説明

排煙脱硫装置の触媒構造体、触媒ユニットおよび触媒構造体の製造方法

【課題】触媒構造体の被支持部の強度を向上させることができて、耐久性を向上させることができる排煙脱硫装置の触媒構造体、触媒ユニットおよび触媒構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に用いられるハニカム触媒構造体10であって、活性炭系の脱硫触媒シートが接合されて積層されて多数の流路空間12を備えた一体的なブロック状に形成され、支持部31Ca、31Cbに支持されて設置される触媒構造体において、前記積層された脱硫触媒シートが、少なくとも両側端部の支持部31Caによって支持される被支持部の上方領域で接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば石油・石炭等の燃焼施設から排出される排ガス中に含まれる硫黄酸化物を、接触硫酸化反応によって硫酸として回収除去する排煙脱硫装置に用いられる触媒構造体、触媒ユニットおよび触媒構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油・石炭等の燃焼施設から排出される排ガス中に含まれる亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を触媒および酸素の共存下で酸化し、最終的に硫酸として回収する排煙脱硫方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような排煙脱硫方法を適用した排煙脱硫装置に用いられる触媒として、例えば、活性炭にフッ素樹脂を混合、担持した活性炭触媒が高い脱硫性能を有することが知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。これは、排ガス、例えば石炭燃焼排ガス等では長時間にわたって安定な性能を示す。また、その他にも活性炭として活性炭素繊維を用いた触媒が知られている。
【0003】
このような触媒を排煙脱硫装置に適用する構成として、触媒によってハニカム触媒構造体を形成し、排ガスが導入される反応塔の内部に配設することが行われている(例えば特許文献4〜6参照)。
また、特許文献6には、触媒と繊維シート補強材とを接合一体化して成る脱硫触媒シートを用い、平板状の脱硫触媒シートと波状に加工された脱硫触媒シートを交互に積層して、若しくは両シートを接着した触媒流路シートを積層したハニカム触媒構造体が開示されている。
脱硫触媒シートは、例えば、活性炭粉末、弗素樹脂粒子および液状潤滑剤から得られた混練物(脱硫触媒)を、弗素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンまたはポリ塩化ビニル等の合成高分子材料による不織布等による繊維シート補強材の上に塗布または塗布後圧延することによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−230129号公報
【特許文献2】特開平10−314586号公報
【特許文献3】特開平11−290688号公報
【特許文献4】特開2000−225341号公報
【特許文献5】特開2002−35593号公報
【特許文献6】特開2004−181399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、活性炭を基材とする触媒は大きな強度を得難く、このため、前記のような従来構成の脱硫触媒シート、あるいは活性炭素繊維をベースとした触媒基材と強度補強材を貼り合わせて接合させた脱硫触媒シートを用いて形成されたハニカム触媒構造体では、長期の使用における耐久性の向上が懸案となっている。さらに、活性炭、活性炭素繊維などの触媒機能を有する素材をベースとした触媒基材のみのシートにおいても、耐久性の向上が問題となっている。特に、繊維シート補強材の上に塗布または塗布後圧延したものや、貼り合わせて接合させた脱硫触媒シートを加工したハニカム触媒構造体の排ガス導入側では、脱硫触媒シートの端面に触媒と繊維シート補強材の接合部境界が露出しているため、ここに排ガス中に含まれる塵灰が衝突して、触媒の破損や剥離を引き起こし、耐久性の低下の大きな要因となる。触媒の破損や剥離を防ぐために強度向上を図ると触媒活性が低下し、また生成された硫酸の触媒からの離脱・液切れが悪くなり(硫酸副生型触媒では生成された硫酸を触媒から速やかに離脱させることが重要である)、脱硫性能が低下する。
【0006】
