説明

掘削工具

【課題】より低コストで円滑な掘削を行うことが可能な掘削工具を提供する。
【解決手段】円管状のケーシングパイプ2の先端部に接合される円筒状のケーシングトップ1と、ケーシングトップ1先端部に同軸かつケーシングトップ1の軸線O回りに回転自在に取り付けられ、ケーシングパイプ2内に挿通されたインナービット5に対して軸線O方向先端側および軸線O回りに係合可能とされる円環状のリングビット3とを備え、リングビット3の外周面には、軸線O回りに周回する突条部8が軸線O方向に複数条間隔をあけて形成されるとともに、ケーシングトップ1の内周面には、これらの突条部8を収容する環状溝9が軸線O方向に複数、複数条の突条部8と等しい間隔をあけて形成されることにより、リングビット3がケーシングトップ1に対して軸線O回りに回転自在、かつ軸線O方向先端側と後端側とに係合させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングパイプの先端部に接合されるケーシングトップと、このケーシングトップの先端部に同軸かつ回転自在に取り付けられるとともに、ケーシングパイプ内に挿通されたインナービットに対して軸線方向先端側および軸線回りに係合可能とされる円環状のリングビットとを備えた掘削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地表面から岩盤層に到達するまでの軟弱な崩壊層地盤では、掘削によって形成された孔壁の崩壊を防止するために掘削と同時にケーシングパイプを連行する、いわゆる二重管式の掘削ビットシステムが用いられている。また、こうしてケーシングパイプが岩盤層に達した後は、ケーシングパイプに挿通されていたインナービットを引き抜き、これに代えてダウンザホールビット(シングル削孔用ビット)をケーシングパイプ内に通過させ、さらにリングビットの内周部から突出させて岩盤層の掘削を行ってゆく。
【0003】
このようなケーシングパイプを連行するビットシステムとして、例えば特許文献1には、回転および打撃力が与えられるインナービットと、このインナービットと係合して回転可能とされるリングビットと、このリングビットに対して回動自在とされてケーシングパイプの下端に固定されるカラーとを備えて、インナービットとリングビットとが係脱自在とされたものが提案されている。
【0004】
また、本発明の発明者等も、特許文献2などにおいて、ケーシングパイプの先端にケーシングトップを介してリングビットがケーシングパイプの軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側に抜け止めされて取り付けられるとともに、ケーシングパイプ内に挿入されて上記軸線回りに回転される伝達部材の先端に、リングビットの内周に挿入されて該リングビットと軸線方向先端側および該軸線回りに係合可能とされるインナービットが取り付けられた掘削工具を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−296989号公報
【特許文献2】特開2008−190287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、このうち特許文献2に記載の掘削工具においては、伝達部材からインナービットに伝達された軸線方向先端側への打撃力および推力が、インナービット後端側の軸線方向先端側に向けて一段縮径するテーパ部から、ケーシングパイプの内周側に張り出したケーシングトップのテーパ部を介してケーシングパイプに伝達されるとともに、インナービット先端側の同じく軸線方向先端側に向けて一段縮径するテーパ部からリングビットのテーパ部にも伝達されて、これらによりインナービットおよびリングビットによって削孔を形成しつつ、ケーシングパイプが連行されて該削孔内に挿入されるように構成されている。
【0007】
従って、リングビットの内径は、軸線方向先端側に向けて縮径するケーシングトップのテーパ部とリングビットのテーパ部との2段のテーパ部を経た大きさに制限されてしまうため、このリングビットの内周部から突出して最終的に岩盤層に削孔を形成するダウンザホールビットの外径もこのリングビット内径によって制限されざるを得ない。このため、岩盤層に必要な大きさの削孔を形成するには、リングビットおよびケーシングパイプを径の大きなものにしなければらならず、コスト高となることが避けられなかった。その一方で、こうしてケーシングパイプ径が大きくなるのを防ぐために、例えば上記各テーパ部の径方向の幅を小さくしたりすると、テーパ部の単位面積当たりの打撃力や推力による負荷が増大してテーパ部に異常摩耗が生じるおそれがある。
【0008】
