説明

排水から水を回収する方法および装置

【課題】 簡単な構成と操作により、排水を高濃縮しても、微生物の増殖を抑制してスライムの発生による分離膜の目詰まりを防止して膜分離を行うことができ、これにより差圧の上昇を防止して効率よく排水から水を回収でき、安定した運転が可能な方法および装置を提案する。
【解決の手段】排水を逆浸透装置1に供給し、逆浸透膜2を通して水を透過液室3側に透過させて回収水を得、濃縮液室4の濃縮液の一部を取出すとともに、他の一部を循環経路L4を通して濃縮液室4へ循環する過程においてカチオン除去装置6でカチオンを除去して、スライムの発生を抑制しながら、膜分離処理を行うことにより、差圧の上昇を防止して効率よく排水から水を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水から逆浸透装置により、スライムの発生を抑制しながら水を回収する方法および装置に関し、特に液晶基板やウエハーその他の電子機器をエッチングした後の微量の有機物やイオンを含有する洗浄排水のような希薄排水から純水の回収に適した排水から水を回収する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶基板やウエハーその他の電子機器のエッチングには、エッチング液が用いられている。エッチング工程で発生する高濃度の廃エッチング液は回収して再生利用されているが、エッチング後の電子機器は純水により洗浄され、低濃度の希薄洗浄排水が大量に生成する。このような洗浄排水はエッチング液の成分である有機物や、リン酸、硝酸、酢酸等の酸成分等のほか、エッチングによって溶出した金属イオンその他の不純物が含まれているが、大部分は純水である。
【0003】
このようなエッチング洗浄排水の処理方法として、特許文献1(特開2006−75820号)では、アニオン交換樹脂でリン酸、硝酸などのイオンを除去し、純水およびリン酸塩の回収が行われている。しかしこの方法では、イオン化しない有機物やコロイド性物質の除去ができず、またアニオン樹脂の再生に水酸化ナトリウムを大量に使用するなどの欠点があった。
【0004】
このような点を改善する方法として、特許文献2(特開2008−80277号)には、排水を逆浸透装置に供給して膜分離処理を行い、水を透過液室側に透過させて、酸を濃縮液室側に濃縮し、透過液から水を回収し、濃縮液から酸を回収する方法が示されている。しかしこの方法では、濃縮液中に栄養分が高濃縮されるため、これらを栄養源として微生物が増殖してスライムが分離膜を詰まらせ、差圧上昇を引き起こすことが分かった。
【0005】
特許文献3(特開2008−81791号)には、膜分離装置の濃縮液を循環する経路にカチオン交換樹脂を設けてカチオンを除去する方法が示されているが、特許文献3は特許文献1の系列に属する技術であり、リン酸含有水からアニオン交換樹脂でリン酸、硝酸などのアニオンを除去し、処理液を膜分離して透過液として純水を回収し、濃縮液を循環アニオン交換樹脂で吸着した酸は再生液で溶離して電解によりリン酸を回収するため、膜分離装置の濃縮液は高濃縮されず、スライムが発生しないので、スライム対策の問題は発生していない。
【特許文献1】特開2006−75820号
【特許文献2】特開2008−80277号
【特許文献3】特開2008−81791号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、簡単な構成と操作により、排水を高濃縮しても、微生物の増殖を抑制してスライムの発生による分離膜の目詰まりを防止して膜分離を行うことができ、これにより差圧の上昇を防止して効率よく排水から水を回収でき、安定した運転が可能な排水から水を回収する方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次の排水から水を回収する方法および装置である。
(1) 排水を逆浸透装置に供給し、逆浸透膜を通して水を透過液室側に透過させて回収水を得、
濃縮液室の濃縮液の一部を取出すとともに、他の一部を濃縮液室へ循環し、
濃縮液を循環する過程においてカチオンを除去して、スライムの発生を抑制しながら、膜分離処理を行う