さらに、ハニカム触媒構造体は、排煙脱硫装置の脱硫塔の内部に下面で支持部に支持されて配設されるが、支持部は排ガスの流通を阻害することのないように極力小さく少数設けられる。このため、ハニカム触媒構造体の狭い被支持部に当該ハニカム触媒構造体の全重量が作用することとなり、この被支持部が潰れて破損し易く、これも耐久性の低下を招く。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、触媒構造体の被支持部の強度を向上させることができて、耐久性を向上させることができる排煙脱硫装置の触媒構造体、触媒ユニットおよび触媒構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するために、請求項1に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体は、排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に用いられる触媒構造体であって、活性炭系の脱硫触媒シートが接合されて積層されて多数の流路空間を備えた一体的なブロック状に形成され、支持部に支持されて設置される触媒構造体において、
前記積層された脱硫触媒シートが、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体は、排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に用いられる触媒構造体であって、活性炭系の脱硫触媒シートが接合されて積層されて多数の流路空間を備えた一体的なブロック状に形成され、支持部に支持されて設置される触媒構造体において、
前記流路空間の開口する少なくとも一方の端面および該端面から所定深さまで、前記脱硫触媒シートの表面および/または内部が樹脂によって固化されているとともに、
前記積層された脱硫触媒シートが、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体は、請求項2に記載の発明において、前記脱硫触媒シートを固化する樹脂が、撥水性を有する樹脂であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の排煙脱硫装置の触媒ユニットは、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の触媒構造体が、触媒ケースに収容され、前記触媒構造体の外面と前記触媒ケースの内面との間に、隙間を埋める充填シート材が設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の排煙脱硫装置の触媒ユニットは、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の触媒構造体が、触媒ケースに収容され、この触媒ケースの下面の端部には、下側に配置される触媒ケースに収容された触媒構造体の上端部に当接または食い込む凸条が形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法は、排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に、支持部に支持されて設置される触媒構造体を製造する方法であって、活性炭系の脱硫触媒シートを接合して積層して多数の流路空間を備えた一体的なブロック状の触媒構造体を製造する方法において、
前記積層する脱硫触媒シートを、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合することを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法は、請求項6に記載の発明において、積層する脱硫触媒シートが波状触媒シートと平板状触媒シートとからなり、被支持部の上方領域の接合は、波状脱硫触媒シートの被支持部の上方領域の山頂部に接着剤を塗布して、波状脱硫触媒シートと平板状脱硫触媒シートとを接合することを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法は、請求項6に記載の発明において、積層する脱硫触媒シートが波状脱硫触媒シートと平板状脱硫触媒シートとを接合させて成る触媒流路シートからなり、被支持部の上方領域の接合は、触媒流路シートの波状脱硫触媒シートの被支持部の上方領域の山頂部に接着剤を塗布して、この触媒流路シートに他の触媒流路シートの平板状脱硫触媒シートを重ねて、接合することを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法は、排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に、支持部に支持されて設置される触媒構造体を製造する方法であって、活性炭系の脱硫触媒シートを接合して積層して多数の流路空間を備えた一体的なブロック状の触媒構造体を製造する方法において、