また、特許文献1に記載の掘削工具でも、その上記カラーは、半割円筒状に形成されたカラー構成部材がリングビットの胴部を挟み込むようにして円筒状に構成された上で、ケーシングパイプの内周部に収容されて溶接されることにより、リングビットをケーシングパイプに対して回転自在に支持しており、このリングビットの内径を大きくしようとすると、カラーの径やケーシングパイプの径も大きくなってしまい、やはりコスト高を招く結果となる。
【0009】
しかも、この特許文献1に記載の掘削工具では、リングビットはその先後端のフランジ部がカラーの先後端面に当接することによりケーシングパイプに対して軸線方向に係合させられており、このうちリングビット後端のフランジ部はカラー後端面との間でインナービットによる打撃力を受けることになるので損傷を生じ易く、万一この後端側のフランジ部が円環状に割損したりすると、リングビットがケーシングパイプの先端側に抜け落ちて掘削自体が不可能となってしまう。一方、リングビット先端のフランジ部とカラーとの間隙部は削孔中に露呈しているので土砂等が入り込みやすく、リングビットとケーシングパイプとの軸線方向の係合に支障を来したりするおそれがある。
【0010】
本発明は、このような背景の下になされたもので、最終的な削孔径に応じて設定されたリングビットの内径に対してケーシングパイプの径が大きくなるのを避けることができ、しかもリングビットをケーシングに対して確実かつ安定的に軸線回りに回転自在かつ軸線方向に係合可能として、より低コストで円滑な掘削を行うことが可能な掘削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、円管状のケーシングパイプの先端部に接合される円筒状のケーシングトップと、このケーシングトップの先端部に同軸かつ該ケーシングトップの軸線回りに回転自在に取り付けられ、上記ケーシングパイプ内に挿通されたインナービットに対して上記軸線方向先端側および該軸線回りに係合可能とされる円環状のリングビットとを備え、このリングビットの外周面には、上記軸線回りに周回する突条部が該軸線方向に複数条間隔をあけて形成されるとともに、上記ケーシングトップの内周面には、これらの突条部を収容する環状溝が上記軸線方向に複数、複数条の上記突条部と等しい間隔をあけて形成されることにより、上記リングビットが上記ケーシングトップに対して上記軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側と後端側とに係合させられていることを特徴とする。
【0012】
このように構成された掘削工具では、まずケーシングパイプ先端部に接合されるケーシングトップに対してリングビットが、ケーシングトップ内周面に形成された複数の環状溝にリングビット外周面の複数条の突条部が収容されることにより、軸線回りに回転自在かつ軸線方向先後端側に係合させられており、このリングビットは、インナービットに対して軸線方向先端側および軸線回りに係合可能とされているので、インナービットとケーシングパイプとは軸線方向先端側に向けてはこれらケーシングトップおよびリングビットを介して係合可能とされる。
【0013】
このため、ケーシングトップには、ケーシングパイプの内周側に張り出してインナービットと係合するテーパ部を形成したりせずとも、インナービットに与えられる打撃力や推力によってケーシングパイプを削孔内に連行して挿入することができるので、ダウンザホールビットにより最終的に岩盤層に形成される削孔の径に応じて、このダウンザホールビットが通過可能に設定されるリングビットの内径に対し、ケーシングパイプの径が大きくなりすぎるのは避けることができる。
【0014】
そして、さらに上記ケーシングトップとリングビットとは、軸線方向に互いに等しい間隔をあけたケーシングトップの複数の環状溝にリングビットの複数の突条部がそれぞれ収容されて上述のように軸線方向の先端側と後端側とに係合させられているので、インナービットからリングビットに与えられた打撃力や推力を、これら複数の突条部と環状溝に分散させてケーシングトップに伝播させることができる。このため、特定の突条部や環状溝に負荷が集中したりすることがなく、これら突条部および環状溝に損傷が生じるのを防ぐことができて、確実かつ安定してケーシングトップとともにケーシングパイプを削孔内に挿入することができる。
【0015】
また、たとえ1組の突条部と環状溝に損傷が生じて、例えば突条部に割損が生じたとしても、他の突条部が環状溝に収容されて支持されているためリングビットがケーシングトップから抜け落ちてしまうようなこともない。しかも、これら環状溝と突条部は、ケーシングトップとリングビットの互いに相対する内外周面に形成されるため、土砂等が入り込むおそれも少なく、かかる土砂によってケーシングトップとリングビットとの径方向の係合に支障が生じたりするのも防ぐことができる。
【0016】