ことを特徴とする排水から水を回収する方法。
(2) 濃縮液中のカチオン濃度を0.5mg/L以下に維持する上記(1)記載の方法。
(3) 回収率80〜90%で膜分離処理を行う上記(1)または(2)記載の方法。
(4) カチオンの除去として、循環する濃縮液、または循環する濃縮液と原水の混合液からカチオンを除去する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 排水を供給し、逆浸透膜を通して水を透過液室側に透過させて回収水を得る逆浸透装置と、
排水を逆浸透膜装置の濃縮液室側に供給する被処理液供給部と、
逆浸透装置の透過液室側から透過液を取出す透過液取出部と、
逆浸透装置の濃縮液室側から濃縮液を取出す濃縮液取出部と、
濃縮液取出部から取出した濃縮液を濃縮液室側に循環する循環経路と、
循環する濃縮液からカチオンを除去するカチオン除去装置と
を有することを特徴とする排水から水を回収する装置。
(6) 濃縮液中のカチオン濃度を0.5mg/L以下に維持する上記(5)記載の装置。
(7) 逆浸透装置が回収率80〜90%で膜分離処理を行う上記(5)または(6)記載の装置。
(8) カチオン除去装置が、濃縮液の循環路、または循環する濃縮液と原水の混合液を供給する被処理液供給路に設けられた上記(5)ないし(7)のいずれかに記載の装置。
【0008】
本発明において、処理の対象となる排水は、微量の有機物やイオンを含有する水であれば制限なく対象とすることができるが、液晶基板やウエハーその他の電子機器をエッチングした後に、純水洗浄を行う際に発生する低濃度の洗浄排水のように、微量の有機物やイオンを含有する希薄排水が対象として適している。イオンとしては、リン酸イオンのほかに、硝酸イオン、酢酸イオン等の酸成分、その他のアニオン、ならびに金属イオン等のカチオン、その他の不純物が含まれていてもよい。このような不純物の量は、エッチング後の洗浄排水の場合は、有機物2〜120mg/L、リン酸イオン50〜2000mg/L、硝酸イオン10〜500mg/L、酢酸イオン5〜300mg/Lが含有されており、この程度の不純物を含有する酸性水を処理対象とすることができる。
【0009】
本発明では、このような排水から水を回収するために、排水を逆浸透膜装置に供給して膜分離処理を行い、逆浸透膜を通して水を透過液室側に透過させて回収水を得る。排水を逆浸透膜装置に供給する前に、前処理としてカチオンおよび/またはアニオンを含む不純物の除去を行ってもよい。この場合、沈殿分離、濾過等による固形物の除去、ならびにカチオン交換樹脂による金属イオン等のカチオンの除去、およびアニオン交換樹脂による過塩素酸、有機酸錯体等のアニオンの除去などを行うことができる。このような前処理工程に用いる前処理装置としては、上記目的に採用されている一般的な装置が用いられる。
【0010】
本発明で膜分離を行う逆浸透装置は、RO装置とも呼ばれ、逆浸透(RO)膜により透過液室と濃縮液室とに区画され、排水を濃縮液室側に供給して逆浸透膜処理を行い、水を透過液室側に透過させるとともに、酸その他の溶質を濃縮液室側に濃縮させるように構成される。逆浸透膜装置の濃縮液室側には、排水を供給する被処理液供給部、ならびに濃縮液を取出す濃縮液取出部が形成される。逆浸透膜装置の透過液室側には、透過液を取出す透過液取出部が形成される。濃縮液取出部と排水供給部間には、濃縮液取出部から取出した濃縮液を濃縮液室側に循環する循環経路が形成され、循環する濃縮液からカチオンの除去を行うカチオン除去装置が設けられる。
【0011】
逆浸透膜は、浸透圧により水を透過させ、あるいは逆に浸透圧よりも高圧に加圧して被処理液を供給して逆浸透により水を透過させ、一方、塩分その他の溶質を透過させないで阻止する半透膜である。逆浸透膜の材質としては、上記の特性を有する限り特に制限されず、例えばポリアミド系透過膜、ポリイミド系透過膜、セルロース系透過膜などが挙げられ、非対称逆浸透膜でもよいが、微多孔性支持体上に実質的に選択分離性を有する活性なスキン層を形成した複合逆浸透膜が好ましい。
【0012】
