説明

掘削機および切羽の前方探査方法

【課題】地盤を破壊することなく、周囲への影響の少ない方法で、S波を発生させる、トンネル切羽の前方探査方法を提供する。
【解決手段】シールドマシン1は、カッターフェース7とスキンプレート9とからなり、カッターフェース7には、発振部3と受振部5とを交互に配置する。発振部3と受振部5は、シールドマシン1からトンネル前方切羽に突出している。発振部3は、管22と、管22内に圧着した発振器13により構成され、超磁歪素子27を有する発振器13が振動することで、発振部3にて非破壊でS波を発生可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドマシンなどを利用した軟弱地盤下での掘削における基礎地盤性状および前方の異なる地層や埋設物を把握する、切羽の前方探査方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、山岳トンネルに用いられてきた切羽の前方探査方法は、火薬、爆薬または杭打撃によりP波(Primary wave、縦波、疎密波とも呼ばれる)を起振し、3成分地震計などを用いて受振を行う弾性波反射法探査(例えば、特許文献1参照)や、先進ボーリング用のロータリーパーカッションドリル・油圧削岩機などの削孔機の機械情報からデータを分析して地質状況を判断する削孔検層などの方法が用いられてきた。
【0003】
【特許文献1】特開平5−248175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シールドマシンが適用されるような都市地盤は軟弱であり、かつ周囲への影響も大きいため、従来のような破壊を伴う前方探査は不可能である。また、都市地盤には地下水位が高い場所が多く存在するため、P波による探査を行っても、地下水中を伝わるP波速度より遅い速度を持つ地盤では、水中を伝播したP波が検出され、有効な地下構造調査が困難な場合があり、P波探査では妥当な反射波を得ることができないという問題点があった。
【0005】
そのため、固体中のみを伝播し、地下水の影響を受けないS波(Secondary wave、横波、ねじれ波、たわみ波、せん断波とも呼ばれる)を、破壊を伴わずに、地盤への影響の少ない方法で発振し、地盤の探査に用いることが検討されている。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、地盤を破壊することなく、周囲への影響の少ない方法で、S波を発生し、トンネル切羽の前方探査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、第1の発明は、側部にスキンプレートを有し、前部にカッターフェースを具備する掘削機であって、前記カッターフェースに発振部と受振部が設けられ、前記発振部が、管と、前記管内に圧着された超磁歪素子を有する発振器と、を具備することを特徴とする掘削機である。
【0008】
第2の発明は、側部にスキンプレートを有し、前部にカッターフェースを具備する掘削機であって、前記カッターフェースに発振部が設けられ、前記スキンプレートに受振部が設けられ、前記発振部が、管と、前記管内に圧着された超磁歪素子を有する発振器と、を具備することを特徴とする掘削機である。
【0009】
また、前記掘削機はシールドマシンまたはトンネルボーリングマシンであることが望ましい。
【0010】
第3の発明は、請求項1または請求項3記載の掘削機を用いて切羽の前方探査を行う方法であって、トンネルの掘削方向前方の切羽に前記発振部および前記受振部を設置する工程と、前記発振部を振動させ、S波を発生させる工程と、前記受振部で、切羽前方の地層境界面から反射するS波を受振する工程と、前記受振したS波を分析し、切羽前方の地山の地質構造を探査する工程と、を具備することを特徴とする切羽の前方探査方法である。
【0011】
第4の発明は、請求項2または請求項3記載の掘削機を用いて切羽の前方探査を行う方法であって、トンネルの掘削方向前方の切羽に前記発振部、掘削方向側方の切羽に前記受振部を設置する工程と、前記発振部を振動させ、S波を発生させる工程と、前記受振部で、切羽前方の地層境界面から反射するS波を受振する工程と、前記受振したS波を分析し、切羽前方の地山の地質構造を探査する工程と、を具備することを特徴とする切羽の前方探査方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、地盤を破壊することなく、周囲への影響の少ない方法で、S波を発生させる、トンネル切羽の前方探査方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