ここで、上述のように円筒状のケーシングトップの内周面に形成された環状溝に、円環状のリングビットの外周面に形成された突条部を収容して、リングビットをケーシングトップに対し回転自在かつ軸線方向先後端側に係合可能とするには、例えば特許文献1のカラーのようにケーシングトップを半割円筒状などの複数の部材により形成し、環状溝に突条部を収容しつつこれらの部材によってリングビットを挟み込んだ上で、互いの突き合わせ部を接合して一体化するようにしてもよいが、この場合には接合部が複数となるため、ケーシングトップの強度が損なわれるおそれがある。
【0017】
そこで、このケーシングトップは、上記軸線に直交する断面がC字状をなして弾性変形可能とされたものとし、この断面C字状をなすケーシングトップが拡径させられて上記環状溝に上記リングビットの突条部を収容した上で、縮径させられて該ケーシングトップの突き合わせ部が接合されることにより、該リングビットが上記軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側と後端側とに係合させられるようにすれば、接合部は1個所だけで済ませることができて、インナービットからリングビットを介して伝えられる打撃力や推力に対して充分な強度をケーシングトップに確保することが可能となる。
【0018】
また、特にこのようにケーシングトップを弾性変形させてその内周面の環状溝にリングビットの突条部を収容するようにした場合には、これら環状溝と突条部とは、上記軸線方向後端側に位置して後端側に向かうに従い内周側に向けて傾斜する傾斜面と、上記軸線方向先端側に位置して上記傾斜面よりも上記軸線に対して大きな傾斜角で先端側に向かうに従い内周側に向かう、または上記軸線に垂直な当接面とを備えているように形成することにより、突条部後端側の比較的傾斜の緩やかな傾斜面によってケーシングトップを容易に拡径するように弾性変形させることができる。その一方で、インナービットから軸線方向先端側への推力や打撃力が与えられたときに互いに当接することになる突条部と環状溝の先端側に位置する当接面は、上記傾斜面よりも傾斜が急勾配または軸線に垂直とされているので、これら推力や打撃力を効率よく伝えることができる。
【0019】
さらに、上記ケーシングトップは、特許文献1のカラーのようにケーシングパイプの内周に接合されるのではなく、ケーシングパイプの先端部の外周に接合されるのが望ましく、これにより、同じ内径のリングビットに対してはケーシングパイプの径をより小さくすることができて、一層のコストダウンを図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、最終的に形成される削孔の径に対してケーシングパイプの径が大きくなりすぎるのを防ぐことができるとともに、複数の突条部と環状溝によってリングビットをケーシングトップに確実に回転自在かつ軸線方向には係合可能に支持することができて、より低コストでありながら安定的かつ効率的な掘削を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態を示す側断面(図2におけるAOA断面)図である。
【図2】図1に示す実施形態の正面図である。
【図3】図1に示す実施形態におけるリングビット3の正面図である。
【図4】図3に示すリングビット3の一部破断(図3におけるAO断面)側面図である。
【図5】図1に示す実施形態におけるスリットSの接合前のケーシングトップ1の一部破断(図6におけるAO断面)側面図である。
【図6】図5におけるAA断面図である。
【図7】図1に示す実施形態においてケーシングトップ1にリングビット3を取り付けてスリットSを接合した状態を示す一部破断側面図である。
【図8】図1に示す実施形態においてケーシングトップ1にリングビット3を取り付ける工程を図(a)〜図(f)の順に示すものであって、図(a)〜図(f)のそれぞれ下段は側断面図、上段はケーシングトップ1の軸線Oに垂直な断面図である。
【図9】図8(f)においてリングビット3が取り付けられたケーシングトップ1を縮径させてスリットSによる突き合わせ部を接合する工程を示す(a)側面図、(b)ケーシングトップ1の軸線Oに垂直な断面図、(c)接合部Rの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1ないし図9は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、ケーシングトップ1は軸線Oを中心とした円筒状をなし、必要に応じて順次継ぎ足される円管状のケーシングパイプ2のうち最先端のケーシングパイプ2の先端部に接合されて同軸に固定される。ここで、本実施形態のケーシングトップ1はケーシングパイプ2よりも一回り大きな径とされていて、その後端部内周を上記最先端のケーシングパイプ2の先端部外周に嵌挿させた上で、溶接されて該ケーシングパイプ2に接合されている。