逆浸透装置はこのような逆浸透膜を備えるものであればよいが、逆浸透膜と支持機構、集水機構等が一体化した膜モジュールを備えるものが好ましい。膜モジュールとしては特に制限はなく、例えば管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを挙げることができる。これらを備える逆浸透装置としては公知のものが使用でき、低圧で操作される高透過性のものが好ましい。濃縮液の循環経路は、濃縮リン酸液取出部から取出した濃縮リン酸液を濃縮液室側に循環するように形成されるが、途中に貯留槽を設けることができる。
【0013】
カチオン除去装置は、循環する濃縮液からカチオンの除去を行うように循環経路に設けられるが、循環する濃縮液、または循環する濃縮液と原水の混合液からカチオンを除去するように、濃縮液の循環路、または循環する濃縮液と原水の混合液を供給する被処理液供給路に設けるのが好ましい。カチオン除去装置としては、カチオン交換樹脂を用いるカチオン交換装置が好ましいが、イオン交換膜を用いる電気透析装置等の電気的脱イオン装置、その他の装置も用いることができ、これらを組合せて用いることもできる。カチオン交換装置としては、H型強酸性カチオン交換樹脂を用いてカチオンを吸着除去した後、再生剤による再生、または電気再生を行うものが一般的である。電気透析装置は電極間に配置したカチオン交換膜とアニオン交換膜間に通水し、電極間に通電してイオンを透析により除去する装置が一般的であるが、カチオン交換膜とアニオン交換膜間にイオン交換樹脂を充填したものでもよい。
【0014】
循環経路に貯留槽を設ける場合、貯留槽に原水路を連絡し、カチオン除去装置は貯留槽の前に設けてもよく、また後に設けてもよい。循環経路には逆浸透装置への給水ポンプが設けられるが、給水ポンプは比較的高圧の給水圧とされるので、カチオン除去装置は給水ポンプの前に設けるのが好ましいが、給水ポンプの後でもよく、また給水ポンプの前後に設けてもよい。カチオン除去装置は同種または異種のものを組合わせて、2段以上に設けることができるが、この場合、後段は除去率の高いものをポリッシャ的に用いるのが好ましい。
【0015】
本発明では膜分離工程において、排水を被処理液供給部から逆浸透膜装置の濃縮液室側に供給して膜分離(逆浸透)処理を行う。排水は前処理においてカチオン交換樹脂により金属イオン等のカチオンを除去したものでもよいが、循環経路に設けるカチオン除去装置の前に排水を供給する場合は、前処理におけるカチオン交換を省略し、排水をそのまま逆浸透膜装置に給水することができる。排水を逆浸透装置に供給して膜分離処理を行うと、水は逆浸透膜を透過して透過液室側に移行し、透過液室側から透過液として取出され、透過液取出部から回収される。有機物や、リン酸、硝酸、酢酸等の酸などの不純物は逆浸透膜の透過を阻止され、濃縮液室側に残留して濃縮されるので、濃縮液室側から濃縮液として回収することができる。逆浸透装置に供給する排水の圧力は0.3〜5MPa、好ましくは0.5〜3MPaとすることができる。
【0016】
逆浸透装置における膜分離処理は回収率80〜90%、好ましくは回収率83〜88%で行うことができる。ここで回収率は次の〔1〕式で表される。
回収率=[(透過液量)/(透過液量+濃縮液取出量)]×100・・・〔1〕
例えば回収率85%の場合、濃縮倍数は6.6倍となり、濃縮液は6.6倍に濃縮される。ここで逆浸透膜装置の濃縮液室側に供給する排水のカチオン濃度が0.2mg/Lの場合、濃縮液のカチオン濃度が1.3mg/Lに濃縮される。
【0017】
スライムを構成する微生物が増殖するためには栄養源となる有機物の他にカリウム、マグネシウムなどの金属が1mg/L程度の微量ではあるが必要である。すなわち有機物等の主栄養源が存在していても、カリウム、マグネシウムなどの金属からなる微量栄養素が存在しない系では、スライムを構成する微生物の増殖が抑制される。ところが水回収系の逆浸透装置は、濃縮をしても析出する成分が少ないため、一般的には85%以上の回収率で運転されており、85%の回収率で運転した場合は、上記の通り濃縮液中の有機物、金属類は6.6倍に濃縮される。このため逆浸透装置に供給する排水中に含まれる微量金属濃度が0.2mg/Lでスライムが繁殖できない条件であっても、濃縮液では1.3mg/Lとスライムの繁殖条件を満たすことになる。