第1の実施形態に係るシールドマシン1について説明する。
図1(a)はシールドマシン1の斜視図であり、図1(b)はシールドマシン1の正面図であり、図1(c)はシールドマシン1の右側面図であり、図1(d)はシールドマシン1による前方探査の構成を示す図である。
【0015】
図1(a)に示すように、シールドマシン1は、カッターフェース7とスキンプレート9からなり、カッターフェース7には、発振部3と受振部5が設けられている。
【0016】
図1(b)に示すように、発振部3と受振部5は、カッターフェース7上で十字になるように交互に配置されている。さまざまな方向からの反射波を受振できるようにするためである。
【0017】
また、図1(c)に示すように、シールドマシン1のトンネル掘削方向の前方切羽に、発振部3と受振部5とが突き出るように設けられている。また、前方切羽へ発振部3と受振部5の挿入が可能である。
【0018】
シールドマシン1による前方探査方法について説明する。カッターフェース7により掘削を行い、トンネル10を形成する。掘削時には、発振部3と受振部5は、シールドマシン1内に収納され、カッターフェース7上には露出していない。一定距離を掘削すると、シールドマシン1は、掘削を中断し、掘削したトンネル10にセグメントを設置する。セグメント設置中に、カッターフェース7からトンネル切羽前方へ、後述する管22などを形成し、図1(d)に示すように、発振部3と受振部5を設ける。
【0019】
ある一つの発振部3から、S波11を発振し、破砕帯12により反射した波を、複数の受振部5にて受振する。また、別の発振部3よりS波11を発生し、反射波を複数の受振部5にて受振する。弾性波反射法では、速度層の境界を検知でき、破砕帯12を始め、砂層、土丹、埋設物など、トンネル掘削に悪影響を及ぼすと考えられる地層や物を検出できる。
【0020】
前方探査終了後には、発振部3と受振部5をシールドマシン1の内に収納し、次の掘削に備える。セグメントの設置と前方探査が終了した後、再びカッターフェース7により、トンネル10の掘削を開始する。これらの掘削サイクルを繰り返しながら、トンネル10を掘削する。
【0021】
なお、前方探査により、前方にトンネル掘削に悪影響を与える地層や物を検出した場合、前方の地盤の改良や、カッターの交換などの対策を行うこともある。
【0022】
次に、発振部3について説明する。発振部3の長軸方向の断面の概略図を図2に示す。発振部3は、カッターフェース7から貫入された管22と、管22内に圧着した発振器13とからなる。
【0023】
発振器13の長軸方向の断面の概略図を図3に示す。図3に示すとおり、発振器13は、振動子15がロッド21を介して、圧着部17と接続している。圧着部17には、管22に圧着するための可動アーム19を有する。
【0024】
振動子15は、ケーブル25により、外部の電源(図示せず)などに接続されており、所定の周波数でロッド21を往復運動させる。例えば、発振器13は、10Hzから1000Hzまでまたは100Hzから3000Hzまでの周波数で、スイープ波形を発振する。
【0025】
圧着部17は、可動アーム19を備え、油圧伝達ホース23が外部の油圧発生装置(図示せず)が生じた圧力を伝達し、可動アーム19を圧着部17より突き出す。また、油圧発生装置の圧力を弱めると、可動アーム19は圧着部17に戻る。可動アーム19は、圧着部17より突出自在である。
【0026】
図4は、振動子15の断面の概略図である。超磁歪素子27が、コイル29の中におかれ、コイル29の周りを永久磁石31が覆っている。超磁歪素子27はロッド21に接続し、ロッド21は、バネ33により、振動子15の長軸方向に力がかけられている。
【0027】
超磁歪素子27は、Tb0.3Dy0.7Fe2.0(テルビウム‐ディスプロジウム‐鉄)の化合物により形成される。コイル29に電流を流し、磁界を生じることで、超磁歪素子27は、長軸方向へ通常0.1%以上伸張する。コイル29からの磁界がなくなると、元の長さに戻る。コイル29にパルス状の電流を流すことで、超磁歪素子27は伸縮する。超磁歪素子27の伸縮により、ロッド21が往復運動をする。
【0028】
次に、発振器13による発振方法を説明する。トンネル切羽前方にボーリングマシンなどで管22を貫入する。図5(a)に示すように、管22内に発振器13を入れ、発振器13を所定の位置まで移動させる。管22は、樹脂製でも金属製でもよい。
【0029】