【0023】
なお、こうしてケーシングパイプ2先端部に嵌挿させられるケーシングトップ1の後端部には、周方向に延びる長円状の貫通孔1Aが複数間隔をあけて形成されるとともに、この貫通孔1Aよりも後端側でケーシングトップ1は外径が僅かに縮径させられていて、ケーシングトップ1はその後端縁と上記貫通孔1Aを介してケーシングパイプ2と接合される。ここで、図中に符号Rで示すのは溶接による接合部である。
【0024】
また、このケーシングトップ1の先端部には、該ケーシングトップ1に対して軸線O回りに回転自在、かつ該軸線O方向には先端側と後端側とに係合させられて抜け外れないように、円環状のリングビット3がやはり同軸に取り付けられている。一方、ケーシングパイプ2の内周には、図示されないインナーロッド等の伝達部材が、やはり必要に応じて順次継ぎ足されて挿入され、このうち最後端の伝達部材は掘削時に回転方向Tへ向けての軸線O回りの回転力と軸線O方向先端側に向けての推力を与える掘削装置に連結されるとともに、最先端の伝達部材の先端部には、軸線O方向先端側に向けての打撃力を与えるハンマー4を介して、インナービット5が取り付けられて上記リングビット3の内周部に挿入されている。
【0025】
このインナービット5は、図1に示すように先端部が後端部に対して一段拡径した多段円柱状をなし、このうち後端部は上記ハンマー4に連結部材6を介して連結されるシャンク部5Aとされ、上述のようにリングビット3の内周に挿入された状態で上記軸線と同軸に配置される。なお、この連結部材6および上記伝達部材とケーシングパイプ2との間には、軸線Oを中心とした円筒状をなす間隙部が形成されて、後述する繰り粉の排出路とされる。
【0026】
また、インナービット5の先端部は、さらにその後端側が先端側に対して一段拡径した多段円柱状をなし、インナービット5の最大外径となるこの先端部後端側の外径はケーシングパイプ2の内径よりも僅かに小さくされて、該ケーシングパイプ2内にインナービット5が緩挿可能とされている。なお、このインナービット5先端部の先端側から後端側に向けて一段拡径する部分は、後端側に向かうに従い外周側に向かうように傾斜するテーパ面状の当接部5Bとされている。
【0027】
さらに、このインナービット5の先端部の外周には、軸線O方向に亙って延びる断面「コ」字状の繰り粉の排出溝5Cが周方向に等間隔に複数(本実施形態では3つ)形成されている。また、インナービット5の先端面には、この先端面の内周側から軸線Oと間隔をあけて該軸線Oを中心とした放射状に外周側に延びるように、排出溝5Cと同数の複数の凹溝5Dが形成されており、これらの凹溝5Dは、先端面の外周において上記排出溝5Cとそれぞれ連通させられている。なお、凹溝5Dは断面凹円弧状をなして、外周側に向かうに従い漸次深くなるように形成され、またその溝幅は排出溝5Cよりも小さくされていて、排出溝5Cの幅方向中央部に連通させられている。
【0028】
一方、インナービット5の内部には、上記シャンク部5Aの後端から軸線Oに沿って先端側に向けて、上記ハンマー4から供給される圧縮空気等の供給孔5Eが形成されている。この供給孔5Eは、インナービット5の先端部において先端側に向かうに従い外周側に向かうように分岐して、先端面において上記凹溝5Dの底面にそれぞれ開口させられるとともに、インナービット5先端部の上記当接部5Bよりも先端側の外周面において、周方向に隣接する排出溝5C同士の間の略中央に開口させられている。さらに、インナービット5の先端面と、この先端面と外周面との面取りされた稜線部とには、超硬合金等の硬質材料よりなる複数のチップ7が、排出溝5Cや凹溝5Dを避けるようにして植設されている。
【0029】
また、このインナービット5の先端部の外周面には、上記当接部5Bとインナービット5の先端面との間に間隔をあけて軸線O方向に延びる係合突条5Fが、やはり排出溝5Cと同数の複数、各排出溝5Cの回転方向T側に隣接するように形成されている。これらの係合突条5Fは、その軸線Oからの外径が、上述のようにインナービット5において最大外径となるその先端部後端側の軸線Oからの外径よりも僅かに小さくされるとともに、周方向の幅は上記排出溝5Cの溝幅よりも小さくされている。なお、インナービット5の先端部において分岐して該インナービット5の先端部の外周面に開口する上記供給孔5Eは、軸線O方向においてはこれらの係合突条5Fの先端部と等しい位置に開口させられている。
【0030】