前記積層する脱硫触媒シートを、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合し、一体的なブロック状に形成し、
次いで、前記流路空間の開口する端部を液状の樹脂を入れた浸漬槽に浸漬した後、上側から前記流路空間にブローを行うかまたは下側から前記流路空間のガス吸引を行い開口部の閉塞を防ぎつつ、前記脱硫触媒シートの端面および該端面から所定深さまで、表面および/または内部を樹脂によって固化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体ならびに請求項6〜請求項8に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法によれば、支持部によって支持される被支持部の上方領域で脱硫触媒シートが接合されているので、触媒構造体の被支持部の強度が向上する。これにより、応力集中によっても破損し難くなり、耐久性が向上する。支持部によって支持される被支持部の上方領域は、支持部によって塞がれるために触媒作用には寄与しない領域であるので、接着によっても触媒面積が減少することはなく、脱硫性能の低下を招かない。したがって、接着を強固にできるので、接着面積が小さくても高強度ブロックにできる。また、接合領域が狭く限定されているので、全域で接着する場合に比較して作業は容易であり、低コストで製造できる。触媒の被支持部は、支持部と接触し、触媒重量を支持・固定する部分であって、触媒の下面であっても、切り込みのある脱硫触媒シートでは切り込み部分であってもよい。
【0018】
請求項2に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体および請求項9に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法によればそれぞれ、請求項1および請求項6の利点のほかに、さらに流路空間の開口する端部(端面および該端面から所定深さまで)の脱硫触媒シートの表面および/または内部(内側)が、樹脂による固化によって補強されているので、流路空間の開口する端部の剛性が向上し、耐久性が向上すると共に、取り扱いも容易となる。脱硫触媒シートの端部が樹脂によって覆われて露出しないので、排ガスに含まれる塵灰や、スプレーされた工業用水や循環液の液滴が衝突しても脱硫触媒が破損し難く、耐久性が向上する。また、脱硫触媒シートの表面および/または内部を樹脂によって固化するという簡単な構成なため、低コストで製造できる。なお、触媒の表面だけでなく、触媒内部も固化することが発現強度、強度劣化に対して好ましい。触媒表面だけの固化では、樹脂の強度劣化が一部でも発生すると触媒成分が露出し、急激な強度低下を起こす。
【0019】
請求項3に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体によれば、撥水性を有する樹脂を用いているので、液膜の形成を低減でき、脱硫性能の低下を防止できる。
【0020】
請求項4に記載の排煙脱硫装置の触媒ユニットによれば、充填シート材が触媒構造体の外面と触媒ケースの内面との間に隙間を埋めて設けられているので、触媒構造体が触媒ケース内で安定し、移動・振動による触媒構造体の変形や破損がなく、耐久性が向上する。また、触媒構造体の外面と触媒ケースの内面との間を通って未処理の排ガスが漏洩することを防ぎ、脱硫性能を向上できる。
【0021】
請求項5に記載の排煙脱硫装置の触媒ユニットによれば、触媒ユニットを上下に重ねた際に、上側の触媒ケースの凸条の下面が、下側の触媒ケースに収容した触媒構造体の上端部の端部に当接または食い込み、密着するので、シール状態となる。このため、触媒ユニットを重ねた際に、触媒ユニットどうしの境目から排ガスが外部に漏洩するのを防止できるとともに、触媒ケースの内面と触媒構造体との接触部における排ガスの漏洩を防止でき、脱硫性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係るハニカム触媒構造体を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