次に、図5(b)に示すように、油圧発生装置(図示せず)に圧力をかけ、圧着部17の可動アーム19を伸ばし、管22内で発振器13を固定する。
【0030】
次に、図5(c)に示すように、振動子15を稼働させ、ロッド21を往復運動させると、圧着部17が管22の壁をこすり、S波11が発生する。
【0031】
なお、発振器13は、管22内でP波も同時に発生可能である。圧着部17が管22の壁を擦るようにS波11を発生させると、S波成分が卓越するが、押し当てる力も作用し、P波成分も発生するからである。
【0032】
受振部5は、孔内圧着型の3成分型速度計や3成分型加速度計、いわゆるハイドロフォンなどを用いる。
【0033】
第1の実施形態によれば、管内に圧着してS波を発生することが可能なので、従来困難であった、シールド切羽への発振器設置が可能になる。
【0034】
また、第1の実施形態によれば、火薬などの爆発により地盤を破壊して弾性波を発生するのではなく、管22内で発振器13を振動させることによりS波を発生するため、周囲への影響が極力少ない方法で、前方探査をすることができる。
【0035】
また、第1の実施形態によれば、S波を前方探査に用いることができ、地下水を多く含んだ地盤でも地下水の影響を受けずに前方探査をすることができる。また、P波よりも波長の短いS波を前方探査に用いることができ、解像度が高くなる。
【0036】
また、第1の実施形態によれば、準備に手間がかからず、シールドマシン1を停止した際に、短時間で計測が可能である。そのため、トンネルの掘削サイクルへの影響がない。
【0037】
次に、第2の実施形態について説明する。
図6(a)は第2の実施形態に係るシールドマシン101の斜視図であり、図6(b)はシールドマシン101の正面図であり、図6(c)はシールドマシン101の右側面図である。以下の実施形態で第1の実施形態にかかるシールドマシン1と同一の様態を果たす要素には同一の番号を付し、重複した説明は避ける。
【0038】
図6(a)に示すように、シールドマシン101は、スキンプレート9とカッターフェース7を備え、カッターフェース7の前面に、発振部3と受振部5とが設けられる。
【0039】
シールドマシン101とシールドマシン1を比べると、発振部3と受振部5の配置が異なる。図6(b)に示すように、シールドマシン101においては、三つの発振部3で三角形を描き、三つの受振部5で三角形を描き、発振部3と受振部5で六角形を形成している。
【0040】
第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0041】
次に、第3の実施形態について説明する。
図7(a)は、第3の実施形態に係るシールドマシン102の斜視図であり、図7(b)はシールドマシン102の正面図である。
【0042】
図7(a)に示すとおり、シールドマシン102は、スキンプレート9とカッターフェース7を備え、カッターフェース7の前面に、発振部3と受振部5とが設けられる。
【0043】
シールドマシン102とシールドマシン1を比べると、発振部3と受振部5の配置が異なる。図7(b)に示すように、シールドマシン102においては、発振部3と受振部5を、交互に並べて円を描くように配置する。
【0044】
第3の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0045】
次に、第4の実施形態について説明する。
図8(a)は第4の実施形態に係るシールドマシン103の外観図であり、図8(b)はシールドマシン103の正面図であり、図8(c)はシールドマシン103の右側面図であり、図8(d)シールドマシン1による前方探査の構成を示す図である。
【0046】
図8(a)に示すように、シールドマシン103においては、トンネル進行方向前方のカッターフェース7上に発振部3を設け、トンネル進行方向側面のスキンプレート9に受振部5を設ける。図8(b)に示すように、発振部3は、カッターフェース7上で分散して配置され、受振部5はそれぞれがなるべく離れるようにスキンプレート9に配置される。図8(c)に示すように、発振部3はトンネル掘削方向に突き出ており、受振部5は、スキンプレート9よりトンネル掘削方向と垂直な方向に突き出ている。
【0047】
また、シールドマシン103を用いたトンネル切羽の前方探査方法を説明する。図8(d)に示すように、シールドマシン103の前方に突き出たある一つの発振部3により発振されたS波11は地盤中を進み、破砕帯12により反射され、受振部5にて受振される。次に、ほかの一つの発振部3が発振する。受振部5で受振した反射波を解析し、トンネル切羽の前方を探査する。