このようなインナービット5が挿入されるリングビット3の内周部は、その内径が、上記係合突条5Fを除いたインナービット5先端部の先端側の外径よりも僅かに大きく、かつ同じくインナービット5先端部の一段拡径した後端側の最大外径よりは小さくされるとともに、ケーシングパイプ2の内径よりも小さくされており、ただしその後端から先端に亙っては、インナービット5の先端部外周面の上記係合突条5Fが挿通させられる該係合突条5Fと同数の挿通溝3Aが、それぞれ軸線O方向に延びるように、かつ周方向には等間隔に形成されている。従って、この挿通溝3Aの溝幅は係合突条5Fの周方向の幅よりも大きくされ、本実施形態では上記排出溝5Cの溝幅と略等しいか、これよりも僅かに大きくされるとともに、該挿通溝3Aの軸線Oからの溝深さも、係合突条5Fの軸線Oからの外径より大きくされる。
【0031】
また、リングビット3の後端面は、上記当接部5Bと等しいテーパ角で後端側に向かうに従い外周側に向かうように傾斜するテーパ面とされていて、係合突条5Fを挿通溝3Aに挿通させつつリングビット3内周部に後端側からインナービット5先端部を挿入することにより上記当接部5Bに当接させられる被当接部3Bとされている。なお、こうして当接部5Bを被当接部3Bに当接させた状態で、インナービット5の先端面はリングビット3の先端から一段突出するようにされている。
【0032】
さらに、上記挿通溝3Aの回転方向T側には、該挿通溝3Aに隣接して連通するように係合溝3Cがそれぞれ形成されている。これらの係合溝3Cは、周方向の幅が係合突条5Fと略等しくされるとともに軸線Oからの溝深さは挿通孔3Aと等しくされ、ただし挿通溝3Aがリングビット3の内周部を軸線O方向に貫通して形成されているのに対して、後端面の上記被当接部3Bとの間に壁部が残されるように、リングビット3の先端面に開口して軸線O方向後端側に延びる止まり溝状とされている。
【0033】
ここで、こうして残された壁部の軸線O方向の長さ、すなわち止まり溝状とされた係合溝3Cの後端面から上記被当接部3Bまでの間隔は、インナービット5の当接部5Bから係合突条5Fの後端面までの間隔よりも小さくされている。従って、上述のように係合突条5Fを挿通溝3Aに挿通させつつリングビット3内周部に後端側からインナービット5先端部を挿入して当接部5Bを被当接部3Bに当接させることにより、リングビット3が軸線O方向先端側に向けてインナービット5に係合させられ、次いでインナービット5を軸線O回りに回転方向Tに回転させることにより、係合突条5Fが係合溝3Cに収容されて回転方向T側に当接し、リングビット3はインナービット5に対して回転方向Tに向けて軸線O回りに係合させられる。
【0034】
一方、このリングビット3の外周部は、その先端側が後端側よりも一段拡径するように形成されていて、こうして拡径した外周面とリングビット3の先端面との面取りされた交差稜線部と、該リングビット3の先端面とには、それぞれ超硬合金等の硬質材料よりなる複数のチップ7が、上記挿通溝3Aや係合溝3Cを避けるようにして植設されている。
【0035】
そして、この先端側に対して一段縮径するように形成されたリングビット3の外周部後端側には、上記軸線O回りに周回する突条部8が軸線O方向に複数条間隔をあけて形成されており、これらの突条部8が、該突条部8と等しい間隔をあけてケーシングトップ1の内周部先端側に軸線O方向に複数形成された環状溝9に収容されることにより、リングビット3は上述のようにケーシングトップ1に対して軸線O回りに回転自在、かつ該軸線O方向には先端側と後端側とに係合させられて取り付けられる。
【0036】
ここで、本実施形態ではリングビット3外周部後端側の外周面に、軸線O方向に間隔をあけて2条の突条部8が、軸線O回りにリングビット3の外周をそれぞれ1周するように形成されており、このうち先端側の突条部8は、リングビット3外周部の先端側から後端側に向けて一段縮径する段差部3Dとの間にも間隔をあけるようにされている。なお、この段差部3Dは軸線Oに垂直な円環面状とされている。また、後端側の突条部8はリングビット3の外周部の後端縁部に形成されていて、その内周側には上記被当接部3Bが連続している。
【0037】
さらに、これら複数の突条部8は互いに略同形同大とされており、本実施形態ではその外形が、軸線O方向後端側に位置して後端側に向かうに従い漸次縮径するように内周側に向けて傾斜するテーパ面状をなす傾斜面8Aと、軸線O方向先端側に位置して先端側に向かうに従いやはり漸次縮径するように内周側に向けて傾斜するテーパ面状をなす当接面8Bと、これら傾斜面8Aと当接面8Bとの間にあって軸線Oを中心とした円筒面8Cとから構成されて、軸線Oを含む断面において概略台形状をなすようにされている。
【0038】
これに対して、複数の環状溝9も互いに略同形同大の断面形状とされていて、やはり軸線O方向後端側に位置して後端側に向かうに従い内周側に向けて傾斜面8Aと略等しい傾斜角で傾斜する傾斜面9Aと、軸線O方向先端側に位置して先端側に向かうに従い内周側に向けて当接面8Aと略等しい傾斜角で傾斜する当接面9Bと、これら傾斜面9Aと当接面9Bとの間にあって軸線Oを中心とした円筒面8Cよりも僅かに径の大きな円筒面9Cとから構成されて、軸線Oを含む断面において概略台形状をなすようにされている。