【図2】脱硫触媒シートの部分拡大断面図である。
【図3】触媒流路シートの部分拡大断面図である。
【図4】ハニカム触媒構造体のハニカム構造を示す図である。
【図5】図4とは異なる他のハニカム構造を示す図である。
【図6】ハニカム触媒構造体に樹脂補強部を形成する工程を説明する図である。
【図7】触媒ユニットを示す図であって、(a)は触媒ケースの斜視図、(b)は分解組立図、(c)は斜視図である。
【図8】触媒ユニットの縦断面図である。
【図9】触媒ユニットを重ね合わせた状態の縦断面図である。
【図10】触媒ユニットの脱硫塔内への設置状態を示す図であって、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るハニカム触媒構造体を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は(a)のA矢視図である。
【0024】
ハニカム触媒構造体(触媒構造体)10は、脱硫触媒シート20(20A,20B)をハニカム状に積層して略直方体状に形成されている。このハニカム触媒構造体10は、図7に示すように、触媒ケース31に複数(図では3個)収容されて、触媒ユニット30を形成する。そして、触媒ユニット30は、図10に示すように、排煙脱硫装置の脱硫塔40の内部に配設される。触媒ユニット30の構成および脱硫塔40への設置構造については後に詳述する。
【0025】
ハニカム触媒構造体10を構成する脱硫触媒シート20は、図2に示すように、活性炭系の脱硫触媒21と、耐酸性を有するポリプロピレン等の合成樹脂製の不織布からなる繊維シート補強材22とを接合一体化して形成されている。
【0026】
このような脱硫触媒シート20によって図3に示すような触媒流路シート11が形成され、ハニカム触媒構造体10はこの触媒流路シート11を積層して接合することで構築されている。
すなわち、触媒流路シート11は、表裏に三角形状に突出する三角波状いわゆるコルゲート形状に加工された波状脱硫触媒シート20B(20)と、平板状の平板状脱硫触媒シート20A(20)とを、繊維シート補強材22の側を対向させて、繊維シート補強材22の接触部同士を溶着して一体化することにより形成されている。このような触媒流路シート11を積層することで、図4に示すように、波状脱硫触媒シート20B(20)と平板状脱硫触媒シート20A(20)とが交互に配置されて、脱硫触媒シート20に囲まれた断面形状が略三角形で一方方向(図1(a)、(c)における上下方向)に延びる流路空間12が前後左右に多数並列に形成されたいわゆるハニカムを構成している。なお、脱硫触媒シート20を積層してハニカム構造とする構成はこれに限るものではなく、例えば、コルゲート形状ではなく、四角や六角の形状でも良く、また、波状脱硫触媒シート20Bと平板脱硫触媒シート20Aの接合は樹脂等の接着剤等による接着でも良い。また、図5に示すように、波状脱硫触媒シート20B(20)のみを積層して構成しても良い。さらには、波状脱硫触媒シート20B(20)と、平板状の平板状脱硫触媒シート20A(20)とを、一体化せずに用いるようにしてもよい。
【0027】
ハニカム触媒構造体10の流路空間12は、図1(a)、(c)における上面側と下面側に開口している。流路空間12に排ガスを通すことで、排ガス中に含まれる亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を脱硫触媒シート20の脱硫触媒21が接触硫酸化反応によって硫酸として除去する。この例では、排ガスは、図1(a)、(c)における上側から供給されて下側に向けて流される。なお、排ガスが下側から上側に向けて流れる場合にも、本発明は適用できる。
【0028】
ハニカム触媒構造体10は、図7に示すように、触媒ケース31に収容された際に、端支持部31Cと支持桟31Dによって支持されている。