【0048】
シールドマシン103は、受振部5の間の距離が離れているため、速度層の境界の探査精度が高まる。
【0049】
第4の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を奏するほか、シールドマシン1よりも、正確に破砕帯12の位置を決定できる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら、本発明にかかる掘削機や前方探査方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
特に、第1ないし第4の実施の形態のシールドマシンに変えて、トンネルボーリングマシンを用いることは、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)第1の実施形態に係るシールドマシン1の斜視図、(b)第1の実施形態に係るカッターフェース7の正面図、(c)シールドマシン1の右側面図、(d)シールドマシン1を用いたトンネル切羽の前方探査の構成を示す図。
【図2】第1の実施の形態に係る発振部3の断面の概略図。
【図3】第1の実施の形態に係る発振器13の概略図。
【図4】第1の実施の形態に係る振動子15の断面の概略図。
【図5】第1の実施形態に係る発振部3の発振方法を示す図。
【図6】(a)第2の実施形態に係るシールドマシン101を示す図、(b)シールドマシン101の正面図、(c)シールドマシン101の右側面図。
【図7】(a)第3の実施形態に係るシールドマシン102の斜視図、(b)シールドマシン102の正面図。
【図8】(a)第4の実施形態に係るシールドマシン103の斜視図、(b)シールドマシン103の正面図、(c)シールドマシン103の右側面図、(d)シールドマシン103を用いたトンネル切羽の前方探査の構成を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1………シールドマシン
3………発振部
5………受振部
7………カッターフェース
9………スキンプレート
10………トンネル
11………S波
12………破砕帯
13………発振器
15………振動子
17………圧着部
19………可動アーム
21………ロッド
22………管
23………油圧伝達ホース
25………ケーブル
27………超磁歪素子
29………コイル
31………永久磁石
33………バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側部にスキンプレートを有し、前部にカッターフェースを具備する掘削機であって、
前記カッターフェースに発振部と受振部が設けられ、
前記発振部が、管と、
前記管内に圧着された超磁歪素子を有する発振器と、
を具備することを特徴とする掘削機。
【請求項2】
側部にスキンプレートを有し、前部にカッターフェースを具備する掘削機であって、
前記カッターフェースに発振部が設けられ、
前記スキンプレートに受振部が設けられ、
前記発振部が、管と、
前記管内に圧着された超磁歪素子を有する発振器と、
を具備することを特徴とする掘削機。
【請求項3】
前記掘削機はシールドマシンまたはトンネルボーリングマシンであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の掘削機。
【請求項4】
請求項1または請求項3記載の掘削機を用いて切羽の前方探査を行う方法であって、
トンネルの掘削方向前方の切羽に前記発振部および前記受振部を設置する工程と、
前記発振部を振動させ、S波を発生させる工程と、
前記受振部で、切羽前方の地層境界面から反射するS波を受振する工程と、
前記受振したS波を分析し、切羽前方の地山の地質構造を探査する工程と、
を具備することを特徴とする切羽の前方探査方法。
【請求項5】
請求項2または請求項3記載の掘削機を用いて切羽の前方探査を行う方法であって、
トンネルの掘削方向前方の切羽に前記発振部、掘削方向側方の切羽に前記受振部を設置する工程と、
前記発振部を振動させ、S波を発生させる工程と、
前記受振部で、切羽前方の地層境界面から反射するS波を受振する工程と、
前記受振したS波を分析し、切羽前方の地山の地質構造を探査する工程と、
を具備することを特徴とする切羽の前方探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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