【0039】
ただし、上記当接面8B、9Bは、先端側に向かうに従い内周側に向けての軸線Oに対する傾斜角が、傾斜面8A、9Aが後端側に向かうに従い内周側に向けての軸線Oに対する傾斜角よりも大きくなるようにされており、これら当接面8B、9Bの傾斜角は90°であってもよく、すなわち当接面8B、9Bは軸線Oに垂直な円環面であってもよい。また、環状溝9の円筒面9Cは突条部8の円筒面8Cよりも軸線O方向の長さが僅かに長くされており、このため当接面8B、9B同士を当接させた状態で傾斜面8A、9A同士の間には僅かな隙間があけられる。さらに、同じく当接面8B、9B同士を当接させた状態で、リングビット3外周部の上記段差部3Dとケーシングトップ1の先端面との間にも僅かな隙間があけられる。
【0040】
ここで、本実施形態における上記ケーシングトップ1は、ケーシングパイプ2の先端部に接合される前の状態で、内周部に上記複数の環状溝9が形成された円筒の一部が、径方向内外周に亙って貫通するように、また軸線O方向に亙っても該軸線Oに平行に先端から後端に至るまで、スリットSによって切り欠かれるようにして、軸線Oに直交する断面がC字状をなすように形成されている。さらに、このケーシングトップ1は、鋼材等の弾性変形可能な材質によって形成されている。
【0041】
そして、本実施形態ではこのようなケーシングトップ1が、弾性変形により拡径させられて、その内周部の環状溝9にリングビット3の突条部8を収容した上で縮径させられ、上記スリットSにより分割させられた断面C字の両端が突き合わせ部として突き合わせられて接合されることにより円筒状に形成され、こうして円筒状に形成されたケーシングトップ1に、リングビット3が上述のように軸線O回りに回転自在かつ軸線O方向の先端側と後端側とに係合させられた状態とされる。
【0042】
すなわち、図8(a)に示すようにリングビット3をその後端部が上向きとなるように基台B上に設置して、その後端側からケーシングトップ1を被せるように同軸に載置し、次いで図8(b)に白抜き矢線で示すようにケーシングトップ1を押圧板Pによって先端側に押圧すると、図8(c)に示すようにケーシングトップ1はその先端部がリングビット3外周の後端側の突条部8に乗り上げてスリットSが押し広げられるように拡径し、さらにケーシングトップ1を押圧すると、図8(d)に示すようにケーシングトップ1の先端部はリングビット3後端側の突条部8を乗り越えてケーシングトップ1は一旦縮径し、この後端側突条部8がケーシングトップ1の先端側の環状溝9に収容される。
【0043】
そして、これからさらにケーシングトップ1を先端側に押圧すると、その先端部が図8(e)に示すようにリングビット3の先端側の突条部8に乗り上げるとともに、ケーシングトップ1の2つの環状溝9の間の部分が後端側の突条部8に乗り上げて、再びスリットSが押し広げられるようにしてケーシングトップ1が拡径し、さらにケーシングトップ1を押圧すると、図8(f)に示すようにリングビット3の2つの突条部8はケーシングトップ1の2つの環状溝9にそれぞれ収容されてケーシングトップ1が縮径する。
【0044】
そこで、次に図9(a)に示すように一対の押圧板PによってスリットSを間にしてケーシングトップ1を軸線Oに対する径方向内周側に押圧し、このスリットSによる突き合わせ部を突き合わせるようにケーシングトップ1を縮径させた状態で、図9(b)、(c)にも示すようにこの突き合わせ部を溶接して接合することにより、該ケーシングトップ1は図7に示すように溶接による接合部Rを介して円筒状に一体形成される。なお、こうして突き合わされた上記突き合わせ部は、軸線Oに直交する断面において図9(c)に示すようにケーシングトップ1内周側が径方向に沿った平面同士で互いに当接するようにされるとともに、外周側は互いに離間して漸次幅広となる断面V字状とされ、このV字部分に上記接合部Rが形成される。
【0045】
従って、このように円筒状に形成されたケーシングトップ1を上述のように最先端のケーシングパイプ2の先端部に接合し、さらにケーシングパイプ2内に挿通したインナービット5をリングビット3内周部に挿入して軸線O方向先端側と回転方向Tとに係合させることにより、インナービット5に与えられる回転方向Tへの回転力はリングビット3に伝えられ、また軸線O方向先端側への打撃力および推力はリングビット3に伝えられるとともに、このリングビット3から突条部8および環状溝9を介してケーシングトップ1およびケーシングパイプ2にも伝えられるので、リングビット3およびインナービット5により形成された削孔にケーシングパイプ2を連行して挿入してゆくことができる。
【0046】