【0018】
そこで濃縮液取出部から濃縮液を取出し、その一部を循環経路から濃縮液室側に循環する過程において、カチオン除去装置においてカチオンを除去して濃縮液室側に循環する。これにより濃縮液中のカチオン濃度を0.5mg/L以下、好ましくは0.4mg/L以下に維持し、微生物の増殖を抑制してスライムの発生を防止することができる。85%の回収率で運転する場合、濃縮液を15L/h、濃縮液循環量を70L/hとすると、システム全体の回収率は85%で、6.6倍濃縮であるが、逆浸透膜自体の回収率は50%となり、2倍濃縮となる。ここで給水のカチオン濃度を0.2mg/Lとすると、逆浸透膜では0.4mg/Lまで濃縮される。このうち濃縮液の15L/hは排出されるが、残り70L/hは循環する。ここでカチオン除去装置により仮に0.2mg/Lまで除去されると、系内において最高のカチオン濃度は0.2mg/Lとなり、スライムの繁殖条件を満たさない。
【0019】
このように濃縮液取出部から取出した濃縮液の一部を循環経路から濃縮液室側に循環する過程において、カチオン除去装置でカチオンを除去して濃縮液室側に循環し、微生物の増殖を抑制して、スライムの発生を防止しながら膜分離処理を行うことにより、逆浸透膜の目詰まりを防止することができ、これによりスライムによる逆浸透膜の差圧上昇を抑制して、効率よく排水から水を回収することができる。濃縮液取出部から取出した濃縮液の他の一部は、公知の分離手段でリン酸等の成分を分離、濃縮することにより、有価物として回収することができる。
【0020】
カチオン除去装置としてカチオン交換装置を用いる場合は、カチオン交換装置を構成するカチオン交換樹脂層に循環する濃縮液を通すことにより、濃縮液中のカチオンを吸着させて除去し、循環する濃縮液中のカチオン濃度を低く維持する。カチオンを吸着したカチオン交換樹脂は、塩酸、硫酸等の酸からなる再生剤で再生し、あるいは電気再生を行うことにより再生し、繰り返し使用することができるが、場合によってはそのまま廃棄し、新樹脂と交換することもできる。カチオン除去装置として電気透析装置等の電気的脱イオン装置を用いる場合は、電極間に配置したカチオン交換膜とアニオン交換膜間に循環する濃縮液を通水し、電極間に通電してイオンを透析するなどの方法によりカチオンその他のイオンを除去する。
【発明の効果】
【0021】
以上の通り本発明によれば、排水を逆浸透装置に供給し、逆浸透膜を通して水を透過液室側に透過させて回収水を得る際、濃縮液室の濃縮液の一部をを濃縮液室へ循環する過程において、カチオン除去装置でカチオンを除去して、スライムの発生を抑制しながら、膜分離処理を行うようにしたので、簡単な構成と操作により、排水を高濃縮しても、微生物の増殖を抑制してスライムの発生による逆浸透膜の目詰まりを防止して膜分離を行うことができ、これにより差圧の上昇を防止して効率よく排水から水を回収でき、安定した運転が可能な排水から水を回収する方法および装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図面により説明する。図1(a)、(b)および図2(a)、(b)はそれぞれ別の実施形態における排水から水を回収する方法および装置のフロー図である。各図中、1は逆浸透装置で、逆浸透膜2により、透過液室3と濃縮液室4に区画されている。濃縮液室4には貯留槽5から、ポンプP1を有する被処理液供給路L1が連絡している。透過液室3から透過液取出路L2が系外に連絡している。また濃縮液室4から濃縮液取出路L3が系外に連絡している。濃縮液取出路L3から循環路L4が、図1(a)、(b)では貯留槽5に連絡し、図2(a)、(b)では被処理水供給路L1に連絡している。貯留槽5には原水路L5が連絡している。カチオン除去装置6は循環経路に設けられるが、図1(a)および図2(a)では循環路L4に設けられ、図1(b)および図2(b)では被処理水供給路L1に設けられている。
【0023】