すなわち、触媒ケース31は、図7(a)および図8に示すように、前後左右の側板31A,31Bで所定深さの枠状に形成され、各側板31A,31Bの下端部には内側に張り出した端支持部31C(31Ca、31Cb)を備えると共に、対向する側板31A,31Bの下端の中央部に架設された支持桟31D(縦桟31Da,横桟31Db)を備えている。そして、端支持部(ケース長手方向端支持部)31Caでハニカム触媒構造体10の下面の端部を支持し、支持桟(縦桟)31Daで下面の中央部を支持するようになっている(図1(c)参照)。触媒流路シート11は、これらの端支持部31Caおよび支持桟31Daと対応する領域で接合されている。つまり、図1(b)および(c)中にハッチングを付して示すように、端支持部(支持部)31Caで支持される面のうち、ハニカム触媒構造体10の幅方向(短辺方向)に沿う面の上方の直方体状の領域Sと、支持桟(支持部)31Daで支持される面の上方の直方体状の領域Cで接合されている。接合部は、図1(c)の領域C,Sにおいて、支持桟31Da、端支持部31Caに接している幅長さ以内、あるいは左右にそれぞれ3ヶ所以内(3ヶ所を超えると強度上効果なし。)であり、図4に示す触媒流路シート11相互の接触部(図5では波状脱硫触媒シート20B相互の接触部)となる。
【0029】
なお、図7に示すように、端支持部(ケース短手方向端支持部)31Cbを設けて、ケースの強度、ハニカム触媒構造体の支持・固定をより確実なものにすることもできる。
また、縦桟31Da、横桟31Dbは、図7に示すように各1本ではなく、2本以上設けても良い。この桟の形状は、丸棒、角棒等でも良く、形状を制約されないが、触媒構造体と接触する部分は5〜30mm程度が好ましい。5mm以下では応力が集中し、30mm以上ではガス流れを阻害する部分が大きくなって好ましくない。
図7においては、触媒ケース31の長手方向両端に位置するハニカム触媒構造体10は、端支持部31Cbによって一方の長辺に沿った部位も支持され、また中央に位置するハニカム触媒構造体10は短辺の中央を横切って位置する横桟31Dbによっても支持されるが、本構成例ではこれらの端支持部31Cb、横桟31Dbによる触媒流路シートの被支持部は接合されておらず、触媒ケース31への収容位置に拘わらず共通となる被支持部のみで接合されている。
【0030】
触媒流路シート11の接合は、エポキシ系樹脂等の接着剤等による接着、または溶着の何れでも良いが、接着の場合には撥水性と耐酸性を有する樹脂接着剤を用いることが好ましく、そうすることで接合部に硫酸液が溜まることによる脱硫性能の低下を防ぐことができる。図4中のXで示す部位(すなわち、接着領域C(S))は、下側の触媒流路シート11の波状脱硫触媒シート20Bの頂部と、上側の触媒流路シート11の平板状脱硫触媒シート20Aとをエポキシ系樹脂等の接着剤で接着した例である。触媒流路シート11の波状脱硫触媒シート20Bの露出している側(平板状脱硫触媒シート20Aと反対側)の頂部に、ローラー等により接着剤を塗布し、この波状脱硫触媒シート20Bに、触媒流路シート11の平板状脱硫触媒シート20Aを重ねて、接合することができる。
【0031】
このように、触媒流路シート11を触媒ケース31の端支持部(支持部)31Caと縦桟(支持部)31Daと対応する領域で接着して積層することにより、応力が集中する被支持部の強度が高まり、潰れ難くなり、耐久性が向上する。全域で接着すれば強度はより高まるが、そうすると接着面積が広くなって接着作業に手間が掛かるとともに、触媒が不活性となる接着面積の増加によって脱硫性能が低下する。この構成ではそのような不具合を生ずることなく、必要な部位のみの強度を向上できる。また、端支持部31Caと対応する接着領域Sは、ハニカム触媒構造体10の両側部となるので、全体の強度も向上し、破損し難くなり、また取り扱いが容易となる。なお、接着領域S,Cは、下側に端支持部31Caまたは支持桟31Daが位置するために、流路空間12に排ガスが流れない領域であるので、接着剤によって脱硫触媒シート20の表面が覆われても本来の触媒反応面積を減少させることはない。
【0032】
なお、本実施の形態では、縦桟31Daと対応する接着領域Cを設けたが、これを省略して、ハニカム触媒構造体10の両側端部となる端支持部31Caと対応する接着領域Sのみを設けるようにしてもよい。
【0033】
また、ハニカム触媒構造体10には、流路空間12が開口する上下の両端部にそれぞれ、樹脂補強部13が設けられている。この樹脂補強部13は、当該ハニカム触媒構造体10を構成する脱硫触媒シート20の表面および/または内部を、樹脂によって開口端面から所定の深さまで固化されて形成されている。
