溶体化した複合酸化物の粉末(図1中には比較例と記載)について、粉末試料1g当たりの酸素吸蔵量と温度との相関関係を求めた。その結果は図1に示す通りであった。本発明で用いる正方晶系複合酸化物は混合−焼成法で得られる正方晶系複合酸化物よりも酸素吸蔵特性が明らかに向上している。
また、実施例1に記載の方法で製造したCaMnO粉末、この粉末にPt、Pd又はRhを担持させた各々の粉末、LaFe0.95Pd0.05粉末、及びOSC(CeO−ZrO複合酸化物)粉末について、粉末試料1g当たりの酸素吸蔵量と温度との相関関係を求めた。その結果は図2に示す通りであった。600℃以上では、貴金属を担持していないCaMnO粉末においてもPdを含むLaFe0.95Pd0.05粉末及び一般に用いられているOSC材より優れた酸素吸蔵特性を示している。また、貴金属を担持することで、酸素吸蔵特性曲線が低温側にシフトしており、貴金属担持が低温活性に寄与していることは明白である。この場合に最も有効な貴金属はパラジウムである。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和共沈−乾燥−焼成によって得られる一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物と、該正方晶系複合酸化物中に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなる排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている請求項1記載の排気ガス浄化用触媒の層とからなる排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている請求項1記載の正方晶系複合酸化物の層又は請求項1記載の排気ガス浄化用触媒の層と、該正方晶系複合酸化物の層又は該排気ガス浄化用触媒の層の上に担持されている貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層とからなる排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
セラミックスまたは金属材料からなる担体と、該担体上に担持されている請求項1記載の正方晶系複合酸化物の層又は請求項1記載の排気ガス浄化用触媒の層と、該正方晶系複合酸化物の層又は該排気ガス浄化用触媒の層の上に担持されている2層以上の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層とからなり、各々の貴金属成分担持多孔質耐火性無機酸化物の層の貴金属成分の種類が異なっている排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
正方晶系複合酸化物がCaMnOである請求項1〜4の何れかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項6】
貴金属成分がロジウム、パラジウム又は白金である請求項1〜5の何れかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項7】
耐火性無機酸化物がAl、SiO、ZrO、CeO、CeO−ZrO複合酸化物又はCeO−ZrO−Al複合酸化物である請求項1〜6の何れかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項8】
中和共沈−乾燥−焼成によって得られる一般式ABOで示される正方晶系複合酸化物が、
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成することによって得られたものである請求項1〜7の何れかに記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項9】
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成することを特徴とする一般式ABO(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表す)で示される正方晶系複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
(a)Ca、Sr又はBaの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(b)Mn、Fe、Ti、Sn又はVの硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1種と
を含有する水溶液を炭酸アンモニウム水溶液で中和して前駆体を共沈させ、この共沈物をろ過し、乾燥し、800〜1450℃で焼成し、その後、該焼成物を塩基性貴金属塩水溶液中に浸漬し、所定量の貴金属を担持させた後、300〜600℃で焼成することを特徴とする、一般式A1−x(式中、AはCa、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種を表し、BはMn、Fe、Ti、Sn及びVからなる群から選択される少なくとも1種を表し、Cは貴金属を表し、xは0.01〜0.5である)で示される正方晶系複合酸化物の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/089538
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505333(P2005−505333)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005147
【国際出願日】平成16年4月9日(2004.4.9)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】