また、こうしてケーシングパイプ2を連行して削孔が岩盤層に達した後は、インナービット5を上記回転方向Tとは逆向きに回転させることによりリングビット3との係合を解いてケーシングパイプ2から引き抜き、これに代えてダウンザホールビット(シングル削孔用ビット)をケーシングパイプ2内に通過させてリングビット3内周部から突出させることにより、岩盤層の掘削を行ってゆく。なお、掘削の際に生成される繰り粉は、供給孔5Eから噴出させられる圧縮空気等により、凹溝5Dおよび排出溝5Cを通してケーシングパイプ2内の上記排出路から排出させられる。
【0047】
従って、上記構成の掘削工具では、インナービット5に与えられる軸線O方向先端側への打撃力および推力は、上述のようにインナービット5からリングビット3に伝えられ、さらにこのリングビット3からケーシングトップ1およびケーシングパイプ2に伝えられてケーシングパイプ2が連行されるので、ケーシングパイプ2内に、これらケーシングトップ1やケーシングパイプ2とインナービット5とを直接軸線O方向先端側に係合させてケーシングパイプ2を連行する被当接部を、その内径を一段縮径させるようにして形成したりする必要がない。
【0048】
このため、このようなケーシングトップ1等の被当接部からリングビット3の被当接部3Bをさらに一段縮径させるように形成する必要もなく、上記ダウンザホールビットを通過させるリングビット3内周部の径を大きく確保することができる。しかも、本実施形態ではケーシングトップ1はケーシングパイプ2の先端部外周に接合されているので、その内周部に取り付けられるリングビット3の内径をより大きくすることができる。
【0049】
言い換えれば、同じ外径のダウンザホールビットを通過させるのに、上記構成の掘削工具によればリングビット3の径やケーシングパイプ2の径を小さくすることができるので、最終的に岩盤層に形成される削孔の径に対して、岩盤層に達するまでの削孔の径やケーシングパイプ2の径が大きくなりすぎるのを防ぐことができ、これらにより低コストでありながら効率的な掘削を図ることが可能となる。
【0050】
そして、こうしてリングビット3からケーシングトップ1およびケーシングパイプ2に軸線O方向先端側への打撃力および推力を伝えるのに、上記掘削工具では、軸線O方向に互いに等しい間隔をあけたケーシングトップ1の複数の環状溝9にリングビット3の複数の突条部8をそれぞれ収容して軸線O方向先後端側に係合させているので、上記打撃力や推力をこれら複数の突条部8と環状溝9とで分散して伝えることができ、負荷の集中を防ぐことができる。
【0051】
また、例えばいずれか1つの突条部8に割損等の損傷が生じたりしても、他の突条部8と環状溝9との係合によりリングビット3が脱落したりするのを防ぐことができ、さらにこれら突条部8と環状溝9とはケーシングトップ1とリングビット3の内外周面に形成されるため、掘削時の繰り粉や土砂が突条部8と環状溝9の間に入り込むことも少ないので、上記構成の掘削工具によれば、上述のような低コストで効率的な掘削を長期に亙って安定して行うことが可能となる。
【0052】
さらに、本実施形態では、このように円筒状のケーシングトップ1内周部の複数の環状溝9にリングビット3外周部の複数の突条部8をそれぞれ収容して回転自在かつ軸線O方向先後端側に係合させるのに、ケーシングトップ1を断面C字状に形成しておいて、これを弾性変形により拡径した状態で突条部8を環状溝9に収容し、次いで縮径させてC字の突き合わせ部を接合することにより、ケーシングトップ1を円筒状に形成している。
【0053】
このため、例えばケーシングトップ1を半割円筒状の部材によって構成して、突条部8を環状溝9に収容した状態で接合することにより円筒状に形成したりするのに比べ、接合部Rが1個所で済むのでケーシングトップ1の強度や剛性が損なわれるのを防ぐことができ、リングビット3からこのケーシングトップ1を介してケーシングパイプ2に確実に軸線O方向先端側への打撃力や推力を伝えて削孔内に挿入することが可能となる。
【0054】
しかも、本実施形態では特にこうしてケーシングトップ1を弾性変形させて環状溝9にリングビット3の突条部8を収容するのに、本実施形態ではこれら環状溝9と突条部8を、軸線O方向後端側に位置して後端側に向かうに従い内周側に向けて傾斜する傾斜面8A、9Aを備えたものとしており、例えば図8各図に示したようにケーシングトップ1を押圧しながらその内周部にリングビット3を挿入して該ケーシングトップ1を弾性変形させる際には、このうち突条部8の傾斜面8Aによってケーシングトップ1が案内されるようにして拡径させられるので、リングビット3を比較的容易にケーシングトップ1に取り付けることが可能となる。
【0055】