脱硫触媒シート20の表面および/または内部(内側)を固化する樹脂としては、撥水性の樹脂(例えば、フッ素系樹脂,ポリスチレン樹脂,ポリプロピレン樹脂,エポキシ樹脂等の樹脂またはこれらを混合したもの)を用いるか、または一般的な樹脂を用いて固化させ、その表面にさらに撥水性のコーティングを施したものが好ましい。特に高い撥水性を有するフッ素系樹脂が好ましいが、価格面等を考慮すると、その他の樹脂で固化させて、樹脂表面のみをフッ素系樹脂加工するのが最適である。このようにすると、端部を補強するだけでなく、端部に形成される液膜を低減できる。これによって脱硫性能の低下を防止できるとともに、ガスの通過圧損を低減できる。
【0034】
樹脂補強部13の形成(脱硫触媒シート20の表面への樹脂皮膜の形成)は、図6(a)に示すように、液状の樹脂41を入れた浸漬槽40に、ハニカム触媒構造体10の流路空間12が開口する一方の端部を所定量浸漬した後、引き上げ、その後上側から流路空間12にエアブローを行って、樹脂液膜による流路空間12の開口部の閉塞を防ぎつつ、固化させることにより、行うことができる。その後、ハニカム触媒構造体10を反転させて、図6(b)に示すように、他方の端部にも同様にして樹脂補強部13を形成すれば良い。なお、エアブローの代わりに、下側から流路空間12をガス吸引して、樹脂液膜による流路空間12の開口部の閉塞を防止するようにしてもよい。
【0035】
ここで、浸漬槽をオーバーフロー・タイプの槽とし、その槽の高さを樹脂補強したい端面からの深さ(U,V)とし、触媒を浸漬したときの液状の樹脂がオーバーフローする形で樹脂補強部の形成を行えば、所定の長さを安定的にかつ確実に補強できる。
オーバーフローした液状の樹脂を集めて、浸漬槽に戻せば連続的に補強作業ができる。
【0036】
なお、その他の方法として、積層前の単体の脱硫触媒シート20または触媒流路シート11の端部に予め所定幅で樹脂皮膜を形成しておき、それを積層してハニカム触媒構造体10を構築しても良い。
【0037】
樹脂補強部13の形成範囲は、あまり大きくすると触媒面積が減少して脱硫性能が低下するため、必要最小限とする。例えば、厚さ0.6mmの脱硫触媒シート20を用いて形成した厚さ5.2mmの触媒流路シート11を43段積層し、図1(a)中に示すように、長さLが360mm、幅Wが223mm、高さHが430mmの大きさに形成したハニカム触媒構造体10で、ガスが下向流である場合、排ガスの流入側である上側の端面側の深さUは、3〜40mm程度が好ましく、さらには5〜25mm程度がより好ましく、排出側かつ被支持部である下側の端面側の深さVは、2〜30mm程度が好ましく、さらには3〜20mm程度がより好ましい。ガスの流入側の端面側は、入口部のガス渦の発生により入口端部から流路内に10〜15mm深さに磨耗、変形がおきていることから、触媒の端面だけでなく、深さ方向にも固化による強度補強が必要であることがわかった。そのため、上記のようなU,Vの長さが必要である。
【0038】
このように流路空間12が開口する端部に樹脂補強部13が形成されたハニカム触媒構造体10は、端部の剛性が向上し、破損し難くなって、輸送時や脱硫塔への装着時の取り扱いが容易となる。このため、例えば、開口比が0.5以上の大きなものも形成可能となる。また、脱硫触媒シート20の端部の表面および/または内部が樹脂に覆われて、脱硫触媒21と繊維シート補強材22との接合境界が露出しないため、排ガスに含まれる塵灰が衝突しても、脱硫触媒21の破損や繊維シート補強材22からの剥離を防ぐことができ、良好な耐久性が得られる。特に触媒内部を固化することが好適である。
【0039】
なお、本実施の形態では、流路空間12が開口する両端部にそれぞれ、樹脂補強部13を形成するようにしたが、入口側または出口側の一方側に樹脂補強部13を形成するようにしてもよい。
【0040】
次に、このように構成されたハニカム触媒構造体10を触媒ケース31に収容して成る触媒ユニット30について説明する。
前述のように、ハニカム触媒構造体10は、図7(a)に示す触媒ケース31に、図7(b)に示すように収容されて触媒ユニット30を形成する。
ハニカム触媒構造体10は、触媒ケース31に3個並列に収容され、中央のハニカム触媒構造体10と両端のハニカム触媒構造体10の間には各一枚、両端のハニカム触媒構造体10と触媒ケース31の側板31Bの間には適宜の枚数、それぞれ充填シート材、充填圧力調整材としての仕切り板32が挟み込まれている。また、長手方向の側板31Aとハニカム触媒構造体10との間には、充填シート材、充填圧力調整材としてのシール板33が挟み込まれている。
【0041】