図1(a)、(b)および図2(a)、(b)においては、原水路L5から被処理排水8を貯留槽5に導入し、ポンプP1により加圧して被処理液供給路L1から逆浸透装置1の濃縮液室4に供給し、逆浸透膜2を通して水を透過液室3側に透過させ、透過液を透過液取出路L2から取出して回収水を得る。濃縮液室4の濃縮液の一部を濃縮液取出路L3から系外に取出すとともに、濃縮液の他の一部を循環路L4から濃縮液室4へ循環するが、循環路L4の濃縮液は図1(a)、(b)では貯留槽5に戻し、図2(a)、(b)では被処理液供給路L1に合流させて被処理排水8と混合する。これにより循環路L4から濃縮液を循環する過程において、カチオン除去装置6によりカチオンを除去して、スライムの発生を抑制しながら膜分離処理を行う。
【0024】
この場合、図1(a)および図2(a)では、循環路L4に設けられたカチオン除去装置6に、濃縮液室4の背圧を利用して濃縮液を供給してカチオンの除去を行う。図1(b)および図2(b)では、被処理水供給路L1に設けられたカチオン除去装置6に、原水と循環する濃縮液が混合した被処理水をポンプ2により供給してカチオンの除去を行う。図1(b)および図2(b)において、ポンプ1の吸引力でカチオン除去装置6への給水が可能な場合には、ポンプ2を省略できる。また7は第2のカチオン除去装置を設け、2段にカチオン除去を行う場合を仮想線で示すが、必ずしも必要ではなく、また図1(a)および図2(a)においても、第2のカチオン除去装置7を被処理液供給路L1または循環路L4に設け、2段にカチオン除去を行ってもよい。
【0025】
上記のカチオン除去装置6および第2のカチオン除去装置7としては、カチオン交換装置を用いることができ、この場合はカチオン交換装置を構成するカチオン交換樹脂層に循環する濃縮液、または原水との混合液を通すことにより、濃縮液中のカチオンを吸着させて除去し、循環する濃縮液中のカチオン濃度を低く維持する。カチオンを吸着したカチオン交換樹脂は、塩酸、硫酸等の酸からなる再生剤で再生し、あるいは電気再生を行うことにより再生し、繰り返し使用することができるが、場合によってはそのまま廃棄し、新樹脂と交換することもできる。カチオン除去装置6、7として電気透析装置等の電気的脱イオン装置を用いる場合は、電極間に配置したカチオン交換膜とアニオン交換膜間に循環する濃縮液を通水し、電極間に通電してイオンを透析するなどの方法によりカチオンその他のイオンを除去する。
【0026】
上記の濃縮液取出路L3から取出した濃縮液の一部を循環路L4から濃縮液室4側に循環する過程において、カチオン除去装置6、7でカチオンを除去して濃縮液室4側に循環することにより、微生物の増殖を抑制して、スライムの発生を防止しながら膜分離処理を行うことができ、これにより逆浸透膜2の目詰まりを防止して、スライムによる逆浸透膜の差圧上昇を抑制することができ、効率よく排水から水を回収することができる。濃縮液取出路L3から取出した濃縮液の他の一部は、公知の分離手段でリン酸等の成分を分離、濃縮することにより、有価物として回収することができる。
【0027】
このように上記の方法及び装置では、排水を逆浸透装置1に供給し、逆浸透膜2を通して水を透過液室3側に透過させて回収水を得る際、濃縮液室4の濃縮液の一部を濃縮液室4へ循環する過程において、カチオン除去装置6、7でカチオンを除去して、スライムの発生を抑制しながら、膜分離処理を行うことにより、簡単な構成と操作により、排水を高濃縮しても、微生物の増殖を抑制してスライムの発生による逆浸透膜の目詰まりを防止して膜分離を行うことができ、これにより差圧の上昇を防止して効率よく排水から水を回収でき、安定した運転が可能な排水から水を回収することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について説明する。各例における回収率は、前記〔1〕式において、透過液量は、透過液取出路L2から取出す透過液の量とし、濃縮液取出量は、濃縮液取出路L3から取出す濃縮液の量として算出した。
【0029】
〔実施例1、比較例1〕:
図1(a)に示す運転フローにおいて、逆浸透膜2として日東電工(株)製の逆浸透膜ES−20(2インチ)を1本用い、0.7MPaで通液して逆浸透処理し、回収水量を75L/h、取出濃縮液量を10L/h、循環濃縮液量を300L/h、回収率88.2%として運転を行った。カチオン除去装置6として、H型強酸性カチオン交換樹脂(三菱化学(株)製、ダイヤイオンSK1B)を15L樹脂塔に充填したカチオン交換装置を用いた。原水は逆浸透膜処理水に酢酸30mg/L、硝酸30mg/Lを溶解した模擬排水を使用した。
【0030】
上記の試験において、比較例1の濃縮液の循環路L4にカチオン除去手段を設置しない場合は、濃縮液のカチオン濃度は10mg/Lであり、2週間で逆浸透装置の差圧は0.08MPaに上昇し、逆浸透膜の給水側端面には糸状菌の付着が見られたが、実施例1のカチオン除去手段を設置した場合は、濃縮液のカチオン濃度は0.1mg/Lであり、4週間経過しても差圧の上昇、逆浸透膜端面での糸状菌の付着は見られなかった。
【0031】
以上の結果より、濃縮液を循環する過程において濃縮液中のカチオンを除去して、カチオン濃度を低くすることにより、逆浸透装置におけるスライムの発生を抑制し、差圧の上昇を防止して膜分離を行って、効率よく水を回収できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、排水から逆浸透装置により、スライムの発生を抑制しながら水を回収する方法および装置、特に液晶基板やウエハーその他の電子機器をエッチングした後の微量の有機物やイオンを含有する洗浄排水のような希薄排水から純水の回収に適した排水から水を回収する方法および装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ別の実施形態における排水から水を回収する方法および装置のフロー図である。
【図2】(a)、(b)はそれぞれ別の実施形態における排水から水を回収する方法および装置のフロー図である。
【符号の説明】
【0034】
1 逆浸透装置
2 逆浸透膜
3 透過液室
4 濃縮液室
5 貯留槽
6、7 カチオン除去装置
8 被処理排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を逆浸透装置に供給し、逆浸透膜を通して水を透過液室側に透過させて回収水を得、
濃縮液室の濃縮液の一部を取出すとともに、他の一部を濃縮液室へ循環し、
濃縮液を循環する過程においてカチオンを除去して、スライムの発生を抑制しながら、膜分離処理を行う
ことを特徴とする排水から水を回収する方法。
【請求項2】
濃縮液中のカチオン濃度を0.5mg/L以下に維持する請求項1記載の方法。
【請求項3】
回収率80〜90%で膜分離処理を行う請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
カチオンの除去として、循環する濃縮液、または循環する濃縮液と原水の混合液からカチオンを除去する請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
排水を供給し、逆浸透膜を通して水を透過液室側に透過させて回収水を得る逆浸透装置と、
排水を逆浸透膜装置の濃縮液室側に供給する被処理液供給部と、
逆浸透装置の透過液室側から透過液を取出す透過液取出部と、
逆浸透装置の濃縮液室側から濃縮液を取出す濃縮液取出部と、
濃縮液取出部から取出した濃縮液を濃縮液室側に循環する循環経路と、
循環する濃縮液からカチオンを除去するカチオン除去装置と
を有することを特徴とする排水から水を回収する装置。
【請求項6】
濃縮液中のカチオン濃度を0.5mg/L以下に維持する請求項5記載の装置。
【請求項7】
逆浸透装置が回収率80〜90%で膜分離処理を行う請求項5または6記載の装置。
【請求項8】
カチオン除去装置が、濃縮液の循環路、または循環する濃縮液と原水の混合液を供給する被処理液供給路に設けられた請求項5ないし7のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−36160(P2010−36160A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204820(P2008−204820)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】