その一方で、これら突条部8と環状溝9とは、軸線O方向先端側には上記傾斜面8A、9Aよりも軸線Oに対して大きな傾斜角で先端側に向かうに従い内周側に向かう当接面8B、9Bを備えており、従ってこれら突条部8と環状溝9を介してリングビット3からケーシングトップ1に伝えられる軸線O方向先端側への打撃力や推力が径方向に分散してしまうのは抑えることができる。また、これら当接面8B、9Bを軸線Oに垂直に形成すればこのような分散を一層確実に防ぐことができる。
【0056】
ただし、それぞれ複数のこれら突条部8と環状溝9の当接面8B、9Bをすべて軸線Oに垂直に形成した場合、これらを精度良く揃って当接させるには高い加工精度が要求されるので、より低コスト化を図るには、これら当接面8B、9Bは本実施形態のように傾斜面8A、9Aよりも軸線Oに対して大きな傾斜角の傾斜面とされるのが望ましい。
【0057】
なお、本実施形態では、突条部8と環状溝9とがそれぞれリングビット3後端部外周面とケーシングトップ1の内周面を、ともに軸線O回りに1周するように連続して形成されているが、環状溝9は連続していなければならないものの、突条部8は周方向に間隔をあけて点在するように周回していてもよい。
【0058】
また、本実施形態では図8に示したように、リングビット3を相対的に軸線O方向に挿入するようにケーシングトップ1を押圧して弾性変形させているが、例えばスリットSを全体的に等しい幅で押し開くようにしてケーシングトップ1を弾性変形させた状態で、その内周部にリングビット3を配置してから縮径させることにより環状溝9に突条部8を収容してもよく、この場合に突条部8と環状溝9とは、傾斜面8A、9Aと当接面8B、9Bの傾斜角が等しい断面等脚台形状であったり、上記実施形態とは逆に当接面8B、9Bの傾斜角が傾斜面8A、9Aより小さくされていたりしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 ケーシングトップ
2 ケーシングパイプ
3 リングビット
3A 挿通溝
3B 被当接部
3C 係合溝
5 インナービット
5B 当接部
5F 係合突条
7 チップ
8 突条部
8A 突条部8の傾斜面
8B 突条部8の当接面
9 環状溝
9A 環状溝9の傾斜面
9B 環状溝9の当接面
O ケーシングトップ1の軸線
T 掘削時のリングビット3およびインナービット5の回転方向
S スリット
R 溶接による接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円管状のケーシングパイプの先端部に接合される円筒状のケーシングトップと、このケーシングトップの先端部に同軸かつ該ケーシングトップの軸線回りに回転自在に取り付けられ、上記ケーシングパイプ内に挿通されたインナービットに対して上記軸線方向先端側および該軸線回りに係合可能とされる円環状のリングビットとを備え、このリングビットの外周面には、上記軸線回りに周回する突条部が該軸線方向に複数条間隔をあけて形成されるとともに、上記ケーシングトップの内周面には、これらの突条部を収容する環状溝が上記軸線方向に複数、複数条の上記突条部と等しい間隔をあけて形成されることにより、上記リングビットが上記ケーシングトップに対して上記軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側と後端側とに係合させられていることを特徴とする掘削工具。
【請求項2】
上記ケーシングトップは、上記軸線に直交する断面がC字状をなして弾性変形可能とされたものが、拡径させられて上記環状溝に上記リングビットの突条部を収容した上で、縮径させられて該ケーシングトップの突き合わせ部が接合されることにより、該リングビットが上記軸線回りに回転自在、かつ該軸線方向先端側と後端側とに係合させられることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【請求項3】
上記環状溝と上記突条部とは、上記軸線方向後端側に位置して後端側に向かうに従い内周側に向けて傾斜する傾斜面と、上記軸線方向先端側に位置して上記傾斜面よりも上記軸線に対して大きな傾斜角で先端側に向かうに従い内周側に向かう、または上記軸線に垂直な当接面とを備えていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削工具。
【請求項4】
上記ケーシングトップは、上記ケーシングパイプの先端部の外周に接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の掘削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−42991(P2011−42991A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192359(P2009−192359)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】