仕切り板32とシール板33は、ハニカム触媒構造体10と触媒ケース31の内面との隙間を埋めてハニカム触媒構造体10の収容状態を安定させ、これにより振動や移動によるハニカム触媒構造体10の変形や破損を防ぐ。また、排ガスの漏洩を防ぐ。例えば、触媒ケース31を射出成形で樹脂によって一体成形する場合には、上部が広がる方向に抜き勾配を付す必要があり、このため側板31A,31Bの内面とハニカム触媒構造体10の側面との間に楔状の隙間が必然的に生ずるが、この隙間を仕切り板32やシール板33で塞ぐことで、ハニカム触媒構造体10の可動空間を無くすと共に、ハニカム触媒構造体10の充填圧力を調整し、構造体間、構造体と仕切り板32間、構造体と側板31A,31B間での排ガスの漏洩を防ぐことができる。なお、長手方向のシール板33は、図8中のY部に示すように、その上端を所定幅で屈曲させたL字状とすれば、より一層のシール作用が得られる。
【0042】
触媒構造体10を触媒ケース31に充填する場合、シール板33は、構造体10を充填した後に挿入することができるが、構造体10を充填する時に同時に挿入することが好ましい。構造体10の充填圧力を調整する場合、構造体10と触媒ケース31内面との間にシール板33を挿入すると、構造体10を破損することがある。したがって、適度なシール板33を同時に挿入しておき、構造体10と触媒ケース31内面との間にさらに充填シート材を挿入することで、構造体10を破損せずに適する圧力で構造体10をケース31に充填できる。
【0043】
このように触媒ケース31にハニカム触媒構造体10を収容して成る触媒ユニット30は、図10に示すように、排煙脱硫装置の脱硫塔50の内部に、水平方向にはその内部全域を隈なく埋めるように前後左右に複数、且つ上下方向に複数段重ねて配設される。
触媒ケース31には、図8に示すように、端支持部31Ca、31Cbの下面に、下方に突出する凸条31Eが設けられている。凸条31Eは、触媒ケース31の外周に沿って全周を廻るように設けられている。凸条31Eは、触媒ユニット30(触媒ケース31)を重ねた際に、図9に示すように、上側の触媒ケース31の凸条31Eが下側の触媒ケース31の上部開口の外周部(側板31A,31Bの直ぐ内側)に位置し、そして凸条31Eの下面が触媒ケース31内のハニカム触媒構造体10の上端部の端部に干渉し、上端部に若干食い込むように設定されている。このように凸条31Eを備えることにより、凸条31Eが下側のハニカム触媒構造体10の上端部の端部に食い込んでシール状態を作る。したがって、触媒ユニットを重ねた際に、触媒ケース31どうしの上下の境目から排ガスが外部に漏洩するのを防止できるとともに、触媒ケース31の内面と触媒構造体10との間から排ガスの漏洩を防止でき、脱硫性能を向上できる。
【0044】
なお、本実施の形態では、触媒ケース31の凸条31Eの下面が下側の触媒ユニット30のハニカム触媒構造体10の上端部の端部に若干食い込むようにしたが、当接する状態にしてもよい。また、凸条31Eは全周に隈なく設ける必要は必ずしもなく、一部を欠落させたり、両側部だけにしたりするなど適宜変更可能である。
【0045】
さらに、本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で適宜変更可能なものである。例えば、前述の実施の形態では、接合領域C,Sおよび樹脂補強部13を設けたが、いずれか一方を設けるようにしてもよい。
また、触媒流路シートを作らず、平板状脱硫触媒シートと波状脱硫シートとを積層し、接着領域S,Cおよび/または樹脂補強部13を設けて相互に接合し、ブロック化するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 ハニカム触媒構造体(触媒構造体)
11 触媒流路シート(脱硫触媒シート)
12 流路空間
13 樹脂補強部
20(20A,20B) 脱硫触媒シート
30 触媒ユニット
31 触媒ケース
31Ca 端支持部(支持部)
31Da 支持桟(支持部)
31E 凸条
32 仕切り板(充填シート材)
33 シール板(充填シート材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に用いられる触媒構造体であって、活性炭系の脱硫触媒シートが接合されて積層されて多数の流路空間を備えた一体的なブロック状に形成され、支持部に支持されて設置される触媒構造体において、
前記積層された脱硫触媒シートが、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合されていることを特徴とする排煙脱硫装置の触媒構造体。
【請求項2】
