説明

排液バッグ

【課題】水封部における泡の発生を防止する排液バッグを提供する。
【解決手段】排液を貯留するための排液槽12と、排液槽12の上部に形成され排液を流入させる流入口14と、排液槽12の上部に対して下部で連結された水封槽16と、水封槽16の上部に形成され負圧源に連通する吸引口18とを含んで構成される排液バッグ10において、水封槽16内に、消泡剤を含有する消泡剤担体20を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の排液バッグに関し、特に低圧吸引排出装置に用いられる排液バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の体腔内において滲出し続ける血液等の体液を体腔内から除去する場合など、この体液を採集するために用いられる排液バッグが知られている。このような排液バッグには体液流入用の流入孔が設けられており、この孔は患者の体腔に挿入されたカテーテルに接続するようになっている。患者側で発生した体液はカテーテルを通って流入孔に入り排液バッグ内に導かれるようになっている。
【0003】
また、この排液バッグには吸引用のガス出口孔が設けられており、この孔は外部の負圧源に連通するようになっている。排液バッグと体液通路内とを減圧することにより、体腔内の体液を吸引して、積極的に体液を排液バッグ内に溜めるようになっている。排液バッグには、患者側の方が吸引圧よりも強い陰圧になったときに、気体が患者体内に逆流するのを防ぐための水封部が設けられており、排液バッグのガス出口孔には、排液バッグ内の排液等が負圧源に入り込まないようにオーバーフロー防止弁が通常設けられる。
【0004】
ここで、例えば特許文献1には、排液バッグ内面や排液の流通路を消泡剤で被覆して、排液とともに吸引した泡を化学作用で消滅させることにより、泡が水封部に入り込まないようにすることが提案されている。
【特許文献1】特開2002−369879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した従来の排液バッグにおいては、排液が排液バッグに直接流れ込むような構造となっているため、この排液に泡状の吸引物が混入されていて、術後排液等の吸引中に、この泡状の吸引物がバッグ内に吸引されると、排液槽の容量が一杯になる前に、この泡状の吸引物が排液槽に滴下せずに排液槽の上部を伝わって水封部に流れ込むことがあった。
【0006】
そして、水封部に連行された泡が水封部の陰圧側の液槽に混入して液面が泡状となることによって水封部の見かけ上の液位が上昇し、吸引口に設けられたオーバーフロー防止弁がこの泡によって閉塞して吸引口からの吸引を停止させることがあった。その一方で、この泡が吸引口から負圧源の吸引器に流入すると汚染の原因となることもある。
【0007】
さらに、上記の特許文献1記載の排液バッグでは、排液バッグ内面や排液の流通路を消泡剤で被覆する構成を採用しているが、被覆される表面積が限定されることから消泡剤が不足しがちになるとともに、消泡剤と泡が十分に接触せず、期待した消泡作用を発揮できないおそれがあった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、水封部で発生する泡を消泡することにより、オーバーフロー防止弁が吸引停止する誤作動を防止するとともに、吸引口に接続された器械に対する汚染の発生を防止する排液バッグを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る排液バッグでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
本発明は、排液を貯留するための排液槽と、前記排液槽の上部に形成され排液を流入させる流入口と、前記排液槽の上部に対して下部で連結された水封槽と、前記水封槽の上部に形成され負圧源に連通する吸引口とを含んで構成される排液バッグにおいて、前記水封槽内には、消泡剤を含有する消泡剤担体が配置されることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、排液槽の上部を伝って排液や泡状物が水封槽内の水封部に入り込む結果、水封部を新たな発生源として発生する泡は、水封槽内に配置された消泡剤担体に接触してその消泡剤の化学的作用によって直接的に消泡され、あるいはこの水封槽に保持された水封水に溶け込んだ消泡剤により消泡されて液化する。このように、泡は水封槽内において消泡されて液化するので、水封槽の水封部には泡が立たない。
【0011】
本発明に係る他の排液バッグは、上記において、前記消泡剤担体は、前記水封槽内を移動可能に配置されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、消泡剤担体は、水封槽内において移動可能に配置される。消泡剤を含有する消泡剤担体が、排液の流れや泡の移動に応じてその位置を変えることができるので、泡状物を効果的に消泡することができる。
【0013】
本発明に係る他の排液バッグは、上記において、前記消泡剤担体の少なくとも一部は、前記水封槽内に保持される水封水の液面から露出して配置されることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、消泡剤担体の少なくとも一部が、水封槽内に保持される水封水の液面から露出して配置される。このため、消泡剤担体は、液面に生じる泡状物に接触しやすくなって、泡状物を効果的に消泡することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排液に含まれる泡状の吸引物は、少なくとも水封槽内で消泡されて液状になる。このため、流入口から入り込んだ泡が排液バッグの上部を伝って水封槽に流入しても、泡は水封槽内の消泡剤担体で消泡されて液化するので、水封槽内の水封部における泡立ちを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に図面を用いて、本発明に係る排液バッグの実施の形態につき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る排液バッグ10の一例を示す正面図であり、図2は、排液バッグ10の縦断面図である。
【0017】
排液バッグ10は、患者の肺臓などの手術後、創部からの排液を吸引して貯留するために用いられる。この排液バッグ10は、図1に示すように、患者の体腔内で発生した排液を貯留するための排液槽12と、排液槽12の上部に形成され、外部から排液を流入させる流入口14と、排液槽12の上部に対して下部で連結された水封槽16と、水封槽16の上部に形成され、外部の負圧源(不図示)に連通する吸引口18とを含んで一体的に構成されている。
【0018】
この排液バッグ10は、図1に示すように、排液槽12に溜まった排液の液位や、水封槽16内の水封水の液位が外部から観測できるように透明な材質で形成されており、特に、負圧がかかっても変形して排液バッグ10内の容積が変化しないように透明な硬質プラスチック製が用いられる。このようなプラスチックとして、例えば、ポリカーボネート、ポリスルホン、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン樹脂を用いることができる。また、排液バッグの壁面には、各槽に溜まった液量を示すための目盛りが付されている。
【0019】
排液槽12は、図2に示すように、流入口14直下に設けられる第一排液槽24と、上下方向に延びた仕切り壁26により区画されて第一排液槽24に隣接して設けられる第二排液槽28とから構成されている。
仕切り壁26の上側は開口しており、第一排液槽24と第二排液槽28の上部は連通状態となっている。第二排液槽28の上部の第一排液槽24と隣接しない側には、横方向に向かって延びる連通孔30が設けられる。
連通孔30は、上下方向に延びた連結管32の上端と連通している。連結管32は、その下端で水封槽16の下部に連結していて、水封槽16の一部とされている。
【0020】
そして、水封槽16には、消泡剤を含有する消泡剤担体20が固定して設けられる。消泡剤担体20は、水封槽16と連結管32の下部に跨がるように形成されるU字状の水封部34の液中に完全に浸漬されず、少なくとも一部が水封部34に保持された水封水の液面よりも上に露出するように配置される。消泡剤担体20としては、例えばスポンジ材、不織布、紙、ろ過膜のようなフィルター、焼結体などの多孔質材料を用いることができる。
【0021】
上記構成の動作を説明する。
排液に伴って吸引された泡状物は、流入口14から入り込んで、第一排液槽24と第二排液槽28の上部23を伝って連通孔30の入口に向かって略水平方向に移動する。
そして泡状物は、連通孔30に入ってこれを通り抜け、連結管32に入って連結管32内を流下し、連結管32と水封槽16の下部に跨がるようにU字状に形成された水封部34の連結管32側の液面へ流入する。
【0022】
泡状物が水封部34に流入すると、泡状物に含まれていたタンパク質等の成分が水封水に溶け込み、負圧による吸引で空気などの気体が水封水を通過するときに水封部34が新たな発生源となって発生する泡は、水封槽16に配置された消泡剤担体20に接触することで、消泡剤担体20に含有される消泡剤の化学的作用により消泡されて液化する。なお、この液は、水封部34における水封液に溶け込んで水封部34内に留まる。
このように、消泡剤担体20を、水封部34の水封液中に完全に浸漬されず、少なくとも一部が水封槽16側の水封液の液面よりも上に露出するように配置して、水封液の液面に生じる泡状物と消泡剤担体20とが接触しやすくすることにより、この泡状物を効果的に消泡することができる。
【0023】
上記の実施形態において、消泡剤担体20は、水封部34に固定して設ける代わりに、水封部34の液内を自由に移動できるような態様で設けてもよい。この場合、消泡剤担体20は完全に水封部34内に没水状態とならないようにその一部が液面から上に露出するような態様で設けるようにすれば、水封水での泡の発生を抑えるだけでなく、発生した泡を高密度の消泡剤と接触させて効果的に消すことができて有利である。
【0024】
本発明で用いる消泡剤としては、排液の発泡を防止するために医療用機器表面等への被覆に通常用いられる消泡剤を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えばシリコーン系の消泡剤を用いるようにしてもよい。
【0025】
以上のように、本発明に係る排液バッグ10は、排液に含まれる泡状の吸引物は、少なくとも水封槽16内で消泡されて液状になる。
このため、流入口14から入り込んだ泡が排液バッグ10の上部23を伝って水封槽16に流入しても、泡は水封槽16内の消泡剤担体20で消泡されて液化するので、水封槽16内の水封部34における泡立ちを防止することができる。
【0026】
このように、本発明に係る排液バッグ10は、水封部に排液が流入する際に、発生する泡を消泡することができるとともに、水封部には消泡剤が溶け込むことになるので水封部での泡の発生をなくすことができる。このため、本発明に係る排液バッグ10では、吸引口に設けられたオーバーフロー防止弁が水封槽内を上昇する泡によって誤作動するおそれがなく、泡が負圧源の吸引器に流入しないので吸引器を汚染することがない。
【0027】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせあるいは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態に係る排液バッグ10の一例を示す正面図である。
【図2】排液バッグ10の縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10…排液バッグ
12…排液槽
14…流入口
16…水封槽
18…吸引口
20…消泡剤担体
34…水封部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排液を貯留するための排液槽と、
前記排液槽の上部に形成され排液を流入させる流入口と、
前記排液槽の上部に対して下部で連結された水封槽と、
前記水封槽の上部に形成され負圧源に連通する吸引口とを含んで構成される排液バッグにおいて、
前記水封槽内には、消泡剤を含有する消泡剤担体が配置されること
を特徴とする排液バッグ。
【請求項2】
前記消泡剤担体は、前記水封槽内を移動可能に配置されること
を特徴とする請求項1に記載の排液バッグ。
【請求項3】
前記消泡剤担体の少なくとも一部は、前記水封槽内に保持される水封水の液面から露出して配置されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の排液バッグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284139(P2008−284139A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131568(P2007−131568)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(000200677)泉工医科工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】