排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に用いられる触媒構造体であって、活性炭系の脱硫触媒シートが接合されて積層されて多数の流路空間を備えた一体的なブロック状に形成され、支持部に支持されて設置される触媒構造体において、
前記流路空間の開口する少なくとも一方の端面および該端面から所定深さまで、前記脱硫触媒シートの表面および/または内部が樹脂によって固化されているとともに、
前記積層された脱硫触媒シートが、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合されていることを特徴とする排煙脱硫装置の触媒構造体。
【請求項3】
前記脱硫触媒シートを固化する樹脂が、撥水性を有する樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の触媒構造体が、触媒ケースに収容され、前記触媒構造体の外面と前記触媒ケースの内面との間に、隙間を埋める充填シート材が設けられていることを特徴とする排煙脱硫装置の触媒ユニット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の触媒構造体が、触媒ケースに収容され、この触媒ケースの下面の端部には、下側に配置される触媒ケースに収容された触媒構造体の上端部に当接または食い込む凸条が形成されていることを特徴とする排煙脱硫装置の触媒ユニット。
【請求項6】
排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に、支持部に支持されて設置される触媒構造体を製造する方法であって、活性炭系の脱硫触媒シートを接合して積層して多数の流路空間を備えた一体的なブロック状の触媒構造体を製造する方法において、
前記積層する脱硫触媒シートを、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合することを特徴とする排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法。
【請求項7】
積層する脱硫触媒シートが波状触媒シートと平板状触媒シートとからなり、被支持部の上方領域の接合は、波状脱硫触媒シートの被支持部の上方領域の山頂部に接着剤を塗布して、波状脱硫触媒シートと平板状脱硫触媒シートとを接合することを特徴とする請求項6に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法。
【請求項8】
積層する脱硫触媒シートが波状脱硫触媒シートと平板状脱硫触媒シートとを接合させて成る触媒流路シートからなり、被支持部の上方領域の接合は、触媒流路シートの波状脱硫触媒シートの被支持部の上方領域の山頂部に接着剤を塗布して、この触媒流路シートに他の触媒流路シートの平板状脱硫触媒シートを重ねて、接合することを特徴とする請求項6に記載の排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法。
【請求項9】
排ガス中の硫黄酸化物を硫酸として回収する排煙脱硫装置に、支持部に支持されて設置される触媒構造体を製造する方法であって、活性炭系の脱硫触媒シートを接合して積層して多数の流路空間を備えた一体的なブロック状の触媒構造体を製造する方法において、
前記積層する脱硫触媒シートを、少なくとも両側端部の前記支持部によって支持される被支持部の上方領域で接合し、一体的なブロック状に形成し、
次いで、前記流路空間の開口する端部を液状の樹脂を入れた浸漬槽に浸漬した後、上側から前記流路空間にブローを行うかまたは下側から前記流路空間のガス吸引を行い開口部の閉塞を防ぎつつ、前記脱硫触媒シートの端面および該端面から所定深さまで、表面および/または内部を樹脂によって固化することを特徴とする排煙脱硫装置の触媒構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−20122(P2011−20122A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245048(P2010−245048)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【分割の表示】特願2005−193541(P2005−193541)の分割
【原出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【Fターム(参考)】